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欧州危機と日本経済

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欧州危機と日本経済
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欧州危機のクライマックスはこれから
2011・10・17 747号
欧州危機と日本経済
財部誠一 今週のひとりごと
先日、読書ノートを何気なく広げていた時に『スウェーデン
の挑戦』(岡沢憲夫著)について記したページが目にとまり
ました。著者は「人生の各段階で市民を恐怖に追い込む不
安」は次の7つだと記していました。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
生まれてくること(生むこと)への不安
職を失うことへの不安
病気になることへの不安
社会的孤立、孤独への不安
不本意に死を迎えることへの不安
老後生活(歳をとること)への不安
教育機会喪失への不安
年金支給開始年齢の引上げが避けて通れぬ日本。7つの
不安がこの国には蔓延しています。どうしたらいいのか。日
本人の覚悟が問われる時代になりました。
(財部誠一)
※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。
欧州危機の最終局面はどうなるのか。 EU や独
仏が切望するような秩序ある決着にたどりつけると
はとうてい思えません。
「大きな金融機関の連鎖破綻、 大規模な金融再編
というドラスチックな事態への突入は避けられな
い。 そこで初めて十分な公的資金が注入され、
事態が収拾されていくというプロセスをたどらざるを
得ない」
メガバンクのベテランエコノミストは欧州危機のク
ライマックスはこれからだと断言しています。
「銀行の連鎖倒産で市場が大混乱する前に、 公的
資金を予防的に注入するという考え方も当然ありま
す。 EFSF (欧州金融安定基金) の機能を拡充し
て金融機関への資本注入を可能にして、 2008年
のリーマン ・ ブラザーズ破綻のような事態を回避し
たいと考えるのは当然だ。 しかし欧州各国の官僚
たちが 『too big to fail (大きすぎて潰せない)』 な
どといっているうちは、 納税者を納得させられる大
規模な公的支援などできるわけがない」
ひとことで言えば欧州にはまだまだ危機感が足り
ません。 ギリシャ国内に広がる IMF による合理化
策への強い反発や、 EFSF (欧州金融安定基金)
の機能拡充策に対してスロバキア議会が最後の最
後まで抵抗した姿を見ていると、 金融システム崩
壊がもたらす本当の恐怖がまるで伝わっていない
ことがよくわかります。 さらにいえば、 本質的には
ドイツの国内世論も似たようなもので、 ギリシャの
ような怠け者のために、 ドイツ国民の税金が投入
されることへの苛立ちは日に日に高まっています。
これまで洋の東西を問わず、 世界は何度となく、
バブル経済崩壊に続く金融危機を経験してきました
が、 危機収束の最終局面は例外なしに破滅的な
状況に陥っています。 納税者の誰もが公的資金
投入に反対できない、 同意をせざるえない空気が
醸成されるまで、 金融危機は深刻化していくもの
なのです。
◆EFSF貸付の仕組み
European Financial Stability Facility
欧州金融安定ファシリティはドイツ
債務管理庁の支援を受けて、 財
政危機に陥った国に融資するため
に必要な資金を調達するために市
場で債券などを発行する。 ユーロ
圏 の 国 に よ る 支 援 要 請 を 受 け、
欧州委員会と国際通貨基金が当
事国の計画を協議し、 欧州中央
銀行の専門官が危機に陥った当
事国に派遣される。 その計画が
ユーログループで全会一致で承
認され、 覚書に署名されてから実
行される。 支援計画の作成には
3-4 週間かかることになる。 ユー
ログループが計画を承認すれば、
欧州金融安定ファシリティは数営
業日をかけて必要な資金を調達
し、 融資を行うことになる。
◆EFSF国別保証負担額
オーストリア 122 億 EUR 2.78%
ベルギー 152 億 EUR 3.48%
キプロス 8 億 EUR 0.20%
フィンランド
79 億 EUR 1.80%
フランス
896 億 EUR 20.38%
ドイツ 1193 億 EUR 27.13%
ギリシャ 123 億 EUR 2.82%
アイルランド 70 億 EUR 1.59%
イタリア 787 億 EUR 17.91%
ルクセンブルク 11 億 EUR 0.25%
マルタ
3 億 EUR 0.09%
オランダ 251 億 EUR 5.71%
ポルトガル
110 億 EUR 2.51%
スロバキア
43 億 EUR 0.99%
スロベニア
20 億 EUR 0.47%
スペイン 523 億 EUR 11.90%
合計
4400 億 EUR 100%
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思い出してください。 日本では山一證券
が倒産し、 日興証券は外資の傘下となり、
長銀と日債銀が破綻し、 ほとんどの都市
銀行がたった3つのメガバンクへと再編され
てしまったではありませんか。
08年のリーマン ・ ショックもリーマン ・ ブ
ラザーズの倒産だけで終わったわけではあ
りません。 ベアー ・ スターンズは08年5月
に救済合併。 メリルリンチはバンク ・ オブ ・
アメリカの傘下に吸収。 ゴールドマン ・ サッ
クスとモルガン ・ スタンレーも突然死を恐
れ、 FRB からの支援を得るために、 銀行
持ち株会社を設立して、 その傘下に移行
しました。 要するに純粋な意味で言えば、
07年まで世界の金融業界を牛耳ってきた
米国の5大投資銀行はすべて姿を消してし
まったのです。 さらに米国最大の保険グ
ループである AIG にまで公的資金を注入す
るという惨憺たる状況にまで追い込まれま
した。
10月10日フランス、 ベルギー、 ルクセ
ンブルクは3国にまたがる大銀行デクシア
が破綻前に解体、 国有化されました。 リー
マン ・ ショック時の大混乱を強く意識した管
理型精算です。 しかしそれだけで事が収ま
るとはとうてい思えません。 クライマックス
はこれからなのです。
では具体的にどんな銀行が市場から狙い
撃ちされるのでしょうか。
、 市場関係者の間では欧
州の名門銀行3行の名前が取りざたされて
います。 フランスのソシエテ ・ ジェネラル、
ドイツのコメルツバンク、 スイスの UBS で
す。 もちろんあくまでも市場関係者たちが
ささやく 「噂」 です。 しかしいずれ劣らぬ
欧州の名門銀行ばかりで耳を疑いました
が、 そこまで事態が緊急性を帯びてこない
限り、 欧州危機は終結しないということな
のでしょう。 クライマックスが年内にあるの
か、 ないのか。 欧州から目が離せません。
意外に底堅い日本経済
「当社が持つすべてのブランド平均で上期
の売上は8%ほど伸びました」
宝飾品や時計などの有名ブランドの運営会
社を数多く傘下に保有するスイスの企業グ
ループ、 リシュモン ・ ジャパンの幹部と話す
機会がありました。 カルティエ、ピアジェ、ヴァ
ン ク リ ー フ&ア ー ペ ル、 ラ ン ゲ&ゾ ー ネ、
IWC、 モンブラン等々、 きらめくばかりのブ
ランドを保有するリシュモンですが、 日本国
内の売上がなんとこの上半期、 8%増だと
いうのですから驚いてしまいます。
いったい誰が買っているのでしょうか?
「中国のお客様です」
原発事故以来、 中国から日本にやってくる
観光客は激減しているのですが、 同社の売
上には大きな影響を及ぼしていないようで
す。 ただし、売上の中心は東京ではなく 「西
日本」 だということでした。 一般の報道でも
百貨店で高級品の売れ行きが思いのほか良
いというニュースや記事を目にされたことが
あると思いますが、 まさにそれを裏付ける話
でした。
そこでさらに尋ねてみました。
「ヨーロッパの売上はいかがですか?」
すると驚きの返事が返ってきました。
「順調です」
本当かなあと、 心の隅で思わず小さな疑念
が湧きあがりました。 そこで、 再度、 同じ
質問をしてみました。
「誰が買っているのでしょうか?」
「中国のお客様です」
そういえば、 米国の高級デパートでも高額
品の販売が好調で業績が伸びているという
記事が数日前の日経新聞に出ていました
が、 その記事のなかでも 「買っているのは
中国人」 でした。 恐るべき中国人のバイイ
ング ・ パワーです。 世界の超有名ブランド
を世界中で中国人が買っているのです。 そ
のおかげで、 壊滅的な打撃を受けている日
本の小売市場でも、 高額品が売れ、 景気
の下支えになっているのです。
では日本景気全体を見た時に、 2011年
度後半はどのように推移していくのでしょう
か。 じつは信頼すべきエコノミストや経営者
の多くが、 景気の先行きに対してきわめて
楽観的な見通しを持っています。
「日本は変な話、 これから復興需要が入っ
てくると、 それはそれでいい状態が来年の
前半まで続く可能性が高い。 大企業の経営
者もリーマン ・ ショック当時とはまったく違う
という印象を持っている方が多いですね」
(前出のエコノミスト)
復興需要への期待は誰もがいだくところで
すが、 じつのところ、 公共事業はまだでて
いません。 たしかに被災地での瓦礫処理や
仮設住宅の建設はありましたが、 橋を作っ
たり、 港湾を整備したりといった本格的な公
共事業は第3次補正の成立を待って、 これ
から始まります。
「阪神淡路大震災の復興時には5四半期か
ら6四半期もの間、 活発な公共事業が行わ
れました。 それを考えると、 今後の日本の
経済は足元から来年の前半までは勢いがで
てくると思います」 (前出エコノミスト)
もちろん業種業態によって景況感には大き
な格差があります。 製造業の海外移転とい
う構造的な問題もあり、 一概に景気好転を
喜んでいられる状況ではまったくありません
が、 中国も含めた強いアジアと復興需要に
支えられ、 2011年度後半、 日本経済に
も薄日が差してきそうです。 (財部誠一)
◆ソシエテ・ジェネラル
フランスの第2位の大手金融機
関。世界約80カ国以上に事業展
開。従業員数160,700名純資産
は1兆1320億ユーロ2011年8月、
フランス国債の格下げなどの噂
から財務状況の悪化がささやか
れ、同行の株価は23パーセント
下落した。9月にムーディーズか
らAa3に格下げされた。
◆コメルツ
ドイツで2番目の預金高を持ち、
ドイツ銀行、ドレスナー銀行と共
に「ドイツ三大銀行」と呼ばれる。
1870年2月26日にハンブルクで
創業した。1905年ベルリナー銀
行を併合してベルリンに本店を
移したが、第二次世界大戦後は
デュッセルドルフに本店を移し、
1958年にフランクフルトへ移った。
2011年第2四半期利益はギリシ
ャの負債で7億6,000万ユーロ
(1000億円)の下落を記録した。
◆UBS
スイスに本拠を置く世界有数の
規模を持つ金融グループ。1862
年創立のスイス・ユニオン銀行、
1872年創立のスイス銀行という
名門銀行が1998年に合併し、社
名をUBS AGとして設立。サブプ
ライム問題で2007年40億スイス
フランの純損失を計上する海外
事業を縮小し経営再建を進めて
きたが、金融危機の深刻化を背
景に、2008年スイス政府より
5,000億円を超える自己資本注
入と6兆円近い不良資産買取を
受ける事態となった。
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