Comments
Description
Transcript
伊東維年 (原稿のpdfファイル)
半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 伊 東 維 年 要 旨 年代後半のメモリ不況, 年代初頭の バブルが崩壊したあとの半 導体不況を通して, 日本の半導体メーカーは, 戦略製品の転換, メーカー間の大 型提携・事業統合, あるいは分社化を進めるとともに, 国内外の生産拠点の再編 などかつてない事業再編を行っている。 同時に, そのような再編は半導体メーカー の協力企業として組立・メッキ・検査を分担してきた後工程企業にも深刻な影響 を及ぼしている。 本稿では 日本の半導体メーカーをめぐる国際情勢, および先 の二つの不況後の半導体メーカーの再編の態様を明らかにしたうえで, ( エレクトロニクス) による半導体生産拠点の再編と 九州の協力企業 として後工程を担ってきた 社を取り上げ, 半導体メーカーの再編に伴う後工程 企業 (協力企業) の変容を具体的に考察した。 ( エレクトロニクス) は, 半導体生産拠点の再編として, 一貫工場・ 前工程工場の拡散ラインの削減や生産機能の譲渡, 海外工場の稼働中止・閉鎖・ 生産集約, 後工程子会社の統合・閉鎖・売却, 従業員の削減などを行う一方で, 「協力会社の自立化」 (系列解体) および後工程の海外シフトの加速を図ることと した。 このような系列解体, 後工程の海外シフトのなかで, 九州の協力企 業として後工程を分担してきた企業には売上高の低下や従業員の減少といった影 響が現れている。 これら後工程企業は生き残りに尽力しているものの, 企業の対 応にはそれぞれ違いが見られる。 系列解体の動きは他の半導体メーカーの間でも 広がっている。 半導体の技術・設備は前工程のみならず, 後工程においても絶え ず高度化しており, また製品の納期短縮といったスピード化が求められている。 今後, 技術・設備の高度化のみならず, 得意分野への特化あるいは事業分野の拡 大など戦略的な対応を図らない限り, 自立化を進める後工程企業であっても淘汰 されることになりかねない。 ― ― 伊 東 維 年 はじめに 年代後半のメモリ不況, そして 年代初頭の バブルが崩壊したあとの半導体不 況は, 日本の半導体メーカーが国際競争力を弱め, 半導体の世界市場におけるシェア後退を続 けているなかで生じただけに, その影響は日本の半導体メーカーにとって殊更大きなものであっ た。 日本の半導体メーカーは, その窮状を打開し国際競争力を回復するため, 従来の製品戦略 や経営戦略を見直し, かつてない事業再編成を行ってきている。 すなわち, からシス テム ( ) への戦略製品の転換, 得意分野への選択と集中をはじめ, メーカー間の大型提携, さらには事業統合, 分社化を進めるとともに, 工場の統廃合・譲渡な ど国内外に築いてきた生産拠点の再編成を行っている。 このような半導体メーカーの変貌は, 半導体メーカーの一貫工場・前工程工場から完成ウェ ハの供給を受け, 協力企業として組立・メッキ・検査を分担してきた後工程企業にも深刻な影 響を及ぼしており, 半導体メーカー ( , 垂直統合型半導体メーカー) と後工程企業 (協力 企業) との従来の系列関係にも変化をきたしている。 そこで本稿おいては, これら二つの不況を通して日本の半導体メーカー・半導体業界にいか なる変化が生じているのか, その再編の態様を具体的に明らかにするとともに, その再編が協 力企業としての後工程企業にどのような影響を及ぼし, 半導体メーカーと後工程企業との関係 がいかに変容しているのか, について考察することにしたい。 以下では, 日本の半導体メーカーをめぐる国際情勢を概観したうえで, 先にあげた二つの半 導体不況とその後の半導体メーカーの再編の態様を明らかにする。 次に, バブル崩壊によ る半導体不況発生以降の, 半導体メーカーによる生産拠点の再編について, (エレ クトロニクス) を事例に詳論する。 これらをもとに, さらに グループを代表する の 量産拠点工場である 九州のもとで協力企業として組立・メッキ・検査を分担してきた後 工程企業 社を取り上げ, 半導体メーカーの再編に伴う後工程企業 (協力企業) の変容を考察 する。 この順路にそって, まずは日本の半導体メーカーをめぐる国際情勢を概観することから 始めよう。 日本の半導体メーカーをめぐる国際情勢 年代に入り国の助成策などをもとに, 戦略製品として に焦点を絞り 「急浮上 ( ! )」 (" #" $"%& % ' ) を遂げた日本の半導体メーカーは先行する ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 アメリカの半導体メーカーを追いかけ, 年には遂に 「日米逆転」 を達成した。 このような 中で, やがてアメリカの半導体産業は, 痛ましい状況に陥ったアメリカの消費者向けエレクト ロニクス産業と運命を共有するであろうという声が巻き起こった。 しかしながら, 「予言され た滅亡」 ( ) は生じなかった ) 。 インテル を中心に再生を果たしたアメリカの半導体メーカーは 年代に移り半導体の市場獲得競争に おいて日本メーカーとの差を縮め, 年には 「再逆転」 を成し遂げ, 以後, 日本メーカーと の格差を拡大していくこととなった (図 )。 と は, この 「アメリカの再生」 について次 の三つの要因をあげている。 一つは, アメリカの半導体メーカーが製品づくりを改めて重要視 し, 生産力を大幅に改善したことである。 二つは, 多くの小規模な専門化されたマーチャント・ メーカーからなるアメリカの半導体産業の構造上の優位性を利用しつつ, アメリカの半導体メー カーが改めてデザイン集約的なチップ, とりわけロジックに特化するようになったこと, また 図 半導体国籍別売上高シェアの推移 !"#$% &'()*+,-./0012. 345"6789:;<=>;?@A BCDEFGDHICECJKGLE /00M2 N/OB010PQ? ) ! "# $ ) % & ' ($ !$ ) *+ , - .-$ ― ― 伊 東 維 年 同時に生産からのデザイン (設計) の分離によって多くのアメリカのメーカーが海外で成長し つつある生産能力を利用して利益をあげることが出来るようになったことである。 三つは, 最 終消費需要のトレンド, すなわち消費者用アプリケーション向けからコンピュータ・アプリケー ション向けへの 需要の変化がアメリカのメーカーのロジック製品への特化に好都合に作用 したことであり, これら三つの要因の結合によってアメリカの半導体産業は再生することがで きたと説いている )。 アメリカの半導体メーカーの再生によって 「再逆転」 を招いた日本の半導体メーカーは, 「日米逆転」 の際の切り札となった 分野においても, 年代半ばに至り, 追走する 韓国の半導体メーカーに抜かれ, 「日韓逆転」 を許すこととなった。 と は, メモリ製品への徹底した集中, 輸出への圧倒的な傾斜, 巨額な投資によっ て韓国の半導体産業の成長が導かれ促進されたと説明している )。 韓国の半導体メーカーは, 同時に研究開発にも積極的に取り組み技術開発力を身につけるとともに, 海外メーカーとの技 術提携などを通して技術力の強化を図り, 事業拡大の基盤としてきた。 また, メモリ製品のみ ならず, システム の分野にも参入し, その研究開発力の強化を進めている。 韓国と並んで台湾の半導体産業もこの 年代には台頭した。 台湾の半導体産業は, 台湾 積體電路 () や聯華電子 () に代表されるファンドリ・メーカーの存在と, 設計・ フォトマスク製造・ウェハ処理・組立・検査といった各製造工程・分野に特化した専業企業に よるネットワーク分業型 (垂直分業型) の産業構造を特徴としている。 台湾のファンドリ・メー カーはアメリカのファブレス・メーカーを主要なパートナーとして受注を伸ばし, 台湾の半導 体産業の成長をリードしてきた。 さらに, 設備投資の高額化に伴い からも受注を得るよ うになるとともに, 共同開発・共同生産・合弁事業など内外の半導体メーカーとの提携をも活 発化している。 また, ネットワーク分業型の構造を有す台湾の半導体産業は, 激しい技術変化 や市場変動に柔軟かつスピーディに対応することで強みを発揮してきた )。 ) ! ) " # #$%& ' "' ( & ' )*& # # ) 台湾半導体産業の成長については, さしあたり青山修二 ハイテク・ネットワーク分業 ― 台湾半導 体産業はなぜ強いのか ― 白桃書房, 年および水橋佑介 電子立国台湾 ― 強さの源流をたどる ダブリュネット, 年を参照されたい。 「聯華 () の曹興誠董事長は, 台湾電子産業の強さを垂直分業による生産システムにあるとし, 産業を例に, 垂直統合と比較したその特徴を次のように述べている。 ① 各々の製造工程が独立して経営を行うため, 専門度が高く, 管理上の難度が相対的に低い こと。 ② 各々の製造工程が独立して資金調達できるため, タイムラグがなく, 採算ラインを達成で きること。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 韓国や台湾の半導体産業のみならず, 欧米を中心とした海外の半導体メーカーの組立工場が 早い時期から展開し世界有数の半導体組立基地となったシンガポールの半導体産業も, 年代以降, 政府の梃入れ, 海外メーカーの積極的な誘致, 人材育成などによって成長しており, シンガポールを代表する政府系半導体メーカーの () は や各種ロジックなどを中心とするファンドリ事業に特化し, 台湾の台湾積體電 路, 聯華電子, 中国の中芯国際集成電路製造 ( ) に次ぐ世界第 位 (年) のファンドリ・メーカーにのぼっている )。 旺盛なエレクトロニクス機器の需要を背景に市場拡大を続ける中国の半導体産業も, 同様に外 資を導入しファンドリ事業を中心にして 年代後半以降急成長を遂げている )。 このような東アジアの !に加えて, 低迷していた欧州勢も, 収益重視の経営, 特定分野への特化, 産学連携の "#$戦略プロジェクトの成功などによって競争力を高め, 年代半ばから世界市場でのシェアを回復してきている。 なかでもインフィニオン, マ イクロエレクトロニクス, フィリップスの欧州大手半導体メーカー %社は 年代末には世界 の半導体メーカー売上高ランキング・トップテン内に加わり &), さらに 年にはインフィ ニオンは 位, マイクロエレクトロニクスは続く 位に上昇している (表 )。 ③ 各々の製造工程の生産サイクル短縮で, 在庫の圧縮が可能となり, 大幅なコストダウンに つながること。 ④ 需要と技術が絶えず変化している環境下において, 労働の垂直分業は設備稼働率を垂直統 合システムに比べ, はるかに高められる。 産業はそれぞれの製造工程が巨額の投資を必要 とするため, 稼働率が損益に及ぼす影響は最も重要な要因となっている。 垂直統合の生産シ ステムにおいては, 各製造工程が一定期間, 顧客 社によって占有されてしまうことが多い。 問題が生じたり, 需要に変化が起きたりした場合, その変化を調整できる余地は少ない。 し かし, 垂直分業による生産システムでは, 各々の製造工程が複数の顧客を扱えるようになっ ているため, 或る顧客の需要が減少しても, 他の顧客の需要でカバーすることができる。 そ の結果, 設備稼働率は高く, 収益レベルも高くなる。 ⑤ 垂直分業の生産システムでは, 一つひとつの工程が単独で国際市場の中で競争に直面しな ければならず, その技術およびサービスを絶え間なく精鋭化していかなければ生存できない。 各々の工程の競争力を強化していけば, 産業全体の競争力も当然, 厚みを増すことになる。」 (水橋佑介, 前掲書, &&∼&'ページ) ) &年度版日本半導体年鑑 プレスジャーナル, &年, 'ページ。 ) 中国の半導体産業の発展と現状については, 苑志佳 中国に生きる日米生産システム ― 半導体生産 システムの国際移転の比較分析 ― 東京大学出版会, 年および ()" 特別調査レポー ト 中国の半導体産業 プレスジャーナル調査部, 年などを参照されたい。 &) ガイドブック (第 '版/年版) 日本電子機械工業会, 年, %∼%%ページおよび電子情 報技術産業協会 (*+ ) ガイドブック編集委員会編集・著作 ガイドブック (第 版) 日経 ,-企画, %年, &∼'ページ。 なお, フィリップスは, 半導体事業部門を五つのファンド, . / . 0 "/ # 1 2, 2 0 )3- 24- 2 0- 5(に売却し (五つのファンド が - の株式の '1 %を取得, - は残りの 1 %を保有), それにより - の設備・半導体関連の特許・半導体関連の研究者などを受け継ぎ, 年 月に 56- が設立された。 56- は, 本社をオランダのアイント ― ― 伊 東 維 年 表 世界の半導体メーカーの売上トップ の推移 年 年 年 年 年 年 年 $ (米) $ (米) $ (米) $ (米) $ (米) $ (米) $ (米) ! (日) ! (日) ! (日) 東芝 (日) #' &$0 (韓) #' &$0 (韓) #' &$0 (韓) 東芝 (日) 東芝 (日) (米) ! (日) 東芝 (日) 1 (米) 1 (米) (米) 日立製作所 (日) 東芝 (日) #' &$0 (韓) 1 (欧) ルネサステクノロジ (日) $. $ $ (欧) 日立製作所 (日) (米) 1 (米) 1 (米) 1 (米) $. $ $ (欧) 1 (欧) 1 (米) #' &$0 (韓) #' &$0 (韓) 1 (欧) ! (日) 1 (欧) 東芝 (日) 富士通 (日) 1 (米) 日立製作所 (日) (米) $. $ $ (欧) 東芝 (日) 23$ (韓) 三菱電機 (日) 富士通 (日) (' (欧) 日立製作所 (日) (米) (' (欧) 三菱電機 (日) 1 (欧) $. $ $ (欧) (' (欧) (' (欧) (米) 松下電子工業 (日) 23&$% (韓) $. $ $ (欧) $ (米) 日立製作所 (日) 4 ' 5 米) 4 ' 5 米) ランク !エレクトロニクス ルネサステクノロジ (日) (日) (注) 1は 1 -' $' &# $ ' / 23$ - は 23$ - # $%& / 4 ' は 4 ' # $%& ( 社から分社) の略称である。 (出所) ガイドブック (第 版) 電子情報技術産業協会 (6 1), 年, ページの表 および ガイ ドブック (第 版) 日経 7企画, 年, ページの表 8 などより作成。 原出所は 9 $ * :& ' 。 このような推移のなかで, 一時は半導体の市場獲得競争において世界市場の %のシェア を占めた日本の半導体メーカーは競争力を弱め, 年代初頭以降一貫して地位低下を続け, 年代末にはそのシェアは %程度にまで落ち込んだ。 年代半ば以降, 脱 化を進 め, ロジックへ, とりわけシステム へ重心移動を図っているものの, 年代に入って も依然としてその地位低下に歯止めがかかっていない (前掲図 )。 と竹内弘高は, 「日本の半導体メーカーの後退理由は何であろうか。 端 的にいってしまえば, これらの企業はすべて, オペレーション効率のみによる競争の犠牲となっ たのである」 ) と述べ, 日本の半導体メーカーが模倣戦略に傾倒し独自の戦略を持っていない こと, 従ってまた独自の競争優位を有していないことを後退理由として掲げている。 ホーヘンに置き, 世界 か国で 万 名の従業員数を有している。 自動車, アイデンティフィケー ション, ホーム, モバイル&パーソナル, マルチマーケットの五つの分野に重点を置いている。 車載 業界向け ロジック製品, 車載ネットワーク, カー・ラジオ用デジタル信号プロセッサなど では世界 位の売上高を誇っている。 年度版日本半導体年鑑 , ∼ページ, ぺージおよ び !" # $%& 'のホームページ ( () * *+++ , ( $-( #*( . */年 月 日) など 参照。 ) マイケル・・ポーター, 竹内弘高 日本の競争戦略 ダイヤモンド社, 年, ページ。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 また, (電子情報技術産業協会) 半導体部会が 年 月に取りまとめた報告書 日本半導体の新たな挑戦 ― 半導体技術開発プロジェクト― は, 日本の半導体産業 ) の 「国際競争力低下の要因」 として次の 項目を掲げている 。 ① 低収益による投資体力の不足 ② 国内市場での横並び過当競走 ③ 成長するアジア市場でのシェア低下 ④ マイコン, フラッシュメモリ, イメージセンサーなど強い分野を持つも, システム 事業, 特に特定用途向け標準品 () が弱い。 ⑤ システム提案力の不足とグローバルスタンダード製品の欠如 ⑥ 水平分業 (ファブレス/ファンダリ) モデルの台頭 ⑦ 他国比で不利な経営環境 (インフラコスト, 実効税率など) 以上のような諸要因によって半導体の世界市場獲得競争において地位低下を続けた日本の半 導体メーカーにとって, 年から 年までの 年に及んだメモリ不況, そして バブル の崩壊による 年・年の半導体不況は, 次に述べるように深刻な打撃を与え, 従前に ない変革を余儀なくした。 半導体不況と半導体メーカーの再編 メモリ不況と半導体メーカーの再編 世界の半導体市場は, 年代前半, アメリカにおける好調なパソコン需要, 東南アジア での民生用電子機器の生産拡大, 世界的な移動体通信 (携帯電話) ブームを背景に拡大し, 年には前年比 %増という驚異的な伸びを達成し, 億ドルというそれまでの史上 最高額を記録した (図 )。 しかしながら, と並んで半導体市場をリードしてきた ) (電子情報技術産業協会) 半導体部会 日本半導体の新たな挑戦 ― 半導体技術開発プ ロジェクト ― 産業競争力懇談会 ( ), 年, ページ。 また, 日本電子機械工業会半導体委員会が 年に著した報告書は, 日本の半導体メーカーの競争 力が弱まった原因を次の 項目に集約している。 ① 意思決定の遅れなど垂直統合型事業形態のマイナス面を露呈している。 ② など, 横並びの製品志向に投資が集中し, 供給過剰, 価格競争で利益を圧迫している。 ③ 知的財産権は, 欧米メーカーに比べ戦略性に乏しく, 世界標準ではリードされている。 ④ システム の付加価値を価格に転化できず, チップサイズで値決めされている。 ⑤ グローバル化対応の遅れ。 日本電子機械工業会半導体委員会半導体新事業形態調査研究会 半導体新事業形態に関する調査研 究報告 日本電子機械工業会電子デバイス部, 年, ページおよび ページ参照。 ― ― 伊 東 維 年 図 世界の半導体市場の推移 (年∼年) は 年秋口から需給のアンバランスによって前例のない価格暴落局面に陥った。 だけでなく の価格も急落し, 年のメモリ市場は前年比 %減と大きく縮 小した。 これは順調に伸長してきたメモリ市場にとって 年以来初めてのマイナス成長であ り, これに引きずられて世界の半導体市場全体も 年には前年に比べ %ほど縮小した。 翌 年もメモリ市場は縮小を続け, これに対してロジックやマイクロの市場が堅調に推移し たことから半導体市場全体の規模は幾分か回復したものの, 年の市場規模には及ばなかっ た。 年に入ると, アジア通過危機によりアジア全体の消費が急速に落ち込み, パソコンの 低価格化も進行し, メモリ不況に加えてロジック市場も厳しい情勢を迎え, 半導体市場は 年をさらに下回る規模に縮小した )。 このような半導体市場の収縮のなかで, 日本の半導体生産額は, 年の 兆 億円か ら 年連続して減額し, 年には 兆 億円と 年の %の水準にまで落ち込んだ (図 )。 この半導体生産額の落ち込みには, の大幅な減額と 型ロジックの低迷 が大きく影響した。 好調なパソコン需要により逼迫した 供給力に対応するため, また ) 半導体産業計画総覧 年度版 産業タイムズ社, 年, ページ。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 図 日本の半導体生産額の推移 (年∼年) 携帯電話などに市場が拡大するフラッシュメモリの量産強化や, ・マイコンの生産増に 対応するため, 年度から 年度にかけて前年度比 ∼%増の設備投資 (大手 社ベー ス) を続けてきた日本の半導体メーカーは, 年度から一転して設備投資を縮減してきたもの の ), 収支のアンバランスを解消することができず, 年 月期決算では半導体事業で が 億円, 日立が 億円の連結営業赤字を計上するなど挙って巨額の赤字に転落した )。 こうした状況下で半導体メーカー各社は, 窮状を打開するため, かつてない事業再編に取り組 むこととなった )。 その一つは, 事業の縮小, いわゆる脱 化とシステム への戦略製品の転 換であった。 パソコン向けの 需要が旺盛であった 年度当時, , 東芝, 日立, 富士通, 三菱電機の半導体大手 社では, 半導体生産額に占める 型メモリのシェアがい ずれも %を超えるなど, 型メモリ, とりわけ が主力製品の座を占めていた。 ) 日本の半導体メーカーの設備投資動向については, 月舘実 「半導体産業の現状と展望」 半導体産業 計画総覧 年度版 , ページの 「表 設備投資動向」 を参考にした。 ) 遠藤典子 「・日立 半導体で提携 での生き残り賭ける」 週刊ダイヤモンド 第 巻第 号, 年 月 日, ページ。 ) メモリ不況以降の日本半導体メーカーの事業再編については, 谷光太郎 日米韓台半導体産業比較 (白桃書房, 年) ∼ページが参考になる。 ― ― 伊 東 維 年 ところが, 年からの 年間に 事業において 社合わせて 兆円規模の赤字を出し ), 事業の見直しを行うに至った。 年に入り富士通は汎用 からの撤退を決定し, 東芝は 事業の縮小を打ち出した。 また, 両社は 年 月に 以降の次世代 の研究開発などメモリ事業での包括的な提携を発表し, 年 月から共同研究を開始 した。 にかかわる巨額の研究開発投資, 設備投資を軽減する一方で, デジタル情報家 電向けのシステム やフラッシュメモリなど高収益の見込める分野へ経営資源をシフトす ることが提携の狙いであった )。 半導体大手 社のなかでは最もメモリ依存度 (年度の 型メモリシェア %) の高かった日立も, 依存からの脱却, システム 事 業の強化, 先端製造技術の維持を半導体事業の基本方針として掲げるようになり ), 年に は と合弁で設立した 工場, ツインスター・セミコンダクタ (米テキサス州, 年 月稼動) の合弁解消, アメリカの 前工程工場である (日立セミコンダクタ・ アメリカ) テキサス工場の生産凍結などを行い, 事業の縮小と大容量の先端 への移行を進め, 併せて茨城県ひたちなか市の 製造本部 棟を拠点にシステム 事 業の拡大を図ることとなった。 この日立と, 当時国内半導体メーカー第 位の は, 年 月に に関する 合弁会社, エルピーダメモリ (創業時の社名, 日立メモリ, 年 月に現社名に変更) の設立に調印し, 翌 月に当社は設立された。 これにより, ① 新会社は次世代 の共 同開発に取り組み, 年の製品化を目指すとともに, ② 年末を目処に両社の 販売機能を新会社に統合し, 共同開発製品および両社の既存 製品を新たな統一ブラン ドで販売する。 さらに, ③ 生産については両社の生産拠点に委託する形で生産機能を取り込 むこととした )。 三菱電気も, アメリカの 前工程工場であった三菱セミコンダクタ・ アメリカの工場閉鎖 (年), 台湾の合弁会社力晶半導体 ( ! " #! $%& ' () への生産委託などによって 事業の縮小を進め, その一方メモリの分野ではフラッシュ メモリを中心に, システム の分野では ・ロジック混載の 「 シリーズ」 を 柱に事業拡大に踏み出した。 では, 徹底したメモリ分野への集中, 巨額な設備投資に よって躍進した韓国の半導体メーカー, 微細加工技術と工場運営のノウハウでコストダウンを ) 谷光太郎, 同前, ページ。 ) 「 日本連合 に世界の壁 東芝・富士通提携」 日経産業新聞 年 月 日, 半導体産業計 画総覧 年度版 , ページ。 ) ) 半導体産業計画総覧 年度版 , ページ。 ・日立製作所のプレスリリース 「と日立, の合弁会社を設立」 年 月 日。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 図り低価格攻勢で急成長を遂げたアメリカのマイクロンテクノロジー ( ) による寡占化が進み, 台湾のファンドリ・メーカーが台頭するなかで, 年からのメモリ不 況は, 日本の半導体メーカーに 事業の縮小, 汎用 からの撤退あるいは大容量 の先端 への移行を余儀なくさせ, 同時にそれに替わって高付加価値・高収益製品への シフト, なかんずくシステム への戦略製品の転換をもたらしたのである。 二つは, 国内の大手半導体メーカー間の提携の進展である。 国内の大手半導体メーカーは, 上述のように, 半導体事業で巨額の赤字に転落した 年の末から, 「かつては考えられなかっ た」 ) 相互間の大型提携に踏み出した。 前述した東芝と富士通, 日立と の提携のほかに も, 三菱電機と松下電器産業, 松下電子工業が 年 月に次世代システム の開発・生 産で包括的な提携を結び, 翌 年 月にはソニー子会社のソニー・コンピュータエンタテイ ンメント ( ) と東芝が 「プレイステーション 」 向けに両社が開発した ビット 「エモーションエンジン」 の量産に向けた合弁会社の設立に合意し, その新会社大分ティーエ スセミコンダクタは東芝大分工場内に 年 月に設立された。 三菱電機と松下 社の提携は, 三菱電機が得意とする と, 松下が強みを有するロジックを組み合わせて, デジタル家 電や小型情報端末に搭載される新しいシステム の開発を意図したものであり, さらに 「将来の合同生産や開発拠点の合弁も検討課題」 に入れた提携であった。 年 月に, この 社は プロセスによる 組込型システム 技術を開発した )。 こうした大手 半導体メーカーの 「合従連衡」 によって業界地図は大きく塗り替えられることとなった。 設備 投資のみならず, 研究開発投資も巨額となり, 増加の一途を辿っているにもかかわらず, 投資 効率は低下傾向を示し, たとえ大手メーカーであっても, 単独の経営資源で最先端の やシステム の開発・製造に取り組み, 寡占傾向が続く世界市場で生き残っていくことは いよいよ難しい状況に立ち至ったのである。 このようなことが大手メーカー間の提携を迫った 最大の要因であった )。 三つは, 海外工場, とくに欧米工場の生産停止・閉鎖などによる生産体制の再編である。 日 本の大手半導体メーカーは, 市場の拡大や貿易摩擦の解消, 円高対応のため, 年代後半 からアメリカやヨーロッパに生産工場の新増設を行ってきた。 ところが, メモリ不況を契機に ) 半導体産業計画総覧 年度版 , ページ。 ) 「三菱電機と松下グループ 新聞 ) 年 月 日, 次期 で提携」 「不況で枠超え手を結ぶ 松下と三菱の提携」 朝日 年度版日本半導体年鑑 , ページ。 伊東維年 「年代初頭以降のシリコンアイランド九州の 産業」 卷第 ・合併号, 年 月, ∼ページ。 ― ― 熊本学園大学経済論集 第 伊 東 維 年 状況は一転し, アメリカやヨーロッパの半導体工場において生産停止・閉鎖が相次ぐところと なった。 既述のように, 日立は, 年に との合弁 工場の解消, テキサス工 場の生産凍結・従業員の解雇を行い, アメリカにおける半導体の生産から手を引き, 海外生産 拠点をドイツ, シンガポール, マレーシア, 台湾, 中国の 工場体制へと転換した。 三菱電機 は前掲のように同じ 年にアメリカの 工場を閉鎖し, 松下電子はアメリカ松下半導 体 ( ) の工場 (ワシントン州) のうち前工程の操業を 年 月に停止し, 月には後 工程も操業を停止して工場を閉鎖した。 また, 沖電気も, アメリカのオキ・セミコンダクタ・ マニュファクチャリング ( ) の後工程工場 (オレゴン州) を 年 月に閉鎖し, 海外生産 拠点をタイのアユタヤ県にある後工程工場のみに絞った。 さらに, ヨーロッパにおいては, 富 士通が 年にヨーロッパにおけるメモリの前工程生産拠点として設立し, 累計 億円にの ぼる投資を行ってきたイギリスのダーラム工場を 年 月に閉鎖し, 年に売却した )。 かくて, 大手半導体メーカーの欧米工場の数は減少し, 年当時アメリカに展開していた日 系半導体メーカーの一貫・前工程工場 工場のうち, 工場が閉鎖に追い込まれ, 工場が残 ることになった。 などメモリ価格の急落で採算が合わなくなり, 収益性の改善が見込 めなくなったことや, 現地の生産ラインにおいて先端的なシステム を製造するには限界 があること, 海外の設備投資先としては欧米よりも市場拡大や採算の見込める東アジアの方が 効果的であると見なされたことなどが欧米工場の生産停止・閉鎖をもたらしたのであり, 生産 を継続する製品については, 国内工場や海外のほかの系列工場, あるいは台湾のファンドリ・ メーカーなどに移管・振り分けされることとなった。 不況と半導体メーカーの再編 年から 年続いたメモリ不況によって収縮した世界の半導体市場も 年には一躍, 拡 大基調に転じ, 年を上回る 億ドルに達した。 「 革命」 の進行に伴うインターネット の普及, デジタル化の進展によってパソコンの需要が増大し, それ以上に携帯電話の出荷台数 が飛躍的な伸びを見せ, 加えてビデオカメラ, , カーナビ, ゲーム機といったデジタル 情報家電市場が好調に拡大したこと, さらには経済危機を抜け出した東南アジア地域において 電子機器生産が活発になったことが半導体の需要を引き上げたのである。 このような動きは翌 年に入りさらに昂進し, 「 バブル」 と称される状況に至り, 半導体製品の一部に品不 ) 半導体産業計画総覧 年度版 , ページ, ページおよび, 度版 , ページ。 ― ― 半導体産業計画総覧 年 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 図 日本の半導体市場の推移 (年∼年) 足が生じるなど半導体の世界市場は活況を呈し前年比 %増の 億ドルにまで膨張し た )。 同様に, 日本の半導体市場も 年連続して拡大し, 年には 兆 億円と初めて 兆円台に乗った (図 )。 このような市場拡大に合わせて, 日本の半導体生産額は著増し, 年には 兆 億円を記録した (前掲図 )。 ところが, 年には 「 バブル」 は崩壊し, 一転して半導体業界は 「未曾有の大不況」 ) に見舞われた。 パソコンの世界最大の市場であるアメリカにおいて急峻な景気後退によってパ ソコン需要が落ち込み, 関連して , , ディスプレイモニタ, プリンタなどの周 辺機器の需要も減少し, また携帯電話にしてもヨーロッパにおける買替需要が停滞し, 世界的 に過剰在庫を抱え, 半導体の需要は一気に冷え込み, 年の世界の半導体市場は前年のお よそ 分の の 億ドルへと急降下した。 年も需要の低迷は続き, その市場規模は 億ドルとほぼ横這い状態で推移した。 一方, 日本の半導体市場は, 世界の半導体市場に 比べ縮小の程度は幾分か小さかったものの, 年に引き続き 年も縮減し, 年に比 べ %減の 兆 億円へ縮小した。 このようなことから, 日本の半導体生産額も 年には前年をおよそ 兆 億円下回る 兆 億円に急減し, 年も 兆 億円へ ) 年度版日本半導体年鑑 , ∼ページ, ) 半導体産業計画総覧 年度版 , ページ。 年度版日本半導体年鑑 , ∼ページ参照。 ― ― 伊 東 維 年 と減少した。 日本の半導体メーカーは, 年の設備増強, フル操業によって過剰設備, 過 剰在庫を抱え, 価格の大幅値下りによって収支が逆転し, 年度には再び巨額の赤字に陥っ た。 半導体事業において 年度に 億円という 「空前の利益」 をあげた東芝は 年 度には 億円の赤字, 日立も 億円の赤字に転落した )。 また半導体事業の赤字などに より, 大手 社では同年度の連結決算でも大幅な営業損失を計上する事態となった。 年にはイラク戦争の勃発など世界情勢は不安材料を抱えていたが, デジタルカメラ, , 液晶・プラズマテレビなどのデジタル情報家電のほか, パソコン, 携帯電話といった 半導体の主要アプリケーションが活況を呈するようになり, また自動車関連の半導体需要も増 加したことから, 半導体の世界市場は前年比 %増の 億ドルと 年振りに 桁成長を 記録した )。 このような趨勢は翌 年に入りさらに強まり, 市場規模は 年を上回る 億ドルにまで伸長した。 日本の半導体市場も 年 兆 億円, 年 兆 億 円と拡大したものの, 年の市場規模は, 携帯電話の不振などにより通信機器用の半導体 需要が後退したこともあって, 年の規模を上回ることができなかった。 このため, 日本 の半導体生産額にしても, 年, 年と増額したが, 年は 兆 億円と 年 の %の水準に留まった。 ところで, 「 バブル」 の崩壊によって, メモリ不況以上の生産の落ち込み, 深刻な不況に 直面して, 日本の半導体メーカーは改めて事業の再編を余儀なくされた。 まず行われたのは汎用 からの撤退とエルピーダメモリへの汎用 の統合であっ た。 既述のように, 富士通は 年に汎用 からの撤退に方向転換し, 日立と は同じ 年に合弁会社のエルピーダメモリを設立し, 同社に 事業を移管することに したが, ここにきて東芝も汎用 からの完全撤退に踏み切った。 東芝では, 年に 入りメモリの生産拠点であった四日市工場での 生産を縮小し, 台湾の華邦電子 ( ) への生産委託を拡大するなど 事業の立て直しを模索したが, 同年 月になって遂に汎用 の製造・販売からの撤退を表明するに至り, 翌 年に はアメリカにおける の生産拠点であったドミニオン工場 (ヴァージニア州) をアメリ カのマイクロンテクノロジーへ売却した ) 。 さらに, 三菱電機も 年 月末をもって 事業をエルピーダメモリへ譲渡し, 事業から完全に撤退した。 年に自社 ) 鈴木洋子 「特集 赤字総額 億円! 半導体産業総崩れの危機 東芝, , 日立, 富士通大リ ストラの決断と苦悩」 週間ダイヤモンド 第 卷第 !号, 年 月 日, ページ。 ) 年度版日本半導体年鑑 , ページ。 ) 年度版日本半導体年鑑 , ページ。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 工場を立ち上げたエルピーダメモリは, これによって国内唯一の汎用 メーカーとなっ た。 第 は, 事業統合, 分社化によるシステム 事業の強化, 得意分野への選択と集中であっ た。 メモリ不況を契機に日立と は 事業の統合を行ったが, 「 バブル」 崩壊後 の深刻な不況に遭遇して 年 月, 日立と三菱はシステム を中心とした半導体事業の 統合を発表し, 翌年 月に新会社ルネサステクノロジを設立し事業を開始した。 この事業統合 は, 成長性の見込めるシステム の分野において両社の強みを持ち寄ることで国際競争力 を高め, 特にモバイル, ネットワーク, 自動車, デジタル家電分野でトップポジションを目指 すとともに, 技術・設備の効率的活用を図り, 安定高収益体質を実現することを目的としたも のであった )。 この事業統合により, 年度売上高 億円 (連結), 従業員 万 人 (連結, 海外を含む, 年 月) という国内最大の半導体メーカーが誕生した。 また, かね てより や の共同開発などで提携関係にあった東芝と富士通は 年 月に システム を核とした半導体事業分野において包括的な提携を行っていくことに合意し, かくして日本の大手半導体メーカー 社は, 先のルネサステクノロジと, 東芝・富士通グルー プ, そして の三つに大きく再編成されることになった。 この も 年 月にシ ステム 事業を中心とした新会社 エレクトロニクスを設立し, 半導体事業を分社化し た (図 )。 この分社化=新会社設立は, システム 事業への経営資源の集中を図り, 半導 体ソリューションの専業企業として事業を展開するなどにより競争力の強化を意図したもので あった )。 第 は, 生産拠点の再編である。 半導体メーカーは, 前述のような汎用 からの撤退, 事業統合, 分社化と相俟って, 生産拠点の再編を行った。 この生産拠点の再編は, 一貫・前工 程工場のみならず, 後工程工場や後工程を担当する系列の協力企業にも及んだ。 この生産拠点 の再編は, 東芝, のような大手のみならず, 広範の半導体メーカーにおいても行われて いるが ), ここでは, 東北から九州にかけて半導体の生産拠点を展開している の事例を 中心に, 節を改めて具体的に述べることにしたい。 ) 日立・三菱電機のニュースリリース 「日立と三菱がシステム 事業の統合に向けて基本合意」 年 月 日。 ) のプレスリリース 「 グループの事業再編について ∼ 経営改革 第 フェーズへ ∼」 年 月 日および同 「半導体新会社の設立について」 年 月 日。 ) 例えば, 三洋電機は, 年 月に, 三洋シリコン電子など後工程 (組立) を担当する系列子会社 社を統合し, 関東三洋セミコンダクターズを設立している。 年度版日本半導体年鑑 , ペー ジ。 ― ― 伊 東 維 年 図 国内半導体メーカーの提携関係と業界再編 !"#$%&'()*+ ,!-./012 34./56789: ;9< #= による生産拠点の再編 年代半ばから 年代初めにかけて世界の半導体売上高ランキングでトップを走ってい た は, 年に, を核に高成長を続けるインテルに抜かれ, その後 年代後半は 世界第 位のメーカーとしての地位を維持していたものの, インテルとの売上高格差は拡大傾 向を辿り, また ではサムスン電子やマイクロンテクノロジーなどの後塵を拝するよう になり, 既述のように 年には日立との間で の合弁会社を設立するに至った。 バ ブルで半導体市場が膨張した 年度には前年度比 %増の 億円の半導体生産額を あげたが, メモリ市場では 年の世界 位から 位へ, 得意としていた でも 位から 位に後退し, 半導体売上高ランキングにおいても東芝に 位の座を明け渡し, 位に後退し た )。 このような地盤沈下の状況のなかで, バブル崩壊による不況の打撃を受け, 年 ) 半導体産業計画総覧 年度版 , ∼ページおよび 「半導体改革に着手」 新聞 年 月 日, 参照。 ― ― 日本経済 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 夏に は 「年度中期経営戦略について ∼ スランプの克服と次の成長への飛躍 ∼」 (以下, 「年度中期経営戦略」 と略す。) を発表し, システム 事業の強化とともに, 半 導体の生産拠点の大幅な再編を打ち出すこととなった。 これを契機に 年前半までの間に, による半導体の生産拠点の再編は, 以下に述べるごとく 段階にわたって実施された。 「年度中期経営戦略」 による半導体事業の構造改革 アジア・中南米の経済危機による需要低迷や国内の景気回復の遅れ, 半導体不況などに見舞 われた 年度に, は連結業績にて 億円という大幅な赤字を記録した。 これにつ いて, は 「明らかに構造上の問題であると捉え, 抜本的な改革が必要であるとの認識を 持った」 )。 そこで, 年 月の社長交代と同時に, 次の四つの構造改革を行うことを発表 した。 第 は経営構造改革 (コーポレートガバナンスの強化), 第 は事業構造改革 (事業の選 択と集中), 第 は費用構造改革 (人件費削減を含めた固定費削減), 第 は財務構造改革 (財 務リストラの推進) である。 この構造改革を推進するため, 同年 月には 「インターネット時 代の価値創造企業 (インターネット・ソリューション・プロバイダ)」 への転換を志向した経 営改革の基本方針を決定するとともに, 翌 年 月には 「自立的事業執行体制」 である社 内カンパニー制を導入し, またコア・ビジネスへのフォーカスを主要命題とした中期事業戦略 を同年 月に策定した。 これら一連の構造改革路線にそって, 年以降, はコア事業 領域への諸資源の集中化, 課題事業のリストラ, 他社との連携による事業再編, 生産関係子会 社の再編と分社化による事業競争力の強化, 上場関連会社に対する政策の見直しなど事業再構 築を行ってきたのであり, 年における日立との 合弁会社エルピーダメモリの設立 にしてもこの構造改革路線にそった事業再構築の一環としてなされたものであった )。 「 バブル」 の崩壊による不況の影響が強まるなか, 年 月に発表された 「年度 中期経営戦略」 も構造改革路線に即したものであった。 本戦略は, 「 スランプに対応し 子デバイス事業の構造改革 で, を全力で推進すると共に, グローバルな成長に向けた戦略展開 安定的な経営基盤の確保 を継続すること」 ) 電 をした上 を掲げ, 電子デバイス事業の 構造改革の断行を前面に打ち出した。 電子デバイス事業の構造改革とは, システム を軸 ) 南稔 「日本電気における事業再構築の考え方と実戦事例」 クオリティマネジメント (日本科学技 術連盟) 第 卷第 号, 年 月, ページ。 ) 同前, ∼ページ。 ) のプレスリリース 「年度中期経営戦略について ∼ スランプの克服と次の成長への飛 躍 ∼」 年 月 日。 ― ― 伊 東 維 年 とした事業構造への転換, システム 事業の強化を図る一方で, 事業体制転換に向けた構 造改革として, 海外生産拠点における の生産集約, 国内の老朽拡散ラインの閉鎖, 国 内組立拠点の整理・統合, 人員削減などにより 年度までに社内カンパニーである エレクトロンデバイスの総固定費を 年度に比し %削減し, その損益分岐点を約 千億 円引き下げるというものであった。 この構造改革の具体策の柱として打ち出されたのは次の四 つの事項であった。 ① イギリスの セミコンダクターズ (スコットランド・リビングストン市, 年設立) の インチ拡散ラインを 年度下期中に月産能力 万 枚から 万 枚に削減する。 これに伴い, 同社の人員を約 人から 人未満に削減する。 ② 相模原事業場にある インチ拡散試作ラインを閉鎖し, 研究開発・試作は インチ の 棟に一本化する。 また, 国内のほかの インチ拡散ラインについても, インチ と インチの両方のラインを有する生産拠点を中心に順次集約する。 ③ 福岡, 大分, 熊本の半導体組立 社を再編・統合し, 年 月に セミコンダクターズ九州を設立する。 ④ 山形の半導体組立工場である山形工場と高畠工場を 年度下期中に統合し, 組 立を か所に集中する。 以上のような 「年度中期経営計画」 を公表したものの, その後, 半導体の景況が一段 と悪化し, 業績予想の大幅な修正に追い込まれたことから, は前計画に加えて, 年 月 日に 「半導体事業の構造改革追加施策について」 を発表し, 「更なる固定費削減による 費用構造改革」 を実施することとなった。 具体的には, 拡散能力の削減として 九州の第 拡散ラインの閉鎖 (年度中), 年 月に からの撤退, 組立ラインの閉鎖 を決定したアメリカの エレクトロニクス・ローズビル工場 (カリフォルニア州) での拡 散能力の追加削減 (月産 万 万枚から 万 万枚へ, 年度中) を行うとともに, 組立ラインについて 「コスト対応基地としてアジア生産を優先すべく, 北米と英国での組立て から撤退し, シンガポール, マレーシア, インドネシアを主力工場に位置付ける。 国内では, 九州・山形・関西の グループに統合し, 九州, 山形をシステム 拠点, 関西を汎用デバ イス拠点に集中するとともに, 協力会社の自立化を促進する」 ) ことを掲げた。 かくて, これらの計画に従い, は, 半導体事業の構造改革に取り掛かり, 年度中 にローズビル工場では 生産の中止, システム 生産への特化, 拡散能力の削減, ) のプレスリリース 「半導体事業の構造改革追加施策について」 年 月 日。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 組立ラインの閉鎖を実施した。 また, セミコンダクターズ については, 拡散能力・ 人員の削減に踏み切ったが, 主力の携帯電話向け やカスタム の需要不振により工場 の稼働率が大幅に低下したため, 年 月に至り工場の全面的な稼働中止を決定し, 年 月末をもって工場を休止し従業員を解雇した。 この結果, 欧米における の生産拠点 の配置は, 一貫 工場・組立 工場の 拠点体制から前工程 工場・組立 工場の 拠点体制 へと変容するところとなった。 国内では, 同じ 年度中に相模原事業場の インチ拡散ラインおよび 九州の第 拡散ラインを閉鎖する一方, 福岡, 大分, 熊本の半導体組立 社の統合によ る セミコンダクターズ九州の設立 ( 年 月 日), 山形の半導体組立 工場 の高畠工場への集約を行った。 これにより, 国内における 直系の組立工場は, 九 州から完成ウェハの供給を受け後工程を担当する セミコンダクターズ九州の 工場と, 山形の鶴岡工場・鶴岡東工場から完成ウェハの供給を受ける高畠工場, 関西の大津 工場から完成ウェハの供給を受ける同社彦根工場・福井の グループへ統合された。 によってシステム 事業への構造転換, 固定費用削減を目的として 年度に行 われた半導体事業の構造改革は, 欧米の生産拠点の縮小, 国内工場における老朽拡散ラインの 削減, 組立工場の統廃合, 人員削減を行うなど 「これまで以上に踏み込んだ内容となった」 )。 とりわけ後工程については, 国内外に及ぶかつてない大幅な改革であった。 この後工程の改革で注目されるのは, 直系の組立工場の統廃合のみならず, 「協力会社の自 立化」 を打ち出した点である。 設備の貸与, 技術供与, 従業員の研修, 系列内取引などを行い つつ協力企業 (後工程企業) を育成・管理してきた親企業の業績後退のなかで, 親企業と協力 企業との系列関係の解体がここにきて宣言されたのであり, 系列内取引などによってその地位 を守られてきた協力企業は, それ以降, 自立の道を模索することになるのである。 広島エルピーダメモリの設立と 広島の生産機能移管・譲渡 既に述べたように 年に移り は半導体事業の分社化を決定し, 月にシステム 事業を中心とした新会社 エレクトロニクスを設立し, 従来の生産子会社を か ら エレクトロニクスの全額出資子会社へと転換した (図 )。 ただし, 等メモリ 製品の前工程工場であった 広島は の %子会社として存続した。 これは, 広島の ウェハ工場が, と日立によって設立されたエルピーダメモリの主力生産 ) 「西垣改革第 幕 苦渋の決断 ㊤」 日経産業新聞 ― ― 年 月 日。 伊 東 維 年 図 グループにおける半導体事業の変遷 年 月 年 月 現在 汎用 を除く半導体事業 半導体事業 汎用 事業 関連子会社 関連子会社 関連子会社 会社分割 関連子会社 株式・持分 を承継 エレクトロニクス エレクトロニクス 汎用 を除く半導体 事業の関連子会社 汎用 を除く半導体 事業の関連子会社 エレクトロニクス・ グループ エレクトロニクス・ グループ 日立メモリ㈱(注 ) エルピーダメモリ㈱(注 ) エルピーダメモリ㈱(注 ) (汎用 事業) (汎用 事業) (汎用 事業) ㈱日立製作所 汎用 事業 営業譲渡 営業譲渡 (注) . 日立メモリ(株) は, 年9月に社名をエルピーダメモリに変更した。 . エルピーダメモリ(株) は, が同社の保有するエルピーダメモリ(株) の株式を 年 月 日に一部売却したことに伴い, の持分法適用関連会社から除外されている。 (出所) エレクトロニクス 有価証券報告書 事業年度 (第 期) 自 平成 年4月1日 至 平成 年 月 日 , ページの 「グループにおける半導体事業の変遷図」 に一部 加筆修正して作成した。 工場と位置づけられ, 従来からエルピーダメモリが開発した製品の生産受託を行ってきており, 自社工場を持たないエルピーダメモリからの の生産受託を当面の間は継続せざるをえ ず, エレクトロニクスの事業領域との間に齟齬を生じたための便宜上の措置であった。 エルピーダメモリは, この 広島の敷地内に 年から ウェハ対応の 専用工場の建設に取り掛かり, 不況による設備導入延期などを経て, 年に入りようやく 自社工場を稼働するが, 当工場の運営はその立ち上がりに係わった 広島に委託されたま まであった。 その後同年 月 日に, エルピーダメモリは生産子会社広島エルピーダメモリを 設立し, 自社工場の運営を開始した。 これにより, エルピーダメモリは開発から生産・販売ま で 事業を一貫して行う体制を整えることになり, 経営の迅速化も可能となった。 また同時に, は, 広島エルピーダメモリに対して, 広島が保有する生産設備を含 めたすべてのファシリティを貸与し, 従業員を出向させることにより, 広島の全生産機 能を移管した。 この移管により 「広島エルピーダは, ウェハー工場と 広島から ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 賃借する ウェハー工場の双方を主体的に運営することとなり, 両工場の間で共通性の 高い技術情報を水平展開することが可能となるほか, 効率化によるコストダウンが可能となり, コンペチタに先駆けて高付加価値 市場における世界的な優位性を確立すること」 ) を 意図した。 さらに 年には, エルピーダメモリからの申し入れを受けて, は 広島の土地, 建物, 生産設備等の資産を約 億円でエルピーダメモリに譲渡し, その生産機能を手放すこ とにした )。 後工程の生産拠点の再編 エルピーダメモリへの 広島の資産譲渡に先立って, エレクトロニクスは 年 月に, 改めて半導体の後工程の生産拠点を再編する方針 「半導体後工程の再編について」 を 決定し公表した。 これは, 顧客の要求に基づき製品を迅速に供給するプル型生産の最適化を目 的としたもので, の後工程の再編としては 年度の構造改革に続く大規模な改革内容 であった。 すなわち, 顧客の技術・品質要求を満足させ, 迅速かつ機動的な製品供給を行うた め, 後工程の生産体制をパッケージタイプ別に ① 成熟パッケージ製品生産体制, ② 汎用パッ ケージ製品生産体制, ③ 高機能パッケージ製品生産体制の三つに分類し, それぞれの生産体 制について次のように編成することとした。 ① 成熟パッケージ製品生産体制 ( ) 製品や ( ) 製品などの技術的に 成熟したパッケージ製品については, 顧客の多くがアジア地域 (東南アジア, 中国) に移っ ていることから, これらの製品の後工程に関しては, 中国の首鋼 (北京市), セミコンダクターズ・マレーシア (クアラランガット市) の生産能力を増強する。 また, 海外生産へのシフトに伴い, 国内で成熟パッケージの後工程を担当している 関西の 彦根工場を閉鎖する。 ② 汎用パッケージ製品生産体制 外部委託が可能な汎用パッケージ製品については, 自ら設備投資を行うことなく, 安定的 な製品供給を確保するため, 山形の高畠工場を台湾の半導体組立専業メーカーであ ) エルピーダメモリのニュースリリース 「広島エルピーダメモリ株式会社設立と 広島の生産機 能移管について」 年 月 日。 ) エルピーダメモリのニュースリリース 「広島エルピーダによる 広島資産の取得について ― エ ルピーダ事業基盤の確立 ―」 年 月 日。 ― ― 伊 東 維 年 る () グループに売却し, そこに生産委託を 行う。 ③ 高機能パッケージ製品生産体制 ( ) 製品や ( ) 製品などの高 機能パッケージ製品については, 技術開発部門および前工程部門との緊密な連携が重要と なるため, セミコンダクターズ九州の 工場と 山口の後工程部門へ集約し, これら国内拠点を活用していく )。 要するに, 「事業の選択と集中」 の原則にもとづき, 成熟パッケージ製品の後工程は製品需 要の多いアジア地域の生産拠点に集約し, 汎用パッケージ製品の後工程は外部委託を行う一方, 高機能パッケージ製品の後工程については ! メーカーとしての競争優位性を確保するため に国内拠点を活用することを後工程再編の基本方針とした。 この 区分の方針に従った後工程 の再編は "##$年から進められ, 国内の後工程 "工場の売却・閉鎖は同年中に実施された。 山形の高畠工場は同年 %月に 山形より会社分割されて株式譲渡という形で に 売却され, この売却に伴う $年間の生産委託契約を, エレクトロニクスは との間 で締結した &)。 また, 関西の彦根工場は "##$年 '"月をもって閉鎖され, 当工場が担っ てきた (やダイオードの組立はマレーシア, 福井に移管され, 従業員は液晶ドライ バ の拡散基地である 関西の本社工場, またはパワー )*, 液晶ドライバ 等 の後工程を行う 福井に移動・転籍された。 実は, これら後工程 "工場の売却・閉鎖に先立ち, 先の後工程再編の方針の公表後 "か月も たたない "##$年 $月早々, エレクトロニクスは, 経営効率の向上を狙った経営革新の一 貫として, 同社相模原地区の (+ 開発試作事業部と先端 ライン運営事業部の分社化, および セミコンダクターズ九州と 山口の後工程部門の統合を発表していたのであ り $#), 同年 ,月には (+ 開発試作事業部と先端 ライン運営事業部を会社分割の方法に より分社化し, ファブサーブが設立された $')。 エレクトロニクスは, 半導体のソリュー ) エレクトロニクスのニュースリリース 「半導体後工程の再編について」 "##$年 "月 日。 &) エレクトロニクスのニュースリリース 「半導体の組立てに関して台湾の グループと エレクトロニクスが提携∼エレクトロニクスが 山形の高畠工場を グループに売却∼」 "##$年 "月 日。 $#) エレクトロニクスのニュースリリース 「分社による新会社設立およびグループ会社再編につい て」 "##$年 $月 '日。 $') エレクトロニクスのニュースリリース 「ファブサーブ株式会社の設立について」 "##$年 ,月 '日。 ― ""― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 ション提供をコア事業と位置づけ, 主として先端スキルや付帯サービスを提供している関係上, 半導体の開発試作, 設備・施設の運営管理・保守など生産を担当していた両事業部と他の事業 部門とでは事業特性が大きく異なっていたのであり, それぞれの部門の最適な事業運営を行い, 経営の効率化を図るため, 両事業部の分社化が実施されたのである )。 この分社化により, ファブサーブは半導体の試作サービス, 生産サービス (拡散ラインの立ち上げ, 量産業 務請負等), 設備サービス (設備・部品の設計・販売・保守等) を事業内容とする エレク トロニクス子会社として出発することとなり, エレクトロニクスの生産事業については すべて関連子会社が担当することになった。 セミコンダクターズ九州と 山口の後工程部門は先の後工程再編の方針によって 高機能パッケージ製品の後工程拠点として位置づけられたが, 集中による生産・経営の効率化 を図るため, 改めて統合が計画されたのである。 この統合は 年 月 日に行われ, 後工 程専業の新会社 セミコンパッケージ・ソリューションズが誕生した。 同時に, 山 口は前工程専業会社へと変身した。 その後 か月経った 月末には前述のように 関西 の彦根工場が閉鎖されたため, エレクトロニクスグループの国内の後工程拠点は セミコンパッケージ・ソリューションズと 福井の 社 工場体制に集約されるに至った。 構造改革を推進するなかで, 「 バブル」 の崩壊による深刻な不況の打撃を受けてスタート した生産拠点の大規模な再編によって, の半導体量産工場は, 海外工場を含め 年当 時の 社 工場体制から 年には 社 工場体制へ, また工場形態別には一貫工場 工場, 前工程工場 工場, 後工程工場 工場の体制から一貫工場 工場, 前工程工場 工場, 後工程工場 工場へと変貌している (図 )。 自動車向け半導体事業の強化 エレクトロニクスでは, 年頃から 九州を中心的な存在として, 車載用の ビットや ビットのマイコン, 金属酸化膜電界効果トランジスタ () をはじめとするパ ワーデバイスに加え, 自動車の安全にかかわる, 画像認識プロセッサに代表されるシステム などの生産・供給を続け, 年度には自動車関連製品の売上高が約 億円に達した )。 当社では, 自動車の電子化に伴い車載用半導体市場の成長が見込まれることから, 年 ) エレクトロニクスのニュースリリース 「会社分割による生産事業部門の分社化に関するお知ら せ」 年 月 日。 ) エレクトロニクスのニュースリリース 「自動車向け半導体事業の強化について∼九州お よび米国ローズビル工場を増強し, 二拠点からの供給体制を確立∼」 年 月 日。 ― ― ,- ― ― qrt X7YZ TUVW pSt ¡¢£¤t 維 ! 78./ ! ! 78./ ! _` 7 8 9 ;<=>?@ACH@ID! ;<=>?@ACIJK@E! ;<=>?@AC GNID! OPQRRSTUVW./ X7YZ TUVW |}p ~E@M 01Ew@>xyh [p 01T p [uv ab X "#! $% ;<=cde@fCghi@IjA "(! )*! +! ,-! ,- ,2 3( 3(4 ./ ! 78./ ! 01Ew@>xyh [z{ _` ;<=cde@ fCghi@IjA ;<=>?@ A$%o ,-p! qrs&'t 東 7 8 9./ : ^F _`[ ;<=>?@A B./ klmn ;<=>?@ACD EFG! ;<=>?@ACH@ID! ;<=>?@ACIJK@E! LMC;<=>?@AC GNID! OPQRRSTUVW./ X7YZ TUVW ,-./ 01 ,2 3( 3(4 56! 56! [\] ,2! ! "#! $% &' ;<=>?@A$% "(! "(! )*! )*! +! +! 図 ・エレクトロニクスの半導体量産工場の推移 伊 年 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 に車載用マイコンで世界シェア 位を目指し, その目標達成の具体策をまとめ, 年 月 に 「車載向けマイコン事業の強化について ∼ 生産拠点の再編, 開発・サポート体制の強化で 世界 の道を拓く ∼」 を発表した。 その内容は次の 項目からなっていた )。 ① ローズビル工場の インチ化 ( ナノ品対応強化) 車載用マイコン分野においても技術革新が進み, 新製品は ナノメートルクラスでの設 計が主流となっていることから, インチラインにおいて ナノから ナノ世代の車 載マイコンを生産している エレクトロニクスアメリカのローズビル工場に, 年 度上期に インチのパイロットラインを, 年までには能力月産 千枚の インチラ インを構築し, ナノ製品を生産する。 このローズビル工場の インチ化にあたっては, 当社の相模原地区にある インチラインの設備を転用することとし, これにより, 相模原 地区の インチラインを 年 月までに閉鎖する。 ② アイルランド工場の閉鎖とシンガポール工場への集約 当社の海外ユーザー向けの車載マイコンの組立・テスト工程は, セミコンダクター ズシンガポール (シンガポール工場) と セミコンダクターズアイルランド (アイルラ ンド工場) で行ってきたが, 主として操業コストを削減することにより経営効率の向上を 図るため, セミコンダクターズアイルランド (アイルランド工場) を 年 月ま でに停止し, 全従業員 名を解雇して閉鎖し, 当工場の生産・テスト装置をシンガポー ル工場に移設し, 海外向けユーザーの車載マイコンの組立・テスト工程をシンガポール工 場に集約する。 ③ 欧米における開発・設計体制の強化 年に設立した エレクトロニクスアメリカのダラスデザインセンター () お よび 年に設立した エレクトロニクスヨーロッパのヨーロッパテクノロジーセ ンター () において車載マイコン事業を強化するため, において 開発リ ソースを車載マイコンの開発に移管するとともに, においても車載マイコンの開発・ 設計リソースを強化する。 ④ 欧州における品質管理および不具合解析機能の強化 当社では, かねてより品質管理部門および解析センターを日, 米, 欧の 拠点に展開して きた。 ヨーロッパの解析センターは従来アイルランド工場内に設置されてきたが, アイル ) エレクトロニクスのニュースリリース 「車載向けマイコン事業の強化について ∼ 生産拠点の 再編, 開発・サポート体制の強化で世界 の道を拓く∼」 年 月 日。 ― ― 伊 東 維 年 ランド工場の閉鎖に伴い, その機能を エレクトロニクスヨーロッパに移管し, 同社 内の品質管理活動推進部門と一体化させ, 新たにヨーロッパ品質センター () として 活動を強化する。 本計画に従い, 当社の相模原地区の インチラインの設備を 年に閉鎖し, ローズビル 工場へ移管し車載マイコンの インチ・パイロットラインの立ち上げを行い )。 併せて, 同 年にはアイルランド工場を閉鎖し, 同工場の生産・テスト装置をシンガポール工場に移設し集 約した。 ローズビル工場での車載マイコンの インチラインが稼動し, 今後さらに生産能力を 増強することによって, 当社では, 従来 九州からの単独供給だった最先端プロセスの車 載マイコンについて, 供給基地の 極化 (マルチファブ化) が実現することになり, ① 日本と 北米の 拠点からワールドワイドに製品供給が可能となること, ② ユーザーの増産要求など に一層柔軟に対応できること, ③ 為替変動による業績への影響を低減できること, ④ 工場の 稼働状況などの変化により生産工場を選定することができ, 生産を効率化することが可能にな るなど, 当社およびユーザーの両サイドに利点を生じさせるものと考慮した )。 さらに, エレクトロニクスは, 同年 月 日に 「自動車向け半導体事業の強化につ いて」 を発表し, 自動車向け半導体事業の強化の一環として, 設計機能の強化を図るため, と の開発・設計リソースの強化と併せて, 国内の設計子会社 マイクロシステ ム九州事業所 (熊本県上益城郡益城町, 年設立) において車載マイコン設計技術者を新た に 名採用するにより従来の 名から 名に増員することにした )。 コスト競争力を重視した生産体制への見直し が半導体事業の分社化を行い, エレクトロニクスを設立したのは, 「システム 事業への経営資源の集中を図り, 高度化するシステムニーズを実現する半導体ソリューショ ンの専業企業として事業を展開することにより, グローバルな競争力の強化を目指」 ) すとこ ) エレクトロニクスは, 年 月 日から 日の二日間にわたり, ローズビル工場において, 自動車関連の顧客 (欧州, アメリカ, 日本の自動車メーカーや電装装置メーカーなどから約 名) を 招待したカスタマー・イベントを開催し, 自動車向け半導体を生産する最新の生産ライン ( 拡 散プロセスを インチのシリコンウェハで処理する生産ライン) を公開した。 エレクトロニクス のニュースリリース 「エレクトロニクス・アメリカにおける自動車向け半導体に関する顧客イベ ントの開催について ∼ 最新の製造ラインを公開 ∼」 年 月 日。 ) 前掲 エレクトロニクスのニュースリリース 「自動車向け半導体事業の強化について ∼ 九 州および米国ローズビル工場を増強し, 二拠点からの供給体制を確立 ∼」 年 月 日。 ) 同前。 ) 前掲 のプレスリリース 「半導体新会社の設立について」 年 月 日。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 表2 エレクトロニクスの連結決算概要 (単位 億円) 売 上 高 営 業 利 益 (損益) 税引前利益 (損益) 当期純利益 (純損益) 第 期 年 月期 第 期 年 月期 第 期 年 月期 第 期 年 月期 第 期 年 月期 △ △ △ △ △ △ (注) 営業年度の期間は 月 日から翌年 月 日までである。 (出所) エレクトロニクスのニュースリリース 「連結決算概要」 (各年 月期) より作成。 ろに主たる意図があった。 こうした意図をもって, 年 月に エレクトロニクスが 設立されたにもかかわらず, 当社は, 幅広い事業分野に経営リソースが分散し, 研究開発費が 増加する一方で, 売上高が伸び悩み, 年 月期には連結決算で 億円の営業赤字を計 上し (表 ), 翌 年 月期にも引き続き多額の営業赤字が見込まれる事態に立ち至った )。 また生産拠点が各地に点在しているうえに, 各拠点が複数の小規模ラインを所有しているため, 生産の効率化を十分に図れないという課題を抱えていた )。 このような実情を改善し, 「強靱 な事業体質」 を構築することを目的として, 年 月に, 「自動車およびデジタル民生分野 のリーディング企業を目指した経営方針」 を策定し, 製品ラインの再構築と生産体制の再編を 図ることにした。 製品ラインの再構築策, 生産体制の再編としては, 事業を自動車およびデジタル民生分野に 集中的に注力し, それにより売上増と研究開発費の抑制を図ることとし, 具体的には, ① 約 人相当の開発プロジェクトの見直し 製品開発人員のうち, ストラクチャード などの開発技術者 人程度を 年 以内に自動車およびデジタル民生分野に配置転換するとともに, 注力分野以外で外部に発 注している 人相当分の開発委託を中止する。 ② 車載製品強化 車載マイコン事業で世界 位を狙うとともに, 新しい成長領域である予防安全システムや ナビゲーションシステム分野にリソースを展開する。 さらに個別半導体でも と機械 ) エレクトロニクスのニュースリリース 「 年 月期通期業績予想修正に関するお知らせ」 年 月 日。 これによると, 年 月期の営業損益 (連結) は 億円の赤字, 当期純損益 (連結) は 億円の赤字を予想している。 ) エレクトロニクスのニュースリリース 「自動車およびデジタル民生分野のリーディング企業を 目指した経営方針を策定∼国内拡散工程を ラインから ラインに集中し, 生産効率の向上を図る∼」 年 月 日。 ― ― 伊 東 維 年 をつなぐ, 高耐圧・大電流制御のパワーデバイスを強化する。 ③ デジタル民生製品強化 デジタル家電向け半導体 「」 において, ローエンド向けプラットフォームを構築 する。 またデジタルテレビ向け半導体で世界標準となるハードウェア, ソフトウェアのプ ラットフォームを構築するなどによりデジタル民生分野向け製品全般の売上を拡大する。 ④ コスト競争力を重視した生産体制への見直し コスト競争力を重視した生産ラインを構築するため, 国内の拡散工程において製品群別に 専用ライン化を図るとともに, 拠点 ラインに分散している国内生産ラインを, 最終的 には 拠点 ラインに集約する。 ) 山形は先端 製品の生産拠点と位置づけ, インチラインを閉鎖し, ミリラインに集約する。 ) 九州はフラッシュマイコン や車載マイコンの中核工場として, インチラインを閉鎖し, インチラインに集約する。 ) 関西は液晶やプラズマなどの表示ドライバーやパワーデバイスなどの個別半導体 の生産拠点とし, インチラインを閉鎖し, インチラインに集約する。 ) 山口を 汎用マイコン, 汎用 および表示ドライバーの生産拠点と位置づけ, 現状の インチ ラインでの生産効率の向上を図る。 ) 山形の インチライン, 関西および 九州の各 インチラインは 年度までに閉鎖する。 山形および 関西 の インチラインに関しては, 供給責任と継続生産による収益のバランスを考慮し, 最終 閉鎖時期を決定する, ことを掲げた。 エレクトロニクスでは, 以上の施策を着実に実行することにより, 不況期においても 収益の拡大が可能な事業体質を実現するものとしている )。 かつて, 相模原事業場, 玉川事 業場を研究開発・試作の拠点として, 九州を嚆矢に, 東北・関西・中国地方に量産拠点 工場を配置し, 拡散ラインの新増設を続け, 世界の半導体売上高ランキング 位を誇っていた 時代と比較すると, 国内における ラインの拡散工程を ラインに集約するという今回の方針 は隔世の感を禁じえない。 なお, 注目すべきは, 今回の方針でも, 「組立工程に関しては海外 拠点を増強し, 海外への生産シフトを加速する。 国内拠点は高付加価値品の生産と海外拠点の 支援に専念する」 ) と高付加価値品 (高機能パッケージ製品) 以外の製品については後工程の 海外シフトを加速することとしており, 国内における後工程の受託企業にとって一段と厳しい 内容となっている。 ) 同前。 ) 同前。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 後工程企業の変容 以上のように半導体メーカーの再編に伴い, メーカーによって国内外に配置されている生産 拠点は閉鎖, 売却, 統合などかつてない変貌を遂げているが, それのみならず, 前工程を有す る半導体メーカーの協力企業として組立・メッキ・検査を分担してきた後工程企業も変容して きている。 従って, 次には, このような後工程企業の変容に目を転じることにしよう。 前節と の関連を考慮して, ここでは, エレクトロニクスグループを代表する の量産拠点工 場である 九州の協力企業として後工程を担ってきた企業を事例として取り上げることに したい。 九州は, によって 年に熊本県熊本市に設立され, 翌 年から工場の操業を 開始し, すでに 年以上の歴史を刻んでいる。 が 年に編纂した社史 近十年史 創立八十周年記念 日本電気最 によると 「同工場は, 当社がこれまでに培ってきた 技術を 総投入して完成したものであり, ……同工場の稼働により, 当社は 事業の基礎づくりを完 了し, 日本の 業界におけるトップメーカーの地位を確立した」 ) という。 このような経緯 もあって, 同工場は常に最先端製品の量産を手がけ, マザー工場としての役割を果たしてきた。 年代はマイコンに重心を置き, それにメモリ, などを加えた製品構成をとり, 年 当時にはマイコン %, メモリ %, ・その他 %といった構成比を有していたが ), 年代に入りエルピーダメモリの自社工場の運営開始 (広島エルピーダメモリの設立) など に伴う 事業の移管やシステム 事業の強化によって, デジタル家電向けシステム や車載用・機器用などのマイコン, コンピュータサーバ・デジタルカメラなどに使用 されるセルベース , 携帯電話・ゲーム機用のシステムメモリ, デジタル 用 , ディ スプレイドライバ , モータ駆動・エンジン制御用などのパワー などを生産する ロジック主体の量産拠点工場となっている。 とくに最先端プロセスの車載マイコンでは エレクトロニクスの国内唯一の供給基地としての役割を果たしており, 年 月公表の当 社の経営方針においてもフラッシュマイコンとともに車載マイコンの中核工場として位置づけ られている。 実際に同社の全生産量に占める車載用半導体の比率を辿ってみると, 年度 の %から年々上昇し, 年度には %近くへ達している (図 )。 また, かつては一貫工 場として後工程を有していたが, 現在は前工程に特化している。 年時点で インチウェ ) 日本電気株式会社社史編纂室編 日本電気最近十年史 年, ページ。 ) 九州からのヒアリング (年 月 日)。 ― ― 創立八十周年記念 日本電気株式会社, 伊 東 維 年 図 九州の全生産量に占める車載用半導体の割合 (出所) 熊本日日新聞 年7月 日。 図 九州の売上高の推移 (年度∼年度) (注) 売上高は エレクトロニクス設立以降の年度について表した。 (出所) 年度までは 「日経テレコン 」, 年度については 九州のホームページ ( !年4月 日) より作成。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 図 九州の従業員数の推移 (年∼年) (出所) 年までは 九州からのヒアリング (年9月), 年からは (年・年版) くまもと経済・(株)地域経済センターより作成。 くまもと企業白書 ハと インチウェハの二つの拡散ラインを備え, 名の従業員 (年 月現在) を抱え, 年度には 億円の売上高をあげている )。 もっとも売上高は バブル崩壊による半導 体不況の発生以降, 低下傾向を辿っており (図 ), 従業員数も 年の 名を頂点に減少 を続け, 年には早期退職者の募集などにより 名へ大幅削減を行い, その後も人員削 減に努めている (図 )。 同工場にて前工程 (ウェハ処理・検査) を終えた完成ウェハは, 同じく エレクトロニ クスの子会社である セミコンパッケージ・ソリューションズの各工場に製品・パッケー ジ別に分けて搬送され, 組立・検査が行われるほか, シンガポールやインドネシア, 中国の海 外工場に移送され, 後工程の処理が行われている。 近年ではこの後工程の海外シフトが拡大し ている。 これら以外にも国内では熊本県内に立地する九州日誠電気, 原精機産業においても組 立・検査が行われてきた。 メッキについては熊本県内のオジックテクノロジーズ (旧社名 緒 方工業), 九州ノゲデンのほか, 鹿児島県大口市の大口電子など熊本県外の企業にも委託され てきた。 以下では, 九州日誠電気, 原精機産業, オジックテクノロジーズの 社を取り上げ, その変容を見ることにしよう。 ) 九州のホームページ ( ! " # # $ % , 年 月 日)。 ― ― 伊 東 維 年 九州日誠電気 九州日誠電気は, 神奈川県川崎市に本社を置く内藤電誠工業により, 年 月, 熊本県 上益城郡山都町 (旧矢部町) に設立された 組立・検査専業企業である。 親企業の内藤電誠 工業は 年 月に設立された半導体メーカーである。 当社は通信機器関連部品の組立企業 としてスタートし, 年に川崎市においてトランジスタ, ダイオード, 整流器を生産する溝 ノ口工場を稼働し の協力会社として半導体デバイス事業にかかわるようになり, これら ダイオード, トランジスタ組立の量産化のため 年には新潟県佐渡市に真野工場を, 年に は同じく佐渡市に の組立基地として羽茂工場を新設し, その後半導体の後工程の設備を 増強しつつ設計, 信頼性評価, 解析にも取り組み, 現在では エレクトロニクスグループ の や , などの後工程を中心にして半導体の設計から組立, 評価, 解析まで の事業を行っている。 また, 九州日誠電気のほか, コンピュータ周辺機器の製造・検査, ソフ トウェア開発, 機器・電子部品の販売などを行う子会社 社を抱え, グループを形成して いる )。 この内藤電誠工業グループの一員である九州日誠電気は, 九州が生産拡大基調のなか で 年 月に第 拡散ラインを新設・稼働させるのに呼応させる形で設立されたものであ り, 同年 月から工場建設に着工し, 月から操業を開始している。 山都町に進出したのは, 完成ウェハの供給を受ける 九州に比較的近く, 労働力の確保が容易で, 町が当社の進出 に協力的であったためである。 九州からは完成ウェハの供給のみならず, 従業員の教育 実習, 機械設備の貸与, 技術の供与などを受けつつその指導管理のもとに事業を進めてきた )。 パソコンブームなどを背景にした 年からの半導体の需要・生産の拡大のなかで, 年には 第 工場を稼働させ, 同年度には売上高 億円規模に達した。 既述のように, は 年 月に 「協力会社の自立化」 の方針を打ち出すが, 当社は依 然として 九州で前工程処理されたウェハの後工程 (組立, 検査) のみを請け負っており, 九州以外からの受注を行っていない。 ところで, の半導体事業の再編に付随して, この九州日誠電気においては主として次 の三つの変化が生じている。 その一つは, 九州からのメモリ製品の後工程の受注が消失 したことである。 当社が創業した 年代, そして 年代においても 九州からマイコ ) 内藤電誠工業については, 会社案内 内藤電誠グループ #$% &' ! (! ) , 年 月 日) を参考にした。 ) 九州日誠電気からのヒアリング ( 年 月 日)。 ― ― およびホームページ ( ! " ! 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 ンのほか などメモリ製品の受注を得て, その組立・検査を継続して行ってきた )。 そ のメモリ製品の受注もエルピーダメモリが設立される 年代末には大幅に減少するが, 年代初頭までは少量ながらもメモリ生産に携わっていた )。 しかし, その後は, 九州が 生産を中止するなどメモリの比率を下げ, ロジック主体の量産工場へと変身したこと に伴い, メモリ製品の受注は全くなくなり, マイコン () の組立・検査業務に特化してい る。 二つは, 売上高の急減である。 第 工場が稼働した翌年の 年度に, 九州日誠電気は過 去最高の 億円の売上高を記録した。 その後, メモリ不況の影響で 年度, 年度には当 社の売上高は 億円台に落ち込んだものの, 再び 年度には 年度に迫る 億円に上昇 した。 しかし, この 年度を境に, 売上高は 年度 億円, 年度 億円, 年度 億円と急速に下降し, 年度にはピーク時の 分の の 億円にまで落ち込んでいる (図 )。 年度からの売上高の急減には, ① メモリ製品の受注が減少し, そして消失してし まったこと, ② 「 バブル」 の崩壊後, 九州の売上高が低下傾向を辿っていること, ③ エレクトロニクスが組立工程に関して海外へシフトする方針を打ち出したことが影響を 図 九州日誠電気の売上高と従業員数の推移 ) 日刊工業新聞西部支社編 シリコンアイランド 導体産業計画総覧 年度版 , ページ。 ) 九州日誠電気からのヒアリング。 日刊工業新聞社, 年, ページおよび ― ― 半 伊 東 維 年 及ぼしているのである。 近年においては 九州における売上高の低減, とりわけ後工程の 海外シフトの拡大が決定的な要因となっている。 三つは, 従業員の削減である。 九州日誠電気の売上高が急降下を始めるのは 年である が, 同年 月には 人の従業員を当社は抱えていた。 年, 年と従業員の新規採用を 中止したものの, 歳代半ばという従業員の平均年齢と地域における安定した雇用機会の少 なさから 「従業員の定着率が良く」 ), 売上高の急減にもかかわらず, 年 月時点でも 人の従業員を雇用していた。 だが, 年に至り 月に希望退職者の募集を行うなど雇用 調整を続け, 年 月には 人にまで削減し, その後は 年 月現在 名と従業員 数は若干の減少に留まっている (前掲図 )。 このように九州日誠電気のケースにあっては, 半導体メーカーの再編のなかでメモリ製品の 受注消失, 売上高の急減, 従業員の削減といった事態を招き, 厳しい経営状況に陥っている。 当社の機械設備は古く, 償却期限がすでに終了しており, 機械設備にかかわるコストが安い。 当社では, このようなコスト面での優位性をもとに, 機械設備の改善・効率化を図り, 歩留ま り率の向上, 短納期化 (納期厳守) を進め, 「良い製品を安く早く」 提供することを通して, 顧 客ニーズに %こたえるカスタマー・サティスファクション () をトップ方針に掲げ, 生 き残りに努めている )。 原精機産業 熊本県水俣市に本社を置く原精機産業は, 九州が一貫生産体制を確立した 年 月 から 年を経た 年 月に同社の協力企業として設立された 組立・検査企業であり, 履 物商から半導体分野に参入した企業として名を成してきた。 原精機産業の前身は水俣で三代続 いた原履物店であった。 当店は, 年に蛍光表示管の生産を開始した 鹿児島 (鹿児島県 出水市) に室内靴を納品したことを契機に, その後電子管の部品となる副資材の調達を引き受 け, 年には原電子工業を設立し水俣市内に工場を設け, 蛍光表示管の組立に着手するよう になった。 さらに, 九州の後工程の引き受けを積極的に働きかけ, これが功を奏して, 原精機産業を設立し, 半導体分野に参入するに至った。 原精機産業は, 年 月に操業を開 始し, 増産のための設備増強や工場の増築, 原電子工業第 工場 (水俣市, 年 月完成) の ) 九州日誠電気からのヒアリング。 当社の 年 月時点での従業員の平均年齢は 歳であった。 また, ヒアリングを行った 年 月時点では従業員の 割以上が旧矢部町出身者であるとのことで あった。 ) 九州日誠電気からのヒアリングほか。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 当社への移管 (年 月), 芦北工場の新設 (熊本県葦北郡芦北町, 年 月操業開始) など を通して生産体制の整備・拡張に努めてきた。 テレビ用・電卓用リニア の組立からスター トしたものの, 年から , 年から , 年からは を 手懸けるなど, をはじめメモリ製品を主体とした 型 の組立・検査を業務と してきた )。 この原精機産業においても九州日誠電気と同様に, の半導体事業の再編過程のなかで 売上高の落ち込み, 従業員の削減といった事態を招いている。 年代前半に 億円前後 で推移していた原精機産業の売上高は, パソコンブームにより などメモリ需要が拡大 した 年度には 億円へ増大し, なおも増加を続け 年度には 億円という最高額に達 した。 その後は 年度まで 億円台を維持していたが, 年度には前年度のおよそ半 分の 億円に減少, 続く 年度には 億円を遥かに下回る 億円へ, 以後も売上減に 歯止めがかからず 年度には 億円へと落ち込み, 先の九州日誠電気を上回る凋落振りを 示すに至った (図 )。 このような受注・売上高の落ち込みを前にして当社は芦北工場を手放 すことを決め, 年 月, ウェハテスティング事業を行うテラプローブ (本社 神奈川県相 模原市) に同工場および用地を売却した )。 原精機産業にあっては, などメモリ製品 の後工程を事業の柱としてきただけに, による脱 化, 後工程の再編の影響がよ り深刻な形で現れたと言ってよい。 従業員数も売上高の推移と連動して激減している。 人余りで操業を開始した原精機産業 の従業員数は受注・生産の拡大に伴い, 原電子工業からの従業員の移籍や新規採用者の増加に より操業開始 年後の 年には 人近くに増加し, その後も増加傾向を辿り, ピーク時 にはおよそ 人に達した。 年代は機械化が進んだこともあって, その後半から 年ま では 人程度で推移していた。 ところが, 前述のように 年度から売上高が急速に下降 するに及んで, 従業員の大幅削減に踏み切らざるを得なくなり, 外部応援要員の削減やパート の解雇に留まらず, 数度にわたる早期退職者の募集, 新規採用の中止を行い ), 年々従業員 数を減らし, 年には 人と 年間で 人の削減, 分の 以下の人数となっている ) 原精機産業については, 原精機産業株式会社十五年史 年, 会社案内 原精機産業株式会社 , ヒアリング (年 月 日, 年 月 日) およびホームページ ( ! , 年 月 日) などを参考にした。 年 月のヒアリングによると, 当時, を中 心にメモリ製品が生産の 割近くを占めていたという。 ) 「半導体テストのテラプローブ 芦北町に進出, 操業へ」 熊本日日新聞 年 月 日および 「九州事業所に新工場棟 半導体テストのテラプローブ 総投資額 億円 芦北町」 熊本日日新聞 年 月 日。 ) 「系の原精機 他社の "受託」 日本経済新聞 (九州経済) 年 月 日, 「水俣・原 ― ― 伊 東 維 年 図 原精機産業の売上高と従業員数の推移 (前掲図 )。 水俣市において原精機産業は地場最大手の企業としての地位を長年にわたり保 持してきただけに, 当社の売上業績の落ち込み, 従業員の大幅な削減が地元経済界に及ぼした 心理的影響は計り知れないものであった。 もっとも, 原精機産業の場合, 売上高の落ち込み, それに伴う従業員の削減に留まらず, 次 のような新たな事業展開を図り, 能動的な対応を見せている。 その第 は, 広範囲の半導体メー カーから受注を得て組立・検査を行う受託企業, いわゆる ( ) への転身である。 原精機産業は創業以来一貫して 九州に %依存して の 組立・検査を続けてきた。 筆者が当社を訪れた 年 月末においても 「と心中する」 考えに変わりはなかった。 ところが, 既述のように 年 月に が後工程の協力会社 の自立化を促進する方針を打ち出し, 九州の社長自ら当社へ出向きその旨を通告したの を受け, 折しも半導体不況による操業率の大幅な低下のなか, 以外からも受注を得る への転身を決断した )。 社内に 「新事業推進グループ」 を設けて各半導体メーカーへ売 り込みを始め, 同年 月にはエルピーダメモリから受注を獲得し, 生産を開始した )。 その 精機, 来月末に 人削減へ 受注・生産減が要因」 朝日新聞 (西部) 年 月 日, 「業挑む () 自立通告 社員の意識改革し 依存 脱却へ一歩」 熊本日日新聞 年 月 日, 参照。 ) 「業挑む( ) 自立通告 不況の嵐直撃 親子関係 に変化」 熊本日日新聞 年 月 日お よび同前 「業挑む () 自立通告 社員の意識改革し 依存 脱却へ一歩」 参照。 ) 前掲 「系の原精機 他社の !受託」。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 後は, ソニー・コンピュータエンタテインメント, ソニーセミコンダクタ九州, 沖電気, 京セ ラなどからも組立や検査を受託するようになった。 しかしその一方で 年 月をもって との取引を終了するに至っている )。 当社では, メモリ, ロジック, の製品分野に わたり, 技術サンプルから試作品, 量産品までを取り扱い, 受注先のさらなる拡大を目指して いる。 第 は関連事業分野の拡充である。 原精機産業は, の後工程事業の への転身を契 機に, 関連事業分野の拡充に努めている。 その一つは, 半導体の後工程で使用するマニュアル 治工具の製作や自動外観検査装置, テストハンドラ ) 等の機器の設計・製作・改造で ある。 二つは, ディスプレイモニタービデオ回路や偏向・高圧回路等の基板回路の設計・ 製作である。 三つは, マイコン用ファームウェア, 携帯電話・携帯端末用ソフト, 業務用アプ リケーションソフトといったソフトウェアの開発である。 当社では, これらの分野について技 術力, 生産基盤および受注力の強化に努めており, そのため産学官の共同研究・共同開発に取 り組む一方, 次項で述べるオジックテクノロジーズなどとともに生産連携組織 (ガ マダス) を立ち上げ, 共同受注・共同生産にも取り組んでいる。 さらに今後の課題として, 半 導体上流の デザイン分野にも参入する意向を有している )。 第 は産学官の共同研究・共同開発への取り組みである。 原精機産業では, 従来から 九州や系列の後工程子会社の指導を受けつつ, プロセス技術の修得・向上を図ってきた。 また, 各工程の設備についても改善に努め, 年度には熊本県工業技術センター電子部と共同で 外観の精密測定のための自動検査装置の開発を行ったりもしている )。 への依存から 脱却し, 事業分野の拡充を進めるようになって以降は, 経済産業省の提案公募型研究開発事業 等の採択を得て県工業技術センターのみならず, 大学や企業との共同研究・共同開発に意欲的 に取り組むようになっている。 ちなみに 年度には, ① 経済産業省の地域新生コンソーシ 半導体産業計画総覧 年度版 , ページ。 とは, ! " の略。 ! # $対応のメモリである ! # $ % を搭載したメモリ・モジュールのこと。 用語辞典 & ! ('$ $ () * * +! , (*+* , '$ , 年 月 日) など参照。 テストハンドラとは, 半導体後工程での最終検査工程で使用され, 半導体検査テスタと接続しその 結果信号に従って検査された半導体を自動分類する搬送装置のことである。 ./ のホームページ ('$ $ () * *+++, (! , (*(!# $ *0*, 年 月 日) 参照。 ) 社団法人日本半導体ベンチャー協会 (1% 2%) のホームページ ('$ $ () * *+++, 3,! 4*4! $ 4 *4! $ 45'! 6 , '$ , 年 月 日) 参照。 ) 重森清史 (熊本県工業技術センター電子部), 志水克規 (原精機産業) 「 自動検査装置の開発」 熊 本県工業技術センターホームページ ('$ $ () * *+++, 6$ ! , 4, (*66 *"' ' ** * , '$ 7年 月 日) 参照。 ) ) ― ― 伊 東 維 年 アム研究開発事業の採択を受け, 熊本大学や産業技術総合研究所, ネクサスなどと共同体を構 成して 「電子部材高度加工技術の確立」 をテーマに共同研究を行っているのをはじめ, ② (財) くまもとテクノ産業財団付属電子応用機械技術研究所のネットワーク型地域 基盤強化事 業として同研究所, 九州大学, 九州工業大学, 熊本大学とともに 「薄型 積層実装技術の 開発と実用化アセンブリラインの構築」 に, さらに ③ 県工業技術センター, 熊本防錆工業と 「外観検査自動化普及のための評価システム開発」 に取り組んでいる。 今後, 原精機産業は, 産学官の共同研究・共同開発を通して技術の高度化, 新技術の開発を図り, 自社の 「半導体製 造技術+設備開発技術+ 機器開発技術+ ソフトウェア技術」 を活かした新製品の開発を 進めていくことにしている )。 オジックテクノロジーズ (旧社名 緒方工業) 原精機産業に先立って 九州への依存体質からの脱却を進めたのがオジックテクノロジー ズである。 年に熊本市にて開設された緒方メッキ工業所が当社の前身である。 中古自転 車のメッキから出発し, 日本電信電話公社熊本工作工場や井関農機熊本工場の指定工場として 機械メッキ加工業務を引き受けるなど事業規模を拡大し, 年に株式会社へ組織変更を行い, 社名を緒方工業へと改称した。 創業以来培ってきたメッキ加工技術が評価され, 年に 九州の協力会社の指定を受け, 翌 年の 九州の操業開始とともに のリードフレーム のメッキ処理に携わるようになり, 半導体業界への参入を果たした。 九州の生産拡大に 伴い, 年にはリードフレーム用の大型自動化ラインを導入, 年には 専用工場を新設 した。 この 年の売上高は 年前の 倍に達するなど (図 ), 半導体業界への参入は企業 業績の躍進をもたらし, 同時に技術力の飛躍にもつながった。 すなわち 「次々と更新されてい く新製品に対して, 常に最適な表面処理加工をスピーディーに提案しなければならない中で, 新しい表面処理技術を確立してきた」 )。 しかしその一方で, リードフレームのメッキ処理 が売上高の %から %を占めるという 九州への依存体質をも併せ持つこととなっ た )。 ) 原利彦 「 を目指して, 物作りの復権」 山水会 (熊本大学工業会) 東京支部のホームペー ジ ( ! ! " # ! " #$ "% , 年 月 日) 参照。 ) 九州半導体クラスター中小・ベンチャーディレクトリー編集グループ編 &'( # )*(! + )% ),- シリコンアイランド九州の革新者たち 九州半導体イノベーション協議会, 年, ページ。 ) オジックテクノロジーズについては, 会社パンフレット ..'( /0 1緒方工業株式 会社 , (財)九州産業技術センター・日刊工業新聞ベンチャー報道班編 シリーズ研究開発型企業 九 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 図 オジックテクノロジーズの売上高の推移 (年を とした場合の推移) 年代末になり, 当社では 年から 年間の ロードマップを見て, パッケージが従 来のリードタイプとは異なった ( ) や ( ) のタイ プへ推移し, リードフレームのメッキ処理が先細りになることを認識した。 そこで, 九 州への依存体質を改める方向を模索し, 新分野を開拓するため, 年から技術開発部門を創 設し, 社外の企業, 大学, 研究機関と連携して技術開発を進めることにした。 年に電気化 学工業の指定工場となったのを契機に同社の中央研究所と共同で行った機能性セラミックスの 研究を手始めに, 熊本大学, 九州大学, 熊本県工業技術センター, 産業技術総合研究所やさま ざまなメーカーとの共同研究を行ってきた。 また, 科学技術庁の 「地域結集型共同研究事業」 の採択を受け, 大学, 公設試験研究機関, 約 社の企業が参加し 年度から 年間に 州の優良 社 日刊工業新聞社, 年, ∼ページ, (財)九州産業技術センター・日刊工業新 聞社編 シリーズ研究開発型企業 九州・山口の優良 社 日刊工業新聞社, 年, ∼ ペー ジ, 九州半導体クラスター中小・ベンチャーディレクトリー編集グループ編, 前掲書, ∼ページ, 神鋼リサーチ 半導体・!"関連産業における中小企業の現状と課題∼デジタル家電市場拡大の中で % % ∼ (中小公庫レポート #$% ) 中小企業金融公庫総合研究所, 年, ∼ページ, 「セミコ ンテクノパークに新工場建設 (株)オジックテクノロジーズ金森秀一社長に聞く」 くまもと経済 第 号, 年 月, ∼ページおよび同社のホームページ (& & ' ( ()))$ # $ * $ + (, 年 月 日) などを参考にした。 ― ― 伊 東 維 年 わたり実施された熊本県の 「次世代半導体プロセス技術の確立」 の研究においては, 凸版印刷 などと 「次世代実装対応めっき技術研究開発」 に携わるなど, 国の各種研究開発助成事業にも 積極的に参画しつつ, 技術開発を継続してきている。 このような技術研究開発をもとに, 年からフッ素樹脂コーティングを開始し, 年に は高電流のモジュール基板や絶縁放熱板などに使用されるセラミックスへの無電解ニッケルメッ キ処理法であるパード処理 (処理) を開発するとともに, アルミニウムやステンレスの 電解研磨処理において硫酸を使用しないリン酸ベースの研磨液を用いたオジープ処理 ( 処理) の開発に業界で初めて成功した。 このオジープ処理は, 半導体製造装置部品の電解 表面研磨などに用いられ, 真空装置の真空時に発生する放出ガスを極端に抑えるだけでなく, 装置を腐食し装置の寿命低下などの問題を生じさせる硫酸分を放出ガスに含まず, 優れた耐食 性や鏡面光沢を実現する効果がある。 また, ミクロン単位での研磨を可能にする。 このため, アルバック九州の製作する真空蒸着装置内の真空チャンバーの表面処理に応用されているほか, 東京エレクトロン九州の製作するコータ/デベロッパの機能部品にも使用されている。 その低 アウトガス性, 高耐食性などの機能特性が評価され, 年に当社は熊本県工業大賞を受賞し た。 かくして, リードフレームのメッキ技術をベースにオリジナルな表面処理技術を開発しつ つ, メモリ不況およびその後の半導体メーカーの再編過程のなかで半導体以外の新分野の開拓, 事業の多角化を進め, 年度には 九州からの リードフレームのメッキ処理は売上高 の %に低下, セラミックス基板への高機能メッキ, 半導体・製造装置部品の表面処理 などその他が %を占めるほどになった )。 さらに 年には独自技術としてニポリン処理 ( 処理) とオーデント処理 ( 処理) を開発し, 当社の事業メニューに加えた。 ニポリン処理は, 無電解メッキによる 析出金属のマトリックスのなかに第 層としてポリテトラフルオロエチレン () 微粒子 を含む複合被膜を作る複合メッキ処理のことで, 複合材粒子としてフッ素樹脂の一種である を含有させることにより, 摩擦係数が低減し摺動性の優れた表面を形成することができ る。 無電解メッキが可能なものにはすべて適用可能なことから, 摩擦が多い各種のギア, 自動 車・精密機械関連の摺動部品などに採用されている。 もう一方のオーデント処理は, 自社開発 の特殊化学エッチングとメッキ処理を施すことでアルミニウム部材の表面にランダムな凹凸被 膜 (面粗度 ∼) を形成させ, ガラス剥離帯電現象を軽減させる帯電防止処理であり, ) 前掲オジックテクノロジーズのホームページ, 半導体産業新聞編集 熊本セミコン・ルネッサンス 産業タイムズ社, 年, ∼ページ。 半導体ベンチャー企業総覧 産業タイムズ社, 年, ページ, 「県工業大賞に緒方工業」 熊本日日新聞 年 月 日など参照。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 液晶用ガラス基板の搭載台などに利用されている。 これらのほかにも, 産業技術総合研究所や 熊本県工業技術センターとの共同で, 回転膜分離方式を使った新しい排水リサイクルシステム を 年かかって開発しており), このメッキ排水リサイクル分野ではさらに 年に中小企 業新事業活動促進法に基づく異分野連携新事業分野開拓計画の認定を受け, 機械組立メーカー のミヤムラなど つの企業および熊本県工業技術センターと連携体を構築して, 従来埋め立て 処理しているメッキ排水スラッジを有償資源として活用する 「亜鉛スラッジリサイクル装置の 製造及び販売」 研究に取り組んでいる )。 先述のように, 当社は技術研究開発のみならず, 企業間の生産連携にも力を注いでいる。 バブル崩壊後の 年 月には, 先の原精機産業やミヤムラなどとともに生産連携組織 を結成し, 以来, 当社の社長が会長としてグループをリードしている。 は, 各企業の固有技術 (コア・コンピタンス) を集合・連携することにより, 世界を視野に入 れた企業連携体を確立することを目的に掲げ, 「強固な生産基盤の確立」, 「受注力の強化」, 「共同開発の推進」, 「グループ内取引」, 「会員企業を で結んだバーチャルファクトリー の確立」 の五つの機能を果たすことを目指している。 年 月現在, 板金, 機械加工, 制 御, ソフトウェア関連など 社が加入しており, 半導体製造装置の薬液タンクなどの受注を 得て, 複数の会員企業が協力して製品化に当たっている。 すでに, 会員企業だけで設計から完 成品まで一貫して手懸けた ブランドの製品も誕生している )。 年代に入って当社の売上高は 年度の 億円から低下傾向を辿り, 年度には 億円となっているが, 九州日誠電気や原精機産業ほどの落ち込みはみられない (図 )。 こ れは, 当社が 年代初頭以来 九州への依存体質からの転換を図るため技術研究開発 に注力し, 独自の表面処理技術を開発し, 新分野の開拓に努めてきていることによる。 ところ で, 九州は, トヨタ自動車九州, 日産自動車, ダイハツ車体といった自動車組立工場が進出し, それに伴い関連企業も増え続け, カーアイランドの様相を呈している。 また, 自動車工場にお ける新ラインの整備による増産, 新車種の投入に伴い, 部品需要も伸長している。 さらに, 自 ) 「県内企業トップ 本日日新聞 ) 戦略を問う 独自の技術開発こそ力 緒方工業 (メッキ加工) 金森秀一社長」 熊 年 月 日。 「緒方工業など県内 件認定 異分野開拓 で九州経済産業局」 熊本日日新聞 年 月 日 など参照。 ) のホームページ ( , 年 月 日), 北九州中小企業自 立化研究実行委員会 より ― プ 北九州市中小製造業の自立化に向けたネットワーク戦略 ― 全国 + のケース 北九州市立大学北九州産業社会研究所, 年, ∼ ページおよび前掲 「県内企業トッ 戦略を問う 独自の技術開発こそ力 緒方工業 (メッキ加工) 金森秀一社長」 など参照。 ― ― 伊 東 維 年 図 オジックテクノロジーズの売上高の推移 (年度∼年度) 動車の電子化の進展によって自動車の半導体搭載数も著増し, 九州の半導体工場では車載用マ イコン, パワー半導体など自動車関連の半導体の生産量が増加している。 このため当社にあっ てもパワー半導体モジュールのセラミックス基板への表面処理が増え, 同時に自動車部品のメッ キ処理も増加してきており, セラミックス基板の表面処理だけで今や売上高の %を占める までに至っている。 同様にオジーブ処理の開発などにより半導体・製造装置関連の表面 処理も増加傾向を辿り, その売上高構成比は同じく %に達している。 これに対して, かつ て事業の主軸であった リードフレームのメッキ処理は減少を続け, その売上高は全体の %ほどに低下している )。 当社では, 年 月, 創業 周年を機会に, 「表面処理にとど まらず, 無限の可能性を持った多様な先端技術を世界に提供できる企業へ進化していくという 意味を込め」 ), 社名を緒方工業からオジックテクノロジーズと変更し, 同年 月に熊本県合 志市のセミコンテクノパーク内に新工場を建設した。 新工場では半導体製造装置部品, デジタ ル家電向け部品, 自動車関連部品の表面処理を行っている。 同工場内にはまた顧客と共同で表 ) 前掲 「セミコンテクノパークに新工場建設 (株)オジックテクノロジーズ金森秀一社長に聞く」, ページ。 ) 前掲オジックテクノロジーズのホームページ。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 面処理の研究開発を行う研究所をも設けた )。 今後は, 表面処理の多様化・高度化を追求す るだけでなく, 産学間や企業間の連携ネットワークをもとに技術力・営業力・生産対応力の向 上を図り, 新素材, 医療, バイオなどの分野にも進出し, 成長性のある事業構造を構築しよう としている )。 結びに代えて 最後に, これまで論じてきたことを纏め, 今後の展望について若干触れておこう。 () 垂直統合型企業 ( ) の形態をとる日本の半導体メーカーは, アメリカの半導体メー カーの再生・発展や韓国・台湾などのアジアの半導体メーカーの台頭の狭間のなかで, 世界の 半導体市場獲得競争においてその地位を低下させてきた。 併せて, メモリ不況と 不況とい う深刻な半導体不況の打撃を蒙り, その窮地を打開するために, かつてない事業再編を余儀な くされた。 () その再編は, メモリ不況下では ① 脱 化とシステム への製品戦略の転換, ② 大手半導体メーカー間の提携, ③ 欧米工場の生産停止・閉鎖という形で, さらに 不況へ の突入後には ① 汎用 のエルーピーダメモリへの統合, ② メーカー間の事業統合, 分 社化, 得意分野への選択と集中, ③ 生産拠点の再編などの形で進められた。 () (エレクトロニクス) を例にその生産拠点の再編過程を辿ると, 年 月 の 「年度中期経営戦略」 の公表以来 年前半までの間に 段階にわたって次のような 施策が実施されてきた。 すなわち, 国内の前工程工場の拡散ラインの削減および前工程工場の 譲渡, 海外工場の稼動休止・閉鎖・生産集約, 後工程子会社の統合・閉鎖・売却, 後工程の海 外シフトの拡大・協力企業の自立化, 自動車向け半導体生産体制の強化, コスト競争力を重視 した生産体制への見直し, 従業員の削減・配置転換などが行われてきた。 () では, 年 月の 「半導体事業の構造改革追加施策について」 によって後工程 を分担する 「協力会社の自立化」 の方針を打出し, これによって従来の系列関係は解体される に至った。 加えて 年 月公表の 「半導体後工程の再編について」 により成熟パッケージ ) 「オジックテクノロジーズ 合志市に新工場 めっき加工業務拡大, 月稼動へ」 熊本日日新聞 年 月 日および 「自動車部品を加工 合志事業所が完成 オジックテクノロジーズ」 熊本日 日新聞 年 月 日, 参照。 ) 前掲神鋼リサーチ 半導体・関連産業における中小企業の現状と課題∼デジタル家電市場拡大 の中で∼ , ページおよび前掲 「セミコンテクノパークに新工場建設 (株)オジックテクノロジー ズ金森秀一社長に聞く」 参照。 ― ― 伊 東 維 年 製品の後工程の海外シフトを, 年 月公表の 「自動車およびデジタル民生分野のリーディ ング企業を目指した経営方針」 では組立工程の海外拠点の増強および海外シフトの加速を行う ことにした。 これらに伴い, かつての協力企業は厳しい経営環境のもとで変容を遂げることと なった。 () このような系列解体と後工程の海外シフトの拡大のなかで, 九州の協力企業とし て後工程を分担してきた 社の事例をみると, 売上高の低下や従業員の削減といった影響が現 れている。 また, 九州日誠電気のように従来通り 九州で前工程処理されたウェハの後工 程 (組立・検査) のみを継続して行っているところもあれば, 原精機産業のごとく 九州 との取引を終了し, へ転身を図ったところもみられる。 さらに, 原精機産業やオジック テクノロジーズにあっては, 公設試験研究機関や大学, 企業間との共同研究・共同開発・生産 連携に努め, 事業分野の拡充・多角化を進め, 生き残りに尽力している。 このように企業の対 応にも差が見出される。 系列解体の動きは何も に限ったことではなく, 他の大手半導体メーカーと後工程の協 力企業との間においても生じている。 九州の事例をあげると, 大分市に本社・工場を置くエス ティーケイテクノロジーはかつては東芝大分工場から完成ウェハの供給を受けて組立・検査を 行っていたが, 現在では東芝のみならず, ソニーセミコンダクタ九州の後工程の受託をも行っ ている。 日本 日出工場の 後工程を分担するため, 日出町や地元銀行グループが出資し て大分県速見郡日出町に設立した日出ハイテックも, 現在, 日本 だけでなく, 沖電気工業 や横河電機とも取引を行っている。 さらに, 後工程の受託サービスは, 大手半導体メーカーの 直系子会社でさえ行うようになってきている。 ルネサステクノロジの %出資子会社であり, ルネサステクノロジ熊本事業所の製作するマイコン, システム などの後工程を分担する ルネサス九州セミコンダクタ (旧三菱電機熊本セミコンダクタ, 熊本県菊池郡大津町) は, す でにルネサステクノロジ設立以前の三菱電気熊本セミコンダクタの時代 (年) から後工程 の受託ビジネスを開始している。 このように前工程と後工程の系列解体の動きは広がりをみせ ている (表 ) )。 半導体の技術は絶えず変化しており, その多様化・高度化は留まるところを知らない。 それ は, 前工程のみならず, 後工程でも同様である。 例えば, 「パッケージの進歩は, 半導体デバ ) 半導体関連産業の起業化・事業化創出に関する調査報告書∼九州半導体クラスターの新事業創造に 向けて∼ 九州地域産業活性化センター, 年, ∼ページ, ∼ページ, ページおよび 九州シリコン・クラスター新発展戦略 経済産業省九州経済産業局, 年, ∼ページ, ∼ページ参照。 ― ― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 表 九州における後工程企業の系列取引の解体 企 業 名 所在地 旧 系 列 近年の取引先 エルピーダメモリ, ソニーセミコンダクタ九州, 沖電気工業 原精機産業 熊本県水俣市 日本電気 (.#) ルネサス九州セミコンダクタ 熊本県大津町 三菱電機 ルネサステクノロジ, 他社 /#0 が約 !% (現ルネサステクノロジ) エスティーケイテクノロジー 大分県大分市 東芝 東芝, ソニーセミコンダクタ九州 日出ハイテック 大分県日出町 日本 $ 日本 $ , 沖電気工業, 横河電機 吉川セミコンダクタ 宮崎県新富町 沖電気工業 沖電気工業, エルピーダメモリ, .#エレクトロニクス, ルネサステクノロジ, 日本 $ , 旭化成マイクロシステム (出所) 九州シリコン・クラスター新発展戦略 部修正して掲載した。 経済産業省九州経済産業局, %!! &年, ' ページの図表Ⅱ を一 イス技術と電子機器の進歩に貢献してきた。 単に入れ物であった時代から, パッケージの性能 が半導体デバイスの性能を左右するようになった」 ) とさえ言われるようになっている。 パッ ケージ技術は小型・高密度実装に向かっており, 小型化を実現する ( ) や, 二つ以上のチップを平面的にあるいは立体的に搭載し, システムを実現する ( ), 階層的なボード搭載構造によってシステムを構築する 次元実装 タイプのパッケージ, 折り曲げ可能な超薄型のフィルム上に半導体チップを搭載し材料の軽薄 化とファインピッチ化に対応した ( ), 超多ピンのフリップチップ ( ) などそのパッケージング技術の進展には著しいものがる。 また, パッケー ジング技術には環境に配慮した鉛フリー化が求められている )。 前述ように後工程にあっても技術は多様化・高度化しており, それに伴い設備投資額も高額 なものとなっている。 このような中にあって, 後工程企業にも技術・設備の高度化が必須のも のとなっており, 同時にアプリケーション機器のモデルチェンジが速まるに従い, 納期短縮と いったスピード化が求められている。 今後, 技術の高度化のみならず, 得意分野への特化ある いは事業分野の拡充など戦略的な対応を図らない限り, 大手半導体メーカーの後工程工場の統 廃合・売却と同じように, 自立化を進める後工程受託企業にあっても淘汰されることになりか ねない。 ) ガイドブック (第 !版) 電子情報技術産業協会 ("# $), %!!&年, %'ページ。 ) パッケージング技術については, 同前, %'∼ ページおよび ( )* 編集部・ +,- 調査部共同編集 特別調査レポート 最新半導体パッケージング・テスティング動向 プレスジャーナル, %!!年, ∼'ページなどを参考にした。 ― ― 伊 東 維 年 ! " " " #$%$ ! #$% & " ' " ( ) ! #$% $ " ( " " " ) " ! #$% & " ( " ― *+― 半導体メーカーの再編と後工程企業の変容 ――