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菅野 紀美 - 早稲田大学
■菅野 紀美 [法学研究科 憲法専攻(公法)修士課程 1 年] 『Covering』著者の Kenji Yoshino 教授へのヒアリング アメリカ合衆国における人権の獲得―人種・性・宗教・障害― I.Kenji Yoshino 教授の著作『Covering』との出会い なぜ Yoshino 教授にお会いしようとしたかについてですが、2008 年度前期に、今関源成 先生、中島徹先生の合同授業である憲法研究Ⅰのテキストがこの『Covering』であり、サブ タイトルが、The Hidden Assault on Our Civil Rights となっていて、アメリカの市民権 に対して 隠された assault があるということを示唆しており、それがどのような性格を 帯びながら、社会が人々に「covering」することを要求してきているかを、Yoshino 教授の 自伝的要素もふくめて、ゲイ、人種、性にもとづく差別についてアメリカの状況を記したも ので、毎週分担を決めて報告していくなかで、次第に実際にお目にかかってお話がうかがえ ないものかという思いが強くなっていき、今回のプログラムに応募するにいたりました。 Ⅱ.インタビュー 面会時間は 30 分でした。行ってみてわかったのですが、Yoshino 教授の研究室の扉には 15 分単位でアポイントの予定表が貼られており、夜までずっと予定が詰まっているという お忙しいなか、お時間をいただけました。 ①著作『Covering』を通して伝えたかったことは何か。 Covering は、見かけ、所属、行動、結合、といった4つの軸でとらえられています。 X というアイデンティティを持っている人が、ステレオタイプ的な X のようには見えないよ うにすることで X の文化には所属しておらず、X に関する行動にはくみせず、他の X たちと も連携をとらないという態度をさしています。グループに基礎を置くよりも、むしろ普遍的 な権利に焦点をあてていることと、私たち全員に対して Covering 要求がなされているとい うことや Covering 要求がされているとわかったら、日常生活のなかでも屈しないでいって ほしいと言われていました。 1 ②オバマ大統領の主張について 選挙戦のなかで、オバマ氏自身は同性婚には賛成ではないが、同性婚を憲法で禁止すること には反対だという主張は、Yoshino 教授が著書の中で指摘する Covering 要求だと考えられ ますか?と尋ねてみました。Yoshino 教授はある意味においてはそうだとも言えますが、選 挙戦の中で、オバマ氏は初めての黒人の大統領になりそうな人物として登場してきており、 何でもできる のだということをアピールしなくてならずそういう主張をしたのだと思い ます、と言われていました。 ③Covering 要求にたいしてできることは何か 前の大学にいた時に、同僚からキャリアをつんでいく上でプロのホモセクシャルでいるより も、ホモセクシャルのプロでいるほうが有利ではないかということを言われたというエピソ ードを紹介しつつ、Yoshino 教授はテニスの試合のように、ボールを投げ返していくことが 大事なのだと話されました。なぜそのようにメインストリームに入るように自分を促そうと するのかと尋ねていく。日常的やりとりが大事になっていくのではないかと言われていまし た。 ④フランスの状況との比較 私がこれから修士論文を書くにさいし、フランスを対象にしていることもあり、フランスの 共和主義とアメリカの状況を検討していこうと考えているところから、Yoshino 教授はどの ようにフランスをごらんになっているのか尋ねてみました。 Yoshino 教授はフランスについては詳しくはないのですが、と言われながらも、フランスは まだ、本当に多様で多文化主義の国には至っていないのではないか、宗教についてもそう言 えるのではないでしょうか、と言われました。 「フランスは2つの宗教と 300 のチーズから なる cheese-based country で、アメリカはその逆の、300 の宗教と2つのチーズがある」 という研究者もいますと例を挙げられました。多文化主義においては、深く根づいた歴史的 背景があり、アメリカの民族的多様性も、移民という背景があります。フランスはたしかに、 homogeneous というエスニック・グラウンドが、アメリカよりはあります。パリテやライシ テといった形をとります。フランスは homogeneous というフィクションの上に立っています が、世界は統計的にみてもますます多文化主義になっていると思っています。ハーバードの 社会学者の研究をみても、グループを基本にすることよりも、ユニバーサルな市民権獲得を めざしていくことがいいのではないかと考えています、と教えていただきました。 2 ⑤法と文学のかかわりについて Yoshino 教授はロースクールでの授業に「法と文学」という科目を担当されているとのこと で、どのように法に文学を取り入れているのか尋ねてみました。Yoshino 教授は文学それ自 体を法と結びつけているわけではないと言われました。学生は様々なバックグラウンドを持 って学んできています。宗教的な面でも。聖書とシェイクスピアの話は誰もが知っているな じみの深いものですが、聖書の中の話をつかって法を教えるということは、宗教−モラルと いう側面と結びつくので、それは切り離していきたい。そこで、誰もが知っているシェイク スピアの物語を素材にして考えていくことを取り入れていますとのことでした。アメリカ社 会は多様であるがゆえに、共通の土台を用意することが難しい状況がわかりました。 著作を通してしか知ることのできなかった Yoshino 教授に、ニューヨークのエンパイアス テート・ビルディングの見える研究室で実際にお目にかかることができ、貴重な経験となり ました。 Ⅲ.その他の報告 ニューヨーク市立大学バルーク校で公民権運動の歴史を研究されている Clarence Taylor 教授にもお会いすることができました。一時間ほどの面会でしたが、African-American に よる公民権運動も教会から始まり、キング牧師の登場やブラック・パンサーの活動のお話な どをしていただきました。オバマ大統領の就任については、歓迎し好意的に受けとめられて いるようでした。新しい時代の到来への期待感を抱かれていました。 次に、ニューヨーク市立大の Graduate Center で The Center For Lesbian and Gay Studies 主催の『Pouring Tea』という 語り部 を観ました。ノースウェスタン大学の Patrick Johnson 教授が実際にアメリカ南部で生まれ育ち今も暮らす黒人のゲイたち‐19 才から 94 才まで‐ のオーラル・ヒストリーを集めたもので、 『Sweet Tea』という本があり、そこから 8 人の人 生を Patrick Johnson 教授が自らパフォーマンスするというものでした。実際にききとられ た人の生の語りを再現していて、カミングアウト、宗教、男性らしさ、ピア・プレッシャー といったテーマがありました。パフォーマンスを観ながら、いわゆる性的マイノリティとさ れている人々の現実はあるのだけれど、文化的取組みを通して積極的に共有していこうとい う姿を感じました。 3 Ⅳ.今回のリサーチをどのように反映させていくか これから私は修士論文に取り組むわけですが、フランスが旧体制と決別していく時に、公 共空間から宗教を除いていく過程、とくに、公立学校の教室から十字架を外していく過程を みていくことで、どのようにしてフランスが共和主義を実現させようとしていくのかを検討 したいと思っています。Yoshino 教授が言われた、これからは、group-based な権利獲得で はなくなっていくということの意味を深めながら、フランスにおいて、個人がフランス市民、 フランス国民として登場していく時の宗教的、文化的多様性はどうなっていくかを考えてい きたいと考えています。 Ⅴ.終わりに 3 月に Yoshino 教授にお目にかかったときに、早稲田にいつかいらしてくださいとご挨拶 したのですが、この 7 月に来校され、 『The New Equal Protection: How Diversity Has Led the United States Supreme Court from Equality to Liberty Jurisprudence』として講演 していただくことになりました。今回のリサーチの機会を授かったことを本当に有り難く思 っております。授業で出会った『Covering』から多くのことを経験できました。 40 年前の 5 月。ニューヨークのストーンウォールでゲイへの不当な取り締まりに対する 暴動が起きました。そこからゲイ・パレードが行われ、今では世界各地に広がっています。 ストーンウォール近辺に当時の面影はなくなっていましたが、差別をなくそうとたたかう運 動は今もつながっています。 つたないながらのインタビューでしたが、かけがえのない体験となりました。必ず今回得 たことは今後にいかしていきたいと思います。有難うございました。 4