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1 パーティで乾杯をする時,ある人はほとんど飲み干し,またある 人はただ
序 パーティ で乾 杯をする時, ある人 はほとんど 飲み干 し,またある 人はただ口をつける程度であったりするのに ,杯をテーブルにおく 時はほとんど同時 で あ っ た り す る。また,赤 ちゃんの笑顔 を見た大 人達はやはり(程 度の違いはあれ)笑顔に な る。その様子 はまるで 赤ちゃんから大人へ笑顔が「伝染」したかのようである。さらに, ピアノとヴァイオリンの合奏で,自他ともに「いい演奏だった」と 思うような演奏中には,ヴァイオリニスとピアニストの心拍は同期 する事があるといわれている。このように,我々はそのような意図 がないにも関わらす,時として 他者と同じ行 動をとる事がある。こ のような行動には 何か意味があるのだろうか ?あ る と す れ ば,それ はどのような意味なのか?−これが本研究をはじめるきっかけとな った。大学 3 年生 の時の事である。以来,一 貫して非言語的行動や 非言語的行動を支 える身体的側面に関する関 心を持ち,亀 のごとく の歩みながらも研 究を進め,このような対人間における非言語的行 動の一致・同調は 共感と関係しているのではないか,という考えを 持つようになった。 共感は臨床心理学をはじめ ,発達心理学,感情心理学,社会心理 学,人間性心理学,多くの心理学領域で重要な概念となっている。 特に,対人援助,心理的援助に関わる人間にとって,援助希求者に 対して共感を抱く事が出来るかどうかはその後行われる援助の成否 に大きな影響を与える事は想像にかたくない。 現 在 ,共 感 は 2 つ の 側 面 を 持 つ と 考 え ら れ て い る 。1 つ は 相 手 の 感 情と自己の感情が 類似したものとなる感情共有,あるいは 感情移入 といった感情的共感である。そしてもう 1 つ は「相手の身 になって 考 え 」た り , 相 手 の 感 情 や ,そ の 感 情 を 抱 く よ う に な っ た 背 景 に つ いて理解する,という認知的共感である。共 感はこれら 2 つの側面 から構成されると考えられている。 では,対人間の行動の一致や同調はこの 2 つの側面のどちらと関 1 係があると考えられるのか。こ の点に関し て は現在のところ,感情 的共感との関連が 指摘されている。しかし, これまでの研 究では対 人間の行動の一致や同調と感情的共感の関連については理論研究や 文献研究,臨床家 の経験に基づ い た 議論が中 心と な っ て お り,デー タに基づく議論は 見られない。 本論文は両者 の関連について,デー タに基づいて議論する事目的として書かれたものである。 近 年 ,「 エ ビ デ ン ス ベ イ ス ド ( E v i d e n c e B a s e d: 証 拠 に 基 づ い た , デ ー タ に 基 づ い た , の 意 味 。 頭 文 字 を と っ て E B と 呼 ば れ る )」 と い う言葉が注目を集 めている。こ の言葉が注目 を集めるという事は, こ れ ま で は 少 な か ら ず S u b j e c t B a s e d な 部 分 が あ っ た ,と い う 事 の 裏 返 し で も あ る よ う に 思 わ れ る 。本 論 文 は こ れ ま で S u b j e c t B a s e d な 議 論が優勢であった 対人間の行動 の一致や,同 調と感情的共感との関 連 に つ い て , Evidence Based の 視 点 か ら の ア プ ロ ー チ を 試 み た も の である。 2 第 1章 研究史 対人場面において,相手が非 常に緊張した 状態でいると ,知らず 知ら ず の う ち に そ の緊張があたかも「伝染」 し た か の よ う に自分も 緊張してしまう,という経験は決して珍しい事ではない。また,特 に親密な二者の場合,会話が進むにつれ互いの行動が非常に似通っ た も の へ と 変 化 し て い く 傾 向 が 見 ら れ る ( M o r r i s , 1 9 7 7 )。 こ の 現 象 の 存 在 は 古 く か ら 知 ら れ て お り ( S m i t h , 1 7 5 9 / 1 9 7 6 ), 対 人 場 面 で な くても同様の現象 が存在する事 が指摘されている。たとえば,コン サート会場での拍手は,最初は個々人がめいめいのリズムで打って い る に も か か わ ら ず,や が て あ る一定のリ ズ ムで拍手が生 じるよう になる。 こ の よ う な「 行 動 や 動 作 が 次 第 に 一 致 ・同 調 す る 」現 象 , つ ま り 無 意 図 的 同 調 は こ れ ま で 「 惹 き 込 み ( entrainment )」 あ る い は 「 協 働 ( coordination)」,「 無 意 図 的 模 倣 ( mimicry)」,「 同 期 ( s y n c h r o n y )」, と いった用語によって説明され, 研究が進められてきた。このような 研究者の間で用いられる用語と研究対象との間に生じる混乱を防ぐ 事を目的として, これらの概念 に共通している「行動や動 作の無意 図 的 な 同 調 や 一 致 , 同 期 化 , 模 倣 」 を 表 す 概 念 と し て 内 藤 ( 2001) の「 同 化 行 動( a s s i m i l a t i v e b e h a v i o r )」を 本 論 文 で は 用 い る 事 と す る 。 1 同 化 行 動 ( a s s i m i l a t i v e b e h a v i o r) 同 化 行 動 に つ い て 内 藤 ( 2001) は 「 ほ ぼ 感 覚 運 動 期 に 該 当 す る 生 後 2 ヶ月目ころから3歳以前頃 までに生起す る機制であり ,モデル の 動 機・感 情 や 状 況 の 社 会 的 意 味 へ の 配 慮 の な い ,換 言 す る な ら ば , 社会的意識性を欠 く無意図的な 行動である」 と定義している。この 定 義 か ら 明 ら か な よ う に ,同 化 行 動 は ,1)無 意 図 的 で あ る ,2 )そ の基本的メカニズムは非学習性 (生得性)のものである, 3)早期 の発達段階で見られる現象とされている。 しかし,前述した惹き込みや協働,無意図的模倣,同期といった 3 概念は成人においても見られるものであり,また,出生間もない段 階から見られる。 よって,内藤 の定義だけでは不十分で あ る。そこ で本研究では内藤の同化行動の定義に4)成人においてもその生起 が確認されている現象である,という項目を加え再定義を行なう事 とする。そこで,本研究で扱う同化行動の定義を「モデルの動機・ 感情や状況の社会的意味への配慮のない,社会的な意識性を欠く無 意図的な行動であり,生後間もない段階から 生じ,成人においても その生起が認められる」とする。 同 化 行 動 に 対 す る 関 心 は 古 く か ら 見 ら れ る ( Hatfield, Cacioppo, & R a p s o n , 1 9 9 4 )。 H a t f i e l d e t a l . ( 1 9 9 4 ) に よ る と , 同 化 行 動 へ の 関 心 は 2 0 0 年 以 上 も 前 か ら 存 在 し て い る( S m i t h , 1 7 5 9 / 1 9 7 6 )。し か し , 長い間,同化行動に関する研究は理論研究が中心であり,同化行動 に関する実証的研究が行われるようになったのは比較的最近になっ てからである。 D i m b e r g ( 1 9 8 2 , 1 9 9 0 )や D i m b e r g & C h r i s t i a n s o n ( 1 9 9 1 ),D i m b e r g & Lundqvist ( 1990 ) は ス ラ イ ド に よ り 各 種 の 情 動 を 含 ん だ 表 情 を 呈示し,呈示中の表情筋の筋電位活動を調べた。その結果,呈示さ れたスライドの表 情と対応した 被験者の表情筋に活動電位 が認めら れた.また,その活動レベルは非常に小さいものであり,被験者の 意識上ではその変化に気づいていない事,また,他者の観察からで もその変化は読み取れない事を明らかにしている。 表 情 以 外 の 非 言 語 的 行 動 に 関 し て , B e r g e r & H a d l e y( 1 9 7 5) は 腕 相撲コンテストの映像を見た時には被験者の腕の筋活動が増加し, 他者が ど も っ て い る時の映像を み た 時には唇 の筋活動が増 加する事 を 見 出 し て い る 。 内 藤 ( 1986) は ボ ク シ ン グ の 映 像 を 実 験 刺 激 と し て呈示し,一方の選手に関心を持たせた場合に,そのボクシング選 手のパンチを繰り出す腕の動きに合わせて被験者の腕の筋電位が変 化する事を見出した。この事から,彼は他者に対して何らかの興味 や関心を持っている場合,その 他者の身体的 な動きに「つられる」 可 能 性 が あ る 事 を 指 摘 し て い る 。 そ し て P r o v i n e ( 1 9 8 6 , 1 9 8 9) は あ 4 くびにおいても対人間での同化現象が見られる事を明らかにしてい る。 Provine( 1986) は あ く び の 同 化 現 象 の 存 在 を 検 討 す る た め に , あ く び を 写 し た ビ デ オ 画 像 ( 1 つ の あ く び が 1 0 s e c) を さ ま ざ ま な 形 に変え(あくびをしている表情を撮影する時の角度やコントラスト を 変 化 さ せ た ), 3 0 回 連 続 呈 示 出 来 る よ う に 編 集 し て 被 験 者 に 呈 示 した。そして,統制条件として笑顔を取り上げ,笑顔について同様 の 規 格 ( 1 回 あ た り 10sec, 30 回 呈 示 ) で 作 成 さ れ た 映 像 を 呈 示 し た。被験者はモニターに映し出されているビデオを見て,あくびを した時にボタンを 押す事で結果 を知らせるよう,ビデオを 通して教 示された。 実験の結果,普通のあくびを正面から撮影した時の映像を呈示さ れた時に,最も被験者のあくびは誘発される 事が明らかになった。 そして笑顔の映像 を呈示された 時に,最もあくびの発生回数は少な い 事 が 見 出 さ れ た 。こ の 事 か ら ,P r o v i n e は あ く び が 非 常 に 同 化 現 象 を起こしやすい行 動である可能性を指摘している。 これらの行動に対する同化は無意図的 に生じている 事から,われ われ人間は他者の非言語的行動を無意図的に模倣するメカニズムを 有していると考え る事が出来る 。そしてこのような同化行動は複数 の心理学領域で研 究が進められている。そこで,次節では 各心理学 領域における同化行動に関する研究について概観していく。 2 各 心 理 学 領 域 における同 化 行 動 の研 究 同化行動をどのような観点から研究するかについて,いくつか異 な る 立 場 が 存 在 し て い る( H e s s , P h i l i p p o t , & B l a i r y , 1 9 9 9 )。今 の と こ ろ,同化行動は2つの機能を有していると考えられている。機能の 一 つ は 他 者 理 解 に 関 す る も の で あ る 。こ れ は 同 化 行 動 を 感 情 伝 播( 一 方の人間の感情があたかも他方に伝染したかのようになり,その結 果として類似の感情を互いに共有している状態)や感情的共感,あ るいは他者の感情的反応を相手の立場に立って理解するための手段 5 といった,反射的 で主に無意図的行動とみなす立場である 。臨床心 理学領域における同化行動研究はこの観点に立ったものが多い。ま た,発 達 心 理 学 領 域においてもよく見られる 立場である。 なお,発 達心理学領域では同化行動を認知発達の面から研究する立場もある。 それらの研究では ,同化行動は 子どもが社会的協調や社会的アイデ ンティティを獲得していく手段であると考えられている。 もう一方の機能としては,対人コミュニケーションにおける二者 間の関係についての非言語的メッセージが挙 げられる。具体的に言 えば,同化した側 から同化された他者に対し て「あなたに 対して関 心を持っている, 興味を抱いている」といったメッセージ を伝達す る,という機能である。親密な二者では互いの姿勢が類似したもの に な る 事 を 示 し た 研 究( M o r r i s , 1 9 7 7 ) は ,こ の 立 場 の 研 究 の 代 表 と 言える。社会心理学領域に お け る同 化 行 動 研 究は,基本的 にはコミ ュニケーション機能という観点からのものが多い。そして,臨床心 理学領域においても同化行動を ラポール形成 の観点から捉 える研究 が 多 く 見 ら れ る ( M a u r e r & T i n d a l l , 1 9 8 3 )。 同化行動は感情状態の解読や共感的コミュニケーション,社会的 協調と強い関連があると考えられている。しかし,共感的コミュニ ケーションにおける同化行動の 役割といわれているものにはさまざ まなものが見られるので,より大きな状況での感情的コミュニケー シ ョ ン の 中 に 同 化 行 動を ど の よ う に 位 置 づ け る か ,そ し て 二 者 間の 相互作用では同化行動がどのような機能を有するかについては厳密 な 記 述 が 必 要 と さ れ て い る ( H e s s , P h i l i p p o t , & B l a i r y , 1 9 9 9 )。 な お , 同化行動の機能については後に詳しく述べる事にする。 同化行動はこれまで多くの心理学領域で研究 されてきたが ,大別 して発 達 心 理 学 領 域,社会心理学領域,臨床心理学領域で 多く見ら れる。そこで各領域で行われてきた同化行動 を概観する事 にする。 2 -1 発達心理学領域における同化行動研究 発達領域においては,乳児の表情の同化行動 (特に養育者との間 6 に生じるもの)に関する研究が多い。例えば,乳児にも表情に対す る 同 化 行 動 が 生 じ る 事 が 明 ら か に さ れ て い る ( Meltzoff, 1988; M e l t z o f f & M o o r e , 1 9 7 7 ; R e i s s l a n d , 1 9 8 8 ; H a v i l a n d & L e l w ic a , 1 9 8 7 ; T e r m i n e & I z a r d , 1 9 8 8 ; Field, Woodson, Greenberg,& Cohen, 1 9 8 2 )。 Meltzoff & Moore ( 1977) は 生 後 6 週 間 の 乳 児 の 同 化 行 動 に つ い て研究を行った。彼らはモデルの舌出し行動に対して乳児が同化行 動を示すかどうか検討した。その結果,乳児は成人の舌出し行動に 対し,自分も舌を出すという同化行動を示した。彼らはさらに,生 後 間 も な い 段 階( 4 8 m i n か ら 7 2 h o u r )の 新 生 児 に お い て も モ デ ル( 成 人)の 舌出 し行 動へ の同 化 行 動が 見られた 事を 報告 している ( M e l z o f f & M o o r e , 1 9 8 3 )。 同 様 の 研 究 と し て , B o w e r ( 1 9 8 1 ) は 生 後 6 日目の新生児が母親の舌出し,口の開閉,目の開閉に対して同 化行動が見られるかを検討し,その結果,呈示された全ての行動に 対して新生児は同様の行動を取る事を明らかにした。この結果をも と に , Bower は 同 化 行 動 を 対 人 関 係 の 起 源 と な る 行 動 と 捉 え る 必 要 があるとしている。 L u n d y , F i e l d , & P i c k e n s( 1 9 9 6 ) は 母 親 の 抑 う つ 傾 向 が 乳 児 の 同 化 行動に及ぼす影響について検討した。彼女らは抑うつ的な母親とそ の 乳 児( 2 0 組 ),健 常 で あ る 母 親 と そ の 乳 児( 2 0 組 )を 被 験 者 と し , 両群の感情表出の違いについて検討を行った。その結果,抑うつ的 な 母 親 を 持 つ 乳 児 は ,幸 福 や 驚 き と い っ た 感 情 に 関 す る 表 情 表 出 が , 健常の母親を持つ 乳児に比べて 少ない事を明 ら か に し て い る。そし て,呈示された表情に対する同化行動自体が少ない事も明らかにし ている。この事から,彼女らは抑うつ的な母親を持つ乳児は抑うつ 感を体験する前に抑うつ的行動を示す,としている。 こ れ ら の 研 究 の 他 に ,音 声 に 対 す る 同 化 現 象 が 存 在 す る 事(Kuhl & Meltzoff, 1984)や,早 産 未 熟 児 に お い て も 同 化 行 動 が 生 じ る 事( 池 上 , 1998) が 確 認 さ れ て い る 。 そ の 他 に も , 養 育 者 ( 主 に 母 親 ) の 非 言 語行動に対して乳児が同化する,という「養育者→乳児」という方 向だけでなく,乳児の非言語的行動(主に表情)を養育者(主に母 7 親)が無意図的に 模倣する,という「乳児→ 養育者」という方向の 同 化 行 動 が 見 ら れ る 事 も 明 ら か に さ れ て い る ( O ’ Toole & D u b i n , 1 9 6 8 )。こ れ ら の 研 究 か ら ,同 化 行 動( 特 に 表 情 の 同 化 行 動 )は 早 期 の発達段階から存 在するものであり,何ら か の学習によって成立す るものではない事が明らかにされている。そして,このような同化 行 動 は 発 達 心 理 学 者 の 中 で は 社 会 的 協 調 行 動 ( s o c i a l c o o r d i n a t i o n) や,共感能力の発達と関連していると考えられている。 同化行動の発達心理学的研究に関する多くの研究は,非言語的行 動の同化が非常に早期の乳幼児に見られる事を示している。そして 同化行動は乳児が人間について学習する際の社会的協調や共感の発 達 に 関 係 し て い る と 考 え ら れ る 。例 え ば M e l t z o f f & M o o r ( e 1994 ) は Piaget の 認 知 的 発 達 の 観 点 か ら 同 化 行 動 を と ら え て い る 。 彼 ら は 同 化行動が他者を理解するための学習過程において重要な役割を果た していると考えている。また,同化行動は社会的発達や共感の発達 における基本的要素であるとしている。 そ の 一 方 ,同 化 行 動 の 感 情 的 機 能 を 強 調 す る 立 場 も 存 在 し て お り , H o f f m a n( 1 9 8 4 ) が そ の 代 表 と 言 え る 。 H o f f m a n( 1 9 8 4 ) は 共 感 的 感 情の覚醒には5つ の異なるモードがあるとしている。そしてそれは 発達の異なる段階で登場するとしている。同化行動は誕生した時点 から存在するものであるが,これも5つのモードの1つに挙げられ て い る 。 Hoffman は 人 間 に は 自 動 的 に , そ し て ほ と ん ど の 場 合 無 意 図的に他者の感情的表出に対して同化する能力がある事を主張して いる。そして内的動作的手がかりによる求心性のフィードバックを 通 し て ,個 人 A は そ の 時 個 人 B と 同 じ 内 的 状 態 を 経 験 し , そ の 結 果 と し て ,個 人 B の 感 情 状 態 を 個 人 A が 共 有 出 来 る よ う に な る と し て いる。この共感的プロセスは認知的能力をほとんど必要としないと 考えられており, それゆえに無意図的な模倣 である同化行動は共感 において基本的, かつ重要な役 割を担っ て い る と さ れ て い る。 以 上 の よ う に , M e l t z o f f & M o o re ( 1 9 9 4) の よ う な 認 知 的 機 能 を 重 視 す る 立 場 に せ よ , H o f f m a n( 1 9 8 4) の よ う な 感 情 的 機 能 を 重 視 8 する立場にせよ, 同化行動は何 ら か の か た ち で共感という 現象に関 与している事が異なる立場から呈示されているのは興味深い。 このような共感と同化行動との関連について,発達心理学的観点 か ら 直 接 取 り 上 げ た 研 究 と し て は Chrisholm & Strayer( 1995) が 挙 げられる。 C h r i s h o l m & S t r a y e r( 1 9 9 5 ) は 1 0 歳 の 少 女 を 被 験 者 と し , 彼 女 ら と同年齢の子どもがある感情を経験している場面をビデオで呈示し た。そして,被験児の感情状態 についての自己報告とビデオ中の少 女に感情状態とが合致しているかを評定するためにビデオを呈示後 に 面 接 を 行 っ た 。 分 析 の 結 果 , 自 己 報 告 に よ っ て 「共 感 し て い た 」と 答えた被験児はそうでない被験児と比べ,よ り多くの刺激人物の表 情と一致した表情表出を示していた。ビデオ中の人物は常に表情に よる感情表出をしており,この結果はより共感を示した子どもは, より無意図的な模倣を生じさせていたと考えられる。 このように乳幼児の同化行動と共感との関連についての研究は 徐々に行われつつあるが,まだその研究は始まったばかりである。 同化行動と共感との関連性については,理論的観点からはかなりの 議論がなされているものの,ま だ仮説の域を 出て い な い の が現状で ある。今後,この仮説を検証する実証的研究がさらに行われる必要 があろう。 2 -2 社会心理学領域における同化行動研究 社会心理学領域では主に成人間での同化行動を研究対象としてい る。そして特に深い心理的交流が存在する二者間(友人や恋人,家 族)では,両者の非言語的行動には多くの共通点のある事が指摘さ れ て い る ( M o r r i s , 1 9 7 7 )。 さ ら に M a r k o v s k y & B e r g e r ( 1 9 8 3 ) は 群 集行動の一部が, 無意図的な同 調や模倣によって生じている事を指 摘している。 L i p p s( 1 9 0 7)は 同 化 行 動 に は 社 会 的 状 況 や 文 脈 に か か わ り な く 生 じる可能性がある事を指摘している。具体的には,他者の感情表出 9 を見る事によって同化行動が生じると主張し,人間は自身に関わり のあるパートナー (も う ひ と り の被験者)の 感情表出に対 して同化 す る 傾 向 が あ る 事 を 指 摘 し た 。 こ の Lipps の 仮 説 を 検 証 す る 事 を 目 的 と し て , W a l l b o t t ( 1 9 9 1) は 被 験 者 に い く つ か の 写 真 を 呈 示 し , その 感情 を判 断するという 課題 を与 えその時 の表 情を 撮影 した 。2 週間後,被験者は自分の表情を録画したビデオテープを見せられ, 呈示された自分の表情から,自分が解読した感情を判断する事を求 め ら れ た 。そ の 結 果 ,写 真 の 人 物 の 感 情 に つ い て の 被 験 者 の 判 断 と , 被験者の表情から推測される感情についての判断が一致した。実験 から 2 週間経過する事により,被験者が呈示された写真の感情につ いて再度判断を求められても回答は困難と考えられる。よって,こ の結果は他者の非言語的行動の呈示に被験者が無意図的に同化し, その結果自己の表情からの判断が写真の人物の感情と一致したと考 えられる。 一 方 , B l a i r y , H e r r e r a , & H e s s ( 1 9 9 9) は , 被 験 者 に 怒 り , 幸 福 , 嫌悪,恐れ,悲しみの表情についてどの感情をその表情が示してい るかの判断を行なわせた。被験者を 2 群に分 け,一方の群 は刺激と して与えられた人 の顔の表情を 模倣するように教示し,も う一方の 群は写真の表情と明らかに一致しない表情を示すように教示した。 その結果,模倣群と非模倣群との間で報告された感情に違いは見ら れなかった事を明 ら か に し て い る。 社会心理学領域における比較的最近の研究では,社会的状況・文 脈が同化行動の出現に与える影響について検討がなされている ( G u m p & K u l i k , 1 9 9 7 ; 内 藤 , 2 0 0 1 )。 内 藤 ( 2 0 0 1 ) は 同 化 行 動 が 出 現 す る 状 況 要 因 と し て ,「 恐 怖 」,「 注 意 他 在 」,「 モ デ ル へ の 視 野 狭 窄 」 といった条件を挙げている。そして恐怖条件の例としては災害時に おけるパニック追従行動を挙げている。彼の言う「注意他在条件」 とは「注意が他の 対象に奪わ れ る事で,当該対象については意識の 周辺部 しか 機能 せず ,結果的 に無意識 の機 制が 支 配 的となる ( p . 1 7 8 )」 状 況 と さ れ る 。 こ れ は 例 え ば 電 車 に 乗 っ て い る 時 に , 雑 10 誌を読んでいて,それに夢中になるあまり,となりの乗客が電車を 降りようとした時に,自分もついつられて電車を降りるような状況 をさす。最後の「モデルへの視野狭窄」を内藤は「モデルへの注意 が生じるものの, 逆に過剰に集 中する事で, 目的的・意図的な判断 を す る 余 地 が な く な る ( p . 1 8 7 )」 状 況 と し て い る 。 具 体 的 に は 自 分 が贔屓にしている野球チームの試合を見ているうちに,やがて贔屓 のチームの選手の動きを自分も無意図的に取るような場合の事を指 す。内藤はこれらの要因に よ っ て同化行動が 生じる事を実 験によっ て明ら か に し て い る。 ところで,同化行動には模倣された他者と感 情を分かち合 い,模 倣 さ れ た 他 者 の 感 情 へ の 理 解 を 助 長 す る と い う 説 が あ る ( Hatfield, C a c c i o p p o , & R a p s o n , 1 9 9 3 )。 C a p p e l l a( 1 9 9 3 ) は 「 無 意 図 的 な 同 調 や 模倣という概念は関わり合いである」という立場から研究を行なっ た 。 彼 は 二 人 の 関 わ り 合 い の あ る 被 験 者 ( 被 験 者 A, B と す る ) の 笑 顔 の 伝 播 頻 度 を 測 定 し た 。具 体 的 に は「 二 人 と も 笑 っ て い る 場 合 」, 「A だ け が 笑 っ て い る 場 合 」 , 「 B だ け が 笑 っ て い る 場 合 」の 3 パ タ ー ンについて測定した。結果,笑顔の伝播は,片方がもう片方の人を 模倣して,それをさらに模倣するというかたちで連なっていくとい う事が明らかにされている。 し か し ,こ の 考 え と は 異 な る 説 も 存 在 す る 。B a v e l a s は 同 化 行 動 の 研 究 に お け る 方 法 論 を 提 起 し た( B a v e l a s , B l a c k , L e m e r y , M a c l n n i s , & M u l l e t t , 1 9 8 6 ) 研 究 者 だ が , Bavelas, Black, Lemery, &Mullet,(1 9 8 6 ) は 同化行動の機能を説明する理論として,同化行動はまさに他者の身 (立場)になって他者の感情をあたかも自己のそれと同じであると するための行動である,とする「同化行動−共感経験」理論と,同 化行動は他者の役 割を演じるための行動である,とする「 同化行動 −役割取得」理論が存在する事を指摘した。その上で彼らは,同化 行動は自己が他者の状況(感情,社会的文脈)について気づき,か つその状況に対して関心を抱いている事を伝える非言語的メッセー ジである,とする「同化行動―コミュニケーション」理論を提唱し 11 た。 同化行動―コミュニケーション理論の妥当性を検証するため, B a v e r a s , B l a c k , C h o v i l , L e m e r y , & M u l l e t t ( 1 9 8 8) は 被 験 者 の 前 で 実 験者が体を傾けた時に,被験者も体を傾けるかどうか,そしてどち ら の 向 き に 体 を 傾 け る か に つ い て 調 べ ,各 理 論 の 妥 当 性 を 検 証 し た 。 彼らは,もし役割取得理論が同化行動の機能についての妥当な理論 で あ る な ら ば ,目 の 前 の 人 間 が 傾 い た 時 に は 被 験 者 は 「 お 互 い に と っ て同じ方向(つまり実験者が実験者にとって 左に傾けば, 被験者も 被験者にとって左に傾く)に傾くという仮説を立てた。そして,共 感体験理論が同化行動の機能に関する妥当な理論であるのならば, 被験者が傾く方向 には差異が見 られず,コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン理論が 妥当であるならば 被験者は実験者と同じ方向 ,つまり鏡像的な方向 への傾きを示すだろう,と仮説を立てた。実験の結果,被験者の多 くは実験者と同じ方向への傾き(鏡像的方向への傾き)を示した。 この事から,同化行動は共感を生じさせるのではなく,共感が生じ た事をその相手に示す,という機能を有していると彼らは結論づけ ている。しかし, 彼らの研究で は共 感 体 験 理 論における仮 説が理論 的に妥当でないと思われる部分もあり,同化行動自体がコミュニケ ーション機能を有 している事は 検討していると言えるが, 共感体験 理論の検討としては不十分な面 がある事は否 めない。 と こ ろ で , 多 く の 同 化 行 動 研 究 は ,同 化 行 動 を 起 こ し た 人 間 の 心 理 的変化について研 究しているものが多いが, 中には同化行動が生じ た事による対人知覚の変化,つまり同化行動 の対他的機能 について 扱った研究もいくつか存在する。 B a t e( 1 9 7 5 ) は 子 供 に 模 倣 さ れ た 大 人 の 被 験 者 は , 子 供 に 真 似 さ れなかったもうひとりの大人の被験者よりも,その子供に対してよ り 好 感 を 持 つ と い う 事 を 見 出 し て い る 。 そ し て Cappella( 1993) は 何らかのインタラクションが成 立している二者間では被験者の笑顔 を模倣する事によってもう片方 の被験者は, 模倣した被験者の事を 以前よりも好きになる傾向がある事を明らかにしている。 しかし, 12 M a n u s o v( 1 9 9 3 ) は 子 供 の 模 倣 が 意 図 的 な も の で あ る 事 に 被 験 者 が 気づいた場合には,その子どもへの好意は形成されない事を明らか に し て い る 。 こ の 事 か ら , 意 図 的 な 模 倣 − 言 う な れ ば i m i t a t i o n− は 対 人 感 情 に は 影 響 を 与 え ず ,無 意 図 的 で あ る 模 倣( 本 来 の 同 化 行 動 ) が生じた時に,感情の変化が生じると考えられる。 親密な関係にある二者間では非言語的行動が一致する,あるいは 動機が生じる事については前述したが,生理的現象においてもその ような現象が見られる。 W e l l e r & W e l l e r は 女 性 の 月 経 周 期 の 同 調 ( m e n s t r u a l s y n c h r o n y) に つ い て 一 連 の 研 究 を 行 っ て い る が , Weller & Weller( 1992) は 女 性 の 同 性 愛 者 の カ ッ プ ル 2 0 組 を 対 象 に ,m e n s t r u a l s y n c h r o n y に つ い て 検 討 し た 。 そ の 結 果 ,20 組 中 6 組 が 全 く 同 じ 月 経 周 期 で あ り ,そ れらのカップルを含めて半数のカップルが2日以内のズレで月経周 期 を 示 し て い た 。 さ ら に , menstrual synchrony が 見 ら れ た カ ッ プ ル と見られなかったカップルについて,いくつかの変数を比較した。 そ の 結 果 , menstrual synchrony が 見 ら れ た カ ッ プ ル は 見 ら れ な か っ たカップルに比べ,一緒に食事をとる事が多く,月経周期が安定し ていた事を明らかにしている。 また彼らは母 親と娘,寄宿舎のルー ムメイト同士,一般住宅のルームメイト同士の3グループ毎で生理 周期の同期についても研究しており,全てのグループにおいても有 意に月経周期の同 期が生じている事を明らかにしている。 こ の 他 に も ,親 密 さ や ど の 程 度 日 々 の 活 動 を 一 緒 に 行 っ て い る か , 一 緒 に 働 く 時 間 の 長 さ と い っ た 社 会 的 相 互 作 用 と mens t r u a l synchrony と の 関 連 に つ い て も 明 ら か に し て お り ( Weller & Weller, 1 9 9 5 a ), 研 究 方 法 に つ い て も 詳 細 な 検 討 を 行 っ て い る ( W e l l e r & W e l l e r , 1 9 9 5 b )。 し か し そ の 一 方 で menstrual synchrony が 見 ら れ な か っ た 研 究 も 存 在 し て い る 。 Trevathan, Burleson, & Gregory ( 1993) は 同 性 愛 カ ッ プルを対象に月経周期の同期について検討したが,そのような結果 は 得 ら れ な か っ た と 報 告 し て い る 。そ し て W e l l e r ら 自 身 も m e n s t r u a l 13 synchrony が 見 ら れ な い ケ ー ス を 報 告 し て い る ( Weller & Weller, 1 9 9 5 c , 1 9 9 8 )。 ま た , 純 粋 な 生 理 的 現 象 と は 言 え な い が 「 あ く び 」 についても,親密性がかえってあくび発生を 抑制する可能性のある 事 が 指 摘 さ れ て い る ( 岸 , 2 0 0 1 )。 こ れ ら の 事 か ら 考 え る と , 親 密 性 は同化行動を引き 起こす十分条件ではない可能性が考えられる。 ところで,本章の冒頭でも述べたように,同化行動は感情的共感 の成立要因としての同化行動と ,共感成立の メッセージとしての同 化行動に分類される。これらの 立場は一方は 同化行動を共 感(厳密 には感情的共感) の成立要因とする立場であり,他方は同化行動を 共感の結果とする立場である。この事から考えると,同化行動は根 本的に異なる機能 を有していると考えられている。前述し た発達領 域 で は , 同 化 行 動 は 「 共 感 ( 感 情 的 共 感 ) の 成 立 要 因 で あ る 」, と す る立場にたつ研究が主流である。しかし,社会心理学領域で行われ ている同化行動に関する研究は,発達領域のものとはその方向性が 異 な っ て い る と 言 え る 。具 体 的 に 言 え ば ,発 達 領 域 で の 研 究 で は「 同 化行動は共感の基礎的部分を担っている」という方向性の研究,す なわち,感情 的 共 感の成立のための同化行動 に関するものが中心で あ る の に 対 し , 社 会 心 理 学 領 域 で は Bavelas et al.( 1986) に 代 表 さ れるような「同化行動は他者の状況に対して関心を抱いているとい う事を伝達している」という方向性の研究, すなわち,同 化する側 と同化される側との関係性(親密性)を伝える非言語的メッセージ としての同化行動 に関するものが中心で あ る と言える。勿 論,感情 的共感の成立の先行要因としての同化行動の 存在を支持している社 会心理学者は存在 しており,そのような立場 からの同化行動の研究 も皆無なわけではない。しかし,発達心理学領域におけるそれと比 較すると,研究そのものはそれほど多くないのが現状であると言え る。 2 -3 臨床心理学領域における同化行動研究 R o g e r s ( 1 9 5 7) は 共 感 を 心 理 療 法 に 欠 く 事 の 出 来 な い 要 素 の 一 つ 14 であると定義した。彼はクライエントの内的世界を「あたかも」自 分もそうであるかのように正確に理解する事について言及し,さら にクライエントを理解する際のコミュニケーションについても言及 した。その際,非言語的行動は こ の 2つの点 (ク ラ イ エ ン トの理解 およびク ラ イ エ ン トへの理解の 伝達)を仲介 す る も の と し た。これ は同化行動の機能 として指摘されているものと合致し て い る。共感 に お け る 非 言 語 的 行 動 の 重 要 性 に つ い て , Haase & Tepper ( 1972) は,共感レベルの判断において非言語的成分は単純に計算しても言 語的メッセージから判断される場合に比べて2倍以上の分散を示し ている(つまり共感レベルの判断に関する非言語的成分の寄与率が 大 き い )事 を 見 出 し て い る 。ま た ,I v e y , I v e y , & S i m e k - D o w n i n g( 1 9 8 7 ) はトレーニング中 のカ ウ ン セ ラ ーがクライエントの非言語的行動に 無意図的に模倣する事(これを彼らは「軌跡をたどる」と呼んでい る)を推奨している。これは彼 らが模倣によってカウンセラーのク ライエントへの共感が高まる,という考えに基づいているからであ る。 こ の よ う な 臨 床 的 知 見 の 妥 当 性 を 検 討 す る た め に ,か つ て 「 社 会 精 神 生 理 学 ( social psychophysiology) 」と 呼 ば れ る 領 域 で 活 発 な 研 究 があった。 心 理 療 法 に お け る 対 人 関 係 を 研 究 し た 一 連 の 研 究 ( Coleman, G r e e n b l a t t , & S o l o m o n , 1 9 5 6 ; DiMascio, Boyd, Greenblatt, & Solomon, 1 9 5 5 ; D i M a s c i o , B o y d , & G r e e n b l a t t , 1 9 5 7 )で は 心 理 療 法 に よ る 面 接 中 の 心 拍や皮膚電気抵抗,末梢皮膚温が測定された。それと同時に,観察 者が両者のやり取りやクライエントの表出された感情をコード化し ていった。これらの研究に共通 する知見としては,セッションごと に程度の違いは見られるものの,治療者とクライエントの生理的活 動性は共変動しているというものであった。そして共変動が低い時 は 結 果 と し て , 治 療 者 が 「( 何 か に ) 心 を 奪 わ れ て い た 」事 を 報 告 し ていた時であるように思われ, 研究者たちは 生 理 学 的 共 変 動が治療 者−クライエント 間の感情的共感プロセスを 反映していると結論づ 15 け た 。 V a n d e r p o o l & B a r r a t t ( 1 9 7 0) も 精 神 生 理 学 的 指 標 を 用 い た 研 究 の 結 果 か ら ,共 感 が 生 理 学 的 指 標 と 関 連 が あ る 事 を 支 持 し て い る 。 これらの研究は共通して,より共感的である治療者はそうでない治 療 者 に 比 べ , GSR の 変 化 が 大 き く , 心 拍 の 増 加 が 少 な い 事 を 示 し て いる。 その後行われたいくつかの研究も同様の結果を報告している。例 え ば , Stanek, Hahn, & Mayer( 1973) は 初 期 の 精 神 分 析 セ ッ シ ョ ン 中 の 「精 神 力 動 的 に 意 味 の あ る 」 エ ピ ソ ー ド で , 患 者 と 面 接 者 と の 間 に心拍の共変動が生じる事を見出した。そしてそれは特に転移−逆 転 移 が 見 ら れ る 時 に 顕 著 で あ っ た 事 を 報 告 し て い る 。 Robinson, H e r m a n , & K a p l a n( 1 9 8 2 ) は カ ウ ン セ リ ン グ 中 の カ ウ ン セ ラ ー の 共 感(クライエントによって知覚された共感)と精神生理学的変数と の 関 連 を 調 べ た 。 彼 ら は 1min 以 上 に わ た る 測 定 に よ る カ ウ ン セ ラ ー と ク ラ イ エ ン ト の F S T( 平 均 皮 膚 温 ) と 共 感 得 点 と の 間 に 相 関 が 見 ら れ な か っ た 事 を 明 ら か に し た 。 し か し , ペ ア の 一 方 の S C R( 皮 膚 電 導 反 応 ) に 対 し て 7sec 以 内 に 他 方 の S C R が 生 じ る 回 数 は , 共 感と非常に高い相 関が認められた事を報告している。 しかし,一方でこれらの結果 の解釈に対してはさまざまな批判が な さ れ て い る 。 例 え ば , Robinson et al.( 1982) は SCR が 共 感 と の 相 関 が 見 ら れ た の に対 し て , FST と 共 感 と の 間 に 相 関 が 見 ら れ な か っ た 点 に つ い て , 生 理 指 標 の 共 変 動 は , 共 感 の 「状 態 」を 反 映 し て い る の で は な く ,む し ろ 測 定 中 の あ る 出 来 事 へ の 単 純 な 反 応 に す ぎ ず , それが偶然共感とあたかも相関しているかのように見えている可能 性を指摘している。生理指標はその解釈が非常に難しい指標の一つ であり,一見す る と共感と関連 し て い る よ う な結果が見られても, そ れ は 「見 か け 」の 関 連 に 過 ぎ な い 可 能 性 も 否 定 出 来 な い 。 他の心理療法 における治療者− クライエント関 係の評 価に 生理指 標 を 用 い る 事 の 難 し さ と し て ,K a p l a n や そ の 共 同 研 究 者 た ち の 研 究 ( Kaplan, Burch,& Bloom, 1964) が 挙 げ ら れ る 。 彼らは ソシオメトリック の評価 を基 に構成 された小討論グループ 16 に お け る G S R の 同 調 に 関 し て 2 つ の 研 究 を 行 っ た 。最 初 の 研 究 で は , 4 人の男性から成る 3 つのグループを設定し た。これらの グループ は互いに好意を持っているグループ,互いに非好意的なグループ, 互いに好意を持っている者と持 っていない者 の混合グループに分け ら れ た 。 グ ル ー プ は 45min の 討 論 を 5 回 行 な っ た 。 分析の 結果, 互い に好意 を持っていないグループでは 他の 2つの グ ル ー プ に 比 べ , CSR に よ り 強 い 相 関 を 示 す 事 が 明 ら か に さ れ た 。 そして 2 つめの研究では,2人の女性から成るペアがつくられた。 被 験 者 は 互 い に 好 意 を 持 っ て い る ペ ア ( 1 0 組 ), 互 い に 好 意 を 持 っ て い な い ペ ア ( 1 0 組 ), 中 立 的 な 感 情 を も つ ペ ア ( 1 0 組 ) の 3 群 の ど れ か に 割 り 振 ら れ た 。 そ し て , 20min の 討 論 を 2 回 行 な わ せ た 。 その結果,男性グループと同様 に互いに好意 を持っていないグルー プの方が,好意をもっているグループや中立的なグループ よりも, GSR に よ り 強 い 有 意 な 相 関 を も つ と い う 結 果 が 得 ら れ た 。 こ の 結 果 は「 互 い に 好 意 を も っ て い る ペ ア の G S R は 共 変 動 し ,中 立 的 お よ び 非 好 意 的 群 の ペ ア で は G S R の 共 変 動 は 見 ら れ な い か 小 さ い 」と い う 彼らの仮説とはまったく逆のものであった。 同 様 の 結 果 は Linton, Travis, Kuechenmeister, & White ( 1 9 7 7 ) に お い て も 得 ら れ て い る 。彼 ら は 催 眠 を か け る 人 間 と か け ら れ る 人 間 の 心 拍 を , 3 つ の 段 階 に お い て 検 討 し た 。3 つ の 段 階 と は 具 体 的 に は 催 眠 導 入 段 階,これらの手続きをビデオテープで概観している段階,その後の 一般的な会話の段 階であった。 分析の結果, 暗示者と被験者の心拍 の一致が見られたのは,催眠導入手続きの時のみである事が明らか になった。もし心 拍の一致が暗示者と被暗示者との間に成 立した共 感の指標として機能するのであれば,催眠導入手続きの段階で両者 間に共感が成立していたと考えられる。そして催眠導入時 に形成さ れた共感は,その後の手続きの時にも持続していると考えられるの で,その後の段階においても心拍の一致が見られるはずである。し かしこの研究ではそのような結果は得られず,そのため彼らは自分 達の研究では,それまで言われていた共感との関連は見出せなかっ 17 たと結論づけている。 このように当初, 共感,あるいはラポールと 関連があるとされて きた生理指標はその後の研究によって,その 有効性に疑問 が呈され るようになり,その結果,最近の共感やラポール研究で自律神経系 の活動をその指標とするものは少なくなっている。 自律神経系の活動を共感やラポールの指標とする事は困難である 事が明ら か に さ れ た事,そして 共感やラ ポ ー ルに関する質 問 紙 の開 発もあり,共感・ラポールに関する研究は徐々に調査や実験室実験 によるものに比重が移り始めた。しかし,治療者とクライエントの 非言語的行動の無意図的な同調や模倣が,共感と関連があるという 臨床的知見がある一方,この知見に関する実証的研究はほとんど見 ら れ な い 事 が 指 摘 さ れ て い る( B a n n i n g e r - H u b e r & S t e i n e r , 1 9 9 2 )。こ のテーマに関するほとんどの研 究は実験的手続きに基づ い て行われ たものではなく, 自然観察に よ る研究手法で 構成されている。そし て,それら多くの 研究は「姿勢 の非 言 語 的 行 動の一致」が 治療者と クライエントのラポールを特徴づける可能性がないとは言えない, といったレベルの主張にとどまっているのが現状である。 例 え ば S c h e f l e n( 1 9 7 2 ) は カ ウ ン セ ラ ー と ク ラ イ エ ン ト 間 の 姿 勢 の一致をラポールの指標と定義した。しかし,たとえ姿勢の一致が 両 者 の 関 係 に 指 標 に な り え た と し て も ,治 療 者 の そ の よ う な 行 動( ミ ラーリング・同化行動)がクライエントの抱いている感情を治療者 側が正確に知覚し ,ク ラ イ エ ン トに対するカウンセラーの 共感の成 立を促進するのかについては,実証的に検証されていないのが実情 である。 そ れ で も 数 少 な い 実 証 的 研 究 の ひ と つ と し て , Hsee, Hatfield, & C h e m t o b( 1 9 9 1) は 刺 激 人 物 を 抜 粋 し て 作 成 し た ビ デ オ テ ー プ を 被 験 者 に 呈 示 す る と い う 方 法 で ,同 化 行 動 と 共 感 と の 関 係 を 検 討 し た 。 刺激人物は言語的に悲しみ,あるいは喜びを報告し,非言語的には 悲しい,あるいはうれしい表情を被験者に呈示した。実験の結果, 刺激人物が抱いていると思われる感情についての判断は刺激人物の 18 言語的メッセージに非常に強く影響される事が示された。一方,被 験者自身の気分については,刺激人物の言語報告と表情表出の影響 力は同じ程度であった。この結 果から彼らは ,心 理 的 援 助 者の感情 はクライエントの 表情表出過程 によって部分的に決定づけられてい る可能性があり, そしてクライエントの感情状態についてのアセス メントは,クライエントの言語的メッセージ による影響が 強い可能 性がある事を指摘している。感情的共感の観点からこの結果を考え れば,心 理 的 援 助 者の感情はクライエントの 感情に つ い て の判断に 比べ,よりクライエントの非言語的行動の影響を受ける事を意味し ている。つまり,心理的援助者の感情的共感の成立には,クライエ ントの非 言 語 的 行 動に対する心理的援助者の 同化行動が関 与してい る事を間接的に示している結果であると考えられる。 以前から治療者 の非 言 語 的 行 動は,クライエントが治 療 者に対す る評価に影響する可能性が指摘されてきた。特に,アイコンタクト や前傾姿勢,微笑 み,うなずき ,体を き ち ん とク ラ イ エ ン トに向け ている,といった非言語的行動が,治療者を「暖かく,共感的で, 自己一致している」とクライエントに判断させる事が明らかにされ ている。この事から,身体動作の一致や鏡写しのような姿勢は,治 療関係の構築や言語的開示と正の相関関係にある事が指摘されてい る。 M a u r e r & T i n d a l l( 1 9 8 3 )は 進 路 選 択 に つ い て 青 少 年 と 面 接 を す る カウンセラーの姿勢の一致を操作した研究で,この考えを支持する 結果を見出した。 この実験では ,カ ウ ン セ ラ ーが被験者の 姿勢を積 極 的 に ミ ラ ー リ ン グ す る( つ ま り 意 図 的 に 同 化 す る ) ミ ラ ー リ ン グ 条件(実験群)と ,カ ウ ン セ ラ ーは全く被 験 者の姿勢に対 するミラ ーリングを行なわず,もし偶然姿勢が一致し た時には即座 に被験者 と異なる姿勢をとる非ミラーリング条件(統制群)の2条 件が設定 され,被験者はどちらかの条件 に割り振られた。実験の結 果,カウ ンセラーの共感に対する被験者の評価は,被験者の姿勢に対してミ ラーリングをしていたカウンセラーのほうが高く,ミラーリングし 19 ていたカ ウ ン セ ラ ーはミラーリングを行なわなかったカウンセラー よりもより高い共感レベルにあると判断されていた。 Navarre ( 1982) に よ る 2 つ の 実 験 で も 被 験 者 は 姿 勢 が 一 致 ・ 不 一 致 の 他 者 と面接を行った。 この実験でも 面接者は被験者と一致した 姿勢をと っ て い る 時 に , よ り 肯 定 的 に 評 価 さ れ た 。 B e r n i e r i( 1 9 8 8 ) は ラ ポ ールを「高いラポール状態はしばしば調和的である,とか,スムー ズである,調和している,あるいは同じ波長 で あ る と い っ た言葉で 記 述 さ れ る 。同 様 に ,低 い ラ ポ ー ル 状 態 は ぎ こ ち な い ,ず れ て い る , いっしょでない, といった言葉 で記述される 」と述べており,無意 図的な同調・模倣がラポール的感情を促進する可能性について言及 している。 このように,同化行動 と共感あるいは ラ ポ ー ルとの 間に何 らかの 関連がある事を示唆する研究はいくつか見られるが,実証的研究に 限定した場合にはラポールと同化行動の関連に関するものがほとん どである。また,ラポールの形成に関する評価はクライエント役の 被験者がしており ,心 理 援 助 者 側による評価 を行った研究 はほとん ど 見 ら れ な い 。つ ま り ,同 化 行 動 を 心 理 援 助 者 側 か ら 捉 え た 研 究 は , 理論的研究や文献研究を除けばほとんど見られないと指摘出来よう。 3 同化行動の機能について 前節ではこれまで行われてきた同化行動に関する研究について, 主に3つの領域に大別して概観してきた。ところで,これまで概観 してきた同化行動はどのような機能を持つのであろうか? そのような問いに対しては2つの回答がある事は前述した。つま り,他者理解の手 段としての同化行動と二者間の関係についてのメ ッセージとしての 同化行動である。しかし, どちらにせよ ,同化行 動は他者との共感的コミュニケーションの際 に出現する事 から,多 くの同化行動の研究者は共感性と何らかの関連性があるのではない かと考えている。 そ の よ う な 仮 説 と 関 連 す る 研 究 と し て , 千 葉 ( 1989) は 何 ら か の 20 感情表出をしている表情を呈示 し,その表情 に含まれている感情に つ い て の 判 断 を 求 め る ,と い う 作 業 を 被 験 者 に 行 な わ せ た 。そ の 時 , 被験者を呈示された表情を意図的に模倣しながら感情の判 断を行な わせる群(模倣群 )と そ の よ う な意図的模倣 は行なわずに 感情判断 を行なわせる群(非模倣群)に分け,意図的模倣による感情判断へ の影響について検討した。その結果,模倣群の被験者は非模倣群の 被験者に比べ,より正確に呈示刺激に含まれている感情を判断して いた。しかし,非模倣群の何名かの被験者で呈示された表情に対し て実験の意図に反 して同化行動 が生じ,その 結果,同化行動が生じ た被験者の判断は 非模倣群よりも模倣群のそれに近い結果 であった 事 を 報 告 し て い る 。Lundqvist(1995)は 呈 示 さ れ た 表 情 に 対 し て 被 験 者 に同化行動見られた場合には, 呈示された表 情による感情 が被験者 の側に生じている事を明らかにしている。 多くの臨床家や 研究者 が感情共有・感情移入 といった感情的共感 と 同 化 行 動 と の 関 連 を 指 摘 し て い る 。 F r e u d( 1 9 2 2 ) は 共 感 を そ の 個 人の自我とは本来異質である他者を理解する際に最大の役割を果た す過程であると指摘し,共感へと至る過程として「模倣による同一 化 」 を 挙 げ て い た 。 ま た Lipps ( 1926 ) は 同 化 行 動 を 共 感 の 中 心 的 な メ カ ニ ズ ム と 考 え て お り ,H o f f m a n( 1 9 8 4 , 1 9 8 7 )は「 共 感 的 覚 醒 」 の様式のひとつに同化行動を挙げている。 H a t f i e l d , Cacioppo, & Rapson ( 1 9 9 4 ) は こ れ ま で の 同 化 行 動 と 感 情 と の 関 連 に つ い て の 研 究 か ら , E m o t i o n a l C o n t a g i o n( 感 情 伝 播 ・ 感 情 的 共 鳴 ) 理 論 を 作 り 上 げ た 。 Emotional Contagion 理 論 に よ る と , E m o t i o n a l C o n t a g i o n は 原 始 的 共 感 ( p r i m i t i v e e m p a t h y) あ る い は 感 情的共感と呼ば れ る共感のベ ー スに な っ て い る現象であるとされて い る 。 そ し て , Emotional Contagion が 生 じ る 際 に は 同 化 行 動 が 生 じ ているとしている。 共 感 の 研 究 に つ い て 角 田 ( 1994 ) は , 感 情 的 ア プ ロ ー チ と 認 知 的 アプローチの2つのアプローチがある事を指摘している。そして, 前者は感情共有や感情移入と呼ばれる状態と関連し,後者は他者の 21 感情の理解と関連 しているとしている。このような共感研究のアプ ロ ー チ を 踏 ま え , 澤 田 ( 1998) は カ ウ ン セ リ ン グ に お け る 共 感 の タ イ プ を 「 感 情 的 共 感 」,「 認 知 的 共 感 」,「 感 情 ― 認 知 的 共 感 」 の 3 つ に 分 類 し ,「 感 情 的 共 感 」 を 「 同 一 化 , 感 情 的 伝 染 , 感 情 的 共 鳴 ( 反 響)と言った感情的反応の側面が優位な共感」と定義した。そして 感情的共感が共感過程の初 期 段 階の も の と し て存在し て い る事を指 摘している。これらの事から, 共感と同化行動との間に何 らかの関 連性があると考えるのは,決して不自然ではないように思われる。 以上のように ,同化行動 と共感との関連性 については以前から指 摘されている。具体的には共感の感情的側面である「感情の共有」 との関連が指摘されている。 しかし, 上述したような考えに 異論をはさむ 研究者 もいないわけ で は な い 。例 え ば 角 田( 1 9 9 8 )は 同 化 行 動 の 結 果 と し て 生 じ る 感 情 の 伝 播 ( E m o t i o n a l C o n t a g i o n) は 「 感 情 の 共 有 と い う 点 で は 似 て い る が , 決 し て 他 者 理 解 に は 到 ら な い ( P . 1 8 )」 と し て い る 。 こ の 事 は 同化行動と共感と の関連性は低 い,という事 を示唆している。この ように,同化行動によって生じる感情の共有が果たして共感につな がるかについては 意見が分かれている。さらに,臨床心理学領域に おける同化行動の 部分でも触れたが,同化行動と共感との 関連性に ついては,臨床家の個人的経験から導き出された「仮説」であり, また,古 典 的 臨 床 心 理 学 領 域 独 特の研究観( 例:厳密な実 験による 検証を避ける傾向 )も影響して ,同化行動と 共感との関連性に関す る実証的研究はまだほとんど見られないのが現状である。 22 第 2 章 1 本 研 究 の目 的 と意 義 問題提起 まず,これまでに行われてきた同化行動に 関する研究について 述べる。 全般的に共通する点としては,前章でも述べたように,同化行動 の研究に関する実証的研究は「両者の関係についてのメッセージを 相手に伝達する」という,対人場面における非言語的メッセージに 関するものが多い 。一方,同化行動のもう 1 つの機能である感情的 共感との関連については理論的研究や文献研究,臨床家の 経験則が ほとんどであり, 共感と同化行動との関連について実証的 に扱った 研究はほとんど見られない点が挙げられる。 発達領域においては,同化行動 の研究対象は 主に乳児期や 幼児初 期の乳幼児であり,そのような発達段階において,共感を測定する 事が困難である事 から,同化行動と共感との 関連について 実証的研 究を行なうのは方法論的に困難 な面を持っている。そういう意味で は,共感との関連 について実 証 的に扱う事が 困難であるのは理解出 来る。 しかし,臨床心理学や社会心理学においてはそのような問 題がな いにも関わらず,同化行動と共感との関連について直接的な検討を 行った研究はほとんど見られない。これは, 臨床心理学や 社会心理 学においては,同化行動の対他的機能については数多くの研究が行 われている事から 考えると興味深い点である 。 また,同化行動と 共感との関連 について実証的な検討を行 った数 少 な い 研 究 に お い て ,共 感 の 定 義 に 関 し て の 大 き な 問 題 が 見 ら れ る 。 これまで行われてきた研究では,共感を感情的共感と認知的共感に 分けて考える,という立場をとっておらず,単に「共感」とひとま とめにして同化行動との関連について検討している。これまでの理 論的研究から指摘 さ れ て い る の は「感 情 的 共 感と同化行動 との間に 関連が見られる」というものであり,認知的共感との関連は薄いと 23 されている。このような指摘が なされている 以上,同化行動との関 連を検討する際には,共感を感情的共感と認知的共感に分ける必要 がある。 2 本研究の目的 感情的共感と同化行動との関連に関する研究では,一部の研究は 同化行動が感情的共感を生み出 す と し て い る が,多くの研 究は感情 的共感と同化行動の因果関係については明確には述べておらず,両 者の因果関係については明らかではない。 そこで,本研究は感情的共感と同化行動との関連をデータに基づ いて検証することを目的とする 。まず,感情的共感と同化行動との 関連が理論的に支 持されるだけでなく,客観的データによっても支 持されることを明らかにする。次に,本研究では,感情的共感を独 立変数として操作する事による同化行動への影響を検討する。具体 的には,感情的共感と同化行動 との関連を生 理・行動の観 点から検 討する。 3 本研究の意義 本 研 究 の 意 義 と し て ,「 感 情 的 共 感 と 同 化 行 動 と の 関 連 に つ い て データを用いて検 討する」という点が挙げられる。 これまで実証的 な検討が行われてこなかった両者の関連 について, データに基づいて検討を行なう事により,より客観的な視点から感 情的共感と同化行動との関連について検討す る事が可能になると考 えられる。 4 本論文の構成 本研究の背景となる,同化行動に関する研 究,および共 感に関す る研究,そして同化行動と感情的共感との関連についての研究を概 観し,問題点を明らかにした第1章を受けて,本章では先行研究か ら浮かび上がった 問題と,本研究の意義と目 的について論 じた。次 章から本研究は以下のように展開されていく。 24 まず,第3章では自己認識の面から共感と同化行動との関連につ いて検討していく。具体的には同化行動の因子構造を明らかにし, 同化行動の各因子 とすでに標準化されている 共感尺度の尺度得点と の間に,どのような関連が見られるのかについて検討を行 なう。 そして,自己認識面からの検討 により,感情的共感と同化行動と の関連をデータにより明らかにした上で,第 4章では生理面からの 検討を行なう事とする。具体的には,まず状態としての感情的共感 の有無による同化行動の出現へ の影響について検討し,次 いでパー ソナリティ特性としての感情的共感の高低による同化行動の出現へ の影響について検 討を行なう。 最後に,行動面から検討す る。具体 的 に は 日 常 我 々 が 経 験 す る 事 が 多 い と 考 え ら れ る clapping( 拍 手 ) の同化現象を取り上げ,パーソナリティ特性としての感情的共感の 高 低 が clapping の 同 化 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 す る 。 25 第 3章 1 自己評価 からみた 感情的共感と 同 化 行 動 本章の目的 第3章では自己評価の面から共 感と同化行動 との関連について検 討する。具体的には同化行動の因子構造を明らかにし,すでに標準 化されている共感尺度の尺度得点との間にどのような関連 が見られ るのかを検討する 。この事によって,これまで理論的に指 摘されて きた感情的共感との関連を自己人評価に基づくデータから議論する ことが可能になると思われる。 ところで,同化行動 が無意図的 に生じ る も の で あ る以上 ,同化行 動が生じた時点で は当人に「同化行動が生じている」という認識は あまりないと考えられる。よって,現在形で の質問では回 答が困難 である。しかし,過去のある時点において同化行動が生じていたか どうかについての 認識,すなわち「同化行動 が生じていた 」という 認識は可能である。この事から,過去に同化行動が生じていた経験 頻度を問う事により,同化行動 について回答 を求める事が 可能にな る。そこで,過去 にどの程度の 頻度で同化行動を経験したかについ て問う形式を用いれば,個人の同化行動傾向について測定する事が 可 能 と な る 。た だ し , す べ て の 質 問 項 目 を 過 去 形 に す る 必 要 が な い の も事実である。例 えば,あくびの同化は同化 が生じたその 瞬間にそ の同化を認識出来るものであり,そういったタイプの同化行動につ いては,現在形での質問に対しても回答する事が可能であると考え られる。よって,質問項目は過去形で聞くべきものと,現在形で聞 いても回答可能なものとの2種類があると考えられるので,実際の 質問もそのようにする必要があると考えられる。 これまでの同化行動研究 を概観すると,同化行動 は他者への感情 的共感との関連を示す同化行動と,他者との関係について伝達する メッセージツールとしての同化行動の 2 つが考えられる。よって, 同化行動は 2 因子構造になっている可能性が考えられる。そこで, 本研究でもそのような因子構造が見出されるかについて検討を行な 26 った。 次に,種 々の共 感 性 尺 度によって 測定される共感性と 同化行動と の関連性について検討した。その際の仮説としては,1)同化行動 と感情的共感との間には相関がある,2)同化行動と認知的共感と の間には相関がない,というものであった。 2 研究Ⅰ :質問紙研究による感情的共感と同化行動との 関連についての検討 方法 調 査 対 象 者: 専 門 学 校 ,短 期 大 学 ,4 年 制 大 学 に 通 う 学 生 8 4 0 名( 男 性 346 名 , 女 性 4 9 4 名 ) に 質 問 紙 調 査 を 実 施 し , 回 答 に 不 備 が あ っ た も の を 除 い た 814 名 ( 男 性 3 2 3 名 , 女 性 491 名 : 平 均 年 齢 20.42 歳 , 標 準 偏 差 3.54 ) を 分 析 の 対 象 と し た 。 共感性尺度:本研究では共感性を測定する心理尺度として以下の尺 度を使用した。 1) 情動的共感性尺度日本語版(加藤・高木 1 9 8 0) Mehrabian & Epstein( 1972 ) の Emotional Empathy Scale を 日 本 人 向 け に 邦 訳 ・ 修 正 し た も の で あ る 。 こ の 尺 度 は ,「 共 感 的 暖 か さ 」, 「感情的冷淡さ」および「感情的被影響性」という 3 つの下位尺度 から構成される,共感の感情的側面について測定する尺度である。 この尺度はわが国 における共感研究で非常によく用いられる尺度で あ り , ま た 澤 田 ( 1998) お け る 「 感 情 的 共 感 」 を 測 定 す る 尺 度 で あ ると考えられた。 2) 多次元的共感測定尺度(桜井 1988) この尺度は共感を多次元的に捉える事を目的として作成された D a v i s ( 1 9 8 3 ) の I n t e r p e r s o n a l R e s p o n s e I n v e n t o r y( I R I ) を 日 本 人 向 けに邦訳・修正したものである。この尺度は共感の認知的側面を測 定 す る 「 役 割 取 得 」 と , 共 感 の 感 情 的 側 面 を 測 定 す る 「 空 想 」,「 共 感 的 配 慮 」,「 個 人 的 苦 悩 」 か ら 構 成 さ れ て い る 。 共 感 の 認 知 的 側 面 27 を測定する項目を含んだ尺度は,わが国においては本尺度以外には 見られない事から本尺度を用いる事とした。 3) 共 感 経 験 尺 度 改 訂 版 ( E E S R: 角 田 1994) この尺度は共感の感情的側面と認知的側面についてそれぞれ測定 し て い る も の で あ る。この尺度 は「共有経験 」と「共有不全経験」 と い う 2 つ の 下 位 尺 度 を 持 つ が ,「 共 有 経 験 」は 共 感 の 感 情 的 側 面 に つ い て 測 定 し て い る 。「 共 有 経 験 」は 過 去 の 他 者 と の 感 情 の 共 有 に つ い て た ず ね て い る も の で あ り ,澤 田 ( 1 9 9 8 )に お け る「 感 情 的 共 感 」 を測定する尺度であると考えられた。 なお,共感性を測 定する3尺度 については「 あ て は ま ら な い」か ら 「 あ て は ま る 」 の 7 件 法 で 回 答 さ せ た ( 桜 井 ( 1988) は オ リ ジ ナ ルでは4件法であった。これは各尺度の質問項目を混在させるため に 回 答 法 を 統 一 す る た め で あ っ た )。 同化行動尺度の質問項目 :同化行動についてはその経験頻度を問う 質 問 項 目( 25 項 目 )を 用 い た 。 こ れ ら の 質 問 項 目 は 先 行 研 究 で 同 化 行 動 の 指 標 と し て 用 い ら れ た 非 言 語 的 行 動 ( Provine, 1986; Beveras et al., 1988;Lundqvist,1995) に , 一 般 に 同 化 行 動 が 確 認 さ れ る 非 言 語的行動を加え,それらの非言語的行動の同化が生じる状況を想定 し た 質 問 項 目 を 作 成 し た ( T a b l e 1 参 照 )。 なお,同化行動に 関する質問項目に対しては 「経験した事 がない」 から「経験した事 がある」までの6件法で回 答させた。 28 T a b l e 1 同 化 行 動 尺 度 の 作 成 に使 わ れ た項 目 ・テレビでスポーツの試合を見ていて,思わずからだに力が入った ・人のしぐさを知らないうちに真似していた ・早口な人と話していたら自分も早口で話していた ・人が苦痛にゆがんでいる顔を見ていて,つい自分も顔をしかめてしまった ・人が吐いているのを見ていて,自分も吐きそうになった ・人が踊っているのを見て,自分も思わず踊りだしそうになった ・人のあくびがすぐにうつる ・人が泣いているのを見て,もらい泣きしてしまう ・歩いているとき,向こうから人がやってくるのでその人をよけようとしたら相手と同 じ方向によけてしまった ・相手が方言で話していると,知らないうちに自分もその方言を使って話している ・前を歩いている人がつまずいたのを見て,自分も少しつまずきそうになった ・声が大きい人と話している時,自分もつい大きな声で話していた ・難しそうな顔をしている人を見ていたら,自分も難しい表情になっていた ・人と話している時,自分のしぐさや身振りが,相手のそれと同じようになっていた ・甲高い声で話す人と一緒にいたら,自分まで声が高くなっていた ・走っている人を見たら,知らないうちに自分の足に力が入っていた ・みんなで歌を歌っていると,自分と違う音程の人につられてしまった ・誰かと歩いていたら,気がつくと相手の歩くペースに合わせて歩いていた ・一緒にいる人のしぐさなどを見て,自分も同じようにしている ・友達が小さい声で話していると自分の声も小さくなっていた ・友達と話していると同じような姿勢になっていた ・エレベーター に乗っていて,前の人が降りるのにつられて自分も降りてしまった ・ふと気がつくと,親しい友達の癖がうつっていた ・人が笑っていて,自分もつられて笑ってしまった ・緊張している人を見ていたら自分も肩に力が入っていた 29 手 続 き :調査は各学校 の心理学関連講義 の授業時間内 に行 われた。 ど の 学 校 に お い て も 講 義 時 間 の う ち 後 半 30min 程 度 を 調 査 の 時 間 と した。なお,講義担当者が調査実施者である場合には,回答者であ る学生に調査への協力を強要されていると感じられる恐れがあった ため,本調査が行われた講義はすべて調査者が担当していない講義 が選ばれた。 講 義 終 了 後 ,調 査 者 は 質 問 紙 を 配 布 し ,ま ず 口 頭 で 調 査 者 の 氏 名 ・ 身分および本調査 の目的について説明した。 そして続いて ,本調査 へ の 参 加 に つ い て 口 頭 で 依 頼 し た 。 そ の 際 , 1 ), 本 調 査 へ の 参 加 は 義務ではない事,2)本調査と講義には何ら関係がない事,3)回 答は無記名である 事,4)本調査で得られた データは統計的に処理 され,個人を特定出来るような処理は行われない事,5)本調査で 得られたデータは部外者には提供しない事を説明した。 これらの説明を行った後,調査への参加について同意が得られた 学生に対して調査 を行った。調 査へ参加しない学生はそのまま退室 するか,質問紙に特に何も記入しないまま調査者に質問紙を渡して 教室を退室するように教示した。質問紙の回収方法は,質問紙への 回 答 が 終 了 次 第 調 査 者 に 直 接 質 問 紙 を 渡 す ,と い う 方 法 を 採 用 し た 。 結 果 処 理 : 同 化 行 動 の 因 子 構 造 は 以 下 の 手 順 に 従 っ て 分 析 し た 。ま ず ,2 5 項 目 の 同 化 行 動 に 関 す る 質 問 項 目 に つ い て ,回 答 に 偏 り が 見 られない項目だけを取り出し, それらに対し て最尤法プロマックス 回転による探索的因子分析を行った。これまでの因子分析を用いた 研究では主因子法バリマックス回転が用いられる事が多かった。こ れはコ ン ピ ュ ー タ ーの処理能力 や統計プログラムの問題に よ る 事が 主な理由である。しかし,近年のコンピューターの処理能力向上に より斜交回転を用いた分析が可能である事,そして,得られたデー タが母集団からの標本である,という観点からすると主因子法より も最尤法のほうがデータの推定という意味では優れている事から, 本研究では因子分析の手法として最尤法プロマックス回転 を選択し た。 30 同化行動と共感性との関連は 以下の手続き に従って分析 した。 まず,同化行動に関しては,前述した手続きによって見出された 因子ごとに得点を算出し,その得点と共感性尺度ごとに算出された 共感性得点との相関係数を算出した。 結果 1 同化行動の因子構造 因子分析の実施による項目の選択基準として,因子負荷量の絶対 値 が 0.400 未 満 の 項 目 と , 複 数 の 因 子 に ま た が っ て 0 .400 以 上 の 負 荷量を示す項目は分析から除外した。そして,固有値が1以上の因 子を採用したところ,2因子が抽出された。なお累積寄与率は 51.36% で あ っ た 。 そ の 結 果 を Table2 に 示 す 。 第1因子には「一緒にいる人のしぐさをみて,自分も同じように している」,「人と話している時,自分のしぐさや身振りが相手の それと同じようになっていた」,「ふと気がつくと,親しい友達の 癖 が う つ っ て い た 」,「 人 の し ぐ さ を 知 ら な い う ち に 真 似 し て い た 」 と い っ た 質 問 項 目 が 含 ま れ て い た 。こ れ ら の 質 問 項 目 の 内 容 は ,「 気 がついたら(同化行動が)生じていた」といった類のものであり, Morris ( 1970) が 指 摘 し て い る よ う な 他 者 と の 関 係 に 関 す る 同 化 行 動 に 関 す る 項 目 が 集 ま っ て い た 。そ こ で ,第 1 因 子 は「 身 振 り 同 化 」 因子と命名された。 第 2 因 子 は「 人 が 泣 い て い る の を 見 て ,も ら い 泣 き し て し ま う 」, 「 緊 張 し て い る 人 を み て い た ら ,自 分 も 肩 に 力 が 入 っ て い た 」,「 人 が笑っていて,自 分もつられて 笑っ て し ま っ た」,「人のあくびが すぐにうつる」,「人が苦痛にゆがんでいる 顔を見て,つ い自分も 顔をしかめてしまった」といった項目から構 成されていた 。これら の項目の多くは感情表出と関連し,他者の感情表出と関連する行動 に対する同化についての項目であった。そこで,第 2 因子 は「感情 表出同化」因子と命名された。 次 に ,抽 出 さ れ た 因 子 に 対 し て ,そ の モ デ ル( 2 因 子 構 造 か ら の 尺 度 )の 妥 当 性 を 検 討 す る 目 的 で A m o s v e r . 4 . 0 日 本 語 版( S P S S 社 )に 31 よる確認的因子分析を行った。その結果,モデルの適合度指標は G F I = 0 . 9 7 4,A G F I = 0 . 9 5 5 で あ り ,両 指 標 と も 0 . 9 以 上 の 値 を 示 し た 。 次 に ,両 因 子 の 信 頼 性 係 数 ( Cronbach の α 係 数 )を 算 出 し た と こ ろ ,「 身 振 り 同 化 」因 子 が 0.778, 「 感 情 表 出 同 化 」因 子 が 0.665 で あった。 最後に,今回用い た因子軸の回転方法が斜交解であった事 から, 両 因 子 の 因 子 間 相 関 を 算 出 し た と こ ろ ,r = 0 . 6 5 0 と い う 高 い 数 値 を 示 した。 32 Table 2 同化行動尺度の因子分析結果 身振り同化 感情表出同化 一緒にいる人のしぐさなどを見て、自分も同じように している .768 -.037 人と話しているとき、自分のしぐさや身振りが、相手 のそれと同じようになっていた .668 .088 ふと気がつくと、親しい友達の癖がうつっていた .661 .024 人のしぐさを知らないうちに真似していた .642 -.064 -.116 .635 緊張している人を見ていたら自分も肩に力が入ってい た .054 .546 人が笑っていて、自分もつられて笑ってしまった .105 .507 -.041 .502 人が苦痛にゆがんでいる顔を見ていて、つい自分も顔 をしかめてしまった .121 .436 固有値 2.506 2.182 人が泣いているのを見て、もらい泣きしてしまう 人のあくびがすぐにうつる GFI=0.974 AGFI=0.955 33 2 同化行動と各共感性との関連 同化行動と共感性との関連を検討するため,因子分析の結果から 得られた同化行動の各因子と共感性尺度(共感経験尺度改訂版,多 面的共感測定尺度,情動的共感尺度日本語版)の得点との相関係数 を 算 出 し た 。 そ の 結 果 を Table3 に 示 す 。 Table3 か ら 明 ら か な よ う に , 同 化 行 動 の 各 因 子 は ど の 共 感 性 尺 度 の 得 点 と も 統 計 的 に 有 意 な 相 関 係 数 を 示 し た ( 全 て p<.01) 。 そ し て,全体的には「身振り同化」因子よりも「感情表出同化」因子の ほうが各 共 感 性 尺 度との相 関 係 数は高くなっていた。ところで,本 研 究 は 調 査 対 象 者 が 多 い た め ,統 計 的 有 意 差 は 出 や す く な っ て い る 。 そ こ で , 今 回 は 相 関 係 数 の 絶 対 値 が 0.2 を 超 え た も の の み に つ い て 取り上げる事とした。その理由 としては,相関係数の大きさについ て は , 絶 対 値 で 0.2 未 満 の 場 合 は 「 相 関 は ほ と ん ど な い 」 と 解 釈 さ れる事が多いからである。 各 共 感 性 の 尺 度 に お い て ,「 身 振 り 同 化 」因 子 と 絶 対 値 で 0 . 2 以 上 の相関が見られたのは,共感経験尺度改訂版の下位尺度である「感 情 共 有 」( r = 0 . 2 3 1 ), 多 面 的 共 感 測 定 尺 度 の 下 位 尺 度 で あ る 「 空 想 」 ( r = 0 . 2 0 4), 情 動 的 共 感 性 尺 度 日 本 語 版 の 下 位 尺 度 で あ る 「 感 情 的 暖 か さ 」( r = 0 . 2 5 2 ),「 感 情 的 被 影 響 性 」( r = 0 . 2 7 2 ) で あ っ た 。 一 方 , 「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 と 絶 対 値 で 0.2 以 上 の 相 関 が 見 ら れ た の は 共 感 経 験 尺 度 改 訂 版 で は 2 つ の 下 位 尺 度 で あ る「 感 情 共 有 」( r = 0 . 4 2 4 ), 「 共 有 不 全 」( r = - 0 . 2 7 9 ) お よ び 多 面 的 共 感 測 定 尺 度 の 下 位 尺 度 で あ る 「 空 想 」( r = 0 . 2 4 7 ),「 配 慮 」( r = 0 . 3 5 8 ),「 苦 悩 」( r = 0 . 2 8 5 ) そ し て 情動的共感性尺度日本語版の下位尺度である「感情的暖かさ」 ( r = 0 . 4 8 6 ),「 感 情 的 冷 淡 さ 」( r = - 0 . 3 7 1 ),「 感 情 的 被 影 響 性 」 ( =0.397) で あ っ た 。 そ し て ,多 面 的 共 感 測 定 尺 度 の 下 位 尺 度 で あ る「 視 点 取 得 」は「 身 振 り 同 化 」因 子 ,「 感 情 表 出 同 化 」因 子 の ど ち ら と も 0 . 2 未 満 の 相 関 係数であり,共 感 経 験 尺 度 改 訂 版の下位尺度 である「共有不全」お よび情動的共感性尺度の下位尺度である「感情的冷淡さ」 について 34 は 「 身 振 り 同 化 」,「 感 情 表 出 同 化 」 両 因 子 と も に 負 の 相 関 を 示 し た ( た だ し ,「 身 振 り 同 化 」因 子 に お い て は ,統 計 的 有 意 差 が 認 め ら れ た も の の ( p < . 0 1 ), 相 関 係 数 の 絶 対 値 は 0 . 2 未 満 で あ っ た )。 35 36 p<.01 .424 感情表出同化 * .231 身振り同化 * * -.279 -.063 * * 感情共有 共有不全 共感経験尺度 .486 .252 * * 暖かさ -.371 -.124 * * 冷淡さ .397 .272 * * 被影響性 情動的共感尺度日本語版 .247 .204 空想 * * .358 .101 配慮 * * .152 .054 * * 視点取得 多面的共感測定尺度 Table 3 同化行動の各因子と各共感性尺度との相関係数 .285 .146 苦悩 * * 考察 本研究ではこれまであまり実証的研究のなかった共感性と同化行 動との関連について,まず同化行動尺度を作 成し,質問紙 レベルに おいて同化行動と共感性との関連,特に感情的共感性との関連につ いて検討した。そこで,まず作成された同化行動尺度について考察 し,次に同化行動と共感性との関連について考察する。 1 同化行動の因子構造について 本研究ではまず ,同化行動に 関する質問項目を準備し, 調査対象 者からの回答から 同化行動の因子構造のモデルを作成した 。その結 果 ,2 因 子 が 抽 出 さ れ ,そ れ ぞ れ「 身 振 り 同 化 」因 子 ,「 感 情 表 出 同 化 」因 子 と 命 名 さ れ た 。得 ら れ た 因 子 の 累 積 寄 与 率 は 5 0 % を 越 え て お り , 確 認 的 因 子 分 析 の 結 果 に つ い て も , GFI, AGFI と も に 0.9 以 上の値を示した。 そして,各因子が示す内容 はこれまでの 同化行動 の研究において見られる対他的機能としての同化行動と,対自的機 能としての同化行動に分かれた 。これらの事 から同化行動 の因子構 造 を 2 因 子 と す る 本 研 究 の モ デ ル は 妥 当 で あ る と 考 え ら れ る 。ま た , 両因子間には正の相関が認められた。 C r o n b a c h の α 係 数 に よ る 信 頼 性 係 数 は ,「 身 振 り 同 化 」 因 子 が 0 . 7 7 8 と 十 分 な 値 を 示 し た が ,「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 は 0 . 6 6 5 と や や 低 い 値 を 示 し た 。こ の 理 由 と し て は 以 下 の よ う に 考 え る 事 が 出 来 る 。 「身振り同化」因子の場合,因子に含まれている項目は姿勢およ びゼスチャー(しぐさ)という非言語行動に関するものである。姿 勢やゼスチャーはともに全身的な非言語行動であり,非言語行動の レベルから見た時 に,さほど大 きな違い は な い。それゆえに「身振 り同化」因子は項目間の等質性 を十分なレベルに維持しやすいよう に思われる。 そ の 一 方 で ,「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 の 質 問 項 目 を 見 る と , 主 に 感 情 表出された表情に 対する同化行動の質問項目 である。これらの項目 は「感情表出に対する同化行動」という点では一致しているが,そ 37 こで表出される感情には違いが見られる。表情の同化行動に関する 研究では呈示さ れ た表情に含まれる感情によって,同化行動の生じ や す さ に 違 い が 見 ら れ る ( L u n d q v i s t , 1 9 9 5 )。 そ の 事 を 踏 ま え て 考 え ると,各質問項目に含まれる感情の相違によって,項目の等質性が 低くなってしまい ,その結果として内的整合性が低くなったのでは な い か と 考 え ら れ る 。そ れ に 加 え ,本 尺 度 の 項 目 数 は 少 な い た め(「 身 振 り 同 化 」 因 子 4 項 目 ,「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 5 項 目 ), α 係 数 が 低 い 値 を 示 す 傾 向 に あ る 事 は 否 定 出 来 な い 。以 上 の 事 か ら ,「 感 情 表 出 同化」因子の内的整合性は低いが,その事だけを以って信頼性が低 いと判断する事は出来ないと考えられる。 2 同化行動の各因子と各共感尺度との関連について 本研究で 見出 された 同化行動の各因子 と各共感性尺度との 相関係 数を算出したところ,全ての共感性尺度の下位尺度に お い て有意な 値が得られた。 澤 田 ( 1 9 9 8) は 同 化 行 動 と 関 連 が あ る 共 感 は 感 情 的 共 感 で あ る と し て い る が , 本 研 究 に お い て も 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た 。「 身 振 り 同 化 」因 子 ,「 感 情 表 出 同 化 」因 子 と も に ,認 知 的 共 感 と 考 え ら れ る「 視 点 取 得 」と の 相 関 が 最 も 低 か っ た( な お ,「 空 想 」は そ の 名 前 か ら 知 的想像を必要とするような共感 であり,認知的な共感であると思わ れ が ち だ が ,質 問 項 目 を 見 る と ,「 劇 や 映 画 を 見 る と ,自 分 が 登 場 人 物 の 一 人 に な っ た よ う に 感 じ る 」,「 小 説 を 読 ん で い て , 登 場 人 物 に 感情移入する事がある」といったものが多く,それゆえに「空想」 は 感 情 的 共 感 と 考 え る 事 が 出 来 る )。 そ し て , 本 研 究 の 仮 説 ど お り , 「 感 情 共 有 」 や 「 感 情 的 暖 か さ 」,「 感 情 的 被 影 響 性 」 の 感 情 的 共 感 については,同化行動との関連性が見出された。この結果 は澤田に 代 表 さ れ る 「 感 情 的 な 共 感 は 同 化 行 動 と の 関 連 が 見 ら れ る が ,認 知 的 共 感 と は 関 連 が 見 ら れ な い 」と い う 立 場 を 支 持 す る 結 果 と 言 え よ う 。 しかし, 本研究で作 成された同化行動尺度の 因子によって ,各共 感性尺度との関連には違いが見られた。 38 「 身 振 り 同 化 」 因 子 ,「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 , そ れ ぞ れ の 各 共 感 性 尺度との相関を比較すると,どの共感性尺度においても「感情表出 同化」因子がより高い相関を示していた。特に「感情共有」および 「 感 情 的 暖 か さ 」 と 「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 と の 相 関 係 数 は 0.4 を 超 え る 結 果 と な っ た 。そ の 一 方 で ,「 身 振 り 同 化 」因 子 と 各 共 感 性 尺 度 と の 相 関 係 数 は ,「 感 情 表 出 同 化 」因 子 ほ ど で は な か っ た 。ま た 他 に も 「 身 振 り 同 化 」 因 子 と の 相 関 が 絶 対 値 で 0.2 未 満 で あ っ た 共 感 性 尺 度 で も ,「 感 情 表 出 同 化 」因 子 に お い て は 0 . 2 以 上 の 相 関 を 示 す も の も あ っ た ( 例 :「 共 感 的 配 慮 」 は 「 身 振 り 同 化 」 因 子 で は ほ と ん ど 無 相 関 に 近 い ( r = 0 . 1 0 1 ) が ,「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 で は r = 0 . 3 5 8 と い う 値 を 示 し た )。な ぜ こ の よ う な 違 い が 生 じ た の で あ ろ う か 。こ の 点を考察する前に,今一度,同化行動を扱った研究に触れたいと思 う。 こ れ ま で の 同 化 行 動 の 研 究 で は 同 化 行 動 の 機 能 と し て ,2 つ の 機 能 が 挙 げ ら れ て い る 事 は 前 述 し た 。 例 え ば , M a u r e r & T i n d a l l( 1 9 8 3 ) や Bavelas, Black, Chovil, Lemery, & Mullet( 1988)は同 化 行 動 を 「 他 者 と の 関 係の伝達」という 観点から捉えている。すなわち,同化行動は同化 された他者に対して,同化している自己が何らかのかかわりを持と うとしている,というメッセージを伝達している,とする 立場であ る 。 そ の 一 方 , H a t f i e l d e t a l .( 1 9 9 4 ) は 同 化 行 動 を 「 他 者 へ の 感 情 的 共感・感情移入」との関連から捉えている。このように,同化行動 の機能に対しては異なる立場が存在しており,各々が依拠する立場 の正当性を主張しているのが現状である。 ところで ,非言語的行動に は対他的機能と対自的機能のある事が 指 摘 さ れ て い る ( 春 木 ,1 9 8 7 )。例 え ば ,表 情 と い う 非 言 語 的 行 動 は 他者に自己が抱いている感情を他者に伝えるという機能を持つ(対 他的機能)一方で ,ある感情を 含んだ表情表出をする事により,求 心性フ ィ ー ド バ ッ クが生じ,そ の結果,表情 に対応した感 情が喚起 さ れ る ( 対 自 的 機 能 ), と い う 機 能 も 有 し て い る 。 同化行動は非言語的行動が同化する現象を指す概念であるから, 39 同化行動にも非言語的行動と同様に,対他的機能と対自的機能の2 つの機能を持つ事 は十分に考えられる。この 点を踏まえると,本研 究の結果は以下のように考えられる。 同 化 行 動 を 対 自 的 機 能 ・対 他 的 機 能 と い う 観 点 か ら 見 る と ,「 他 者 への感情的共感との関連」は同化行動の対自的機能と考える事が出 来る。なぜなら,共感という現象は対人場面において,その個々人 内 で 生 じ る も の だ か ら で あ る 。一 方 ,「 対 人 場 面 に お け る 両 者 の 関 係 に関するメッセージ伝達のツ ー ル」という同化行動の機能 は,同化 行動の対他的機能と考える事が出来る。臨床心理学で「ラポール」 と呼ばれるような ,心理援助者 とク ラ イ エ ン トとの間に成 立した友 好 的 ・ 相 互 信 頼 的 な 状 態 , あ る い は Morris( 1977) が 親 し い 二 者 間 の間で生じるとしている「姿勢反響」は,この対他的機能に分類さ れると考えられる。 こ の 点 を 踏 ま え る と 、本 研 究 で 示 さ れ た 同 化 行 動 の 因 子 モ デ ル は , 以下のように考える事が出来る。 本モデル では 因子分析に よ り「身 振り 同化」 因子と 「感情表出同 化」因子という2因子が見出された。そして各因子を構成する質問 項 目 か ら 見 る と ,「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 で 測 定 さ れ て い る 行 動 は H a t f i e l d e t a l . ( 1 9 9 4 )の 研 究 で 取 り 上 げ ら れ た 行 動 と 同 質 な 同 化 行 動,すなわち,同化行動の対自的機能を担うような行動から構成さ れ て い る 。一 方 ,「 身 振 り 同 化 」 因 子 で 測 定 さ れ て い る 行 動 は ,B a v e l a s e t a l . ( 1 9 8 8 ) や M a u r e r & T i n d a l l( 1 9 8 3 ) で 議 論 の 対 象 と な っ て い る同化行動,つまり同化行動の 対他的機能を 担う行動から 構成され ている事がわかる。 ゆ え に , 本 尺 度 は Hatfield et al. ( 1994 ) が 指 摘 し て い る 「 感 情 共 感 と の 関 連 要 因 」と し て の 同 化 行 動 , す な わ ち 対 自 的 観 点 か ら 見 た 同 化 行 動 と , B a v e l a s e t a l .( 1 9 8 8 ) や M a u r e r & T i n d a l l( 1 9 8 3 ) が 指 摘 している「他者と の関係について伝達するためのツール」 としての 同 化 行 動 , す な わ ち 対 他 的 観 点 か ら 見 た 同 化 行 動 と い う ,同 化 行 動 の 2つの機能を測定していると考えられる。 40 こ れ ま で の 研 究 で 同 化 行 動 の 対 象 と さ れ た 非 言 語 的 行 動 は ,「 同 化行動」という現象面だけで見れば同一のカテゴリーに入るものと み な さ れ て き て い た 。し か し ,「 同 化 行 動 の 機 能 」か ら 見 た 時 ,本 来 は区別す べ き で あ る対他的機能 と対自的機能 という2つの 機能に対 して,すべての非言語的行動がどちらかの機能しか有しないと考え てきた。しかし,同化行動の機能をまず対自的機能と対他的機能と いう観点から分類すれば,両者の立場を矛盾なく説明する事が可能 になる。しかし,ここで一つ重要な問題が存在する。 本研究で見出された同化行動の 各因子を,対他的機能に関 するも の と 対 自 的 機 能 に 関 す る も の と 分 類 す る 事 に よ り ,「 感 情 表 出 同 化 」 因子を同化行動の 対自的機能に 関する因子とみなし,さらに「身振 り同化」因子を同化行動の対他的機能に関する因子とみなせる事が 明 ら か に な っ た 。こ の 論 理 が 適 切 で あ る な ら ば ,「 感 情 表 出 同 化 」因 子と感情的共感との間に相関が見られた事は論理的に妥当であると 考える事が出来る。しかし,同化行動の「身振り同化」因子と感情 的共感との間の相関が「感情表出同化」因子よりも弱い事について は ,「 身 振 り 同 化 」因 子 を 同 化 行 動 の 対 他 的 機 能 に 関 す る 因 子 と 考 え る事だけでは説明がつかない。 こ の 点 に つ い て Bavelas et al. ( 1988) は 対 他 的 機 能 と し て の 同 化 行動は,感情的共感と関連しないとしている。よって,彼らの論理 に従えば,対他的機能としての同化行動は感情的共感とは関連がな い の で ,「 身 振 り 同 化 」因 子 が 感 情 的 共 感 と 関 連 が な い ,も し く は 関 連が弱い,という 結果は妥当であると思われる。また,彼 らの他に も 福 原 ( 1995) が ミ ラ ー リ ン グ と い う 対 他 的 機 能 を 持 つ 同 化 行 動 と 共感との関連を検討している。 福 原 ( 1995) は 共 感 尺 度 に よ っ て 事 前 ス ク リ ー ニ ン グ さ れ た 被 験 者 を 心 理 援 助 者 役 と し ,VTR に よ っ て 映 し 出 さ れ た ク ラ イ エ ン ト 役 の姿勢に対してミラーリングを行なう群と行なわない群に振り分け, クライエント役に対する共感の程度を回答させた。その結果,共感 特性が低い被験者にはミラーリングの効果が認められ,ミラーリン 41 グを行なう事により,クライエント役の人物 への共感が高 くなって いた。しかし,共感特性が高い被験者にはミラーリングの影響は見 られず,さらにミラーリングを 行な わ な く と も高い共感を 示してい た。 これらの研究から,対他的機能に関する同化行動と感情的共感と の関連性は対自的機能に関する同化行動と感情的共感とのそれより は 低 い と 考 え ら れ る 。こ の 事 が ,本 研 究 で 見 出 さ れ た「 身 振 り 同 化 」 因子が「感情表出同化」因子に比べて感情的共感との相関係数が絶 対値で見た時に低かった理由であろう。 42 第4章 1 生理的側面か ら み た感情的共感 と 同化行動 本章の目的 小 西 ・八 木( 1 9 9 4 )に よ る と ,表 面 電 極 を 使 用 し た e l e c t r o m y o g r a m ( EMG: 筋 電 位 ) に よ る 研 究 は 20 世 紀 の 前 半 に 始 め ら れ ( J a c o b s o n , 1 9 3 0 ) , f a c i a l e l e c t r o m y o g r a m( F E M G :表 情 筋 電 位 ) と 感 情 と の 研 究 は 20 年 ほ ど 前 か ら 行 わ れ る よ う に な っ た と さ れ て い る ( T a s s i n a r y & C a c i o p p o , 1 9 9 2 )。 F E M G の 研 究 は ま ず , 臨 床 分 野 か ら 始 め ら れ た 。 Sumitsuji, Matumoto, Tanaka, Kashiwagi, & Kaneko ( 1965) は 針 電 極 に よ り 1 0 個 所 の FEMG を 測 定 し ,被 験 者 が 作 っ た 表 情 が ど の よ う な も の で あ る か , FEMG か ら 判 断 出 来 る 事 を 示 し た 。 ま た 表 情 表 出 時 の F E M G が S c h l o s b e r g( 1 9 5 4 ) の 感 情 ( 表 情 ) の 3 次 元 に 対 応 し て い る 事 も 見 出 し て い る ( 角 辻 , 1 9 6 7 )。 表 面 電 極 を 使 用 し た F E M G の 測 定 に 関 す る 研 究 と し て ,う つ と 非 う つ 傾 向 の 被 験 者 に ,様 々 な 場 面 を 想 像 さ せ た 時 の FEMG の 変 化 に つ い て 報 告 し た も の が あ る ( Schwartz, Fair, Salt, Mandel & Klerman, 1 9 7 6 a , 1 9 7 6 b )。 S c h w a r t z e t a l . ( 1 9 7 6 a , 1 9 7 6 b ) は 日 常 生 活 の 場 面 を 想像させた時に,うつ状態の被験者において皺眉筋が高い活動を示 す事, ま た幸福に つ い て の想像 をする 時には大頬骨筋 があまり変化 し な い 事 を 明 ら か に し た 。さ ら に う つ 傾 向 が 弱 ま る 経 過 は FEMG に 反 映 さ れ る 事 ( Schwartz, Fair, Mandel, Salt, Mirske & Klerman,1978) や ,男 性 よ り 女 性 の 方 が FEMG の 変 化 は 大 き い 事 ( Schwartz, Brown, & A h e r n , 1 9 8 0) が 明 ら か に さ れ て い る 。 D i m b e r g( 1 9 9 0 )は 自 身 の 一 連 の 研 究 を ま と め ,F E M G は 感 情 研 究 に 有 効 な 指 標 で あ る と 述 べ て い る 。 Dimberg は FEMG の 変 化 は 感 情 脚 注 : 本 章 は 「 F a c i a l m i m i c r y( 表 情 の 無 意 図 的 模 倣 ) に 関 す る 研 究 ( 岸 , 2 0 0 0)」 お よ び 「 感 情 的 共 感 特 性 と 同 化 行 動 の 関 連 に つ い て ( 岸 ・ 高 瀬 ・ 春 木 , 2 0 0 3 )」 を 再 分 析 し た 上 で 加 筆 ・ 修 正 し た も のである。 43 喚 起 刺 激 ( 表 情 顔 写 真 ) に 対 し て 自 発 的 に 現 れ ( D i m b e r g , 1 9 8 2 ), 男 性 よ り 女 性 に 一 層 反 応 が 生 じ や す い( D i m b e r g & L u n d q u i s t , 1 9 9 0 )と している。また彼は表情顔写真に対して条件づけの学習が起こり ( D i m b e r g , 1 9 8 6 ),呈 示 さ れ た 表 情 に 対 応 し た 表 情 筋 反 応 が 生 じ る と している。 社 会 心 理 学 の 分 野 で は 生 理 指 標 に よ っ て positive- negative の 感 情 状態を区別する事は不可能と考えられていた。しかし,過去の研究 で は FEMG を 指 標 と す る 事 に よ り ,感 情 の 方 向 性 を 測 定 出 来 る 事 が 示 さ れ て い る ( C a c i o p p o , P e t t y , L o s c h , & K i m , 1 9 8 6 )。 彼 ら は , 被 験 者 に ス ラ イ ド を 見 せ ,そ の 好 感 度 ( 嫌 い − 好 き ),覚 醒 度( リ ラ ッ ク ス した−覚醒した)を評定させた。その後,被験者の評定値とスライ ド を 見 て い る 時 の FEMG と の 関 係 を 調 べ た 。 そ の 結 果 , 大 頬 骨 筋 の E M G 積 分 値 は p o s i t i v e な 感 情 と 正 の 相 関 が あ り ,皺 眉 筋 の 積 分 値 は negative な 感 情 と 正 の 相 関 が あ る 事 が 見 出 さ れ た 。 ま た , イ ン タ ビ ュ ー 中 の FEMG の 波 形 に は ,感 情 状 態 に 特 有 の 波 形 パ タ ー ン が 示 さ れ て い た 。( C a c i o p p o , M a r t z k e , P e t t y , & T a s s i n a r y , 1 9 8 8 )。 と こ ろ で , FEMG に よ っ て 表 情 筋 に お け る 同 化 行 動 の 存 在 は 確 か め ら れ て い る も の の,それらと 共感との関連 についてはいまだ検討 がなされていない 。そこで本章では同化行動 と共感との関連を FEMG か ら 検 討 を 試 み た 。 2 研 究 Ⅱ : 状 態 としての感 情 的 共 感と 同 化 行 動 について 目的 研究Ⅱでは感情的共感の有無による同化行動の違いについて検 討した。具体的には,表情の同化行動を従属変数として,被験者の 状態としての感情的共感の有無が,表情の同化行動の出現にどのよ うな影響を与えるのかについて検討した。 方法 被 験 者 : 男 子 大 学 生 5 名 ( 平 均 年 齢 22.0 才 ) を 本 研 究 の 被 験 者 と 44 した。 呈 示 刺 激 : 男 性 の 演 劇 経 験 者 に 「友 達 の 前 で 話 し を し て い る 」と い う 設 定 で , 「悲 し み 」 ( 以 下 frown 表 情 と 記 述 ) と 「喜 び 」 ( 以 下 smile 表 情 と 記 述 ) に つ い て 表 現 さ せ た VTR ( 各 5min) を 用 い た 。 な お , 実 験 に 先 立 ち ,4 名 の 大 学 院 生 に V T R を 呈 示 し ,V T R 中 の 人 物 が ど のような感情を表現しているかについて回答させたところ,どちら の VTR と も 実 験 者 が 意 図 す る 感 情 を 表 現 し て い る と の 回 答 を 得 た 。 実 験 装 置 : FEMG を 測 定 す る た め に , 三 栄 測 器 株 式 会 社 製 の ポ リ グ ラ フ ( 301 シ ス テ ム ) を 用 い た 。 ま た 電 極 は 直 径 2mm の 双 極 性 銀 − 塩化銀電極を用いた。 実験手続 き :まず被験者を 電気的に 遮断 された実験室 に入 室さ せ, 刺激を呈示するディスプレイの前に座らせた。被験者とディスプレ イ の 間 の 距 離 は 8 0 c m で あ っ た ( F i g . 4 参 照 )。 電 極 は 被 験 者 の 左 顔 面 に 装 着 し た 。な お ,電 極 は 笑 う 時 に 活 動 が 認 め ら れ る 大 頬 骨 筋 と , 顔をしかめたり悲しい表情をしたりする時に活動が認められる皺眉 筋 の 2 個 所 に 装 着 し た ( F i g . 5 参 照 )。 同 一 筋 を 測 定 す る 電 極 間 の 距 離 は 10mm と し た 。 大 頬 骨 筋 , 皺 眉 筋 と も に 感 度 0.1mV , 時 定 数 0.03sec, 高 域 周 波 数 1000Hz で 測 定 し た 。 電 極 装 着 後 , 安 静 期 を と り ,そ の 後 ,特 に 何 も 考 え ず に VTR を 見 る( 単 純 視 条 件 ) よ う 教 示 し た 。 そ し て V T R( f r o w n o r s m i l e ) を 呈 示 し , 呈 示 中 の F E M G を 記 録 し た 。V T R 呈 示 後 ,同 様 の 手 続 き で ,V T R の み を 変 え て( s m i l e o r f r o w n) 呈 示 し , 呈 示 中 の F E M G を 記 録 し た 。 単 純 視 条 件 終 了 後 , VTR の 内 容 ・手 続 き は 単 純 視 条 件 と 同 様 で あ る が ,VTR が 呈 示 さ れ た 時 に「 V T R 中 の 人 物 の 気 持 ち を 自 分 も 感 じ る よ う に し な が ら V T R を 見 る 」( 感 情 的 共 感 条 件 ) よ う に 教 示 し , 実 験 を 行 っ た 。 結 果 処 理 :本 実 験 に よ っ て 得 ら れ た デ ー タ は 以 下 の 手 順 に よ っ て 分 析した。 「悲 し み 」と 「喜 び 」の VTR そ れ ぞ れ に 対 し て , frown 表 情 ・ smile 表 情 の 呈 示 が 呈 示 さ れ て い る 個 所 ( 実 験 条 件 : 「悲 し み VTR ス タ ー ト 2 1 0 s e c か ら 2 2 0 s e c の 個 所 ,「 喜 び 」 の V T R で は V T R ス タ ー ト 45 100sec か ら 120sec) と frown 表 情 ・ smile 表 情 が 呈 示 さ れ て い な い 個 所 ( 統 制 条 件 : 「 悲 し み 」の VTR で は V T R ス タ ー ト 200sec か ら 2 1 0 s e c ,「 喜 び 」 の V T R で は V T R ス タ ー ト 2 8 0 s e c か ら 3 0 0 s e c ) を 決 め た 。 得 ら れ た 表 情 筋 電 位 に 対 し て 下 限 1 0 H z, 上 限 1 0 0 0 H z で フ ィ ル タ リ ン グ を 行 な っ た 。次 に 刺 激 呈 示 中 の 筋 電 位 の み を 取 り 出 し , そ の 後 全 波 整 流 を か け た 後 に 時 間 積 分 ( 20msec) を 行 な い , 得 ら れ た 数 値 を 積 分 の 際 の 単 位 時 間( msec 単 位 )で 除 し た 。こ の よ う に し て 筋 電 位 を 算 出 し た 後 ,f r o w n 条 件 お よ び s m i l e 条 件 時 の 筋 電 位 を 各 表情が呈示されていない時の筋電位で除した値を各表情呈示時の筋 電位の指標とした。 46 アコーディオンカーテン ポリグラフ 補助 Exp. Subject TV DAT 8mm Fig.4 実 験 室 概 況 図 47 記録器 皺眉筋 大頬骨筋 F i g . 5 FE M G の 測 定 部 位 48 結果 1 皺眉筋の活動電位について frown 表 情 呈 示 時 の 皺 眉 筋 の 活 動 電 位 に つ い て 分 析 し た 。 そ の 結 果 を Fig.6 に 示 す 。 分 析 の 結 果 , 条 件 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た ( F ( 2 , 1 2 ) = 6 . 5 2 9 , P < . 0 5)。 F i s h e r の P L S D に よ る 多 重 比 較 を 行 っ た と こ ろ , 共 感 条 件 (「 V T R 中 の 人 物 の 感 情 を 自 分 も 感 じ る よ う に し な が ら 見 る 」)と 単 純 視 条 件(「 た だ 映 像 中 の 人 物 を 見 る 」)お よ び ベ ー スラインとの間に有意差が認められ,共感条件時の皺眉筋活動電位 は単純視条件お よ びベ ー ス ラ イ ンよりも高か っ た 。 次 に ,s m i l e 表 情 示 時 の 皺 眉 筋 の 活 動 電 位 に つ い て 分 析 し た 。そ の 結 果 を Fig.7 に 示 す 。 分 析 の 結 果 , 条 件 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た ( F ( 2 , 1 2 )= 1 8 . 6 9 0 , P < . 0 1 )。F i s h e r の P L S D に よ る 多 重 比 較 を 行 っ た と ころ,各条件間全 ての間で有意差が認められ ,共感条件がもっとも 活動電位が低く,次いで単純視条件,ベースラインの順に高くなっ ていた。 49 活動電位(ベースライン比) 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 感情的共感 単純視 Fig.6 frown表情呈示による皺眉筋の活動電位 50 活動電位(ベースライン比) 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 感情的共感 単純視 Fig.7smile表情呈示時における皺眉筋の活動電位 51 2 大頬骨筋の活動電位について frown 表 情 呈 示 時 の 大 頬 骨 筋 の 活 動 電 位 に つ い て 分 析 し た 。 そ の 結 果 を Fig.8 に 示 す 。 分 析 の 結 果 , 条 件 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た ( F ( 2 , 1 2 )= 1 3 . 3 6 7 , P < . 0 1 )。F i s h e r の P L S D に よ る 多 重 比 較 を 行 っ た と ころ,共感条件と単純視条件およびベースラインとの間に有意差が 認められ,共感条件時の大頬骨筋の活動電位 が単純視条件 およびベ ースラインに比べて低くなっていた。 次 に ,s m i l e 表 情 呈 示 時 の 大 頬 骨 筋 の 活 動 電 位 に つ い て 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 を Fig.9 に 示 す 。 分 析 の 結 果 , 条 件 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た ( F( 2 , 1 2 ) = 7 . 3 4 6 , P < . 0 1 )。 F i s h e r の P L S D に よ る 多 重 比 較 を 行ったところ,共感条件と単純視条件およびベースラインとの間に 有意差が認められ,共感条件時の大頬骨筋の活動電位が単純視条件 およびベ ー ス ラ イ ンに比べて高 くなっていた 。 52 活動電位(ベースライン比) 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 感情的共感 単純視 Fig.8 frown表情呈示時における大頬骨筋の活動電位 53 活動電位(ベースライン比) 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 感情的共感 単純視 Fig.9 smile表情呈示時における大頬骨筋の活動電位 54 考察 本研究の目的は 感情的共感の 有無と同化行動の生起との 関連につ いて,検討する事であった。 実験の結果,以下の結果が得られた。 ま ず , 皺 眉 筋 の 活 動 電 位 に 関 し て 述 べ る 。 frown 表 情 呈 示 に 対 し て,感 情 的 共 感 条 件ではベースラインに比べ て有意に活動電位が増 加した。しかし, 単純視条件で はベ ー ス ラ イ ンとの違いは 見られな か っ た 。 Smile 表 情 呈 示 に 対 し て , 感 情 的 共 感 条 件 で は ベ ー ス ラ イ ンに比べて活動電位が減少した 。また,単純視条件においてもベー スラインに比べて活動電位の減少が見られた。そして共感条件にお ける活動電位の減少は,単純視条件のそれを上回るものであった。 次 に , 大 頬 骨 筋 に 関 し て 述 べ る 。 frown 表 情 呈 示 に 対 し て , 感 情 的条件ではベースラインに比べて活動電位が減少した。しかし,単 純 視 条 件 で は ベ ー ス ラ イ ン と の 違 い は 見 ら れ な か っ た 。 Smile 表 情 呈示に対して,感情的共感条件ではベースラインに比べて活動電位 が増加した。し か し,単純視条件ではベースラインとの違 いは見ら れなかった。 このように,本研究の結果は「感情的共感が喚起されている時に は呈示された表情 に対応する表情筋の活動電位が変化する 」という ものであった。これは感情的共感と同化行動 の関連を示す 結果であ った。この事からこれまで理論的研究によってのみ主張されてきた 感 情 的 共 感 と 同 化 行 動 と の 関 連 を ,本 研 究 で は FEMG と い う 客 観 的 データによって示す事が出来たと考えられる。 本研究は感情的共感と同化行動との関連について支持す る結果と なったが,一方でこれまでの研 究と異なる結 果も見出された。それ は感情的共感を喚起しない単純視条件では,同化行動が見られなか った,という点である。 FEMG の 測 定 に よ る 表 情 の 同 化 行 動 に 関 す る 研 究 ( Dimberg, 1982:Lundqvist, 1995) は 呈 示 さ れ た 他 者 に 対 す る 興 味 や 関 心 が な く て も 同 化 行 動 が 生 じ る 事 を 明 ら か に し て い る 。 ま た , Berger & 55 H a d l e y( 1 9 7 5 ) は 腕 相 撲 コ ン テ ス ト の 映 像 を 見 た 時 に は 被 験 者 の 腕 の筋活動が増加し,他者がどもっている時の映像を見た時には唇の 筋活動が上昇した事を明らかにしている。このように,これまでの 筋 の 活 動 電 位 を 同 化 行 動 の 指 標 と し た 研 究 で は ,「 た だ 見 る 」だ け で 類似の筋の活動電位が上昇する 事を明らかにしている。こ の知見が 本研究においても適用されるならば,感情的共感を喚起しない単純 視 条 件 に お い て も ,同 化 行 動 が 確 認 さ れ な け れ ば な ら な い 。し か し , 本 研 究 で は smile 表 情 呈 示 に 対 し て は 先 行 研 究 と 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た が , frown 表 情 呈 示 に 対 し て は 先 行 研 究 と 異 な る 結 果 が 得 ら れ た。ゆえに,この 点に関しては 先行研究との 齟齬が見られる。 本 研 究 で frown 表 情 呈 示 に 対 し て 単 純 視 条 件 で は 表 情 筋 の 同 化 が 見られなかった理由として,ディスプレイルールが働いた可能性を 挙げることが出来る。 ディスプレイルールとは適切な感情表出についての社会的因習で あり,ある場面でどのような感 情を感じているかを示すべき,ある いは示すべきではない,といったことについての規則である。通常 我々は,他者からプレゼントをもらった場合,そのプレゼントが気 に入らないものであっても「嬉しい」気持ちを表す。また,不快な 出来事があっても露骨に不快感を示したりはしない。このような傾 向は欧米人よりも日本人に顕著であると考えられている。特に日本 人は否定的感情を 表出することを避ける傾向 にあるが,それは「否 定的な感情表出は 極力避けるべきである」という日本人特有のディ ス プ レ イ ル ー ル に よ る も の で あ る と 考 え ら れ る 。 本 研 究 で frown 呈 示に対する表情筋の同化が見られなかったのはこのディスプレイル ールが働いたためと考えることが出来る。 同化行動に関するこれまでの研究は主に海外で行われたものであ り,日本人を対象としているものは乳幼児の同化行動を研究したも の以外ではあまり 見られない。 本研究の結果 は,西洋文化圏に所属 する人間と日本人とでは,少なくとも成人においては同化行動の生 起が異なる可能性がある事を示唆するものと考えられる。 56 3 研 究 Ⅲ : 特 性 としての感 情 的 共 感と 同 化 行 動 について 目的 本研究では同化行動と共感性の関連を検討するために実験を行な った。具体的には,表情の同化行動を対象として,被験者のパーソ ナリティ特性としての感情的共感の高さと表 情の同化行動 の生起と がどのように関連 し て い る の か を検討した。 その際,被 験 者の共感 特 性 を 測 定 す る 尺 度 と し て M e h r a b i a n & E p s t e i n( 1 9 7 2 )の E m o t i o n a l E m p a t h y S c a l e ( EES ) を も と に し て 作 成 さ れ た 情 動 的 共 感 性 尺 度 日 本 語 版 ( 加 藤 ・ 高 木 , 1980) を 用 い た 。 ま た , 同 時 に ア レ キ シ シ ミ ア 傾 向 を 測 定 す る 尺 度 と し て G A R E X( 後 藤 ・ 小 玉 ・ 佐 々 木 , 1 9 9 9 ) を , そ し て 不 安 を 測 定 す る 尺 度 と し て STAI を 用 い た 。 こ れ は , ア レキシシミア傾向が高い者は表情筋電位反応が低い可能性が示唆さ れる事と,不安が高い者は緊張が強く,刺激呈示による筋の活動電 位の変化が捉えにくい事が考えられたからである。 方法 被 験 者 : ま ず 実 験 に 先 立 ち , 首 都 圏 の 大 学 に 通 う 大 学 生 250 名 ( 男 性 149 名 , 女 性 99 名 , 不 明 2 名 , 平 均 年 齢 20.90 歳 SD1.567) に 対 し て 加 藤・高 木( 1 9 8 0 )の 情 動 的 共 感 性 尺 度 ,後 藤( 1 9 9 9 )の G A R E X, S T A I 日 本 語 版 T 尺 度 の 3 尺 度 を 施 行 し ,共 感 性 が 高 い ,も し く は 低 い者(情動的共感性尺度の下位尺度である「感情的暖かさ」および 「感情的被影響性 」得点がともに第 1 四分位数未満あるいは第 3 四 分 位 数 以 上 )の 中 か ら ア レ キ シ シ ミ ア 傾 向 お よ び 不 安 が 高 く な い( ア レ キ シ シ ミ ア 傾 向 に つ い て は 下 位 尺 度 で あ る「 体 感 ・ 感 情 の 認 識 言 語 化 不 全 」得 点 が 平 均 + 1 S D 未 満 で あ り ,不 安 に つ い て は STAI の T 得 点 が 平 均 + 1 S D 未 満 ) 者 8 名 ( 男 性 4 名 , 女 性 4 名 , 平 均 年 齢 20.22 歳 , S D 1 . 2 0 ,) 本 実 験 の 被 験 者 と し た 。 呈 示 刺 激 : 男 女 各 2 名 の 大 学 院 生 に 「 に っ こ り と 笑 う 」「 眉 を し か める」という教示の下に複数回表情の作成を行なわせ,それを 8 ㎜ 57 デオテープに録画した。そして,その中から本実験の刺激としても っ と も ふ さ わ し い と思われる表 情の映像を取 り出し,表情 の呈示時 間 4sec, イ ン タ ー バ ル 20sec 前 後 ( 全 て の イ ン タ ー バ ル の 時 間 は 変 え て い た ),各 表 情( s m i l e ,f r o w n )の 呈 示 回 数 は 2 回 ず つ で あ っ た 。 よ っ て ,被 験 者 に 呈 示 さ れ た 表 情 刺 激 の 総 呈 示 試 行 数 は 性 別( 男 女 ) ×表 情 ( smile, frown) ×2 で , 8 試 行 で あ っ た 。 なお,実験に先立ち,感情に関する研究を行っている複数の院生 に作成した刺激を 呈示し,実験者が作成しようとした表情 になって いるかについて判 断させた。そ の結果,実験者が意図する 表情であ ると判断された。 手続き:以下の手順で実験は行われた。 ま ず ,被 験 者 の 左 顔 面 の 皺 眉 筋 お よ び 大 頬 骨 筋 に 内 径 2 m m の 銀 塩 化銀電極を装着した。その際,アース電極として前額部に電極を装 着 し た 。 装 着 の 際 に は Fridlund & Cacioppo( 1986) に し た が い , 電 極 の 中 心 間 の 距 離 が 10mm に な る よ う に 電 極 を 装 着 し た 。 電 極 を 装 着後,被験者を電気的にシールドされた実 験 室に入室させ ,用意さ れている椅子に着席するように教示した。安静期を取り,安静期終 了後教示を与えた。 教示 「 こ れ か ら 実 験 を 始 め ま す 。ま ず ,正 面 の ス ク リ ー ン を 見 て 下 さ い 。 今は画面が青くなっていますが,実験が始まると,最初は暗くなり ます。そしてしばらくしてから人の表情を映した映像が何回か出て き ま す の で , そ れ を よ く 見 て い る よ う に し て く だ さ い 。」 教示を与えた後 ,実験を開始 した。刺激呈示は実験室外 に設置し て あ る ノ ー ト PC( 東 芝 製 Dynabook ss3300) を 実 験 室 内 の プ ロ ジ ェ ク タ ー ( Epson 製 ELP7700) に 接 続 し , 実 験 室 外 部 か ら の 操 作 に よ り 実 験 室 内 の ス ク リ ー ン ( 1 m 四 方 ) に 投 射 し た ( F i g . 4 - 6 参 照 )。 な お , 刺 激 呈 示 に は Uleadsytems 社 製 の 「 Media Studio Pro 6.0」 を 用いた。また,刺激呈示の順序 は被験者ご と に異なっていた。そし て実験中の被験者 の表情筋(皺 眉筋,大頬骨筋)の筋電位 を測定し 58 た 。筋 電 位 の 測 定 は 両 部 位 と も に 感 度 0.1mV,時 定 数 0.03sec,高 域 周 波 数 1000Hz で あ っ た 。 刺 激 呈 示 終 了 後 , 再 び 安 静 期 ( 2min) を 取り,安 静 期 終 了 後に,実験を 終了した。 結果の分析:本実験によって得られたデータは以下の手順によって 分 析 し た 。 ま ず , 得 ら れ た 表 情 筋 電 位 に 対 し て 下 限 10Hz, 上 限 1 0 0 0 H z で フ ィ ル タ リ ン グ を 行 な っ た 。そ し て 次 に 刺 激 呈 示 中 の 筋 電 位 の み ( 呈 示 時 間 4 s e c) を 取 り 出 し た 後 に 全 波 整 流 を か け , そ の 後 時 間 積 分 ( 20msec) を 行 な い , 得 ら れ た 数 値 を 積 分 の 際 の 単 位 時 間 ( msec 単 位 )で 除 し た 。そ し て そ こ で 得 ら れ た 値 を 各 被 験 者 の 表 情 筋電位の値とした。なお,これらの作業はキッセイコムテック社製 多 用 途 生 体 情 報 解 析 プ ロ グ ラ ム BimutasⅡ を 用 い た 。 こ の よ う に し て筋電位を算出した後,刺激呈示時の筋電位の値を安静時(ベース ライン)の平均筋電位の値で除し,その値を各表情呈示時の筋電位 の指標とした。 59 スクリーン ポリグラフ DATレコーダー Sub. プロジェクター ノートPC Fig.10 実 験 概 況 図 60 レクチコーダー テーブル 結果 1 frown 表 情 呈 示 時 に お け る 表 情 筋 の 活 動 電 位 被 験 者 の 感 情 的 共 感 の 違 い が , frown 表 情 呈 示 時 の 表 情 筋 の 活 動 電 位 変 化 に 与 え る 影 響 を 検 討 す る た め ,表 情 筋( 大 頬 骨 筋 ・ 皺 眉 筋 ) および被験者の共感性を独立変数とした分散分析を行った 。その結 果 , 表 情 筋 に よ る 主 効 果 が 認 め ら れ た ( F ( 1 , 1 2 ) = 3 2 . 3 4 8 , P < . 0 1 )。 大頬骨筋の活動電位はベースラインより若干減少したのに 対し,皺 眉筋の活動電位は増加した。また,交互作用についても有意差が認 め ら れ ( F ( 1 , 1 2 ) = 6 . 2 9 0 , P < . 0 5 ), 感 情 的 共 感 特 性 が 高 い 被 験 者 は 低い被験者に比べて,大頬骨筋の活動電位がより減少し,かつ,皺 眉 筋 の 活 動 電 位 が 増 加 し た ( F i g . 1 1 )。 2 smi l e 表 情 呈 示 時 に お け る 表 情 筋 の 活 動 電 位 被 験 者 の 感 情 的 共 感 の 違 い が smile 表 情 呈 示 時 に お け る 表 情 筋 の 活動電位変化に与える影響を検討するため,表情筋(大頬骨筋・皺 眉筋)および被験者の共感性を 独立変数とした分散分析を 行った。 そ の 結 果 , 表 情 筋 に よ る 主 効 果 が 認 め ら れ た ( F ( 1,12 ) =26.598, P < . 0 1 )。 皺 眉 筋 の 活 動 電 位 が ベ ー ス ラ イ ン よ り 減 少 し た の に 対 し , 大頬骨筋の活 動 電 位は増加した 。また,交互作用についても有意差 が 認 め ら れ ( F( 1 . 1 2) = 2 0 . 1 5 6 , P < . 0 1 ), 感 情 的 共 感 特 性 が 高 い 被 験 者は低い被験者に 比べて,皺眉筋の活動電位 がより減少し ,かつ, 大 頬 骨 筋 の 活 動 電 位 が 増 加 し た ( F i g . 1 2 )。 61 活動電位( ベースライン比) 1.4 1.2 1 高共感群 低共感群 0.8 0.6 0.4 0.2 0 大頬骨筋 皺眉筋 Fig.11 frown表情呈示時の表情筋の活動電位の変化 62 1.4 活動電位(ベースライン比) 1.2 1 0.8 高共感群 低共感群 0.6 0.4 0.2 0 大頬骨筋 皺眉筋 Fig.12 smile表情呈示時の表情筋の活動電位の変化 63 考察 本研究の目的はこれまで理 論 的には支持されてきたものの,実証 的検討が不足していた感情的共感と同化行動 の関連をデ ー タに基づ い て 検 証 す る 事 で あ っ た 。具 体 的 に は 表 情 の 同 化 行 動 を 対 象 と し て , 被験者のパーソナリティ特性としての感情的共感の高さと,表情の 同化行動の生起がどのように関連しているのかを検討する事であっ た。本研究の結果を以下に示す。 ま ず , frown 表 情 の 呈 示 に 対 し て は , 大 頬 骨 筋 よ り も 皺 眉 筋 の 活 動 電 位 が 高 い と い う 結 果 が 得 ら れ た 。そ し て 交 互 作 用 が 認 め ら れ た 。 大頬骨筋に関しては,感情的共感特性の高い 被験者は,感情的共感 特性が低い被験者に比べて,活動電位の減少が大きくなっていた。 皺眉筋に関しては,感情的共感特性が高い被験者は,感情的共感特 性が低い被験者に 比べて活 動 電 位の増加が大 き く な っ て い た。つま り,感 情 的 共 感 特 性が高い被 験 者は呈示さ れ た表情に対応 した表情 筋の活動電位に変化が見られる,という結果であった。 次 に smile 表 情 の 呈 示 に 対 し て は , 皺 眉 筋 よ り も 大 頬 骨 筋 の 活 動 電 位 が 高 い ,と い う 結 果 が 得 ら れ た 。そ し て 交 互 作 用 が 認 め ら れ た 。 大頬骨筋において ,感情的共感特性の低い被験者の活動電位は,ベ ースライン時のそれと変化がなかったのに対し,感情的共感特性の 高い被験者は活動電位が増加した。皺眉筋において,感情的共感特 性が高い被験者は,感情的共感特性が低い被験者に比べて,ベース ラインからの活動電位の減少が大きくなっていた。つまり,感情的 共感特性の高い被験者は,呈示 された表情に 対応した表情筋の活動 電位に変化が見られる,という結果であった。 パーソナリティ特性としての感情的共感特性が高い被験者は,他 者に対して感情的共感を抱きやすいと考えられる。一方,パーソナ リティ特性としての感情的共感特性が低い被験者は他者に 対して感 情的共感を抱きにくいと考えられる。感情的共感が同化行動と関連 するものであるのなら,感情的共感特性が高い被験者は呈示された 他者の非 言 語 的 行 動に対して同化行動を示す と考えられる 。このこ 64 とから,本研究の結果はパーソナリティ特性としての感情的共感と 同化行動との関連 を示すものであると言えよう。 4 全体考察 本 章 で は 同 化 行 動 の 実 証 的 研 究 で 用 い ら れ る 事 の 多 い FEMG を 同 化行動の指標と し て,状態としての感情的共感およびパ ー ソナリテ ィ特性としての感情的共感と同化行動との関連について検討した。 実験の結果,状態 および特性のどちらにおいても感情的共感と同 化行動との関連が見出された。この事から,生理的側面においても 感情的共感と同化行動との関連 が見出されたと言える。こ の結果は 感情的共感と同化行動との関連を理論的に指摘していた研究の妥当 性を裏付けるものであると言えよう。 D i m b e r g( 1 9 8 6 )や D i m b e r g & L u n d q v i s t( 1 9 9 0 ), L u n d q v i s t( 1 9 9 5 ) は呈示された表情に対する同化が見られる事の他に,呈示された表 情に示される感情を被験者も感じている事を見出している。この事 を感情的共感との関連で議論すれば,類似の感情が生じている状態 はいわば感情的共感が生じ て い る状態であり ,感情的共感特性が高 い 人 は ,そ の よ う な 他 者 と 類 似 の 感 情 を 抱 く 事 が 多 い と 考 え ら れ る 。 そのように考え れ ば,本研究の 結果は感情的共感と同化行動の関連 を示した妥当な結果であると言えるだろう。 し か し , 本 研 究 の 結 果 は FEMG を 用 い た 同 化 行 動 研 究 ( Dimberg, 1 9 8 2 , 1 9 9 0 ; D i m b e r g & L u n d q v i s t , 1 9 9 0 ; L u n d q v i s t , 19 9 5 ) の 結 果 と は 若 干 異 な っ て い る 。 こ れ ま で の FEMG に よ る 同 化 行 動 研 究 で は ,他 者の表情を見るだけで,それに 対応した表情筋の活動電位 に変化が 認められる,と い う も の で あ っ た。しかし, 本研究の結果 は感情的 共感特性が高いもしくは感情的共感が喚起されている状態では表情 の同化が見られたものの,感情的共感特性が低い者では,表情の同 化が見られず,感情的共感が喚 起さ れ て い な い状態では, 表情の同 化 は s m i l e 表 情 に 対 し て の み 見 ら れ る ,と い う も の で あ っ た 。F E M G を用いた同化行動研究は海外で行われたものがほとんどであり,わ 65 が国においてはまださほど研究が行われていないのが現状である。 表情という非言語的行動の読み取りには文化的差異がない事が示 されている。しかし,表出に関 しては文化差 が見られる。 一般に日 本人よりも西洋人のほうが表情表出は強い傾向にあり,しかもその 表出形式もバラエティーに富んでいる。この 事から考えると,日本 人の場合,あまり表情表出をしないために,単に表情を呈示すると い う 条 件 だ け で は ,同 化 行 動 は あ ま り 生 じ な い 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 また,ディスプレイルールの存在が表情の同化に影響を与えている 事も考えられる。 これらの理由 から,本研究 では感情的共感を喚起 しない状況,もしくは感情的共感特性が低い被験者にとっては,表 情の同化が生じるには不十分な状況であった可能性が考えられる。 66 第 5章 1 行動的側面か ら見 た感情的共感 と 同化行動 本章の目的 本 章 で は ,我 々 が 日 常 生 活 に お い て よ く 経 験 す る c l a p p i n g( 拍 手 ) の同化を同化行動 の指標として 取り上げ,同化行動と共感性の関連 に つ い て検 討す る事 と し た。 わが 国に お い て は 集団場面 での clapping の 一 致 は よ く 経 験 さ れ る 出 来 事 で あ る 。 た と え ば , コ ン サ ー ト や 演 劇 な ど で 見 ら れ る 観 客 の clapping は , 最 初 は 各 々 が 個 々 の リ ズ ム で c l a p p i n g し て い る の が ,や が て あ る リ ズ ム に 収 束 し て い く 。 このような事から 同化行動として取り上げるのに適切な行 動である 事 , ま た clapping の 同 化 現 象 は 無 意 図 的 な も の と 考 え ら れ る が , そ の行動自体は意 図 的な も の で あ り,実験場面 でその速度を 変える事 が容易である事か ら,本研究における同化行動の指標と し て取り上 げた。 そ し て , 被 験 者 の 共 感 性 の 指 標 と し て は 加 藤 ・ 高 木 ( 1980) の 情 動 的 共 感 性 尺 度 日 本 語 版 の 下 位 尺 度 で あ る 「感 情 的 被 影 響 性 」尺 度 を 用いる事とした。 情動的共感性尺度は感情的共感を測定していると 考えられる尺度である。その中でも感情的被影響性尺度は,他者が 抱いている感情によって自分が影響を受け,類似の感情を持つパー ソナリティ傾向を 測定しているものである。 よって,本研究で取り 上げる感情的共有という観点を含んだ,感情的共感の測定に妥当な 尺度であると判断した。 そ こ で ,本 研 究 で は 情 動 的 共 感 性 尺 度 日 本 語 版( 加 藤・高 木 1980) の「感 情 的 被 影 響 性」尺度によってスクリーニングされた 被験者を 対象とし,共感性 が高い被験者同士のカップルおよび低い 被験者同 士 の カ ッ プ ル を 作 成 し , 1 ) clapping と い う 非 言 語 的 行 動 に お い て も同化が認められるか,2)感情的共感性が 高い被験者同士のペア 脚 注 : 本 章 は 「 m o t o r m i m i c r y に 及 ぼ す 共 感 の 効 果 ( 岸 , 2 0 0 2 )」 を 加 筆・修正したものである。 67 と , 感 情 的 共 感 性 が 低 い ペ ア 同 士 と の 間 で clapping 速 度 の 同 化 に つ いて比較した時に,その生起に違いが見られるか,この 2 点につい て検討を行なった。 2 研 究 Ⅳ : 感 情 的 共 感 と clapping の 同 化 と の 関 連 方法 被験者 本 研 究 で は ま ず 首 都 圏 私 立 大 学 の 大 学 生 307 名 ( 男 性 139 名 , 女 性 161 名 , 不 明 7 名 ) に 情 動 的 共 感 尺 度 日 本 語 版 の 下 位 尺 度 である「感情的被影響性」尺度を施行した。回答には講義時間を利 用した。講義終了後,研究の趣 旨を説明し, 回答に同意が 得られた 学生に対して質 問 紙を配布し, 回答させた。 なお,回答用紙の最後 にこの後に行なう予定の実験に被験者として(可能であるならば) 参加してほしい旨の説明文を載せ,実験への参加の可否および,参 加 が 可 能 で あ る 場 合 に は 連 絡 先( 電 話 番 号 も し く は メ ー ル ア ド レ ス ) と氏名を記入する 旨の説明をした。そして, 尺度得点を算 出した後 に,得点が平均より 1 標準偏差以上低い,もしくは平均より 1 標準 偏差以上高い者の中で実験への参加が可能であると回答していた者 に対して,電話もしくはメールにて実験の趣旨を説明し,実験への 参 加 を 依 頼 し , 同 意 を 得 ら れ た 16 名 ( 高 共 感 群 8 名 , 低 共 感 群 8 名)を本実験の被験者とした。この時,コンタクトを取った順番は 実験への参加が可 能で あ る と し た者の中で, 最も得点が低 い,ある いは高い者からであった。 被験者のカップリング 本研究では二者間の同調現象 を研究対象 と し た た め ,1 6 名 の 被 験 者 を 8 組 の ペ ア に 分 け た 。具 体 的 に は 共 感 の 高 い 被 験 者 同 士 の ペ ア ( H- H 群 ) が 4 組 , 共 感 の 低 い 被 験 者 同 士 の ペ ア ( L- L 群 ) が 4 組 で あ っ た 。 実験装置 被 験 者 の clapping 時 の 手 の 動 き を 測 定 す る た め に , モ ノ ク ロ C C D カ メ ラ 2 台 を 用 い た 。そ し て ,映 像 を 保 存 す る た め に 8 m m ビデオデッキを用いた。さらに,撮影された映像の同期を取るため にタ イ ム カ ウ ン タ ーを用いた。 68 手続き まず,2 名の被験者を実験室に入室させ,実験についての 簡潔な説明を行ない,再度実験への同意を口頭にて確認した。再度 同 意 を 得 た 後 に , 被 験 者 の clapping の ベ ー ス ラ イ ン を 測 定 し た 。 被 験 者 が 手 を 叩 い て い る 時 の 手 の 動 き を モ ノ ク ロ CCD カ メ ラ に て 撮 影し,タイムカウンターを経由して8㎜ビデオデッキに録画した。 こ の 時 , 相 手 の clapping を 見 る こ と に よ る 実 験 へ の 影 響 を 考 慮 し , 一方の被験者のベースラインを測定している間は他方の被験者を実 験室から退室させ ,所定の場所 で待機させた 。一方の被験者が待機 す る 場 所 は 実 験 室 か ら 離 れ て お り , 他 方 の 被 験 者 の clapping 音 は 聞 こえない距離に設定した。 ベ ー ス ラ イ ン の 測 定 は 教 示 で「 ゆ っ く り だ と 思 う 速 さ で 手 を 叩 く 」 条 件( S l o w 条 件 )と「 速 い と 思 う 速 さ で 手 を 叩 く 」条 件( F a s t 条 件 ) の 2 種 類 に つ い て 行 っ た 。S l o w 条 件 で は「 私 が 合 図 を し ま し た ら 自 分 が ゆ っ く り だ と 思 う 速 さ で 手 を 叩 い て く だ さ い 」 と 教 示 し , Fast 条件では「私が合 図を し ま し た ら自分が速い と思う速さで 手を叩い て く だ さ い 」 と 教 示 し た 。 測 定 時 間 は 両 条 件 と も に 15 秒 で あ っ た 。 そして,一方の被験者のベースラインが終了した後に,もう一方の 被験者のベースラインを測定した。 2人の被験者のベースライン測定終了後,所定の場所に待機して い た 被 験 者 を 実 験 室 に 入 室 さ せ た 。教 示 に 従 い ,「 両 者 そ れ ぞ れ に お い て ,各 自 が ゆ っ く り だ と 思 う 速 さ で 手 を 叩 く 」条 件( S l o w 条 件 ), 「両者それぞれにおいて各自が速いと思う速さで手を叩く」条件 ( F a s t 条 件 ), で 被 験 者 に c l a p p i n g さ せ , c l a p p i n g 時 の 手 の 動 き を 8 ㎜ ビ デ オ に 撮 影 し た 。 こ の と き , Slow 条 件 で は 「 2 人 と も 最 初 に 測 定した『自分がゆっくりだと感じる』ペースで手を叩くようにして ください。もし手を叩いている途中で自分のペースがわからなくな ったりしてもかまいません。わからないなりで結構で す の で、その ま ま 手 を 叩 き 続 け て く だ さ い 。」 と 教 示 し , F a s t 条 件 で は 「 2 人 と も 最初に測定した『 自分がはやいと感じる』ペースで手を叩 くように してください。そして、手を叩いている間は相手が叩いている手を 69 よく見るようにしてください。相手の手以外の部分を見たり、目を つむったりしないでください。もし手を叩いている途中で自分のペ ースが わ か ら な く な っ た り し て も か ま い ま せ ん。わからないなりで 結 構 で す の で 、 そ の ま ま 手 を 叩 き 続 け て く だ さ い 。」 と 教 示 し た 。 Slow 条 件 と Fast 条 件 の 順 序 効 果 を 相 殺 す る た め に ペ ア ご と に 施 行 順序を変更した。 なお,これらの条件は被験者同士が対面 してお互 い の 手 を 見 な が ら clapping を 行 な う 条 件 ( 対 面 条 件 ) と お 互 い 相 手 に 背 を 向 け て clapping を 行 な う 条 件 ( 非 対 面 条 件 ) の 2 種 類 の 条 件 で行われた。対面条件では前述 した教示に「 手を叩いている間は相 手が叩いている手をよく見るようにしてください。相手の手以外の 部 分 を 見 た り 、目 を つ む っ た り し な い で く だ さ い 。」と い う 教 示 を 加 え,非対面条件では「手を叩いている間は自分の手をよく見るよう にして,ください 。自分の手以外の部分や壁 などを見たり ,眼をつ む っ た り し な い で く だ さ い 。」と い う 教 示 を 与 え た 。対 面 条 件 と 非 対 面条件の順序効果 を相殺するためにペアごとに施行順序を 変更した。 結果の分析:まず,被験者のベースライン,対面条件,背面条件の 各 条 件 に お い て ,撮 影 さ れ た 手 の 動 き の V T R か ら 手 を 閉 じ た 時 点 の タイムコードを記 録し,そのタイムコードか ら各 条 件 時 間 内(各条 件 と も に 3 0 s e c)で 手 を 叩 い た 回 数 お よ び ,1 回 の c l a p p i n g に 要 す る 時間(個人内平均)を算出した。 次に,各ペアにおける各試行間の速度差を 算出した。具体的には ま ず , ペ ア と な っ て い る 被 験 者 の Slow 条 件 お よ び Fast 条 件 の ベ ー ス ラ イ ン で の clapping 速 度 の 差 ( 絶 対 値 ) を 算 出 し た 。 次 に , 速 度 の 条 件 ( Slow 条 件 , Fast 条 件 ) お よ び , clapping 状 況 ( 対 面 , 非 対 面 )の そ れ ぞ れ を 組 み 合 わ せ た 各 試 行( S l o w− 対 面 ,S l o w− 非 対 面 , F a s t − 対 面 ,F a s t− 非 対 面 )に お い て も 同 様 の 手 続 き を 行 な い ,各 試 行 に お け る ペ ア 内 の clapping 速 度 の 差 ( 絶 対 値 ) を 算 出 し た 。 そ し て , 各 試 行 に お け る clapping 速 度 の 差 を ベ ー ス ラ イ ン に お け る そ れ で 除 し た 値 を , 各 試 行 に お け る clapping 速 度 差 に つ い て の 指 標 と し た。以上の手続きを数式に示す。 70 Speed Discrepancy= | Xex. − Yex. | | Xba.− Yba.| Xex. : 被 験 者 X の 実 験 条 件 時 の c l a p p i n g 速 度 Yex. : 被 験 者 Y の 実 験 条 件 時 の c l a p p i n g 速 度 Xba.: 被 験 者 X の ベ ー ス ラ イ ン 時 の clapping 速 度 Y b a . : 被 験 者 Y の ベ ー ス ラ イ ン 時 の c l a p p in g 速 度 こ の 値 が 1 を 超 え て い る 場 合 ,実 験 条 件 で の ペ ア 間 の clapping 速 度差はベ ー ス ラ イ ンよりも大きくなっている 事を意味し, 同化行動 が生起し て い な い と解釈された 。逆にこの値 が 1 よりも小 さければ 実 験 条 件 で の ペ ア 間 の clapping 速 度 差 が ベ ー ス ラ イ ン よ り も 小 さ く なっている事を意味しており,同化行動が生起していると解釈出来 る。 71 CCD カ メ ラ 机 Exp. 机 Sub. Fig.13 実 験 室 概 況 72 8mm デ ッ キ ×2 タイムカウンター Sub. モニター CCD カ メ ラ 結果 1 Fast 条 件 に お け る Clapping 速 度 差 の 変 化 に つ い て ま ず ,Fast 条 件 に お い て clapping の 同 化 が 生 じ て い る か を 検 討 す る た め に , clapping 状 況 ( ベ ー ス ラ イ ン , 対 面 , 非 対 面 ) を 独 立 変 数 と し た 1 要 因 3 水 準 の 分 散 分 析 を 行 な っ た 。分 析 の 結 果 ,c l a p p i n g を 速 く 行 な う 条 件 で は , 条 件 間 で の ペ ア 内 の clapping 速 度 差 に は 違 い が 認 め ら れ な か っ た ( F( 2 , 2 1 ) = 2 . 5 7 , N . S )。 ま た , 交 互 作 用 に つ いても統計的に有意な差は見られなかった。よって,以後の分析は Slow 条 件 の み に つ い て 行 っ た 。 2 S l o w 条 件 に お け る Clapping 速 度 差 の 変 化 に つ い て ま ず ,S l o w 条 件 で c l a p p i n g の 同 化 が 生 じ て い る か を 検 討 す る た め , clapping 状 況 ( ベ ー ス ラ イ ン , 対 面 , 非 対 面 ) を 独 立 変 数 と し た 1 要 因 3 水 準 の 分 散 分 析 を 行 な っ た 。 そ の 結 果 を Fig.14 に 示 し た 。 分 析 の 結 果 , 有 意 差 が 見 ら れ た ( F ( 2 , 2 1 ) = 4 . 9 7 6 , p < . 0 5 )。 多 重 比 較 を 行 な っ た 結 果 ,ベ ー ス ラ イ ン に 比 べ ,対 面 お よ び 非 対 面 で は , ペ ア 内 の clapping 速 度 の 差 が 減 少 し て い た 。 し か し , 対 面 , 非 対 面 に お い て は clapping 速 度 の 差 に 違 い は 見 ら れ な か っ た 。 3 Slow 条 件 に お け る 共 感 性 の 組 み 合 わ せ に よ る 速 度 差 の 変 化 S l o w 条 件 に お い て ,c l a p p i n g の 同 化 が 認 め ら れ た の で ,S l o w 条 件 に おける各ペアの速 度の差について,ペアの共感性(高共感群・低共 感 群 ) お よ び clapping 状 況 ( 対 面 ・ 非 対 面 ) を 独 立 変 数 と し た 2 要 因 の 繰 り 返 し の あ る 分 散 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 を F i g . 1 5 に 示 し た 。 分 析 の 結 果 , clapping 速 度 の 変 化 に , ペ ア の 共 感 性 に よ る 違 い が 認 め ら れ た ( F ( 1 , 1 2 ) = 1 5 . 5 5 , p < . 0 1 )。 両 群 と も に 個 々 に 速 度 を 測 定 したベースライン時に比べ,速度差は小さくなっていたが,低共感 群 に 比 べ , 高 共 感 群 の ペ ア の ほ う が , よ り ペ ア 内 の clapping 速 度 の 差 が 小 さ く な る , と い う 結 果 が 得 ら れ た 。 し か し , clapping 状 況 の 73 要 因 で は 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た ( F( 1 , 1 2 ) = 0 . 4 5 , N . S )。 ま た , 交 互 作 用 も 認 め ら れ な か っ た ( F ( 1 , 1 2 ) = 0 . 0 1 , N . S )。 74 1.2 ベースライン比 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 対面 非対面 Fig.14 Slow条件時のclapping速度差の変化 75 1.4 1.2 対面 ベースライン比 1 非対面 0.8 0.6 0.4 0.2 0 高共感群 低共感群 Fig.15 slow条件時の共感によるclapping速度差への影響 76 考察 1 clapping に お け る 同 化 行 動 に つ い て 実 験 の 結 果 , clapping の 速 度 が 遅 い 条 件 で は ペ ア 内 に 同 化 が 生 じ た 。 し か し , clapping の 速 度 が 速 い 条 件 で は そ の よ う な 結 果 は 得 ら れ な か っ た 。 こ の 結 果 か ら 考 え る と , clapping と い う 非 言 語 的 行 動 においても,同化行動が一部認められたと言える。この事は,これ までの同化行動の研究の結果と一致しているものである。しかし, 先行研究と一部異なる結果も得られた。 本 研 究 の 結 果 を 詳 し く 説 明 す る と , 両 者 が 「遅 い 」と 感 じ る 速 さ で clapping を 行 な っ た 時 に は 同 化 が 生 じ た が , 両 者 が 「 速 い 」 と 感 じ る 速 度 で clapping を 行 な っ た 場 合 に は 行 動 の 同 化 が 生 じ な か っ た 。 この事は以下のように考える事 が出来るだろう。 今 回 同 化 行 動 の 指 標 と し て 取 り 上 げ た clapping の 場 合 , も し , 行 動の同化が認められるならば,それはペアを組んだ被験者相互に言 え る 事 だ が , 相 手 が 行 な う 個 々 の clapping に 対 す る 他 方 の 被 験 者 の 無 意 図 的 同 調 ( 同 化 ) に よ っ て clapping の 同 化 が 生 じ る 。 こ の 時 , 同 化 の 対 象 と な っ て い る 非 言 語 的 行 動 ( 本 研 究 で は clapping) の 生 起頻度が高く,かつ短時間で繰り返される場合では,個々の非言語 的行動に対する同 化は生じにくいと考えられる。 本 研 究 に お い て は ,被 験 者 が 速 い 速 度 で c l a p p i n g を 行 な っ た 時 の , そ の 1 回 あ た り の clapping 速 度 は 0.5sec 未 満 の も の が ほ と ん ど で あ り,このような速さで繰り返される行動に対して,同化が生じる事 は非常に難しいと言える。そのために,同化する側に混乱が生じる 可 能 性 が 示 唆 さ れ る 。そ の 結 果 ,速 い 速 度 で の c l a p p i n g に 対 し て は , 同化が生じなかったのではないかと考えられる。 そ の 一 方 で , ペ ア 内 の 各 被 験 者 が そ れ ぞ れ 各 自 に 「 遅 い 」と 感 じ る 速 度 で clapping を 行 な っ た 時 に は ,両 者 の clapping 速 度 差 が 減 少 し た 。 こ の 事 は , 両 者 の clapping 速 度 が 一 致 す る 方 向 へ と 変 化 し た 事 を 意 味 し , clapping 行 動 の 同 化 が 生 じ た 事 を 示 し て い る と 考 え ら れ る。 77 速 度 の 遅 い clapping の 場 合 , 速 度 の 速 い clapping に 比 べ , 各 clapping 間 の イ ン タ ー バ ル が 大 き く , 相 手 の clapping に 対 し て 十 分 な 注 意 を 向 け や す く な る と 考 え ら れ る 。 ま た , clapping の 同 化 が 生 じ る た め に は , 何 度 か 相 手 の clapping を 見 る ( あ る い は 聞 く ) 事 が 必 要 で あ る 。 な ぜ な ら , 相 手 の clapping を 見 る ( あ る い は 聞 く ) 事 に よ っ て , 無 意 図 的 に 相 手 の clapping の リ ズ ム を 自 己 の そ れ に 取 り 入 れ て い き , そ の 結 果 と し て clapping の 同 化 が 生 じ る と 考 え ら れ る か ら で あ る 。 そ の 時 , 「相 手 が ど の ぐ ら い の 速 度 で clapping を 行 な っ て い る か 」 と い う 事 を 無 意 図 的 に 判 断 す る た め に は ,相 手 が 行 な う clapping に あ る 程 度 の イ ン タ ー バ ル が 必 要 と な る 。 そ の た め に , 速 度 の 遅 い clapping で は 同 化 が 生 じ た の に 対 し , 速 度 の 速 い clapping では同化が生じなかったのだと考えられる。 こ れ ま で の 同 化 行 動に 関 す る 研 究 で は ,そ の 同 化 の 対 象 と な る 行 動のほとんどは表情や姿勢といった,短時間に頻繁に繰り返される こ と が な い 非 言 語 的 行 動 で あ っ た 。 そ し て , clapping の よ う な , 頻 繁に繰り返される非言語的行動は研究対象とされていなかった。今 回 ,c l a p p i n g と い う 短 い 時 間 に 反 復 し て 生 じ る 非 言 語 的 行 動 の 場 合 , その行動が生起す る際の速度によって同化に 違いが見られる事が明 らかにされた。この点は本研究ではじめて検討された点であり,今 後の同化行動の研 究で注意を要 する点であると考えられる 。 2 共感と同化行動の生起について 同 化 行 動 と 共 感 に 関 す る 研 究 で は ,共 感 性 と 同 化 行 動の 生 起 と の 関 連 が 指 摘 さ れ て い る( H o f f m a n , 1 9 8 4 ; H a t f i e l d , C a c i o p p o , & R a p s o n , 1 9 9 4 )。さ ら に 言 え ば ,共 感 性 の 中 で も 感 情 的 共 感 ,あ る い は 原 始 的 共 感 と 呼 ば れ る 共 感 と 同 化 行 動 の 関 連 性 が 指 摘 さ れ て い る ( Lipps, 1 9 2 6 ; T i t c h n e r , 1 9 0 9 )。 本研究の目的の 1 つは被験者の理論的に同化行動との関連が示唆 されている感情的共感性の違いによって,同化行動の生起に違いが 見られるかを検討 する事であった。分析の結 果,被験者の 感情的共 78 感の高さと同化行動の生起に関 連が見られる 事が明らかとなった。 具 体 的 に は ,感 情 的 共 感 性 が 低 い 被 験 者 同 士 の ペ ア で は ,実 験 条 件 で の 両 者 の clapping 速 度 差 が ベ ー ス ラ イ ン 時 に お け る そ れ と 変 化 がなかったのに対し,感情的共感性が高い被験者同士のペアでは, ベースライン時に比べ,対面および非対面条件における両者の clapping 速 度 差 が 減 少 し た 。 こ の 事 は , 感 情 的 共 感 性 が 低 い ペ ア で は clapping の 同 化 は 生 じ な か っ た が , 感 情 的 共 感 性 が 高 い ペ ア で は clapping の 同 化 が 生 じ た 事 を 意 味 し て お り , 感 情 的 共 感 性 の 高 さ と 同化行動の生起との関連を示唆している。この結果はこれまでの研 究を支持する結果であると言える。 最 後 に ,本 研 究 の 被 験 者 数 の 問 題 に つ い て触 れ て お き た い 。本 研 究 の 被 験 者 は 8 組 ( 16 名 ) と い う 少 数 被 験 者 に よ る 実 験 で あ っ た 。 ゆえに,被験者数の人数が結果に何らかの影響を与えるのではない か,という批判を 受けるかもしれない。し か し,そのような批判に 対する反論を最後に述べる事にする。 本 研 究 の 実 験 に 参 加 し た 被 験 者 は 8 組 ( 16 名 ) で あ る が , そ の 8 組 の 被 験 者 を 選 ぶ た め に , 本 研 究 で は 約 300 名 に 対 す る 質 問 紙 調 査 を 行 っ て い る 。こ の 事 は ,約 3 0 0 名 か ら 1 6 名 を 被 験 者 と し て 選 ん だ 事 を 意 味 し て お り ,1 6 名 の 被 験 者 は 感 情 的 共 感 に 関 し て は 比 較 的 両 端 に い る (「 感 情 的 比 影 響 性 」 の 高 共 感 群 平 均 得 点 2 9 . 1 3 , 低 共 感 群 平 均 得 点 1 5 . 1 9 )。 よ っ て , 感 情 的 共 感 の 観 点 か ら 言 え ば 非 常 に 「 理 想的」な被験者であったと考えられる。ゆえに少ないサンプルであ りながらも統計的に有意な差が見られたと考えられる。 ま た ,本 研 究 は 被 験 者 の 感 情 的 共 感 が 重 要 な 鍵 概 念 と な っ て い る 。 このような被験者の共感特性によるスクリーニングを行った場合, 実験を行なうにあたって,1 つの問題点が生じる。それは質問紙に よる共感得点が低い者は実験への被験者としての参加を断る傾向が 高い,という点である。 これは 全く の経験則 であり, データに 基づいた 議論ではないが, 質問紙による共感得点が高い者は,その後の実験に対する協力依頼 79 に対して応じる確 率が高いように思われる。 しかし,共感得点が低 い者は質問紙への回答の時点で,実験者側がその後の実験への依頼 が出来ない(氏名・連絡先を書かない)ようにしている事が(共感 が高い者に比べて)多い。また,実際に実験への協力を依頼した時 に断られる率が高いように思われる。よって,共感得点の高低によ る比較を行なう時に被験者数が極端に違わないようにするためには, 共感が低い被験者数に共感が高 い被験者の数 を合わせる必 要が生じ る。そのような操作をすると,どうしても被験者全体の人数は減少 する。しかし,だからといって,実験への参加を強要する事は倫理 的に問題がある。よって,事前のサンプル規模にもよるが,本研究 におけるスクリーニングのサンプル規模ではさほど多くの被験者は 望めないと考えられる。 80 第 6章 1 総合考察 本 研 究 の 結 果 の 要約 本論文の目的は理論的に指摘されていた感情的共感と同化行動と の関連について,データに基づいた議論から実証的に検討する事で あった。 第1章ではまず同化行動の定義を行った。同化行動を「モデルの 動機・感情や状況 の社会的意味 への配慮のない,社会的な 意識性を 欠く無意図的な行動であり,生後間もない段階から生じ,成人にお いてもその生起が認められる」と定義した。そして従来行われてき た同化行動に関す る研究について,発達領域 ,社会領域, 臨床領域 の3領域から概観した。発達心理学領域での同化行動の関する多く の研究は,非言語的行動の同化が非常に早期の乳幼児に見られる事 を示している事, そして同化行動は乳児が人 間について学 習する際 の,社会的協調や 共感の発達に 関係していると考えられている事を 明らかにした。社会心理学領域での同化行動に関する研究は,主に 成人間での同 化 行 動を研究対象 としており, 深い心理的交流が存在 する二者間(友人や恋人,家族)では両者の非言語的行動に多くの 共通点が見られる事を明らかにしている。これらの研究では同化行 動の対他的機能について論じられている事を明らかにし,発達心理 学領域における同化行動研究とはその方向性を異にする事が明らか にされた。臨床心理学領域での同化行動に関する研究は,発達心理 学領域および社会心理学領域における同化行動研究のそれぞれの方 向性に基づ い た も の と な っ て い る事を明らかにした。つ ま り,同化 行動を共感との関 連で論じている研究と,他 者との関係についての メッセージを伝え る非言語的ツールとして捉 える研究という各々の 立場に基づく研究 が存在していた。さらに, 前者に関する 研究は理 論研究・文献研究 もしくは臨床家の経験論に 基づく記述が 中心を占 めている事,後者 に関する研究 は当 初 生 理 指 標を用いた研 究が中心 81 であったが,やがて質問紙による研究に移行 した事,研究 としては 実証的研究が行われている事を明らかにした。 各心理学領域における同化行動の研究を概観した結果を踏まえ, 最後に同化行動と感情的共感との関連についても概観し,同化行動 に関しては感情移入や感情共有 といった,感情的共感との 関連が指 摘されている事,さらに他者との関係についてのメッセージを伝え る非言語的ツールという役割についても指摘されている事を明らか にした。 第 2 章では第 1 章の論点を踏 まえ,感情的共感と同化行動との関 連は実証的研究から導かれているのではなく,現時点では理論研究 としてそのような指摘がなされているに過ぎない点を指摘した。そ して,共感と同化行動との関連に関する研究に関する数少ない実証 的研究は共感を認知的共感と感情的共感に分けて捉えていない点を 指摘し,感情的共感と同化行動 との関連を実証的に検討す る事の重 要性について言及した。その上で,同化行動と感情的共感との関連 についてデータに 基づく議論による検討を行 なう事を本研究の目的 とした。その時, これまでの研 究では感情的共感と同化行動の関連 についてはその因果関係が明確になっていないことを指摘し,本研 究では感情的共感を独立変数とし,同化行動を従属変数として両者 の関連を検討することととした。最後に,本研究の意義として,感 情的共感と同化行動との関連についてデータ を用いて検討 する,と いう点を挙げた。 第 3 章では,第 2 章で指摘された問題点を受けて,感情的共感と 同化行動との関連を自己報告の観点から検討した。研究Ⅰでは同化 行動の因子構造モデルを構築し ,それらと感情的共感および認知的 共感との関連について検討した。その結果,同化行動は2因子から 構成されている事が明らかとなった。次にモデルの妥当性について 検討した結果,本研究のモデル は十分な妥 当 性を持つことが示され た 。共 感 と の 関 連 に つ い て は ,「 身 振 り 同 化 」因 子 ・「 感 情 表 出 同 化 」 因 子 と も に 感 情 的 共 感 と 正 の 相 関 を 持 つ 事 ,「 感 情 表 出 同 化 」因 子 は 82 「身 振り 同化 」因 子に 比べ ,よ り高 い相 関を 持つことが示 された。 そして,両因子ともに認知的共感との相関が 低い事が示された。こ れらの事から,1)同化行動は大きく「身振り同化」と「感情表出 同 化 」と い う ,2 種 類 の 同 化 行 動 か ら 構 成 さ れ て い る ,2 ) 同 化 行 動 は感情的共感と関連しているが,認知的共感との関連はほとんど見 られない,3)対人場面で生じた同化行動が「身振り同化」に属す る 非 言 語 的 行 動 で あ る か , そ れ と も「 感 情 表 出 同 化 」で あ る か に よ っ て,感情的共感との関連には違いが見られる,という事が明らかに された。 第 4 章では生理的側面から検討を行った。具体的には同化行動の 指標として表情の 同化を取り上 げ,表情の同 化と感情的共感との関 連について検討し た。研究Ⅱで は状態としての感情的共感 と表情の 同化の関連について検討した。 その結果,感情的共感の有 無と同化 行動の生起との間に関連が見られた。具体的には,感情的共感を促 さ れ る 条 件 で は , 不 快 な 感 情 を 表 す 表 情 ( frown 表 情 ) の 呈 示 に 対 し て は 皺 眉 筋 の 活 動 電 位 が 増 加 し ,大 頬 骨 筋 の 活 動 電 位 が 減 少 し た 。 そ し て ,快 の 感 情 を 表 す 表 情( smile 表 情 )の 呈 示 に 対 し て は ,大 頬 骨筋の活動電位が 増加し,皺眉筋の活動電位 が減少した。 その一方 で,特に感情的共感を促されず ,ただ呈示された表情を見 ている条 件 で は ,s m i l e 表 情 に 対 し て 大 頬 骨 筋 の 活 動 電 位 が 増 加 し ,皺 眉 筋 の 活 動 電 位 が 減 少 し た 。 し か し , fro w n 表 情 に 対 し て は 表 情 筋 の 活 動 電位の変化は見られなかった。これらの事から,状態としての感情 的共感が生じている時には,同化行動も生じている事が示 された。 そして,先行研究では他者の表情が呈示されただけで同化行動が生 じ る と し て い る の に対し,本 研 究では一部異 なる結果が得 られなか った事から,日 本 人の場合は単 に他者の表情 を見ただけでは同化行 動は生じない可能性がある事を 指摘した。 研究Ⅲでは感情的共感特性が表情の同化に与える影響を検討した。 その結果,感情的共感特性の肯定と同化行動の生起には関連が見ら れ た 。感 情 的 共 感 特 性 が 高 い 被 験 者 は 不 快 な 表 情 を 表 す 表 情( f r o w n 83 表情)の呈示に対 しては,皺眉筋の活動電位 が増加し,大頬骨筋の 活 動 電 位 が 減 少 し た 。快 の 感 情 を 表 す 表 情( s m i l e 表 情 )の 呈 示 に 対 しては,大頬骨筋 の活動電位が 増加し,皺眉筋の活動電位 が減少し た。その一方で, 感 情 的 共 感 特 性が低い被 験 者では,呈示 された表 情に対応する表情筋の活動変化 が認められなかった。 第 5 章では行動的側面からの検討した。研究Ⅳでは同化行動の指 標 と し て clapping を 取 り 上 げ , clapping を 行 な う ペ ア の 感 情 的 共 感 特 性 の 違 い に よ る 同 化 行 動 へ の 影 響 を 検 討 し た 。そ の 結 果 ,c l a p p i n g を 速 く 行 な わ せ た 時 に は , 両 者 の clapping 速 度 差 は 各 々 単 独 で c l a p p i n g し て い る 時 と 違 い が 見 ら れ な か っ た 。そ の 一 方 で ,c l a p p i n g を ゆ っ く り 行 な わ せ た 時 に は , 両 者 の clapping の 速 度 差 は , 各 々 単 独 で clapping し て い る 時 の 速 度 差 と 異 な り , 速 度 差 が 減 少 し た 。 さ らに,感情的共感特性が高いペ アは,低いペ アに比べてより速度差 が 減 少 し た 。 速 度 差 の 減 少 は 両 者 の clapping 速 度 が 類 似 の 速 度 に な っ て い る と 判 断 さ れ る 事 か ら , 1 ) clapping を 速 く 行 な う 場 合 に は 同 化 は 生 じ な い , 2 ) clapping を ゆ っ く り と 行 な う 場 合 に 同 化 が 生 じる,3)ペアの 感 情 的 共 感 特 性が高い場合 に,より同化行動が生 じる,以上の 3 点が示された。 2 感情的共感と同化行動との関連 本研究では,全 ての研究においても感情的共感と同化行動との間 に関連が見られた。この結果は同化行動と感情的共感に関する先行 研究と一致している。 これらの事から考えると,感情的共感と同化行動は密接な関係を 持っていると言えるだろう。では,なぜ感情的共感と同化行動との 間には関連が見られるのか。 感情的共感も同化行動も対人場面の中で生 じ る も の で あ り,必ず 自己と他者の関係の中で生じる現象である。そして感情的共感は感 情面で他者を自己 に「取り入れ る」現象であり,同化行動 は身体・ 行 動 面 で 他 者 を 自 己 に「 取 り 入 れ る 」現 象 で あ る と 言 え る 。つ ま り , 84 両者の他者の一部を自己の中に取り入れ,それを自己のものとする という構造は全く 同じものであると言ってよい。両者の違 いはそれ が感情面に現れている現象なのか,身体・行動面に現れている現象 なのかという違いだけである。そのように考えると,感情的共感と 同化行動とが関連を持っているのは当然であると思われる。 ま た ,感 情 的 共 感 は 他 者 と 自 己 と の 感 情 の 共 有 を 含 む 共 感 で あ る 。 非言語的行動の中 には感情に固 有の も の が あ り,両者が同 一の感情 を感じているのであれば,両者の感情表出も同一のものとなるであ ろう。この事から考えれば,感情的共感と同化行動との間に関連が 見られるのは妥当であると言える。 3 本 研 究 の 問 題 点 ・限 界 と 今 後 の 展望 本研究の 目的 はこれまでデータに 基づいて議 論される事が 少なか った,同化行動と 感情的共感と の関連をデータに基づいて 検討する 事 で あ っ た 。 本 研 究 の 結 果 ,同 化 行 動 と 感 情 的 共 感 の 関 連 は デ ー タ に よっても支持された。 しかし,感情的共感と対になる認知的共感との関連については本 研究では検討されていない。先行研究では,感情的共感と同化行動 の関連は(理論的にではあるが)検討されてきたが,共感のもうひ とつの重要な側面である認知的共感はあまり検討されていない。本 研究では研究Ⅰで若干触れたものの,他の研究においては全く触れ ていない。発達領域における同化行動研究の 幾つかは,同化行動が 認知的共感のベースである「役割取得」に関 係している, と主張し て い る 。 こ の 主 張 が 正 し い の で あ れ ば ,「 他 者 の 立 場 に な っ て 考 え る」という認知的共感においても,同化行動 が何らかの役 割を果た していると考えられる。この点については今後の検討課題である。 本研究で は感 情 的 共 感と同化行動 の関連性を 自己報告,生理的側 面 ,行 動 的 側 面 か ら の デ ー タ の 検 討 か ら 明 ら か に し た 。具 体 的 に は , 本研究では感情的共感を独立変数とし,同化行動を従属変数として 感情的共感が同化行動に及ぼす影響について検討した。これは感情 的共感と同化行動との関連について,感情的共感を原因とし,同化 85 行動を結果とする 因果関係と い う文脈で捉え た研究であると言える。 しかし, 本研究とは 逆の方 向からのアプローチも可 能であると考 えられる。つまり,同化行動を原因とし,感情的共感を結果とする 因果関係を前提とする方向からのアプローチ である。 H a t f i e l d e t a l( . 1 9 9 4 )は 感 情 的 共 感 と 同 化 行 動 と の 関 連 に つ い て , まず他者の非言語的行動に対して同化行動が生じ,その結果,求心 性のフ ィ ー ド バ ッ クが生じ,そ し て 互いに類 似した感情を 経験する 事により感情的共感が成立する ,としている 。つまり,両 者の関係 は同化行動が原因であり,感情的共感を結果とする立場である。成 瀬( 1 9 8 8 )は 自 身 が 開 発 し た 動 作 法( 動 作 療 法 と 呼 ば れ る 事 も あ る ) に関する理論の中 で,身体接触 を交えながらの援助者とクライエン トの関わりの中から生じる「体験の共有」が「場の共有」を生み出 し,その結果両者に「感情の共有」が生じるとしている。そして体 験の共有のためには援助希求者 がどのような 体験をしているかを援 助者は理解する必要がある事を指摘し,そのための方法として援助 希求者の動きと近似する動きを自分自身の身体でなぞる事を挙げて い る 。 今 野 ( 1997 ) は 共 感 に は 身 体 体 験 の 共 有 ( 共 体 験 ) が そ の ベ ースにあると述べている。今野は「とけあう体験の援助」という技 法を開発しているが,援助者側 から見た効果 の一つには, 援助者と 援助希求者による 体験の共有, すなわち共体験の成立による援助希 求者に対する援 助 者の共感的理解があると考 えられる。 動作法やとけあう体験の援助では,援助者と援助希求者が必ずし も同じ行動をとるわけではないので,同 化 行 動と感情的共感の関連 について直接何かしらの示唆を 与えるわけではない。しかし,何ら かの身体動作がその身体動作に 固有の感情フィードバック 効果を持 つのであれば,類似の身体動作は類似のフィードバックを生じさせ る事になる。これは成瀬や今野 が指摘する「 体験の共有」 と同じで あり,これが共体験につながっ ていくと考えられる。類似 したフィ ードバックによって生じる感情 は類似のものであり,こ れ は動作法 やとけあう体験の援助における「感情の共有」に該当するものと考 86 えられる。この成瀬や今野の立場も同化行動を原因とし,感情的共 感を結果と捉える 立場であると 言える。この 事から考えると,感情 的共感と同化行動との関連については本研究で取り上げた「感情的 共感→同化行動」 という方向からのアプローチと「同 化 行 動→感情 的共感」という方向からのアプローチも両者の関連性を検討する上 で必要である。本研究はまず,両者の関連性を実証することが目的 であったため,両方向からの検討までは行なわなかった。この点も 今後の検討課題である。 最後に本研究の展望について述べたい。 Rogers ( 1951 ) は 主 体 が 身 体 的 経 験 ・ 感 覚 を 無 視 ・ 歪 曲 す る 事 に よ っ て 心 理 的 不 適 応 が 生 じ る 事 を 指 摘 し て お り , 中 井 ( 1985) は 精 神科の治療に身体的側面への治療が関与している事を指摘している。 春 木 ( 1 9 8 9) は 心 理 的 不 適 応 と 別 の 観 点 か ら , 人 間 の 心 と 身 体 が 密接に関連している事を指摘している。彼は 人間理解の方 法の一つ として「からだ言葉」を取り上げている。そしてその理由を「から だ言葉は精神と身体が切り離せない状態でそこに現象している事を 示してくれる。身体の状態をいいながら,そこに相即不離の形で, 心 の 状 態( 具 体 的 に は 気 分 ,感 情 )を あ ら わ し て い る の で あ る 。」と 述 べ ,か ら だ 言 葉 の 理 解 に は 体 感 の 存 在 が 不 可 欠 で あ る と し て い る 。 春 木 ( 2 0 0 2) は こ れ ま で の 心 理 学 が 人 間 の 身 体 的 側 面 に 対 し て 注 意 を 払 っ て こ な か っ た 事 を 指 摘 し ,「 こ こ ろ か ら か ら だ へ 」と い う 従 来 の 心 理 学 が と っ て き た ア プ ロ ー チ に 加 え ,「 か ら だ か ら こ こ ろ へ 」 というアプローチ を加える必要性がある事を 主張している 。身体心 理学とは行動や動作といった身体面の変化が心理面にどのような影 響を与えるかについて研究する心理学である。 本研究は 感情的共感 が同化行動と 関連 している事を 実証的研究に よって明らかにした。この事は 感情的共感に は身体的側面 が関わっ ている事を意味している。また,感情的共感と同化行動の関連は本 研究で取り上げた「感情的共感→同化行動」と「同化行動→感情的 共感」の双方向性 が考えられる 。本研究から 得られたデータから直 87 接このような議論 をするには無 理が あ る と い う批判が生じ る事を承 知の上で述べるならば,この事はこれまでの心理学の「こころから からだへ」というアプローチが考えられる,という事だけでなく, 同化行動という身体的側面から感情的共感へアプローチする,とい う「からだからこころへ」という方向の研究 もありえる, という事 を意味している。そして,後者は身体心理学的観点から感情的共感 を捉えるものであると言える。 この事から考えると,人間が言 語だけでなく 表情や姿勢, しぐさ といった非言語的行動に よ っ て も他者とコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンをとろ うとするのは相手の身体的活動を直接自己に取り入れる事によって 他者の心的状態を自分の身体を用いて再現で他者とより深いコミュ ニケーションをとる事が出来るからではないのか?という 仮説を立 てる事が出来る。この仮説はまさに他者の感情理解という心的活動 を同化行動といった身体的活動 から説明しようとするものであり, 春木が提唱している身体心理学 のパラダイム にのっとったものと言 えよう。そのような意味においても,共感の 身体心理学的研究の可 能性を同 化 行 動 研 究は示しているように思わ れ る 。 88 引用文献 バンドラー R. & グリンダー J. 酒井一夫(訳) 1993 王子様になったカエル 東京 図書 (Bandler, R. & Grinder, J. 1979 Frogs into princes: neuro linguistics programming. 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