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ロシアNIS経済速報
ロシアNIS経済速報
2008年(平成20年)5月15日
No.1429
毎月5日・15日・25日発行(ただし1月5日、5月5日、8月15日は休刊)
ROTOBO
Connecting Markets
社団法人 ロシアNIS貿易会
ISSN 1881-4417
ロシアNIS経済速報
2008年(平成20年)5月15日号 No.1429
目
次
プーチン内 閣 における経 済 官 庁 ・閣 僚 ........................................ 服部 倫卓 1
トピックス ............................................................................................................................. 10
三菱電機がロシアにサービスセンター開設/10
博報堂がロシアに新会社設立/10
新生銀がロシア株投信を開始/10
ドイチェAMが日本初のロシア債券投信/10
ロシアNIS貿易会関連の行事予定
.................................................................................... 11
ロシア・NIS諸国通貨の為替レート
................................................................................... 11
プーチン内 閣 における経 済 官 庁 ・閣 僚
はじめに
ロシアでは、メドヴェージェフ新大統領の就任式が5月7日に挙行され、新政権が正式
に発足した。そして、以前から予定されていたとおり、メドヴェージェフ大統領はプーチ
ン前大統領を首相に指名、議会下院が圧倒的多数でこれを承認し、8日にプーチン新首相
が誕生した。プーチン氏が提案した内閣名簿にもとづき、メドヴェージェフ大統領が12日
に政府機構と閣僚人事に関する一連の大統領令を公布、これによりプーチン内閣が発足し
た。
メドヴェージェフ=プーチン体制、プーチン新内閣については、我が国のマスコミ等で
も多くの論評がなされているが、本誌の読者の中心的な関心事は、ロシアの経済政策がど
うなっていくかであろう。そこで、今回の速報では、プーチン内閣の経済官庁・閣僚の問
題に焦点を絞って、その基本点を整理するとともに、そのことが経済政策路線に帯びてく
るインプリケーションを探ることにする。
1
連連連連
邦邦邦邦
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2008年(平成20年)5月15日
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ロシアの連邦行政機構図
ロシアNIS経済速報
No.1429
ロシアNIS経済速報
2008年(平成20年)5月15日
No.1429
メドヴェージェフ=プーチン政権の主要政権幹部
役 職
氏 名
備 考
CEEDS
コード
大統領
メドヴェージェフ, D.A.
新(前第一副首相)
6803
大統領府長官
ナルィシキン, S.Ye.
新(前副首相・官房長官)
9082
安全保障会議書記
パトルシェフ, N.P.
新(前連邦保安局長官)
5970
首相
プーチン, V.V.
新(前大統領)
2981
第一副首相
ズプコフ, V.A.
降格(前首相)
6262
第一副首相
シュヴァロフ, I.I.
新(前大統領補佐官)
5804
副首相
ジューコフ, A.D.
留任
2974
副首相
イワノフ, S.B.
降格(前第一副首相)
6811
副首相
セーチン, I.I.
新(前大統領府副長官)
6786
官房長官・副首相
ソビャニン, S.S.
新(前大統領府長官)
6088
副首相・財務相
クドリン, A.L.
留任
4546
外相
ラヴロフ, S.V.
留任
1948
国防相
セルジュコフ, A.E.
留任
9166
内相
ヌルガリエフ, R. G.
留任
8374
市民防衛・非常事態・天災復旧相
ショイグ, S.K.
留任
1726
司法相
コノヴァロフ, A.V.
新(前沿ヴォルガ連邦管区
大統領全権代表)
9697
経済発展相
ナビウリナ, E.S.
留任
5340
産業・商業相
フリスチェンコ, V.B.
留任
5458
エネルギー相
シマトコ, S. I.
新(前アトムストロイエク
スポルト社長)
11106
天然資源・環境相
トルトネフ, Yu. P.
留任
7503
運輸相
レヴィチン, I.Ye.
留任
9069
通信・マスコミ相
シチェゴレフ, I.O.
新(前大統領府儀典長)
6169
農業相
ゴルジェエフ, A.V.
留任
5988
教育・科学相
フルセンコ, A.A.
留任
7924
保健・社会発展相
ゴリコワ, T.A.
留任
8300
文化相
アウジェエフ, A.A.
新(前駐仏大使)
5042
地域発展相
コザク, D.N.
留任
6626
スポーツ・観光・青年政策相
ムトコ, V.L.
新(前上院議員、ロシア・
サッカー連盟会長)
10456
政 府
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ロシアNIS経済速報
2008年(平成20年)5月15日
No.1429
政権の全体像
まず、新政権の全体像を図表で確認しておこう。5月12日付の大統領令第724号「連邦執
行権力機構の体系と構造の諸問題」により、行政府の体系に多くの変更が加えられた。そ
こで、新しい行政府の体系を、図にまとめた。そして、政権幹部の主な顔ぶれが、表に見
るとおりである。なお、表の備考欄に新任・留任の別が記されているが、大臣が改組され
た省の大臣に横滑りしている場合には、留任扱いにしてある。紙幅の都合で、各人物のバ
イオグラフィーを今回の速報に掲載することはしなかったが、当会のCEEDS人事データベ
ースにすべて採録済みなので、会員の皆様は当会ホームページからアクセスしてチェック
していただきたい。その際に、表にあるCEEDSコードを使用していただくと、検索がスム
ーズになると思う。
さて、今回制定されたロシアの権力体系でも、従来と同様に、内務省、市民防衛・非常
事態・天災復旧省、外務省、国防省、司法省といった国家安全保障にかかわる省庁は、大
統領が直接指導する。一方、経済・社会的な問題を扱う省庁は、首相の指導下に置かれる
という体制である。
ただし、新体制の下では、特有の「ねじれ」が生じている。今回、プーチン首相率いる
政府には、これまでもプーチン氏を取り巻いてきたいわゆる「シロビキ」
(軍事・治安機関
関係者)の勢力が進出した。逆に、メドヴェージェフ大統領のお膝元であるクレムリン(大
統領府)では、大統領本人のキャラクターを反映して、リベラル派が一定の重きをなして
いる。これは、プーチン大統領時代とは逆の、異例の構図である。
政府機構改革
前出の5月12日付大統領令により、省庁の体系に少なからぬ変更があった。経済分野の
主な改組は、以下のとおりである。
 旧「経済発展貿易省」から、
「貿易」の管轄が外され、単に「経済発展省」となった。な
お、旧名称につき、我が国では「経済発展貿易省」と訳されるケースが多く、当会もそ
の慣例にならっていたが、ロシア語のторговляは外国貿易と国内商業の両方を含んでいる
ので(現に同省はその両方を管轄していた)、本来は「経済発展商業省」とした方が正確
であろう。
 旧「産業・エネルギー省」が、産業とエネルギーの2つの省に分割された。その際に、
前者は、経済省から切り離された商業の機能を吸収し、
「産業・商業省」となった。後者
はそのまま「エネルギー省」となった。
 旧「情報技術・通信省」が、廃止された「文化・マスコミ省」のマスコミ分野の機能を
吸収し、新たに「通信・マスコミ省」となった。
 旧「天然資源省」が、環境保護政策を取り込み、新たに「天然資源・環境省」となった。
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ロシアNIS経済速報
2008年(平成20年)5月15日
No.1429
それぞれの改組の意味合いについては、後述することとしたい。
さて、このような省庁の統廃合にも増して、行政改革の視点から、より本質的な重要性
を帯びているのが、「省(министерство)」「庁(агентство)」「局(служба)」の相互の関係
である。図に見るように、省の下に、当該分野の庁、局が設置されているというのが、ロ
シア行政機構の基本的な構造である。ただ、これまでは庁・局の独立性が強く、省の大臣
は傘下の庁・局を単に指導するにとどまっていた。これは、2004年に、当時のコザク官房
長官の主導で実施された行政機構改革により、省:政策立案、庁:執行、局:管理・監督
という役割分担が明確化され、それぞれの自立性に主眼が置かれたからである(その経緯
については、拙稿「ロシアの行政機構再編と新内閣」
『ロシア東欧経済速報』2004年3月15
日号参照)
。ところが、このシステムがうまく機能しなかったため、今回はその反省に立ち、
行政の垂直的な統合を強化する方向が打ち出されている。すなわち、前出の5月12日付大
統領令により、省の大臣は傘下の庁・局に対し執行が義務付けられる指令を出すことがで
き、必要な場合には庁・局の決定を停止・廃止することができると明記されている。
7人の副首相
プーチン内閣では、2人の第一副首相を含む7名の副首相が起用されることになった。
その役割分担も公に発表されているので、以下に示すことにする。各副首相は、以下の分
野の活動に関する各省庁の活動を調整するとされている。
■シュヴァロフ第一副首相
 対外経済関係・外国貿易分野の政策の策定
 CIS諸国との通商・経済関係および経済統合
 外交政策
 技術管理分野の政策
 WTO加盟交渉の実施
 知的所有権の国家管理
 市民防衛、住民と地域の非常事態からの保護
 道路交通の安全確保
 中小企業発展の国家支援
 国有資産の管理
 不動産物件評価、不動産所有権・取引登記の分野の政策
 単一経済空間、経済活動の自由、反独占政策、競争発展の分野の政策
 自然独占主体の活動の分野の政策
 料金政策
 ロシア連邦の構成主体(諸地域)の社会・経済発展分野の政策策定
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ロシアNIS経済速報
2008年(平成20年)5月15日
No.1429
 地域発展連邦プログラムの策定、地域間の社会・経済水準格差の縮小に向けた措置の実
施、経済特区の創設と機能、「投資基金」の資金による国家的支援の提供
■ズプコフ第一副首相
 農業分野のナショナルプロジェクトの実施
 漁業、林業・農工コンプレクス発展分野の政策の策定と実施
 「ロシア連邦政府外国貿易保護措置、関税・料金政策、反ダンピング委員会」の活動
■セーチン副首相
 鉱工業(軍需産業を除く)およびエネルギー発展の分野の政策の策定と実施
 自然利用・環境保護の分野の政策
 環境・技術・原子力監督の実施
■イワノフ副首相
 鉱工業、軍需産業、運輸・通信発展分野の政策の策定と実施
 科学・技術革新分野の政策
 国家軍備プログラムの履行
 国家軍需発注、国防・原子力・ロケット・宇宙産業発展のプログラム
 国防、国境建設作業の保障
 動員準備、国家物的備蓄の管理
 大量破壊兵器、その運搬手段およびその他の兵器に用いられる商品、情報、作業、役務、
知的活動成果に対する輸出管理
■クドリン副首相・財務相
 ロシアの社会・経済発展の主要方向性の策定
 単一的な金融・信用・通貨政策の実施、国家債務・債権の管理
 国家財政計画、国家予算の策定と執行、財政歳出の成果の向上と財政システムの改善、
税制の策定と実施
 国家投資政策、連邦目的別プログラムの策定、それらの効率に関する指標の策定を含む
 金融市場、保険、会計の国家管理
■ジューコフ副首相
 ナショナルプロジェクト(農業分野以外)の実施、教育・保健・社会保障政策、手頃で
快適な住宅の提供、文化・芸術の政策
 青年政策分野の国家管理
 単一的な人口・移住政策
 社会・労働関係分野の社会的パートナーシップ
 体育・スポーツの発展、ソチ冬季オリンピック開催準備を含む
 観光の発展
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2008年(平成20年)5月15日
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 宗教団体との関係
 建設・建築、住宅・公営事業分野の政策
■ソビャニン副首相・官房長官
 国の社会・経済政策の優先順位に適合させる形で、ロシア連邦の構成主体の行政機構の
目的、課題、活動効果評価指標の体系を創り上げる
 連邦および連邦構成主体の行政機構の活動の効率・成果を監視するシステムを発展させ
る
 連邦および連邦構成主体の行政機構の権限執行の効率を高めること、行政改革の実施
 公務
 連邦、連邦構成主体、地方自治体の機構間の権限を区分し、それらの活動の調整を図る
 コミュニケーション、マスコミ分野の政策の策定と実施
 法案活動の組織
 政府の活動の計画化を組織し、連邦行政機構が政府の決定を執行することを監督する
 法律分野の政策、司法機関および検察との関係
 国家統計活動
 政府の決定・指示の草案準備を組織する
このように、各副首相の担当分野は明記されているわけだが、ここで注意しなければな
らないのは、各省庁がいずれかの副首相の管轄下に固定されているわけではないことであ
る。たとえば、農業省であれば、明文化されていないまでも、ズプコフ第一副首相の指導
下に置かれるであろうことが、誰の目にも明らかである。それに対し、産業・商業省とな
ると、貿易ではシュヴァロフ第一副首相、民需の工業ではセーチン副首相、軍需の工業で
はイワノフ副首相がコーディネーターということになり、事態は複雑である。今後、副首
相および大臣間で、管轄分野をめぐって、摩擦が生じる可能性も充分にある(その方が調
停者たるプーチン首相にとって有利だという、うがった見方もある)。
政府幹部の顔ぶれ
上記を踏まえて、プーチン首相を支える副首相たちの顔ぶれを、改めて吟味してみよう。
一連の政府幹部のなかでも、プーチン首相に次ぐ「政府ナンバー2」と位置付けられて
いるのが、シュヴァロフ第一副首相である。これまでプーチン大統領の補佐官として、そ
の政権を支えてきた人物だ。毎年の大統領教書を起草してきたのも同氏だし、
「ナショナル
プロジェクト」の発案者の一人とも言われ、G8シェルパとしてプーチン大統領の国際舞台
での活躍もお膳立てしてきた。政策観はリベラルとの評がある。注目すべきことに、シュ
ヴァロフ第一副首相は主に対外経済関係を担当し、WTO加盟交渉も手がけることになる。
これにより、ロシア政府内でWTO加盟の優先度が高まるという見方もある。
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ロシアNIS経済速報
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No.1429
もう一人の第一副首相が、これまで首相を務めてきたズプコフ氏だ。首相から第一副首
相への転身は、形式的には格下げに他ならないし、担当分野も農林水産業という花形とは
言いがたいセクターである。ただ、ズプコフ氏の手腕に対する周囲の評価はかなり高いよ
うで、プーチン内閣を組織面で支える存在になると予想されている。同氏が農業分野を担
うことについては、野党の共産党ですら期待感を表明している。さらに、ズプコフ氏は、
メドヴェージェフ新大統領に代わって、ガスプロムの取締役会会長に就任することが有力
視されており、その点でも注目を集めている。
セーチン副首相は、言わずと知れた強硬派シロビキの代表格であるが、これまでの「影
の実力者」という存在から、表舞台の政治家に転身した形となった。政府では主に、
(イワ
ノフ副首相が担当する軍需産業を除く)産業政策を担当することになる。同氏に関して注
目されるのは、副首相就任と同時に、国有の造船企業を束ねる「合同造船コーポレーショ
ン」の会長にも就任していることである。その背景には、2007年3月にコーポレーション
の創設が決まったものの、その後組織づくりが遅々として進捗しておらず、そのことに対
するプーチン氏の強い不満があるとされる。セーチン氏が今回、その推進役に選ばれたの
は、同氏がロスネフチの取締役会会長を務めていることに関係している模様である。とい
うのも、ロシアの造船分野では、海洋での石油・ガス開発に関連する船舶およびプラット
フォームの需要に期待がかけられているからである。なお、6月5日にロスネフチの株主
総会が開かれるが、セーチン氏は会長職に留まる見通しである。
一方、一時はプーチン大統領の有力な後継者候補に擬せられながら、新政府ではやや影
が薄くなってしまった感があるのがイワノフ副首相である。もっとも、軍需・原子力・宇
宙といった、ロシアにとって戦略的に重要な部門を引き続き担当することになる。
クドリン副首相・財務相については、専門家筋の評価が非常に高い。プーチン政権下で
は、ミクロ的な政策では様々な歪曲が生じてきたものの、マクロ経済および連邦財政に関
しては節度のある政策が堅持されてきており、それを体現しているのがクドリン氏だから
だ。
「クドリンが留任した以上、ロシアのマクロ経済の安定は保証されたも同然」といった
歓迎の声が各方面から挙がっている。上記のように、クドリン副首相には今回、
「社会・経
済発展の主要方向性の策定」をコーディネートする役割が正式に割り当てられた。
ジューコフ副首相については、やや役割が下がったとする評価もあるが、担当分野を見
るとナショナルプロジェクト、ソチ・オリンピックと重要なものが並んでいる。
経済官庁・閣僚の動き
最後に、すでに触れた経済関係の省庁の再編について、閣僚人事ともからめながら、コ
メントしてみたい。
まず、旧「経済発展貿易省」について。同省は、2007年9月にナビウリナ女史が大臣に
8
ロシアNIS経済速報
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就任してから、日本のかつての経済企画庁に近いようなマクロ経済官庁に性格を変えつつ
あった。そして、今回の改組で、商業分野を手放したことにより、経済発展省はマクロ経
済官庁としてさらに純化することになった。ただし、その割には、今回の改変により、不
動産分野が管轄に加わった。不動産行政はロシア政府の泣き所であり、経済発展省は難問
を背負い込んでしまった印象もある。経済発展省の地位については、頭脳中枢として存在
感を増しつつあるという説と、リアルセクターを手放して弱体化しつつあるという説があ
り、本当のところはよく分からない。
どのような理由で、旧「産業・エネルギー省」が分割され、産業・商業省とエネルギー
省がつくられたのかも、はっきりしたことは分からない。2004年3月の行政機構改革で「ス
ーパーミニストリー」の誕生ともてはやされたが、今回の分割で、結局もとの姿に戻った
形となった。一部の現地専門家の指摘によると、ロシア経済に占めるエネルギー部門の際
立った重要性にもかかわらず、産業・エネルギー省が大所帯すぎて、フリスチェンコ大臣
がエネルギー問題をしかるべく管理できず、エネルギーを扱う個別の省が必要になったの
だという。ただ、フリスチェンコ大臣はむしろエネルギー問題に注力して産業の方がお留
守になっていたという逆の評価を示す論者もおり、このあたりも真相は定かでない。いず
れにせよ、閣僚経験の豊かなフリスチェンコ氏は、今回の産業・エネルギー省の分割に備
え、省の人的・物的資源を自らが率いることになる産業省の側に引っ張り込もうと、根回
しを進めてきたと伝えられる。
それに対し、エネルギー大臣に就任することになったシマトコ氏は完全に出遅れてしま
い、エネルギー省の組織的な立ち上げが遅れるのではないかという見方が出ている。エネ
ルギーの専門家というよりは、元々は軍人であり、原子力潜水艦に勤務したことをきっか
けに、原子力の分野に進んだ人物と見られる。大手石油・ガス会社のロビー活動の影響を
受けにくい人物として起用されたという説もあるが、自らが得意とする原子力発電の分野
は別として、石油・ガス分野でどれだけの指導力を示せるか。
留任した閣僚が多かったなかで、今回退陣した一人が、レイマン情報技術・通信大臣で
ある。同氏退陣の一報を受け、ロシアの株式市場でテレコム株が軒並み値を上げるという
笑えない一幕もあった。これは、新大臣の下で、スヴャジインヴェスト社の民営化が進展
するのではないかという期待感からだったようだ。ただ、新設された通信・マスコミ省の
シチェゴレフ新大臣は、通信の専門家ではなく、プーチン政権で大統領儀典長を務めてい
た人物である。つまり、通信よりもマスコミ対策に重きを置いた人事である可能性が高い。
最後に、天然資源・環境省が新たに創設され、環境行政がこの省によって一元的に担わ
れることになったのは、気になる動きだ。
「天然資源」と「環境」の組み合わせで、サハリ
ン2の悪夢を思い出してしまうのは、筆者だけではなかろう。
(ロシアNIS経済研究所 次長
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服部 倫卓)
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No.1429
トピックス
◇三菱電機がロシアにサービスセンター開設
三菱電機は5月7日、サンクトペテルブルグ市に三菱電機 ロシアFA(ファクトリーオ
ートメーション)センターを同月20日に開設すると発表した。同センターはサンクトペテ
ルブルグ市を中心にロシアに進出した日系企業に対して、三菱電機FA製品に関する技術相
談、アフターサービスおよびトレーニングを行なうなど、サービス体制を強化する。日本
語による顧客対応も可能であり、スタッフ数人を配置して順次サービスレベルを拡充して
いく。
◇博報堂がロシアに新会社設立
株式会社博報堂は5月12日、モスクワ市に全額出資の広告会社「博報堂ロシア」を4月
30日付で設立したと発表した。資本金は4,800万ルーブル(約2億円)、当初従業員は7人
を予定。ロシアの広告市場が順調な成長をたどり、広告費は2007年で約87億ドル、2008年
見込みでは約116億ドルに達すると予測されるなか、同社は、今後ロシアでのビジネスを拡
大する日本企業を中心に、充実したクライアントサービスを提供していくという。
◇新生銀がロシア株投信を開始
新生銀行は5月12日より、ロシアの株式に投資対象を絞った新しい投資信託「新生・ト
ロイカ
ロシアファンド」の販売を始めた。現地最大の投資運用会社、トロイカ・ジアロ
グ・アセット・マネジメントが運用を担当。現地市場に上場している株式も含めて幅広く
投資する。
◇ドイチェAMが日本初のロシア債券投信
ドイチェ・アセット・マネジメント(本社:千代田区)は5月1日、ロシア国債および
準国債等を主要投資対象とする日本で初めての投資信託「DWS ロシア・ルーブル債券投信」
を同月29日に設定すると発表した。毎月分配型と年2回決算型の2コースがあり、5月19
~28日まで野村証券で募集を行い、同月29日より野村證券専用ファンドとして設定、運用
を開始する。
<訂正とお詫び>
前号のトピックス「NTT コム、北海道・サハリン間の光海底ケーブルを完成」の記事で「HSCS(北海道
-サハリン・ケーブル・システム)は光海底ケーブル国内大手の OCC(本社:横浜市)が 2007 年4月に
NTT コムと TTC から受注した」と記載しましたが、正しくは「HSCS は日本電気が 2007 年3月に NTT コ
ムと TTC から受注した」です。また、本文中に「最大毎秒 650GB の大容量光海底ケーブル」とありますが、
正しくは「640GB」です。以上を訂正するとともに関係各位にお詫び申し上げます。
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ロシアNIS経済速報
2008年(平成20年)5月15日
No.1429
ロシアNIS貿易会関連の行事予定
◇5月16日 8:40~12:30 ロシアにおけるビジネス円卓会議 2008 (於:国際文化会館)
→ http://www.rotobo.or.jp/activities/economistgroup2008.htm
◇5月19日 10:00~19:30 第19回日本カザフスタン経済合同会議 (於:如水会館)
→ http://www.rotobo.or.jp/activities/committees/kz/9thjpkz.pdf
ロシア・NIS諸国通貨の為替レート
(2008年5月14日現在)
国・通貨単位
$1=
€1=
\100=
ロシア・ルーブル
23.72
36.83
22.86
ウクライナ・グリブナ
5.050
7.814
4.862
ベラルーシ・ルーブル
2,137
3,316
2,063
モルドバ・レイ
10.35
16.00
9.970
カザフスタン・テンゲ
120.6
186.7
116.4
キルギス・ソム
36.44
55.89
35.08
ウズベキスタン・スム
1,306
2,018
1,247
トルクメニスタン・マナト
5,200
8,018
4,944
タジキスタン・ソモニ
3.433
5.297
3.308
アゼルバイジャン・マナト
0.828
1.279
0.791
アルメニア・ドラム
307.3
474.2
295.9
グルジア・ラリ
1.452
2.254
1.402
モンゴル・トゥグリク
1,164
1,807
1,124
発行所 社団法人 ロシアNIS貿易会 http://www.rotobo.or.jp
〒104-0033 東京都中央区新川1-2-12 金山ビル Tel(03)3551-6215
編集担当部署 ロシアNIS経済研究所 Tel(03)3551-6218 Fax(03)3555-1052
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