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アジア地域に適合的な、住民参加型コミュニティ排水処理システムの開発と普及

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アジア地域に適合的な、住民参加型コミュニティ排水処理システムの開発と普及
アジア地域に適合的な、住民参加型コミュニティ排水処理システムの開発と普及
2013/11/12
(1) 団体概要
1.1 団体概要
ふ り が な
団 体 名
団体ホームペー
ジ
とくていひえいりかつどうほうじん あぺっくす
特定非営利活動法人 APEX
http://www.apex-ngo.org/
1.2 設立の目的・経緯・概要
設立経緯
1983 年に現代技術史研究会有志らが開催した"第三世界の問題を考える連続ゼミナール”の参加者が中心となって、
スタディーツアーやセミナーが続けられ、インドネシアの NGO との協力開始を契機として設立された。
日本を含むアジアが抱えている環境、資源、貧困等の諸問題をその構造および要因を含めて学び、アジアの自然、社
設立目的
会及び文化に関する理解を深めながら、アジアの人々の生活向上、自立的産業の発展並びにアジア及び世界の環
境保全に貢献すること、合わせてアジアの人々の間の相互理解と交流を深め、日本の社会、生活及び文化のあり方を
見直し、自然環境と調和して豊かであり、かつ人々の能力が多様に生かされていく社会の実現に寄与すること。
(1) 水質汚濁防止、大気汚染防止、温暖化防止、廃棄物循環等を通じて、アジア(日本を含む。以下同様)又は世界の
環境保全を図る事業
(2) 自立的産業の育成、職業訓練、生活基盤の整備等を通じて、アジアの人々の生活向上又は収入向上を図る事業
概要
(事業の形態)
(3) アジアの環境保全、自立的産業の育成又は生活基盤の整備等のために必要な調査研究、技術開発又はそれら
の成果にもとづく提言事業
(4) セミナーの開催、スタディーツアー、学習会の実施、講師の派遣等を通じた、開発教育又は環境教育事業
(5) 機関紙又は刊行物の発行、電子媒体による情報発信、法人の活動に関連するイベントへの参加又はイベントの実
施等を通じた、開発問題又は環境問題に関する情報提供又は情報交換事業
(6) その他会の目的を達成するために必要な事業
1.3 団体の活動状況・実績
主な
活動実績
海外
・現地に適合的な、小規模産業排水ならびに生活排水処理技術の開発と普及
(主活動地:インドネシア)
・粘土を用いたバイオマスの流動接触分解ガス化技術の開発
・ジャトロファの複合的利用による環境保全型地域開発
国内
・アジアの社会・経済・文化、環境問題・国際協力などに関する公開のセミナーの開催
・NGO 活動の基礎となる世界観形成のための「開発と NGO」研究会の開催
・「適正技術人材育成研修」の開催
組織等
スタッフ
合計 17 名(内現地スタッフ 12 名)
事務所
1
インドネシア(ジョクジャカルタ、マウメレ)、東京
(2) 事業概要
2.1 プロジェクト内容 (要約)
プロジェクト名:
「アジア地域に適合的な、住民参加型コミュニティ排水処理システムの開発と普及」
背景:
近年、アジア地域においては、経済発展と都市化の進展が著しいが、適正なインフラの整備が伴わないため、大気
汚染、水質汚濁、劣悪な衛生・居住環境、交通渋滞等のさまざまな問題が生じている。当団体の主な活動地域であるイ
ンドネシアでは、とりわけ水質汚濁と衛生環境の問題が深刻で、それらを解決・緩和するためには、生活排水ならびに
産業排水を的確に処理することが不可欠である。中でも主たる汚濁負荷となっている生活排水の処理は重要である
が、大規模集中型の下水道は、多大な投資を要するため、近い将来に普及することは望み薄である。トイレ排水を処理
するセプティック・タンク(腐敗槽)は都市部で普及しているが、その処理性能は不十分で、処理水が地下水を汚染して
いる。またトイレ以外の生活雑排水は、ほとんどが未処理で放出されている。さらに、低所得の住民が多いコミュニティで
は、トイレのない家庭も多く、都市人口約 1 億人のうち、1800 万人がトイレをもたないといわれる。同様の状況は、他のア
ジア諸国にも見られる。
現実的な対策として、近年インドネシアでは、コミュニティレベルでの衛生改善策が注目され、急速に推し進められよ
うとしており、2013 年、2014 年には、それぞれ約 2000 件分の、コミュニティ衛生改善予算が準備されている。ところが、
その多くは MCK(共同の水浴び場、洗濯場、トイレの複合施設)の設置であり、管渠で排水を集めて集合処理する場合
も、ほとんどが嫌気性処理のみを行うシステムとなっている。前者の MCK は、依然として家の中にトイレのない不便さが
残り、住民の生活が向上するとともに使われなくなる傾向にある。後者の嫌気性処理では、場所をとるため、住宅密集
地域では設置できないことも多い上、設置できても、処理水質が満足なものとならず、依然として水質汚濁の問題が残
る。
概要:
コミュニティレベルの排水処理・衛生改善を進めるためには、現地に受け入れ可能な程度に安価で、運転・保守が容
易であり、かつ良好な処理水質が得られる排水処理技術が必要となる。また、特に地方政府が運転管理に責任を持つ
体制にない場合、地域の住民が、排水処理システムを自分たちのものとして主体的に運営管理していく、住民参加型
のシステムの構築が必須となる。そのようなシステムの構築は、住民の自立的環境管理能力を高めることにもつながる。
APEX では、1995 年より、アジア地域に適合的な排水処理技術の開発と普及に努め、2001 年には、現地 NGO である
ディアン・デサ財団と協力して排水処理適正技術センターを創設し、活動を本格化している。さらに 2006 年から、それま
での蓄積を生かしつつ、現地の条件に適したコミュニティ排水処理システムの開発と普及に取り組み始めた。まず 2006
年度~2008 年度には、インドネシアのジョクジャカルタ特別州においてモデルシステムの開発に取り組んだ。開発した
システムは、技術的には、コミュニティの排水を管渠で集合して、まず熱帯地域に適した嫌気性処理で処理し、その後、
好気性処理で仕上げるものである。その中の好気性処理としては、運転が容易で、電気の消費も少ない回転円板式排
水処理に着目し、回転円板の中でも、格別に効率が高い(単位容積当たりの有機物負荷として、通常の回転円板の約 4
倍)立体格子状回転円板を独自に開発して、これを用いた。これらにより、安価で(日本の技術と比べて 6 分の 1 以下)、
場所をとらず(嫌気性処理のみの場合と比べて、設置面積約 3 分の 1)、運転管理も容易で、かつ処理水質の高い(BOD
で 20~50ppm 程度。インドネシアの生活排水基準は 100ppm)技術を開発し、実証することができた。また、地域の住民
の方々に、自分たちの施設として主体的に運転管理を行ってもらうため、住民との会合を重ね、環境・衛生問題の意
義、コミュニティ排水処理システムの内容と効果、技術選択、資金調達にかかわる合意形成、運転管理研修等を実施し
て、自立的・持続的な参加型システムを構築した。モデルシステム設置に当たり、これまでトイレのなかった家庭が自己
資金でトイレを設置した。モデルシステムを設置した二つのコミュニティでは、既に 5 年以上にわたり、住民自らの出費と
管理により、運転が持続的に行われている。
モデルシステムの設置が順調に進んだことを受けて、2011 年度から、開発した住民参加型コミュニティ排水処理シス
テムをインドネシアで広域的に普及させる事業に取り組んでいる。テガール市、プカロンガン市、ジョクジャカルタ市、ス
ラカルタ市、タバナン県を普及拠点都市域として、それらにモデルシステムを設置し、そのモデルシステムを基盤として
広域普及をはかるもので、2013 年 10 月までの時点で、5 式のモデルシステムの設置を終え、継続的に運転している。
それらのモデルシステムの設置に当たっては、上記の住民参加型システムの構築にも努めた。
また、排水処理を担う人材育成も重視しており、2006 年度以降では、排水処理適正技術にかかわるプログラム研修
を、計 7 回開催し、計 277 名が参加した。また排水処理適正技術マニュアルを 1000 部発行し、政府関係者、大学の研
究者、NGO メンバー等に配布している。さらに、コミュニティ排水処理にかかわるネットワーク形成のため、セミナーを計
5 回、計 297 名の参加を得て開催した他、ニュースレターを計 14 号、各 700~750 部発行して、マニュアル同様に配布
している。
今後は、インドネシアにおける住民参加型コミュニティ排水処理システムの普及にさらに努めるとともに、他のアジア地
域にも普及をはかっていく計画である。
2
2.2 プロジェクト実施期間
2006 年 4 月~2015 年 9 月(その後も継続予定)
2006 年 4 月~2008 年 11 月は、JICA 草の根技術協力事業(草の根パートナー型)「インドネシア国ジョクジャカルタ特
別州住宅密集地域における住民参加型コミュニティ排水処理モデルシステムの形成」として実施。2008 年 12 月~2011
年 10 月は、自立的事業として排水処理適正技術研修などを継続。2011 年 10 月~現在は、JICA 草の根技術協力事業
(草の根パートナー型)「インドネシアの都市部住宅密集地域における住民参加型コミュニティ排水処理システム普及促
進事業」(2011 年 10 月~2015 年 9 月)として実施中。
なお、関連する先行事業の実施期間は以下のとおりである。
・「アジア地域に適した回転円板式排水処理設備の開発」(外務省 NGO 事業補助金助成事業、1995 年 4 月~1998
年 3 月)
・「アジアの NGO による適正な排水処理技術に関する国際会議・ワークショップの開催」(環境事業団地球環境基金
助成事業、1998 年 4 月~1999 年 3 月)
・「アジア地域に適性のある小規模排水処理プラントの開発と普及促進事業」(環境事業団地球環境基金助成事業、
1999 年 4 月~2000 年 3 月、)
・「インドネシア国排水処理適正技術センターの創設と運営計画」(JICA 開発パートナー事業、2001 年 10 月~2004
年 9 月)
2.3 プロジェクト実施地
普及対象地域としては、実施中のプロジェクトではインドネシア全域で
あるが、今後、バングラデシュ等、他のアジア地域への普及にも取り組む
計画である。
モデルシステムを設置し、普及の拠点となるのは、テガール市、
プカロンガン市、ジョクジャカルタ市、スラカルタ市(以上ジャワ島)、
タバナン県(バリ島)の 5 つの都市域である。
ジャワ島
ジョクジャカルタ
バリ島
2.4 プロジェクト実施地の状況 (人口、地形、気候・気象、水・衛生施設の普及・利用状況および課題など)
本事業は、インドネシアの都市部で住宅が密集した地域を対象としている。モデルシステムの設置対象地域は、2-3
で上げた 5:ケ所の都市域であるが、普及対象地域としては、それに限定せず、広域的普及をめざしている。
インドネシアは、日本の約 5 倍の面積の国土に、人口約 2 億 5 千万人を擁する大国である。近年、順調な経済成長を
続けており、政治的にも安定しているが、経済成長にインフラの整備が追い付かず、特に都市部では、大気汚染、水質
汚濁、劣悪な衛生・居住環境、交通渋滞等さまざまな問題が生じている。特に水質汚濁と衛生環境の問題は、もっとも
深刻で慢性化した問題のひとつである。同国の下水道普及率は 2.33%に過ぎず(Susmono,2009)、総人口 2 億 5 千万人
のうち約 7000 万人、都市部では約 1 億人のうち、約 1800 万人がトイレをもたない状態である(Oswar,2010)。トイレのある
家庭では、セプティック・タンク(腐敗槽)でトイレ排水を処理するのが一般的であるが、その処理性能は不十分で、住宅
密集地域では、処理水が地下水汚染をもたらしている。また、セプティック・タンクは整備・保守が悪く、スラッジも河川に
直接投棄されている場合が少なくない。トイレ排水以外の生活雑排水は、多くの場合、未処理放出されている。 生活
排水は、産業排水とともに深刻な水質汚濁をもたらしており、国内の 9 河川の定点観測によれば、2006 年に対し、2008
年は、9 河川中 7 河川で汚染度が増大し、いずれも重度の汚染となっている(インドネシア環境省、2006,2008)。2006 年
における衛生環境不良に起因する疾病、乳幼児死亡、水処理費用増大などによる経済損失は、63 億ドルに達するとい
われている(WSP-EAP, 2008)。
水質汚濁ならびに劣悪な衛生環境の問題を改善していくためには、生活排水及び産業排水を適正に処理する必要
がある。中でも主たる汚濁負荷となっている生活排水の処理は重要であるが、大規模集中型の下水道は、多大な投資
を要するため、近い将来に普及することは望み薄である。セプティック・タンク(腐敗槽)は普及しているが、上記のように
その処理性能は不十分で、またトイレ以外の生活雑排水は、ほとんどが未処理で放出されてしまう。
現実的な対策として、近年インドネシアでは、コミュニティレベルでの衛生改善策が注目され、急速に推し進められよ
うとしている。これは 2001 年からの本格的な地方分権化の流れを受けつつ、2003 年からパイロット事業が始まり、2006
年~2010 年の ISSDP (インドネシア衛生分野開発プログラム)、2009 年の PPSP(住民居住地域における衛生改善促進
3
プログラム)の開始などを経て、次第に本格化してきたものである。2013 年、2014 年には、それぞれ約 2,000 件分の、コ
ミュニティ衛生改善予算が準備されている(政府予算、借款、無償援助等の合計)。ところが、改善策の多くは MCK(共同
の水浴び場、洗濯場、トイレの複合施設)の設置であり、管渠で排水を集めて集合処理する場合も、ほとんどが嫌気性
処理のみを行うシステムとなっている。前者の MCK では、依然として家の中にトイレのない不便さが残り、住民の生活が
改善されるとともに使われなくなる傾向にある。後者の嫌気性処理では、場所をとるため、住宅密集地域では設置でき
ないことも多い上、設置できても、処理水質が満足なものとならず、依然として水質汚濁の問題が残る。
2.5 プロジェクト資金源および事業費
2006 年 4 月~2008 年 11 月は、JICA 草の根技術協力事業(草の根パートナー型)「インドネシア国ジョクジャカルタ特
別州住宅密集地域における住民参加型コミュニティ排水処理モデルシステムの形成」として実施し、事業費は 49,733
千円であった。2011 年 10 月~現在は、JICA 草の根技術協力事業(草の根パートナー型)「インドネシアの都市部住宅
密集地域における住民参加型コミュニティ排水処理システム普及促進事業」(2011 年 10 月~2015 年 9 月、事業費
99,864 千円)として実施している。
2.6 プロジェクトパートナー
国際協力機構(JICA)
インドネシア政府
テガール市環境局、プカロンガン市環境局、ジョクジャカルタ市公共事業局、スラカルタ市地域開発計画局、
タバナン県地域開発計画局
ローカル NGO
<排水処理適正技術センターを共同で運営> ディアン・デサ財団(本部:ジョクジャカルタ)
<普及拠点都市における協力 NGO(ファシリテーション・調整等)>
ビンタリ財団(テガール、プカロンガン市担当)、インサン・スンバダ財団(スラカルタ市担当)、
ウィスヌ財団(タバナン県担当)
大学、企業等
東北大学、積水アクアシステム株式会社、木更津工業高等専門学校、香川高等専門学校
2.7 プロジェクトの国内への広報方法
1.セミナーの実施
日本国内においては、APEX 主催の公開セミナー等において事業を紹介する場を設けている。以下は、コミュニティ
排水処理を主題的に扱ったセミナーの例であるが、他に適正技術を論ずるセミナーの中で紹介した例が多数ある。
・APEX セミナー「コミュニティ排水処理事業報告-適正技術と住民参加-」
2009 年 2 月 1 日(参加者 29 名)
講師:田中直(APEX 代表理事)、宮前ユミ(海外事業コーディネーター)
・東北大学・APEX 合同ワークショップ「アジア地域に適合的な排水処理技術の新しい展開」
2011 年 12 月 3 日(土)(参加者 28 名)
講師:原田秀樹(東北大学教授)、田中直(APEX 代表理事)
2.WEB サイトによる報告
当会ホームページ、及びブログにて、事業案内・状況報告等を広く一般に行っている。
URL:http://www.apex-ngo.org/
3.会員への報告
APEX の会員に対しては、年 3 回発行の APEX 通信ならびに総会報告等にて事業の進捗を報告している。
4.イベントでの紹介
アースデイ、グローバルフェスタ JAPAN、エコプロダクツ展等のイベントに参加し、APEX の活動の一環として、本事業
を紹介している。
※別添資料
・パンフレット
「ジョクジャカルタ特別州住宅密集地域における住民参加型コミュニティ排水処理モデルシステムの形成」
「インドネシアの都市部住宅密集地域における住民参加型コミュニティ排水処理システム普及促進事業」
・TEKNOLIMBAH (現地で発行しているニュースレター、インドネシア語)
4
(3) プロジェクト詳細
3.1 技術・設計分野
3.1.1 衛生施設に対するニーズ
インドネシアの水質汚濁と衛生環境の問題は深刻である。同国の下水道普及率は2.33%に過ぎず(Susmono,2009)、
総人口約2億5千万人のうち約7000万人、都市部では約1億人のうち、約1800万人がトイレをもたない状態である
(Oswar,2010)。ミレニアム開発目標によれば、2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生設備を継続的に利用でき
ない人々の割合を半減させる必要があり、1990年に基礎的衛生設備を利用できる人の割合が46%であったのに対して、
2015年にはその割合を73%にまで高めなければならない。ところが、2012年の時点で、その割合は57.35%にとどまり、目
標の達成はおぼつかない状況である。トイレのある家庭では、セプティック・タンク(腐敗槽)でトイレ排水を処理するのが
一般的であるが、その処理性能は不十分で、住宅密集地域では、処理水が地下水汚染をもたらしている。また、セプテ
ィック・タンクは整備・保守が悪く、スラッジも河川に直接投棄されている場合が少なくない。トイレ排水以外の生活雑排
水は、多くの場合、未処理放出されており、住宅の周囲に設置された開渠式の排水溝に流される場合が多い。そのよう
な排水溝には、しばしば廃棄物も無秩序に投棄され また、大雨が降ると、汚水が周囲にあふれだす地域が少なくな
い。2006年における衛生環境不良に起因する疾病、乳幼児死亡、水処理費用増大などによる経済損失は、63億ドルに
達するといわれている(WSP-EAP, 2008)。
生活排水は、産業排水とともに深刻な水質汚濁をもたらしており、国内の 9 河川の定点観測によれば、2006 年に対
し、2008 年は、9 河川中 7 河川で汚染度が増大し、いずれも重度の汚染となっている (インドネシア環境省、
2006,2008)。
3.1.2 衛生に関する啓発
このように、都市の衛生環境は劣悪で、水質汚濁の問題も深刻だが、一般に地域の住民には、その問題の深刻さが
認識されておらず、解決・改善の方法も明らかではない。また、地方政府には衛生改善設備を運営管理する体制がとと
のっておらず、設備は地域住民が自主的・自立的に運転管理していく必要がある。
そのようなことから、本事業では、住民が環境・衛生問題に関する理解を深め、その改善のための設備を自分たちのも
のとして自主的に運転管理してもらえるよう、住民参加型システムの構築を重視している。具体的には、以下のプロセス
で進めている。
1)対象コミュニティの選択
地方政府の担当部署(環境局、公共事業局あるいは地域開発計画局)とともに、コミュニティを実地に訪問しつつ、優
先度の高いコミュニティを選択する。選択基準としては、①衛生改善の必要性が高いこと、②技術的に乗り越え不可能
な問題がないこと、③実施前後の効果が明確であること、④モデル性が高いこと、⑤自立的継続的に運転管理がなさ
れる見通しがあること、としている。
2)住民との会合
次に、隣組長や町内会長などとの接触を始め、関心が高ければ、住民との会合を開始する。会合では、環境問題や
衛生問題の重要性と、その改善策としてのコミュニティ排水処理システム設置の意義について理解を深め、地域住民
で、運営委員会を組織してもらう。ついで、住民の合意のもとに設置場所を定め、測量を行って、管渠、処理設備を設
計し、住民に説明して、合意を得る。また、住民の負担するコストについて説明し、合意を得る。住民の負担分は、各家
庭から直近の汚水枡までの接続費用(ハウスコネクション)、トイレ設置費用ならびに運転管理コストとしている。建設開始
までに、計 3 回~10 回程度の会合を開いている。特に住民の負担について賛同が得られないこともあり、その場合は設
置をあきらめる。
3)建設
合意が得られれば、建設を行う。建設費用は、地方政府、本事業予算、住民負担分からなり、住民負担分は、上記
のハウスコネクション部分である。管渠と処理施設の建設費は、地方政府と本事業予算で分担して拠出するが、その割
合は、これまでの例では。地方政府側が 33%、67%、100%と幅がある。管渠建設にともなう掘削など、地域住民が作業に
参加してもらえる部分は参加してもらう。
4)運転管理研修と運転
住民自ら、運転管理チームを形成してもらい、そのチームに対して、運転管理に関する研修を行う。後述のように、処
理設備については、経験のない人でも容易に運転管理ができるような技術選択がなされている。管渠については、もし
閉塞等のトラブルが生じても、対策をとれるような設計としている。研修後に、当該チームにより運転が開始され、また住
民からの運転管理費用の徴収が住民自身により行われる。これらにより、住民の自立的な環境管理能力が高まることも
期待している。
5)モニタリングと評価
水質分析を行いつつ、地方政府、住民とともに、モニタリングと評価を行う。問題があれば対策をとる。
5
3.1.3 設計・配慮
一般に、先進国で使われている活性汚泥法等の技術は、電力消費が大きい上に、運転管理に一定の経験を要し、
途上国の現地では受け入れがむずかしい場合が多い。一方、インドネシアのコミュニティ排水処理で通常行われてい
る、嫌気性バッフルリアクター等の嫌気性処理は、電力を必要としない利点があるものの、設置に広い面積が必要な上
に、処理水質が十分でなく、処理水が水質汚濁をもたらす心配がある。
本事業では、好気性処理と嫌気性処理のそれぞれの利点を生かしつつ、欠点を補いあえるように、両者のハイブリッ
ド型の技術を開発し、その有効性をモデルシステムで実証してきた。すなわち、まず、熱帯の気候に適し、電気の不要
な嫌気性処理で処理を行い、その後段で、電気を必要とするものの、処理水質が良好な好気性処理で仕上げるシステ
ムとしている。さらに、その好気性処理には、運転が容易で電力消費が少ない回転円板式排水処理に着目し、従来の
回転円板と比べて約 4 倍効率が高い(ローター容積当たりの有機汚濁物質除去速度として)立体格子状接触体回転円
板を独自に開発し、それを用いている。これにより、場所をとらず(嫌気性処理のみのプロセスと比べて約 3 分の 1)、電
力消費が少なく、かつ処理水質が良好なプロセスが実現できることを、モデルシステムで実証的に示した。設置費用
は、現地で 100%製造可能としたこと、装置全体がコンパクトであることなどから、これまでインドネシアで採用されてきた
嫌気性処理プロセスと比べて、同等か、やや低い程度である。
また管渠については、コンドミニアル下水道ならびに簡素化下水道の手法を取り入れつつ、私有地、道路地下に、融
通的に管渠を配置し、配管の合流部。曲折部には汚水枡を設置、また直管部分には一定間隔でクリーニングノズルを
配備することにより、閉塞等の問題が生じても容易に対処できる設計とした。
そのようなシステムにより、これまでに、クリチャック・キドゥール地区、スクナン地区、クリチャック・ロール地区、カラン
グ・ワル地区(ジョクジャカルタ特別州)、ランドゥン・サリ地区(プカロンガン市)、スレロック地区(テガール市)、パスカン・ベ
ロダン地区(タバナン県)の計 7 地区にモデルシステムを設置した。処理能力は、各 70~120 世帯分であり、処理水の
BOD(生物化学的酸素要求量)は、20~50ppm で推移している(インドネシアの生活排水基準は 100ppm)
立体格子状接触体回転円板
回転円板に用いる「立体格子状接触体」
コミュニティ排水処理モデルプラント
(ジョクジャカルタ市、クリチャック・キドゥール地区)
コミュニティ排水処理モデルプラント
(プカロンガン市、ランドゥンサリ地区)
6
3.1.4 適合性
現地に適合的で、現地政府と地域住民が受け入れ可能な排水処理技術の要件としては、まず、設置費用・運転管理
費用とも低廉であること、運転管理が容易であることがあげられる。都市の住宅密集地域では、場所をとらないことも重
要な要件となる。
3.1.3 で述べたように、本事業では、嫌気性処理と好気性処理を組み合わせ、さらに好気性処理部分に高効率・省エ
ネルギー的で運転の容易な立体格子状接触体回転円板式排水処理装置を用いることにより、場所をとらず(従来の嫌
気性処理プロセスと比べて約 3 分の 1)、低コストで(設置コストは従来プロセスと同等か低め、電気代はひとつの処理設
備全体で 1,500~2,500 円/月)、運転管理の容易なシステムとしている。
これらにより、インドネシアのみならず、熱帯性~亜熱帯性気候のアジア地域に広く適合性のある技術であるといえ
る。
3.1.5 住民参加度
設置したシステムが、持続的に運転管理されていくためには、住民の参加が不可欠であり、本事業では、技術開発と
ほぼ同等の比重をもって、住民の参加を重視している。住民参加を促す具体的なプロセスは、3.1.2 に述べたとおりで
ある。それにより、対象となるコミュニティの中の大半の住民が衛生改善事業に参加し、継続的に関与している。
3.2 維持・管理分野
3.2.1 資金調達
本事業における、コミュニティ排水処理システムの維持・管理にかかわる費用は、住民が自己負担することを原則とし
ている。住民の費用負担の例としては、ジョクジャカルタ特別州のクリチャック・キドゥール地区においては 2~6 円/日・
家族(収入により差あり、毎日徴収)、同スクナン地区においては、30 円/月・家族(月 1 回徴収)、プカロンガン市のランド
ゥンサリ地区では 5 円/日・世帯(週単位、あるいは月単位で徴収)である。
但し、クリチャック・キドゥール地区においては、落雷とネズミの害により、コンバータ、減速機がそれぞれ破損した例が
あり、そのようなケースにおいては、排水処理適正技術センターが無償で修理・交換を行った。
3.2.2 維持管理(人材)
本事業では、排水処理にかかわる経験のない方でも、容易に運転管理ができるような技術を採用している。回転円板
装置は、モーターと減速機により回転させるだけであり、当該排水の処理に適した微生物が自ずと出現・増殖・剥離して
平衡化し、外部から何も与える必要がない。微生物層が観察でき、装置の状況の把握も容易である。保守としては、軸
受けとチェーンにグリースを補充することと、減速機のオイル交換で済む。もし何等かトラブルがあっても、構成する機器
に特別なものがなく、インドネシアに普遍的に存在する機械工作・溶接場で対処できる範囲である。
設備の運転開始に当たっては、住民が自主的に組織した運転管理グループに対して、運転管理に関する研修を行
い、以後、住民自らが運転を行っている。但し、上記のコンバータや減速機破損のような、住民に対処できないことは、
排水処理適正技術センターが支援して対策をとっている。
運転管理研修の様子
7
3.2.3 維持管理(運営組織)
上述のように、設置したコミュニティ排水処理システムの維持管理は、住民が自主的に組織した運営組織がこれに当
たっている。ジョクジャカルタ市、クリチャック・キドゥール地区の例では、担当者が二人おり、住民から集めた資金の中
から、少額の謝礼を出している。
3.2.4 維持管理(汚水・汚泥)
処理水質は、インドネシアの生活排水処理基準(BOD で 100ppm)を、余裕をもってクリアするレベル(20~50ppm)であ
り、そのまま河川や排水溝に排出するか、地下浸透している。汚泥は、周囲で脱水・乾燥・発酵ができる環境にあれば、
コンポスト化して農地還元することを原則としているが、それがむずかしい場合は、バキューム・カーで汲み取り、し尿処
理施設に送っている。
3.2.5 定着度・使用状況
2006 年度~2008 年度に先行して設置したジョクジャカルタの二つのモデルシステム(クリチャック・キドゥール地区、スク
ナン地区)では、運転開始後 5 年以上を経過した今も、住民の費用自己負担と、住民の自主的に組織されたグループ
により、継続的に運転管理が行われている。それ以外のモデルシステムは、2012 年度、2013 年度に設置されたもので
あるが、現在まで継続的に運転されている。
3.3 拡大・発展分野
3.3.1 効果
コミュニティ排水処理システムの設置にともない、トイレを設置した家庭からは、家にトイレができたため、特に夜間や
雨降りの際に、外に用足しに出る必要がなくなり、快適で安全である、という声が聞かれる。また、家の周囲に開渠式の
排水溝をつくり、そこに生活雑排水を未処理で流していたケースでは、それらの排水溝は雨水のみが流れるようになり、
生活環境の改善は顕著である。しかし、河川の水質に関しては、その河川に排水を流している多数のコミュニティに、排
水処理システムが行き渡らない限り、顕著な改善は期待できず、普及が望まれる。
3.3.2 発展性
開発したコミュニティ排水処理システムは、インドネシアのみならず、他のアジア地域でも広く適用可能なものであり、
また、住民参加型の手法も、それぞれの地域社会の文化、習慣、制度等に留意すれば、適用可能なものと考える。現
在、東南アジア、南アジア諸国の中では、インド、インドネシアについて、衛生環境不良による損失が大きいバングラデ
シュでの適用の検討も始まっており、さらに国際的・広域的普及にも努めたい。
3.3.3 普及面
設置したモデルシステムを例示しつつ、本事業で開発したシステムを紹介するワークショップを、プカロンガン市なら
びにタバナン県で実施し、それぞれ 41 名、約 80 名の参加があった。また、インドネシアの中央政府への働きかけも鋭意
行っており、中央政府の「水供給と環境改善に関するワーキンググループ」において、プレゼンテーションを行った
(2012 年 1 月)他、公共事業省人間居住総局居住環境衛生開発局技術計画部長のリナ・アグスティン・インドゥリアニ氏と
面会し、技術を紹介している(2013 年 1 月)。今後も中央/地方政府関係者への働きかけを継続し、本事業で推奨するシ
ステムがインドネシア政府の推薦するものとなるように努めたい。
3.4 その他
本事業では、コミュニティ排水処理を担う人材の育成や、関係者・組織のネットワーク形成も重視している。2006 年度
以降では、排水処理適正技術にかかわるプログラム研修(2~4 日間)を、計 7 回開催し、計 277 名が参加した。また:現
地に適合的な排水処理に関して、その原理、設計手法などをまとめた「排水処理適正技術マニュアル」を 1000 部発行
し、政府関係者、大学の研究者、NGO メンバー等に配布している。さらに、コミュニティ排水処理にかかわるネットワーク
形成のため、セミナーを計 5 回、計 297 名の参加を得て開催した他、ニュースレターを計 14 号、各 700~750 部発行し
て、マニュアル同様に配布している。
以 上
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