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アフリカツメガエルのエリスロポエチン受容体の 構造と発現に関する研究

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アフリカツメガエルのエリスロポエチン受容体の 構造と発現に関する研究
アフリカツメガエルのエリスロポエチン受容体の
構造と発現に関する研究
Structure and expression of erythropoietin
receptor-like molecule in Xenopus laevis
2005 年 7 月
早稲田大学大学院理工学研究科
生命理工学専攻
会沢
分子生理学研究
洋一
目次
[目次]
[略語一覧]
[図表一覧]
[第 1 章]
緒言
1-1.
1-2.
1-3.
1-4.
哺乳類における造血システム
造血の個体発生と系統発生
赤血球産生制御機構
本研究の狙い
・・・1
・・・3
・・・6
・・・10
[第 2 章]
ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
2-1.
序論
2-2.
材料と方法
2-2-1.
ゼノパス EPO 遺伝子のクローニング
2-2-2.
ゼノパス EPO mRNA の検出
2-3.
結果
2-2-1.
ゼノパス EPO 遺伝子のクローニング
2-3-2.
ゼノパス EPO mRNA の検出
2-4.
考察
・・・13
・・・17
・・・21
・・・25
目次
[第 3 章]
ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-1.
序論
3-2.
材料と方法
3-2-1.
幼若赤血球の調製
3-2-2.
ゼノパス EPOR cDNA プローブの調製
3-2-3.
幼若赤血球 cDNA ライブラリの作製
3-2-4.
ゼノパス EPOR cDNA のクローニングと配列解析
3-3.
結果
3-3-1.
ゼノパス EPOR cDNA のクローニング
3-3-2.
ゼノパス EPOR の一次構造の疎水性解析
3-3-3.
アミノ酸配列の解析と相同性の解析
3-4.
考察
・・・27
・・・28
・・・31
・・・38
[第 4 章]
ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-1.
4-2.
序論
・・・39
材料と方法
・・・40
4-2-1.
成体の各組織における xlEPOR の mRNA の発現解析
(ノーザンハイブリダイセーション)
4-2-2.
成体の末梢血球における xlEPOR の mRNA の発現解析
(in situ ハイブリダイゼーション)
4-2-3.
抗 xlEPOR ウサギポリクローナル抗体の作製
4-2-4.
組織免疫染色
4-3.
結果
・・・46
4-3-1.
成体の各組織における xlEPOR の発現解析
4-3-2.
末梢血球における xlEPOR の発現解析
4-3-3.
免疫組織染色
4-4.
考察
・・・50
目次
[第 5 章]
ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
5-1.
5-2.
序論
材料と方法
5-2-1.
ゼノパス胚の採取
5-2-2.
胚発生における xlEPOR の発現解析(RT-PCR)
5-3.
結果
5-4.
考察
・・・53
・・・54
・・・56
・・・57
[第 6 章]
可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
6-1.
6-2.
序論
材料と方法
6-2-1.
可溶型 xlEPOR の調製
6-2-2.
可溶型 xlEPOR の成体への in vivo 投与
6-3.
結果
6-3-1.
可溶型 xlEPOR の投与による末梢赤血球数の減少
6-3-2.
末梢血球の形態学的変動
6-4.
考察
・・・59
・・・60
・・・62
・・・65
[第 7 章]
総括と展望
7-1.
7-2.
総括
展望
・・・67
・・・71
[参考文献]
・・・73
[謝辞]
・・・81
目次
[略語一覧]
エリスロポエチン
(Erythropoietin ; EPO)
エリスロポエチン受容体
(Erythropoietin receptor ; EPOR)
スロンボポエチン
(Thrombopoietin ; TPO)
顆粒球コロニー刺激因子
(Granulocyte colony-stimulating factor ; G-CSF)
G-CSF 受容体
(G-CSF receptor ; G-CSF-R)
ダルベッコ改変リン酸等張緩衝液
(Dulbecco’s modified phosphate buffered saline without calcium and
magnesium ; DPBS) (NaCl 8g, KCl 0.2g, KH2PO4 2g, Na2HPO4-12H2O
2.31g per 1 litter, pH 7.3)
7/9 倍濃度 DPBS
(7/9 diluted Dulbecco’s modified phosphate buffered saline without calcium
and magnesium ; dDPBS)
トリス等張緩衝液
(Tris buffered saline ; TBS) (20mM Tris-HCl pH7.5, 500mM NaCl)
0.1 % ツイーン 20 含有 TBS
(TTBS)
ブロックエース含有 TTBS
(BA/TTBS)
SSC 緩衝液
(Saline sodium citrate;SSC) 20 x stock solution (3.0 M NaCl, 0.3 M Na-citrate)
Xenopus laevis EPO 受容体
(Xenopus laevis erythropoietin receptor ; xlEPOR)
Xenopus tropicalis EPO 受容体
(Xenopus tropicalis erythropoietin receptor ; xtEPOR)
グルタチオン S-トランスフェラーゼ
(glutathione S-transferase ; GST)
腹部血島
(Ventral blood island ; VBI)
背側部中胚葉
(Dorsal lateral plate ; DLP)
大動脈-生殖原基-中腎
(Aorta-gonad-mesonephros ; AGM)
肝細胞特異的転写因子
(Hepatocyte nuclear factor ; HNF)
低酸素応答因子 α 鎖
(Hipoxia inducible factor-1α ; HIF-1α)
アリルハイドロカーボン受容体核移行因子
(Arylhydrocarbon Receptor Nuclear Translocator ; ARNT)
低酸素応答配列
(Hypoxia responsible element ; HRE)
Janus チロシンキナーゼ
(Janus kinase ; JAK)
シグナル伝達性転写因子
(Signal Transducer and Activator of Transcription ; STAT)
フェニルヒドラジン
(Phenylhydrazine ; PHZ)
メイグリュンワルドギムザ
(May-Grunward-Giemsa ; MGG)
トルイジンブルー
(Toluidine blue ; TB)
ポリクローナルイムノグロブリン G
(Polyclonal immunoglobulin G ; PoIgG)
赤芽性コロニー形成細胞
(Colony-forming unit-erythroid ; CFU-E)
赤芽性コロニー群(バースト)形成細胞
(Burst-forming unit-erythroid ; BFU-E)
5-bromo-4-chloro-3-indoyl phosphate p-toluidine salt
(BCIP)
目次
3,3'-[3,3'-Dimethoxy-(1,1'-biphenyl)-4,4'-diyl]-bis[2-(4-nitrophenyl)-5-phenyl-2H-tetrazolium chloride]
(Nitro-TB)
Isopropyl-Thio-β-D-Galactopyranoside
(IPTG)
ヂチオスレイトール
(Dithiothreitol ; DTT)
ウシ胎仔血清
(Fetal Calf Serum ; FCS)
Ethylenediaminetetraacetic acid
(EDTA)
インターロイキン
(Interleukin ; IL)
イスコフ改変ダルベッコ培地
(Iscove's Modified Dulbecco's Medium ; IMDM)
目次
[図表一覧]
第1章
図 1-1
図 1-2
図 1-3
図 1-4
図 1-5
図 1-6
図 1-7
図 1-8
血球細胞の分化の系譜
マウスとゼノパスの一次造血と二次造血と造血巣の移動
各種の動物の造血巣とその移動
EPO 遺伝子発現の機構
ヒトの赤血球前駆細胞の分化段階と EPOR の発現時期
EPO の EPOR を介したシグナル伝達
EPO のアミノ酸配列の分子進化系統樹
ゼノパスとヒトの末梢血球の数と形態の相違
図 2-1
図 2-2
図 2-3
図 2-4
図 2-5
図 2-6
PHZ 投与による末梢赤血球数の減少
EPO のアミノ酸配列の相同性
脊椎動物の EPO のマルチプルアライメント
設計したプライマーの位置と配列
PHZ 投与による末梢赤血球数の減少と EPO 遺伝子の検出
貧血の誘導と EPO mRNA の検出
図 3-1
図 3-2
図 3-3
図 3-4
図 3-5
図 3-6
図 3-7
Percoll 密度勾配遠心を用いた幼若赤血球の分離
ゼノパス EPOR の cDNA クローニングの方法
ゼノパス EPOR cDNA(F51)の塩基配列とアミノ酸配列
EPOR の一次構造の疎水性解析
ゼノパスと脊椎動物の EPOR のマルチプルアライメント
ゼノパス、ヒト、マウスの EPOR の分子構造の予測
ゼノパスと脊椎動物の EPOR の塩基配列と
アミノ酸配列の相同性
第2章
第3章
目次
第4章
図 4-1
図 4-2
図 4-3
図 4-4
図 4-5
GST-可溶型 xlEPOR 発現ベクターと用いたプライマー配列
xlEPOR 発現ベクターと用いたプライマー配列
成体ゼノパスの各組織における xlEPOR mRNA の発現
成体ゼノパスの血球細胞における xlEPOR mRNA の発現
成体ゼノパスの血球細胞における xlEPOR の局在
第5章
図 5-1 xlEPOR cDNA の 5’非翻訳領域に見られる GATA 結合配列
図 5-2 胚発生における xlEPOR mRNA の発現の推移
第6章
図 6-1 可溶型 xlEPOR 投与による末梢赤血球数減少のモデル
図 6-2 可溶型 xlEPOR 投与と PHZ 投与による末梢赤血球数減少の誘導
図 6-3 可溶型 xlEPOR 投与後の末梢血球
第7章
図 7-1 本研究の今後の展開
第 1 章 緒言
第 1 章 緒言
1-1. 哺乳類における造血システム
造血システムは動物種全般に存在する生命の根幹の現象である。脊椎動物で
は最も原始的な無顎類からげっ歯類、霊長類にまで広く造血システムは保存さ
れている。哺乳類の血球は酸素運搬を担う赤血球、異物排除など生体内の免疫
機能を担う白血球、止血血栓形成を担う血小板が存在し、成体におけるこれら
の血球の主な産生場所(造血器、造血巣)は骨髄である。骨髄にはすべての血
球の源となる造血幹細胞が存在し、造血幹細胞は増殖と分化を繰り返して成熟
し、それぞれの血球となり血液を循環する。その増殖と分化は諸臓器で生産し
末梢血中に分泌された種々の造血因子(サイトカイン)による厳密な制御を受
けており、末梢血球数の恒常性が保たれている(図 1-1)(Ogawa, 1993 ;
Weisseman, 2000 ; Reya et al., 2001)。血球前駆細胞の細胞膜上には、造血因子が
特異的に結合する受容体が発現しており、それらの結合によって細胞内のシグ
ナル伝達系が作動し、細胞の増殖と分化を引き起こす。赤血球造血には赤血球
産生因子 Erythropoietin(エリスロポエチン: EPO)と EPO 受容体(EPOR)が、
顆粒球造血には Granulocyte colony-stimulating factor(顆粒球コロニー刺激因子:
G-CSF)と G-CSF 受容体(G-CSF-R)が、血小板造血には巨核球コロニー刺激
因子 Thrombopoietin(スロンボポエチン:TPO)と TPO 受容体(c-MPL)がそ
れぞれ中心的な役割を果たし、各血球前駆細胞の増殖と分化を引き起こす。こ
のうち EPO と TPO は N 末端領域に共通構造を持ち(Kato et al., 1995)、EPOR
と c-MPL はサイトカインスーパーファミリーに属している。また赤血球と血小
板は共通の前駆細胞である巨赤芽球から分化し(図 1-1)、EPO/EPOR の細胞刺
激は血小板造血を、TPO/c-MPL の細胞刺激は赤血球造血を亢進する交叉活性が
1
第 1 章 緒言
報告されていることから(Berridge et al., 1988; Kaushansky et al.,1995; Kobayashi
et al., 1995; Nishi et al., 1990)、EPO と TPO、EPOR と c-MPL は共通の祖先分子
をもち、進化の過程で分岐したパラログ分子であると考えられている。
造血因子が血液中に存在していることは古くから認められていたが、その分
子と受容体の分子は 1970 年代後半から同定され始め、1980 年代から次々とそ
ら遺伝子配列、構造が明らかになり、今日に至るまで造血因子の研究から得ら
れた知見は医学、血液学の発展に貢献してきた。その遺伝子組換え体は各種の
ヒト血液疾患の治療薬として期待され開発が進み、特に EPO は早くから開発が
進み、様々な疾患における貧血の治療薬としてすでに実用化されている。
Reya et al., 2001
図 1-1 血球細胞の分化の系譜
2
第 1 章 緒言
1-2. 造血の個体発生と系統発生
ヒトの胎生期において、造血は胚体と臍帯で繋がり胚の外に存在する卵黄嚢
で始まる(一次造血)。一次造血で出現する赤血球は成体型造血(二次造血)の
ものと比べ異なる点がいくつか認められ、赤血球が有核であり、増殖と分化が
同調し、成体の赤血球と比べて寿命が短いなどの特徴がある。一次造血が終了
する前にヒトでは妊娠後 3.5 週から、マウスでは妊娠 10 日目から胚体内の肝臓
で二次造血が始まる。胚発生時の一次造血の研究は哺乳類以外の動物種におい
ても、主に発生学の観点から観察されてきた。特に両生類は、胚の扱いやすさ、
入手のしやすさから古くから発生学の研究に用いられ、胚発生における一次造
血に関する知見の集積がある。両生類のゼノパスの造血は胚体内に存在する
Ventral blood island(腹部血島:VBI)領域で起こる一次造血から始まり、その
後に Dorsal lateral plate(背側部中胚葉:DLP)領域で二次造血が始まる。それ
ぞれ VBI 領域と DLP 領域は、哺乳類や鳥類の Yolk sac(卵黄嚢)と哺乳類にお
ける Aorta-gonad-mesonephros(大動脈-生殖原基-中腎:AGM)領域に相当する
と考えられている。VBI 領域の一部と DLP 領域から由来する造血幹細胞は、肝
臓に移動し、幼生から変態直後まで造血が行われることが報告されている
(Maeno et al., 1985 ; Maeno, 2003 ; Turpen et al., 1997 ; Galloway et al., 2003)。
爬虫類以上の脊椎動物では、成体になると造血幹細胞は主に骨髄や脾臓に移
動して、そこで一生にわたり血球を供給し続ける(図 1-2, 図 1-3)。硬骨魚類(ゼ
ブラフィッシュ)は腎臓の髄質(Kidney marrow)に造血幹細胞が存在し、すべ
ての種類の血球が産生されることが近年報告された(Traver et al., 2003)。しか
し成体の両生類においては、造血幹細胞の存在も造血巣の場所も未だ明らかに
されていない。哺乳類以外の動物では造血因子とその受容体は一部の動物種以
外ではほとんど同定されてはいないが、間接的な証拠からその存在が示唆され
3
第 1 章 緒言
ている。例えば哺乳類以外の血液中には抗ヒト EPO 抗体に結合しうる分子が存
在すること(Wickramasinghe et al., 1994)。鳥類には EPO/EPOR のシステムが存
在し赤血球造血に関わること(Steinlein et al., 1994)。ゼノパス胚にはマウス TPO
に結合しうる受容体が存在し、赤血球造血を亢進することが報告されている
(Kakeda et al., 2002)。しかしながら現在に至るまで哺乳類以外の動物で造血因
子が同定され機能解析まで行われた報告は無く、これら分子を同定し、構造と
機能を解析することは、脊椎動物に存在する造血システムの普遍性と多様性の
理解を深耕するための第一歩であると考えられる。
図 1-2 マウスとゼノパスの一次造血と二次造血と造血巣の移動
4
第 1 章 緒言
図 1-3 各種の動物の造血巣とその移動
5
第 1 章 緒言
1-3. 赤血球産生制御機構
赤血球産生において中心的な役割を果たす赤血球造血因子は、糖蛋白質の
EPO である。ヒトの EPO は 1977 年に再生不良性貧血患者の尿 2.5t から純化さ
れ(Miyake et al., 1977)、そこで得られたわずか 10 mg ほどの標品からアミノ酸
配列を決定し、それをもとに 1985 年に 2 つのグループから遺伝子配列がほぼ同
時に明らかにされた(cDNA sequence- Jacobs et al., 1985 ; Genome-sequence- Lin
et al., 1985)。そのアミノ酸配列の相同性から、現在では部分配列を含めると 10
数種類の哺乳類(ヒト、カニクイザル、アカゲザル、チンパンジー、マウス、
ラット、イヌ、ネコ、ライオン、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、イルカ)
と 1 種の魚類(トラフグ)で EPO の遺伝子配列が同定され報告されている(Wen
et al., 1993 ; Chou et al., 2004)。一方、EPOR については 1989 年にマウス赤白血
病細胞から発現クロー ニングによりマウス EPOR の遺伝子が単離された
(D’andrea et al., 1989)。その情報を元にヒト EPOR の遺伝子が単離され、構造
が明らかになり(Jones et al., 1989)、EPO と EPOR を中心とした赤血球造血の
分子基盤が次第に明らかにされてきた。ヒトの末梢血中に存在する EPO 濃度は
40-240 pg/ml(健常人基準値)であり、極微量である。貧血や低酸素症によって
血中酸素濃度が低下すると、これに応答して腎臓の近位尿細管細胞において
EPO の産生が亢進し(Koury et al., 1988, 1991)、血中の EPO 濃度は約 1000 倍上
昇する。EPO 遺伝子の 3’下流のエンハンサー領域には動物種の間でよく保存さ
れているシスエレメントが 3 箇所存在する。これらのシスエレメントにはそれ
ぞれ Hepatocyte nuclear factor 4(肝細胞特異的転写因子; HNF-4)、Hipoxia
inducible factor-1α(低酸素応答因子 α 鎖 ; HIF-1 α)、Arylhydrocarbon Receptor
Nuclear Translocator(アリルハイドロカーボン受容体核移行因子 ; ARNT)が結
合し、P300 らと転写因子複合体を形成する。低酸素状態において、この複合体
6
第 1 章 緒言
は EPO 遺伝子 5’上流に存在するプロモーター領域に結合し EPO 遺伝子の転写
を活性化する(Semenza et al., 1991)。通常酸素状態では HIF-1α がユビキチン経
路による分解を受け、EPO 遺伝子の転写は活性化しない(Bunn et al., 1998)
(図
1-4)。このような低酸素に応答した HIF を介した遺伝子発現制御は血管内皮細
胞増殖因子(VEGF)、トランスフェリンなどが知られている。近年、トラフグ
(Fugu rubripes)において EPO 遺伝子がゲノムデータベース検索法によって同
定されたが、フグ EPO 遺伝子には低酸素応答配列が存在せず、低酸素に依存し
ない EPO 遺伝子の発現が示唆されたことなど(Chou et al. ; Noguchi, 2004)、こ
れまで哺乳類で発見されていなかった未知の造血制御機構が存在する可能性が
ある。
Bunn et al., 1998
図 1-4 EPO 遺伝子発現の機構
7
第 1 章 緒言
赤血球前駆細胞表面には EPOR が発現しており、EPO が結合することにより
赤血球前駆細胞の増殖と分化のシグナル伝達系を作動させる、あるいは抗アポ
トーシスシグナルを作動させることで(Koury et al., 1990)、赤血球前駆細胞を
増殖させ末梢赤血球数の恒常性を維持している。成体哺乳類において骨髄に存
在する造血幹細胞から赤血球系への分化が運命付けられた最も未分化な前駆細
胞は Burst-forming unit-erythroid(バースト形成細胞:BFU-E)である。BFU-E
から Colony-forming unit-erythroid(赤芽性コロニー形成細胞:CFU-E)、好塩基
性赤芽球、正染性赤芽球、網状赤血球、成熟赤血球の順番に分化して、脱核を
行い末梢血中に流れ出す(図 1-5)。BFU-E になると EPOR の発現が始まり、EPO
に応答性を持ち始める。CFU-E から好塩基性赤芽球では細胞表面に発現する
EPOR の分子数は最大となり 1 細胞あたり約 1000 個にもなる。このとき EPO
に対する反応性も最大となる。
血液細胞アトラス(文光堂)
図 1-5 ヒトの赤血球前駆細胞の分化段階と EPOR の発現時期
8
第 1 章 緒言
EPOR は 1 回膜貫通型受容体の分子構造をしており、細胞外領域から細胞内
領域にかけての類似性や、機能領域の類似性から EPOR はサイトカインスーパ
ーファミリーに属している。EPOR は細胞膜上で会合し、2 量体を形成するこ
とが証明された(Constantinescu et al., 1998)。2 分子の EPOR に対して 1 分子の
EPO が結合する。EPO が結合すると EPOR の立体構造の変化を誘導し、EPOR
の細胞内領域の距離が互いに近くなる。EPOR の細胞内領域の Box1 領域には
Janus kinase 2(Janus チロシンキナーゼ 2 ; JAK2)と呼ばれるチロシンキナーゼ
が会合しており、EPO の結合により JAK2 の空間的な距離も近づき、JAK2 は
互いをリン酸化する。リン酸化された JAK2 はチロシンキナーゼ活性を有し、
EPOR の細胞内領域に存在する複数のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化
されたチロシン残基を標的にして、細胞内に存在する Src homology 2(SH2)領
域を有する様々なシグナル伝達分子が結合すると、これらは JAK2 によるリン
酸化を受け、シグナルを細胞内に伝達する。シグナル伝達性転写因子の1つ
Signal Transducer and Activator of Transcription 5(STAT5)は SH2 領域を有し、リ
ン酸化チロシン残基に結合し JAK2 によるリン酸化を受ける。リン酸化された
STAT5 は 2 量体を形成し核に移行してグロビン、gata-1 などの赤血球の成熟に
必要な遺伝子を発現する(図 1-6)
(Krantz, 1991 ; Fisher, 2003, Moritz et al., 1997 ;
Lappin, 2003)。
図 1-6
EPO の EPOR を介した
シグナル伝達
9
第 1 章 緒言
1-4. 本研究の狙い
造血因子の研究はヒト、マウスなどを実験対象にして血液疾患の臨床研究と
ともに発展し、様々な分子生理学的な機序が明らかにされてきた。このような
背景から、造血研究の対象は霊長類やげっ歯類に限られており、他の生物種に
おける造血の分子生理学的な機序はほとんど解明されていない。一次造血に関
しては、哺乳類の他にも小型魚類や両生類における研究例は多いが、これらの
二次造血研究は造血因子およびその受容体がほとんど同定されておらず、未知
の領域として残されている(図 1-7)。
図 1-7 EPO のアミノ酸配列の分子進化系統樹
10
第 1 章 緒言
成体両生類の末梢血球は哺乳類とはいくつも異なった形態的特徴を持ち、存
在する血球数割合も異なる(Hadji-Ajimi et al., 1987)。酸素運搬を担う赤血球は
楕円形をしており有核のまま末梢血液中を循環する(図 1-8 上、赤矢印)。また
血小板の代わりに有核で楕円形をした栓球が存在し止血血栓を担う(図 1-8 上、
青矢印)。ゼノパスの単位容積当たりの末梢赤血球数はヒトと比べ 1/5 以下であ
り、栓球数は血小板に比べ 1/10 以下である。またゼノパスの白血球はヒトと比
べ好塩基球の割合が多い(図 1-8 下)。これら特徴的な血球の詳細な機能解析は
ほとんどなされておらず、これらの血球を産生する造血巣の場所やその産生の
機序の明確に示されてはいない。造血は多くの動物に共通した生命の基本機構
であり、多様な生物種の造血系を解析することは、動物種全般の造血制御の普
遍性と多様性の理解に繋がる。
本研究では両生類 Xenopus laevis(アフリカツメガエル:ゼノパス)の成体を
用い、赤血球産生の責任因子である EPO と EPOR の同定を進め、その発現局在、
発現時期、生理活性を精査することで赤血球造血の解明を試みた。
11
第 1 章 緒言
Hadji-Ajimi et al., 1987
図 1-8 ゼノパスとヒトの末梢血球の数と形態の相違
12
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
2-1. 序論
野川らの報告によると、ゼノパスの成体に溶血剤の Phenylhydrazine(フェニ
ルヒドラジン : PHZ)を投与すると末梢血中の赤血球は溶血し、急性の末梢赤
血球減少症を誘導し、投与後 9 日目に末梢赤血球数は極小値となる。その後、
末梢赤血球数は回復する。また貧血回復期の末梢赤血球を
May-Grunward-Giemsa(メイグリュンワルドギムザ : MGG)染色、Toluidine blue
(トルイジンブルー : TB)染色を行い観察すると、回復期直後の末梢赤血球の
ほとんどが、成熟赤血球に比べて、核が大きく細胞質が好塩基性を呈する幼若
な赤血球である。さらに末梢赤血球数が回復してくるにつれ、幼若な赤血球の
割合が減り、成熟赤血球の割合が増す(図 2-1)
(2003 年 日本生化学会 横浜)。
このことは末梢赤血球の減少によって、貧血(低酸素症)が誘導されると、赤
血球造血が亢進するという哺乳類と同様の末梢赤血球数維持のためのフィード
バック機構が存在していることを示す。従って、両生類においても EPO/EPOR
の赤血球造血制御機構が関与することが示唆された。これまで哺乳類以外の動
物種において EPO 分子は、一部の硬骨魚類以外では同定されていない(トラフ
グ、Chou et al., 2004)。哺乳類では EPO は血液中に極微量に存在する因子であ
るが、血中の低酸素状態に反応して、腎臓と肝臓での産生量が増大する。両生
類でも同様のことがいえるのであれば、PHZ 投与により低酸素症を誘導し、末
梢赤血球数が回復しているとき、またはその直前の腎臓と肝臓では EPO 遺伝子
の発現量は増大していると考えられる。PHZ 投与による貧血ゼノパスモデルの
腎臓と肝臓由来の全 RNA には多くのゼノパスの EPO mRNA が多く含まれてい
ると考えられ、これを遺伝子試料に用いた。
13
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
有意水準:** P < 0.0001, * P < 0.0005 (Student’s t-test)
図 2-1 PHZ 投与による末梢赤血球数の減少
EPO は脊椎動物間での生理活性の交叉性、抗原抗体反応の交叉性が報告され
ており(Wickramasinghe et al., 1993, 1994 ; Steinlein et al., 1994)、哺乳類間では
EPO の遺伝子の塩基配列、アミノ酸配列は高度に保存されている(図 2-2, 3)
(Wen et al., 1993)。しかし近年、哺乳類以外の動物で初めてトラフグの EPO の
遺伝子が同定された(Chou et al., 2004)。また Ensembl(http://www.ensembl.org/)
や
National
Center
for
Biotechnology
Information
(
NCBI;
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)などドラフトゲノムデータベース上で同様の検索
を行うと、部分配列ではあるが、硬骨魚類のミドリフグ(Tetraodon nigroviridis)、
ゼブラフィッシュ(Danio rerio)において EPO の相同遺伝子が見出された。こ
14
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
れら硬骨魚類の EPO 遺伝子の塩基配列から予想されるアミノ酸配列の相同性
は哺乳類 EPO と比べ低く、EPO の赤血球産生という生理活性を持つかどうか
は報告はされていない。哺乳類の EPO の塩基配列、アミノ酸配列を用いて、デ
ータベースの検索を行ったが両生類の Xenopus laevis、ゼノパストロピカリス
(Xenopus tropicalis)の EPO 相同遺伝子は見出すことはできなかった。しかし
分子進化系統学の観点から予想すると、両生類の中でも原始的な種であるとさ
れるゼノパスは哺乳類と硬骨魚類の EPO のアミノ酸配列で見出されるような
システイン残基の位置、α ヘリックス領域など EPO の活性を保つために必要な
機能領域がよく保存されたアミノ酸配列を持つことが予想される。
本研究では生理活性が既知であるマウスの EPO cDNA を参考にして、哺乳類
EPO でよく保存されている領域からプライマーを設計し、RT-PCR を行いゼノ
パス EPO mRNA の検出を試み。また、塩基配列の相同性を利用したゼノパス
の EPO の遺伝子の同定と mRNA の検出を試みた。
図 2-2
EPO のアミノ酸配列の相同性(%)
15
16
p
p
h
h
h
r
r
c
r
r
i
-
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e
e
e
e
d
d
e
e
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c
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c
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-20
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ml
l l
l l
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k t
1
7
- - APPR L I CDSRV
- - APPR L I CDSRV
PGAPPR L VCDSRV
PGAPPR L I CDSRV
- - APPR L I CDSRV
- - APAR L I CDSRV
- - APPR L I CDSRV
- - APPR L I CDSRV
- - APPR L I CDSRV
- - APPR L I CDSRV
- - APAR L I CDSRV
- - SP L RP I CD L RV
- - SP L RP I CD L RV
v
v
v
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-1
c
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g
g
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g
g
g
e
- - - - - - - - - - - - wt
q
p
s
l
p
図 2-3 脊椎動物の EPO のマルチプルアライメント
αヘリックス領域 3
110
RSL TSL LRV
RSL TSL LRV
RS I TT L LRA
RS I TT L LRA
RSL TT L LRA
RSL TSL LRA
RSL TSL LRA
RSL TSL LRA
RSL TSL LRA
RSL TSL LRA
RSL TSL LRA
A S I RQV L RS
L SVNAV LRS
N : N結合型糖鎖付加予測位置
C : 細胞外領域のシステイン残基
X : 中性アミノ酸
X : 塩基性アミノ酸
X : 酸性アミノ酸
X : 無極性アミノ酸
120
126 127
140
L GAQK E L MS P P D T T P - - P A P L R T L T V D T F C K
L GAQK E L MS P P D A T Q - - A A P L R T L T A D T F C K
L GAQ - EA I S L PDAAS - - AAP L RT I T ADT FCK
L GAQ - EA I S L PDAAS - - AAP L RT I T ADT FCK
L GAQKEA I SPPDAAS - - AAP L RT I T ADT FRK
L GAQKEA I S L PDA T P - SAAP L RA F T VDA L SK
L GAQKEA I P L PDA T P - SAAP L R I F T VDA L SK
L GAQK E AMS L P E E A S - - P A P L R T F T V D T L C K
L GAQKEA T S L PEA T S - - AAP L RT F T VDT L CK
L GAQKEA I P L PDASPSSA T P L RT F AVDT L CK
L GVQKEAVSPPEAAS - SAAP L RT VAADT L CK
L S I P E - - YVPP T SS - - GEDKE TQK I SS I SE
L N I Q - E - - - - F T P P A S A A E I E G TWR V S T A T E
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
L
αヘリックス領域 4
150
FRV Y AN F L RGK L K
FRV Y SN F L RGK L K
FRV Y SN F L RGK L K
FRV Y SN F L RGK L K
FRV Y SN F L RGK L K
FR I Y SN F L RGK L T
FR I Y SN F L RGK L T
FR I Y SN F L RGK L FR I Y SN F L RGK L T
FRNY SN F L RGK L T
FR I Y SN F L RGK L K
FQVHVN F L RGK AR
L QVH I N F L RGK VR
160
166
Y T GE V CRRGDR - Y T GE A CRRGDR - Y T GE A CRRGDR - Y T GE A CRRGDR - Y T GE A CR T GDR - Y T GE A CRRGDR - Y T GE A CRRGDR - - - - - - - - - - - - - Y T GE A CRRGDR - Y TGEACRRRDR - Y T GE A CRRGDR - L L A N A P V C RQG V S
I L L D A Q A CQQD V S
αヘリックス領域 2
85
V P D T K V N F Y AW K R M E V E E Q A I E VWQ G L S L L S E A I L Q A Q A L L A N S S
V P D T K V N F Y AW K R M K V E E Q A V E VWQ G L S L L S E A I L Q A Q A L Q A N S S
V P D T K V N F Y AW K R I E V G Q Q A V E VWQ G L A L L S E A V L R G Q A V L A N S S
V P D T K V N F Y AW K R M E V G Q Q A V E VWQ G L A L L S E A V L R G Q A V L A N S S
V P D T K V N F Y AW K R M E V G Q Q A V E VWQ G L A L L S E A V L R G Q A L L V N S S
V P D T K V N F Y AW K R M E V Q Q Q A L E VWQ G L A L L S E A I L R G Q A L L A N A S
V P D T K V N F Y AW K R M E V Q Q Q A L E VWQ G L A L L S E A I F R G Q A L L A N A S
V P D T K V N F Y T W K R M D V G Q Q A L E VWQ G L A L L S E A I L R G Q A L L A N A S
V P D T K V N F Y T W K R M D V G Q Q A V E VWQ G L A L L S E A I L R G Q A L L A N S S
V P D T K V N F Y AW K R M E V Q Q Q A M E VWQ G L A L L S E A I L Q G Q A L L A N S S
V P D T K V N F H HW K K S E A G R H A V E V W Q G L A L L S E A M L R S Q A L L A N S S
V P L T R V D F E VW E A M N I E E Q A Q E V Q S G L H M L N E A I - - G S L Q I S N Q T
V P Q T T V E F D VW E K K S A L A K A Q E V Q S G L W L L Q E A F N F L R T S V T N T -
Accession number
GenBank protein accession No ; AAA37570
GenBank protein accession No ; S28148
GenBank protein accession No ; Q28513
GenBank protein accession No ; P07865
GenBank protein accession No ; AAA52400
GenBank protein accession No ; AAB41268
GenBank protein accession No ; P33709
GenBank protein accession No ; P33707
GenBank protein accession No ; AAA18282
GenBank protein accession No ; CAB96416
GenBank protein accession No ; AAG36962
GenBank nucleotide accession No ; BC064299
GenBank protein accession No ; AAQ72467
24
29
33
38
L E A K E A E N V T MG C A E G P R L S E N I T
L E A K E A E N V T MG C A E G P R L S E N I T
L E A K E A E N V T MG C S E S C S L N E N I T
L E A K E A E N V T MG C S E S C S L N E N I T
L E A K E A E N I T T GC A E HC S L N E N I T
L E A R E A E N A T MG C A E G C S F N E N I T
L E A R E A E N A T MG C A E G C S F S E N I T
L E A R E A E N V T MG C A QG C S F S E N I T
L G A R E A E N V T MG C A E G C S F S E N I T
L E A K E G E N A T MG C A E S C S F S E N I T
L E A K E A E N V T MG C A E G C S L G E N I T
K E AWD A E A A M R T C K D D C S I A T N V T
K E AQD A E A AMK L C S EGC T L S D S V I
i
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αヘリックス領域 1
I
I
L
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L
I
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I
I
I
I
I
I
-10
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v s
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ERY
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DH F
NH F
s l
s l
s l
s l
s l
s f
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s l
s l
c l
wt
gr
86
100
Mouse
QPPET LQL H I DKA I SGL
Rat
QPPES LQL H I DKA I SGL
Rhesus monkey Q P F E P L Q L H M D K A I S G L
Cynomolgus monkey Q P F E P L Q L H M D K A I S G L
Human
Q PW E P L Q L H V D K A V S G L
Bovine
QPCEA L R L HVDKAVSGL
Ovine
QPCEA L R L HVDKAVSGL
Dog
QPSE T PQL HVDKAVSS L
Cat
QPSET LQLHVDKAVSS L
Porcine
QPSEA LQL HVDKAVSGL
Q L PE T L QVHVDKAVSGL
Rabbit
Zebrafish
- - - EV L QSH I DAS I RN I
Fugu rubripes
- - - - A L HSH I DNSVRN L
Mature protein
Mouse
Rat
Rhesus monkey V
Cynomolgus monkey V
Human
Bovine
Ovine
Dog
Cat
Porcine
Rabbit
Zebrafish
Fugu rubripes
-
Signal peptide -27
Mouse
mg
Rat
mg
Rhesus monkey m g
Cynomolgus monkey m g
Human
mg
Bovine
mg
Ovine
mg
Dog
- Cat
mg
Porcine
mg
Rabbit
mg
Zebrafish
mq
Fugu rubripes
- -
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
2-2. 材料と方法
2-2-1. ゼノパス EPO 遺伝子のクローニング
末梢赤血球数の減少を誘導するために、成体の雌のゼノパス(体重 80-100 g,
N=2)に PHZ を 60 mg/Kg 体重の用量で 0 日目と 1 日目に腹腔内投与した。対
照群には同用量の 7/9 倍濃度の DPBS(7/9 diluted Dulbecco’s modified phosphate
buffered saline without ca lcium and magnesium, dDPBS)
(N=1)を投与した。投与
初日から 1 日ごとに各個体の採血を行い、クリスタルバイオレットで血球の核
を染色して、末梢赤血球数を計測した。末梢赤血球数が減少している投与後 2
日目、3 日目に各個体から腎臓、肝臓、脾臓を摘出し RNA の抽出まで-80°C で
保存した。対照実験として雄のマウス(体重 20-25 g)にも PHZ を 60 mg/Kg 体
重の用量で投与初日と投与後 1 日目に 2 回腹腔内投与し(N=2)、対照群には同
用量の DPBS を投与した(N=1)。ISOGEN(Nippon gene, Tokyo, Japan)を用い
て全 RNA を抽出して、以後の解析に用いた。
ゼノパスの EPO の mRNA が発現していると考えられる貧血状態の腎臓と
肝臓の全 RNA を鋳型として、RT-PCR による EPO の mRNA の検出を行った。
哺乳類の EPO のアミノ酸配列では特に翻訳開始点付近、翻訳終了点がよく保存
されている。哺乳類の EPO のマルチプルアライメント(図 2-3)を作成し、翻
訳開始点付近、翻訳終了点を含む領域のほかに、いくつかの保存領域で図 2-4
に示すような縮退プライマーを設計した。マウス EPO の mRNA 検出用のプラ
イマーは NCBI の GenBank に登録されている既知配列(GenBank accession No :
M12930)から、コード領域すべてを含むように設計した。
17
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
プライマー
xlEPO Fw1
xlEPO Fw2
xlEPO Fw3
xlEPO
xlEPO
xlEPO
xlEPO
xlEPO
xlEPO
xlEPO
Fw4
Fw5
Re1
Re2
Re3
Re4
Re5
xlEPO Re6
Mouse Epo Fw1
Mouse Epo Re1
塩基配列
5’-AGGCGCGGAGATGGGGGCGC-3’
5’-CCAG(G/T)CCTG(G/T)(C/G)C(G/T)CCC-3’
5’-CGCC(C/T)CAT(C/T)TGTGAC(A/C)(G/T)(C/G)CG(A/C)G
TCCT(C/G)GA(C/G)-3’
5’-CTGCTCCACTCCGAACA(A/C/G/T)TCAC-3’
5’-CTCCCCATTACGCCCCATCTGTGAC-3’
5’-GTCACCTGTCCCCTCTCCTGCAG-3’
5’-AGGATGTACCTCTCCAGGACTCG-3’
5’-CAGGATGGCTTCTGAGAGCAG-3’
5’-GGRACAGTGA(C/T)RTTC-3’
5’-CTGTC(C/T)C(C/T)T(A/T)T(C/T)CTGCAGRCCTC(C/T)CC
(C/T)GTG-3’
5’-ACAGTGACGTTCGTTGCAATGCTGC-3’
5’-AGGCGCGGAGATGGGGGTGC-3’
5’-GTCACCTGTCCCCTCTCCTGCAG-3’
図 2-4 設計したプライマーの位置と配列
18
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
EPO の mRNA を産生していると考えられる PHZ 投与後 2 日目の個体の腎臓
の全 RNA から mRNA を Oligotex-dT30 担体(Takara Bio, Otsu, Japan)を用いて
抽出した。この mRNA から Timesaver cDNA synthesis kit(Amersham Biosciences,
NJ)、λZAP II vector(Stratagene, LaJolla, CA)、Gigapack III packaging extract
(Stratagene)を用いて、cDNA ライブラリを作製した。検出プローブにはコー
ド領域を全て含むマウス EPO の cDNA(588 bp)をランダムプライム法で
32
P-dCTP で標識して用いた。プラークハイブリダイゼーション法によって、ナ
イロン膜にプラーク由来の DNA を転写させ、ナイロン膜と標識したプロープ
を 42°C で終夜ハイブリダイズさせた。ナイロン膜を 2 x SSC、0.1% SDS 中、
室温 20 分で 2 回、0.2 x SSC、0.1% SDS 中、50-65°C 20 分の洗浄後、Imaging Plate
(Fujifilm, Tokyo, Japan)に 1 時間から終夜露光し、BAS Imaging Station(Fujifilm)
で陽性クローンの検出を行った。
2-2-2. ゼノパス EPO mRNA の検出
ゼノパスに PHZ を投与して末梢赤血球数の減少を誘導し、末梢赤血球数回復
期の腎臓、肝臓の RNA から抽出して、EPO mRNA の検出をノーザンハイブリ
ダイゼーション法で行った。PHZ を 25 mg/Kg 体重の用量で 0 日目に成体の雄
のゼノパス 7 匹に(体重 30-40 g)に腹腔内投与し、対照群には同用量の dDPBS
を投与した。投与後 1 日ごとに各個体のから採血を行い、末梢赤血球数を計測
した。末梢赤血球数が減少している投与後 2 日目から 7 日目にかけて、PHZ 投
与個体のうち 1 匹から腎臓、肝臓を摘出し、全 RNA を抽出した。10μg の腎臓、
肝臓の全 RNA をホルムアルデヒド変性 1%アガロースゲルで分離し、ナイロン
膜に転写し、32P-dCTP で標識したマウス EPO cDNA をプローブに用いて、RNA
が転写してあるナイロン膜と 8 時間以上 42°C でハイブリダイズさせた。ナイ
19
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
ロン膜を 2 x SSC、0.1% SDS 中で室温 20 分を 2 回、0.2 x SSC、0.1% SDS 中で
50-65°C 20 分を 2 回の洗浄後、ImagingPlate(Fujifilm)に 1 時間露光し、BAS
Imaging Station(Fujifilm)で像の解析を行った。
20
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
2-3. 結果
2-2-1. ゼノパス EPO 遺伝子のクローニング
PHZ(60 mg/Kg, Day 0, 1)を投与したゼノパスではマウスと同様に投与後 1
日目で顕著な末梢赤血球数の減少が観察され、投与後 2 日目からは末梢赤血球
数が回復し始める(図 2-5 上)。赤血球数が回復している時期の 2 日目と 3 日目
に EPO が産生していると考えられる腎臓と肝臓から全 RNA を抽出し、複数の
縮退プライマーの組み合わせを用いて、RT-PCR 法による発現の解析を行った。
マウス腎臓と肝臓の全 RNA を鋳型に用い RT-PCR を行ったところ、PHZ 投
与後 2 日目の腎臓と肝臓に EPO の mRNA の発現が見られた。発現量は腎臓の
ほうが高かった。対照群(DPBS 投与)と PHZ 投与後 3 日目の腎臓、肝臓には
発現は見られず、mRNA の発現時期は限定されていることがわかる。ゼノパス
においては複数の縮退プライマーの組み合わせを用いたのにも関わらず、投与
2 日目、3 日目の腎臓、
肝臓のいずれにおいても発現は認められない
(図 2-5 下)
。
哺乳類での報告からコード領域の EPO mRNA の塩基配列の相同性は高いと
想定した場合(第 1 章 6 ページ、Wen et al., 1993)、部分的な塩基配列の不一致
があっても全体の相同性を利用すれば、RT-PCR で検出できなかったゼノパス
の EPO cDNA をハイブリダイゼーション法で同定できる可能性があると考えた。
そこでマウス EPO mRNA の発現が見られる PHZ 投与 2 日目のゼノパスの腎臓
から mRNA を抽出し、cDNA ライブラリの作製を行い、ハイブリダイゼーショ
ン法によるゼノパスの EPO cDNA のクローニングを試みた。プローブはマウス
EPO cDNA 配列を用いて、様々な温度条件で反応を行ったが、相同性のあるク
ローンは得ることができなかった。
21
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
図 2-5 PHZ 投与による末梢赤血球数の減少と EPO 遺伝子の検出
(上) PHZ 投与による末梢赤血球数の減少
+:臓器摘出日
(下) RT-PCR による EPO cDNA の検出
22
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
2-3-2 ゼノパス EPO mRNA の検出
哺乳類において EPO mRNA の発現時期は限定されている。ゼノパスの EPO
mRNA がクローニングできなかった理由に、塩基配列、すなわちアミノ酸配列
の相同性が想定したよりもはるかに低いということが挙げられる。また、EPO
の発現時期が異なっているという可能性も十分考えられた。そこで野川らの方
法に従い PHZ を投与して末梢血液中の赤血球減少が起こり、それが回復し始め
るまで 1 日おきに腎臓、肝臓の全 RNA を抽出し、マウス EPO cDNA 配列をプ
ローブにして、ノーザンハイブリダイゼーション法で発現解析を行った。
これまで報告されている通り PHZ(25 mg/Kg)の投与を行ってから末梢赤血
球は急速に減少し始め、投与後 8 日目には赤血球数は極小値を示す
(図 2-6 上)
。
投与後 2 日目から 8 日目までの腎臓、肝臓から全 RNA 抽出し、ゼノパス mRNA
の検出を試みたが、腎臓と肝臓のどちらにも発現は認められなかった(図 2-6
下)。
23
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
図 2-6 貧血の誘導と EPO mRNA の検出
(上)PHZ(25 mg/kg)投与による貧血の誘導
(下)貧血ゼノパスの腎臓と肝臓での EPO mRNA の発現
プローブ:32P 標識 マウス EPO cDNA(588 bp)
24
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
2-4. 考察
これまで脊椎動物の EPO 遺伝子は完全長でないものを含めて 10 種類以上報
告されており、哺乳類の間では cDNA 配列、アミノ酸配列で 80%の相同性があ
ることが報告されている(Wen et al., 1993)。哺乳類以外の脊椎動物にも EPO 分
子が存在することが示唆されており、抗ヒト EPO 抗体に交叉性のある分子や
EPO の生理活性に交叉性を示す分子の存在が、魚類、両生類、爬虫類、鳥類の
血液中に認められている(Wickramasinghe et al., 1993, 1994 ; Steinlein et al.,
1994)。これらの事実から両生類のゼノパスの EPO も分子構造、アミノ酸配列、
cDNA 塩基配列が高度に保存されていることが想定できた。しかし、本章にお
ける結果からゼノパスの EPO の存在は貧血モデルから示唆されるものの、
RT-PCR 法やノーザンハイブリダイゼーション法によってゼノパス EPO mRNA
を検出することができなかった。RT-PCR に用いた縮退プライマー配列は哺乳
類の EPO で高度に保存されている領域から設計しており、またプローブに用い
たマウス EPO cDNA 断片はほとんどすべての哺乳類 EPO cDNA と相同性を持ち、
ハイブリダイゼーション法による検出が可能である。このことから EPO は赤血
球造血という動物に共通の機能を持つ分子であっても、ゼノパスの EPO は哺乳
類のものと比べて、部分的な塩基配列だけではなく、分子全体のアミノ酸配列
の相同性がかなり低いことが考えられた。同時に受容体である EPOR の塩基配
列、アミノ酸配列の相同性も低いことが予想された。
近年、遺伝子の染色体上の位置情報を利用した相同性検索から同定されたト
ラフグ(Fugu rubripes)や硬骨魚類の EPO 遺伝子の塩基配列はヒトやマウスの
ものと比べて低い値を示す(32-33%)。しかしアミノ酸配列の疎水性解析では
哺乳類 EPO と類似した波形を示しており、類似した分子構造をとる可能性があ
る(Chou et al., 2004)。ゼノパスにおいても同様の遺伝子の染色体上の位置の類
25
第 2 章 ゼノパスのエリスロポエチン遺伝子のクローニング
似性から検索を試みたが、ゼノパスの EPO 遺伝子は見出すことができなかった。
トラフグ EPO には哺乳類とは異なった知見が報告されている。トラフグの
EPO の組織発現分布解析では、トラフグ EPO は主に心臓で多く発現しており、
一部が脳と肝臓で発現しているが、哺乳類の主たる産生場所と考えられている
腎臓での発現はほとんど認められない。また EPO の発現に密接に関わる 3’下流
非翻訳領域には低酸素応答領域は存在しないなど哺乳類とは異なった発現制御
機構が存在することを示唆している。トラフグの EPO について未だ赤血球造血
に関連した生理活性についての報告がなく、不明な点が多い。
本章では赤血球造血は動物の根幹の現象であるが、それを制御する分子のア
ミノ酸配列の相同性は予想よりも低く、またその分子の発現制御もかなり異な
っていることが示された。系統学的に哺乳類と硬骨魚類の中間に位置する両生
類の EPO がどのような遺伝子構造やアミノ酸配列をしており、どのような発現
制御機構を受けているかを調べることは、動物の赤血球造血機構を解明するた
めの重要な鍵のひとつになると考えられる。
26
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-1. 序論
ゼノパスを PHZ 投与により貧血にすると、投与後 10 日目から末梢血中の赤
血球数が回復してくる。貧血回復期には核が凝縮していない幼若赤血球が多く
含まれている。成体のゼノパスの赤血球産生の場は未だ明らかにされてなく、
また、哺乳類の CFU-E の段階に相当する細胞は得られていないことから、EPOR
の cDNA クローニングのための遺伝子材料に幼若赤血球の mRNA を選択した。
幼若な赤血球はより未熟な分化段階の赤血球前駆細胞であり、EPOR を発現し
ている可能性が高い。また幼若赤血球は採血後に密度勾配遠心法によって、高
純度で得ることができることから、高品質のライブラリを作製することが可能
となる。
第 2 章においてゼノパスの EPO 遺伝子の検出とクローニングは哺乳類や魚類
の EPO の配列の相同性が低いことが推察された。リガンドの相同性が低いであ
れば、受容体の相同性も哺乳類と比べて低いと予想される。ヒト EPOR のアミ
ノ酸配列を用い、NCBI の GenBank に登録されているゼノパス Expressed
Sequence Tag(EST)データベースから、”tblastn”検索プログラムによりヒト
EPOR アミノ酸配列と相同性の高い配列が見出された(GenBank accession No:
BM180725)。ゼノパス EST ヒト EPOR 相同配列をもとにプライマーを設計し、
幼若赤血球の全 RNA を鋳型として、RT-PCR を行い、cDNA 断片を得た。この
配列をプローブとして用いて、幼若赤血球の cDNA ライブラリのスクリーニン
グを行った。
27
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-2. 材料と方法
3-2-1. 幼若赤血球の調製
PHZ(25 mg/kg 体重)を体重 20-30 g の雄のゼノパスに腹腔内投与し、幼若
赤血球が最も多く含まれる投与後 10 日目の個体から心採血により末梢血球を
採取した。採取した血球は MGG 染色と TB 染色により、ほとんど幼若な赤血
球しか含まれていないことを確認した。密度勾配試薬 Percoll(Amersham)と
dDPBS で不連続な密度勾配(90%, 60%, 50%, 40%)を 1ml ずつ 15ml チューブ
で作成し、その上に採取した末梢血 1ml を重層し 500 x g で 30 分間遠心し、末
梢血中に存在する幼若赤血球とその他の白血球、栓球とを分離した(図 3-1)。
幼若赤血球が含まれている画分を回収し、dDPBS で 3 回洗浄して速やかに液体
窒素で凍らせた。各組織から全 RNA を ISOGEN(Nippon gene)を用いて抽出
し、-80°C で保存した。さらに全 RNA を Oligotex-dT 30 担体(Takara)に加え
て懸濁した。吸着した mRNA は dH2O で溶出させ、-80°C で保存した。
図 3-1 Percoll 密度勾配遠心を用いた幼若赤血球の分離
28
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-2-2. ゼノパス EPOR cDNA プローブの調製
NCBI のゼノパス EST データベースからヒト EPOR cDNA 相同配列を得て
(GenBank accession No:BM180725)、以下のような PCR プライマーを設計し
た。
xlEPOR Fw1
5’-ACGCGTGGGTGCTGATATGC-3’
xlEPOR Re2
5’-TGAAAGCCATGTCTGAAGATCCC-3’
このプライマーを用いて、幼若赤血球から抽出した全 RNA を鋳型にして
RT-PCR 法により 407 bp の cDNA 断片を得た。cDNA 断片は pGEM-T Easy プラ
スミドベクター(Promega Corporation, WI)に TA クローニング法でクローニン
グした後に、配列を決定し EST 配列と同じであることを確認した。このクロー
ンを鋳型にして biotin-16-dUTP(Roche Co., LTD,. Basel, Switzerland)の存在下で
PCR を行い、
ビオチン標識 cDNA プローブを合成した。プローブに用いた cDNA
配列を翻訳したアミノ酸配列の位置を図 3-5 に灰色で示した。
3-2-3. 幼若赤血球 cDNA ライブラリの作製
幼若赤血球の mRNA から「第 2 章 2-2-1. ゼノパス EPO 遺伝子のクローニン
グ」と同様の方法でゼノパス幼若赤血球 cDNA ライブラリを作製した。作製し
たライブラリはタイターを測定した後に、増幅しスクリーニングに用いた。
3-2-4. ゼノパス EPOR cDNA のクローニングと配列解析
プラークハイブリダイゼーション法により、プレート上に形成されたプラー
29
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
クからナイロン膜に DNA を転写させた。ナイロン膜をビオチン標識 cDNA プ
ローブとハイブリダイズさせた後、洗浄を 2 x SSC、0.1% SDS 中で 60°C 20 分 2
回、0.2 x SSC、0.1% SDS 中で 60°C 20 分 2 回行った。ナイロン膜をストレプタ
クチン-アルカリフォスファターゼ(SA-AP)(BioRad Laboratories, Richmond,
CA)と反応させ、その後、1 x TBS 中での 3 回の洗浄後、BCIP/Nitro-TB(Dojindo
Co. Ltd, Kumamoto, Japan)中で発色させ、ナイロン膜上で陽性シグナルを得た。
陽性プラークからファージを回収し、2 回目、3 回目のスクリーニングを繰り返
し行い複数のクローンを得た。ここまでの手順の概要を図 3-2 に示す。
得られたクローンは in vivo excision 法により pBluescript ベクターに変換し、
配列を決定した。得られた複数のクローンのうち、完全長を含んだ 1 つを DNA
Data Bank of Japan(DDBJ; http://www.ddbj.nig.ac.jp)から NCBI に登録した
(GenBank accession No:AB189477)。
図 3-2 ゼノパス EPOR の cDNA クローニングの方法
30
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-3. 結果
3-3-1. ゼノパス EPOR cDNA のクローニング
ゼノパスの幼若赤血球 cDNA ライブラリ 1.0 x 106 プラーク形成単位
(plaque-forming unit : p. f. u.)についてスクリーニングを行ったところ、プロー
ブと相同性のある 3 つのクローンが得られた。それぞれ F51、#110、#32 とし
た。そのうち F51 は 5’非翻訳領域 62 bp、翻訳領域 1578 bp、3’非翻訳領域 1564
bp を含む。5’非翻訳領域の翻訳開始点 5’上流 15-24 bp の位置に GATA 結合配列
がモチーフ検索によって見出された。また 3’非翻訳領域はポリ A シグナル配列
(AATAAA)とポリ A 末端が 15 bp 認められた(図 3-3)。#110、#32 は F51 の
配列の一部を含む部分クローンであり、F51 はコード領域をすべて含む完全長
クローンと考えられたため、これを以後の解析に用いた。翻訳領域から推定さ
れるアミノ酸残基は 525 残基であった。推定されたアミノ酸配列から SignalP
プログラム(Bendtsen et al., 2004)によってシグナル配列を推定したところ、シ
グナル配列は Met-32 から Ala-1 までの 32 残基であり、成熟蛋白質は Glu1 から
Ser493 までと推定された。cDNA から推定されるアミノ酸配列を DDBJ に存在す
る BLAST、FASTA プログラムを用いて相同性検索を行った。検索によって得
られる最も相同性のある配列は哺乳類 EPOR であり、そのほかに c-MPL、レプ
チン受容体、プロラクチン受容体などのサイトカイン受容体スーパーファミリ
ーに若干の相同性が見られた。EPOR よりも相同性が高い分子が検索されなか
ったため、得られたクローンをゼノパスの EPOR 相同分子、Xenopus laevis EPOR
(xlEPOR)と暫定的に命名した。
31
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
-62
-50
-40
-30
-24
-15 -10
-1
CAGAGAGCAATGCACTGGGAAAGACCCCATTAAACTACAGCAATCCTGGGAAGATCCCTGCA
1
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
110
120
ATGGGTGCCCCATCTTCCCTTTTATTCAGCACCGCACATTGGAGGACTGTGCCCTTTCTATTGGCCTTTTGGGTGCTTCTATCCACGGGGACTGCTGAAGACCCAACAATGACTCCTGAA
M G A P S S L L F S T A H W R T V P F L L A F W V L L S T G T A E D P T M T P E
130
140
150
160
170
180
190
200
210
220
230
240
TTCCTTCGACACATATCTGAGAAAATTCCTGAGGAGTATCAGAATCCACATTGCTTTACACGGGACCTGAATGATTTTATCTGCTTCTGGGAGGGAGAAAGAAGGAAAAATGCATCCTTT
F L R H I S E K I P E E Y Q N P H C F T R D L N D F I C F W E G E R R K N A S F
250
260
270
280
290
300
310
320
330
340
350
360
TCCTATTCTGAAGATGACCAAATAAAGTGGTGCCAGCTCAGGACAGAGGTTGCATCTAATAACACATGGTGGTACATCTGTGAGTTTCCAGTAACTGATGTTGTCCTTTTCGCTGGGATC
S Y S E D D Q I K W C Q L R T E V A S N N T W W Y I C E F P V T D V V L F A G I
370
380
390
400
410
420
430
440
450
460
470
480
ACCATCTCTGCATACCCGTGCCACAAGTGCCAGACTGCCAGGGAGATCTATATTAATGAACTTGTGTTGCTGAATCCCCCTTTAAATGTGACGGTAAAGGAGAAGCAGGATCCACGGGGA
T I S A Y P C H K C Q T A R E I Y I N E L V L L N P P L N V T V K E K Q D P R G
490
500
510
520
530
540
550
560
570
580
590
600
CTTCTGATTTCATGGAAACCCCCACACTTTCAAAAGAATCACGATATAAACAACGAGATCAAATATCAGGTCAACTATTCGACTCCAGGTGCTGATATGCAGACGGTGGAGGTGGAAGCA
L L I S W K P P H F Q K N H D I N N E I K Y Q V N Y S T P G A D M Q T V E V E A
610
620
630
640
650
660
670
680
690
700
710
720
GGAAATACAGAGATTTTTCTCACTGACATTGTCCCAGCTGCATACACTGTCACAGTAAGATGCAAAGCAGATGGTGTTTCATATAACGGCTACTGGAGTGATTGGACGGCACCTATTACC
G N T E I F L T D I V P A A Y T V T V R C K A D G V S Y N G Y W S D W T A P I T
730
740
750
760
770
780
790
800
810
820
830
840
ATAGCGACCATTATTGATCTACGCCTTCTTCTGTTGTTGAGTATTGCTATTTTTGTGGCCTTAATCGCTGGAGTTGGAGTTTACATCTTCATGAGACATGGCATGTACCTAAAACACAAG
I A T I I D L R L L L L L S I A I F V A L I A G V G V Y I F M R H G M Y L K H K
850
860
870
880
890
900
910
920
930
940
950
960
GTCTGGCCGCAGGTTCCCACCCCAGAGAATAATTTCCAGGGGCTCTTCACAACACATAAAGGAAATTTTAAGCTATGGCTTGGTCAGGCCGATGCCTACCTATTGTGGATCTCCAGACAT
V W P Q V P T P E N N F Q G L F T T H K G N F K L W L G Q A D A Y L L W I S R H
970
980
990
1000
1010
1020
1030
1040
1050
1060
1070
1080
GTCTTTCAAGAAGATCCCTCATCTACACTGGAGGTCCTTTCTGAGCTCCCCCCTGCTGCACTTCCACAATCTTTCAACCCGAATCCATTGAAGGACAGTTATGTGGTTTTGGACGAGAAT
V F Q E D P S S T L E V L S E L P P A A L P Q S F N P N P L K D S Y V V L D E N
1090
1100
1110
1120
1130
1140
1150
1160
1170
1180
1190
1200
CGTATGCCTTGCTCTCTGGAGTGGTTAGAGGCTCAAAGGCATAAAACTGTCATAGTGGGTGCTGAAAGCATGGACTCCAGATTGCAGACTGTAAATAAAGATGTTGTATTGGAGGACACC
R M P C S L E W L E A Q R H K T V I V G A E S M D S R L Q T V N K D V V L E D T
1210
1220
1230
1240
1250
1260
1270
1280
1290
1300
1310
1320
AGCAAGGGGCAGATTGCAGTAAAGGCAAACAACAGAGTGCACTCTCTGGAAGGGGACGGAAGTCAAGGTGAAGCCTTTAGAGAAGATGAATATGTGGAGGCTCCAAGGATGGAGCATGAA
S K G Q I A V K A N N R V H S L E G D G S Q G E A F R E D E Y V E A P R M E H E
1330
1340
1350
1360
1370
1380
1390
1400
1410
1420
1430
1440
CGACATAGAGTTTCTAGAGAAAATTCTGTGAGCTCCGATGGGAAGCAGAGCATTCCCTCAAGTTTTGAGTATACTGAACTACAGACTTGTGAGGGTCTCCTCTCTCCCAAACCAAGGCCT
R H R V S R E N S V S S D G K Q S I P S S F E Y T E L Q T C E G L L S P K P R P
1450
1460
1470
1480
1490
1500
1510
1520
1530
1540
1550
1560
GTCCCACCCCGTATGCCTCTGAAGTATGCCTACCTTGATATGTCTAGTTCTGGTGAGCACAGCCCTCCACCATCTCCCAACTTTTATCAGAACAGTCCGATCACAAACTTCTTGGCCCCT
V P P R M P L K Y A Y L D M S S S G E H S P P P S P N F Y Q N S P I T N F L A P
1570
1580
1590
1600
1610
1620
1630
1640
1650
1660
1670
1680
ATATACTCACAAAGCTGATGACAGGTTCCATGGAAAAAACCTTGGTAAAGAACAGCCTTTAACCTTGAACAGAGGAACATCATGTAGACAGGAGGTAAATGATGGGAAAGATAAACTGGC
I Y S Q S Stop
1690
1700
1710
1720
1730
1740
1750
1760
1770
1780
1790
1800
ATGAATATGAATGGAACTAAGCATAAATGAAAGCCTGACTGCACAAAAAACTGTTCAGAAATAATACAATTAACATGTTTCTTCATTTTCATAATTTATATAGCACCTCCAAGTTACTCG
1810
1820
1830
1840
1850
1860
1870
1880
1890
1900
1910
1920
AGACTTTAAAGTGATAGTCATGGGAAAATATGTTTTTTTCAAAACGCATCAGTTAAGAGTGCTGCTCCAGCGGGGTTCTTCGCTGGGGTCCATTTTTCAAAAGAGCAAACTGATTTTGTT
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
GTATTCGGTATTGAGATCTGACATGGGGTTACACATATGCCCCCAGTCATGTGACTTGTGCTCTGATAAACCTCAGTCACTCTTTACTGCAAGTTGGAGTGATATCACCCCCTCCCTTCC
2050
2060
2070
2080
2090
2100
2110
2120
2130
2140
2150
2160
CCCCCCCCCCCCAGCAGCCAAACAACAGAACAATGGGAAGGTAACCAGATAGCAGCTCCCTAACACAAGATAACAGCTGCCTGGAAGATCTAAGAACAGCACTAAATAGTAAAAGCCAAG
2170
2180
2190
2200
2210
2220
2230
2240
2250
2260
2270
2280
TCCCACTGAGACTGATCCCACTGAGGAAAAACAACAGCCTGCCAGAAAGTAATTCCATCCTAAAGTGCAGACACAAGTCACATGACTGGGGCAGCTGGGAAACTGACAAAATGTCTAGCC
2290
2300
2310
2320
2330
2340
2350
2360
2370
2380
2390
2400
CCATGTCAGATTTCACAATTGAATATGGAAAGGTCTGTTTGCTCTTTTGGGAAGTGGATTTCGGTGCGGAGTTCTGTTGGAGCAGCACTATTAGCTGATTTTCCATGACAGTATCCCTTT
2410
2420
2430
2440
2450
2460
2470
2480
2490
2500
2510
2520
AAACATATTGACAAACAATGATGAGAACAAGGGATGTGAGGGACTTGCTCTCAGGAGCTTACAATCTTAGACTTCGGCAAAATGTGGTGGTTGGCTAATGTGTGCGCACGTTTAGTGACT
2530
2540
2550
2560
2570
2580
2590
2600
2610
2620
2630
2640
CATTCATCACTGAAGGTGACCTTTATGAACATATTAGGACAAAGTCCTAATCTCGCTAGGGTAGTCAAGCAGATGGCCTTCACCAGAGAACCATGGATCCAGACCACAAATACTGGATAT
2650
2660
2670
2680
2690
2700
2710
2720
2730
2740
2750
2760
ACCCATTGCATGTACATATTTGTATATAAACCTTGTTGTTGCAAGACAAAGAACTTGATTTCAAAATGTATTTCATTATATTTCCCCCATCCATTTTTAAAGGTGTGTGGGGGCGGAGGA
2770
2780
2790
2800
2810
2820
2830
2840
2850
2860
2870
2880
AAATCATAGACCTGTTAACCAGAGCCGGAAATATGGGTAGGCAAGAAGAGAAATCTGCATAGGGTGCAATAATGGGGGAGCTGAGCAGGTACCTATTTTGCCTACTCCAAGTCCAGGCTC
2890
2900
2910
2920
2930
2940
2950
2960
2970
2980
2990
3000
CCATGCCCTTGTCGCAATTTATCACTGCATGCTCACCACCCCCCTGATGTCACCTCACATGCATGTACGGGAGGGGGACGGGGCCAGCCGGCTTGGTCCCCTCTGTTCTTAATCCCAGAG
3010
3020
3030
3040
3050
3060
3070
3080
3090
3100
3110
3120
CCTTCCCAAAAAAAATGCTACGTATTGAATAAATAATCTTATTTTTTCTTATATTTACTACTTTTGCTTTTACTATTTGTACTATATGTTCTTTTTTAAAATTTTGTAATAAAAATACTA
3130
3142
TTTTCTTAAAAAAAAAAAAAAA
図 3-3 ゼノパス EPOR cDNA(F51)の塩基配列とアミノ酸配
シグナル配列を太枠で示す。GATA 結合配列(-15 から-24)を下線で示す。
32
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-3-2. ゼノパス EPOR の一次構造の疎水性解析
推定されたアミノ酸配列を Kyte and Doolittle(1982)の式を用いた疎水性プ
ロットによって、ヒト EPOR と Ensemble ゲノムデータベースから見出されたト
ラフグ EPOR 相同配列(Ensemble accession No: SINFRUP00000143529)、ゼノパ
ストロピカリス EPOR(xtEPOR)相同配列(Xenopus tropicalis, Ensemble accession
No: GENSCAN00000091844)と比較した(図 3-4)。哺乳類の EPOR は 1 回膜貫
通型の分泌型蛋白質であり、細胞外領域、膜貫通領域、細胞内領域を持つ。推
定されたアミノ酸配列はヒト EPOR と同様に N 末端側 20-30 残基と中央部の約
20 残基に疎水領域が認められたことから、この分子も 1 回膜貫通型の受容体分
子であると予想された。
図 3-4 EPOR の一次構造の疎水性解析
33
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-3-3. アミノ酸配列の解析と相同性の解析
、
疎水性解析にしたがって細胞外領域(Glu1-Arg216)、膜貫通領域(Leu217-Met239)
細胞内領域(Arg240-Ser493)に分け、ヒト、マウス EPOR と Xenopus laevis、Xenopus
trapicalis、Fugu rubripes、Tetraodon nigroviriis(ミドリフグ)の EPOR 相同配列
とマルチプルアライメントを作成し(図 3-5)、一次構造を比較した(図 3-6)。
これまで報告されている哺乳類の EPOR には特徴的なアミノ酸配列が存在して
おり、これらの領域は哺乳類の間でよく保存されていた。哺乳類の EPOR の細
胞外領域にある 5 つのシステイン残基の位置は保存されている。これらのうち
N 末端側から 1 番目と 2 番目、3 番目と 4 番目がそれぞれジスルフィド結合し
ており、構造の維持に関与している。ゼノパスの分子の細胞外領域には 7 つシ
ステイン残基が存在しており、そのうち N 末端から 1 から 4 番目のシステイン
残基の位置は哺乳類の EPOR と一致していた。また EPOR の細胞外領域には分
子の折りたたみに関与する WSXWS 領域が膜貫通領域付近に存在するが、この
分子においては同じ部位のアミノ酸は WSDWT となっており、比較的よく保存
されている。またサイトカイン受容体に特徴的なフィブロネクチン 3 領域もモ
チーフ検索によって見出した。
EPOR の細胞内領域にはリガンドが結合しシグナル伝達が作動するときにリ
ン酸化される複数のチロシン残基や JAK2 が会合していると考えられている
Box1、Box2 領域が保存されている。この分子もこの領域は高度に保存されて
いた。また xlEPOR には Box2 領域よりも C 末端側に 55 残基の挿入配列
(Gly371-Ser425)が見出された。xtEPOR にも存在するこの挿入配列は、NCBI
の BLAST プログラムを用いて検索を行ったが、哺乳類の分子と相同性のある
配列は得られなかった。
34
A
A
-
- - ps
- mi
mi
h
k
l
h
h
l
l
f
l
l
g
r
s
n
s
a
v
t
q
q
s l
pl
ah
- l l
ml
wwwr
- l l -
t
-
v
-
pq
pr
pf
md
l t
l t
183
35
s
p
a
v
i
i
l
l
f
f
f
f
c l
c l
wv
ng
s a
ga
l
l
l
l
t
t
l
l
l
k
q
r
a
a
s
g
t
p
g
g
t
q
s
p
a
a
g
s
a
a
a
a
t
h
n
wwac - v q
-1
g
Accession number
GenBank protein accession No ; AAA52403
GenBank protein accession No ; AAA37571
GenBank protein accession No ; AB189477
Ensemble accesion No ; GENSCAN00000091844
Ensemble accesion No ; SINFRUP00000143529
GenBank protein accession No ; AY374481
X : 酸性アミノ酸
X : 塩基性アミノ酸
X : 中性アミノ酸
Y : シグナル伝達時にリン酸化されうるチロシン残基
X : スクリーニングに用いたプローブ領域
X : 無極性アミノ酸
N : N結合型糖鎖付加予測位置
C : 細胞外領域のシステイン残基
I H I NEVV
I H I NEVV
I Y I NE L V
I Y I NE L V
L L V EMV F
L L V EMV F
L
L
L
L
L
L
EV
EV
EV
EV
EV
EV
L
L
L
L
L
L
L TPS - DLDP
L TAS - DLDP
AT I I - DLRL
ETF I - DLRL
ET L PAE LDP
ET LPAELDL
L
L
L
L
L
L
I
I
L
L
I
I
Box 2
L
L
L
L
Box 1
F T T H K GN F Q LW L Y QN D
F T T H K GN F Q LW L L QR D
F T T H K GN F K LW L GQ A D
F T T H K GN F K LW L GQ A D
F T I Y GG E F Q LW L E Q T F S V Y G G E F Q SW L E Q T 362
L S N L RGR T
L S N L RGG T
LTD I VPAA
L TDF AQVA
L RG L QPGT
L RG L QPGT
279
図 3-5 ゼノパスと脊椎動物の EPOR のマルチプルアライメント
Human
L V V S D S G I S T D Y S S GD S QG A QGG L S DG P Y S N P Y E N S L I P A A E P L P P S Y V A C S
Mouse
L V V S D S G I S T D Y S S GG S QG V HGD S S DG P Y S H P Y E N S L V P D S E P L H P G Y V A C S
Xenopus laevis
L DMS S S G E H S P P P S P N F Y QN S P I T N F L A P I Y S Q S - - - - - - - - - - - - - - - - - Xenopus tropicalis L D M S N S G E S S P P P S P N F Y Q N S P I T N F L A P I Y S Q C - - - - - - - - - - - - - - - - - Fugu rubripes
M A A V D S G V S V D Y S PMH R V D A I G KM I H T N E Y K NG I D A Q K R P F L V K T N P V H D E Tetraodon nigroviridis M A A V D S G V S M E Y S P M Q R V A D V H N N E Y K N G I E A H R G A F L A K K R - - - P V Y D D G -
L DPSSQL
L DPSSQL
LQTCEGL
LQTCEGL
- - - - - - - - - - - - -
L R PW T L C P E L P P T P P H L K Y L Y
LCPRA L PPE L PPT PPH L KY L Y
L S P K P R P V P P RMP - - - L K Y A Y
L SPKPRP I PPR I P - - - L KYT Y
- - - - - - - - - P N Y AWM S K V Y T Y
- - - - - - - - - P N Y T WM S K G Y V H
L E P V G S E H A Q D T Y L V L D KW L L P R N P P S E D L P G P G G S V D I V A M D E G S E A S S C S S A - L A
L E P V G S E H A Q D T Y L V L D KW L L P R T P C S E N L S G P G G S V D P V T M D E A S E T S S C P S D - L A
- - - - - - - - - - D S Y V V L D E N - - - R M P C S L EW L E A Q R H K T V I V G A E S M D S R L Q T V N - K D
- - - - - - - - - - D S Y V V L D E N - - - R M P R S L EW F Q A Q R H K A G L V G A E N L D S R L H K S P S K D
A T H N C V M N S M V E R E N C E G A H S T L P E DW K T T T N N E M P M D SW R A A Q H N A V P C S K S S - F M
P A A P N C V T D G L V E R R K V E A H S A V S E GW E V T A D N Q M P T D SW R G P Q P N G V P C S R S P - L L
459
膜貫通領域
L K Q K I WP G I P S P E S E F E G L
L QQ K I WP G I P S P E S D F E G L
L K H K VW P Q V P T P E N N F Q G L
L K H K VW P Q V P T P E N H F Q G L
L V K K I WP K I P T P D S K F HG L
L V K K I WP N I P T P D S K F HG L
フィブロネクチン3領域
L T L S L I L VV I L V L L T V L A L L SHRRA
L T L S L I L V L I S L L L T V L A L L SHRRT
L L S I A I F V A L I A G V G V Y I F M R H GM Y
L L S I T F F V A L V A G V G V Y V F MR HGR F
L S L V L I I F F V L I G L F F T T LMSHRR Y
V S L A L V I L F V L I G L F L T T VMS NRR Y
S E R CWG T M Q A V E P G T D D E G P
S E P RW A V T Q A G D P G A D D E G P
SE L PPAA L PQS FNPNP L K - SE L PSAA L PRSFNPNP L K - SE L YNCPSRSSQL L T KDTNF
SE LCPCPSPSAPP L PPED L K
WSXWSモチーフ
L
L
I
I
I
I
L D A P V G L V A R L A D E S G H V V L RW L P P - - - P E T P M T S H I R Y E V D V S A G N G A G S V Q R V E I L E G R T E C V
L D A P A G L L A R R A E E G S H V V L RW L P P - - - P G A P M T T H I R Y E V D V S A G N R A G G T Q R V E V L E G R T E C V
L N P P L N V T V K E K Q D P R G L L I SW K P P H F Q K N H D I N N E I K Y Q V N Y S - - T P G A D M Q T V E V E A G N T E I F
L N P P L N V T V K E K Q D P R G L L I SW K P P H F Q K N H D I N N E I K Y Q V N Y S - - T P N G E V Q T V E V E A G R T E I I
L D P P A N V T V T S T T K Q G Q L N V T W V P P P L K Y M D D S M V - - - Y E V S Y S - - T V D S H MWQ V E M V Q A S S E L I
L D P P A N V T V T N T R K Q G Q L N V T W V P P - - - - - P L K Y M D D S MM Y E V S Y S A M D S H V M Q V E M V Q A S S E L I
KPSPEGA - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - SAAS F EY T I
KPRPEGT - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - SPSS F EY T I
V L E D T S K GQ I A V K A N N R V H S L E GDG S QG E A F R E D E Y V E A P RME H E R H R V S R E N S V S S DG K Q S I P S S F E Y T E
V L E E T R E EQ I T V K A DDR VQN L KGDR S HGE L F R E D E Y V E A PMV E R E RHR V S R E N S V S S DGKQS S P S S F E Y T E
A QD A Y V T L S T N N H R E E E N L D N I L E E T L P L E T N F A S R K Q I C E S H S D L G SMQQ S S G L S H - - - L S S Q S S F E Y - SQD A Y V T L S T NNQR E E E P L NH I P E E T L P I E K L F T S R X Y F S P K E L F F S F S S F S L A C S S - - SMT AQS S L NC - 460
493
S
S
V
V
E
E
363
Human
Mouse
Xenopus laevis
Xenopus tropicalis
Fugu rubripes
Tetraodon nigroviridis
g
g
l
d
-
Y T F A V R A R M A E - P S F G G F W S AW S E P V S
Y T F A V R A R M A E - P S F S G F W S AW S E P A S
Y T V T V R C K - A D G V S Y N G YW S DW T A P I T
Y T V T V R C K - A D G A S Y K G YW S DW T A P I T
Y K V R V R V K - L D G I S Y S G YW S AW S E S V L
Y E V Q V R V K L D G I S Y S G Y - W S AW S D S V V
Human
G C L WW S P C T P F T E D P P A S L
Mouse
G C L WW S P G S S F P E D P P A H L
Xenopus laevis
A Y L LW I S R H V F Q E D P S S T L
Xenopus tropicalis T Y L L W I S R H V F Q E D P S S T L
Fugu rubripes
I G LWV I P V F F N S E E L S S S L
Tetraodon nigroviridis S G L W V T P V F F N T E E L A S S L
280
Human
R
Mouse
R
Xenopus laevis
Xenopus tropicalis Fugu rubripes
K
Tetraodon nigroviridis K
v
v
l
v
v
i
1
86
P D P K F E S K A A L L A A R G P E E L L - - - - - - C F T E R L E D L V C F W E E A A S A G V G P G N Y S F S Y Q L E D E PW K L C R L H Q A P T A R G A V R F W C S L P T A D T S S F V
P D P K F E S K A A L L A S R G S E E L L - - - - - - C F T Q R L E D L V C FW E E A A S S GM D - F N Y S F S Y Q L E G E S R K S C S L H Q A P T V R G S V R FWC S L P T A D T S S F V
- - E D P T M T P E F L R H I S E K I P E E Y Q N P H C F T R D L N D F I C F W E - - - - - G E R R K N A S F S Y S - E D D Q I KW C Q L R T E V A S N N T WW Y I C E F P V T D V V L F A
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - D Q T K T C R L R T E E A S N N T WW Y I C E F P V T E V V L F A
- - - S V QG A R D F S K K V S I M L K E D P K T P K C F A E GR K D F T C FWE E D E E R A E S - - - - L D Q Y S F K Y T Y QN E N S S R C P L R S I P A A H G K R L F I C H L N Q P KM
- - - - - - - A QD F R K K V S I M L K E D P K N P K C F A E GR K D F I C FWE E D E E R A G S - - - - V D Q Y T F T Y A Y QN E N S S R C P L K S I S A A D S K R L F I C H L N R I KM
182
md
md
s l
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PPPN L
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- - - - - - - - - - - - - - - - -
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Human
P L E L RV T AAS - GAPRYHRV
Mouse
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Xenopus laevis
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Xenopus tropicalis G I T I S V Y P C P G C - - Q A A R E
Fugu rubripes
F V QM D MQ V H R K GM L I Y N R S
Tetraodon nigroviridis F V Q M D I Q V H R E G M L I H N R S
87
Mature protein
Human
Mouse
Xenopus laevis
Xenopus tropicalis
Fugu rubripes
Tetraodon nigroviridis
-32
Signal peptide
Human
- Mouse
- Xenopus laevis
mg
Xenopus tropicalis - Fugu rubripes
- Tetraodon nigroviridis - -
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
図 3-6 ゼノパス、ヒト、マウスの EPOR の分子構造の予測
36
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
EPOR のアミノ酸配列全体の相同性を計算すると、xlEPOR と xtEPOR の相同
性は最も高い値を示す(84.5%)。しかし、ヒト(33.3%)、マウス(34.2%)な
ど哺乳類とは相同性は低く、トラフグ(26.9%)、ミドリフグ(32.2%)など硬
骨魚類と比較したときにも低い値を示した(図 3-7)。また細胞外領域、膜貫通
領域、細胞内領域に分けて、それぞれ比較したときも相同性は低い値を示した。
図 3-7 ゼノパスと脊椎動物の EPOR の塩基配列とアミノ酸配列の相同性
37
第 3 章 ゼノパスのエリスロポエチン受容体遺伝子のクローニング
3-4. 考察
ゼノパスの幼若赤血球の cDNA ライブラリから、ゼノパス EPOR 候補 cDNA
クローンを複数得た。そのうち 1 種(F51)はコード領域のすべてを含み完全
長であると考えられた。コード領域の塩基配列よりアミノ酸配列(一次構造)
を決定し、in silico の諸解析を実施したところ、N 末端側シグナル配列と細胞膜
貫通領域の存在が示され、この分子は哺乳類の EPOR と同様、1 回膜貫通型の
分泌型膜蛋白質と推定され、細胞外領域、細胞内領域にはサイトカイン受容体
に特徴的な機能領域を含む。これらの結果を合わせるとゼノパス EPOR の分子
構造はヒト、マウス EPOR と同様の構造をとることが考えられ、この分子を
xlEPOR と命名して以後の解析に用いることにした。これまでゼノパスで報告
されている造血因子受容体の Xkl-1(哺乳類 c-kit 相同分子)はアミノ酸配列で
ヒトと 73.3%マウスと 73.6%と比較的高い値を示している(図 3-7)(Kao et al.,
1995)。哺乳類間での EPOR のアミノ酸配列の相同性は 80%以上であると報告
されているが、ヒト、マウス EPOR と xlEPOR の相同性は塩基配列では 50%以
下、アミノ酸配列では 35%以下であり比較的低い。またゲノムデータベース上
から検索されたトラフグ、ミドリフグ EPOR 相同分子と比べると 35%以下と低
い相同性を示している。一方で同じくゲノムデータベースから検索された
Xenopus tropicalis EPOR 相同分子と比べたときは 84.5%と比較的高い値を示す。
以上のことから EPOR 分子の塩基配列、アミノ酸配列は動物綱により配列の特
異性が存在することが予想され、第 2 章での予想と一致する。同定した xlEPOR
は哺乳類の EPOR とはアミノ酸配列が大きく異なり、この分子が Xenopus laevis
で赤血球産生に重要な生物学的機能をもつ EPOR 相同分子であることを確かめ
る必要がある。次章以降から、xlEPOR の発現解析、生理活性の詳細な検討を
行った。
38
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
第 4 章 ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-1. 序論
第 3 章で xlEPOR の cDNA を得ることができた。推定された xlEPOR のアミ
ノ酸配列は哺乳類の EPOR ものと比べて、全体の相同性が低い。xlEPOR が哺
乳類 EPOR の相同分子であると結論するためには、xlEPOR が赤血球造血に関
与する分子機能をもつことを示す必要がある。哺乳類の EPOR は造血巣に存在
する赤血球前駆細胞の表面に発現し、EPO の結合によってシグナル伝達系を作
動させ、増殖と分化を調節している。xlEPOR が哺乳類の EPOR 相同分子であ
り、受容体として機能して赤血球造血に関わるのであれば、膜貫通領域を有し、
赤血球系の細胞に発現し細胞の表面に存在することが予想される。
第 4 章ではノーザンハイブリダイゼーション法によって xlEPOR の mRNA の
組織発現分布と発現様式を精査する。さらに、末梢血球に対する in situ ハイブ
リダイゼーション法で xlEPOR の mRNA を発現する細胞を特定した。また
xlEPOR の細胞外領域に対するウサギポリクローナル抗体を作製し、xlEPOR 分
子の細胞の局在を特定した。
39
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-2. 材料と方法
4-2-1. 成体の各組織における xlEPOR の mRNA の発現解析
(ノーザンハイブリダイセーション)
xlEPOR の翻訳領域をすべて含む領域を以下のプライマーで増幅し、得られ
た cDNA 断片(1615 bp)を pGEM-T Easy ベクターにクローニングし、このベ
クターを鋳型にして、biotin-16-dUTP(Roche)の存在下で PCR を行うことで、
ビオチン標識 cDNA プローブを合成した。
xlEPOR Fw3 5’-AACTACAGCAATCCTGGGAAGATCC-3’
xlEPOR Re3 5’-CCTGTCATCAGCTTTGTGAGTATATAGG-3’
10 μg の成体各組織の全 RNA と 1 μg の成熟赤血球と幼若赤血球の mRNA を
ホルムアルデヒド変性 1%アガロースゲルで電気泳動を行い、分離した RNA を
ナイロン膜に転写した。RNA を転写したナイロン膜と作製したビオチン標識
cDNA プローブを 42°C で 8 時間以上ハイブリダイズさせ、ナイロン膜を 2 x SSC、
0.1% SDS 中で室温 20 分で 2 回、0.2 x SSC、0.1% SDS 中で 65°C、20 分で 2 回
洗浄した後に SA-AP と反応させた。1 x TBS 中で 3 回洗浄した後に、発色基質
CDP-Star(Amersham)を加えてプローブを発光させ、発光シグナルを X 線フィ
ルムに露光するか、LAS-3000 イメージングシステム(Fujifilm)を用いてシグ
ナルを解析した。
40
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-2-2. 成体の末梢血球における xlEPOR の mRNA の発現解析
(in situ ハイブリダイゼーション)
ゼノパスの赤血球系の転写因子 gata-1A(Zon et al., 1991)の cDNA 断片(628
bp)を下記のプライマーを用い RT-PCR 法によりクローニングし、陽性コント
ロールとして用いた。
xlGATA-1A Fw
5’-CAGGAGTTCAGTCTGTTTCAG-3’
xlGATA-1A Re
5’-GTTAGAACCTGTCCCTCAG-3’
xlEPOR と gata-1A の cDNA 断片がクローニングされたベクターを鋳型に用い
て、biotin-16-UTP(Roche)の存在下で in vitro 転写を行い、それぞれセンス、
アンチセンス側のビオチン化 RNA プローブを合成した。
未処理のゼノパスと PHZ 投与後 10 日目のゼノパスからそれぞれ心採血を行
い、それぞれ成熟赤血球を多く含む血球細胞と幼若赤血球を多く含む血球細胞
を得た。細胞を 1 x 106 cells/ml の濃度になるように dDPBS で希釈し、最終濃度
10%となるように FCS(Fetal calf serum; ウシ胎仔血清)を加え、そのうち 100 μl
(細胞 1 x 105 個)を用いてサイトスピン標本を作製した。標本の一部は MGG、
TB 染色による末梢血球の鑑別に用いた。標本上の血球細胞を 4% パラホルム
アルデヒドによって固定し、0.1% Triton-x100 の処理を行い、1 x TBS、2 x SSC
で洗浄した後に、xlEPOR、gata-1A のセンス、アンチセンスプローブを加えて
37°C で終夜反応させた。SSC による洗浄を行った後、ハイブリダイズしたプロ
ーブは SA-AP と反応させ、BCIP/Nitro-TB で発色させ、光学顕微鏡下で写真の
撮影を行った。
41
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-2-3. 抗 xlEPOR ウサギポリクローナル抗体の作製
SignalP プログラムによって推定された xlEPOR の細胞外領域(Glu1-Arg216)
を含む断片を BamH I と Not I の制限酵素部位を含むプライマーで PCR 法によ
って増幅し、pGEX-6P-1 ベクターの制限酵素部位に挿入し、グルタチオン S ト
ランスフェラーゼ-可溶型 xlEPOR(GST-可溶型 xlEPOR)の融合蛋白質発現ベ
クター(pGEX-6P-1/Soluble xlEPOR)を作製した(図 4-1)。ベクターの配列を
シークエンシングで確認した後に大腸菌株 BL21 を形質変換し、最終濃度 0.1
mM IPTG を添加し、25°C で終夜培養することにより GST-可溶型 xlEPOR の発
現を誘導した。
xlEPOR GST Fw
5’-AATAGGATCCGAAGACCCAACAATGAC-3’
BamH I
xlEPOR GST Re
5’-AATAGCGGCCGCGTAGATCAATAATGGTC-3’
Not I
図 4-1 GST-可溶型 xlEPOR 発現ベクターと用いたプライマー配列
42
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
発現させた GST-可溶型 xlEPOR の 90%以上が封入体を形成し、不溶画分に含
まれていたため、菌体を超音波により破砕した後に不溶画分として残る封入体
を DPBS、5 mM EDTA、pH 8.0 で数回洗浄した後に可溶化溶媒(DPBS、5 mM
EDTA, 6 M Urea, 10 mM DTT, pH8.0)を加え、室温で 3 時間以上混和し、不溶画
分を可溶化した。遠心後の可溶化画分は分子量 6000-8000 のポアサイズの透析
チューブを用い透析を行い、Urea、DTT を段階的に除いて最終的に溶媒を DPBS、
5 mM EDTA に置換した。遠心によって得た可溶画分 Glutathione Sepharose 4B
アフィニティーカラム(Amersham)を用いて精製し、得られた GST-可溶型
xlEPOR を PreScission protein protease(Amersham)で GST と可溶型 xlEPOR に
切断した。切断後の溶液を透析または NAP-10 ゲル濾過カラム(Amersham)で
非結合のグルタチオンを除去すると同時に DPBS、5 mM EDTA に置換した。再
び Glutathione Sepharose 4B カラムに通すことで結合画分のプロテアーゼ、切断
した GST と未切断の GST-可溶型 xlEPOR を除去した。得られた可溶型 xlEPOR
はポリアクリルアミド電気泳動と銀染色を行いサイズと純度を確認し、CBB ア
ッセイで蛋白質濃度を定量した。
雌のウサギ(New Zealand white 種)に調製した可溶型 xlEPOR 500 μg を 2
週間に 1 回皮下投与し、6 週間免疫を行った(初回免疫は FCA、以後は FIA と
混合したものを投与)。免疫開始から 8 週間後にウサギから静脈採血、心採血に
よって全血を採集し、得られた血清から Prosep-G カラム(Millipore Corp. MA)
を用いて IgG を回収し、IgG の蛋白質濃度を測定した。抗原(可溶型 xlEPOR)
を用いたウェスタンブロッティングで特異性と抗体価を確認した後に、得られ
た抗 xlEPOR ウサギポリクローナル IgG(抗 xlEPOR PoIgG)を Biotin-(AC5)2-Osu
(Dojindo)と反応させてビオチン化し、組織免疫染色に用いた。
43
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-2-4. 組織免疫染色
Nhe I、Sal I の制限酵素部位を含むプライマーを用いて、xlEPOR のコード領
域をすべて含む cDNA を PCR によって増幅し、pIRES2-EGFP ベクター
( CLONTECH, Palo Alto, CA ) の 制 限 酵 素 部 位 に 挿 入 し 、 発 現 ベ ク タ ー
(pIRES2-EGFP/xlEPOR)を作製した(図 4-2)。このベクターを 1 ng/ml のマウ
ス IL-3、10%の FCS を含む Iscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)で培
養しているマウス顆粒球系細胞株 FDC/P2 にエレクトロポレーション法
(GenePulser II, BioRad)を用いて 300 V、500 μF の条件下で導入した。G418(500
μg/ml)による選択培養を 2 週間行った後に限界希釈を行い、共発現する EGFP
の蛍光を指標に xlEPOR 強制発現株を樹立した。樹立した細胞を用いてサイト
スピン標本を作製した。
xlEPOR expression Fw1
5'-ATAAGCTAGCAATCCTGGGAAGATCC-3'
Nhe I
xlEPOR expression Re1
5'-TTATGTCGACCTGTCATCAGCTTTGTG-3'
Sal I
図 4-2 xlEPOR 発現ベクターと用いたプライマー配列
44
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
サイトスピン標本上の血球細胞と樹立細胞をホルマリン-アセトン溶液(1.4
mM Na2HPO4 , 7.3 mM KH2PO4, 45% acetone, 25% ホルマリン)で固定し、dH2O、
1 x TBS
(20 mM Tris-HCl pH 7.5, 500 mM NaCl)で洗浄後に 4% BA/TBS
(4% Block
Ace 含有 TBS)
(Yukijirushi, Sapporo, Japan)でブロッキングを行った。一次抗体
にビオチン化抗 xlEPOR PoIgG、二次抗体(検出抗体)にストレプトアビジン
-Alexa Fluor 488 fluorescent(Invitrogen, Carlsbad, CA)、核染色に TO-PRO-1
(Invitrogen)を用い組織免疫染色を行った。Leica TCS SPII 共焦点レーザー顕
微鏡(Leica, Heidelberg, Germany)を用いて、染色された標本の蛍光像、微分干
渉像の撮影を行った。
45
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-3. 結果
4-3-1. 成体の各組織における xlEPOR の発現解析
成体各組織における xlEPOR の発現をノーザンハイブリダイゼーション法で
解析を行った。xlEPOR の mRNA は末梢血球特異的に発現しており、5.8, 4.1, 0.6
kb の mRNA が検出された(図 4-3 左)
。RT-PCR の解析では調べたすべての組
織において発現が見られたが、末梢血球に xlEPOR の発現が見られたため、血
球細胞由来の mRNA が混入したためと考えられる。
成熟赤血球と幼若赤血球由来の mRNA を用いて解析を行うと、幼若赤血球由来
の mRNA では成熟赤血球と比べ 4.1, 0.6 kb の mRNA がより強く検出された(図
4-3 右)。
図 4-3 成体ゼノパスの各組織における xlEPOR mRNA の発現
46
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-3-2. 末梢血球における xlEPOR の発現解析
末梢血球細胞の in situ ハイブリダイゼーション法で xlEPOR mRNA の発現は、
赤血球系に特異的な転写因子である gata-1A が発現している幼若な赤血球の細
胞質で発現が認められた(図 4-4A, C)。成熟して核が凝縮している赤血球では
gata-1A が弱く発現しているが xlEPOR mRNA の発現は認められない。また栓球
での xlEPOR mRNA の発現は認められなかった。また MGG 染色、TB 染色によ
り好塩基性を呈する一部の細胞球にも xlEPOR mRNA の発現が認められた。
図 4-4 成体ゼノパスの血球細胞における xlEPOR mRNA の発現
矢印は幼若赤血球を示す。
47
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-3-3. 免疫組織染色
xlEPOR の細胞外領域に対する抗体を用い、末梢血球について免疫染色を行
った。xlEPOR 分子は核が凝縮していない幼若赤血球の細胞表面に局在してい
た(図 4-5A, D)。また xlEPOR を強制発現させたマウス FDC/P2 細胞において
も同様に細胞表面に xlEPOR 分子が局在していたことは(図 4-5C, F)、第 3 章
の「3-3-2. ゼノパス EPOR の一次構造の疎水性解析」における推測と合致した。
xlEPOR は細胞表面に表出して、受容体分子として機能していることが示唆さ
れる。また xlEPOR は成熟赤血球において、細胞膜表面での発現は認められな
いが、わずかに細胞内の核に発現が認められた(図 4-5B, E)。末梢血液中の栓
球での xlEPOR の発現は認められなかった。また、免疫染色においても、in situ
ハイブリダイゼーション法のときと同様に、細胞染色により塩基性を呈する一
部の細胞が xlEPOR 分子を発現していることが認められた。
48
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
図 4-5 成体ゼノパスの血球細胞における xlEPOR の局在
49
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
4-4. 考察
xlEPOR についてノーザンハイブリダイゼーション法と in situ ハイブリダイ
ゼーション法を行ったところ xlEPOR の mRNA は末梢血中の赤血球のうち幼若
赤血球に多く発現していることが示された。哺乳類において EPOR は骨髄や脾
臓などに存在する赤血球前駆細胞に発現しており、また赤血球前駆細胞以外の、
中枢神経系、胎盤、輸卵管、精巣、がん細胞においても発現しているという報
告がある。(Digicaylioglu et al., 1995 ; Marti et al, 1996 ; Fairchild Benyo et al.,
1999 ; Acs et al., 2001 ; Lappin et al., 2002)。しかし、ノーザンハイブリダイゼー
ション法でこれら臓器での xlEPOR の検出は認められなかった。末梢血球由来
の全 RNA から検出された mRNA は 5.8、4.1、0.6 kb のサイズがあり、幼若赤血
球ではそのうち 4.1、0.6 kb の mRNA がより強く検出された。ヒト、マウスに
おいて、EPOR 遺伝子は 8 つのエキソンからなる単コピー遺伝子であるが、選
択的スプライシングによって EPO に対する反応性が異なるアイソフォームが
赤血球前駆細胞の分化段階で生じることが報告されている(Chiba et al., 1997 ;
Shimizu et al., 1999)。また赤血球前駆細胞の比較的遅い段階で完全長型の EPOR
(EPOR-F)が発現し、より未熟な段階ではドミナントネガティブな可溶型
(EPOR-S)と細胞内領域欠失型(EPOR-T)が多く発現しており、これらのア
イソフォームの存在比を変えていくことで、赤血球前駆細胞の増殖と分化を制
御して、末梢赤血球数の恒常性を維持するという報告がある(Nakamura et al.,
1992, 1994)。ゼノパスの赤血球でも分化成熟段階によって、数種類の xlEPOR
の mRNA の相対比が変動することから、ヒトやマウスなどと同様に分化段階に
依存した遺伝子発現制御が行われ、末梢赤血球数の制御が行われている可能性
がある。
in situ ハイブリダイゼーション法では、xlEPOR は幼若赤血球で発現してい
50
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
ることが示された。幼若赤血球は赤血球系に特異的な転写因子である GATA-1
も強く発現していた。哺乳類では、GATA-1 は血球前駆細胞の増殖と分化に必
要な遺伝子の発現を正に制御している。EPOR 遺伝子 5’側上流プロモーター領
域には GATA 認識配列が存在しており、GATA-1 が結合することにより EPOR
の発現は正に制御される。また逆に EPOR は GATA-1 の発現を正に制御する。
xlEPOR の 5’非翻訳領域に GATA 結合配列が見出されたことから、哺乳類と同
じように xlEPOR mRNA の発現も GATA-1 により正に制御されている可能性が
ある(Zon et al., 1991 ; Chiba et al., 1991 ; Ohneda et al., 2002 ; Orkin, 1992)。
細胞の表面に局在する EPOR 分子の数は哺乳類では CFU-E から好塩基性赤
芽球の段階にかけて最大となり、分化するにつれその数は減少し EPO の依存性
は次第になくなる。抗 xlEPOR ポリクローナル抗体を用いた免疫染色では
xlEPOR の分子は未成熟な赤血球の細胞表面に特異的に認められた。このこと
から xlEPOR は成体における赤血球産生に受容体として機能し存在しているこ
とが示された。末梢血中の成熟赤血球では細胞の表面では xlEPOR の局在は認
められないが、核に xlEPOR の局在がわずかに認められた。哺乳類において EPO
遺伝子が骨髄で発現していること、コロニーアッセイで赤芽性コロニー形成が
培地中の EPO の有無に関わらず、EPO、EPOR のアンチセンスオリゴの添加培
養で抑制できること、抗 EPOR 抗体では完全に抑制できないことが示され、赤
血球前駆細胞内で EPO-EPOR を介した増殖と分化のシグナルが作動している
という、細胞内オートクライン調節の可能性が示唆されている(Hermine et al.,
1991 ; Pech et al., 1993 ; Goldwasser et al., 1994 ; Stage-Marroquin et al., 1996)。
in situ ハイブリダイゼーションと免疫染色の両方において、xlEPOR の発現
が MGG 染色、TB 染色で好塩基性を呈する細胞で認められた。ニジマスの B
リンパ球には組換えヒト EPO が結合し、結合によりカルシウムイオンの流入が
起こり、シグナルが作動することが報告されており(Koebel et al., 2003)、赤血
51
第 4 章ゼノパス EPO 受容体の組織発現と局在の解析
球前駆細胞以外の末梢血球に EPO 受容体が存在する可能性を示している。ゼノ
パスにみられるこの好塩基性の細胞の性質を同定し、この細胞における xlEPOR
の機能をさらに解析する必要がある。
52
第 5 章 ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
第 5 章 ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
5-1. 序論
ゼノパスの胚発生時に起こる一次造血は第 25 発生段階から胚体内の腹部血
島(VBI)領域で始まる。腹部血島が形成されるにつれ赤血球系特異的転写因
子 gata-1 の発現量が増加し(Zon et al., 1991)
、赤血球前駆細胞の分化と成熟に
必要な様々な遺伝子を正に制御する(Orkin, 1992 ; Ohneda et al., 2002)。第 3 章
において xlEPOR の転写開始点から 5’上流の非翻訳領域-24 から-15 にかけて
GATA 結合配列が推定された(図 5-1)。哺乳類で GATA-1 は EPOR 遺伝子の発
現を正に制御することが報告されていることから(Zon et al., 1991 ; Chiba et al.,
1991)、xlEPOR 遺伝子の発現は血島形成時の gata-1 の発現に続いて起こると考
えられる。本章ではゼノパスの胚発生の各段階における gata-1 と xlEPOR の発
現時期の関係について RT-PCR 法による解析を行った。
図 5-1 xlEPOR cDNA の 5’非翻訳領域に見られる GATA 結合配列
53
第 5 章 ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
5-2. 材料と方法
5-2-1. ゼノパス胚の採取
ゼ ノ パ ス の 成 体 の 雄 と 雌 に ヒ ト 胎 盤 性 生 殖 刺 激 ホ ル モ ン ( Mochida
pharmaceutical, Shinjuku, Japan)を腹腔内投与することにより、生殖活動を促し
て受精卵を得た。受精卵を発生段階表(Nieuwkoop and Faber, 1994)にしたがっ
て各段階で採取し、ゼリー層とビテリン膜をピンセットで除去し、液体窒素で
直ちに凍らせ保存した。保存した胚から TRIzol(Invitrogen)を用い全 RNA の
抽出を行い、さらに RNeasy RNA isolation キット(QIAGEN, Hilden ,Germany)
を用いて全 RNA の精製を行った。
5-2-2. 胚発生における xlEPOR の発現解析(RT-PCR)
xlEPOR、gata-1A、gata-2、β-actin のプライマーを下記のように設計し、RT-PCR
を行った。PCR の条件を下記に示す。
xlEpoR Fw3
5’-AACTACAGCAATCCTGGGAAGATCC-3’
xlEpoR Re4
5’-GTAAACTCCAACTCCAGCGATTAAGG-3’
xlGATA-1A Fw
5’-CAGGAGTTCAGTCTGTTTCAG-3’
xlGATA-1A Re
5’-GTTAGAACCTGTCCCTCAG-3’
xlGATA-2 Fw
5’-TCAGTCGGCTCATTCCACTTC-3’
xlGATA-2 Re
5’-TAGTCGTGTGCTGCTGGCACA-3’
xlβ-actin Re
5’-ACGTGACCTGACAGACTACC-3’
xlβ-actin Re
5’-CAAGATGGAGCCACCAATCC-3’
54
第 5 章 ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
PCR 条件
熱変性
95 °C;2 min,
サイクル
95 °C;15 sec → 50 °C;30 sec → 65 °C;1 min
伸長反応
72 °C;10 min.
サイクル数は xlEPOR: 35、gata-1A: 30、gata-2: 30、β-actin: 30 サイクルとし
た。PCR 産物は 2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイド
染色で検出した。
55
第 5 章 ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
5-3. 結果
胚の発生段階において、gata-1A の発現は第 11 段階から始まっており、
xlEPOR の発現は第 15 段階から発現が認められる(図 5-2)。血球細胞マーカー
である gata-2 は母系由来の RNA が受精卵には含まれているため、調べた全て
の段階での発現が認められた。血島が形成され始める第 25 発生段階から
gata-1A の発現量が上がっている。xlEPOR の発現量の増加は gata-1A の発現量
の増加に続いて第 28 段階から始まり、その後の発生段階では gata-1A と xlEPOR
の発現量は高いまま維持される。
図 5-2 胚発生における xlEPOR mRNA の発現の推移
56
第 5 章 ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
5-4. 考察
脊椎動物で胚発生時に起こる一次造血の分子制御機構はこれまで詳細な解析
がなされてきた。哺乳類の一次造血は卵黄嚢で始まり、やがて大動脈-生殖腺中腎領域の造血幹細胞から胎仔肝臓で二次造血が始まる。両生類のゼノパスで
は哺乳類の卵黄嚢や鳥類の卵黄に相当すると考えられている中胚葉腹部血島
(VBI)領域で第 25 発生段階から一次造血が始まる(Galloway et al., 2003)。
GATA 転写因子ファミリーは脊椎動物間で高度に保存されている分子であり、
造血前駆細胞の分化には必要不可欠である。そのうち gata-1 は赤血球系、巨核
球・血小板系、肥満細胞系の細胞に発現しており、赤血球系の細胞ではグロビ
ン、EPOR 遺伝子などの赤血球系特異的な遺伝子発現制御に関わり、赤血球前
駆細胞の分化と成熟には必須である。gata-2 は gata-1 が発現している前駆細胞
よりも未分化で幹細胞に近い細胞で発現している(Ohneda et al., 2002 ; Orkin,
1992)。xlEPOR cDNA の 5’上流の非翻訳領域には GATA 結合配列が推定された
ので、gata-1 と xlEPOR の発現の関係を胚発生時の一次造血について解析を行
った。xlEPOR の発現は gata-1A の発現量の増加に続き、第 28 発生段階以降で
は xlEPOR と gata-1A の mRNA の発現量は両方とも高いままで維持された。こ
のことは xlEPOR と gata-1 の発現は互いに正に制御されているという哺乳類に
おける報告と一致する(Chiba et al., 1991)。本章の結果から、ゼノパスの胚発
生の一次造血においても xlEPOR は GATA-1 と協同して赤血球造血に関与して
いる可能性が示唆された。
今後、xlEPOR が哺乳類の EPOR と同じように GATA による遺伝子発現制御
を受けることを、より直接的に示し確定する必要がある。まず xlEPOR の 5’上
流の遺伝子とゼノパスの GATA を用いてクロマチン免疫沈降(ChIP)法を行う
ことで、xlEPOR の 5’上流非翻訳領域に存在する GATA 結合配列に GATA が結
57
第 5 章 ゼノパスの胚発生時における xlEPOR の発現の解析
合することを示す必要がある。さらに xlEPOR の代わりに、ルシフェラーゼ、
クロラムフェニコールなどをレポーターとして用いたレポーター遺伝子アッセ
イを行うことで、GATA が結合することにより xlEPOR の発現が増加し、xlEPOR
が哺乳類の EPOR と同じように GATA による遺伝子発現制御を受けることを示
す必要がある。
58
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
6-1. 序論
第 4 章において xlEPOR が赤血球系の細胞膜上に発現し、受容体として機能
していることが示唆された。また、第 5 章で胚発生時の一次造血において、転
写因子 gata-1A とともに血島形成時に xlEPOR の発現量の上昇が見られ、赤血球
造血に密接に関与する可能性が示唆された。さらに xlEPOR が哺乳類の EPOR
の相同分子であることを証明するためには、xlEPOR の生物学的な活性を示す
必要がある。本章では成体の赤血球産生における xlEPOR の生物学的機能を in
vivo の実験で実証した。xlEPOR のリガンドと考えられるゼノパスの EPO は第
1 章において同定することができなかった。そこで細胞外領域のみの xlEPOR
(可溶型 xlEPOR)を調製し、これを成体のゼノパスに投与した。xlEPOR が赤
血球前駆細胞の増殖と分化に関わる分子であるならば、可溶型 xlEPOR をゼノ
パスに投与することで、内因性の EPO がこれと結合して、赤血球前駆細胞に発
現している xlEPOR との結合を妨げ、EPO 活性を中和し、赤血球造血が抑制さ
れると考えた(図 6-1)。可溶型 xlEPOR を大腸菌で発現させ、精製標品を成体
のゼノパスに連続心投与し、末梢血球数の系時変化と末梢血中に出現する血球
の形態的な変化の解析を行った。
59
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
6-2. 材料と方法
6-2-1. 可溶型 xlEPOR の調製
可溶型 xlEPOR は第 4 章
「4-2-3. 抗 xlEPOR ウサギポリクローナル抗体の作製」
と同様に調製し、透析法により溶媒を dDPBS に調製した。発現させた可溶型
xlEPOR は大腸菌由来であり、エンドトキシン(LPS: lipopolysaccharide)の混入
を注意する必要がある。成体への投与による効果が LPS によるものではないこ
とを示すため、LPS 濃度が可溶型 xlEPOR を成体へ投与したときに影響を与え
ない濃度であることを PYROGENT-5000 試薬(Daiichi pure chemicals CO., LTD.,
Tokyo, Japan)を用いて確認した。
6-2-2. 可溶型 xlEPOR の成体への in vivo 投与
成体の雄のゼノパス(体重 20-30 g)に対し、可溶型 xlEPOR(N=5)または
dDPBS(N=5)の投与を行った。可溶型 xlEPOR は蛋白質の可溶化と巻き戻し
の処理を一度行っている。しかし、可溶型 xlEPOR は 7 つのシステイン残基を
持つため、調製した xlEPOR のすべての分子が正しい立体構造を取って活性を
持つわけではないと考えた。そこで投与は 2 日おきの連続心投与を行い、1 回
の投与量は 250 μg/kg とした。採血は投与開始日から 4 日に 1 回行い、末梢血
球数を血球計数盤を用いて計測し、末梢血球の一部はサイトスピン標本を作製
し、MGG、TB 染色による血球の鑑別を行った(Hadji-Azimi et al., 1987)。また
スライドグラス上の末梢血球のうち TB 染色陽性の幼若赤血球数を計測し、全
赤血球中に含まれる幼若赤血球の割合を算出した。すべての計測値について平
均値と標準誤差を算出し、投与群と対照群の間の末梢赤血球数の差と、幼若赤
60
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
血球と成熟赤血球の割合の差について Student’s t-test により、有意水準を検定し
た。
図 6-1 可溶型 xlEPOR 投与による末梢赤血球数減少のモデル
61
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
6-3. 結果
6-3-1. 可溶型 xlEPOR の投与による末梢赤血球数の減少
可溶型 xlEPOR 投与後、末梢赤血球数は緩慢に減少した(図 6-2A)。極小値
を示すのは投与 16 日後であり、PHZ 投与急性貧血の例(図 6-2B)の極小値が
9 日目に観察されるのに対して、大幅に遅延した。可溶型 xlEPOR 投与 16 日後
の末梢赤血球数は 761.2 ± 66.2 x 109 cells/L であり、この値は投与 16 日後の対照
群(1187.6 ± 54.1 x 109 cells/L)と比べ有意に小さく(P = 0.001)、およそ 60%の
値である。しかし投与 16 日以降には投与群の末梢赤血球数は回復し始め、投与
24 日後には 982.8 ± 97.6 x 109 cells/L まで回復する。
6-3-2. 末梢血球の形態学的変動
投与 16 日後以降、可溶型 xlEPOR 投与群の末梢赤血球数は回復し始めるが、
このときの末梢赤血球を MGG 染色、TB 染色で鑑別を行った。可溶型 xlEPOR
投与群の末梢赤血球数回復期には成熟赤血球と PHZ 投与後の貧血回復期に見
られるような幼若赤血球の両方が観察された(図 6-3B,E)。このとき対照群の
末梢血球には幼若赤血球はほとんど観察されない。末梢赤血球数回復期におけ
る末梢赤血球中の成熟赤血球と幼若赤血球の割合を算出するため、各標本につ
いて TB 染色を行い、末梢赤血球数のうち TB 染色陽性の幼若赤血球数を測定
した。可溶型 xlEPOR 投与群の末梢赤血球中の TB 染色陽性の赤血球の割合は
投与 16 日後から増加し始め、
投与 20 日後では極大値を示す
(5.570 ± 0.653 %)。
投与 20 日後の対照群では TB 染色陽性の細胞は 1%以下であった(0.998 ±
0.329 %)。可溶型 xlEPOR 投与群の末梢赤血球数が回復し始める時期と TB 陽性
62
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
細胞が出現し始める時期は一致しており、回復期の赤血球は新規の赤血球造血
により出現したものであることが示唆される。
図 6-2 可溶型 xlEPOR 投与と PHZ 投与による末梢赤血球数減少の誘導
63
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
図 6-3 可溶型 xlEPOR 投与後の末梢血球
64
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
6-4. 考察
成体内に存在する多くの造血因子受容体の中には、タンパク質分解酵素によ
るアミノ酸配列の切断や選択的スプライシングによって生じる細胞外領域のみ
を有する可溶型受容体が存在することが知られている。可溶型受容体は生体内
でリガンドの中和効果、リガンド濃度の調節効果、リガンド機能の相乗効果な
どさまざまな機能を持つことが報告されている(Heaney et al., 1996)。例えば、
サイトカインの一種であるインターロイキン 6 の受容体(IL-6R)にも完全長型
受容体の他に可溶型受容体(可溶型 IL-6R)が存在する。完全長型の IL-6R は
細胞膜上に存在し、IL-6 が結合すると、同じく細胞膜上に存在する gp130 と会
合してシグナル伝達系を作動させる。可溶型 IL-6R は IL-6 と結合能力を持ち、
結合して sIL-6R/IL-6 複合体を形成すると細胞膜上の gp130 まで運搬しシグナル
伝達系を作動させることができる。この可溶型 IL-6R の生理活性は生体内で巨
核球の成熟に関与することが報告されている(Sui et al., 1999)。一方、TPO 受
容体の c-MPL や G-CSF 受容体にも可溶型が存在する。これらは Flt3/Flk2 リガ
ンドや SCF などと相乗的に働きマウスの一次造血に関与することが報告され
ている(Ku et al., 1996)。哺乳類では可溶型 EPOR のリガンドの中和効果は GST
融合蛋白質やイムノグロブリン G の Fc 領域との融合蛋白質による in vitro の結
合実験から確かめられている(Nagao et al., 1997 ; Maruyama et al., 2004)。本章
では xlEPOR が生体内で、赤血球造血に密接に関与する分子であることを実証
し、xlEPOR の生物学的な活性を評価するため、可溶型 xlEPOR を用いた。投与
した可溶型 xlEPOR は生体内で存在すると考えられるゼノパスの EPO を中和し、
赤血球造血を抑制することを期待した。xlEPOR を投与した個体は緩やかな末
梢赤血球数の減少を起こし、投与 16 日後で極小値を示す。PHZ は末梢赤血球
を溶血させて急性の赤血球減少を引き起こし、投与 9 日後に極小値を示すのに
65
第 6 章 可溶型 xlEPOR の投与による貧血の誘導
対して、xlEPOR 投与による赤血球数の減少の仕方は緩やかであることから、
xlEPOR の標的としている細胞はより未熟な段階にある未成熟な赤血球前駆細
胞であることを示唆している。このことは第 4 章で示した xlEPOR が未成熟な
赤血球で発現し、細胞膜上に局在している結果と合致し、可溶型 xlEPOR が内
因性のゼノパスの EPO を中和し、赤血球前駆細胞膜上に存在する xlEPOR との
結合を妨げ赤血球造血を抑制したことを示唆している。可溶型 xlEPOR を連続
投与したのにも関わらず。投与群での末梢赤血球数の極小値は対照群の 60%ほ
どであり、それ以上減少することはなかった。また可溶型 xlEPOR の連続投与
が続いている投与 16 日後以降においても、末梢赤血球数の回復が観察され、
xlEPOR による末梢赤血球数の減少効果が見られなくなった。原因として以下
に挙げることが考えられる。
(1)可溶型 xlEPOR 投与によって引き起こされた末梢赤血球数の減少によ
って、血中の低酸素状態を誘起して内因性の EPO 産生を促進させた可能性があ
る。産生された EPO の血中濃度が可溶型 xlEPOR の中和活性の用量を上回れば、
赤血球産生は引き起こされる。赤血球数回復期の末梢赤血球の中には MGG 染
色、TB 染色により未成熟な赤血球の割合は対照群に比べ多く、投与後 16 日以
降に新規に赤血球産生が起こったことを示している。
(2)
可溶型 xlEPOR に対する抗体が投与した個体で産生され、可溶型 xlEPOR
が中和され、EPO 中和効果が消失した可能性がある。
(3)末梢赤血球数の減少に反応して EPO/EPOR 以外の制御によって赤血球
産生が亢進された可能性がある。ゼノパスの胚発生時にラット組み換え TPO が
赤血球造血を亢進させ、また抗 c-MPL 抗体がラット TPO の赤血球造血効果を
損なわせたという報告もなされており(Kakeda et al., 2002)、他の造血因子が関
与している可能性が考えられる。
66
第 7 章 総括と展望
第 7 章 総括と展望
7-1. 総括
本研究では両生類のゼノパスにおいて赤血球産生因子 EPO とその受容体
EPOR の分子の同定を試み、EPOR の分子構造や生理活性の精査を行うことで、
EPOR が未熟な赤血球前駆細胞に特異的に発現し、受容体として赤血球造血に
密接に関与する分子であることを明らかにした。哺乳類以外の動物での赤血球
造血の分子生理学的な機序を明らかにしたのは初めての成果であり、未知であ
った赤血球造血制御系の分子機構の一端を明らかにした。
血球は広い動物種に存在し、その中でも末梢組織への酸素運搬を担う赤血球
の機能や成体の末梢赤血球数は一部の動物種を除いて一定に保たれており、恒
常性を保つ赤血球造血機構は高度に保存されている。哺乳類の間では EPO と
EPOR の分子構造やアミノ酸配列は非常によく保存されており(Wen et al.,
1993)、異種間での分子の生理活性や抗体の中和活性の交叉性が報告されている
(Wickramasinghe et al., 1993, 1994 ; Steinlein et al., 1994)
。また、ゼノパスで報
告されている造血因子受容体のひとつ、Xkl-1(哺乳類 c-kit 相同分子)はヒト
やマウスとアミノ酸配列を比べたとき相同性が 70%以上であり高度に保存され
ていることから(Kao et al., 1995)
、我々は両生類でも EPO と EPOR の分子のア
ミノ酸配列が高度に保存されていると想定した。第 2 章ではリガンドである
EPO の cDNA の同定を試みた。PHZ により急性の末梢赤血球減少を誘導し、赤
血球数の回復期には幼若赤血球が末梢血中に現れ、末梢赤血球数の減少により
新規の赤血球造血が亢進されることを確かめた。このことから末梢血中の赤血
球減少に反応し、EPO が産生され末梢血中に分泌されていることが想定できる。
赤血球造血が亢進されていると考えられる時期に、哺乳類における EPO 産生臓
67
第 7 章 総括と展望
器である腎臓と肝臓から全 RNA を抽出し、既知のマウス EPO の cDNA 塩基配
列を参考にして設計したプライマーとプローブを用い、検出と同定を試みたが、
EPO を産生していると考えられる PHZ 貧血誘導後の臓器において、EPO の
mRNA の発現を検出することはできなかった。近年、硬骨魚類のフグにおいて、
ドラフトのゲノムデータベースの検索から EPO 相同配列が見いだされが、全体
の塩基配列の相同性が低い(Chou et al., 2004)。このことからゼノパスにおいて
も EPO の相同性は低いことが想定され、赤血球造血は広い動物種で共通の現象
であっても、それを制御する分子の相同性は予想よりも低いことが示された。
また EPO の相同性の低さから、受容体である EPOR の相同性が低いことが考え
られた。第 3 章ではゼノパスの EPOR の同定を行った。EPOR の相同性が低い
と考えられため、ゼノパス EST データベースで報告されているヒト EPOR 相同
配列をプローブとして用いることで、PHZ 投与後に出現してくる幼若赤血球の
cDNA ライブラリから相同性のある分子を同定することができた。全体のアミ
ノ酸配列の相同性は低いが、哺乳類の EPOR で報告されている赤血球造血シグ
ナルに必須な領域、アミノ酸は高度に保存され、アミノ酸配列の疎水性の解析
から 1 回膜貫通型の受容体であると推定された。この分子をゼノパスの EPOR
(xlEPOR)であると仮定し、xlEPOR が哺乳類の EPOR 相同分子であることを
確かめるため、次章以降に発現解析と生理活性の評価を行った。第 4 章では
xlEPOR の発現解析を行ない xlEPOR の mRNA と発現した分子の局在を精査し
た。xlEPOR が赤血球造血にかかわるのであれば、赤血球系の細胞に発現し、
受容体としての機能を果たすと考えられた。xlEPOR はノーザンハイブリダイ
ゼーションでは末梢血球に特異的に発現しており、さらに in situ ハイブリダイ
ゼーション、組織免疫染色の結果から、xlEPOR は特に PHZ 投与後の貧血回復
期に出現してくる gata-1A を強く発現する幼若な赤血球に多く発現し、その細
胞膜上に分子の局在が認められた。これらの結果から xlEPOR は幼若赤血球に
68
第 7 章 総括と展望
特異的に発現し、その構造からシグナルを伝える受容体分子であることが推定
できた。同定した xlEPOR cDNA の 5’非翻訳領域には GATA 結合配列が認めら
れたことから、第 5 章では gata-1A と xlEPOR の遺伝子発現の関連性を胚発生時
における一次造血において精査した。xlEPOR の発現は gata-1A の発現が始まり
腹部血島が形成され始めた後の第 28 発生段階から起こり、その後は gata-1A と
xlEPOR の mRNA の発現量は高いまま保持される。xlEPOR も GATA-1 により制
御されていることを示唆し、哺乳類で報告されている通り EPOR と GATA-1 が
協同して赤血球の分化に関わる可能性が示された(Zon et al., 1991 ; Chiba et al.,
1991 ; Orkin 1992 ;Ohneda et al., 2002)。第 3 章から第 5 章にかけての構造解析と
発現解析の結果から xlEPOR が赤血球系の細胞に発現していることが示された。
しかし、xlEPOR の分子機能は未知であり、ゼノパス xlEPOR が EPO をリガンドと
する哺乳類 EPOR の相同分子であり、さらに xlEPOR が哺乳類の EPOR 相同分子で
あると結論するためには生物活性を直接証明する必要があった。xlEPOR が哺
乳類の EPOR 相同分子であるならば、xlEPOR がこれらの細胞に赤血球造血の
シグナルを伝える生物活性を持つと考えられた。第 6 章では内因性のゼノパス
EPO の中和効果を期待して、細胞外領域のみの可溶型の xlEPOR を成体に投与
し、末梢赤血球の数的、形態的な変動を観察した。投与後、末梢赤血球数は緩
やかに減少し、可溶型の xlEPOR は xlEPOR を発現するより未熟な段階にある
赤血球を標的としていることが示された。
以上をまとめると、本研究は、赤血球造血を担う EPOR 遺伝子をゼノパス成
体より取得し、哺乳類以外で初めてその遺伝子配列、蛋白質の一次構造、組織
発現分布を明らかにした。さらに EPO-EPOR 系による赤血球産生調節機構がゼ
ノパスにおいても存在することを in vivo の実験モデルにて詳細に実証した。多
くの生物種の造血制御系は調べられておらず、本研究で得られた両生類におけ
69
第 7 章 総括と展望
る知見や成果は、生物学、血液学の領域で動物種に広く存在する造血制御機構
の普遍性と多様性の理解につながるばかりでなく、現在急速に発展しつつある
臓器・組織再生や幹細胞の研究領域の新しいモデル系としても貢献するものと
考えられる。
70
第 7 章 総括と展望
7-2. 展望
本研究により Xenopus laevis の EPOR 相同分子を同定することができた。ゼ
ノパスで得られる知見を応用して、哺乳類以外の動物の赤血球造血の分子生理
学的機構をさらに解明していくためには、xlEPOR に対するリガンド分子を同
定し、あるいは xlEPOR を活性化させることができる分子を作製し、赤血球前
駆細胞における EPO-EPOR の細胞内シグナル伝達の機構を明らかにすること
が必須である。
今後の xlEPOR を用いた研究展開を図 7-1 に示した。受容体(xlEPOR)を利
用したリガンド(xlEPO)の同定方法には様々な手法が考えられる。xlEPOR の
細 胞 外 領 域 と マ ウ ス イ ム ノ グ ロ ブ リ ン Fc 領 域 の 融 合 タ ン パ ク 質
(xlEPOR-muIgG Fc)を哺乳類細胞株で発現させることにより、細胞外領域が
リガンドの結合活性を持つように正しく折りたたまれた分子が産生されること
が期待できる。また、EPOR は EPO と 2:1 の分子比で結合するため、Fc 領域で
2 量体形成を行い、生体内での EPOR の EPO を結合する構造を再現することが
期待される。PHZ 投与によって溶血性貧血にしたゼノパスの血清中には、in vitro
でゼノパスの赤芽球コロニーの形成を促進させる EPO 活性がある(Nogawa et
al., 投稿準備中)。従って、xlEPOR-muIgG Fc を結合させたプロテイン G カラム
に貧血ゼノパスの血清を結合させることにより、xlEPOR に結合する xlEPO 候
補分子を得られることが期待できる。得られた xlEPO 候補分子は xlEPOR を発
現させた FDC/P2 細胞や幼若赤血球を用いた細胞増殖アッセイや細胞内シグナ
ル伝達系のアッセイを指標にしてさらに精製し、最終的には質量分析を行い、
xlEPOR のリガンドのアミノ酸配列情報を得ることができ、EPO 遺伝子の同定
まで結びつけることが可能である。
71
第 7 章 総括と展望
貧血を誘導し、EPO の産生を亢進したとしても、血清中に存在する EPO 分
子は極微量であり、天然型の xlEPO を得られない可能性が十分考えられる。こ
の場合、ファージディスプレイ法を利用することで、xlEPOR に結合活性を持
ち、さらに細胞内シグナル伝達系を作動させることができる人工物(オリゴペ
プチド)を得ることが可能である。さらにその作用性分子の配列が天然分子と
類似しているならば、その配列情報を参考にすることで天然の EPO の遺伝子を
得られる可能性がある。一方、EPOR など受容体分子に対するモノクローナル
抗体の中には、受容体に結合するだけではなく、リガンドが結合したときと同
じように受容体を活性化するアゴニスト抗体の作製が可能である。これはヒト
EPO において実例が報告されている(Elliott et al., 1996)。xlEPOR のモノクロー
ナル抗体を作製する過程でこのような分子を得ることによって、赤血球造血の
制御を解析する手段を得ることになろう。
図 7-1 本研究の今後の展開
72
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80
謝辞
謝辞
本論文をまとめるにあたり、博士課程在学中の終日、昼夜を問わずご指
導を下さり、幅広い知識、技術を教えて下さった早稲田大学大学院理工学
研究科・教育学部の加藤尚志教授に深く感謝申し上げます。
さらに、以下の方々は、本研究の成就に大きな力を与えて下さいました。
ここに厚く御礼申し上げます。
本論文に対してご批評、ご助言を下さった早稲田大学大学院理工学研究
科・教育学部の菊山榮教授、東中川徹教授、国立がんセンター がん転移研
究室室長・早稲田大学大学院理工学研究科客員教授の落谷孝広博士に御礼
申し上げます。特に落谷孝広博士は、私が国立がんセンター任意研修生と
して所属することを認めて下さり、分子生物学的手法をはじめ多くの手法
を教えて下さいました。
キリンビール医薬カンパニーの宮崎洋博士、慶應義塾大学医学部 内科
の木崎昌弘博士、埼玉医科大学付属病院 輸血・細胞移植部の池淵研二教授
は、両生類の血液学を始めるにあたり、様々な細胞生物学的手法を教えて
下さり、研究を進める上での貴重なご助言、ご指導、激励の言葉を下さい
ました。
生物科学の研究への道を示して下さった早稲田大学大学院理工学研究
科・教育学部の石居進名誉教授には、学部 4 年生から修士課程にかけて、
幅広い生物学の知識を与えて頂き、内分泌学研究のご指導を賜りました。
昭和大学医学部 第一解剖学教室の塩田清二教授には、本研究で培った
幹細胞科学や血球研究の分野の知識や技術をさらに応用展開し、幹細胞を
用いた神経再生医療の研究を行う機会を与えて頂きました。
最後に、発足 3 年目の研究室で、試行錯誤を繰り返しながら研究室の整
備、実験手法の立ち上げに尽力し、本研究において様々な協力、議論をし
て下さった前田康隆、野川菜美、小坂展慶、出口雅人、渡辺隆文を始めと
する加藤尚志研究室の諸兄姉にも感謝申し上げます。
81
研 究 業 績
種 類 別
論文
題名、
発表・発行掲載誌名、
発表・発行年月、
連名者(申請者含む)
○ (1) Expression of erythropoietin receptor-like molecule in Xenopus laevis and the
development of anemia by the administration of its recombinant soluble form.
Journal of Biochemistry, in press.
Youichi Aizawa, Nami Nogawa, Nobuyoshi Kosaka, Yasutaka Maeda, Takafumi
Watanabe, Takahiro Ochiya, Takashi Kato
○ (2) Cloning of complimentary deoxyribunucleic acid encoding follicle-stimulating
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Youichi Aizawa, Susumu Ishii
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2001:459-462.
Youichi Aizawa, Motoshi Kikuchi, Susumu Ishii
講演
(1) Expression of erythropoietin receptor-like molecule in Xenopus laevis and the
development of anemia by the administration of its recombinant soluble form.
46th Annual Meeting of the American Society of Hematology, San Diego,
California, USA, Dec, 2004.
Youichi Aizawa, Nami Nogawa, Nobuyoshi Kosaka, Yasutaka Maeda, Takafumi
Watanabe, Hiroshi Miyazaki, Takahiro Ochiya, Takashi Kato
(2) The development of anemia by the administration of soluble erythropoietin
receptor homologue in Xenopus.
第 77 回 日本生化学会大会 (横浜) 2004 年 10 月
会沢 洋一、野川 菜美、小坂 展慶、前田 康隆、渡辺 隆文、落谷 孝広、加藤 尚志
(3) 爬虫類の生殖腺刺激ホルモンα鎖 cDNA の構造と系統進化学的考察
第 5 4 回 日本動物学会関東支部大会 (新宿) 2002 年 3 月
会沢 洋一、石居 進
(4) Cloning of complimentary deoxyribonucleic acid encoding the beta subunit
precursor molecules of pituitary glycoprotein hormones in the Reeves’s turtle,
Geoclemys reevesii.
14th International Congress of Comparative Endocrinology, Sorrento, Italy, May,
2001.
Youichi Aizawa, Susumu Ishii
(5) クサガメ(Geoclymys reevesii)の生殖腺刺激ホルモンβサブユニット(FSHβ、LHβ); cDNA
塩基配列とアミノ酸配列:ウズラとの比較を中心として
第 26 回 鳥類内分泌研究会 (鴨川) 2000 年 11 月
会沢 洋一、菊地 元史、石居 進
その他
(1) 髄外造血を主体とするアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の赤血球造血
第 3 回 幹細胞シンポジウム (淡路) 2005 年 4 月
野川 菜美、石田 貴子、出口 雅人、会沢 洋一、加藤 尚志
(2) Evaluation of alteration in peripheral blood cell counts in adult Xenopus laevis
responding to hematopoietic growth factors.
第 76 回 日本生化学会大会 (横浜) 2003 年 10 月
野川 菜美、平賀 信幸、会沢 洋一、池淵 研二、宮崎 洋、加藤 尚志
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