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スポーツ集団における評価尺度の開発と検討
論文審査の要旨及び担当者 No.1 報告番号 甲 乙 第 論文審査担当者 主 査 副 査 号 氏 名 竹村りょうこ 政策・メディア研究科委員、環境情報学部・教授 政策・メディア研究科委員、環境情報学部・教授 政策・メディア研究科委員、総合政策学部・教授 政策・メディア研究科委員、環境情報学部・准教授 佐々木三男 渡辺利夫 村林裕 加藤貴昭 学力確認担当者: 研究の目的 竹村りょうこ君から提出された学位請求論文は「スポーツ集団における評価尺度の開発と検討 ―学生アス リートを対象としたセルフマネジメント及びチームイメージの観点から―」と題し、6 章から構成されている。 本論文は、スポーツ集団に影響を与える選手個人の心理的要因に着目し、「集団に所属する選手個人の心理的ス キル」および「チーム所属経験から獲得された優れた集団に対する概念」に関する 2 つの評価尺度の開発を行い、 学生アスリートによるスポーツ集団を捉える新たな概念と評価手法の構築、およびその成果を現場における指導 へフィードバックすることを意図している。 従来、スポーツ集団研究においては個人を対象とした研究および尺度開発が主流であり、集団を詳細に評価す る手法の停滞が学問領域における課題であった。優れたチームを客観的に評価することは研究者のみならず、ス ポーツ競技の指導者、選手においても意義のある取り組みであり、企業での社会人基礎力に関する実調査結果な どからも、チームで働く力が重要視されていることなどから、集団を対象とする研究が分野横断的に重要な意味 を持っていると考えられる。しかしながらチームのパフォーマンスを向上させる個人の能力の影響ついては、こ れまで研究課題として取り組まれた例は少なく、特に近年のスポーツ心理学研究においては、個人を対象とする 研究課題が主流となっているのが現状である。また、スポーツ集団を対象とした研究においてこれまでに開発さ れた尺度は、集団凝集性や集団効力感に着目したものが多く、特定の尺度のみでは集団の特徴を正確に捉えるこ とが困難であるとの指摘されている。本論文はこのような課題に取り組むべく、集団における選手個人の能力に 着目し、その具体的な能力を明らかにすることにより、従来の集団凝集性や集団効力感との関連を詳細に分析し、 指導現場への実践的示唆を得ることを目指した内容となっている。特に現実的な現代の学生アスリートの視点を 重視することで、より実践的で多様な適応範囲を持ち、学生を取り巻く環境や思考に合致した汎用性のある評価 手法を目指している。具体的には主に大学運動部活動に所属する学生アスリートを対象に、集団のパフォーマン スに繋がる要因と考えられるキー・コンピテンシー、セルフマネジメント、チームイメージの概念に焦点を当て、 スポーツ集団を捉えた新たな評価尺度の開発に取り組んでいる。 論文内容の概要 本論文の構成は、集団に所属する選手個人の心理的スキルを捉える「スポーツ・セルフマネジメントスキル尺 度」の開発と信頼性及び妥当性の検証、チーム所属経験から獲得された優れた集団に対する概念を捉える「スポー ツチームイメージ評価尺度」の開発と信頼性及び妥当性の検証、さらに両尺度を用いた継続調査と要因別比較検 討、集団凝集性および集団効力感との関連性に関する検討から成る。 1 章では、序論として本研究の背景と目的を説明し、現代のアスリートやスポーツチームに対する競技経験が 持つ意義、スポーツ集団に影響を与える選手個人の心理的要因に着目する必要性を指摘し、本研究の位置づけを 明らかにしている。 2 章では、 現代の学生が実社会において求められている能力としての社会人基礎力について触れ、 従来のスポー ツ集団研究、運動部活動に関する研究を概観し、本研究を遂行する上で重要な概念となるキー・コンピテンシー やセルフマネジメントについて議論している。特に第 3 章および第 4 章における理論的枠組みを明確にし、従来 のスポーツ集団研究に見られる課題を指摘し、現代の学生に合致した新たな評価尺度の必要性について述べてい る。 3 章では、キー・コンピテンシーおよびセルフマネジメントの両概念を元に、スポーツ集団に所属する選手個 人のマネジメント能力を、集団の競技パフォーマンスに正の影響を与え選手自身が主体的に思考・行動・実践す る自己活用力と定義し、その能力の解明と評価尺度の開発に取り組んでいる。具体的には関東地区の大学運動部 論文審査の要旨及び担当者 No.2 に所属する 603 名を対象に調査を行い、探索的因子分析を行った結果から、「チームへの貢献」「思考力」「自 己内省」「誠実的態度」「継続的取り組み」「達成努力」「課題改善」「創意工夫」という単純構造 8 因子が抽 出され、最終的に 32 項目からなる「スポーツ・セルフマネジメントスキル尺度」を開発した。また、既存の尺 度との相関分析から構成概念妥当性が認められた。また、チームの所属レベルとの関連性が認められたことから、 スポーツ・セルフマネジメントスキルの高い個人による集団は、優れた競技パフォーマンスを発揮できることが 示唆された。 4 章では、従来の集団凝集性および集団効力感との関連性に着目し、優秀な競技成績を達成することができる 優れたチームイメージの抽出を行い、現代の学生に合致した優れたスポーツ集団の「チームイメージ」評価尺度 の開発を行った。因子分析の結果から、「チームパフォーマンス」「チーム調和」の 2 因子構造が明らかとなり、 最終的に 14 項目からなる「スポーツチームイメージ評価尺度」を開発した。チームイメージ評価尺度の全ての 因子と、集団凝集性および集団効力感に関する尺度との間に相関関係が認められたことから、チームイメージ評 価の高い集団は、全体の統合や結束・協力することへの予測見込みも高いことが示された。また、実際の運動部 活動に所属する学生から抽出した項目を用いたことにより、現代の学生思考に合致し、汎用性の高い尺度となり うる可能性を示した。 5 章では、3 章及び 4 章にて開発された「スポーツ・セルフマネジメントスキル尺度」「スポーツチームイメー ジ評価尺度」を用い、性差・種目・ポジション・個人最高成績・チームレベル・指導者有無等の要因に着目し、 選手個人および所属チームについてそれぞれ比較検討をおこなった。またスポーツ・セルフマネジメントスキル 尺度 8 因子をキー・コンピテンシーの 3 カテゴリーである「個人的側面」「対人的側面」「資源活用的側面」に 照らし合わせ、集団全体の得点傾向からチーム特性の可視化を試みている。また、事例として各年の継続調査、 同一メンバーによる継続調査を行い、試合結果との関連性について考察している。さらに各シーズンにおける チーム全体の得点推移と各個人の得点の推移の把握が可能となり、多様な集団の変化に対する評価手法の可能性 が示唆された。 6 章では、本研究で得られた成果をまとめ、開発された評価尺度の活用とその有効性について議論し、今後の 課題と展望について述べている。 研究の意義と新規性 本研究の意義と新規性は以下のように要約することができる。 (1) 選手個人の評価手法が主流となっていたスポーツ心理学研究における課題に取り組み、キー・コ ンピテンシー、セルフマネジメント、チームイメージの概念に焦点を当てスポーツ集団を捉える新たな 概念と評価手法の構築を行った。 (2) 集団に所属する選手個人の心理的スキルを評価する「スポーツ・セルフマネジメントスキル尺度」を開発し た。 (3) チーム所属経験から獲得された優れた集団に対する概念を評価する「スポーツチームイメージ評価尺度」を 開発した。 (4) 開発した 2 尺度を用いて多角的にスポーツ集団を比較検討し、競技パフォーマンスとの関連性についても検 討を行い、評価手法の実践的な検証と現場指導へフィードバックを試みた。 (5) スポーツ・セルフマネジメントスキルおよびスポーツチームイメージは、従来の集団凝集性およ び集団効力感と高い関連性があることを示した。 (6) 運動部活動を通じた集団所属の経験がもたらす教育的価値についても議論し、スポーツ集団研究 の新たな展開について提案を行った。 以上、本研究によって得られた研究成果は極めて新規性が高く、特にスポーツ心理学研究における 集団研究において重要な知見をもたらしている。また、学術的側面のみならず指導現場への貢献も大 きいと判断される。 本研究は竹村りょうこ君の高度な研究遂行能力と当該分野における豊かな学識を有することを示す ものであり、その成果はスポーツ科学の発展に確かな一歩として位置づけられることは疑う余地がな い。よって、本学位審査委員会は、竹村りょうこ君が博士(政策・メディア)の学位を受ける資格が あるものと認めるものである。