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修士論文 マルチホップ無線ネットワークにおける 中継局性能を考慮した

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修士論文 マルチホップ無線ネットワークにおける 中継局性能を考慮した
NAIST-IS-MT0651003
修士論文
マルチホップ無線ネットワークにおける
中継局性能を考慮した複数経路構築法に関する研究
足立 直樹
2008 年 2 月 7 日
奈良先端科学技術大学院大学
情報科学研究科 情報システム学専攻
本論文は奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に
修士 (工学) 授与の要件として提出した修士論文である。
足立 直樹
審査委員:
岡田 実 教授
(主指導教員)
伊藤 実 教授
(副指導教員)
原 孝雄 准教授
(副指導教員)
マルチホップ無線ネットワークにおける
中継局性能を考慮した複数経路構築法に関する研究∗
足立 直樹
内容梗概
近年,パケットをリレー式に伝送していくマルチホップ無線ネットワークが注
目を浴びている.その背景には携帯端末における大容量データ通信の需要が高ま
る中,現在のセルラーシステムでは端末の消費電力や収容ユーザ数などの点で大
容量通信の実現が困難だと考えられている現状がある.このような問題を解決す
る一つの方法として,移動体通信にマルチホップ通信を適用した方式が有力な解
決方法として注目されている.無線マルチホップによる通信の利点としては,新た
に固定の有線通信設備を設置することなく無線端末のみによって柔軟に無線ネッ
トワークを構築できること,また既存のシステムとの融合により無線カバレッジ
エリアを拡大できることなどが挙げられる.
マルチホップ無線ネットワークの利用を考えた場合,パケットを中継するノー
ド性能は出力電力の違いや通信性質などの点でノード毎に多様であると考えられ
る.しかし,従来のマルチホップ通信に関する研究はノードが互いに対等の機能
をもったものを検討しているものがほとんどであり,中継局性能を考慮した経路
構築に関する統計的な評価はこれまでほとんどなされていない.
本研究では,マルチホップ無線通信ネットワークにおける中継局の性能差に着
目し機能分類を行うことで通信品質の向上を目指した.その結果,従来の単一性
能の中継局のみで構成されたネットワークに比べ,中継局に性能差を与えること
∗
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報システム学専攻 修士論文, NAIST-ISMT0651003, 2008 年 2 月 7 日.
i
によって,一定以上の品質で通信を行うことのできるユーザ数が増加することを
確認した.
キーワード
マルチホップ, 無線ネットワーク, 複数経路, 中継局, モバイルコミュニケーション
システム
ii
Multi-route Construction Method Considering Relay
Station Characteristics in Multi-hop Wireless
Networks∗
Naoki Adachi
Abstract
In recent years, a multi-hop wireless network transmitting a packet in a relay type
attracts attention. It is considered that realization is difficult by the current cellular system in terms of dissipation power or the number of user capacity of the nodes while the
demand for large-capacity data communication in the handheld unit rises. The method
that applied multi-hop communication to mobile communication attracts attention as
one method to solve such a problem. The advantages of a multi-hop wireless network
in it does not need fixed infrastructure equipment and expansion of area coverage by
fusion with the existing system.
When I thought about the use of the multi-hop wireless network,there are various
nodes of performance to relay a packet. But, many of these studies about the conventional multi-hop communication are the case that all nodes have equal function. Few
research has been conducted that handles the statistical evaluation about the network
construction equipped with relay performance.
In this study, the improvement of network quality aimed by classifying the different
performance nodes in a network. In comparison with the network which consisted of
only in a telephone exchange of the conventional single performance, it is verified the
∗
Master’s Thesis, Department of Information Systems, Graduate School of Information Science,
Nara Institute of Science and Technology, NAIST-IS-MT0651003, February 7, 2008.
iii
number of the users who can communicate with a quality more than a certain level by
giving the relay station with a performance difference increases.
Keywords:
Multi-hop, Wireless network, Multi-route, Relay-station, Mobile communication system
iv
目次
第1章
序論
1
1.1. 本研究の背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
1.2. 本研究の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
第2章
マルチホップ無線ネットワーク
3
2.1. アドホックネットワーク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
2.2. メッシュネットワーク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
第3章
マルチホップ無線ネットワークの経路構築法
7
3.1. 伝搬モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.1.1
伝搬損失
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.1.2
シャドウイング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
3.1.3
フェージング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
3.2. ディジタル変調 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
12
BPSK . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
12
3.3. 経路構築法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
13
3.2.1
第4章
中継局混成型経路構築による信頼性向上手法
4.1. 中継局性能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第5章
17
17
4.1.1
2 種類の送信電力を持つ中継ノードが混成するネットワーク 18
4.1.2
基地局の位置情報を持った中継ノードが混成するネットワーク 19
シミュレーション結果
22
5.1. システムモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
22
5.2. 電力差による接続特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
25
v
5.3. 経路優先性による接続特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
30
5.4. 中継ノードに性能差与えた場合の通信特性 . . . . . . . . . . . . .
33
第6章
結論
35
謝辞
36
参考文献
37
vi
図目次
2.1
従来のセルラシステムとマルチホップ無線ネットワークシステム
4
2.2
アドホックネットワークシステム . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.3
メッシュネットワークシステム . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
3.1
自由空間伝搬損失モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
3.2
伝搬損失とシャドウイングを考慮した伝搬特性の一例 . . . . . . .
10
3.3
伝搬損失とシャドウイング,フェージングを考慮した伝搬特性の一例 11
3.4
BPSK 信号の同期検波 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
13
3.5
BS からの参照信号 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
14
3.6
経路構築方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
16
4.1
異なった送信電力を持つ中継ノードが混在するマルチホップ無線
ネットワーク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
18
4.2
提案手法の経路構築イメージ図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
19
4.3
経路優先中継ノードが混在するマルチホップ無線ネットワークシ
ステム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
20
5.1
システムモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
24
5.2
UN の分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
24
5.3
平均経路構築数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
26
5.4
中継ノード数分布における経路接続特性 . . . . . . . . . . . . . .
27
5.5
1 経路あたりの平均ホップ数特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . .
28
5.6
累積平均ホップ数特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
28
5.7
BS の番号 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
29
5.8
パケットが到達する BS 割合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
29
vii
構築可能経路数の平均値特性(経路優先なし) . . . . . . . . . .
31
5.10 構築可能経路数の平均値特性(経路優先あり) . . . . . . . . . .
31
5.11 経路の平均ホップ数特性(経路優先なし) . . . . . . . . . . . . .
32
5.12 経路の平均ホップ数特性(経路優先あり) . . . . . . . . . . . . .
32
5.13 経路優先を行った時の中継ノード分布と接続ユーザ数 . . . . . . .
34
5.9
viii
表目次
3.1
伝搬損失指数例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
5.1
シミュレーション諸元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
23
ix
第 1 章 序論
1.1. 本研究の背景
近年,無線通信の発展により無線 LAN や携帯端末における大容量モバイルマ
ルチメディア通信の需要が高まる一方で, 端末の消費電力による問題から信号の
到達距離が制限され, 現在のセルラーシステムにおいて大容量通信を実現するこ
とは困難だと考えられている. このような問題を解決する一つの方法として, 移動
体通信にマルチホップ通信を適用した方式が注目されている.小規模な無線中継
ノードを用いてマルチホップ通信を行うセルラーシステムとして, マルチホップ
バーチャルセルラーシステム [1, 2] や複数経路を用いて誤り訂正符号と組み合わ
せたマルチホップ移動体通信システム [3–5], 複数の送信アンテナを用いることに
より空間ダイバーシチを実現する時空符号化を利用した協力ダイバーシチ [6, 7]
などが考えられ検討されている.
無線マルチホップネットワークによる通信の利点としては, 新たに固定の有線
通信設備を設置することなく無線端末のみによって柔軟に無線ネットワークを構
築できること, また既存のシステムとの融合により無線エリアカバレッジを拡大
できることなどが挙げられる. 特に近距離の中継を用いることにより, 電波伝搬特
性で劣る高い周波数を利用した大規模な無線ネットワークを構築できる可能性が
ある.
しかし,通常のマルチホップ無線ネットワークは通信条件によってはシングル
ホップ通信よりも端末-基地局間の通信品質が著しく低下してしまう問題点がある.
その原因としてマルチホップによる伝送遅延やパケット同士の衝突や電力減衰に
よるパケットの消失が考えられる.これらによりネットワーク全体のスループッ
トが低下してしまう.つまり,伝送時における経路選択がとても重要である.そ
1
して,経路選択を行う上で構築可能な経路数を確保することが大事になってくる.
1.2. 本研究の目的
本研究では実際に近い環境においてネットワーク上の統計的性質を検討し,前
述したような通常のマルチホップ無線通信の欠点を補うようなマルチホップ無線
ネットワークシステムの設計指針を示す.
本研究では,2 種類の性能差を持つ中継局モデルを検討し,通信品質を保ったま
ま経路選択の幅を広げることを検討し,それに基づいた複数経路構築法を提案し
た.
そして,提案した方法に基づき,ユーザノードや中継ノードの送信電力,中継
ノードの数をパラメータとして,平均構築経路数,および経路あたりのホップ数,
経路が接続する基地局ノードの割合について検討を行った.
2
第 2 章 マルチホップ無線ネット
ワーク
マルチホップ無線ネットワークとは,端末同士が直接通信するだけでなく他の
端末を経由することで広い範囲の端末と通信を可能にする無線ネットワークであ
る.
従来のセルラシステムとマルチホップ無線ネットワークシステムを図 2.1 に示
す.マルチホップ無線通信は,複数の中継ノードがパケットを転送することによ
りネットワークを構成する.この中継ノードは,ユーザからすると基地局のよう
であるが基地局よりも送信電力が低く,バックボーンネットワークとも接続され
ていない.
また,マルチホップ無線ネットワークは基地局・中継局・携帯端末などのノー
ドを無線で相互に接続できるため,コスト面や地理的な理由から有線ネットワー
クを敷設できない場所でも通信が可能となる.そのため,小さな送信電力で広い
エリアをカバーできるようになり,また送信電力を低減できるため干渉電力の減
少も期待できる.さらに,1 つのユーザ送信パケットを複数経路を用いて複数の
基地局へ送信することができるため,有線ネットワークに接続された各基地局が
受信した同一データに対して複数の経路を経由した信号を合成することにより,
単一の経路でパケットを送信した場合と比べてダイバーシチ利得が得られる誤り
訂正手法などが有効であると報告されている [4].
そのような特性から,マルチホップ無線ネットワークは,自立分散制御によっ
て構築するような小規模なネットワークから,基地局のような大規模ネットワー
クまで幅広い利用が考えられる.つまり,マルチホップ無線ネットワークを構成
するノードは,携帯電話やノートパソコン,PDA など持ち運びが可能な機器か
ら,テレビやオーディオなどの家電機器,無線中継を行う基地局や衛星など大規
3
図 2.1 従来のセルラシステムとマルチホップ無線ネットワークシステム
模なシステムまで幅広く存在する.実際のシステムにおいては,ノードの種類や
使用目的によって詳細な要求条件は異なるため様々な形態が存在する.
マルチホップ無線ネットワークの利用例としてアドホックネットワーク,メッ
シュネットワークなどが挙げられる.
2.1. アドホックネットワーク
アドホックネットワーク(Ad-hoc Network)とは,インターネットと繋がってい
ない自律型無線ネットワークであり,通信を行うためのサーバや基地局のような集
中管理ノードを必要とせず,端末のみが集まることにより構成されるネットワー
クのことである.特にアドホックネットワークの端末が移動する場合を Mobile
Ad-hoc Network(MANET)と呼ぶ.アドホックネットワークは,すべてのノー
4
図 2.2 アドホックネットワークシステム
ドが対等の関係でネットワークを構築することが基本になり,ネットワークトポ
ロジが動的に変化してもコネクションを維持したまま接続し続けることが可能で
ある.さらに,アドホック端末間で直接通信できないような場合でも,近隣の端
末を経由することによってデータの送受信を行う.つまり,途中の端末はルータ
として動作していると考えることができる.
2.2. メッシュネットワーク
メッシュネットワークは,マルチホップ無線ネットワークで構成されたアドホッ
クノードが網目のように構成されたネットワークのことである.利用形態として
は,従来では有線ケーブルで繋がっていた無線 LAN のアクセスポイント間をマ
ルチホップ無線リンクで結ぶなどがある.アクセスポイント間を有線接続する場
合に比べ,ネットワーク構築コストの削減,構築期間の短縮,アクセスポイント
配置の柔軟性などが期待できる.
1 例として,現在標準化が進められている IEEE802.11s 規格において想定され
5
図 2.3 メッシュネットワークシステム
ているメッシュネットワーク構成を示す [8].ノードはルーティングおよびパケッ
ト転送を行う MP(Mesh Point),MP に加えてアクセスポイント機能を有する
MAP(Mesh Access Point),および,有線とのゲートウェイ機能を有する MPP
(Mesh Portal collocated with a Mesh Point)により構成される.
無線メッシュネットワークの特徴として,ルーティングやパケット転送を行う
MP を固定的に配置するため,端末が移動する MANET などに比べ安定した通信
を行うことが可能である.
6
第 3 章 マルチホップ無線ネットワー
クの経路構築法
本章では,本研究で用いた伝搬モデルとディジタル変調方式と経路構築法につ
いて説明する.
3.1. 伝搬モデル
無線通信は一般的に所望の情報を電気信号として表現し,電波により情報を伝
達する.受信機は電波から得られる電気信号より送信された情報を推定する.大
気を伝搬路として用いる無線通信では,気象条件や地理的条件によって,伝搬路
特性が変化する.また,送信機や受信機が通信中に移動する移動通信は,固定通
信とは異なり,伝搬路の特性は時々刻々と変化し受信電力が端末の移動とともに
大きく変化することが移動通信における大きな特徴であり欠点でもあると言える.
従って,伝搬路を考慮することは移動体通信にとって重要なことである.伝搬
路特性を考慮することにより,より現実的な通信システムモデルを提案・作成す
ることが可能となるからである.
本研究では電波伝搬モデルとして,伝搬損失,シャドウイング,フェージング
について考慮した.
3.1.1 伝搬損失
電波は,自由空間において距離の二乗に比例して減衰するという特性を持つ.
この電力損失を考慮した受信機における受信電力 PR (dB 換算)は次式によっ
て与えられる.
7
R0
SNR
γ
R
[dB]
γ
l
0
送受信機間の距離 [m]
図 3.1 自由空間伝搬損失モデル
µ ¶α
l
PR = PT − β0 − 10 log10
l0
(3.1)
ここで,PT は送信電力,α は伝搬損失指数で伝搬環境による値を示す.β0 は送
信アンテナから基準距離 l0 だけ離れた場所における受信電力を表し,l は送受信
機間の伝搬距離(単位:m)を表す.基準距離離れた場所での受信電力を PR0 と
すると以下のように表すことができる.
PR0 = PT − β0
(3.2)
µ ¶α
l
PR = PR0 − 10 log10
l0
(3.3)
これにより,式(3.1)は,
8
と表すことができる.
この式を,各受信機における雑音電力を一定と仮定して,信号対雑音電力比
(SNR)に換算すると,下記のように表すことができる.
µ ¶α
l
γR = γR0 − 10 log10
l0
(3.4)
α が 2 のとき自由空間伝搬損(free space loss)という.自由空間(free space)
とは,電波が伝搬する空間に何も物体が存在しない無限に広い空間であり理想状
態を意味する.このときの伝搬損の例を図 3.1 に示す.なお,伝搬損失指数の他
の値について一例を表 3.1 に示す.
表 3.1 伝搬損失指数例
Environment
Free space
Flat rural
Rolling rural
Suburban, low rise
Dense urban, skyscrapers
n
2
3
3.5
4
4.5
3.1.2 シャドウイング
実際の移動通信環境において,送信機と受信機との間には屋外では建造物や樹
木,車などが,また屋内では事務機器や家具などが存在している.これらは,電
波が伝搬していく上で大きな影響を与える.屋外の送信機から送信された電波は
あらゆる方向に放射されるため,障害物によって電波が遮蔽される.これにより,
送信点からの距離のほぼ等しい区間に対して数十波長の区間に渡り,中央値を求
めると,受信電力の対数値が正規分布する,いわゆる対数正規分布となる [9].こ
のような受信信号電力の変動はシャドウイングと呼ばれる.伝搬損失とシャドウ
イングを考慮した受信機における受信電力 PR(dB 換算)は,式(3.3)より次の
9
[dB]
R
γ
SNR
送受信機間の距離 [m]
図 3.2 伝搬損失とシャドウイングを考慮した伝搬特性の一例
ように表すことができる.図 3.2 に伝搬損失とシャドウイングを考慮したシステ
ムモデル例を示す,
µ ¶α
l
γR = γR0 − 10 log10
−S
l0
(3.5)
ここで,S はシャドウイングによる受信電力の変動を表す項で,分散 σ 2 で平均
0 のガウスランダム変数である.
3.1.3 フェージング
フェージングは,反射などにより異なる伝搬路を通ってきた電波が,受信点に
て合成されることにより発生する.合成波は伝搬時間の違いにより位相がずれて
合成され,送信波を忠実に再現できない.さらに,位相差は受信点の移動により
10
[dB]
R
γ
SNR
送受信機関の距離 [m]
図 3.3 伝搬損失とシャドウイング,フェージングを考慮した伝搬特性の一例
連続的に変化し,合成波の信号もこれに伴って変動する.そのため、通信に誤り
が引き起こされる.陸上移動通信において一般的に観測されるフェージングは受
信波の包絡線の確率密度が主にレイリー分布となる.本研究ではフェージングと
して,包絡線の確率密度がレイリー分布に従うフェージングを考慮する.
伝搬損失とシャドウイング,さらにフェージングを考慮した受信機における受
信電力 PR (dB 換算)は,式(3.5)を用いて次のように表される.
µ ¶α
l
− S + log(Rn )
γR = γR0 − 10 log10
l0
(3.6)
電力は包絡線の 2 乗で表すことができ,レイリー分布の 2 乗は指数分布となる.
式(3.5)は受信電力を考えているため,フェージングの影響は log(Rn ) の指数分
布に従う乱数により与えている.ここで,Rn は一様分布の乱数である.図 3.3 に
伝搬損失とシャドウイング,フェージングを考慮した伝搬損失の例を示す.
11
3.2. ディジタル変調
データ信号を効率よく伝送するために,高い周波数の正弦波を搬送波として
用い,その振幅や周波数,位相などをデータ信号によって変化させることを変
調(modulation)という.搬送波の振幅や周波数,位相などを連続的に変化させ
るアナログ変調(Analog Modulation)に対し,ディジタル信号によって搬送波を
離散的な数値に変調することをディジタル変調(Digital Modulation)という.こ
の変調によってディジタル信号を与えられた周波数帯域の信号に変換して伝送す
ることを搬送帯域伝送(Carrier Band Pass Signaling)と呼んでいる.基本的な変
調方式としては,搬送波の振幅を変化させる ASK(Amplitude Shift Keying),周波
数を変化させる FSK(Frequency Shift Keying),位相を変化させる PSK(Phase Shift
Keying) がある.本研究ではこのうち 0 と 1 の 2 値をとる PSK,BPSK(Bi-Phase
Shift keying) を変調方式として用いた.
3.2.1 BPSK
BPSK は振幅・周波数ともに一定な正弦波搬送波を用い,その位相を伝送符号
に対応して変化させる方式で,符号誤り率および帯域幅の両面において優れてい
る.BPSK は正弦搬送波に π[rad] 離れた二つの位相を対応させるので,次式のよ
うに信号パルスが伝送される.
S1 (t) = A cos 2πfc t
S2 (t) = −A cos 2πfc t
(3.7)
ここで,S1 は符号 1 のとき,S2 は符号 0 のときをそれぞれ表し,A,fc はそれ
ぞれ搬送波の振幅と周波数を表している.また,t の範囲は以下のようになる.
−
π
π
≤t≤
2
2
12
(3.8)
図 3.4 BPSK 信号の同期検波
BPSK は位相を変化させることによって情報を伝送するので,図 3.4 に示すよ
うな構成の同期検波が用いられる.受信信号と乗積を取るために必要な基準搬送
波は,基準搬送波再生回路を用いれば受信信号から抽出できる.
3.3. 経路構築法
経路構築アルゴリズムについては従来から様々な研究が行われている.また,
ホップ数及び信号の SNR を基準にした経路構築・選択アルゴリズムが提案され
ている [10].本節ではその経路構築・選択アルゴリズムについて説明していく.
本研究の検討対象であるマルチホップ無線ネットワークモデルは,ユーザノー
ド(UN), 中継ノード(FN),及び基地局ノード(BS)で構成されている.
本アルゴリズムではまず UN が直接 BS と通信することができるか試みる.も
し,どの BS とも直接通信ができない場合,中継のリクエストを行うために FN に
パケットを送信する.UN からパケットを受け取った FN はそのパケットを BS も
しくは次の FN に中継する.一般的なアドホックネットワークとは違い,本研究
では,UN は他の UN とは直接通信せず,UN がパケットの中継を行うことがない
ものとする.それゆえ,UN は他の UN のバッテリーなどを資源を使うことはな
い.
FN は,UN や他の FN から受信したパケットを他の FN や BS に再生中継する
能力のみを有する.また,FN は他のノードと無線リンクのみで繋がっており,送
受信は無線チャンネルのみによって行われる.また,複数の経路で一つの FN を
13
共有しないものとする.
BS は有線でバックボーンネットワークと接続されていると仮定し,今回検討
するネットワークモデルにおいて BS は無線・有線チャンネル間のゲートウェイ
とみなすことができる.
また,本研究では UN から BS へのアップリンクを考えることとする.
以下,具体的な経路構築手法を図 3.6 を用いて説明していく.
• Step1:
BS が経路構築のための信号(参照信号)を接続可能な FN,つまり基準 SNRγc
以上の受信電力レベルで参照信号を受け取れる FN に送信する.参照信号に
は図 3.5 に示すように FN の ID,ホップ数ならびに累積 BER の初期値が含
まれる.パケットを受け取った FN(図 4 中の FN#1 と FN#4)は受信 SNR
を基に BER を計算する.FN は自身の ID を参照信号に付加し,累積 BER と
ホップ数の更新を行う.
図 3.5 BS からの参照信号
• Step2:
BS からの参照信号を受け取った FN が,近隣のノードに向けて内容を更新
した参照信号を送信する.ここでは FN#3,FN#4 がそれを γc 以上のレベル
で受信したものとする.ここで,同じノード間で参照信号が行き来しない
よう,前の処理で BS から参照信号を受け取った FN(同 2 中の FN#1,FN#2),
ならびに BS は,直後に一度だけ参照信号を送信するが,それ以降自身の ID
が含まれる参照信号は受信しても,次のノードに転送しないものとする.
14
• Step3:
FN(同図中 FN#1,FN#2) より参照信号を受け取った FN(同図中 FN#3,FN#4)
は FN 間(例えば図中の FN#1-FN#4 間)の BER を計算し,その BER を参
照信号内の累積 BER に加算する.次に,参照信号を受け取った FN(同図中
FN#3,FN#4) は,参照信号にしめされているホップ数を調べる.もし,ホッ
プ数が K-1 より小さければ,参照信号を受け取った FN は参照信号に各々の
ID を加え,ホップ数を更新し,新しい参照信号を送信する.上記の処理を
参照信号内のホップ数が K-1 と等しくなるまで繰り返す.また,Step1-3 の
処理は全ての BS について行われる.以上より,各 FN から BS にいたる経
路が作成される.
• Step4:
UN は γc 以上の受信電力レベルで信号を受け取れる FN ならびに BS へユーザ
参照信号を送信する.ユーザ参照信号を受け取った Fn(同図中 FN#2,FN#3,FN#5)
は UN-FN 間の BER を,BS は UN-BS 間の BER をそれぞれ計算する.
• Step5:
UN-FN 間または UN-BS 間の BER を累積 BER に加え,UN から BS までの
経路を構築する.ただし,複数の経路に同一の FN が所属する場合,当該経
路のうちでもっともホップ数の少ないものを選択し,ホップ数の等しい当
該経路が複数あった場合,累積 BER の小さいものを選択する.
以上の操作により,UN から複数経路を通過して複数の BS の到達する経路が構
築される.
15
図 3.6 経路構築方法
16
第 4 章 中継局混成型経路構築による
信頼性向上手法
本章では,中継性能を考慮することによってマルチホップ無線ネットワークの
通信品質を向上させる手法について提案する.
4.1. 中継局性能
マルチホップ無線網において,それぞれの端末はこれらを直接つなぐ無線リン
クが存在しなくても,他の端末の中継により構築される無線マルチホップ経路で
接続される.しかし,一般に端末の位置はランダムであり,かつ,常に移動して
いることが多い.また,電波の到達距離は有限であるため,注目する端末間に常
に無線マルチホップ経路が存在するとは限らない.
このような問題を解決するために,信号の中継を行う中継局を配置し,通信品
質の向上を目指す試みが行われている.
しかしながら従来の主なルーティング手法は,基本的に中継ノードの性質が一
様である環境を想定している.一方,コンピューティングデバイスや無線インター
フェイスの急激な発展による小型化により,近い未来には身の回りのあらゆるも
のがネットワークを構成するノードになりうると想定される.すなわち,これら
のノードは一様な性質を持つのではなく移動速度や移動頻度などの移動モデル,
電力供給の有無や送信電力の強弱などの電力モデルなどの点で差異があり,多種
多様なケースを考える必要がある.
本研究では,以下の 2 種類の中継局性能について検討し前章で説明した複数経
路構築法に導入することによって,接続性と信頼性を保ちつつ,より現実に即し
た柔軟なネットワーク構築法を提案する.
17
図 4.1 異なった送信電力を持つ中継ノードが混在するマルチホップ無線ネット
ワーク
4.1.1 2 種類の送信電力を持つ中継ノードが混成するネットワーク
これまでも,アドホックネットワークの分野において,送信範囲の異なる端末
で構成されたネットワークについては検討されてきた [11–14].ネットワークを
構成するノードには,ノートパソコンや PDA,携帯電話といったモバイル端末な
どのような低出力で消費電力を抑える必要があるノード,車載搭載用端末や携帯
キャリアが設置する中継ノードのような電源供給があり高出力なノードなど様々
なノードが存在すると考えられる.そのため,現実的なネットワークモデルを考
える場合において,送信電力差による送信範囲の違いを考慮する必要がある.
そこで,送信電力が異なる 2 種類の中継ノードを想定しそれぞれが混成してい
るネットワークモデルを考える.そのネットワークモデルを図 4.1 に示す.中継
ノードは送信電力の違う中継ノード a と中継ノード b からなり,それぞれを一定割
合で配置する.それぞれの中継ノードは送信範囲内に存在する中継ノード,もし
くは基地局ノードに向けてパケットを送信する.ここで,中継ノードは他のノー
ドと無線リンクのみで繋がっており,送受信は無線チャンネルのみによって行わ
18
図 4.2 提案手法の経路構築イメージ図
れると仮定する.
本提案手法の経路構築のイメージを図 4.2 に示す.この図において,単一モデ
ルの場合は A の中継ノードから基地局ノードまで 2 ホップで到達しているが,A
の中継ノードから見た場合,B の中継ノードと基地局ノードは距離においてほと
んど差がない.マルチホップ無線ネットワークの性質上,ホップすればするほど
伝送遅延が発生し通信品質が劣化する可能性が高いため,なるべく余分なホップ
数は減らしたい.
そこで,混成モデルでは A のノードを少し送信電力の強い中継ノード b に置き
換えることによって,1 ホップで基地局ノードに接続できるようにし,接続性は
そのままに余分なホップ数を減らすことを目指す.
この方法のメリットは既存のネットワークに拡張という形で通信品質を向上さ
せることができることである.
4.1.2 基地局の位置情報を持った中継ノードが混成するネットワーク
すべての方向に均一にビームを形成するアンテナである無指向性アンテナに比
べ,指向性アンテナはある一定方向に指向性の送信ビーム,および受信ビームを
19
図 4.3 経路優先中継ノードが混在するマルチホップ無線ネットワークシステム
形成するアンテナである.そのため,一般的に指向性アンテナの導入により空間
利用効率の向上が図られ,電波干渉の低減によるスループットが改善されること
が報告されている [15].
指向性アンテナの別の特徴として,送信電力,受信ゲインを放射方向に集中で
きるため,無指向性アンテナに比べて送信距離を伸ばしたり受信感度を上げたり
することができる,というものがある.
本研究においては,図 4.3 に示すネットワークを考える.これは,基地局から
一定範囲内の中継ノードが基地局の場所をあらかじめ分かっていると想定したも
のである.前章で述べた経路構築法では,累積 BER を経路構築における一要因と
して考えているため,実際には基地局が近くに存在するのにシャドウイング等々
の影響を受け,累積 BER の良い他の中継ノードと接続されてしまいホップ数が
増大してしまうという問題があった.
そこで,一部の中継ノードに基地局座標情報を与え,座標情報を持っている中
継ノードにユーザノードからの送信信号が届いた場合,基地局ノードに向けて通
20
常の送信電力よりも大きい電力で送信することによって優先的に基地局への経路
を構築させることを考えた.これによって,擬似的な指向性アンテナとして振る
舞い経路構築における優先性が表せると考える.本来の指向性アンテナを用いた
通信との違いは,物理的にアンテナを設置するのではなく基地局からの参照信号
を元に指向性を与える点である.つまり,物理的に指向性アンテナを傾けている
わけではないので,中継ノードが移動しても自動的に経路構築の際に最寄の基地
局情報が更新される.
具体的な経路構築方法は次の通りである.
前章図 3.5 で示した参照信号を元に,それぞれの基地局ノードから一定範囲内
に存在する中継ノードにパケットが到達した場合に,+δ P[dB] の送信電力を加
えることで他の中継ノードに対する経路よりも最寄の基地局ノードに対する経路
を優先して構築されるようにする.この際,基地局座標を持った参照信号を複数
個受信した場合には,もっとも BER が良いもの選択するものとする.
以上により,シャドウイングの影響で近くに基地局ノードが存在するにも関わ
らず遠方に存在する基地局ノードや中継ノードへの経路が構築される可能性を減
少させ,余分なパケットの回り道を減らすことを目指す.
21
第 5 章 シミュレーション結果
前章では中継局に性能差を与えることを提案した.そこで本章では,提案方式
について計算機シミュレーションによって特性解析を行い,その有効性を検証す
る.シミュレーション諸言を表 5.1 に示す.
前述したように経路構築を行う際に経路の通信品質を測定するため,ノード間
の BER を測定する必要がある.変調方式として BPSK を用いているため SNR が
γ の場合における BER は,次式によって与えられる [16].
1
√
Pb = erfc( γ)
2
(5.1)
5.1. システムモデル
本研究の検討対象であるマルチホップ無線ネットワークは,ユーザノード(UN),
中継ノード a(FNa),中継ノード b(FNb)及び基地局ノード(BS)で構成されて
いる.システムモデルとしては,図 5.1 に示すようなセルラシステムの評価モデ
ルとしては一般的なものを想定する.ここで,中継ノードは各セル全体に一様分
布するものと考え,各セル中央に 1 台ずつ基地局ノードを設置し,各基地局ノー
ドのカバーエリアを六角形としている.
また,ユーザノードはセルの対象性を考慮して,中央の 1 セルのみに存在する
と仮定し,ユーザノードの位置によって特性が依存しないように,ユーザノード
の配置を図 5.2 のように中央セル内で一様な配置とした.
特性評価の際には,全てのユーザーノード位置について諸特性を計測し,サン
プル数(ユーザ配置数)で平均化した値を採用する.
22
表 5.1 シミュレーション諸元
半径 [m]
セル
UN
577
数
7
範囲
中央セル
ユーザ間距離 [m]
位置
BS
セル中央
基地局間距離 [m]
数
中継ノード
19.9
1000
7
分布
一様分布
範囲
全セル
合計数
300
許容ホップ数
10
変調方式
BPSK(同期検波)
伝搬路
AWGN, シャドウイング
シャドウイング偏差 [dB]
6
伝搬損失指数 α
3
23
図 5.1 システムモデル
図 5.2 UN の分布
24
5.2. 電力差による接続特性
本節では,中継ノードの送信電力が平均経路構築数,経路あたりのホップ数,
また,経路が最終的に接続する基地局の割合に与える影響について検討する.
ここで,より実際の通信環境に適用しやすくするために l0 =1[m] 固定とし,ユー
ザノードと中継ノードの基準 SNR をパラメータに用いる.ユーザノードと中継
(U )
(F )
ノードの基準 SNR はそれぞれ,γR0 ,γR0 ,と表すこととする.閾値 γc は 4[dB]
に設定しその値を満たさない場合は経路が構築されない.
(F )
(F )
図 5.3 に γR0 = 70[dB] に設定した中継ノード a,γR0 = 90[dB] に設定した中継
ノード b のみを配置した際の平均経路構築数特性と,中継ノード a と中継ノード
b をそれぞれ半分ずつ混成したネットワークモデルにおける平均経路構築数特性
を示す.
(F )
図より,γR0 の増加に伴い構築可能経路数が増加することが分かる.これは,
中継ノードの送信電力が増加することによってパケットの伝送距離が伸びるため
通信可能な中継ノードの数が増加するからである.また,中継ノードを混成した
モデルは,それぞれの中継ノードのみを配置した場合における特性のちょうど中
間的な特性を示すことがわかる.
図 5.4 に中継ノード密度によって基地局までの経路が最低 1 経路構築できる割
合を示す.
(F )
例として,図より接続率 95[%] を満たすためには,γR0 = 70[dB] の中継ノード
(F )
のみだと約 300 基必要であるが,γR0 = 90[dB] の中継ノードだと約 140 基でよい
ことがわかる.同様に中継ノードを混成させた場合においては,約 170 基でよい
ことがわかる.このことより,提案手法によって接続性が向上することが確認で
きた.
次に,中継ノードを混成させた場合の 1 経路あたりの平均ホップ数を図 5.5 に
示す.
図より,全体的に 1 ホップで基地局ノードに接続する割合が低いことがわかる.
これは,ユーザノードが中央のセルにのみ存在しているためで,1 ホップでは中
央セルの基地局ノード付近の中継ノード以外は接続できないからである.また,
2 ホップあればまた,中継ノードを混成させた場合において,数量では少ないに
25
30
γ(F)
= 70:300個
R0
25
γ(F)
= 70:150個
R0
γ(F)
R0
存在割合 [%]
20
γ(F)
= 90:150個
R0
= 90:300個
15
10
5
0
0
5
10
15
構築可能経路数
図 5.3 平均経路構築数
(F )
も関わらず γR0 = 90[dB] の中継ノードのみを配置した場合とほぼ同じ特性を示す
ことがわかる.
先ほどの平均ホップ数特性を用いて最低 1 経路以上構築される確率について累
積グラフにて図 5.6 に示す.
図より,提案手法である 2 種類の中継ノードを混成させることによって,基地
局ノードまでのホップ数が減少していることがわかる.例えば,90[%] の接続率
(F )
を満たす場合を考えると γR0 = 90[dB] の中継ノードのみを配置した場合にくら
べ,約 2 ホップの減少が確認できる.
図 5.7 のようにセルに対応する基地局に番号をつけ,経路が接続する基地局ノー
ドの割合を図 5.8 に示す.図における横軸の値は,図 5.7 の番号に対応しており,
横軸は構築できた経路が最終的に接続する基地局ノードの割合を示している.
図 5.8 より,送信電力が低い場合,中央の基地局ノードへ接続する割合が増加
(F )
することがわかる.これは γR0 が小さくなると,ある中継ノードが通信可能なエ
リアも小さくなり,他のノードが通信可能なエリアに存在する確率が下がるため
と考えるからである.また,中継ノードを混成させることにより,少ない労力で
26
100
接続率 [%]
80
60
γ(F) = 70:300個
R0
40
γ(F)
= 70:150個 , 90:150個
R0
γ(F) = 90:300個
R0
20
50
100
150
200
250
300
合計中継ノード数
図 5.4 中継ノード数分布における経路接続特性
(F )
γR0 = 90[dB] の中継ノードのみを配置した場合と同等の特性を示すことがわかっ
た.これにより,送信電力を調節することでトラフィックを効率よく分散させる
ことが期待できる.
以上より,送信電力差のある中継ノードを混成させることによって余分なホッ
プ数を減らし,また,トラフィックの分散を行えることがわかった.
27
45
40
γ(F)
= 70:300個
R0
γ(F)
= 70:150個
R0
35
γ(F)
R0
接続率 [%]
30
γ(F)
= 90:150個
R0
= 90:300個
25
20
15
10
5
0
0
2
4
6
8
10
ホップ数
図 5.5 1 経路あたりの平均ホップ数特性
100
接続率 [%]
80
60
40
γ(F)
= 70:300個
R0
20
γ(F)
= 70:150個
R0
0
γ(F)
R0
0
2
4
γ(F)
= 90:150個
R0
= 90:300個
6
8
ホップ数
図 5.6 累積平均ホップ数特性
28
10
図 5.7 BS の番号
70
γ(F)
= 70:300個
R0
60
γ(F)
= 70:150個
R0
γ(F)
= 90:300個
R0
50
存在割合 [%]
γ(F)
= 90:150個
R0
40
30
20
10
0
1
2
3
4
5
6
BS番号
図 5.8 パケットが到達する BS 割合
29
7
5.3. 経路優先性による接続特性
本節では,経路優先性を与えた中継ノードを混成させた場合における構築可能
経路数やホップ数の平均値特性を検討する.
(F )
γR0 を変化させた場合において,セルあたりの平均中継ノード数に対する構築
可能経路数を,経路優先なしの場合を図 5.9 に,経路優先ありの場合を図 5.10 に
示す.本節では,中継ノードの送信電力はすべて均一である.また,ここではδ
P=5[dB] としている.
(F )
(F )
図より,γR0 = 90[dB] の場合,γR0 = 80[dB] の場合については,経路優先あり・
(F )
なしに関わらずほとんど同じ特性を示すのに対し,γR0 = 70[dB] の場合において
は,経路優先を行わなかった影響が顕著になる.これは,経路優先を行わない場
合,仮に基地局ノード近くの中継ノードをパケットが経由したとしても,最寄の
基地局ノードに経路が構築されず他の基地局ノードに接続を試みる確率が高くな
(F )
るからである.γR0 の値が低くてもいずれかの基地局ノードにたどり着く確率が
上がるためだと考えられる.
次に,経路優先を行った場合と行わなかった場合において,セルあたりの平均
中継ノード数に対する,構築される経路の平均ホップ数特性を図 5.11 と図 5.12 に
示す.
図より,経路優先なしの場合に比べて経路優先ありの場合は,全体的に構築さ
れる経路の平均ホップ数が低い値を取ることがわかる.これは,経路優先される
ことによりパケットが余計な回り道をすることが少なくなるため,基地局ノード
までのホップ数が少なくなるからだと考えられる.また,平均ホップ数はある値
まで増加したのみ飽和するという特性を示す.これは,用いた経路の構築手法が,
ホップ数の少ないものを優先するためであると考える.
以上より,経路優先を行う中継ノードを混成させることにより,経路優先を行
わない場合に比べて,中継ノードの送信電力が低い場合に基地局までの経路構築
数が増加し,また,ホップ数が少なくなることを示した.
30
5
(F)
4.5
γR0 = 70 [dB]
4
γR0 = 80 [dB]
(F)
γ(F) = 90 [dB]
R0
構築可能経路の平均値
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
0
10
20
30
40
50
セルあたりの平均FN数
図 5.9 構築可能経路数の平均値特性(経路優先なし)
5
4.5
(F)
γR0 = 70 [dB]
4
(F)
γR0 = 80 [dB]
γ(F) = 90 [dB]
R0
構築可能経路の平均値
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
0
10
20
30
40
50
セルあたりの平均FN数
図 5.10 構築可能経路数の平均値特性(経路優先あり)
31
5
4.5
4
経路の平均ホップ数
3.5
3
2.5
2
γ(F) = 70 [dB]
R0
1.5
γ(F) = 80 [dB]
R0
1
γ(F) = 90 [dB]
R0
0.5
0
0
10
20
30
40
50
セルあたりの平均FN数
図 5.11 経路の平均ホップ数特性(経路優先なし)
5
4.5
4
経路の平均ホップ数
3.5
3
2.5
2
1.5
(F)
γR0 = 70 [dB]
1
γ(F) = 80 [dB]
R0
0.5
γ(F) = 90 [dB]
R0
0
0
10
20
30
40
50
セルあたりの平均FN数
図 5.12 経路の平均ホップ数特性(経路優先あり)
32
5.4. 中継ノードに性能差与えた場合の通信特性
前節までに,2 種類の送信電力を持つ中継ノードを混成させたネットワークモ
デルにおいて,送信電力を抑えつつ経路構築範囲を広げまったく経路が構築され
ない割合を減少させることができることを示した.また,経路優先性を持つ中継
ノードを混成させることにより,基地局ノードまでパケットが到達する確実性が
向上することを示した.また前節までは,中継ノードの性能差によって構築され
る経路数,経路毎のホップ数に関する統計的性質を求めてきた. しかし,実際の
通信モデルにおいては,例えば,構築経路数が増加したからといって必ずしも信
頼度の高い通信が行えるとは限らない.構築経路数が多くても,形成された経路
が伝搬路状態が悪いものが多いようでは意味がないからである.
そこで本節では,それぞれの方式に対して有効性を確かめるためにある閾値以
上の品質で通信を行うことのできるユーザノードについて検討を行う.
ここで,ユーザノードは図 5.7 における 1 番の中心セルに図 5.2 のように一様
分布するとし,今回の検討では 126 ユーザ存在するものと仮定した.なお,1 つ
のユーザノードから複数の経路が構築できる場合は,その平均 BER を採用する.
閾値としてユーザノードから基地局ノードまでの累積 BER が 10−3 を満たすこと
のできるユーザ数を求める.
図 5.13 は,経路優先を行った場合と行っていない場合の接続ユーザ数特性を示
(F )
す.図より,γR0 = 70[dB] の場合において経路優先を行うことによって閾値を満
足するユーザ数が増加していることがわかる.これは,経路優先を行うことで伝
搬路状況の悪い経路を構築することが少なくなるため,信頼性の高い経路のみ構
(F )
築されるからだと考えられる.一方,γR0 = 90[dB] の場合も経路優先を行うこと
によって,接続ユーザ数が増加することは同様だが,こちらはセルあたりの中継
ノード数が増加するにつれて全体的に接続ユーザ数が減少しているのがわかる.
これは,中継ノード密度が高くなることで余分なホップ数や経路が増え通信品質
の悪い経路も多く構築されるからだと考えられる.特に経路優先を行っていない
場合はそれが顕著に表れている.
以上より,中継ノードに性能差を与えることにより通信品質が向上することが
わかった.
33
70
BER = 10
-3
を満たすユーザ数
60
50
40
30
20
70[dB]経路優先なし
70[dB]経路優先あり
90[dB]経路優先なし
90[dB]経路優先あり
10
0
0
10
20
30
40
50
セルあたりの平均中継ノード数
図 5.13 経路優先を行った時の中継ノード分布と接続ユーザ数
34
第 6 章 結論
本論文では,マルチホップ無線ネットワークにおける中継局の性能差に着目し,
そのアップリンクでの複数経路構築法を用いた信頼性向上法を提案した.そして,
提案手法の有効性を計算機シミュレーションによって評価し,その特性を明らか
にした.
本研究では,まず中継ノードに性能差を与えることを検討し,性能差を与える
ことによる構築経路数や経路数あたりのホップ数などの特性を計測した.その結
果,中継ノードの送信電力に差を持たせることによって,経路がまったく構築さ
れない確率を減らし,接続率を保つことができることがわかった.また,余分な
ホップ数を減らす効果があることやトラフィックを分散できることがわかった.中
継ノードに経路優先性を与えることによって経路構築における優先経路を与える
ことによって,中継ノードの送信電力が低い場合に構築経路数を増やしホップ数
の増加を抑えることがわかった.
ネットワークモデルの設計指針として,一定の品質を満たす通信を可能とする
経路を構築できるユーザ数について検討した.その結果,経路構築の際に経路優
先するような中継ノードを配置することで,送信電力が同じ場合でも経路優先し
ない場合に比べて所望ユーザ数が増加することがわかった.
今後の検討課題としては,本研究において経路が他のセルに渡って構築される
際のハンドオーバーに関しては考慮していないため,実際の通信モデルを考える
と検討する必要があると考える.また,周波数利用効率や,複数のユーザが同時
に通信を行った場合における干渉問題についての検討も必要である.
35
謝辞
本研究を行うにあたり,本学情報科学研究科 岡田 実 教授には研究の機会を与
えて頂き,また終始,御指導,御鞭撻を賜りました.ここに厚く御礼申し上げま
す.
また,副指導教官として,御助言,御教示を賜りました本学情報科学研究科 伊
藤 実 教授に心から感謝します.
本研究の全過程において常に御指導,御助言を頂きました本学情報科学研究科
原 孝雄 准教授,齋藤 将人 助教に深く感謝致します.
日頃の研究活動を通し御意見,御協力を頂きました本学情報科学研究科 宮本
龍介 助教に深く感謝致します.
最後に,日頃の研究活動の様々な面で励ましそして支えて頂きました本学情報
科学研究科情報コミュニケーション講座の皆様に深く感謝致します.
36
参考文献
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