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日本の GDPと GNI及び所得収支について
商学論集 第 7 8巻第 4号 【 論 201 0年 3月 文 】 日本の GDPと GNI及び所得収支について 大 野 正 本論文は,日本の GDP (国内 生産)と GNI (国民 智 所得) ,及び,所得収支について,統計デー タにもとづいて最近の状況を概観する。我が国の国際収支において,所得収支の金額が貿易収支の それを超えたのが 2 0 05年であるが,この所得収支の増大は,GNIと GDPとのギャップを大きくし ている。GNIは 9 3 SNA 基準によって GNPにとって代わった統計概念であるが,これに対応し,マ クロ経済学のいくつかの教科書でも GNPに代わり GNIが紹介され,GNIと GDPの定義上の相違 が紹介されるようになった。しかし,このギャップの GDPに対する比率が 200 7年で 3 . 3 %となり, 両者の相違は量的な意味においても注目されるべき状況となっている。GDP比 3 . 3 %とは,東京都と 大阪府を除く 4 5府県の平均県内 生産の約 2倍に相当する大きさである。また,19 9 6年以降,対外 債権の利回りが対外債務の利回りを上回るようになり,我が国自体が対外債権債務において,金融 機関のように利ざやを稼いでいる状態となっている。これらを,国際収支発展段階説の観点で見れ ば,日本が以前よりも対外的な純債権国の程度を強めており,単純な試算によると,現在の未成熟 な債権国から成熟した債権国に移行するのが,2 ∼2 0 29 0 3 3年頃という予測になる。しかし,国際比 較において日本の GNI ・GDPギャップはすでにかなり高い位置にあり,今後,純債権国としてさら に成熟度を増すことができるかどうかについては,疑問の余地が残る。また,現在の日本政府の財 政赤字問題が将来の国際金融市場にどのように影響するかなど,我が国の対外債権債務の今後につ いては,さらに検討すべき課題が残っていることを最後に指摘する。 1 .はじめに 日本経済のグルーバル化が関心を集めて久しいが,世界的な金融危機,あるいは,中国・インド を始めとする新興諸国経済の急成長など, 日本経済を取り巻く国際環境はますます変容しつつある。 これらは,特に,金融市場におけるグローバル化として関連して議論されるケースが多い。図 1で は,米国経済のグローバル化を検討した Bal l( 20 0 6)の指標に って,日本経済の金融のグローバ ル化の程度を示している。この GDP ( Gr os sDome s t i cPr oduct:国内 生産)に対する対外資産 負債合計の比率は,1 9 89年には初めて 1 00 % を超え 1 1 3 . 7 % になった。そして,9 0年代前半は 8 5% 程度まで低下するが,その後,再び上昇し,2 「対 00 7年には 18 8 . 2 % と最も高い水準となった。なお, 外資産╱ GDP」と「対外負債╱ GDP」との差である純資産対 GDP比は,19 80年の 1 % から拡大を 本稿をまとめるにあたって,匿名レフェリーより有益なコメントを頂いた。また,本研究は科研費(19 ) 530 195 の助成を受けたものである。記して感謝の意を表したい。 8 1 商 学 論 集 第7 8巻第 4号 図 1 日本の金融のグローバル化 資料 :I ) FS(I MFsI nt e r nat i onalFi nanci alSt at i s t i cs 続け,20 0 7年には過去最高の 4 8 . 5% に広がった。このように,日本経済は対外負債よりも対外資産 を蓄積していくスピードが早く,外国に対し純債権国の程度を高めてきているというのが,今日の 日本の金融グローバル化での特徴である。 2 . 貿易収支と所得収支 この純対外資産の蓄積に対応して拡大してるのが,国際収支統計における所得収支である。日本 銀行国際局(19 9 6)によれば, (1 ) 所得収支=雇用者報酬(短期労働者の自国以外での報酬) +投資収益(対外金融資産からの 利子・配当等) であり,投資収益が,対外資産による所得受取から対外債務で生じる支払いを差し引いた金額にな る。図 2は我が国の所得収支を(1 )式のように雇用者所得と投資収益に 割した状況である。投資 収益(左目盛)が雇用者所得(右目盛)を金額において圧倒しており,2 0 08年では,投資収益が約 1 6兆円の黒字であるの対し,雇用者報酬は 25億円の赤字に過ぎない。したがって,近年の日本の場 合,所得収支の動きは,ほとんど,投資収益の動きで反映されていると言ってよい。 ここで,注目すべきは,貿易収支との比較である。図 3にあるように,貿易収支は,1 ・ 986年,9 2 3年,9 8年の約 6年間の間隔で,1 5兆円の黒字を超えながら,振幅を繰り返した。この間,所得収 支は,趨勢的に上昇し,20 0 1年には,約 8兆 4千億円で貿易収支とほぼ同額となり,2 0 05年では, 所得収支(1 1兆 3, 8 0 0億円)が貿易収支(1 0兆 3 , 3 00億円)を初めて超えた。 その後は, 所得収支が 貿易収支を上回っている 。こうして見ると,19 8 0年代,日本の大幅な貿易収支黒字が欧米との貿易 20 08年に貿易収支が大きく下がった。これは,金融危機による世界経済の減速による日本の輸出減(前年比 )を参照。 3. 0% の低下)が考えられる。例えば,内閣府(2 009 8 2 大野 :日本の GDPと GNI及び所得収支について 図 2 所得収支の内訳(億円) 資料 :財務省国際収支状況 図 3 貿易収支と所得収支(億円) 資料 :財務省国際収支状況 摩擦を引き起こし政治問題化した時期があったが,当時の状況と今とでは状況に大きな相違がある と言える。 さらに特徴的なのは,対外資産の利回りと対外債務の利回りの動きである(図 4) 。ここで,それ ぞれの利回りは, 今期の対外資産の利回り =今期の所得収支受取╱ {( 前期末の対外資産+今期末の対外資産) ╱2 } 今期の対外負債の利回り =今期の所得収支支払い╱ {( 前期末の対外負債+今期末の対外負債) ╱ 2} 8 3 商 学 論 集 第7 8巻第 4号 図 4 日本の対外資産・負債の利回り 資料 :I MFI FS と定義している。これによると,19 9 5年までは,対外資産からの利回りと対外債務の利回りがほぼ 同じように推移していたが,1 9 96年以降は,対外資産の利回りが対外債務の利回りより高くなって おり,現在では,その差も 2 . 0ポイントまで拡大している。いわば,我が国が世界全体に対し,金融 機関として利ざやを得ているような状況である。 3 . 国際収支発展段階説 ここで,国際収支発展段階説に基づいて,日本の現状を考察する。国際収支発展段階説とは,鬼 塚編(1 )によれば, 9 85 ,p. 14 8 一つの開放経済が発展途上国の階段から次第に発展して成熟した工業国に達するまでの間に, その国の国際収支構造も経済発展に対応して,初めは資本輸入国でもあったものが資本輸出国 となり最後に成熟債権国となるという規則的なパターンで変化する傾向が,一定の条件の下で 存在するという説 として定義される 。そして,経済産業省(20 0 2)では,表 1 A で示されたような発展段階の 類を イメージで示している。そして,表 1 Bの(A)列にあるように,19 9 6∼2 00 0年平均では,日本が, 未成熟債権国の発展段階にあり,成熟債権国への移行過程にあると結論付けている 。一方,同期間 の平均値で,経済産業省(2 )は,スイスを,成熟債権国に 0 02 類している。 (B)列にあるように, スイスは貿易サービス収支が対 GDP比 4. 8 % でプラスにあるものの,所得収支黒字が対 GDP比 この説に関する理論的な考察は,Oni t s uka(1 97 4)を参照。 20 00年頃までのデータを 用し,当時の日本が成熟債権国に向かいつつある未成熟債権国であるという同様 の見方は,Razgal l ah( 200 4),及び,堀部(2 00 2)においても見られる。 8 4 大野 :日本の GDPと GNI及び所得収支について 表 1A 国際収支発展段階説のイメージ 項目 経常収支 貿易サービ ス収支 程度 黒字(+) ↑ 0 ↓ 赤字(−) 黒字(+) ↑ 0 ↓ 赤字(−) 所得収支 (投資収益 収支) 黒字(+) ↑ 0 ↓ 赤字(−) 資本収支 黒字(+) ↑ 0 ↓ 赤字(−) 対外純資産 残高 黒字(+) ↑ 0 ↓ 赤字(−) I .未成 熟債権国 I I .成熟 債務国 − − + 表 1B 国際収支・純資産の対 GDP比(%) I I I .債務 返済国 I V.未成 熟債権国 V.成熟 債権国 + + + + + + + + − + + − + + + + − − + − − − + + (出所)経済産業省(20 02,第 23-1図)のイメージ図 に基づき,筆者作成 ( ( ( ( B)スイス C)日本 D)日本の E)日本 (96 -0 年変化 (20 0 0年 (2 00 4 8年 2 93 3年 平均) 平均) {(C)-(A)}/8 平均予想) 2. 4 7. 8 3. 9 0. 19 8. 5 9 貿易サービ ス収支 1. 3 4. 8 1. 5 0. 03 2. 1 3 所得収支 1. 3 7. 1 2. 6 0. 16 6. 6 6 資本収支 −2. 6 −1 0. 4 −2 . 6 0. 00 −2 . 60 22 . 9 1 2 6. 8 41. 7 2. 35 1 0 0. 4 5 対外純資産 残高 + − ( A)日本 (9 60 0年 平均) 経常収支 − − − 項目 − − − VI .債権 取崩国 ) 1)経済産業省(2 002 2)財務省「国際収支状況」,I MF I FS より筆者算出 ,そして,対外純資産残高が対 GDP比で 1 7 . 1% で高いこと(なお,2 00 0年では,約 1 0 %) 00 %を 大きく超えていることが,その理由として挙げられている。なお,表 1 -Bの (C) 列では,筆者が 2 00 4 ∼20 0 8年平均の日本の状況を改めて計算したが,当時と比べ,所得収支,対外純資産ともに上昇し, 日本が成熟債権国の段階にさらに近づいていることが明らかになった(他の国際収支の項目等を含 めた全般的な時系列の推移は,付図 1を参照) 。 ここで, (A)列から(C)列への変化を年平均にすると(D)列に示されたようになり,例えば, 対外純資産残高は一年間に 2 (D)列の年間変化が,今 . 3 5ポイント上昇していたことになる。もし, 後,一定のまま継続すると仮定すれば, (E) 列にあるように 20 2 9∼20 3 3年の年平均で,対外純資産 残高が 1 ×2 ) となり,初めて 1 0 0. 4 5 %(=2 . 35 5 00 % を超えることになる。この時,所得収支は 6 . 6% (=0 )となり, (B)列のスイスと似たようなレベルに達する。経済産業省(2 )に倣って, . 1 6×25 0 02 仮に,対外純資産残高が 1 0 0 % を超えることが成熟債権国の条件の 1つとすれば,日本がその段階 に達するのは,現在,本論文を執筆している 2 ∼2 00 9年から数えて,その 2 0 5年後ということにな る。 4 . GDPと GNIの相違 こういった状況の変化を踏まえ,日本の GDP統計を見ると,必ずしも GDPが我が国の所得を反 映するのにふさわしい唯一の統計とは言えない面が浮かび上がる。 GDPを含むマクロ統計の体系的計算基準は,国民経済計算(Sys t e m of Nat i onal Ac c ount s: として,国際連合統計部において作成・改訂されており ,現在,1 SNA) 9 93年に国連によって勧告 国際連合のウェブサイト(ht //uns t p: t at s . un. or g/uns d/def aul t . ht m)を参照。 8 5 商 表2 学 論 集 第7 8巻第 4号 マクロ経済学」の教科書において,GNIの記述があるいくつかの例 教科書 章番号 章のタイトル 吉川(200 9,2 00 1) 第 1章 国民所得統計 二神・堀(20 09) 第 1章 マクロ経済学の考え方 中谷(200 7) 第 2章 GDPを理解する 竹田・小巻(200 6) 第 2章 マクロ経済の概観 福田・照山(200 5) 第 1章 GDPとは何だろうか 岡村(200 5) 第 1章 マクロ経済の量と循環 井堀(200 3) 第 2章 国民経済計算と GDP された国際基準(93 SNA)に基づいて,世界の多くの国々が,GDPを始めとするマクロ統計を報告 している。その意味で,SNA とは国際比較を可能にする統計基準であり,日本では,内閣府経済社 会 合研究所が,日本の GDP等マクロ統計の計算・ 表を行っている 。 以前は,19 6 8年に国際連合によって勧告された 6 8SNA にもとづいて計算が行われていたが,そ の際に 用されていた GNP(Gr os sNat i onalPr oduc t:国民 GNI(Gr os sNat i onalI ncome:国内 生産)の概念が,9 3 SNA によって, 所得) にとって代わった。日本における 9 3SNA 移行は,2 00 0 年1 0月なので,GNIという名称そのものの 用の歴 は,未だ 10年間に満たない 。 一般に,GDPについて,多くのマクロ経済学の教科書では,章立てとして,理論的考察を始める 前に,章一つの 量を割いて説明を行うケースが多い。そこでは,国内と国民との概念の相違を説 明する際,国内 生産(GDP)に対し,国民 生産(GNP)を引き合いにするのが通例であった。 しかし,上記の改訂に伴い,GNPではなく GNIと GDPとの相違について記述するタイプも,最近 では多くみられるようになった (表 2参照) 。その上で,量的な意味においても,GNIの最近の重要 性を指摘している文献もある。例えば,吉川( )では,GNIと GDPの差が対 GDP比で,20 20 0 9 0 8年 「相違は次第に無視しえないものになってきた」 としている 。また,竹 3 . 3% となったことに言及し, 田・小巻(2 においても,章末の練習問題を通して GNIの有用性について言及している。 0 0 6) ここで,あらためて GDPと GNIの相違を示すと,名目値において, (2 ) GNI −GDP=海外からの所得の純受取=海外からの所得受取−海外に対する所得支払 となる。さらに,土肥・他(2 0 0 6)によれば, (3 ) 海外からの所得の純受取=所得収支+特許 用料等+在日米軍の日本人職員給与, である。図 5にあるように, 「海外からの所得の純受取」と「所得収支」はほとんど同じ動きを示し てきた。ただし,近年, 「海外からの所得の純受取」のうち「所得収支」の占める割合はやや低下し, 内閣府のウェブサイト(ht // )を参照。 t p: www. es r i . go. j p/ 各国の移行年については,浜田(2 00 1)を参照。 第 3版の吉川(200 に対し,第 2版の吉川(20 )でも,すでに GNIを紹介しており,GDPとのギャップの比 9) 01 率が,20 )では,次第に無視しえない相違になっ 00年に 1. 3% であったことに言及している。ただし,吉川(2 001 てきているものの「両者の乖離は小さい」としていた。 8 6 大野 :日本の GDPと GNI及び所得収支について 図 5 海外からの所得の純受取と所得収支(億円) 資料 :財務省国際収支状況,内閣府国民経済計算 図 6 海外との所得受取・支払の対 GDP比 資料 :内閣府国民経済計算 ∼2 2 0 06 0 08年にかけては,95 % 前後である 。したがって,日本の場合,おおむね,GNIと GDPの ギャップの多くは所得収支であると言える。 ここで,あらためて,対 GDPの比率として,海外からの所得受取,海外に対する所得支払,およ び,その差額(すなわち,GNI −GDP)を示したのが図 6である。「海外からの所得受取╱ GDP」と 「海外に対する所得支払╱ GDP」 は,90年代後半から 2 0 00年代前半にかけて低下した後,再び上昇 する動きを示したが,世界的な金融危機もあった 2 「(GNI − 00 8年では,やや低下している。一方, 特許 用料に関する国際的な受取・支払いや,在日米軍への支出など,今後の国際的な政治動向を見る上でも 興味深い問題であるが,本論文では, 析の対象外とする。 8 7 商 学 論 集 第7 8巻第 4号 GDP)╱ GDP」でみると,その長期的な動きは,ほぼ,一貫して上昇傾向にあり,特に,2 0 04年以 降,その上昇スピードを高め,20 0 7年で 3 . 3%と過去最高値なった。そして,20 0 8年も 3 . 3%と横ば いである。 このように,我が国では,所得収支の増加とともに, GNIと GDPのギャップが広がってきており, 文字通り,I ,Pr ncomeとしてのマクロ統計は GNI oductとしてのマクロ統計は GDPと,定義上の 相違に加え,数値上での相違も留意すべき段階になりつつあると言える。 5 . 国内経済との比較 (GNI −GDP) ╱ GDPが,約 3 20 0 7,20 0 8年で, . 3 % で推移しているが,この大きさがどのくらい かを,都道府県別の県内 生産の全国計に対する比率で見る 。表 3は,この比率を大きい順に並べ 表 3 都道府県別県内 都道府県 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 東 京 大 阪 愛 知 神 奈 川 埼 玉 兵 庫 千 葉 北 海 福 岡 静 岡 広 島 茨 城 京 都 新 潟 宮 城 栃 木 長 野 三 重 福 島 群 馬 岡 山 岐 阜 滋 賀 山 口 熊 本 鹿 児 島 愛 媛 青 森 富 山 岩 手 都 府 県 県 県 県 県 道 県 県 県 県 府 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県内 生産 20 06年度 (百万円) 9 2, 2 77, 1 27 3 8, 8 08, 5 82 3 6, 5 06, 1 97 3 1, 7 75, 2 35 2 0, 8 69, 9 14 1 9, 6 46, 6 56 1 9, 2 46, 4 54 1 8, 9 11, 1 57 1 8, 0 94, 7 37 1 6, 8 66, 4 68 1 2, 2 49, 6 98 1 0, 9 50, 7 28 1 0, 2 36, 0 70 9, 0 78, 9 72 8, 4 68, 4 58 8, 2 31, 1 94 8, 1 47, 1 71 8, 0 27, 4 79 7 , 8 97, 2 54 7, 6 41, 1 58 7, 5 34, 0 03 7, 4 72, 2 19 6, 0 86, 3 39 5, 7 36, 1 42 5, 7 08, 6 26 5, 3 23, 1 40 4, 9 54, 7 78 4 , 6 23, 8 86 4, 5 76, 2 88 4 , 5 30, 9 85 資料は,2 006年度県民経済計算で 200 9年 6月 8日 生産 全県計に 対する比率 17. 7 9% 7. 4 8% 7. 0 4% 6. 1 2% 4. 0 2% 3. 7 9% 3. 7 1% 3. 6 5% 3. 4 9% 3. 2 5% 2. 3 6% 2. 1 1% 1. 9 7% 1. 7 5% 1. 6 3% 1. 5 9% 1. 5 7% 1. 5 5% 1. 5 2% 1. 4 7% 1. 4 5% 1. 4 4% 1. 1 7% 1. 1 1% 1. 1 0% 1. 0 3% 0. 9 6% 0. 8 9% 0. 8 8% 0. 8 7% 累積比率 100 . 00 % 82 . 21 % 74 . 73 % 67 . 70 % 61 . 57 % 57 . 55 % 53 . 76 % 50 . 05 % 46 . 41 % 42 . 92 % 39 . 67 % 37 . 31 % 35 . 20 % 33 . 23 % 31 . 48 % 29 . 84 % 28 . 26 % 26 . 69 % 25 . 14 % 23 . 62 % 22 . 14 % 20 . 69 % 19 . 25 % 18 . 08 % 16 . 97 % 15 . 87 % 14 . 85 % 13 . 89 % 13 . 00 % 12 . 12 % 表のものである。現在,執筆している時点で,最新版が この 200 6年度であるので,このデータに基づいた都道府県別比率を 8 8 用する。 大野 :日本の GDPと GNI及び所得収支について 県内 生産 全県計に 20 06年度 対する比率 (百万円) 石 川 県 31 4, 5 16, 2 29 0. 8 7% 大 県 32 4, 4 68, 3 82 0. 8 6% 長 崎 県 33 4, 2 76, 4 59 0. 8 2% 山 形 県 34 4 , 1 35, 6 11 0. 8 0% 香 川 県 35 3, 7 90, 6 49 0. 7 3% 秋 田 県 36 3 , 7 76, 3 20 0. 7 3% 奈 良 県 37 3, 7 38, 4 39 0. 7 2% 沖 縄 県 38 3, 6 87, 6 20 0. 7 1% 宮 崎 県 39 3, 5 07, 4 35 0. 6 8% 和 歌 山 県 40 3, 4 68, 8 15 0. 6 7% 福 井 県 41 3, 3 18, 6 00 0. 6 4% 山 梨 県 42 3, 2 41, 3 42 0. 6 2% 佐 賀 県 43 2, 8 96, 4 12 0. 5 6% 徳 島 県 44 2, 6 70, 1 25 0. 5 1% 島 根 県 45 2, 4 87, 4 86 0. 4 8% 高 知 県 46 2, 3 10, 1 71 0. 4 5% 鳥 取 県 47 2, 0 56, 8 70 0. 4 0% 全 県 計 51 8, 8 24, 0 80 1 00. 0 0% 平均( 東京・大阪除く) 8, 6 16, 4 08 1. 6 6% 資料 :内閣府 2 006年度「県民経済計算」 は,東北地方の県 都道府県 累積比率 11 . 25 % 10 . 38 % 9 . 51 % 8 . 69 % 7 . 89 % 7 . 16 % 6 . 43 % 5 . 71 % 5 . 00 % 4 . 33 % 3 . 66 % 3 . 02 % 2 . 39 % 1 . 84 % 1 . 32 % 0 . 84 % 0 . 40 % た結果である。3 . 3% が,ちょうど 1県の大きさに匹敵するのが静岡県の 3 . 2 5 % である。比率が小さ い順に合計した累積比率で言えば,鳥取,高知,島根,徳島,佐賀,山梨の 6県の合計までが 3. 0 2 %, それに,7県目の福井を加えると 3 . 66 %で3 . 3 % を超える水準となる 。ちょうど,東京,大阪を除 いた 4 5府県の県内 の 生産の平均が 1. 6 6 % にあたるので,約 2倍,つまり,平均的な地方府県の 2つ 生産が日本の GNIと GDPのギャップに相当する。その意味で,GNIと GDPのギャップが 対 GDP比で,3. 3 % と言うのは決して少なくない大きさと言える。 なお,海外からの所得受取は,2 00 7年で,対 GDP比で 5 . 1 % であり,これは,群馬,栃木,茨城 3県の合計 5 . 17 % とほぼ近く,海外に対する所得支払は 1 . 8% なので,新潟県の 1. 7 5 % に近い値と なる。 6 . 外国経済との比較 図 7は,G7の国々の(GNI −GDP) ╱ GDPの推移を示している。この比率が,日本のように上昇 傾向にあるのは,カナダ,ドイツ,英国である。一方,フランス,イタリア,米国では,このよう な傾向は見られない。図 8は,OPEC主要産油国と日本を比較している。クウェートが突出した値 を示しているが,近年は低下傾向である。その他の国々は,日本と比較して特に高いというわけで はない。 オイルマネーと呼ばれる産油国の国際的資金移動とは無関係でない産油国の所得収支は, ク 東北地方で言えば,青森,岩手,山形,秋田の 4県合計が 3. 2 9% で,ほぼ同比率である。なお,宮城,福島の 2県の合計は 3 . 15 % である。 8 9 商 学 論 集 第7 8巻第 4号 図 7 G7諸国(GNI −GDP/ GDP),資料 :I MF-I FS 図 8 OPEC 主要産油国と日本(GNI -GDP/ GDP) 資料 :I )による原油生産量の OPEC内順位, MF-I FS,( )は,石油情報センター(20 09 UAE(3)は GNI非 表 図 9 G20(除く G7)諸国と日本(GNI −GDP/GDP) 資料 :I MF-I FS(ロシア,メキシコ,トルコは GNI非 表) 9 0 大野 :日本の GDPと GNI及び所得収支について ウェートを除き,特段,高いものではないと言える。図 9は,G7を除く G20の国々と日本を比較し ている。多くの国々がマイナスの値であるが,ブラジル,インドネシア,韓国は,近年,上昇傾向 にある。中国,インドは,2 00 6年のデータは未 表なものの,19 90年から 200 0にかけては上昇し ている。これらの 5カ国においては,経済成長につれ所得収支が上昇傾向にあることがうかがえ,国 際収支発展段階説に近い動きをしていると言える。 最後に,2 (GNI −GDP) ╱ GDPの比率を大きい順に並 00 8年データで入手可能な国々について, べたのが表 4である。これによると,比率算出可能だった国々は 6 7カ国であるが,日本はそのうち, 上位 8番目である。注意点として,1位のモンゴル,2位のフィリピン,7位のアンギラは,その高 い比率の多くを,投資収益ではなく,雇用者報酬(短期労働者の自国以外での報酬)で占めている と考えられる。日本の場合,先に述べたように,雇用者報酬(短期労働者の自国以外での報酬)の 所得収支に占める比率は極めて低く,表 4でも示しているように,受取の比率が 0 . 1 %(支払いでの 比率は 0 に過ぎない。しかし,これら 3ヵ国は,受取比率で 2 . 3%) 0 % 以上を占めており,特にフィ リピンでは,7 (GNI −GDP)╱ GDP 0% 近くを雇用者報酬で得ている。したがって,これらの国々の が高い理由は,投資収益の高さではないと言える。また,I (先 MFが定めた Advanc edEc onomi e s 進経済)は 3 3の国と地域であるが,そのうち,表 4に示すことができたのは,*印の 2 6の国と地 域である。このうち,日本より高い比率を示したのは香港だけであり,先進経済の中で,日本はす でに高い状態にあると言える 。一方,最も低い比率を示しているのがアイスランドで−3 1. 4 % であ る。なお,表 4にはないが 2 00 7年では−3 . 4% であったので,この一年間で大きな低下である。ア イスランドは 2 0 0 8年の世界金融危機の影響を強く受け国内銀行が国有化された。また,アイスラン ド通貨のクローナ(I SK)は暴落し,2 00 8年 9月 1日の 1ユーロ=1 22 . 6 8I SK であった欧州中央銀 行のレファレンスレートは,1 0月 3 1日では,1ユーロ=3 05 . 0 0I SK となった 。 7 .おわりに こうして見てきたように,日本は,国際収支発展段階説によると,未成熟な債権国にありながら も,ますます,成熟した債権国の段階にむかって進んでいる。簡単な試算によれば,20 2 9∼203 3年 頃,成熟した債権国の段階に移行するものと予想される。現在でも, (GNI −GDP) ╱ GDPは 3 . 3% であり,これは,東京都・大阪府を除く 4 5府県の平均県民 生産の 2倍の匹敵する大きさである。 ただし,日本がこのまま,成熟した債権国に進むかどうかについては,疑問の余地も残る。1つは, (GNI −GDP) ╱ GDPの比率がすでに高く,20 0 8年の入手可能なデータで,日本よりも先進経済で 高いのは香港のみである。それ以外の経済も比較的規模の小さい国々に限られており,海外からの 雇用者報酬受取で比率が高くなっている国もある。日本のような規模を持った経済が,たとえ,投 資収益に依ったとしても,はたしてこのまま比率を増大させ続けられるかは不確かである。 スイスは GNIが非 表であった。 / /www. /s / /ht / -gr ht t p: e cb. i nt t at s exc hange/ eur of xr e f ml eur of xr ef aphi s k. en. ht ml参照。なお,アイスラン ドの詳細については今後の課題とする。 9 1 商 学 論 集 第7 8巻第 4号 表 4 20 ・GDPギャップ比が入手可能な国・地域 08年データで GNI 2 0 0 8年 国(地域)名 (GNI GDP) / GDP 2 0 0 8年 2 0 0 8年 外国からの雇 外国への雇用 用者報酬受取/ 者報酬支払/ 所得収支受取 所得収支支払 2 5 . 8 % NA 6 8 . 5 % NA 6 . 5 % 0 . 8 % NA NA 0 . 3 % 0 . 4 % NA NA 2 5 . 5 % NA 0 . 1 % 0 . 3 % 1 . 1 % NA 0 . 8 % 1 . 4 % 0 . 4 % 0 . 7 % 2 . 5 % 8 . 5 % NA NA NA NA 3 . 0 % 3 . 3 % 1 . 4 % 1 0 . 6 % 以下,6 1位まで略 1 Mo n g o l i a 1 2 . 3 % 2 Ph i l i p p i n e s 1 0 . 6 % 3 Ba n g l a d e s h 8 . 9 % 4 Ku wa i t 6 . 8 % 5 Ch i n a , P. R. :Ho n gKo n g * 4 . 9 % 6 Ba h r a i n ,Ki n g d o mo f 4 . 4 % 7 An g u i l l a 3 . 4 % * 8 J a p a n 3 . 3 % 9 Pa ki s t a n 2 . 2 % * 1 0 Swe d e n 2 . 2 % * 1 1 Un i t e dKi n g d o m 2 . 2 % * 1 2 De n ma r k 2 . 1 % 1 3 Ma u r i t i u s 1 . 8 % * 1 4 Ne w Ze a l a n d 1 . 8 % * 1 5 Ge r ma n y 1 . 6 % * 1 6 No r wa y 0 . 9 % * 1 7 Fr a n c e 0 . 7 % * 1 8 Ko r e a ,Re p u b l i co f 0 . 7 % * 1 9 Be l g i u m 0 . 4 % * 2 0 Un i t e dSt a t e s 0 . 3 % 2 1 Ve n e z u e l a ,Re p .Bo l . 0 . 1 % * 2 2 Ne t h e r l a n d s 0 . 1 % 2 3 Sa u d iAr a b i a 0 . 0 % −0 2 4 Ke n y a . 1 % −0 2 5 Bu r u n d i . 4 % * −0 2 6 Fi n l a n d . 7 % −0 2 7 Ba h a ma s ,Th e . 7 % −0 2 8 Ukr a i n e . 9 % * −0 2 9 Ca n a d a . 9 % * −1 3 0 I t a l y . 4 % * −1 3 1 Au s t r i a . 5 % −1 3 2 Bu l g a r i a . 5 % * −1 3 3 I s r a e l . 6 % −1 3 4 Ur u g u a y . 7 % −2 3 5 La t v i a . 1 % * −2 3 6 Sl o v e n i a . 2 % −2 3 7 ElSa l v a d o r . 4 % −2 3 8 Ho n d u r a s . 5 % −2 3 9 Br a z i l . 5 % −2 4 0 Co s t aRi c a . 6 % −2 4 1 Ar g e n t i n a . 7 % * −2 4 2 Si n g a p o r e . 7 % −2 4 3 Li t h u a n i a . 8 % * −3 4 4 Ma l t a . 0 % −3 4 5 So u t hAf r i c a . 2 % * −3 4 6 Gr e e c e . 3 % −3 4 7 Vi e t n a m . 3 % −3 4 8 Ma l a y s i a . 4 % −3 4 9 I n d o n e s i a . 6 % −3 5 0 Tr i n i d a da n dTo b a g o . 7 % * −3 5 1 Au s t r a l i a . 9 % −4 5 2 Th a i l a n d . 6 % −4 5 3 Do mi n i c a . 7 % −4 5 4 St . Vi n c e n t& Gr e n s . . 8 % −5 5 5 Gr e n a d a . 0 % −5 5 6 J a ma i c a . 2 % −5 5 7 St . Ki t t sa n dNe v i s . 8 % −6 5 8 An t i g u aa n dBa r b u d a . 2 % −6 5 9 Es t o n i a . 4 % −6 6 0 Ye me n ,Re p u b l i co f . 5 % −6 6 1 St .Lu c i a . 9 % * −7 6 2 Cz e c hRe p u b l i c . 1 % 1 5 . 4 % 1 2 . 9 % −8 6 3 Ch i l e . 2 % 0 . 0 % 0 . 0 % −9 6 4 Za mb i a . 4 % NA 2 . 7 % * −1 6 5 I r e l a n d 4 . 2 % 0 . 5 % 0 . 9 % −2 6 6 Co n g o ,Re p u b l i co f 4 . 6 % 6 4 . 5 % 3 . 7 % * −3 −5 6 7 I c e l a n d 1 . 4 % . 2 % 0 . 5 % )2 a 0 0 5年のデータのみ入手可 *I MF Wo r l dEc o n o mi cDa t a b a s e で定義されている Ad v a n c e dEc o n o mi e s 資料 :I MFI FS,I MF Ba l a n c eo fPa y me n t sSt a t i s t i c s 9 2 大野 :日本の GDPと GNI及び所得収支について また,日本は国全体として対外的には純債権国でも,政府の債務状況は必ずしも 全ではない。財 務省(2 )によれば,日本政府(ここでは,中央政府,地方政府,社会保障基金を合わせた一般 0 08 政府)の純債務残高(政府の 債務残高−政府保有の金融資産)の対 GDP比は,20 0 8年で,86 . 8% であり,米国の 48 . 6% を大きく超え,イタリアの 9 0. 7 % に次いで G7中 2番目の大きさである。将 来,日本政府の債務残高が増大し続ければ,日本の国債の信用度は落ち込み,それにともない金利 の上昇を招くであろう 。9 0年代後半,邦銀が海外で資金調達する際,調達金利にジャパン・プレミ アムと呼ばれる上乗せ を余儀なくされたように,今度は,国債問題に端を発した金利上昇が,日 本の対外債務において発生する可能性がある。そして,それが中長期的な性質となれば,我が国の 純債権国の程度が後退することもあり得るであろう。 こうした,我が国全体の対外的な債権債務が,政府の債務状況との関係で,今後,どのようにな るか,さらには,これらが,国民生活全般にどのように関わるのかについては,今後の課題とした い。 付図 1 日本の国際収支と対外資産(億円) 資料 :財務省国際収支状況,I MFI FS 参考文献 井堀利宏(20 03)『入門マクロ経済学』(第 2版)新世社 岡村宗二 ( 20 05)『ファンダメンタル マクロ経済学』中央経済社 鬼塚雄丞 編 (19 85)『資本輸出国の経済学』通商産業調査会 経済産業省(2 )『20 // /t / 002 02年版通商白書』ht t p: www. me t i . go. j p/ r e por t s uhaku20 02/ 14Ts uus hohpdf i nde x. ht ml 財務省(20 )『日本の財政を考える』ht //www. /s 08 t p: mof . go. j p/j ouhou/ s yukei y014 . ht m 石油情報センター (200 / /oi 9)『OI L NOW 』ht t p: l i nf o. i e ej . or . j p/ dat a/ oi l now20 09. pdf 竹田陽介・小巻泰之(2 00 6)『マクロ経済学をつかむ』有 閣 土肥原洋・増淵勝彦・丸山雅章・長谷川秀司(2 )「国民経済計算から見た日本経済の新動向」内閣府経済社会 006 合研究所 ESRIディスカッションペーパーNo. 167 債の累増が金利上昇を招く懸念については,例えば,平田(2 )を参照。 009 9 3 商 学 論 集 第7 8巻第 4号 内閣府 ( )『平成 21年版経済財政白書』日経印刷 20 09 中谷巌(20 )『マクロ経済学入門』(第 2版)日本経済新聞社 07 日本銀行国際局 (19 96)「資料 国際収支統計の改訂について」日本銀行『日本銀行月報』2月号 浜田浩児(20 )『 01 93SNA の基礎 国民経済計算の新体系』東洋経済新報社 平田育夫(20 09)「核心 :日本国債いつ火を噴くか−成長と財政の未来図がカギ」『日本経済新聞』1 2月 2 1日付 福田慎一・照山博司(2 00 5)『マクロ経済学・入門』(第 3版)有 閣 二神孝一・堀 敬一(2 00 9)『マクロ経済学』有 閣 堀部智 ( )「わが国所得収支の現状と課題について」『調査月報(東京三菱銀行)』4月,No.7 20 02 3,pp.2 6-3 6 吉川洋 ( )『マクロ経済学(第 2版) 』岩波書店 20 01 吉川洋 ( )『マクロ経済学(第 3版) 』岩波書店 20 09 ). HasGl Bal l ,L. M.(2 006 obal i zat i onChange dI nf l at i on? NBER Wor ki ngPaper1 268 7. Oni t s uka,Y.( 197 4) . I nt er nat i onalCapi t alMovement sandt hePat t er nsofEconomi cGr owt h Amer ican Economic Review .Vol .6 4,No.1 . Razgal l ah,B.( 200 4). Thebal anc eofpayment ss t ageshypot hes i s:A r eappr ai s al . pr es e nt edatt he21 Sympos i um onBanki ngandMonet ar yEc onomi csi nNi ce . 9 4