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日消外会誌 26(7):2031∼
2034,1993年
成人 の特発性 胃破裂 の 1 例
氷見市民病院外科
村田 修 一
丸
岡 秀 範
清 崎 克 美
池谷 朋 彦
広
瀬 淳 雄
牛
島
若狭林 一 郎
聡
出血 性 胃潰瘍 の治療 中, 大 量 の血 液貯 留 に よる 胃の過膨張 が原 因 と考 え られ る特発性 胃破裂 の 1 例
を経験 したので報 告す る。
症例 は7 2 歳の女性 . 1 9 8 8 年 7 月 1 0 日, 吐 血 にて入 院. 胃 内視鏡検査 で 胃内 に大量 の血 液貯留 を認 め
たが, 出 血 源 は不 明 で あ った。入院約4 8 時間後 に再 び大量 の吐血 を来 し, シ ヨック状態 とな ったので
手術 を施行 した。胃体部小彎側 で縦軸方 向に約1 5 c m 胃 が裂 け, 体 上部 後壁 に認 めた漬瘍 は陣, 膵 尾部
と強固に癒 着 していたため, 胃 全摘, 陣 , 際 尾部切 除 を行 った 。病理組織学的 に 胃体部後壁 に4 5 × 2
I V の 潰瘍 が あ り, 潰 瘍 底 に動脈 の破綻 を認めた。胃内 と上 腹部 に約 3 , 2 0 0 m l の血液 が貯留 し
cmの Ul‐
ていた。 血 液貯 留 に よ り拡張 した 胃に, 吐 血 に よる急激 な 胃内圧 の上 昇 が起 こ り, 胃 小彎 が破 裂 した
もの と考 え られた。
われわ れ が調 べ えた本邦 におけ る成人 の特発性 胃破裂 は本例 が第 3 例 目であ った。
Key word i
spontaneous rupture of the stomach
は じ8めに
・
アル カ リの服用,腹 部外傷 な ど
胃潰瘍,胃 癌,酸
入院 時検 査 成 績 i 血 液 検 査 で は 赤 血 球 数2 9 5 X 1 0 4 /
m m 3 , ヘ モ グ ロビン8 7 g / d l , ヘ マ トク リッ ト2 7 . 3 % ,
に よ らな い 胃の破裂,い わ ゆ る特 発性 胃破裂 は まれで
われわれ は 出血 性 胃潰瘍 の治療 中,大 量 の貯留
あ る1)。
自血 球 数 1 4 . 9 X 1 0 3 / m m 3 と中等度貧血 と自血球増 多 を
認 めた 。
血液 に よる 冒の過膨張 が原 因 と考 え られ る特 発性 胃破
入院後 経過 i 腹 部 単純 X 線 像 で上 腹 部全 体 を 占居
裂 の 1例 を経験 したので,若 子 の文献的考察 を加 え報
す る腫瘤状陰影 がみ られ, 腸 管 ガス像 は下 方 に圧排 さ
れて いた ( F i g . 1 ) . 全身状態 の改善 を図 るため, 輸 液,
告す る。
症
例
患者 :72歳,女 性
主訴 i吐 血
家族歴 :特 記す べ き ことな し
既往歴 :40歳,胃 潰瘍 で吐血 ,49歳 ,子 宮筋腫 で子
宮全摘術.62歳 ,腎 結石 の治療 を受 けた,
現病歴 11988年 7月 10日夕食後嘔気 が 出現.午 後 10
時頃, ト イ レの前 であ らぶ らして い る と ころを家族 が
輸 血 を行 いつつ , 入 院後直 ちに緊急 内視鏡検査 を行 っ
た 。 胃角大彎側 に敏髪集 中を伴 う漬瘍赦痕 と胃体 上部
後壁 の び らんがあ り, 胃体 上部 か ら中部 にかけて大量
の凝 血 塊 を認 め た が, 出 血 部 位 は 確 認 で きな か った
一
( F i g 。2 ) . 腹部超 音波検査 で は拡張 した 胃には, 均 な
ー
エ コ レベル物 質 が充満 していた ( F i g 。3 ) 。腹部 C T
一
像 で も, 胃 体 中部 か ら幽 門側 で は均 な d e n s i t y を示
す ものが充満 していた ( F i g . 4 ) . 胃 管 を挿 入 した が,
発見 した。 そ の後 2回 吐血 し,意 識 が混 濁状態 とな っ
胃か らは約1 5 0 m l の血液 が吸引 されたのみで あ った 。
たため,当 科 に緊急 入院 した.
そ の後, 吐 血 もな く安定 した状 態 で あ ったが, 1 2 日 夜
1 0 時, 胃管 か ら大量 の血液 が流 出 し, 1 1 時 頃再 び吐血
入院時現症 1体 格小 (137.5cm,36kg),栄 養やや不
良 で,血 圧 96/50mmHg,眼 験結膜 には著 明な貧血 が あ
を来 し, 急 激 な腹痛 を訴 え, 収 締期 血 圧4 4 m m H g , 意
る。胸部聴 診上,異 常 な し.腹 部膨満 し,左 上腹部 に
識昏濁 とな ったので, 入 院4 8 時間後, 出 血性 胃潰場 の
診断 で手術 を施行 した。なお, 入 院経過 中 の腹部 X 線
圧痛 あ り,肝 を正中で 3横 指触知 した。
一
<1993年 2月 10日受理>別 刷請求先 i村 田 修
〒935 氷 見市幸町31-9 氷 見市民病院外科
像 では, 腹 腔 内遊離 ガス像 は認 め られ なか った。
手術所見 : 上 腹部正 中切開 にて 開腹 した。 上腹部 を
中心 に凝血 塊 を混ず る大量 の血 液 が貯留 していた. そ
120(2032)
成人 の特発性 胃破裂 の 1例
Fig. 1 Plain abdominal X-ray film shows the mass
shadow compressing the transverse colon downward.
日消外会議 26巻
7号
Fig. 3 Ultrasonogram. The stomach is dilated
markedly with fluid collection. The internal echo
is homogenous.
Fig, 4 Abdominal computed tomographic scan
showing marked dilatation of the stomach fiiled
with homogeneousmaterial.
Fig. 2 Endoscopic finding shows the massive
coagula in the corpus of the stomach.
は合計3 , 2 0 0 m l であ った。
切 除 標 本 t 胃 体 部 小腎 か ら噴 門 に至 る1 1 ×3 c m の
大 きな縦 長 の穿孔 が あ り, これ とは別 に体上部後壁 に
4 . 5 X 2 c m 大 の漬瘍 が あ り, 衆 膜面 で陣 ・
陣尾部 が 強固
に癒 着 していた。前庭部前壁 に も粘膜髪 の集 中を伴 う
漬瘍 をみた ( F i g . 5 ) .
病理組織学的所見 : 小 腎 の 巨大 な破裂 は比較 的新 し
い もので, 破 裂縁 には 肉芽 お よび線維化 はほ とん どな
れ を除去 す る と胃体 部 小彎 側 で縦 軸 方 向 に 胃 が 約 1 5
い ( F i g . 6 ) . 体 上部 後壁 の漬瘍 は慢性潰瘍 ( U l , I V ) ,
前庭部 の病変 も慢 性潰瘍 ( U H I I ) で あ った, 体 上部 漬
c m 破 裂 していた。 胃内 の血 液 を除去 す る と体上部後
瘍 と縦 走 破 裂 との あ いだ に組 織 学 的 関連 性 は なか っ
壁 に陣, 際 尾部 と強 く癒着す る漬瘍 が あ り, 同 部 か ら
動脈 性 出血 が認 め られたt 動 脈 性 出血 を伴 う潰瘍 が 強
た。
く陣, 陣 尾部 に癒着 して い る ことお よび破裂 した範 囲
が広 く, 直 接縫合 は不可能 で あ ったので, 胃 全摘術,
解 ・膵尾部合 併切 除 を行 った。 胃内外 の血 液, 凝 血 塊
術後経過 ! 術 後経過 は 良好 で, 9 月 3 日 退 院 した。
考
察
成人 にお け る胃の特発性破 裂 ( s p o n t a n e o u s r u p t u r e
O f t h e s t O m a c h )ま
“
本来, 漬 瘍, 癌 , 酸 。アル カ リ,
121(2033)
1993年 7月
Fig. 5
Resected specimen sho、 ving rupture of the
lesser curvature, Ul,Iヽアulcer of the corpus and
Ul‐III uicer of the antrum.
に多 くみ られ (63%),死 亡 率 73%と 報告 してい るが,
本邦 では 自験例 を除 いて, これ まで 2例 が報告 されて
),こ れ ら 2例 と自験例 の臨床病理学
い るのみであ る1ル
的特徴 を Table lに示 した.他 の 2例 も女性 で, 1例
は鼻腔 か らの酸素 吸入 に よるもの,他 の 1例 は精 神発
育 遅延 者 で,何 らか の摂 取 異 常 が 関 与 す る可 能 性 が
あ った症例 で あ る。手術 に至 らなか った症例 は失 った
が,手 術 に よ り胃切 除を受 けた 症例 は 自験例 を含 めて
治 癒 し た。Watts"は 胃 破 裂 の 原 因 を emetogenic
分 けて い る。前者 5例 中
groupと ove対1ling groupに
4例 は 胃上部大彎側 に認め , これ は嘔吐 に際 して 胃に
かか る圧 は 胃を拡張 させ るよ りはむ しろ収縮 させ るよ
うに働 き,破 裂 が起 こるには 胃壁 に沿 い圧較 差 が必要
であ り, この状態 は胸腔 内へ の 胃の ヘ ル エ アが起 こっ
Fig, 6
Histological picture of the edge of the
rupture without granulation and llbrosis (H.E
s t a i n , ×5 )
た時 にのみみ られ,結 果 として 胃体上部大彎 に破裂 が
認 め られ る と説 明 してい る。しか し Watts',Alboら 0
の検索 の ご と く,胃 小彎 に破 裂 がみ られ る ことが大多
属す る と考 え ら
数 であ り,後 者 の ove鵡1ling grOupに
れ る。一 般 には食物,飲 料 の過乗J摂取 りD,制 酸剤 とし
り,幽 門狭窄 10111ち
て sodium bicarbonateの
服用 7)∼
胃
1り
出血 な どに よ り過膨張 した 胃が嘔 吐 な どのため に 幽
門 と食道噴 門接合部 が 閉鎖 し,胃 内圧 が急激 に上 昇す
る.胃 内圧 の上 昇 に よ り拡振 した 胃は球形 とな るが,
球形 とな った 胃では小弩 が仲展性 が少 ないため緊張 が
かか り,遂 には破裂す る と推察 されて い る。本症例 は
胃大彎側 の 出血 性漬瘍 が 大網 と横行結腸間膜 に穿通 し
の症例 に類似 していた 。本pllの
ていた Harlingら1分
破
一
は
の
の
で
般 潰瘍 ,癌
裂
穿孔 と異 な り,巨 大 ,小 彎 の
外傷 な どの原 因以外 の病態 に よる穿孔 に名付 け られた
か し, G r a h a m は
名 称 で あ る1 ) . し
の常 に 何 ら か の
“
underlying cause''が2ある か ら, ``spOntaneous
e''が
r u p t u r e ' 'り
よはむ しろ` ` u n e x p e c t e d r u p t u r 正確
で
あ る と述 べ てい る。欧米 で は S a u l らゆが6 6 例の文献的
考察 を行 い, 女 性 に多 く( 6 7 % ) , 発 生部位 は 胃小彎側
Table I
Author
53
26
F
F
72
F
る が, こ の 場 合 に は 小 彎 以 外 に も破 裂 が み ら れ
)1り
る1 カ
, 自 験例 の標本 で は 目の支配動脈 の血 栓形成や
Casesof spontaneousrupture of the stomach
Comments
Nasal oxygen
insuffiation
Mental retardation
Vomiting
Present case
いたため,嘔 吐時小彎 に急激 な圧 が加わ り破裂 した と
考 え られた。 胃壁 の虚 血 ,壊 死 が原 因 で も破裂 は起 こ
Gastric dilation
Bleeding peptic ulcer
Operation
s
s
o e e
Okumura (1988)
Age & Sex
が あ り,大 雪側 は潰瘍 に よ り際尾部,牌 に固定 され て
N Y Y
Kojima (1982)
縦軸方 向 に沿 っていた 。 これ は 胃内 に大量 の血 液貯留
Location
some proximal
Result
Died
parts of the lesser
and greater curvatures
Posterior wall
Sun4ved
Lesser curvature
Survived
122(2034)
成人 の特発性 胃破裂 の 1例
静脈 性梗塞 は確 認 され なか った。
診 断に関 しては重症度, 緊 急度 が高 く, 急 性腹症 と
して手術 され る こ とが多 く, 術 前 に確 診 され る こ とは
5)
ほ とん どない。 しか し, 突 然 出現す る激 しい腹痛, 腹
部膨満 がみ られ る こと, 腹 腔 内遊離 ガス像 の有無, 大
量 の食事摂取, 鼻 腔 ゾンデに よる酸素 吸入り, 食 道裂孔
り
ヘ ル ニ アめ, s o d i u m b i c a r b O n a t e の
服用の , 下 血 , 吐
血1り
な ど病歴 の聴取 が重要 で あ る。
, 出 産後 l 。
手術 された症例 で は 目切除 が主で あ るが, 破 裂部位
が 小 さければ縫合 閉鎖 を行 って治癒 した症例 も報告 さ
れ てい るゆり. シ ョ ックに対す る治療 を始め とし, 全 身
状態 の管理 を行 い, 十 分 な腹腔 内洗浄 が術後感染 の予
6)
7)
8)
9)
防 に必要 で あ る こ とは 当然 で あ るが, 死 亡 率 は S a u l
らのが7 3 % と 報告 してい る よ うに高 い。 した が って 胃
に間 が あれ ば, 胃切 除 が行われ るべ き
壁 の v i a b i l i t y疑
l0)
と考 える.
文 献
1 ) 奥 村明之道, 南俊之介, 杉野盛規ほか ! 特発性胃破
裂の 1 例 , 日 消外会誌 2 1 1 2 2 9 6 - 2 2 9 9 , 1 9 8 8
2)Graham ヽ VB: Spontaneous rupture of the
stomach in the aduit Coll Surg Edinburgh 27 i
368--369, 1982
3)Saui SH,Dekker A,ヽ VatsOn CC: Acute gas‐
tric dilatiOn with infarctiOn and PcrfOration.
Gut 21 1 978--983, 1981
4)Kojima T, Yashiki M, Une I: Stomach
ll)
12)
13)
14)
日消外会議 26巻
7号
rupture after oxygen therapy using a nasal
catheter.Hiroshima Med Sci 31 : 161-164, 1982
Watts HD: Lesionsbrought on by vomiting:
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rupture of the stomach in the postpartum
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A Case of Spontaneous Rupture of the Stomach in the Adult
ShuichiMurata,HidenoriMaruoka,KatsumiKiyosaki,Rin-ichiroWakasa,Tomohikolkeya,
AtsuoHiroseand SatoshiUshijima
Departmentof Surgery,Himi MunicipalHospital
The followingwas our clinicalexperience
with a patientwith spontaneous
rupture of the stomachprobably
inducedby overdistentionof the stomachresultingfrom a largepoolof bloodduring treatmentof a hemorrhagic
gastric ulcer. A 72-yearold woman was admitted to our facility becauseof hematemesis.An endoscopic
examinationof the stomachrevealeda largequantity of bloodin the stomach.The sourceof the hemorrhage,
however,couldnot beidentified.About,t8hr after admission,the patienthadseverehematemesis
again,resulting
in shock.At laparotomy,3.2 liters of bloodwas removd from the abdominalcavity and about 15-cmlongitudinal
tear was observedat the lessercurvatureof the stomach.An ulcer on the posteriorwall of the corpusof the
stomachadheredto the spleenand the tail of the pancreas.Therefore,total gastrectomycombinedwith
splenectomyandresectionof the tail of the pancreaswas performed.Histologicalexaminationrevealeda 4.5X 2{m
UI-IV ulceron the posteriorwall of the corpusof the stomach,with rupture of an artery at the site of the ulcer.It
was presumd that in the stomachinflatedwith blood,hematemesis
causd the intragastricpiessureto increase
drastically,causingthe lessercurvatureto rupture.This caseis the third documented
adult caseof spontaneous
ruptureof the stomachin Japan.
Reprint requests: ShuichiMurata Departmentof Surgery,Himi MunicipalHospital
31-9Saiswaicho,Himi, 935JAPAN
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