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平成 23 年度 国際エネルギー使用合理化等対策事業 途上

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平成 23 年度 国際エネルギー使用合理化等対策事業 途上
平成 23 年度
国際エネルギー使用合理化等対策事業
途上国における
省エネ基準・ラベリング制度構築支援事業
報 告 書
2012 年 3 月
(財)日本エネルギー経済研究所
1
0
目次
はじめに ...............................................................................................................................ii
1
中国 ...............................................................................................................................1
1.1.
事業背景 ................................................................................................................. 1
1.2.
中国エアコン試験所能力向上のためのラウンドロビンテスト実施........................ 2
1.3.
小サンプルエアコン電気使用量実測調査の実施 .................................................... 3
1.4.
中国変速エアコンの試験基準に関する中国担当部局(CNIS)との研究会実施(APF
研究会)............................................................................................................................ 5
2
3
4
5
1.5.
中国消費者の省エネエアコン購買行動に関する調査研究及び影響要素の分析...... 7
1.6.
事業成果と今後の方向性 ...................................................................................... 12
ベトナム ...................................................................................................................... 14
2.1.
事業背景 ............................................................................................................... 14
2.2.
冷蔵庫・エアコンの省エネルギー性能試験所支援............................................... 16
2.3.
省エネ効率基準及びラベル政策構築支援 ............................................................. 18
その他の国................................................................................................................... 25
3.1.
タイ ...................................................................................................................... 25
3.2.
インドネシア........................................................................................................ 26
3.3.
今後の事業化の方向性.......................................................................................... 27
基準及びラベリングに係る多国間枠組下でのイニシアティブとの連携...................... 28
4.1.
SEADイニシアティブ ...................................................................................... 28
4.2.
国際エネルギー機関(IEA)4E .................................................................... 35
バイ・マルチの枠組みを活用した基準・ラベリング政策支援戦略............................. 40
5.1.
背景 ...................................................................................................................... 40
5.2.
二国間支援の成果と示唆 ...................................................................................... 40
5.3.
多国間支援 ........................................................................................................... 43
5.4.
まとめ................................................................................................................... 45
i
はじめに
アジアの発展途上国では、経済の発展と人口の増加等に伴って継続的にエネルギー需要
の拡大傾向を示しており、世界全体からみた経済とエネルギー消費の両面での牽引役とな
っている。しかし、こうした当該地域の状況は、エネルギー価格の上昇、あるいは温室効
果ガス排出量の世界的な増加といった面での影響をもたらすとともに、当該国にとっても
地域的な環境問題の原因となったり、エネルギー安全保障の観点からも持続的な経済成長
に対する足かせとなることが懸念される。そのため、こうした課題を解決するための効率
的なエネルギー需給環境の構築が最重要課題の一つとして認識されると共に、各国におけ
る省エネルギー政策の構築と、政策の実効性をより高めるような執行のあり方に関する検
討が行われている。そうした中で、これまで多くの省エネルギー政策の経験を有する日本
をはじめとする先進国との協力関係の構築は、当該国における省エネルギー政策の実効性
を高める上で重要であり、政策支援(Policy Development Assistance:PDA)の具体的な
取り組みが進んでいる。
本調査では、アジア諸国における省エネルギー政策やラベリングプログラムなどの制度
構築と効率的な製品の導入促進に貢献するために、国内外の専門家や相手国の政府、そし
て政府系研究機関等と連携しながら、当該国における省エネルギー制度の共同研究や政策
構築に関係する調査等の取り組みを通して、各国における省エネルギー制度構築支援を継
続的に行ってきている。具体的には、家電製品分野を対象として、省エネルギー基準やラ
ベリングプログラムの構築に焦点をあて、各国における省エネルギー政策の検討に際して
求められる協力が必要なニーズを抽出し、日本が蓄積してきた専門的な知見や経験に基づ
く支援内容のあり方を検討するとともに、具体的に実行するというものである。
本年は 5 年目の事業として、引き続き中国とベトナムを中心に事業を行った。タイやイ
ンドネシアにおける政策動向に関するレビューを行いながら、政策支援事業化の可能性に
ついて検討を行っている。中国に関しては、家庭用エアコンの効率基準改定作業を支援す
る目的から、
「エアコンによる電気使用量実測調査」と「中国の変速エアコンの試験基準に
関する検討」そして、「中国エアコン試験所能力向上支援」を実施し、これらの結果を APF
研究会の場においてインプットしつつ、基準開発に携わる関係者との協議を通じて、基準
案の策定の協力事業を行った。また、ベトナムでは、「ベトナム冷蔵庫・エアコン試験所能
力向上支援」を実施し、省エネルギー法の執行に基づく家電製品の試験を行う試験所の能
力向上に寄与するとともに、将来的な省エネルギー政策改定に向けた新たな協力事業の検
討を行うための基礎的な調査事業を実施した。更に本年度からは、国際的に省エネルギー
型製品の普及拡大を目的とした IEA4E や SEAD などのマルチラテラルな共同事業活動につ
いてのフォローアップもあわせて行いながら、今後の家電製品に関する省エネルギー協力
ii
事業の戦略的な活動のあり方について検討を行っている。
途上国におけるこうした支援事業は、即座にその成果が得られるものではなく、継続的
な協力事業の実施が不可欠であるが、これまでの当該事業の実施を通じて、着実に相手国
とのネットワーク構築や実態把握と課題の抽出、ならびに相手国のニーズに応じた協力活
動の蓄積が出来つつある。そうした日本の知見と経験に基づく支援事業の成果と今後の事
業展開が、途上国における省エネルギー政策の構築と効果のある実施に結びついていくこ
とが、引き続き期待されるところである。
2012 年 3 月
(財)日本エネルギー経済研究所
iii
1
中国
1.1.
事業背景
中国では現在、任意認証ラベル制度、強制比較ラベル制度、そして最低エネルギー効率
基準(Minimum Energy Performance Standard、以下 MEPS)が導入されている。1999
年から実施している任意認証ラベル制度は、家庭用、商業用、工業用の多くの製品と交通
分野に拡大されている。2005 年に導入された強制的なエネルギー情報ラベル制度は、2011
年 10 月までに対象製品リストを計 7 回公表し、室内用エアコン、パッケージエアコン、イ
ンバータタイプの室内用エアコンを含む 23 品目が対象となっている。
中国は、第 11 次 5 ヵ年計画において、エネルギー消費の対 GDP 原単位を 2010 年まで
に 20%削減するという目標を掲げ、2011 年の実績検証の結果ではこの目標を達成している。
また、2008 年には改正「省エネルギー法」の実施により、省エネルギーへの取り組みを強
化している。そして、2011 年 3 月には第 12 次 5 ヵ年計画が発表され、エネルギー消費の
対 GDP 原単位を 16%削減、GDP 当たり二酸化炭素排出量を 17%削減という法的に拘束力
のある削減目標を盛り込んでいる。
この新しい 5 カ年計画の中で、エネルギー効率基準やラベル政策(Energy Efficiency
Standard and Labeling、以下 S&L)の強化・拡大は、重要な政策の一つとして位置づけら
れた。本事業におけるエネルギー効率基準策定、及び試験所支援の対象としているエアコ
ンも、例外なく効率強化と実効性を高める施策の実行が予想される。
中国の過去 20 年間の急激な経済成長の結果、1990 年には実質ゼロであったエアコンの
保有率は都市地域を中心に急激に普及が進み、中国政府は将来的なエネルギー消費への影
響、特に都心部のピーク電力需要について懸念を抱くようになっている。こうした背景の
下、昨年度に引き続き、本年度事業では中国のエアコン基準改定を支援し、中国のエアコ
ン市場をエネルギー効率的な市場へと転換することへの貢献を試みている。
本事業では、特に以下の点を課題として認識し、支援を実施している。
1.
中国のエアコンの効率基準は、定格出力で評価した効率の最低基準(MEPS)である。
2.
可変速のエアコンと一定速のエアコンのラベリングは2本立てになっており統合され
ていない(ランクと効率の不一致)
。
3.
エアコンの実使用時における効率は、定格出力以外の運転条件でのエネルギー効率に
大きく影響されており、この定格以外の運転における効率を合理的に反映させるため
には、例えば日本で採用されている通年エネルギー効率基準(Annual Performance
Factor; APF)などの、年間のエアコンの運転条件を反映した基準を策定する必要があ
る。
中国ではこれまで、エアコンのエネルギー効率の測定基準が、一定速エアコン(インバ
ータなしのエアコン)と可変速エアコン(インバータエアコン)などエアコンのタイプに
1
よって異なるため、ラベリングを通じた異なるタイプ間のエアコンの効率性能比較は困難
であった。そのため、現在実施されているエアコンのエネルギー効率に対するラベリング
制度において、インバータエアコンのエネルギー効率が相対的に悪いような錯覚をもたら
す恐れがある。消費者が省エネルギー性能の高いインバータ技術の特性を正しく理解する
ためには、これら異なるタイプ間の効率比較が可能となること、つまり単一の基準策定が
喫緊の課題となっている。
本年度は、昨年度に引き続きエアコンのエネルギー効率基準改訂の基礎情報収集のため
に、中国標準化研究院(China National Institute of Standardization; CNIS)との間で
協議を重ねた結果、以下を実施した。
1.
日中 RRT(Round Robin Test)の実施
2.
小サンプルエアコン電気使用量実測調査の実施
3.
APF 研究会の開催
4.
中国消費者の省エネエアコン購買行動に関する調査研究及び影響要素の分析
1.2.
中国エアコン試験所能力向上のためのラウンドロビンテスト実施
本年度は、昨年度に引き続き、日本と中国の空調機試験所との間で、同一供試機による
性能試験を実施し、APF 算出に必要な定格・中間能力および最小能力を試験項目として試
験所間の測定能力を比較する RRT を実施した1。
中国には国家レベル、省レベルの多くの試験機関2が存在するが、空調機の性能試験につ
いては、その試験設備、試験技能に対して課題が指摘されている。空調機の能力を正しく
評価するには、正しい試験方法を確立する必要があり、日中の試験機関間におけるラウン
ドロビンテストを通じて、試験方法の確立や共通化、試験技能の向上が期待される。RRT
には、日本側、中国側の以下の試験所が参加している。

中国側:広州威凱検査技術研究院(CVC)、北京家電検査所(CHEARI)

日本側:日本冷凍空調研究所(JATL)
今年度は、昨年度に引き続きルームタイプ(壁掛け)を供試機器としたバランスし方式の
RRT を実施した。また、今年度からパッケージタイプ(床置き)を供試機器としたエンタル
ピー方式の RRT を実施している。本年度は、以下の供試機を用いて RRT を実施した。

三菱電機(上海)とハイアールの 1.5HP 直流インバータエアコン各 1 台(Room Air
Conditioner)

三菱電機(上海)の 3HP 直流インバータエアコン(Package Air Conditioner)
まず、RAC について、昨年度、CVC、JATL 等での試験は完了し手板が、当初 2012 年 5
1
詳細については「中国・ベトナム等における空調機の省エネ性能評価試験機関の能力向上に関する支援
活動への協力(日本冷凍空調研究所)」を参照のこと。
2省レベル 22 ヶ所、市レベル(直轄市)で 4 ヶ所(北京、重慶、上海、天津)ある。
2
月に試験が開始される予定となっていた CHEARI において、新設された試験設備の調整が
遅れたため 2012 年 2 月から試験が開始された。したがって、既に試験を実施した CVC 及
び JATL における試験結果と、CHEARI の試験結果が比較が可能となるのは来年度になる
見込みである。一方で、実施済みの試験の結果について、暫定的に解析したところ冷房定
格、冷房最小については偏差が±3%以内であり3、試験結果について公正であることが確認
されている。また、JATL の暫定版の試験マニュアルを中国側に送付しており、これを土台
とした試験マニュアルの共通化が期待される。
次に、PAC については、後述する 11 月の APF 研究会において、3HP 以上の製品につい
ては測定点が 3 点となるため、こうした製品の試験方法について議論された。その結果と
して、PAC について日中 RRT を実施することとなった。2012 年 2 月に CVC において RRT
キックオフミーティングを開催し、PAC の RRT が開始された。本年度は CVC において試
験を実施した。次年度以降には、JATL、CHEARI において試験を実施し、試験結果につい
て議論するためのラウンドアップミーティングの開催を通して、試験所の能力向上や RAC
と同様に試験マニュアルの共通化が期待される。
これらの RRT と同時に、各試験所間の相互訪問を通じて専門家による議論を実施した。
相互訪問によって、中国側が RRT 試験時に供試機の開梱点検や重量検査等の確認作業を行
う等、RRT の手順が守られていることを確認している。また、ミーティング内での質問内
容から RRT の実施の目的や効果を理解していると考えられる。一方で、試験する際の疑問
点を、中国側が自ら実験や測定を行い解決しようとする姿勢が見られず、日本側に質問し、
回答を求めている姿勢が見られる。これは、中国側スタッフが自分たちの試験設備の仕様、
特性を理解していないことに起因すると考えられる。今後とも日本側がきめ細かく中国側
スタッフと連携を取る必要がある。
1.3.
小サンプルエアコン電気使用量実測調査の実施
昨年度より、北京、上海、広州、成都、三亜(海南島南部)の計 5 都市で 1 住戸ずつ計 5
戸の通年計測を行った5。また各住戸においては、分電盤からエアコンに配電されている回
路をすべて計測し、すべてのエアコンの使用実態の把握に努めた6。
今年度は、これらの通年計測結果を整理し、各都市におけるエアコンの使用状況を詳細
に分析した。各都市のエアコンの稼働状況は以下の
表 の通りである。
3
詳細については「中日間インバータルームエアコン測定一致性に関する段階的報告(中国標準化研究院)」
を参照にこと。
5 詳細については「平成 22 年度中国における省エネエアコン等の家電機器の普及のための省エネ基準・ラ
ベリング制度構築支援業務(有限会社 FOECEP)」を参照のこと。
6 ただし三亜においては、分電盤に 1 回路しかなく、主寝室のエアコンの計測しか実施できなかったが、
三亜においては、居間にエアコンが設置されておらず、エアコンの利用はほぼ主寝室に限定されている状
況である。
3
表 1-1 スモールメタリングによる各都市のエアコン稼働状況
都市名
北京
エアコン稼働状況の概観
冷房期間は6月中旬から開始されるが9月中旬ころから気温の
低下とともに、エアコンの稼動は停止し、冷房期間は比較的短
い。また夏季のエアコンの稼動はほぼ寝室である。北京は11
月上旬から地域暖房になるが、この地域暖房導入直前の寒い
時期でもエアコンは暖房に使用されていない。これは春先も同
様であり、地域熱供給により冬の室温が高く、また冷暖房兼用
エアコンであるにも関わらず、エアコンによる暖房が行われて
いない。
各住戸のエアコンの稼働状況
一定速の寝室のエアコンが夜9時から翌朝8時近くまで運転されている。また、この日
は居間のエアコンが夕方5時半から8時近くまで運転されている。この日は最高気温が
33℃を超えており、夕方になっても居間室温は、30℃近かった。なお、早くから寝室の
エアコンが稼動しているのは、本家庭が大学教授の家なので、寝室が書斎としても使
われていると思われる。また、寝室のエアコンは各寝室に1台づつ3台のエアコン があ
るが、このうち2台が同時稼動している時間帯がある。また一定速のため、特に3時以
降は稼動が低下している。なお、この時の外気温は23℃まで低下しているが、居間の
室温は27℃台であり、まだかなり暑い。
夏期休日(2011年7月31日)では、夏日中に居間のエアコンがごく短時間稼動している
が、稼働時間は短い。これに対して主寝室のエアコンは午後1時過ぎから夕方までと夜
7時以降翌朝まで稼動している。夏期平日(2011年7月27日)では、日中のエアコン稼
動はなく、夕方4時から翌朝まで主寝室エアコンが稼動し、居間のエアコンは夕方5時
半から1時間強稼動しているのみである。
冬期休日(2011年1月16日)では、居間のエアコンは午前10時半から1時間強、夕方6
時から4時間程度稼動している。この日の外気温は夕方は0℃近い寒い日であった。主
寝室のエアコンは朝7時過ぎから2時間近く稼動しているが、それ以外は稼動していな
い。冬期平日(2011年1月17日)では居間のエアコンのみ、夕方5時から3時間程度稼
動している。
夏期休日では居間のエアコンは夕方6 時から1時間程度運転されているのみである
が、その他のエアコンは日中、夕方、夜間も使用されている 。なお、日中運転されてい
るエアコンは主寝室のエアコンで、夜間は主寝室、その他の寝室のエアコンが両方稼
動している。
冬期の休日では、その他のエアコン(寝室)が夜9時以降稼動し始めている。なお、こ
の日の外気温は夜で10℃くらい、居間の室温は14℃くらいでそう寒い日ではなかった。
居間のエアコンはまったく暖房に利用されていない
夏季平日の場合、居間のエアコンは夕方6時から1時間程度のみ運転されている。そ
の他エアコンは、昼、夕方、夜と比較的よく運転されているが、昼、夕方の運転はいず
れも1時間程度の短い運転で止められ、夜10時過ぎからの運転のみが長時間の運転
になっている。
冬期平日のデータでは居間のエアコンのみが、夕方6時から4時間程度運転されてお
り、その他のエアコンは運転していない。なお、この日の日中の居間室温は10℃程度
であったが、居間のエアコンが稼動している時間の居間室温は24℃くらいとかなり暖か
めであった。
上海
夏季には、居間、寝室ともエアコンがかなり稼動しているが、居
間のエアコンに比較すると寝室のエアコンの方が稼動は大分
多い。また冷房用のエアコンの稼動は6月下旬から9月まで
で、11月から3月までは暖房用に稼動されているが、冷房に比
べて暖房へのエアコン稼動は少ない。居間の日平均室温が
15℃以下の期間は11月から3 月まで続くが、居間のエアコン
が暖房用に稼動しているのは1月、2月と短い期間である。
広州
エアコンは上海より長く用いれら、5月初めから稼動し始め、10
月中旬まで使用されている。ほとんどの冷房用のエアコン利
用は寝室であり、居間での利用はごく限定されている 。暖房用
にエアコンが稼動しているのは、1月のごく短い期間のみで、こ
れもほぼ寝室に限られている。
成都
冷房用の稼動は5月からと早めに稼動を開始し、9月下旬まで
稼動している。寝室主体にエアコン が使用されている。なお、
11月下旬に計測器の不調が発生し、計測が再開されたのは2
月であったため、暖房用のエアコンの稼働状況は十分把握で
きなかったが、2月と3月の気温の低い時に若干ではあるがエ
アコンが暖房に使用されている(グラフは欠測期間を表示して
いないので注意されたい)。
三亜
真冬のごく一時期を除き、ほぼ慢性的に高いレベルでエアコン
が使用されている。日平均の外気温、室温もほぼ年間を通して
三亜のエアコンは冷房専用の一定速機であり、日中、夜間帯とも使用されているが、こ
20℃を上回っており、基本的に暖房のニーズはなく、計測対象
の日は夜間のon-off運転は見られない。なお、三亜は乳幼児がいるため、室温設定は
も冷房専用機である。なお、この三亜のエアコン稼動が高水準
低く、日中の外気温が32℃以上でも、室温は25℃前後まで冷やされている。
なのは、乳幼児が主寝室で両親とともに寝起きしていることも
原因と思われる。
こうした通年による計測によって、以下の様な中国のエアコン使用状況が認識された。

冷房用途の主体は寝室における夜間利用であり、日中の冷房においても居間よりは寝
室(個室)の冷房がよく利用されている。

居間の冷房は休日に若干利用される程度で、稼働時間も短い。これは日中の寝室につ
いても同様である。

暖房の利用頻度は低く、特に夜間の暖房は殆ど行われていない。また、1回の利用機
会当たりの暖房時間は短い。
4
これらの調査結果は、後述する第3回 APF 研究会において報告され、新たな基準策定の
基礎的参照資料となっている。さらに、調査結果から、今後の基準策定に考慮すべき事項
は以下のような諸点であると示唆された。

現状では寝室の夜間冷房が主体で、居間の空調は少なく、居間と寝室では空調の利用
が大きく異なる。このため、居間用の大型空調機と寝室用の小型空調機で、負荷、外
気条件が大きく異なる。

将来を考慮すると、暖房への空調機利用が大きく増加する可能性がある。

また世代間で空調に対する考え方が異なるが、この変化も考慮する必要がある
1.4.
中国変速エアコンの試験基準に関する中国担当部局(CNIS)との研究会実施(APF
研究会)
インバータ技術の特性や効率性について理解を得るとともに、今後の基準改定での取り
扱いについて検討・共有化を図るため、中国の担当部局(CNIS)と定期的に APF 研究会
を実施している。この研究会では、日本の政策状況の共有化や経験・知見に基づくインプ
ットやアドバイスも含めて中国におけるエアコンの基準策定プロセスへの支援を実施して
いる。特に、日本で採用されている APF 基準の有効性が重要な課題となり、結果的に冷暖
兼用エアコンの効率規格に関しては、APF 基準を選定するとの流れが形成され、2012 年中
の規格案完成に向けた作業を継続している。
まず、昨年度開催された第1回及び第2回 APF 研究会における議論の概要を踏まえ、今
年度開催された第3回及び第4回 APF の研究会における議論、そして結論を示す。
①
第 1 回インバータエアコン効率国家基準技術研究会
2010 年 10 月 12 日、インバータエアコン効率基準修正にかかる第 1 回技術研究会並びに
エアコン効率基準及び省エネ評価方法 APF 研究会は、計 50 名が参加し、広西省の桂林で
開催された。
作業グループはインバータエアコン効率基準の修正及び APF 効率評価システムの実行可
能性に対し、測定条件、測定運転状況、暖房、効率指標、待機エネルギー消費、一定速エ
アコン及びインバータエアコン評価システムの一体化等重要な問題点をめぐり活発な議論
が行われた。
②
第 2 回インバータエアコン効率国家基準技術研究会
2011 年 3 月 8 日、インバータエアコン効率国家基準第 2 回技術研究会並びにエアコン効
率基準及び省エネ評価方法 APF 研究会は、計 46 名の参加を得て上海市で開催され、以下
のテーマにつき議論を行った。
1. エアコンの冷暖房時間曲線及び効率評価指標
2. インバータエアコン最小能力の測定誤差における試験所測定及び CQC(china quality
5
certificate)実験室能力検証計画の連携の仕方
3. インバータエアコンの効率基準修正ドラフトの検討
4. 次のステップの作業配分とスケジュールの検討
上記議題に関する報告の後、参加者で議論・質疑応答が行われ、作業グループにおける
次のステップでの作業内容を提起し、具体的な作業計画を明確にした。
③
第 3 回インバータエアコン効率国家基準技術研究会
2011 年 11 月 8 日、インバータエアコン効率国家基準第 3 回技術研究会並びにエアコン
効率基準及び省エネ評価方法 APF 研究会は計 39 名の参加者を得て済南市で開催された。
今年度最初の APF 研究会では、以下のテーマについて議論された7。
1. インバータエアコン効率測定方法
2. エアコンの冷房/暖房時間曲線
3. APF 効率評価指標
4. 次のステップの作業配分及びスケジュール
これらについて、会議参加者による報告及び提案のうち、測定方法、冷暖房運行時間曲
線及び評価指標のデータという 3 つの重要テーマをめぐって活発な議論が行われた。その
結果、下記の問題点について合意に達した。
1. 冷房運転の測定方法について、会議参加者は様々な方案及び実施可能性を分析し、最終
的に ISO 5151(修正版)の基本構想を鑑み、冷房量が 7,100W(含む)以上のエアコ
ンに対し、3 点法評価を使うべきであるとの認識で一致した。
2. 冷房運行曲線について、引続き GB21455-2008 に規定された 1136 時間の運行曲線を採
用する。暖房運行曲線について、研究結果による 322 時間の運行時間と冷房運行時の
1136 時間を比較したところ、ウェートが小さいことから、研究結果及び消費者行動の
今後の変化の趨勢により、322 時間暖房運行曲線に対しウェートを拡大することに同意
した
3. 効率指標について、上述の確定した測定方法及び時間曲線に基づき更なる論証及び検証
を行う必要がある。
4. 効率指標の表示方法について、冷房専用機は季節エネルギー効率比(Seasonal Energy
Efficiency Ratio;SEER)のみを表示し、評価を行う。ヒートポンプ機は APF を表示
し、評価を行う。
今回の APF の研究会で抽出された課題について、作業担当者が選任され、次回の APF
の研究会までに結果を CNIS に報告することとされた。
7
詳細については「インバータエアコン効率国家標準第三回技術研究会議事録(CNIS)」を参照のこと。
6
④
第 4 回インバータエアコン効率国家基準技術研究会
2012 年 3 月 9 日、インバータエアコン効率国家標準第 4 回技術研究会並びにエアコン効
率基準及び省エネ評価方法 APF 研究会は、計 49 名の参加を得て杭州で開催された8。
今回の会議のテーマは下記のとおりである。
1. インバータエアコン効率等級の区分案に対する論証
2. 新基準におけるインバータエアコン効率の試験測定精度及び検証問題
3. インバータエアコン省エネ設計の可能性、技術及びマーケット推移
4. 基準ドラフトの提出、その他
会議参加者は基準ドラフトをめぐって下記の問題点について議論し、合意に達した。
1. HCFCs の淘汰につれて、業界では多種類の冷媒が共存する状況になるが、冷媒の代替
は効率の犠牲を対価にすることができないため、現在ではこれに対し分類や制限をかけ
ないようにする。
2. 本基準はダクト機を含まない。その他基準において考慮する又は新しい製品基準の範囲
内で規範することができる。
3. 製品のエネルギー効率を高める技術手段及び省エネ改善策の可能性について論証し、相
応するコストの増加について分析を行った。
4. 技術及びコスト論証のうえ、現在市場にある製品の効率状況、国際関連基準レベル等要
素を結びつけ、効率基準の効率指標を完備させ、効率等級を 3 等級に分け、各スペック
範囲、各等級の効率指標を確定した。
5. 待機電力が 3W以下であることを確定し、強制的条項とした。
6. 電気ヒーターによる加熱方式は国家が奨励する省エネ方式でないことを考慮し、基準で
は電気ヒーターの使用を制限すべきである。電気ヒーター装置をエアコンの暖房量加熱
源とする製品は省エネ製品としないことを規定した。
7. 基準文書について詳細にわたって議論し、修正を行い、基準のドラフトを完成させた。
これらの議論により、新たなエアコンのエネルギー効率基準のドラフトが策定された。
ただし、今回の APF の研究会で積み残しとなった部分、及び不明確な部分については、1
ヶ月程度で意見を集約することとなった。
これらの意見の集約後、申請に 1 ヶ月、公示 3 ヶ月から 6 ヶ月という日程で、2012 年末
に確定する予定である。公布まで半年、早ければ来年 3~6 月に施行になる。
1.5.
中国消費者の省エネエアコン購買行動に関する調査研究及び影響要素の分析
中国において高効率なエアコンを普及させるためには中国におけるエアコンの購買行動
8
詳細については「インバータエアコン効率国家標準第四回技術研究会議事録(CNIS)」を参照のこと。
7
を把握することが重要である。消費者へのアンケートを通じて障壁を特定する「中国消費
者の省エネエアコン購買行動に関する調査研究及び影響要素の分析」を、APF 研究会にお
ける議論に供することを目的として CNIS にて実施した。
また、同調査は、障壁を乗り越えるための消費者教育への示唆を得ることも合わせてそ
の目的としている9。
①
調査背景
中国では、第 12 次 5 カ年計画では、GDP 当たりエネルギー消費量をさらに 20%低減す
ることを目標としている。この目標の達成のためには、家計収入の増加と、これに伴う生
活の質の向上によって、増大する家庭でのエネルギー消費量をエネルギー効率の改善を通
じて減少させることが重要となる。そこで、本研究では、一線都市(大都市)、二線都市(中
都市)、三線都市(小都市)における、エアコンの購買行動について調査を行うことで、家
庭におけるエアコンのエネルギー効率改善による省エネルギーの可能性について分析を行
った。これによって、高効率機器を中国において普及させるための障壁の特定、消費者教
育への示唆を得られることが期待される。
②
調査概要
本調査では、中国の空調熱工学ゾーニングの視点から北京、上海、広州の 3 都市をモデ
ル都市に選定し、高効率空調機単独に関するアンケートを作成し、消費者の高効率空調機
購買の行動習慣の調査、分析を行った。
図 1-1 中国の気候区分
9
詳細については「中国消費者の省エネエアコン購買行動に関する調査研究及び影響要素の分析(中国標
準化研究院)」を参照のこと。
8
調査に際して、以下の内容を含むアンケート用紙を作成し、最終的に 1190 人から回答を
得た。
1. 消費者のエアコン製品情報のルート
2. 消費者のエアコン製品への認識と認知
3. エアコン購入場所
4. 消費者がエアコン購入時に主に考慮する要素
5. 消費者のエアコン購入決定に影響を与える要素
③
調査結果
アンケート調査によって明らかとなった中国におけるエアコンの購買行動は以下のとお
りである。
1. 購買原因
全体の購買原因の分布状況から見て、「部屋にエアコンが無いため買う必要がある」と
いう状況が 31%ともっと大きな割合を占めている。次いで、
「既存のエアコンが老朽化し
た或いは使用不可能となったため買い替えの必要がある」が 28%、
「新居への入居計画の
ため」が 22%、「内装リフォームの計画のため」が 19%を占める。
2. 購買意向
 冷暖房タイプ
消費者が購入を考えるエアコンのタイプの内、冷暖房タイプが 93%を占め、残り
は冷房のみである。一線、二線都市の購買タイプの内、一線都市では冷暖房タイプ
の購入を考えている割合が比較的高い。
 インバータ、ノンインバーター

インバーター・ノンインバーターに対する理解状況は、比較的知っている
のは 47%、一方で聞いたことはあるがよくわからないというのは 52%と、
半数以上の人が聞いたことはあるが、理解していないという事があきらか
になった。

インバータエアコンを購入しない原因は、高価格、問題が起きやすい、エ
ネルギー消費量が高い、長所がわからないなどが挙げられた。

予算
調査対象者家庭における購入予算の全体平均は 4,428 元。

容量
購入したいエアコンの能力は、1 馬力が 7%、1.5 馬力が 41%、2 馬力が 32%、2.5
馬力が 10%、3 馬力が 6%を占め、4%がどのくらいの容量のエアコンを購入するか
9
よくわからないとなっている。
3. 考慮要素
各地区及びサンプル都市の考慮要素は全体の趨勢とほぼ一致しており、一番考慮する
のがブランド、次に製品の品質及び安定性、続いて節電及びエネルギー効率であり、次
に価格とアフターサービス、その次に冷却効果と静音効果等となる。
4. 情報理解のルート
消費者の購入時の情報の主な出所はインターネットと家電売り場、友人の推薦、テレ
ビ宣伝紹介である。一線、二線都市の趨勢は基本的に全体と同じである。
5. 政策関連状況
80%を超える消費者が、積極的に国の関連する優遇補助金政策を理解している。政策
を理解するルートの主なものは、インターネット媒体、テレビニュース、家電売り場等
である。一線、二線都市及びサンプル都市の状況は基本的に同じである。以旧換新(旧
型製品の下取りと新型製品購入補助)、家電下郷(家電製品農村普及)、恵民工程(省エ
ネ製品販売促進策)の熟知度が高く、他はあまり差がない。
④
消費者教育のための提案
これらの一連の調査結果から示唆される中国における高効率エアコンを普及させるため
に必要な消費者教育への示唆は以下のとおりである。
1. 現在の中国消費者の特徴を十分に理解する
中国の学校教育の状況、国民の素質向上のプロセス、社会生活の現状、伝統文化の影響等
の要素に基づいて分析すると、中国消費者の異なる個性と特徴が見える。これは消費者教
育でもっとも重要に考えるべき問題である。
1)
省エネ環境保護意識の普遍的な向上。
2)
都市間、肉体労働者と頭脳労働者間に存在する知識と科学技術の素養の大きな差。
3)
省エネ環境保護意識と実際の行動指導の関連の欠落。消費者は省エネ環境保護が必
要な事を知っているが、どのように実現するかがわからず、自分がどのようにしなけ
ればならないかは更にわからない。
4)
購買行動が外的要素から受ける影響は大きい。
5)
実物資産に対する関心度が高く、製品の価格が購買行動の重要な要素となることが
往々にしてある。
6)
調査を受けた時、無意識に理想の行動を自分の実際の行動と本当の考えの代替とす
る表現欲が出てくる。
10
7)
望子成龍(子どもの出世を願う)の伝統的観念から子どもの進歩に対し関心があり
支持している。
2. 合理的に消費者教育の目標を確定する
現在の中国消費者の特徴に焦点を合わせ、消費者教育の目標は高効率製品の広い商業化
に対する市場の阻害の除去であるはずである。以下のものを含む:
1)
知識と行動指導の阻害を除去し、科学の普及の角度から消費者に製品の省エネ概念、
エネルギー効率レベルの持つ意味、高効率製品の見分け、使用過程での省エネ及びそ
の他消費者を広く当惑させ或いは容易に消費者の誤解を生む問題を理解させる。
2)
価格の阻害を取り除く。消費者に高効率製品の優位性及び消費者のメリットを理解
させ、例えると「現在一食減らしても、将来数食多く食べられる」といったような意
識を形成する。
3)
消費者の購買行動に対する子どもの実際の影響力を向上させる。
3. 制定する消費者教育の内容の選択
消費者教育の目標に基づき、消費者教育の内容に以下のいくつかの方面を含めることを
提案する:
1)
インバータエアコンの優勢と特徴
2)
エアコンのエネルギー効率及びエネルギー効率レベルの基本知識
3)
高効率空調機の省エネ方法と消費者のメリット
4)
高効率空調機の見分け
5)
関連する国の政策
6)
オゾン層保護及び HCFCs 冷媒及び代替冷媒技術の基礎知識
7)
その他
4. 多様化した消費者教育方法の採用
消費者教育には平面媒体、業界専門媒体、パフレット/チラシ、教育ディスクなどの各種
媒体の採用が可能で、商業広告と公益広告を結びつけた方法で展開する。
消費者教育は一定の時間に集中し、企業、国家、業界機構等各方面の力を合わせ共同で進
める。
有効に経費を利用するため、消費者教育活動を実施する前に、詳細で系統だった計画の
制定が必要である。また定期的に効果の評価を行い、評価は業界機構或いは専門機構が行
なう。
5. 教育は多層の消費者に対して行う必要がある
一般的に、消費者教育はすべての消費者に対して全面的に展開しなければならない。し
11
かし、活動のコストダウンのため、それぞれの消費者に違う方法を取り、且つ教育の重点
を設置すべきである。
1.6.
事業成果と今後の方向性
本事業における中国向けの支援は、すでに述べたように、中国の国家試験機関に対する
試験所支援、APF 研究会における日本の経験、専門家の知見の提供による基準策定支援で
ある。これらについて、過去数年間の継続的な支援により、本年度は支援の成果が形とな
って表れつつあるといえる。
まず、試験所支援については、JATL から専門家を中国の国家試験機関である CVC、
CHEARI に派遣し、それらの試験設備、試験体制などを視察した。これまでの RRT 等の日
本からの協力により、中国側の試験能力は向上されつつあるものの、試験する際の疑問点
を中国側で実験や測定を行い解決しようとする姿勢が見られず、日本側に質問し回答を求
めている姿勢が見られたのは今後の課題である。これは、中国側の試験員が、自分たちの
試験設備の仕様、特性を正確に理解していないことに起因すると日本の専門家は指摘して
いる。エアコンの能力を正確に測定するために、今後も引き続き、意見交換や相互訪問、
RRT などを通した支援が必要であるといえる。
次に、APF 研究会については、2012 年 3 月に開催された第 4 回の会合において、次期効
率基準のドラフトが採択されたことで、エアコンの基準策定支援については、1 つのマイル
ストーンを超えたと言える。しかし、APF の研究会の議論において積み残しとなった議題
もあり、将来のエアコンの基準改訂まで議論を継続するか否か戦略的な判断が必要であろ
う。
また、中国側から示された今後の APF 研究会の役割・形態は以下に示す事項である。

製品別 APF 研究会(作業部会)は、APF の導入を進めるための先進的な研究会と
する。

製品別 APF 研究会(作業部会)は、1. 基準策定のための研究、2. 市場調査(実
使用環境調査、消費者意識)を実施する。

現在の APF 研究会は、各製品の研究会を指導する立場の委員会とし、製品別 APF
研究会のアウトプットを CNIS が発行する白書に入れていきたいと考えている。
この新しい枠組みにおける APF 研究会での中国側の優先順位を以下のように示している。
1. ヒートポンプ式給湯器
2. 冷蔵庫
3. マルチエアコン(ビルマルチ)
したがって、APF 研究会についても、今後のエアコンの基準改訂に限らず、その他の製
品に拡大する可能性があるため、継続的な支援の方向性について戦略的な判断が必要であ
12
ろう。
本事業では、これまで基準策定支援と試験所支援、及び関連する研究を通じて中国にお
ける S&L 政策へ支援を行なってきた。これらを通して、中国に限らず、途上国においてこ
うした支援を行う際には、基準策定支援と同時に性能を正確に評価するための試験所支援
をパッケージとして行うのが有効である。
13
2
ベトナム
2.1.
①
事業背景
ベトナムの政策動向
ベトナムでは近年、年率 6~8%の経済成長を背景に急速に家電需要が伸びており、エア
コン市場は 2006 年以降年 30%の成長を見せている。経済成長に伴うエネルギー需要増加
を抑制するため、2006 年、ベトナム政府は初の国家省エネルギー戦略である「エネルギー
節約と効率に関する国家目標プログラム(Vietnam National Targeted Program in Energy
Saving and Energy Efficiency:VNEEP)」を制定した。同プログラムでは、総エネルギー
消費量を 2006 年~2010 年にかけて BAU(Business As Usual)比で 3~5%削減、2011
~2015 年には 5~8%削減することや、法体系の整備、エネルギー管理・報告制度の開発、
省エネルギー基準やラベリング制度の創設等を重点目標とした。そして、同プログラムの
一環として 2010 年 6 月には「エネルギー使用の合理化に関する法律(The Law on Energy
Efficiency and Conservation)」が国会で承認され、2011 年 1 月から施行された。これを踏
まえベトナム産業貿易省(Ministry of Industry and Trade、以下 MOIT)の省エネルギー
室(Energy Efficiency and Conservation Office)は、「エネルギー消費の表示ラベルの貼
付及び最低エネルギー消費効率基準適用の対象となる交通手段、設備の目録及びその実施
過程に関する規定(List of Mandatory labeling equipment, MEPS and Roadmap、以下ロ
ードマップと略)を 2011 年 9 月に公布し、11 月から施行している。また、12 月には省エ
ネ機器の政府調達に関する政令「国有企業が購入する高効率機器の目録(List of energy
efficiency equipment that are purchases by state-owned enterprises)」も策定するなど、
着々と政策開発を進めている。ロードマップに定められた、各機器ことの政策スケジュー
ルは表 2-1 のとおりである。
14
表 2-1 対象品目と実施過程
表示ラベル義務化
MEPS※3 義務化
・直管形蛍光灯
2013 年 1 月 1 日以降※
2014 年 1 月 1 日以降※4
・コンパクト形蛍光灯
2
分類
対象品目
家庭用品
・蛍光灯用安定器
(磁気式/電子式)
・空調機
・冷蔵庫
・洗濯機
・炊飯器
・扇風機
・テレビ
事務用
・コピー機
/業務用設備
・コンピューターディス
任意実施を奨励
2015 年 1 月 1 日以降※4
プレイ
・印刷機
・業務用冷蔵庫
2014 年 1 月 1 日以降※
2
工業用設備
交通手段
・変圧器
2013 年 1 月 1 日以降※
・電気モーター
2
・乗用車(7 人乗り以下) 2015 年 1 月 1 日以降※
※1
その他
2015 年 1 月 1 日以降※4
2
白熱電球(60W 以上)
-
2013 年 1 月 1 日以降※5
※1 乗用車にはバイクを含む
※2 義務化以前のラベル貼り付けは任意実施を奨励
※3 MEPS:最低エネルギー消費効率基準(Minimum Energy Performance Standard)
※4 基準値未満の設備の輸入及び生産を禁止
※5 全ての製品の輸入、生産及び流通を禁止
出所)住環境計画研究所(2012)10
②
ベトナムの冷蔵庫とエアコンのエネルギー性能測定試験所の現状
2006 年の国家目標プログラムの策定以来、省エネルギー室は MEPS とエネルギーラベル
制度の導入を試みてきたが、MEPS 制度実施の根拠法となる省エネルギー法の承認が後れ
たことや実施のための政策インフラが乏しかったことから実施までには至らなかった。そ
こで、省エネルギー室は、国民や対象となる企業にエネルギーラベル制度に馴染んでもら
うため、まず、任意のラベル制度を導入しようと試みた。しかし、この任意ラベル制度を
10「ベトナムにおける省エネラベルデータベースの開発と運用に関する調査報告書」
15
実施するにあたっては、エネルギー消費性能を測定し、それに見合ったラベルを付着しな
ければならないが、とりわけ冷蔵庫とエアコンに対しては製品をテストできる試験所の整
備が遅れていたため、事実上この任意制度も導入することは困難であった。
これまでベトナムには冷蔵庫とエアコンに対する国家レベルのエネルギー効率性能を測
定できる試験所がなかったため、任意ラベル制度の導入に合わせ試験所の整備を進めて来
た。2008 年、ベトナム政府はハノイにエアコンと冷蔵庫のエネルギー効率を測定するため
の試験所を建設し、入札を通して設備を購入した。また、ホーチミンでもエネルギー効率
性能測定試験所の計画が立ち上がっており、こちらは収益性等の検討が進められた。さら
に、様々な民間レベルの試験所(大学の試験所や既存の安全性テスト試験所など)でも国
家指定試験所として申請しようとする動きが見られた。
一方、国家予算によって建設・試験設備導入が進められたハノイの試験所(Institute of
Mechanical Energy & Mines;IMEM)においては、当初、試験設備は米国から導入した
ものの、省エネ性能測定に関する専門的知見と専門スタッフが欠如している状態であった。
もし、適正な測定結果の質が確保されない状態で、ラベル制度等が導入されれば、省エネ
性能が正しく評価されず、かえって市場が混乱することになる。
このような状況からベトナム政府は、試験関連では国際支援を受けていないことやベト
ナムの家電市場において日系製品のシェアが高いことなどから、ベトナムの試験所の整備、
試験技術の向上、専門的技術者の育成に関する日本からの支援を要請したのである。そこ
で、2009 年から 2010 年にかけて、試験マニュアルの策定、ベトナムへの専門家派遣、そ
して、日本での実試験研修等により、試験所運用のノウハウの移転及び試験員の訓練を行
い、2011 年 1 月に同試験所は冷蔵庫及びエアコンの省エネ性能試験のための国家指定試験
所として認定され、運営を開始するに至った。
2.2.
①
冷蔵庫・エアコンの省エネルギー性能試験所支援
事業概要
試験所整備は、第一に、ベトナムの省エネルギー制度の導入と今後の市場での抜き打ち
検査などモニタリングの実施に必要不可欠である。第二に、試験所によって試験結果が異
なったり、試験結果の信頼性が低かったりすると、製造業者による製品のエネルギー効率
性能向上の正当な努力が損なわれる恐れがあり、日系メーカーにおいてもその影響は大き
いと思われる。
日本の製造メーカーは、東南アジア・中国に生産拠点を置き、これらの中国・アジア地
域に製品を供給しており、事業利益はこれらの中国・アジア地域が大きい比率を占めてい
る。このアジア地域で、日本のヒートポンプ技術、インバータ技術を展開するには、公正
な視点で、確立された技術による性能評価が必要であり、エアコンの省エネルギー性能の
評価・試験機関において、指導的・リーダー的役割を持つことが重要である。
そこで、本事業は、ベトナム政府と協力し、ベトナム唯一の冷蔵庫・エアコンの試験所
16
である IEME の能力向上を支援し、その専門試験員を育成することを目指した。2009 年度
の支援活動は、ベトナムの試験員が初歩的知識も持っていなかったため、試験マニュアル
の作成や基礎的教育及び設備に対するアドバイスを中心に行なった。一方、2010 年度の支
援活動は実試験訓練など、技術を身に付けるための研修が中心となった。具体的には(1)
ベトナムへの短期専門家派遣、(2)日本における試験研修実施、(3)基準試験機の提供
の 3 つの活動を行われた。日本からの支援の結果、同試験所は 2011 年 1 月冷蔵庫とエアコ
ンの省エネ性能測定のための国家指定試験所として運用を開始するに至った。
しかし、運用は開始したものの、設備の問題や試験員の経験不足などにより、試験結果が
安定しないことがしばしば起こるなど課題が残っており、これらに対する対応が求められ
ていた。そこで、2011 年 12 月に試験専門家を派遣し、問題点への対応や今までの指導の
フォローアップを行なった。
○
現地指導の概要11

インバータ機の周波数固定について:インバータエアコンの省エネ性能試験時には
周波数を固定する必要があるが、ベトナムで販売されているインバータエアコンは
その仕様が決まっていない(今まで、測定の必要がなかったため)。そのため、IEME
試験所は周波数を固定できず、インバータ機を測定できない状況にあったのである。
→

各メーカーに問い合わせるよう指導
試験実施状況の確認:試験結果が安定しないことの原因究明のため、試験開始前に
壁温度測定機器の確認を行ったがその結果、一部温度が測定出来ていないものがあ
り、ロガー接続部及びセンサー部の確認を実施した。→
壁付近の空気温度測定を
確実にするための固定方法について実習を実施。
②
○
事業結果と今後の課題
専門試験員の育成(新人研修と中堅試験員の育成)
ハノイ試験所においては、試験運転を開始したものの、日本の製造メーカー及び他の試
験所からも認められる性能試験を実行するためには、より多く試験回数を重ねる必要があ
ると日本の専門家は指摘している。今後も日本の専門家との定期的交流を行なうことが望
ましい。
○
適切な設備投資の必要性
試験所スタッフの能力は確実に向上している一方、設備の問題はまだ解決できていない。
日本の専門家の指摘によると、設備購入判断の際、購入側に適切な知識がなかったため、
11詳細については「中国・ベトナム等における空調機の省エネ性能評価試験機関の能力向上に関する支援
活動への協力(日本冷凍空調研究所)」を参照のこと。
17
必要な設備を見極めることができず、結果、現在の設備では不安定な側面があると言う。
この不安要素は試験を重ねることである程度は改善できるが、より正確で、安定的な試験
結果を得るためには、設備の改善が求められる。
さらに、現在のハノイ試験所のみではラベル制度の強制化や MEPS の導入で生じると予
想される試験需要に対応できないのは明確である。そこで、MOIT は国外の試験所との相
互認証体制の構築検討している。今後、試験所ことの試験の質に差がないよう同相互認証
体制の整備をきちんと行なうことが重要であり、これに対して日本がリーダシップを発揮
することは、アジア地域におけるハーモナイゼーションの先行的取り組みとしても有意義
であると思われる。
○
今後に向けたインプリケーション
3 年にわたるベトナムの試験所支援を通して、ベトナムで専門的試験員が育成されただけ
ではなく、試験マニュアルや研修体制、試験機提供といった研修・訓練のための一連のプ
ログラムや日本の受け入れ体制の整備も整ってきた。このモデルケースが設備や試験方法
において似たような問題・課題を抱えているアジア地域に示す示唆は大きい。しかし、今後
支援対象国や地域を拡大する上では、まだ、ソフトとハードの両面からの日本での受け入
れ体制整備をさらに充実化する必要がある。
途上国における制度構築支援のためのもう一つの課題は、必要とされる日本人専門家を
派遣できるよう、業界とのネットワークを構築していくことである。途上国からの要請の
場合、冷蔵庫・エアコンから温水器や炊飯器にまで多様な製品に対するアドバイスが求めら
れる。それらの要請に対して、一人の専門家や一つの団体がすべてに答えることは不可能
であるため、各業界団体、専門家とネットワークを構築し、柔軟に対応していくことが必
要である。
2.3.
①
省エネ効率基準及びラベル政策構築支援
事業概要
MOIT 省エネ室は 2013 年にエネルギー効率ラベルの強制化及び 2014 年の MEPS の実施
を計画しているが、2011 年には一部品目に関して任意ラベル制度を先行的に実施する予定
であった。そのため、2011 年初頭から変圧器、冷蔵庫、エアコンの任意ラベル制度の実施
を各界にアナウンスしたが、参加申請者がいない状況であった12。一方、ハノイの IEME
試験所においては持ち込まれたエアコン、冷蔵庫等の製品を試験したが(日系メーカーを
含む)、エネルギー効率が低い(3 級)結果となっていた13。これでは、企業が任意ラベル
に参加するメリットはなく、参加を促すのは難しい状況であった。また、規制側の MOIT
2011 年 10 月 MOIT ヒアリング
ベトナムのエネルギー効率ラベルは 5 等級(星の数で表す)になっており、もっとも効率のいいものが
星 5 つをつける。
12
13
18
省エネ室は全ての機種・モデルが把握できない、製品種類が多いなど、輸入製品に関する
ラベル手続きで困難が生じていることを明らかにした。
そこで、2011 年の事業として、(1)高効率機器に対する既存データの調査、(2)市場
評価・分析のための必要データの抽出、に焦点をあてることとした。さらに、省エネ室は、
2011 年にラベル制度の強制化に合わせて、データベースの開発を進めており、データベー
ス開発に関して日本の知見を移転してほしいと要請した。これを踏まえ、日本におけるラ
ベル政策関連データベースの運用に関する調査を行うと同時に、2012 年東京で開催予定の
シンポにあわせて、ベトナムのデータベース政策担当者が来日した際に、関連機関へヒア
リングを行うこととした。
②
ベトナムラベル政策概要
ベトナムのラベル制度の申請から認証までの流れを図 2-2 に示している。製造業者は指定
試験所から得られる試験結果を基に技術報告書を作成し、他の必要書類と共に MOIT に提
出する。MOIT による審査の結果、省エネルギー基準に満たす製品であることが認められ
た場合、省エネルギー製品としての認証書が発行される。なお、認証書の有効期間は 3 年
間である。基準改定により証書が失効した場合は、再度認証を得なければならない。
企業は省エネルギー製品認証書が付与された後に、MOIT 指定の施設においてラベルを
印刷し、製品への貼付を行う。
⑤認証に必要な書類の提出
・登録用書類
・技術報告書
・試験結果
①製品サンプルの提供
製造業者
試験場
②試験の実施
③試験結果
④技術報告書の作成
・設計図面
・製品仕様
・品質基準、及び省エ
ネルギー基準適合の
報告
・品質管理システム
認証や他の技術的特
徴の報告
MOIT
⑦認証書の発行
⑥書類の審査
図 2-1 ベトナムのラベル申請手続きの流れ
出所)住環境計画研究所(2012)14
③
ベトナムのデータベースの整備状況
省エネルギー基準作成及び省エネ基準とラベル政策導入の効果を評価するためには、ベ
トナム市場で販売される機器の情報収集及びデータベース作成が必要である。しかし、ベ
14住環境計画研究所
ベトナムにおける省エネラベルデータベースの開発と運用に関する調査報告書
2012 年 3 月
19
トナムは国家主導の調査を行なっておらず、また、関連業界も整備されていないため、関
連情報を把握していなかった。ベトナム政府は現在 MOIT 省エネ室主導の下、MOST
(Ministry of Science and Technology)管轄の IPSI(Industrial Policy and Strategy of
Institute)においてデータベースのソフト作成を進めている。なお、データベースのフレー
ムワークの完成は 2012 年 6 月に予定されている。今後 MOIT は、ラベル制度参加企業が
機器の型番や、電力消費量、性能を登録するよう義務付ける予定であり、2013 年の強制ラ
ベル制度の導入により、機器のエネルギー効率に関する情報が収集されることが期待され
ている。
一方、データベースに虚偽の報告が行なわれる場合に対するチェック体制や罰則につい
てはまだ整備されていないなど、今後その運用に対する細かい対処が必要と思われる。ま
た、同データベースが整備されたとしても、高効率機器の普及率などは把握できないので、
これらについては別途の情報収集体制が必要である。
ベトナムの高効率機器の普及状況について、ベトナム政府はデータを保有していないが、
間接的情報源として日本など先進国主導で行なわれた調査を活用することも考えられる。
同既存の調査により大まかな市場の様子は把握できる一方、MOIT 省エネ室は外国主導で
実施した情報やデータを省エネ基準及びラベル等級値の策定・改定の根拠とすることにつ
いては難色を示している。
(N=18,319)
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
0~100W
100~120W
120~140W
140~160W
160~180W
図 2-2 冷蔵庫の消費電力分布
出所)(財)省エネルギーセンター「ベトナムにおける冷蔵庫・エアコン・給湯器に関する市場実態調査」
(2010 年 3 月)
20
(N=18,319)
50%
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
図 2-3 冷蔵庫の価格分布
出所)(財)省エネルギーセンター「ベトナムにおける冷蔵庫・エアコン・給湯器に関する市場実態調査」
(2010 年 3 月)
(N=23,533)
50%
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
図 2-4 エアコンの冷房能力分布
出所)(財)省エネルギーセンター「ベトナムにおける冷蔵庫・エアコン・給湯器に関する市場実態調査」
(2010 年 3 月)
21
(N=23,533)
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
2.6~2.8
2.8~3.0
3.0~3.2
3.2~3.4
3.4~3.6
3.6~3.8
3.8~4.0
4.0~
図 2-5 エアコンの COP 分布
出所)(財)省エネルギーセンター「ベトナムにおける冷蔵庫・エアコン・給湯器に関する市場実態調査」
(2010 年 3 月)
(N=23,533)
25%
20%
15%
10%
5%
0%
図 2-6 エアコンの価格分布
出所)(財)省エネルギーセンター「ベトナムにおける冷蔵庫・エアコン・給湯器に関する市場実態調査」
(2010 年 3 月)
22
表 2-2 家電製品の普及状況(2007 年公表)
普及率
2004 年ストック台数
2004 年フロー台数
(台/世帯)
(台)
(台)
180L
0.27
4,300,000
573,330
12,000BTU/hr
0.07
1,100,000
146,670
5.25kW
-
1,000,000
116,670
12W(loss)
-
33,600,000
4,264,620
扇風機
70W
1.77
28,300,000
5,457,860
蛍光灯
15W
-
20,000,000
7,666,670
炊飯器
650W
0.66
9,200,000
1,380,000
平均的な仕様
冷蔵庫
エアコン
電気モーター
バラスト
出所)BRESL and GEF project document 2007
④
事業成果・今後の課題
○
省エネポテンシャルの評価(データベースの策定・運用)
省エネルギー基準及びラベル等級値の作成には、ベトナム市場で販売されている製品の
効率に関する情報収集とデータベース構築が必要不可欠である。また、省エネルギー基準
及びラベル制度導入によるエネルギー消費量削減のポテンシャルを評価する上でも、この
ようなデータは重要である。
一方、ベトナムには、国家レベルの統計は存在せず、関連業界も整備されていないこと
から、関連情報がなかったが、日本等の支援による部分的データが存在していたことから、
現在欠損しているデータ項目の明確化のため、既存の高効率機器の普及に関する情報を整
理・収集した。さらに、MOIT がラベルのデータベースの開発を行なっていたことから、
ベトナムの事例を日本等の先進諸国と比較分析することで、今後の改善点を明らかにした。
まず、データ収集を効率的に行うためには、情報提供の義務化が必要である。日本では
義務化せずにデータベースの運用を開始したため、開始当時はデータベースに全ての製品
情報が含まれていなかった。一方、ベトナムは当初から義務的制度の導入を検討している
が、虚偽報告のチェックや監督に対する取り組みが決められていないため、データベース
の信頼性を確保するための措置の工夫が必要である。
今後は、ベトナムにおいてデータベースの開発から実際の運用が軌道にのるまでの間に、
日本及び他の先進国での経験をもとに、収集するデータの内容、収集方法などに関する支
援を行なうことが必要と考えられる。
○
省エネ基準策定支援について
省エネルギー基準策定支援に関して今後ベトナムで必要とされる活動は1)市場調査、
2)技術分析、3)受容性分析が考えられる。
23
1)市場調査
販売されている製品のタイプ、出力、エネルギー消費、効率、価格等の分布状況などの
データは、販売事業者あるいは製造事業者から情報収集する体制を整備することが望まし
いが、ベトナムにおいては、この体制が未整備であるため、市場調査を行う必要が生じて
いる。市場調査の計画については、ベトナム政府と調整を行い、その結果については、ベ
トナム政府の他、基準の関係者と情報及び問題意識を共有するための、報告会あるいはワ
ークショップを開催することも必要と考えられる。
2)技術分析
省エネルギー基準を作成する際には、①将来の技術進展の可能性の評価、②高効率化し
た際の価格に与える影響を分析する必要がある。日本では製造業者が分析を行なうが、ベ
トナム等の国内製造業者が未整備の国では、第三者機関での評価が必要と考えられる。日
本製品の技術分析については、日本の業界団体の専門家チームで支援を行うことが可能で
ある。一方で、分析の主体を日本製品に限定することなく、ベトナムで販売されている主
要な製品を対象とすることが必要と考えられ、この場合の支援の範囲については、今後検
討する必要がある。
3)受容性分析
MEPS 導入によって省エネ性能の低い製品が排除されることにより、製品価格の上昇が予
測される。このような事態を想定し、消費者がどの程度の価格変化を受け入れることがで
きるか価格受容性の分析が必要である。分析の基となるデータの収集方法は、例えばアン
ケートによる支払意思額の調査などが考えられる。
とりわけ、ハノイ試験所に持ち込まれた製品のエネルギー効率水準が最高 3 等級である
ことから、市販製品の製品効率データを収集し、現在の基準値と比較を行うことで、現行
の基準値の妥当性を確認することが至急求められている。
○
ラベル制度構築支援について
現在ベトナムにおいてはラベルの認知度は非常に低く、2013 年から貼付の義務化が予定
されているが、義務化した場合においても全ての製品にラベルが貼付される保証はない。
今後、ベトナムにおいてはラベリング制度の運用・管理、また実施状況の確認には十分な
人員を配置すべきと考えられる。さらに、ラベル貼付促進及び虚偽報告の防止のため、市
場での買い上げ試験を含む定期的モニタリングを実施することが望ましい。
また、普及啓発は製造メーカー、小売店、消費者といった地域でのきめ細かい対応が求
められることから、日本における省エネ型製品普及促進優良店構築の経験の移転なども有
効と考えられる。
24
3
その他の国
本年度は、メールや海外での会議参加、ならびにシンポジウムの開催機会を活用しなが
ら、タイとインドネシアの政策担当者等との情報交換・協議を通じて、現状の取り組みの
レビューと今後の協力事業の可能性について検討を行った。
3.1.
タイ
タイでは現在、HEPS(High Energy Performance Standard)の構築に向けた作業が行
われている。
家電製品の省エネルギー基準としては MEPS
(Minimum Energy Performance
Standards;最低エネルギー効率基準)がすでに施行され、ラベリングとともに実施されて
いるが、より効率の良い製品・技術の普及拡大を実現する目的で、自主的な高効率製品に
向けたラベリングを行うというものである。これまでの協力事業では、タイのエネルギー
省における省エネルギー政策担当部署の DEDE(Department of Alternative Energy
Development and Efficiency)と、DEDE の要請を受けて基準案の作業を行うチェンマイ
大学との間で、特に家庭用エアコンの APF 基準選定の可能性について、日本の基準情報の
提供や日本の専門家との情報交換機会を提供してきた。今年度の情報交換では、現在はエ
アコンの HEPS 基準策定の最終段階にあることを確認するとともに、引き続きチェンマイ
大学を中心に進められている基準の具体化の中で、日本からの技術的な知見の提供が必要
であることが認識された。そのため、DEDE の担当者を通じてチェンマイ大学における作
業での課題を確認するとともに、内容に応じた日本からの情報インプットを行っていくこ
とで同意している。また、タイにおけるエアコンの性能評価を行う試験所の能力向上が引
き続き重要な課題として認識されていることから、当該分野における今後の協力事業の可
能性についても継続的に情報交換を行っていくことの重要性が認められた。DEDE 担当者
とのネットワーキングを生かした活動として、1 月 16~17 日にインドネシアのバンコクで
開催された ASEAN 省エネ基準調和会合に向けた情報交換機会の設定を行った。同会議は、
ASEAN での家電製品の省エネルギー基準の調和を目指して設立されたものであり、日本も
オブザーバー参加が要請されていたが、特にエアコンと冷蔵庫に関する日本の効率基準普
及という戦略の観点から重要な会議として認識されている。当該会議をリードしているの
が DEDE であることから、当該事業で協力関係にある担当者を通じて、日本の専門家との
情報共有化を会議前後に設定し、より有効な会議での討議を実現するための働きかけが行
われた。今後も、当該会議のフォローアップが必要であることから、当該事業により構築
されたネットワークの活用を通じて関与していくことが求められている。
一方、タイの Greenhouse Gas Management Organization (TGO)から、日本のトップラ
ンナー制度を参照しながら、今後タイでの同様の制度導入検討を行いたい、その関連で日
本の専門家との情報交換を行うような関係の構築要請がもたらされた。特に TGO が求めて
いる今後の検討課題として、以下のポイントが示されている。
25
①
トップランナー制度における製品選択のあり方
②
トップランナー制度、ならびにラベリング制度における試験・検証制度
③
日本のトップランナー制度の効果と他国での類似政策との比較
④
製造業者にとってのメリット
⑤
制度執行における政府の製造業者に対するアプローチの仕方(支援を含む)
⑥
社会的プロモーションの実際
⑦
消費者が効率的製品の購入を行うためのインセンティブ(政策)
⑧
制度の実効性を高めるための取り組みのあり方(これまでの制度実績に基づいた
評価)
⑨
トップランナー制度を行うために必要となる情報とその収集方法
本要請への対応は、昨年度のバンコクにおける洪水による影響で、協議の進め方等に関
してはその影響が終息した後に再開することとしている。途上国における家電製品の省エ
ネルギー基準は MEPS が採用されており、さらなる効率改善に向けてはトップランナー制
度の検討は有効となる。そのため、引き続き相手国のニーズを確認しつつ、具体的な対話
プロセスの構築と日本の専門家とのネットワーク化を図ることが有効であると思われる。
3.2.
インドネシア
インドネシアでは、省エネルギー関連法に基づいた家電製品の効率基準策定とラベリン
グ制度の検討が行われているものの、未だ実施には至っていない状況にある。そうした中
で、今後の事業化の可能性について検討を行った。
1 月にジャカルタで開催された ASEAN 省エネ基準調和会合に、本事業に参画している日
本の専門家が参加する機会を捉え、これまでに開催したシンポジウムを通じて情報交換ネ
ットワークを構築したインドネシアの担当者に依頼して、ジャカルタでの試験設備の現状
を視察した。現在存在する試験所はいわば「ハンドメイド」の性能しか有しておらず、将
来的な基準・ラベリング政策を執行するには対応が困難であることが確認された。そのた
め、試験設備の検討段階からの協力の必要性が確認された。
他方で、2 月に開催したシンポジウムへの招聘機会を捉え、インドネシアの政策に関連す
る専門家に対して今後の事業化の可能性についての提案を要請し、シンポジウムのスケジ
ュールの合間で協議を行った。インドネシア側から提案のあった可能性のある事業は、以
下の4点である。
①
効率基準施行を視野に入れた試験所の構築に関連する事業
②
LED やヒートポンプなどの省エネルギー技術開発に関する事業
③
ISO 50001 の導入に関する Management System の検討支援
④
都市のエネルギーマネージメントと最適化に関する研究への支援
日本の専門家も交えた協議では、本事業の内容との適合性からは①の試験所に関する協
26
力事業が現実的ではないかとの認識が得られた。試験所に関しては、担当部署による政府
予算化の働きかけが行われている。3 月段階での一般予算、更には 10 月以降の補正予算で
の予算案計上を意図した検討が進められている。日本の専門家からは、予算化の検討にあ
たって、試験所の仕様検討段階から双方の協議を行う必要性が指摘された。本事業におけ
るベトナムでの経験から、試験所運営のキャパシティービルディングを実施するには、試
験所の仕様に問題があると有効な試験環境の構築が難しくなる。そのため、試験所の設計
段階から日本の試験所仕様とできるだけ近づけることで、その後の能力向上プロセスを円
滑に進めるとともに、信頼性の高い能力を備えた試験プロセスの構築が期待される。
協議では、日本の専門家の指摘の有効性が共有されるとともに、引き続き予算化プロセ
スをフォローアップし、適切な支援活動の検討を行っていくことを申し合わせることがで
きた。
3.3.
今後の事業化の方向性
タイ、インドネシア両国における事業化の検討経過から、改めて各国の実情にあわせた
協力事業を、シンポジウムの場・機会も含めた継続的なコミュニケーションを行うことの
重要性が再認識された。それぞれの国の動向は千差万別であり、日本の専門性と事業の効
果を精査しながら、個別の状況を判断していく必要がある。一方で、ASEAN などの場でア
ジア地域における省エネルギー基準と関連する事項の整合化(ハーモナイゼーション)の
動きが顕在化してきている。そこでは、本事業を通じて構築してきた関係者の参加が認め
られ、これまでの事業結果や知見が、バイの関係のみならずマルチの取り組みへの活用可
能性も散見される。そのため、これまでの事業成果の他国への展開を考慮しながら、今後
の事業内容や支援対象国を検討することも有効である。継続的なシンポジウム等を通じた
ネットワークの拡大や関係強化が、こうした検討における重要なツールとしての役割を果
たすことが期待される。
27
4
基準及びラベリングに係る多国間枠組下でのイニシアティブとの連携
4.1.
①
SEADイニシアティブ
事業概要
SEAD(Super Efficient Appliances Deployment)はクリーンエネルギー大臣会合(Clean
Energy Ministerial: CEM)下のイニシアティブであり、政府と民間部門の参加により、世
界市場での高エネルギー効率機器の普及拡大を目指すものである。具体的目標として、以
下の 3 つが掲げられている。

インセンティブ、調達、表彰及び R&D 投資等の協力措置によって超効率機器の市場
の省エネ水準の上限レベルを上げる (raise the efficiency ceiling)

最低エネルギー効率水準(MEPS)等、国又は地域の政策によって超効率機器の省エネ
水準の下限レベルを上げる(raise the efficiency floor)

技術支援等を通じた基礎の強化(strengthen the efficiency foundation)
なお、SEAD については、2010 年 1 月にパリで開催された第 2 回国際省エネルギー協力
パ ー ト ナ ー シ ッ プ (International Partnership on Energy Efficiency Cooperation ;
IPEEC)の執行委員会(Executive Committee; ExCo)で承認されており、同年 7 月の米国
ワシントン D.C.における第 1 回クリーンエネルギー大臣会合でも提唱された。
SEAD の活動資金は、米国が 2011 年から 5 年間で合計 2,500 万ドルを拠出、これ以外に
英国・スウェーデンも資金を拠出している。
SEAD は、図 4-1 に示す組織構成から成る。具体的には、リーダーシップカウンシル
(Leadership Council)を形成し、これにより活動全体を統括、ワーキンググループの活動に
適宜助言を与え CEM への報告を行う。また、運営委員会(Steering Committee)を政府関係
者で形成する。なお、運営エージェント(Operating Agent)として CLASP が事務局作業を
行う。
これらの元に 5 つのワーキンググループが形成されている。

Working Group 1 : クロスカッティング技術分析

Working Group 2 : グローバル省エネルギー表彰

Working Group 3 : インセンティンブ

Working Group 4 : 基準・認証調和

Working Group 5 : 調達
ワーキンググループにより参加する国は異なるものの、SEAD イニシアティブには CEM
加盟国のうち、オーストラリア、ブラジル、カナダ、欧州委員会、フランス、ドイツ、イ
ンド、日本、韓国、メキシコ、ロシア、南アフリカ、スウェーデン、UAE、英国、米国が
加盟している。また、2011 年 11 月に中国がオブザーバーとなった。
28
図 4-1
図 4-2
②
SEAD の組織図
SEAD ならびに CEM 下の国際協力フレームワークの参加国
各ワーキンググループの活動内容
各ワーキンググループの活動内容は以下の通りである。
29
SEAD ExCo等
WG2
省エネ大
賞
テレビ
コンピューター
モーター
テレビの省エネ大賞付与に向け、各製造業者から応募を受け付け
る。今後は、モーター・コンピュータの大賞実施に向け準備中。
加盟国
事務局
Sub-WG
ネットワーク
スタンバイ
WG4
基準・認
証
テレビ
各製品に関してサブワーキンググループを設置、情報
共有に努める。
LED
コンピューター
モーター
業務用冷蔵庫
変圧器
WG1&W
G4 調査
機器の効率向上による省エネポテンシャルを分析。
調達
図 4-3
SEAD ワーキンググループの構成及び参加国と作業内容
1. クロスカッティング技術分析・R&D 調整 WG(WG 1)
オールトラリア、カナダ、インド、スウェーデン、英国、米国が参加し、機器のエネルギ
ー効率改善機会の分析や、テレビ、ルームエアコン及び天井ファンのエネルギー効率改善
ポテンシャル評価、ならびにエネルギー効率の共通分析プラットフォームの作成、また国
別エネルギー効率基準分析方法の目録(inventory)の作成を行っている。
2.
グローバル省エネ表彰 WG(WG 2)
オーストラリア、カナダ、インド、スウェーデン、米国、日本が加盟。消費者への製品の
エネルギー効率情報付与を目的とし、エネルギー効率の優れた製品への表彰を実施する。
第 1 回はフラットパネルテレビが選考対象。第 2 回以降は電気モータ、コンピュータ(デ
ィスプレイ)を対象とすることを検討中である。第 1 回目のフラットパネルテレビについ
ては、北米、欧州、オーストラリア、インドの 4 つの地域で選考実施し、それぞれの地域
で大賞製品を決定。その後、グローバル大賞にノミネートする。2012 年 9 月には欧州の省
エネ大賞製品が決定し、それ以外の地域は 2012 年 10 月に大賞製品が決定される。
3.インセンティブ WG(WG 3)
インド、カナダ、米国が参加。ユーティリティ(utility)による機器の効率向上に向けた
需要側の管理(DSM:Demand Side Management)の技術支援を行う。参加国間でインド
30
のユーティリティ事業体の幹部と規制当局との意見交換を実施予定している。
4.基準・試験手続調和 WG(WG 4)
本ワーキンググループには、オーストラリア、カナダ、欧州委員会、ドイツ、インド、日
本、韓国、メキシコ、南アフリカ、スウェーデン、英国、米国が参加。中国はオブザーバ
ーとして参加する。
活動内容としては、製品別(①業務用冷蔵庫、②コンピューター、③配電変圧器、④LE
D、⑤モーター、⑥ネットワーク待機電力、⑦テレビ)7つの製品にサブワーキンググル
ープを形成し、省エネルギー基準の底上げを目的として、各サブワーキンググループで基
準や試験手続き等についての各国での情報を共有している。以下は各サブワーキンググル
ープでの活動進捗をまとめる。

業務用冷蔵庫:2 か月に 1 度電話会議を開催している。当初、サブワーキンググルー
プとして、7 つの業務用冷蔵庫関連製品を分析・議論の対象とするとの提案が議長か
らあったものの、各メンバー国での省エネ基準導入の違いや業務用冷蔵庫使用状況の
相違がある。こうした状況を反映し、(1) Commercial service cabinet, (2) Commercial
version of domestic refrigerators and freezers, (3) Retail display cabinets,
(4)Vending machine の 4 テーマを取り組むことに合意している。

コンピューター:2 か月に 1 度電話会議を開催。コンピューターとして省エネルギー
基準・試験の対象となっている製品の定義に関して、各国の相違を明確化する目的で、
CLASP が調査を行っている。また、現在 2012 年の作業プログラムとして、以下の 3
テーマが提案されている(①各国のコンピューターS&L 政策情報の収集、②各国の試
験方法調和に関する調査、③各国の効率基準調和に関する調査)。

配電変圧器:サブワーキンググループとして取り組むトピックスについて議論をおこ
なった結果、①各国の基準・試験方法ならびに②国際的省エネ基準と試験方法の調和
がプロジェクトとして今後実施される。また、素材制約と変圧器の効率に関する調査
も進められる予定である。

LED:本サブワーキングに関しては 2011 年内では議長が決定しておらず、電話会議
等の作業が行われていない。2012 年以降、インドが議長となり作業を進める計画で
ある。また、IEA4E で進められる LED 作業との連携する可能性についても指摘され
ている。

電気モーター:2 ヶ月に 1 度電話会議を開催している。今後サブワーキンググループ
31
として情報共有するトピックス(Motor systems, emerging technologies, expanding
coverage, engagement with other international initiatives, compliance and
enforcement)に関しての議論が行われている。また各国におけるモーターの省エネ
基準制度についての情報を電話会議の場で共有している。

ネットワーク待機電力:サブワーキンググループとしての活動内容に関して加盟国の
間で議論を進めている。政府関係者が参加する本サブワーキンググループ以外にも、
業界代表者がメンバーとなり、技術的な情報共有を行う目的で、サブワーキンググル
ープの活動に対して補完的な役割を担うテクニカルグループが形成されている。活動
としては、2011 年内に 6-8 回電話会議を開催し、7 プロジェクトが提案され、その
うち 3 プロジェクト(①standardized definitions for network standby, ②televisions
and network standby, ③real world usage of network connected products)が高優
先順位として位置付けられた。今後はテレビ Collaboration Group と協力する。また、
IEA4E との連携の一環として、2012 年 5 月にストックホルムで開催される IEA4E
会合の際、ネットワーク待機電力サブワーキンググループの会合を行う旨提案されて
いる。

テレビ:2 か月に 1 度電話会議を開催し、各メンバー国での TV 基準・試験に関する
進捗を紹介している。原則として参加国それぞれが順番に、1 度電話会議の場で30
分程度、基準・試験及び製品トレンドに関する進捗状況を報告する。2011 年 1 月に
はラスベガスで会合を開催し、豪州より効率や技術開発動向の報告がされ、EU から
はテレビのエコデザインに関する報告があった。なお、テレビサブワーキンググルー
プで実施するプロジェクトとして 3 つのテーマが提案されている(①3D-TV のエネル
ギー効率の測定方法の研究、②市場に流通する TV の輝度調査、③市場に流通する
3D-TV に関する調査)。また、同会合では参加者から、SEAD と IEC に関する調整が
議論された。すなわち、SEAD では基準や測定方法の調和を目的として目指している
が、各国では IEC を参照した基準・測定方法を採用しており両者の調整をいかに行う
かが課題であるとの指摘があった。今後もこの点について議論が継続される。
③
事業結果と今後の課題
SEAD としての具体的作業は 2011 年に開始されたため、1年を経て大きな成果が上げら
れたわけではない。他方、米国が今後 5 年間でコミットした資金の規模から、最低でもこ
の間作業を継続させ、ある程度の成果を期間内に達成するものが見込まれる。具体的には、
現状の作業内容から加盟国内での情報共有および省エネ表彰に代表される啓発活動が継続
されるものと期待される。しかしながら、本イニシアティブ形成の 3 つの主要目的(1)raise
the efficiency ceiling, (2) raise the efficiency floor, (3) strengthen the energy efficiency
32
foundation を達成するための、省エネルギー基準形成や政策形成に結びつけるメカニズム
が現状では存在しない点が懸念される。すなわち、情報共有に留まるのではなく、政策・
基準形成への働きかけを行うことが重要である。
また、議論に積極的に関わっているのは、リーダー国である米国以外ではオーストラリ
ア、英国の専門家に限定される場合が多い。現状では参加国への具体的メリットが見えて
こないことが背景にある。
省エネ表彰作業についても、民間の参加を募ってはいるものの、現状では民間企業にと
って、参加するメリットが明らかでない点が改善事項として指摘されている。表彰制度の
経験を積む中で、単に成果をメディア等で発表する以外にも、大臣レベルの会合から末端
は小売事業者を取り込み加盟国で本表彰の結果を周知する努力を行い、認知度を高めるこ
とが重要となる。
SEAD 作業については、IEA4E 作業や APEC の省エネルギー専門家会合である EGEEC
(Expert Group on Energy Efficiency and Conservation)の活動内容と加盟国は異なるもの
の重複する点が多くある。また、SEAD の資金が APEC Energy Working Group の活動の
一つである CAST (Cooperative Assessment of Standards and Testing)にも拠出されてい
ることから、参加国の中で重複を避け、付加価値を創造できるよう、異なるイニシアティ
ブ間の作業内でのシナジー効果を上げてゆくことが重要であろう。
④
日本の今後の対応
SEAD の作業は特定製品の省エネルギー表彰や、基準・試験手法の調和に向けた加盟国
間での情報共有ならびに分析、そして省エネルギーポテンシャルの推計など、多様な作業
項目を網羅している。これに加え、基準・試験手法の調和に関する WG4 のサブワーキング
グループレベルでは、7 製品を対象としている上に、照明、エアコン(ヒートポンプ)、洗
濯機・乾燥機、家庭用冷蔵庫、そして家庭用給湯器へと更なる対象製品の拡大も議論され
ている。
日本としては、多岐にわたる本イニシアティブでの作業事項について、参加国と情報共
有をおこなうことで、製造業の輸出拡大に向けた一助となる旨認識し、中長期的な便益を
創出するよう優先事項を決定、戦略的なプラットフォームとして活用することが望まれる。
それにあたり、IEA4E、APEC EGEEC といった国際枠組み以外にも ASEAN での作業と
のバランスを考慮し、取り組むことが必要となる。
なお、日本の参加が優先されうる SEAD の作業部会としては、以下が考えられる。
SEAD イニシアティブの中で、最も参加国の関与が大きく、作業も進展している WG2
の省エネ表彰については、テレビに始まり、今後も対象製品を電気モーター及びコンピュ
ーターのディスプレイへと具体的作業を継続するための議論が行われている。これら製品
に関して日本の製造業輸出拡大ポテンシャルを内包していることから、業界団体とも意見
を調整しながら本 WG への関与を継続させることは重要であろう。また、本 WG に参加す
33
る際、製造業者への参加を促すと共に、SEAD 事務局に対しても、省エネ表彰の取り組み
が消費者への啓蒙として意義深いものとなるよう、大臣級会合での表彰セレモニーの実施
や、小売事業者への各地域での実施など、日本として働きかけを行う必要がある。
WG4 サブワーキンググループでは、基礎的な情報を収集、国際比較によって知見を集積
する目的で、省エネ表彰で対象となる製品(テレビ、電気モーター、コンピューター)に
関するサブワーキンググループへの参加を軸に、今後新たに議論が開始される LED のサブ
ワーキンググループなど、日本製品の輸出機会開拓の観点から積極的に参加することも望
まれる。
また、省エネルギーポテンシャルの推計を行っている WG1 のクロスカッティング技術分
析に関しては、日本として、適宜データならびに情報提供を行い、グローバルな意味で高
効率製品の普及を促し、エネルギーセキュリティと地球環境問題への対応の一助となるよ
う、日本としても貢献してゆくことが望まれる。
34
4.2.
①
国際エネルギー機関(IEA)4E
事業概要
IEA4E (Efficient Electrical End-Use Equipment)は国際エネルギー機関(IEA)が推
進している国際協力協定の一つで、最終需要部門において電力を消費する製品の高効率化
を推進するプロジェクトである。高効率電気製品の使用・普及拡大はエネルギーの安定供
給を高め、かつ温室効果ガス排出量を削減し、短期的には最も費用対効果の高い方法であ
る。IEA は、エネルギー効率を改善すればエネルギー関連の二酸化炭素排出量を 2030 年ま
でに 47%低減することが可能であると推計している。
組織は、理事会(ExCo)と「Mapping & Benchmarking」、
「待機電力」
、
「電動モーター
システム」、
「固体素子照明」の 4 つの分科会(Annex)から構成されている。
日本からは、経済産業省資源エネルギー庁の主導で、NEDO が正式メンバーとして理事
会に関与しているが、関連産業団体も 4 つの分科会へオブザーバー参加している。
表 4-1
IEA4E の参加国
期間
2008~2014 年
参加国
13 カ国(オーストラリア, オーストリア, カナダ, デンマーク, フランス, 日
本, 韓国,オランダ, 南アフリカ, スウェーデン, スイス, 英国および米国)
EU はオブザーバー
今後参加の可能性がある国:
ブラジル, 中国, ドイツ, インド, メキシコ, ロシア等
組織
理事会(議長:オランダ、副議長:オーストラリア、英国、運営委員長:オー
ストラリア)
Mapping & Benchmarking(主導国:英国)
待機電力(主導国:オーストラリア)
電動モーターシステム(主導国:スイス)
固体素子照明(主導国:フランス、米国、日本)
35
図 4-4
②
IEA4E の組織図
各分科会(Annex)の活動内容
(1)Mapping & Benchmarking(M&B)
マッピング: 関連諸国・地域における、ある特定の最終的な電力使用機器(あるいは電力
消費製品)に関し、エネルギー効率性能の概略的な指標を与え、当該分野における製品の
エネルギー効率に関する主要な政策を簡単に要約する。
ベンチマーキング:市場に投入されている電気製品のエネルギー利用効率の平均値および
最大値を、関連諸国・地域間で比較し、市場間の差異を分析する。また、例えば世界規模
で見た将来の更なるエネルギー利用効率の改善の可能性を明らかにすることによって、最
優良事例やそこに至るまでの教訓を共有する。IEA/4E 実施協定への全加盟国が、本分科会
に参加しなければならない。
(2)固体素子(LED)照明
固体素子照明分科会は国際標準化を推進する組織ではなく、活動の骨子は加盟国政府間
の合意形成を図り、関心がある利害関係者への推進方針を示すことにある。
LED の評価基準の統一化、ラウンドロビンテストの実施、試験プロトコルの提案を目標
としている。日本も分科会に参加している。
(3)電動モーターシステム
全世界の電力使用量の 40%を占める、と言われる電動モーターシステムのエネルギー利
36
用効率を大幅に向上させるための活動を実施している。具体的には、①これまでの最善実
施例(Best Practice)を広める、②新技術を導入する、③積極的に政策的な支援を図る(具
体的には IE3 規格の高効率電動モーターを世界に広める)、⑤電動モーターに関する情報
共有の場として「世界モーター・サミット」を開催している。なお、本分科会には日本は
参加していない。
(4)待機時消費電力
電気製品の低電力モード時(待機時)電力消費量がどこまで削減されたか、どのように
変化してきたかを観測し、公表することを目的としている。待機時消費電力の政策立案支
援や“1W 以下”に向けた運動を進めている。また、近年の重要課題であるネットワーク機
器の待機時消費電力の削減にも取り組む。なお、本分科会には日本は参加していない。
③
事業結果と今後の課題
○
対象機器の拡大(M&B 分科会)
M&B 分科会では、現在エアコン、デスクトップ PC、食器洗洗浄機、家庭用冷蔵庫/冷凍
庫、家庭用照明器具、衣類乾燥機、ノート PC、ショーケース、テレビ、自動販売機、洗濯
機を対象としている(表 )が、今後、モーター、変圧器、CFL(電球型蛍光灯)、待機時
消費電力(ネットワーク機器の待機時消費電力を含む)が追加対象の候補として挙がって
いる。また、スマートメーターも加える動きも見られる。対象機器を拡大することに対す
る我が国のメリットを見極める必要がある。
○
省エネ政策の定量的評価(M&B 分科会)
日本としては、対象機器を拡大することには反対し、現在の対象機器に対して政策イン
パクト分析(省エネ政策の定量的評価)の深堀をしていくべきとの意見を強調し続けてき
たが、対象機器の拡大は規定路線となっており、この動きは今後も変わらないと考えられ
る。
ただし、M&B 分科会では政策インパクト分析の必要性を認識しており、特に将来の省エ
ネポテンシャル分析の充実が必要とされている。政策インパクトの分析には、分析用モデ
ルが必要であり、M&B 分科会では、デンマークの EL-Model の採用を検討している。本モ
デルは、フロー・ストックモデル及び簡易な計量モデル(家電製品の普及台数推計のため)
を使用しており、(財)日本エネルギー経済研究所が所有するモデルと同様の構造であること
を確認した。従って、省エネ政策の定量的評価に関して、IEA4E に対して日本からの新た
な貢献は難しいものと考えられる。
ただし、CEMで実施されているSEADでは、米国LBNLのBUENASモデルを使用して省
エネ政策の定量評価を行う予定であるが、本モデルとの連携、データの共有化は今後の課
題である。
37
表 4-2
X
USA
United
Kingdom
Taiwan
Switzerland
X
Rep. of
Korea
X
France
X
EU
X
Denmark
China
X
Canada
Austria
Australia
Air Conditioners
M&B Annex 対象機器と分析状況
X
Desktop PCs
Dishwashers
Domestic Cold Appliances
X
X
X
X
X
X
X
Domestic Lighting
X
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Laundry Dryers
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Notebook Computers
Retail Display Cabinets
Televisions
X
X
Vending machines
Washing Machines
X
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X
X
出所)IEA4E(http://mappingandbenchmarking.iea-4e.org/matrix)
○
データの提供(M&B 分科会)
M&B には、各機器のエネルギー消費効率に関する経年データが必要であり、表 に示す
ようにこれまで我が国からはデータの提供がなされていなかったが、2011 年 10 月のシド
ニー会合を経て、日本電気工業会(JEMA)が冷蔵庫に関するデータの提供を受諾し、2012
年 2 月に提供されたところである。
今後予測される他の機器に関するデータ提供に対する依頼に対して、どのように対処す
るかが課題となる。参加国が提出するデータは、GfK などの民間マーケットリサーチ会社
に依頼したカスタマイズデータが主であり公表されていない。一方、我が国には、公表さ
れている「省エネ性能カタログ」があり、製品タイプ別、容量別の製品ごとのエネルギー
消費効率データが整備されていることから、他国に比べてかなり充実していると考えられ
る。ただし、
「省エネ性能カタログ」は製品ごとのデータであることから平均値等に加工し
た上で提供することが望ましい。また、「省エネ性能カタログ」に収録されていないデータ
に関しては、関連業界団体の協力が必要となる。
なお、我が国のデータを提供する際には参加国のデータの提供を受けるなど、参加国内
でのデータシェアリングを要求することが重要と考えられる。
また、欧州や米国と日本の間には試験方法に大きな差異があることから、M&B 上でのエ
ネルギー消費効率の単純比較はできない。特に冷蔵庫に関しては、日本の JIS によるデー
タを、ISO 15502 ではその程度の値になるかの推定方法についての検討、同一評価が可能
かどうかの検討が今後課題となる。同一評価ができない場合には、M&B において我が国の
冷蔵庫を他国と比較する際には、効率の改善率を指標とする方が望ましい。
38
○
アウトリーチの強化
IEA4E における活動は、現在基本的には OECD 諸国に限定されている。家電製品を含む
電力消費機器の普及拡大は新興国や途上国で見られることから、IEA4E の活動をこれらの
国に拡大することが世界規模での高効率機器の普及促進につながると考えられる。
○
その他の分科会への関与
電動モーターは 2011 年 1 月にトップランナー制度の対象として新たに加えられたことか
ら、電動モーター分科会への積極的関与についても検討すべきである。また、今後分析対
象として検討されているスマートメーターに関する参加国の動向についても ExCO を通じ
て注視していく必要がある。
④
日本の今後の対応
IEA4E への日本の参加は引き続き必要である。ExCO に関しては継続的に情報収集・情
報提供を目的として参加する。
M&B 分科会に関しては、国内関連業界団体と密に連携を取り、現在対象となっている機
器の効率指標データをどのような形式で提供することが望ましいかを検討する。また、省
エネ政策の定量評価についても OA(Operating Agent)などと引き続き情報交換を行う。
固体素子(LED)照明分科会では LED の世界標準作りに向けた活動が行われているため、
日本の関連産業にとって望ましい方向性となるようなインプットが必要である。
電動モーターシステム分科会及び待機時消費電力分科会には現在日本は参加していない
ものの、電動モーターは国内において新たにトップランナー基準制度の対象となったこと、
待機時消費電力はネットワーク機器の普及拡大に伴い再注目されつつあることを考えると、
国内関連業界団体と連携し情報収集・情報提供を行うことが必要と考えられる。また、参
加の検討も考えられる。
IEA4E では活動内容が類似する SEAD の WG との連携も視野に入れていることから、国
内においても SEAD 参加主体・関連機関と密に連携することも肝要である。
39
5
バイ・マルチの枠組みを活用した基準・ラベリング政策支援戦略
5.1.
背景
現在、基準・ラベリング政策支援活動は、二国間及び多国間の枠組みの中で、複数のイ
ニシアティブが並行して実施されている状態にある。また、関連するステークホルダーも、
支援国と支援相手国の政府・業界団体、国際機関や Collaborative Labeling & Appliance
Standards Program (CLASP)等の支援機関等と多岐にわたっている。その中で、日本とし
て最も効果的に政策目標を達成するためには、どのような枠組みに参画し、どのような活
動を行うことが、もっとも効果的であるかを戦略的に考えることが必要である。
本章では、
(財)日本エネルギー経済研究所が 2006 年より本事業、及び関連事業を通じ
て、二国間・多国間の基準・ラベリング政策支援活動に携わった経験を基に、戦略策定の
ための視点を整理する。支援を実施する際の要素として
①計画策定、②事業目的の達成
可能性、③事業の発展性、④関係者間の協調、⑤国内関係者の参加、の視点から現状と課
題について、考察を加える。
5.2.
①
二国間支援の成果と示唆
中国
1.計画策定

現在の中国事業は、エアコンのエネルギー効率基準策定支援を行っている。中国にお
いて増加するエアコン需要、及びこれによる電力のピーク需要対策として、エアコン
のエネルギー効率基準を強化する方針に、本事業で実施している S&L 支援の内容が合
致したことが背景となっている。

現在では、エアコンの基準策定支援を通して業界団体の理解を得られたことで、比較
的スムーズに支援を実施している。しかし、当初は中国へ支援を実施することに対す
る理解をなかなか得ることができなかった。このように、支援を開始する際の業界団
体との調整が、計画を策定する際の大きな課題といえる。
2.事業目的の達成可能性

中国において、日本の基準に採用されている APF の概念が採用されることで、日本製
品の効率が高く評価されることが期待される。しかし、効率を測定する試験機関の結
果には偏差が大きく、これを小さくするための支援も同時に必要となる。

事業を遂行する上で、日本側にとっても必ずしもメリットになることばかりでなく、
相手国のニーズと日本側の思惑が合致しない場合もある。こうした場合の対処方針に
ついて、事前に国内関係者と情報を共有することが肝要である。

日本側が意図する情報等を相手側へインプットし、相手国関係者との議論の上で合意
を得る必要がある。短期的な成果を得ることを目的にせず、中長期的に取り組む必要
40
がある。
3.事業の発展性(関係持続性)

現在、エアコンに特化した事業となっているが、その他の製品に対する協力要請もあ
り、日本にとってメリットのある支援であるか吟味する必要がある。

また、こうした場合に、国内においてどのように検討を進めていくのか必ずしも明確
ではなく、新たな対象製品の専門家発掘も含めた、国内の支援体制構築が必要となる。
4.関係者間の協調

本事業は、中国事業に限らず、目的が日本にとってもメリットがあることを前提とし
ている。日本側のメリットが何であるかを特定し、それを事業内容に反映させるため
にも、日本側関係者間の情報共有を緊密にする必要がある。また、日本側専門家を活
用する上で、知見の共有を通して支援を戦略的に進めるための情報共有が重要である。

相手国関係者との緊密な連絡体制を構築するためにも、専門用語に対応可能な現地の
人材を発掘する必要がある。
5.国内関係者の参加

現在は個別の要請に対して、エアコン関係の業界団体、関連組織、専門家の協力を得
て事業を実施している。どのような形で協力を得るか、またどの程度の規模の協力が
必要かを模索しながら活動している。中国における継続的・本格的な基準策定支援を
実施するためには、持続可能な国内体制の整備が急務である。
②
ベトナム
1.計画策定

ベトナム事業は、ベトナムが省エネ基準とラベル政策の導入を進めている中、ベトナ
ムの政策スケジュール及び発展段階に合わせた支援計画を策定している。とりわけ、
エアコン及び冷蔵庫の制度導入が試験所及び熟練した試験人員の不足で遅れていたこ
とから、試験所支援を行なう一方、基準とラベルの策定に関する支援を行なっている。
2.事業目的の達成可能性

ベトナム事業の目的はエネルギー需要が急増しているベトナムでの省エネ機器普及に
より、ベトナムの経済発展及びエネルギー安全保障に貢献するとともに、日本の省エ
ネ機器の普及である。

そのためにはインバータ等の代表的省エネ技術の省エネ性能が正確に評価できる測定
41
基準の採択及び一定水準までの省エネ基準の引き上げが必要である。一方、ベトナム
は発展途上にあるため、あらゆる分野における専門知見が不足しており、限られた予
算の中で、優先順位も異なる。また、ベトナムの地理的特性上、周辺国との調和も基
準策定・実施における重要事項である。このような要因から、必ずしも日本の求める
水準には至らない場合もあるため、中長期的支援を視野に入れた段階的アプローチが
必要。
3.事業の発展性(関係持続性)

今までは試験所の能力育成支援を主に行ってきたが、省エネ法の実施(2011 年 1 月)
及び省エネ基準とラベルに関するロードマップが策定されたことから、冷蔵庫、エア
コンなどの基準及びラベル制度実施が本格化する。

二国間協力では、初期のネットワークの構築がもっとも困難で時間のかかる作業であ
る。その意味では多国間協力は、ネットワーク構築のための場として活用できる。一
方、多国間協力の場では各国の個別のニーズへの対応は難しい。
4.関係者間の協調

ベトナム事業の遂行において、日本から多くの事業体が似通ったテーマでワークショ
ップやヒアリングのために、ベトナム側に頻繁にアプローチしており、ベトナム側が
混乱する場合が多くあった。日本側関係者間の情報共有を緊密にすると同時に、関連
主体間の有機的な連携が必要。

また、ベトナムのように、様々な先進国の支援が集中している国においては、他支援
国や国際機関の活動の情報を把握する事が必要。
5.国内関係者の参加

多国間協力は、直接の売上の向上等には貢献しないため、民間の協力の意義を見出す
ことが困難。そのため、国として多国間協力の場への参加の意義を明確にし、参加の
際には集中と選択をすることが求められる。
③
その他(タイ、インドネシア、等)
1.計画策定

その他の国における取り組みは、協力事業内容が確定していない段階での「市場調査」
的性格を有するものである。そのため、対象国選択にあたっても、通常の事業遂行プ
ロセスで得られた情報や要請に準じた取り組みとなっている。

情報に接する機会をいかに有効に構築するかが重要な課題である。タイ、インドネシ
ア両国とのネットワークは本事業主催のシンポジウム、ならびに他の国内活動(世界
42
省エネルギー等ビジネス推進協議会のヒートポンプ・インバータWG、等)への参加
等を通じて実現してきている。
2.事業目的の達成可能性

相手国からの要請や協議を適宜実施してきているが、事業化の段階には至っていない。

相手国担当部署での認知が高まりつつあり、より具体的な要請内容に転換しつつある
点では、事業は進展しているとみることができる。

新たな国に向けた事業化の働きかけについては、どういったアプローチが有効である
かというアプリケーションの検討や導出には至っていない。
3.事業の発展性(関係持続性)

ASEAN における関連する会議等で、本事業を通じて連携を行って来た関係者間の調整
を行うことが出来たことは、今後の事業の発展性の面から重要な示唆である。

関係部署から他の分野での事業か可能性をどの様に導き出す(先方の部署内での照会
等)かが課題。中国の様に、カウンターパートである CNIS が事業の有効性を認識し、
自らが関わる他分野での事業化を要請する進展があるが、こうした先方の理解と行動
を促すアプローチが重要。
4.関係者間の協調

事業化が決定していない段階での関係者参加をどの様に実現するかが鍵となる。意識
面でのインセンティブ、関係者が所属する団体・組織での理解、予算措置のあり方な
どが主たる論点である。
5.国内関係者の参加

上記4と同様、事業化が決定していない段階での国内関係機関、団体、企業関係者の
参加をどの様に実現するかが重要である。特に関係者が所属する団体・組織での理解
をいかに高めるか、事業全体の理解と参加を得ながら、その中での発展的な展開とし
て協議しつつ進めていくことが重要である。

あわせて、予算措置の柔軟性を持たせて、相手国からの要請やニーズの発掘段階で機
動的にアプローチが可能な体制を構築する必要がある。
5.3.
①
多国間支援
SEAD
1.計画策定

ワーキンググループ、サブワーキンググループによって計画策定プロセスは異なるも
43
のの、参加国の意見を反映させるためのコミュニケーションを頻繁に取っている点は
評価できる。

他方、日本側の意見を適切に反映しているかについては、関係者間での連携が現状で
は低いため、充分ではないことが指摘できる。
2.事業目的の達成可能性

本イニシアティブ形成の 3 つの主要目的(1)raise the efficiency ceiling, (2) raise the
efficiency floor, (3) strengthen the energy efficiency foundation を達成するための、
省エネルギー基準形成や政策形成に結びつけるメカニズムが現状では存在しない点が
懸念される。

途上国支援など、政策に反映させるメカニズムの形成が必要である。本年より実施さ
れる研究プロジェクトの成果を得て、それらを政策ならびに基準形成に反映させるこ
とが期待される。
3.事業の発展性

SEAD 作業については、IEA4E 作業や APEC の省エネルギー専門家会合である
EGEEC (Expert Group on Energy Efficiency and Conservation)の活動内容と加盟国
は異なるものの重複する点が多くある。また、SEAD の資金が APEC EGEEC の活動
の一つである CAST (Cooperative Assessment of Standards and Testing)にも拠出さ
れている。

参加国の中で、付加価値を創造し、異なるイニシアティブ間の作業内でのシナジー効
果を上げてゆくことが期待される。
4.関係者間の協調

サブワーキングレベルでも、作業にモメンタムを維持するよう、2 ヶ月に 1 度から頻度
の高いものでは、1ヶ月に 1 度電話会議を行い、情報共有ならびに意見の取りまとめ
をおこなっている点は評価できる。

他方、プロジェクトテーマの選定に時間を割き、具体的な分析作業に取り掛かるまで
に時間を要しており、成果として上げられるものが 2011 年では省エネ表彰のルールブ
ック作成を除いては限定される。
5.国内関係者の参加

ワーキンググループならびにサブワーキンググループでの議論内容と資料の共有を行
っているが、今後は定期的に関係者会議を行い、意見交換ならびに優先課題について
は積極的に日本の政策担当者ならびに民間企業の意見を反映させるメカニズムを構築
し、戦略的プラットフォームとして活用することが望まれる。
44
IEA4E
②
1.計画策定

計画は執行委員会で決定されることから、日本のメリットに則したインプットが必要
である。その際、国内業界団体との密な連携・協力によって日本の方向性を決めるこ
とが重要である。
2.事業目的の達成可能性

IEA4E の活動は、ベストプラクティスの浸透、市場データの把握、世界基準の策定な
ど、本来の目的である高効率電力消費機器の世界的普及拡大にある程度則した活動内
容と言うことができる。

国内業界団体との継続的な連携によって、事業目的に則した貢献が日本側から提供で
きるかどうかの検討を実施していくことが重要である。
3.事業の発展性

幹事国の利害関係が絡み、本来の目的から逸脱し、日本にとって不利益とは言わない
ま で も あ ま り 便 益 を 受 け ら れ な い 事 業 内 容 も 見 受 け ら れ る ( Mapping &
Benchmarking Annex における対象機器の拡大など)。

IEA4E の成果を、低効率機器の普及が先行している途上国に如何に速やかに広報して
いくかが今後の課題である。そのためには、他の二国間・多国間事業との連携強化が
望まれる。
4.関係者間の協調

関係者が複数であること、各分科会の幹事国の影響が強いことなどから、必ずしも日
本がメリットを享受できる事業内容になるとは限らない。

一方、利害関係を日本と共にする関係者との関係強化には期待できる。
5.国内関係者の参加

IEA4E は政府間活動が基本であるが、関連業界団体の会議への参加や意見のインプッ
トが有効であることから、参加に対する支援が必要である。
5.4.
まとめ
二国間・多国間の支援は、支援形態の違いにより、計画策定、事業目的の決定・遂行、
事業の発展性、関係者間の協調、国内関係者の参加といった様々な側面において、異なる
現状に直面しているが、国内体制の確立が共通の課題であると言える。
二国間支援には、支援の相手が明確で、関係者が限定的であるため、きめ細かい対応が
45
可能だという利点がある。第一に、相手国のニーズや目的を把握することが容易である。
また、日本の専門性や、専門家確保の可能性、予算、日本にとってのメリットなどを勘案
しつつ、事業内容や事業計画の策定ができる。また、計画段階から、個別の事業活動の内
容について検討が可能であり、それに基づいて双方の役割分担を明確化できる。さらに、
相手国の関係者が規格策定担当者である場合には、新たな製品についての規格策定にかか
る支援ニーズに基づいた協力要請が早期に伝えられる可能性が高い。ただし、必ずしも日
本の事業者にとってメリットのない事業への支援要請である場合もあり、その際は関係持
続の意義との関係で、実施に関する判断が求められる場合がある。また、新たな対象製品
について支援する場合には、専門家の確保を含め、国内支援体制の構築が必要となる。支
援体制の構築には、支援の目的が日本にとってもメリットがあることを日本側関係者に理
解してもらう必要がある。そのため、国内において、業界や専門家との緊密な情報共有が
非常に重要となる。他には、専門用語に対応可能な現地人材の発掘・確保という課題も存
在する。
他方、多国間支援では、関係する国や関係者の数が多く、事業目的も参加国の具体的な
ニーズよりも、概念的・理念的な目的が設定される傾向にある。また、幹事国等の利害関
係により、日本にとってあまり便益を受けられない事業内容となることもある。その中で、
日本の影響力をどう発揮していくのか、日本にメリットのある事業内容を盛り込むために
はどうすればいいのか、日本にメリットの少ない事業にはどのように関わる、もしくは関
わらないのか、という課題がある。他方、現在複数並行して実施されている、いくつかの
イニシアティブ間のシナジー効果が発揮できれば、二国間支援よりも効率的に期待される
成果が達成される可能性を秘めていると言えよう。その際にも、それぞれのイニシアティ
ブによる成果を、現実に参加国や途上国の政策に反映させていくメカニズムの形成が必要
となる。また、日本が事業目的に即した貢献を出来るかどうかを、国内業界団体との継続
的な連携を通じて検討していくことが重要である。さらに、多国間活動は政府間活動であ
る場合が多く、民間事業者としての参加制約が生じる場合には、参加に対する支援等の配
慮が必要である。
今後、日本の国際的な省エネ協力を推進する上では、限られた資源を最大限に活用して、
効率的な支援を継続的に実施することが重要である。二国間・多国間支援の現状と課題か
ら、今後、本格的な基準策定支援を継続的に実施していくための喫緊の課題として浮かび
上がってくるのは、実効性が高く、持続可能な国内体制の整備・確立である。実効性の高
い支援を実施するには、日本国内における関係者間の意思疎通と情報・知見の共有が必要
である。そのためには、二国間・多国間の枠組みを横断した形で、定期的な国内関係者と
の意見交換会の開催を通じて、政策担当者・民間企業の意見を反映させるメカニズムを構
築し、戦略的プラットフォームとして活用することが望まれる。
46
表 5-1 二国間・多国間比較表
二国間
多国間
現状
現状
 相手国のニーズ、目的が明確。
 参加国の意思決定プロセス(執行委員会等)に
おいて計画策定が行われる。
計画策定
 日本の専門性、専門家確保、予算、メ
リットを勘案した事業内容検討・計画
が容易。
 個別詳細な内容検討が可能であり、双
方の役割分担の明確化が可能。
課題
 支援内容を実施可能とするための国内
体制を整えておくことが必要。
例)SEAD では、参加国の意見を反映させるため
のコミュニケーションを頻繁に取っている点が評価
できる。
 意思決定プロセスに対して、国内業界団体との
密な連携・協力によって日本の方針を決定し、
日本のメリットに則したインプットを行うことが必
要。
課題
 現状では関係者間の連携が十分ではなく、適切
なインプットが出来ているとは言い難い。
事業目的の達成可能性
現状
現状
 事業目的は基本的に相手国のニーズ
によって規定され、相手国の政策スケ
ジュールに沿った形で事業が進行され
る。
 参加国の具体的なニーズよりも、概念的・理念
的な目的が設定される傾向にある。
例)SEAD:(1)raise the efficiency ceiling, (2)
raise the efficiency floor, (3) strengthen the
energy efficiency foundation
例)IEA4E:高効率電力消費機器の世界的普及
拡大
課題
 日本の事業者等の参加には、両国に
利益のある(win-win の)目的を共有
することが不可欠。ただし、相手国の
ニーズに基づくため、内容的・スケジュ
ール的に日本側の思惑通りにはなら
ない場合もある。そのため、こうした場
合は、その可能性が発生した段階で
事前に国内関係者と情報共有し、対
処方針について議論・合意しておくこと
が必要。
 相手国の事業目的に対して、日本側が
意図する情報等のインプットをいかに
実施するか、相手国関係者の合意を
得る必要がある。その際、短期的な成
果を得ることを目的にせず、中長期的
に取り組む姿勢が必要。
 幹事国の利害関係を主因とした、日本にとって
あまり便益を受けられない事業内容も見受けら
れる。
例 ) IEA4E : Mapping & Benchmarking
Annex における対象機器の拡大など
課題
 各イニシアティブの目標に従い得られた成果を、
参加国の基準・政策に反映させるメカニズムの
形成が必要
 日本が事業目的に即した貢献を出来るかどうか
を、国内業界団体との継続的な連携を通じて検
討していくことが重要
47
事業の発展性(
関係持続性)
現状
現状
 相手国の関係者が類似する規格策定
担当者である場合、新たな対象製品
等における規格検討開始段階から、
そのニーズが伝えられる、もしくは協
力要請がくる可能性が、マルチ事業に
比べ高い
 類似活動が複数存在するため、重複がみられ
る。
課題
 協働事業の継続の中では、必ずしも日
本(事業者)にとってメリットのない対
象事業への支援要請がくる場合もあ
る。関係持続の意義との関係で、その
実施に関する判断が求められる場合
がある。
 もっとも困難で時間のかかる、相手国
との初期のネットワーク構築のために
多国間協力の場を活用する。
 新たな対象製品を支援対象とする場合
には、専門家発掘も含めた国内支援
体制の構築が必要となる。
課題
 重複を整理し、付加価値の創造と、異なるイニシ
アティブ間の連携強化を通じたシナジー効果を
上げていくことが期待される。
例)SEAD:加盟国は異なるものの、IEA4E 、
APEC の省エネルギー専門家会合(EGEEC:
Expert Group on Energy Efficiency and
Conservation)と、の活動内容と重複する点が
多い。また、SEAD の資金が APEC EGEEC の
活 動 の 一 つ で あ る CAST (Cooperative
Assessment of Standards and Testing)にも拠
出されている。
 活動成果を、低効率機器の普及が先行している
途上国に如何に速やかに広報していくかが今
後の課題。他の二国間・多国間事業との連携強
化が望まれる。
現状
現状
 多国間に比べ関係者が限定的である
ため、会議・作業の日程・内容等をき
め細かく柔軟に調整できる関係を作る
ことができる。
 SEAD では、サブワーキングレベルでも、作業に
モメンタムを維持するよう、2 ヶ月に 1 度から頻
度の高いものでは、1ヶ月に一度電話会議を行
い、情報共有ならびに意見の取りまとめを行っ
ている。
関係者間の協調
 相手国の関係者とも、Win-win 関係で
あることの考えの共有化を図るための
人間関係を密にとることができる。
課題
 他支援国、国際機関の動きを把握する
必要がある。
 相手国の混乱回避や、知見の共有を
通じた戦略的な支援実施のためにも、
日本側関係者間の緊密な情報共有が
重要である。
 相手国関係者との緊密な連絡体制を
構築するためにも、専門用語に対応
可能な現地の人材を発掘する必要が
ある。
 SEAD では、プロジェクトテーマの選定に時間を
割き、具体的な分析作業に取り掛かるまでに時
間を要しており、成果として上げられるものが
2011 年では省エネ表彰のルールブック作成を
除いては限定される。
 IEA4E では、関係者が複数であること、各分科
会の幹事国の影響が強いことなどから、必ずし
も日本がメリットを享受できる事業内容になると
は限らない。一方、利害関係を日本と共にする
関係者との関係強化には期待できる。
課題
 多数の参加国・関係者がいるため、事業内容等
に関して影響力の発揮が困難。
48
現状
現状
 国内事業者等の参加を得るには、二国
間・多国間に共通して、国内事業者等
のメリットは何かに依存する部分が大
きい。
 SEAD では、国内関係者と、ワーキンググルー
プならびにサブワーキンググループでの議論内
容と資料の共有を行っている。
国内関係者の参加
 個別の要請に対して、業界団体、関連
組織、専門家より協力を得て事業を実
施している。
課題
 継続的・本格的な基準策定支援実施に
は、持続可能な国内体制の整備が急
務。
 多国間協力は、直接の売上の向上等には貢献
しないため、民間の協力の意義を見出すことが
困難。
課題
 定期的な国内関係者との意見交換会の開催を
通じて、優先課題について政策担当者・民間企
業の意見を反映させるメカニズムを構築し、戦
略的プラットフォームとして活用することが望ま
れる。
 多国間活動は政府間活動である場合が多く、民
間事業者としての参加制約が生じる場合には、
参加に対する支援等の配慮が必要。
 国として多国間協力の場への参加の意義を明
確にし、参加の際には集中と選択をすることが
求められる。
49
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