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MOSFET モード IGBT における負荷短絡時の電流集中

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MOSFET モード IGBT における負荷短絡時の電流集中
EDD-13-048
SPC-13-110
MOSFET モード IGBT における負荷短絡時の電流集中
中川 明夫*(中川コンサルティング事務所)
田中 雅浩(日本シノプシス)
Current filamentation during short-circuit failure of MOSFET-mode IGBT
Akio Nakagawa*, (Nakagawa Consulting Office, LLC.)
Masahiro Tanaka, (Nihon Synopsys G.K.)
The short-circuit withstanding capability is degraded for IGBTs, whose anode efficiency is low and the ratio of
electron current over hole current is greater than the mobility ratio. By analyzing the short-circuit operation of
the IGBT using TCAD, we found the failure is caused by current filamentation even under the homogeneous
channel current flow.
キーワード:IGBT 負荷短絡 破壊 電流集中 インパクトイオン化
(IGBT short-circuit failure, current filament, impact ionization)
1.
のように高電界は N ベース・N バッファ接合にかかる。ア
序
ノード側に高電界が印加される場合には図 2 に示すように
負荷短絡耐量は IGBT の重要な特性の一つであり、
Non-Latch-Up IGBT の開発以来、耐量の改善が行われてき
た(1)(2)。薄いウェハを用いる FS-IGBT では、アノードの注
入効率が低い場合、電子電流と正孔電流の比が移動度の比
よりも大きい状態で動作する MOSFET モード動作では、負
負荷短絡に耐えられる電流密度が低下することが知られて
いる。
ρ = ND+ p-n = ND + (γγ/vh + (γγ -1)/ve)J/q, … Eq.(4)
γMOS= vh/(vh+ve)
for 高電界の場合 …. Eq.(5)
JC=qND/((1- γ)/ve - γ/vh) …………………. Eq.(6)
荷短絡時にアノード側に高電界が生じて破壊耐量が下がる
実験結果が報告されている(3)。今回、このような IGBT を
TCAD を用いて解析したところ、チャネル電子電流が一様
に流れている場合でも電流集中が起き、破壊に至る事がわ
かったので報告する。
2.
コレクタ側に
コレクタ側に高電界が生じる場合の
高電界が生じる場合の 1-d 理論
負荷短絡状態にある FS-IGBT では N ベースのライフタ
イムは十分大きいので N ベース中での再結合は無視出来
る。また負荷短絡時に N ベースに生じる高電界中ではキャ
リア密度は小さいので再結合はほぼ完全に無視出来る。簡
便のためアノード効率γを N ベース・N バッファ接合で定
図 1 電流増大に伴いコレクタ側に高電界が発生
Fig.1 High electric field region appears in anode side
for high current density cases.
4000
義する。
γ =Jp/J,
----Eq.(1)
高電界中の電子正孔密度 p、n は飽和速度 vh,ve を使って次
3000
2000
のように書ける。
p=Jp/qvh,
----Eq.(2)
n=Jn/qve, ----Eq.(3)
全電荷は(4)式で表される。(4)式の括弧の中は γ < γMOS の
場合負になり全電荷ρ
ρは電流密度が増大するほど小さくな
り、(6)式で定義する JC 以上では全電荷は負になる。この時
実質上の pn 接合は N ベース・N バッファ接合となり図 1
1000
0
0.25
0.3
0.35
0.4
図 2 アノード効率と負荷短絡耐量の関係
Fig.2 Anode efficiency vs. short-circuit withstanding
capability
1/6
3.
1 次元 FS-IGBT の負荷短絡の考察
本報告では図 3 に示す低濃度の N バッファ B とそれより
高濃度の N バッファ A を比較した。低電圧での V-I 特性を
一致させた場合、600V FS-IGBT の場合の飽和領域での V-I
特性は図 4 のようになる。N バッファ B では電圧に応じて
正孔電流が大きくなり、γが増大する。N バッファ A では
N ベース中の電荷ρが負になり、図 5 の(1)に示すように高電
界が N ベース・N バッファ界面に生じる。一方、N バッフ
ァ B の場合には高電圧でγが増大するので、N ベース電荷
が正になるためアノード側に高電界が生じない。
ものを図 7 に示した。ゲート波形が振動し、電流の振動を
助長していることがわかる。この電流振動によりコレクタ
電流密度が 3000A/cm2 を超えてしまい、高電界層での温度
上昇が大きくなり破壊に至る可能性が大きい。
N バッファ B の場合は電流の上昇が緩やかとなり図 6 の
構造でも正常な負荷短絡波形(図 8)となった。
図 7 の振動を軽減するためフローティング P 層のゲート
電極への影響を少なくした図 9 の構造を用いて負荷短絡の
波形を計算したものが図 10 である。フローティング P 層の
ゲートへの影響が抑えられ、振動は起きなくなったが、最
初の電流ピークは依然として大きい。
低濃度pエミッタ
コレクタ側
高電界
不純物濃度
nバッファ
A
B
(2) Nバッファ:B
(1) Nバッファ:A
図 3 低濃度 N バッファ B と高い濃度の N バッファ A
Fig.3 High and low concentration n-buffer: A and B
N バッファ
図 5 N バッファ中の電界の比較
Fig.5 Comparison of electric field distribution in n-base
between n-buffers A and B
8um
飽和電流
電流
nバッファ:B
nバッファ:A
フローティングP層
電子電流
3um
正孔電流
0
図4
電圧
600V
図 6 図 7 と 8 の計算に用いたエミッタ構造
Fig.6 Emitter structure used for Fig.7 and 8
600VFS-IGBT の飽和領域の V-I 特性
Fig.4 Saturation region V-I characteristics for 600V
FS-IGBT
このような N バッファ A と B とで 1200V FS-IGBT の負
荷短絡の電流電圧波形を TCAD で計算した。以後の負荷短
絡の計算では、いずれもチップは 1cm2、回路はコレクタ側
に 0.01Ωの抵抗と 0.01uH のインダクタをつないで計算を
行った。コレクタ電極は 0.3K/W の熱抵抗を介して 300K の
ヒートシンクがつながっているとした。
カソード側の構造はフローティング P 層を有する図 6 の
構造を用いた。計算結果は N バッファ A の場合で図 7 にな
り、N バッファ B は図 8 となった。図 7 では電流電圧の大
きな振動が見られた。この理由は N バッファ A の場合は、
後に示す理由で、電流の立ち上がりが急峻となり、これが
フローティング P 層の電位を急峻に上昇させるため、ゲー
ト酸化膜を通してゲートを充電しゲート電圧が上昇し、電
流の振動を大きくさせている。ゲート電圧波形を 10 倍した
図 7 N バッファ A の負荷短絡波形
Fig.7 Short-circuit waveforms for n-buffer A
2/6
ベース・N ベースの中央接合に高電界がかかっている。電
流が流れ始め、Eq.(6)で示した電流密度 JC を超えると高電
界がコレクタ側に移動していく。このためエミッタ側から
チャネルを通じて電子が注入されても流れることができ
K
ず、エミッタ側にキャリア蓄積が生じる。電子密度を図 12
に示す。図の t=0.5us の線は Y=50um 付近までエミッタ側
にキャリア蓄積が生じている事を示す。高電界層のコレク
タ側への移動は 0.5us 以降は進まなくなるので、0.6us 以降
はキャリアが蓄積した部分の電界が大きくなり電流が急増
する。この結果、急峻な電流増大となりコレクタ側で大き
なインパクトイオン化が生じ、図 10、13 に示すようにコレ
クタ側の温度が上昇する。
図 8 N バッファ B の負荷短絡波形
Fig.8 Short-circuit waveforms for n-buffer B
0.5
us
0. 6
us
X=0.6um
0 .7
電 界 (V/cm )
us
0.4us
0.3us
0.2us
0.1us
0us
図 9 図 10 以降の計算に持いたエミッタ構造
Fig.9 Emitter structure used for Fig.10 to 16
図 11 図 10 の内部電界の時間変化(数値は時間を示す)
Fig.11 Electric field distributions for various time steps
in Fig.10 (the number denotes time step).
電子密度
VG=15V
0.2us
0.3us
s
4u
0.
0.7us
0.6us
0.5us
0.1us
図 10 図 9 の構造の N バッファ A の短絡波形と最大温度、
コレクタ電極での電子電流、正孔電流を示す
Fi.10 Short-circuit waveforms for n-buffer A with
maximum temperature, electron and hole currents
observed in collector electrode.
図 12 図 10 のキャリア蓄積の様子
Fig.12 Electron distribution in N-base for various time
steps in Fig.10
ところで、コレクタ側の温度が上昇すると、特異な現象
が見られた。図 14 に示す如く、7us 以降コレクタ側の高電
次に図 10 の急峻な電流の立ち上がりを解析する。図 11
界が解消され高電界が N ベース全体に広がりパワーロスが
に内部電界の変化を示す。
電流が流れていない t=0us では P
N ベース全体で生じるようになることである。この原因は
3/6
温度上昇による P エミッタの注入効率の増大であると思わ
0.6us, 0.7us での電子電流の分布を示す。0.6us 以降で明確
れる。図 10 にはコレクタ電極での正孔電流と電子電流の時
な電流の電子電流の集中が見て取れる。エミッタ側ではゲ
間変化を同時に示す。電子電流は単調に減少しているが、
ート電圧は一定であるため、チャネルからは均一な電子電
正孔電流は 0.6us 以降しばらく増大している。すなわちア
流が N ベースに注入されている。しかしながら、コレクタ
ノード効率γの増大を意味している。このため N ベース中
側では電子電流は中央のセルに集中して流れている。電子
での負の空間電荷がなくなり、N ベース全体に高電界がか
電流の集中はコレクタ側のインパクトイオン化による電流
かるようになる。この結果、コレクタ側からの正孔の注入
が増大するために起きると思われる。図 22 に図 10 と図 17
に伴うコレクタ側のキャリア蓄積が図 15 の 8us の線に見ら
の VG=15V の波形を重ねて表示する。電流集中が起きたほ
れる。N ベース・N バッファ接合での温度上昇はこれ以降
うがインパクトイオン化でコレクタ電流のピーク値が増大
停止する。
しており、より安定した状態になる。ゲート電圧を 13V に
7us
下げた場合は電流集中は見られなかった。
6us
8u
s
5us
8us
3us
電子密度
温度
4us
7us
3us 4us 5us 6us
電界(V/cm)
図 13 図 10 の内部温度変化を示す。
Fig.13 Temperature distributions for various time steps
in Fig.10
3us
4us
図 15 図 10 の内部電子密度の時間変化
Fig.15 Electron density distributions for various time
steps in Fig.10
6us
5us
7us
図 16 計算した構造
Fig.16 Calculated structure
8us
図 14 図 10 の内部電界分布の時間変化
Fig.14 Electric field distributions for various time steps
in Fig.10
4.
2 次元 FS-IGBT の電流集中の考察
IC(VG=15)
IC(VG=14)
この章では負荷短絡時に電流集中が生じることを示す。
論文(4)も負荷短絡時に電流集中を報告しているが、均一な
場合でも起きることは本報告が最初である。
図 9 のエミッタ構造の半分の構造(1 Cell)を 16 個対称
に並べて幅 160um の構造を作成した。図 9 の構造を単純に
並べたもので不純物分布等はすべて均一な構造である。こ
の構造で図 10 と全く同じ条件で負荷短絡を計算した波形が
図 17 である。ゲート電圧 VG は 14V と 15V を示す。最大
温度は図 10 よりも図 17 の方が急激に増大している。この
理由は電流集中が起きていることである。図 18 に t=0.5us,
図 17 図 16 の構造での負荷短絡波形
Fig.17 Short-circuit waveforms for Fig.16
4/6
3
t=0.5us
t=0.6us
5
9 8
7
温度(K)
10
4
6
2
1us
t=0.7us
図 20 X=80um での温度分布。数値は時間を us で表す。
Fig.20 Temperature distributions for cross section of
X=80um. Numbers show time steps in unit of us.
図 18 電子電流の分布(t=0.5us, 0.6us, 0.7us)
Fig.18 Electron current distributions for t=0.5, 0.6, 0.7us
電子電流密度(A/cm2)
3
4
5
6
8
7
電界 (V/cm)
9
10
1us
2us
1us
2
3
10 9
8
7
6
5
4
図 21 Y=110um の断面での電子電流分布。数値は時間を
us で表す。
Fig.21 Electron current distributions for cross section of
Y=110um
図 19 X=80um の断面での電界分布。数値は時間を us で
表す。
Fig.19 Electric field distributions for cross section of
X=80um. Numbers show time steps in unit of us.
拡大
電子電流の集中が起きると、電流集中領域の電子電流密
度が大きくなり負の空間電荷が増大する。この結果、N バ
ッファ・ N ベース接合での電界は図 19 に示すように
多Cell
2.4x105V/cm 程度に達する。この値は 1 cell の時の図 14 の
電界より明らかに大きくなっている。
図 17 からわかるように t=3us で温度は 1360K に達し、
この時点でpエミッタの注入効率が増大してコレクタ側の
高 電 界 が 消 失 す る 。 図 19 に 電 流 集 中 が 起 こ っ て い る
X=80um の断面の電界分布を示す。t=3us 以降 N バッファ・
N ベース接合での高電界が消失している。これ以降、エミ
ッタ側の電界が高くなっていく。t=10us のターンオフ時に
エミッタ側の温度は 700 度に達し、図 22 に示すようにター
ンオフ後、電流は完全にオフできずに再び増大する。これ
は中央のセルで P ベースが intrinsic になりラッチアップし
たためである。図 21 は Y=110um(N ベース・N バッファ
接 合 付 近 ) で の 電 子 電 流 の 分 布 を 示 す 。 t=3us で は
20,000A/cm2 を超える。
図 22
1Cell(図 9)と多 Cell(図 17)の負荷短絡波形の比較
Fig.22 Comparison of short-circuit waveforms of 1 Cell
and Multi-Cell.
次にコレクタ側が平坦でなく X=0 の部分で厚みが 4um 薄
くなっている構造図 23 で同じ負荷短絡を計算した。図 24
が計算結果である。電流の急峻な立ち上がりは遅れて 1.5us
に起きている。またピーク電流は 3400A/cm2 を超えた。電
流集中は図 25、26 に示すように、ウェハが薄い左端で顕著
5/6
であるが、右端にも生じた。ウェハ厚みが一様な場合に約
クトの溶融も破壊の有力な原因と思われる(上記[1])
。上記
160um ピッチで生じる電流集中のメカニズムはかなり強力
の 1,2 が起きない場合は、コレクタ側の高電界が解消され、
でウェハが一番厚い右端にも電流集中を生じさせた。この
図 21 に示すようにエミッタ側の温度上昇が起きてくる。こ
様子は図 25 の温度分布、図 26 の電子電流の分布から明白
れによりpベースが intrinsic になる温度を超えればラッチ
であろう。
アップが起き破壊に至ると考えられる(上記[3])
。
116
t=1us
2us
3us
t=4us
5us
6us
120
図 23 X=0um で厚みが 116um、右端で 120um と厚みが変化し
ている FS-IGBT 構造。他はすべて図 17 と同じ。
Fig.23 Calculated IGBT structure with linearly graded wafer
thickness: 116um at x=0 and 120um at x=160um
図 25 温度分布(t=1,2,3,4,5,6us)
Fig.25 Temperature distribution (t=1,2,3,4,5,6us)
図 24 図 23 の構造の負荷短絡波形
Fig.24 Short-circuit waveforms for Fig.23
考えられる。
[1] コレクタ金属コンタクトの溶融
[3] エミッタ側の NPN 動作によるラッチアップ
ると予測される。その場合、更に電子電流密度が増大し、N
3us
t=4us
5us
6us
文
(1)
(2)
[2] N バッファ・N ベース接合付近の溶融
電流集中は X 方向だけでなく 3 次元的奥行方向にも起き
2us
図 26 電子電流の分布(t=1,2,3,4,5,6us)
Fig.26 Electron current distribution (t=1,2,3,4,5,6us)
5. 破壊の考察
MOSFET モード FS-IGBT の負荷短絡破壊は次の 3 つが
t=1us
(3)
(4)
献
A.Nakagawa et al., IEEE Trans. on Electron Devices,
ED-34, pp.351-355(1987)
J. Yamashita, A. Uenishi, Y. Tomomatsu, H. Haruguchi,
H. Takahashi, I. Takata, and H. Hagino, proceeding of
ISPSD'93, pp.35-40, (1993)
A. Nakagawa, T. Matsudai, T. Matsuda, M. Yamaguchi
and T. Ogura, Proc. of ISPSD, pp.103-106(2004)
A. Kopta, M. Rahimo, U. Schlapbach, N. Kaminski, D.
Silber, proceeding of ISPSD’09, pp.33-36(2009)
バッファ・N ベース接合での温度上昇が更に大きくなるこ
とが想定される。この温度がシリコンの融点を超えれば N
バッファ・N ベース接合が溶融すると考えられる(上記[2])
。
一方、コレクタ表面には金属コンタクトがあり、この部分
の溶融はかなり低い温度で起こるのでコレクタ金属コンタ
6/6
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