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金融テーマ解説
Financial Market Update
2016/02/12
チーフ・アナリスト
大槻 奈那
金融システムのリスクを検証:その1:エネルギー関連与信
ネガティブなニュースフローは予想されるが、全体影響は限定的
足元で金融機関への市場の懸念が拡大している。年初来、世界の 29 行の上場大手銀行(Global
Systemically Important Banks)の株価は平均で 26%下落した(図 1)。金額にして 60 兆円以上の
時価総額が失われた計算である。
過去の金融危機時と同様、この動きは、クレジット・スプレッドの拡大と連動している(図 2)
。特に、
足元で利益への不安感が広がっているドイチェバンク(独)
、ウニクレジット(伊)、クレディスイス
(スイス)など欧州の金融機関の株価は、クレジット評価以上に悪化している。
図2:株価下落幅と信用力劣化の関係(2016/2/10時点)
図1:G-SIBsの年初来株価騰落率(%)
ス
タ
チ
ャ
ン
ア
グ
リ
コ
ル
サ
ン
タ
ン
デ
ー
ル
ス
テ
ー
ト
CDS拡大幅(bp) →
ウ ノ
中
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国 ル デ 中 国
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ア 銀 商
業
0
F
バ
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ク
レ
イ
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JPM
BONY
HSBC
モ
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カ ず ス テ
メ ほ タ ィ
BBVA
GS
ING
RBC
ソ
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ジ
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BNP
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チ
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SMFG
ク
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デ
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ス
イ
ス
MUFG
-
ウ
ニ
ク
レ
ジ
ッ
ト
-5
-5.0
株 -10
価
下 -15
落
率 -20
(
-10.0
-12.4
-12.4
-15.0
-20.0
-25.0
20.0
40.0
(米)
80.0
信用力悪化>株価下落度合
ノルディア(ノル
ウェー)
ウェルスファーゴ
60.0
HSBC(英)
JPM(米)
-25
RBS (英)
スタンダードチャー
タード
-30
バークレイズ(英)(英)
-35
-31.6
-31.8
-33.5-33.8
-32.5
-35.5-35.3
-35.0
-45.0
)
-25.3
-26.0
-27.4
-28.5
-29.5
-29.3
-31.4
-30.0
-40.0
%
-15.0
-16.8
-18.3 -16.8
-19.3
-20.1
-21.4 -21.1
-22.2 -21.6
-
-40
-45
-39.7-39.7
-43.2
-50
クレディスイス
ドイチェ(独)
ウニクレジット(伊)
-50.0
(出所:Bloombergデータよりマネックス証券作成)
(出所:Bloombergデータよりマネックス証券作成)
現状の世界の大手行の財務力分析:過去のどんな危機の時より安心
では、G-SIBs の財務力は現状どこまで脆弱なのか。図 3 にあるように、資本比率は中央値で 11.1%
(最後の年度末決算基準、経過措置ベース)と高く、不良債権比率も中央値で 2.2%と低い。なお、
G-SIBs の所要普通株式等 Tier1 比率(CET1 比率)は、2016 年度から段階的に引き上げられ、2019
年には、銀行の規模と業務によって、8.0%~9.5%となっている。欧州では健全性が相対的に低めの
銀行が多いものの、それでも、資本比率については、全行で最低値を 1 ポイント以上上回っており、
08 年の世界金融危機当時と比べても格段に改善している。
-1Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved.
Financial Market Update
図3:世界の大手行(G-SIBs)の財務力比較
時価総額 格付(S&P) CET1資本 不良債権比
(百万USD)
比率
率
預貸率
健全性指
標が平均
点以下の
項目数
ROA
健全性関連の指標
英
英
英
英
欄
中央値 (%)
HSBC
RBS
バークレイズ
スタチャン
ING
ノルディア
UBS
11.1
平均利鞘
経費率
利益率
2.2
126,223 A
39,346 BBB38,818 BBB
19,400 A42,905 Aノルウェイ
39,642 AAスイス
57,211 BBB+
スイス
クレディスイス
27,018 BBB+
独
ドイチェ
22,301 BBB+
西
サンタンデール
57,861 A仏
BNP
55,888 A+
仏
ソシエテジェネラル
28,568 A
仏
アグリコル
24,437 A
伊
ウニクレジット
20,887 BBB米
ウェルスF
235,828 A
米
JPM
204,376 A米
バンカメ
124,742 BBB+
米
シティ
111,444 BBB+
米
GS
65,568 BBB+
米
モルスタ
43,952 BBB+
米
BONY
36,679 A
米
ステート
21,679 A
日
MUFG
56,965 A
日
SMFG
37,126 A日
みずほ
35,305 A(出所:各行資料、Bloombergデータよりマネックス証券作成)
… 中央値よりやや悪い(格付はA-以下)
…中央値より悪い
74.1
0.4
1.5
貸出金伸び率
成長性
62.9
4.2
2
4
4
3
3
1
2
2
3
3
3
3
2
4
2
3
1
1
1
1
1
2
多岐にわたる懸念材料 - 今回は原因の特定が難しい
では、金融システムは、今後どの程度のストレスに対応できるのだろうか。現在、世界の金融システ
ムに対する懸念要因として実に様々なことが議論されているが、その主なものとしては、1)エネル
ギー関連与信、2)欧州の金融機関の収益低下(日欧ではマイナス金利による本業収益の低下)、3)
新興国の信用力、4)これらを受けた規制資本への影響、特に足元ではハイブリッド債券(AT1 =
Additional Tier 1 債、劣後債など)の利払い停止懸念、などが挙げられる。
今回の市場の動揺は、過去の危機に比べて、その要因を一つに特定することは難しい。このため、市
場が不安心理から脱するためには、これらの一つ一つを検証していくことが重要である。まず今回は、
リスクの波及が読みにくい 1)のエネルギー関連のリスクを検証する。
エネルギー関連与信では、クレジットサイドでネガティブニュースが続いている
1月末から今週にかけ、エネルギー与信に関連する格付け見直しの発表が相次いだ。
ムーディーズは1月21~22日、世界で175社のエネルギー関連企業の格付けを引き下げる方向で見直
すと発表した。3月までに大半の結論を出すとしている。大幅な格下げがあれば、財務制限条項(コ
-2Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved.
Financial Market Update
ベナンツ)などによっては、プロジェクト融資の支払い金利が上昇する可能性もある。また、エネル
ギー与信に対する銀行のリスクウェイトが上昇する場合もあるため、次回の借り換えが困難になると
いう懸念もある。
続いて2月9日には、S&Pが、米国でエネルギー与信の比率が高い地銀4行 (BOK Financial Corp.,
Comerica Inc., Cullen/Frost Bankers Inc., Texas Capital Bancshares)を格下げした。しかも、格
付けの見通しは全行について「ネガティブ」とされている。
一般に格付けは遅行指数となる傾向がある。しかし、格付けが一定以下に下落してくると、それを見
た金融機関や債券投資家が資金を提供できなくなるため、格下げが次の格下げを招くという悪循環に
陥ることがある。特に、情報が限られる疑心暗鬼の市場ではその傾向が強い。
当面最大のリスクは、開示の遅れによる市場の「アンカリング効果」
エネルギー関連与信については、現状金融機関の開示がまちまちで、しかも、どの程度のストレスで
どの程度の損失が発生するのかについてはあまり開示がない。今後銀行からの開示が進む可能性はあ
るものの、それより先に、巨額な損失額の予想などが市場に飛び交うと、市場はその数字にとらわれ
てしまい、その後小さ目の数字が出ても納得しないことが多い。先に提示された数字がその後の理解
をゆがめるという、代表的な認知バイアスの一つ、
「アンカリング効果」である。今後の開示のプロ
セス、格下げの範囲等をみるまでは不透明感が払しょくしにくいだろう。
エネルギー関連与信の現状:一時期の原油価格上昇で大きく拡大、償還額増加へ
エネルギー関連与信は、一時期の原油価格の上昇を受け急成長してきた。例えば米国のエネルギー関
連の社債残高は、06年から15年にかけての10年で4.2倍に拡大、金額で、6,000億ドル以上増加した(図
4)。特に、原油価格が概ね80ドルから100ドルのレンジの頃に大きく貸出が増加していることがわか
る(図5)
。
-3Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved.
Financial Market Update
図4:米国エネルギー関連債券残高vs原油価格の推移
(10億ドル)
エネルギー関連債券残高(左軸)
WTI原油先物価格(右軸)
1,000
(ドル)
160
900
140
800
120
700
100
600
500
80
400
60
300
40
200
20
100
0
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(出所)BISデータよりマネックス証券作成
図5:米国エネルギー関連債券増加幅vs原油価格
160
140
120
100
80
60
40
20
0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
-20
米エネルギー関連社債の対前年増加額(10億ドル)
原油価格(WTI, 1バレル当りUSD)
(出所)BISデータよりマネックス証券作成
しかも、各業者の負債比率の上昇も影響している点も懸念される(図6)。とりわけ新興国では、ド
ルの金利上昇もあり、収入と借入の通貨のミスマッチがあれば、米ドルの上昇もマイナスに働く(新
興国リスクについては、別途リポートする)。
-4Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved.
Financial Market Update
図6 エネルギーセクター企業の負債比率(総資産対比、%)
35.00
31.44
2006
30.00
2013
25.00
21.31
19.05
20.00
16.71
15.00
14.66
15.06
10.00
5.00
0.00
米大規模業者
米その他
新興国
(出所)BISデータよりマネックス証券作成
これらのことから、今後、エネルギー与信の満期時の借り換えは厳しくなると思われる。図7の通り、
新興国のエネルギー与信は、来年以降毎年4兆円以上満期を迎えるとみられるため、前述の格付けの
動きは重要になってくる。
図7:新興国向けエネルギー関連債券の満期スケジュール (10億USD)
45
40
40
37
40
35
30
25
23
24
2015
2016
24
20
15
10
5
0
2017
2018
2019
2020
(出所)BISデータよりマネックス証券作成
但し、大手行への影響は限定的。短期的に実体経済に大きく波及するほどの規模ではない
しかし、エネルギー与信の問題は、実体経済に危機をもたらすほどの規模ではないと考えている。
G-SIBs では、与信全体に対するエネルギー関連与信額の割合は、2~5%程度となっている。今週 S&P
に格下げされた米地銀では、10%を超える銀行もあったのに比べると(BoK Financial, Cullen/Frost,
-5Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved.
Financial Market Update
Hancock Holding など)
、コントロール可能なレベルであろう。プロジェクトによっては、価格の下
落についてある程度ヘッジも行われている模様である。米大手銀各行は、1 バレル 30 ドル程度が一
定期間以上続いたとしても、与信費用は 1,000 億円以下に留まると発言している。通期の税引前利益
の数%に過ぎないレベルである。更に、前述の通り、リーマンショック後の資本の備蓄もある。
なお、邦銀の海外エネルギー関連与信は 15 年 9 月末時点で以下の通り開示されている(図 8)。一部
の大手行では、原油価格が1バレル 30 ドル程度に 1 年間留まったとしても、追加損失は 500 億円に
満たないとコメントしている。悲観シナリオとして、米大手銀と同様の損失が発生すると仮定しても、
各行 1,000 億円前後とみられる。これは今期計画税前利益に対して1桁%程度であり、十分吸収可能
である。
図8 海外エネルギー関連与信が全体に占める割合
8.0%
70,000
7.0%
60,000
6.0%
50,000
5.0%
40,000
4.0%
30,000
3.0%
20,000
2.0%
10,000
1.0%
0.0%
MUFG
SMFG
海外エネルギー与信(右軸、億円)
みずほFG
0
同与信全体に占める割合
(出所)各行資料よりマネックス証券作成。15/9月期末。SMFGは石油・ガス関連与信。与信額は単体合算
まとめ:エネルギー関連の不透明さは今後 1,2 か月で緩和される
エネルギー関連のリスクについては、格付け会社の判断や今後の決算での与信費用額等、確認すべき
データも多いものの、今後 1,2 か月のうちに様々な開示が進めば、不透明要因は徐々に緩和に向か
うとみられる。とはいえ、こうした不安の払拭は時間との闘いでもある。更なる原油価格下落や、ベ
ネズエラなどの小国の財政不安の他国への伝搬懸念は燻る。次回以降、これらのリスクについても検
証したい。
-6Copyright (C) 2016 Monex, Inc. All rights reserved.
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