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ver.7, rev. 110406
膝関節前十字靱帯(ACL)再建術 Q&A
膝関節前十字靱帯再建術について、手術の概要を質問形式で説明します。
質問1 膝関節前十字靱帯(ACL)とはどんな役目の靱帯で、それが切れ
るとどんなことが困るのでしょうか? (病態の説明)
答え ACL(エーシーエル:英語の Anterior Cruciate Ligament の頭文字)は膝関節のほぼ中心に
あって、大腿骨(だいたいこつ:ふとももの骨)に対して脛骨(けいこつ:すねの骨)が前にず
れないように押さえています。また、膝にひねりが加わった時にも、膝がずれないように支える
役目があります(図1)
。この靱帯の損傷は、急な方向転換やジャンプと着地を繰り返す競技で多
発する傾向があり、最も多いのは女子のバスケットボール、男子のサッカーなどです。ACL が切
れると、急な方向転換やジャンプの着地の時に膝ががくっとずれる、いわゆる「膝くずれ」が起
きて、膝が頼りない感じになります。
後十字靱帯
大腿骨(ふとももの骨)
前十字靱帯
外側半月板
内側半月板
脛骨(すねの骨)
図1.まげた右膝を前から見た図
質問2 治療にはどんな方法がありますか?(手術を必要とする理由、し
ない場合に予想される不利益、他の選択可能な治療など)
答え 初めてけがをした場合には、靱帯損傷用のサポーター(通常よりもしっかりした専用のも
のが必要です)を使って関節を保護しながら、最初の1週間は松葉杖を使って生活してもらいま
す。通常は 3 4 週間すると、痛みが引いて日常生活に戻れます。スポーツ復帰の必要がない人は、
ひとまずそこで終了で、あとは治療中に落ちた筋力を回復するトレーニングをします(保存的治
療)。そのままスポーツに復帰すると、靱帯が失われた影響で膝くずれを起こすことがあります。
何度も膝くずれを繰り返していると半月板が傷んできて、膝に痛みや腫れが出やすくなります。
特に競技レベルのスポーツに復帰を希望する人は、まず手術をして靱帯を治してから復帰するの
が安全な方法です(手術的治療)
。靱帯だけを治せばよかった人のスポーツ復帰率は約 85%です
が、靱帯の手術の時に半月板や関節軟骨がすでに傷んでいた人の場合には復帰率が約 65%に低下
します。
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質問3 手術はどの様にするのでしょうか?(手術の具体的な方法)
答え 膝の内側の腱(ハムストリング腱)、前面の腱(骨付き膝蓋腱)などの自分の腱を取って
移植する方法、人工靱帯を使う方法、その両方を用いる方法などがあり、現在は両者を併用して
手術をすることが多くなっています(図2)
。再建靱帯の関節内の部分は自分の腱を使い、骨の中
や関節の外の部分には人工靱帯を使って、取る腱の長さが最小限で済むようにしています(図3)
。
損傷靱帯の状態によって、1本ないし2本の再建靱帯を通します。
移植腱
人工靱帯
固定用金具
図2.ACL 再建法の模式図
移植腱
図3.実際の手術時に作成した再建用靱帯
(自家腱と人工靱帯の併用法)
人工靱帯
質問4 手術を受ける場合の手順を教えて下さい
答え 外来で担当医と相談し、手術を受けることが決まったら入院の申し込み手続きをします。
だいたい前日入院となりますが、入院されると手術の準備として、術前検査(採血、検尿、胸部
レントゲン撮影、心電図など)を受けて頂いたりします。実際の入院は手術予定日の直前(前日
か、まれに前々日)になります。入院されると、麻酔科の先生の説明や、病棟のオリエンテーシ
ョンなど行います。
尚、遠方の方は近医と連携して、検査などお願いする場合もあります。
質問5 入院期間は何日でしょうか?(甘受しなければならない不利益)
答え 入院期間は日帰りもしくは数日間です。手術の日から約1週間は、松葉杖を使っての
歩行となるでしょう。約 1 週間で松葉杖なしで歩けるようになる方が多いです。
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質問6 麻酔は全身麻酔ですか、下半身麻酔ですか?
答え 手術は原則的に全身麻酔で行います。麻酔については、麻酔の方法から管理まで全て麻
酔科に一任します。入院後に麻酔科の先生が説明をしてくれます。
質問7 入院・手術の費用はどのくらいかかりますか?
答え 診療点数は保険で決められていますが、2年ごとに見直されて変更されることがありま
す。また、患者さんによって保険の種類が違ったり(自己負担比率の差)
、使う薬の量や医療材料
費が違ったりするので、ばらつきがあります。入院・手術にかかる費用については、患者さんご
とに概算をおこなっておおよその費用をあらかじめ知ることが出来ますので、必要な方は遠慮無
く担当医もしくは事務会計に申し出て下さい。
質問8 術後のリハビリはどう進めるのでしょうか?
答え 可能なら術前からリハビリ部門で手術した膝のリハビリをおこない、また健常な部分の
トレーニングもおこないます。術後約8カ月でスポーツに復帰することを目標にリハビリをすす
めて行きますが、その大まかな経過のめやすは表1のようなものです。ただし表1に示したのは
あくまでも目標で、筋力、可動域、腫れ、痛みなどの条件をクリアーしないと次に進めないので、
経過は個人個人で違ってきます。
質問9 学校や仕事にはいつから戻れますか?
答え 目標どおりにリハビリが進めば、術後 1‐3週間で戻れます。表1のように、日常生活へ
の完全復帰は術後1カ月が目標になります。
質問 10 スポーツへの復帰はいつ頃からできますか?(期待される効果)
答え 競技種目や選手の能力によって変わりますが、部分的な復帰は6カ月、完全復帰は8カ
月くらいを目標にアスレチックリハビリテーション(スポーツ復帰を目的としたリハビリ)を進
めて行きます(表1)
。手術で再建した靱帯は、手術終了時点では正常の ACL よりも強く作って
ありますが、移植された腱は術後経過中に少し弱くなってから再び強くなるという生物学的な成
熟過程を経て完成されて行きます。一時的に弱くなる術後 2 4 カ月の時期には、再建靱帯を保護
しながら安全にトレーニングを進めないとゆるんだり切れたりする事故が起きます。ただがむし
ゃらに早くから動かせば早く復帰できるというものではありませんので、担当の医師や理学療法
士の指示に従って、経過に応じたリハビリテーションを行うよう心がけて下さい。
表1.ACL 再建術後のアスレチックリハビリテーション
経過のめやす
目標
リハビリの内容(代表的なもののみ)
最初の1カ月
A
日常生活への完全復帰
可動域の改善、歩行練習、大腿四頭筋訓練など
2-4カ月
B
4カ月以降のトレーニングを予定どおり始める
筋力強化各種、バランス訓練、ウォーキング、
ための基礎訓練
スケーティング、水中歩行、水泳、階段昇降など
スポーツ復帰を目的としたトレーニングの開始
ランニング、なわとびジャンプ、ステップ動作、
術前健側の筋力以上で、かつ健側比80%以上
30-50%ダッシュ(平地、階段)など
コート、グラウンドで別メニュー練習開始
4カ月以降
C
6カ月以降
D
競技への復帰を目的にしたトレーニングの開始
8カ月以降
E
別メニュー練習の解除
80-100%ダッシュ、慎重なストップ動作練習など
3
競技復帰
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手術 2W 1M
A
2
B
3
B
4
5
C
B
6
7
D
8カ月
E
( / )( / )( / ) ( / ) ( / ) ( / ) ( / ) ( / )
図 4.術後経過
質問 11 使った金具は抜くのでしょうか?
(関連して受けなければいけない処置など)
答え 金具はチタン合金製もしくはプラスチック製で、一生入れておいても問題のないもので
す。原則的に金具の抜去手術はしていませんが、金具を入れた部分が痛む場合や、金属アレルギ
ーが出た場合などには、術後1年以上経過すれば抜去可能です。ただし抜去手術にも短期間の入
院が必要です。
質問 12 手術の合併症にはどんなものがありますか?(起こりうる合併症)
答え この手術の主な合併症には次のようなものがあります。
術後の疼痛:術後一時的な痛み、腫れ、しびれなどが出ますが、いずれも1週間以内に治まって
きます。手術当日など、痛みがつらい場合にはそのつど対応致します。
術後知覚障害の遺残:靱帯を作るために取る腱の近くには細い神経が通っているので、手術によ
ってこの神経が切れると、術後にすねの外側や傷の周りに感じない部分が出来ることがあります。
よく触ってみると分かる程度のものなので、徐々に慣れてもらうしかありません。
腱採取部の影響:膝を曲げる働きをする主な5つの筋肉(大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋、薄
筋、腓腹筋)のうちの1つないし2つの筋肉(半腱様筋、薄筋)からその腱を採取して再建靱帯
を作ります。取った腱は1年くらい経つと再生すると言われていますが、股関節を伸ばしたまま
で膝を曲げる筋力が少し低下します。
深部静脈血栓症・肺梗塞:この手術に限った合併症ではありませんが、お腹や下肢の手術をす
ると、下半身を動かさずに寝ていることがきっかけになって下肢の静脈の中の血液が固まり、血
栓という血の固まりが出来ることがあります(深部静脈血栓症といいます)
。普通この血栓は自然
に無くなりますが、まれにリハビリなどの動作中に血液の流れにのって肺に運ばれ、そこでつま
って突然死する事があります(肺血栓塞栓症といいます)
。ACL 再建術で肺梗塞を起こすことは極
めてまれですが、何より予防が大切なので、手術の翌日から足を動かしたり、膝の曲げ伸ばしを
したりして、じっと動かないでいる時間をなるべく短くするよう指導致します(合併症予防のた
めの早期リハビリテーション)
。万一肺血栓塞栓症が生じた場合には、酸素を吸入したり、血液
を固まりにくくする薬を投与したりして対応します。
細菌感染:手術した傷に細菌が感染すると、傷が化膿し関節に膿がたまることがあります。ACL
再建術は内視鏡を使った小侵襲手術で、手術中も関節内を洗浄しながら行うため、感染を生じる
リスクは低く1%以下です。ただし一度感染が生じると治療が大変なので、予防のために抗生物
質を使います。
術後出血:手術後の出血はありますが輸血を必要とするようなものではありません。出血した血
液が関節内にたまらないようにドレーンという細い管を関節内に数日間留置して排出します。
その他:予測できない合併症が起こることもあり得ますが、そのつど対応致します。
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質問 13 手術をすれば一生もちますか?(治療しても期待できない効果)
答え 手術は、あくまでも靱帯の代用物を作るもので、正常な靱帯を再生するものではありま
せん。手術をして元通りのスポーツレベルに復帰しても、またけがをして ACL を切ることもあり
ます。膝の使い方によってはゆるむこともあります。また、手術の時点ですでに生じていた関節
軟骨や半月板などの変化は不可逆的なもので、完全に元には戻せませんし年齢とともに少しずつ
進行するのが普通です。しかしこれらの二次的な変化は、靱帯を再建することで最小限にとどめ
ることが出来ます。
質問 14 手術はどうしてもしなくてはいけないのでしょうか?
(他の選択可能な処置・手術と他の方法との比較)
答え ACL 損傷患者さんの中で手術がどうしても必要なのは、競技スポーツへの復帰を希望す
る方です。日常生活レベルへの復帰までであれば手術を必要とする人はごく一部です。競技スポ
ーツへ復帰する必要のない方は、一度日常生活に復帰して下さい。膝くずれや不安感などのため
に自分の希望する生活の質(QOL:Quality of Life)を維持できない場合に、その時点であらため
て手術をするかどうかについて相談すれば大丈夫です。
質問 15 筋肉を鍛えれば手術せずにすみますか?
(他の選択可能な処置・手術と他の方法との比較)
答え 靱帯と筋肉は役割が違うので、筋肉を鍛えただけでは膝くずれを 100%止めることは出来
ません。ただし、ケガをしたために落ちてしまった筋力を回復するためのトレーニングはとても
大切です。ACL が正常でも、筋力が落ちただけで膝くずれを起こす人もいるからです。したがっ
て、筋力強化は極めて重要ですが筋力だけで靱帯の機能を完全に補うことは出来ないということ
になります。
その他、疑問があればどんなことでも、担当医にお尋ね下さい。
<連絡先> 南松山病院整形外科 前野 晋一
〒790-8534 愛媛県松山市朝生田町 1-3-10
TEL: 089(941)8255 FAX: 089(941)8297
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