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AutoCAD に基づいた歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発

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AutoCAD に基づいた歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発
日本機械学会
MPT2013 シンポジウム<伝動装置> [2013.11.14-16]
CopyrightⒸ2013 一般社団法人 日本機械学会
1209
AutoCAD に基づいた歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発*
李 樹庭*1
Development of Gear Design and Drawing Software Based on AutoCAD
Shuting LI*1
*1
Shimane Univ. Dept. of Mechanical, Electrical and Electronic Engineering
1060 Nishikawatsu-Cho, Matsue, 690-8504 Japan
Gear design calculation and drawing software have been developed based on AutoCAD Visual Basic language
included in AutoCAD. With the developed software, a pair of spur gears, helical gears and internal gears can be
calculated simply in AutoCAD surrounding. The software developments have also been made for some special gear
devices, such as trochoidal gear reducers and strain-wave gearing. Two-dimensional (2D), exact tooth profile shapes
and drawings of the designed gears can be drawn automatically and immediately on the template of AutoCAD when the
developed software are run. Then three-dimensional (3D) drawings of the designed gears can be made by 3D commands
included in AutoCAD. The developed software can also be used to calculate gear bending and contact strength in
AutoCAD surrounding based on the JGMA and ISO standards.
Key Words : Gear Design, Gear Drawing, Gear Software, Trochoidal Gear Reducer, Stran-Wave Gearing
1. 緒
言
近年,歯車装置の機械設計を行う場合には,次に示す理由で歯形の精密な三次元製図が求められている.
(1)
試作前に Solidworks などの3D ソフトで設計した歯車装置の動作・干渉チェックを行う場合;
(2)CAE ソフトで
歯車や歯車を用いた機械装置の強度解析を行う場合;
(3)マシンリングセンターなどの非創成法で新しい歯形形
状の歯車を試作したり,通常歯車の歯面修整を行ったりする場合;
(4)試作前に歯車を用いた複雑な機械装置の
重さを Solidworks などで計算する場合.しかし,歯車の歯形は複雑なインボリュート曲線であり,簡単に求める
ことができず,各種の歯車装置の幾何学・運動学及び歯形の形成原理を理解するために高度な専門知識が必要と
なるので,機械装置の設計・製造現場において,多くの歯車装置の歯形の精密な三次元製図は AutoCAD 上でま
だできないのが現状である.
本研究は AutoCAD 上で歯車装置の精密な2D と3D 製図のできる汎用ソフトの開発を目的とする.今まで,歯
車装置の設計計算と製図は別々のソフトで行われる場合が多いが,本研究では,歯車の設計計算と製図は一つの
ソフトで,即ち AutoCAD だけで完成できるように歯車装置の設計・製図専用ツールを開発する.このような専
用ツールの開発により歯車装置の設計・製図時間を現状より大幅に短縮させながら,今までできなかった歯車装
置の設計計算や精密な2D と3D 製図ができるようにすることを目指している.
研究目的を達成するために,著者の長年の研究で開発してきた Fortran 言語の歯車設計計算及び FEM 解析ソフ
トを元にして,AutoCAD に組み込まれている Visual Basic(AutoCAD VBA)言語を用いて,AutoCAD の環境で実
行できる歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発を行った.開発ソフトで計算された歯車の精密な歯形形状を直
接 AutoCAD の製図テンプレートに出力し,そして AutoCAD の2D と3D 製図コマンドを用いて,設計した歯車
の精密な2D と3D 図面を作成した.本文において,まず創成法により開発した歯車歯形及び刃物歯形を求めるソ
フトの開発を紹介し,また一対の外(内)平歯車,トロコイド歯形を用いたピン歯車装置及び波動歯車装置の設
計計算・製図ソフトの開発を紹介する.
*1
正員,島根大学(〒690-8504 松江市西川津町 1060)
E-mail: [email protected]
一般社団法人 日本機械学会 [No.13-17] MPT2013 シンポジウム<伝動装置>講演論文集 〔2013.11.14-16,宮崎〕
2. AutoCAD に基づいた歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発ついて
AutoCAD が立ち上がると,
「管理」タブの中に「Visual Basic Editor」が用意されている.この「Visual Basic Editor」
をクリックすると,AutoCAD の環境で Visual Basic が立ち上がることになる.そして普通の Visual Basic ソフトの
作成のようにユーザフォームを挿入すると,AutoCAD と通信できる Visual Basic ソフトの作成ができる.
本研究では,今まで Fortran 言語で開発してきた多くの歯車装置の設計計算ソフトを元にして,AutoCAD に組
み込まれる歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発を試みる.ソフト開発の際には,歯車装置の設計計算は普通
の Visual Basic 言語で完成できるが,歯車装置の精密な歯形形状の描画は AutoCAD VBA に特有な点・線・円弧を
描くコマンドを用いた.例えば,
「Call ThisDrawing.ModelSpace.AddLine(point1(), point2())」を用いて,点 point1(x,y,z)
と点 point2(x,y,z)を直線で結んだり,
「Call ThisDrawing.ModelSpace.AddCircle(Center(), Radius)」を用いて,円を描
いたりする.ここで,Center()は円の中心点の座標であり,Radius は円の半径である.歯車の設計計算終了後,設
計した歯車の精確な歯形形状が即座に AutoCAD の図面テンプレート上に出力されて,この形状を利用すれば,
AutoCAD の2D 製図コマンドで歯車の精確な2D 図面が作成でき,AutoCAD の3D 製図コマンドで歯車の精確
な3D 図面も作成できる.
更に AutoCAD で作成した2D と3D 図面を DWG や DXF 拡張子のファイルで保存し,
Solidworks などの CAE 解析ソフトに読ませれば,歯車装置のアニメショーンを作ったり,強度解析や干渉チェッ
ク・動作チェックをしたりすることもできる.
3. 開発した歯車装置の設計計算・製図ソフトの紹介
3・1 創成法による歯車・基準ラックの歯形解析・製図ソフトの開発
歯形創成法の原理に基づいて,基準ラック・ピニオンカッタから歯車の歯形を創成するソフト及び歯車の歯形
から基準ラックやピニオンカッタの歯形を求めるソフトを AutoCAD VBA で開発した.このソフトにより,
AutoCAD 上で次に示すような解析と製図ができるようになる.
(1)基準ラック・ピニオンカッタの任意歯形か
ら外(内)平歯車の歯形を創成する;
(2)任意の外・内歯車の歯形から基準ラック・ピニオンカッタの歯形を求
める;
(3)任意歯形形状の歯車から共役歯車の歯形を求める;
(4)修整歯形から基準ラック・ピニオンカッタ
の歯形を求める;
(5)求められた基準ラック・ピニオンカッタと歯車の精確な2D と3D 面図を作成する.
3・2 一対の平(はすば)外(内)歯車の設計計算・製図ソフトの開発
一対の歯車の歯のかみあい位置関係に基づいて,AutoCAD 上で一対の平(はすば)外(内)歯車の設計計算・
製図ソフトを開発した.歯車対の諸元(歯数,モジュール,転位係数,歯たけ係数(並歯・高歯・低歯)
,歯厚係
数,頂げき係数,基準ラックの丸み部の半径係数など)をソフトに入力すると,歯車対の歯部の寸法,マタギ歯
厚とオーバピン寸法が計算される.また歯車対の歯形及び歯のかみあい様子を AutoCAD の図面テンプレート上
に自動的に出図される.更に AutoCAD の2D と3D コマンドを用いれば,歯車対の2D と3D 図面が作成できる.
以上の機能の他に,開発ソフトは外歯車の歯先尖りと歯元アンダーカットのチェック及び内歯車の干渉チェック
(インボリュート干渉,トロコイド干渉及びトリミング干渉)ができるし,JGMA や ISO 式による歯車の歯元曲げ
応力,歯面接触応力及び PVT 値の計算もできる.
3・3 トロコイド歯形を持つピン歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発
トロコイド曲線は歯車の歯形曲線として古くから使われてきた.国内の場合には,サイクロイド減速機やボー
ル減速機などの大減速比伝達装置が開発され,またこの曲線を用いた RV 減速機も産業用ロボットの発展に大き
く貢献した.しかしトロコイド曲線を用いたピン歯車装置の設計について,多くの問題はまだ解決されていない
にもかかわらず,近年この装置を研究する大学が殆ど無くなり,トロコイド曲線を用いたピン歯車装置の設計を
知る技術者も自然にいなくなっているのが現状である.トロコイド歯形を用いた歯車装置の設計技術を自然に消
滅させないようにするために,AutoCAD 上でトロコイド歯形を用いたピン歯車装置の自動設計・製図ソフトの開
発に取り組んだ.
ソフト開発は著者の長年の研究成果に基づいたものであり,
また最新の研究成果も取り入れた.
開発ソフトに歯車諸元を入力すれば,トロコイド歯形を用いたピン歯車装置の設計が簡単に完成できるようにな
り,またソフトの計算結果により,設計したピン歯車装置の2D と3D 図面も簡単に作成できるようになる.将
来,この装置のために開発してきた Fortran 言語の専用有限要素法ソフトを AutoCAD VBA で書き直し,AutoCAD
上でこの装置の FEM 強度解析ができるように研究を続けている予定である.
3・4 波動歯車装置の設計計算・製図ソフトの開発
波動歯車装置は 1959 年にアメリカの Musser により発明されてから,半導体,産業用ロボット,宇宙探査機な
どの多くの機械装置によく使われてきたが,この装置には特有なかみあい原理及び設計方法があるので,一般的
に余りよく知られていないのが現状である.勿論,現在この装置を研究している国内の大学が殆どないので,こ
の装置の設計技術が自然になくなる危険性を潜んでいる.
未経験者でもこの装置を設計できるようにするために,AutoCAD 上で波動歯車装置の設計計算・製図ソフトの
開発に取り組んだ.ソフト開発は著者の長年の研究成果に基づいて行われた.まず波動歯車装置の歯形曲線とし
てよく使われていたインボリュート曲線、円弧及び直線などをソフトに登録し,そして新しい歯形曲線を入力で
きるようにソフト開発を行った.設計者は既存の歯形曲線及び新しい歯形曲線を使って波動歯車装置の設計計
算・製図を行うことは可能であり,ソフトに歯車の歯部諸元(例えば,歯数,モジュール,圧力角度,転位係数,
歯たけ係数,歯厚係数)及び構造寸法(カップ状極薄肉外歯車の構造寸法)を入力すると,歯部寸法(歯先円,
ピッチ円,歯元円など)の計算、オーバピンの計算、AutoCAD のテンプレート上での歯部形状の製図は自動的に
完成される.
将来,AutoCAD 上で波動歯車装置のかみあい解析や歯の干渉チェックができるように研究を続けていくととも
に,1986 年から提案・構築してきた波動歯車装置の接触解析用有限要素法ソフトを AutoCAD VBA で書き直し,
AutoCAD 上で波動歯車装置の接触解析や強度計算ができるようにソフト開発を行っていく予定である.
4. 開発ソフトの設計計算・製図例の紹介
4・1 創成法による歯車・基準ラックの歯形を求める例
図1(a)は円弧歯形を持つ基準ラックの2D と3D 図面である.この円弧ラックにより創成された外歯車の2D
と3D 図面及び内歯車の3D 図面を図1(b)に示している.創成解析を行う前に,まず基準ラックの歯形が与え
られて,そして開発した創成法のソフトで外歯車と内歯車の歯形を求めた.計算終了時,図 1(a)と(b)に示
す2D 図面がソフトで自動的に描かれる.この2D 図面を用いて,AutoCAD の3D コマンドを用いれば,図 1(a)
と(b)に示す 3D 図面が作成できる.開発したソフトで任意形状の基準ラックの歯形により創成される外歯車及
び内歯車の歯形を求めることができ,修整歯形や任意形状の歯形により,基準ラック・ピニオンカッタの歯形形
状を求めることもできる.
(a) Arc-shaped rack
(b) 2D & 3D drawings of the external gear and the internal gears
Fig.1 External and internal gears generated by arc-shaped rack
4・2 一対の平歯車の設計計算・製図例
図 2(a)は開発した一対の平歯車の設計計算・製図ソフトのメニュー画面である.図 2(a)の左側に示すよう
に一対の平歯車の歯数,モジュール,転位係数,圧力角度,歯たけ係数(並歯・高歯・低歯)及び基準ラックピ
ッチ線上の歯厚係数(一般的に 0.5)
,基準ラック歯先丸み部の半径係数などを入力し,
「計算」タブをクリック
すると,図 2(a)の右側に示す歯車対の歯先円・歯元円直径,中心間距離,かみあい率,マタギ歯厚とオーバピ
ン寸法などが即座に計算されるとともに,図 2(b)の左側に示す2D 図面も AutoCAD の図面テンプレート上に
即座に描かれる.開発ソフトの中にはスプラインの設計・製図機能もあるので,図 2(b)に示すように歯車の中
心部に内スプラインを追加することも可能である.2D 図面を「プレス」や「境界引き伸ばし」という3D 製図コ
マンドを使用すると,図 2(b)の右側に示すように内スプライン付きの3D 歯車図面が簡単に作成できる.更に
AutoCAD の様々な3D 機能のコマンドを使うと,更に複雑な歯車形状の3D 製図もできるようになる.
(a) Menu of gear calculating software
(b) 2D & 3D drawings of the desiged gear
Fig.2 Tooth profile-shifted spur gear with internal spline
図 3(a)は開発したソフトで作った内歯車と外歯車の一体化歯車構造である.この一体化歯車構造を作るため
に,まず図3(a)の左側に示すように内歯車と外歯車のそれぞれの2D 図面を作成し,そして,この2D 図面に
より,AutoCAD の3D 製図コマンドで図 3(a)の右側に示すような複雑な一体化歯車構造を作ることができる.
図 3(b)は開発したソフトで作成した高歯非標準平歯車の2D と3D 図面である.この歯車の歯末のたけは標
準歯車より 20%高くなり,またピッチ円上の歯厚は標準歯車より 20%狭くなっている.開発したソフトで図 3(b)
に示すような非標準歯車装置の設計計算や2D と3D 製図が簡単にできるようになる.
(a) An internal gear with the external gear
(b) Non-standard spur gear
Fig.3 2D & 3D drawings of some special gears
4・3 トロコイド歯形を持つピン歯車装置の設計計算・製図例
図 4 は開発ソフトで作成したトロコイド歯形を持つピン歯車装置の主な部品の2D と3D 図面である.
開発した
ソフトに図 2(a)に示すようなメニュー画面が設計されていて,このメニュー画面に歯車諸元を入れると,ピン
歯車装置の歯部寸法及び構造寸法が自動的に計算されるとともに,図4に示すトロコイド歯形歯車の2D 図面が
自動に完成される.そしてこの2D 図面を「プレス」や「境界引き伸ばし」の3D 製図コマンドを用いれば,図 4
の中央部に示すトロコイド歯形を持つ外歯車の3D 図面が完成できる.更にピンとのかみあい関係を知りたい場
合には,ソフトでピンの位置を自動的に計算し,計算された位置でピンの2D 図面を出図すれば,図4の右側に
示すようにピン歯車装置の3D 図面も簡単に作成することができる.
Fig.4 2D & 3D drawings of the gear with trochoidal tooth profile
4・4 波動歯車装置の設計計算・製図例
図5は開発ソフトで作成した圧力角度 25°の転位インボリュート歯形を持つ波動歯車装置の主な部品である
フレクスプライン(カップ状極薄肉外歯車)の2D と3D 図面及びサーキュラ・スプライン(内平歯車)の3D
図面である.開発ソフトでインボリュート曲線,直線,円弧及び任意形状歯形を持つ波動歯車装置の設計計算及
び製図を行うことが可能である.
Fig.5 2D & 3D drawings of the flex-spline and circular spline of strain-wave gearing
5. 結
語
AutoCAD VBA を利用し,一対の平(はすば)歯車装置、トロコイド歯形を持つピン歯車装置及び波動歯車装
置の設計計算・製図ソフトを開発した.開発したソフトにより,研究対象となる歯車装置の設計計算・製図時間
を大幅に短縮させることができ,今まで AutoCAD でできなかった歯車装置の設計計算及び歯形の精確な2D と
3D 製図ができるようになった.将来,研究対象となる歯車装置の種類を更に増やしながら,今まで開発してき
た歯車装置の接触解析用 FEM ソフトを AutoCAD に取り入れて,更に高度な歯車解析ができるように研究を続け
ていく予定である.
文
(1) 田中 孝,
“転位歯車(新版)
”
,日本機械学会.
献
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