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page301~500(6.5MB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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page301~500(6.5MB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
以 上 のように 2 種 類 のシール構 造 でシール性 が確 認 できたが、構 造 が単 純 なカーボン
フェルールを使 用 した構 造 にてモジュールの評 価 を行 うこととした。
2.1.2.2 モジュール用 支 持 体 検 査
チューブラー基 材 を用 いたモジュールについて検 討 を行 うためにはチューブラータイプ
支 持 体 を多 数 作 製 する必 要 がある。この支 持 体 からモジュールを作 製 するときに一 部 の
支 持 体 に欠 陥 孔 のような不 良 があると、水 素 分 離 膜 の欠 陥 のもとになりガス分 離 性 能 に非
常 に大 きな影 響 を及 ぼすことから、製 膜 後 のモジュールが最 終 的 に不 良 となってしまう。製
膜 前 の支 持 体 を検 査 することができれば不 良 支 持 体 に製 膜 することによる無 駄 を防 ぎ効
率 の向 上 を図 ることができる。そこでバブルポイント検 査 装 置 を導 入 し、製 膜 前 にモジュー
ル用 支 持 体 の検 査 を行 い開 発 効 率 の向 上 を図 った。
2.1.2.2.1 検 査 装 置 の概 要
本 装 置 はバブルポイント法 (ASTM F316-86)に基 づく多 孔 質 基 材 (支 持 体 ・中 間 層 )の
貫 通 細 孔 径 測 定 装 置 である。連 続 且 つ非 破 壊 検 査 でバブルポイント細 孔 径 を測 定 し、基
材 に欠 陥 が無 いか検 査 するものである。支 持 体 をセットするサンプルチャンバーの外 観 を
図 Ⅲ-2.1.2.2-1 に、測 定 ・解 析 をする部 分 を図 Ⅲ-2.1.2.2-2 に示 す。
2.1.2.2.3 検 査 方 法 と結 果
バンドルに組 み立 てる前 の支 持 体 単 管 を水 に浸 漬 させ支 持 体 細 孔 内 に水 を含 ませた
後 、サンプルチャンバーにセットし、バブルポイント細 孔 径 を測 定 した。指 定 の範 囲 内 にバ
ブルポイントが検 出 されれば合 格 となるように装 置 の設 定 をほどこしてある。良 好 な細 孔 径
分 布 を も つ 支 持 体 を 測 定 ・ 合 格 し た と き の 画 面 が 図 Ⅲ -2.1.2.2-3 で あ る 。 「 合 格 し ま し
た。」のメッセージがでることで良 好 な支 持 体 であることが確 認 できる。もし細 孔 径 分 布 が指
定 の範 囲 内 に収 まらない場 合 には、図 のような「合 格 しました。」のメッセージが出 ず、不 良
であると判 断 できる。測 定 時 間 は 1 サンプルで 1 分 程 度 であり迅 速 な検 査 を行 うことができ
る。
図 Ⅲ-2.1.2.2-1 バブルポイント検 査 装 置 サンプルチャンバー
3-289
図 Ⅲ-2.1.2.2-2 バブルポイント検 査 装 置 本 体 ・データ制 御 ・解 析 部 分
図 Ⅲ-2.1.2.2-3 バブルポイント検 査 結 果 合 格 時
2.1.2.3 モジュール用 支 持 体 微 細 欠 陥 低 減 検 討
2.1.2.3.1 背 景
水 素 分 離 膜 モジュール用 の多 孔 質 基 材 として押 出 成 形 により作 製 したチューブラー基
材 を開 発 してきた。これはチューブラー支 持 体 表 面 に中 間 層 ・シリカ膜 を製 膜 することによ
り水 素 分 離 膜 を作 製 するものである。これらを集 積 してモジュール化 するためには、安 定 し
て分 離 性 能 の高 い分 離 膜 を作 成 する必 要 がある。なぜならば、分 離 性 能 の低 い分 離 膜 を
一 部 にせよ用 いると、モジュール全 体 の分 離 性 能 が大 幅 に下 がってしまうからである。しか
し、数 多 くの分 離 膜 を作 製 する中 で、ときに分 離 特 性 が大 きく低 下 するものが見 られること
があった。この原 因 について調 査 したところ、チューブラー支 持 体 表 面 にある微 細 欠 陥 (図
Ⅲ-2.1.2.3-1)が分 離 特 性 の大 きな低 下 につながることがあるという知 見 を得 た。この微 細
3-290
欠 陥 の原 因 のひとつに押 出 成 形 の原 料 となる杯 土 の混 錬 が悪 く不 適 切 な状 態 になること
があげられる。すなわち坏 土 の混 錬 は、アルミナチューブラー支 持 体 の性 能 を決 める重 要
な要 素 である。多 孔 質 支 持 基 材 製 造 用 装 置 (ブラベンダー社 :ラボステーション)を導 入 し
杯 土 の製 造 時 に材 料 のレオロジー、トルクの測 定 を行 うことで、混 錬 の可 否 を管 理 できるよ
うになる。この製 造 時 の杯 土 管 理 により歩 留 まりの向 上 と開 発 効 率 の向 上 を図 ることができ
る。
図 Ⅲ-2.1.2.3-1 支 持 体 表 面 の微 細 欠 陥
2.1.2.3.2 装 置 仕 様
装 置 全 体 の外 観 を図 Ⅲ-2.1.2.3-2 に示 す。本 体 とミキサー(図 Ⅲ-2.1.2.3-3(a))、押 し
出 し機 (図 Ⅲ-2.1.2.3-3(b))からなる。仕 様 を表 Ⅲ-2.1.2.3-2 に示 す。
図 Ⅲ-2.1.2.3-2 多 孔 質 支 持 基 材 製 造 用 装 置 外 観
3-291
(c)ミキサー
(b)押 し出 し機
図 Ⅲ-2.1.2.3-3 多 孔 質 支 持 基 材 製 造 用 装 置 各 部
表 Ⅲ-2.1.2.3-1 多 孔 質 支 持 基 材 製 造 用 装 置 仕 様
装置名
ラボステーション
本体
回転数
2-150rpm
トルク測定範囲
0-400Nm
ミキサー
回転比
2:03
容積
80cc
加熱方式
オイル加熱
最高温度
260℃
最大トルク
200Nm
押し出し機
バレル径
φ19.1
最高温度
260℃
最大トルク
150Nm
測定ポイント
圧力,1点 温度1点
2.1.2.3.3 実 験
アルミナチューブラー支 持 体 の原 料 に使 用 している調 合 で杯 土 を作 製 ・ミキサー試 験 を
行 った。ミキサーを使 用 して混 錬 を行 った。
2.1.2.3.4 結 果
図 Ⅲ-2.1.2.3-4、図 Ⅲ-2.1.2.3-5 に本 試 験 での測 定 結 果 を示 す。分 散 性 の悪 い坏 土
(図 Ⅲ-2.1.2.3-4)では、溶 剤 投 入 時 に大 きなトルク変 化 があり最 大 トルク(図 の X)が 8[Nm]
以 上 と最 終 トルクに比 べ非 常 に大 きくなったが、分 散 性 の良 い杯 土 (図 Ⅲ-2.1.2.3-5)では
最 大 トルク(図 の X)が約 7[Nm]と最 終 トルクとの差 がほとんど無 かった。これは粉 が均 一 に
分 散 し、かつ速 やかに混 錬 しているからである。このように、多 孔 質 支 持 基 材 製 造 用 装 置
を用 いて坏 土 調 合 が適 切 であるかどうかがその場 で確 認 できた。混 錬 による温 度 変 化 は、
若 干 の坏 土 温 度 上 昇 が確 認 されるが、バインダーの変 質 などが考 えられる温 度 変 化 では
ないため、問 題 ない。このように杯 土 の製 造 時 に混 錬 の可 否 を管 理 して微 細 欠 陥 の原 因 と
なる不 適 切 な混 錬 を排 除 することができるようになった。
3-292
溶剤投入
図 Ⅲ-2.1.2.3-4 チューブラーアルミナ支 持 基 材 用 杯 土
(不 良 品 )の測 定 結 果
溶剤投入
図 Ⅲ-2.1.2.3-5 チューブラーアルミナ支 持 基 材 用 杯 土
(良 品 )の測 定 結 果
3-293
2.1.2.4 水 素 分 離 膜 作 製
モジュールへの水 素 分 離 膜 製 膜 を行 う前 に、単 管 にて各 種 製 膜 方 法 で作 製 した分 離
膜 について評 価 を行 い、本 プロジェクトの目 標 を達 成 するために最 終 的 なモジュールへ製
膜 する方 法 として最 適 な手 法 の条 件 の絞 込 みを行 なった。
2.1.2.4.1 ゾル-ゲル法 シリカ膜
2.1.2.4.1.1 方 法
製 膜 液 は TEOS(Tetraethyl Orthosilicate)を出 発 原 料 とし、エタノール、硝 酸 を加 え、
室 温 で 30 分 間 撹 拌 し、その後 353K で 2 時 間 加 熱 撹 拌 することでシリカゾルを得 た。シリ
カゾルの原 料 組 成 は TEOS:エタノール:水 :硝 酸 =1:5:6.8:0.12 mol%となるように調 製 した。
得 られたシリカゾルをエタノールで濃 度 0.1mol/l に希 釈 することにより製 膜 液 とした。γ-ア
ルミナ中 間 層 基 材 (1.3.2.3 参 照 )を製 膜 液 に 5 秒 間 ディップコートすることで製 膜 を行 い、
分 離 膜 スラリー調 製 用 恒 温 恒 湿 器 を用 いて 313K、相 対 湿 度 60%で 2 時 間 乾 燥 、873K
で 3 時 間 焼 成 することでシリカ膜 を得 た。今 回 作 製 したシリカ膜 は、焼 成 温 度 を 873K と高
く設 定 し、高 温 における安 定 性 の増 大 を図 った。なお、シリカゾル作 製 時 は温 度 および湿
度 をコントロールしたクリーンルーム内 にて作 業 を行 い、乾 燥 には分 離 膜 スラリー調 製 用 恒
温 恒 湿 器 を用 いており、湿 度 をコントロールすることで季 節 や天 候 等 の要 因 を取 り除 いて
試 験 を行 った。シリカ膜 の作 製 フローチャートを図 Ⅲ-2.1.2.4.1-1 に示 す。
作 製 したシリカ膜 を SIMS(ADEPT 1010、アルバック・ファイ株 式 会 社 )を用 いて測 定 し、
膜 の深 さ方 向 の組 成 分 析 を行 った。また、高 温 におけるガス透 過 特 性 を評 価 するために、
ガス透 過 率 を常 温 ~600℃、0.05~0.4MPa にて H 2 および N 2 雰 囲 気 下 で各 々測 定 を行 っ
た。
1
エタノール
2
TEOS
3
撹拌
4
硝 酸 、水
4
加熱撹拌
5
エタノール
7
ディップコーティング
8
乾燥
9
焼成
10
評価
図 Ⅲ-2.1.2.4.1-1 シリカ膜 作 製 方 法
3-294
2.1.2.4.1.2 実 験 結 果 及 び考 察
図 Ⅲ-2.1.2.4.1-2 に示 したように、ゾル-ゲル法 を用 いて作 製 したシリカ膜 について高 温
透 過 試 験 を行 った結 果 、873K において水 素 ガス透 過 性 能 は 7.5×10 - 7 mol・m - 2 ・s - 1 ・Pa - 1
と目 標 値 1×10 - 7 mol・m - 2 ・s - 1 ・Pa - 1 より高 く、分 離 性 能 は H 2 /N 2 で 100 以 上 という良 好 な
結 果 が得 られた。今 回 作 製 したシリカ膜 が、高 い水 素 ガス透 過 性 能 と高 い分 離 性 能 を示
したのは、γ-アルミナ中 間 層 をコートした基 材 の表 面 粗 さ R a が 80nm と非 常 に小 さく、細
孔 径 が 5nm 以 下 と均 質 であったためであると考 えられる。シリカゾルのディップコート時 間
を短 くすることでシリカを薄 膜 化 し、ガス透 過 性 能 の向 上 を行 ったにもかかわらず、シリカ膜
に欠 陥 が生 じなかったため、高 い水 素 ガス透 過 性 能 と高 い分 離 性 能 を併 せ持 つシリカ膜
を得 ることができた。このことから、基 材 の表 面 粗 さ R a が欠 陥 のないシリカ膜 作 製 には重 要
であると考 えられ、基 材 の表 面 粗 さを改 良 することで、分 離 性 能 をさらに向 上 させることが
出 来 ると考 えられる。図 Ⅲ-2.1.2.4.1-2 の結 果 は水 素 の透 過 性 が温 度 上 昇 と共 に増 加 す
る活 性 化 拡 散 を示 しており、分 子 ふるい機 構 であることがわかる。活 性 化 エネルギーを計
算 すると 8.3kJ・mol - 1 であった。SIMS を用 いて膜 の深 さ方 向 の組 成 分 析 を行 った結 果 を
図 Ⅲ-2.1.2.4.1-3 に示 す。Al が検 出 され始 めてからも Si が存 在 していることから、細 孔 内
にもシリカ膜 が形 成 されており、厚 さは 25nm 程 度 であると考 えられる。また、873K における
高 温 ガス透 過 試 験 を 5 時 間 行 ったところ、水 素 ガス透 過 性 能 は 7.5×10 - 7 mol・m - 2 ・s - 1 ・
Pa - 1 を維 持 しており、ガス透 過 性 能 は変 化 せず良 好 な安 定 性 を示 した。また、高 温 ガス透
過 試 験 前 後 で、473K におけるガス透 過 性 能 は変 化 していなかったため、高 温 で焼 成 した
シリカ膜 は安 定 であり、シリカ膜 のアモルファス構 造 は変 化 していないと考 えられる。シリカ
膜 は表 面 に Si-OH 基 を有 し、水 蒸 気 雰 囲 気 下 または高 温 下 で Si-O-Si 結 合 が増 加 し、
緻 密 化 することが知 られているが、今 回 作 製 したシリカ膜 は水 素 透 過 性 能 が減 少 せず、選
択 性 に も 変 化 が な か っ た 。 こ の こ と か ら Si-OH 基 同 士 が 近 傍 に 存 在 し な い と 新 た な
Si-O-Si 結 合 が出 来 ず緻 密 化 しないと考 えられ、高 温 で焼 成 を行 ったことで Si-OH 基 の
数 が少 なくなり、高 温 安 定 性 が良 くなっていると考 えられる。
120
H
N
H2/
10 -
100
80
60
10 - 7
40
10 - 8
Separation ratio [-]
Permeance [mol・m-2・s-1・Pa-1]
10 - 5
20
10 - 9
0.001
0.0015
0.002
0
0.0025
1/T (K -1 )
図 Ⅲ-2.1.2.4.1-2 ゾル-ゲル法 シリカ膜 のガス透 過 率
3-295
Al
Counts per second
? Al
× Si
Si
200nm
0.1
0
100
200
300
400
1
500
10
100
1000
Depth [nm]
Depth [nm]
図 Ⅲ-2.1.2.4.1-3 ゾル-ゲル法 シリカ膜 SIMS 測 定 結 果
2.1.2.4.2 金 属 添 加 ゾル-ゲル法 シリカ膜
2.1.2.4.2.1 方 法
TEOS(Tetraethyl Orthosilicate)を出 発 原 料 とし、金 属 硝 酸 塩 (Pd、Ni、Co)、エタノー
ル、硝 酸 を加 え、室 温 で 30 分 間 撹 拌 し、その後 353K で 2 時 間 加 熱 撹 拌 することでシリカ
ゾルを得 た。シリカゾルの原 料 組 成 は TEOS:エタノール:水 :硝 酸 :金 属 =1:5:6.8:0.12:0.05
mol%となるように調 製 した。得 られたシリカゾルをエタノールで濃 度 を調 製 し、製 膜 液 とした。
γ-アルミナ中 間 層 基 材 (1.3.2.3 参 照 )を製 膜 液 にディップコートすることで製 膜 を行 い、
分 離 膜 スラリー調 製 用 恒 温 恒 湿 器 を用 いて 313K、相 対 湿 度 60%で 2 時 間 乾 燥 、873K
で 3 時 間 焼 成 することで金 属 添 加 シリカ膜 を得 た。今 回 作 製 したシリカ膜 は、製 膜 液 濃 度
を薄 くすることで膜 厚 を薄 くし、ガス透 過 性 能 の向 上 を行 った。なお、シリカゾル作 製 時 は
温 度 および湿 度 をコントロールしたクリーンルーム内 にて作 業 を行 い、乾 燥 には分 離 膜 ス
ラリー調 製 用 恒 温 恒 湿 器 を用 いており、湿 度 をコントロールすることで季 節 や天 候 等 の要
因を取り除 いて試験 を行った。金 属 添加 シリカ膜の作 製フローチャートを図Ⅲ
-2.1.2.4.2-1 に示 す。
作 製 したシリカ膜 を TEM/EDS(東 レリサーチセンター)を用 いて分 析 し、膜 厚 を確 認 し
た。また、高 温 におけるガス透 過 特 性 を評 価 するために、ガス透 過 率 を 150~600℃、0.05
~0.4MPa にて H 2 および N 2 雰 囲 気 下 で各 々測 定 を行 った。
3-296
1
エタノール
2
TEOS
3
撹拌
4
硝 酸 、水 、金 属 硝 酸
4
加熱撹拌
5
エタノール
7
ディップコーティング
8
乾燥
9
焼成
10
評価
図 Ⅲ-2.1.2.4.2-1 金 属 添 加 シリカ膜 作 製 方 法
2.1.2.4.2.2 実 験 結 果 及 び考 察
作 製 した金 属 添 加 シリカ膜 を用 いて 423K における単 成 分 ガス透 過 試 験 を行 った結 果
を表 Ⅲ-2.1.2.4.2-1 に示 す。
表 Ⅲ-2.1.2.4.2-1 金 属 添 加 シリカ膜 単 成 分 ガス透 過 試 験 結 果 (423K)
金属種
ゾル濃 度
ディップ
H2 透 過 率
N2 透 過 率
/mol・l - 1
時 間 /s
/mol・m - 2 ・s - 1 ・Pa - 1
/mol・m - 2 ・s - 1 ・Pa - 1
-6
1.3×10
-8
分離係
数
(H 2 /N 2 )
Pd
0.08
5
1.1×10
Pd
0.04
20
9.5×10 - 7
9.5×10 - 9
-6
-8
60
100
Ni
0.08
5
1.4×10
Ni
0.04
20
1.0×10 - 6
1.6×10 - 8
60
20
-7
-9
31
Co
0.04
3.7×10
2.4×10
82
1.2×10
Ni および Pd 添 加 シリカ膜 は水 素 親 和 性 を示 す金 属 元 素 を導 入 することで、表 面 水 素
濃 度 が増 大 し、423K において水 素 透 過 率 が高 くなったと考 えられる。Co 添 加 シリカ膜 は
窒 素 透 過 率 が小 さくなったことから、最 も緻 密 化 していると考 えられる。活 性 化 エネルギー
が高 く高 温 では良 好 な性 能 を示 す可 能 性 もあるが、水 素 透 過 率 が小 さいことから、これ以
上 の検 討 は行 わなかった。
表 Ⅲ-2.1.2.4.2-1 中 の膜 で分 離 性 能 が最 も高 かった Pd 添 加 シリカ膜 について、高 温
におけるガス透 過 特 性 の評 価 を行 った結 果 を図 Ⅲ-2.1.2.4.2-2 に示 す。
3-297
200
水素透過率
窒素透過率
分離係数
150
10
-6
100
10 - 7
分離係数 α[-]
ガス透過率[mol・m -2 ・s-1 ・Pa-1 ]
10 - 5
50
10 - 8
0.001
0.0012
0.0014
0.0016
0.0018
0
0.002
1/T [K-1 ]
図 Ⅲ-2.1.2.4.2-2 Pd-シリカ膜 高 温 ガス透 過 特 性
水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーは 10kJ/mol であり、873K において水 素 ガス透 過 性 能 は
2.4×10 - 6 mol・m - 2 ・s - 1 ・Pa - 1 と高 い性 能 を示 した。また、分 離 性 能 は H 2 /N 2 で 140 以 上 と
いう良 好 な結 果 が得 られた。ここで 573K(図 の一 番 右 )において水 素 透 過 率 の値 が活 性
化エネルギーから計 算 した値とほぼ一 致 するにもかかわらず、分 離 性 能 が表Ⅲ
-2.1.2.4.2-1 の値 より低 くなっていることからカーボンシールからの漏 れによる影 響 であるこ
とが分 かる。カーボンシールの漏 れ量 は温 度 に関 わらずほぼ一 定 であり、より高 温 では水
素 透 過 率 の増 大 (活 性 化 拡 散 )および窒 素 透 過 率 の減 少 (クヌッセン拡 散 )がおこるため、
分 離 性 能 が 高 く な っ た 。 こ の Pd- シ リ カ 膜 を TEM/EDS 分 析 を 行 っ た 結 果 を 図 Ⅲ
-2.1.2.4.2-3 に示 す。
図 Ⅲ-2.1.2.4.2-3 より Pd-シリカ膜 厚 は 40nm 程 度 であると考 えられ、そのうちの 20nm
程 度 がγ-アルミナ細 孔 内 に形 成 されていると考 えられる。また、EDS では Pd は検 出 され
なかった。極 微 量 であったために、検 出 限 界 以 下 の量 であったと考 えられる。
3-298
35
30
Pd- シ リ カ
atomic % [%]
γ -ア ル ミ ナ
25
20
Si
Al
15
10
5
0
40nm
0
20
40
Depth [nm]
図 Ⅲ-2.1.2.4.2-3 Pd-シリカ膜 TEM 像 および EDS 線 分 析 結 果
2.1.2.4.3 CVD 法 を用 いた欠 陥 修 復 (ゾル-ゲル+CVD 法 )
ゾル-ゲル法 では水 素 透 過 率 は高 くすることが出 来 るが、目 標 値 である分 離 性 能 1000
以 上 を達 成 することは難 しいと考 えられた。そこで、ゾル-ゲル法 シリカ膜 を形 成 した後 に
存 在 する欠 陥 を CVD 法 を用 いて修 復 することで、分 離 性 能 を高 く出 来 るのではないかと
考 えて検 討 を行 った。対 向 拡 散 CVD 法 は TMOS と O 2 が出 合 った場 所 にのみシリカが形
成 されるため、欠 陥 のみを選 択 的 に修 復 することが出 来 る特 徴 がある。
2.1.2.4.3.1 方 法
CVD 法 で欠 陥 修 復 することを考 え、CVD 製 膜 装 置 に適 した製 膜 部 50mm のγ-アルミ
ナ中 間 層 基 材 (図 Ⅲ-2.1.2.4.3-1 参 照 )を用 いた。TEOS(Tetraethyl Orthosilicate)を出
発 原 料 とし、エタノール、硝 酸 を加 え、室 温 で 30 分 間 撹 拌 し、その後 353K で 2 時 間 加 熱
撹 拌 す る こ と で シ リ カ ゾ ル を 得 た 。 シ リ カ ゾ ル の 原 料 組 成 は TEOS: エ タ ノ ー ル : 水 : 硝 酸
=1:5:6.8:0.12 mol% と な る よ う に 調 製 し た 。 得 ら れ た シ リ カ ゾ ル を エ タ ノ ー ル で 濃 度
0.04mol/l に希 釈 することにより製 膜 液 とした。γ-アルミナ中 間 層 基 材 (1.3.2.3 参 照 )を
製 膜 液 に 5 秒 間 ディップコートすることで製 膜 を行 い、分 離 膜 スラリー調 製 用 恒 温 恒 湿 器
を用 いて 313K、相 対 湿 度 60%で 2 時 間 乾 燥 、873K で 3 時 間 焼 成 することでシリカ膜 を
得 た。なお、シリカゾル作 製 時 は温 度 および湿 度 をコントロールしたクリーンルーム内 にて
作 業 を行 い、乾 燥 には分 離 膜 スラリー調 製 用 恒 温 恒 湿 器 を用 いており、湿 度 をコントロー
ルすることで季 節 や天 候 等 の要 因 を取 り除 いて試 験 を行 った。
東 京 大 学 中 尾 研 究 室 よ り 、 対 向 拡 散 CVD 法 製 膜 の 技 術 移 管 を 受 け た 。 図 Ⅲ
-2.1.2.4.3-2 に 示 す 装 置 に ゾ ル - ゲ ル シ リ カ 膜 を セ ッ ト し 、 出 発 原 料 と し て TMOS
(Tetramethyl Orthosilicate)を用 いて製 膜 を行 った。TMOS のキャリアーガスとして N 2 、
3-299
60
TMOS を反 応 させてシリカにするための反 応 ガスとして O 2 を用 いた。CVD 法 による欠 陥 修
復 条 件 を 表 1.1.4.2-1 、 ゾ ル - ゲ ル +CVD 法 シ リ カ 膜 の 作 製 フ ロ ー チ ャ ー ト を 図 Ⅲ
-2.1.2.4.3-3 に示 す。
400mm
φ 6mmΦ6mm
ゾ ル -CVD
ゲ ルシリカ膜
+CVD シ リ
ガラス
シリカ膜
50mm
γ-アルミナ中間層
ガラス
α-アルミナ中間層
α-アルミナ支持体
α-アルミナ支持体
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-1 ゾル-ゲル+CVD 法 シリカ膜
電気炉
膜
O2
O-リング
流量計
表示器
熱電対
圧力計
絶対圧計
MFC
MFC MFC
真空
ポンプ
O2
Vent
H2
N2
バブラー
コールドトラップ
Vent
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-2 対 向 拡 散 CVD 製 膜 装 置
表 Ⅲ-2.1.2.4.3-1 対 向 拡 散 CVD 法 欠 陥 修 復 条 件
O2 側 圧 力
O2 供 給 量
N2 側 圧 力
N2 供 給 量
製膜温度
バブラー温
/MPa
/ml・min - 1
/MPa
/ml・min - 1
/K
度 /K
0.1
200
0.1
200
873
318
3-300
1
エタノール
2
TEOS
3
撹拌
4
硝 酸 、水
4
加熱撹拌
5
エタノール
7
ディップコーティング
8
乾燥
9
焼成
10
CVD 法 欠 陥 修
11
評価
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-3 ゾル-ゲル+CVD 法 作 製 方 法
対 向 拡 散 CVD 法 により欠 陥 修 復 する前 のゾル-ゲルシリカ膜 および欠 陥 修 復 したゾルゲル+CVD シリカ膜 の TEM/EDS(日 本 電 子 データム)を用 いて分 析 し、膜 厚 を確 認 した。
また、高 温 におけるガス透 過 特 性 を評 価 するために、ガス透 過 率 を 300~600℃、0.1MPa
にて H 2 および N 2 雰 囲 気 下 で各 々測 定 を行 った。
2.1.2.4.3.2 実 験 結 果 及 び考 察
ゾル-ゲル法 を用 いて作 製 したシリカ膜 の CVD 欠 陥 修 復 を行 う前 と 5 分 間 行 った後 の
ガス透 過 試 験 結 果 を表 Ⅲ-2.1.2.4.3-2 に示 す。
表 Ⅲ-2.1.2.4.3-2 ゾル-ゲル+CVD 法 シリカ膜 (873K)
H2 透 過 率
/mol・m - 2 ・s - 1 ・Pa - 1
N2 透 過 率
/mol・m - 2 ・s - 1 ・
Pa - 1
透過係数比
(H 2 /N 2 )
ゾル-ゲルシリカ膜
1.5×10 - 6
4.7×10 - 7
3
5 分 間 CVD 修 復 後
6.3×10 - 7
3.1×10 - 1 0
2000
製 膜 液 を薄 くし、ディップ時 間 も短 いままだったためにゾル-ゲルシリカ膜 の状 態 では分
離 性 能 を示 さなかったが、5 分 間 欠 陥 修 復 処 理 を行 うことで 873K において水 素 ガス透 過
率 は 6.3×10 - 7 mol・m - 2 ・s - 1 ・Pa - 1 、分 離 性 能 は H 2 /N 2 で 2000 という高 い性 能 を示 すように
なった。ゾル-ゲル+CVD 法 シリカ膜 の温 度 依 存 性 を図 Ⅲ-2.1.2.4.3-4 に示 す。
3-301
10000
10 - 7
8000
H2
N2
H2 /N2
10 - 8
6000
10 - 9
4000
10 - 1 0
2000
10 - 1 1
0
1
1.2
1.4
1.6
1.8
Separation ratio [-]
[mol・m-2・s-1・Pa-1]
Permeance
10 - 6
2
1/T [K - 1 ]
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-4 ゾル-ゲル+CVD 法 シリカ膜 温 度 依 存 性
欠 陥 のない膜 においては水 素 透 過 率 だけでなく窒 素 透 過 率 も活 性 化 拡 散 の傾 向 を示
し、水 素 透 過 率 の減 少 量 との兼 ね合 いにより分 離 性 能 は 773K から 673K で最 大 値 をとっ
た。また、活 性 化 エネルギーは 15kJ/mol となり、対 向 拡 散 CVD 法 のみで製 膜 したシリカ
膜 とほぼ同 じ値 を示 した。
欠 陥 修 復 前 のゾル-ゲルシリカ膜 の TEM/EDS 分 析 を行 った結 果 を図 Ⅲ-1.1.1.4.1-5、
欠 陥 修 復 後 の ゾ ル - ゲ ル +CVD シ リ カ 膜 の TEM/EDS 分 析 を 行 っ た 結 果 を 図 Ⅲ
-1.1.1.4.1-6、線 分 析 結 果 を図 Ⅲ-1.1.1.4.1-7 に示 す。
3-302
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-5 ゾル-ゲルシリカ膜 TEM/EDS 分 析 結 果
100nm
100nm
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-6 ゾル-ゲル+CVD 法 シリカ膜 TEM/EDS 分 析 結 果
3-303
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-7 ゾル-ゲル+CVD 法 シリカ膜 EDS 線 分 析 結 果
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-6 よりゾル-ゲル膜 上 に CVD 膜 が形 成 されており、図 Ⅲ-2.1.2.4.3-5 と
図 Ⅲ-2.1.2.4.3-6 を比 較 するとγ-アルミナ中 間 層 上 に形 成 されたシリカの膜 厚 が 5 倍 に
なっているにもかかわらず、水 素 透 過 率 は 1/2 程 度 にしかなっていないことから、ゾル-ゲル
シリカ膜 上 に形 成 されたシリカはかなりポーラスな構 造 であると考 えられる。また、分 離 性 能
を示 すのはγ-アルミナ細 孔 内 およびゾル-ゲルシリカ膜 内 に形 成 されたシリカであると考
えられる。図 Ⅲ-2.1.2.4.3-5 より膜 厚 は 50nm 以 下 であると考 えられ、10nm 程 度 のシリカが
γ -ア ル ミ ナ 細 孔 内 に 形 成 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。 CVD 欠 陥 修 復 後 の シ リカ 膜 厚 は 、
EDS 線 分 析 結 果 より 200nm 以 下 であることが確 認 できた。
2.1.2.4.4 対 向 拡 散 CVD 法 シリカ膜
2.1.2.4.4.1 方 法
東 京 大 学 中 尾 研 究 室 よ り 、 対 向 拡 散 CVD 法 製 膜 の 技 術 移 管 を 受 け た 。 図 Ⅲ
-2.1.2.4.4-1 に示 す装 置 に製 膜 部 50mm のγ-アルミナ中 間 層 基 材 (図 Ⅲ-2.1.2.4.4-2
参 照 )をセットし、出 発 原 料 として TMOS(Tetramethyl Orthosilicate)を用 いて製 膜 を行 っ
た。TMOS のキャリアーガスとして N 2 、TMOS を反 応 させてシリカにするための反 応 ガスとし
て O 2 を用 いた。膜 の外 側 に TMOS を供 給 し、同 時 に内 側 に O 2 を供 給 することで、γ-ア
ルミナ基 材 細 孔 内 を TMOS および O 2 が対 向 拡 散 し、出 合 ったところで反 応 してシリカが生
成 する方 法 である。製 膜 条 件 を表 Ⅲ-2.1.2.4.4-1 に示 す。
3-304
電気炉
膜
O2
O-リング
流量計
表示器
熱電対
圧力計
絶対圧計
MFC
MFC MFC
真空
ポンプ
O2
Vent
H2
N2
バブラー
コールドトラップ
Vent
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-1 対 向 拡 散 CVD 製 膜 装 置
400mm
Φ6mm CVD シリカ膜
ガラス
シリカ膜
50mm
γ-アルミナ中間層
ガラス
α-アルミナ中間層
α-アルミナ支持体
α-アルミナ支持体
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-2 対 向 拡 散 CVD シリカ膜
表 Ⅲ-2.1.2.4.4-1 対 向 拡 散 CVD 法 製 膜 条 件
O2 側 圧 力
O2 供 給 量
N2 側 圧 力
N2 供 給 量
製膜温度
バブラー温
/MPa
/ml・min - 1
/MPa
/ml・min - 1
/K
度 /K
0.1
200
0.1
200
873
318
3-305
作 製 した CVD シリカ膜 の TEM 観 察 および EDS 分 析 を JFCC(TOPCON EM-002B)
にて行 った。また、高 温 におけるガス透 過 特 性 を評 価 するために、ガス透 過 率 を 300~
600℃、0.1MPa にて H 2 および N 2 雰 囲 気 下 で各 々測 定 を行 った。
2.1.2.4.4.2 実 験 結 果 及 び考 察
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-3 に、873K において対 向 拡 散 CVD 法 の製 膜 時 間 を 5 分 から 160 分
まで変 更 して作 成 した単 管 のガス透 過 率 および分 離 性 能 を示 す。
5000
10-6
4000
10-7
3000
H2
N2
H2 /N2
10-8
10-9
1000
10-10
10-11
2000
Separation ratio [-]
Permeance [mol・m-2・s-1・Pa-1]
10-5
0
50
100
150
0
200
Deposition period [min]
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-3 対 向 拡 散 CVD シリカ膜 製 膜 時 間 依 存 性
水 素 透 過 率 および窒 素 透 過 率 は最 初 の 5 分 間 で急 激 に低 下 し、分 離 性 能 を示 すよう
になる。また、120 分 以 上 の製 膜 では水 素 透 過 率 はあまり低 下 せず、窒 素 透 過 率 が低 下
するため分 離 性 能 が高 くなる。初 期 の製 膜 は全 ての細 孔 に酸 素 が拡 散 することから均 一
に製 膜 される。30 分 程 度 経 過 すると、十 分 にシリカが形 成 されていない細 孔 (酸 素 が拡 散
することのできる細 孔 )が製 膜 されることで、より窒 素 透 過 率 が低 下 し、分 離 性 能 が高 くな
ると考 えられる。2 時 間 製 膜 することでほぼ確 実 に分 離 性 能 1000 以 上 の膜 が得 られ、今
回 は 2 時 間 製 膜 することで、873K において H 2 /N 2 分 離 係 数 が 2000、水 素 透 過 率 が
2.6x10 - 7 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 という性 能 の膜 を得 ることが出 来 た。2 時 間 製 膜 した膜 の水 素 透
過 の活 性 化 エネルギーは 15kJ/mol であった。
5 分 製 膜 および 120 分 製 膜 の CVD シリカ膜 TEM 観 察 および EDS 分 析 結 果 を図 Ⅲ
-2.1.2.4.4-4~2.1.2.4.4-6 に示 す。
3-306
γ-Al2O3
α-Al2O3
SiO2 /γ-Al2O3
SiO2 W-depo
γ-Al2O3
α-Al2O3
W-depo
500nm
500nm
120 分 製 膜
5 分製膜
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-4 対 向 拡 散 CVD シリカ膜 TEM 観 察 結 果
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-5 と図 Ⅲ-2.1.2.4.4-6 を比 較 するとγ-アルミナ中 間 層 上 に形 成 された
シリカの膜 厚 が 10 倍 になっているにもかかわらず、水 素 透 過 率 は 1/2 程 度 にしかなってい
ないことから、γ-アルミナ中 間 層 上 に形 成 されたシリカはかなりポーラスな構 造 であると考
えられる。また、分 離 性 能 を示 すのはγ-アルミナ細 孔 内 に形 成 されたシリカであると考 え
られる。γ-アルミナ細 孔 内 の 5 分 製 膜 のシリカ膜 厚 は 20~30nm 程 度 であり、EDS 分 析 結
果 より 100nm 以 下 であることが確 認 できた。また、γ-アルミナ細 孔 内 の 120 分 製 膜 のシリ
カ膜 厚 は 100~200nm 程 度 であり、EDS 分 析 結 果 より 300nm 以 下 であることが確 認 でき
た。
2.1.2.4.5 まとめ
2.1.2.4.1 および 2.1.2.4.4 の結 果 より、開 発 した基 材 は各 種 の製 膜 方 法 により水 素 分
離 膜 の製 膜 が可 能 なことが確 認 できた。このうちゾルゲル法 のみでの製 膜 では目 標 とする
水 素 /窒 素 透 過 係 数 比 1000 を達 成 できなかった。CVD 法 との組 み合 わせでは透 過 係
数 比 、水 素 透 過 率 ともに単 管 ではあるが目 標 性 能 を超 える性 能 が確 認 できた。したがって
CVD 法 、ゾルゲル法 +CVD 法 ともにモジュールへの適 用 が可 能 である。CVD 法 のみで製
膜 した膜 はゾルゲル法 +CVD 法 により作 製 した膜 より水 素 透 過 率 が小 さいことから、CVD
法 のみで製 膜 したモジュールで目 標 性 能 を超 えるような製 膜 条 件 を見 出 せれば、その条
件 、方 法 をゾルゲル法 +CVD 法 に転 用 して高 性 能 な膜 を作 製 することは容 易 であると考
えられることから、基 本 となる CVD 法 に絞 り込 んだモジュールへの製 膜 技 術 開 発 を行 なっ
た。
3-307
800
(a)
Si
Intensity
600
ED S (a)
400
O
200
C
Al
0
0
2
keV
1000
(b)
ED S (b)
20nm
Intensity
800
4
Al
600
400
200
O
Si
C
0
0
2
keV
4
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-5 対 向 拡 散 CVD シリカ膜 TEM/EDS 測 定 結 果 (5 分 製 膜 )
600
(a)
Intensity
(a)
400
O
200
C
SAD, EDS (a)
Si
Al
0
0
800
2
keV
4
(b) Al
(b)
Intensity
600
SAD, EDS (b)
400
200
100nm
O
C
0
0
Si
2
keV
図 Ⅲ-2.1.2.4.4-6 対 向 拡 散 CVD シリカ膜 TEM/EDS 測 定 結 果 (120 分 製 膜 )
3-308
4
2.1.2.5 モジュール製 膜
図 Ⅲ-2.1.2.5-1 に示 す ミニモジュール製 膜 装 置 を用 いて、モジュールへの対 向 拡 散
CVD 製 膜 を行 った。図 Ⅲ-2.1.2.5-2 に製 膜 容 器 とモジュール内 ガス流 れの模 式 図 を示
す。
Open
図 Ⅲ-2.1.2.5-1 ミニモジュール製 膜 装 置
O 2 in
70mm
反応
O 2 out
TMOS in
TMOS out
900mm
図 Ⅲ-2.1.2.5-2 製 膜 容 器 およびモジュール内 ガス流 れの模 式 図
モジュール製 膜 容 器 径 がφ6mm 単 管 φ6mm 単 管 と 6 本 モジュールとの相 似 性 を考 慮
して、N2 1000ml/min、O2 1000ml/min の条 件 で製 膜 をおこなった結 果 、酸 素 過 剰 であり、
TMOS が粉 状 になって噴 き出 してきたため中 止 した。そこで、酸 素 流 量 のみを 200ml/min
に下 げて、製 膜 時 間 依 存 性 を検 討 した結 果 を図 Ⅲ-2.1.2.5-3 に示 す。
3-309
1000
10-6
800
10-7
600
10-8
H2
N2
H2/N2
400
10-9
Separation ratio H2/N2 [-]
Permeance [mol m-2 s-1 Pa-1]
10-5
200
10-10
10-11
0
0
50
100
150
Deposition period [min]
図 Ⅲ-2.1.2.5-3 モジュール製 膜 時 間 依 存 性
(製 膜 条 件 :温 度 873K、窒 素 1000ml/min、酸 素 200ml/min)
2 時 間 製 膜 することで、873K において H 2 /N 2 分 離 係 数 が 160、水 素 透 過 率 が 5.2x10 - 8
mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 という性 能 の膜 を得 た。これは TMOS バブラー容 器 の容 積 が 500ml 程 度 し
かなく、飽 和 蒸 気 圧 とならなかったために製 膜 が十 分 に行 われていない結 果 であると考 え、
窒 素 流 量 を 200ml/min に下 げて製 膜 を 2 時 間 行 った結 果 を図 Ⅲ-2.1.2.5-4 に示 す。
3-310
2000
H2
N2
H2/N2
-7
10
1500
10-8
1000
10-9
500
10-10
10-11
Separation ratio H2/N2 [-]
Permeance [mol m-2 s-1 Pa-1]
10-6
0
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
1000/T [K-1]
図 Ⅲ-2.1.2.5-4 モジュール性 能 温 度 依 存 性
(製 膜 条 件 :温 度 873K、窒 素 200ml/min、酸 素 200ml/min、2 時 間 製 膜 )
水 素 透 過 率 は 2.8x10 - 8 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 と低 くなったものの H 2 /N 2 分 離 係 数 は 1800 の
膜 を得 ることが出 来 た。水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーは 22kJ/mol であった。
まだ、TMOS 側 にシリカ粉 が生 成 しており、酸 素 がモジュールのデッドエンド部 で折 り返
す際 に圧 力 が高 まり、酸 素 の噴 き出 しが起 こっていると考 え、酸 素 流 量 を 100ml/min に下
げて 2 時 間 製 膜 を行 った結 果 を図 Ⅲ-2.1.2.5-5 に示 す。
3-311
10-6
H2
N2
H2/N2
-7
10-8
4000
10-9
10-10
2000
Separation ratio H2/N2 [-]
Permeance [mol m-2 s-1 Pa-1]
10
6000
10-11
10-12
0
1
1.2
1.4
1.6
1000/T [K-1]
1.8
2
図 Ⅲ-2.1.2.5-5 モジュール性 能 温 度 依 存 性
(製 膜 条 件 :温 度 873K、窒 素 200ml/min、酸 素 100ml/min、2 時 間 製 膜 )
水 素 透 過 率 は 3.2x10 - 8 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 、H 2 /N 2 分 離 係 数 は 5800 の膜 を得 ることが出
来 た。水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーは 19kJ/mol であった。ここで SEM による膜 表 面 観 察
を行 った結 果 を図 Ⅲ-2.1.2.5-6 に示 す。
3-312
10μm
Dead end side
10μm
Middle
10μm
Connection side
10μm
Single tube
図 Ⅲ-2.1.2.5-6 シリカ膜 モジュールおよび単 管 表 面 SEM 像
単 管 と比 較 して、デッドエンド部 のモジュール表 面 は表 面 にシリカが多 量 に生 成 してい
ることがわかる。酸 素 流 量 を下 げても酸 素 が TMOS 側 に拡 散 しているということは、酸 素 が
TMOS 側 に拡 散 したときに TMOS が細 孔 内 に存 在 しないのではないかと考 えた。
ここで、φ6mm 単 管 を用 いて 3 つの検 討 を行 った。まず、TMOS を先 に流 し、5 分 後 に
酸 素 を供 給 するという製 膜 方 法 を検 討 した。この製 膜 方 法 では 873K において H 2 /N 2 分 離
係 数 が 3200、水 素 透 過 率 が 1.8x10 - 7 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 という性 能 の膜 が得 られ、水 素 透
過 の活 性 化 エネルギーは 18kJ/mol であった。水 素 透 過 率 が低 くなり、活 性 化 エネルギー
が高 くなったことから、TMOS が細 孔 内 部 に拡 散 し、より多 く製 膜 された可 能 性 が高 いと考
えられる。
次 に TMOS と酸 素 を同 時 に流 し、5 分 後 に酸 素 の供 給 を停 止 するという製 膜 方 法 の検
討 を行 った。この製 膜 方 法 では 873K において H 2 /N 2 分 離 係 数 が 5700、水 素 透 過 率 が
2.4x10 - 7 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 と い う 性 能 の 膜 が 得 ら れ 、 水 素 透 過 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は
18kJ/mol であった。このことから酸 素 は内 部 にある程 度 存 在 していれば十 分 拡 散 し、製 膜
3-313
が行 われることがわかった。
最 後 に予 想 されるモジュール製 膜 と同 じ状 況 を想 定 し、先 に酸 素 のみを流 し、5 分 後 に
TMOS を流 すという製 膜 方 法 で検 討 した。この製 膜 方 法 では 873K において H 2 /N 2 分 離
係 数 が 67、水 素 透 過 率 が 6.8x10 - 8 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 という性 能 の膜 が得 られた。このことか
ら酸 素 が拡 散 した際 に細 孔 内 もしくは近 傍 に十 分 量 の TMOS が存 在 しなければ、細 孔 内
に製 膜 されないことが考 えられる。
モジュール製 膜 容 器 容 積 を計 算 すると、窒 素 流 量 200ml/min では 10 分 間 で TMOS が
十 分 量 に 達 す る こ と が 分 か っ た 。 そ こ で TMOS の み を 先 に 供 給 し 、 10 分 後 に 酸 素 を
100ml/min で供 給 し、2 時 間 製 膜 (TMOS 供 給 時 間 )を行 った結 果 を図 Ⅲ-2.1.2.5-7 に示
10-6
6000
H2
N2
H2/N2
Permeance [mol m-2 s-1 Pa-1]
10-7
10-8
4000
10-9
10-10
2000
Separation ratio H2/N2 [-]
す。
10-11
10-12
0
1
1.2
1.4
1.6
-1
1000/T [K ]
1.8
2
図 Ⅲ-2.1.2.5-7 モジュール性 能 温 度 依 存 性
(製 膜 条 件 :温 度 873K、窒 素 200ml/min、10 分 後 に酸 素 100ml/min、2 時 間 製 膜 )
水 素 透 過 率 は 7.4x10 - 8 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 、H 2 /N 2 分 離 係 数 は 3700 の膜 を得 ることが出
来 た。水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーは 17kJ/mol であった。図 Ⅲ-2.1.2.5-8 に示 す SEM
による膜 表 面 観 察 結 果 より、膜 表 面 状 態 はかなり単 管 に近 づいていることがわかった。
3-314
10μm
Dead end side
10μm
Middle
10μm
Connection side
10μm
Single tube
図 Ⅲ-2.1.2.5-8 シリカ膜 モジュールおよび単 管 表 面 SEM 像
製 膜 時 間 の短 縮 による水 素 透 過 率 向 上 を狙 い、15 分 間 の製 膜 を行 った結 果 を図 Ⅲ
-2.1.2.5-9 に示 す。
3-315
H2
N2
H2/N2
2000
10-7
1500
10-8
1000
10-9
500
10-10
10-11
Separation ratio H2/N2 [-]
Permeance [mol m-2 s-1 Pa-1]
10-6
0
1
1.2
1.4
1.6
1000/T [K-1]
1.8
2
図 Ⅲ-2.1.2.5-9 モジュール性 能 温 度 依 存 性
(製 膜 条 件 :温 度 873K、窒 素 200ml/min、10 分 後 に酸 素 100ml/min、15 分 製 膜 )
水 素 透 過 率 は 1.9x10 - 7 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 、H 2 /N 2 分 離 係 数 は 1300 の膜 を得 ることが出
来 、水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーは 14kJ/mol であった。単 管 と同 様 の水 素 透 過 の活 性
化 エネルギーが得 られたことで、ほぼ同 じ構 造 が得 られたと考 えられる。この結 果 より、モジ
ュールで水 素 透 過 率 1x10 - 7 mol . m - 2 . s - 1 . Pa - 1 以 上 、H 2 /N 2 分 離 係 数 1000 以 上 を達 成 する
ことが出 来 た。
3-316
2.2 分 離 膜 モジュール製 造 プロセス技 術
2.2.1 液 相 法 によるスプレー法 製 膜 装 置 の開 発
2.2.1.1 はじめに
多 様 性 があるゾル-ゲル法 は、種 々の物 質 からなる無 機 多 孔 性 分 離 膜 の製 膜 法 として
注 目 されている。その方 法 は,コロイドあるいはポリマーゾルを粗 い多 孔 性 セラミック基 材 面
上 にコーティング・乾 燥 ・焼 成 することによって、ナノあるいはマイクロ孔 を有 する多 孔 性 セ
ラミック薄 膜 を作 製 する方 法 である。ゾルコーティング方 法 には、ディップコーティング、スリ
ップカースティング、スプレーコーティング等 の幾 つかの方 法 があるが、いずれも常 温 でコ
ーティングした後 、注 意 深 く徐 々に乾 燥 し、焼 成 のための昇 温 ・降 温 も徐 々に行 う方 法 が、
クラック等 の欠 陥 の発 生 を防 止 する方 法 であると考 えられてきた。一 方 、浅 枝 1 ) は、従 来 の
方 法 と全 く異 なる方 法 によって、多 孔 性 薄 膜 を極 めて効 率 的 に素 早 く作 製 できる方 法 を
提 案 した。いわゆる“ホットコーティング法 ”と称 し、コーティングされるべき基 材 を加 熱 し、コ
ーティングと同 時 に乾 燥 ,焼 成 を行 う方 法 である。しかし、これまではマニュアルでコーティ
ングを行 っているため、膜 を連 続 量 産 する事 が困 難 であり、また塗 布 時 の均 一 性 に懸 念 が
あった。膜 モジュールの大 量 生 産 化 には、製 膜 過 程 の自 動 化 が望 ましく、そのための製 膜
法 としてスプレーホットコーティング法 が有 用 と考 えられる。そこで塗 布 過 程 をスプレー法 に
し均 一 薄 膜 を作 製 する事 と工 業 化 への足 がかりとしてスプレー製 膜 研 究 を行 う事 にした。
α-アルミナ多孔質管
平均細孔径 1 μm
外径 10 mm,肉厚 1 mm
基材表面平滑化処理
(α-アルミナ微粒子の担持)
Manual coating
コロイドゾルの担持
(180 ℃にてホットコーティング)
(数回繰返し)
Spray coating
焼成
(500~600 ℃,15 m in)
多孔性セラミック膜モジュ-ル
図 Ⅲ-2.2.1-1 ホットコーティング法 による製 膜 手 順
図 Ⅲ-2.2.1-1 にホットコーティング法 の手 順 についての概 略 図 を示 す.図 に示 すように、
本 研 究 ではホットコーティングのコロイド担 持 過 程 の手 塗 り作 業 をスプレーコートに置 換 し,
尚 且 つ丁 寧 に製 膜 された手 作 業 膜 と同 等 の性 能 を有 する膜 の作 製 が可 能 な装 置 を開 発
3-317
することを試 みた。
まず、スプレーホットコーティング製 膜 装 置 の設 計 指 針 を得 るために、予 備 的 な手 動 ス
プレーホットコーティング製 膜 装 置 を作 製 し、従 来 の製 膜 法 とスプレーホットコーティング法
によって作 製 される膜 の構 造 、分 離 性 能 の比 較 検 討 を行 った。その後 この予 備 実 験 によ
って得 られた知 見 を基 に、本 格 的 な全 自 動 スプレーホットコーティング製 膜 装 置 を設 計 ・
作 製 し、スプレー製 膜 法 による分 離 膜 の作 製 を行 った。
2.2.1.2 予 備 実 験 装 置 の作 製
スプレーホットコーティング法 による製 膜 を行 うためには、膜 の支 持 体 となる基 材 を所 定
温 度 まで加 熱 して、所 定 のコロイドゾルをスプレーによって均 質 に塗 布 ・焼 成 を数 回 連 続
的 に繰 り返 す操 作 を自 動 的 に行 うシステムが必 要 となる。予 備 実 験 装 置 としては、セラミッ
ク製 支 持 体 を所 定 温 度 まで加 熱 した後 モータに取 り付 け、回 転 させながらスプレーにより
コーティングを行 うこととし、焼 成 は従 来 通 り支 持 体 をモーターから取 り外 して手 動 操 作 に
より管 状 電 気 炉 で焼 成 した。この方 法 における検 討 項 目 は、①膜 支 持 体 の形 状 、②支 持
体 のモーターへのマウンティングと回 転 条 件 、③支 持 体 の予 熱 方 法 、④スプレーノズルの
種 類 と噴 霧 液 量 および噴 霧 方 法 、⑤噴 霧 時 の環 境 と噴 霧 後 の余 剰 コロイドゾルの回 収 除
去 である。
(a) 膜 支 持 体
本 研 究 では、多 孔 性 セラミック膜 の基 材 として、多 孔 性 セラミック管 (多 孔 性 α-アルミナ
管 ;外 径 :10 mm、肉 厚 :1 mm、長 さ:100 mm、平 均 細 孔 径 :1μm,空 隙 率 :約 45%)の両
端 にガラス管 を図 Ⅲ-2.2.1-2 に示 すようにガラスフリットにより熔 着 したものを使 用 した。こ
の多 孔 性 セラミック基 材 管 外 表 面 の凹 凸 を小 さくし均 質 化 するために、分 離 層 のコーティ
ングを行 う前 に、約 1.9,0.2μm のα-アルミナ微 粒 子 をシリカ-ジルコニアコロイドゾル
(2wt%)をバインダ-として担 持 ・焼 成 (500-530 o C)した。この支 持 体 形 状 は、当 研 究 室 で
十 数 年 の間 、多 孔 性 セラミック分 離 膜 の開 発 ・性 能 試 験 に使 用 してきたものであり、その
高 温 耐 性 、シール性 などに問 題 がないことは確 認 されている。また、この支 持 体 形 状 に適
したガス透 過 および浸 透 気 化 試 験 装 置 により、作 製 した膜 の性 能 評 価 も容 易 に行 うことが
できる。
(b) 膜 支 持 体 およびスプレー部
支 持 体 回 転 モーター廻 りの作 製 として、モーターと支 持 体 との設 置 治 具 、モーター架 台 、
モーター回 転 数 制 御 系 の作 製 を行 った。図 Ⅲ-2.2.1-3 に示 すように。モーターと支 持 体
の設 置 治 具 として、Swagelok 製 の 8mm-6.35mm 径 違 いユニオンを用 いている。また、モ
ーター軸 のサイズを 6.35 mm ユニオンに合 うように改 造 している。モーター軸 側 はステン
レス製 フェルールで固 定 し、支 持 体 側 (8 mm) は着 脱 が簡 便 なようにテフロン製 フェルー
ルを用 い固 定 する事 とした。
支 持 体 回 転 モーターは支 持 体 を回 転 させながらスプレー室 へ移 動 できなければならな
3-318
い。移 動 方 法 は車 輌 式 とした。図 Ⅲ-2.2.1-4 にモータ架 台 の概 略 図 を示 す。また、支 持
体 回 転 用 モーターは。このまま電 源 を入 れると、フル能 力 の 3200 rpm で回 転 し、支 持 体
を設 置 した状 態 で使 用 すると、支 持 体 の破 損 及 びモーター軸 の偏 芯 、さらにモーターの
焼 きつきを起 こす懸 念 がある。そこで、スライダックにより電 圧 を調 整 し回 転 数 を制 御 する
システムを作 製 した。図 Ⅲ-2.2.1-4 にモーター回 転 制 御 部 の概 略 図 を示 す。モーター回
転 数 はエレクトロスライダーにより 500~3200 rpm の範 囲 で調 節 可 能 である。
ガラスフリット
方端閉塞
α-アルミナ多孔質管
ガラス管
外径 8 mm,内径 6 mm
平均細孔径 1 mm
外径 10 mm,肉厚 1 mm,長さ 100 mm
図 Ⅲ-2.2.1-2 セラミック膜 支 持 体
PTF Ferrule
SUS Ferrule
Membrane
Swagelok union 8-6.35 φ
図 Ⅲ-2.2.1-3 支 持 体 固 定 部
3-319
Motor
Electric slider
AC 100 V
Motor
SW
図 Ⅲ-2.2.1-4 モーター制 御 部
スプレーコーティングに用いるコロイドゾルには酸や有害物質が含まれており、これらを回収除去
する必要がある。コーティング時にコロイド液飛沫を系外に飛散させず、かつ実験(製膜)者を噴霧
液滴から守るために、コーティング操作は防護 BOX 内に設置されたスプレーチャンバー内で行っ
た(図Ⅲ-2.2.1-5)。支持体に担持されなかったコロイドゾルは廃液として下方へ排出され、酸蒸気
は図Ⅲ-2.2.1-6 に示すようにミストトラップを経由してドラフトチャンバーへと吸引される。
(vacuum)
To draft chamber
Protective box
Vapor
Spray chamber
Spray nozzle
Liquid waste
図 Ⅲ-2.2.1-5 防 護 BOX 付 きスプレーチャンバー
Fan
Draft chamber
Spray
Spray chamber
Aspirator
Mist trap
Liquid waste
図 Ⅲ-2.2.1-6 酸 ミスト除 去 設 備
3-320
(c) スプレーノズルの選 定
スプレー噴 霧 方 法 として,超 音 波 噴 霧 法 ,1流 体 ノズル噴 霧 法 ,2流 体 ノズル噴 霧 法 につ
いて検 討 した。
1) 超 音 波 噴 霧 法
超 音 波 噴 霧 法 とは、超 音 波 を液 体 に当 てると気 泡 の急 速 な膨 張 と収 縮 により液 体 の表
面 が破 裂 と撹 乱 により霧 化 しエアロゾル(飛 沫 )が形 成 する現 象 を利 用 して原 料 溶 液 の霧
化 を行 う方 法 である。本 研 究 では、オムロン製 超 音 波 式 ネブライザ NE-U17 を使 用 した。
噴 霧 される液 滴 径 が非 常 に小 さことが均 一 コーティングをする上 では有 効 と考 えられたが、
塗 布 力 が弱 く製 膜 に時 間 がかかること、微 霧 を輸 送 するのが困 難 であること、また連 続 使
用 により試 料 温 度 が超 音 波 振 動 により上 昇 し、霧 化 が減 少 する事 等 の問 題 点 も多 く、装
置 化 するには困 難 であるため不 採 用 とした。
2) 1流 体 ノズル噴 霧 法
図 Ⅲ-2.2.1-7 に1流 体 ノズルを用 いた噴 霧 装 置 の概 略 図 を示 す。
Spray nozzle
Regulator
N2
Colloidal sol
図 Ⅲ-2.2.1-7 1流 体 ノズルを用 いた噴 霧 装 置
噴 霧 量 :14.6 ml/min、噴 霧 圧 力 :0.1 MPa、噴 霧 時 間 :3 sec,製 膜 温 度 :180℃乾 燥 機 か
ら取 出 し後 15 sec 以 内 の条 件 下 で、1.5 wt% SiO 2 コロイドゾルを膜 支 持 体 に3回 コーティ
ングし、支 持 体 表 面 の目 視 観 察 を行 った。噴 霧 距 離 によるコーティング状 態 の違 いの模
式 図 を図 Ⅲ-2.2.1-8 に示 す。1流 体 ノズルによるスプレー製 膜 におては、ノズル距 離 を離
すことで霧 粒 子 を広 範 囲 に噴 霧 する事 ができたものの、目 視 観 察 において薄 膜 表 面 に斑
が見 られた。通 常 、1流 体 ノズルの霧 粒 径 は 100 μm 程 度 であり霧 粒 径 が大 きいことが
影 響 していると思 われたため、噴 霧 圧 力 を増 加 して霧 粒 径 を小 さくしたが、薄 膜 表 面 には
依 然 として斑 が残 存 した。1流 体 ノズルの場 合 、噴 霧 量 が多 く、コーティング表 面 温 度 が
低 下 したことも斑 が発 生 した要 因 と考 えられる。尚 、参 考 事 項 として、コロイドゾル液 噴 霧
実 験 中 にノズル詰 まりトラブルが頻 繁 に発 生 した。これは1流 体 ノズルとして使 用 した香 水
用 アドマイザーのノズル部 分 は、微 小 な孔 が開 いているだけのもので、洗 浄 不 足 により、
3-321
SiO 2 が目 詰 まりしたと考 えられる。
噴霧距離:2.5 cm
スプレー方向
最初に噴霧される部分に大きな塗りむら
噴霧距離:3.5 cm
スプレー方向
斑点のような塗りむら
噴霧距離:5.5 cm
スプレー方向
小さな斑点
図 Ⅲ-2.2.1-8 コーティング状 態 の噴 霧 距 離 依 存 性
2) 2流 体 ノズル噴 霧 法
使 用 した2流 体 ノズル(いけうち BIMV8002S)は、液 滴 径 はおよそ 10 μm と小 さく、また
窒 素 ガス圧 力 (流 量 )を調 節 することにより液 量 を数 ml/min の少 量 に制 御 することが容 易
であるという長 所 を有 している。図 Ⅲ-2.2.1-9 に2流 体 ノズルを用 いた噴 霧 装 置 の概 略 図
を示 す。
Regulator
Spray nozzle
N2
Colloidal sol
図 Ⅲ-2.2.1-9 2流 体 ノズルを用 いた噴 霧 装 置
3-322
噴 霧 圧 力 :0.25 MPa、噴 霧 時 間 :0.3 sec、製 膜 温 度 :180℃乾 燥 機 から取 出 し後 15 sec
以 内 、噴 霧 距 離 :5.5 cm の条 件 下 で、1流 体 ノズルの場 合 と同 様 に SiO 2 コロイドゾルを膜
支 持 体 にコーティングし、支 持 体 表 面 の目 視 観 察 を行 った様 子 の模 式 図 を図 Ⅲ
-2.2.1-10 に示 す。1流 体 ノズルを用 いた場 合 と異 なり、塗 りむらは見 られず均 一 にコーテ
ィングすることが可 能 であったため、2流 体 ノズルを採 用 した。
スプレー方向
図 Ⅲ-2.2.1-10 2流 体 ノズルによるコーティング状 態
(d) 予 備 実 験 装 置 の概 要
スプレーコーティング用 予 備 実 験 装 置 の全 体 概 略 図 を図 Ⅲ-2.2.1-11 に示 す。
Fan
Draft chamber
Aspirator
Mist trap
Dome heater
TC
M-2
Motor
to Draft chamber
Motor
M-1
Electro slider
Regulator
Liquid waste
N2
Colloidal sol
Water
図 Ⅲ-2.2.1-11 試 作 したスプレーコートシステムの概 略 図
3-323
膜 支 持 対 はモーターに直 結 し、モーターを設 置 した台 車 をレール上 で前 後 にスライドさ
せることにより、膜 支 持 体 をスプレー噴 霧 が行 われる防 護 BOX 内 にスムーズに移 動 させた。
コロイドゾルに含 まれる酸 や有 害 物 質 を回 収 するためのドラフトチャンバーを設 置 し、コー
ティング装 置 は比 較 的 大 掛 かりとなった。アトマイザーとしては 2 流 体 ノズルを用 い、一 方
向 からスプレーを行 った。スプレー持 続 時 間 は約 5 秒 以 内 である。スプレー後 はコロイドゾ
ル供 給 ラインから純 水 供 給 ラインへと切 替 えることによりノズルの洗 浄 を行 った。また、予 熱
炉 からスプレーまでの間 に基 材 温 度 降 下 が生 じるため,スプレー室 直 前 に基 材 予 熱 部 を
設 けた。
2.2.1.3 予 備 実 験 装 置 による製 膜 性 評 価
まずメチレンブルー水 溶 液 を噴 霧 ・コーティングし、塗 布 状 態 を検 討 した。その後 、シリカ
コロイドゾルを噴 霧 塗 布 し、シリカ膜 の製 膜 を行 い、その製 膜 状 態 を SEM 観 察 すると共 に、
膜 の分 離 性 能 を従 来 のマニュアルコーティングにより作 製 した膜 によるものと比 較 検 討 した。
なお、分 離 性 能 評 価 は、濃 度 73mol%(10wt%-水 )の酢 酸 水 溶 液 の 100 o C での浸 透 気 化
法 により行 った。
(a) 膜 SEM 写 真
図 Ⅲ-2.2.1-12 にスプレーコーティングによるシリカ膜 とマニュアルコーティングによる膜
の断 面 SEM 写 真 を示 した。図 (a)は予 熱 炉 で加 熱 (210 o C)した後 、モーターに取 り付 けて
噴 霧 塗 布 した場 合 であり、基 材 の温 度 が適 当 な温 度 よりも低 かったために、分 離 に有 効
な薄 膜 部 と基 材 の粒 子 担 持 部 との境 界 が不 明 瞭 となり、分 離 に活 性 な膜 部 の厚 さが厚 く
なっている様 子 が伺 える。図 (b)は、噴 霧 部 の直 前 に予 熱 部 を設 置 した場 合 のスプレーコ
ートの場 合 であり、図 (c)のマニュアルコートの場 合 と同 様 に、分 離 に有 効 な薄 膜 部 (約 0.5
μm)が明 瞭 になっている。
膜表面
シリカコロイトゾル層
膜表面
シリカコロイトゾル層
微粒子層
微粒子層
基 材
基 材
×5000 1μm
(a) spray coating
(b) spray coating
(c) manual coating
図 Ⅲ-2.2.1-12 製 膜 したシリカ膜 の断 面 SEM 写 真 の例
3-324
予 熱 炉 で加 熱 した後 、モーターに取 り付 けて噴 霧 塗 布 して製 膜 したものと、噴 霧 部 の直 前
に余 熱 部 を設 置 して余 熱 ・塗 布 を連 続 的 に素 早 く行 って製 膜 したものを、それぞれ焼 成
後 にメチレンブルー水 溶 液 を吸 引 することにより表 面 欠 陥 を着 色 して観 察 した結 果 を図 Ⅲ
-2.2.1-13 に示 す。
温度が十分に高くない場合
温度が十分高い場合
図 Ⅲ-2.2.1-13 シリカ膜 コーティング・焼 成 後
メチレンブルー吸 引 による表 面 欠 陥 観 察
コーティング時 の基 材 温 度 が低 い(あるいはコーティングに時 間 を要 する)場 合 には明 かな
着 色 むらが見 られた。一 方 、基 材 温 度 が十 分 に高 く、素 早 くコーティングを行 った場 合 に
は比 較 的 均 一 に製 膜 が行 われていることがわかる。
(b) 酢 酸 /水 系 水 溶 液 の浸 透 気 化 分 離 性 能
作 製 したシリカ膜 の分 離 性 能 を比 較 するために、酢 酸 73 mol%水 溶 液 の 100℃での浸
透 気 化 分 離 を行 った。図 Ⅲ-2.2.1-14 に浸 透 気 化 分 離 実 験 装 置 図 を示 す。浸 透 気 化 法
では、供 給 状 態 が液 体 であるため分 離 膜 表 面 における境 膜 の影 響 が大 きくなる。そこで、
膜 の上 流 側 (一 次 側 )は混 合 溶 液 をスクリューで高 速 循 環 させることにより、境 膜 の影 響 を
無 視 できるようにしてある。混 合 溶 液 の温 度 は、リボンヒーターと温 度 コントローラーを用 い
て一 定 に保 った。また、膜 の下 流 側 (二 次 側 )を真 空 ポンプで減 圧 排 気 しているため、溶 液
は細 孔 内 に浸 透 した後 分 離 され、透 過 成 分 を多 く含 む混 合 蒸 気 となって透 過 する。透 過
してきた蒸 気 をコールドトラップで補 集 し、重 量 を秤 量 し透 過 速 度 を算 出 、ガスクロマトグラ
フにより組 成 を求 めた。一 次 側 の組 成 は測 定 時 間 の中 間 でサンプリングした。
酢 酸 水 溶 液 の浸 透 気 化 分 離 実 験 結 果 の例 を図 Ⅲ-2.2.1-15 に示 した。このような分 離
条 件 下 ではシリカ膜 は極 めて安 定 であることが分 かっており、製 膜 条 件 の違 いによる膜 の
分 離 性 能 評 価 が可 能 である。シリカ膜 は、シラノール基 の生 成 により、分 離 の初 期 におい
て経 時 変 化 を示 す。しかし、数 時 間 後 には分 離 性 能 はほとんど一 定 となる。前 述 の図 Ⅲ
-2.2.1-12(a) の 膜 に お い て は 、 水 の 透 過 流 束 は 約 220 mol m - 2 h - 1 で あ る が 、 図 Ⅲ
-2.2.1-12(b)、(c)の膜 は水 透 過 流 束 約 300 mol m - 2 h - 1 、分 離 係 数 約 1460 を示 しており、
3-325
極 めて高 分 離 性 能 を示 している。このことは、スプレーホットコーティング法 による製 膜 と従
来 のマニュアルホットコーティング法 による製 膜 はほとんど同 等 な性 能 を持 つ膜 を与 えるこ
とを示 している。
7
to vacuum pump
2
6
1.membrane
2.thermocouple
3.heater
4.thermocontroller
5.screw
6.cold trap
7.motor
1
4
5
3
図 Ⅲ-2.2.1-14 浸 透 気 化 分 離 実 験 装 置
600
Acetic Acid Feed:73mol% ,Temp:100℃
6
1800
1600
5
Spray coating (b)
Manual coating (c)
400
4
300
3
Water Flux
200
2
Spray coating (a)
100
0
200
300
Time [min]
400
1000
800
600
400
200
0
100
1200
1
Acetic Acid Flux
0
1400
Separation Factor [-]
2
SF
Acetic Acid Flux [mol/(m h)]
2
Water Flux [mol/(m h)]
500
500
0
600
図 Ⅲ-2.2.1-15 酢 酸 水 溶 液 の浸 透 気 化 分 離 による各 種 膜 の性 能 評 価
3-326
2.2.1.4 自 動 製 膜 装 置 の概 要
前 節 の知 見 をもとに全 自 動 製 膜 装 置 の作 製 を行 った。以 下 の項 目 に示 すように、基 本
的 なコーティングシステムは図 Ⅲ-2.2.1-11 に示 した試 作 機 と同 一 とした。製 膜 工 程 は以
下 の通 りである。
①モーターに基 材 をマウンティングする。
②予 熱 用 電 気 管 状 炉 に基 材 部 を挿 入 する。
③予 熱 後 、基 材 表 面 温 度 を測 定 する。
④基 材 をコーティングチャンバー内 に挿 入 しモーターで回 転 させる。
⑤2流 体 ノズルによりコロイドゾルを噴 霧 する。
⑥有 害 蒸 気 はドラフトチャンバーへ吸 引 する。
⑦焼 成 用 電 気 管 状 炉 に挿 入 して焼 成 する。
図 Ⅲ-2.2.1-16 に自 動 製 膜 装 置 の外 観 を示 す。試 作 機 との大 きな違 いは予 熱 用 (180~
210℃)と焼 成 用 (500~600℃)の管 状 炉 を縦 に配 置 し、基 材 をマウントするモーターを前
後 および上 下 にレールに沿 って移 動 可 能 にした点 である。これによって「予 熱 」→「コーテ
ィング」→「焼 成 」の一 連 の操 作 の自 動 化 が成 された。また、複 数 のコロイドゾルおよび洗
浄 用 水 タンクが同 時 に設 置 可 能 であり、濃 度 (コロイド粒 径 )の異 なるゾルを順 番 にコーテ
ィング、スプレー洗 浄 ができる。基 材 予 熱 温 度 、予 熱 時 間 、噴 霧 液 量 、噴 霧 回 数 、焼 成 温
度 、焼 成 時 間 、および一 連 の操 作 の繰 返 し回 数 は制 御 ボックス上 のタッチ画 面 で設 定 さ
れ、すべて自 動 運 転 できるようになっている。各 操 作 を手 動 で行 うことも可 能 である。
焼成炉
予熱炉
スプレー室
コントロール部
コロイドタンク
図 Ⅲ-2.2.1-16 自 動 製 膜 装 置
3-327
回転モーター
2.2.1.4 自 動 製 膜 装 置 による製 膜 性 評 価
予 備 実 験 装 置 を用 いた検 討 により、スプレーコーティング法 により水 /酢 酸 分 離 に有 効
な浸 透 気 化 分 離 膜 の作 製 が可 能 であったので、自 動 製 膜 装 置 ではα-アルミナ多 孔 質
管 上 に SiO 2 -ZrO 2 (Si/Zr=1)コロイドゾルをホットコーティングすることにより、水 素 分 離 膜
用 の中 間 層 の製 膜 を試 みた。
(a) 膜 SEM 写 真 と細 孔 径 分 布
予 熱 温 度 を 180℃および 190℃として自 動 製 膜 を行 った膜 と 180℃に予 熱 して従 来 のマニ
ュアルコーティング法 で作 製 した膜 の細 孔 径 分 布 を図 Ⅲ-2.2.1-17 に、それぞれの膜 の
SEM 写 真 を図 Ⅲ-2.2.1-18 示 す。この細 孔 径 分 布 はナノパームポロメトリにより測 定 したも
のである。
Permeance of air [10-5 mol m-2 s-1 Pa-1]
1.0
予熱190℃→スプレーコーティング
予熱180℃→スプレーコーティング
予熱180℃→ハンドコーティング
0.5
0
2
4
6
Pore diameter [nm]
8
10
図 Ⅲ-2.2.1-17 細 孔 径 分 布
予熱180℃→マニュアルコーティング
予熱180℃→スプレーコーティング
図 Ⅲ-2.2.1-18 膜 SEM 写 真
3-328
予熱190℃→スプレーコーティング
細 孔 径 分 布 図 より、予 熱 温 度 を 180℃としてスプレーコーティングすることにより、従 来 のマ
ニュアルコーティング法 で作 製 した膜 とほぼ同 様 な空 気 透 過 性 能 を示 す、平 均 細 孔 径 が
およそ 2 nm 程 度 の膜 が作 製 可 能 であることがわかる。これに対 して予 熱 温 度 が 190℃の
場 合 は、空 気 透 過 速 度 は同 程 度 であるが細 孔 径 分 布 がブロードとなっており、平 均 細 孔
径 も若 干 大 きくなっている。膜 の SEM 写 真 を見 ると、190℃でスプレーコーティングした場
合 には、明 らかにゲル膜 の状 態 が良 好 とは言 えず、これは予 熱 温 度 が高 すぎたために表
面 に付 着 したミストが表 面 上 に広 がる前 に瞬 時 にゲル化 したためと思 われる。予 熱 温 度 は
高 過 ぎても製 膜 製 を悪 化 させる可 能 性 があり、最 適 な予 熱 温 度 には十 分 な注 意 が必 要
であろう。
(b) 気 体 透 過 性 能
自 動 製 膜 装 置 により SiO 2 -ZrO 2 中 間 層 を製 膜 し、その上 にコバルトドープ SiO 2 コロイド
(Si/Co=3)をコーティングして作 製 したガス分 離 膜 における He, H 2 , N 2 , CH 4 透 過 率 の経
時 変 化 を図 Ⅲ-2.2.1-19 に、温 度 依 存 性 を図 Ⅲ-2.2.1-20 に示 す。この膜 は,予 熱 温 度
180℃で、濃 度 が 2 wt%および 1.5 wt%の SiO 2 -ZrO 2 コロイドゾルをそれぞれ数 回 スプレーコ
ーティングし、コーティング毎 に 550℃で焼 成 を行 うことにより SiO 2 -ZrO 2 中 間 層 を作 製 して
いる。
He
10-6
-5
10
H2
10-7
-6
10
10-8
CH4
-7
10
N2
10-9
-8
10
10-10
-9
10
0
Permeance [ mol m-2s-1Pa-1]
Permeance [ m3( STP )/( m2.s.kPa ) ]
10-4
5
10
15
Time[h]
20
図 Ⅲ-2.2.1-19 透 過 率 の経 時 変 化 (300℃)
3-329
-5
10
-6
10
10-7
He
10-6
H2
10-7
CH4
10-8
N2
10-9
-8
10
Knudsen
-9
10
Permeance [ mol m-2s-1Pa-1]
Permeance [ m 3( STP )/( m 2.s.kPa ) ]
10-4
10-10
0.002 0.0025 0.003
-1
1/T [ K ]
図 Ⅲ-2.2.1-20 透 過 率 の温 度 依 存 性
300℃においてどのガスも透 過 試 験 開 始 後 20 時 間 にわたって安 定 な透 過 性 能 を示 してお
り、透 過 率 比 は、H 2 /N 2 =120 を示 した。また、透 過 率 の温 度 依 存 性 の図 より、300~100℃
の温 度 範 囲 において、He と H2 は活 性 化 拡 散 的 傾 向 であり、CH4 および N2 は残 存 した
やや大 きな細 孔 を Knudsen 的 に透 過 しており、分 子 ふるい的 な水 素 分 離 膜 の特 性 を示 し
た。
2.2.1.5 結 言
手 動 スプレーホットコーティング製 膜 装 置 を作 製 し、従 来 の製 膜 法 とスプレーホットコー
ティング法 による膜 の構 造 、分 離 性 能 の比 較 検 討 を行 うことによって本 格 的 スプレーホット
コーティング製 膜 装 置 設 計 のための知 見 を得 た。特 に重 要 な点 は、コーティング温 度 を適
当 な温 度 に保 ち、極 めて短 時 間 でコーティングすること、均 質 コーティングが可 能 であるよ
うなスプレー法 を選 択 することである。
自 動 製 膜 装 置 を用 いたスプレーホットコーティングによりガス分 離 膜 の作 製 に有 効 な
SiO 2 -ZrO 2 中 間 層 の製 膜 が可 能 であり、スプレーホットコーティング法 は製 膜 の自 動 化 に
繋 がり、大 量 生 産 の可 能 性 が十 分 あるように思 われる。
文献
1) M. Asaeda, K. Okazaki and A. Nakatani, “ Preparation of Thin Porous Silica
Membranes for Separation of Non-aqueous Organic Solvent Mixtures,” Ceramic
Transactions , 31 (1992), 411-420
3-330
2.2.2 気 相 法 によるキャピラリーミニモジュール製 膜 技 術 の開 発
2.2.2.1 キャピラリー基 材 での蒸 着 条 件 の検 討
図 Ⅲ-2.2.2-1に、対 向
拡 散 CVDおよび透 過 試
験 装 置 の模 式 図 を示 す。
多 孔 質 α-アルミナ基 材
(全 長 350 mm,有 効 部
分 50 mmもしくは230 m
m:細 孔 径
0.1 μm:NO
K社 製 )にγ-アルミナ層
をゾルゲル法 でコーティン
グし、細 孔 径 を4 nmもしく
は13nmとした。基 材 細 孔
径 はナノパームポロメータ
ー(西 華 産 業 製 )にて測
定 した。この基 材 をバイト
図 Ⅲ-2.2.2-1 製 膜 ・透 過 装 置 の模 式 図
ンO-リングにて金 属 モジュ
ールに固 定 した。膜 の内 側 に酸 素
を10~2000 ml min-1で流 通 させ、
膜 の外 側 には、テトラケイ酸 オルトメ
チル(TMOS)を318 Kにて窒 素 バ
ブリングして200 ml min-1で流 通 さ
せた。製 膜 は600℃にて2時 間 行 っ
た。製 膜 後 、水 素 もしくは窒 素 の透
過 試 験 を圧 力 変 化 法 にて行 った。
膜 の外 側 に水 素 もしくは窒 素 を常
圧 で流 通 させ、膜 の内 側 を真 空 ポ
ンプで吸 引 する。膜 の内 側 の圧 力
が一 定 となった所 で、真 空 ポンプを
図 Ⅲ-2.2.2-2 製 膜 の再 現 性 結 果
ストップバルブの操 作 により遮 断 し、
膜 内 側 の部 分 の圧 力 の経 時 変 化 を測 定 し、透 過 率 を算 出 した。水 蒸 気 透 過 試
験 は、バブラーに水 を導 入 し、窒 素 バブリングによって膜 の外 側 に水 蒸 気 (+窒 素 )
を供 給 する。その後 、上 記 と同 様 な圧 力 変 化 法 により透 過 率 を測 定 した。水 蒸 気
の供 給 側 圧 力 はバブラー温 度 により制 御 した。モジュール化 は多 本 数 の基 材 に
同 時 にシリカ層 を蒸 着 するため、製 膜 条 件 のシビアなコントロールが必 要 になると
考 えられる。ここでは、キャピラリー基 材 を用 いて、製 膜 の再 現 性 、基 材 細 孔 径 の
3-331
影 響 、温 度 分 布 の影 響 などについて検 討 する。基 本 的 には、蒸 着 温 度 600℃、50
mm基 材 を用 い、酸 素 流 量 は200 ml min-1とした。特 に値 を変 化 させた場 合 の
み明 記 してある。
まず、製 膜 の再 現 性 の検 討 を行 った。図 Ⅲ-2.2.2-2に、当 研 究 グループで製
膜 を行 ったすべてのシリカ膜 の透 過 試 験 結 果 を示 す。製 膜 条 件 は、上 記 に示 した
ように、600℃での蒸 着 で、製 膜 時 間 は2時 間 とした。同 じ条 件 での製 膜 試 験 を15
回 行 い、873 Kでの透 過 試 験 結 果 を水 素 透 過 率 と水 素 /窒 素 透 過 率 比 でプロッ
トした。目 安 のために、水 素 透 過 率 が8 x 10-8 mol m-2 s-1 Pa-1以 上 、水 素 /
窒 素 透 過 率 比 が500以 上 を良 い膜 の基 準 として、図 中 に点 線 で示 す。この枠 線
より外 れているサンプルは2つのみであり、残 り13サンプルはすべて基 準 をクリアーし
た。再 現 性 は87%(13/15)となった。分 子 ふるい性 能 をもつ膜 の製 膜 としては非
常 に高 いといえる。均 一 な処 理 ができる対 向 拡 散 CVDのコンセプトが実 現 している
と思 われる。また、図 Ⅲ-2.2.2-2のような評 価 の場 合 、通 常 はトレードオフラインとな
り、右 下 がりの傾 向 が出 る。しかし、今 回 は右 上 がりの傾 向 を示 している。これは、
窒 素 透 過 率 の値 が測 定 限 界 に近 いためである可 能 性 が高 い。そのため、窒 素 透
過 率 は膜 によりほとんど変 化 していない。一 方 、上 記 のように水 素 透 過 率 は膜 によ
って8.44 x 10-8 mol m-2 s-1 Pa-1~4.26 x 10-7 mol m-2 s-1 Pa-1と5倍 以
上 異 なっている。そのため、高 い水 素 透 過 率 をもつ膜 の選 択 性 が高 くなっていると
思 われる。水 素 /窒 素 透 過 率 比 は十 分 高 いので、水 素 透 過 率 を高 い膜 を得 るこ
とを目 標 とするべきであろう。
更 なる高 水 素 透 過 率 をもつ膜 を得 るためには、この水 素 透 過 率 の違 いを明 確
にすることは重 要 である。今 回 用 いた対 向 拡 散 CVD法 の製 膜 パラメーターは、TM
OS濃 度 、酸 素 濃 度 、蒸 着 温 度 、基 材 細 孔 径 分 布 などである。対 抗 拡 散 CVD法
は2種 の反 応 種 が細 孔 中 で反 応 することが特 徴 であることより、細 孔 径 (分 布 )が
蒸 着 物 の性 質 や有 効 膜 厚 に大 きな影 響 を及 ぼしていると思 われる。そこで、4 nm
および13 nmの細 孔 径 をもつ基 材 へ製 膜 を行 い、水 素 透 過 率 と水 素 /窒 素 透 過
率 比 を比 較 した。結 果 を表 Ⅲ-2.2.2-1に示 す。基 材 細 孔 径 が13 nmと大 きな基
材 への蒸 着 では水 素 透 過 率 、水 素 /窒 素 透 過 率 比 が共 に
表 Ⅲ-2.2.2-1 基 材 細 孔 径 が透 過 性 能 に及 ぼす影 響
Pore size of
H2
substrate
permeance
nm
mol m
-2
H2/N2 permeance
s
-1
ratio
-
Pa-1
4
8.77 x 10-8
1200
13
5.66 x 10-9
56
3-332
低 下 することがわかった。基 材 細 孔 径
が大 きいと細 孔 中 を閉 塞 させるための
蒸 着 物 の量 (膜 厚 )が大 きくなることが
原 因 であろう。図 Ⅲ-2.2.2-3に蒸 着 の
模 式 図 を示 す。基 材 細 孔 径 が大 きくな
ると、直 感 的 に、膜 厚 が厚 くなることが
わかる。今 回 の実 験 結 果 はこのモデル
図 と傾 向 が一 致 している。これより、水
素 透 過 率 、水 素 /窒 素 透 過 率 比 が高
い膜 を得 るためには、基 材 細 孔 径 が小
さく、細 孔 径 分 布 も小 さな膜 が有 利 で
あると予 想 される。
γ-アルミナ中 間 層 の細 孔 径 は、50
0℃での水 蒸 気 処 理 によってもコントロ
ール可 能 である。図 Ⅲ-2.2.2-4に水 蒸
気 処 理 によるγ-アルミナ中 間 層 の細
孔 径 変 化 を示 す。52時 間 処 理 により4
nmの細 孔 が9 nmとなっていることがわ
図 Ⅲ-2.2.2-3 細 孔 径 の違 いによる蒸 着 の違
いの模 式 図
かる。水 蒸 気 処 理 時 間 が長 くなるにつ
れて細 孔 径 が大 きくなるこ
とが示 唆 される。次 に、γ
-アルミナ中 間 層 の水 蒸
気 処 理 時 間 を変 化 させ、
TMOS/O2対 向 拡 散 CVD
処 理 後 の水 素 、窒 素 透
過 率 を示 す(図 Ⅲ-2.2.2
-5)。図 より水 蒸 気 処 理
時 間 が長 くなるにつれ、
製 膜 後 の水 素 透 過 率 が
減 少 している。一 方 、窒
素 透 過 率 はほぼ一 定 とな
図 Ⅲ -2.2.2-4
水 蒸 気 処 理 によるγアルミナ中 間 層 の細
孔径分布
っている。図 Ⅲ-2.2.2-3
で示 したように、細 孔 径 が大 きくなると水 素 透 過 率 が減 少 することが示 された。また、
この範 囲 では、窒 素 透 過 率 が低 いことより、均 質 な処 理 ができていることがわかる。
3-333
次 に、表 Ⅲ-2.2.2-1と
図 Ⅲ-2.2.2-5で示 した膜
の透 過 のアレニウスプロッ
トを図 Ⅲ-2.2.2-6に示 す。
水 素 透 過 率 に注 目 すると、
すべての膜 の傾 きがほぼ
一 定 である。つまり、水 素
透 過 の活 性 化 エネルギー
が同 レベルといえる。水 素
透 過 率 は、有 効 なシリカ
膜 厚 とシリカ中 の拡 散 係
数 (緻 密 さ)により決 まると
考 えられる。水 素 透 過 の
活 性 化 エネルギーはシリ
図 Ⅲ -2.2.2-5
γアルミナ中 間 層 の水 蒸 気 処 理 後 のシリカ膜
の透 過 特 性
カの緻 密 さと関 係 している
はずなので、今 回 比 較 し
た膜 のシリカの緻 密 さは
同 レベルとあるといえる。
つまり、水 素 透 過 率 の違
いは膜 厚 であると推 測 で
きる。このことからも、図 Ⅲ
-2.2.2-3の模 式 図 は支
持 されている。水 蒸 気 改
質 反 応 へのシリカ膜 の適
用 には、基 材 であるγ-ア
ルミナ層 の細 孔 径 分 布
や安 定 性 などの検 討 が
必 要 である。なお、以 後
の検 討 ではすべて細 孔
径 4 nmのγ-アルミナ基
図 Ⅲ-2.2.2-6 細 孔 径 の異 なるγアルミナ中 間 層 へ蒸 着 した
シリカ膜 のアレニウスプロット
材 を用 いた。
3-334
シリカの密 度 をコントロールするには、蒸 着 温 度 が重 要 なパラメーターとなる。図
Ⅲ-2.2.2-7に蒸 着 温 度 の変 化 による
細 孔 内 での蒸 着 の模 式 図 を示 す。蒸
着 温 度 が高 ければ、拡 散 (Knudsen
仮 定 では比 例 )より反 応 速 度 (アレニ
ウス型 ではeの階 乗 )の上 昇 が大 きく、
薄 膜 が蒸 着 するはずである。さらに、
高 温 での蒸 着 ではシリカ密 度 も大 きく
なることが予 想 される。図 Ⅲ-2.2.2-8
に蒸 着 温 度 が400℃から700℃でのシ
リカ膜 の水 素 透 過 のアレニウスプロット
を示 す。図 より、蒸 着 温 度 が高 くなると
傾 きが急 になっていることがわかる。図
中 に水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーを
示 す。700℃の蒸 着 では、27 kJ mol1
とこの中 では最 も高 い値 となった。石
英 ガラス中 の水 素 の拡 散 の活 性 化 エ
ネルギーは38 kJ mol-1なので、70
0℃蒸 着 でも石 英 ガラスよりはルーズな
シリカが蒸 着 しているといえる。水 素 透
過 率 の向 上 のみを考 慮 すると水 素 透
過 の活 性 陰 エネルギーが低 い低 温 蒸
図 Ⅲ-2.2.2-7 蒸 着 温 度 の違 いによる蒸 着 の違 い
の模 式 図
着 が望 ましい。このとき、耐 久 性 と透
過 性 のバランスが検 討 課 題 となる。
そこで、蒸 着 温 度 の異 なるシリカ膜
について水 蒸 気 耐 久 試 験 を行 った。
400℃蒸 着 の膜 は、室 温 の水 蒸 気
吸 着 で透 過 性 能 が劣 化 し、500℃
蒸 着 の膜 は500℃、75%の水 蒸 気
雰 囲 気 下 1時 間 で窒 素 透 過 率 が10
倍 以 上 となった。600℃以 上 の蒸 着
温 度 では、窒 素 透 過 率 の変 化 はほ
とんどなかった。そこで、水 素 透 過 率
の変 化 を調 べた。結 果 を図 Ⅲ-2.2.
2-9に示 す。600℃以 下 の蒸 着 の水
素 透 過 率 の変 化 は小 さかったが、6
図 Ⅲ-2.2.2-8 蒸 着 温 度 が異 なるシリカ膜 のアレニウス
プロット
3-335
50℃および700℃蒸 着 の膜 の水 素 透 過 率 は大 きく減 少 した。図 Ⅲ-2.2.2-7にある
ように高 温 での蒸 着 では水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーも大 きく密 なシリカが蒸 着
していると考 えられる 。 一 般 的 に密 なシリカの方 が安 定 である。しかし、水 蒸 気 処
理 による水 素 透 過 率 の減 少 は650℃以 上 の方 が大 きい。詳 細 な原 因 については、
さらなる調 査 が必 要 であるが、γアルミナ中 間 層 の焼 成 温 度 が600℃であることを
考 慮 すると、中 間 層 の安 定 性 が問 題 である可 能 性 が高 いと推 察 できる。650℃以
上 の高 温 での蒸 着 の場 合 は、水 素 透 過 率 が大 きく減 少 することが特 徴 である。
一 方 、キャピラリー基
材 内 側 の酸 素 流 量 も、
製 膜 のパラメーターであ
る。図 Ⅲ-2.2.2-10に酸
素 流 量 を10~2000 ml
min-1としたときに得 られ
たシリカ膜 の透 過 性 能 を
示 す。図 より、水 素 透 過
率 はほとんど変 化 しない
が、水 素 /窒 素 透 過 率
比 は、2000 ml mon-1の
時 に若 干 低 下 している。
内 側 の酸 素 流 量 が大 き
く、キャピラリー基 材 内 側
図 Ⅲ-2.2.2-9 蒸 着 温 度 の異 なるシリカ膜 の水 蒸 気 耐 久 性
の圧 力 損 失 などでシリカ
の蒸 着 の欠 陥 ができた
可 能 性 がある。しかし、
内 部 流 量 が200倍 となっ
ても、得 られる膜 の性 能
はそれほど大 きな変 化 は
ない。対 向 拡 散 CVDで
は、基 材 中 へのプリカー
サーの拡 散 が重 要 である。
γアルミナ中 間 層 中 の物
質 の移 動 は、Knudsen拡
散 がベースとなっており、
酸 素 流 量 よりも酸 素 濃
度 が重 要 である。実 際 、
酸 素 ではなく空 気 を内
図 Ⅲ-2.2.2-10 基 材 内 側 酸 素 流 用 がシリカ膜 蒸 着 に
及 ぼす影 響
3-336
側 に流 通 させた場 合 、選 択 性 の高 い膜 は得 られなかった。
キャピラリー基 材 でのモジュール化 試 験 の最 後 として、230 mm基 材 への蒸 着 を
報 告 する。図 Ⅲ-2.2.2-11に230 mm基 材 の写 真 を示 す。50 mm基 材 では、全 長
350 mmの基 材 の両 端 の150 mmをガラスシールすることで、中 央 の50 mmを利 用
した。230 mm基 材 では、両
端 の60 mmにガラスシール
してある。そのため、膜 モジ
ュールの2ヶ所 を変 更 した。
まず、製 膜 部 が長 くなったた
めに、これまで1ヶ所 の熱 電
対 でコントロールしていた炉
を3分 割 し、3ヶ所 の熱 電 対
で温 度 制 御 を行 った。その
ため、温 度 分 布 は、これまで
の50 mmモジュールと同 程
図 Ⅲ-2.2.2-11 230mm 基 材 の写 真
度 である。また、両 端 のガラ
スシール部 が短 くなり、Oリングシールが耐 熱 の問 題 で使 用 できなくなった。そこで、
グラファイトフェルールを用 いたシール法 を開 発 した。グラファイトフェルールは、Oリ
ングと異 なり、使 い捨 てであるが500℃程 度 の高 温 でもシール可 能 である。図 Ⅲ-2.
2.2-12に製 膜 後 の水 素 、窒 素 透 過 率 のアレニウスプロットを示 す。図 中 の実 線 は
同 条 件 で製 膜 した50
mm基
材 での透 過 試 験 結 果 である。
これより、230 mm基 材 へもこれ
までと同 様 に高 い分 離 選 択 性
をもったシリカ膜 が製 膜 できた
といえる。水 素 透 過 の活 性 化
エネルギーも20 kJ mol-1と、5
0 mm基 材 とほぼ同 じである。
図 Ⅲ-2.2.2-13には230 mm
基 材 へ製 膜 したシリカ膜 の水
蒸 気 耐 久 試 験 結 果 を示 す。こ
の図 中 の実 線 も50 mm基 材 の
水 蒸 気 耐 久 性 試 験 結 果 であ
る。ガス透 過 試 験 とは、若 干 異
図 Ⅲ-2.2.2-12 230mm 基 材 への蒸 着 結 果
なり、水 蒸 気 耐 久 試 験 は、特
に初 期 に違 いが見 られた。230 mm基 材 へ蒸 着 したシリカ膜 は初 期 の窒 素 透 過
3-337
率 の上 昇 幅 が大 きい。原 因 は、シリカ膜 製 時 のTMOSなどの濃 度 分 布 が考 えられ
る。しかし、この実 験 結 果 のみからは詳 細 はわからない。初 期 に窒 素 透 過 率 が若
干 上 昇 したこと以 外 は、50 mm基 材 上 のシリカ膜 と大 きな違 いは
なく、安 定 した透 過 性 能 を示 した。
ここで、対 向 拡 散 CVD
法 によるシリカ膜 蒸 着 の
性 能 変 化 に及 ぼす各 種
条 件 の影 響 をまとめる。ま
ず、中 間 層 の安 定 性 、細
孔 径 は重 要 な要 素 である。
細 孔 径 が小 さい膜 では
水 素 透 過 率 が高 くなる。
また、当 然 であるが中 間
層 が不 安 定 な条 件 では、
シリカ膜 の性 能 も安 定 し
ない。例 外 は、TMOS供
給 側 から水 蒸 気 を供 給 し
て耐 久 試 験 を行 う場 合 で
ある。蒸 着 温 度 は、シリカ
図 Ⅲ-2.2.2-13 230mm 基 材 へ蒸 着 したシリカ膜 の水 蒸 気
安定性
層 の密 度 などに影 響 を与
える。高 温 蒸 着 ほど水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーが大 きくな
る。ただし、窒 素 透 過 率 は低 いので、蒸 着 時 の温 度 分 布 は、選 択 性 には大 きな影
響 を与 えない可 能 性 が高 い。650℃以 上 のシリカの蒸 着 では、水 蒸 気 処 理 により
水 素 透 過 率 が大 きく減 少 した。シリカ層 自 身 が変 化 したとは考 えにくいので、ここ
でも中 間 層 の安 定 性 が重 要 であると考 えられる。
2.2.2.2 キャピラリーミニモジュールでの検 討
図 Ⅲ-2.2.2-14に多 本 数 モジ
ュールの模 式 図 を示 す。このよう
な、複 雑 な形 状 の多 本 数 モジュ
ールに同 時 に蒸 着 できることは、
化 学 蒸 着 法 (CVD)の特 徴 の一
つであるといえる。図 Ⅲ-2.2.2-15
に多 本 数 同 時 製 膜 用 のキャピラ
リーミニモジュール(NOK社 製 )の
写 真 を示 す。3本 の多 孔 質 アルミ
図 Ⅲ-2.2.2-14 多 本 数 モジュールのイメージ図
3-338
ナ基 材 の両 端 をガラスシール材 で溶 着 し、セラミック製 の鞘 に固 定 した。外 側 の鞘
の直 径 は18.7 mmである。多 孔 質 アルミナ基 材 (φ2.7 mm)の中 心 間 の距 離 は4.
5 mmと6.1 mmの2種 類 で検 討 した。
このキャピラリーミニモジュールをバイ
トンO-リングにて金 属 モジュールに
固 定 し、CVD装 置 にセットした。実
験 装 置 図 は、図 Ⅲ-2.2.2-1と同 じ
構 造 とし、昇 温 速 度 は10 K min-1
とした。昇 温 速 度 はキャピラリーミニ
モジュールの保 護 のために昇 温 速
度 を下 げている。モジュールが大 きく
なると熱 ショックによるモジュールの
劣 化 の可 能 性 が高 くなると思 われる。
図 Ⅲ-2.2.2-15 18.7mm キャピラリーミニモジュール
の外 観
その他 のCVD製 膜 条 件 は、2.2.2.1
に示 したキャピラリー基 材 の基 材 と同 じとした。
2.2.2.1で議 論 したように、キャピラリー基 材 の膜 にて高 い製 膜 の再 現 性 が得 ら
れたことより、複 雑 な膜 構 造 をもつモジュールの製 膜 のため、複 数 本 の基 材 への同
時 製 膜 の検 討 を行 った。図 Ⅲ-2.2.2-15に示 した3本 膜 キャピラリーミニモジュール
を用 い、基 材 中 心 間 の
距 離 が4.5 mmと6.1 m
mの2種 類 について検 討
を行 った。図 Ⅲ-2.2.216に製 膜 後 の水 素 、窒
素 透 過 率 の温 度 依 存
性 を示 す。図 より明 らか
なように、基 材 ピッチが4.
5 mmおよび6.1 mmの
キャピラリーミニモジュー
ルでの違 いはほとんどな
い。600℃での水 素 透
過 率 は、それぞれ5.02
x 10-8 mol m-2 s-1 P
a-1および6.58 x 10-8
mol m-2 s-1 Pa-1であり、
水 素 /窒 素 透 過 率 比 は
図 Ⅲ-2.2.2-16 キャピラリーミニモジュールへのシリカ膜
の蒸 着
3200と4000であった。キ
3-339
ャピラリー基 材 への製 膜 試 験 結 果 と比 較 して、水 素 透 過 率 は若 干 低 いが選 択 性
が高 かった。水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーも、21.0 kJ mol-1、20.9 kJ mol-1と
キャピラリー基 材 の値 (約 21kJ mol-1)と等 しい。水 素 透 過 の活 性 化 エネルギーの
値 が同 程 度 であったことより、キャピラリーミニモジュールの蒸 着 温 度 は均 質 であっ
たといえる。以 上 より、4.5 mmおよび6.1 mmのキャピラリーミニモジュールどちらで
もキャピラリー基 材 と同 じ性 質 のシリカ膜 が製 膜 できたといえる。
次 に、基 材 ピッチが4.5 mmのキャピラリーミニモジュールへ製 膜 したシリカ膜 の
水 蒸 気 耐 久 性 を調 べた。図 Ⅲ-2.2.2-17に、500℃での水 蒸 気 暴 露 試 験 によるキ
ャピラリーミニモジュールの水 素 および窒 素 の透 過 率 の経 時 変 化 を示 す。水 蒸 気
暴 露 試 験 では、キャピラリーミニモジュールの片 側 を真 空 ポンプで吸 引 し、水 蒸 気
が膜 を透 過 する状 況 とした。水 蒸 気 バブラーの温 度 は92℃に保 ち、水 蒸 気 分 圧
は75 kPaとなるようにした。一 定 時 間 経 過 後 に、水 蒸 気 の供 給 を停 止 して水 素 、
窒 素 の透 過 試 験 を行 った。これらの操 作 を繰 り返 すことで水 蒸 気 暴 露 試 験 とした。
試 験 の初 期 に、水 素 および窒 素 透 過 率 が若 干 変 化 しているが、その後 、透 過 率
の変 化 は観 察 されなかった。初 期 に水 素 、窒 素 透 過 率 がわずかに変 化 する点 、そ
の後 の水 素 および窒 素 透 過 率 が安 定 する点 、共 にキャピラリー基 材 の膜 と同 じ傾
向 を示 した。この膜 の透 過 特 性 (特 に高 い水 素 /窒 素 透 過 率 比 )と水 蒸 気 耐 久
性 がキャピラリー基 材 へのシリカ膜 蒸 着 と同 じ性 質 を示 したことより、3本 同 時 蒸 着
においても均 質 なCVD処 理 ができたといえる。
図 Ⅲ-2.2.2-17 キャピラリーミニモジュールへ蒸 着 した
シリカ膜 の水 蒸 気 耐 久 性
3-340
2.3 分 離 膜 /基 材 と改 質 反 応 用 触 媒 の複 合 化 技 術
2.3.1 膜 反 応 器 用 触 媒 選 定 のための基 礎 試 験
2.3.1.1 緒 言
通 常 、メタン水 蒸 気 改 質 反 応 は 800℃程 度 の高 温 下 で行 われており、膜 反 応 器 にて想
定 される 500~600℃程 度 の低 温 における触 媒 活 性 や耐 コーキング性 は殆 ど明 らかでない。
そ こ で 膜 反 応 器 の 予 備 試 験 と し て 、 代 表 的 な 市 販 水 蒸 気 改 質 触 媒 を 入 手 し 、 500 ~
600℃でのそれらの活 性 や耐 コーキング性 を把 握 することを目 的 とした実 験 を行 った。
2.3.1.2 実 験
表 Ⅲ-2.3.1-1 に評 価 した触 媒 とその組 成 を示 す。反 応 は、固 定 床 型 触 媒 反 応 器 (石
英 製 :外 径 12mm、内 径 10mm)に粒 径 180~300μmに粉 砕 ・整 粒 した市 販 の改 質 触 媒
を充 填 し、550℃・S/C=3・1atm にて行 った。図 Ⅲ-2.3.1-1 に評 価 装 置 の概 略 図 を示 す。
転 化 率 は出 口 生 成 ガスを TCD 型 ガスクロマトグラフィーで分 析 することにより求 めた。コー
ク析 出 率 は燃 焼 法 により得 た。
表 Ⅲ-2.3.1-1
Ru系(A社)
Ru系(B社)
Ru系(C社)
Rh系(A社)
Ni系1(B社)
Ni系2(B社)
Ni系3(B社)
Ni系4(B社)
Ni系(C社)
評 価 した触 媒 とその組 成
主成分(MSDS記載)
2% Ru、Al2O3
2% Ru、Al2O3
2% Ru、Al2O3
0.5% Rh、Al2O3
16% NiO、MgO、SiO2、Al2O3、CaCO3
7.4% Ni、40.2% NiO、MgO、SiO2
56% NiO、MgO、SiO2
58.4% NiO、Al2O3、CeO2
12~18 % Ni、Al2O3
反応管
熱伝対
石英
ウール
3mm
Vent
5mm
ガスクロ
or Vent 3mm
Ar
H2
水蒸気トラップ
水蒸気発生器
CH4
10mm
リボンヒーター
Ar
Vent
三方コック
ストップバルブ
マスフローコントローラー
電気炉
図 Ⅲ-2.3.1-1 改 質 触 媒 評 価 装 置
3-341
触媒層
(粒径180-300 um)
2.3.1.3 結 果 と考 察
図 Ⅲ-2.3.1-2 に示 すようにメタン転 化 率 の W/F 依 存 性 を調 べた。その結 果 、Ru・Rh 系 、
Ni 系 ではそれぞれメーカーが異 なっても、ほぼ活 性 は同 程 度 であることがわかった。また、
Ru・Rh 系 の方 が、Ni 系 に比 べて半 分 の触 媒 量 で反 応 が見 かけの平 衡 転 化 率 (図 中 点
線 )に達 することがわかった。具 体 的 には、見 かけの平 衡 転 化 率 に到 達 する W/F としては、
Ru ・ Rh
系 は
15 ~ 20mg/(cc/min-CH 4 ) 程 度 で あ る の に 対 し て 、 Ni
系 は
40mg/(cc/min-CH 4 )程 度 を要 した。
なお Ru・Rh 系 、Ni 系 共 にメタンの見 かけの平 衡 転 化 率 は約 51%であり、熱 力 学 的 に予
測 される 550℃での平 衡 転 化 率 59%に対 して低 かった。熱 力 学 的 に予 測 される値 としては
メタン転 化 率 51%はおおよそ 520~530℃での値 である。転 化 率 が低 かったのは、反 応 が吸
熱 であるために触 媒 の温 度 が熱 電 対 での温 度 に比 べて低 かったことが原 因 と考 える。転
化 率 が高 いほど吸 熱 量 は大 きくなるため、高 転 化 率 を目 指 す膜 型 反 応 器 ではより温 度 低
下 が大 きくなるものと推 測 される。そのため膜 型 反 応 器 では温 度 低 下 に対 する考 慮 が必 要
となるものと考 えられる。
一 方 、耐 久 性 に関 しては、反 応 時 間 4 時 間 ではメタン転 化 率 に顕 著 な変 化 はみとめら
れなかった。しかしながら、膜 反 応 器 ではコーク析 出 による性 能 の劣 化 が懸 念 されるため、
反 応 終 了 後 の触 媒 のコーク析 出 率 (=コークとなって析 出 したメタン/反 応 したメタン)を検
討 した。Ru 系 は何 れもコークが検 出 されなかったのに対 し、Ni 系 ではコークが検 出 されるも
のがあった。図 Ⅲ-2.3.1-3 に示 すように、コーク析 出 率 は触 媒 によって異 なり、またメタン転
化 率 の上 昇 と共 にコークが析 出 する傾 向 にあった。
図 Ⅲ-2.3.1-4 に、一 般 にコーキングの原 因 になるとされている CH 4 分 解 反 応 (CH 4 →
C+2H 2 )と CO 不 均 化 反 応 (2CO→C+CO 2 )の平 衡 定 数 の温 度 依 存 性 を示 す。CH 4 分 解
反 応 は吸 熱 反 応 であり、平 衡 定 数 は高 温 ほど増 大 するのに対 して、CO 不 均 化 反 応 は発
熱 反 応 であり低 温 ほど増 大 する。結 果 として、反 応 温 度 500~600℃では、CO 不 均 化 反
応 の平 衡 定 数 は 1 より大 きく、その進 行 が熱 力 学 的 に懸 念 されることが判 明 した。従 って、
本 検 討 での、Ni 系 のコーク析 出 は、Ni の CO 吸 着 力 やコーク親 和 性 が Ru 系 に比 べて高
いためと推 察 される。
以 上 の結 果 から、膜 反 応 器 で用 いる改 質 触 媒 として、高 活 性 、且 つ、コーク析 出 性 が
低 く、また比 較 的 安 価 な Ru 系 触 媒 を用 いることに結 論 した。さらに膜 反 応 器 においては、
CO 不 均 化 反 応 によるコーク析 出 の可 能 性 に着 目 することとした。
3-342
60
50
50
40
Ru系(A社)
30
Ru系(B社)
20
Ru系(C社)
10
Rh系(A社)
メタン転化率 [ % ]
メタン転化率 [ % ]
60
40
Ni系(B社1)
Ni系(B社2)
Ni系(B社3)
Ni系(B社4)
Ni系(C社)
30
20
10
0
0
0
10
20
30
40
50
W/F [ mg/(cc/min-CH4) ]
0
10
20
30
40
50
W/F [ mg/(cc/min-CH4) ]
図 Ⅲ-2.3.1-2 触 媒 活 性 評 価 試 験 結 果 :(左 )Ru・Rh 系 、(右 )Ni 系 @550℃、S/C=3
1.E+03
0.4
Ni系(B社1)
Ni系(B社2)
Ni系(B社3)
Ni系(B社4)
0.3
0.2
0.1
メタン分解
1.E+02
平衡定数 [ - ]
コーク析出率 [ % ]
0.5
不均化反応
1.E+01
1.E+00
1.E-01
0.0
0
10
20
30
40
50
1.E-02
転化率 [ % ]
400
450
500
550
600
650
700
温度 [ ℃ ]
図 Ⅲ-2.3.1-3 メタン転 化 率 とコーク析 出 率 の関 係
図 Ⅲ-2.3.1-4 メタン分 解 と CO 不 均 化
反応の
Ni 系 触 媒 、550℃、S/C=3
平 衡 定 数 の温 度 依 存 性
3-343
2.3.2 膜 反 応 器 における水 素 引 抜 による反 応 促 進 効 果 の原 理 確 認
2.3.2.1 緒 言
反 応 条 件 、膜 透 過 係 数 、触 媒 の形 状 等 の各 種 パラメーターがメタン転 化 率 や水 素 回
収 率 に及 ぼす効 果 について、水 素 分 離 膜 として模 擬 膜 (パラジウム膜 )を用 いて検 討 を行
った。
2.3.2.2 実 験
図 Ⅲ-2.3.2-1 に、本 実 験 に用 いた、膜 -触 媒 複 合 体 性 能 評 価 装 置 を示 す。分 離 膜 に
は透 過 係 数 の異 なる 3 種 類 のパラジウム膜 を使 用 した(チューブ形 状 :外 径 約 10mm、長 さ
約 70mm)。触 媒 は 2.3.1.の検 討 で選 出 した市 販 の 2%Ru/Al 2 O 3 ペレット(大 きさ約 3mm)
を用 い、これを分 離 膜 の周 辺 に充 填 した。原 料 ガスは、スチームとメタンの比 (S/C)を 3 と
して、500~8000ml/min を供 給 した。反 応 温 度 は 550℃とし、反 応 側 圧 力 及 び透 過 側 圧
力 は、背 圧 弁 並 びに真 空 ポンプ等 を用 いて適 宜 設 定 した。なお反 応 温 度 に関 しては触
媒 層 に挿 入 した熱 電 対 により測 定 ・制 御 した。反 応 側 及 び透 過 側 のガス組 成 及 びガス流
量 をそれぞれガスクロマトグラフィーとガスメーターで分 析 することにより、メタン転 化 率 と水
素 回 収 率 (=膜 を透 過 した水 素 /反 応 により生 成 した水 素 x100)を求 めた。
図 Ⅲ-2.3.2-1 膜 -触 媒 複 合 体 性 能 評 価 装 置
3-344
2.3.2.3 結 果 と考 察
図 Ⅲ-2.3.2-2 にメタン転 化 率 と水 素 回 収 率 の反 応 圧 力 依 存 性 について示 す。反 応 は
温 度 550℃、原 料 ガスのスチームとメタンの比 を 3、透 過 側 圧 力 を減 圧 して約 0.1atm とし、
反 応 圧 力 と原 料 ガス流 量 をパラメーターとして行 った。図 Ⅲ-2.3.2-2(左 )中 、実 線 は水 素
の引 き抜 きがない場 合 の平 衡 転 化 率 を示 す。いずれの反 応 条 件 においても、平 衡 転 化
率 を超 えることが実 証 できた。また、原 料 ガス流 量 を小 さくすると平 衡 からのメタン転 化 率
の向 上 度 合 いが高 くなることや、圧 力 を高 くすると水 素 回 収 率 は向 上 し、同 じ圧 力 では原
料 ガス流 量 は小 さい方 が水 素 回 収 率 は高 くなることが判 明 した。
以 上 の結 果 から、膜 反 応 器 において、①平 衡 転 化 率 を大 きく超 えるメタン転 化 率 を得
ることが可 能 であること、②メタン転 化 率 80%以 上 を得 ることができること、③水 素 回 収 率
90%以 上 を得 ることが出 来 ることがわかった。また、本 実 験 を通 して触 媒 は安 定 して機 能 し、
またコークの析 出 もみとめられなかったことから、選 定 した触 媒 が膜 反 応 器 用 として有 望 で
100
100
80
80
水素回収率 [ % ]
メタン転化率 [ % ]
あることがわかった。
60
40
20
60
40
20
0
0
0
2
4
6
8
0
10
反応圧力 [ atm ]
2
4
6
8
反応圧力 [ atm ]
10
図 Ⅲ-2.3.2-2 反 応 圧 力 とメタン転 化 率 (左 )、水 素 回 収 率 (右 )の関 係
原 料 ガス流 量 (スチーム/メタン):(○)375/125、(△)750/250、(□)1500/500cc/min
3-345
分 離 膜 の水 素 透 過 係 数 が膜 反 応 器 の性 能 に与 える効 果 を調 べる目 的 で、透 過 係 数
の異 なる 3 種 類 の模 擬 膜 を用 いて反 応 を行 った結 果 を図 Ⅲ-2.3.2-3 に示 す。その結 果 、
水 素 透 過 係 数 が高 い分 離 膜 を用 いた方 がメタン転 化 率 の平 衡 転 化 率 からの向 上 度 合 い
が大 きいことがわかった。
膜 反 応 器 における水 素 引 き抜 き効 果 を理 解 することを目 的 として、メタン転 化 率 と水 素
回 収 率 の関 係 を平 衡 計 算 から熱 力 学 的 にシミュレートすると共 に、これまでの実 験 結 果 と
の比 較 を行 った。図 Ⅲ-2.3.2-4 に反 応 圧 力 5atm での結 果 を示 す。実 験 値 (プロット)と計
算 値 (実 線 )は概 ね良 好 な一 致 を示 した。従 って①膜 反 応 器 における水 素 引 き抜 き効 果
が熱 力 学 的 に説 明 出 来 ることと、②反 応 場 では熱 力 学 的 平 衡 が保 たれていることがわか
った。なお転 化 率 が高 い領 域 において、実 験 値 と計 算 値 で若 干 の違 いがみとめられるが
100
100
80
80
メタン転化率[ % ]
メタン転化率[ % ]
これは吸 熱 による温 度 低 下 の影 響 があらわれているためと思 われる。
60
40
20
60
40
20
0
0
0
2
4
6
8
反応圧力 [ atm ]
0
10
2
4
6
8
10
反応圧力 [ atm ]
図 Ⅲ-2.3.2-3 反 応 圧 力 とメタン転 化 率 の関 係
原 料 ガス流 量 (スチーム/メタン):(左 )375/125cc/min、(右 )1500/500cc/min
透 過 係 数 :(●)240、(▲)95、(■)59 cc/min cm 2 atm 1 / 2
メタン転化率 [ % ]
100
80
60
40
20
0
0
20 40 60 80
水素回収率 [ % ]
100
図 Ⅲ-2.3.2-4 メタン転 化 率 と水 素 回 収 率 の関 係 @5atm
原 料 ガス流 量 (スチーム/メタン):
(●)375/125、(▲)750/250、(■)1500/500cc/min、(◆)8000/2000cc/min
透 過 側 圧 力 を変 えることにより、水 素 回 収 率 を変 化 (0.1~1atm)
3-346
一 方 、高 透 過 性 膜 を用 いたガス分 離 及 び膜 反 応 器 では、膜 表 面 近 傍 での濃 度 分 極 の影
響 が懸 念 されている。そこで、この点 について検 討 を実 施 した。具 体 的 には、濃 度 分 極 が
無 い理 想 状 態 での膜 反 応 器 の反 応 と分 離 を加 味 したシミュレーションから得 られるメタン
転 化 率 や水 素 回 収 率 の計 算 値 と実 験 値 との比 較 を行 った。その結 果 、本 実 験 での膜 反
応 器 は①水 素 引 き抜 きに見 合 うだけ反 応 は促 進 されているものの、水 素 引 き抜 き自 身 が
何 らかの原 因 により目 減 りしていること、そして、②水 素 引 き抜 きの目 減 り度 合 いは水 素 回
収 率 が高 くかつ水 素 透 過 流 量 大 きいときに顕 著 であること、③高 透 過 性 膜 では水 素 引 き
抜 きの目 減 り度 合 いは大 きく、結 果 として、本 膜 反 応 器 では分 離 膜 の性 能 が十 分 には引
き出 されていない状 態 にあることがわかった。
膜 反 応 器 では反 応 と分 離 が同 時 に生 ずるため、後 者 のみを検 討 することは難 しいもの
と思 われる。そのため、反 応 を伴 わない H 2 /N 2 混 合 ガスからの水 素 回 収 率 を実 測 すると共
に、濃 度 分 極 がないと仮 定 してシミュレーションにより算 出 した計 算 値 と比 較 することで、現
行 の膜 反 応 器 における濃 度 分 極 の影 響 を検 討 した。その結 果 、図 Ⅲ-2.3.2-5 に示 すよう
に、水 素 回 収 率 の実 測 値 は濃 度 分 極 がないと仮 定 して算 出 した計 算 値 よりも小 さく、濃 度
分 極 の影 響 が示 唆 された。膜 反 応 器 内 の濃 度 分 極 は水 素 回 収 率 の低 下 、ひいては膜 反
応 器 の性 能 を低 下 させるため、その存 在 は望 ましくない。従 ってその低 減 策 を講 ずることが
必 要 と考 えられた。
水素回収率 [ % ]
100
80
60
40
20
0
0
2
4
6
8
供給圧力 [ atm ]
10
図 Ⅲ -2.3.2-5 50%H 2 -50%N 2 混 合 ガ ス か ら の 水 素 回 収 率
供 給 ガ ス 流 量 :( ● ) 1 L/min、 (● )5 L/min、 (● )10 L/min
プロットは実 測 値 、実 線 はシミュレーション値
3-347
2.3.3 膜 反 応 器 に お け る 触 媒 と 分 離 膜 の 配 置 の 検 討
2.3.3.1 緒 言
2.3.2.で述 べたように、高 透 過 性 膜 並 びにそれを用 いた膜 反 応 器 の性 能 を十 分 に引
き出 すためには濃 度 分 極 低 減 策 を講 ずることが必 要 と思 われた。そこで、濃 度 分 極 低 減
を低 減 することを目 的 として、膜 反 応 器 における触 媒 と分 離 膜 の配 置 に関 して検 討 を実
施 することとした。
2.3.3.2. 実 験
基 本 的 な実 験 方 法 は 2.3.2.と同 じであるが、新 たに 4 種 類 の Reactor configuration を
評 価 した。図 Ⅲ-2.3.3-1(a)は前 章 で用 いた Reactor configuration、(b)~(e)が今 回 新 た
に用 いたものである。(b)は反 応 管 は前 章 と同 じであるが、触 媒 が前 回 に比 べて小 さくなっ
ている。(c)~(e)は前 章 の(a)に比 べて内 径 が細 く、かつ(d)は触 媒 充 填 層 内 に整 流 板 を設
置 してある。(c)~(e)の温 度 制 御 に関 しては、反 応 管 が細 くなったことに伴 い、熱 電 対 が触
媒 層 に挿 入 出 来 なくなったために、反 応 管 外 表 面 での温 度 を測 定 すると共 に、そこでの
温 度 が 550℃となるように電 気 炉 の温 度 をマニュアルで調 整 した。
16mm
40mm
40mm
25mm
25mm
25
25mm
Membrane
Catalyst
Baffle
plate
Stainless
Thermo
couple
(
(a)
type
a
b
c
d
e
( b)
反応管内径
40mm
40mm
25mm
16mm
25mm
(c)
(
d
15mm
15mm
7.5mm
3mm
7.5mm
(d)
(
触媒粒径
3mm
1mm
1mm
1mm
1mm
(
(e)
整流板
なし
なし
なし
なし
あり
図 Ⅲ-2.3.3-1 膜 反 応 器 セットアップ(d は反 応 管 内 壁 と膜 外 表 面 の距 離 )
3-348
2.3.3.3
結果と考察
反 応 管 の内 径 (φ40mm)と触 媒 粒 径 の関 係 を考 えると高 流 量 域 での触 媒 層 における原
料 ガスの吹 き抜 けが懸 念 された。そこで、これまでよりも粒 径 の小 さな触 媒 を使 用 して
反 応 を行 い、原 料 ガスの吹 き抜 けの影 響 を調 べた。その結 果 、図 Ⅲ-2.3.3-2 (a)、(b)
に示 すように、触 媒 粒 径 が 1mm の場 合 と 3mm ではメタン転 化 率 に顕 著 な違 いはなく、
原 料 ガス吹 き抜 けの影 響 がないことが確 認 された。
次 に反 応 管 径 について検 討 を行 った結 果 について述 べる。具 体 的 には、これまで(内 径
40mm)に比 べて細 い反 応 管 (内 径 25、16mm)を用 いた。これにより、ガス線 速 はこれま
でのおよそ 3、10 倍 となった。図 Ⅲ-2.3.3-2 (a)、(c)、(d)に示 すように、より細 い反 応 管
を用 いることでメタン転 化 率 は向 上 した。この結 果 は、反 応 管 を細 くすることで、「ガス
線 速 が増 大 →乱 流 化 促 進 →境 膜 厚 み低 減 」されたために濃 度 分 極 が低 減 されたこと
によるものと考 察 される。
次 に整 流 板 設 置 効 果 を検 討 した結 果 について述 べる。図 Ⅲ-2.3.3-2 (c)、(e)に示 すよう
に、同 一 条 件 (メタン流 量 250cc/min、反 応 圧 力 9 atm)におけるメタン転 化 率 は整 流
板 を設 置 することによって 80%から 86%に向 上 した。またメタン転 化 率 は、これまでと異
なり、圧 力 の増 加 に伴 って概 ね増 大 する傾 向 が見 受 けられた。一 連 の検 討 結 果 として、
同 一 反 応 条 件 において、メタン転 化 率 、水 素 回 収 率 は図 Ⅲ-2.3.3-3 に示 すように向
上 した。
以 上 の結 果 において、メタン転 化 率 の向 上 が濃 度 分 極 が低 減 されたことによるものかどう
かを検 証 するために H 2 /N 2 混 合 ガスからの水 素 回 収 率 を比 較 検 討 した結 果 を図 Ⅲ
-2.3.3-4 に示 す。反 応 管 の細 径 化 或 いは整 流 板 設 置 により、水 素 回 収 率 は改 善 して
いることがわかった。また、水 素 回 収 率 の大 小 は、メンブレンリアクタでのメタン転 化 率 の
大 小 関 係 と合 致 した。
一 方 、触 媒 充 填 量 は内 径 16mm 反 応 管 で従 来 型 の内 径 40mm 反 応 管 に比 べて 1/10 と
なった。図 Ⅲ-2.3.3-5 の実 線 は平 衡 が成 立 していると仮 定 した場 合 に熱 力 学 計 算 か
ら得 られるメタン転 化 率 と水 素 回 収 率 の関 係 である。計 算 値 (実 線 )と実 験 値 (プロッ
ト)はよく一 致 していることから、触 媒 量 が 1/10 に低 減 しても反 応 場 は平 衡 にあるものと
判 断 した。また、反 応 管 が細 くなると、熱 力 学 平 衡 に従 って水 素 回 収 率 の向 上 分 に相
当 するだけのメタン転 化 率 が増 大 していることがわかった。
3-349
(d)
メタン転化率 [ % ]
100
反応管を 細径化
( 反応管内径40m m →25m m →16m m )
(c)
100
100
80
80
125/375
250/750
500/1500
60
40
20
メタン転化率 [ % ]
メタン転化率 [ % ]
(a)
80
125/375
250/750
500/1500
60
40
20
0
0
125/375
250/750
500/1500
60
4
6
8
10
反応圧力 [ atm ]
図 メタン転化率@反応管(内径16m m )
40
20
0
0
0
2
4
6
8
10
0
反応圧力 [ atm ]
2
4
6
8
10
反応圧力 [ atm ]
(e)
図 メタン転化率@反応管(内径40m m )
図 メタン転化率@(反応管内径25m m )
触媒を 細粒化
( 3m m →1m m )
100
80
(b)
125/375
250/750
500/1500
60
整流板を 設置
( 反応管内径25m m )
100
メタン転化率 [ % ]
(b)
メタン転化率 [ % ]
2
80
125/375
250/750
500/1500
60
40
20
0
0
2
4
6
8
10
40
反応圧力 [ atm ]
20
図 メタン転化率@反応管(内径25m m /整流板)
0
0
2
4
6
8
圧力 [ atm ]
10
図 メタン転化率@反応管(内径40m m )
図 Ⅲ-2.3.3-2
実 験 結 果 (メタン転 化 率 )
原 料 ガス流 量 (スチーム/メタン):(○)375/125、(△)750/250、(□)1500/500cc/min
3-350
メタン転化率
水素回収率
メタン転化率、水素回収率 [ % ]
100
90
80
70
60
50
a
b
c
d
e
図 Ⅲ-2.3.3-3 濃 度 分 極 低 減 策 結 果 まとめ
原 料 ガス流 量 (スチーム/メタン):750/250 cc/min、
100
100
80
80
メタン転化率 [ % ]
水素回収率 [ % ]
反 応 圧 力 :9atm、透 過 圧 力 :0.1atm
60
40
20
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
0
100
20
40
60
80
100
水素回収率 [ % ]
フィードH2濃度[%]
図Ⅲ-2.3.3-4 H2/N2 分離試験結果
図Ⅲ-2.3.3-5 メタン転化率と水素回収率の関
係
フィード H2/N2 5L/min@供給 5atm、透過 0.1atm
原料ガス流量(スチーム/メタン):
Reactor configuration:
(△)750/250、(□)1500/500 cc/min
(◇)type a、(○)type c、
Reactor configuration:
(△)type d、(□)type e
Key:(Open)type a、(Closed)type e
3-351
以 上 の検 討 により、濃 度 分 極 低 減 策 の一 つとして、細 い反 応 管 を用 いることが有 効 で
あることがわかった。一 方 で、この方 策 は配 置 出 来 る触 媒 量 が少 なくなることにつながるこ
とから、膜 反 応 器 において高 透 過 性 膜 を利 用 する際 には、触 媒 に関 しても活 性 の高 いも
のを用 いる必 要 があるものと思 われた。そこで、活 性 の異 なる二 つの触 媒 を用 い、この仮
説 の検 証 を行 った。
図 Ⅲ-2.3.3-6(黄 色 枠 内 )に高 活 性 触 媒 A と活 性 触 媒 B の膜 無 しでの活 性 を評 価 し
た結 果 を示 す。横 軸 は Space Velocity[ h - 1 ](原 料 ガス流 量 /触 媒 層 体 積 )であり、この値
が大 きいほど、原 料 ガス流 量 が大 きいことを意 味 する。図 中 の線 は水 素 の引 き抜 きがない
場 合 の平 衡 転 化 率 である。触 媒 A は 18000h - 1 においても平 衡 転 化 率 を得 ることが出 来 た
のに対 して、触 媒 B は触 媒 A に比 べて活 性 が低 く、おおよそ 3000 h -1 までしか平 衡 を達
成 出 来 なかった。
こ の 二 つ の 触 媒 を 、 同 量 ・ 同 配 置 に て 膜 と 組 み 合 わ せ た 際 の 結 果 を 図 Ⅲ-2.3.3-6
(緑 色 枠 内 )に示 す。SV<3000 h - 1 では、触 媒 A と触 媒 B において、同 じ SV の際 にメタン
転 化 率 に顕 著 な違 いはなかった。一 方 、SV>3000 h - 1 では両 者 においてメタン転 化 率 に違
いが生 じた。すなわち、触 媒 B でのメタン転 化 率 は触 媒 A でのそれに比 べて低 く、SV が大
きくなるほどその差 は大 きいものとなった。図 Ⅲ-2.3.3-6 の実 験 データを熱 力 学 的 に検 証
した結 果 、触 媒 B では、SV>3000 h - 1 では反 応 が平 衡 に達 していないことが判 明 した。以
上 の実 験 結 果 から、反 応 条 件 が高 SV 領 域 となる高 透 過 性 膜 を用 いた膜 反 応 器 では、膜
の性 能 に応 じた、高 い活 性 を有 した触 媒 を用 いることの必 要 性 が示 されたものと考 える。
メ タ ン 転化率 [ % ]
100
膜有り
80
触媒A(膜有り)
触媒A(膜無し)
触媒B(膜有り)
触媒B(膜無し)
60
膜無しでの
最大転化率
(平衡転化率)
40
20
膜無し
0
0
5000 10000 15000 20000
SV [ h -1 ]
図 Ⅲ-2.3.3-6 SV とメタン転 化 率 の関 係
3-352
2.3.4 膜 型 反 応 器 の大 型 化 に関 する検 討
2.3.4.1 緒 言
膜 型 反 応 器 の大 型 化 に関 わる問 題 点 を明 らかにすることを目 的 として、これまでよりも
膜 面 積 が約 8 倍 となる大 型 の水 素 分 離 膜 を用 いた膜 型 反 応 器 の評 価 を行 った。
2.3.4.2 実 験
分 離 膜 には大 型 のパラジウム膜 (チューブ形 状 :外 径 約 30mm、長 さ約 200mm)を使 用
した。この分 離 膜 を大 型 複 合 体 性 能 評 価 用 反 応 器 (反 応 管 内 径 60mm)に接 続 すると共
に、2%Ru/Al 2 O 3 ペレットをその周 りに充 填 した。反 応 方 法 及 び評 価 方 法 は 2.3.2.と同 様 で
ある。
2.3.4.3 結 果 と考 察
濃 度 分 極 のない理 想 的 な膜 型 反 応 器 では、単 位 膜 面 積 あたりの原 料 ガス流 量 が同 じ
であれば反 応 圧 力 とメタン転 化 率 の関 係 は同 じになるものと考 えられる。そこで原 料 ガス流
量 を膜 面 積 の比 例 分 に応 じて、小 型 (φ10mmL70mm)の時 に比 べて原 料 ガス流 量 を 8 倍
にして反 応 を行 った。原 料 ガス流 量 以 外 の反 応 パラメーターを同 一 条 件 (反 応 温 度 550℃、
反 応 圧 力 3atm、透 過 圧 力 0.1atm)として反 応 を行 った結 果 、メタン転 化 率 は小 型 反 応 器
78%(反 応 管 内 径 40mm)に対 して大 型 反 応 器 71%であり、大 型 化 に伴 って性 能 が低 下
していることが明 らかとなった。
大 型 反 応 器 が小 型 反 応 器 に比 べてメタン転 化 率 が低 かった原 因 については以 下 のよ
うに考 察 する。まずは 2.3.3.の検 討 で述 べたように濃 度 分 極 の影 響 があげられる。これに関
しては、先 に見 出 したように高 活 性 触 媒 及 び細 径 反 応 管 の適 用 と整 流 板 の設 置 により、そ
の影 響 が低 減 出 来 るものと思 われる。さらに原 因 として、大 型 反 応 器 では反 応 量 が増 大 し
たことによって、触 媒 層 内 部 の温 度 が低 下 していた可 能 性 が推 察 される。解 決 手 段 として
は、その一 つに原 料 に酸 素 (空 気 )を添 加 することによって、触 媒 層 において燃 焼 反 応 を
行 わせることにより、改 質 反 応 に必 要 な熱 を供 給 する空 気 添 加 水 蒸 気 改 質 の採 用 が挙 げ
られる。空 気 添 加 水 蒸 気 改 質 用 触 媒 としては、550℃での触 媒 試 験 から Rh/Al 2 O 3 が有 望
であることが判 明 しており、これを用 いれば、水 蒸 気 改 質 同 様 に膜 反 応 器 により空 気 添 加
水 蒸 気 改 質 を行 えるものと考 えられる。以 上 の方 策 を実 施 することにより、大 型 反 応 器 に
おいても小 型 反 応 器 の性 能 を発 現 出 来 るものと思 われる。
3-353
2.3.4 膜 反 応 器 における触 媒 の耐 久 性 に関 する検 討
2.3.4.1 緒 言
2.3.1.で述 べたように通 常 、メタン水 蒸 気 改 質 反 応 は 800℃程 度 の高 温 下 で行 われて
おり、膜 反 応 器 にて想 定 される 500~600℃程 度 の低 温 における耐 コーキング性 は一 般 に
は知 られていない。特 に膜 反 応 器 では水 素 分 圧 が低 くなるためにコーキングによる触 媒 の
失 活 が強 く懸 念 される。一 方 、2.3.2.の検 討 により、2.3.1.で選 定 した Ru 系 触 媒 が 50h 程
度 ではあるが、コークを析 出 することなく安 定 して機 能 することがわかった。本 章 では、さら
にその耐 久 性 を確 認 するべく、模 擬 膜 (パラジウム膜 )を用 いて 1,000 時 間 の連 続 試 験 を
実 施 した。
2.3.4.2 実 験
実 験 には膜 反 応 器 耐 久 試 験 装 置 (図 Ⅲ-2.3.4-1)を用 いた。本 装 置 は、種 々の安 全
機 構 が施 され、膜 反 応 器 試 験 の無 人 運 転 が行 えるようになっている。
触 媒 は 2.3.1.の検 討 で選 定 した市 販 の 2%Ru/Al 2 O 3 (1mm)を用 い、これを模 擬 膜 (チ
ューブ形 状 :外 径 約 10mm、長 さ約 70mm)の周 辺 に充 填 した。反 応 器 としては内 径 25mm
のものを用 いた。反 応 方 法 及 び評 価 方 法 は 2.3.2.と同 様 である。
図 Ⅲ-2.3.4-1 膜 反 応 器 耐 久 試 験 装 置
3-354
2.3.4.3 結 果 と考 察
反 応 圧 力 8atm、透 過 圧 力 0.1atm、反 応 温 度 550℃、S/C=3 として、連 続 1000 時 間 の
長 期 耐 久 試 験 を行 った。図 Ⅲ-2.3.4-2 及 び図 Ⅲ-2.3.4-3 に、反 応 側 の生 成 ガス組 成 及
びメタン転 化 率 の経 時 変 化 を示 す。両 者 共 に 1000 時 間 を通 して顕 著 な変 化 はみとめられ
なかった。また反 応 後 の触 媒 にはコーキングは析 出 していなかった。以 上 の結 果 から、活
性 と耐 久 性 の両 面 において、本 研 究 で選 定 した触 媒 は膜 反 応 器 に好 適 である可 能 性 が
反応側ガス組成 [%-dry]
極 めて高 いものと結 論 した。
70
60
50
40
CH4
CO2
CO
H2
30
20
10
0
0
200
400
600
800
1000
経過時間[h]
図 Ⅲ-2.3.4-2 反 応 側 の生 成 ガス組 成 の経 時 変 化
メタン転化率[%]
100
80
60
40
20
0
0
200
400
600
800
経過時間[h]
図 Ⅲ-2.3.4-3 メタン転 化 率 の経 時 変 化
3-355
1000
2.3.5 膜 反 応 器 用 構 造 体 触 媒 の作 製
2.3.5.1 緒 言
これまで本 研 究 では、分 離 膜 の周 辺 にペレット形 状 触 媒 を充 填 する Packed bed 型 膜
反 応 器 にて検 討 を実 施 してきた。しかしながら、Packed bed 型 膜 反 応 器 では、分 離 膜 と触
媒 の接 触 による分 離 膜 の物 理 的 、化 学 的 劣 化 が懸 念 されるため、実 用 的 ではない可 能 性
が考 えられる。また、分 離 膜 がモジュール化 に伴 って、大 型 化 或 いは複 雑 化 してくると、反
応 器 内 でのガス流 れを制 御 したり、圧 力 損 失 を低 減 するための工 夫 を講 ずる必 要 が生 じ
てくるものと思 われる。
一 方 、近 年 、触 媒 活 性 成 分 をハニカムやフォーム形 状 のセラミック構 造 体 に担 持 した
“構 造 体 触 媒 ”が注 目 されている。構 造 体 触 媒 はペレット形 状 に比 べて配 置 や構 造 が制
御 しやすく、また圧 力 損 失 が低 い等 の特 徴 を有 しており、膜 反 応 器 においてもメリットが期
待 される。そこで、このような観 点 からセラミック構 造 体 への改 質 触 媒 の担 持 を検 討 した。
2.3.5.2 実 験
市 販 改 質 触 媒 (2.3.1.の検 討 で選 出 した触 媒 )を粉 砕 した後 、セラミックバインダー、水
と混 合 することにより、前 駆 体 スラリーを調 合 した。このスラリーを用 いて、ディップ法 等 によ
り、各 種 セラミック構 造 体 に担 持 を行 った。また、市 販 改 質 触 媒 の代 わりに、多 孔 質 触 媒
担 体 と金 属 塩 溶 液 を用 いて、触 媒 自 身 を調 合 する方 法 についても実 施 した。得 られた構
造 体 触 媒 のメタン水 蒸 気 改 質 活 性 を 2.3.1.と同 様 の装 置 ・方 法 により評 価 した。
2.3.5.3 結 果 と考 察
前 駆 体 スラリ―の濃 度 調 整 等 により、気 孔 率 や気 孔 径 を大 きく損 なうことなく、各 種 セラ
ミック構 造 体 に触 媒 を担 持 することが出 来 た。図 Ⅲ-2.3.5-1~図 Ⅲ-2.3.5-3 に、触 媒 を担
持 したセラミックハニカム、セラミックフォーム、セラミックスティックの外 観 等 を示 す。なお触
媒 のセラミック担 体 への付 着 強 度 に関 しても良 好 であった。
3-356
図 Ⅲ-2.3.5-1 セラミックハニカム
(左 図 )左 から、触 媒 担 持 前 、触 媒 担 体 担 持 後 、触 媒 金 属 成 分 担 持 後 の外 観
(右 図 )触 媒 担 持 後 の上 から見 た外 観
図 Ⅲ-2.3.5-2 セラミックフォーム
(左 図 )触 媒 担 持 前 の微 構 造
(右図)触媒担持後の外観
3-357
(a)
基
触
(b)
(c)
(d)
図 Ⅲ-2.3.5-3 セラミックスティック
(a) 触 媒 担 持 後 外 観 、(b)触 媒 担 持 後 破 面 微 構 造 、
(c)触 媒 層 表 層 微 構 造 、(d)触 媒 層 表 層 (c)の EDS による化 学 分 析
3-358
原 料 に用 いたペレット形 状 触 媒 の性 能 が、今 回 作 製 したハニカム担 持 触 媒 においても
発 現 しているかを、担 持 触 媒 重 量 とメタン転 化 率 の関 係 の観 点 から検 証 した。その結 果 、
図 Ⅲ-2.3.5-4に示 すように、ハニカム担 持 触 媒 は原 料 としたペレット形 状 触 媒 と同 等 のメ
タン転 化 率 を発 現 していることがわかった。その他 の構 造 体 触 媒 に関 しても、原 料 触 媒 と
同 等 のメタン転 化 率 を発 現 することが実 験 から確 認 出 来 た。以 上 の結 果 から、本 検 討 に
おいて作 製 した構 造 体 触 媒 が膜 反 応 器 用 触 媒 として適 用 出 来 るものと結 論 した。なお、こ
の点 に関 しては、3.2.で詳 細 を記 すが、本 検 討 で作 製 した構 造 体 触 媒 を開 発 膜 モジュー
ルを用 いた膜 反 応 器 試 験 に用 いた結 果 、メタン転 化 率 に向 上 がみとめられ、その有 効 性
が実 験 により示 された。
50
メタン転化率 [ % ]
40
粒状品(180-300μm)
30
ハニカム担持品
20
10
0
0
5
10
15
W/F [mg/(cc/min-CH4)) ]
図 Ⅲ-2.3.5-4 粒 状 及 びハニカム担 持 触 媒 の活 性 比 較
反 応 温 度 550℃、S/C=3
3-359
2.3.6 まとめ
膜 反 応 器 においてメタン転 化 率 80%を得 ることが出 来 る触 媒 を選 定 することと、膜 反 応
器 における各 種 パラメータがメタン転 化 率 に及 ぼす効 果 を明 らかにすることを目 的 として、
各 種 検 討 を実 施 した。以 下 に得 られた結 果 を記 す。
・ 固 定 層 触 媒 試 験 及 び、模 擬 膜 を用 いた膜 反 応 器 試 験 の検 討 から、膜 反 応 器 にお
いてメタン転 化 率 80%を得 ることが出 来 る Ru 系 触 媒 を選 定 した。また、この触 媒 は
長 期 耐 久 性 にも優 れており、膜 反 応 器 で用 いる触 媒 として好 適 であることを明 らか
にした。
・ 膜 反 応 器 における各 種 反 応 パラメータや触 媒 の配 置 、充 填 量 がメタン転 化 率 に及
ぼす効 果 に関 しての知 見 を得 た。特 に膜 反 応 器 において、十 分 な反 応 促 進 効 果 を
得 るためには、触 媒 の配 置 や充 填 量 が重 要 であることを明 らかにした。
3-360
2.4 膜 反 応 器 システム要 素 技 術 の開 発
2.4.1 改 質 ガス中 の CO 低 減 化 技 術 の開 発
(1) はじめに
膜 型 反 応 器 を用 いて、天 然 ガスの水 蒸 気 改 質 による水 素 製 造 を行 う場 合 、Pd 系 薄 膜 あ
るいは多 孔 質 セラミックス分 離 膜 を使 用 すると、改 質 水 素 中 には固 体 高 分 子 電 解 質 形 燃
料 電 池 の電 極 被 毒 物 質 である CO が微 量 存 在 する。したがって、1%以 下 の濃 度 レベルの
CO を高 効 率 で除 去 する操 作 が必 要 である。多 孔 質 セラミックス膜 を構 成 するγ-アルミナ、
シリカ、ジルコニア、ゼオライトなどの材 料 は、従 来 から不 均 一 触 媒 の担 体 として利 用 され
ている。これまで、多 孔 質 無 機 膜 は分 離 機 能 だけに着 目 して開 発 されてきたが、近 年 、触
媒 活 性 を示 す触 媒 層 と分 離 層 が一 体 化 した触 媒 膜 反 応 器 に関 する研 究 が行 われるよう
になった
1-6)
。
本 開 発 では、水 熱 合 成 法 およびイオン交 換 法 を用 いてα-アルミナ管 上 に作 製 した Pt
担 持 Y 型 ゼオライト膜 を、膜 透 過 による CO 酸 化 反 応 に使 用 する。Pt 担 持 量 および膜 厚
が気 体 透 過 特 性 および CO 除 去 性 能 に及 ぼす影 響 を明 らかにした。最 後 にゼオライト膜
で透 過 と反 応 が同 時 に進 行 する場 合 の反 応 モデルを提 案 し、モデルで算 出 した CO の透
過 流 束 と触 媒 膜 の実 験 結 果 を比 較 した。
(2) 実 験 装 置 および方 法
水 ガ ラ ス 、 ア ル ミ ン 酸 ナ ト リ ウ ム お よ び 水 酸 化 ナ ト リ ウ ム を 、 モ ル 比 で Al:Si:Na:H 2 O =
1:6.4:17:488 に混 合 し、原 料 溶 液 を調 製 した。長 さ 200 mm の多 孔 質 α-アルミナ管 (NOK
㈱製 、外 径 2.1 mm、内 径 1.7 mm、長 さ 200 mm、空 間 率 39%、平 均 細 孔 径 150 nm)の外
表 面 に NaX 型 ゼオライトの結 晶 (東 ソー製 #F-9、粒 径 2-3 ・m、Si/Al=1.25)を擦 り込 み、
原 料 溶 液 とともにオートクレーブに入 れた。水 熱 合 成 は、363 K で 24 時 間 行 った。合 成 後 、
精 製 水 で洗 浄 し、室 温 で 12 時 間 乾 燥 させて、NaY 型 ゼオライト膜 とした。長 さ 30 mm に切
断 した NaY 型 ゼオライト膜 を、2.0 mmol L-1、5.0 mmol L - 1 、10.0 mmol L - 1 および 20.0
mmol L - 1 に調 製 した[Pt(NH 3 ) 4 ]Cl 2 水 溶 液 に浸 し、室 温 で 12 時 間 イオン交 換 した。精 製 水
で充 分 に洗 浄 した後 、室 温 で 12 時 間 乾 燥 させ、空 気 中 573 K で 1 時 間 焼 成 して Pt 担
持 Y 型 ゼオライト膜 とした。焼 成 時 の昇 降 温 速 度 は 1 K ・ min -1 とした。金 属 担 持 ゼオライト
膜 の性 状 は FE-SEM により観 察 し、金 属 担 持 量 およびイオン交 換 率 は SEM-EDX により
分 析 した。
Pt 担 持 ゼオライト膜 を透 過 セルに固 定 し、膜 部 分 を電 気 炉 で 473 K に加 熱 した。支 持 管
の外 表 面 に H 2 、CO 2 、CO および O 2 の混 合 気 体 (H 2 :CO 2 :CO:O 2 = 88:10:2: x )を 100 mL
min -1 で供 給 し、支 持 管 内 表 面 にはスイープガスとして Ar を 15 mL ・ min - 1 で供 給 した。気
体 の組 成 は Micro-GC(Chrompack 製 、CP2002)および GC-TCD(島 津 製 、GC-8A)によ
り分 析 し、気 体 流 量 は石 鹸 膜 流 量 計 により測 定 した。
(3)結 果 と考 察
図 Ⅲ-2.4.1-1 に Pt 担 持 した Y 型 ゼオライト膜 の SEM 写 真 を示 す。金 属 担 持 処 理 によ
3-361
る膜 の性 状 への影 響 は観 察 されなかった。支 持 体 表 面 および空 孔 内 に形 成 されたゼオラ
イト層 の膜 厚 は、それぞれ 4・・m および 10・・m であった。Y 型 ゼオライトの密 度 を 2.0
Mg ・ m -3 とすると、約 2 mg の Y 型 ゼオライトが膜 として形 成 されたことになる。また、EDX 分
析 の結 果 、イオン交 換 率 は 8.2 %、ゼオライト膜 の Pt 担 持 量 は 1.1 wt%であった。
(a)表面
図 Ⅲ-2.4.1-1
(b)断面
Pt 担 持 Y 型 ゼオライト膜 の SEM 像
図 Ⅲ-2.4.1-2 に Pt 担 持 Y 型 ゼオライト膜 において反 応 温 度 473K における膜 透 過 側 の
H 2 および CO の透 過 流 束 を示 す。O 2 を供 給 しなかった場 合 (H 2 :CO 2 :CO = 88:10:2)、H 2
および CO の透 過 流 束 はそれぞれ 7.6×10 - 2 および 6.8×10 - 4 mol m - 2 s - 1 であった。この
透 過 流 束 を透 過 率 に換 算 すると、8.5×10 - 7 および 3.4×10 - 7 mol m - 2 Pa - 1 s - 1 となる。その
結 果 、H 2 /CO の分 離 係 数 α(H 2 /CO)は 2.5 で、Knudsen 拡 散 による分 離 係 数 α(H 2 /CO)
= 3.7 より小 さかった。これは、CO が Y 型 ゼオライトに選 択 的 に吸 着 するためであると考 え
られる。
供 給 する混 合 気 体 に O 2 を加 えると、膜 内 で酸 化 反 応 が進 行 するので、CO の透 過 流
束 は減 少 した。H 2 :CO 2 :CO:O 2 = 88:10:2:2 の混 合 気 体 を供 給 すると、透 過 気 体 中 の CO
濃 度 は 1200 ppm まで減 少 した。しかしながら、供 給 気 体 中 の H 2 濃 度 が高 かったため、H 2
の透 過 流 束 はほとんど減 少 しなかった。
図 Ⅲ-2.4.1-3 に 473K における Pt 担 持 Y 型 ゼオライト膜 の H 2 透 過 率 、CO 透 過 率 お
よび分 離 係 数 と Pt 担 持 量 との関 係 を示 す。表 Ⅲ-2.4.1-1 は担 持 量 を示 す。CO 透 過 率
は Pt 担 持 量 に影 響 を受 けないが、H 2 透 過 率 については、Pt 担 持 量 2.0-3.4 wt%で極 大
となった。その結 果 、Pt 担 持 量 3.4 wt%、温 度 473 K で、H 2 /CO の理 想 分 離 係 数 は 3.4
3-362
となった。H 2 は Pt に対 して吸 着 性 を示 すので、表 面 拡 散 によって膜 内 を拡 散 する。そのた
め、Pt 担 持 量 が多 くなるにしたがって H 2 の透 過 率 は増 大 する。逆 に Pt 担 持 量 が多 くなる
と、細 孔 内 に形 成 される Pt クラスターによって、H 2 分 子 が拡 散 できるミクロ孔 径 が減 少 する
ので、H 2 の透 過 率 は減 少 する。その結 果 、H 2 の透 過 率 は極 大 を示 した。
図 Ⅲ-2.4.1-2
Pt 担 持 Y 型 ゼオライト触 媒 膜 の透 過 側 の H2 と CO の流 束
供 給 流 量 ; H2: 88.0 mL・min-1, CO2: 10 mL・min-1,
CO: 2.0 mL・min-1, O2: 0-2.0 mL・min-1. 反 応 温 度 473 K
図 Ⅲ-2.4.1-3
Pt 担 持 量 と H2 および CO 透 過 特 性 との関 係
透 過 温 度 473K
3-363
表 Ⅲ-2.4.1-1
Pt 担 持 Y 型 ゼオライト膜 の Pt 担 持 量
Pt 担 持 ゼオライト膜
#9
#10
#11
#12
イオン交 換 の溶 液 濃 度 [mmol L ]
2.0
5.0
10.0
20.0
Pt 担 持 量 [wt%]
1.3
2.0
3.4
5.7
.
-1
図 Ⅲ -2.4.1-4 に H 2 お よ び CO の 透 過 流 束 の 温 度 依 存 性 を 示 す 。 ○ お よ び △ は
H 2 :CO:Ar = 4:2:94(モル比 )の混 合 気 体 を供 給 したときの透 過 流 束 を表 し、●および▲は
H 2 :CO:O 2 :Ar = 4:2:1:97 の混 合 気 体 を供 給 したときの透 過 流 束 である。O 2 を含 む混 合 気
体 を供 給 すると、膜 透 過 により酸 化 反 応 が進 行 するので、透 過 流 速 は減 少 する。CO の酸
化 触 媒 である Pt を担 持 していない NaY 型 ゼオライト膜 では、O 2 を添 加 しても H 2 および CO
の透 過 流 束 は減 少 しなかった。一 方 、いずれの Pt 担 持 Y 型 ゼオライト膜 でも、O 2 を供 給
すると CO の透 過 流 束 は 498 K で極 小 となった。3.4 wt%Pt を担 持 したゼオライト膜 は CO
だけでなく H 2 の透 過 流 束 も減 少 した。
図 Ⅲ-2.4.1-4 透 過 流 束 に及 ぼす温 度 、Pt 担 持 量 の影 響
○●、H2;△▲、CO: 供 給 気 体 組 成 :○、H2:CO:Ar=4:2:94;●、
H2:CO:O2:Ar=4:2:1:94、
図 Ⅲ-2.4.1-5 に 498 K における透 過 気 体 中 の CO/H 2 のモル比 を示 す。Pt 担 持 量 が
3-364
3.4 wt%のとき、透 過 気 体 中 の CO/H 2 のモル比 は極 小 となった。Pt 触 媒 を用 いた CO 酸
化 は、Langmuir- Hinschelwood 型 の触 媒 反 応 であり、CO 濃 度 が減 少 するにしたがって
反 応 速 度 は増 大 する。一 方 、膜 透 過 は膜 内 の濃 度 勾 配 を駆 動 力 とするので、触 媒 膜 内
には濃 度 勾 配 が存 在 する。このとき、透 過 側 表 面 で最 も CO 濃 度 は小 さくなるので、膜 を
透 過 する CO 分 子 は、主 に透 過 側 表 面 で酸 化 されると考 えられる。すなわち、本 研 究 では、
H 2 /CO の分 離 係 数 が膜 内 における CO の濃 度 分 布 を決 定 し、透 過 気 体 中 の CO/H 2 モ
ル比 に影 響 を及 ぼしたと考 えられる。
図 Ⅲ-2.4.1-5 透 過 側 における CO/H 2 モル比
供 給 気 体 組 成 :○、H 2 :CO:Ar=4:2:94;●、
H 2 :CO:O 2 :Ar=4:2:1:94、温 度 :493K
触 媒 反 応 の反 応 率 を上 げるために、水 熱 合 成 を繰 り返 してゼオライト触 媒 膜 の膜 厚 を
変 化 させて、CO 酸 化 実 験 を行 った。図 Ⅲ-2.4.1-6 に示 すようにゼオライト膜 は多 孔 質 支
持 管 表 面 上 に形 成 された層 (I)と、支 持 管 空 隙 内 に形 成 された層 (II)から構 成 されている。
3-365
図 Ⅲ-2.4.1-6 Y 型 ゼオライト膜 の断 面 SEM 像
(a)膜 #13(水 熱 合 成 1 回 )、(b)膜 #14(水 熱 合 成 2)回 、(c)膜 #15(水 熱 合 成 3 回 )
3-366
図 Ⅲ-2.4.1-7 に 473 K における動 的 分 子 径
と単 成 分 気 体 の透 過 率 の関 係 を示 す。ここ
で、膜 厚 は図 Ⅲ-2.4.1-6 に示 した層 I および
II の見 かけの膜 厚 の和 とした。膜 厚 が大 きく
なるにしたがって透 過 率 は減 少 したが、透 過
率 と見 かけの膜 厚 の積 (透 過 係 数 )は一 定
値 ではなかった。これは、SEM 観 察 により決
定 した見 かけの膜 厚 が、透 過 特 性 を決 定 す
る無 欠 陥 層 の膜 厚 と対 応 していないためで
ある。しかしながら、膜 #13-#15 の H 2 /CO の
理 想 分 離 係 数 に大 きな差 異 はなく、12 時 間
の水 熱 合 成 を 1 回 行 うだけで、充 分 緻 密 に
Y 型 ゼオライト膜 を形 成 できることが明 らかと
なった。
図Ⅲ-2.4.1-7 単成分気体の透過率と動的分子径との関係
○:膜#13、△:膜#14、□:膜#15、透過温度 473K
図 Ⅲ-2.4.1-8 に 473 K における膜 厚 と H 2 および CO の透 過 流 束 を示 す。いずれのゼオラ
イト膜 でも、O 2 を供 給 することによって酸 化 反 応 が進 行 するので、H 2 -CO-Ar の混 合 気 体
と比 べ、H 2 -CO-O 2 -Ar の混 合 気 体 を供 給 したとき、CO の透 過 流 束 は減 少 した。一 方 、
H 2 の透 過 流 束 はそれほど大 きく減 少 しなかった。
図Ⅲ-2.4.1-8 H2 と CO の透過側流束 ○●、H2;△▲、CO;透過温度
473K:供給気体組成:○、H2:CO:Ar=4:2:94;●、H2:CO:O2:Ar=4:2:1:94
3-367
図 Ⅲ-2.4.1-9 に 473 K における透 過 気 体 中 の CO/H 2 のモル比 を示 す。供 給 気 体 の組 成
が H 2 :CO:Ar = 4:2:94 のとき、膜 #13#-#15 の H 2 /CO の分 離 係 数 は 3.2 で、透 過 気 体
中 の CO/H 2 のモル比 は 0.16 であった。O 2 を添 加 した場 合 (H 2 :CO:O 2 :Ar = 4:2:1:93)、
膜 透 過 により CO が選 択 的 に酸 化 されるので、CO/H 2 のモル比 は 0.07-0.08 へと減 少 し
たが、透 過 気 体 中 の CO/H 2 のモル比 はほとんど膜 厚 に依 存 しなかった。ここで、ゼオライト
膜 と CO の有 効 接 触 時 間 t c は、次 式 によって算 出 できる。
tc =
δ2
(2.4.1-1)
De
D e は有 効 拡 散 係 数 であり、膜 内 の濃 度 勾 配 が直 線 近 似 できるとすると、有 効 拡 散 係 数 は
次 式 より求 めることができる。
J = − De
ΔC
(2.4.1-2)
δ
・ C は 膜 両 面 の 濃 度 差 で あ り 、 ・・ は 膜
厚 である。図 Ⅲ-2.4.1-8 に示 した透 過
実 験 の結 果 から、膜 厚 5.2 ・m のゼオラ
イト膜 の H 2 および CO の有 効 拡 散 係 数
は 、 そ れ ぞ れ 1.0 × 10 - 7 お よ び 3.0 ×
10 - 8 m 2 s - 1 で、ゼオライト層 と H 2 および
CO の接 触 時 間 は、それぞれ約 0.4 ms
および 1 ms となる。式 (2.4.1-1)に示 す
ように、接 触 時 間 は膜 厚 の 2 乗 に比 例
するので、膜 厚 が 2 倍 になれば接 触 時
間 は 4 倍 になる。しかしながら、CO の酸
化 反 応 が非 常 に速 く進 行 するため、膜
厚 が 5 ・m 以 上 の触 媒 膜 では、透 過 気
体 中 の CO/H 2 のモル比 は膜 厚 に依 存
しなかった。
図Ⅲ-2.4.1-9 Pd 担持ゼオライト触媒膜の
透過側における CO/H2
モル比供給気体組成:○、
H2:CO:Ar=4:2:94;●、
H2:CO:O2:Ar=4:2:1:94、温 度 :493K
3-368
これまでに得 られた実 験 結 果 を基 にして、ゼオライト膜 内 で透 過 と反 応 が同 時 に進 行 する
場 合 の反 応 モデルを提 案 し、触 媒 膜 を用 いた反 応 実 験 とは独 立 に,気 体 の拡 散 速 度 お
よび CO の反 応 速 度 を決 定 し,モデルを用 いて算 出 した CO の透 過 流 束 を触 媒 膜 の実 験
結 果 と比 較 した。
触 媒 膜 内 に H 2 と CO を供 給 して膜 内 で酸 化 反 応 が起 こらない場 合 には図 Ⅲ-2.4.1-10
の実 線 で示 すように膜 内 の濃 度 勾 配 は直 線 となるが、酸 素 を供 給 して膜 内 で反 応 が起 き
ると破 線 で示 すように非 線 形 になる。本 実 験 では、直 径 2.1mm の多 孔 質 支 持 管 の外 表 面
に厚 さ 5-15 ・m の触 媒 膜 が形 成 されており、触 媒 層 の内 表 面 積 と外 表 面 積 は等 しいと仮
定 できる。反 応 物 質 は膜 の細 孔 内 では反 応 と同 時 に、濃 度 勾 配 に従 い透 過 側 へ拡 散 す
る。このとき、膜 内 の微 小 領 域 ・y における物 質 収 支 は次 式 となる 7 ) 。
S M J i | y – S M J i | y + ・ y – (- r i )・ V M = 0
(2.4.1-3)
ここに、 S M および・ V M はそれぞれ微 小 領 域 の断 面 積 および体 積 であり、 J i は i 成 分 の透 過
流 束 である。(2.4.1-3)式 を微 分 型 にし、透 過 流 束 が Fick の法 則 に従 うとすると、次 式 とな
る。
(d 2 C i /d y 2 ) – (- r i )/ D i = 0
(2.4.1-4)
初 期 条 件 として、供 給 側 表 面 ( y =0)における濃 度 C i f と透 過 流 束 J i f を与 えて数 値 解 析 を行
うことによって、透 過 側 における流 束 の計 算 値 を求 めることができる。供 給 側 表 面 における
透 過 流 束 J i f は、反 応 を伴 わない場 合 の透 過 流 束 で近 似 できる。膜 内 の有 効 拡 散 係 数 D i
は触 媒 膜 を用 いた気 体 透 過 実 験 を行 い、透 過 率 ・ i から次 式 を用 いて決 定 した。
D i = (・ i ・ RT /・)
(2.4.1-5)
ここに、・は膜 厚 、・は膜 の空 間 率 である。150℃から 250℃の温 度 範 囲 で決 定 した O 2 、N 2
および CO の有 効 拡 散 係 数 は(0.7-1.0)×10 - 7 m 2 s - 1 であり、これらの値 は NaX 型 ゼオラ
イト膜 における CH 4 の拡 散 係 数 の値 8 ) とほぼ一 致 した。
CO の酸 化 反 応 速 度 r C O は Pt 担 持 Y 型 ゼオライトの触 媒 充 填 床 を用 いて実 験 的 に決
定 した 7 ) 。すでに述 べたように本 反 応 は Langmuir-Hinshelwood 型 の反 応 速 度 式 で表 され
るが、この計 算 には高 濃 度 側 の反 応 速 度 式 として次 式 を使 用 した。
(- r C O ) = 8.5x10 7 exp(-60.1x10 3 /RT) C C O - 0 . 4 4 C O 2
3-369
(2.4.1-6)
図 Ⅲ-2.4.1-10 触 媒 膜 内 の濃 度 分 布
図 Ⅲ-2.4.1-11 は触 媒 膜 における透 過 側 の H 2 および CO の透 過 流 束 の温 度 依 存 性 を
示 す。図 Ⅲ-2.4.1-10 で示 すように本 系 に酸 素 を加 えない場 合 には、気 体 の流 束 は供 給
側 ( J i f )と透 過 側 ( J i f )は等 しくなるが、膜 内 で CO 酸 化 が起 こる場 合 には、透 過 側 の CO 流
束 が小 さくなる。そこで、図 Ⅲ-2.4.1-11 では触 媒 膜 内 の反 応 の指 標 として H 2 および CO
の透 過 流 束 をプロットした。図 Ⅲ-2.4.1-11 において実 測 値 (○△)とその計 算 値 (実 線 )は
H 2 :CO=98:2 の混 合 気 体 を用 いた透 過 実 験 の結 果 であり、この場 合 H 2 と CO の透 過 流 束
(速 度 )は共 に温 度 に大 きく影 響 しなかった。実 測 値 (●▲)とその計 算 値 (破 線 )は
H 2 :CO:O 2 =97:2:1 の混 合 気 体 を用 い、触 媒 膜 上 で反 応 と分 離 が同 時 に進 行 している場
合 の結 果 であり、H 2 の透 過 流 束 (●)は透 過 実 験 における透 過 流 束 (〇)と一 致 しており、
膜 内 で H 2 の酸 化 が進 行 していないことを示 している。一 方 、膜 内 で酸 化 反 応 が起 こって
いる場 合 の CO の透 過 流 束 (▲)は温 度 と共 に減 少 した。
図Ⅲ-2.4.1-11 白金担持ゼオライト触媒膜における透過側の気体流束
(〇●)水素、(△▲)一酸化炭素、(〇△)膜透過、(●▲)触媒膜
3-370
図 Ⅲ-2.4.1-12 は触 媒 膜 内 で 250℃で酸 化 を行 った場 合 の H 2 および CO の透 過 流 束
と O 2 濃 度 との関 係 を示 す。実 線 は計 算 値 である。CO の透 過 流 束 は O 2 濃 度 が増 加 する
と共 に減 少 した。図 Ⅲ-2.4.1-11 および図 Ⅲ-2.4.1-12 の結 果 から、計 算 値 は実 測 値 と良
く一 致 しており、本 反 応 モデルが妥 当 であることを示 している。モデル計 算 に用 いた反 応
速 度 式 は Pt 担 持 Y 型 ゼオライトの触 媒 充 填 床 を用 いて実 験 的 に決 定 した値 を用 いており、
このことから膜 状 および粒 状 の触 媒 の反 応 速 度 はほぼ同 じであることが示 唆 される。
図Ⅲ-2.4.1-12 透過側の H2 および CO 流束に及ぼす O2 濃度の影響
反応温度 250℃、(〇)H2、(△)CO、H2:CO:O2=98:2:(0~2)
図 Ⅲ-2.4.1-13 は数 値 計 算 によって決 定 した 200℃における膜 内 の CO 濃 度 分 布 および
局 所 CO 酸 化 反 応 速 度 分 布 を示 す。横 軸 は膜 供 給 側 からの距 離 を膜 厚 で除 すことで無
次 元 化 している。触 媒 膜 内 で反 応 が起 きない場 合 (H 2 :CO=98:2 の条 件 で計 算 )には濃
度 分 布 が直 線 状 であり、酸 化 反 応 が起 こる場 合 (H 2 :CO:O 2 =96.3:2:1.7 の条 件 で計 算 )
に は 非 線 形 と な る 。 本 実 験 条 件 で は 酸 化 速 度 は CCO-0.44 に 比 例 す る こ と か ら 、 図 Ⅲ
-2.4.1-13 の局 所 反 応 速 度 分 布 から明 らかなように、CO 酸 化 反 応 は膜 供 給 側 に比 べて
CO 濃 度 が低 い膜 透 過 側 で寄 与 が大 きかった。
図Ⅲ-2.4.1-13 触媒膜の反応モデル計算による膜内濃度分布と局所反応速度
3-371
(4)おわりに
多 孔 質 α-アルミナ管 上 に作 製 した Pt 担 持 Y 型 ゼオライ触 媒 膜 を作 製 し、CO の選 択
酸 化 反 応 を行 った結 果 、Pt 担 持 によって気 体 透 過 性 が変 化 し、Pt 担 持 量 3.4wt%で CO
に対 する H 2 の分 離 係 数 が極 大 となり、このことが触 媒 膜 による CO の選 択 酸 化 に大 きく影
響 し、この担 持 量 で透 過 側 の CO/H 2 モル比 が極 小 となった。また、膜 厚 を大 きくすると、
気 体 透 過 率 は減 少 するが、透 過 側 の CO/H 2 モル比 は変 わらなかった。CO 酸 化 反 応 は
Langmuir-Hinshelwood 型 の反 応 速 度 式 で表 され、CO 濃 度 が低 いほど反 応 速 度 が増 大
する条 件 がある。触 媒 膜 の反 応 透 過 モデルを用 いて算 出 した気 体 の透 過 流 束 は、触 媒
膜 を用 いた反 応 透 過 実 験 の結 果 とよく一 致 した。以 上 の結 果 から、本 開 発 の Pt 担 持 Y 型
ゼオ ラ イ ト 触 媒 膜 を 用 い るこ と に よ り 、 最 終 目 標 で ある 膜 モ ジュ ー ル か ら の 透 過 ガ ス 中 の
CO 濃 度 を 10ppm 以 下 まで低 減 することができた。
参考文献
1)
長 谷 川 、草 壁 、諸 岡 、高 田 、都 留 、浅 枝 、化 学 装 置 、44 (2002) 88.
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Y. Hasegawa, A. Ueda, K. Kusakabe and S. Morooka, Appl. Catal. A: General ,
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solids , New York, Wiley (1998)
3-372
2.4.2 反 応 熱 供 給 技 術 の開 発
2.4.2.1 キャピラリータイプ
2.4.2.1 キャピラリータイプモジュール
多 孔 質 α-アルミナキャピラリー基 材 を用 いた膜 反 応 器 システムの開 発 では、メタン燃 焼
による熱 供 給 方 法 を考 慮 し、外 部 から均 一 に水 素 分 離 膜 へ熱 供 給 が可 能 なモジュール
構 造 の実 験 的 および解 析 的 検 討 を実 施 した。実 験 的 検 討 ではキャピラリー充 填 本 数 、配
置 形 態 を変 化 させた直 径 30mm のキャピラリー型 モジュールを製 作 し、外 部 からの熱 に対
するモジュール内 部 の熱 分 布 状 態 を調 べ、均 一 な熱 供 給 状 態 となるキャピラリー配 置 に
ついての基 礎 的 知 見 を得 ることを狙 った。解 析 的 検 討 では、モジュールの熱 応 力 解 析 を
実 施 した。これらの結 果 に基 づきキャピラリータイプのモジュールエレメントの最 適 設 計 に
ついて検 討 した。
(1) モジュールエレメントモデルによる熱 分 布 計 測
外 径 30mm モ ジ ュ ー ル エ レ メ ン ト 内 の キ ャ ピ ラ リ ー 配 置 を 、 キ ャ ピ ラ リ ー 間 の ピ ッ チ を
4.5mm とし正 三 角 配 置 (19 本 )と正 方 配 置 (21 本 )のエレメントモデルを検 討 した(図 Ⅲ
-2.4.2-1)。この配 置 に基 づき、全 面 にガラス被 覆 を施 した長 さ 350mm のキャピラリーおよ
び 側 面 開 口 部 が 2 箇 所 で ある 保 護 管 を 用 い て モ ジ ュ ー ル エ レ メ ン ト を 製 作 し た 。 図 Ⅲ
-2.4.2-2 に外 観 を示 す。固 定 されたキャピラリーのうち 5 本 を選 定 し、内 部 へ熱 電 対 を設
置 した状 態 でステンレス製 ハウジングへ挿 入 し、大 気 炉 中 で昇 温 速 度 6 ℃min - 1 、500 ℃
で 10 分 間 保 持 の 熱 履 歴 を 与 え た 。 そ の と き の 内 部 の 温 度 を 計 測 し た 。 結 果 を 図 Ⅲ
-2.4.2-3 に示 す。各 点 の温 度 差 は 5~10℃程 度 あったが、正 方 配 置 の方 がその差 は小 さ
かった。また、保 護 管 近 くのキャピラリーが高 温 となる傾 向 がみられた。保 護 管 とキャピラリ
ーとの相 互 関 係 が重 要 であることが推 測 された。この検 討 によって外 部 から熱 が供 給 され
る場 合 には、正 方 配 置 の場 合 にキャピラリー間 の温 度 分 布 が少 ないとの知 見 を得 た。
2
2
3
4
1
3
4
5
1
5
図Ⅲ-2.4.2-1 熱供給モデル試験用 φ30 mm モジュールエレメントの断面イ
メージ
図中数字は温度計測を行ったキャピラリーとその番号
3-373
図 Ⅲ-2.4.2-2 熱 供 給 モデル試 験 用 φ30mm モジュー
ルエレメント(正 三 角 配 置 タイプ)
このエレメントではφ3mm キャピラリーを 19 本 挿 入
1
2
3
4
5
600
温度 [℃]
温度 [℃]
600
550
500
450
60
70
80
550
500
450
60
時間 [min]
70
時間 [min]
(b)
(a)
図 Ⅲ-2.4.2-3 外 部 加 熱 によるモジュールエレメントモ
デル内 部 の温 度 変 化
各 実 線 はキャピラリーの位 置 を示 す(a)正 三 角 配 置
(b)正 方 配 置 (図 Ⅲ-2.4.2.1-1 を参 照 )
3-374
80
(2) キャピラリータイプモジュールエレメントの熱 応 力 解 析
モジュールの熱 応 力 解 析 を行 うことにより、試 行 錯 誤 によるモジュール設 計 ではなく、よ
り高 性 能 なモジュールをより短 期 間 で開 発 することが可 能 となる。このような考 えに基 づき、
ここでは、熱 応 力 解 析 を外 部 委 託 により実 施 した。解 析 には、汎 用 FEM 解 析 ソフトウエア
ANSYS9.0 を用 いた。温 度 条 件 は 25 ℃から 500 ℃までの温 度 変 化 をステップ状 およびラ
ンプ状 に変 化 させた。昇 温 速 度 は 10 ℃min - 1 を主 として、必 要 に応 じ 5、20 ℃min - 1 で解
析 した。また、定 常 状 態 を求 める熱 解 析 、0.1, 0.5, 1 MPa の圧 力 負 荷 を加 えた解 析 も実
施 した。
有 限 要 素 には、CVD 用 キャピラリータイプモジュールの構 成 と同 じサイズ、外 径 38.1
mm の保 護 管 内 に 19 本 または 21 本 のキャピラリー(外 径 3 mm、内 径 2 mm)を位 置 決 め
プレートを用 いて固 定 したものをモデルとした。保 護 管 は側 面 開 口 部 を持 つものとともに開
口 部 を持 たないものについて解 析 した。実 際 の計 算 では対 称 性 を考 慮 し、1/8 モデルを
採 用 した。キャピラリー19 本 、ピッチ 6mm、開 口 部 ありのモデルを例 として図 Ⅲ-2.4.2-4 に
示 す。保 護 管 の肉 厚 を標 準 の 5.0mm のほか 0.5, 1.0, 3.0mm と 3 種 類 変 更 した解 析 も実
施 した。加 熱 については、全 空 間 から行 う場 合 と、保 護 管 に囲 まれた内 部 空 間 は行 わな
い場 合 を実 施 した。さらに、 一 部 の解 析 においては、保 護 管 と位 置 決 めプレートとキャピ
ラリーとで囲 まれた空 間 に対 して、圧 力 を負 荷 した。表 Ⅲ-2.4.2-1 に今 回 の解 析 に用 いた
各 構 成 部 材 の物 性 値 をまとめて示 す。また、これらの各 種 条 件 を表 Ⅲ-2.4.2-2 にまとめて
示 す。
図 Ⅲ-2.4.2-4 キャピラリータイプモジュールエレメ
ントの 1/8 解 析 モデル
3-375
表 Ⅲ-2.4.2-1 解 析 に用 いた各 構 成 部 材 の物 性 一 覧
保護管
キャピラリー
ガラスシール
位置決め
プレート
接着剤
ヤング率
[Pa]
3.5×10 11
4.0×10 11
8.0×10 10
3.5×10 11
8.0×10 10
ポアソン比
[-]
0.25
0.25
0.22
0.25
0.22
熱伝導率
[W m-2 K-1]
-3
密度
[kg m ]
比熱
[J kg-1 K-1]
線膨張率
-6
25
30
2.90×10
-1
×10 [K ]
3
1.7
1.55×10
800
3
25
2.30×10
790
3
1.7
2.90×10
502
3
2.30×10 3
800
502
300
600
300
600
300
600
300
600
300
600
6.93
7.57
7.10
7.65
6.60
6.60
6.93
7.57
7.60
7.60
空気との熱伝
[W m-2 K-1]
達係数
5.0
表 Ⅲ-2.4.2-2 モジュールエレメントの熱 応 力 解 析 条 件 一 覧
No.
キャピラリー
1
2
本数
19
19
ピッチ[mm]
6.0
4.5
3
4
5
6
19
19
21
21
7
8
9
10
開口部
昇温方法
-1
圧力
関連 備考
あり
なし
[℃min ]
10
10
[MPa]
なし
なし
5.0
6.0
5.0
5.0
なし
なし
あり
なし
10
10
10
10
なし
なし
なし
なし
19
19
19
19
6.0
4.5
5.0
6.0
あり
なし
なし
なし
ステップ
ステップ
ステップ
ステップ
なし
なし
なし
なし
11
12
13
21
21
19
5.0
5.0
4.5
あり
なし
なし
ステップ
ステップ
10
なし
なし
0.1
14
15
16
17
19
19
19
19
6.0
4.5
6.0
4.5
なし
なし
なし
なし
10
10
10
10
0.1
0.5
0.5
1.0
18
19
20
21
19
19
19
19
6.0
4.5
6.0
4.5
なし
なし
なし
なし
10
ステップ
ステップ
ステップ
1.0
0.1
0.1
0.5
22
23
24
19
19
19
6.0
4.5
6.0
なし
なし
なし
ステップ
ステップ
ステップ
0.5
1.0
1.0
25
26
27
28
21
5.0
なし
10
1
6
19
19
19
19
6
6
6
6
あり
なし
あり
なし
10
10
ステップ
ステップ
なし
なし
なし
なし
1
4
7
10
外部加熱
外部加熱
外部加熱
19
19
19
19
6
6
6
6
なし
なし
なし
なし
5
20
10
10
1
1
1
1
19
19
19
6
6
6
なし
なし
なし
10
10
10
1
1
1
18
外部加熱。保護管5mm
29
30
31
32
33
34
35
36
3-376
No.
外部加熱
18 昇温条件
18 昇温条件
18 保護管0.5mm
18 保護管1mm
18 保護管3mm
18 接着剤なし
解 析 結 果 全 体 から、以 下 のことがわかった。伝 熱 解 析 結 果 全 般 については、いずれの
場 合 も温 度 上 昇 は、キャピラリーが早 かった。またキャピラリーの中 でも長 手 方 向 中 心 付 近
で早 い様 子 が観 察 された。キャピラリーは肉 厚 が薄 いので熱 的 飽 和 になりやすく、キャピラ
リーの温 度 上 昇 が始 まるのが相 対 的 に早 いことに起 因 していると思 われる。定 常 状 態 では、
昇 温 方 法 によらず 500℃一 定 となった。熱 応 力 解 析 結 果 全 般 については、いずれの場 合
も、温 度 上 昇 につれ応 力 が増 加 した。一 方 、定 常 状 態 では、各 材 料 の線 膨 張 率 に大 きな
差 がないため、自 由 膨 張 の状 態 に近 く、発 生 している応 力 は小 さい結 果 となった。
変 形 量 としては僅 かであるが、その形 状 を拡 大 して確 認 すると、図 Ⅲ-2.4.2-5 の例 で示
すように、キャピラリーが長 手 方 向 中 央 付 近 に集 合 するような変 形 を示 していることが確 認
できた。この原 因 は、①キャピラリーの温 度 上 昇 は他 の部 材 に対 して相 対 的 に早 いため、
キャピラリーが早 期 に熱 膨 張 する。②キャピラリーが伸 張 し、その結 果 目 皿 を押 し出 そうと
する現 象 が生 じる。③一 方 、目 皿 は中 央 付 近 が構 造 的 に変 形 しやすいので、このキャピラ
リーの伸 張 および目 皿 の面 内 膨 張 によって、目 皿 の中 央 付 近 がドーム状 に膨 らむ。④キャ
ピラリーは曲 げ変 形 を起 こし、キャピラリーが長 手 方 向 中 央 付 近 に集 合 するような変 形 挙
動 を示 していると考 えられる。
これとは逆 に、熱 がエレメントの保 護 管 外 部 からのみ供 給 される場 合 には、図 Ⅲ
-2.4.2-5 のように、キャピラリーがモジュール中 心 部 で長 手 方 向 中 央 付 近 に集 合 するよう
な変 形 を示 していた。この場 合 には、保 護 管 や位 置 決 めプレートが、キャピラリーよりも先
に熱 膨 張 するためであると考 えられる。
図 Ⅲ-2.4.2-5 熱 膨 張 によるキャピラリーの変 形 例 (1)。 変 形
倍 率 50 倍 拡 大
長 手 方 向 中 央 部 にキャピラリーが集 合 した。
加 熱 を保 護 管 外 部 からのみとした場 合 、温 度 上 昇 は保 護 管 から開 始 され、位 置 決 めプ
3-377
レート、キャピラリーと順 に温 度 が上 昇 した。また、全 般 的 な温 度 上 昇 も緩 やかであった。さ
らに、キャピラリーに関 して長 手 方 向 中 心 付 近 の温 度 上 昇 が、端 面 側 よりも遅 くなる様 子
が観 察 された。そのため、昇 温 条 件 によっては図 Ⅲ-2.4.2-6 のように図 Ⅲ-2.4.2-5 とは逆
の方 向 、すなわちモジュールの中 心 付 近 で長 手 方 向 に対 して膨 らむ場 合 がみられた。
図 Ⅲ-2.4.2-6 熱 膨 張 によるキャピラリーの変 形 例 (2)。 変 形 倍
率 100 倍 拡 大
長 手 方 向 中 央 部 にキャピラリーが膨 らんだ。
以 下 に解 析 で条 件 変 更 した各 種 パラメータの影 響 をまとめる。
a. 昇 温 過 程 の違 いの影 響
ランプ状 に昇 温 した場 合 は、徐 々に応 力 が発 生 し解 析 後 半 の時 刻 で最 大 応 力 が示 さ
れた。一 方 、ステップ状 に昇 温 した場 合 は、応 力 変 化 が急 激 で解 析 初 期 の時 刻 に最 大 応
力 を示 し、全 体 が等 温 になるにつれ、応 力 は減 少 した。昇 温 方 法 の違 いによる発 生 応 力
の値 の差 は、他 のパラメータを変 更 した場 合 の差 よりも大 きかった。
b. 圧 力 負 荷 の影 響
圧 力 負 荷 による影 響 は微 小 であった。構 造 物 の弾 性 率 が全 体 として大 きいため、本 解
析 での圧 力 荷 重 による変 形 の割 合 が、熱 膨 張 による変 形 よりも遥 かに小 さいことによるも
のと考 える。
c. キャピラリー本 数 の影 響
伝 熱 解 析 での差 はほとんど観 察 されなかった。熱 応 力 解 析 でも差 は比 較 的 小 さかった。
ガラスシールの変 形 に着 目 すると 19 本 の方 が 21 本 よりも同 時 刻 での変 形 が若 干 大 きく、
発 生 応 力 も大 きかった。21 本 配 置 の方 が、目 皿 を均 一 に押 し出 すため、このような現 象 と
なるものと考 えられる。
3-378
d. キャピラリーピッチの影 響
伝 熱 解 析 での差 はほとんど観 察 されなかった。熱 応 力 解 析 でも差 は比 較 的 小 さいが、
ガラスシールの変 形 に着 目 するとピッチが狭 い方 が、ピッチが広 い方 よりも同 時 刻 での変
形 が若 干 大 きく、発 生 応 力 も大 きかった。ピッチが大 きい方 が、目 皿 を均 一 に押 し出 すた
め、このような現 象 となるものと考 えられる。
e. ガラスシールについて
ガラスシール面 内 で最 大 相 当 応 力 を示 すのは、中 央 の穴 の外 縁 部 であることが確 認 で
きた。ガラスシールは位 置 決 めプレートと同 様 に、面 内 膨 張 しつつドーム状 に変 形 するの
で、その頂 点 となる中 央 部 の穴 付 近 で最 大 応 力 を示 すものと思 われる。
f. 保 護 管 厚 さの影 響 について
温 度 上 昇 は保 護 管 が薄 いほど早 くなった。保 護 管 の厚 さの影 響 を解 析 したときの温 度
伝 達 条 件 は保 護 管 外 面 からのみ行 われる条 件 設 定 である。そのため保 護 管 の体 積 が減
少 することにより、温 度 上 昇 が促 進 されていることを示 していると考 えられる。また、温 度 上
昇 の観 察 と同 様 に保 護 管 が厚 くなり、温 度 上 昇 が緩 やかになるほど発 生 応 力 は低 くなって
いる。
g. 昇 温 速 度 の影 響 について
温 度 上 昇 の速 度 を 5,20,10℃ min - 1 に変 更 した解 析 を実 施 した。温 度 上 昇 が早 いほど
発 生 応 力 は大 きくなっている。
各 種 解 析 結 果 のうちガラスシール面 での最 大 相 当 応 力 を幾 つかのグラフにまとめた。図
Ⅲ-2.4.2-7 には開 口 部 なしの保 護 管 を用 いた場 合 で、19 本 (正 三 角 配 置 )および 21 本
(正 方 配 置 )のキャピラリーピッチの違 いによる最 大 相 当 応 力 を示 す。この図 より加 熱 条 件
はランプ条 件 で、キャピラリー配 置 ピッチはできるだけ広 く、同 じピッチならば挿 入 キャピラリ
ー本 数 は多 い場 合 に、ガラスシール面 への応 力 集 中 は少 なく、ガラスシール面 の破 壊 を
低 くすることができると予 想 される。
図 Ⅲ-2.4.2-8 にはモジュール加 熱 時 におけるガラスシール面 の最 大 相 当 応 力 のエレメ
ント内 空 間 の圧 力 依 存 性 を示 す。この場 合 も開 口 部 なしの保 護 管 による解 析 結 果 を示 す。
内 部 圧 力 増 加 に伴 い、わずかに応 力 が増 加 するものの、図 Ⅲ-2.4.2-7 ほどの変 化 はみら
れなかった。
3-379
最大相当応力 / MPa
500
400
300
200
100
0
3
19本モジュール
ステップ加熱
ランプ加熱
21本モジュール
ステップ加熱
ランプ加熱
4
5
6
7
キャピラリーピッチ / mm
図 Ⅲ-2.4.2-7 モジュール加 熱 時 におけるガラスシール面 の最 大 相 当 応
力 のキャピラリーピッチによる変 化
開 口 部 なしの保 護 管 による解 析 結 果
最大相当応力 / MPa
500
400
300
200
ステップ加熱
ピッチ4.5mm
ピッチ5.0mm ピッチ6.0mm
ランプ加熱
ピッチ4.5mm
ピッチ6.0mm
100
0
0.5
1
モジュール内圧力 / MPa
図 Ⅲ-2.4.2-8 モジュール加 熱 時 におけるガラ スシール面 の最 大 相 当 応 力
のエレメント内 空 間 の圧 力 依 存 性
開 口 部 なしの保 護 管 による解 析 結 果 。
3-380
(3) キャピラリータイプモジュールエレメントの設 計 指 針
以 上 の実 験 ならびにシミュレーションから以 下 の方 針 が得 られた。同 じ大 きさの保 護 管
にキャピラリーを配 置 する場 合 、挿 入 可 能 な本 数 をできるだけ疎 に配 置 する。配 置 方 法 に
は 大 き な 影 響 を 受 け な い 。 後 述 す る CVD 製 膜 装 置 の 仕 様 で は エ レ メ ン ト の 外 径 は
38.1mm、内 径 28.1mm に固 定 されている。そのため図 Ⅲ-2.4.2-1 に示 した配 置 が、設 計
すべき配 置 構 造 にほぼ近 い。これらを考 慮 すると正 三 角 配 置 でキャピラリー19 本 挿 入 する
場 合 には、ピッチ 6mm、21 本 挿 入 する場 合 には正 方 配 置 でピッチ 5mm が性 能 のよいモジ
ュール製 作 が可 能 となると予 想 される。
(4) まとめ
多 孔 質 α-アルミナキャピラリー基 材 を用 いたモジュールエレメントの設 計 について熱 供
給 および水 素 透 過 性 の両 側 面 から検 討 した。その結 果 、以 下 のような知 見 を得 た。
・ モジュールエレメントモデルによる外 部 からの加 熱 による内 部 温 度 の実 測 から、保 護
管 に開 口 部 のあるモジュールエレメントでは、モジュール内 部 への均 等 な加 熱 には
正 方 配 置 21 本 挿 入 が有 利 であった。
・ 熱 応 力 解 析 から、キャピラリー配 置 ピッチを広 げ、加 熱 はステップ的 に行 なわず、で
きるだけ多 くのキャピラリーを挿 入 する。今 回 の場 合 、正 三 角 配 置 19 本 と正 方 配 置
21 本 とでは 19 本 配 置 の場 合 に、発 生 する熱 応 力 をより低 く抑 制 できる可 能 性 が予
測 された。
3-381
2.4.2.2
チューブラータイプ
2.4.2.2.1 目 的
複 数 のチューブラータイプ基 材 をエンドキャップ等 で接 合 し束 ねた水 素 分 離 膜 を組 込 ん
で作 製 するチューブラータイプモジュール(以 下 モジュール)において、膜 面 での温 度 を制
御 するための構 造 設 計 を行い、分 離 膜 エレメントの加 熱 を効 果 的 に行 えるようモジュール設
計 にフィードバックする。実 際 にモジュールを作 製 し試 験 することで、膜 反 応 器 として実 用 化
するために必 要 な基 礎 データを取 得 する。具 体 的 には、モジュール流 体 解 析 装 置 を用いて
解 析 することで膜 面 の温 度 を制 御 できるような構 造 設 計 の検 討 を行 い、水 素 分 離 膜 を組 込
んだモジュールを作 製 して試 験 を行 う。これらの結 果 を組 合 せてすすめていくことで実 用 化
に必 要 な基 礎 データを収 集 するとともに、実 証 試 験 条 件 へフィードバックしていく。
2.4.2.2.2 試 験 装 置 と試 験 モジュール
2.4.2.2.2.1 モジュール流 体 解 析 装 置
2次 元 円 筒 対 称 座 標 の膜 透 過 サブモジュール・反 応 サブモジュールを組 み込 んでカスタ
マイズを施したモジュール流 体 解 析 装 置を導 入 した。
まず予 備 的 な検 討 として、簡 易 的 な設 定 条 件 でチューブラー膜 (φ10、L120)1 本 を用 い
たチューブラータイプモジュール反 応 器をモデルとして熱 流 体 解 析 試 験 を行った。
図 Ⅲ-2.4.2.2-1 は、そのモデル図である。左 のガス導 入 管 から 2.0×10 -2 [Nm 3 /s] のメタン・
水 蒸 気 混 合 気 体 (混 合 比 1:1)を導 入 ガスとして流 し、中 心 軸 上 にチューブラー膜 を置 いて
チューブラー膜 右 端 の透 過 ガス導 出 管 から水 素 を取 り出 す。反 応 器 の外 周 にヒーターを置
いて 500℃に設 定 して改 質 反 応 を行 った場 合 の、反 応 器 内 のリフォーミング反 応 ・ガス流
束 ・熱 流 束 などについて解 析 を行 い回 収 水 素 量 ・供 給 熱 量 の検 討 を行 った。その結 果 、膜
透 過 側 から回 収 されるガスは水 素 97%、ガス回 収 流 量 5.5×10 -6 [Nm 3 /s]、ヒーターからの供
給 熱 量 7.2×10 2 [W]という結 果 になった。
反応器容器
ヒーター
膜 :φ10,L120
膜透過側
出口
0.1MPa 開 放
導 入 ガス
CH 4 ,H 2 O=1:1(mol 比 )
ガス導 入 管
0.3MPa 500℃
透 過 ガス導 出 管
排出側出口
0.3MPa 開 放
図 Ⅲ-2.4.2.2-1 モジュール流 体 解 析 装 置 予 備 試 験 のモデル
3-382
モジュール流 体 解 析 装 置 による解 析 が可 能 であることが確 認 できたため、モジュールをモ
デル化した以 下 の条 件 で反 応 熱 供 給 技 術 の検 討をすすめることにした。
さて、モジュール流 体 解 析 装 置 に組 込 んだサブモジュールは2次 元 円 筒 対 称 座 標 用 のも
のである。そのため、モジュールでの検 討 を行 うのに際 し、ハウジング内 部 の水 素 分 離 膜 モ
ジュール(図 Ⅲ-2.4.2.2-2)について z 軸を中 心 軸 とする 2 次 元 円 筒 対 称 にモデル化 して図
Ⅲ-2.4.2.2-3 のように 6 本 の膜エレメントをひとつにまとめた円 筒 対 称 形 状 に単 純 化 した。
このとき、膜 面 積 は 0.04m 3 、中 心 軸 から膜 面 の距 離 は 18mmで、これらの数 値は実 際 の水
素 分 離 膜 モジュールと同 じ値になっている。
このモデルの inlet から一 定 量 の導 入 ガスを流 す。膜を透 過 した分 離 ガスは outlet から、
膜を透 過 しないガスは waste からモジュール外 へ放 出される。またハウジングの側 面 に接 し
ている一 定 温 度 に設 定 されたヒーターで加 熱 するとする。このような条 件 でガス・熱 がどのよ
うに流 れるか解 析 した。また、触 媒 のモデル化 については、空 間 内 に均 質 な多 孔 質 固 体 が
詰 まっているとするモデル(domain material)を用 いた。これにより触 媒 を詰 めることにより膜
面 の温 度 制 御 にどのような影 響 があるかを評 価 した。
温度測定(3 点)
T1
T3
T2
z軸
Outlet
分離膜表面
エンドキャップ
図Ⅲ-2.4.2.2-2 ハウジング内部の分離膜モジュール(z 軸より上のみ表示)
T1~T3 は、熱電対による温度測定点
ハ
ウジング
反応容器側面
T '1
T '2
T '3
waste
Inlet
Outlet
z軸
分離膜表面
エンドキャップ
図Ⅲ-2.4.2.2-3 モジュールのモデル化(z 軸より上のみ表示)
T1~T3 は、実験の温度測定点に対応する膜表面の温度解析点
※以下、解析結果を含めた図はアスペクト比を変えて表示しています
3-383
2.4.2.2.2.2 水 素 分 離 膜 モジュールシステム
水 素 分 離 膜 モジュールシステムは、水 素 分 離 膜 およびハウジング・ヒーター・触 媒 ・接 続
部 から構 成 される。図 Ⅲ-2.4.2.2-4 にハウジングの外 観を、図 Ⅲ-2.4.2.2-5 にハウジングに
組 込 む水 素 分 離 膜 モジュールを示 す。ハウジングは金 属 製 で、600℃に加 熱 して容 器 内 に
0.99MP の内 圧 をかけても破 損が起 こらないことを確 認 している。ヒーターは、実 際 に熱を供
給 する電 気 炉 と、大 流 量 の導 入 ガスを加 熱 するためにハウジングに設 けたプレヒート部 分 を
さす。導 入 ガスはプレヒート部 を通 って加 熱 され、ハウジング内 部 へ導 入 される。触 媒 は、本
来 ならガス分 離 器 として用 いる耐 久 性 試 験 の場 合 は必 ずしも必 要 ではない。しかし、膜 反
応 器 として用 いる際 に必 要 な基 礎 データを取 得 することも実 用 化 の上 で重 要 であるため、
触 媒 の充 填 をおこなったモジュールも導 入 した。接 続 部 は、ハウジング―分 離 膜 間 、および、
ハウジングー評 価 装 置 間 を接 続 する部 分 である。膜 を透 過 したガスは、この接 続 部 をとおり
評 価 装 置 へ送 られる。また、モジュール内 部 にはシース熱 電 対 を挿 入 し、内 部 温 度 を測 定
できるようになっている。触 媒 を詰 める場 合 、ハウジング内 部 の触 媒 で満 たされた部 分 の容
積は約 1400cc である。実 際 に詰 めた触 媒 の重 量 などから計 算 すると充 填 率は約 65%であ
った。充 填 率 から触 媒 はランダムパッキング充 填 となっていることと予 想 される。
図 Ⅲ-2.4.2.2-4 ハウジング外 観
接続部と
接続
図 Ⅲ-2.4.2.2-5 ハウジング内 部 の水 素 分 離 膜 モジュール
3-384
2.4.2.2.3 試 験 内 容 とその結 果
2.4.2.2.3.1 実 験 と解 析 の比 較 - 方 針
まずモジュール流 体 解 析 装 置 による解 析 とモジュールを用 いた実 験 とを比 較 しながらヒー
ターによる膜 面 の温 度 制 御 について検 討 を行 った。これにより、解 析 の妥 当 性 を確 認 すると
ともに実 証 試 験 に用 いるモジュール設 計 の指 針 を得 ることができる。主 に以 下 の4点 に着 目
して検 討 した。
①(モデル妥 当 性 確 認 )水 素 /窒 素 ガス透 過 試 験 について実 験 と解 析 との比 較 を行 い、モ
デルの妥 当 性を確 認 する
②(モジュール設 計 指 針 )ヒーターの構 成 や金 属 ハウジング径 の大 きさについて検 討 し、モ
ジュール設 計 の指 針 を得 る
③(制 御 温 度 設 定 の解 析 )モジュール内 部 の均 熱 を制 御 できるヒーターの温 度 設 定 を検
討 しモジュールの温 度 制 御 方 法 の指 針を得 る
④(触 媒 の熱 供 給 に対 する影 響 )内 部 に詰 める触 媒 を考 慮 したときの温 度 分 布 の影 響 を
検 討 し、膜 反 応 器 の場 合 の熱 供 給 に関する指 針を得 る
解 析 と実 験 の比 較 には、実 験 のモジュール内 部 の温 度 (3 点 )を熱 電 対 により測 定 し(図Ⅲ
-2.4.2.2-2 矢 印 )、それに対 応 する位 置 (図 Ⅲ-2.4.2.2-3 矢 印 )の解 析 結 果 から得 られる温
度 とを比 較 することにより行った。
上 記 の検 討 の前 にまず、実 証 試 験 に必 要 な導 入 ガス流 量 の見 積 もりを行 った。モジュー
ルの膜 面 積 が 0.04[m 2 ]である。導 入 ガスの水 素 濃 度 を 30%・窒 素 濃 度 を 70%とし、モジュー
ルの水 素 透 過 率 を 1×10 -7 [mol/m 2 s Pa]と仮 定 すると、導 入 ガス圧 0.95MPa のときの透 過
流 量 が約 1.6L/min になる。濃 度 分 極 が大きくならないようにするためには少なくとも透 過 流
量 の 2 倍の水 素 を含 む量 のガスを導 入 する必 要 があると考 えると、必 要 導 入 ガス流 量は約
10.5L/min になる。さらに分 離 膜 性 能 の向 上 による透 過 流 量 の増 加 を考 慮 して、この 5 倍
程 度 の流 量 が必 要 であるとした。その結 果 、導 入 ガス流 量 は 53L/min(0.95MPa,水 素 濃 度
30%)と設 定 した。
2.4.2.2.3.2 モデル妥 当 性 確 認
触 媒 を詰 めない場 合 のハウジング側 面 のヒーター温 度 を 500℃に設 定 したときのモジュー
ル内 部 温 度 分 布 について検 討 を行 った。導 入 ガス流 量 が少 ない場 合 (5L/min)と、実 証 試
験 とおなじ導 入 ガス流 量 (53L/min)の2つの場 合 について、モジュール流 体 解 析 装 置 による
解 析 結 果 (温 度 分 布 は図 Ⅲ-2.4.2.2-6)と、モジュールを用 いた実 験 結 果 を比 較 した(表 Ⅲ
-2.4.2.2-1)。その結 果 、流 量 が少 ない場 合は内 部 全 体もほぼ 500℃に保たれるが、流 量 が
大 きくなるとガス導 入 口 に近 い領 域 (図 の左 側 )での温 度 低 下 が解 析 結 果 ・実 験 結 果 どちら
の場 合 も見 られることが確 認 できた。なおこの試 験 時 に大 流 量 のガスを流 すためガス導 入
管 をより太 い管 に変 更 した。このようにモジュール流 体 解 析 装 置 の2次 元 円 筒 対 称 座 標 モ
デルが実 験 を再 現 できていることから、このモデルは熱 供 給 解 析 のモデルとして妥 当 である
といえる。
3-385
表 Ⅲ-2.4.2.2-1 ヒーター設 定 温 度 500℃のときの温 度 分 布 比 較
条件
導 入 ガス流
ヒーター
量
設 定 温 度 [℃]
内 部 温 度 T1,T2,T3[℃]
解析結果
[L/min]
実験結果
A
5
500
500,499,499
498,502,510
B
53
500
442,463,488
429,445,462
(a)導 入 ガス流 量 5L/min
(b)導 入 ガス流 量 53L/min
図 Ⅲ-2.4.2.2-6 ヒーター設 定 500℃のときのモジュール内 部 温 度 分 布
赤 いほど高 温 で、青 いほど低 温 を表 す
2.4.2.2.3.3 モジュール設 計 指 針
まず、ヒーター構 成 について考える。はじめにモジュール中 心 で2つに分 割 する 2 ゾーンヒ
ーターを考 えた。このときのヒーター設 定 温 度 を導 入 口 側 から順に T' 1,T' 2 とする。設 定
温 度 を(T' 1,T' 2)=(550,500)とした時、表 Ⅲ-2.4.2.2-2 のようになった。このときの温 度 分 布
を解 析 すると図 Ⅲ-2.4.2.2-7 のように導 入 口 付 近 ではヒーター設 定 温 度 が高 いにもかかわ
らず 500℃よりかなり低 い値になっているが、中 央 の2つのエンドキャップの間の領 域 では設
定 温 度 が高 すぎるため 500℃を越 えた高 温 になっている部 分もある。これは、導 入 口 側 のエ
ンドキャップが導 入 ガスの流れを抑 制 している状 態 になっているため、同 じ T' 1 領 域 でも導
入 口 付 近 の比 較 的 低 温 のガスへの熱 供 給 と、膜 面 のある中 央 部 への熱 供 給 の効 果 が同 じ
ようにできないことによるものである。これにより、T' 2 領 域 での熱 供 給 はマイナスになってお
り効 率 の悪 い状 態になっている。すなわち、温 度 制 御 をするためには、T' 1 全 体 でひとつの
ゾーンとするよりは、エンドキャップ付 近 を境 に2ゾーンに分 けて導 入 口 付 近 の温 度 設 定 を
高 くし、中 央 部 付 近 の温 度 設 定 を低 くする必 要 があることになる。以 上 から、良 い均 熱 を得
るために2つのゾーンをそれぞれ2分 割 した4ゾーンヒーターによる制 御 を行 う必 要 があること
がわかった。そのため、これ以 下 の検 討 では4ゾーンヒーターによる解 析・実 験を行 う。
次 に、ハウジングの径 について考 える。導 入 ガスにメタン・水 蒸 気 混 合 ガスを導 入 して膜
反 応 器 とした場 合 の温 度 分 布 についてハウジングの径 を 60-100mm まで変 えて解 析 を行っ
た。結 果 を図 Ⅲ-2.4.2.2-8 に示 す。ハウジングの径 が大 きくなるにつれて、z軸 に近 い分 離
膜 面 近 傍 での改 質 反 応 (吸 熱 )による温 度 低 化 が顕 著 である。これは、分 離 膜 がヒーターか
ら遠 くなると、ヒーターからの熱 供 給 が十 分 に行 われないことを示 す。すなわち、反 応 熱 供
3-386
給 の観 点 から見 ると、ハウジングの径 はできるだけ小 さくして膜 とヒーターを近 づけた設 計 に
するのがよいことになる。内 部 に入 れるエンドキャップの径 は 50mm であるため、ハウジング
径 をこれ以 上 小 さくすることはできない。そのため本 プロジェクトの実 証 試 験 では、外 容 器 の
径 を 60mm にしたモジュールで試 験 を行 うこととした。
表 Ⅲ-2.4.2.2-2 2ゾーンヒーターによるモジュール内 部 温 度 測 定
条件
C
導 入 ガス流 量
ヒーター設 定 温 度
内部温度
各 ヒーターからの
[L/min]
T' 1,T' 2[℃]
T1,T2,T3[℃]
供 給 熱 量 W1,W2[W]
53
550,500
472,502,499
T' 1
121,-4
T' 2
図 Ⅲ-2.4.2.2-7 2ゾーンヒーターのモジュール内 部 温 度 分 布 (条 件 C)
2.4.2.2.3.4 温 度 設 定 の指 針
実 証 試 験 には流 量 の大 きな条 件 で行 うため先 の検 討 のようにヒーター温 度 を 500℃に設
定 してもモジュール内 部 の温 度 は特 にガス導 入 口 に近 い部 分 での温 度 が低 くなる。そのた
め内 部 温 度 が均 熱 に制 御 できるようヒーターの温 度 設 定 を考 慮 する必 要 がある。なお、図
Ⅲ-2.4.2.2-6(b)にみられるような大 流 量 (53L/min)のガス分 離 器 におけるガス導 入 口 付 近
の温 度 分 布 は、図 Ⅲ-2.4.2.2-8 における改 質 反 応 の吸 熱 による分 布 と似 た傾 向 を示 して
いる。そのため、今 回 のように改 質 を行 わないガス分 離 器 としての分 離 膜 モジュールの場 合
でも導 入 ガスを大 流 量 にして検 討 することは、熱 供 給 の点 から見 れば、改 質 を伴 う膜 反 応
器 (流 量 は比 較 的 少 ない場 合 )における熱 供 給 と近 い状 況 であり、膜 反 応 器 の模 擬 試 験 と
いう位 置 づけで捉 えることもでき、今 後 の膜 反 応 器 設 計 の基 礎 データとしても役 立 つもので
ある。
膜 面 の均 熱 をとるための温 度 設 定 を得 るため、ヒーター設 定 温 度 を変 えて解 析 を行 った。
その結 果 、表 Ⅲ-2.4.2.2-3(条 件 D)の設 定 のときに均 熱 のよい温 度 分 布 が得 られた(図 Ⅲ
-2.4.2.2-9)。この条 件 で実 験 を行 ったところ、計 算 結 果 とほぼ一 致 する良 好 な均 熱 が得 ら
れることが確 認 できた(表 Ⅲ-2.4.2.2-3)。
3-387
図 Ⅲ-2.4.2.2-8 ハウジング外 径 を変 えたときのモジュール内 部 温 度 分 布
(上 )ハウジング外 径 60mm、(中 )ハウジング外 径 80mm、(下 )ハウジング外 径 100mm
3-388
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