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2010年度 センター試験 現代社会の出題傾向

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2010年度 センター試験 現代社会の出題傾向
2010年度 センター試験 現代社会の出題傾向
河合塾講師 昼 神 洋 史 1. 全体的な傾向
表1 出題分野一覧
2010年度センター試験の出題内容は、こ
2007年度
こ数年間の傾向を踏襲しており、大きな変
化はみられなかった。たとえば、出題分野
( 表1 )をみると、
「現代社会」の固有分野
では青年期の特徴、環境倫理・生命倫理、
「政治」分野では基本的人権、国会・内閣・
裁判所、地方自治、政党・選挙・圧力団体、
「経済」分野では現代の市場と企業、財政・
金融、
「国際社会」分野では国際通貨・貿
易体制など、従来から頻出の分野からの出
題が中心となっている。
追
本
○
○
○
追
2009
本
2010
追
本
【現代社会固有分野】
日本の文化と伝統
○
○
情報化社会
大衆社会
○
○
少子高齢化社会
青年期の特徴
○
○
思想の源流
○
西洋近現代思想
○
日本思想
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
また、出題形式( 表2 )では、組合せ問
資源・エネルギー問題
○
○
○
○
題が2009年度の6から2へと減少している
人口・食料問題
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
環境倫理・生命倫理
が、過去数年間を見渡すと、この程度の増
民主政治の原理
は図表問題についても当てはまる。
基本的人権
なお、
「政治・経済」分野の特徴として、
平和主義
が減少し、歴史的事実、制度の内容などに
関する正確な知識を要求される問題の出題
が増加する傾向にあるが、2010年度も同様
であった。また、
「調べ方・学び方学習」に
関する問題は、2007年度・2008年度・2009
○
○
○
○
○
地方自治
○
○
○
政党・選挙・圧力団体
○
○
○
経済体制と経済学説
○
○
財政・金融
○
○
○
○
出題がなかった。
中小企業・農業
○
2010
大問数
6
6
6
6
解答数
36
36
36
36
組合せ
5
2
6
2
図 表
2
2
2
3
平均点
50.31
60.55
60.19
58.76
○
現代の市場と企業
○
2009
○
【経済分野】
日本経済の発展・現状
2008
○
国会・内閣・裁判所
国民所得
2007年度
○
○
年度と連続して出題されたが、2010年度は
表2 センター試験の形式と平均点(本試験)
○
【政治分野】
減は「想定内」といえる。また、このこと
ここ数年、
「常識」的な判断で解ける問題
○
○
○
○
○
○
労働問題
○
○
○
社会保障
消費者問題
○
○
○
○
○
○
○
○
○
【国際社会分野】
国際連合と平和
○
○
冷戦とポスト冷戦
○
○
日本の国際貢献
○
○
○
○
○
国際通貨・貿易体制
○
地域的経済統合
○
○
○
○
○
○
南北問題
2008
本
○
○
○
○
○
○
2. 大問別・小問別の出題分析
表3 再現答案による設問別正答率(河合塾調べ)
(2010年度 センター試験 現代社会)(単位%)
河合塾が実施している再現答案
による正答率( 表3 )を素材とし
設問
番号
て、留意すべき事柄を取り上げて
が2番目に低かった。設問別で見
( 例題1 )は正答率がとくに低か
った。この設問は、条例の制定改
廃請求、議会の解散請求など、地
方自治法で規定されている直接請
求制度に関して、住民投票の実施
正答率
38.3
52.0
71.1
72.1
56.9
14
15
16
17
18
91.6
85.6
60.4
64.6
60.6
小計
6
7
8
9
10
11
12
13
57.2
小計
71.2
78.2
79.2
53.0
29.1
79.8
35.6
56.1
41.0
19
20
21
22
23
83.0
94.6
87.8
89.6
52.4
小計
81.4
小計
55.5
設問
番号
第 6 問
かったようだ。中でも、問11*
第 2 問
がなく、全体として難度がやや高
解答
番号
第 4 問
ても、正答率が80%を超えるもの
1
2
3
4
5
設問
番号
第 5 問
本問は、大問全6問中、得点率
正答率
第 3 問
◇第1問(地域社会の諸問題)
第 1 問
みたい。
解答
番号
解答
番号
正答率
24
25
26
27
28
29
30
31
83.8
54.0
70.9
76.2
76.2
40.6
85.9
42.4
小計
65.0
32
33
34
35
36
66.9
76.5
44.3
73.9
51.4
小計
61.6
※サンプル数は3787人(現役生3070人、高卒生717人)
。
※サンプル全体の平均点(64.5点)は、センター試験の平均点(58.76)よりも、5.74点高い。
※大問ごとの小計は得点率を示す。
が法律上必要な場合を問うもので
ある。受験生は一般に、それぞれ
の請求の成立に必要な署名数や請
求先については学習しているが、
例題1 2010年度 センター試験 現代社会 第1問 問1 1
第1問 二人の高校生(A,B)による次の会話文を読み,下の問い(問1〜5)
それぞれの請求の最終的な取り扱
に答えよ。
(配点 14)
いについては目配りを利かせた学
習を積んでいない。その意味で、
多くの受験生が「虚を衝かれた」
と感じたことだろう。しかし、直
接請求の手続きは、教科書や『ア
クセス現代社会 2010』などの資
料集にも必ず掲載されており、こ
れらを用いた地道な学習を心がけ
ていれば、決して得点不可能な設
問ではない。いずれにしても、近
A:来週の日曜日,隣町との合併の是非を問う
に投票するつもりなの?
住民投票が行われるけど,どっち
ⓐ
B:えっ,高校生に投票する資格があるの? それに,その日は田舎のおばあちゃ
んの所に 家族で出かける予定だから,投票には行けないよ。
ⓑ
A:前に先生が説明していたよ。市の条例では,満16歳以上に 投票資格が認めら
ⓒ
れているって。それに,期日前投票もできるでしょ?
B:でも,合併でいったい何が変わるの? 住所表示くらいじゃないの?
A:それだけじゃないよ。例えば,多くの地方自治体が 財政上の問題を抱えてい
ⓓ
るけれど,合併によって,自治体の行財政が効率的になるって言われているし
……。
B:お金の無駄がなくなるんなら,反対する理由なんてないし,賛成するよ。
A:でも,市が大きくなると,住民の声が届きにくくなるとか,住民サービスの質
が低下するおそれがあるとか,デメリットも指摘されているよ。
B:それは困るね。うーん,どっちがいんだろう。
問1 下線部ⓐに関して,日本の地方自治体において住民投票の実施が法律上必要
な場合はどれか。最も適当なものを,次の①〜④のうちから一つ選べ。
1
① 有権者の50分の1以上の連署により,事務の監査が請求された場合
② 有権者の50分の1以上の連署により,条例の制定改廃が請求された場合
③ 有権者の3分の1以上の連署により,議会の解散が請求された場合
④ 有権者の3分の1以上の連署により,副市町村長の解職が請求された場合
図1 『高校生の新現代社会』p.130
※問題は該当箇所のみを載せています。
*□の中の数字は、解答番号を表しています。
年のセンター入試では、このよう
な詳細な知識を要求する設問が増
加傾向にあるから、それに備えて
日頃の学習の精度を高める努力が
求められるだろう。
◇第2問
(国境を越える人の移動)
例題2 2010年度 センター試験 現代社会 第2問 問4 9
第2問 次の文章を読み,下の問い(問1〜8)に答えよ。(配点 22)
近年, 国境を越える人の移動が世界中でますます盛んになっている。国境を越
ⓐ
えて移動する人のなかには, 民族や 宗教の対立などにより祖国を離れざるを得
ⓑ
ⓒ
ない 難民もいれば,より良い就労機会を求めて外国に向かう人々もいる。しかし,
ⓓ
外国人の受入れに対しては,積極的な態度をとる国もある一方で,慎重な態度をと
る国もある。
本問は、大問全6問中、正答率
日本は,外国人を受け入れることに慎重な姿勢をとり続けてきたと言われる。
が最も低かった。正答率が80%を
労働者の受入れについても,日本はこれまで消極的であった。しかし,近年,フ
ⓔ
ィリピンやインドネシアとの間で EPA(経済連携協定)が締結され,看護・介
ⓕ
護分野への外国人労働者の受入れが進みつつある。この動きの背景にあったのは,
超える設問がないことに加え、三
つの設問で正答率がかなり低かっ
たからである。まず、問49( 例
題2 )は30%弱の正答率で、全
これらの分野における 人手不足である。だが,これには異論がなかったわけでは
ⓖ
ない。例えば,労働環境の改善により人手不足の解決を図る方が先決だという指摘
もあった。
36問中、最低を記録した。誤答が
外国人の受入れに慎重と言われる日本でも,実際には,200万人を超える外国人
集中したのは④で、この選択肢だ
が様々な理由で生活しており,そうした
けで50%強の選択率を示した。
「出
入国管理及び難民認定法」という
外国人の数は2007年までの10年間で1.5
ⓗ
倍になるなど大きく増加してきた。それに伴い,一緒に来日する家族に対する教育
や日本社会への適応の支援をどうするかといった問題も生じている。
国境を越える人の移動の増加という「グローバル」な現象が,
「国内」の労働問
法律そのものを知らず、
「これが
題や教育問題にも大きな影響を及ぼす時代になった。我々は世界の動きにも目を向
怪しい」と判断した受験生が多数
けつつ,人の移動がもつ多様な側面を理解した上で,今後,どのような社会を築い
に上ったと推測される。しかし、
ていくかを考える必要がある。
多少迷ったとしても、難民条約が
問4 下線部ⓓに関する記述として適当でないものを,次の①〜④のうちから一つ
保護の対象とする「難民」とは政
治難民であるということは基本的
な知識に属するから、①が誤りと
判断することができなくてはなら
ない。この結果は、はからずも、
受験生の学習の底の浅さを浮き彫
りにしたといえそうだ。
また、問6( 例題3 )と問8
選べ。
9
① 難民条約上,難民とは,大規模な自然災害や戦争・国内紛争のために国外
に逃れた者を言う。
② 難民条約は,迫害にさらされるおそれのある国に難民を追放・送還するこ
とを禁止している。
③ 国連は,難民保護などを目的とする機関として,UNHCR(国連難民高等
弁務官事務所)を設立した。
④ 日本は,難民条約への加入に当たって,出入国管理及び難民認定法を定め,
難民を認定する手続を整えた。
( 例題4 )の正答率は、それぞ
れ約36%と41%であった。問6
で誤答が集中したのは③で、約45
%の選択率を示した。しかし、下
線部の直後を読めば、この選択肢
は誤りと判断できるはずである。
問 題 文 中 に、 日 本 はEPA( 経 済
連携協定)に基づいて看護・介護
分野への外国人の受け入れを進め
ているという趣旨の記述があり、
ここからEPAはモノの取引を中
心 と す るFTA( 自 由 貿 易 協 定 )
よりも対象分野が広範囲にわたる
例題3 2010年度 センター試験 現代社会 第2問 問6 11
問6 下線部ⓕに関連して,EPAやFTA(自由貿易協定)に関する記述として最
も適当なものを,次の①〜④のうちから一つ選べ。
11
① NAFTA(北米自由貿易協定)を形成するアメリカ・カナダ・メキシコの
3か国は,共通の通貨を採用している。
② WTO(世界貿易機関)の無差別の原則に反することから,WTOは加盟国
がFTAを締結することを認めていない。
③ 日本の推進しているEPAは,投資ルールや知的財産制度の整備が含まれな
いなど,FTAよりも対象分野が限定されている。
④ アメリカと中国は日本の貿易相手国上位2か国であるが,日本はいずれの
国ともEPA・FTAを結んでいない。
と推測できるはずである。一方、
例題4 2010年度 センター試験 現代社会 第2問 問8 13
問 8 で は③ に 誤 答 が 集 中 し た
(約36%)
。この選択肢の内容は、
受験生にとって判断がやや難しい
かもしれない。しかし、ここで迷
ったとしても、④が正解と判断で
きることが望ましい。なぜなら、
④は最高裁の違憲判決という、受
験生なら必ず押さえておかなくて
はならない事柄だからである。セ
ンター試験では、受験生が「見た
問8 下線部ⓗに関して,日本に入国する外国人や日本で生活している外国人の現
状に関する記述として最も適当なものを,次の①〜④のうちから一つ選べ。
13
① 日本は,入国する外国人に対して,指紋と顔写真を提供することを原則と
して義務づけていたが,現在ではこうした制度は廃止されている。
② 一国の労働力人口全体に占める外国人労働者の割合は,日本はアメリカよ
りも低かったが,バブル崩壊以後,外国人労働者の受入れが進んだ結果,ア
メリカよりも高くなった。
③ 労働基準法には,不法就労をする外国人労働者は適用対象外であると明記
されている。
こともない」ような内容を問う選
④ 日本人の父と外国人の母から生まれた子どもが,父母が婚姻をしていない
択肢が出てくることがあるが、そ
ことなどを理由に,日本国籍を取得できないとされた事例について,国籍法
の場合でも、基本的な知識を確実
の規定が違憲であるという判決を最高裁判所が下した。
に習得していれば、正解にたどり
着くことができるように工夫され
ている。要は、やはり、基本的な
知識を問題に応じて使いこなせる
かどうかである。
例題5 2010年度 センター試験 現代社会 第3問 問3 16
第3問 次の文章を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。(配点 14)
◇第3問
あなたはなぜ,大学で学ぼうとしているのだろうか。大学という 教育の場で学
ⓐ
ぶことには,どのような意味があるのだろうか。
(青年の社会参加とキャリア開発)
これまであなたは,与えられた課題を中心に勉強してきたかもしれない。しかし,
青年期の分野からの出題は、例
大学では,自分の関心と知への欲求から学びが始まる。自然の不思議さに胸躍らせ
年、平均点が高くなる傾向がある
が、本問も相対的に高い得点率を
たり,芸術作品に心震わせたり,社会の問題に憤ったりしたことは,あなたにもあ
い
るだろう。それらはすべて,大学では学びにつながる。学んだ経験が活きて,やり
示した。とくに、教育基本法の内
たいことが見つかったり, 自分の適性や能力に合う職に就いたりするようになる
ⓑ
かもしれない。つまり,学ぶことはあなた自身のためになる。
容に関する問1と、図の読み取
しかし,学びは,個人的なことにとどまらず,社会的な意味をもちうる。あなた
り問題である問2は、いずれも
がふと抱いた疑問が,既成の学問や科学を見直す契機となり,知の創造や新たなア
正答率が85%を超えた。
そうした中で、問3と問5
で得点率が約60%と低迷したのは、
やや意外である。いずれも、基本
イディアの提案に至ることもある。多面的な見方や論理的な思考方法を身につける
ことで,物事の社会的意義や功罪などを的確に判断することが可能になる。仲間と
対話し協働することを通して,問題に深く取り組むことも可能になる。つまり,学
ぶことは,社会をより良くすることにつながっており, 社会参加の第一歩でもあ
ⓒ
る。
的な知識を問うもので、正解以外
の選択肢は明らかに誤りと判断で
きる記述内容になっているからで
ある。たとえば、問3( 例題5 )
は ① と ④ の選択率がそれぞれ15%
前後を示したが、①の「アンガジ
ュマン」は「リースマン」ではな
くサルトルの提唱した概念である
問3 下線部ⓒに関連して,社会参加に関する事象や考え方についての記述として
最も適当なものを,次の①〜④のうちから一つ選べ。
16
① リースマンは,アンガジュマンの概念を示し,個人がある行為を選ぶこと
は,同時に人類全体のあり方を選ぶことであるとした。
② マザー・テレサは,愛と奉仕の精神に基づき,インドのコルカタ(カルカ
ッタ)を拠点に,ハンセン病患者や貧困者などの救済に尽力した。
③ 日本では,労働者はボランティア休暇を取得できることが,労働基準法に
明記されている。
ということや、④の前半部分の記
④ 障がいのある人もない人も共に生活する社会を目指すフェアトレードの考
述内容が「フェアトレード」では
えに基づき,建物や製品にユニバーサルデザインが導入されている。
なく「ノーマライゼーション」に
関するものであるということは、
容易に判断できなくてはならない。
また、問5は詳細な知識を要求
するものではなく、文脈を丁寧に
追っていけば正解を導き出すこと
ができる問題である。こうしたこ
とを前提とした場合、青年期から
の出題だからといって、当然のご
とく高得点を期待できると高をく
くると、
「痛い目にあう」ことも
あるといえそうだ。
◇第4問(地球環境問題)
本問は、ほとんどの設問で正答
率が80%を超えたこともあって、
得点率も大問全6問中、最も高か
った。中でも、問2の正答率は、
全36問中最高の94.6%を示した。
ただし、南北問題や地球環境問題
への国際的な取組みに関する問5
( 例題6 )だけは、正答率が約
第4問 次の文章を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。(配点 14)
人間の活動が 地球環境への負荷を高める要因の一つとして,人間の活動に伴う
ⓐ
資源消費の増大が挙げられる。人間による資源消費は,
「一人あたりの資源消費」
とら
と「人口」という,二つの因子の積で捉えることもできる。このとき,資源消費の
増大にどちらの因子がより大きく影響しているかは,開発途上国と先進国でそれぞ
れ異なる。
52%と低めに出た。アジェンダ21
開発途上国における消費資源の増大は, 人口の増加による影響が大きいと言わ
ⓑ
れる。多くの開発途上国では,死亡率が低下している一方で,高い出生率が続いて
がリオデジャネイロで開催された
いる。人口が増加すれば,たとえ一人あたりの資源消費が少ないままでも,人々の
国連環境開発会議
(地球サミット)
生活や産業を支える 食糧や水,エネルギーなどの資源がさらに必要となる。
ⓒ
他方,先進国における資源消費は,一人あたりの資源消費の影響が大きいとされ
で採択されたという事実は、受験
生にとって基本事項に属するから、
④が明らかに誤りと判断できそう
なものである。にもかかわらず、
正答率がそれほど上がらなかった
ということは、決定的な学習不足
のままセンター入試に突入してし
まった受験生が少なからずいたと
いうことになる。
なお、国連人口基金(UNFPA)
に関する②、日本の国際協力機構
(JICA)に関する ③ の選択率がそ
れぞれ18%を超えた。これらの機
関については教科書に詳しい説明
が載っていないこともあり、正誤
判断に苦しんだことだろう。知ら
ないことが書かれているとそれに
飛びつきたくなるという受験生の
「習性」が裏目に出たのかもしれ
例題6 2010年度 センター試験 現代社会 第4問 問5 23
る。先進国のライフスタイルは大量消費型であり,例えばOECD(経済協力開発機
構)諸国の一人あたり一次エネルギー消費(石油換算)は,非OECD諸国の何倍に
も及んでいるのである。人口については,先進国の多くで出生率が下がっており,
少子化が問題となっている国もある。しかし,人口がさほど増加していなくても,
ⓓ
一人あたりの資源消費が減少するようにライフスタイルが変化しなければ,資源消
費に伴う環境への負荷は軽減しない。
このように,状況は異なるが,世界の国々は資源消費によって環境に負荷をかけ
ており,その影響も一国内に限定されるものではない。資源消費を抑制し,地球環
境問題を解決するためにも, 国際的な取組みを進めていくことが不可欠である。
ⓔ
問5 下線部ⓔに関する記述として適当でないものを,次の①〜④のうちから一つ
選べ。
23
① 国連環境計画(UNEP)は,ストックホルムで開催された「国連人間環境
会議」の合意を受けて設立された国連機関である。
② 国連人口基金(UNFPA)は,人口問題という切り口から開発途上国を支
援している。
③ 日本では国際協力機構(JICA)が,開発途上国に対する技術協力のため
に開発途上国からの研修生を受け入れている。
④ アジェンダ21は,ヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する
世界首脳会議」で採択されたものである。
ないが、仮にこれらの選択肢で迷
ったとしても、最終的には④が誤
りと判断できなくてはならない。
◇第5問
例題7 2010年度 センター試験 現代社会 第5問 問6 29
(市場経済と消費者問題)
本問は、正答率が40%台前半の
設問が2問(問6、問8)あ
ったため、全体の得点率も伸びな
かった。まず、問6( 例題7 )
では、正解の④で公判前整理手続
が出題されたが、この制度の存在
を知らない受験生が少なからずい
たと思われる。これが得点率の低
さにつながったのだろう。しかし、
この制度は裁判員制度との関連で
重要なものであり、今後も出題さ
れる可能性がある。また、③で被
告が理由なく裁判に欠席した場合、
公務執行妨害罪(公務員の職務執
行に対し暴行などを加えた場合に
成立する犯罪)に問われるかどう
かの判断が求められているが、解
答に苦しんだ受験生が多かったよ
うだ。実際、4人に1人以上が ③
を正解としていた。この犯罪名は、
受験生もよく耳にすると思われる
が、その具体的な内容については
気をつけたことがないだろう。受
験生にとっては「悩ましい」問題
だったかもしれない。
また、問8( 例題8 )も正答
率が低迷した。誤答が集中したの
は④で、ほぼ3人に1人がこの選
択肢を正解としていた。②の選択
第5問 次の文章を読み,下の問い(問1〜8)に答えよ。(配点 22)
現在,食品偽装や悪質商法などをめぐって 企業と消費者の間に様々なトラブル
ⓐ
が発生している。 企業と消費者との間にある情報の質や量,交渉力などの格差が
ⓑ
その一因である。消費者は, 市場における取引に必要な情報を十分に持たなかっ
ⓒ
たり,他の選択肢がなかったりする状況で特定の取引を行ってしまうことがしばし
ばある。その結果,望まないものや安全でないものを購入してしまうことがある。
消費者は,こうしたトラブルの解決に向けて企業と交渉することが必要である。
だが,そのような当事者の努力によってもトラブルが解決されなかったり,類似の
トラブルが頻発したりするような場合,社会的な対応も求められる。そこにはいか
なる主体がかかわり得るだろうか。以下のようなケースが考えられる。
まず,国などの公的機関が主導して, 消費者の利益を保護するルールを作り,
ⓓ
消費者保護の仕組みを整えることがあり得る。1968年制定の消費者保護基本法や
1994年制定の製造物責任法(PL法)はその好例である。また,第三者である民間
機関が,消費者全体の 利益の実現のために情報収集やトラブル防止の活動などを
ⓔ
することもあり得る。消費者契約法は,国の認定した消費者団体に,企業の不当な
行為をやめさせるよう 裁判を起こすことを認めている。さらに,マスメディアが
ⓕ
トラブルの実態を広く知らせることもあり得る。これは,トラブルの早期発見・解
決だけでなく,トラブルの未然防止のための政策づくりに向けた 世論の形成にも
ⓖ
有効である。
このように,企業と消費者との間で発生するトラブルの解決と防止に向けては,
取引の当事者だけに任せるのではなく,社会的な対応も行うことが重要である。
問6 下線部ⓕに関して,日本の裁判制度についての説明として最も適当なものを,
次の①〜④のうちから一つ選べ。
29
① 刑事裁判において有罪判決を受けた者を,さらに民事裁判で責任追及する
ことは,憲法上許されない。
② すべての裁判官は,弾劾裁判所の裁判により罷免の判決を受けない限り,
罷免されることはない。
③ 民事裁判において,被告が理由なく裁判を欠席した場合,公務執行妨害罪
に問われる可能性がある。
④ 裁判員制度の対象となる事件は,公判の審理を継続的,計画的,迅速に行
うために,公判前整理手続に付される。
率も比較的高く、15%を超えた。
しかし、この結果は意外である。
なぜなら、この設問は特定の知識
を前提とするものではなく、問題
文で述べられていることを手がか
りにして判断すればよい問題で、
問われている内容も難しいわけで
はないからである。それどころか、
むしろ、得点しやすい問題のはず
例題8 2010年度 センター試験 現代社会 第5問 問8 31
である。この種の問題で失点して
いるようでは、高得点をものにす
ることはできないだろう。
◇第6問
(経済のグローバル化)
問8 本文では消費者問題に対する,当事者以外による社会的な対応について三つ
のケースが挙げられていた。近年の日本における代表的な消費者問題として,
「銀行,消費者金融会社,クレジットカード会社などからの多額の借金を抱え
て返済できなくなること」がある。この問題への対応として本文の三つのケー
スに該当しないものを,次の①〜④のうちから一つ選べ。
23
本問は、正答率が80%を超えた
設問がなかったこともあり、全体
の得点率も伸びを欠いた。問3
( 例題9 )の正答率が45%を割り
込んだことも、これに拍車をかけ
た。この設問は、UNCTAD(国
連貿易開発会議)に関する ② と、
IMF(国際通貨基金)に関する④
① 国が,地方自治体に,問題を抱える借り手側にどう対応したらよいかを示
した相談の手引を配布する。
② 新聞が,この問題に関する特集を組み,具体例,問題発生の仕組み,問題
解決の方法などを紹介する。
③ 借り手側である消費者が,収支のバランスをチェックするなどして,無駄
な支出と借りすぎを抑えるようにする。
④ 国の認定した消費者団体が,貸し手側である企業に対し,消費者の利益を
さしとめ
不当に害する契約条項に関して,差止請求の裁判を起こす。
については、その目的や設立の経
緯について基本的な知識をもって
いれば、容易に誤りと判断できる
(逆にいえば、これらの選択肢を
選んだ受験生は、基本事項をしっ
かり習得していないといわざるを
得ない)
。
しかし、残り二つの選択肢では、
正誤判断の基準を何に求めればい
いのか、わからなかったと思われ
る。まず、正解の①では、UNDP
(国
連開発計画)が導入した指標であ
るHDI(人間開発指数)を問題に
しているが、このような指標があ
ること自体、初耳という受験生も
いただろう。また、③ではIBRD
(国
第6問 次の文章を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。(配点 14)
経済のグローバル化が進み,近年ますますカネやモノの移動が活発になってきた。
発展途上国のなかには,この 経済のグローバル化の恩恵を受けて経済発展を遂げ
ⓐ
てきた国もある。例えば,中国やインドは外国から資本や技術を積極的に受け入れ
て経済成長している。アジアNIES(新興工業経済地域)も貿易取引を中心に産業
構造の高度化を図った結果,一人あたりの国民所得が日本に並ぶ国も出てきた。
しかし,経済のグローバル化は弊害も招き得る。米国のサブプライムローン問題
を引き金として発生した世界的な経済危機は,グローバル化に伴う複雑な相互依存
関係の深まりが引き起こす問題の深刻さを如実に物語っている。 1990年代後半に
ⓑ
生じたアジア通貨危機も,グローバル化によって引き起こされた危機の一つだった。
タイや韓国,インドネシアは外国から短期資本を積極的に受け入れることによって
急速な経済成長を遂げていたが,いったん歯車が資本流出へと逆転してしまうと,
急激な経済の悪化に直面した。こうした国々は,IMF(国際通貨基金)などの
国際
ⓒ
機関から金融支援を受けたが,経済の立ち直りには相当の努力と時間を要した。ま
た,資本取引だけでなく貿易取引に関する交渉においても,相手国の市場開放を求
際復興開発銀行)の存在は知って
める国と,自国の産業を保護したい国との間で対立が起きる場合もある。カネやモ
いても、日本が加盟後にこの機関
ノを通じて 国家間の相互依存関係が深まる以上,摩擦は生じ得る。
ⓓ
世界的な金融・経済危機に立ち向かう上で,経済のグローバル化が持つ功罪を踏
の支援を受けたかどうかというこ
とについては知らない受験生が多
数を占めただろう。多くの受験生
が正誤判断の「決め手」を見いだ
せないままに解答せざるを得なか
ったと推測される。
ただし、これらの選択肢で問わ
れていることは、けっして“手も
足も出ない”ものではない。学習
の過程で1回でもふれる機会があ
例題9 2010年度 センター試験 現代社会 第6問 問3 34
まえ,弊害を和らげる努力がこれまで以上に求められている。そのためには,各国
政府や国際機関,さらにNGO(非政府組織)などが,資金や技術,人材育成の面
で一層協力することが必要であろう。そのなかで 日本が貢献できることは少なく
ⓔ
ないはずである。
れば、すぐにでも習得可能な知識
が問われている。得点できるかど
うかの分かれ目は、やはり目配り
の利いた学習を行っているかどう
かにあるといえよう。
問3 下線部ⓒに関する記述として最も適当なものを,次の①〜④のうちから一つ
選べ。
34
① UNDP(国連開発計画)は,開発援助の新たな指標として,出生時平均余
命や識字率などを加味して算出されたHDI(人間開発指数)を導入した。
② UNCTAD(国連貿易開発会議)は,先進国間に存在する経済格差を,貿
3.「倫理」分野からの
出題に備えて
「倫理」分野からの出題は、頻
出というわけではない。しかし、
易を通じて解消することを目的として設立された。
③ IBRD(国際復興開発銀行)は,第二次世界大戦後,加盟国の復興・開発
支援を行ったが,日本は加盟後もその支援を受けずに経済発展を遂げた。
④ IMFは,米国がドルと金との交換を停止したニクソンショックを契機とし
て,国際収支の赤字国に援助を行うために設立された。
2010年度にも出題例[第2問の問
38( 例題10 )
]があるし、ここ
数年間に限ってもいくつか出題例
例題10 2010年度 センター試験 現代社会 第2問 問3 8
※p.3にリード文あり。
があるので、準備を怠らない方が
いいだろう。
たとえば、2008年度の本試験で
は「ベンサム」
「マルクス」
(第1
問の問5)
、
「大乗仏教」
「アニミ
ズム」
(第3問の問3)などが出
題された。また、2007年度の追試
験では「プラトン」
「パスカル」
「夏
目漱石」
「西田幾多郎」が出題さ
れ た( 第 1 問 の 問 5)
。 さ ら に、
問3 下線部ⓒに関して,いわゆる世界三大宗教の特徴に関する次の記述ア〜ウと,
その宗教を信仰する人口が一国のなかで最も多数を占めるアジアの国名A〜C
との組合せとして最も適当なものを,下の①〜⑥のうちから一つ選べ。
8
ア 唯一神に服従し,信仰箇条である六信や信仰行為である五行を守ることの
大切さを説く。
イ 唯一神を崇拝し,神の愛(アガペー)を自覚することや,神の愛を周囲の
人に実践する隣人愛の大切さを説く。
ウ あらゆるものは相互依存しているととらえ,他者により生かされる自分を
自覚することや,慈悲の心の大切さを説く。
2006年度の本試験では「カント」
「サルトル」に関する出題例がみ
られる(第1問の問5)
。
これらの思想や思想家について
は、いくつかの教科書にも掲載さ
A タ イ B インドネシア C フィリピン
① ア-A イ-B ウ-C ② ア-A イ-C ウ-B
③ ア-B イ-A ウ-C ④ ア-B イ-C ウ-A
⑤ ア-C イ-A ウ-B ⑥ ア-C イ-B ウ-A
れており、なかにはかなり詳しい
説明が載っているものもある。ま
た、
『アクセス現代社会 2010』な
ど、資料集にも掲載されている。
これらを素材にして学習すれば、
“いざ”というときの備えになる
だけでなく、さらなる高得点を狙
うこともできるだろう。
図2 『アクセス現代社会 2010』p.39
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