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高分子電解質および界面活性剤の 吸脱着挙動に関する研究
高分子電解質および界面活性剤の 吸脱着挙動に関する研究 木口 崇彦 高分子電解質および界面活性剤の 吸脱着挙動に関する研究 2012 年 木口 崇彦 目次 第 1 章 序論 1.1 研究の背景 1 1.2 本論文の目的と構成 2 参考文献 5 第 2 章 分散剤の吸着現象に及ぼす粒子濃度と分散剤添加量の影響 2.1 緒言 8 2.2 実験方法 8 2.3 結果および考察 12 2.4 結言 22 参考文献 22 第 3 章 分散剤の吸着現象に及ぼす分散剤構造とマグネシウムイオンの影響 3.1 緒言 24 3.2 実験方法 25 3.3 結果 28 3.4 考察 37 3.5 結言 44 参考文献 45 第 4 章 分散剤の吸脱着挙動に関する実験的考察 4.1 緒言 46 4.2 実験方法 47 4.3 結果 49 4.4 考察 58 4.5 結言 62 参考文献 63 第 5 章 分散剤の添加量が粒子沈降挙動に及ぼす影響 5.1 緒言 64 5.2 実験方法 64 5.3 結果および考察 65 5.4 結言 78 参考文献 80 第 6 章 結論 82 謝辞 85 本論文に関する既発表論文 87 第 1 章 序論 1.1 研究の背景 鋳込み成形やテープ成形といったセラミックス湿式成形では,スラリー調製, 成形,乾燥,焼成,研磨などの加工工程を経て最終製品が得られる.焼結体の 特性は成形体の特性に依存し,さらに成形体の特性はスラリー中の粒子集合状 態に依存するため,プロセスの最初の工程であるスラリー調製時の粒子集合状 態が最終製品の性能に大きな影響を及ぼす.緻密な最終製品を得るためには粒 子がよく分散したスラリーが良いとされており,一般的に高分子電解質等の分 散剤を添加して粒子集合状態を制御している.したがって,高分子電解質の添 加量と粒子集合状態の関係を明らかにするために多くの研究が行われてきた 7) 1 .粒子の集合状態は,従来主に重力沈降試験で,粒子の沈降挙動や堆積挙動を 観察することによって評価されてきた 重合反応を利用したその場固化法 16) 14,15) 8 12) .また,凍結乾燥法 13) やポリマーの など,粒子集合状態を直接観察する手法 も試みられてきた.これらの研究で,高分子電解質の添加量が増加するにつれ, スラリー中の粒子集合状態は,網目構造,良分散状態,塊状凝集状態と変化す ることが報告されている 13 16) . 高分子電解質添加時の粒子集合状態に影響を及ぼす重要な因子の一つとして, 粒子表面への高分子電解質の吸着量が挙げられる.高分子電解質添加時の粒子 集合状態と粒子の分散・凝集機構を模式的に Fig. 1.1 に示す.高分子電解質の添 加量が少なく,高分子電解質が粒子を完全に覆うことが出来ないとき,高分子 電解質の架橋により,網目状に全ての粒子が繋がった構造となる.高分子電解 質の添加量が増加し,ちょうど高分子電解質が粒子を完全に覆うとき,吸着し た高分子電解質の立体反発効果および静電反発効果により粒子は良分散状態と なる.さらに高分子電解質の添加量が増加して,未吸着高分子が媒液中に存在 するようになると,粒子間隙とバルクとの間で高分子濃度差による浸透圧が生 じ,枯渇凝集が起こるとされている 17 21) .このように,粒子と高分子電解質の 相互作用や粒子間力によって,粒子の集合状態が決定され,スラリー中粒子の 1 沈降挙動および堆積挙動が支配されるだけでなく,成形体の微構造も決定され る. 以上のことから,緻密な製品を製造するためには,スラリー調製時に適切な 量の高分子電解質を添加して高分子電解質を粒子に吸着させ,粒子間の相互作 用力を制御することが要求される.しかしながら,高分子電解質の種類 5,7,22 や粒子の種類 5 7,24 26) 粒子濃度 27) 26) ,といった様々な条件によって,高分子電解 質の添加量と吸着量の関係は変化する.また,焼結工程における焼結の促進や 異常粒成長の抑制を目的として,一般的にスラリーには焼結助剤が添加される が,この焼結助剤の有無によっても吸着量が変化することが報告されている 28 30) .これらの条件や因子が吸着現象に及ぼす影響については,十分には理解され ていない.よって,スラリーを扱う現場では勘や経験に頼ってスラリー調製し ているのが現状である.そのため,粒子と高分子電解質の吸着メカニズムを解 明し,吸着現象に影響を及ぼす様々な因子に関して幅広い知見を得ることが必 要となる. そこで本研究では,スラリー中の粒子集合状態が制御できるようなスラリー 調製の指針を示すため,粒子濃度,分散剤の構造,焼結助剤の有無によって, 分散剤の添加量と吸着量の関係がどのように影響を受けるのか,また,影響を 受ける原因について検討し,粒子と高分子電解質の相互作用の解明も試みた. さらに,沈降堆積実験により分散剤の吸着挙動と粒子の沈降堆積挙動との関係 を考察した. 1.2 本論文の目的と構成 本論文では,高分子電解質および界面活性剤の粒子への吸着現象に影響を及 ぼす因子を明らかにし,スラリー中の粒子集合状態が制御できるようなスラリ ー調製の指針を示すことを目的としている.以下に各章の内容を簡単に紹介す る. 2 「第 1 章 序論」 本研究の背景,本論文の目的と構成について述べる. 「第 2 章 分散剤の吸着現象に及ぼす粒子濃度と分散剤添加量の影響」 工業材料として汎用性の高いアルミナ粒子とポリカルボン酸アンモニウムを 用いて,幅広い粒子濃度,高分子電解質添加量でスラリーを調製し,高分子電 解質の吸着量を測定することにより,粒子濃度が高分子電解質の吸着挙動に及 ぼす影響について実験的に検証した. 「第 3 章 分散剤の吸着現象に及ぼす分散剤構造とマグネシウムイオンの影響」 第 2 章で観察された粒子濃度の影響について,より詳しく検証した.焼結助 剤として添加されたマグネシウムの影響について検討するため,焼結助剤とし てマグネシウムを含む粒子と含まない粒子の 2 種類の粒子を用いて吸着量を測 定した.また,現象が高分子電解質に特有のものかを検証するため,構造が単 純なカルボン酸塩であるラウリン酸ナトリウムを吸着質に用いて吸着量を測定 した. 「第 4 章 分散剤の吸脱着挙動に関する実験的考察」 粒子への高分子電解質の吸着メカニズムを明らかにするため,吸脱着挙動か ら粒子と高分子電解質の相互作用の解明を試みた.まず構造が単純な吸着質と して,第 3 章と同様にラウリン酸ナトリウムを用い,ラウリン酸ナトリウム添 加スラリーの粒子沈降挙動と,ラウリン酸の脱着挙動を観察した.そして,そ れらの結果から高分子電解質の吸着メカニズムについて予測し,ポリカルボン 酸アンモニウムを用いて脱着挙動を観察することで,予測した吸着メカニズム を検証した. 「第 5 章 分散剤の添加量が粒子沈降挙動に及ぼす影響」 本研究で用いてきたアルミナ−ポリカルボン酸アンモニウムの系に関して,粒 子集合状態が制御できるようなスラリー調製の指針を示すことを目的とし,第 2 4 章で得られた結果をもとに,単位粒子質量当たりの高分子電解質吸着量が同 3 じとなるように調製した様々な粒子濃度のスラリーの粒子集合状態を評価した. 粒子集合状態は,長時間スラリー中の粒子の沈降および堆積挙動を観察するこ とで評価した.また,沈降途中の凝集粒子の形成過程や,堆積層の形成過程に ついても考察した. 「第 6 章 結論」 本論文の結論を各章ごとに述べる. Fig. 1.1 Schematic illustration of assembling states of particles in slurry 4 参考文献 1) J. Cesarano, I. A. Aksay and A. Bleier, “Stability of Aqueous α -Al2O3 Suspensions with Poly(methacry1ic acid) Polyelectrolyte”, J. Am. Ceram. Soc., 71, 250-255, (1988) 2) J. Cesarano and I. A. Aksay, “Processing of Highly Concentrated Aqueous α -Alumina Suspensions Stabilized with Polyelectrolytes”, J. Am. Ceram. Soc., 71, 1062-1067, (1988) 3) K. Nagata, “Rheological Behavior of Suspension and Properties of Green Sheet -Effect of Compatibility between Dispersant and Binder-”, J. Ceram. Soc. Japan, 100, 1271-1275, (1992) 4) K. Wada and H. Abe, “Viscosities of Highly Concentrated Alumina Suspensions with Polyacrylic Ammonium”, J. Ceram. Soc. Japan, 103, 979-982, (1995) 5) J. Tsubaki, M. Kato, M. Miyazawa, T. Kuma and H. Mori, “The effects of the concentration of a polymer dispersant on apparent viscosity and sedimentation behavior of dense slurries”, Chem. Eng. Sci., 56, 3021-3026 (2001) 6) W. 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Powder Technol., 3, 119-127 (1992) 12) H. Kim, T. Mori and J. Tsubaki, “Effects of Solid Concentration and Dispersant Dosage on Sedimentation Behavior”, J. Soc. Powder Technol., Japan 41, 656–662 (2004) 13) M. Arakawa, K. Hirota, T. Kimura, H. Kobayashi, Y. Okuda and H. Murata, “A Study of the Aggregated Structure of Fine Particles in a Slurry”, J. Soc. Powder Technol., Japan, 26, 638-645 (1989) 14) M. Takahashi, M. Oya and M. Fuji, “New Technique of Observation for Fine Particles Dispersion in Slurry Using In-situ Solidification”, J. Soc. Powder Technol., Japan, 40, 410-417 (2001) 15) M. Takahashi, M. Oya and M. Fuji, “Transparent observation of particle dispersion in alumina slurry using in situ solidification”, Adv. Powder Technol., 15, 97-107 (2004) 16) K. Asai, K. Naganawa, T. Mori and J. Tsubaki, “Direct Observaion and Characterization of Particle Assembling State in Suspention”, J. Soc. Powder Technol., Japan, 48, 518-525 (2011) 17) T. Tadros and A. 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Takahashi, “The Adsorption Behavior of Dispersant Molecules and Rheological Properties of Highly Concentrated Alumina Slurries”, J. Soc. Powder Technol., Japan, 35, 25-30 (1998) 28) L. Dupont, A. Foissy, R. Mercier and B. Mottet, “Effect of Calcium Ions on the Adsorption of Polyadrylic Acid onto Alumina”, J. Colloid Interface Sci., 161, 455-464, (1993) 29) J. Sun, L. Bergstrom and L. Gao, “Effect of Magnesium Ions on the Adsorption of Poly(adrylic acid) onto Alumina”, J. Am. Ceram. Soc., 84, 2710-12, (2001) 30) H. Ohtsuka, H. Mizutani, S. IIO, K. Asai, T. Kiguchi, H. Satone, T. Mori and J. Tsubaki, “Effects of Sintering additives on dispersiion properties of Al2O3 slurry containing polyacrylic acid dispersant”, J. Euro. Ceram. Soc., 31, 517-522, (2011) 7 第 2 章 分散剤の吸着現象に及ぼす粒子濃度と 分散剤添加量の影響 2.1 緒言 高分子電解質添加量の増加によるスラリー中粒子集合状態の変化は,高分子 電解質の吸着量が大きく影響しているものと思われる.スラリー調製時に粒子 表面積あたりの高分子電解質吸着量が同じになるように高分子電解質を添加す れば,粒子濃度に関わらず同じ粒子集合状態が得られると考えられる.すなわ ち,通常の物理吸着を想定すれば,吸着平衡時の溶液中に残存する高分子電解 質濃度が等しければ,粒子表面積あたりの吸着量は等しいと考えられる.とこ ろが Unuma ら 1)は,アルミナ−ポリアクリル酸アンモニウムの系で粒子濃度の異 なるスラリーを調製し,吸着量と残留高分子濃度の関係を調査し,残留高分子 濃度が同じスラリーであっても,粒子濃度が異なると吸着量も異なるという結 果を報告している.その他にもセラミックス原料微粒子への高分子電解質の吸 着については数多くの研究報告がなされているが 2 10) ,残念ながら粒子濃度を パラメータとした同様の研究はほとんど見あたらず,上記のような吸着現象が 幅広い粒子濃度及び高分子電解質添加量で起こるのか,その一般性については 十分に検証されていない. そこで本章では汎用性の高いアルミナとポリカルボン酸系の高分子電解質の 組み合わせを例にとり,幅広い粒子濃度及び高分子電解質添加量において吸着 量を測定した結果を報告する. 2.2 実験方法 2.2.1 アルミナ粒子への吸着量測定 試料粉体には焼結助剤のマグネシウムを酸化物換算で 0.11 mass%含むアルミ 8 ナ粒子(住友化学,AES-11E,平均粒子径 0.48 µm,BET 比表面積 6.74 m2・g-1) を用いた.電気泳動法で測定した粒子のゼータ電位を Fig. 2.1 に示す.粒子の等 電点は約 9.2 である.分散剤には高分子電解質であるポリカルボン酸アンモニウ ム(中京油脂,セルナ D-305, ( H2CH2CH2CHCCOONH4 )n ,高分子電解質濃度 40 mass%,平均分子量 6,000-10,000),媒液には蒸留水を用いた.スラリーの全 量 350 mL で所定の粒子濃度,高分子電解質添加量となるように高分子電解質と 蒸留水を計量,混合し,超音波バス中で撹拌して高分子電解質溶液を調製した. 高分子電解質溶液とアルミナ粒子を,ポリエチレン製ポット(内容量 2 L)に直 径 5 mm のアルミナボール 0.70 kg とともに投入し,回転数 55 rpm で 1 h ボー ルミル混合した.ボールミル混合後のスラリーを 10 min 真空脱泡した後,直径 2 cm のアクリル製の沈降管に高さ 15 cm になるまでスラリーを投入して,23 ℃ の恒温槽中で 2 日間静置した.その後遠心分離器にて回転数 3000 rpm で 160 min 遠心沈降を行い,上澄みを採取してその中の高分子電解質濃度を,全有機炭素 計(東レエンジニアリング,TOC-650)を用いて測定した.粒子濃度は 2.5 vol%,高分子電解質添加量は 0.5 35 6.0 mg・g-1Al2O3 とした.吸着量は高分子電解 質の添加量から,上澄み中に残った高分子電解質の量を引いたものとした. 2.2.2 アルミナ仮焼体への吸着量測定 上記のような方法で吸着量の測定を行う場合,スラリーの重力沈降時および 遠心沈降時に高分子電解質が沈降する粒子にトラップ,つまり吸着していない 高分子電解質が堆積層内に取り込まれ,その分が吸着量に含まれている可能性 がある. そこで以下のような実験を行った.アルミナ粒子を蒸留水に分散させペース ト状にし,適当な大きさにして 1000 ℃で仮焼した.得られた仮焼体をプラスチ ック容器底部に置き,そこへ所定濃度の高分子電解質溶液を注ぎ静置した.静 置してから任意の時間経過後に溶液中の高分子電解質濃度を全有機炭素計で測 定し,アルミナ仮焼体への吸着量の経時変化をもとめた.仮焼体と高分子電解 質溶液の体積比は 1:19 及び 1:9 とした(上記のアルミナ粒子への吸着量測定に おける粒子濃度 5.0 および 10 vol%に相当する). 9 60 zeta potential [mV] 40 20 0 -20 -40 2 4 6 8 10 pH [-] 12 14 Fig. 2.1 Effect of slurry pH on zeta potential 10 2.2.3 高分子電解質の脱着挙動の観察 アルミナ表面への高分子電解質の吸着メカニズムをさらに考察するために, アルミナ粒子に吸着した分散高分子電解質の脱着挙動を調べた.具体的な実験 方法,手順を以下に示す. アルミナ粒子とポリカルボン酸アンモニウム,蒸留水を混合し,粒子濃度が 10 vol%のスラリーをまず調製した.高分子電解質添加量は 1.6 mg・g-1Al2O3 とし た.調製したスラリーは沈降管に移し,2 日間静置した後に遠心分離し,できる だけ上澄み液を除去した.このとき除去した上澄みの一部を全有機炭素計で分 析し,溶液中に含まれる高分子電解質濃度を求めた.その後,除去した上澄み と同量の蒸留水を加え,超音波バス中にて撹拌し,再度スラリー化した.その 後 2 日間静置し,遠心分離器にかけ,得られた上澄み中の高分子電解質濃度を 測定し,蒸留水で希釈する前の高分子電解質濃度と比較し,高分子電解質の脱 着の有無を確認した.以上の操作を 3 回繰り返し,希釈にともなう吸着量変化 を観察した. 2.2.4 上澄み中の残存分散剤による吸着実験 アルミナ表面への高分子電解質の吸着挙動について考察するため,以下のよ うな実験を行った. これまでの実験と同様に,アルミナ粒子とポリカルボン酸アンモニウム,蒸 留水を用いて,粒子濃度 20 vol%,高分子電解質添加量 2.4 mg・g-1Al2O3 のスラリ ーを調製し,試験管に移して 2 日間静置した.その後遠心分離器にかけ上澄み を採取し,高分子電解質濃度を測定した.さらに得られた上澄み溶液に粒子濃 度が 2.5 vol%となるようにアルミナ粒子を投入し,再度ボールミルで混合し,ス ラリーを調製した.調製したスラリーは再び 2 日間静置,遠心分離した後,得 られた上澄み中の高分子電解質濃度を測定した. 11 2.3 結果および考察 2.3.1 アルミナ粒子への吸着量測定結果 Fig. 2.2 に粒子濃度 10 vol%,高分子電解質添加量 2.4 mg・g-1Al2O3 の場合に, アルミナへの高分子電解質吸着量の経時変化を測定した結果を示す.図の横軸 は,ボールミル混合後に沈降管の中でスラリーを静置した時間である.この結 果から,1 日以上静置すると,静置時間を変えても吸着量はほぼ変化しないこと がわかった.そこで以後の実験では,スラリー調製後,最低でも 2 日間置いた スラリーを用いて吸着量を測定した. Fig. 2.3 に様々な粒子濃度のスラリーにおいて,アルミナ粒子に対する吸着量 を測定した結果を示す.横軸は平衡時の溶液中に含まれる高分子電解質濃度を, 縦軸は単位粒子質量あたりの高分子電解質吸着量を示している.図からわかる ように,吸着等温線は粒子濃度によって異なっており,高分子電解質のアルミ ナに対する吸着は,吸着量が吸着平衡時の溶液中の吸着質濃度に依存するとい う通常の物理吸着とは異なることが示唆された. ここでこの吸着量測定結果を,横軸に単位粒子質量あたりの高分子電解質添 加量を取ってまとめたものを Fig. 2.4 に示す.図から明らかなように,高分子電 解質吸着量は粒子濃度によらず同一の曲線上にのることが示された.つまり幅 広い粒子濃度,高分子電解質添加量において,アルミナ粒子に対する高分子電 解質の吸着量は単位粒子質量あたりの高分子電解質添加量のみに依存するとい うことが示された.さらに,吸着量が添加量とともに増加している領域に注目 すると,添加した高分子電解質は 100%吸着しているのではなく,添加した量の およそ 70%が吸着するという結果になった.また吸着量は添加量を増加させて いくと,一度極大値を取った後に減少しており,これは大変興味深い現象であ る. 以上のように,今回のアルミナ粒子へのポリカルボン酸の吸着挙動は通常の 物理吸着とは異なる特異な現象であるため,以下でこのような吸着挙動を引き 起こす要因について考察する. 12 adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 solid concentration : 10 vol% 0.5 0 additive dosage : 2.4 mg・g-1Al2O3 0 2 4 6 8 keeping time [day] 10 Fig. 2.2 Effect of keeping time on the adsorbed amount of polyelectrolyte 13 -1 2 3 adsorbed amount [mg・g Al O ] 3.0 2.0 1.0 0 2.5 vol% 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 35 vol% 0 1.0 2.0 3.0 -1 polycarboxylate concentration [g・L ] Fig. 2.3 Effect of polyelectrolyte concentration on the adsorbed amount of polyelectrolyte for slurries with different solid concentration 14 -1 2 3 adsorbed amount [mg・g Al O ] 3.0 2.0 2.5 vol% 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 35 vol% 1.0 0 0 2 4 -1 additive dosage [mg・g Al O ] 2 6 3 Fig. 2.4 Effect of the additive dosage on the adsorbed amount of polyelectrolyte 15 2.3.2 粒子にトラップされる高分子電解質が吸着量測定に及ぼす影響 高分子電荷質の仮焼体への吸着量の測定結果を Fig. 2.5 に示す.図からわかる ように静置後,時間経過とともに吸着量は増加していき,5.0 vol%相当の仮焼体 による実験では,最終的にはアルミナ粉体と同程度の吸着量になることが示さ れた.粉体と比較して,仮焼体への吸着に要する時間がここまで長くなること は,仮焼体細孔内への高分子電解質の拡散に時間を要することのみでは十分に 説明できないが,アルミナ粉体へのポリカルボン酸の吸着量測定に及ぼす,沈 降粒子にトラップされたポリカルボン酸の影響は小さいと考えられる. 2.3.3 スラリーpH が吸着挙動に及ぼす影響 吸着挙動に影響を及ぼす主な因子としては粒子の表面電位,高分子電解質の 解離度及び溶液中での存在形態が挙げられる.一般的にこれらの因子はスラリ ーの pH に大きく影響される.Fig. 2.6 に今回吸着量を測定したスラリーの pH を 示す.いずれの粒子濃度においても,単位粒子質量あたりの高分子電解質添加 量が同じであれば,pH の値はほぼ等しくなっている.しかもいずれの粒子濃度 及び高分子電解質添加量においても,pH は今回用いたアルミナ粒子の等電点か, もしくは等電点よりアルカリ側になっている.したがってアルミナ粒子表面は 負に帯電しており,アニオン性であるポリカルボン酸と静電気的な引力で結合 している可能性は低いと思われる.また,過去の報告 2,11 13) にあるようにポリカ ルボン酸アンモニウムのカルボキシル基は pH 2 3 から解離し始め,pH 9 では ほとんど全てのカルボキシル基が解離する.したがって,今回のスラリーの pH 範囲ではポリカルボン酸はほとんど全てのカルボキシル基が解離しているため, 解離度の pH 依存性は少ない.以上の理由により,上記のような吸着挙動をとる 主要因がスラリーの pH 変化によるものであるとは考えにくい. 2.3.4 高分子電解質の脱着挙動 Fig. 2.7 に高分子電解質の脱着挙動の観察結果を示す.図は横軸にスラリーを 16 -1 2 3 adsorbed amount [mg・g Al O ] 3.0 5.0 vol%, 2 days 5.0 vol%, 7 days 5.0 vol%, 14 days 5.0 vol%, 30 days 5.0 vol%, 120 days 10 vol%, 2 days 10 vol%, 7 days 10 vol%, 14 days 10 vol%, 30 days 10 vol%, 120 days 2.0 1.0 0 0 2 4 6 -1 additive dosage [mg・g Al O ] 2 3 Fig. 2.5 Adsorbed amount of polyelectrolyte on calcined bodies 17 11 2.5 vol% 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 35 vol% pH [-] 10 9 8 0 2 4 6 -1 additive dosage [mg・g Al O ] 2 Fig. 2.6 3 Effect of the additive dosage on slurry pH 18 75 1.5 70 1.4 65 1.3 60 1.2 55 3rd 0 1st 2nd number of dilution polycarboxylate concentration [mg・L-1] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 1.6 Fig. 2.7 Desorption behavior of polyelectrolyte 19 希釈した回数をとり,縦軸にはそれぞれの希釈したスラリー中の高分子電解質 濃度と,吸着量の変化を示してある.図からわかる通り,希釈によって溶液中 の高分子電解質濃度が薄まっても,吸着量の変化はほとんど見られず,この系 では一度粒子に吸着したポリカルボン酸は容易には脱着せず,非常に強く粒子 表面と結合していることがわかった.先のスラリーpH の考察からアルミナ粒子 とポリカルボン酸との間での静電気的な引力による結合は考えにくいので, Santhiya らの報告 6)にあるようにアルミナ表面と高分子電解質の末端のカルボキ シル基との間で化学結合が形成されており,それがこの強い吸着の要因になっ ているか,もしくは,高分子電解質分子内の複数のカルボキシル基が同一の粒 子に吸着しておりその全てが同時に外れることはないと考えられるため,強い 吸着の要因になっているのではないかと推察される. 2.3.5 上澄み中の残存分散剤による吸着実験 一度スラリーを調製し,上澄み中に残った高分子電解質を用いた吸着量測定 の結果を,Fig. 2.8 に示す.測定機器に起因する誤差があるものの,残存高分子 電解質は,新たに加えられたフレッシュなアルミナ表面にもほとんど吸着しな いことがわかった.これは高分子電解質溶液中にアルミナ粒子に吸着できる成 分と吸着できない成分が一定割合で共存しているために,アルミナ粒子に非常 に強く吸着する高分子電解質であるにもかかわらず,添加量が少ない領域では 十分に時間をかけても,添加した高分子電解質がすべては吸着せず溶液中に残 り,かつ添加量に対する残存した高分子電解質の割合が常にほぼ一定になって いるのではないかと考えられる.一定割合の高分子電解質が粒子に吸着できな くなる原因は解明できておらず,詳細についてはさらなる検討が必要である. この現象を含め,アルミナ表面に対するポリカルボン酸の吸着については, 非常に興味深い現象が多く見られた.そこで,そのメカニズムについて,次章 以降でより詳しく検討していく. 20 2.5 vol% 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 35 vol% 2.5 -1 2 3 adsorbed amount [mg・g Al O ] 3.0 2.0 1.5 1.0 0.5 using supernatant 0 0 1 2 3 -1 additive dosage [mg・g Al O ] 2 4 3 Fig. 2.8 Adsorbed amount of polyelectrolyte using supernatant instead of a polyelectrolyte solution 21 2.4 結言 粒子集合状態状態に決定的な影響を及ぼす高分子電解質の吸着挙動について, より広い粒子濃度,高分子電解質添加量にわたって系統的に吸着量を測定した. アルミナ粒子に対するポリカルボン酸の吸着に関して以下のことが明らかとな った. 1) 高分子電解質の吸着量は,アルミナ粒子単位質量あたりの高分子電解質添加 量にのみ依存し,溶液中の高分子電解質濃度には依存しないことが,幅広い 粒子濃度,高分子電解質濃度において示された.したがって吸着量を制御す るためにはアルミナ粒子質量基準で添加量を決めれば良いことがわかった. 2) 高分子電解質の吸着量は,いずれの粒子濃度においても,高分子電解質添加 量にともなって直線的に増加し,極大値をとった後は減少することが示され た. 3) アルミナ粒子とポリカルボン酸との吸着は非常に強く,希釈して溶液中のポ リカルボン酸濃度を下げても容易には脱着しないことが示された. 4) 一度吸着平衡に達したスラリーから取り除いた上澄み中に含まれる高分子電 解質は,新たなアルミナ表面と接触しても吸着しないことが示された. 参考文献 1) H. Unuma, B. H. Ryu, I. Hatano and M. Takahashi, “The Adsorption Behavior of Dispersant Molecules and Rheological Properties of Highly Concentrated Alumina Slurries”, J. Soc. Powder Technol., Japan, 35, 25-30 (1998) 2) J. Cesarano, I. A. Aksay and A. Bleier, “Stability of Aqueous α -Al2O3 Suspensions with Poly(methacry1ic acid) Polyelectrolyte”, J. Am. Ceram. Soc., 71, 250-255, (1988) 3) J. Cesarano and I. A. Aksay, “Processing of Highly Concentrated Aqueous α -Alumina Suspensions Stabilized with Polyelectrolytes”, J. Am. Ceram. Soc., 71, 1062-1067, (1988) 22 4) K. Nagata, “Rheological Behavior of Suspension and Properties of Green Sheet -Effect of Compatibility between Dispersant and Binder-”, J. Ceram. Soc. Japan, 100, 1271-1275, (1992) 5) K. Wada and H. Abe, “Viscosities of Highly Concentrated Alumina Suspensions with Polyacrylic Ammonium”, J. Ceram. Soc. Japan, 103, 979-982, (1995) 6) D. Santhiya, S. Subramanian, K. A. Natarajan and S. G. 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Nishimoto and Y. Ishihara, “Interaction between α-Alumina Surface and Polyacrylic Acid”, J. Ceram. Soc. Japan, 110, 7-12 (1992) 12) C. Shih, B. Lung and M. Hon, “Colloidal processing of titanium nitride with poly-(methacrylic acid) polyelectrolyte”, Mater. Chem. Phys., 60,150-157 (1999) 13) A. Pettersson, G. Marino, A. Pursiheimo and J. B. Rosenholm, “Electrosteric Stabilization of Al2O3, ZrO2, and 3Y–ZrO2 Suspensions: Effect of Dissociation and Type of Polyelectrolyte”, J. Colloid Interface Sci., 228, 73-81 (2000) 23 第 3 章 分散剤の吸着現象に及ぼす分散剤構造と マグネシウムイオンの影響 3.1 緒言 第 2 章では,幅広く粒子濃度を変化させて高分子電解質の吸着量を測定した. その結果,高分子電解質の吸着量は平衡時の分散媒中の高分子電解質濃度では 整理できず,粒子濃度によらず単位粒子質量あたりの高分子電解質添加量のみ に依存することがわかった.さらに,高分子電解質の吸着量はある添加量で極 大値をとり,添加量がそれより多くても少なくても吸着量が減少することがわ かった. 吸着等温線が極大値を持つことは 2 価のカチオン添加スラリーにおいて報告 されている 1,2).一方,本研究では 2 価のカチオンは添加せず, 焼結助剤を含む 粒子を用いたが,同様の現象が観察できた.さらに,極大値が現れるメカニズ ムを解明するため,既往の研究では高分子電解質と 2 価のカチオンが錯体を形 成し,高分子電解質の持つ電荷が変化することに着目している.高分子電解質 の吸着には,電荷だけでなく,高分子電解質のコンフォメーションも大きな影 響を及ぼすと考えられる.しかし,既往の研究 1,2) では高分子のコンフォメーシ ョンの変化までは着目していない. 本章では,第 2 章で報告した,吸着等温線が極大値を持つこと,高分子電解 質の吸着量が粒子あたりの高分子電解質添加量のみに依存することの 2 つの現 象について,原因の解明を試みる. まず,焼結助剤が分散剤の吸着量に及ぼす影響について検討するため,焼結 助剤としてマグネシウムを含む粒子と含まない粒子の 2 種類を用いて分散剤の 吸着量を測定した. また,吸着量が分散剤添加量に依存することが高分子電解質に特有のものか を検証するため,カルボン酸塩のラウリン酸ナトリウムを用いて, 幅広い粒子 濃度と界面活性剤添加量で吸着量を測定した. 24 3.2 実験方法 3.2.1 試料 試料粉体には,焼結助剤のマグネシウムを酸化物換算で 0.11 mass%含むアル ミナ粒子(住友化学,AES-11E,平均粒子径 0.48 µm),および焼結助剤を含ま ないアルミナ粒子(住友化学,AES-12,平均粒子径 0.48 µm)の 2 種類のアルミ ナ粒子を用いた.電気泳動法で測定した粒子のゼータ電位を Fig. 3.1 に示す.マ グネシウムを含むアルミナ粒子(以下,AES-11E と記す)とマグネシウムを含 まないアルミナ粒子(以下,AES-12 と記す)の等電点はそれぞれ 9.2,8.7 であ る.分散剤には,高分子電解質のポリカルボン酸アンモニウム(中京油脂,セ ルナ D-305,高分子電解質濃度 40 mass%,平均分子量 6,000-10,000)と,低分子 量の界面活性剤であるラウリン酸ナトリウム(和光純薬工業,C11H23COONa, 分子量 222.3)を用いた.分散媒には蒸留水を用いた.2 価のカチオンを添加す るためには MgCl2 無水物(和光純薬工業)を予め蒸留水に溶解させ,所定の濃 度に調整した MgCl2 溶液を用いた. 3.2.2 マグネシウムイオン溶出試験 AES-11E を用いてスラリーを調製した場合にマグネシウムイオンが溶出する か検証した.スラリーの全量 350 mL で粒子濃度 20 vol%となるように計量した アルミナ粒子と蒸留水を,ポリエチレン製ポット(内容量 2 L)に直径 5 mm の アルミナボール 0.70 kg とともに投入し,回転数 55 rpm で 1 h ボールミル混合し た.ボールミル混合後のスラリーを真空脱泡した後,超音波バス中で撹拌し, 卓上遠心機(コクサン,卓上遠心機 H-27F)を用いて 3500 rpm,60 min で遠心 分離した.採取した上澄み中に含まれるマグネシウムイオンの濃度を,ICP 発光 分光分析装置(セイコーインスツルメント,VISTA-MPX)を用いて測定した. 25 60 zeta potential [mV] 40 20 0 -20 -40 -60 AES-11E AES-12 0 2 4 6 8 pH [-] 10 12 14 Fig. 3.1 Zeta potential of alumina particles 26 3.2.3 マグネシウムイオン添加実験 粒子が存在しない状態でマグネシウムイオンが高分子電解質の溶解性に及ぼ す影響を検証するため,蒸留水で 50 倍に希釈した高分子電解質溶液(高分子電 解質濃度 0.8 mass%)と,濃度が 100 mM となるように調整した MgCl2 溶液を, 質量比 1:1 で混合した.混合の前後で高分子電解質溶液の外観の変化を観察した. 3.2.4 スラリー調製 (ⅰ) ポリカルボン酸アンモニウムを用いた場合 スラリーの全量 350 mL で所定の粒子濃度,高分子電解質添加量となるように 高分子電解質と蒸留水を計量,混合し,超音波バス中で撹拌して高分子電解質 溶液を調製した.高分子電解質溶液とアルミナ粒子を,ポリエチレン製ポット (内容量 2 L)に直径 5 mm のアルミナボール 0.70 kg とともに投入し,回転数 55 rpm で 1 h ボールミル混合した.ボールミル混合後のスラリーを真空脱泡し た後,超音波バス中で撹拌し,2 日間静置して吸着量測定用スラリーとした.な お,2 日間静置すれば吸着平衡に達することは,第 2 章で示されている. また,AES-11E と AES-12 の吸着量の違いがマグネシウムイオンの影響である ことを確かめるため,試料粉体に AES-12,分散媒には濃度が 10 および 20 mM となるように MgCl2 を添加した MgCl2 溶液を用いてスラリーを調製した.この とき粒子濃度は 20 vol%で一定とした. (ⅱ) ラウリン酸ナトリウムを用いた場合 スラリーの全量 350 mL で所定の粒子濃度,界面活性剤添加量となるようにラ ウリン酸ナトリウムと蒸留水を計量,混合し,超音波バス中で撹拌してラウリ ン酸ナトリウムを完全に溶解させた.調製したラウリン酸ナトリウム溶液をア ルミナ粒子と混合し,さらに超音波バス中で 10 min 撹拌した後,任意の時間マ グネチックスターラーで撹拌した. 27 3.2.5 吸着量測定 調製したスラリーを,卓上遠心機(コクサン,卓上遠心機 H-27F)を用いて 3500 rpm,60 min で 2 回遠心分離し,透明な上澄みを採取した.採取した上澄 み中に含まれる分散剤量(濃度)を,全有機炭素計(東レエンジニアリング, TOC-650)を用いて測定し,添加量との差から分散剤の吸着量を算出した. 3.3 結果 3.3.1 マグネシウムイオン溶出試験 試料粉体に AES-11E を用いた 20 vol%スラリーの媒液中のマグネシウムイオ ン濃度を測定した結果,0.1 mM であった.したがって,焼結助剤として添加さ れたマグネシウムがスラリー中に溶出することが確認できた. 3.3.2 マグネシウムイオン添加実験 Fig. 3.2 に,蒸留水で高分子電解質濃度 0.8 mass%まで希釈したポリカルボン 酸アンモニウム溶液と,そのポリカルボン酸アンモニウム溶液に MgCl2 溶液を 質量比 1:1 で混合した後の溶液の様子を示す.ポリカルボン酸アンモニウム溶液 は透明の液体であるが,MgCl2 溶液添加後は溶液が白濁しており,溶解度が低下 してポリカルボン酸が析出していることがわかる. 3.3.3 吸着平衡の確認 AES-11E を用いて,粒子濃度 5.0 vol%,ラウリン酸ナトリウムの添加量が 5.0 mg・g-1Al2O3 となるように調製したスラリーの,ラウリン酸吸着量の経時変化を, 第 2 章で示したポリカルボン酸吸着量の経時変化とともに Fig. 3.3 に示す.ラウ リン酸の吸着量は撹拌時間が 3 日経過してからはほとんど変化がなく,吸着平 28 Fig. 3.2 Photo of polycarboxylate solution (a)without magnesium ion (b)with magnesium ion 29 adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 laurate (stirring) polycarboxylate (not stirring) 0 1 2 3 4 5 6 time [day] 7 8 Fig. 3.3 Adsorbed amount of laurate and polycarboxylate as a function of time 30 衡に達した.そこで,ラウリン酸ナトリウムを添加したスラリーでは,マグネ チックスターラーでスラリーを 3 日間撹拌することとした. 3.3.4 ポリカルボン酸アンモニウム添加スラリー 試料粉体に焼結助剤を含まない AES-12 を用いた吸着量測定の結果を,Figs. 3.4, 3.5 に示す.Fig. 3.4 は横軸を吸着平衡時に分散媒中に残った高分子電解質濃 度としたグラフである.吸着量には粒子濃度依存性があり,第 2 章で測定した AES-11E を用いた吸着量測定の結果と同様,AES-12 を用いたスラリーでも吸着 量は平衡時の分散媒中の高分子電解質濃度では整理できないことがわかった. Fig. 3.5 は横軸を単位粒子質量当たりの高分子電解質添加量としたグラフである. このとき,高分子電解質添加量の少ない範囲では添加したほとんど全ての高分 子電解質が吸着した.高分子電解質添加量の多い範囲では,高粒子濃度のスラ リーで,ある添加量以上で吸着量が一定となった.低粒子濃度のスラリーでも, 添加量が増大するにつれ,ある一定の吸着量に漸近する曲線が得られた.また, 第 2 章で AES-11E を用いた時には吸着量に極大値が現れたが, Figs. 3.4, 3.5 より, AES-12 を用いた場合には極大値は現れないことがわかった. 試料粉体に AES-12,分散媒に濃度が 10 および 20 mM の MgCl2 溶液を用いて スラリーを調製し,高分子電解質の吸着量を測定した結果を,AES-11E を用い た結果とともに Fig. 3.6 に示す.分散媒に MgCl2 溶液を用いたスラリーでは, AES-11E を用いたスラリーと同じように吸着量に極大値が現れた.特に,10 mM の MgCl2 溶液を用いたスラリーでは AES-11E とほとんど同じ吸着量となった. また,濃度の異なる MgCl2 溶液を用いてスラリーを調製すると,MgCl2 の濃度 が高いほど吸着量が増加した. 3.3.5 ラウリン酸ナトリウム添加スラリー 粒子濃度,界面活性剤添加量を変化させてスラリーを調製し,ラウリン酸の 吸着量を測定した.試料粉体に AES-11E を用いた時の結果を Figs. 3.7, 3.8 に示 す.Fig. 3.7 は横軸を吸着平衡時の分散媒中の界面活性剤濃度としたグラフであ 31 adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 40 vol% 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 polycarboxylate concentration [g・L-1] Fig. 3.4 Effect of dispersant concentration on the adsorbed amount of polycarboxylate 32 adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 3.0 100% adsorption line 2.5 2.0 1.5 1.0 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 40 vol% 0.5 0 0 2 4 6 8 10 12 additive dosage [mg・g-1Al2O3] 14 Fig. 3.5 Effect of additive dosage on the adsorbed amount of polycarboxylate 33 adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 4.0 100% adsorption line 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 AES-11E AES-12 AES-12, MgCl2 10 mM AES-12, MgCl2 20 mM 1.0 0.5 0 0 2 4 6 8 10 12 additive dosage [mg・g-1Al2O3] 14 Fig. 3.6 Effect of magnesium ion on the adsorbed amount of polycarboxylate 34 adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 20 15 10 1.0 vol% 2.5 vol% 5.0 vol% 5 0 0 1 2 3 4 laurate concentration [g・L-1] 5 Fig. 3.7 Effect of surfactant concentration on the adsorbed amount of laurate (AES-11E) 35 100% adsorption line adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 20 15 10 1.0 vol% 2.5 vol% 5.0 vol% 5 0 0 10 20 30 40 additive dosage [mg・g-1Al2O3] 50 Fig. 3.8 Effect of additive dosage on the adsorbed amount of laurate (AES-11E) 36 る.吸着量に粒子濃度依存性が見られ,低分子量の界面活性剤であるラウリン 酸ナトリウムの吸着量も,吸着平衡時の分散媒中の界面活性剤濃度では整理で きないことがわかった.Fig. 3.8 は横軸に単位粒子質量あたりの界面活性剤添加 量としたグラフであるが,高分子電解質を用いたときとは異なり,吸着量に粒 子濃度依存性が見られ,それぞれの直線は 100%吸着ラインとは離れた所に位置 している.粒子濃度の等しい 5 つのプロットはほとんど同一直線上に並んでい るが,添加量が 5.0 mg・g-1Al2O3 までの範囲では吸着量は 100%吸着ラインに添っ て増加すると考えられるため,添加量が 5.0 mg・g-1Al2O3 以下と 5.0 mg・g-1Al2O3 以上の範囲で直線の傾きが異なることがわかる.また,Figs. 3.7, 3.8 のどちらの グラフでも吸着量に極大値は現れず,添加量の増加とともに吸着量は単調に増 加した. AES-12 を用いて同様にラウリン酸ナトリウムの吸着量を測定した結果を Figs. 3.9, 3.10 に示す.Fig. 3.9 は横軸を吸着平衡時の分散媒中の界面活性剤濃度とし たグラフ,Fig. 3.10 は横軸を単位粒子質量あたりの界面活性剤添加量としたグラ フである.AES-12 を用いた場合も,両方のグラフで吸着量に粒子濃度依存性が 見られ,吸着量は添加量の増加とともに単調に増加した.しかし,AES-11E を 用いたときとは異なり,どの粒子濃度においてもプロットとグラフの原点がほ ぼ同一直線上に並んでいることがわかる. 3.4 考察 Fig. 3.2 より,明らかに液中のマグネシウムイオンが高分子電解質に影響を及 ぼしていると言える.Tjipangandjara ら 3)は酸性域でポリアクリル酸のカルボキ シル基の解離度が低下し,ポリアクリル酸のコンフォメーションがコイル状に 変化することを報告している.したがって,マグネシウムイオン添加によりポ リカルボン酸溶液が白濁したことについては次のように考えられる.Fig. 3.11 にポリカルボン酸のコンフォメーション変化の概略図を示す.マグネシウムイ オンは 2 価の陽イオンであるため,分子内および分子間の離れた位置にある二 つのカルボキシル基を架橋する.したがって,マグネシウムイオンが存在しな 37 adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 20 15 10 1.0 vol% 2.5 vol% 5.0 vol% 5 0 0 1 2 3 4 laurate concentration [g・L-1] 5 Fig. 3.9 Effect of surfactant concentration on the adsorbed amount of laurate (AES-12) 38 100% adsorption line adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 20 15 10 5 0 1.0 vol% 2.5 vol% 5.0 vol% 0 10 20 30 40 additive dosage [mg・g-1Al2O3] 50 Fig. 3.10 Effect of additive dosage on the adsorbed amount of laurate (AES-12) 39 Fig. 3.11 Conformation of polycarboxylate (a)without magnesium ion (b)with magnesium ion 40 い場合には,Fig. 3.11(a)のようにポリカルボン酸のカルボキシル基は液中で解離 し,ポリカルボン酸は長く伸びた状態で存在するが,マグネシウムイオンが存 在する場合,Fig. 3.11(b)のようにマグネシウムイオンで架橋されることによりカ ルボキシル基の電荷が中和されて親水性を失い溶解度が低下する.さらに,水 溶性を失ったポリカルボン酸は液中で不安定であるため伸びた状態とはならず, コイル状に小さくまとまった形で存在する. このことから,Fig. 3.6 において,AES-12 を用いたスラリーでは吸着量が一定 の値となり,AES-11E を用いたスラリーで吸着量に極大値が現れた理由は,次 のように考えられる.ポリカルボン酸のコンフォメーションと吸着量の関係を 示す概略図を,Fig. 3.12 に示す.マグネシウムを含まない AES-12 を用いたスラ リーの場合,高分子電解質添加量に関わらずポリカルボン酸のコンフォメーシ ョンは長く伸びた状態である.したがって,Fig. 3.12(a)のように長く伸びた高分 子電解質が完全に粒子表面を覆ったところで吸着量が一定となる.マグネシウ ムを含む AES-11E を用いたスラリーでは,高分子電解質添加量によってポリカ ルボン酸のコンフォメーションが変化する.高分子電解質添加量が少ないとき には高分子電解質一分子当たりのマグネシウムイオンの量が多く,高分子電解 質は小さくコイル状となる.したがって,Fig. 3.12(b)のように,高分子電解質一 分子当たりの専有面積が小さくなり,単位粒子当たりに吸着できる高分子電解 質の量が多くなる.さらに,高分子電解質添加量を増加させると,高分子電解 質一分子当たりのマグネシウムイオンの量が少なくなる.よって,高分子電解 質添加量の少ないときに比べ,高分子電解質は長く伸びた状態となる.その結 果,Fig. 3.12(c)のように高分子電解質一分子が粒子表面で占める面積が大きくな り,単位粒子当たりに吸着できる高分子電解質の量が減少するため,吸着量が 極大値を持つと考えられる. 吸着量が極大値を持つことはカルシウムイオンを添加した場合にも報告され ている 1)ことから,上記のような高分子電解質のコンフォメーション変化は,マ グネシウムイオンだけでなく他の 2 価のカチオンでも起こると考えられる. マグネシウムイオンの量を変えて吸着量の変化を調べた結果では,マグネシ ウムイオンの濃度が高いほど吸着量が増加した.これはマグネシウムイオンの 量が多くなることによって,高分子電解質がより小さなコイル状になって占有 41 Fig. 3.12 Schematic illustration of polycarboxylate adsorbed to alumina 42 面積が減少し,単位粒子当たりに吸着できる高分子電解質の量が増加したため である. 一方,分散剤にラウリン酸ナトリウムを用いた Figs. 3.7, 3.8 の結果では, AES-11E を用いて調製したスラリーであるにも関わらず,吸着量に極大値は現 れなかった.これは,ラウリン酸が親水基と疎水基が 1:1 の単純な構造であるた めに,高分子電解質のときのようなコンフォメーションの変化が起こらないた めだと考えられる. Fig. 3.5 では,低粒子濃度のスラリーで吸着量に濃度依存性が見られる.この 結果は,高分子電解質の吸着量は単位粒子質量あたりの高分子電解質添加量の みに依存するという,AES-11E を用いた第 2 章の結果と異なる.この現象の解 明についてはさらなる検討が必要である. Figs. 3.8, 3.10 より,マグネシウムイオンの有無に関わらず,ラウリン酸ナト リウムの吸着量は単位粒子質量あたりの界面活性剤添加量では整理できなかっ た.このように,加えた界面活性剤が全ては吸着しないのは,低分子量の界面 活性剤は高分子電解質に比べて分子運動が活発であることと,一分子あたりの 吸着部位の数が少なく,吸着しにくいことが原因だと考えられる.また,ラウ リン酸ナトリウムは添加量を増加させても飽和吸着とはならず,吸着量は添加 量の増加とともに単調に増加した.これより,界面活性剤に粒子に多層吸着し ていると考えられる. Fig. 3.8 において,添加量が 5.0 mg・g-1Al2O3 以下と 5.0 mg・g-1Al2O3 以上の範囲 で直線の傾きが異なることから,AES-11E では添加量が 5.0 mg・g-1Al2O3 以下と 5.0 mg・g-1Al2O3 以上の範囲で 2 通りの吸着形態があると考えられる.さらに, Fig. 3.8 と Fig. 3.10 を比較すると,5.0 mg・g-1Al2O3 以上の範囲の直線の傾きがほ とんど同じであることがわかる.したがって,マグネシウムイオンがラウリン 酸の吸着量にも影響を及ぼしており,その影響が及ぶのは粒子表面と一層目の 吸着のみであると言える.粒子表面のマイナスに帯電したサイトとアニオンで あるラウリン酸は,2 価のカチオンであるマグネシウムイオンを介して吸着する. そのため,AES-11E を用いたときに,界面活性剤の添加量が 5.0 mg・g-1Al2O3 以 下の少ない範囲で直線の傾きが大きくなったと考えられる.また,媒液中でマ グネシウムイオンは 2 個のラウリン酸と結合することができるが,ラウリン酸 43 を用いた実験ではラウリン酸添加量が多く,カルボキシル基に対するマグネシ ウムイオンの存在量が非常に少ないため,そのようなラウリン酸は非常に少な い.したがって,媒液中に存在するマグネシウムイオンはほとんど吸着量に影 響を及ぼさないと考えられる.分散剤に高分子電解質を用いた時にもマグネシ ウムイオンを介してポリカルボン酸が粒子表面に吸着するが,吸着部位を一分 子中に多く持つ高分子電解質では,マグネシウムイオンがない場合でもほぼ 100%の高分子電解質が吸着しているために,影響がほとんど現れなかったと考 えられる. 3.5 結言 試料粉体に焼結助剤を含むアルミナ粒子と含まないアルミナ粒子の 2 種類, 分散剤にポリカルボン酸アンモニウムとラウリン酸ナトリウムの 2 種類を用い, 様々な粒子濃度で分散剤の吸着量を測定した結果,以下のことが明らかになっ た. 1) 焼結助剤としてマグネシウムを添加した場合,媒液中に溶出したマグネシウ ムイオンによってポリカルボン酸のコンフォメーションが変化する.その結 果,ポリカルボン酸の吸着等温線は極大値を持つようになる. 2) 焼結助剤を含まない粒子を用いた場合,低粒子濃度のスラリーで高分子電解 質の吸着量に粒子濃度依存性が見られた.低分子量の界面活性剤であるラウ リン酸ナトリウムは分子運動が活発であり,一分子あたりの吸着部位も少な いため,添加したラウリン酸が全ては吸着しなかった.粒子表面のマイナス に帯電したサイトとアニオンであるラウリン酸は,マグネシウムイオンを介 して吸着するため,低分子量の分散剤であっても,吸着量はマグネシウムの 影響を受けて変化した.このように,粒子への分散剤の吸着量は焼結助剤の 有無や使用する分散剤の分子量,粒子濃度の影響を受けるため,粒子あたり の分散剤添加量のみに依存するとは限らない. 44 参考文献 1) L. Dupont, A. Foissy, R. Mercier and B. Mottet, “Effect of Calcium Ions on the Adsorption of Polyadrylic Acid onto Alumina”, J. Colloid Interface Sci., 161, 455-464, (1993) 2) J. Sun, L. Bergstrom and L. Gao, “Effect of Magnesium Ions on the Adsorption of Poly(adrylic acid) onto Alumina”, J. Am. Ceram. Soc., 84, 2710-12, (2001) 3) K. F. Tjipangandjara and P. Somasundaran, “Effects of the conformation of polyacrylic acid on the dispersion-flocculation of alumina and kaolinite fines”, Adv. Powder Technol., 3, 119-127 (1992) 45 第 4 章 分散剤の吸脱着挙動に関する実験的考察 4.1 緒言 第 2 章では,アルミナ粒子とポリカルボン酸の吸着が,吸着量は吸着平衡時 の溶液中の吸着質濃度に依存するという一般の物理吸着とは異なることを示し た.また,第 3 章では,粒子に焼結助剤が含まれる場合には,2 価のイオンと錯 体を形成した高分子電解質が粒子表面に吸着することがわかった.したがって, スラリー中の粒子集合状態を制御するための一般的な指針を示すには,粒子と 吸着する高分子電解質の相互作用を明らかにすることが重要となる.粒子と高 分子電解質の相互作用に関する研究は他の研究者からも報告されている. Tjipangandjara ら 1)はアルミナ粒子とポリアクリル酸の吸脱着挙動を測定し,水 素結合によってアルミナ粒子とポリアクリル酸が吸着すると報告した.Santhiya ら 2)は,アルミナ粒子とポリアクリル酸の相互作用について検討し,スラリーの pH がポリアクリル酸の酸解離定数より大きい範囲で化学結合を形成していると 報告した.また,Nagata ら 3)は,アルミナ粒子とアクリル系ポリマーの相互作用 を明らかにするため,ジカルボン酸であるアジピン酸を用い,カルボキシル基 がアルミナ粒子に静電的に吸着することを報告した.高分子電解質の吸着には 分子量や官能基の解離度,親水基と疎水基の比など,多くの要因が関係してい るので,このように様々な研究結果が報告されており,高分子電解質の吸着メ カニズムは明らかになっていない. そこで,本章では第 3 章と同様に,吸着質の構造を単純にするため,分散剤 にポリカルボン酸と同じくカルボキシル基を持ち,一分子中に親水基と疎水基 を一つずつ持った,低分子量の界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムを用い た.ラウリン酸ナトリウム添加スラリーの粒子沈降挙動と,ラウリン酸の脱着 挙動を観察し,まずアルミナ粒子とラウリン酸の吸脱着メカニズムを解明した. そして,その結果から粒子と高分子電解質の吸着メカニズムについて予測し, 汎用性の高い高分子電解質であるポリカルボン酸アンモニウムを用いて,予測 した高分子電解質の吸着メカニズムの検証を試みた.また,焼結助剤として添 46 加されるマグネシウムが分散剤の脱着挙動に及ぼす影響についても検討した. 4.2 実験方法 4.2.1 試料 試料粉体には,焼結助剤のマグネシウムを酸化物換算で 0.11 mass%含むアル ミナ粒子(住友化学,AES-11E,平均粒子径 0.48 µm,以後 AES-11E と記す), および焼結助剤を含まないアルミナ粒子(住友化学,AES-12,平均粒子径 0.48 µm, 以後 AES-12 と記す)の 2 種類のアルミナ粒子を用いた.分散剤には,低分子量 の界面活性剤であるラウリン酸ナトリウム(和光純薬工業)と,高分子電解質 の ポ リ カ ル ボ ン 酸 ア ン モ ニ ウ ム ( 中 京 油 脂 , セ ル ナ D-305 , 平 均 分 子 量 6,000-10,000)を用いた.分散媒には蒸留水を用いた.pH 調整には 1N NaOH 溶 液(和光純薬工業)を用いた. 4.2.2 重力沈降実験 スラリーの全量が 350 mL となるようにラウリン酸ナトリウムと蒸留水を計量, 混合し,超音波バス中で撹拌してラウリン酸ナトリウムを溶解させた.そのラ ウリン酸ナトリウム溶液をアルミナ粒子と混合し,さらに超音波バス中で 10 min 撹拌した後,吸着平衡に達するまでマグネチックスターラーで撹拌した.撹 拌する時間は第 3 章の実験結果より 3 日間とした. 調製したスラリーを内径 4 cm のアクリル製沈降管に高さ 15 cm となるように 投入した.媒液の蒸発を防ぐため,沈降管上部をパラフィルムで密封した.そ の後,スラリーを静置し,粒子が沈降する様子を長時間にわたって観察した. 試料粉体には AES-11E を用い,粒子濃度は 5.0 vol%,界面活性剤添加量は 0 か ら 40 mg・g-1Al2O3 まで変化させた. 47 4.2.3 界面活性剤の脱着試験 粒子濃度 5.0 vol%,界面活性剤添加量を 5.0 mg・g-1Al2O3 として,上記の 4.2.2 と同様の手順でスラリーを調製した.調製したスラリーを静置して粒子を沈降 させ,スラリーの上澄みを除去した.そこに,分散媒中の界面活性剤を希釈す るために除去した上澄みと等量の蒸留水を加えるか,もしくは pH を変化させる ために除去した上澄みと等量の NaOH 溶液を加えた.沈降した粒子を分散させ るために超音波バス中で 10 min 撹拌した後,マグネチックスターラーで 3 日間 攪拌してから,再度スラリーを静置して粒子を沈降させた.その後,この操作 を5 6 回繰り返した.除去した上澄みは,僅かに混入した粒子を取り除くため に卓上遠心機(コクサン,卓上遠心機 H-27F)を用いて 3500 rpm で 60 min 遠心 分離した.上澄み中に含まれる界面活性剤の量を,全有機炭素計(東レエンジ ニアリング,TOC-650)を用いて測定し,添加量との差から分散剤の吸着量を算 出した. 4.2.4 高分子電解質の脱着試験 スラリーの全量が 350 mL となるようにポリカルボン酸アンモニウムと蒸留水 を計量,混合し,超音波バス中で撹拌してポリカルボン酸アンモニウム溶液を 調製した.その溶液とアルミナ粒子を,ポリエチレン製ポット(内容量 2 L)に 直径 5 mm のアルミナボール 0.70 kg とともに投入し,回転数 55 rpm で 1 h ボ ールミル混合した.ボールミル混合後のスラリーを真空脱泡した後,超音波バ ス中で撹拌し,吸着平衡に達するまで静置した.静置する時間は第 2 章の実験 結果より 2 日間とした.粒子濃度は 10 vol%とした. 次に,静置したスラリーの上澄みを除去し,pH を変化させるために除去した 上澄みと等量の NaOH 溶液を加えた.沈降した粒子を分散させるために超音波 バス中で 10 min 撹拌した後,再度スラリーを静置して粒子を沈降させた.その 後,この操作を 5 8 回繰り返した.その後,上記の 4.2.3 と同様の方法で上澄 み中の高分子電解質の量を測定し,吸着量を算出した. 48 4.3 結果 4.3.1 重力沈降実験 沈降開始から 30 日後にどのスラリーでも堆積層の高さが変化しなくなった. その堆積層高さから求めた堆積層充填率を,第 3 章で報告した吸着量測定の結 果とともに Fig. 4.1 に示す.界面活性剤を加えていない添加量 0 mg・g-1Al2O3 の スラリーで堆積層の充填率は約 0.15 となり,非常に空隙の多い堆積層が得られ た.添加量が 20 mg・g-1Al2O3 までは,添加量が増加するほどさらに充填率の低い 堆積層が得られた.そして,添加量が 20 mg・g-1Al2O3 のスラリーで堆積層の充填 率は最も低くなり,それを超えて界面活性剤を添加すると,徐々に堆積層の充 填率は増加した.一方,吸着量は界面活性剤添加量の増加とともに単調に増加 した. 4.3.2 界面活性剤の脱着試験 試料粉体に AES-11E を用いてスラリーを調製し,上澄みを除去した後に蒸留 水を加え,分散媒中の界面活性剤を希釈したときの結果を Fig. 4.2 に示す.ここ では横軸に希釈回数,縦軸に吸着量と分散媒中の界面活性剤濃度とした.希釈 するごとに分散媒中の界面活性剤濃度は低下するが,吸着量に変化はなく,ラ ウリン酸の脱着は起こらなかった. そして次に,ラウリン酸とアルミナ粒子が静電的に吸着しているか検証する ため,蒸留水の代わりに NaOH 溶液を加えて同様に脱着量を測定した結果を, 界面活性剤を加えていない未処理のアルミナ粒子のゼータ電位と共に Fig. 4.3 に 示す.このグラフでは横軸にスラリーの pH,縦軸に界面活性剤の吸着量と未処 理のアルミナ粒子のゼータ電位をとった.同じグラフ上に,先程の蒸留水を用 いた脱着試験の結果も示した.蒸留水を用いた時では pH はほとんど変化せず, 吸着量も変化しなかった.それに対して,NaOH 溶液を加えた時には,NaOH 溶 液を加えるごとにスラリーの pH が大きくなり,それに伴い吸着量は徐々に減少 した.pH が 11 以上ではゼータ電位は約-40 mV であり,粒子表面は非常に強く 49 packing fraction of sediment [-] 15 0.15 10 0.10 5 0.05 0 10 20 additive dosage 30 40 [mg・g-1Al2O3] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 20 0.20 0 50 Fig. 4.1 Effect of additive dosage on the packing fraction of sediment and the adsorbed amount of laurate 50 0.20 4.0 0.15 3.0 0.10 2.0 0.05 1.0 0 0 1st 2nd 3rd 4th number of dilution 5th laurate concentration [g・L-1] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 5.0 0 Fig. 4.2 Desorption behavior of laurate when adding distilled water 51 40 distilled water NaOH aq. 4.0 30 20 10 3.0 0 2.0 -10 -20 1.0 zeta potential [mV] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 5.0 -30 0 8 9 10 11 pH [-] 12 -40 13 Fig. 4.3 Desorption behavior of laurate when adding NaOH aq. (AES-11E) 52 負に帯電しているが,そのときのラウリン酸の吸着量は約 2 mg・g-1Al2O3 であり, 全てのラウリン酸が脱着することはなかった. また,第 3 章では AES-11E の粒子表面に存在するマグネシウムイオンがラウ リン酸の吸着量を増加させることを示した.そこで,粒子に含まれるマグネシ ウムがラウリン酸の脱着挙動に及ぼす影響について検証した.マグネシウムを 含まない AES-12 を用いて同様に脱着量を測定した結果を Fig. 4.4 に示す. AES-12 を用いた場合でも,pH が約 9 から 11 の範囲では,粒子が負に帯電して いるにもかかわらず,ラウリン酸が粒子表面に吸着した.しかし,AES-11E の 結果と異なり,スラリーの pH を 11.6 以上にして粒子表面を非常に強く負に帯 電させると,ほとんど全てのラウリン酸が脱着した. 4.3.3 高分子電解質の脱着試験 ラウリン酸を用いた時と同様に,スラリーの pH を変化させた時のポリカルボ ン酸の脱着挙動を測定した.結果を,高分子電解質を加えていない未処理のア ルミナ粒子のゼータ電位と共に Fig. 4.5 に示す.未処理のアルミナ粒子のゼータ 電位が大きく変化するのは pH 8 10 であるが,ポリカルボン酸の吸着量はその pH の範囲ではほとんど一定となった.そして,粒子のゼータ電位がほとんど変 化しなくなる pH 12 を超えてからポリカルボン酸の吸着量は減少した. Fig. 4.6 にポリカルボン酸アンモニウムの添加量を変えて脱着量を測定した結 果を示す.添加量が先程の Fig.4.5 より少ない 1.0 mg・g-1Al2O3 のときには pH 12 以上の範囲でも吸着量が一定となり,今回の実験条件では全く脱着が起こらな かった.一方,添加量の多い 3.6 mg・g-1Al2O3 のときには,吸着量が減少し始め る pH が小さくなり,ポリカルボン酸の脱着量も,添加量 1.6 mg・g-1Al2O3 のとき と比べて増加した. マグネシウムイオンがポリカルボン酸の脱着挙動に及ぼす影響について考察 するため,AES-12 を用いて脱着量を測定した結果を Fig. 4.7 に示す.pH を 9 か ら 13 まで変化させることで吸着量は約 0.9 mg・g-1Al2O3 から 0.3 mg・g-1Al2O3 まで 減少した. 53 40 4.0 20 3.0 0 2.0 -20 1.0 -40 0 -60 13 8 9 10 11 pH [-] 12 zeta potential [mV] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 5.0 Fig. 4.4 Desorption behavior of laurate when adding NaOH aq. (AES-12) 54 40 30 1.5 20 10 1.4 0 1.3 -10 -20 1.2 zeta potential [mV] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 1.6 -30 1.1 8 9 10 11 pH [-] 12 -40 13 Fig. 4.5 Desorption behavior of polycarboxylate when adding NaOH aq. (AES-11E) additive dosage : 1.6 mg・g-1Al2O3 55 40 3.6 mg・g-1Al2O3 3.0 30 20 2.5 10 0 2.0 1.6 mg・g-1Al2O3 1.5 1.0 mg・g-1Al2O3 1.0 0.5 -10 -20 zeta potential [mV] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 3.5 -30 8 9 10 11 pH [-] 12 -40 13 Fig. 4.6 Effect of additive dosage on the desorption behavior of polycarboxylate 56 40 0.8 20 0.6 0 0.4 -20 0.2 -40 0 -60 14 8 9 10 11 12 pH [-] 13 zeta potential [mV] adsorbed amount [mg・g-1Al2O3] 1.0 Fig. 4.7 Desorption behavior of polycarboxylate when adding NaOH aq. (AES-12) additive dosage : 1.0 mg・g-1Al2O3 57 4.4 考察 4.4.1 ラウリン酸の吸着及び脱着メカニズム 重力沈降実験の結果(Fig. 4.1)は,ラウリン酸がカルボキシル基でアルミナ 粒子に吸着すること,ラウリン酸がアルミナ表面に多層吸着することの 2 つを 示している.まず,添加量の少ないときには,添加量が増加するほど粒子が液 中で不安定となって凝集しやすくなったことがわかる.したがって,ラウリン 酸が親水基のカルボキシル基を粒子側に,疎水基を液側に向けて吸着しており, 吸着量の増加に伴い,堆積層が嵩高くなったと考えられる.そして,ある値を 超えて界面活性剤を添加すると,吸着量は増加し続けるが,堆積層はより緻密 になり粒子は徐々に親水性となった.これは,ラウリン酸が二層目の吸着層を 形成し,親水基が液側に向いたためだと考えられる.鎖状モノカルボン酸の分 子専有面積 4)から,単層吸着で粒子を完全に覆うために必要なラウリン酸ナトリ ウムを計算すると,本実験で用いたアルミナ粒子の BET 比表面積は 6.74 m2・g-1, ラウリン酸 1 分子のあたりの専有面積は 0.20 nm2 であるから,粒子 1 g あたり約 12.4 mg である.Fig. 4.1 で,ラウリン酸の吸着量が 12.4 mg・g-1Al2O3 となるとき の添加量は約 23 mg・g-1Al2O3 であり,堆積層充填率が最小となる添加量とよく一 致している.したがって,この計算結果からも,ラウリン酸が二層目の吸着層 を形成していることがわかる. 脱着試験の結果(Figs. 4.2 4.4)より,媒液中の界面活性剤濃度が低下しても ラウリン酸の吸着量は一定で,粒子表面を負に帯電させると脱着可能である. 重力沈降試験の結果(Fig. 4.1)と先述の計算結果から,ラウリン酸が二層目の 吸着層を形成するのは添加量が約 23 mg・g-1Al2O3 以上であるため,この脱着試験 のラウリン酸添加量 5.0 mg・g-1Al2O3 ではラウリン酸は粒子表面で一層目の吸着 層を形成しており完全には粒子を覆っていない状態であると考えられる.した がって,アルミナ粒子表面と相互作用する一層目のラウリン酸は,アルミナ粒 子に静電的に強く吸着していると言える. 試料粉体にマグネシウムを含む AES-11E を用いたときの結果(Fig. 4.3)では pH を大きくしてもラウリン酸の吸着量は 0 にはならなかったのに対し,マグネ 58 シウムを含まない AES-12 を用いたときの結果(Fig. 4.4)では pH が 11.6 より大 きい範囲でほとんど全てのラウリン酸が脱着した.したがって,粒子に含まれ るマグネシウムがラウリン酸の吸着のみならず脱着挙動にも影響を及ぼすこと がわかった.マグネシウムイオンは 2 価のカチオンであるため,粒子表面の負 に帯電したサイトとの静電的相互作用により,媒液中だけでなく粒子表面にも 存在する.負に帯電した粒子とアニオン系のラウリン酸は静電的に反発するが, そのマグネシウムが粒子表面に現れた部分にラウリン酸は吸着できる.負に帯 電した粒子とマグネシウムイオンの電荷は逆であるため,pH を塩基側に変化さ せても粒子表面のマグネシウムイオンは溶出しない.ゆえに,マグネシウムを 含む AES-11E を用いた場合(Fig. 4.3)は,粒子を非常に強く負に帯電させても ラウリン酸は完全には脱着しなかったと考えられる.また,マグネシウムを含 まない AES-12 を用いた場合(Fig. 4.4)でも,粒子が負に帯電している pH 9 か ら 11 の範囲で,アルミナ粒子に吸着するラウリン酸が存在することがわかる. このことから,粒子のゼータ電位が負でも粒子表面には正に帯電したサイトが わずかに残っており,ラウリン酸はその正に帯電したサイトに吸着できると考 えられる. ラウリン酸の吸着および脱着メカニズムを Fig. 4.8(a)に図示する.ラウリン酸 はアルミナ粒子の正に帯電したサイトに,親水基のカルボキシル基で静電的に 吸着する.したがって,粒子を負に強く帯電させるほどラウリン酸の脱着が起 こり,吸着量が減少する. 4.4.2 ポリカルボン酸の吸着及び脱着メカニズム ラウリン酸ナトリウムを用いた実験の結果から,ポリカルボン酸もアルミナ 粒子の正に帯電したサイトにカルボキシル基で静電的に吸着すると考えられる. そこで,ポリカルボン酸アンモニウムを用いて同様の脱着試験を行い,ポリカ ルボン酸もアルミナ粒子に静電的に吸着しているか検証した.まず,高分子電 解質添加量は,第 2 章の吸着量測定の結果から,ラウリン酸を用いた脱着試験 と同様に,ポリカルボン酸が完全には粒子を覆っていない状態となる添加量の 1.6 mg・g-1Al2O3 とした.Fig. 4.5 より,ポリカルボン酸も pH を大きくし,粒子 59 Fig. 4.8 Schematic illustration of adsorption and desorptionmechanism of (a) laurate and (b) polycarboxylate 60 を負に強く帯電させることで脱着が起こるため,ポリカルボン酸もアルミナ粒 子に静電気的な力で吸着していることが示された.ポリカルボン酸を用いた場 合はラウリン酸を用いたときと異なり,pH 12 まではほぼ一定の吸着量となり, それ以上 pH を大きくした場合にのみ脱着が起こった.これは,ポリカルボン酸 が吸着部位であるカルボキシル基を一分子中に多数持っており,一部の吸着部 位が脱着しても,残りの吸着部位がまだ吸着していること,つまり高分子の多 点吸着が原因であると考えられる.分子中の全てのカルボキシル基がアルミナ 粒子から外れた時にのみポリカルボン酸は脱着するため,全てのカルボキシル 基が外れて吸着量が減少するまでに時間がかかり,その結果,ゼータ電位の絶 対値が増加する範囲と吸着量が減少する範囲に違いが生じたと考えられる. Fig. 4.6 の結果は,高分子電解質が多点吸着していることが脱着挙動に影響を 与えることを示している.すなわち吸着点数によって脱着のし易さが変わるこ とを示していると考えられる.添加量が多いときには,粒子表面でポリカルボ ン酸が混み合うため,添加量の少ないときに比べて横たわって吸着するポリカ ルボン酸は少なく,ぶら下がるように吸着して長いテール構造を作るポリカル ボン酸は多くなる.つまり,アルミナ粒子に,より少ない吸着点数で吸着して いるポリカルボン酸が多く存在する.したがって,吸着量が極大値となる添加 量であり,粒子表面を高分子電解質が完全に覆っていると考えられる高分子電 解質添加量 3.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーでは,添加量 1.6 mg・g-1Al2O3 のスラリー に比べてポリカルボン酸は脱着しやすく,脱着量が多くなったと考えられる. ここで,pH 9.2 の測定値が pH 10.2 の測定値と比べて小さくなっている.この原 因については明らかではないが,この高分子電解質添加量ではまだ吸着平衡に 達していなかったことが考えられる.一方,添加量の少ないときにはポリカル ボン酸は粒子表面に横たわって吸着する.そのため,添加量 1.6 mg・g-1Al2O3 の スラリーよりもさらに粒子表面の高分子電解質密度が低い高分子電解質添加量 1.0 mg・g-1Al2O3 のスラリーでは,ポリカルボン酸が多くの吸着点数で吸着するこ ととなり,非常に脱着しにくくなったと考えられる.なお,添加量 1.0 と 1.6 mg・ g-1Al2O3 のスラリーでは,pH を増加させると吸着量がわずかに増加するプロッ トがいくつかあるが,測定装置の誤差によるものと考えられる. また,Fig. 4.7 と Fig. 4.5 で脱着量を比較すると,マグネシウムが含まれない 61 時により多くのポリカルボン酸が脱着することがわかる.つまり,マグネシウ ムの有無によってポリカルボン酸の脱着のし易さが変化する.アルミナ粒子表 面のマグネシウムが現れた部分にカルボン酸が吸着すると pH を変化させても そのサイトは脱着しないために,ポリカルボン酸の脱着量が少なくなったと考 えられる.Fig. 7 では pH 13 以上で吸着量が増加している.対イオン濃度が増加 すると粒子の周りの電気二重層が圧縮され,ゼータ電位の絶対値は減少する 5). pH 13 以上では,pH 調整のために NaOH を加えることでナトリウムイオン濃度 が増加するため,ナトリウムイオンの影響によってゼータ電位の絶対値が pH 12 に比べて減少し,吸着量が増加したと考えられる. ポリカルボン酸の吸脱着メカニズムを Fig. 4.8(b)に図示する.ポリカルボン酸 もラウリン酸と同様にカルボキシル基で静電的に吸着する.このとき,ポリカ ルボン酸は一分子中にカルボキシル基を数多く持っているため,多くの吸着部 位で吸着する.したがって,粒子を多少負に帯電させても脱着しない.粒子を 非常に強く負に帯電させて,全ての吸着部位が脱着したときのみ吸着量が減少 する. 4.5 結言 官能基にカルボキシル基を持つ低分子量の界面活性剤であるラウリン酸ナト リウムと高分子電解質のポリカルボン酸を用いて脱着挙動を観察した結果,以 下のことが明らかになった. 1) カルボン酸はカルボキシル基でアルミナ粒子表面の正に帯電したサイトに静 電的に吸着する.そのため,pH を変化させてアルミナ粒子を負に帯電させる とマイナス電荷同士の反発によりラウリン酸は脱着する. 2) ポリカルボン酸もカルボキシル基で静電的にアルミナ粒子に吸着するが,ラ ウリン酸とは異なり,一分子中に数多くのカルボキシル基を持っているため, アルミナ粒子に多点で吸着している.したがって,脱着しにくい非常に強い 吸着となっている. 3) 粒子表面が負に帯電している場合でも、粒子表面のマグネシウムが現れた部 62 分にカルボキシル基が吸着する.このように吸着したカルボキシル基は pH を 変えても脱着しないため,マグネシウムが粒子に含まれる場合にはラウリン 酸は完全には脱着せず,ポリカルボン酸は脱着量が減少する. 参考文献 1) K. F. Tjipangandjara and P. Somasundaran, “Effects of the conformation of polyacrylic acid on the dispersion-flocculation of alumina and kaolinite fines”, Adv. Powder Technol., 3, 119-127 (1992) 2) D. Santhiya, S. Subramanian, K. A. Natarajan and S. G. Malghan, “Surface Chemical Studies on the Competitive Adsorption of Poly(acrylic acid) and Poly(vinyl alcohol) onto Alumina”, J. Colloid Interface Sci., 216, 143-153, (1999) 3) K. Nagata and H. Yamamoto, “Estimation and confirmation of adsorption behavior of acrylic polymer on alumina from a molecular chemistry standpoint of adipic acid adsorption”,J. Ceram. Soc. Japan, 116, 1208-1213 (2008) 4) H. E. Ries, “MONOMOLECULAR FILMS - MANY PHYSICAL, CHEMICAL AND BIOLOGICAL PROCESSES INVOLVE THIN FILMS OF MATERIAL AT SURFACES IN THESE PROCESSES MOST IMPORTANT ROLE IS PLAYED BY A FILM JUST ONE MOOLECULE THICK”, Scientific American, 204, 152, (1961) 5) R. J. Hunter : “FOUNDATIONS OF COLLOID SCIENCE VOLUME Ⅱ”, p.756, Oxford University Press (1989) 63 第 5 章 分散剤の添加量が粒子沈降挙動に及ぼす影響 5.1 緒言 第 4 章では,高分子電解質のポリカルボン酸はアルミナ粒子に静電的に吸着 しており,さらにポリカルボン酸は一分子中に数多くのカルボキシル基を持っ ているために非常に強い吸着となっていることがわかった.したがって,粒子 を高分子電解質が完全に覆うまでは,添加したほとんど全ての高分子電解質が 吸着し,そのため,第 2 章の結果のように,高分子電解質の吸着量は粒子濃度 によらず単位粒子質量あたりの高分子電解質添加量のみに依存したと考えられ る.そこで本章では,吸着挙動と同様に,粒子の集合状態も粒子濃度に関わら ず単位粒子質量あたりの高分子電解質添加量で制御できるか,重力沈降実験で 粒子集合状態を評価することによって検証することとした. 粒子濃度と高分子電解質添加量を幅広く変化させた重力沈降実験は Kim ら 1) も行っているが,Kim らは粒子と高分子電解質の吸着が物理吸着を前提として スラリーを調製していた.つまり,吸着平衡時の分散媒中の高分子電解質濃度 が同じとなるように高分子電解質添加量を決定していた.本研究では,これま でに得られた結果をもとに,単位粒子質量当たりの高分子電解質添加量を揃え て様々な粒子濃度のスラリーを調製した.長時間スラリー中の粒子の沈降およ び堆積挙動を観察し,沈降途中の凝集粒子の形成過程や,堆積層の形成過程か ら粒子の集合状態を評価した.さらに,沈降終了時の堆積層の充填性について も評価した. 5.2 実験方法 試料粉体に易焼結アルミナ(AES-11E,平均粒子径 0.48 µm,住友化学),分 散剤にポリカルボン酸アンモニウム(セルナ D-305,中京油脂),分散媒には蒸 留水を使用した.所定の濃度に調整した分散剤溶液とアルミナ粒子を,ポリエ 64 チレン製ポット(内容量 2 L)に直径 5 mm のアルミナボール 0.70 kg とともに 投入し,1 h ボールミル混合した.ボールミル混合後のスラリーを 10 min 真空脱 泡した後,超音波バス中で撹拌しスラリーを調製した.調製したスラリーを内 径 40 mm のアクリル製沈降管に,スラリー高さが 150 mm となるように投入し, 沈降管上部をパラフィルムで密封したものを室温で静置して,粒子の沈降挙動 を観察した.実験に用いたスラリーの分散剤添加量は,第 2 章の吸着量測定の 結果より,吸着量が極大値に達していない添加量の 1.6,2.4 mg・g-1Al2O3,吸着 量が極大値となる添加量の 3.6 mg・g-1Al2O3,吸着量が極大値となる添加量より さらに多く添加した 6.0 mg・g-1Al2O3 の 4 種類とした.粒子濃度は 2.5,5.0,10, 20,35 vol%の 5 種類とした. 5.3 結果および考察 Figs. 5.1 5.4 に沈降途中のスラリーの様子を示す.観察した界面の位置は, 明瞭な界面が現れる場合には,Fig. 5.1 中の矢印で示すように清澄層と堆積層の 界面の位置とした.はっきりとした界面が現れず,広い範囲に濃度分布がある 場合は,Fig. 5.2 中の矢印で示すように清澄層と希薄なスラリー層の界面とした. Fig. 5.5 に分散剤添加量と吸着平衡時の分散媒中の分散剤濃度の関係を示す.一 般の物理吸着の理論が成り立つならば,吸着量が分散媒中の分散剤濃度に依存 するため,分散媒中の分散剤濃度を揃えてスラリーを調製することで粒子の集 合状態が制御できると考えられる.そこで,Fig. 5.6 に平衡時の分散媒中の分散 剤濃度がほぼ等しい二つのスラリーの沈降界面の経時変化を示し,沈降挙動を 比較する.Fig. 5.6(a)は,分散媒中分散剤濃度が 0.16 g・L-1 となる粒子濃度 5 vol%, 分散剤添加量 3.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーと,分散媒中分散剤濃度が 0.18 g・L-1 となる粒子濃度 10 vol%,分散剤添加量 1.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーの沈降界面の 経時変化である.粒子濃度 5.0 vol%,分散剤添加量 3.6 mg・g-1Al2O3 のスラリー では長い時間をかけて徐々に界面が低下するが,粒子濃度 10 vol%,分散剤添加 量 1.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーでは沈降開始後すぐ界面が急激に低下し,沈降が 終了する.Fig. 5.6(b)は分散媒中分散剤濃度が 0.38 g・L-1 となる粒子濃度 10 vol%, 65 Fig. 5.1 Photos observing settling behavior (Additive dosage is 1.6 mg・g-1Al2O3 ) 66 Fig. 5.2 Photos observing settling behavior (Additive dosage is 2.4 mg・g-1Al2O3 ) 67 Fig. 5.3 Photos observing settling behavior (Additive dosage is 3.6 mg・g-1Al2O3 ) 68 Fig. 5.4 Photos observing settling behavior (Additive dosage is 6.0 mg・g-1Al2O3 ) 69 2.5 vol% 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 35 vol% -1 dispersant concentration [g・L ] 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0 0 1 2 3 4 5 -1 additive dosage [mg・g Al O ] 2 6 3 Fig. 5.5 Relation between additive dosage and concentration in dispersion medium 70 5.0 vol%, 3.6 mg・g-1Al2O3 10 vol%, 1.6 mg・g-1Al2O3 120 90 150 height of interfaces [mm] height of interfaces [mm] 150 60 30 140 130 120 110 100 90 80 0 0 0 5 10 settling time [day] 15 (a) 50 100 150 settling time [day] 200 10 vol%, 3.6 mg・g-1Al2O3 20 vol%, 2.4 mg・g-1Al2O3 120 90 150 height of interfaces [mm] height of interfaces [mm] 150 60 30 140 130 120 0 0 0 5 10 15 20 25 settling time [day] 30 (b) 50 100 150 settling time [day] 200 Fig. 5.6 Comparison of settling curves of two slurries having almost same dispersant concentration 71 分散剤添加量 3.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーと,分散媒中分散剤濃度が 0.33 g・L-1 となる粒子濃度 20 vol%,分散剤添加量 2.4 mg・g-1Al2O3 のスラリーの沈降界面の 経時変化である.この場合も,粒子濃度 10 vol%,分散剤添加量 3.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーでは徐々に界面が低下し,粒子濃度 20 vol%,分散剤添加量 2.4 mg・ g-1Al2O3 のスラリーでは短時間で沈降が終了する.このことから,分散媒中の分 散剤濃度が同じスラリーでも,粒子の集合状態が大きく異なることがわかる. そこで,Fig. 5.7 に沈降界面の経時変化を単位粒子質量あたりの分散剤添加量 毎に整理した結果を示す.Figs. 5.1 5.4 および Fig. 5.7 より各添加量のスラリー について以下の特徴があることがわかる. 分散剤添加量 1.6 mg・g-1Al2O3 の場合,粒子の沈降挙動は Figs. 5.1, 5.7(a)に示す ように次の 2 つのパターンに分けられる.粒子濃度が 10 vol%以下のスラリーで は,沈降開始直後は清澄層と堆積層の間に希薄なスラリー層が現れる.この希 薄なスラリー層は沈降開始後 2 3 日のうちに沈降が終了することから,ストー クスの沈降速度式を用いて粒子径を計算すると,最も小さい粒子で 0.46 µm とな る.しかし,実験で用いた粒子の大きさには分布があるため,これより小さな 粒子が含まれていると考えられる.これは,分散剤の吸着量が少ないため,分 散剤の効果が現れず,粒子が大きな凝集体を形成したためだと考えられる. これに対し,粒子濃度が 20 vol%以上になると,沈降開始後すぐに清澄層と堆 積層との界面がはっきりと現れる.また,界面の急激な低下は起こらず,数日 かけて界面が徐々に低下している.平均粒子径が 0.48 µm であるから,この粒子 が実験結果と同じ充填率となるまで沈降するのにかかる時間をリチャードソンザキの干渉沈降速度の式 2)を用いて計算すると, 20 vol%のスラリーでは 1.7 日, 35 vol%のスラリーでは 0.8 日となる.しかし,実験結果では沈降が終了するま でに数日かかっていることから,粒子濃度 20 vol%以上では沈降開始直後から粒 子が網目状に凝集し,時間の経過とともに粒子の自重によって徐々に圧密する と考えられる. 以上の結果から,粒子の沈降挙動は粒子濃度に対して不連続的に変化する場 合があることがわかる.球形の単分散粒子において,粒子濃度が粒子間距離及 び接触粒子数に及ぼす影響について,Tsubaki3)が幾何学的に計算したところ,粒 子が網目構造を形成するために必要な粒子濃度は 15 vol%程度であるとの結果 72 150 35 vol% 35 vol% height of interfaces [mm] height of interfaces [mm] 150 20 vol% 120 90 10 vol% 60 5.0 vol% 30 2.5 vol% (a) 0 0 2 4 6 8 settling time [day] 10 vol% 60 30 5.0 vol% (b) 0 0 5 10 15 settling time [day] 20 150 35 vol% 120 20 vol% 90 10 vol% 60 2.5 vol% 5.0 vol% 30 (c) 0 50 100 150 settling time [day] height of interfaces [mm] height of interfaces [mm] 20 vol% 2.5 vol% 90 10 150 0 120 200 120 35 vol% 90 20 vol% 10 vol% 60 5.0 vol% 30 (d) 0 0 2.5 vol% 50 100 150 settling time [day] 200 Fig. 5.7 Effect of solid concentration on settling curves (a) 1.6 mg・g-1Al2O3 (b) 2.4 mg・g-1Al2O3 (c) 3.6 mg・g-1Al2O3 (d) 6.0 mg・g-1Al2O3 73 を得ており,実験結果とよく対応している. 分散剤添加量が 2.4 mg・g-1Al2O3 のスラリーでも,Figs. 5.2, 5.7(b)に示すように, 粒子濃度 2.5 vol%のスラリーを除いては,添加量 1.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーと 同様の沈降パターンであり,粒子間には引力が働き,凝集していることがわか る.しかし,粒子濃度 2.5 vol%のスラリーでは,添加量 1.6 mg・g-1Al2O3 と比較 すると,長時間に渡って界面が不明瞭であり,界面の急激な低下は見られない ことから,粒子が分散した状態で徐々に沈降しているとわかる.これは分散剤 添加量を増やしたことで吸着量が増加し,分散剤の効果が現れ始めたためだと 考えられる.粒子間に反発力が働く場合,粒子同士が接近,衝突しても粒子は 凝集するとは限らず,反発力を超える力で粒子が衝突した場合にのみ凝集する. したがって,粒子の凝集速度は粒子衝突回数に依存する.2.5 vol%のスラリーで は 5.0, 10 vol%のスラリーに比べて粒子間平均距離が広く,衝突回数が少ないた め,粒子の凝集が起こりにくく,沈降パターンに変化が表れたと考えられる. 分散剤添加量を 3.6 mg・g-1Al2O3 まで増加させたスラリーでは,Figs. 5.3, 5.7(c) に示すように,添加量 2.4 mg・g-1Al2O3 のスラリーと比べ,全ての粒子濃度で沈 降速度が遅く,沈降終了までに非常に時間がかかり,界面が不明瞭であること から,粒子濃度によらず初期状態で良分散状態であることがわかる.しかし, 70 日程度経過すると,粒子濃度が 2.5 vol%のスラリーでは沈降曲線の傾きが大 きくなっている.また,10 vol%以下のスラリーでは,希薄スラリー層の中に複 数の濃度不連続層が現れ,その各層の中では上部の濃度が高く下部の濃度が低 くなる濃度逆転層が形成されている.これらは,分散していた粒子であっても 長時間に渡って衝突を繰り返すことにより凝集体を形成することが原因である. 沈降途中で粒子が凝集体を形成し,沈降速度が増加するという結果は Mori ら 4) も報告している.濃度逆転層の形成については,Kim ら 1)による重力沈降実験や Sugimoto ら 5) による沈降界面形成のシミュレーションでも報告されており,粒 子が沈降過程において凝集体を形成し,周りにある粒子を捕捉して凝集体を成 長させながら沈降する粒子と,凝集体に捕捉されずに未凝集のまま沈降する粒 子が現れたためだと考えられる. 分散剤添加量が 6.0 mg・g-1Al2O3 のスラリーでも,Figs. 5.4, 5.7(d)に示すように, 3.6 mg・g-1Al2O3 と同様,沈降速度が遅く,界面が不明瞭であり,良分散状態であ 74 ることがわかる.また,粒子濃度が 20 vol%以下のスラリーでは沈降時間が 50 日程度で沈降曲線の傾きが増加,つまり沈降速度が増加しており,10 vol%以下 のスラリーで濃度逆転層が形成されている. 次に Fig. 5.8 に界面高さの経時変化を,粒子濃度毎に整理した結果を示す.Fig. 5.8(a)より,粒子濃度が 2.5 vol%のスラリーでは,分散剤添加量が 3.6 mg・g-1Al2O3 で粒子がほぼ完全に分散するが,粒子間距離が比較的広く,粒子衝突頻度が低 いため,添加量 2.4 mg・g-1Al2O3 でも分散剤の効果が現れている.Figs. 5.8(b) (e) より,粒子濃度が 5.0 vol%以上のスラリーでは,分散剤添加量の少ない 1.6, 2.4 mg・g-1Al2O3 のスラリーでは短時間で粒子の沈降が終了し,添加量が 3.6 mg・ g-1Al2O3 になると沈降終了にかかる時間が急激に増加している.このことから, 粒子の沈降挙動は分散剤添加量に対して不連続に変化し,添加量の僅かな違い で沈降挙動は大きく異なることがあるとわかる. また,Figs. 5.8(b) (d)より,粒子濃度が 5.0 20 vol%のスラリーでは分散剤添 加量 3.6 mg・g-1Al2O3 と 6.0 mg・g-1Al2O3 で初期の沈降速度に差はないが,50 日程 度経過すると添加量 6.0 mg・g-1Al2O3 のスラリーの方が速く沈降するようになる. 粒子を分散させるには最適な分散剤添加量があるため,その添加量より過剰に 加えると粒子の凝集が起こり,スラリーの粘度が増加するという報告が多数あ る6 11) .これより,分散剤添加量 3.6 mg・g-1Al2O3 と 6.0 mg・g-1Al2O3 のスラリー は,どちらも初期は粒子が分散した状態で沈降が進み,分散剤を過剰に加えた 添加量 6.0 mg・g-1Al2O3 の場合は添加量 3.6 mg・g-1Al2O3 に比べ粒子の凝集が進ん だことがわかる. Fig. 5.8(e)より,粒子濃度が 35 vol%のスラリーでは,沈降速度が分散剤添加量 によらず一定で,沈降終了までの時間が分散剤添加量の増加に伴って長くなっ ている.これは,高粒子濃度の場合は沈降初期の段階でスラリーの充填性が評 価できず,沈降挙動から粒子の充填性を評価するためには数十日という時間を 要することを示している.また,35 vol%のスラリーでは全ての分散剤添加量で はっきりとした界面が現れている.そこで,点線で示したリチャードソン-ザキ の干渉沈降速度の計算値と比べると,粒子の沈降速度は非常に遅いことから, 時間が経つにつれて少しずつ堆積層の圧密が起こっていることがわかる. Fig. 5.9 に沈降終了時の堆積層の充填率を示す.分散剤添加量が 2.4 mg・g-1 75 150 (a) 120 height of interfaces [mm] height of interfaces [mm] 150 90 60 30 0 0 50 100 150 settling time [day] 60 30 0 0 50 100 150 settling time [day] 200 150 (c) 120 height of interfaces [mm] height of interfaces [mm] 90 200 150 90 60 30 0 (b) 120 0 50 100 150 settling time [day] (d) 125 100 200 75 50 0 50 100 150 settling time [day] 200 height of interfaces [mm] 150 (e) 140 additive dosage 130 1.6 mg・g-1Al2O3 2.4 mg・g-1Al2O3 120 110 100 0 3.6 mg・g-1Al a 2O3 6.0 mg・g-1Al2O3 calculated value 50 100 150 settling time [day] 200 Fig. 5.8 Effect of additive amount of dispersant on settling curves (a) 2.5 vol% (b) 5.0 vol% (c) 10 vol% (d) 20 vol% (e) 35 vol% 76 final packing fraction of sediment [-] 0.6 0.5 0.4 0.3 2.5 vol% 5.0 vol% 10 vol% 20 vol% 35 vol% 0.2 0.1 0 0 1 2 3 4 5 6 additive dosage [mg・g-1Al2O3] 7 Fig. 5.9 Effect of additive dosage on final packing fraction of sediments 77 Al2O3 以下ではスラリーの初期濃度により充填率が大きく異なるが,添加量が増 加し 3.6 mg・g-1Al2O3 以上になると,粒子濃度によらず高充填率の堆積層が得ら れた.これより,粒子の充填性は吸着量が極大値となる添加量を超えたところ で大きく変化することがわかる. また,Fig. 5.10 に堆積層の充填率とスラリーの初期濃度の関係を示す.分散 剤添加量が 1.6 mg・g-1Al2O3 のスラリーでは,粒子間に強い引力が働いているた め,堆積層の充填率は低い.特に高濃度のスラリーでは粒子が管底部から網目 状に繋がった連続体となり,堆積層の充填率は初期濃度より僅かに高いだけで ある.添加量が 2.4 mg・g-1Al2O3 でも同様に,充填率の低い堆積層が得られた. ただし,高濃度のスラリーでは 1.6 mg・g-1Al2O3 の堆積層とほぼ同じ充填率であ るが,分散剤の効果が現れ始めたことにより,低濃度のスラリーでは 1.6 mg・ g-1Al2O3 より堆積層の充填率は高くなった.良分散状態で粒子の沈降が進む 3.6 mg・g-1Al2O3 以上の添加量では,粒子濃度によらず充填率が約 0.5 と高く,高濃 度のスラリーでも濃縮が行われることがわかった. 4. 結言 単位粒子質量あたりのポリカルボン酸アンモニウム添加量を揃えて調製した アルミナスラリーの重力沈降実験を行い,以下のことが明らかとなった. 1) 粒子の集合状態及び充填性は,分散媒中の分散剤濃度でなく,単位粒子質量 あたりの分散剤添加量を揃えてスラリーを調製することにより制御が可能で ある.形成された堆積層の充填率は,分散剤添加量の少ない範囲ではスラリ ーの初期濃度の影響を受けるが,添加量を増加させるとどの粒子濃度でも約 0.5 という高充填率の堆積層が得られた. 2) 粒子の沈降挙動は粒子濃度に対して不連続的に変化する場合がある. 3) 粒子の沈降挙動は分散剤添加量に対しても不連続に変化し,僅かな添加量の 違いで劇的に沈降挙動を変化させる境界が存在する場合がある. 4) 高粒子濃度の場合は沈降初期の段階でスラリーの充填性が評価できず,沈降 挙動から粒子の充填性を評価するためには数十日という時間を要する. 78 final packing fraction of sediment [-] 0.6 6.0 mg・g-1Al2O3 0.5 3.6 mg・g-1Al2O3 0.4 0.3 2.4 mg・g-1Al2O3 0.2 1.6 mg・g-1Al2O3 0.1 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 solid concentration [vol%] Fig. 5.10 Effect of solid concentration on final packing fraction of sediments 79 参考文献 1) H. 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Inter., 35, 979-985 (2009) 81 第 6 章 結論 本論文では,スラリー中の粒子集合状態が制御できるようなスラリー調製の 指針を示すことを目的として,高分子電解質の吸着メカニズムの解明を試みた. また,焼結助剤の有無や使用する分散剤の分子量,粒子濃度といった,スラリ ー調製条件や因子が分散剤の吸着量にどのような影響を及ぼすかについて検討 した.さらに,得られた知見をもとに,単位粒子質量当たりの高分子電解質添 加量が同じになるように様々な粒子濃度のスラリーを調製し,重力沈降実験に よってそれらのスラリー中の粒子集合状態を評価した. 以下に,各章で得られた結論を要約する. 第 2 章では,粒子濃度が高分子電解質の吸着挙動に及ぼす影響について検証 するため,幅広い粒子濃度と高分子電解質添加量で系統的に吸着量を測定した. その結果,高分子電解質の吸着量は単位粒子質量あたりの高分子電解質添加量 にのみ依存し,溶液中の高分子電解質濃度には依存しないことが明らかとなっ た.また,高分子電解質の吸着量は,どの粒子濃度においても,高分子電解質 添加量にともなって直線的に増加し,極大値をとった後は減少することが示さ れた.高分子電解質吸着後に上澄み中の高分子電解質を希釈して脱着量を測定 する実験においても,希釈前後で吸着量は変化せず,吸着量が溶液中の分散剤 濃度には依存しないことが示された.さらに,一度吸着平衡に達したスラリー から取り除いた上澄み中に含まれる高分子電解質は,新たなアルミナ表面と接 触しても吸着しないことが示された. 以上のように,高分子電解質の吸脱着挙動は分散媒中の高分子電解質濃度の みで論ずることはできず,粒子濃度など他の因子も考量しなければならないこ とがわかった. 第 3 章では,第 2 章で観察された,吸着等温線が極大値を持つこと,高分子 電解質の吸着量が単位粒子質量当たりの高分子電解質添加量のみに依存するこ との 2 つの現象について,焼結助剤としてマグネシウムを含む粒子と含まない 82 粒子の 2 種類の粒子や,高分子電解質の代わりにモノカルボン酸塩のラウリン 酸ナトリウムを用いて,原因の解明を試みた.その結果,粒子が焼結助剤とし てマグネシウムを含む場合,媒液中に溶出したマグネシウムイオンとポリカル ボン酸が錯体を形成するため,高分子電解質添加量に依存してポリカルボン酸 のコンフォメーションが変化することが,吸着等温線が極大値を持つ原因であ ることがわかった.そして,モノカルボン酸のラウリン酸は,分子運動が活発 であることと一分子あたりの吸着部位が少ないことにより,添加したラウリン 酸が全ては粒子に吸着せず,吸着量に粒子濃度依存性が見られることを示した. さらに,焼結助剤を含まない粒子を用いた場合,高分子電解質の吸着量にも粒 子濃度依存性が見られたことから,分散剤の吸着量が分散剤添加量のみに依存 するとは一概に言えず,吸着量は焼結助剤の有無や使用する分散剤の分子量, 粒子濃度の影響を受けて変化することが示された. 第 4 章では,モノカルボン酸のラウリン酸を添加したスラリーの重力沈降実 験および脱着試験の結果から,粒子と高分子電解質の吸着メカニズムについて 予測し,さらに高分子電解質を用いて予測した吸着メカニズムを検証した.そ の結果,カルボン酸はカルボキシル基でアルミナ粒子表面の正に帯電したサイ トに静電的に吸着しており,pH を変化させてアルミナ粒子を負に帯電させると ラウリン酸は脱着することがわかった.ただし,高分子電解質は一分子中に数 多くのカルボキシル基を持っているため,粒子に多点で吸着しており,非常に 強い吸着となっていることも示された.また,粒子に焼結助剤としてマグネシ ウムが含まれる場合には,粒子表面が負に帯電しても,粒子表面のマグネシウ ムが現れた部分にカルボキシル基が吸着して静電的な力では脱着しなくなるた め,ラウリン酸は完全には脱着せず,ポリカルボン酸は脱着量が減少すること が示された. 第 5 章では,本研究で用いてきたアルミナ−ポリカルボン酸アンモニウムの系 に関して,粒子集合状態が制御できるようなスラリー調製の指針を提案し,調 製したスラリー中の粒子集合状態を重力沈降実験によって評価した.その結果, 粒子の集合状態及び充填性は,単位粒子質量あたりの高分子電解質添加量が同 83 じとなるようにスラリーを調製することにより制御が可能であることが示され た.ただし,沈降中の粒子衝突頻度が粒子濃度濃度に依存するため,高分子電 解質添加量によっては粒子集合状態も粒子濃度によって変化した.また,粒子 の沈降挙動は粒子濃度に対して不連続的に変化する場合があること,粒子の沈 降挙動は分散剤添加量に対しても飽和吸着量を境にして不連続に変化し,僅か な添加量の違いで劇的に沈降挙動を変化させる境界が存在する場合があること も示された. 以上の通り,粒子へのカルボン酸塩分散剤の吸着メカニズムが解析され,焼 結助剤の有無や使用する分散剤の分子量,粒子濃度の影響を考慮して分散剤を 添加し,粒子間力を制御することによって,スラリー中の粒子集合状態も制御 できることが示された. 84 謝辞 本論文の遂行にあたり,終始適切なご指導,ご教示を賜りました名古屋大学 大学院工学研究科物質制御工学専攻椿淳一郎教授に心から感謝の意を表します. 先生には,学部 4 年生の時からご指導いただき,学問的な内容や研究の進め方 はもちろんのこと,研究に対する心構えや人と議論を交わすことの重要性など, 一人前の研究者となるのに重要な多くのことを教えて頂きました. 「人に説明が 出来なければ理解したとは言えない」という考え方に触れ,私の学問に臨む姿 勢は大きく変わりました.今後も椿研究室の卒業生の名に恥じぬよう精進して いきたいと思います. また本研究に貴重なご助言を賜りました名古屋大学大学院工学研究科物質制 御工学専攻香田忍教授,名古屋大学グリーンモビリティ連携研究センター運営 統括室齋藤永宏教授,名古屋大学大学院化学・生物工学専攻二井晋准教授,名古 屋大学大学院マテリアル理工学専攻棚橋満講師に深く感謝いたします. 研究室においては,終始有益なご助言,ご指導を賜りました名古屋大学大学 院工学研究科物質制御工学専攻森隆昌助教に厚く御礼申し上げます. 本研究において貴重なご意見,ご助言を賜りました名古屋大学大学院マテリ アル理工学専攻浅井一輝助教,兵庫県立大学大学院工学研究科機械系工学専攻 環境エネルギー工学部門佐藤根大士助教に深く感謝いたします. 本研究を進めるにあたり実験と解析にご協力頂きました田中大志氏,ならび に貴重なアドバイスをいただきました椿研究室の皆様に心より御礼申し上げま す. 日本特殊陶業株式会社の大塚洋美氏には貴重なご助言を賜りました.ここに 心より厚く御礼申し上げます. 85 最後に,本論文をまとめるにあたり,協力と支援を惜しまなかった家族に, ここに記して感謝の意を表します. 86 本論文に関する著者の既発表論文 論文題目 公表の方法および時期 1. Effects of particle concentration Journal of the Ceramic and additive amount of dispersant Society of Japan, 117, on adsorption behavior of 917-921 (2009) dispersant to alumina particles [第 2 章] 2. 分散剤の添加量が粒子集合状態 に及ぼす影響 [第 5 章] 3. 高分子電解質分散剤の立体配座 とマグネシウムイオンがスラリ ー中粒子への吸着現象に及ぼす 影響 [第 3 章] 4. アルミナ粒子へのカルボン酸塩 の吸脱着機構の解明 [第 4 章] 著者 T. MORI I. INAMINE R. WADA T. HIDA T. KIGUCHI H. SATONE J. TSUBAKI 粉 体 工 学 会 誌 , 47, 木口 崇彦 616-622 (2010) 稲嶺 育恵 佐藤根 大士 森 隆昌 椿 淳一郎 粉体工学会誌, 掲載決定 木口 崇彦 (2012 年 2 月公開予定) 田中 大志 森 隆昌 椿 淳一郎 佐藤根 大士 粉体工学会誌,投稿中 木口 崇彦 森 隆昌 椿 淳一郎 [ ]内に本論文中において関連する章を記した. 87