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Culture, Energy & L ife vol. 104 July 2013 Special Feature / Beyond ON-OFF 特 集 /余 暇 から本 暇 へ Contents 季の 恵み 余 暇 とは 、 一般 に﹁ 仕 事 以 外 の 、私 の た め の 時 間 。暇 な 時 間 ﹂と 理 解 さ れ る 。し か し 、この余 暇 を 、た ん な る 暇 以 上 の存 在 、た と え ば 、その ほん 人 本 来の創 造 性 を 秘 か めた 時 間 と 捉 え 、 ﹁本 枝豆 Green Soybeans 大 豆 を 未 熟のう ち に 食 す る 枝 豆 。 子 ど も 時 代の、夏のおやつの定 番で あった 。 湯 掻 き たてに 粗 塩 。 竹で 編 んだ ざるの上 から 、湯 気 が も う と 上 がる 。 これ を 陽 射 しの届 かぬ部 屋で 食べた 。 枝 豆 は 、体 内の水 分 調 整 に 効 を 奏 す 。 少 な け れば 保 ち 、多 け れば 出 す 、という 働 き が あ る 。 栄 養 価 が 高いだ けでな く 、 夏の体 調 管 理 にも 都 合 が 良いという わ け だ 。 枝 豆のよ う な おやつは 、 食 物の成 分 が ど うこう 言 われ だ す 前 から 普 通 に あった 。 今 もこれから も 、そ うで あって 欲 しい。 夏 か ら 秋へ 暑い 時 期 に 体 調 を 整 える 植物 猛 暑 、冷 房 、 朝 晩の寒 暖 差 ⋮ ⋮ 。 7 月 か ら 月 は、 とか く 体 調 も 崩 れ が ち 。 大 地の力で 体 を 整 えて、 爽やか な 秋 を 迎 え たいもので す 。 ロ ー ズマ リ ー Rosemary 最 近 は 観 葉 植 物 と して、 庭 先や 鉢 植 え な どで 見 か け るよ う になった 。 耐 寒 性 、常 緑 性 を 兼 ね 備 え 、 虫 除 けにな り 、料 理 にも 使 え る 。 実 に 重 宝 な 植 物で あ る 。歴 史 は 古い。 地 中 海 沿 岸の原 産で、古 代 ギリシャに 於いて、 儀 式 、医 学 、料 理 に 重 用 さ れていた 。 夏の屋 内 は 逃 げ 場 に 困 るほど 冷 房 が 効いていて、 体 が 冷 え 切ってし ま う 。 そんな と き は 、湯 船 にローズマリーの精 油 を 2∼3 滴 た ら して 入 ることにしている 。 縮こまってこわばった 筋 肉 がほ ぐ れ 、 頭の中 が すっき り す る 。 創 造 的 な 時 間 への 転 換 術 水茄子 Egg-plant 画 工。日 常 に 潜 む 非 日常の可笑しみを観 察し画帖に描きとめ る。著 書 に﹃旧 暦 ラ イフ温故知新﹄など。 三浦氏との共著に﹃七 十二候美味禮讚﹄ 。 画・川 口 澄 子 料 理 人、野 菜 農 家。 中医学や東洋医学と 食事との融和を実践。 現 在、長 野 県 で 野 菜 を作り注文販売も 行っている。 文・三 浦 俊 幸 農 作 業の合 間 に 茄 子 を か じって 熱 中 症 を 防 ぐ 、 という と 大 袈 裟 に 聞こえ るか も し れ ない。 実の9 割 以 上 が 水 分 。 その場で もいで 食べる 茄 子 は ペット・ボトルな どから 摂 る 水 分 よ り も 体 に 浸 みる 。 ﹁ 冷 え たる 人 は 食 すべから ず ﹂と 言 う が その通 り 。 体の裡 がひんや り と す る 。 水 茄 子 に 蓄 え られ た 水 分 は 殊 に 甘い。 一夜 漬 け な どは 瑞々し くて 喉 が 鳴 る 。 日 射 し が 強 く なる 前の皮 が 軟 らかいう ち は 生のま ま 味 噌 をつけてか じるのが う まい。 みょう が Japanese Ginger 平 安 時 代の女 房 装 束のよ う な 、 重 な り 合った 色 目 が 美 しいみょう が 。 夏 場 に 限 ら ず 、食 欲 を そ そ られる 。 香 りに 含 ま れるα ピネンという 成 分 は 、 血 管 を 拡 張 して 血 行 を 促 進 す る 。 体の隅々に血 がいき 渡 ることで 部 分 的 に 溜 まった 熱 が 拡 散 し 、体 温 が 下 がる 。 血の巡 り が 良 く な れば 、頭 も 冴 え る 。心 も 落 ち 着 く 。 願った り 叶った り という わ け だ 。 大 酒 神 社の摩 多 羅 神︵ ま た ら しん 。念 仏 、或いは 芸 能の神 ︶ が 手 にしているのはみょう が 。 う ちに 籠った 熱 を 払って 心 を 穏やかに 。 さ す れば 道 も 開 け る ということか 。 特集 余暇 から 本 暇へ Beyond ON-OFF 暇 ﹂と 呼 ぶこ と は 可 能 だろう か? 余暇を創 造 的 な 時 間 = 本 暇へと 転 換 す る た め に 、有 限 な 時 間 を どのよ う に 活 か すべき か 。本 特 集 で は 、余 暇 、ひいては 時 間 について 再 考 す る た め に 、さ ま ざ ま な 角 度 か ら 検 討 を 加 えてみる 。 いつも寝ていることから その名が付いたとも言われるネコ。 彼らは、 暇を持て余しているのか、 はたまた深遠な思索を 重ねているのか。 Photograph by Iwago Mitsuaki 10 Special Feature | Kino Megumi From Summer to Fall Introduction はじめに SpecialFeature/BeyondON-OFF ・こうありたいと願う自分を実現できているか ﹁ 余 暇 ﹂に つい て 再 考 す る 余 暇 とは 何 か ﹁余 暇﹂と い う 語 は﹁余 り︵あ ま り︶ ﹂ ﹁暇︵ひ ま︶ ﹂と い う、 積極的イメージを感じさせない言葉によって構成されているた め、それほど重要な価値を持たないと思われるかもしれない。 しかし、生活者が幸福を実感したり、家族との交流や健康を実 現したりするためには欠かすことのできない時間である。 では余暇とは何なのか。あらためて考えてみたい。例えば、 経済学では余暇を以下のように定義している。まず1日︵ 時 間︶のうち、生きていくために不可欠な、睡眠、食事などに必 要な時間を除いた広義の可処分時間を計算する。次に個人は、 余暇に対するイメージは人によって異なるものの、余暇は、 活 用 次 第 で さ ま ざ ま な 創 造 力 を 発 揮 で き る、潜 在 的 価 値 の 大 き い 生 活 資 源 で も あ る。余 暇 の 持 つ 潜 在 的 可 能 性 を 活 性 化 す る こ とが、生活者ひいては社会のウェルビーイング︵よい生き方︶ につながるはずだ。なぜなら、今まで余暇に対する深い洞察は 試みられてきたとは言えず、そのイメージや生活者ごとの構造、 その活性化をウェルビーイングにつなげるためのルート︵パス、 行程︶が明らかにされていないからである。私たちは余暇につ いてもっと深く考察すべきではないだろうか。 ﹁ワーク・ライフ・バランス﹂の重要性についての社会的理解 が 高 ま っ た 今 日、公 と 私 の バ ラ ン ス の み な ら ず、 ﹁私﹂の 時 間 をいかに活性化するかが、人生の質︵クオリティ・オブ・ライフ︶ を問ううえで重要なテーマになっているのだ。 余 暇 から 本 暇へ 本特集では、余暇︵自由になる時間︶はどのように活用され 仕事中心の生活で、 余暇や社会貢献への 取り組みは平均的な人々。 *大阪ガス エネルギー・文化研究所が毎年 行っているネット調査「ライフスタイルに関する アンケート」。上の図は、 このアンケート結果をも とに作成した。余暇や時間活用に関する7つの 質問への回答内容をもとに生活者を5つのグ ループに分け、 グループごとに余暇満足度と関 係する要因と思われるものを導き出してある。 調査結果の分析に関する詳細は、大阪ガス エネルギー・文化研究所のWEBサイトに掲載。 ・束縛がなく自由か ・社会から正当に評価されているか その可処分時間を﹁労働﹂と﹁余暇﹂に振り分ける。 余暇を利用して公的課題にも 積極的にコミット。 全般的にアクティブな人々。 2 CEL July 2013 CEL July 2013 3 るべきなのか、また、どうすればその時間を作りだすことがで ・社会から正当に評価されているか ・有効な時間活用ができているか ・物価が安定しているか もちろん、人によっては仕事が生きがいであるとか、余暇と ・町内会活動が盛んか きるのか、参考となるさまざまな事例や知見を紹介したい。また、 ・仕事上の良好な人間関係が築けているか 日本人グループ ・将来について、不安よりも希望のほうが大きいか の境目を意識していないという人もいる。睡眠や食事も必要以 ・よい社会と納得できるか 今後、余暇というものを、もっとダイナミックな存在、例えば﹁本 余暇を家庭サービスに 充てることには前向き。 それ以外は総じて 消極的な人々。 上に時間を費やすのであれば、そこに余暇的な意味が存在する 余暇は 個人の時間を重視して 過ごしたい人々。 とも考えられる。余暇といっても一様ではないのだ。 社会貢献志向はあるものの、 それほど余暇を あてているわけではない。 仕事は義務と割り切る人々。 暇﹂という言葉で捉え直すことで、より効果的な時間活用へと ・自分にとって大切な人が幸せか 大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所では、余暇に関する考察 ・道徳やマナーが守られている社会であるか つ な げ る こ と が で き る の で は な い だ ろ う か、と い う こ と も 提 案 ・良好な友人関係が築けているか したいと考えている。 ・家族や知人が健康か を 深 め る た め の 基 礎 資 料 と し て、20 13 年3 月、 ﹁生 活 に お ・地域の治安が保たれているか 公共人グループ ・地域の人との交流が多いか 家庭人グループ ・生活が寂しくないといえるか ける余暇﹂についてアンケートを実施している︵*︶ 。 ・所得が多いか 全グループの共通項 ・仕事時間の削減と余暇時間の増加が可能か その結果、人により余暇のイメージが異なること、余暇に対 ・ボランティア活動に参加しているか 個人グループ ・貧困に陥る懸念が小さいか 24 する考え方や行動の違いに応じてグループ分けができること、 ・趣味のサークルに参加しているか 志人グループ そのグループごとに余暇満足度を高める要因が異なるのではな 余 暇の満 足 度に 関 係する 要因 余 暇に対する考え方を もとにした5つのグループと その特 徴 いか、という示唆を得た。 満 足な余 暇 のためには 何 が 必 要 です か? 牧野さんの手にあるのは、 自らが有機栽培で育てた 「貝豆」 。 インゲン豆の一種で北海道の在来種だ。 4月初旬、 いまだ深い雪に覆われた畑に 愛用のバイオリンを持って立つ牧野さん。 農業従事者が主要団員の 「農民オーケストラ」 を率いる。 Special Feature / Beyond ON - OFF Part 1 農をなりわいとする人たちには、 「農閑期」 という余暇がある。 この期間に集中的に 練習し、年に一度 コンサートを開く ユニークなオーケストラが、 北海道にあるという。 余暇はいかにして芸術へと花開くのか。 代表の牧野時夫さんにうかがった。 大地に響く人生 のシンフォニー 取材・執筆/野村 麻里 撮影/名取 和久 特 集 / 余 暇 から本 暇 へ そ の 1 ドキュメント Document 北海道農民管弦楽団 CEL July 2013 4 大自然のリズムとともにある農業。 その農閑期に練習を重ね、 年に一度、 披露目のコンサートを開く。 清明な水を湛える余市川。 余市は、ウイスキーの醸造 所があるほど水のいい町と して知られる。また北海道 の中では温暖な気候である ため、果物の栽培が盛んだ。 Special Feature Part 1 / Document 7 CEL July 2013 室内楽もできるドームハウスを建築中。 使っている北海道産カラマツには ねじれる性質があり、 ドーム向きという。 収穫した果実は ジャムやジュースにして販売する。 写真はルバーブのジャム。 CEL July 2013 6 よ いち 集まる機会の少なさを補うべく、時に 農民が いかに芸術を 興せるか へ進み、大学の交響楽団に所属。卒業 後は、山梨と岡山でワインメーカーに 勤務する傍ら山梨交響楽団や岡山交響 楽団でコンサートマスターを務めるな ど、学業や仕事と演奏活動とを両立さ せてきた。農民オーケストラの構想を 考えたのは、大学時代。農家によるオ ーケストラをつくろうと思った理由を ﹁田舎ではなかなかクラシックを楽し む機会がないし、クラシックと聞くと 敬遠する人もいる。農村で、農閑期の 間に、何かクリエイティブなことがで きればと思ったんです﹂ と、語ってくれた。 農村でクリエイティブな活動を、と いう牧野さんには、大きな先人の影響 があった。宮沢賢治である。 作家であり、教師であり、農民でも あった賢治はまた、音楽を愛する人で もあった。不器用なチェロ奏者の物語 もチェロを演奏し﹃星めぐりの歌﹄と ﹃セ ロ 弾 き の ゴ ー シ ュ﹄を 書 き、自 身 いった楽曲を残している。さらに、農 民がいかに芸術を興せるかという芸術 論﹃農民芸術概論綱要﹄も著した。 ら す ち じん 賢治はまた、農学校の教師を辞めた 後、農民塾﹁羅須地人協会﹂を開いたが、 ここでは農業技術を教えるだけでなく、 レコード鑑賞会を開いたり、楽団を結 成して楽器の練習に励んだりもしてい たという。 ﹁僕は、童話や詩よりも﹃農民芸術概 を演奏できたのはよかった、と牧野さ 民文化賞﹂を受賞した。花巻で﹃田園﹄ 回定期演奏会を開き、 日、農民オーケストラは、 年にあたる今年︵201 やっているオーケストラだから伝わる ートに伝えられることがある。農家が い。でも音楽なら、言葉よりもストレ ﹁伝えたいことを言葉にするのは難し るのだ。 現として音楽をやることに、意味があ 娯楽として享受するだけでなく、表 術なんだと思います﹂ 人に何かを伝えたい。その手段が、芸 で す。人 間 に 生 ま れ て き た か ら に は、 界に生きる価値があるのか、と思うん ものではない。けれど、芸術のない世 ﹁音楽は、生きるために絶対に必要な と牧野さん。 ア・オーケストラとは違うところです、 などの弦楽器は大人数で1パートを演 できないといけませんが、バイオリン かなければならないので、ある程度は 基本的にひとりで1パートすべてを吹 ﹁管楽器は、オーケストラにおいては、 いう。 ることは、さほど問題ではないのだと ーケストラにいろんなレベルの人がい と、こ と も な げ に 話 す 牧 野 さ ん。オ ね﹂ もうコンサートに出ていましたから い ま し た よ。で も 始 め て3 年 目 に は、 めずに全部暗記していたという男性が ﹁十勝の農家で、始めた頃は楽譜が読 という。 めてバイオリンを弾き始めた人もいる に幅広い。なかには、 そ、成 し 得 る 表 現 が あ る。賢 治 が 今、 農閑期という余暇を使ってやるからこ 農業という労働で結ばれた人たちが、 あろう。 彼らにしか出せない、唯一無二の音で こ ん で い く よ う だ っ た。こ れ こ そ が、 れた演奏が、聴く者の心を優しく包み 気で満たされ、ホスピタリティにあふ ン﹄である。部屋はたちまち温かな空 始まったのは、パッヘルベルの﹃カノ 機嫌よく笑う和やかな雰囲気のなかで に置かれたベビーベッドで赤ちゃんが 子どもらがのびのびと遊び、譜面台横 できた。公民館の一室に十数人が集い、 った練習会でその演奏にふれることが 最後に、余市に住むメンバーが集ま 賢治没後 3年︶1月 岩手・花巻で第 ﹁岩手農民大学﹂が制定する第 ある。 生きることは、 表現すること 代、 8 CEL July 2013 春先というのに、北海道・余市は一 面の雪に覆われていた。真っ白な丘の 斜面にサクランボの木が整然と林立す 月から翌年2月へと続い る畑で、牧野時夫さんが枝の剪定に励 んでいた。 た約3カ月間の﹁農閑期﹂を終え、次 の実りに向けての作業が始まっている のだ。 サクランボの他に、ブドウ、リンゴ、 ジャガイモ、カボチャ、ダイズなど多 品種の作物をすべて有機農法で栽培す る牧野さんは、もうひとつ、別の顔を 持っている。農業に関わる人を中心に 結成された、ユニークな楽団の代表と しての顔である。 農民だけの オーケストラ ﹁北 海 道 農 民 管 弦 楽 団﹂ 、通 称﹁農 民 人のうち、農 年近く北海道で活動を続け オーケストラ﹂は、1994年夏に結 成され、 てきた。現メンバー約 いている。 合宿を組み、本番直前の長時間練習を 練習で本番にのぞまなければならない。 メンバーは道内中に散らばっている 欠かさない。それでもメンバーが﹁オ なか ー ケ ス ト ラ の 活 動 が 生 き が い﹂ ﹁農 閑 び ふか ので、ひとたび練習となるや、遠く中 方に興味がある。彼がやろうとしたこ 論綱要﹄で書かれたような、彼の生き 大阪生まれの牧野さんは、3歳でバ とに魅かれたし、現代の農村でも、賢 べつ かい 標津や別海、美深など、何百㎞も離れ 期の活動が楽しみだから、春夏の仕事 を頑張れる﹂と言ってくれると嬉しい、 イオリンを始めた。北海道大学農学部 月 と牧野さんは語る。 と、実におおらかなのだ。 んは顔をほころばせる。ベートーベン ものがあると思っています。農業は食 奏するので、極端に言えば、弾けると 農 民 オ ー ケ ス ト ラ の 演 奏 を 聴 い た ら、 回の メンバーの男女の割合は半々くらい の交響曲第6番﹃田園﹄は、賢治が最 べていくための手段ですが、農業をや こ ろ だ け 弾 け ば い い︵笑︶。コ ツ は い どんなにか喜んだことだろう。ふとそ ∼ だが、年齢は も愛した楽曲であり、第1回コンサー っているからこそ、好きな音楽もでき るけど、初心者でも弾きやすいんです。 頃から始められる、たった ストラを始めてから農家に転じた人も 代と、実 い る と い う。そ こ が 普 通 の ア マ チ ュ トでも演奏した、思い出深い曲なので るんです﹂ チェロは、楽器の構え方が比較的簡単 代後半か ら 治が理想とした生き生きとした文化は 練習の合間には、音楽の話よりもむ 牧野さんは、コンサート会場の手配 んな想像をしてしまうほど、音楽を奏 歳を過ぎて初 しろ農業の話をすることが多いという。 や宣伝などの準備作業も担う。同じ会 だから、さらに始めやすいですね﹂ ﹁管 でる幸せに満ちた〝時間〟が、そこに 時代は違うけれど、自分が達成できた 近しい農家仲間だけで話すのとは違い、 代くらい 余暇が育てた 芸術 メンバーにはいろんな分野の農業関係 場を使えば多少楽になるが、手間をか 楽器は、肺活量が要るから ら、と﹂ 者がいる。研究者と、多様な角度から けても毎回会場を変えている。道内中 も続けられますよ﹂ までかな。弦楽器なら、 回﹁農 農業の話をすることもできる。練習の にメンバーがいるし、より多くの人に は在った。 演奏を聴いてもらいたいと思うからだ。 90 70 19 40 80 22 農業関係者といっても 分野や所属団体はさまざまで、年齢も幅広い。 みな演奏を心から楽しんでいる。 代で 場は、貴重な情報交換の場にもなって 70 12 てくる。全員が揃うのは難しく、 余市に住むメンバーで行う 練習は、公民館の一室で。 子どもらや赤ちゃんも交え、 リラックスした和やかな雰 囲気で演奏が始まる。 ま だ 実 現 で き て い な い と 思 う ん で す。 し べつ たところから練習場所の札幌に集まっ い、毎冬、年に一度のコンサートを開 れている。練習はもっぱら農閑期に行 学教師、農業を学ぶ学生などで構成さ 研究所員や農業改良普及員、大学の農 業従事者が十数名、他に農業試験場の 80 いるのだ。おもしろいことに、オーケ 10 10 11 Special Feature Part 1 / Document 12 20 27 80 ﹃三勇図﹄︵松浦史料博物館所 蔵︶ 。一番右に描かれている のが、本稿に登場する松浦 静 山 公。隠居した後、江戸 時代史料としても貴重な随 筆﹃甲子夜話﹄をなした。こ の画 は、静 山 公が、松 代 藩 主真田幸貫︵ゆきつら︶と黒 羽藩主大関増業とともに徳 川斉昭のもとに招かれた折 に描かれたという。 隠 居 のつ と め 江戸の殿様は いかに文化的 ﹁余生﹂を すごしたか Part 2 10 CEL July 2013 加藤秀俊 評 論 家・社 会 学 者 Essay エッセイ 特 集 / 余 暇 から本 暇 へ そ の 2 江 戸 時 代の武 家 社 会 に は 、多 く の﹁ 隠 居 大 名 ﹂ が存 在 した 。 ﹁ご隠 居 ﹂ と 聞 き 、さ ぞ 暇 を 持 て あ ま し て おいで か と 思 いき や 、意 外 なほど 忙 し く 文 化 活 動 を 行っていた のが 、か れ ら 隠 居 大 名 。 現 代 人 が 時 間 の 使い 方 を 考 え る 上で も 、お おい に 参 考 と すべき 生 き 方 ではないだろ う か 。 BeyondON - OFF SpecialFeature/ た。宝 暦8︵1758︶年 の 生 ま れ で 吉 宗 の 孫 に あ た る か ら、も と も と それから1世紀が経過して、こんどは松平定信という人物があらわれ で歌舞伎の劇評から芝居茶屋の献立までを記録にのこしている。 という書物をみると、加賀100万石のような大藩があるかとおもえば 将軍候補者のひとりだったが、あれこれの事情から奥州白河の藩主にな 徳 川 時 代 の 日 本 は3 0 0 ち か い 藩 に わ か れ て い た。 ﹃江 戸 諸 藩 要 覧﹄ 喜連川5000石といったかわいらしい藩もある。つまり日本には30 き つれ がわ 0人ほどの﹁殿様﹂がおられたのだ。 れて老中に任命される。こんにちでいえば地方県知事が総理大臣になっ った。たいへんな秀才で模範的な善政をほどこし、やがて幕府に登用さ たようなもの。おおいに手腕をふるって﹁寛政の改革﹂の中心人物とな 世紀はじめの文政年間になるとその3分の1にあたる100 年齢に達した殿様は家督を息子なり縁者なりにゆずって、藩政という政 ほどの藩は﹁隠居大名﹂という先代藩主をかかえていた。つまり一定の ったけれど、形勢利あらず、失脚してまた白河にもどって殿様。そして だが、 治の実務から引退し﹁隠居﹂になったのである。 歳のときに隠居してみずからを﹁楽翁﹂と号し、さまざまな文化活動 なことをやって余生をすごせばよろしい、という結構なご身分。しかし、 ちゃんと現役の藩主がみてくれているからべつだん不自由もない。好き 薬学に手をのばして保健衛生に関する書物を編纂したり、そうかとおも 語絵巻などを描かせた。庭の植物をあつめて図鑑をつくったり、医学、 めた。また絵画にも興味をもち、谷文 晁 をはじめ多くの画家に平家物 を開始した。まず家に伝わる舞楽を復興し、みずからも舞の稽古をはじ こうした﹁隠居大名﹂は、これといってしごともなく、生活のほうは ただボンヤリと毎日をすごしていたわけではない。これら﹁元﹂殿様た うと和歌を詠み、俳句にしたしみ、茶道についての著書もある。随筆も いったい、その﹁つとめ﹂とはな ていたが、じつは戯作文学にも手をだしていた。たいへんな趣味人とい 江戸にとどまって幕府の要職につく 戸6万石で定信と同時代人。かれは を忘れてはならない。この殿様は平 九州松浦藩のご老公松浦静山のこと この時代の有名な随筆家としては うべきだろう。 として生きることである。古いとこ ろでいえば﹁水戸のご老公﹂こと水 戸光圀は元禄4︵169 1︶年、 つなえだ 文筆の 世界にも おおいに貢献 ことを夢みていたが思うにまかせず、 荻生徂徠をはじめ儒学者のパトロンになり、学問を奨励したが、和歌に 官のような要職にあった吉保は殿様としては川越藩8万石。このひとは 保もじつはたいへんな文化人であった。将軍綱吉の側用人、つまり秘書 そのドラマ﹃水戸黄門﹄のなかで悪役に仕立て上げられている柳沢吉 の光圀はひたすら学究の道をあゆんでいたのである。 浮世絵や戯作にも興味をもち、あらゆることに興味をもった。その環境 僧侶から相撲取りまで雑多で、みんなが世間話やゴシップをもってくる。 実態は大名暮らしそのものである。この隠居所に出入りするのは町人、 万石の手当が支給され、この敷地内には数十人の家来が住んでいたから こもることになった。隠居といってもこのお屋敷、敷地1万坪。毎年1 ということになっていたから、静山はこれを機会に本所の下屋敷にひき 隠居になれば領地に帰る必要もないし、隠居大名は原則として江戸居住 歳のときに定信に宛てて隠居願いをだす。 あかるい歌人。壮大な庭園をみずから設計し、7年の歳月をかけて完成 のぶとき そばようにん さ せ た。 ﹃古 今 和 歌 集﹄の 序 文 に 書 か れ た 和 歌 の 六 つ の モ チ ー フ に ち な のなかでかれはみずからの経験だの、日々のできごと、読書記録など雑 おぎゆう そ らい んでこの庭園を﹁六義園﹂と名づけ、みずからの隠居所をこの庭園のそ 多な内容でコマメに随筆を書きつづけた。静山の隠居所はいわば私設の それぞれの趣味の世界に没頭なさったのである。それまでの蓄積が一挙 りく ぎ えん ばにつくった。柳沢家は代々この庭園をうけつぎ、孫の信鴻は源氏物語 雑誌編集部のようなもの。その結果、正続合計300編にちかい﹃甲子 に開花したのだ、といってもよい。ふだんからの心がけあってこそ、随 わ りまぜてこの随筆は貴重な史料になっている。 筆を書いたり和歌を詠んだりすることができたのだ。じっさい、さきほ や 戯作といえば長州の殿様毛利斉元はくだけたことが好きで、汁粉屋の どあげた毛利の殿様などは事情あって若いころから殿様だか隠居だかわ 活に耽溺なさる余裕があったのではないかとわたしはおもっているが。 つ く し てい わ なりもと 鹿都部真顔に師事し、柳桜亭、土筆亭和気有などとふざけた俳名で﹁ぬ つまり、隠居してから、さてこれを機会になにか趣味をさがそう、と け あり しの心に誠があらば、つらいつとめもいとやせぬ﹂などという色っぽい からないような複雑な立場におられたから、あれだけ徹底的に洒落た生 うから念が入っている。ちょっと行き過ぎだがイキな殿様である。 いうのでは遅いのである。じっさい落語に登場する﹁横町の隠居﹂がア き刃のタヨリない知識をひけらかす からだ。いい例が﹁茶の湯﹂である。 さる大家のあるじ、めでたく根岸に 隠居したのはいいが、隠居らしく茶 の湯でもやってみよう、というので 青いキナコだのムクの皮だのでアブ ク を た て て 失 敗 す る と い う お 笑 い。 このヒントになったのは文化3年刊 行の﹃茶菓子﹄という笑話だという からちょうど﹃甲子夜話﹄の同時代 うが、それだけに準備周到、その日にそなえたホンモノの隠居と俄仕立 世紀まえ。たぶん、そのころから日本の﹁隠居文化﹂がうまれたのだろ 隠居してから、 さてこれを機会になにか 趣味をさがそう、 というのでは遅いのである。 ヤシゲで滑稽なのはかれらが付け焼 こんな事例をとりあげていったらキリがない。儒者もいれば書道家も だいじなことは日本の﹁ご老公﹂た ちのすくなからぬ部分がいろんな分 野にわたってその﹁余生﹂を文化的 貢献にささげた﹁文化人﹂であった という事実なのである。戯作や狂歌 といった大衆文芸は武士と町人とい う階級の壁をやぶる重要な役割をは たした。教科書が教えるような厳格 な階級制度が実質的に江戸末期にな くなっていたのも隠居大名のこうし た活動によるところが大きいのだ。 ている。さきほどの六義園は特別史跡としていまも東京に健在だし、岡 である。いまからかぞえるとほぼ2 山の池田家の蒐集品はそのまま美術館になっている。尾張徳川家の厖大 て の 滑 稽 な 隠 居 と の 落 差 は お お き い の で あ る。隠 居 だ か ら 自 由 と い う の せいそんかく な図書は蓬左 文庫という図書館になり、金沢の成巽閣 や能楽美術館は、 はそのとおりだが、隠居にはほんとうは﹁つとめ﹂があるのだ。そのほ ほう さ いずれも加賀100万石の栄光をつたえる。これらはすべて各藩の殿様、 加藤 秀俊 http://homepage3.nifty.com/katodb/ かとう・ひでとし/1930年、東京生まれ。 一橋大学卒業後、京都大学人文科学研究所助 手、同教育学部助教授、学習院大学教授、放 送大学教授などを歴任。スタンフォード大学 など海外の大学でも研究・教育に従事した。 現在、中部大学学術顧問。社会学博士。 うが本人にとってもたのしいのではないか。 だ が 、 じつはカネとヒマがあるから じ ゃ な い か、と い え ば そ の と お り カ ネ と ヒ マ が あ る の だ か ら 当 然 基礎は江戸期の﹁ご老公﹂がつくったものだった、といっても過言ではない。 隠居にも 義務がある ノ ー ブ レ ス ・ オ ブ リ ー ジ ユ こそそれに期待される﹁つとめ﹂が あったのである。むずかしくいえば﹁高貴なるものの義務﹂というやつ。 しかし、だいじなことはこれら歴代数百の﹁ご老公﹂は隠居してからは じめて文化事業に乗り出されたわけではなかったということだ。かれら KatouHidetoshi とりわけそれぞれのご隠居の力によるものだったのだ。現代日本文化の その業績は現代日本にも継承され SpecialFeaturePart2/Essay いる。茶人として名高いご老公もいるし蘭学を奨励した隠居大名もいる。 しか つ べの ま がお 俗謡までのこしている。この殿様の側室は戯作者山東京山の次女、とい かつ し から誹諧まで手をのばした文学者。さらにしばしば劇場にも足をはこん は現役の殿様時代から学問や芸術にしたしみ、その集大成として隠居後、 結局文化3︵1806︶年、 47 にか。ひとことでいえば﹁文化人﹂ 1冊や2冊ではない。それにこの隠居大名は政治家としては禁欲に徹し たにぶん ちよう ちのおおくは隠居しても、いや隠居になったからこそ、なすべき﹁つと 文化人として 生きた 殿様たち め﹂をもっていたようにみえる。 55 夜話﹄がうまれた。当時の政界から市井のウワサ話まで、雅俗、硬軟と いでながら、あの﹁漫遊記﹂はのち、講談師が創作したもの。ホンモノ 戸藩にうけつがれ、幕末の﹁水戸学﹂の基盤をつくることになった。つ り﹃大日本史﹄という大著の編纂に手をつけた。この大著はその後、水 ってからは西山荘に隠居して梅里と号し、領内の文化財保護にあたった 歳のときにに家督を甥 の綱条 にゆず 64 12 CEL July 2013 CEL July 2013 13 19 日本人は上手にヒマを作れるか? 日本人は今、余暇を十分に活かせているのでしょうか? 日本で長く生活し、 日本人以上に日本についての洞察を 深めているケイト・クリッペンスティーン氏、 ドイツ文学・ ドイツ語文化に造詣の深い池内紀氏、 CEL研究員鈴木隆が、 日本人の働き方、人生の楽しみ方、 時間の使い方について、 海外からの目線をからめつつ語り合います。 撮影/須田 俊哉 Ikeuchi Osamu Special Feature / Beyond ON - OFF Part 3 Kate Klippensteen Loose Suzuki Takashi 特 集 / 余 暇 から本 暇 へ そ の 3 鼎談 ジャーナリスト Three-way Talk ケイト・クリッペンスティーン ドイツ文学研究 CEL研究員 池内紀 鈴木隆 CEL July 2013 14 ってきているように見えますが、オフ んでいます。人々の生き方は自由にな ズ・ホプキンス大学に交換留学をした 新潟の国際大学からアメリカのジョン 時 間 の 感 覚 が 違 う な、と 思 っ た の は、 鈴 木 隆︵以 下、鈴 木︶ 日 本 と 西 洋 で に、と。 てもっと集中して仕事をすればいいの 事がそれほど多くない。時間を限定し 社にいるのですが、実際に完成する仕 見ていると、朝早くから夜遅くまで会 ように思いますが。 の余暇の過ごし方が失われてきている ︱︱近年、お祭りなど共同体ならでは いるように感じます。 う考え方が合わさってベースになって 慣 と、 ﹁和 を も っ て 貴 し と な す﹂と い 1カ月の方。皆が一斉に働くという習 高 く な る か と い う と、 ﹁ 人 月 計 算﹂で かるとする。結果、どちらが作業費が ることが、そうではない人は1カ月か タイムは、ショッピングとか、人の大 ときです。あちらの大学で手続きをし ケイト 私も賛成です。企業の人々を 勢いる場所にわざわざ出かけていく人 に行ったら、担当の女性に﹁アポの時 きな文化をなくしたといってもいいで 池内 それは大変残念なところで、大 事をしていました。わざわざ日本から 年以上東京に住 舎の生活を見ていますと、日本人は本 来 た の に︵笑︶。そ し て 約 束 の 時 間 に ケ イ ト︶ 私 は も う 来、そんなに働いてばかりではなかっ な っ た ら、 ﹁よ う こ そ 来 た﹂と。時 間 す ね。お 祭 り というのは、単に酒 を 飲 んで騒ぐだけではなく、土地のいろいろ 置でありまして。お祭りのためだけに、 な歴史や風習を土台にした文化的な装 そのことを思い出しました。 なくしてしまったのは、祭りという装 をきっちり区切る感覚にカルチャーシ ケイト 日本の仕事場の雰囲気として、 置をなくしてしまったことも影響して たのでは、と思えてきます。本来の日 お祭りがあって、氏神さまを祀ったり、 そこにいなければならない、という感 けてから動くようにしてしまうと、個 本人の生活では、農業が主体だったせ 日間、またはそれ以上を費やす、それ お寺の行事など、生活のなかに﹁仕切 じになっていますね。早く帰る人は怠 人個人の独創、本来の思考なんて出て ョ ッ ク を 受 け ま し た。今 の お 話 か ら、 り﹂ ﹁区 切 り﹂に あ た る も の が ち ゃ ん け者、というイメージを持たれてしま があるんですね。そして、それぞれの いまして、そのよりどころとして神社 いろいろな地方から人が集まってきて と し て 新 し く 開 発 し た と こ ろ な の で、 で、神社もたくさんあります。 ﹁新田﹂ あのあたりは米作りのさかんなところ 潟県の魚沼地方によく行っていました。 なければならない、と常に思っています。 てとれるよう なシステムを作っていか 余暇を場合によっては何週間もまとめ 効 率 が 悪 い。集中して働き、その後の います。労働時間がやけに長い割には く動かされているのでは、と私はみて ルができ、そのなかで人がいやおうな 集中することで、今度は都会でのルー だんだんと崩れていき、人口が都会に それが戦後の高度経済成長の頃から があった。 でが怠慢だったんだ﹂と答えることに なんて状況に陥ったら、それはそれま う遅い。もし、そのときに何をしよう く 相 談 さ れ る の で す が、 ﹁そ れ で は も いいのか?﹂と悩みますよね。私もよ 定の年齢の人が、一斉に﹁何をしたら 言い方をされます。ですので、ある一 の人生、いわば余暇が始まる、という 年でリタイアして、そこで初めて第二 代に、まず会社人間としての縛りをか だけ個人の生活重視といわれている時 いと正常じゃない、という判断。これ を前提にしていまして、集団で動かな 奴だ﹂と言いますよね。これは、集団 池内 そういう人を日本人は﹁勝手な 非常にやりにくいものです。 のに、みんなを置いて帰るというのは しがちなので、早く仕事ができている 鈴木 日本人はやはり集団主義で行動 することにしています。実は、仕事と ってでも、自分のやりたい内容を研究 みの日であっても、自分の小遣いを使 味の境界がない状態でして。たとえ休 鈴木 今、自分にとっては、仕事と趣 ど、まさにマンガのようですよ。 趣味を始めなければと焦っている様な ません。雑誌とかを読んで、あわてて も、明日からどうするかの方針はたち しておかなければ、いざリタイアして 優秀なエンジニアだったら1日ででき 例えばソフトウェアの開発だったら、 のではないでしょうか。 労働を計る、という習慣になっている む。クリエイティビティよりも時間で なっても工場で一斉に働き、一斉に休 ていたのと同様に、近代産業の時代に みんな一緒にペースを合わせて作業し 鈴木 日本人は、田植えをするときに こないですよね。 ャーな観光地ではなく、路地裏を歩い 私は、出張先で時間が空くと、メジ られることです。 うな発想とか、気づきとか、情報が得 場が変わることで、普段出てこないよ とは出張ですね。出張の良いところは、 て、1週間でこの本を読もうとか。あ か作れない。例えば通勤の時間を使っ 鈴木 働いていると、細切れの時間し いました。 必ず遊んで帰る、ということができて 出張に行きましたが、仕事が終われば 関 係 で、 たことがあるそうですが、私は仕事の 池 内 鈴 木 さ ん は 新 潟 の 大 学 に い ら し ながる感じがしないのが残念です。 がりという意味もあるのに、未来へつ 行事は次のジェネレーションへのつな に若い人がいないことがさびしいです。 は残っているところはあっても、そこ ケイト 地方だと、まだ行事そのもの いるのではないでしょうか。 ている状態です。地方が非常に元気を るのですが、華やかな祭りがなくなっ 今は、共同体のゆるやかな縛りはあ がカレンダーの中に入っていたわけです。 とあった。それが常に娯楽にも結びつ っているようです。 神社がそれぞれのしきたりを持ってい 余暇は分けて考える必要はなくて、両 年間くらい、季節ごとに新 る。他所者にはちょっとわからないの しています。 方が融合できている状態が一番ハッピ そ もの ですが、いったん輪の中に入ると、非 それまでに自分で余暇を作ってどう よ 常に生活文化が豊かな場所なのがわか Ikeuchi Osamu いていて、家族、共同体で遊ぶルール いもあるでしょうけれど、季節ごとに にんげつ が多いので、あれでは仕事の疲れがと 間までまだ5分あるから待て﹂と言わ 共同体と 個人生活 れないのではないかな、と。 れまして。待たせる間、ずっと別の仕 ケイト・クリッペンスティーン︵以下、 者だという定説があります。でも、田 池 内 紀︵以 下、池 内︶ 日 本 人 は 働 き いけうち・おさむ/ 1940 年、 兵庫県生まれ。ドイツ文学 者、エッセイスト。東京大 学などで教鞭をとった後、 エッセイストとして活躍。 カフカ、ゲーテの新訳や評 論など専門のドイツ文学は もとより、自然や動植物、テ ーマ別人物列伝、温泉、紀 行、落語など、執筆範囲は 多岐にわたる。著書・書評 記事も多数。毎日出版文化 賞(2000 年) 、日本 翻 訳 文 化 賞(2002 年) 、読 売 文 学 賞(2013 年)など受賞。 遊ぶか、どう楽しく過ごすかの練習を ります。 鈴木 あちらでは時間の感覚が全然違 Kate Klippensteen ケイト・クリッペンスティ ーン/ジャーナリスト。サ ンフランシスコ州立大学で 日本学を専攻し、1986 年 より東京を拠点にジャーナ リストとして活動している。 日米欧で、記事やエッセイ、 批 評 を 執 筆 す る ほ か、 NHK の英語番組アドバイ ザー、JAL 機内誌英語版 ディレクターもつとめる。 日本ペンクラブ会員。近著 に『えいご おはなし絵本』 シリーズ(2012 年∼、小 学館) 。他、著書多数。 いますね。蕎麦屋が多いのですが、八 分、 海山蕎麦のお店では、なんと注文を受 けて、こねるところから始める。 池内 今、会社員の方々の多くが、定 仕事をしながら 時間をつくる、 遊ぶ います。 体験できたのは大変良かったと思って 時間の流れ、感覚が違うということを 鈴 木 農 村 で は 牧 歌 的 と い い ま す か、 ことでしょうね。 池 内 ﹁の ん び り し な さ い よ﹂と い う ﹁伸び伸び﹂とでもいいましょうか。 え て 訳 す な ら﹁リ ラ ッ ク ス﹂ 、ま た は のび﹂というのがあります。これはあ また、新潟で覚えた言葉に﹁じょん ︵笑︶ 。 だけおいしくなるのかもしれませんが 1時間待つのは当たり前。待てばそれ 30 い間の暇をみつけて何かする、という かなっているといえるかもしれません。 ーなのではないかと。今はその念願が 張先で、そうやってぶらぶらとひとり ケイト でも、日本の企業の方々が出 るのが好きです。 てみて、その土地の生活の雰囲気を知 で歩くということは少ないような気が するのでは、情報を確かめに行くよう のが一番楽しいです。ドイツのことわ なもので、発見がありません。 します。 うわけにはいかない不思議な生きもの ぼくは仕事でどこかに行っても、 ﹁現 ざ に、 ﹁暇 が た っ ぷ り あ る 人 は 何 も し で、ある程度忙しくしながら、その合 出ていたようなところを見て、食事を 間に釣りをしたり山に行ったりすると、 地集合、現地解散﹂が好きです。そこ 池内 そうでしょう。ガイドブックに 非常に楽しい。もし明日から毎日釣り まで行って何かの用を果たすのですか ない﹂というのがあります。人は何も をしなさいと言われたりしたら、3日 ら、用が済めばあとはご自由に、とい ひねり出そうか、と悩まれるかもしれ 社勤めの方は、どうやってその時間を ︱︱﹁忙中閑あり﹂ですね。ただ、会 にしたいと思います。食事もそうです り物の席をとって、自分の時間を大切 などは、なるべく皆それぞれ離れて乗 ケ イ ト 私 は 仕 事 で ど こ か に 行 く と き の出版社の仕事をしていて、よく海外 ことが一番重要ですね。以前イギリス ケイト 仕事をしながら遊ぶ、という 少なくなって、個人と共同体のバラン 池内 もうそろそろ、集団的な行動は らないという発想は不思議です。 ね。みんないつも一緒にしなければな ません。 うのが大人なのではないでしょうか。 で飽きますよ︵笑︶。 しないで好きなことだけをする、とい 池内 一見忙しそうに見えても、忙し 10 16 CEL July 2013 CEL July 2013 17 10 20 いと、趣味というものは全然支えにな ケイト あとは、情報のための道具に 合うか判断するのは、難しいことです。 すから、そこから選別して自分に何が す。情報はみなキレイに着飾っていま らないですね。 も好きなものが3つ、それくらいでな ですが。 ケイト 趣味という言葉もちょっとピ スがとれてくる時代だと思っていたの うな服装をして、上司らしき人が、い しろ、集団に依存する傾向が強くなっ 若い人たちの個人生活ではなくて、む 笑う。ぼくがかつて願っていたような ょうか、何か言うと、皆一斉にどっと わゆる﹁オヤジギャグ﹂というのでし ﹁乗馬が好き﹂とは言っても、 ﹁趣味は やっている、という感じがしないです。 きがありません。好きなことを自然に ンとこないですね。英語で﹁ hobby ︵趣 味︶ ﹂と い う 言 葉 に は、あ ま り い い 響 げたとき、最初のうちは新しいことが えられるという面はありますが⋮⋮。 道具によっていろいろなチャンスが与 っ て い る 人 が 多 い で す よ ね。確 か に、 なく、電車に乗ると携帯をずっといじ 面白かったのですが、そのうちこれは 鈴木 以前、ネットビジネスを立ち上 もういいや、と思うようになりました。 乗馬﹂という言い方はちょっと⋮⋮。 ことがあって、夜や週末は家族と一緒 最近は、ネットとは距離を置き、必要 きっと、若いうちから、何か好きな ︱ ︱ い か に﹁個﹂を 確 立 し、 ﹁個﹂で 過 に過ごせて、というスタイルがうまく めてやっても生きてこないですね。上 時間以内に返信する﹂という不文 がないと、糊で貼りつけただけの趣味 腰を据えて何かをするという時間が減 処理するのが精いっぱいで、じっくり 多そうですね。 池 内 そ う い う 状 況 に 陥 っ て い る 人 が れだけで一日が終わってしまいます くものばかりになってしまったら、そ よ﹂と︵笑︶。で も、即 座 に 返 事 を 書 ん だ ん 短 く な っ て き て い て、 ﹁即 答 せ 律がありましたが、それが最近ではだ ﹁ Eメ ー ル が 始 ま っ た ば か り の 頃 は、 なときしか触れないようにしています。 ごすことができるかが、要のようですね。 にもいいし、会社や社会の健康にもい いのではないでしょうか。 ︱︱定年後などの時間の過ごし方につ 手下手は別にして、高校時代などに遊 うちに一度やったものでなければ、改 池内 やっぱり、若いうちに、小さい いて、より具体的なアイデアをうかが 情報から 解き放たれて 歩く楽しさ いたいと思います。 びのなかでやっていたことが、何十年 はすぐにはがれてしまいます。 町歩き、居酒屋とか。今年から4年間 る、と 決 め て い ま す。歌 舞 伎、映 画、 ﹁稽 古 事﹂じ ゃ な く て、例 え ば ひ と り の は い い こ と な ん で す よ。も ち ろ ん、 たことは、必ずしも歓迎すべきことで っているかもしれません。情報が増え ⋮ ⋮﹂と 不 安 に な る こ と も あ り ま す。 え て い て、 ﹁返 事 を し て い な い か も ケイト 確かに、最近メールの数が増 メールを見ているような状況にならな はなくて、情報が少ないなかで何をす な時間が過ごせるのではないでしょうか。 い よ う、な る べ く 時 間 を 減 ら さ な け れ はこれをやってみようと、自分に対す 池内 自分の生きている時代に、メデ ば、と思っています。 メールの処理に時間がかかって一日中 ィアがこれだけ発達するとは思いませ る か 考 え た 方 が、よりクリエイティブ ︱︱今、学生たちは、将来自分にとっ で旅に行かせるとか、自分の責任でや ての楽しみをみつけられるような蓄積 池内 ぼくは全く逆の極端で、パソコ ることです。 ﹁1人オリンピック﹂には必ず出場で んでしたね。メディアと、それが送り んです。 きますし、4年ぐらいやると、けっこ をしているのでしょうか。 う上達するものですよ。少なくとも ン も 携 帯 も、テ レ ビ も 持 っ て い ま せ ん くらいはやることを持っていて、 鈴木 いやおうなく入ってくる情報を だす情報にあふれた時代に、自分のや から そのなかで得意なものが5つ、なかで 見つけますから、ちっとも不便はあり ま せ ん。例 え ば 町 歩 き を し て い て も、 電車の中でも、風景や人を見たりする ときに、情報を持たない方がよく見え るような気がします。 旅行先でもそうです。ガイドブック に 出 て い る と こ ろ し か 行 か な く な る。 ガイドがなければ、自分の目で責任を 持 っ て 店 で も な ん で も 選 び ま す か ら、 店 と の 関 係 も 自 然 に で き る。今 で は、 情報を持たないことが、かえって豊か なことなのではないでしょうか。 ケイト 好奇心を持つことにもつなが ってきますね。好奇心といえば、私は 犬を飼っているので一緒に歩くことが 多いのですが、犬は思いもよらないコ ースであっちこっちに動きます。私の 住んでいる白金、高輪といったところ には古い建物が残っているので、その おかげで、偶然、意外なほど古くから 残っているお屋敷に出会えたりします。 いものです。例えば、最初の恋人とか、 池内 歩いている時間というのは、い 小学校の先生とか、いろいろな人が出 てきて架空対話ができます。あんなに 楽しい時間はありません。名所とか旧 跡である必要はありません。近くの町 でもいいから、ちょっと違う空間に自 分を置いてみると、感覚が非常に活性 化して、全身が生き生きしてくる。 そして、何度も言うようですが、情 報を介在させないことが大切です。自 分の体だけに任せてしまわないと、好 しようよう 奇心が働かない。 鈴木 ﹁ 逍 遥学派﹂というのもありま ができました。 は大変参考になるお話をうかがうこと かっていく、ということですね。本日 暇や自分なりの時間の過ごし方が見つ に趣味などを探さなくても、自然に余 ん歩くこと。日々の積み重ねで、無理 できる。そして、情報を捨て、どんど やすことで、自分なりの発見や発想が 間 を 減 ら し、 ﹁個﹂の た め の 時 間 を 増 ︱︱情報にどっぷりと漬かっている時 えますよね。 す。五感が発達すれば楽しいことも増 るから眠っている感覚が多いと思いま ケイト 現代人は、情報に囲まれてい が文豪は旅行の名人でもありますね。 日目になって初めて地図を見る。さす ところに行って町全体を眺望する。3 日目は、やはり地図を持たずに、高い 当然迷いますが、迷いながら歩く。2 地図を持たずに町を歩くのだそうです。 町に行って宿に入ったら、まず初日は う著書がありまして、彼は、どこかの 池内 ゲーテに﹃イタリア紀行﹄とい あったり⋮⋮。 く と 意 外 なほ ど お い し い レ ス ト ラ ン が づいたり、学生が行くような場所に行 町なのに大学がいっぱいあることに気 く面白かったことがあります。小さな って、迷子になりながら歩いたらすご いているとき、ふと地図を捨ててしま ケ イ ト 以 前、ヴェ ネ ツ ィ ア の 町 を 歩 ないでしょうか。 したね。歩くと脳が活性化するのでは が、与 え ら れ た も の が な け れ ば 自 分 で る一種のゆるやかな課題を出している よね。 池 内 ぼ く 自 身 の こ と で 言 い ま す と、 小さいうちにいろいろやらせておく かあとで生きてくる。どこかにルーツ 24 にひとつ、何か新しいことを必ず始め Special Feature Part 3 / Three-way Talk ﹁1 人 オ リ ン ピ ッ ク﹂と 称 し て、4 年 Suzuki Takashi できていれば、個人のメンタルヘルス てきているのでは、と思います。 利用されないことです。年齢性別関係 最近でも、居酒屋などで、皆同じよ すずき・たかし/大阪ガス ㈱エネルギー・文化研究所 研究員。東京大学卒業後、 大阪ガス㈱入社。国際大学 大学院修了。社内起業で国 内初・最大の住宅リフォー ム仲介サイトとなる「ホー ムプロ」を立ち上げ㈱ホー ムプロ代表取締役専務。帰 社 後、2012 年 か ら 現 職。 マーケティング・消費者行 動における理論と実践の統 合に取り組む。著書に『リ フォームを真剣に考える』 (光文社新書)など。 りたいことを探し出すのは至難の業で 20 18 CEL July 2013 CEL July 2013 19 30 特 集 / 余 暇 か ら 本 暇へ そ の 4 BeyondON - OFF Part 4 学びたい、 に応える現代の寺子屋 ド キュメン ト Document 余 暇 を 、漫 然 と 過 ご すのではな く 、 ﹁ 学 び ﹂を 得 る 時 間 に 充てたい、 さ らには 、学 び を﹁ 奉 仕 ﹂につな げ たい、 と 考 え る 人 た ち がいる 。 1 9 5 0 年 代に生 ま れ 、 広 く 学 び を 提 供 す る 場 所 と して 定 着 し た カルチャー・センター と 、 近 頃 話 題の芸 術 祭 ボランティアに 取 材 し 、 学 びの現 場 を 探った 。 カルチャー・センター の書き方、エッグアート、テンペラ画、 ヨーロッパの家庭料理、ミステリー 21人に上る︵*︶ 。 万7824、受講生は123万50 約6割を占める。 中高年の割合が最も多く、 歳以上が が多く、男性は %ほど。年齢別では を見ると、圧倒的に女性、特に主婦層 あたり1万人を超える受講者の男女比 400に上る講座のほんの一部だ。月 の小川麻乃先生によれば、生徒数17 った とつが、カレッジ内に工房を構える﹁ル い貴重な講座も用意している。そのひ 知る人ぞ知る、ここでしか体験できな った講座を提供してきた。その一方で、 代のブームを捉え、市場のニーズに沿 1979年の設立以来、それぞれの時 池 袋 コ ミ ュ ニ テ ィ・カ レ ッ ジ で は、 成術︵新・仕事の学校︶⋮⋮。これら はじめての映画づくり、スポーツ吹矢、 まる人たちの共通点は、とにかく﹁本 5人のうち、始めて 年齢、性別、学歴、職業に関係なく、 胡弓に親しむ、伝わるプレゼン資料作 を愛している﹂こと。時間と手間とお 数、 学ぶことで叶う夢 リユール﹂講座。ルリユールとは、本 金をかけ、愛読書を世界に1冊しかな るという。受講生には仕事を持つ人が はすべて東京都心にある大手カルチャ をばらして製本し直し、革や紙で新た い特別な本に仕上げる。これぞ読書家 多いが、貴重な日曜日の時間を惜しみ 広く万人に開かれた学びの場、それが な装丁を施すヨーロッパ伝統の手作り が願う、究極の贅沢なのかもしれない。 なく練習に注ぎ込んでいる。何が彼女 ー・センター﹁池袋コミュニティ・カ 製本技術だ。なかでも本格的な﹁パッ もうひとつ長く受講生に支持されて たちをそこまで惹きつけるのか。 レッジ﹂で開かれているもので、約1 セ・カルトン﹂クラスでは、週1回の い る の が、日 本 で も 有 数 の バ レ エ 団、 ﹁バ レ エ は 小 さ い 頃 か ら の 夢 で し た。 の数は、全国1024カ所、講座数は レ ッ ス ン で3 冊 を 並 行 し て 進 め る が、 松山バレエが指導する講座だ。大人が 年目 乾かしたり圧をかけたりという工程が バ レエを習うことがまだ一般的でなか の歳月を要するという。この講座に集 ︻ ルリユール講座 ︼ 23 年以上の人が半 年前に開設され、指導歴 以上もあり、仕上げるのに2∼3年 ﹁カルチャー・センター﹂である。そ 取材・執筆/真田 邦子 撮影/川田 雅宏 学びの時間を楽しむ SpecialFeature/ 年を超える人が約4分の1もい ケースの材料をバンドで仮 組み立てし、本に合う大き さを検討する岡本幸治講師 と受講生︵上︶ 。大型プレス 機やかがり台など特殊な道 具や材料が整った工房で、ひ とりひとりの作業状況に沿 った個人指導が受けられる。 ︻ バレエ講座 ︼ 右/日曜午後の﹁松山バレ エ﹂初級クラス。左/毎年、 カレッジの全ダンス講座が 参加する受講生公演が開か れる。総勢100名からな る松山バレエの﹃くるみ割 り人形﹄がトリを務めた。 卵の殻に装飾するエッグア ートや、テンペラ画といっ た本格的なアートも学べる ︵右 / 佐 藤 文 講 師の 作 品。 左/美術家・石原靖夫講師 によるマルティーニ﹃受胎 告知﹄部分・復元模写︶ 。 上/タイトル文字だけでな く天にも金が施してある。 幻想的な物語にふさわしい、 豪華な装丁。右/2色使い のシックな革の間から覗く、 カラフルな見返しが美しい。 ともに受講生の作品だ。 20 CEL July 2013 CEL July 2013 21 10 27 20 50 15 18 60 お気に入りの本に 特別な装丁を施し、 世界に一冊だけの書物を つくりあげる。 に聞き取りができ意思疎通がはかれた じない環境に身を置いたが、想像以上 こ と に 驚 い た。 ﹁言 葉 を 習 う こ と で そ いったんは子どもに託してみたものの、 やっぱり自分でやってみたくて﹂と話 の土地や人への興味が深まり、それが その多彩さや内容の密度を進化させて びとの学びの情熱を丁寧にすくい取り、 めて驚かされる。商業施設として、人 講座で行われた事実であることに、改 これらがみなカルチャー・センターの な指導で驚くべき上達を遂げた外国語。 度本格的な舞台をつくるバレエ、熱心 る講座、何年も練習に通いつつ年に一 時間をかけ凝った製本技術を習得す 学びへの需要と供給 実感しています﹂ ︵志田さん︶ 本業の広がりにも大きくつながったと すのは、5年目の村上孝子さん。毎年 ︻ 外国語講座 ︼ きたからであろう。 ﹁カルチャー・センターは、ただ学ぶ だけでなく、日常の職場や家庭の人間 関 係 と は 別 の 新 し い 仲 間 を つ く る 場、 また新たな自分の可能性を発見する気 づきの場でもあります。ここでの講座 礼節を重んじる韓国の身体表現の美し まずは韓国語の音の響きに、続いて 心です。私も普段は教える身ですから、 音チェックをしてくださるほど指導熱 気にかけてくださり、時には電話で発 先生は、仕事で休みがちな私のことも 仲間と共に楽しく習う。カルチャー・ 自発的な学びの意欲に応えた教室で、 ィ・カレッジの井上竜文さん。 います﹂と語るのは、池袋コミュニテ ョンを占めている方も多くいらっしゃ が、生活のなかでとても重要なポジシ さに惹かれ、言葉を学ぼうと思ったと センターは、日本の余暇を彩る〝現代 琉球舞踊家の志田真木さん。 講師の熱心な指導により、 1年ほどで韓国語がかなり 上達したという。右は、テ ジョンの大学で学生や先生 らとともに行った、琉球舞 踊のワークショップの様子。 2月の発表会では、始めて5カ月の新 人からベテランまでが一致団結して舞 台をつくりあげる。諦めていた夢が叶 う、初心者でも上級者と共に舞台に立 てる、その喜びが厳しく激しい練習の モ チ ベ ー シ ョ ン に な っ て い る。 ﹁人 間 の体は、いくつになっても応えてくれ ます。自分の常識を超えて夢は実現で き る と い う こ と に、バレエを通して気 づいていただきたいですね﹂︵小川先生︶ 熱血授業で 韓国語に 目覚める 余暇を使った学びで一般的によく知 られるのが、英会話をはじめとする語 学。近年では、韓国文化のブームに後 押しされた韓国語人気が続いているが、 琉球舞踊家の志田真木さんも、たくさ んの映画や音楽に触れたことが学びの いう。最初は独学で始めてみたものの、 語学だけでなく、教師としての姿勢ま の寺子屋〟的存在といえるのかもしれ きっかけとなった。 やはり正しい発音を学びたいと一念発 世界各地で公演をする機会も多い志 で学ばせていただいている気がします﹂ ねんしゆつ 田さんだが、韓国語を習い始めて ない。 起。公演や指導など忙しい仕事の合間 ミ先生が教えるクラスの扉を叩いた。 月後、公演やワークショップのために ︵*︶経済産業省﹁平成 年特定サービス産業実態調査︵確報︶ 能教授業 事業従事者5人以上の部﹂より 教養・技 の時間を捻 出 し、約1年前に、ソ・ボ ﹁クラスの人とは、一緒に復習をし次 韓国に1カ月滞在した。韓国語しか通 カ の授業に備えるなど助け合っています。 アートと地元に貢献する、 新しい学びのかたち 近年、日本各地で開催されるように から与えられたことをやるというだけ ろから来ています。ですから、事務局 は、自主的に何かやりたいというとこ 極的に芸術祭の運営に携わるようにな その結果、地元の人びともさらに積 隊だという。 に重要な役割を果たしたのが、こえび 芸術祭ボランティア なった芸術祭。なかでも広く人気を集 では、皆さんのやる気を十分に生かせ 0年に第1回が開催された瀬戸内国際 内 国 際 芸 術 祭﹂︵香 川・岡 山︶だ。2 0 1 ら提案するという発想をしていただ ま せ ん。自 分 で 考 え て や る、自 分 か 芸術祭の制作に参加することで、地元 っ て き て い る。 ﹁空 い た 時 間 を 使 っ て が深夜にまでなって大変でしたが の人も元気になった。開催直前は制作 さん︶ ︵笑︶﹂。 ﹁小豆島町コミュニティアート く の が 大 切 だ と 考 え て い ま す﹂︵甘 利 上の人が訪れた。 シニア世代では、作品ガイドなどの に活動するのも、こえび隊の重要な役 元のお祭りに参加し、島の方々ととも 女 木︵め ぎ︶島︵香 川 県 高 松市︶の大祭。こえび隊が 加わることで、地元の祭り もふたたび活性化した。 見た思いがした。 もなる。現在の新しい形の﹁学び﹂を のためにも、もちろん芸術祭のために 自分が楽しみながら学び、そして地元 な か な か 他 で は で き な い 経 験 だ ろ う。 品を作りあげることは、 作家との共同作業で作 作に積極的に関わって、 い て い る 人 が 多 い。制 なモチベーションで動 こえび隊にはそのよう 自分から何かを得たい、 自 分 か ら 学 び た い、 地元の男性は、このように語った。 プロジェクト﹂で作品解説をしていた 万8000人以 えち ご つ ま り アートトリエンナーレ﹂︵新潟︶と﹁瀬戸 めているのが﹁大地の芸術祭 越後妻有 取材・執筆/編集部 28 チームリーダーを任せられる人も多い という。 会期中は作品鑑賞の受付がボランティ 割です﹂ ︵甘利さん︶。聞けば、前回の Step1 Step2 Step3 Step4 竹を切るこえび隊のメンバー。 作品が徐々に姿を現してきた。 22 「こえび隊の面々と地元の 方々が日に日に仲良くなって いくのを見るのは、 とてもうれしいです」 芸術祭には、国内外 働き盛りの 女性が活躍 これらの芸術祭で重要なのが、運営 をサポートするボランティアの存在で ある。瀬戸内国際芸術祭でも﹁こえび 隊﹂と呼ばれるボランティアが活動し ている。 ﹁芸術祭のボランティアというと学生 代の が多いように思われがちですが、こえ び隊の中心となっているのは、 今、日本中の離島で過疎高齢化が進 地元住民との協働 そう語るのが、こえび隊事務局長の甘 んでいるが、瀬戸内の島も例外ではな 女性、つまり働き盛りの世代なんです﹂ 。 利 彩 子 さ ん。現 在、こえび隊に登録し い。 ﹁こ え び 隊 の 活 動 は、作 品 制 作 の ア活動の中心だが、芸術祭開催前には、 芸術祭から今回の芸術祭までの間、島 手伝いや受付だけではありません。地 作品制作のサポートをするボランティ 歳だ。 アに積極的に参加する人も多い。 の住民と芸術祭との信頼関係を築くの 人。 うち7割が女性、平均年齢は ているボランティアの人数は約4000 ﹁こえび隊の皆さんのモチベーション AmariAyako 芸術家との作品制作 台湾のアーティスト、 ワン・ウェンチーの 竹を使った作品『 小 豆 島の光 』の制 作でも、 こえび隊が重 要な役 割を果たした。 英、仏、伊、中などの 語学講座が揃うなか、 韓国語の人気が とみに高まっている。 10 22 CEL July 2013 CEL July 2013 23 30 32 急ピッチで作品を仕上げる。 芸術家とこえび隊の協働の結晶。 93 特 集 / 余 暇 か ら 本 暇へ そ の 5 ド キュメン ト Document 取材・執筆/野村 麻里 撮影/名取 和久 さ が いく ま 活動のこと。ボランティアを提供する スキルや知識を提供するボランティア ︶ ﹂に 由 来 す る 通 り、社 会 的・ publico 公共的な目的のために、職業で培った のNPOが存在する点である。このN NPOとの間をつなげる、もうひとつ 側︵プロボノワーカーと呼ばれる︶と もうひとつの違いは、ボランティア 役務だからだ。 プルートファウンデーション﹂の存在 プ ロ ジ ェ ク ト を 運 営 す るNPO﹁タ ッ ンシスコへ赴いた際、偶然にプロボノ していた嵯峨さんは、仕事でサンフラ ながら地域通貨を広めるNPOで活動 年のこと。当時シンクタンクに勤務し ビスグラント﹂だ。代表の嵯峨 生 馬さ 先は、 NPO団体である。 POが双方の状況を把握し、マッチン を知ることとなる。 ケティング、事業戦略といった、相手 プロボノが従来のボランティアと違 グすることでプロジェクトがスタート ﹁仕事のスキルを生かしたボランティ “probonopublico” SagaIkuma 社会的・公共的な目的 のため、職 業で培った スキルや知識を提供す るボランティア活動の こと。語 源 は、ラテン 語の﹁公共善のために ︶ ﹂ ︵ pro bono publico に由来する。 プロボノワ ーカーと呼ばれる提 供 者が、 主にNPO団 体へ 向 け、 マーケティングや 業 務フロー作 成 、 Web 制作などで支援を行う。 企業での取り組みも増 えている。 [プロボノ] ﹁プロボノ﹂。 それは、最 近日 本でも 注 目 を 浴び始めた 新しい社 会 貢 献の手 法だ。 いったいそれはどんな活 動で、 どんなやりがいが感じられるのだろう 。 すでに実 践している人たちの 声 を 聴いてみよう 。 社 会 貢 献の新しいかたち プロボノ ﹁プロボノ﹂とは、その語源であるラ う点は、いくつかある。一般的なボラ する。 アというのは、私にとって目から鱗の んがプロボノを知ったのは、2004 ンティアでは、職業やキャリアは問わ アメリカから始まったというプロボ 発想でした。そしてタップルートの働 方のNPO運営の根幹に関わる重要な れないが、プロボノでは、プロフェッ ノ。日本におけるプロボノマッチング テン語の﹁公共善のために︵ pro bono 専門的な ノウハウ・労働力の 提供 24 CEL July 2013 25 CEL July 2013 日本のプロボノマッチン グ の 草 分 け、NPO 法 人 「サービスグラント」代表 理事。日本総合研究所を 経て現職。1974 年生。 個人 ショナルなスキルが求められる。なぜ MatsudaNaoko Pro bono worker 登録 きによって、たくさんの成果が上がっ 嵯峨生馬さん 5 のNPOで草分け的存在なのが、 ﹁サー プロボノマッチング団体 サービスグラント代表 Part なら、必要とされるのが、広報やマー 松田直子さん 個人プロボノワーカーとし て、NPO法人「荒川ク リーンエイド・フォーラ ム」営業資料作成支援プロ ジェクトに参加した。 プロボノワーカー 法人 案内 紹介 プロボノワーカー プロボノマッチング団体 NPO Pro bono matching organization 依頼 Nonprofit organization NPOと プロボノワーカーを つなぎ支援する 事務局 新しい社会貢献のありかた「プロボノ」の仕組み BeyondON - OFF SpecialFeature/ ていることにも驚きました﹂ 従 来 は、 NPOに 関 わ り た い と い う 仕 組 み づ く り ま で を 担 う 人 は 少 な く、 ボランティアの人は多くても、運営や NPO運営の難しさを痛感していた嵯 峨 さ ん は、2 0 05 年 に 有 志 を 募 り、 サービスグラントを立ち上げた。現在、 ジャーが全体のスケジュール調整や管 トマネージャーをひとり決め、マネー は約半年。チームのなかでプロジェク められる。1チーム5、6人で、期間 プロジェクトは、通常、チームで進 る。 7 0 0 人、 NPOは 約 1 2 0 団 体 に 上 でどのくらい力があるかを知るチャン ている。プロボノは、自分が外の世界 時々集まっては遊びに行く関係が続い ボ ノ ワ ー カ ー の チ ー ム メ ン バ ー で、 プロジェクトが終わった今も、プロ に立った。嬉しかったです﹂ きかなど、自分のノウハウがとても役 ロジェクトでは、どこにどう営業すべ たことはありませんでした。でも、プ 自分を何かのスペシャリストだと思っ の 業 務 を 理 解 す る 必 要 が あ り ま し た。 ですから、まずは私たちがキズキさん も 一 般 の 塾 と は 事 情 が 違 い ま す よ ね。 ﹁キズキさんの場合、学習塾といって 把握ができなくなっていた。 まで、運営にあたっての煩雑な業務の つれ、書類の整理から金銭のやりとり キズキでは、生徒の人数が増えるに 彼が他のメンバーを選出した。 んがアカウントディレクターに選ばれ、 に応募した 加した。会社のプロボノ募集の説明会 IchikawaKazuko 理をする。各自は終業後や週末の時間 スという。 そして業務フロー設計を成果物にする 登録しているプロボノワーカーは約1 を使って作業し、コミュニケーション ﹁なぜボランティアするの?と聞かれ 人のなかから青木さ にはメールやオンライン会議のツール たら、タダで勉強できて役にも立てる。 と決め、提案したのです﹂ ︵青木さん︶ 加した。 の営業資料作成支援プロジェクトに参 人﹁荒川クリーンエイド・フォーラム﹂ 京湾に注ぐ荒川の清掃を行うNPO法 スグラントへ、2011年に登録。東 していたが、研修の際に知ったサービ ケティング研修プログラムで学んだり ジェクトには、社員の青木卓さん、市 O法人キズキ﹂の業務フロー設計プロ を経験した人向けの個別指導塾﹁NP つだ。不登校やひきこもり、中退など 本マイクロソフト㈱もそのうちのひと ノに参加するケースも増えている。日 最近は、企業でチームを作りプロボ とにもなったようだ。 思いがけず社員の結束が高められるこ しかし結果的には、プロボノ活動で 川さん︶ に時間がかかってしまいましたね﹂︵市 バ ラ︵笑︶。お 互 い の 認 識 を 揃 え る の 図をつきあわせてみると、みんなバラ テ ィ ア も た だ 闇 雲 に や っ て は だ め で、 直 し、ひいては生き方をも見つめ直 す し い の は 運 営 の 方 な ん で す。今 は フ り目がいきがちなんですが、実際に難 間というのは、つい現場の支援にばか ﹁僕らのようにNPOを立ち上げる人 働することで、社会のさまざまなこと ワークが広がる。相手方のNPOと協 る こ と が で き る。職 場 以 外 の ネ ッ ト 残すようだ。己のスキルの汎用性を知 いないが、与える側にも多くの成果を プロボノは社会貢献のひとつには違 性が隠されている気がしてならない。 念に、さまざまな変化をもたらす可能 ラ ン テ ィ ア﹂ ﹁個 人 と 公 共﹂な ど の 概 と 余 暇﹂だ け で な く、 ﹁ビ ジ ネ ス と ボ プ ロ ボ ノ と い う 働 き 方 に は、 ﹁仕 事 きっかけになる場合もあるかもしれない。 ロー図ができたおかげで、何をすれば YasudaYusuke いいのかがすぐにわかるようになりま る、そんな感じです﹂ と顔をほころばせる。 ﹁私 は 将 来、リ タ イ ア し た ら ボ ラ ン ティアをしようと思い、機会があるた びにいろいろなボランティアに参加し ていまして。自分の特技を生かして支 援 で き る な ら、そ の 方 が 受 け る 側 に とってもいいと思いましたね。ボラン 支援を受けた「NPO法人 キズキ」の代表。「フロー 図のおかげでスタッフが共 通認識を持てて、業務が円 滑になった」と喜ぶ。 への問題意識が芽生える。社員同士の ?! MatsuyamaHidekatsu ある程度、組織化されている方が役に 立 つ。プ ロ ボ ノ は 組 織 化 さ れ て い て、 すばらしい在り方だと思いますよ﹂︵松 山さん︶ 青木さんと市川さんは﹁自分のでき ることで他の方のお役に立てるなら﹂ という気持ちで応募したという。実際 にやってみて、 ﹁キズキさんの問題は、始めたばかり のベンチャー企業なら、どこにでも起 こりうる問題。このプロジェクトで私 たちがやったことは、他の企業や分野 に も 応 用 で き る と 思 い ま し た﹂ ︵市 川 さん︶ 。 プロボノで 社会が 変わる つながりが強まる。自分の働き方を見 そうしてできあがったフロー図につ した。なのに、各自が担当したフロー じやり方を共有していると思っていま ﹁私たちは同僚ですから、ある程度同 外な問題が生じた。 ∼ が使われる。 一石二鳥にも三鳥にもなるのよ、と答 誰もが スペシャリスト 大手電機メーカーに勤める松田直子 さんは、もともとNPOの活動に強い 興味があり、個人的にNPOのマネジ 30 川和子さん、松山秀勝さんの3人が参 メ ン ト の 本 を 読 ん だ り、 NPOの マ ー 20 ﹁私は営業職を長くやっていましたが、 広がる企業の プロボノ活動 実際にフロー図を描いてみると、意 「業務フロー図作成では、 業務を把握し理解を深める ため、何度も『NPOキズ キ』に足を運び、ヒアリン グを重ねました」 えています﹂ 市川和子さん 安田祐輔さん プロボノワーカー フロー図を前に談笑する NPO代表とプロボノワー カー。制作には、マイクロ ソフト社製品の「エクセ ル」や「パワーポイント」 が活躍したという。 SpecialFeaturePart5/Document プロボノワーカー NPO した。気がつかない間に楽になってい 祐輔さんは、 い て、 NPO法 人 キ ズ キ の 代 表、安 田 「プロジェクトの期間中 は、メンバー間でミーティ ングを週に一度。作業は終 業後や週末時間を利用して いました」 26 AokiTaku CEL July 2013 CEL July 2013 松山秀勝さん アカウントディレクターと して日本マイクロソフト㈱ のプロボノチームをまと め、フロー図設計を提供し た。 27 プロボノワーカー 青木 卓さん 特 集 / 余 暇 か ら 本 暇へ そ の 6 エッセ イ Essay タイルや働き方の構築に強く結びつき シェアすることが、その人のライフス の で あ っ た。し か し 現 在 は、生 活 を と気づかされた。文字通り、 ﹁あの人い で、 ﹁稼ぐ﹂にオフタイムはないのだ、 間、365日という限られた時間の中 く﹂活動を、2008年より﹁住み開 けに無理なく他者へとちょっとだけ開 ペースを、自分の好きなことをきっか ﹁自宅を代表としたプライベートなス ワークが生まれてくる過程で、筆者は として、第一の場所︵ファーストプレ い。都市生活者にとって必要な居場所 し て、 ﹁サ ー ド プ レ イ ス﹂を 紹 介 し た 考えると、もはやどこからどこまでが トPCを持ち込み仕事をしたり、打ち り︶ 、時に職場としても活用した︵ノー り、風 呂 に 入 っ た り、ご 飯 を 作 っ た いっている様を語ってきた。そこから 二分するボーダーそのものが溶解して 二つのキーワードから、余暇と労働を ﹁稼ぐ﹂と﹁サードプレイス﹂という 出すきっかけとなった。また我々と同 とができなかった価値観の融合を生み びとが自らの専門性の延長では築くこ いくことにより、異分野・異領域の人 う場。その﹁場﹂づくりを繰り返して 食を共にし、さまざまなことを語り合 まった者同士がゲストを囲みながら飲 一般参加者をホームページで募り、集 ぞ参照されたい。 キャプションで紹介をするので、どう り組む芸術文化実践について、写真と のレッスン的な思考、および筆者が取 テーマである﹁本暇﹂を体現するため れ る﹁ポ ス ト 余 暇﹂、す な わ ち 本 特 集 う。次頁では、いまこの時代に求めら を発明していくことにつながるであろ 社会貢献の有り様をも考えるきっかけ い働き方、そして仕事を通じた新たな ア サ ダワ タル SpecialFeaturePart6/Essay BeyondON - OFF ︵*1︶語 源 由 来 辞 典 http:// gogen-allguide.com/ka/kasegu. ︵株式会社ルックバイス︶ より。 html ﹃ 日本 語 源 大 辞 典 ﹄︵ 前田富 祺 監 修、 2005年、 小学館︶ にも同様 の記述が見られる。 ︵*2︶ アサダワタル ﹁築港ARC 多 分 野 を 繋 げ るアートリソース 活用とプロジェクトメソッド創出﹂ ﹃アートイニシアティブ ││リレ ーする構造 ﹄︵ BankART 1929 編、 2009年、 BankART 出 版、 180∼183頁︶ アサダワタル ﹁日常編集﹂ ﹃ 編集進 化論 ││ edit するのは誰か?﹄ ︵ 仲 俣 暁 生 編、 2010年、 フィル ムアート社、 121∼138頁︶ ︵*3︶﹃ 住み開き ││家から始 めるコミュニティ﹄︵アサダワタル著、 2012年、 筑摩書房︶ 写真提供= 八戸ポータルミュージアム はっち Twitter.@wataruasada あさだ・わたる/1979 年、大阪府生まれ。日常編 集家。音楽演奏をはじめ、 分野を超えたさまざまな ﹁場﹂や﹁事﹂を 企 画 し て 演出し、それらに関する文 章を書き講演を行う。ユニ ット﹁SjQ﹂ドラム担当。 著 書 に﹃住 み 開 き ││ 家から始めるコミュニティ﹄ ︵筑摩書房︶など。神戸女 学院CDP非常勤講師、滋 賀県立大学大学院環境科学 研究科博士後期課程在籍。 SpecialFeature/ 豊かな余 暇 を 生 きるために欠かせないのは、 。 家 と職 場 以 外の、も うひとつの居 場 所 ―― 自 宅の一部 を 開 放しコミュニティとして提 供 する﹁ 住み開 き ﹂や、 芸 術 文 化の﹁ 場 ﹂をつくるユニークな催しなど、 アサダワタル氏が手がけてきたさまざまな 〝日 常 再 編 集 〟 の試みから、 余 暇の新しい可 能 性 を 探ってみよう 。 の瞬 間 も 自 分は動 き〝何か〟を常に稼 といったニュアンスではなく、 ﹁いまこ いでいる﹂という﹁意識﹂の問題なのだ。 つも忙しそうにバタバタしているね﹂ と考えられる。また、稼ぐの﹁かせ﹂ この意識を持った状態で考えると、 えることから、かせのように仕事に は﹁か せ︵日 迫︶﹂の 意 味 で、昼 夜 ﹁働く﹂ ︵労働︶と﹁休む・遊ぶ﹂ ︵余暇︶ 励むことを﹁かせぐ﹂といったもの に迫り、止まる所を知らないことを つつある。つまり文化的な価値観や社 また、余暇を語る上で重要な言葉と 家や職場以外の、 第三の場所 に感じられてくる。 との間にあるボーダーが、とても曖昧 いったとする説もある。 このように、稼ぐという言葉は、も ともとは日夜仕事に励むことを表して おり、お金を得ることは後世になって 派生した二義的な意味であったことが 時 わ か る。こ れ は ま さ に 筆 者 が 語 り た 会的な人脈を獲得するためのシェアに き﹂ ︵*3︶と 名 付 け、そ の 実 践 を 提 か っ た こ と で、語 源 的 に 見 て も 移行しつつあるのだ。筆者は2006 唱する取り組みを始めた。このように 私生活で、仕事で、趣味で、といった 合 わ せ 場 所 に し た り︶。あ わ せ て、こ 考 え る べ き こ と は、そ も そ も こ の じように、生活や仕事をシェアする環 6 新しい ﹁居場所﹂から余暇を再編集する 先だってある企画で﹁いろいろ〝か せ ぐ︵稼 ぐ︶ 〟﹂と い う テ ー マ の ト ー クをした。人はお金だけじゃないいろ いろな価値を稼いでいる、それに対し 意識的になることで生き方・働き方が 変わるのでは? ︱︱こんなことを参 加者と語り合いつつ、筆者自身の仕事 の変遷を紹介したのだが、まずもって この﹁稼ぐ﹂という言葉の語源が気に なったので調べてみた︵*1︶ 。 稼ぐという言葉は︵中略︶紡いだ 糸を巻き取る道具の﹁かせ﹂に由来 する説がある。紡いだ糸をかせに巻 くことを﹁かせぐ﹂という。そして、 かせは休みなく動いているように見 イ ス︶が﹁家﹂ 、第 二 の 場 所︵セ カ ン ド プ レ イ ス︶が﹁職 場﹂ 、そ し て そ の 二つの中間地点にある第三の場所、す なわち﹁心のよりどころとして集う場 所﹂を﹁サードプレイス﹂と呼ぶこの 年、大阪市北区南森町の住居用マ ンションの一室にて﹁208﹂という ∼ スペースを数人の仲間たちと運営して ボ ーダー自体がいままさに日々更新さ れ続けているのだ。 のメンバー同士が持っているスキルや 編集する知恵が今後求められていくの ﹁余 っ た 暇﹂と い う 概 念 そ の も の を 再 ではないかということだ。それは、 ﹁余 人脈をシェアする意味も込めて、月に 招 い て の ト ー ク サ ロ ン を 開 催。メ ン 暇﹂そのものの意義だけでなく、新し 境をオーガナイズする者同士のネット バー自らがパスタを作り、限定 名の 一度、メンバーの推薦によるゲストを を持ち、時に家として使い︵泊まった り組みであった。メンバーは各々が鍵 アハウス兼シェアオフィスとしての取 ﹁ポスト余暇﹂を 生きる試み など6人ほどのメンバーが集う、シェ い た。ラ イ タ ー、 Web デ ザ イ ナ ー、 翻訳家、百貨店や映像制作会社の社員 10 考え方は、1989年に米国の都市生 活学者、レイ・オルデンバーグによっ て提唱された。日本においても現在、 ほっこりくつろげるお洒落なカフェ や、音 楽 や 絵 画 が 楽 し め る ア ー ト ス ペ ー ス、地 域 の 集 い の 場 と し て の コ ミュニティカフェなど、さまざまな形 年間、このよ 態のサードプレイスが存在している。 実際、筆者自身もこの うなスペースの運営にいくつも関わっ て き た︵*2︶ 。そ の 中 で、と り わ け こ こ 数 年 感 じ る こ と は、 ﹁サ ー ド プ レ イスが果たす社会的機能が、ファース トプレイスやセカンドプレイスの中に 〝織り込み済み〟になってきている﹂ ということだ。噛み砕いて言えば、家 や職場自体に、家族や同僚を超えた新 たなコミュニティが生まれつつあると いうことである。例えば、シェアハウ スやシェアオフィス、コワーキングス ペースといった言葉を、昨今よく耳に されないだろうか。 家族以外の複数人と共に暮らすシェ アハウスの存在は、とりわけ新しいも のではない。しかし、筆者の学生時代 であった1990年代後半∼2000 年代初頭におけるシェアハウスの存在 意 義 は、 ﹁一 緒 に 住 む と 安 く 住 め る か ら﹂という経済的な理由が圧倒的なも AsadaWataru Part 28 CEL July 2013 CEL July 2013 29 24 15 10 出会いとコミュニケーションが、 新しい芸術文化の「場」 をつくる Project 4 ライブパーティー 「Club SHIDAX by KARAOKEDISCO!!」 3 2 Project ボーダレス・アートミュージアム 1 Project Project ワークショップ ワークショップ 「コピーバンド・ プレゼントバンド」 「NO-MA」 実践「住み開き」。 時間も、 空間も、 共にシェアする ――筆者の試みから 「あなたの音楽を 傾聴します」 Project 4 湖と猫(仮称) (滋賀県大津市) スナック風 カラオケで 出会いを演出 表現の普遍を 観る者に問う 思い出の曲を 子どもたちの 演奏で贈る 音楽 CD を 介して記憶を 分かち合う 日本人の余暇的趣味の代表・カ ラオケをテーマに、カラオケボ ックスを借りきり本気でイベン トをやった一例。参加者はプロ のクラブDJ選曲のJ-POPで踊りな がら歌いたい曲をリクエスト、 順にマイクを回していく。カラ オケボックスなき時代の“スナ ックスタイル”を現代的に採用、 歌を通じ見知らぬ人同士の出会 いの場を創出した。 近江八幡市にある昭和初期の町 家を改装し2004年6月に開館した。 福祉分野が生んだ美術館のユニ ークな試みとして、福祉施設で 生活する知的障がい者の斬新な 美術作品と、現代美術の気鋭の 作品を並列に展示。福祉の世界 の“余暇活動”で生まれた造形 物は、その枠組みを超え、広く 社会に表現の可能性を提起。筆 者も運営委員の一人。 高知県四万十市西土佐小学校で 2012∼13年に開催。児童クラブ の高学年児童60人が「自分と同 じ年くらいの時に最も好きだっ た音楽と、その理由」を家庭内 インタビュー。結果から選曲し、 コピーバンドを結成。最後は参 観日を兼ね家族に演奏を贈る。 地元のバンド経験者が指導する など、普段の授業にない地域と 家族と学校の出会いを演出。 社会的マイノリティの立場に置 かれた人をはじめ、多様な背景 を持つ人びとが参加し、各々が 選んだCDと曲を流しながら少し ずつ言葉を紡いでいく。2012年 に渋谷ギャラリー・ルデコで開 催された。肩書きや容姿に対す る先入観を可能な限り取っ払っ た状態でお互いに出会うこのよ うな表現活動は、これからの余 暇にも求められるのでは。 主催:カラオケボックスの新しい使い方 実行委員会 運営:社会福祉法人滋賀県社会福祉事業団 主催:「トヨタ・子どもとアーティストの出会い in 高知」実行委員会 主催:津田塾大学ソーシャル・メディア・センター SpecialFeaturePart6/Essay 「場」 をつくる。 美術や音楽が 人びとの間のボーダーを取り去り、 コミュニケーションをつないでいく。 芸術文化を生み出す さまざまな「サードプレイス」の提案。 31 CEL July 2013 改修した 家を自ら “住み開く” 筆者の自宅兼オフィスであるス ペース。2012年の春、大阪から 琵琶湖に近い大津市の長屋に転 居し、築50年ほどの長屋を建築 に携わる友人たちとともにプチ リノベーションした。時折、 Facebookなどで参加を呼びかけ てトークイベントを開催。大阪 と東京の知人と、滋賀で活動す る知人とをつなぐ役割を少しず つ実践している。 3 Project 千代の家 (大阪市福島区) 写真で 人びとを つなぐサロン 長年の間、ご主人と写真館を経 営してきた藤井千代栄さん。還 暦を迎え、館を閉めたら世間と のつながりが保てなくなると考 え、元写真スタジオだった店舗 付住宅を、2010年よりサロンに 開放した。これまでのキャリア を生かして「写真整理楽」とい うワークショップを目玉に、さ まざまな世代が交流する場づく りにいそしむ。 2 Project 2畳大学 (大阪市中央区) 下町の一角に 開講した 小さな学び舎 職業訓練施設で企画コーディネ ーターとして働く 30 代前半の梅 山晃佑さんが、長屋の 2 畳間を 「大学」として 2008 年より開放。 仕事の合間に、誰もが講師・生 徒になれる自宅大学を開講し「学 び」や「働き方」をテーマに一 貫した社会活動を行う。また、 梅山さんは会社の事業として 2012 年より自宅近所でコワーキ ングスペース「往来」も運営中。 1 Project 208 南森町 (大阪市北区) 「住み開き」 誕生の地 筆者がはじめに取り組んだ「住 み開き」スペース。シェアメン バーの推薦による月例ゲストト ークサロン「SHOWCASE」は合 計65回にまで及び、「住み開 き」というコンセプトはこの実 践から生み出された。2010年以 降は、常連だった参加者によっ て古本屋兼サロンとして運営さ れ、人的ネットワークが引き継 がれている。 「住み開き」 好きなことをきっかけに、 プライベートな スペースを、他者へ向け、 ちょっとだけ開いてみる。 いったいどこからどこまでが 私生活で、仕事で、趣味で、 というボーダーが、 日々更新され続けている。 CEL July 2013 30 Essay もしくは短時間勤務の選択を余儀なく が時間的制約を持ちつつも個性や能力 小室 淑恵 Beyond ON - OFF Special Feature / http://work-life-b.com/ こ む ろ・よ し え / ㈱ ワ ー ク・ライフバランス代表取 締役社長。900社以上の 企業へのコンサルティング 実績を持ち、残業を減らし て業績を上げる﹁働き方の 見直しコンサルティング﹂ の手法に定評がある。二児 の母の顔をもつ。内閣府の 委員など複数の公務を兼任。 ﹃6時に帰るチーム術﹄な ど著書多数。2013年4 月よりNHKのニュース番 組﹁N E W S W E B﹂の レギュラーナビゲーターと して生出演。 メイン・サブと役割を分け、 共有ツールを工夫すること で情報を共有、時間的負担 を減らす。 エッセ イ される確率が高くなるのです。 をフルに発揮して、チームで力を合わ 担当に情報が集約、一見効 率がよさそうだが、急な休 みに対応できない等様々な リスクがある。 その7 人、恋人と一緒に過ごす十分な時間を ーム﹂で情報や仕事を共有しながら成 国 勢 調 査︶が 出 て い ま す。そ の た め、 せ て 成 果 を 出 す こ と が 求 め ら れ ま す。 「1案件・2人担当」制 特 集 / 余 暇 か ら 本 暇へ 取れないうえに自分の時間もほとんど このように考えると、今潤沢にある 果を上げることのメリットについて取 男性で未婚でしかも兄弟がいない人は、 つまり、チームの全員が一定の時間内 7 「1案件・1人担当」制 成果を 出し続ける 秘訣 ない状態です。一度﹁ライフ﹂の時間 よ う な 感 覚 で い る﹁仕 事の時 間﹂も 短 資﹂と言い換えてもいいかもしれません。 う 視 点 で す。将来の自分に対する﹁投 間を創り出し、効果的に使うか、とい れます。これから大切なのはいかに時 いことが山積み、という状況も予想さ プライベートの時間もやらねばならな くなりますし、﹁余暇﹂と い わ れ て い る 年で到来する﹁大 一匹 狼型から チームで 成果を上げる チーム型へ み と し て、仕 事 の 効 率 化 が あ り ま す。 時間を創り出すために必要な取り組 ュニア世代です。 1つ1つの作業にかかる時間を短くす 歳以上︶に突入し 団塊ジュニア世代は共働きが多くパ り上げましょう。 ます。彼らを介護する役割を担う可能 ートナーも仕事を持っており、介護施 切持たず、チームの誰よりも成果を上 これまでの日本は、時間的制約を一 ることももちろんですが、今回は﹁チ 設も満員であるため、自分の親は自分 げてあらゆるスキルでメンバーを圧倒 親の介護の問題が直接降りかかってく かしこれからは、チームの一人ひとり 型 の リ ー ダ ー が 牽 引 し て き ま し た。し 護難民︶に陥る可能性が高いでしょう。 歳は男性が女性より約 して、カリスマ性を備えている一匹狼 ∼ るため逃れようがなく、会社でいかに に存分に力を出せる環境づくりが大切 %高いという調査結果︵2005年 未婚率も また、働いている人の7割は男性で、 で面倒を見なければならない状況︵介 性が高いのはその子どもである団塊ジ 斉に要介護世代︵ 07年問題﹂で退職した団塊世代が一 2020年頃には、いわゆる﹁20 年問題﹂と呼んでいます。 ん。私はこれを﹁もう1つの2007 立するための時間も考えねばなりませ 介護時代﹂によって、介護と仕事を両 また、今後5∼ 時間が 足りなくなる 将来に向けて を踏み出しましょう。 に目を向け、仕事で成果を出しながら A 重要なポストについていようと、休業 Sub Main Sub Main 人生をより豊かに過ごすための第一歩 C 余 暇 を 楽しむために必 要なのが、 どのように余 暇 を 作 り 出 すかということ。 チームで協 力 することで、時 間だけではなく 精 神 的なゆとり も 手に入れる ―― そんな働 き 方が、今 注 目されている。 仕 事 と余 暇が相 乗 効 果で双 方が充 実 する ﹁ワーク・ライフバランス﹂の考 えかたを 通して、 時 間に対 する意 識 を 見 直してみよう 。 C C B B Part SpecialFeaturePart7/Essay B チーム力で時間を生み出そう 今求められる ﹁ワーク・ ライフバランス﹂ 皆さんは、ワーク・ライフバランス ︵以 下、 WLB︶という 言 葉から、ど の ような考え方を連想されますか? ﹁天秤がつりあうように仕事とプライ ベートの﹃バランスをとる﹄という考 え 方﹂や﹁ ﹃ゆ と り﹄を も っ て ゆ っ た りと働くこと﹂など様々な捉え方があ りますが、実はいずれも本来の意味と は少し違います。 WLBと は、 ﹁私 生 活 の 充 実 に よ り 仕 事 が う ま く 進 み﹂ ﹁仕 事 が う ま くい くことで私生活もうるおう﹂という﹁仕 事と生活の相乗効果を高める考え方と 取り組み﹂全般を指します。仕事にお いて高い付加価値を提供し、成果を上 げるためには、広い視野や知識・スキ ル・人脈が必要で、それらは仕事以外 の 場 で 身 に つ く こ と が ほ と ん ど で す。 つまり仕事以外の場を大切にすること で、むしろ短時間で仕事の成果を上げ ることができるようになるのです。 WLBは、どちらかをないがしろに して成り立っているものではなく、双 方をうまく調和させ相乗効果を及ぼし 合う好循環を生み出すことが本来の目 的といえるのです。ワーク・ライフ﹁シ ナジー﹂という言葉のほうがぴったり 来るかもしれません。 10 70 成果 アップ! しかし今、多くの日本人は私生活を 34 A A Sub Main 30 たとえば 1人で仕事を受け持つよりも 2人でアシストし合う方が、 成果があがる 犠牲にして残業や休日出勤、家族や友 CEL July 2013 33 15 Chart 1 ィな判断ができるよう情報の共有を細 わないように心を配ること、スピーデ の共有﹂です。お互いに時間を奪いあ となるのが﹁時間への意識﹂と﹁情報 チームで成果を上げる際にポイント ーム内で共有することで、仕事の内容 る時間を有効活用すること、そしてチ 考える癖をつけることで有限資源であ 仕事の内容と所要時間を常にセットで 朝 メ ー ル・夜 メ ー ル で 大 切 な の は、 ます。 ットもあります。結果として、一人一 るかにスキルアップするといったメリ め、1人で担当していた時に比べては た、お互いに刺激し合って成長するた れ、精神的な負担感も軽減します。ま い﹂といったプレッシャーから解放さ ントには自分しかいないから休めな 準 備 し て お く こ と で、 ﹁こ の ク ラ イ ア かく行うことが大切です。では、具体 はもちろん進捗状況や優先順位も共有 担 当 制 よ り も 楽 に 広 い エ リ ア を カバ ー や問題点を発見してアドバイスを行い 的にどのような取り組みがあるか、ご できることです。お互いが予定を確認 できることになります。 になるのです。 紹介しましょう。 できることで助け合うタイミングも早 時間の使い方の 見直しに 最適﹁朝メール﹂ くなるでしょう。苦手なことを補い合 チーム力向上で える関係性が築けたチームもあります。 ・ライフ 朝メール・夜メールのように、おお ワーク がかりな仕掛けがなくとも、毎日の行 ﹁シナジー﹂ を 生み出そう 動予定を記録・共有し続けることで多 くの発見が得られ、仕事における時間 手 が 少 な く な っ て い き ま す。 ﹁働 く 人 日本社会は今後、少子化により働き 弊社では﹁朝メール・夜メール︵報告 メ ー ル︶ ﹂と い う 手 法 を 使 って い ま す の使い方の工夫が進むケースもあるの 新プロジェクトいよいよ始動します。 た。同行させて頂いてとても勉強になりました。17時辺 りから集中力が途切れ、予定がずれ込みました。 メン フを充実させることによって新たな視 ームで仕事を進める方法に変え、ライ ずつ﹁時間﹂に対する意識を変え、チ こうした事態に直面する前から少し いくでしょう。 両立への必要性がより一層注目されて 約を持つことにより、仕事と私生活の が介護を担う︱︱すなわち時間的な制 ます。さらには高齢化によって皆さん しながら成果を上げることが求められ 状況の中で、仕事への高い意欲を維持 は変わらないか増えている﹂といった は5人から3人になったが、仕事の量 です。 ト1社を2人で担当するなど複数スタ ﹁複数担当制﹂といって、クライアン 入れられることがあります。たとえば、 的ゆとりもチーム制をとることで手に また、時間的ゆとりだけでなく精神 複数 ︵マルチ︶ 担当制で 時間的・精神的 ゆとりを 手に入れる ︵ Chart︶ 2。毎 朝、各 自 が そ の 日 や る べき仕事の項目と、それぞれの仕事に 要 す る 時 間 を 見 積 も っ て 書 き、 Eメ ー ルでチームメンバー全員に送るように します。これが﹁朝メール﹂です。朝 メールを送りあうことで、それぞれの 行動を﹁見える化﹂し、全員で共有す ることができるようになります。部下 から朝メールが送られてきたら、上司 は時間見積もりと優先順位を確認しま す。時間見積もりを見れば、部下が業 務の内容を正しく理解しているかどう かがわかります。 ﹁朝メール﹂に対して﹁夜メール﹂は、 ッフで対応するような体制づくりが考 反省点だけでなく 良いことも報告しよう。 教えてくれた人への フィードバックも大切! 優先順位が 上司の考えと違うということもしばしば。 事前に確認しておけば、 急な残業を減らすことができる 「朝メール」でスケジュー ルと優先度を上司に確認し てから業務を始め、 「夜メ ール」で検証。 C社の訪問時は課長の発言に先方が感激していまし 17:00-17:30 D社向け提案資料作成 点を持ち、ワークでも成果を上げてい 4) 後輩の鈴木君指導 予定どおりに仕事を進めることができ 3) E社向け資料作成→仮完成 ご意見を伺いたいと思います。 たかどうかを報告・確認するものです。 13:00-13:20 D社向け資料下案作成 きましょう。 2) D社向け資料課長に確認→修正案作成 確認したいと言われているので明日叩き台を提案して えられます︵ 頁 Chart︶ 1。 一見、1人の担当エリアが広がり負 12:15-13:00 昼食 8:30-9:00 業務チェック、 メール* ﹁いつからやろうか﹂ではなく﹁今か コンペは来週の木曜日ですが、 課長から早めに資料を 担が増すように思えますが、そうでは <明日のタスク> 1) アポイント2件 ﹁見積もりと実際にかかった時間との 第3営業部各位 <本日の報告>予定通り終了したもの⇒* らやろう﹂という覚悟で取り組んでい ます。気合入れて頑張ります! 2) D社向け資料は競合のM社とのコンペ資料です。 ありません。常に情報を共有し、どち アドバイスを明日行います。 差異﹂﹁反省点とよかった点﹂そして﹁翌 成方法の相談を受けました。 プレゼン資料の作り方の ン。資料は既に準備し事前準備は万端ですが、 緊張し らも同じレベルの仕事ができるように 1) B社への定期フォローは先方の部長へ提案プレゼ 日の予定﹂を記録し、部下の仕事の癖 B社への提案ですが、先方がとても喜んでくれました! 16:30-17:00 移動 (新宿→オフィス) 組織だけではなく社会全体の﹁ロール 15:30-16:30 C社@新宿 (新規営業) w/課長 モ デ ル﹂ ︵目 指 す べ き 人 物︶に な っ て <報告> ただきたいと思います。本稿をご覧に 18:00-18:30 メールチェック→30分延長 15:15-15:30 移動 (初台→新宿) なった方が働き方を見直してワーク︵仕 11:30-12:15 移動 (渋谷→初台) ターになっている鈴木君からクライアントへの資料作 <本日の優先順位> 32 17:00-18:00 D社向け提案資料作成→30分延長 業務と かける時間は セットで考える 16:30-17:00 移動 (新宿→オフィス) * いただき、個人の多様性を活かし企業 10:30-11:30 A社@渋谷 (定期フォロー訪問) 15:30-16:30 C社@新宿 (新規営業) w/課長* 事︶とライフ︵私生活︶のシナジー︵相 13:30-15:15 B社@初台 (定期フォロー訪問) スケジュールを組んでみると 時間が足りないことが発覚。 移動時間や空き時間を 効果的に利用して 事前に準備をしておこう 17:30-18:00 メールチェック : 10:00-10:30 移動 9:00-10:00 部内会議* 9:00-10:00 部内会議 14:00-15:15 B社@初台 (定期フォロー訪問) * 力に変えていただければ幸いです。 Subject: 【本日の予定】WLB太郎_20120901 見込み時間と 実際にかかった 時間の差を知ることで 正確な時間の感覚を 身に付けられる 第3営業部各位 <本日の予定> スケジュールは 15分刻みで 考える 8:30-9:00 業務チェック、 メール Subject: 【本日の報告】WLB太郎_20120901 乗 効 果︶を生み出すことで、ご 自 身 の Send 34 CEL July 2013 CEL July 2013 35 Send 部内でメーリングリストや 共通メールアドレスを持つと 情報共有に便利 夜メール 朝メール 第3営業部ML To: 第3営業部ML To: 朝メール・夜メールの活用例 Chart 2 Special Feature Part 7 / Essay Conclusion おわりに SpecialFeature/BeyondON-OFF ﹁ 本 暇 ﹂的 時 間 を 生 き る た め に スよく融合した状態、という可能性で 分の時間=ライフ﹂を創りだすという ク﹂をチームでシェアすることで﹁自 ー ある。 ジ ワーク・ライフバランスの実現方法は、 ナ 今後の働きかたを考えるうえで重要な シ それは、公と私の相乗効果が得られ 指針である。 二、 公のために能力 軸にした シナジー 能力 ︵技能︶ を た状態とも言えるが、各記事をもとに そのシナジーには、大きく分けて次の 4つのパターンがあるように思われた。 相乗効果 収入を得ること︵ か た は、社 会 的 な 役 割 と 自 分 の し た るならば、本暇的時間のひとつのあり のでは、ということである。言い換え 念 を 超 え た、 ﹁本 暇﹂的 時 間 と 言 え る ︵=仕 事 以 外 の 余 っ た 時 間︶と い う 概 きる、そのような状態が、従来の余暇 をしながらその楽しみを社会に還元で に 書 か れ て い る、 ﹁仕 事 の 時 間=ワ ー 論考﹁チーム力で時間を生み出そう﹂ かたが有効と思われる。小室淑恵氏の の﹁チーム・アクション﹂による働き うになる。この実現のためには、一種 双方が充実すれば両方がうまく回るよ 時間︶のシナジーである。公・私の時間、 仕事︵=公の時間︶と個人︵=私の 化していく﹂ ︵ 頁︶と指摘している。 どの例に見られる。金銭とは異なる価 を社会に還元していく﹁プロボノ﹂な ロボノ﹄嵯峨生馬著、勁草書房、 頁︶ 業 を 通 じ て 培 っ た ス キ ル や 知 識﹂ ︵﹃プ さ れ る こ と も 多 い。こ の こ と は、 ﹁職 金銭を超えた相互扶助によってもたら ある。本暇的時間は、場合によっては ために能力を使うこと︶のシナジーで 一、 相乗効果 さ ら に 詳 し く 検 討・整 理 し て い く と、 これまでさまざまな余暇の形、 時間の活用法を見てきた。 余暇の楽しみかたから、時間と場所を人とシェアする活動、 自分のための自由になる時間の作りかた …… こうした事例と知見を、 いかにして個々の人生に活かすことができるか。 編集部としての提案をまとめた。 本暇的時間を支える 4つの相乗効果 シナジー 本特集﹁余暇から本暇へ﹂の各記事 を通観するなかで、我々は全体に共通 するひとつの可能性を見出した。それ は、社会的な役割を果たすことで楽し を使うこと︶と、生きがい︵ 個人の い こ と か ら 得 ら れ る 満 足 が 、バ ラ ン ナジーもありうる。ここで言う第三の 時間を 軸にした シナジー 値にやりがいや生きがいを感じる生き ≒ みを得る、あるいは自分のしたいこと ≒ せ﹂を得る人が増えているとも言える。 る こ と で、金 銭 に 還 元 で き な い﹁幸 まっているのである。相手のためにな かたが、すでにいろいろなところで始 れか らはそれ ら︵編 集 部 注 家 族 と 社 き てい く﹄︵星 海 社 新 書︶の な か で﹁こ 書﹃年 収150万円で僕らは自由に生 プロブロガーのイケダハヤト氏は、著 プロボノ活動も積極的に行っている ゆるやかに接合していくものである。 の 区 別 を 完 全 に な く す わ け で は な く、 所︶とパブリック︵=第二の場所︶と 場所とは、プライベート︵=第一の場 ュニティ・カレッジ﹂の よ う な カ ル チ と い う 試 み も 重 要 で あ る。 ﹁池 袋 コミ 第三の場所を自分なりに探してみる ろが重要である。 な悪しき集団主義とは違うというとこ 残業する、皆で一斉に働くというよう うな、他の人が会社に残っているから ある。現在の多くの会社に見られるよ ティとは異なり、自由度が高いことで 摘の通り、会社や家族というコミュニ 第三の場所の特徴は、イケダ氏の指 三、 相乗効果 会のこと︶に加えて第三、第四、第五の ちくま文庫、 2009年 空間を 軸にした シナジー アサダワタル氏の実践に見られるよ 居場 所として、自由度 高く関われるコ 25 うに、自分の居場所を確保しつつその 岩波人文書セレクション、 2011年 私たちは平準化された 時間秩序のなかに 身を置いていても、 ときどきその時間世界から 飛翔するのである。 ――内山 節 場 所 を 共 有 で き る 場 に し た り、 ﹁第 三 61 ャ ー・セ ン タ ー も、瀬 戸 内 国 際 芸 術 祭 朝日出版社、 2011年 余暇を 読むための 10 冊 その1 ミュニティにも所 属していくように変 西村佳哲著 『自分の仕事をつくる』 5 國分功一郎著 『暇と退屈の倫理学』 「働き方研究家」が、モノづくり分野を中心に、 活躍中の人や職場を訪ねてインタビューする。 「いいモノを作っている人は、働き方からして 違う」という著者。自分の働きかた、ライフス タイルを考え直したい人すべてにとって示唆に 富む一冊。 の場所﹂を作って過ごしたりというシ 2 ハンナ・アレント著 志水速雄訳 『人間の条件』 山里や森から時間を見なおすと、効率や合理性 を重視する近代的時間観とは異なる「関係的時 間」が見えてくる。近代的時間観から解放され、 多様な時間のありかたを認識することで確立さ れる人間の自由。本書では、そんな自由を生き るさまざまな人に出会えるのも楽しい。 内山節著 『時間についての十二章 ――哲学における時間の 問題』 4 ちくま学芸文庫、 1994年 「労働」 「仕事」 「活動」に分類できる人間の活動 的生活のうち、近代、生命を維持するためだけ の「労働」が優位になり全体主義にもつながっ たと論じた公共哲学の古典。ともすれば「労働」 第一になりがちな現代で必要とされる一冊と言 える。 1 物質的には満たされたかに思える我々だが、本当 に豊かな生を生きているのだろうか? 余暇を過 ごしながら、倦怠と虚無にさいなまれてはいないだ ろうか? 「暇」や「退屈」という日常的な概念を、 哲学的見地から徹底的に掘り下げ、ひいては「生 きる意味」の深淵にまで迫った、画期的余暇論。 3 岩波文庫、 2010年 冒頭でいきなり「われわれが享ける生が短いの ではなく、われわれ自身が生を短くする」と言 われると、実に耳が痛い。では、与えられた時 間を十分に生かすにはどうすればよいか。知ら ず知らずに多くのことに忙殺され、時間を失っ ている現代人必読の「気づき」の書。 セネカ著 大西英文訳 『生の短さについて 他二篇』 36 CEL July 2013 だろうか。 相乗効果 四、 加藤秀俊氏の﹁隠居のつとめ﹂で描か れた大名たちも、若い頃からの素養を 隠居後の人生に活かし、ひいては社会 のために貢献する﹁つとめ﹂を果たし ていたわけである。 徳間ポケット、 2013年 『 今夜もひとり居酒屋 』 池内紀著 中公新書、 2011年 『 隠居宣言 』 横尾忠則著 て還元していくというシナジーの方向 性もありうる。仕事と余暇の融合と口 で言うのは簡単だが、自分の時間の作 りやすさは、職業によっても、年齢に よっても異なる。それぞれの立場に応 じた本暇的時間の確立法を探る必要が あろう。 冒頭に述べたように、本暇的な時間 を﹁個からシェア︵還元︶へ﹂という 以 下、自 分 の し た い こ と を 見 極 め、 本暇的時間を得るための具体的な取り 組みとして、編集部から3つの提案を したい。 取り組み 一、 感性を研ぎ 澄ませる こと 例えば、鼎談で重要性が見えてきた ﹁歩 く﹂こ と、そ し て 読 書 を、編 集 部 としては勧めたい。歩くことは、自ら の感性を研ぎ澄ませ、本当に必要な情 報を能動的に抽出できる状態をつくり 出す。このことによる発見は非常に多 く、いつもとは違う駅で降りて歩くだ け で も、思 わ ぬ 気 づ き が あ る は ず だ。 読書も、無制限に流れ込む情報を受け 身で取り込むのではなく、自分のした いことを発見するための能動的なイン プットには有益な方法と言える。 取り組み ﹁個﹂ の確立 義務的な仕事や受け身で得た情報に動 時 間 を 得 る こ と も 困 難 か も し れ な い。 分のしたいことも見つからず、本暇的 それを大切にして過ごさなければ、自 あるが、集団に依存せず﹁個﹂を確立し、 これも鼎談で指摘されていたことで 二、 余暇を 読むための 10 冊 その 2 取り組み 三、 ろうか。 満足度の高い世界になるのではないだ おそらく、今よりもいっそう人びとの 個 人 の 幸 せ と 社 会 の 安 定 が 両 立 し た、 し て の 本 暇 的 時 間 が 拡 大 し た 社 会 は、 といった各要因がもたらすシナジーと 公+私、社 会 的 義 務+個 人 的 楽 し み、 道 筋 を も 考 察 し て み た。仕 事+休 暇、 そのありようを探り、確立するための えた﹁本暇﹂的時間とはいかなるものか、 こうして本特集を通して、余暇を超 認識できる例もあるかもしれない。 と私のシナジー﹂にあてはまる状態を 組み︶から自由になることで、自ら﹁公 の評価軸︵=無意識に囚われていた枠 た視点の転換が重要である。これまで けたり、生きがいを見出したりといっ はなく、自分だけの大切なものを見つ な地位や金銭という公的な基準だけで 直してみることも必要だろう。社会的 場合によっては、自分の評価軸を見 評価軸の 転換 るとは言えないだろう。 ためによい時間の使いかたができてい かされている状態では、とても自分の にはなるが、他者に教えたり他人に聴 楽器を弾いていても充分自分の楽しみ 楽器ひとつを例にとっても、ひとりで う 方 向 性 が あ る の で は な い だ ろ う か。 ことで、本暇的時間に変えていくとい 個人のための時間を誰かとシェアする 人 に は、 ﹁楽 し む こ と﹂を 軸 と し て、 の時間をシナジー化することが難しい ひとつの可能性として捉えると、仕事 平凡社新書、 2008年 多忙を極めたグラフィックデザインの仕事に 70 歳で区切りをつけ、 「隠居」宣言をした著者。 世間の時間を無視して自分の時間を生きるなか で得た体験をもとに、108 の質問に答える形で 隠居生活の有様について説く。明日のことは考 えず、今日の風に乗るのが隠居流。 10 内田樹・岡田斗司夫著 池内流「第三の場所」 、居酒屋の愉しみを語り 尽くした小粋なエッセイ集。自分のなじみの店 を持つことは、人生を豊かにするためには欠か せないことである。この本に出てくるような「お なじみさん」になることにあこがれて、今日も 居酒屋を訪れる。 9 『 評価と贈与の経済学 』 8 にて各参加者が語っていたことであり、 ﹁日本人は上手にヒマを作れるか?﹂ と を 作 る 必 要 性 は、本 特 集 で も 鼎 談 だろうか。若い頃から自分のしたいこ ことを見極める﹂ということではない ひ と こ と で 言 え ば、 ﹁自 分 の し た い 現のためには何が必要なのか。 性を見出してきた。では、それらの実 ー﹂が得られた状態として捉える可能 を 何 パ タ ー ン か の﹁公 と 私 の シ ナ ジ このように、私たちは、本暇的時間 ﹁自分の したいこと﹂を どう見つけるか うか。 さにこれにあてはまるのではないだろ 例 で は、 ﹁農 民 オ ー ケ ス ト ラ﹂が、ま 自らの資本にもなっていく。今回の事 る。そのようなつながりが、ひいては ではなく、社会へ還元していくのであ を自分のなかにただ貯めこんでいくの 間のありかたになり得る。知識や経験 いてもらったりすることで、本暇的時 個人的な楽しみを社会的な役割とし 軸にした シナジー 楽しむことを 能している面が大いにあるのではない ンティア組織も、第三の場所として機 で活躍する﹁こえび隊﹂のようなボラ 7 紀伊國屋書店、 2011年 1 年間お金を使わずに半自給自足の実験生活を 行った青年は、 「フリーエコノミー」な生活に不 可欠なことは、サバイバルのための技術ではな く、人生を信じ、人と人が自ら与え合うことで 生まれる有機的な循環であると語る。 「お金かコ ミュニティか」を問う一冊。 マーク・ボイル著 吉田奈緒子訳 『ぼくはお金を使わずに 生きることにした』 気鋭の思想家が抱腹絶倒の対談で導き出す、現 代の贈与論。そのキーワードは、 「情けは人のた めならず」 。貨幣、情報、サービス、評価とい う経済本義のあれこれを、 “与える”という視点 で捉え直し、全く新しい「交易」と「共同体」 のありかたを浮かび上がらせた。 ﹁公と私のシナジー﹂ を得ることが、 余暇を本暇的時間に転換していくための 手掛かりになるかもしれない。 CEL July 2013 39 「良きパッサーたれ」 というのが 社会人の重要な条件だとぼくは 思うんです。 とにかくパスを受けたら、 ワンタッチで次へ回す。 ――内田 樹 SpecialFeature/ Beyond ON-OFF 6 学芸出版社、 2011年 阪神・淡路大震災を契機に、人と人とのつなが り=コミュニティに、現代社会が抱える諸問題 を解決する力を見出した著者が、これまでに関 わったさまざまな事例を紹介する。モノを作る だけでは解決できないことがいかに多いかが明 らかにされる。 山崎亮著 『コミュニティ デザイン――人が つながるしくみをつくる』 かも、外観だけならタダで見ることができます。大作か 街にたくさんある建築物は、実はアートなのです。し ることとは違います。それらを知っているほうが発見が 建築物の鑑賞も設計者の名称や建てられた年代を確認す アートの鑑賞が画家の名前のお勉強ではないように、 大 阪 は 建 築 ミュージアム ら小品までサイズもいろいろ。抽象画のようにクールな で、自分なりの名品を決めること。さらに、言葉を交わ 多 い の は 確 か で す が、一 番 大 事 な の は、自 由 に 楽 し ん のもあります。時代の流行もあるので、いくつか眺めて すことだと、私は思います。 ものも、味わいのある素材や形で具体的に迫ってくるも いるうちに、どれが古そうで新しそうかも、何となく掴 大阪は、東京以上の﹁建築ミュージアム﹂です。試し 持 続 可 能な社 会に向 けて C E L が 発 信 する情 報 は、 その 1 幸福の理由とは? 文 / 豊田尚吾 Page CEL Output 46 44 衣食 住遊 めてくるはず。建築物を使うものではなく、見る対象だ に江戸時代から城下町として栄え、多くの商人が行き交っ 堂筋に出れば、消費大国アメリカ どうすじ そこかしこで使われています。御 み 厚 で 個 性 的 な 建 築 物 が、現 在 も 与える﹁生駒ビルヂング﹂⋮⋮重 い こま 計 塔 が 街 に 変 わ ら ない 安 心 感 を ビル﹂ 、精 巧な装 飾 とポップな時 に濃厚で癖になる味わいの﹁芝川 まるで中南米産のコーヒーのよう 仕 立てが明 らかな﹁綿 業 会 館﹂ 、 目 正 しい 外 観 だ け で も 最 高 級 の た船場を歩いてみましょう。折り せん ば と頭を切り換えるだけで、街の中にさまざまな﹁アート﹂ が出現します。 しかも、これらは個々バラバラ でもありません。歩き回っている うちに、何か古そうな建物がこの 界隈に多いとか、高い建物で頭が 揃っているなど、多くのことに気 づくに違いありません。 先ほど﹁使うものではなく、見 る対象だと頭を切り換える﹂と書 きましたが、そうは言っても、建 The Reports from Researchers 倉方 俊輔 KurakataShunsuke 文 40 CEL July 2013 Illustration by Akiyama Hana 築物は使う必要から生まれていま O n & On/木全吉彦 の豪華さを持ち込んだような﹁大丸心斎橋店本館﹂や、当 C E Lからのメッセージ す。ですから、本社を構えるべき市街には重厚な建物が 電力供給システム 監修 / 下田吉 之 文 /当麻 潔 時最先端のデザインが今も新鮮な﹁大阪ガスビル﹂が目に 文/志波 徹 あり、消費の場所では店舗がデザインを競い、それは川 その 3 飛び込んできて、戦前に道路を幅 m にまで拡げ、地下鉄 Insight くらかた・しゅんす け / 大 阪 市立大 学 大 学 院工学研究科准教授。 建築史家。 1971 年 東 京 都 生 ま れ 。早 稲 田 大 学 理 工学部建築学科卒業、 同大学院理工学研究 科博士課程満期退学。 伊 東 忠 太の研 究で博 士号取得。﹃ 東京建築 みる・あるく・かたる ﹄ ︵甲斐みのりと共著︶ 、 ﹃ ドコノモン﹄、﹃ 吉 阪 隆正とル・コルビュジエ﹄ な ど 著 書 多 数 。中 之 島デザインミュージア デ ム ﹁ de sign de︵> ザインで ︶﹂で 月1 回 ﹁倉方塾﹂を主宰。 エネルギー講座/第六講 Daimaru Osaka Shinsaibashi 資料提供/大丸心斎橋店本館:橋爪紳也コレクション 大阪ガスビル:大阪ガス㈱ 持続可能な社会を目指 す エネルギー環 境 教 育 建 築 物は、実は アートなのです。 しかも、 外 観だけならタダで 見ることができます。 生活者の 省エネルギーに関する 意識と行動 文/栗本智代 54 59 72 新 連 載 / 人間力を育む次世代教育 Osaka Gas Building 谷崎潤一郎と 関西 50 や堀が通ったり、駅の近くだったりといった地理と関係 50 を開通させた大阪の進取性は一目瞭然です。 Report by Shiba Toru します。個々バラバラではなく、場所ごとに建物の傾向 Part 3 今度の休日には、街中に出かけてみませんか? 街は 46 があって、エリアの歴史が読み取れます。建築物という Report by Kurimoto Tomoyo 建築ミュージアム、そう考えれば、平日とは別の大阪が Part 2 アートは集まって、エリアというコレクションをなして 42 見えてくるはず。いつか一緒に歩いて、語り合える日を Report by Toyota Shogo いるのです。それが集まって、街という大きなミュージ Part 1 楽しみにしています。 Page 大阪ガスビル 1933 その 2 1922 アムができています。 42 「 エネルギー・環 境 」 「 都 市・コミュニティ」 「 住まい・生 活 」を 3つの 柱に展 開されています 。 第一回 Vol. 104 July 2013 CEL 大丸心斎橋店本館 Par t 1 / Toyota Shogo Par t 2 / Kurimoto Tomoyo Par t 3 / Shiba Toru CEL Output Par t 1 の特徴があるかを確認した。それと並 豊田 尚吾 行してテキストマイニングという手法 大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所 研究員 題があった。そこで拙稿ではテキスト を用いて回答からキーワードを抽出し、 研 究レポー ト その1 ︵文章︶を用い て 幸 福 感 の 分 析 に 取 り それらが幸福度と意味のある関係を持 幸 福 の 理 由 と は? 組む。利用するのは大阪ガス㈱エネル 出現頻度を調べることで検証した。 テキスト分析で探る 幸福感の 実現要因 ギー・文化研究所が行っているアンケ っているかを、幸福度別のキーワード 個の厚生水準を示す 指標として重視される﹁幸福感﹂。 あくまで主観的な尺度とされる幸福感だが、 その成立には何らかの普遍的要因があるのでは︱︱。 5000人を対象としたネット調査結果から探る。 下、幸福感︶を表すデータに意味があ 本誌101号では主観的幸福感︵以 ー ト 調 査︵*︶である。具体的には〝幸 分析にあたって るという前提のもと、その影響要因に 段階︶評価〟および〝幸福度の 評価理由〟というデータを用いる。後者 福度︵ まで、幸福感に影響を与える要因とし は数値ではなくテキスト︵文章︶で記 関して考察を行った。それも含め、今 て、健康、お金、家族・人間関係など 入されており、数値データ以上に豊か 幸福度別理由の 傾向まとめ が重要であるということを述べてきた。 2.9% まず、 ﹁︵あなたの︶現在の幸福度を 10 9 0︵全く幸福ではない︶∼ ︵非常に幸 6.7% 幸福度 9 /代表的な表現 は「家族が元気で仲がよい から」 。プラス要因は 3 大 要因、自由、仕事というも のであるが、金銭について は、 「お 金 は な い け れ ど ∼」という表現も多い。 な情報量を持っている。一方でそれら 16.9% は回帰分析などに直接使うことはでき CEL July 2013 8 その背景には幸福感を左右する何らか 43 7 10 11 *大阪ガス㈱エネルギー・ 文化研究所が毎年行ってい るネット調査﹁ライフスタ イルに関するアンケート2 0 13﹂ 。対象は全国の 歳以上の男女、調査人数は 5 000 人。性別、年齢、 地域で国勢調査に近い構成 になるよう人数を割り当て ている。実調査は㈱マクロ ミル。本データの調査期間 は2013年3月8∼ 日。 幸福度 10 /家族が健康、 よい関係という表現は幸福 度 9と同様であるが、自由と いう言葉や、毎日が楽しい、 充実しているという表現が 増えている印象を持った。 幸福度 7 /不満が少ない から、という表現が多くな る。実感というよりは、幸 福だと思う“べき”という、 自分を納得させるような言 葉が目につく。金銭的には 余裕はないが、家族が仲良 くしているという記述が多 くなってくる。 の普遍的な要因が存在しているのでは 19.8% 福である︶の数字で表すとどのくらい 16.0% ないといった問題もある。 6 右頁文中にある「ライフスタ イルに関するアンケート 2013」から作成。5000人の回 答者がそれぞれ自分の「幸 福度」が 0∼ 10までのいず れに相当するかを選択・回 答した結果(分布)をハート の大きさで表している(数値 は全体を100%としたときの シェア) 。また、回答者がそ れぞれの幸福度を選んだ理 由(文章)を著者が読み込み、 その特徴もまとめた。 み込んだときの特徴を図の左右に示し 幸福度 6 /「A であるもの の、B だから」 (B がプラス 要因)という記述が多くな る。大きな心配要素がない、 普通の暮らしができている、 欲を言えばきりがないとい うのが代表的な表現。 10 ︶にひとつ 5 16.7% 幸福度 5 /「不満はあるけ れど何とかなっている」 「プ ラス・マイナス両方ある」 が代表的な表現。あるいは、 幸福の基準がわからない、 幸福の定義は?といった、 評価をすること自体に疑問 を持つ層が多いのもこのク ラスの特徴である。 ないかとの問題意識がある。 4 でしょうか﹂という質問を行った結果 5.9% の回答をすべて読み込むという作業を 3 5.8% 幸福度 4 /このクラスでは マイナス要因(3 大要因は 常に主役)が主である一方、 プラス要因が混在し、迷い が感じられる文章が増える。 生活のベースは確保されて いるものの、悩みはあると いうような表現が目立つ。 幸福度 8 / 3 大要因に関 する言葉がプラス材料とし て頻出するようになる。不 満がないという言い方が増 え、足るを知る、よいほう に考える、不満はあっても それを意図して小さく評価 するといった、自分の心の 構えについての記述が多い。 幸福度 3 /細かい理由で 文章が構成されることが増 える。また「なんとなく」 を典型例に、お金や仕事が ない不安、忙しくてゆとり がないというように、文章 にあいまい性や将来への不 安が強調されることが多く なってくる。 2 そこでまず、得られた5000人分 3.7% される、定型化された理由︵例えば健 幸福度 2 /幸福度 0、1 は あれもこれもだめという全 否定が多かったが、この段 階になると、3 大要因を中 心に、そのうちのひとつの みが幸福でない理由として 強調されることが多い。 従来は便宜上、5段階尺度などで表 1 2.4% が であ る。こ の 主 観 的 に 評 価 Chart 1 さ れ た 幸 福 度 別 に、 ﹁そ の 理 由﹂を 読 3.1% 行った。幸福度別︵0∼ 0 幸福度 1 /基本的な頻出 語は 3 大要因関連で幸福度 0 と共通するが、生きてい く意味が見えない、理想と 違う、希望がない、世の中 や社会が∼というように、 マイナス理由がやや抽象的 あるいは心理的要因が強調 される傾向が見られた。 康状態︶と幸福度との関係を見てきた 幸福度 ひとつの理由︵文章︶を読み、何らか 幸福度 0 /ほとんどの回 答に具体的で深刻な理由が 記されている。3 大要因を 中心に、居場所がない、仕 事がないといった内容で構 成されている回答が多い。 頻出する “3大要因” は 「健康 (病気・けが) 」 「家族 (友人・人間関係) 」 「お金」 である。 Char t 1 が、生の声を生かせていないという問 幸福度とその理由は人それぞれ 14 20 CEL July 2013 42 い Char t 2 孤独 社会 友人 比較 高齢 満足 楽しい・充実 心 余暇 幸運 安定 不幸 人間関係 愛 不満 希望 衣食住 自由 個人 仕事 不安 幸福 生活 お金 健康 普通 家族 16回 73回 79回 86回 116回 118回 149回 150回 153回 159回 162回 173回 185回 186回 193回 208回 236回 240回 320回 325回 335回 390回 727回 740回 781回 915回 1,231回 6.9% 22.9% 17.8% 24.6% 6.8% 17.7% 20.2% 17.5% 5.7% 12.4% 20.2% 9.9% 5.4% 10.8% 15.8% 9.7% 9.2% 14.8% 11.1% 16.2% 14.3% 17.6% 幸福度 出現頻度 幸福度 10 4.7% 10 4.9% 1.6% 幸福度 幸福度 9 12.0% 19.9% 9.3% 6.1% 24.5% 18.2% 10.8% 13.5% 23.0% 15.2% 9.0% 13.5% 16.2% 14.6% 24.8% 17.2% 16.4% 10.3% 5.5% 11.7% 11.2% 5.6% 14.8% 11.5% 16.0% 12.7% 17.4% 12.6% 5.9% 3.4% 9.8% 12.5% 7.0% 12.4% 12.7% 13.6% 12.4% 16.4% 9.1% 6.8% 6.7% 9.6% 11.0% 6.5% 11.1% 12.5% 11.9% 6.5% 7.1% 8.0% 10.5% 6.0% 9.3% 12.4% 9.1% 7.9% 12.5% 6.6% 6.3% 5.7% 11.2% 5.1% 9 3.3% 幸福度 幸福度 8.2% 8.3% 17.3% 9.6% 5.6% 13.2% 22.4% 13.6% 14.5% 21.2% 16.8% 7.1% 10.7% 12.3% 17.0% 17.4% 14.4% 7.9% 10.4% 14.0% 10.2% 14.3% 15.1% 17.9% 9.7% 8.4% 9.6% 14.8% 3.9% 幸福度 8 幸福度 7 4.7% 4.5% 5.8% 8.1% 7 3.6% 幸福度 6 し 100%に換算したうえで、各 幸福度のシェアを%で表示 している。たとえばキーワ ード「家族」は、幸福度の 高い回答者が「相対的」に 多く用いていることがわか る。 幸福感を左右するキーワードと幸福度の関係 8 た︵分析者=筆者の印象や恣意性が入 り込んでいることは避けられない︶ 。 が比較的わかりやすい。 キーワード分析 × Par t 1 Toyota Shogo 前出アンケートの回答者が 幸福度を選んだ理由 (文章) から、出現頻度の高い 27 語 を抽出し、その語の出現率 が幸福度によって異なるか どうかを視覚化したもの。 各キーワードの幸福度別出 現 率を合 計し、その 値を 出現頻度 幸福度0から順に読むと、その変化 幸福度 前節の評価はあくまで筆者の主観に 基づくもので客観性に欠けている。そ こで回答データからキーワードを抽出 し た。 ﹁〝お 金〟がない﹂と﹁〝金 銭 的〟 に苦しい﹂は ほ ぼ 同 じ 意 味 と 考 え ら れ るため、そのような語はまとめるとい った作業がテキストマイニングには不 可欠である︵したがって、そこにも恣 意性が入らざるを得ないことに注意︶ 。 抽出したキーワードの出現頻度︵出 現 回 数︶を 見 る と、 ﹁家 族﹂の 1 2 3 1回︵この中には子ども、配偶者など の類似語も含めている。以下同様︶を は じ め、 ﹁普 通︵の 暮 ら し が で き て い る︶ ﹂915回、 ﹁健康﹂781回、 ﹁お 金﹂740回といった言葉が多用され ていた。 27 のキー ワードと幸福度との関係を見ることで、 その中から出現頻度の高い 前節の傾向まとめがどの程度妥当性を 持つのかを検証した。幸福度の違いに よって各キーワードの出現頻度に差が 語で有意な︵統計的に意味の 22 あ る か ど う か の 検 定 を 行 っ た と こ ろ、 語中 ある︶差が確認された。 そ の 様 子 を 視 覚 的 に 表 し た の が Chart で 2 ある。 こ れ を 見 る と、 Chart の 1 まとめが 一定の妥当性を持っていることがわか る。同じデータを違う形で表しただけ なので当然とも言えるが、二重に確認 をすることで結果の信頼性を高めてい る。 最後に か共通の理由があるとの問題意識︵仮 以上、主観的な幸福度の背景には何 説︶をもとに分析を行った結果、以下 のような発見と示唆が得られた。 かわらず一定の普遍性・合理性を持ち、 第一に、幸福度は主観的評価にもか 分析に値する。第二に、家族︵友人・ 人 間 関 係︶ 、健 康、お 金 は 頑 健 な 3 大 幸福要因である。同時に高い水準の幸 福度においてはお金のプラス影響力は 薄れる。つまり、金銭的な要因は不足 により幸福度に重要な障害を与える 〝衛生要因〟と見るべきかもしれない。 第三に、幸福感の実現には客観的な事 実要件と、主観的な﹁心の構え﹂が相 補的に影響しあって達成されている。 特に、最後の論点は重要であり、生 活 者 の ウ ェ ル ビ ー イ ン グ︵よ い 生 き 方︶を実現するためには客観的な生活 環境の改善とともに、それを解釈する 力の開発が不可欠であることを示唆し ている。それは﹁幸せだと思えば幸せ になる﹂といった、安易な自己啓発的 ちよう かん し トートロジー︵同語反復︶などではない。 自らの価値観を 鳥 瞰視 する自己のメ タ認知能力など、合理的な生活リテラ シーを獲得することを意味しているの である。 CEL Output 27 幸福度 5.0% 16.4% 7.3% 8.6% 7.6% 12.7% 8.0% 12.4% 14.5% 11.0% 7.3% 11.5% 4.9% 12.6% 8.9% 6.9% 6.9% 5.8% 6.7% 6.0% 6.2% 6 4.5% 幸福度 5 幸福度 5.6% 5.5% 7.4% 6.9% 5.5% 8.7% 4.6% 3.0% 3.6% 11.1% 4.4% 4.3% 3.8% 4.9% 幸福度 4 幸福度 15.7% 8.5% 6.3% 13.9% 4.4% 7.3% 2.3% 5.4% 7.4% 13.0% 8.4% 6.1% 3.7% 2.4% 13.8% 5.3% 6.7% 6.4% 12.3% 12.4% 7.5% 10.2% 7.3% 10.3% 14.5% 10.0% 8.5% 10.7% 5.9% 7.4% 幸福度 8.0% 6.9% 8.6% 9.0% 7.1% 4.4% 6.3% 7.6% 7.8% 3.3% 1.2% 6.0% 13.0% 3.9% 5.5% 3.1% 3 7.2% 4.8% 4.9% 幸福度 2 幸福度 37.2% 5.3% 6.7% 8.8% 18.2% 2.3% 8.6% 7.3% 7.2% 9.2% 18.4% 3.6% 1.9% 3.6% 4.9% 6.0% 8.9% 17.6% 5.4% 7.2% 14.7% 2 5.8% 3.5% 4.2% 幸福度 幸福度 1 16.5% 5.5% 5.1% 5.4% 11.3% 8.0% 11.3% 7.4% 9.3% 7.1% 16.8% 12.8% 7.4% 17.4% 8.3% 13.2% 15.1% 7.5% 4.2% 1.9% 3.4% 幸福度 14.9% 19.4% 16.1% 4.3% 45 1 6.8% 幸福度 0 4 5.8% 1.6% 2.9% 幸福度 3 5 4.1% CEL July 2013 12.7% 11.0 % 2.8% 4.6% 7.1% 2.1% 13.1% 10.2% 11.1% 6.3% 4.4% 14.3% 5.6% 10.3% 1.6% 13.1% 6.6% 5.1% 0 3.8% CEL July 2013 44 Par t 1 / Toyota Shogo Par t 2 / Kurimoto Tomoyo Par t 3 / Shiba Toru 研 究レポー ト その2 CEL Output Par t 2 大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所 研究員 栗本 智代 や都市ブランドの構築、都市格の向上 高まり、来街者も増え、賑わいづくり 用することで、住民の地域への愛着も まちの歩みや物語を発掘し、伝え、活 関 西 に は 豊 穣 な 歴 史 や 文 化 が あ る。 かでの視点や、谷崎潤一郎︵以下、谷 た。本稿では、その制作プロセスのな ャンクション﹂と題した新作を上演し 選 び、 ﹁谷 崎 潤 一 郎 ︱︱ 愛 と 創 作 の ジ で 昨 年 度、 〝谷 崎 潤 一 郎〟を テ ー マ に ほしいという要望も増えてきた。そこ 材もある。周辺の地域に活動を拡げて もちろん、大阪以外の関西における題 研究家によって成果が数多く発表され 谷崎研究は以前から盛んで、複数の 源は何だったのか。 自の純文学を大成させた、その作風の な ぜ 関 西 で 文 筆 活 動 を 続 け た の か。独 ら れ て い な い。関 東 出 身 で あ る の に、 有名であるが、その人間像は意外と知 文豪としての谷崎の名前はあまりに 関西での出会いと 創作活動 ﹁なにわの 語りべ公演﹂ での 作品づくりから 谷 崎 潤一郎 と 関 西 1994年の旗揚げ公演以来、大阪の豊富な 文化的コンテンツを発掘し、 その魅力や価値を見直すことで、 まちの賑わいづくりの一環として 評価を受けている﹁なにわの語りべ公演﹂。 その最新活動を通して、 大阪のまちの魅力を再認識する。 やエピソードをわかりやすく親しみや す い 物 語 と し て 編 集 し、語 り と 映 像、 にもつながる。 ている。谷崎作品は、彼自身の過ごし 音 楽 効 果 も 入 れ な が ら 紹 介 し て い る。 そのためのひとつのプログラムとし 崎︶ならではの逸話を抜粋して綴って た土地やともに暮らした人と重ね合わ ﹁なにわの 語りべ公演﹂ 活動の展開 て、大阪を中心に﹁なにわの語りべ公 みる。 かきがら 人形町のあたりに生まれる。 歳で東 東京の下町、日本橋区蠣殻町、現在の し せい 京帝国大学文学部に入学、明治 ︵1 22 43 初期の谷崎は、耽美主義と呼ばれるほ ど、美と女性への偏愛、マゾヒズムと いった捉え方をされている。大正 ︵1 大 正 ︵19 2 4︶年、 ﹃痴 人 の 愛﹄ 難くない。 甘やかされてきたということが想像に たくだりでは、都会のぼんぼん育ちで たりは気候が温暖であろうと引っ越し 底冷えに耐えられず、阪神間の芦屋あ は、関西へ逃げ延びる。真冬の京都の 9 23︶年、関東大震災にあった谷崎 12 が大阪朝日新聞に発表された。主人公 のナオミは、妻・千代の妹〝せい子〟 をモデルにしており、実際も、谷崎は、 日本人離れした容姿をもつこの少女に かなり入れ込んでいたという。千代を 友人の詩人、佐藤春夫に譲ると約束し 大阪の出版社創元社刊。本 文は変体がなによる。黒と 赤 2 種の豪華な漆塗り装丁 が大いに話題を呼んだとい う。 ← 『春琴抄』 漆塗初版本 演﹂活動を展開している。まちの歩み せてこそ、醍醐味がより楽しめる。資 料や文献に導かれ、関西での足跡をざ っと追ってみると、作品と実生活が表 裏一体となり絡み合っている。が、私 小 説 と は 異 な る。そ の 相 関 性 こ そ が、 数多くの谷崎研究家を生んでいる理由 ではなかろうか。関西の、よく知られ ているあのまちやこの場所に谷崎が住 ま い、有 名 作品の数々を生み出してい たのだという事実は、その経緯を詳しく 知れば知るほど、感慨深いものがある。 生い立ちとデビュー 谷崎潤一郎は、明治 ︵1886︶年、 19 910︶年、 歳の時、 ﹃刺青﹄を発表。 24 昭和24年撮影。前年には代 表作のひとつ『細雪』が下 巻まで刊行され、この年に は文化勲章を受章している。 語りと映像、音楽、芝居も 取りいれ、演出に工夫を重 ねた。映像イラストは弓削 ナオミの描きおろし。 2013年3月5日「平成♪なに わの語りべ劇場2013 早春in ブリーゼ」 (於、サンケイホ ールブリーゼ大ホール)より。 46 CEL July 2013 CEL July 2013 47 13 ↑自宅応接室での谷崎潤一郎 ↑「谷崎潤一郎――愛と創作のジャンクション」なにわの語りべ公演風景 モダニズムであった。特に谷崎が魅せ そして大正から昭和にかけて花開いた し た 上 質 な 生 活 文 化 や 日 本 の 伝 統 美、 の暖簾の中の世界、女性たちを中心と たもの、それは、大阪を代表する老舗 そんな印象をがらりと変えてしまっ 浮気に悩む松子が谷崎に相談している したことがわかっている。挙句、夫の 頼した口絵も、当時の松子をモデルに の憧れが滲み出ており、北野恒富に依 物語﹄には、根津夫人であった松子へ した谷崎だが、その時発表した﹃盲目 と別れ、古川丁未子と2度目の結婚を 作 品 の 理 解 を よ り 深 め て く れ る。千 代 現在の倚松庵↓ て自分はせい子と結婚しようともくろ られたのは、船場の大店のごりょんさ うちに、恋愛感情が生じたのか、東灘 ↑結婚式のあとで んだが失敗。約束を撤回して、激怒し ま︵若奥様︶である〝根津松子〟 ︵以下、 区の魚崎で隣あわせの家を借りて逢瀬 芦屋市谷崎潤一郎記念館、 神戸市 た佐藤と絶交している。信じがたくも 松子︶であった。 を重ねる。新婚の丁未子にとっては悲 写真所蔵・協力 人間くさいドラマが作品の背景にある。 松子の実家は大阪で名の知れた藤永 劇である。雑誌記者の仕事をやめ、有 こ 歳月が事実をデフォルメしたとしても、 田造船所の一族で、嫁ぎ先は大阪屈指 名作家の妻になった喜びも束の間、打 み そこに谷崎の創造力が加わって、後世 の綿布問屋の老舗である。芥川龍之介 ち捨てられたのだ。谷崎はなぜ丁未子 と に残る作品を生み出した、という構造 との席ではじめて松子に会った谷崎は、 と結婚したのか、松子への思慕をより の れん が面白い。実生活での体験を作品に反 その品性と知性を感じさせる会話や応 募らせるための手段としたのか、私た 月 に﹃文 藝 せる。谷崎にとって、普通の夫婦生活 マゾヒスティックな側面を多々感じさ 子 に 仕 え る こ と に 喜 び を 感 じ る な ど、 した。書生奉公のように下僕として松 つねとみ 映させるスタイルは以降も続くが、舞 対ぶりに強く惹かれ、これが大阪を代 大 正 ︵1 9 2 5︶年 おおだな 台として選ばれたのは、故郷の東京で 表する婦人なのかと感激したという。 ちの想像に委ねられるばかりである。 せん ば はなく関西であった。 いわゆる運命の出会いであり、青年 ふじなが 春秋﹄に掲載された﹃阪神見聞録﹄で、 生活でも松子の品格と威厳を第一と む大阪人を捕らえて、ずうずうしく非 常識な感じがすると。東京人から見た 芸術的創作の 女神としての松子 は不要で、常に仰ぎ見ることのできる た生き様は胸を打つ。 谷崎の衝撃的ともいえる女性遍歴は、 のであった。 の 風 土、伝 統 文 化 な ど へ の 憧 憬 を 深 わらないようだ。 しかし松子はというと、 ﹃倚 松 庵 の める。その情感が自身の繊細な美意識 がらも、新たな作品を発表し続けると 夢﹄と題した自らの手記の中で、ひと を 磨 き 上 げ、作 品 へ 反 映 さ れ て い る。 いう、最期まで創作家として貫き通し りの女として、普通の夫婦として睦み そ こ に は 関 西 へ の 賛 美 が あ る。ま た、 関西での谷崎の足跡については、た していたと理解していいだろう。 あえない寂しさや、念願の子どもを5 戦 争 中 に 中 断 さ せ ら れ た﹃細 雪﹄も、 つみ都志氏の調査研究が詳しく、特に、 そんな生活のなかで、谷崎は、関西 カ月で中絶した無念さを後に告白して 皇室のタブーだとぼかしを強要された 真摯に空間をたどり現地を取材してま し よ うけ い いる。松子が谷崎の理想の女性であり ﹃源 氏 物 語﹄ ︵現 代 語 訳︶も、試 練 を 乗 とめた1冊﹃ここですやろ谷崎はん﹄ い し よ うあ ん 続 け る 使 命 は、あ る 意 味 残 酷 で あ り、 り越えて完成させ、晩年は病と闘いな 現在の兵庫県芦屋市宮川町 に残る「打出」の家で、谷 崎と松子は祝言をあげた。 昭和 9 年から 1 1 年まで住 んだという。 用に向けた創意工夫が望まれる。 西人の誰もが誇りを感じるような、活 域にもっと浸透させるべきである。関 そんな知的財産や遺産の存在意義を地 谷 崎 の 世 界 は 刺 激 的 で か つ 趣 深 い。 曜日に見学ができる。 時の姿に見事に復元された。土曜・日 した際、旧材を保存利用して谷崎居住 との位置より150メートル北へ移築 に あ り が た い。特 に﹁倚 松 庵﹂は、も いた家屋に直接向き合えるのは、本当 った場所を確認でき、実際に暮らして 住吉東町1︶など、谷崎がその足で立 松 庵﹂ ︵現 在 は 移 転 保 存 さ れ、東 灘 区 旧 邸 で﹃細 雪﹄の モ デ ル と な っ た﹁倚 町 4︶、谷 崎 が 特 に 愛 着 を 感 じ て い た 子と隣居したという魚崎︵現・魚崎北 岡 本 梅 ノ 谷︵現・東 灘 区 岡 本 7︶、松 谷崎自身でデザインした豪邸があった 北畑︵現・神戸市東灘区本山北町3︶、 例えば、 ﹃痴人の愛﹄の舞台となった る。 ながりを具体的に追う研究は貴重であ えた。このような手法で、地域とのつ ︵広 論 社︶に は、感 動 と 感 服 の 念 を 覚 今に残る、 谷崎の足跡 そこに谷崎の強烈なサディズムが存在 女神が、芸術的な創作活動に不可欠な 大阪人像は、昔も今もそう大きくは変 た 谷崎は関西に対して批判めいたことを 谷崎の純粋な一面を感じられる一景で 関西に対して 批判的であった谷崎 記している。見ず知らずの人に話しか ある。 谷崎は昭和 11 年 11 月から 18 年 11 月までこの家に住ん だ。自身も昭和7 年ごろには、 「松(松 子)に 倚(よ)る」と の意からか、雅号として「倚 松庵」を用いていたという。 けたり、電車で他人の新聞を借りて読 谷崎は昭和 10 年 1 月 2 8 日、 『盲目物語』 『春琴抄』など の登場人物モデルともいわ れる松子と祝言をあげる。 ↑谷崎と松子、打出の家の庭で(昭和 9 年 5 月頃) 昭 和 18 年、雑 誌『中 央 公 論』に一部発表されたが、 奢侈(しゃし)な表現を理由 に掲載を止められる。戦後、 中央公論社から初版刊行。 ←『細雪』初版本 10 48 CEL July 2013 CEL July 2013 49 Par t 2 Kurimoto Tomoyo CEL Output 14 Par t 1 / Toyota Shogo Par t 2 / Kurimoto Tomoyo Par t 3 / Shiba Toru 研 究レポート その CEL Output Par t 3 大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所 研究員 生 活 者の 省エネルギーに関 する 意 識 と行 動 志波 徹 に 関 す る 意 識 や 行 動 の 調 査﹂ ︵*︶の 結 前 号 に て、 ﹁生 活 者 の 省 エ ネ ル ギ ー 積極的な選択理由ではないので省いて の 理 由 に な っ て い る 機 器 も あ っ た が、 た﹂というものがあり、それが第1位 分 類 し た 結 果 も Chart に 1 記 載 し た。 回答の選択肢には﹁もともと持ってい 由について尋ね、第1位の使用理由で さらに、それらの機器を使用する理 カーペットが1∼3位を占めている。 こ た つ、石 油 フ ァ ン ヒ ー タ ー、電 気 二極化している。省 エ ネ 意 識 が 比 較 的 ところで、 Chart の 1 なかで、太字 表的なものと言える。 ﹁空 気 を 汚 さ な い﹂を 含 め た4 つ が 代 ており、消費者が暖房機を選ぶ基準は、 ルヒーターは第2位の選択理由になっ 択 さ れ て い る。 ﹁安 全 性﹂に つ い て も の 暖 房 機 は、 ﹁暖 房 感﹂を 重 視 し て 選 軽さ﹂で選択されており、ガスや石油 これによると、電気の暖房機は﹁手 アンケート 結果を もとにした分析 格的に暖房機を使用する前に実施した。 いる。 高く、イベントや交友が好きな︻B︼ 情 報 誌CEL103号で報じた、 省エネルギーに関 する ライフスタイル研 究の第2報 。 今 号ではさらなる分 析 を もとに、 生 活 者の省エネ 意 識 と行 動について深 く 探る。 この冬使用する予定の暖房機について ープに分けた。 グループでは、女性が多い。また、各 暖房機器と その使用理由 尋ねた結果を、 Chart に 1 示す。電気 ︻A︼グループは、省エネへの取り組 グループの年齢構成を見てみると、省 この調査は、昨年 電気ヒートポンプエアコンや電気オイ で示した機器は、電熱ヒーターによる み意識が強い。また、商品の購入にお エネ意識が比較的高い︻A︼ ︻B︼ ︻C︼ 果の一部を報じた。 暖房機である。これらは、手軽に使え いても、衝動買いをしない、手間をか 月初旬、本 る機器であるが、省エネの観点からは、 けても安いものを買うなど、コスト意 グループでは 歳代の層が多い。一方、 ∼ 一次エネルギーベースの効率が約 % を超えることはないため、エネルギー 識の高さが見られ、物を大事にする傾 電気こたつや電気カーペットは、体と 使 用 を 控 え た い 機 器 で あ る。し か し、 んでホームパーティをするなど、交友 識が高め。イベントへの参加や人を呼 ︻B︼グループは、省エネに対する意 向もある。全体の %を占める。 接する部分が暖かくなるので、部屋全 に 積 極 的 な 傾 向 が 見 ら れ る。全 体 の もかかるので、主たる暖房機としては 体を暖める必要がなく、エネルギーが %。 ∼ 省エネへの関心や取り組み意識が低い ︻D︼ ︻E︼ ︻F︼グ ル ー プ で は、 歳代の若年層が多い。 補助暖房として局所的に使用するなど、 る 家 庭 も あ る と 考 え ら れ る。つ ま り、 りは低め。また、交友やイベント参加 意 識 は そ こ そ こ で、 ︻B︼グ ル ー プ よ 識や自分から取り組んでいこうとする ︻C︼グループは、省エネに対する意 動への取り組み状況を Chart の 2 最下 段に示す。省エネへの取り組み数につ 次に、このグループごとの省エネ行 省エネ意識と 省エネ行動への 取り組み 上手に使っている可能性がある。同様 や 購 買 行 動 等 に 関 す る 設 問 を 使 用 し、 ルーピングすることを試みた。省エネ 次 に、似 た 傾 向 を 持 つ 回 答 者 を グ と考えている。全体の %。 い、もしくは自分がしても意味がない ︻E︼グループは、省エネはしたくな には敏感である。全体の %。 えている。新しい商品やファッション いる人や会社・工場などがすべきと考 よりは、エネルギーをたくさん使って と思っているものの、自分が取り組む ︻D︼グループは、省エネはするべき ギー使用量の﹁見える化﹂が有効と言 省エネへの意識づけとして、エネル が4割にもなる。 組み数が0、つまり何もしていない人 ている。特に︻F︼グループは、取り ︻A︼ ︻B︼グループの半分以下となっ の低い︻E︼ ︻F︼グループは3前後と、 プの人が多い。そして、省エネに関心 り省エネ意識の高い︻A︼ ︻B︼グルー 取り組んだ省エネ行動の数は、やは ている。 のうち、昨年夏に実施した件数を示し に石油ファンヒーターも、消費電力が %を占め、最も多いグループである。 非階層クラスター分析を行った。設問 ︻F︼グループは、省エネだけでなく、 われており、そのうち、最も簡便な方 クラスター分析による 省エネ意向の分類 と 回 答 傾 向、男 女 比、年 齢 構 成 を 交友・イベント参加や新商品などにお 少単純化して示している。 ている。 ﹁△﹂は比較的中立であることを示し する回答傾向が肯定的、 ﹁×﹂は否定的、 省エネ意識が高い︻A︼グループと省 のなかでの男女比率を見ると、男性は このように、6つに分けたグループ グ ル ー プ 別 に 集 計 を 行 い、 Chart に 2 こ れ ら の 検 針 票 の 確 認 状 況 に つ い て、 ガス・水道の検針票を見ることである。 示した。 エネに無関心な︻E︼ ︻F︼グループに 表 の う ち、 ﹁⃝﹂は、そ の 設 問 に 対 12 19 分析を行い、調査対象を6つのグル 法のひとつが、毎月自宅に届く電気・ いても全般的に無関心である。 24 Chart に 2 示 す。な お、表 中 の 設 問 や 回答傾向は誌面に限りがあるため、多 加調査を、次の機会に行っていきたい。 もあると考えられ、使用状況を含む追 いては、前号の図1に示す省エネ行動 20 に そ れ ほ ど 積 極 的 で は な い。全 体 の 少なくてすむと考えて積極的に使用す 60 少ない暖房機として使用している場合 23 30 18 効率が悪い。相応にランニングコスト 36 12 50 CEL July 2013 CEL July 2013 51 3 11 あまり あまり あまり あまり いいえ 236人 コスト重視で 省エネ意識が 高い 人好き・ 省エネ意識が 高い 省エネ意識は そこそこの 多数派 省エネは 他人任せ 省エネに 関心なし 全般的に 関心なし 200 構成比 18.3% 23.0% 24.4% 11.7% 19.3% 192人 3.4% 性別 44.1% 52.6% 60.8% 67.1% 女性 46% 60.6% 55.9% 47.4% 39.2% 32.9% 150人 117人 112人 年齢別 20代 11.8% 13.4% 9.3% 24.6% 28.4% 18.4% 30代 18.7% 20.5% 17.1% 19.8% 25.2% 30.3% 40代 23.5% 18.9% 23.5% 20.5% 20.5% 26.3% 100 85人 58 61 50代 19.7% 20.5% 60代 26.3% 26.7% 23.1% 27.0% 14.9% 16.0% 14.5% 20.1% 9.9% 10.5% グループ別 検針票の確認状況 36人 31人 27人 14.4% 19.9% 18.3% 16.9% 11.8% めったに見ない 14.9% 13.1% 13.9% 14.2% 28.2% 34.2% 取り組んだ 省エネ行動の数 7.2個 6.9 個 5.7個 4.9 個 2.7個 2.7個 持っていない 12.8% ガス温水パネルヒーター 時々見る その他 25% 電気蓄熱式ヒーター 20.3% ガスストーブ︵赤熱︶ 21.3% 電気床暖房 19.6% 全館暖冷房システム 16.5% 電気・オイルヒーター 17.1% ガス温水床暖房 金額は見るが、 使用量は ほとんど見ない 電気温風ヒーター 28.9% 電気ハロゲンヒーター 34.7% ガスファンヒーター 46.3% 電気ストーブ︵赤熱︶ 46.6% 電気ヒートポンプエアコン 56.1% 電気ホットカーペット 55.2% 3人 石油ストーブ 0人 毎月 (毎回) 見る 21 20人 16人 電気こたつ CEL July 2013 52人 46人 石油ファンヒーター 53 59人 年の使用量なども掲載されており、最 39.4% が多いことがわかった。 54% 今年度は、実験集合住宅NEXT 男性 動を取っておらず、また検針票も見な はい 質問5/ 手間をかけても安いものを買う 省エネのためがまんしてもいい 270人 電気の検針票の使用量を毎月見ると いいえ も手軽に見ることができる有用な情報 あまり い人が多いグループに対して、どのよ はい 47 % で あ っ た。 いいえ 回 答 し た 人 は、全 体 の はい であるにもかかわらず、省エネ意識の あまり 低い人は、それすらも見ていないこと いいえ うな情報やインセンティブを与えるか あまり が課題と言える。 あまり これをグループ別に見ると、省エネ意 あまり 識の高い︻A︼ ︻B︼ ︻C︼グループ、ま あまり おわりに はい 質問3/ 物は長く大切に 使いたい 質問4/ 祭りやイベントが好き 交友関係が広い 300 た自ら省エネに取り組む意識の低い あまり にて、住戸内エネルギーの詳細計測を はい 前号では、省エネ行動に取り組まな はい 50 % 前後の人が あまり 毎月見ている。それに対し、省エネに いいえ 30 ︻D︼グ ル ー プ で も、 いいえ 開始する予定である。エネルギーや設 質問2/快適性・利便性が 損なわれるので 省エネしたくない 326人 い 人 に は そ れ ぞ れ 理 由 が あ る が、 ﹁忘 いいえ 関 心 の 低 い︻E︼ ︻F︼グ ル ー プ で は いいえ 備の利用に関するヒアリングも行う予 あまり れる﹂や﹁面倒﹂といったものも上位 あまり 約 %に下がる一方で、めったに見な あまり 定で、今回のような調査の内容もあわ はい せて、生活者のエネルギー・ライフス 質問1/ 地球資源保全のため、 省エネしていきたい 343人 に来ることを示した。それらを減らし F て い く た め に は、 ﹁情 報﹂が 必 要 で は E い人が多くなっており、明らかな差が D Group 生じている。ガス・水道についても同 C Group タイルの現状とこれからのあり方を考 B Group ないかと結論づけたが、どんな情報を A Group 様な傾向であった。 タイプ別6グループ Group えていきたい。 Group 回答者のうち1000人あたりの人数 省エネ意識が低い どのように出せば届くのかは、難しい 省エネ意識が高い 先 に︻E︼ ︻F︼グ ル ー プ は、若 年 冬期に使用する予定の暖房機器とその理由 ︵*︶情報誌CEL103号 ∼ 頁参照。 省エネ意識の高い人、 低い人 問題である。その一例が検針票で、前 Chart 1 層が多いと述べたが、実際に省エネ行 Chart 2 CEL Output Par t3 Shiba Toru 手軽である 暖房感が大きい 空気を汚さない 安全である CEL July 2013 52 Education for Future Generations Life Education for Future Generations Number01 Energy 次 世 代 教 育の必 要 性 ないか。現 代の子 どもたちが抱 える課 題 と し て、 ﹁人 間 関 係 を う ま く 作 れ な い﹂ ﹁集団生活に適応できない﹂ ﹁いじめ やい じ め の 陰 湿 化 に 代 表 さ れ る 規 範 意 識の低下﹂ ﹁物事に創意をもって取り組 む意欲の欠如﹂などを指 摘する識者も いる。 これからの激動の時代を生き抜くた エネルギ ー 環 境 教 育の 現状 現 在 の エ ネ ル ギ ー 環 境 教 育 は ど う なっているのだろうか。これまでエネル ギー環 境 教 育 は﹁理 科﹂中 心に 行 われ 本来、社会科的な側面が非常に大きい ていた。し か し、エネ ル ギ ー や 環 境 は ため、判断をするう えでは科学的な知 識と社会的な視点を合わせてみていか なければならないことを山下教授は強 調する。 もともとエネルギー環境教育に非常 に 熱 心 なフランスでは、エネルギー 環 境教育の中心は地政学︵政治現象と地 理的条 件との関係を研究する学問︶で あ り、中 心 とな るのは 地 理・歴 史 で あ 理 科 が中 心で、発 電 実 験 などをする。 る。小・中 学 校では日 本 と同 じよ う に しかし、高校になると地理や経済分野 の学習が大きなウエイトを占めるよう になる。フランスは日 本 と同 様 にエネ ルギー自 給 率が 低 く、エネルギーの安 定的確 保は最大の関心事であるため、 鍵であり、そのためには教員 教 育が非 て組み立てることができるかどうかが と。つま り、教 師 が しっか り と 理 解 し いるところが 決 定 的 な 違いだ、とのこ 境教育の全体を教員がしっかり捉えて で別々に教 えながらも、エネルギー環 向 けると、フランスでは社 会 科 と理 科 と 山 下 教 授。いま一度フランスに 目 を だまだ不十分ですが﹂ 程は、エネルギーという 観 点からはま ﹁も ちろん、私 から 見 れば 今の教 育 課 ま ずは教 員 教 育 から いるのである。 プローチに目が向けられて いう枠を超えた学際的なア る。つ ま り、理 科、社 会 と 実 を 図 る﹂と 述べら れてい 状況に鑑み、環 境 教 育の充 会の構 築が求められている 方を育てる﹂ ﹁持続可能な社 ギーと環境など総合的な見 ﹁科 学 技 術 と 人 間、エ ネ ル 例えば中学理科の改善基本方針では ら学習しよう、というわけだ。 実 社 会・実 生活との関 連ということか 保 存の法則などにとどまることなく、 盛り込まれた。エネルギーもエネルギー 視する内容を充実する﹂という 方針が なかに﹁実 社 会、実 生 活 との関 連 を 重 要 領での大きな改 善 点として、理科の も 変 化 しつつある。今 回、新 学 習 指 導 一方で、日 本のエネルギー 環 境 教 育 させているそうだ。 ﹁地政学﹂であるという意識をはっきり て検討を行っていくことにした。 活 力・人間 力 を育 む次 世 代 教 育につい このような問題意識から本誌では生 代教育がいっそう重要になってくる。 ある。特に次 代 を担 う 青 年 層への次世 活 力・人 間 力﹂を 育 むこと が 不 可 欠 で めには、社会の多様性に対応できる﹁生 大 阪 ガス㈱エネルギー・文 化 研 究 所 構成・文 吉原 佐也香 近 年 、子 どもたちの﹁ 生 きる力︵ 人 間 力・生 活 力 ︶﹂の育み が 社 会 的 な 課 題 となっている 。こう した 問 題 を 解 決 する ためにはどのような教 育が必 要か? 本 連 載では、 ﹁エネ ルギー・環 境 ﹂ ﹁ 住 まい・生 活 ﹂ ﹁ 都 市・コミュニティ﹂の3つの 視 点 から、次 世 代 教 育の現 状・課 題・未 来 を 探 り たい。第 1回のテーマは﹁エネルギー環 境 教 育 ﹂。 新連載/人間力を育む次世代教育 第一回 持 続 可 能 な 社 会 を 目 指 す Community エネルギー環 境 教 育 ま えが き 科 学 技 術 やコンピュータの 発 展、グ している。一方 で そ れ に よって 生 活 者 ローバル化などは社会に恩恵をもたら のラ イフスタイルやコミュニケーショ ンのあり 方が 急 激に変 化し、人々が堅 活 力・人 間 力︵人 間 と して 培 う べき 基 持 するべき生きる力、言い換 えれば生 本 的 な 能 力︶が弱 体 化しているのでは はじめに ︱︱ 生 活 者 にエネルギ ー ・ リテラシーが 必 要 エネルギー自 給 率4% と、他 国に比 べてエ ネ ル ギ ー 資 源 が 乏 し い 日 本 に とって、エネルギー問 題 は常に 大 き な 日に 発 球 温 暖 化 問 題 とも 不 可 分の関 係にあ 課 題である。またエネルギー消 費は地 る。さ らに、2011 年3 月 生した東日本大震災とその後の福島原 発事 故、それに続く関東での大規模な 計 画 停 電と全国 的な電 力需 ひ つ ぱく 給の 逼 迫 に よ り、需 要 面 で られるようになった。他方、 は 節 電・省 エ ネ が 強 く 求 め 制 度 面では 電 力の 自 由 化 論 議がいっそう活発になってい が﹁エネルギーをいかに選択 る。そのようななか、生活者 するか﹂という意思決定を迫 られる機会が増えている。 適切な選 択 を行 う ためには﹁エネル ギ ー・リ テ ラ シ ー︵エネ ル ギ ー を 賢 く 使うための基礎知識︶ ﹂を身につけるこ 況が大きく変わる可能性が高いことを とが不可欠である。 年単位でこの状 考 えれば、次 世 代 教 育 としてのエネル ギー環境教育が重要なテーマだという ことは明らかだ。 そこで﹁総 合 的 学 習 としてのエネル ギ ー 環 境 教 育﹂について 研 究 し、エネ 学の山下宏文教授のお話をうかがいな ルギー環境教育を推進する京都教育大 がら、この問題を考察することにした。 EducationforFutureGenerations 11 エネルギー環境問題に 関する認識の浸透に それだけ長い時間が かかるとすれば、 悠長に構えている 暇はない。 54 CEL July 2013 CEL July 2013 55 10 常に重要であることを山下教授は強調 把握することは簡単ではない。したがっ て、何 ら かの 支 援・体 制 が 必 要 に なっ り対応しているものの、 ﹁小学校教育で 取りあげてから一般に浸透するまで約 か﹂と山下教授は警告する。 する。 年はかかるのではないでしょう する研修や、各教育委員会が指定する ﹁エネルギー自給率は4%ですから、本 ∼ 系を理解したうえで授業が行われてい 研 修 などのシステムがある。これを上 来なら真っ先に扱わなければならない て く る。例 としては、免 許 更 新 に 付 随 れば、全 体 として必要なことがカバー 手に活用し、理解を深めてもらう 機会 教師がエネルギー環境教育という体 できるはず。現 状でエネルギー環 境 教 もほとんど出ていないそ うです。次 世 代のことを 考 えれば、これはできるだ 問題のはずですが、中学 校の教 科 書に け早く取り組まなければならない問題 こうした学校という場での取り組み が、一般の関心にもつながっていく。た です﹂ にすることが第一歩となる。 下教授の主張である。 育 を ど う 扱っているか と、一般 市 民 が だし、小学 校 教 育でエネルギー環 境 教 2 連関 山下 教 授によると、エネルギー環 境 えで、非常に適した教材なのである。 ている思考力や判断力を育てていくう 境 問 題︶への取 り 組 み は、教 育 が 求 め 学 際 的 総 合 的 な課 題︵=エネルギー環 な る。つ ま り、前 節 で 述 べた よ う な、 必要、まずなにより現状認識が重要と い。科学的判断もあれば社会的判断も か とい う 問 題 とつ な が ら ざ る を え な 学習することは、これをどう 解 決する 能 力 で あ る。エネルギ ー・環 境 問 題 を 多様な問題がある状況下での問題解決 Step 教 育の狙いは﹁エネルギー問 題の解 決 とより良いエネルギー利用のあり方を 能な社会を実現する人間の形成﹂にあ 追 求 し、そこから 循 環 型 社 会、持 続 可 る とい う。さ らに、学 習 に 際 して 次 に 挙げる3つの観 点を踏まえて統一を図 ●認識形成 自らが価 値判断するため ることが重要だとしている。 の確かな認識の形成 る学び方の形成 ●学 び方 形 成 自ら学ぶ力 を身につけ ●人 間 形 成 豊かな人間性と社会変化 への優れた対応能力をもつ人間の形成 期待されている。 ために、エネルギー環 境 教 育の充 実が 持続可能な社会を支える人間形成の ことができるわけです﹂ 力の育みに迫るものとして位置づける 育 は、指 導 要 領の本 質である、生 きる になり ます。つまりエネルギー環 境 教 ギー環境教育は大きな意味をもつこと ﹁こ うい う 視 点 に 立つこ とで、エネル る力﹂の礎の構築が必要となる。 をし、積 極 的に 自 己 表 現できる﹁生き 基礎となる感性を育て、自ら価値判断 ためには 社 会 観、自 然 観の 成 す ることを 目 指 す。その き る 力︵知 的 市 民 性︶を 形 会の変化に主体的に対応で 取 り 組 み を きっか け に、社 な る。エネ ル ギ ー 問 題への 目 指 す の が﹁人 間 形 成﹂と この2つの連 関のう えに 験させることを指す。 ながら多様な学習方法を経 盤に、特に課題をつかむ過 程を重視し 発 信 する﹂という一連の探 求 活 動 を基 ついて 調べる、話 し あ う﹂ ﹁表 現 す る、 ギー問題をつかむ、予 想する﹂ ﹁問題に 成﹂は、子 ど もの 発 達 に 応 じ、 ﹁エネル 知ることを目的としている。 ﹁学び方形 ルギーの持続的利用を考える必要性を で、循 環、抑 制、共 生 の 視 点 か らエ ネ 5 つの 観 点 か ら 物 事 を 認 識 す る こ と ﹁存 在﹂ ﹁有 用﹂ ﹁有 限﹂ ﹁有 害﹂ ﹁保 全﹂の 応用例だと考 えれば、 ﹁認識 形 成﹂は、 エネルギー問題への取り 組みをその 表現する、 発信する エネルギー 保全へと 認識を高める それには教員の意識がなによりも重 育を充実させるにはそういう方法で実 20 践するのが最も現実的だというのが山 3 Step 3 Step 要 に なって く る。し か し、教 員 が 自 ら Step 2 確かに、エネルギー環 境 問 題に関 す 学び方形成 エネルギーの 有用性、 有限性、 有害性 について学ぶ 問題について 調べる、 話しあう 認識形成 どう 捉 えているのかということはかな エネルギー 問題の 存在に気づく エネルギー 問題をつかむ、 予想する エネルギー環境教育の体系をしっかり かるとすれば、悠長に構 えている暇は る認識の浸透にそれだけ長い時間がか ない。そのためには、学校・教師・一般、 要だと山下教授は考えている。 それぞれの意識を高めていくことが重 前 節では学 際 的アプローチ、特に教 える教員側の能力充実の必要性を確認 環 境 教 育 は ど の よ う な ゴー した。では肝心の教育内容、エネルギー ルを目指すべきなのであろう 山 下 教 授 は、ま ず 前 提 と か。 して、エネルギー環境教育が 人 間 力 を 育 てる ために 大 変 有 効 で あ ること を 理 解 す べ き だ と 主 張 す る。教 育 に お いて、人間力の育みは知識の 獲 得 とい う こ と 以 上 に 重 要 なのである。 2 0 1 1 年 度 か ら 順 次、小・中・高 校教育で実施された新しい学習指導要 領では、子 どもたちの現 状 を 踏 ま え、 ﹁生きる力﹂を育むことを理念に、知識 や技能の修得とともに思考力・判断力・ 表 現 力などの育 成が重視された。エネ ルギー環境教育はその方向性に即して いるのみならず、この目 標 達 成のため にエネルギーや環境をテーマに学習す 授は語る。 ることはとても 有 効 なのだ、と山下教 思 考 力や判 断 力 というのは、いわば 人間形成 豊かな人間性と 社会変化への 優れた対応能力をもつ 人間の形成 56 CEL July 2013 CEL July 2013 57 30 EducationforFutureGenerations 感性を育てる 自分と他者の 考えの異同を 認められる ようにする 自らの 価値判断を 促す 1 Step 1 Step 自らが 価値判断するための 確かな認識の形成 自ら学ぶ力を 身につける 学び方の形成 大阪府教育センター 主催による 教員研修の風景。 エネルギー 環境教育を 支える 3 つの観点 ﹁ 生 き る 力 ﹂を 育てる エネルギ ー 環 境 教 育 Education for Future Generations 実 践へ向 け て のメッセ ー ジ 京都教育大学 教授 YamashitaHirobumi 山下 宏文 震災で停滞したエネルギー環境教育の再 興を Lectures on Energy Supervised by Shimoda Yoshiyuki, text by Tohma Kiyoshi 2011年3月 日に発 生した東日 本 大 震 災に伴 う 太 平 洋 沿 岸の原 子 力 発 電 所・火 力 発 電 所の停 止により 、 関 東 地 区では電 力 供 給 量が不 足し、計 画 停 電が実 施されました。 さらに翌2012年には、新しい安 全 基 準の策 定のために、 ひつ ぱく 原 子 力 発 電 所の再 稼 働が困 難 となり 、関 西 地 区 を 中 心に全 国 的に電 力 需 給が逼 迫し、 国 民の電 源や電 力 供 給に対 する関 心が非 常に高 ま り ました。 エネルギー講 座 第6講では、ま ず、電 気の基 礎 知 識 を 学び、 電 力 供 給システムの現 状 と今 後について考 えてみま す 。 第六講 エネルギー講座 暮らしとエネルギー 電 力 供 給システム 大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所研究員 電 気 を 作 り 届 けるしくみを 知る 当麻 潔 大阪大学大学院教授 事 量 で あ る﹁電力量︵ ︶ ﹂となります。水道に例えれば、水道 の蛇口から出る水の勢い︵単 位 時 間 あたりに流れる水の量︶が ﹁W﹂で、容 器 に 溜 まった 水の 総 量 が﹁ ﹂で す。 ﹁W﹂は、発 電 設備の発電出力︵能力︶やピーク電力需要を表すのに用いられ、 私 た ち が 日 常 生 活 で 使 っ て い る 電 気 に は、 ﹁直 流︵DC ﹁ ﹂は、月間︵年間︶電力使用量に用いられます。 ︶ ﹂と﹁交 流︵AC ︶ ﹂が あ Direct Current Alternating Current ります。 ﹁直流﹂とは、常に一定方向に流れる電流のことであり、 Wh Wh 下田 吉之 監修 電気のしくみを知ろう 私たちの生活に電気はなくてはならないものです。電気はエ ネルギーの一種で、単位時間あたりの電気の仕事量が﹁電力﹂ です。 ﹁電力﹂を決めるのが、電子が流れる量である﹁電流﹂と、 電子を流そうとする圧力である﹁電圧﹂です。 ﹁電力︵W︶ ﹂は﹁電 圧︵V︶ ﹂と﹁電流︵A︶ ﹂の積で求められます。 ﹁電 力︵W︶ ﹂に時間︵h︶をかければ、電 気 が 実 際 に 行 っ た 仕 Wh 教育の現場から 11 教員教育における研修システムなどの ればならないという意識が強くなってい 活用は重要ですが、この意義は学校教育 たのです。1990 年代後半からの社会と に限られるものではありません。実は一 学校の壁を取り除こうという動きもあ 般へのエネルギー環境教育の最初の一歩 り、企業や関係団体からは教員研修や副 でもあるのです。ゴミの問題に学校で取 読本の提供などもかなり積極的に行われ り組むと、子どもが家に帰って「お母さ ていました。近年は学習指導要領の改訂 ん、ゴミは分別しなくちゃいけ もあり、エネルギー環境教育はか ないんだよ」と言ったりする。 なり注目されていたのです。 そこから家庭に広まることもあ それが原発事故をきっかけに大 ります。特に日本の場合は、学 きく停滞してしまった。企業から 校から地域へ、学校から社会へ のサポートには偏りがあるのでは 浸透していくという傾向は強い ないかという危惧が学校や保護者 側にもあるし、提供する企業側に ようにも思います。学校と社会 Education for Future Generations の両面からの意識の醸成が必要になるの もあるからです。でも、教育で重要なの です。 は「こっちが正しい」と誘導することで では、社会全体のエネルギー環境教育 はなく、あくまで中立の立場を保つこと への意識はどうなっているのでしょう です。エネルギーの選択を賢く適切に行 か。震 災 前 ま で、特 に 1990 年 代 か ら える、そういう国民を育てることが最終 2000 年代の初めにかけては地球温暖化 的な目標なのです。それを理解したうえ の問題をきっかけに、持続可能な社会へ で、純粋に教育という観点から次世代を の意識が高まっていました。教育の場で 育てるために協力していただければと思 もエネルギーの問題をきちんと扱わなけ います。 CELから 大阪ガス㈱ エネルギー・文化研究所 研究員 当麻 潔 TohmaKiyoshi 教育現場のために企業ができること 今回の取材を通じて次世代教育を浸透 するツールとして役立つ。学校教育に対 させるためには学校、社会が密接に連携 して、我々企業が支援できる余地は想像 すること、そして教師がキーパーソンに 以上にあることをあらためて確認できた。 なるべきだということが認識できたよう 電力需給をはじめとするエネルギー問 に思う。 題、CO2 排出量増加に伴う地球温暖化問 ではそこで、企業は何を提供できるの 題、中国からの PM2.5 や黄砂等による だろうか。例えばエネルギー事業者の知 大気汚染問題等、今後、エネルギー環境 見を活かした教員研修プログラムは、多 問題への対応はますます重要となる。 くの教師がエネルギー環境教育に取り組 CEL として引き続き、生活者が知って むきっかけを提供する。教育の現場で活 おくべきエネルギーや環境の知識をわか 用できる副読本は、学習をサポートする りやすく正確に、また、中立な立場で情 ツールとして助けになる。そして子ども 報提供していくとともに、次世代教育の から一般の方々までを広くターゲットと ために何ができるか、考えていきたい。 する見学施設もまた、次世代教育を支援 59 CEL July 2013 CEL July 2013 58 とつの波形とした繰り返し波形︶を描きます。1秒間に繰り返 フがサインカーブという波形︵プラスの山とマイナスの山をひ ﹁交流﹂は、電流︵電圧︶を縦軸、時間を横軸で表すと、グラ て、交流から直流に変換しています。 ヘ ル ツ︶﹂ す。直流で動くパソコンなどの電化製品は、アダプターを使っ 圧︶が周期的に変化する電流のことで、家庭用の電源は交流で 極に移動します。 ﹁交流﹂とは、電流の流れの方向と大きさ︵電 再度発電を行う﹁揚水式﹂があります。揚水式発電は、昼間と 要の少ない夜間の電力で上部池に汲み上げ、需要の多い昼間に と下部に調整池を作り、発電に用いて下部池に貯まった水を需 大規模なダムに大量の水を貯める﹁貯水池式﹂、発電所の上部 の流れをせき止め、水を貯める調整池を利用した﹁調整池式﹂ 、 します。河川の流れをそのまま利用した﹁流れ込み式﹂、河川 力を利用して水車を回し、水車と直結した発電機で電気を起こ ﹁水力発電﹂は、水が高いところから低いところに流れ落ちる 力﹂ ﹁太陽熱﹂ ﹁バイオマス﹂ ﹁水力﹂ ﹁地熱﹂などがあります。 使って行う発電です。再生可能エネルギーには、 ﹁太陽光﹂ ﹁風 さ れ る 電 流︵電 圧︶の 変 化 の 回 数 を﹁周 波 数︵㎐ 乾電池や自動車のバッテリーのように、プラス極からマイナス といいます。日本では、静岡県の富士川から新潟県の糸魚川あ 夜間の需要の凸凹をならして、発電所の稼働率を向上させるた ます。2つの周波数の電気が用いられた経緯は、初めて発電機 各 発 電 方 式 の 比 較 を3E︵エ ネ ル ギ ー・セ キ ュ リ テ ィ、環境 めの蓄電池の役割を果たしています。 アメリカ製の ㎐用を採用したためです。周波数を全国統一す けられるのでしょうか。 電気はどのように作られ、届 私たちが家庭で使っている るには、莫大な費用と時間がかかるため、現在でもそのままに なっています。 電力供給システム 多様な発電方式 電気は、遠く離れた発電所 で作られ、高い電圧で発電所から送り出され、送電線↓変電所 ↓配電線↓引込線を経て、家庭に届けられています︵ Chart︶ 1。 発電の方式には、 ﹁火力発電﹂ ﹁原子力発電﹂および﹁再 生 可 載しました。 期待される 再生可能 エネルギー発電 再生可能エネルギー発電は、 発 電 時 に COを 発 生 し な い、 2 純国産エネルギーを用いての 発 電 方 式 で あ り、燃 料 を 輸 入 する必要がなく、持続可能性の観点からも、導入促進が必要です。 ところが、わが国の再生可能エネルギーの導入率は、2011年 ・4%、イギリスは2・8%︵いずれ 度の発電電力量ベースで1・4%︵ ﹁エネルギー白書2012﹂︶ であり、一方、ドイツは ため﹁地熱発電﹂のポテンシャルも大きく、また、建築廃材や をイメージする人が多いのですが、日本は有数の火山国である 再生可能エネルギーといえば、 ﹁太陽光発電﹂や﹁風力発電﹂ 価格買取制度﹂がスタートしました。 入促進のため、2012年7月に﹁再生可能エネルギーの固定 極めて低い状況にあります。そこで、再生可能エネルギーの導 タ︶となっており︵いずれも水力を除く︶、海外と比較しても もENTSO E 欧 州 送 電 会 社 協 会 に よ る 2 0 1 1 年 デ ー − 能エネルギー発電︵水力発電を含む︶ ﹂があります。 ﹁火力発電﹂は、化石燃料を燃やしたときに発生する熱エネル ギー︵高温高圧の水蒸気︶でタービン発電機を回して電気を起 こします。発電に使用される化石燃料としては、 ﹁石炭﹂﹁石油﹂ ﹁天然ガス︵LNG 液化天然ガス︶ ﹂があります。 ﹁原子力発電﹂は、原子炉の中でウランを核分裂させ、できた 中性子の速度を下げて核分裂を連続させ、そのとき発生する熱 家畜の排泄物などの廃棄物系から森林などの木質系まで多様な ネルギー発電です。 ●資源回収システムが未整備 バイオマス ●過去数十年の大気のCO 2を 生物が光合成したものであり、 トータルでCO 2フリー ●安定した出力が得られる ¥17.4∼32.2 バイオマスを活用した﹁バイオマス発電﹂も有用な再生可能エ 再生可能エネルギー Geothermal ●適応地の多くが国立公園内にあり、 また、温泉泉源の枯渇懸念が 温泉組合にあり、建設に制約 ¥9.2∼11.6 地熱 ●天候に左右されず、 供給安定性に優れる ●世界有数の火山国であり、 ポテンシャルは大きい (陸上) Wind ¥8.8∼17.3 風力 で高温高圧の蒸気を作り、タービンを回して電気を起こします。 15 ●風況により出力が変化し、 発電が不安定 ●電線、景観や低周波騒音の 問題等立地場所が限定される ●発電時CO 2を排出しない ●資源の制約がない ﹁再生可能エネルギー発電﹂は、化石燃料以外のエネルギー源 性 排2 出量、経済性︶ +S︵ 安全性︶の観点から行い、 Table 1 CO にまとめました。また、政府が試算した発電コストも参考に記 を輸入した明治時代に、関東ではドイツ製の ㎐用、関西では いと い がわ たりを境に、東日本では ㎐、西日本では ㎐が用いられてい Natural Gas ¥25.1∼28.0 ●高効率で需要変化への対応に優れる ●燃料の調達先が分散しており、 長期契約が中心であるため、 比較的供給安定性は高い ●CO 2を排出する (化石燃料のなかでは最も少ない) ●燃料および輸送費が高い ●インフラ整備が必要 ¥10.9∼11.4 ●発電時CO 2を排出しない ●資源の制約がない ●戸建住宅に容易に設置可能 ●天候や時間帯により 出力が変動し、発電が不安定 化石エネルギー (小水力) Water (利用率50%) ●CO 2の排出が多い ●中東への依存度が高く、 供給安定性に懸念がある ●燃料価格が高い 天然ガス (LNG) 06 Number Lectures on Energy 60 50 ●需要変化への対応に優れている ●燃料貯蔵が容易である 60 CEL July 2013 CEL July 2013 61 Coal ●化石燃料のなかでCO 2の排出が最も多い (CO 2排出量:石炭>石油>天然ガス) Petroleum ¥19.1∼22.0 水力 ¥10.3∼10.6 ●資源量が広くまた多くあり、 供給安定性は高い ●他の化石燃料と比較して、 低価格で安定している 石油 (木質専焼) Biomass 50 Nuclear ●社会的受容性に問題 ●放射性廃棄物の処理処分方法が 確立していない 石炭 ●大規模な新規開発が困難 ●渇水時に発電が困難 ¥8.9∼ ●発電時CO 2を排出しない ●ウラン資源が広く分布し、 供給安定性は高い 原子力 ●発電時CO 2を排出しない ●需要変化への対応に 用いられる (揚水発電) ¥9.9∼20.0 60 のうち、永続的に利用することができる再生可能エネルギーを さまざまな発電方式とそのメリット、 デメリット 2 (住宅用) Solar 発電コスト (円/kWh) デメリット 方式 メリット 太陽光 1 Table 1 発電方式の比較表 ※1:メリット、 デメリットは、 CELでの整理 ※2:発電コストは、 エネルギー・環境会議「コスト等検証委員会報告書(2011年12月19日)」 より Chart 1 日本の電力供給システム 発電された電力が家庭に届くまで 発電 Electric Power Supply System 送電 おもな発電の方式には、 水力、火力、 原子力発電がある 電気は、供給時の 電圧が高い順に、 各需要家へと届けられる 燃料 特別高圧 高圧 低圧 石炭 LNG 石油 大工場 大工場 中工場 Plant Plant 154,000V∼66,000V 22,000V 小工場 集合住宅 Factory Workshop 6,600V 200V 火力発電所 5, 00 Apartment 0V V 27 住宅 10 0V /2 00 燃料 154,000V 275,000V 66,000V ウラン 一次変電所 中間変電所 6,600V 100V/200V 配電用変電所 柱上変圧器 6,600V 100V/200V House 10 超高圧変電所 22,000V /2 0V 原子力発電所 00 V 27 5, 00 0V 送電ネットワーク 154,000V∼66,000V 22,000V Power Grid 水力発電所 水力発電所 三大発電 The Three Major Power Systems 火力、原子力、水力による 発電量の合計が総発電量の ほぼ 95 %以上を占めるた め、これらは「三大発電」 と総称されている。太陽光、 地熱、風力などの再生可能 エネルギーによる発電は、 2011 年度段階で、まだ総 発電量の 1.4%しかない。 発電所を出て、末端の配電 用変電所までの過程を「送 電」 、配電用変電所から需 要家までの過程を「配電」 という。超高圧変電所から、 配電用変電所、最後は柱上 変圧器(いわゆる電信柱) まで、徐々に供給される電 圧が下がっていく。 Apartment 集合住宅 House Buliding Buliding ビルディング Railway 住宅 ビルディング 鉄道変電所 大規模発電所で作られた電気は、 さまざまな送配電設備を経て需要家に届けられる。 こうした供給システムは 大規模集中型と呼ばれる Lectures on Energy 63 CEL July 2013 電線に電気を通す際に、電 気抵抗によって電気エネル ギーの一部が熱となって空 中に放散されることを送電 ロスという。発電所から需 要家までの距離は長いので、 送電ロスを少なくするため に、発電所からはいったん 電圧を高くして送電され、 何カ所かの変電所を経て電 圧を下げながら需要家に届 けられる、という工夫がな されている。 Number 06 CEL July 2013 62 所かの変電所を経て、電圧が下げられ、配電用変電所で一般家 ら、 ﹁配電線﹂を通じて、電柱に設置されている﹁柱上変圧器﹂ 原子力、 LNGが石油代替電源として積極的に開発され、電源 を時々刻々と一致させる必要があります。これを﹁同時同量﹂ るためには、変動する需要︵消費量︶に対して、供給︵発電量︶ 電気は貯蔵することができないため、安定した電気を供給す 発 電 所 で 作 ら れ た 電 気 は、 ︵ Chart︶ 2。常に、電気の使用状況に合わせて発電所の発電量 をコントロールする必要があり、各電力会社の﹁中央給電指令 で も 朝、昼、夜 で 大 き く 変 化 し、季 節 に よ っ て も 異 な り ま す ですが、電圧を変えることが難しく、変圧器で簡単に電圧を変 か ら 送 配 電 線 を 経 て 需 要 家 に 電 気 を 届 け る﹁大 規 模 集 中 型 電 従来型の、需要家から遠い沿岸部に建設された大規模発電所 網の特定地点での電圧上昇等の問題が生じる懸念もあります。 64 CEL July 2013 地球温暖化対策としても有効であり、今後の導入促進が期待 で100Vまたは200Vにまで下げられ、一般家庭に届けら 庭に電気を供給するため6600Vまで下げられます。そこか わが国の電源構成を見てみ れています。 ますと、1963年度に火力 発電の出力が水力発電を上回 り、その後、石炭火力から石 の多様化が進められました。その結果、わが国の電源構成は、 といいます。 電気の需要と供給のバランス 他国と比較して、原子力、化石燃料︵石炭、石油、 LNG︶、水 この需要と供給のバランスが崩れると、周波数や電圧等、電 の変化、猛暑に備えて、夏季のピーク需要に対して8∼ %程 需要家までさまざまな電力設 うにコントロールしています。電気の使用状況は、一日のなか 備を経て届けられます。電線 所﹂が発電所に指令を出し調整しています。 万Vと非常に高い電 えられる﹁交流送電﹂が主流となっています。 源﹂に対して、需要家近辺に分散して設置した太陽光発電、燃 今後、大規模集中型と分散型の連携による、電力の安定供給 06 Number されます。 バランスの とれた 電源構成 油火力への転換が行われ、大容量・高効率の石油火力発電が増 力のバランスがとれた構成となっていました。 気の品質に影響します。需要に対して供給が多いと、周波数が 度余裕を持って供給を準備する必要があると言われています。 なると思われます。 に電気を通すと、電気抵抗に 東日本大震災時のように発電所 が停止した場合も想定し、異なる周波数間も含めた、全国規模 同時同量を行うため、3・ の融通による、電力安定供給体制の強化が必要とされています。 万5000∼ 少ない電流でも送電ロスを少なく送ることが可能になります。 そのため、一般的には、 発電所から﹁送電線﹂を通じて高圧で送られた電気は、何カ 一方、出力が不安定な太陽光発電や風力発電等が大量に電力 ギー総合効率が高まります。 東日本大震災に伴う原子力発電所の停止による 重要性が高まっています。 系統に接続された場合、周波数の乱れや余剰電力の発生、配電 分散型電源は、防災対応等の緊急時に既存の電力会社の電力 のための技術開発や仕組みが必要となってきます。 石炭 接して設置するため送電時のエネルギー損失を低減できる利点 に依存しない自立型としての活用の可能性があり、需要地と近 計画停電や、全国的な電力需給の逼迫から、この分散型電源の います。3・ 料電池、コージェネレーション等の電源を﹁分散型電源﹂とい 大規模集中型から分散型へ これを送電ロスといいます。通常、発電所から需要家までの距 より、電気エネルギーの一部が熱となって空中に放散されます。 電気は 送配電線を通じ て 家庭まで届きま す 10 離が長いため、発電所から電気を高い電圧で送電することで、 11 揚水用電力 調整池式・ 貯水池式水力 石油 これからの電力システム ガス(LNG) があります。 需要 また、燃料電池やガスエンジン等のコージェネレーションに 揚水式発電 Lectures on Energy 加しました。197 3 年度の第一次オイルショックを契機に、 一日の電源構成は、運転特性、経済性等を考えて、多様な電 の東日本大震災直後、東 G火力発電は、近年コンバインドサイクル︵ガスタービンの排 電力会社は、周波数の偏差が0・1∼0・3㎐以下になるよ 量が確保できなかったためです。通常、故障による停止や景気 所および火力発電所が停止し、需要に対応するだけの電力供給 京電力は管内で計画停電を実施しましたが、これも原子力発電 上昇し、少ないと下降します。3・ 源を組み合わせ、各電源を、 ﹁ピーク﹂ ﹁ミドル﹂ ﹁ベース﹂の供 の東日本大震災に伴う東京電力の福島第一原子力発電 給力に振り分けています。 3・ % と最も多くなっています。 LN 所の事故以降、原子力発電所の停止が相次ぎ、2011年度は、 %以上の発電効率を実現しており、今後の火力発電の主流に LNG火力発電の構成比が 11 熱を利用してさらに蒸気タービンを回して発電する方式︶で、 40 27 圧 で 送 電 さ れ ま す。送 電 ロ ス は、 ﹁直 流 送 電﹂の 方 が 少 な い の 50 火力発電所の稼働率を 向上させるため、 夜間に焚き増し、 水力発電の揚水発電にあて、 昼のピーク時や 緊急用として使う 22 24h 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 CEL July 2013 65 11 中間時間帯 ピーク時間帯 中間時間帯 オフピーク時間帯 分散型電源と大規模集中型電源とをネットワーク化し、電力 流れ込み式水力・地熱 11 3.11東日本大震災前のイメージ図 よる排熱を近接した需要地で有効利用することができ、エネル 24時間供給量をコントロールする工夫 それぞれの電源には、コス ト構造に特徴がある。24 時間、需要に応じた量を安 定供給し、かつ発電コスト 全体が最も安価になるよう に、各電源を組み合わせて 運 転 パターンを決定して いる。 3 50 4 Chart 2 時間帯別 電源のベストミックス 原子力 トグリッド﹂が注目されています。これは、太陽光発電や風力 システムとして期待されており、京阪奈、北九州、横浜、名古 トコミュニティ﹂といいます。今後の新たなエネルギー・社会 エネルギー・社会システムが導入されたコミュニティを﹁スマー のライフスタイルの変革までも幅広く含むエリア単位の次世代 発電等、出力が自然条件に左右される再生可能エネルギーを大 を効率よく︵賢く︶マネジメントするシステムである﹁スマー 量 に 導 入 し つ つ、安 定 的 な 電 力 供 給 を 確 保 す る た め、バ ッ ク 屋等で実証試験が行われています。 じめとするエネルギーの選択には、供給安定性、環境性、経済 電気は私たちの生活には不可欠なエネルギーです。電力をは エネルギー・リテラシー向上のために アップ電源や大容量蓄電池等の電力系統側の対策だけではなく、 情報通信技術︵ICT︶を用いて需要側での対策も講じ、効率 的に需給バランスをとり、電力の安定供給を実現する電力送配 さらに電力に加えて、熱も併せたトータルのエネルギーをI 性、持続可能性等を考慮した合理的な判断が必要です。そのた 電網のことです。 ネ ッ ト ワ ー ク ﹂と い い ま す。再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー と 合 わ せ て CTを 用 い て 制 御 す る ネ ッ ト ワ ー ク を﹁ス マ ー ト エ ネ ル ギ ー する排熱を電力と共に地域ネットワーク内で活用・最適化する コージェネレーションを地域全体で制御して、発電の際に発生 重 要 と な っ て き ま す。こ の エ ネ ル ギ ー 講 座 が 読 者 の エ ネ ル 基礎知識︶を身につけることと、継続的なリテラシーの向上が めにはエネルギー・リテラシー︵エネルギーを賢く使うための 最終回 写 真・文 小笠原 潤一 太田 順一 電気事業の新しい姿が決まっていくことになります。 電 力 会 社 や さ ま ざ ま な 関 連 サ ー ビ ス の 選 択 に よ り、 ビスなど、新しい動きも見られます。今後は皆さんの、 スマートグリッドや分散型電源、省エネルギー・サー 016年度から開始予定︶を行うことになりました。 離と全面自由化︵家庭も電力会社を自由に選択する制度で、2 が、今回はより一歩踏み込んで電力会社の送配電部門の法的分 らにこれまで大口需要家を中心に自由化が進められてきました れ、メガソーラーなどの太陽光発電の設置が進んでいます。さ 7月から再生可能エネルギー発電の固定価格買取制度が開始さ ㈶日本エネルギー経済研究所 電力・石炭ユニット 電力グループマネージャー 研究主幹 ギー・リテラシーの向上に貢献できるものと確信しています。 ものです。また、コージェネレーションの運用により、再生可 能エネルギーの出力変動を平滑化する効果も期待できます。 さらに、電力と熱に加えて、地域の交通システムや水、市民 Column 岐路に立つ電気事業 電気事業は、福島第一原子力発電所事故以降、大きな岐路に 立っています。これまで電力供給において重要な役割を果たし てきた原子力発電の安全性への懸念から、安全審査を中心に、 その位置づけの見直しも検討されています。これに伴い、ほと んどの原子力発電所の停止が続いていることで夏場・冬場の節 電が求められるようになるとともに、電力会社の化 石燃料の購入費用が増加し、東京電力、関西電力お よび九州電力の電気料金値上げが行われ、さらに東 北電力、四国電力そして北海道電力でも同様に値上 ひ だ か が わ ちよう 農 業で 第二の人 生 を﹁ 至 福の時 ﹂に げが行われる予定になっています。また20 12年 “People who cultivate” Number 08 耕す 人々 あんちんきよひめ ど う じよう じ 和歌山県日高川 町 は、温暖で風光明媚な山あいの里。 県のほぼ真ん中に位置し、大阪からだと車で2時間の距離だ。 06 Number Lectures on Energy 瀧川泰彦さん、 75歳。大阪から移住。 米づくり塾・塾長。 「都会ではネオン街で1時2時の生活でしたが、 ここではウグイスの声で毎朝起こされてます」 66 CEL July 2013 CEL July 2013 67 安 珍 清 姫 の 物 語 で 有 名 な 道 成 寺が あ る こ と で 知 ら れ る が 、 近年は田舎暮らしに憧れる都市住民にとって絶好の移住地として注目を浴びる。 その高い人気は、受け入れの窓口となって移住者を手厚くサポートしてきた ﹁ゆめ倶楽部 ﹂の功績によるところが大きい。 今 ま で にU ・ I タ ー ン し て き た 人 は 2 0 0 人 に も の ぼ る 。 Takigawa Yasuhiko Ogasawara Jyunichi 21 “People who cultivate” 耕す 人々 Hosoki Takao 細木貴夫さん、 64歳。 大阪から移住。 古民家レストランの「まる貴 (たか) 」は、 築130年の家をひとりでこつこつと改修してできた。 「趣味というのか、 はまってしまったんですな」 ジビエ (猪、 鹿などの野生鳥獣肉) 料理が専門で、 完全予約制。 69 CEL July 2013 CEL July 2013 68 “People who cultivate” 耕す 人々 壽崎泰博さん、48歳。大阪から移住。 法学部卒の元システムエンジニア。 「木を切り倒すのは職人的な技が必要で、 そこが難しくて。 でも面白いですよ」 木島賢一さん、44歳。神奈川から移住。 いちご園で研修中。起業したくて外資系会社を辞めた。 「みかん・梅の和歌山で、 いちごをブランド化したいです」 この夏、 独立する。 ﹁ゆめ倶楽部 ﹂は、都会から人を もっと呼び込んで山里を活性化させ ようと、日高川町の旧住民だけでな く移住してきた新住民、それに行政 なども加わって2002年に発足し た。田舎暮らしのセミナーや体験ツ アーを催して移住の相談にのり、短 期滞在の世話をしたり、定住のため の空き家の紹介もする。 倶楽部の創設時からのメンバーで あ る 瀧 川 泰 彦 さ ん︵ ︶は、移 住 者 くわ のなかに立ち上げた。今までに 人 民を対象に﹁米づくり塾﹂を倶楽部 ち合いたいと、2003年、都市住 この感動をもっと多くの人と分か うのか、と感激しましたわ﹂ ﹁至福の時とはこのようなことをい の実りをもたらした。 揮して、見事、3反の田んぼに黄金 が、持ち前の研究熱心さをフルに発 悪 戦 苦 闘、そ し て 失 敗 の 連 続。 アハハ﹂ 地球のほうをたたこうかと思って。 んですな。同じ球をたたくのなら、 たま ﹁ゴルフのクラブを鍬に持ち替えた な気がしたのだ。 人だが、3人でなら何とかなりそう ることにした。農業経験ゼロのド素 移住者とも相談して3人で引き受け らえませんか﹂と哀願された。他の ﹁主人に代わって田んぼをやっても に住む地主が急死して、奥さんから ところが、である。隣の大きな家 買った。 楽しめるぞ﹂とゴルフ場の会員権も 郷に来たわけで、 ﹁こりゃあ、毎日、 フ場まである。三拍子そろった理想 適の川が流れ、近くには温泉、ゴル 築した家の前には釣りをするのに最 農業をするつもりはなかった。新 定年を機にIターンしてきた。 り過ごしたいと思い、1999年、 の部長をしていたが、田舎でのんび 組のひとりだ。大阪の大手化学会社 75 人が日 した。受講した 科目はオールAで 書き上げ、今春、最短の2年で卒業 り塾﹂を事例研究にして修士論文を 農業の経済と歴史を学び、 ﹁米づく アハハ﹂ 識がないとものも言えませんしね。 ﹁塾長として人に教えてるけど、知 歌山大学の大学院に入学した。 川さんだが、思うところがあって和 売り切れるほど人気を呼んでいる瀧 ブランド米﹁あやめしぐれ﹂はすぐ 今やプロの農業人となり、自身の ている。 高川町などの農村に移住を果たし の塾生を送り出し、う ち 70 ある。︱︱新天地で送る第二の人生 は、今、たわわな実りで輝いている。 あ とがき 材で会ってきたのは前 向 きな人ばかりだ。 連 載もこれが最 終 回。振り返れば、取 きをする女性、 ︿楽しく農業をやろう﹀と ︿農 業で食べていきたい﹀とひとりで種 ま 感性豊かに有機農法に取り組む若者たち、 ︿農家も営業をしないと﹀と消費者とのコ まさに硬い地 面 を﹁耕 す 人々﹂だ。農 業 ミュニケーションに努力する農家組合⋮⋮。 しかし私は﹁耕す人々﹂と出会って、農業 の現 状については悲 観 的なニュースが多い。 の今後にむしろ期待感をもった。 Ohta Junichi 「ゆめ倶楽部21」 31 山本敏冶さん、 62歳。 大阪の大手電機会社を定年退職。 「農業のいいところは、 雨の日でも雪の日でも 何か仕事があること。 毎日、 生きがいを感じます」 日高川町。面積の9 割が森林。 1991年、 過疎化による休耕田を宅地に転用し、 菜園付き住宅を格安で販売した。 これが人気移住地となるきっかけ。 各務耐子さん、 76歳。 大阪から移住し、 農家民泊を営む。 「台湾から高校生も来て、 別れるとき私を、 お母さん!って呼んで大泣きする。 たった1泊で情が移るのね」 日高川。町の真ん中を流れる。 自然体験、 田舎暮らし体験の観光プログラムが 60種類も用意されていて、 毎年2000人を超える人が訪れる。 安大孝夫さん、52歳。豊子さん、51歳。 大阪から20年前に移住し、 パン工房の「こむぎっ子」 を営む。 「24時間、 笑顔でいようねといい合ってます」 両親のその楽しそうな仕事ぶりを見てだろう、 こちらに来てから 生まれた男の子が、 自分もパン屋をしたいといい出した。 Yamamoto Toshiharu Kagami Taeko Andai Takao & Toyoko おおた・ じゅんいち/1950年、奈良県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退、 大阪写真専門学校(現・ビジ ュアルアーツ専門学校 大阪)卒業。第12回写真の会賞、 日本写真協会賞第1 回作家賞、 第34回伊奈信男 賞受賞。 おもな写真集は 『大阪ウチナーンチュ』 『 群衆のまち』 『 父の日記』 (以上、 ブレーンセンター) 『ハンセン 病療養所 百年の居場所』 (解放出版社) など。著書に 『ぼくは写真家になる!』 (岩波書店) 。 CEL July 2013 Kijima Kenichi 21 14 「ゆめ倶楽部21」は農家民泊など 体験型観光にも取り組む。 事務局は日高川町役場まちみらい課内。 TEL/0738-54-0338 71 Suzaki Yasuhiro CELからのお知らせ CELからのメッセージ MessagefromCEL News 1 大阪ガス㈱ エネルギー・ 文化研究所 所長 編集体制を 一新しました On & On 木全 吉彦 KimataYoshihiko 情報誌 CEL は 104 号より、 編集体制を一新し再リニュー 昔、上司によく連れて行ってもらったバーの名は アルをいたしました。各号ご deuxième clé(ドゥージエーム・クレ)と言いました。 と に テ ー マ を 設 定 す る「特 集」と CEL 所員の研究報告 フランス語で「二つ目の鍵」という意味ですが、まさ で あ る「CEL OUTPUT」を にアサダさんの言う家と職場の中間にある「サードプ 中心に誌面を構成する方針は レイス」へ入る鍵だったわけです。 維持しつつ、特集の取り上げ 本号の特集は 「余暇から本暇へ」。言うまでもなく“本 方や全体のデザインを見直し、 Culture, Energy & Life より幅広い方々に読んでいた 暇”は造語ですが、 「余暇」は決して仕事などの義務的・ だけるように工夫していきた 公的な時間を引いた後の「余った時間」ではなく、そ いと考えています。 れ自身、固有の役割と価値を持ったもうひとつの「本 なお、本誌で 15 回にわた 来の」時間であるべきではないかという仮説から企画 り連載してまいりました「食 が始まりました。 卓の喜び」は前号 103 号をも Volume 104 July 2013 特集/余暇から本暇へ 平成2 5(2 0 1 3) 年 7月1日発行 頒価/1,000円 (送料別途) ちまして終了いたしました。 仕事とプライベートな生活をどのように調和させる バックナンバーはエネルギ かについては、近年、 「ワーク・ライフバランス」の ー・文化研究所の WEB サイ 問題としてよく取り上げられます。そこではワークと トで検索可能ですのでご覧く ライフを対立的に扱い、放っておくと肥大化し、か弱 ださい。 さんしよく いプライベートな生活時間を蚕 食 しがちな(いわば 悪者の)ワークをいかに制御するか、という文脈で語 発行 大阪ガス㈱ エネルギー・文化研究所 (CEL) 〒541‐0046 大阪市中央区平野町4−1−2 編集人 西田裕一 ㈱ 編集 凡社企画コンテンツ課 デザイン 岡本一宣デザイン事務所 校正 ㈱アンデパンダン DTP制作 ㈱ワールドビュウ http://www.osakagas.co.jp/company/efforts/cel/ 印刷・製本 ㈱東京印書館 お問い合わせ窓口 大阪ガスビジネスクリエイト㈱ TEL 06-6205-4650 FAX 06-6205-4759 [email protected] Research Institute for Culture, Energy and Life ©2013 OSAKA GAS CO., LTD ※禁無断転載複写※本誌掲載の寄稿文、 インタビュー、 レポートなどの内容は必ずしも 大阪ガスの見解を表すものではありません。 本誌・バックナンバーのコンテンツやエネ ルギー・文化研究所 (CEL) の活動内容は、 インターネッ トホームページでご覧になれます。 られることが多いのですが、考えてみればワークもラ イフの一部であり、 「バランスを取る」類のものでは 都市魅力研究室を 開設しました 大阪ガス㈱エネルギー・文 化 研 究 所 は 5 月 9 日、JR 大 阪駅前のグランフロント大阪 「ナレッジキャピタル」内に 「都市魅力研究室」を開設し ました。同研究室では、都市 の持つ歴史や文化、生活者や 社会に提供する時間的・空間 的価値、さまざまな人や価値 観を交流させる力などを「都 市魅力」として広く捉え、セ ミナーや講演・イベントなど を行っていく予定です。 詳細は大阪ガス㈱ WEB サ イトをご覧ください(プレスリ リース・生活情報「 『都市魅力 研究室』の開設について」 ) 。 今後の具体的な活動内容に 関してはエネルギー・文化研 究 所 の WEB サ イ ト で 適 宜、 情報発信してまいります。 http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2013/1203472_7831.html CELホームページ アートディレクション 岡本一宣 2 プレスリリースURL 発行人 木全吉彦 News ないはずです。 人が自身の人生を振り返ったとき、まず思い浮かぶ のが日々の家庭生活より仕事で取り組んだこと、達成 したことであるというのは決して珍しくないでしょう。 両者は決して対立概念ではなく、それぞれをそれぞれ のものとして充実させるべきであり、そのための努力 が必要なのではないでしょうか。 仕事時間を ON、余暇時間を OFF とする表現が日 本でも広まりつつありますが、OFF については 1 日・ 1 週間単位での ON-OFF サイクル以外に、長期休暇 という OFF や、定年・子離れ後の長い OFF もあります。 これらをイメージすれば、OFF は決して停止・消灯 ではなく、 「ON とは別のスイッチが入る」ことと考 えるのは容易でしょう。OFF すなわちもうひとつの ON の時間をいかに充実させるかを真剣に考え、具体 的行動に移すことで、ワークも含めたライフ全体の質 を向上させることができるのではないでしょうか。 遊ぶように(クリエイティブに)仕事をし、仕事を するように(まじめに)遊ぶことができたら素敵では ありませんか。 Vol.104 July 2013 Contents Culture, Energy & Life 特集 /余暇 から本暇へ Special Feature / Beyond ON-OFF Introduction 「余暇」 について再考する 大地に響く人生のシンフォニー Part 1 Part 2 隠居のつとめ Part 3 日本人は上手にヒマを作れるか? Part 4 学びの時間を楽しむ Part 5 社会貢献の新しいかたち プロボノ Part 6 新しい 「居場所」 から余暇を再編集する Part 7 チーム力で時間を生み出そう Conclusion 「本暇」的時間を生きるために 2 4 10 14 20 24 28 32 36 Column & Essay 季の恵み 夏から秋へ/暑い時期に体調を整える植物 衣食住遊 大阪は建築ミュージアム 耕す人々 農業で第二の人生を 「至福の時」に 40 67 CEL Insight CEL Output Part 1 幸福の理由とは? CEL Output Part 2 谷崎潤一郎と関西 CEL Output Part 3 生活者の省エネルギーに関する意識と行動 人間力を育む次世代教育 持続可能な社会を目指す エネルギー環境教育 エネルギー講座 第六講 電力供給システム CELからのメッセージ On & On 42 46 50 54 59 72