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合成皮革・人工皮革用ポリウレタン
活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 96 合成皮革・人工皮革用ポリウレタン 横井知身 当社エラストマー研究部 ユニットチーフ [ 紹介製品のお問い合わせ先 ] 当社生活 ・ 繊維本部繊維産業部 ❖合成皮革・人工皮革とは 当社では、本用途で使用できる 合成皮革・人工皮革は衣料、靴、 ポリウレタンを長年開発しており、 [乾式合成皮革] かばんなどのファッション素材や 数多くの製品をラインアップして エンボス柄(絵柄などが浮き彫 家具、車両を含めたインテリア素 いる。本稿では合成皮革・人工皮 りになった柄)を有した離型紙上 材としてわれわれの身の回りに多 革の製造工程および当社製品につ に、顔料(トナー)を含んだ表皮層 く使用されており、一般的に使用 いて紹介する。 用ポリウレタン溶液をコーティン される基材の種類と加工方法で区 ❖合成皮革・人工皮革の製造工程 グし、乾燥してフィルム化する。 別される。合成皮革は織布、編布 代表的な合成皮革・人工皮革の 次いで、得られた表皮層用ポリウ などの基材と、ポリウレタンから 構造を図1に示す。いずれも基材 レタンフィルム上に、ポリウレタ なる接着層および表皮層から構成 とポリウレタンの複合材料であり、 ン、架橋剤、触媒、溶剤からなる される。その加工方法によって、 これらの製造工程は合成皮革・人 接着層用ポリウレタン溶液をコー 乾式合成皮革と湿式合成皮革に分 工皮革メーカーで工夫されている。 ティングし、織布または編布に圧 類される。一方、人工皮革は、不 基本的な製造工程を図2に示す。 着して貼り合わせる。さらに、乾 織布とポリウレタンからなるバイ 製法別の工程と、得られる皮革 燥機で接着層用ポリウレタン溶液 ンダーで構成される。 合成皮革・人工皮革は、現在は 〈乾式合成皮革〉 表皮層用ポリウレタン ミクロポーラス層用ポリウレタン トラリア、ブラジル、南アフリカ 織布・編布 〈スエードタイプ人工皮革〉 いる。なかでも、中国を中心とす 不織布 (バインダー:ミクロポーラスポリウレタン) るアジア諸国では世界の約80% が生産されているといわれる。 〈乾式合成皮革〉 〈湿式合成皮革〉 接着層用ポリウレタン アジア諸国、欧米に加え、オース など世界約30カ国で生産されて の特徴は以下のとおりである。 図1●代表的な合成皮革・人工皮革の構造 接着層用ポリウレタン溶液 表皮層用ポリウレタン溶液 織布・編布 離型紙 コーティング 乾 燥 コーティング 圧 着 乾 燥 巻き取り エージング 離型紙はく離 乾式合成皮革 〈湿式合成皮革〉 表皮層用ポリウレタン溶液 接着層用ポリウレタン溶液 ミクロポーラス層用 ポリウレタン溶液 離型紙 コーティング 乾 燥 コーティング 乾 燥 織布・編布 前処理 コーティング 湿式凝固 洗 浄 乾 燥 圧 着 離型紙はく離 湿式合成皮革 〈人工皮革〉 含浸用ポリウレタン溶液 不織布 含 浸 湿式凝固 洗 浄 乾 燥 表面研削 染 色 スエードタイプ人工皮革 図2●合成皮革・人工皮革の製造工程 ゲル化 ウレタン化反応 三洋化成ニュース ❶ 2012 春 No.471 〈ポリウレタンの概念〉 〈ポリウレタン弾性の発現機構〉 るために、ポリウレタン特有の弾 力とハリ、コシ感が出る。一方、 不織布もポリウレタンとともに、 人工皮革の柔軟な触感を実現する ための重要な構成材料である。 ハードセグメント「島」 ソフトセグメント「海」 ❖合成皮革・人工皮革用ポリウレタン ハードセグメント「島」 ハードセグメントは変形せずに ソフトセグメントが引っ張り方向 に変形する ウレタン基、 ウレア基で構成され、−NH−基 による水素結合で結晶構造を形成 ソフトセグメント「海」 低Tgである高分子ポリオール成分の非結晶 性部分 合成皮革・人工皮革にポリウレ タンが用いられる理由は、天然皮 革と類似の柔軟性と弾性が得られ るからである。ポリウレタンは、 水素結合によって強い凝集力を持 図3●ポリウレタンの概念と弾性の発現機構 OCN − R − NCO + HO − R' − OH つウレタン基、ウレア基で構成さ イソシアネート れた結晶性のハードセグメント部 ( ポリオール OCONH − R − NHCOO − R' 分と、ガラス転移点 (Tg) が低いポ ) ポリウレタン リオール成分から構成される非結 晶性のソフトセグメント部分から 図4●ウレタン化の反応式 なる。そのハードセグメントとソ ポリオール イソシアネート ポリエステルジオール ポリエーテルジオール ポリカーボネートジオール トリレンジイソシアネート (TDI) 4,4 - ジフェニルメタンジイソシアネート (MDI) ヘキサメチレンジイソシアネート (HDI) イソホロンジイソシアネート (IPDI) ウレタン化反応 鎖伸長剤 溶 剤 エチレングリコール (EG) 1,4- ブチレングリコール (1,4-BG) 1,6- ヘキサンジオール (1,6-HG) イソホロンジアミン (IPDA) エチレンジアミン (EDA) メチルエチルケトン (MEK) ジメチルホルムアマイド (DMF) イソプロピルアルコール (IPA) 酢酸エチル、トルエン フトセグメントが海島構造(相分 離構造)をとるため、柔軟かつ弾 性を有する強じんなポリマーとな る [図3] 。 合成皮革・人工皮革に使用され るポリウレタンは、一般にポリオ ール、イソシアネート、鎖伸長剤 などを溶剤中でウレタン化反応さ 図5●合成皮革・人工皮革用ポリウレタンの構成成分例 の溶剤を揮発させた後、エージン 革と同様の表皮層用ポリウレタン せることにより製造される[図4] 。 グ(養生)でこの硬化反応を完結さ フィルムの圧着処理を行うことで 図5は代表的な合成皮革・人工皮 せる。最後に離型紙をはく離する 湿式合成皮革が得られる。 革用ポリウレタンの構成成分であ と、エンボス柄を有する乾式合成 湿式合成皮革が乾式合成皮革よ り、用途に応じて適宜選定して使 皮革が得られる。 りも天然皮革に近い柔軟な風合い 用する。つまり、合成皮革・人工 [湿式合成皮革] とボリューム感を持つのは、ミク 皮革の性能を大きく支配するのは、 ロポーラス層が存在するためであ ポリウレタンの成分であるポリオ る。 ールとイソシアネートの種類であ 基材となるナイロンなどに前処 * 理 を施し、その上にミクロポー ラス層(空隙を多数有する多孔構 ( 出所:太陽光発電協会 HP より ) [人工皮革] ゲル化 トロポニン T り、これらの選定が最大のポイン 高濃度 造のポリウレタン層)用ポリウレ 人工皮革は、不織布にポリウレ トになる。以下に、その選定方法 タン溶液をコーティングして、凝 タン溶液を含浸、湿式凝固、乾燥 について説明する。 固浴中に浸せきする。この際、ポ して湿式合成皮革のミクロポーラ [ポリオールの選定] リウレタン溶液の溶剤が抽出され、 ス層と同様の構造を形成させる。 一般的に使用されるポリオール ポリウレタン樹脂が析出、凝固し その後、表面(または片面)を研 と、得られるポリウレタンの特徴 て、ミクロポーラス層が形成され 削(バフィング)して毛羽立たせ、 を表1に示す。 る。その後、前述した乾式合成皮 最後に染色加工することでスエー ポリエステルジオールはコスト ドタイプの人工皮革が得られる。 面で有利ではある。しかしながら、 不織布中にポリウレタンが含有す エステル結合を有しているため、 *ポリウレタン溶液が必要以上に基材中に浸み込み、 仕上がった合成皮革の風合いが硬くなることを防止す る処理 三洋化成ニュース ❷ 2012 春 No.471 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 合成皮革・人工皮革用ポリウレタン 加水分解による劣化が早く、合 うな黄変が問題にならない用途 し、最終的なポリウレタンの組 成皮革・人工皮革の強度が低下 では、コスト的に有利であるTDI 成が決められる。 しやすい。そのため、衣料、靴 やMDIが使用される。一方、かば ❖当社ポリウレタンの特長 などの耐用期間が比較的短くて んの表面のような透明感や光沢 表3 に当社の代表的な合成皮 も問題のない用途で使用される が要求される部材は黄変が問題 革・人工皮革用ポリウレタンを ことが多い。一方、ポリエーテ となるため、黄変しにくい脂環 示 す。 こ れ ら の 製 品 以 外 に も、 ルジオールのエーテル結合やポ 族系あるいは脂肪族系のイソシ 目的、用途に応じてさまざまな リカーボネートジオールのカー アネートが使用される。 種類の製品を販売している。 ボネート結合は、加水分解を受 以上、ポリオールとイソシア 次に、表4には、これらの製品 けにくい。しかしながら、ポリ ネートについて、使用原料の選 を使用して実際に合成皮革・人 エーテルジオールは耐光性、耐 定方法を例示してきたが、実際 工皮革を製造する際の配合処方 熱性が低いため、強度維持が必 に要求される性能には、このほ 例を示す。また、表4の配合処方 要な合成皮革・人工皮革には、ポ かにも耐屈曲性、染色性、透湿 例で使用されている原料のほか リカーボネートジオールが用い 性などがあり、それらも考慮し にも、目的とする合成皮革・人 られる。ポリカーボネートジオ ながら各成分の使用原料を選定 工皮革の要求性能に応じて、各 ールを用いた合成皮革・人工皮 革は、車両、家具などのような 長期にわたる耐用期間が必要な 用途に使用されることが多い。 [イソシアネートの選定] 一般的に使用されるイソシア ネートと、得られるポリウレタン の特徴を表2に示す。 表1●ポリオールの種類によるポリウレタンの特徴 ポリオール ポリエステル ジオ−ル 性 能 系 (TDI、 MDIなど) 、脂環族系 (IPDI など) 、脂肪族系(HDIなど)の3 種類がある。芳香族系のイソシ アネートを使用したポリウレタ PPG PTMG ポリカーボネ ートジオ−ル 耐光性 ○ × × × ○ 耐加水分解性 (ジャングルテスト) × △ △ ○ ○ 耐熱性 ○ × × × ○ (低温)屈曲性 △ ○ ○ ○ △ 耐薬品性 △ △ × △ ○ 安価 中間 安価 中間 高価 価格 イソシアネートには、芳香族 ポリエーテルジオール PEG PEG:ポリエチレングリコール、PPG:ポリプロピレングリコール、PTMG:ポリテトラメチレングリコール 表2●イソシアネートの種類によるポリウレタンの特徴 イソシアネート 性 能 ポリウレタンのタイプ 耐光変色 芳香族系 脂肪族系・脂環族系 黄変 無黄変 大 小 ンは、光や酸化窒素ガスなどに 耐熱性 高い 低い (架橋・ウレア基導入で改善) 影響を受け黄変しやすい。その 耐薬品性 (耐汗性) 高い やや低い 易 やや難 接着性 高い 低い 価格 安価 高価 ため、顔料を添加する合成皮革 や染色処理を施す人工皮革のよ 低温特性 (Tg等) の調整 表3●当社の代表的な合成皮革 ・ 人工皮革用ポリウレタンの性能 使用方法 表皮層用 接着層用 ミクロポーラス層用 含浸用 当社製品名 〈溶液性状〉 外観 粘度 (mPa・s/20℃) 蒸発残分 (質量%) 溶剤 サンプレン LQ‐3510 サンプレン LQ‐120 サンプレン LQ‐336N サンプレン LQ‐258 淡黄色液状 100,000 30 トルエン/IPA 淡黄色液状 11,500 45 DMF/トルエン/MEK 淡黄色液状 90,000 30 DMF 淡黄色液状 80,000 35 DMF 〈フィルム物性〉 引張強さ (MPa) 伸び (%) 100%応力 (MPa) 熱軟化点 (℃) 特長 54 510 10.4 170 速乾燥性 13 400 2 − 透湿性 (2液硬化皮膜) 64 650 5.9 215 耐寒屈曲性、難黄変性 61 500 11.3 205 耐加水分解性 三洋化成ニュース ❸ 2012 春 No.471 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 合成皮革・人工皮革用ポリウレタン 表4●当社ポリウレタンを用いた代表的な配合処方例 表皮層用 接着層用 ミクロポーラス層用 含浸用 品 目 部数 品 目 部数 品 目 部数 品 目 部数 100 10 10 サンプレンLQ‐120 MEK コロネートHL*1 U‐CAT SA102*2 100 10 9 0.02 サンプレンLQ‐336N DMF サンモリンOT‐70*3 ニューポールLB‐625*4 顔料 (トナー) 100 150 2 1 10 サンプレンLQ‐258 DMF サンモリンOT‐70*3 ニューポールLB‐625*4 顔料 (トナー) 100 200 0.5 0.5 10 内側 サンプレンLQ‐3510 MEK 顔料(トナー ) *1 日本ポリウレタン工業㈱製脂肪族系多官能イソシアネート、*2 サンアプロ㈱製感温性ウレタン化触媒、*3 アニオン界面活性剤、*4 非イオン界面活性剤 る。このような機能を有する合成 ナイロン織布 表皮層用ポリウレタン 皮革は透湿防水布と呼ばれ、主に スキーウエアやウインドブレーカ 外側 内側 る。透湿防水布の構造例を図6に 汗の蒸気 汗の蒸気 示す。ここで用いられているポリ ウレタン皮膜は、ソフトセグメン 接着層用ポリウレタン トに親水性の高い構造を導入して 図6●透湿防水布の構造例 いるため、汗の蒸気を吸湿するこ 表5●『サンプレン HMP‐17A 』の性能 サンプレンHMP‐17A 一般品 (PBA/MDI /EG) 〈溶液性状〉 外観 粘度 (mPa・s/20℃) 蒸発残分 (質量%) 溶剤 淡黄色液状 30,000 30 DMF/MEK (55/45) 淡黄色液状 40,000 30 DMF 〈フィルム物性〉 引張強さ (MPa) 伸び (%) 100%応力 (MPa) 透湿度 (g/m2・24h) 48 750 4.7 9,000 62 560 4.1 1,100 〈配合処方例〉 ポリウレタン MEK 100部 30部 100部 30部 とができる。さらに、外気との湿 ウレタン化反応 度差から、蒸気が浸透し、外側に 発散することで快適性が上がる。 快適性の指標としては、一般的 に透湿度が用いられる。 『サンプ レンHMP -17A』は、一般的な合 成皮革用ポリウレタンであるPBA ( 出所:太陽光発電協会/ HPMD より )I (ポリブチレンアジペート) ゲル化 (注)透湿度:膜厚15μmの乾式膜(無孔質膜) をJIS Z‐0208 (B) 法で測定 サンプレン HMP-17A 10,000 透湿度 (g/m2・24h) ーなどのスポーツ衣料に使用され 一般品 (PBA/MDI/EG) 8,000 / EG系と比較して、同じ膜厚で トロポニン T 高濃度 も約8倍の透湿度を持つことがわ かる[表5] 。透湿度は皮膜厚みが 薄くなるほど向上し、 『サンプレ ンHMP -17A』と一般品との透湿 度の差はさらに顕著になる[図7] 。 6,000 ❖今後の展望 4,000 今後、合成皮革・人工皮革業界 2,000 は有機溶剤を使用しない環境対応 0 0 10 20 膜厚 (μm) 商品の開発が望まれている。当社 30 は、長年培ってきた合成皮革・人 図7●『サンプレン HMP-17A』と一般品との膜厚と透湿度の比較 工皮革用ポリウレタンの知見を生 種添加剤(耐光安定剤、酸化防止 の新たな機能も重要視され、特に かし、今後も市場ニーズに応える 剤、表面改質剤など)を適宜配合 衣料用途では透湿性などの高機能 製品を充実させていく。 するのが一般的である。 化に関する要望が強い。 合成皮革用ポリウレタンに要求 そのなかで、当社合成皮革用ポ される性能としては、耐用年数に リウレタン『サンプレンHMP - かかわる耐久性や、黄変性などの 17A』は、透湿性を持ち、かつ防 外観にかかわるものが一般的であ 水性の高い合成皮革を製造できる る。さらに、昨今では快適性など ポリウレタンとして好評を得てい ゲル化 三洋化成ニュース ❹ 2012 春 No.471 ウレタン化反応 参考文献 1)『人工皮革・合成皮革』日本繊維製品消費 科学会 ( 出所:太陽光発電協会 HP より ) トロポニン T 高濃度