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第 2 章 次世代型無人宇宙実験システム(USERS)
第 2 章 次世代型無人宇宙実験システム(USERS) ***新しい無人宇宙実験インフラの完成*** 財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構 1. 伊地智 幸一・金井 宏 はじめに 次 世 代 型 無 人 宇 宙 実 験 シ ス テ ム (USERS : Unmanned Space Experiment Recovery System)は経済産業省及び新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて、財 団法人無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)が開発と運用を行っている宇宙実験システ ムです。2002 年 9 月 10 日(火)17 時 20 分(JST)にデータ中継技術衛星(DRTS)との相乗りにて 種子島宇宙センターより H-IIA3 号機で打上げられ、2003 年 5 月 30 日(金)6 時 23 分(JST)に 小笠原東方沖公海上に着水し、回収されました。 USERS プロジェクトは 1995 年度に概念検討を開始し、1996 年 10 月 15 日に体制を整えて 正式に開発を開始しました。USERS 宇宙機システムは図 1 に示す通り、軌道上で実験を行う 機器を搭載し、実験終了後地上に帰還するカプセル形状のリエントリーモジュール(REM)と、 軌道上においては REM に様々なリソースとサービスの提供を行うサービスモジュール(SEM) から構成されています。REM はさらに軌道離脱モータ等を搭載しているプロパルジョンモジュ ール(PM)と、地上に帰還し回収されるリカバリービークル(REV)から構成されます。USERS 宇宙機システム全体の重量は約 1.7t トン(SEM : 800kg、REM : 900kg)で、太陽電池パドル出 力約 2.5kW です。 USERS プロジェクトは、1)長期にわたり軌道上にて実験をした後、自ら帰還することので きる無人宇宙実験システム技術の確立を第一目標とし、2)超電導材料製造実験装置(SGHF)によ る高温超電導材料製造実験(SMAP)を最初のミッションペイロードとし、併せて REM 帰還御に 軌道上に残る SEM を利用しての、3)将来の宇宙システムの低コストをはかるための 5 種類の 民生技術及び民生部品の軌道上検証の実施、として提案され、1996 年より正式に開発が開始 されました。 本ペーパーにおいては、その第一の目標である新しい無人宇宙実験システム技術の確立を通 じての「無人宇宙実験インフラ」としての完成についてまとめ、今後の宇宙利用の促進に役立 てたいと考えます。 2. 無人宇宙実験システムの特質 無人と有人の宇宙実験システムは、それぞれ長所と短所をもちあわせており、お互いに補完 しあう関係ですが、今までは長期にわたる宇宙実験を実施した後、自ら帰還する無人の宇宙実 験システムは数多くは存在していませんでした。 無人宇宙実験システムの長所は、1) 時間的に長く、良好な微少重力環境が期待でき、2) 安 全性の要求が緩和でき、さらに 3) 実運用にあたっての柔軟性が高いことがあげられます。一 方、有人実験システムの長所は、1) 微妙な実験観察記録が可能であり、2) 実験機器の予期せ ぬ故障時には宇宙飛行士による修理が期待でき、回復性が高いことが挙げられます。しかし近 年通信技術、計算機による制御技術等の進歩により、無人宇宙実験システムの欠点は改善しつ つあり、相対的に長所の方の実現が注目されるようになりまし。例えば、1000 度 C 以上で長 期間にわたって有毒物質を含む材料を、10μG 以下の微少重力環境にて結晶成長させる要求が ある場合、有人システムでは現実的には実施が難しいと考えられますが、無人では実施可能と なります。 宇宙実験インフラとしての無人宇宙実験システムの構成要素は、1) 打上げ機、2) 宇宙機シ ステム、3) 探索回収システム、4) 追跡と運用管制システム、並びに 5) 宇宙実験を行う組織 とそのマネージメント、です。宇宙機システムには大気圏再突入時の高温環境に耐える熱防御 1 系を有する帰還システムを含み、追跡と運用管制システムには軌道上から目的とする場所に帰 還させるために必要な軌道制御や軌道離脱制御の機能が必要です。 現在までに確立された技術を考察すれば、無人宇宙実験システムをインフラとして整備する にあたっての課題は次のようなものであると考えられました。 1) 2) 3) 4) 5) 3. 長期間にわたって 10μG 以下の微少重力環境を実現し、自ら帰還出来る宇宙機システム。 上記の宇宙機システムの中で再突入の高熱に耐えうる熱防御系の開発。 帰還のための軌道制御、再突入並びに回収のための設備やその運用。 探索回収作業。 実験運用のマネージメント。 USERS プロジェクト概要 USERS 宇宙機システムの概要を図 1 に示します。USERS プロジェクトは、図 2 に示す通 り USEF が参画した宇宙実験・観測フリーフライヤー(SFU)プロジェクト及び自律帰還型無人 宇宙実験システム(EXPRESS)プロジェクトの経験を基に開始されました。SFU は長期間にわ たって微少重力環境のもとでの実験が可能ですが、帰還をスペースシャトルに依存しており、 有人システムと同じ安全性上の制約が課せられました。EXPRESS は自律帰還を目指していま すが、バッテリの制約により数日間の運用でした。そこで USERS プロジェクトでは、長期に わたって軌道上で実験した後、自ら帰還するシステムの構築を目指すこととなりました。 REV REM SFU USERS PM ・長期間の実験と無人のシステムによる 良いμG環境が提供可能 ・帰還をスペースシャトルに依存 ・SFU及びEXPRESSにおける経験を反映 ・長期間運用の実現 ・無人システムによる良い μG環境の提供 ・安全性要求の緩和 ・自律帰還の実現 ・シンプルで低コストの運用管制系と運用の実現 EXPRESS SEM ・自律帰還システムであるが、 運用期間は約1週間 図1 USERS 宇宙機システム 図2 USERS に至る歴史的経緯 図 3 に USERS プロジェクトのミッション概要を示します。USERS 宇宙機システムは打上 げ後自ら高度 515km の運用軌道に上昇し、REM に搭載した超電導材料製造実験装置(SGHF) を使用して超電導材料製造実験(SMAP)を実施しました。実験完了後、REM は分離され、自ら 軌道離脱を行ない、小笠原東方沖の海上に着水回収され、実験成果を地上に持ち帰りました。 帰還時の大気圏再突入の際、宇宙科学研究所(当時)との共同研究である再突入飛行環境光学計 測装置(READ)で再突入時のプラズマ環境計測を行いました。REM 帰還後、SEM は軌道を上 昇させ、搭載した将来の衛星バスの低コスト化に役立つ民生技術・部品を使用した 5 種類の先 進的バス機器実験(自動車用電子技術を用いた搭載コンピュータ(OBCA)、展開ラジエータ (CPDR)、宇宙用 2 周波 GPS 受信機(DFSG)、先進的スターセンサシステム(AS3)、高性能低コ スト慣性基準装置(AIRU))を継続して実施しています。図 4 に開発スケジュールを示します。 2 SEM/REM分離 SEM運用の継続 軌道上運用 太陽電池パドル展開 軌道投入 REM軌道離脱 REV/PM分離 REV大気圏再突入 探索 H-IIAによる USERS宇宙機 打上げ 回収運用 着水及び浮遊 地球局 USEF運用管制センター (USOC) 図3 ~ 1996 パラシュート 開傘 1997 USERS プロジェクトミッション概要 1998 1999 2000 2001 2002 宇宙機システム開発 2003 打上 ~ 帰還 キックオフ 概念設計 予備設計 基本設計 軌道上運用 詳細設計 開発モデル製造/試験 フライトモデル製造/試験 整備 評価解析 運用管制システム開発 基本設計 詳細設計 製造試験 I/F試験/総合試験 運用訓練/リハーサル 図4 USERS プロジェクト開発スケジュール USERS プロジェクトの基本的な開発方針は次の通りとしました。 1)コスト低減 USERS の開発にあたってはコストの低減を旨とすることは基本方針であるが、具体的な施 策としては次のような事項を推進すること。 a) USERS で確立した技術によりリカリングコストが低くなるような開発とする。 b) 定常運用時の運用コストも従来の衛星と比較して大幅に削減出来るように運用管制設備や 運用方法を考慮する。 3 c) 開発時や打上げ前における衛星本体や関連設備の輸送においても、輸送コスト低減のため には特別の許可を必要とせず、通常の道路交通法規の範囲内で輸送が可能となるようにするこ と。 d) 可能な限り高圧ガス取締法令関連の規定の範囲内での取り扱いとし、特別の許可を得る必 要が生じないようにすること。 e) 可能な限り民間企業の保有する安い試験及び組み立て設備での試験製造を行えるように工 夫し、国、特殊法人等の保有する運転費用の高価な大型試験設備の利用は必要最小限度に止め ること。 f) SFU や EXPRESS で使用した地上支援装置等の設計の流用、設計基準やインタフェース 関連文書を、可能な限り流用してコスト削減に努めること。 g) 可能な限り要素間やサブシステム間での H/W、S/W 及びデータベースの共用化や設計 の共通化を行い、相互に流用をはかることによりコストを削減すること。 h)電子メール、電子会議、電子的なファイルの共用等の電子的な情報伝達と共有の手段によ り効率化をはかり、開発コストの削減をはかること。 2)最新技術の採用 搭載する低コスト化のための軌道上実証実験用ペイロードに適用する技術としては、21 世紀 初頭の実用衛星において標準となるシステム及びコンポーネント技術を活用したものを採用す ることを原則とする。特にマイクロエレクトロニクス技術についてはその最新のものをペイロ ードに適用し、小型軽量化と高機能化を目指すものとする。 3)標準品・標準設計の採用 出来る限り標準品を採用するか、又は将来のための標準設計を標榜すること。GSE において は出来る限り市販の汎用製品を組み合わせて実現するようにし、特注品の部分は最小にするよ うにすること。 4)設計マージン リソースや外乱(上層大気密度等)を設計に取り込む際はノミナル値を使用するものとし、ノ ミナルから逸脱した場合は運用方法の変更等により可能な限り初期目的が達成出来るようにす る。また設計マージンの設定にあたっては理論的に適切な積み上げを行うこと。 5)冗長系 宇宙機、運用管制系及び探索回収系の偶発故障に対しては機能冗長での対応を原則とする。 ただし主系から機能冗長系に切り替わった後のある程度の性能の低下は許容するものとする。 原則として地上の運用管制システムにおいては、初期運用時や回収時のクリティカルフェーズ を除く定常運用フェーズにおいては単一系にての運用であり、偶発故障や短期間の地球局の保 守等には宇宙機側の自動運用機能によりカバーするものとしてシンプルな運用管制システムと すること。ただし初期運用や SEM/REM 切り離し時のクリティカル運用時には原則としてバ ックアップを設けること。 6)ロバスト性 ロバストなシステムを構築することを設計段階において考慮すること。すなわち故障が生じ、 ある機能が喪失してもただちに REM の回収不能のような USERS のミッション達成に重大な 影響を及ぼさない設計を与えられたリソースの範囲内と適切なるリスク管理のもとに最大限心 掛ける。 7)スペースデブリ 宇宙機設計や運用計画作成にあたってはスペースデブリの発生を、極力避けるようにするこ 4 と。 8)法律 宇宙に関する国際法、国際条約並びに関連国内法(電波法等)を遵守した開発を実施すること。 9)安全性 イ)国内関連法令に規定された安全基準を遵守した機器開発を実施する。 ロ)打ち上げ時の射場安全要求を充たすようにする。 ハ)回収システムの設計並びに運用に際しては次の安全指針を遵守すること。 ・リエントリ経路の設定、着地区域(着地分散域)の設定にあたっては、十分に安全確保を 考慮して設定すること。(ここで着地とは着水を含む。) ・異常飛行により危険とならないように、安全を確保するための処置が行えること。 ・船舶、航空機、有人宇宙物体等に対する安全を確保するために、適切な処置を講ずるこ と。 USERS プロジェクトの概要を表 1 に示します。 ・打上げ ・打上げ機と場所 ・運用軌道 ・打上げ重量 ・回収 ・運用期間 ・運用管制センター ・使用する地球局 ・搭載ミッション機器 REM搭載機器 SEM搭載機器 2002年9月10日17時20分 H-IIAデュアルロンチにより種子島宇宙センターより打上げ 軌道高度約500km円軌道、軌道傾斜角約30.4度 最大約1700kg (REM900kg、SEM 800kg) (450km投入、PAFを含まず) 2003年5月30日6時22分頃に小笠原東方沖の公海上へ着水し、製造された 超電導材料製造実験の成果物を回収した。 約2年間 (設計寿命3年) (超電導材料製造期間は2002年10月2日より2003年3月31日) USEF運用管制センター (東京USEF本部(神田小川町)に併設) 定常運用時は宇宙開発事業団新GN所属増田局又は沖縄局を予定 (打上時はさらに、チリ サンチアゴ、カナリア諸島マスパロマス オーストラリア パースに設置したNASDA新GNの支援を得る) (REM回収時にはさらに加えてケニア マリンディ局の支援を得る) 超電導材料製造実験装置(SGHF) 再突入飛行環境光学計測装置(READ) (ISASとの共同ミッション) 宇宙用2周波GPS受信機(DFSG) 自動車用電子技術を用いた搭載コンピュータ(OBCA) 展開ラジエータ(CPDR) 先進的スターセンサシステム(AS3) 高性能低コスト慣性基準装置(AIRU) 表1 4. USERS プロジェクト概要 宇宙機システム 4.1 宇宙機システム全体概要 USERS プロジェクトのスペースセグメントである USERS 宇宙機はサービスモジュール (SEM)とリエントリモジュール(REM)との2つのモジュールから構成し、SEM と REM が結合された状態で打ち上げられ、REM に搭載した地上に帰還させる実験(主ミッションであ る超電導材料実験装置)が終了後、軌道上で2つのモジュールが分離し、REM のみが軌道を離 脱して帰還します。SEM は USERS 宇宙機システム全体のバスシステムであり、搭載機器への 電力や通信回線等のリソースの供給に加え、姿勢・軌道制御、熱制御を行う機能を持ちます。 REM は、軌道離脱のための固体推薬の軌道離脱モータ(RBM)と再突入時の高熱に耐えるために アブレータ型の熱防御系とを備えたブランテッドコーン(鈍頭型)の再突入カブセルで構成され ます。SEM は、REM が軌道離脱した後も軌道上に残り、前述の先進的バス機器の実験運用を 継続します。軌道上での外観を図 5 に示します。 5 R EM (リエン ト リモジュー ル) 3.5 m REM 約2m SEM 約1.5m MTV-2 (モニタテレビカメラ-2) LMP (照明ランプ) CSM (コネクタ分離機構) PDL (太陽電池パドル) ESH-1 (地球センサヘッド-1) S-ANT-3 (Sバントアンテナ-3) MTV-1 (モニタテレビカメラ-1) 15.5m ESH-2 (地球センサヘッド-2) 1.7 m SEM (サ ー ビスモジュ ール) 図5 USERS 宇宙機システム軌道上外観 宇宙機システム開発の基本的な方針として、可能な限り既存の技術を採用し、新規開発のサ ブシステムやコンポーネントの使用を最小にすることとしました。具体的には REM の熱防御 系並びに SEM の統合化宇宙機制御系(ISC)(次の SEM の項にて解説)以外は既存のコンポーネン ト及び技術によるものとしました。H-IIA によるデータ中継技術衛星(DRTS-W)とのデュアル ランチ対応のため USERS 宇宙機システムの打上げ総重量は 1.8 トン以下としました。 REM の機能は REM 帰還並びに超電導材料実験装置を地上へ帰還させるために必要な最小限 度のものとし、SEM の機能で代替出来るものは REM の機能からは削除することとしました。 具体的には、SEM/REM 結合中は、SEM から電力供給を受け、地球局とのテレメトリ・コマ ンド通信は SEM 経由で行います。また、REM 軌道離脱のための軌道及び姿勢は SEM により 確立され、REM は分離後その姿勢を保持する様に設計されています。 図6 USERS 宇宙機システムブロックダイアグラム 6 4.2 SEM システム SEM の制御システムとしては統合化宇宙機制御系(ISC による集中制御方式)を採用し、 500kg から 1t クラスの衛星の標準バスとしても適用出来るように設計されており、USERS ミッショ ン全体を通じてその性能を検証する計画です。ISC とはオンボードコンピュータを中心とした サブシステムで、従来の衛星では別々のサブシステムで行っていたコマンド/テレメトリ処理 等のデータ処理、姿勢軌道制御、電力制御、熱制御等を、ひとつの ISC というサブシステムで 行うようにしたもので、今後の衛星バスの小型軽量省電力化、並びにシステムの S/W 化を図 り、リカリングコスト低減を目指すものです。図 7 にその概要を示します。 DHS Computor COM ACS Sensors ACS Computor ACS Actuators Drive Elec. RCS Valve Driver Mission Payload EPS ACS Sensors Mission Payload Thermostat Mission Payload COM Heater I n te g r a t e d S p ac e c r a f t C on t r o l le r ( IS C ) ACS Actuators SAP RCS SFU(一例 一例) Mission Payload Heater EPS SAP USERS 図7 統合化宇宙機制御系 (ISC) また、約 900kg の REM を搭載する耐荷能力を持ち、50%を超えるペイロード比を実現して いますが、発生電力 2.5kW の大型の太陽電池パドルを備えることにより、大きさのわりには余 裕のある電力供給能力をも備えているのて、様々なミッションに適用が可能です。 高温超電導材料製造実験中は太陽指向で飛行しますが、軌道制御時や一部の先進的バス機器 実験では地球指向で、また帰還時には REM のレトロブーストモーター(RBM)噴射指向の姿勢 で飛行することが可能です。 推進系は SEM に姿勢制御用の 1N のスラスタと、 軌道制御用の 23N のスラスタを搭載しており、姿勢制御のみならず、軌道制御も可能です。太陽電池パドルは地 球指向時には回転させることが出来ますが、太陽指向中は太陽方向に固定しています。 姿勢制御方式としては、10μG を越えないμG 環境を維持するために、磁気トルカ(MTQ)に よりリアクションホイール(RW)のアンローディングが永久に可能なゼロモーメンタム三軸姿勢 制御システムを採用し、そのレベルを検証するためのμG 環境モニタを設置しました。 通信系は S バンドを使用し、 USB 及び HSB の両方に対応します。 USB ではアップリンク 4kbp、 ダウンリンク 2kbps であり、HSB ではダウンリンク 256kbps で、搭載している 1Gbit のデー タレコーダに蓄えられた非可視中のデータをダウンリンクいたします。データ通信は CCSDS を採用しています。 電力系は、2.5kW(BOL)と 50Ah のニッケル水素バッテリで供給し、50V 系のフローティン グバス電圧方式です。また宇宙の放射線環境をモニターするサブシステム、太陽電池パドル、 REM の分離、並びに CPDR の展開状況を確認するためにモニターテレビ(MTV)を搭載してい ます。 4.3 REM システム REM の外観図及び断面図を図 8 に示します。REM は重量 884[kg](ペイロード含む)、最大 径 1.48[m]、全長 1.94[m]です。REM は、REV と推進モジュール(PM)から構成されています。 7 REV は釣鐘型の弾道再突入型の再突入カプセルです。この形状は、容積効率が良く、極超音 速∼亜音速域まで空力的に静安定を取りやすい形状で弾道再突入に適しています。REV は外側 からアブレータ+断熱材+アルミスキンの 3 層構造のヒートシールドで覆われており、大気再 突入中の空力加熱からから REV 内部機器を防御します。3 つの超電導材料実験装置(SGHF)の 電気炉は、前方のミッションパネルに搭載されています。また、再突入中の飛行環境光学計測 装置(READ)の光学センサが、ヒートシールドの先端部分に装着されています。REV バス構体 には、READ 機器を含めて、回収装置、CDHS(姿勢制御・データ処理装置)、RS(シーケンサ)、 IMU(慣性計測装置)、D-REC(データレコーダ)、電源が搭載されています。回収装置は、2つ の亜音速パラシュートと浮遊用のバッグ、自己位置特定用の発信機で構成されています。浮遊 バッグは CO2 加圧式の他に、バックアップとして傘頂部に装着してパラシュート緩降下中の ラム圧で膨らむアペックスバッグを搭載しています。また、発信機も GPS ビーコンに加えて、 小型バッグに入れた民生品ベースの ARGOS 送信機を簡易な位置特定手段として用いています。 PM の主な機能は、SEM/REM 分離~PM 投棄までの REM の姿勢安定と地上との通信、及び、 軌道離脱マヌーバであり、そのために RBM(軌道離脱モータ) 、MW(モーメンタムホイール) 、 スピン/デスピン/タンブル用の固体モータ、分離後から RBM 点火までの地上との通信のため の通信機器及び電源が搭載されています。 帰還安全に関わる機器や機能は冗長化の方策を採っています。例えば、SEM/REM 分離以降 のシーケンスは独立したタイマで、電源を含めて冗長化した RS により構成されています。 CDHS 故障の場合は、SEM から最低限のモニタを行い、REM への地球局からのダイレクトコ マンドで SEM/REM 分離シーケンスを実行できます。 REM の熱制御は SEM から電力供給を受けてヒータとサーモスタットにより受動的に行われ ています。実験中は、電気炉から出る熱はヒートシールドを介して深宇宙に放射する方法を取 っています。ヒートシールドへのこの相矛盾した要求に対して、断熱材層に入れたサーマルア ンカーによりコンダクタンスを調整することで、軌道上の排熱と空力加熱の遮熱を両立させて います。 8 図 9 に REM システムとそのペイロードの搭載状況を示す。地上に帰還させるために必要な 機能の内、SEM の機能で代替出来るものは全て REM からは除き、REM には無誘導で地上に 帰還させるために必要な機能のみ搭載しました。ペイロードとしては SGHF が搭載されたが、 直径 1m 程度で高さ約 0.7m 程度の空間が搭載可能領域であり、重量としては 150kg 程度、消 費電力(発生熱量) としては 300W から 500W 程度が可能です。 RBM REM BUS Equipments φ 1460 SGHF Power Controler yR MW xR Recovery Subsystem R EM B US Equipments BUS Compartment REM BUS Equipments SGHF Gas Supply SGHF Controller SGHF SGHF Payload Compartment 224mm REV/PM Separation plane 1805mm 実験機器搭載コンパートメント ~ 1 m Dia. ~0.7 m H ~ 150 kg, ~300 - 500 W 図9 REM システムペイロード搭載状況 4.4 熱防御系 REM の熱防御系は、再突入時の熱防御に加えて軌道上の排熱が要求され、熱的に相反する要 求を同時に満足する必要があります。 1) 軌道上排熱要求 : 軌道上において、REM 内部で発生する最大 600W の熱の排熱を行う ため、排熱のための有効熱コンダクタンス要求値を満足する必要があります。(例えば、シェル 温度が0℃のときノーズ部で約 5.9W/m2/K、コーン部で約 2.2W/m2/K) 2) 再突入時の熱防御要求 : 再突入時において、REM 内部の機器等を外部の加熱環境から 熱的に防御するため、再突入時のよどみ点における以下の加熱率および圧力条件に耐える必要 があります。 ・最大加熱率 : 3.1 MW/m2(ノーズよどみ点) ・最大衝撃圧力 : 114 kPa (ノーズよどみ点) 3) 着水時のアルミニウムシェルの温度は許容最大値(232℃)以下とする必要があります。 REM 熱防御系のヒートシールドの概要を図 10 に示す。回収システムの熱防御方式は、アブ レータ方式と輻射冷却方式が代表的です。加熱率が比較的小さい場合には(1MW/m2 程度以 下の場合)輻射冷却方式が採用できるが、数 MW/m2 程度以上では、表面温度が2千数百度 程度以上になるため、アブレータの採用が唯一の解でとなります。アブレータ方式ではアブレ ータに直接または断熱材を介して構造に取り付ける方式が代表的です。 REM は最高 3.1MW/m2 熱の加熱率に曝されるため、熱防御はアブレータ方式とし、外か ら順にアブレータ+断熱材+アルミシェルによる構成とした。各構成材料の寸法は再突入時の 防熱要求、軌道上排熱要求、軽量化等を考慮して設定しました。 1) アブレータ概要 : アブレータ材料は、炭化アブレータのうち特に高加熱率、高エンタ ルピー、高圧力の気流条件に対して良好な耐熱性能を発揮する CFRP を選定しました。炭化ア ブレータによる熱防御概念を図 11 に示す。最小重量で設計要求を満たすために、アブレータ は全炭化アブレータとしており、アブレータ自身が再突入時の防熱のみならず、ヒートシール ドの強度部材として機能するように設計しました。アブレータは 2 層構造としており、外層部 /内層部は、同じ CFRP より製造されます。外層部は短冊状プリプレグをホットプレスして成 9 形され、主に熱防御を分担します。内層部は連続クロスアブレータで、外層部の内側にプリプ レグを擬似等方積層して形成され、主に強度を分担する。短冊クロスアブレータは、アブレー ションガスが外表面から流出し易いため、連続クロスアブレータより熱防御特性に優れ、また、 加熱時にデラミネーションが発生しない。一方、連続クロスアブレータは、強度を分担するカ ーボン繊維が連続しているため炭化後も安定した高強度特性を示し、強度メンバとして使用す ることが可能です。短冊・連続クロスアブレータの合計厚さは軌道上排熱、再突入時の熱防御、 重量の軽量化等を考慮して設定しました。また強度を分担する連続クロスアブレータ厚さは再 突入時の空力荷重に対する強度、内部に発生する熱応力、製造性等を考慮して設定しました。 2) 断熱材 : 熱防御系は再突入時の高温環境における熱防御要求と軌道上での真空・低温 環境における排熱要求を同時に満足する必要があります。熱防御系を構成する断熱材として、 軽量で断熱特性の良い既存の断熱材をそのまま使用した場合と、改良して低温・真空での熱伝 導率を増加させた場合を比較すると、改良断熱材を使用する方が、熱防御および排熱の拘束条 件下において熱防御系重量を軽くできます。そこで、既存の熱伝導率の低いシリカアルミナ繊 維による多孔質断熱材料(フェルト断熱材)に、熱伝導率の温度依存性が小さい高熱伝導材料で あるアルミニウム箔(サーマルアンカー : TA)を取り付けて熱伝導率を調整したものを使用 することとしました。本方法(TA 式断熱材による方法)は、アルミニウム箔の厚さ、ピッチ を変化させることにより熱伝導率の調整が容易であり、また製造性も良好です。TA 式断熱材 の概念を図 12 に示します。TA 式断熱材の厚さ、有効熱伝導率は軌道上排熱、熱防御およびの 熱防御系の軽量化等を考慮して設定しました。 3) アルミニウムシェル : アルミニウムシェルは REM の強度・剛性要求を満足する必要が 有る。アルミニウムシェル厚さは、強度剛性、着水時の温度要求等を考慮して設定しました。 境界層端 表面燃焼 熱分解ガス 酸素 気流 密度分布 温度分布 炭化層表面 図 10 熱防御系概要 サ サー ーマ マル ルア アン ンカ カー ー 炭化層 熱分解層 母材 図 11 アブレータ原理 ア アブ ブレ レー ータ タ 断 断熱 熱材 材 ア アル ルミ ミシ シェ ェル ル 図 11 断熱材概要 図 12 アブレータ試験状況 10 5. 運用管制系 USERS 宇宙機は、USEF に新設された USEF 宇宙機運用管制センター(USOC)にて運用 されます。USOC は、USEF 事務所がある千代田区神田のオフィスビル 5 階に設置されてい ます。USOC の運用室の総床面積は約 180m2 で、このコンパクトなスペースで、2 機の衛星 を運用することが特徴です。USOC に設置される USEF 運用管制システムは、USERS 宇宙機 が 所定 の軌 道に 投入 され てか ら REM の帰 還 回収 を含 むミ ッシ ョン 運用 終了 まで 、ま た SERVIS-1 についても、SERVIS-1 宇宙機が所定の軌道に投入されてから 2 年間のミッション 運用終了まで、2 つの衛星の監視と制御、運用計画立案を行うことが可能であり、実際に実施 いたします。 USEF 運用管制システムは、パソコンベースの分散システムで構成され、宇宙機の運用計画 立案、状態監視(テレメトリ受信)、制御(コマンド送信)を行います。運用に使用したデータ や受信したテレメトリ等は USOC 内に蓄積され、必要なデータは実験ユーザに配布されます。 5.1 USEF 運用管制システムの処理概要 USEF 運用管制システムの処理概要とそれを実施する装置の一覧を表 2 に示します。以下に各 処理の概略を示します。 処理名 運用計画処理 装置名 装置処理概要 運用計画装置 コマンド計画の作成、軌道制御計画の作成 コマンド・テレメトリ処理 USEF宇宙機管制装置 バス機器のコマンド・テレメトリ運用 軌道関連処理 実験機器監視装置 USEFゲートウェイ装置 実験機器のテレメトリ運用 JAXA と接続しフォーマット変換等の実施 USEFパケット処理装置 CCSDS 勧告処理の実施 軌道決定・予報装置 軌道伝播および実験評価用の軌道決定値作成 シミュレーション処理 局シミュレーション装置 運用支援処理 宇宙機シミュレーション装置 試験、訓練時の衛星模擬装置 外部ユーザインタフェース装置 USOC 外のユーザへのテレメトリ配信およびデータ配布 試験、訓練時のJAXA 局模擬装置 ワールドマップ表示装置 衛星のワールドマップ表示 技術文書蓄積装置 電子化された技術文書、運用文書の蓄積 共通データサーバ装置 運用データの蓄積 時刻表示装置 標準時刻の表示、イベント表示 表2 USOC 構成装置 1) 運用計画処理 : USERS では、バス運用要求と実験運用要求に基づき、あらかじめ登録 されている FO(Functional Objective)から、イベントファイル(コマンド計画)を作成いたし ます。このとき、必要に応じてリソース(データ発生レート、電力等)の制約を考慮します。 ここでいう FO は、運用要求の最小単位としてまとめられたコマンド群を指します。この FO 単位でリソース要求、運用条件を満足するようにコマンド計画を作成します。コマンド計画立 案にあたってはこれらの要件を満たすように FO の配置を検討するだけで良く、計画作成・変 更が容易になります。運用計画処理では、USERS 宇宙機の飛行プロファイルを実現するため に必要な軌道・姿勢制御の計画も立案しています。 2) コマンド・テレメトリ処理 [テレメトリ処理] : USERS 宇宙機からダウンリンクされたテレメトリは、地上局でフ レーム同期をとった後 USOC に伝送されます。伝送されるテレメトリデータは、CCSDS (Consultative Committee for Space Data Systems) 勧告の CADU (Channel Access Data Unit) フォーマットで、USEF ゲートウェイ装置で受信後、USEF パケット処理装置で CCSDS パケットに分解されます。USEF 宇宙機管制装置および実験機器監視装置は、この CCSDS パ ケットからテレメトリ定義情報の抽出情報や工学値変換情報に従って、リアルタイムテレメト 11 リのみ QL (Quick Look) 処理で表示します。受信したテレメトリデータは、リアルタイム運 用後に共通データサーバ装置に蓄積されます。DL (Delayed Look) 処理では、この共通デー タサーバ装置に蓄積されたテレメトリデータを、要求に応じて USEF 宇宙機管制装置、実験機 器監視装置で表示します。 [コマンド処理] : コマンドは、運用計画装置で作成したイベントファイルに基づき USEF 宇宙機管制装置から送信されます。コマンド送信にあたって、USEF パケット処理装置で CCSDS 勧告に従ったフレームの生成を行います。また、USEF 宇宙機管制装置ではステータ ス変化による送信前検証、実行検証が行われます。USEF 宇宙機管制装置は、2 台のコマンド 端末による冗長構成になっていますが、2 台同時に SEM に対しコマンドは送信できません。 ただし、REM に対してのコマンドは、全て緊急を要するコマンドのために 2 台どちらからで も同時に送信できるようにいたしました。また、SEM へのコマンド送信中でも、イベントファ イルを切り替えるだけで REM へのコマンドに切り替えることができます。 3) 軌道関連処理 軌道決定・予報装置は、地上局で取得したレンジングデータ(以下、 「追跡データ」という)を もとに決定された軌道決定値を JAXA から受信し蓄積いたします。この軌道決定値を伝播して 軌道エフェメリスデータを作成し、それをもとに運用計画装置で運用計画を作成いたします。 また、軌道決定・予報装置で JAXA より受信した追跡データを使用し、実験評価用の軌道決定 値を作成いします。 4) シミュレーション処理 USOC の機能検証および運用訓練で、宇宙機および地上局を模擬するために擬似テレメトリの 発生、コマンドの受信、地上局のプロトコルの模擬を行います。 5.2 USOC の特徴 1) 設置場所 : USOC は、USEF 事務所があるオフィスビルに設置されています。都心の ビルの一角での衛星運用は、各社からの交通の便の良さ、周辺にホテル、24 時間営業のレスト ラン、コンビニエンスストアがあるなどロジスティックな面では申し分ない場所であります。 ただ、通常のオフィスビルのため、USOC 独自でのバックアップ電源の確保や空調等の設備を 設置する必要があり、また SERVIS-1 向けの改修作業や SERVIS-1 の訓練と USERS 定常運 用との並行作業を限られたスペースで実施する必要があるために、 ・詳細なスケジュール調整による作業のタイムシェアリング ・3 次元レイアウトソフトによるビジュアルなイメージをもとに、改修作業の効率性、運用 性、安全性を考慮したレイアウト検討 を行うことにより、コンパクトなスペースで問題なくこれらの作業を実施することができまし た。現状のレイアウトを図 13 に、定常運用時の様子を図 14 に示します。 図 13 USOC レイアウト概要 図 14 定常運用状況 12 4.3 パソコンベースのシステム構成 USOC では、主要装置(USEF 宇宙機管制装置(コマンド端末、テレメトリ表示端末)、パ ケット処理装置、運用計画装置等)に通常のデスクトップパソコンを使用しました。これらの パソコンは 2000 年に購入してからの 3 年間、大きなハードウェアの故障は発生していません。 また、OS は、Solaris x86 使用しており、この点も Windows に比べ安定して稼動している理 由と考えられます。今後は、衛星運用システムに対しパソコンの適用が進むと考えられますが、 ・ワークステーションのハードウェアが安価になり、パソコンを導入することによるハード ウェアの低コストのメリットがなくなってきた。 ・パソコン製品のライフサイクルが早いため、保守部品の確保が難しい。 ことから、ハードウェアが安価であるからパソコンの導入をするといったことではなく、ハー ドと OS の組み合わせにより、導入から運用・保守まで含めた装置のライフサイクルを考慮し てベストな選択を検討していく必要があります。 5.4 REM 帰還回収用の機能 REM の帰還回収運用に対応し、運用管制システムとして特別に以下の 2 つの機能を具備し ました。ひとつは、SEM と REM が分離した際に、一時的に 2 つの衛星の運用になるため、ひ と つの コマ ンド 端末 か らイ ベン トフ ァイ ル (コ マン ド計 画) の切 り 替え のみ で、 両衛 星 (SEM/REM)にコマンドを送信できるようにしたこと、また、2 台あるコマンド端末から REM へのコマンドを同時に送信できるようにしました。これは、REM のコマンドが、 ・REM に異常が発生したらすぐに送信する必要があること ・REM に同じコマンドを送信しても問題ないこと からであります。このような柔軟な仕様にしたことにより、帰還回収運用前に、様々な運用の 選択肢が可能になりました。もうひとつは、ESA/マリンディ局に持ち込んだテレメトリ表示 装置であります。REM 帰還回収運用において、ケニアにあるマリンディ局は、SEM/REM 分 離時のモニタや、REM の軌道離脱時のモニタ等、帰還回収運用上重要な運用を行う局で、これ らの運用で異常が発生した場合はすぐに REM に対してコマンドを送信する必要があります。 USOC でテレメトリにより状態を判断し、コマンドを送信するまでには数十秒かかること、 USOC からケニア局まで多数の機器や経由地があり、障害の発生する確率が高くなることから、 マリンディ局でもテレメトリをモニタし、コマンドが送信できるように整備しました。コマン ド送信装置は、局の端末を借用したが、テレメトリ表示端末と、マリンディ局設備とのインタ フェースをとるゲートウェイ装置については、USEF 側で USOC の機器を流用して開発しま した。この開発・設置までには、ESA とのインタフェース調整、現地での試験、輸出申請手続 き、運用時の現地出張等、様々な作業が発生しましたが、ミッション成功をより確実にする方 策のひとつとして、マリンディ局での運用設備の整備は非常に意義がありました。 6. 軌道上運用 2002 年 9 月 10 日の打上げ後、高度 450.3km に投入され、軌道上運用を開始しました。投 入後 3 回の軌道上昇により予定通り 9 月 16 日に運用軌道である 515.3km に上昇し、チェック アウトを開始しました。そして USERS 宇宙機バスシステム並びに各実験機器とも正常である ことを確認した後、10 月 2 日より前期定常運用に移行して高温超電導材料製造実験を開始し、 順次 3 台の SGHF を動作させ 2003 年 3 月 31 日に SMAP を終了しました。図 15 に USERS の軌道上運用概要を示します。 前期定常運用の間、スラスタの動作を全く実施することなく、磁気トルカとリアクションホ イールにより姿勢を維持ことが出来、その間ほぼ目標とした 10μG 以下の微少重力環境を維持 することが出来た。図 16 に微少重力環境データの一例を示す。また#1 の電気炉の運用開始時 に温度低下による電気炉内ガスリークや試料の保持解放機構の動作の問題が発生したが、地上 からの運用の工夫により解決しました。このことから図らずも予期せぬトラブルが発生した時 13 の運用のフレキシビリティーが無人宇宙実験システムには備わっていることが確認できました。 USERS の追跡管制のための地上ネットワークの概要を図 17 示します。USERS 宇宙機シス テムの運用は USEF 本部に併設した USEF 運用管制センター(USOC)より宇宙開発事業団 (NASDA)(現日本宇宙航空研究開発機構 JAXA)の新グラウンドネットワーク(新 GN)を通じて 実施しています。定常運用時には沖縄局(一部レンジングでサンチァゴ局)を主局、増田を従局(沖 縄局不具合判明時に立上げる)として使用して運用を行っています。運用管制システムは、定常 運用時はオペレータが 2 名で運用が可能であり、これにより運用の低コスト化をはかっていま す。 初期運用時や軌道制御などの時間的にクリティカルな運用を実施する際には、必要に応じ新 GN 所属の海外局(サンチァゴ、マスパロマス、パースの各局)を使用するが、レンジングに関 しては、新 GN 側の選択で、定常運用中も海外局を使用している。また、帰還回収運用時には、 着水点として小笠原沖を選択したことにより、地理的な条件からケニアのマリンディ局を使用 して、分離や軌道離脱噴射時のリアルタイムテレメトリ・コマンド運用を実施しました。マリ ンディ局はヨーロッパ宇宙機関(ESA)に所属していますが、TACC を介して USOC と接続 されています。SEM,REM 分離以降はシーケンスの後戻りが出来ないので、地上回線断などの 異常に備える目的で、マリンディ局単独でも REM のテレメトリモニタとバックアップとして の RBM 点火コマンドの送信が可能なように、機材と要員が配置しました。 日 軌 道 9/10 450.3 11 12 13 14 15 16 km 486.3km 459.4km 9/17 10/1 515.3km 10/2 4/1 509.9km 507.8km 580km 483km Micro-G 宇 宙 機 イ ベ ン ト #3軌道制御 #1軌道制御 9/12 15:58:24頃 9/16 13:47:42頃 4/4 軌道上昇 噴射完了 噴射終了 5/3 軌道調整 着水5/30 初期チェックアウト #2軌道制御 9/14 14:45:27頃 9/17 COM & ISC 10/2 3:31開始 3/31 4/7,23 AS3 噴射完了 9/18 ISC 4/8 DFSG 4/10-13 OBCA +13 H11M ノーマルモー 9/19 ISC & AOCS 9/20 SEM EMS & 超電導材料製造実験4/14-16 CPDR ド MTV 4/14,17,22 AIRU 5/22微調整 +9H55M ロールアクイジションモード開始 三軸姿勢制御確立 電気炉運用準備 9/21 AOCS 4/10-14, ~30 +2H36M 地球センサー ON 5/16位相回帰軌道へ遷移 10月2日より開始 9/22 MTV SGHFガス排気 +1 H41M 沖 縄 局 ( 太陽捕捉確認9/23 ) REM & READ 電気炉#1 10月6日より開始 +44 M サンチァゴ局 9/24 ISC & COM R E M帰還運用 ( 太陽電池パドル展開確認) 9/25 AOCS & 新GN電気炉#3 12月17日より開始 +21M パドル展開/太陽捕捉開始 9/26 SGHF 電気炉#2 +14M22S USERS宇宙機分離 9/27 AIRU 月2日より開始 2 9/28 OBCA 打上げ 帰還のための処置 9/29 AS3 日時 JST 表示 3月18日より開始 9/30 CPDR 10/1 DFSG 図 15 USERS 軌道上運用概要 図16 USERS微小重力環境の一例 14 USOC 図 17 追跡管制ネットワーク 6.1 運用フェーズ [運用準備] : 運用要員が USERS の運用管制実施及び運用計画立案に必要とする情報を記 載した運用文書を作成した。また、宇宙機システムと運用管制システムで一元管理されたテレ メトリコマンドデータベースを構築し、運用要員への訓練及びリハーサルを実施しました。打 ち上げ時初期運用における実施運用計画(EOP)は訓練リハーサル結果を反映し、ドラフト版 を打ち上げ 2 週間前までに作成した。また、チェックアウトにおける EOP は毎日立案するこ ととしました。 [初期運用] : USERS 宇宙機は 2002 年 9 月 10 日 17 時 20 分(JST)に種子島宇宙センター から H-IIA ロケットにより打ち上げられ、計画通りの高度約 450km、傾斜角約 30.4 度の円軌 道に投入されました。その後3回の軌道制御により、定常運用高度約 515km までの軌道上昇 を実施し、前期定常運用フェーズにおいて軌道制御を実施せずに実験遂行可能な高度を確保し ました。そして約 15 日間の初期チェックアウトを実施して各器機の健全性を確認しました。 運用体制としては、打ち上げ後約 3 日間は軌道上運用チーム、技術支援チーム、運用計画チー ムからなる 24 時間体制で対応しました。その後、初期チェックアウト終了までは、3 チームで はあるが国内可視群を中心とした 1 日 1 可視群での運用に移行しました。運用体制を図 18 に 示します。 [前期定常運用] : 前期定常運用フェーズでは搭載された3つの電気炉の加熱・冷却シーケ ンスを順次実施し、メインミッションである超電導材料製造実験を行いました。定常運用にお ける運用計画は、全ミッション期間計画を長期運用計画(LTP)とし、以下 16 週分の中期運 用計画(MTP)、4 週分の短期運用計画(STP)、1週分の実施運用計画(EOP)として段階的 に立案しました。運用体制を図 19 に、運用計画立案の状況を図 20 より図 22 に示します。 [帰還運用] : 帰還に向けての軌道調整から始まり、位相回帰軌道(PRO)への移行、SEM/REM 分離、軌道離脱運用を行い、小笠原東方沖の公海上に着水させました。そして軌道上に残され た SEM は 580km へ軌道上昇を実施しました。 [後期定常運用] : SEM に搭載した 5 種類の先進的バス機器実験を実施中です。実験計画 作成や実施については前期定常運用フェーズと同様です。 6.2 実験運用計画立案・変更の進め方 [実験運用計画立案体制] : USERS 宇宙機における、実験運用計画立案体制を図 23 に示し 15 ます。実験インターフェース(EI)は、実験担当とのインタフェースを持ち、全実験担当からの 実験要求を取りまとめる担当です。またシステムインターフェース(SI)は、宇宙機システムと のインタフェースを持ち、宇宙機システムの観点から実験要求をチェックする担当です。この EI と SI とが実験要求を元に実験運用計画の作成を行い、必要に応じて調整することにより、 実験側の要求を最大限実験運用計画に反映可能とします。FD は管理責任者としての立場より、 全ての実験運用計画の管理を行います。 [実験運用プロダクト] : 実験担当は、実験要求を明確にするために自実験の実施内容を実 験運用プロダクトとして定義します。EI は実験運用プロダクトを取りまとめ、SI とともに実験 内容の確認、宇宙機システムとの整合性確認を行います。実験運用プロダクトは、実験運用計 画を作成する上での源泉情報となります。 運用プロダクトの内容は次の通りです。 ・実験アクティビティ : 実験テーマ毎に作成され、実験の実施条件、バスシステムへのリ ソース要求、及びコマンドシーケンス等、実験運用計画立案に必要な全ての情報を含みます。 ・実験FO : 運用計画装置に登録されるコマンドシーケンス情報で、実験アクティビティ を元に作成します。 ・ユーザ提供コマンドファイル : コマンドデータベースに登録されていないコマンド、ま たはプログラムを送信することを目的として実験担当にて作成するコマンド情報です。 ・定常監視項目 : 各実験が宇宙機及び実験装置に対して安全性を保証するために、定常的 に監視する必要があるテレメトリとしての定義です。 [実験運用計画の立案方法] : USERS 宇宙機打ち上げ前に、実験担当より受領した実験運 用プロダクトを元に、実験の長期運用計画(LTP)を作成し、USERS 全運用期間を通じての実験 実施条件、バスシステムへのリソース要求等が満たされていることの確認を行います。USERS 宇宙機打ち上げ後には、中期運用計画(MTP)、短期運用計画(STP)、実施運用計画(EOP)の各段 階において運用計画をそれぞれ作成し、実験実施日時、詳細な実験実施条件、コマンドシーケ ンス等の実験要求が全て満たされていることの確認を行います。最終的に、実施運用計画(EOP) が実験運用として使用される運用プロダクトとなります。複数の計画段階を設けることにより、 実験担当は各計画段階に応じた実験運用計画の確認や、実験運用計画変更の要求を行うことが 可能となります。 実験運用計画の種類の定義は次の通りです。 長期運用計画(LTP) : USERS 宇宙機の打ち上げ前に、全運用期間について 1 日単位で作成する実験運用計画。 中期運用計画(MTP) : USERS 宇宙機の打ち上げ後に、LTPを元にして作成する 1 日単位の実験運用計画。 (8 週間毎に 16 週間分作成) 短期運用計画(STP) : MTP を元にして作成する可視単位の実験運用計画。 (4 週間毎に 4 週間分作成) 実施運用計画 : STP を元にして作成する可視単位の実験運用計画。 (1 週間毎に 1 週間分作成) [実験運用計画の変更方法] : 先に述べた立案方法により実験運用計画の立案を行いますが、 打ち上げ後の実験実施状況により実験計画変更の必要が生じる可能性があります。実験担当か らの実験計画変更要求については、EI が各計画段階の立案時に要求を取りまとめ、EI 及び SI にて変更内容の確認、宇宙機システムとの整合性確認を行います。各計画段階では実験変更の 範囲、対象となる変更内容が定められており、実験担当は各計画段階に合わせた実験変更要求 を提示します。これにより、各計画段階での柔軟な実験運用計画変更が可能となります。 16 [異常時の対処] : 実験実施中の異常については、宇宙機打ち上げ前よりそれぞれの異常ケ ースを想定し、予め対処手順を定義することにより対応を行います。異常の対処手順について は、実験運用プロダクトと同様に定義を行いますが、異常の内容により実験運用計画の変更が 必要な場合は、上に示した各計画段階での実験運用計画変更を実施します。異常時の対処につ いては次の通りです。 実験変更 実験中断・復帰 緊急処置 的な対処。 : 実験の成否に関わる問題が生じた時の実験運用計画変更。 : 実験装置の異常が生じた時の、実験中断等。予め定義が必要。 : 緊急性がある異常が生じた時の、計画外のコマンド送信等、一次処置 USEF 責任者 USEF 責任者 USERS 運用責任者 UD USERS 運用責任者 UD ペイロード運用WG 軌道上運用責任者 FD USERS 飛行運用ボード 軌道上運用責任者 FD 射場整備作業責任者 LD NASDA 軌道決定・局運用 NASDA 軌道決定・局運用 運用計画チーム 軌道上運用チーム 運用計画チーム 技術支援チーム 軌道上運用チーム 射場チーム 図 18 打上げ/帰還運用体制 図 19 定常運用体制 LTP (全ミッション期間) MTP 運用計画立案 作業日 ∼ ∼ 長期運用計画 (LTP ) 中期運用計画 (MTP ) 水 全期間:1 6週間 (8週間毎に立案) 木 運用計画立案 作業日 金 N週の計画立案作 業 (EOP) 土 日 月 火 水 木 運用計画立案 作業日 金 土 日 NASDAより 軌道決定値 PM12:30 月 火 水 NASDAより 軌道決定値 PM12:30 木 金 土 バックアップ可視の 保障分 実験者レビュー期間(N)週分 ドラフト版 EOP作成 (N)週分 短期運用計画 (STP ) 実行版 EOP作成 (N)週分 全期間:4週間 N+1週の計画立案作業 (EOP) 実施運用計画 (EOP ) (N)週のEOP実行範囲 EOP 承認会議 (N)週分 (N+1)週のEOP実行範囲 実験者レビュー期間(N+1)週分 ドラフト版 EOP作成 (N+1)週分 全期間:1週間 図 20 運用計画書の相互関係 1日 1日 可視群#1 可視群#2 実行版 EOP EOP作成 承認会議 (N+1)週分 (N+1)週分 図 21 運用計画立案タイミング 1日 可視群#3 FD:軌道上運用責 SI:実験運用計画担当(シス レコーダA Aに記録 再生 レコーダA Aに記録 再生 レコーダB Bに記録 可視時のみ、リアルタイムで 監視可能 再生 次の可視群でレコーダ再生 して受信 EI:実験運用計画担当(実験 実験担当 図 22 デイリー運用概要 図 23 実験運用調整体制 17 7. 帰還回収運用 [帰還運用] 高温超電導材料製造実験を完了後、4 月初めより帰還に向けての軌道調整を開始しました。 まず、着水計画エリアの上を通り、様々な誤差を考慮しても 3σの確率でその着水計画エリア 内に着水出来る一日周期の移相回帰軌道(PRO)にタイミングを見計らって移りました。一日周 期の PRO では、USERS 宇宙機は着水計画エリアを通過する同じアーストレース上を毎日通る こととなりますが、着水計画エリア上空の通過時刻は毎日約 30 分早まります。そして日の出 間近以降の着水で、かつ日没までに回収出来る時間帯が確保できる約 12 日間が帰還ウィンド ウとなりました。着水計画エリアに確実に着水するための RBM の点火場所については図 24 に 示す、アフリカのインド洋に東海岸上の宇宙空間での仮想の領域(コントロールボックス(CB)) で示される。軌道調整でこの CB を通る PRO に投入した後、この CB 内で RBM に点火するよ うに運用します。図 24 に CB と着水計画エリアの関係を示します。 帰還運用時には打上げ時と同様に NASDA(現 JAXA)の新 GN 所属の沖縄、増田、サンチァ ゴ、マスパロマス、パースの各局を使用するとともに、欧州宇宙機関(ESA)に所属するケニア のインド洋に面するマリンディ局の支援も得て行いました。計画では 5/26 早朝帰還であった が、台風の影響で 5 月 30 日の帰還となりました。まず着水の約 6 時間前に USERS 宇宙機の 軌道が着水計画エリアに着水出来る条件を満たしていることを確認の後、SEM の姿勢制御系に より、USERS 宇宙機全体を REM RBM 噴射姿勢にセットし、マリンディ局可視にて REM を SEM から正常に分離されました。分離をトリガーとして RBM の点火シーケンスを司る RS が スタートするため、帰還安全の観点から最も重要なイベントのひとつです。従って、SEM/REM 分離の MAL 局可視にては「分離許可」のリアルタイムコマンドにて実施し、万が一分離の条 件が満たされていなけれ「分離許可」コマンドは送付せず、翌日にやり直すことが出来るよう にしました。 SEM/REM 分離後は、SEM が退避する間の 1 周回、REM は MW により姿勢を保持し、そ の後、スピンアップ、RBM 点火、デスピンの一連のシーケンスにより再突入軌道へ投入されま す。大気再突入直前の REV/PM 分離までのコースティング中は、分離による REV の姿勢擾乱 を抑えるために低スピン制御が行われます。大気再突入時、REV は軌道離脱姿勢を保持してい るため、大迎角で再突入を開始するが、空力安定な REV は空力加熱が最大となる前に速度ベ クトル方向へ回頭運動を行う設計としました。低スピン制御のスピン数はこの回頭運動を妨げ ない範囲に設定されています。図 25 に SEM/REM 分離前後の状況を示します。 分離後 REM の姿勢は搭載しているモーメンタムホィールによって正常に維持され、SEM は REM からの退避マヌーバも正常に行われます。そして一周回後のマリンディ局可視にて RBM は正常に点火燃焼しました。REM は正常に再突入軌道を飛行したことは宇宙科学研究所(当時) の鹿児島宇宙空間観測所からの精測レーダによっても確認されています。大気圏再突入時の空 力加熱に耐えて減速した後、ドローグシュートとメインシュートの2つのパラシュートにより 緩降下し、太平洋上へ着水しました。着水後はフローテーションバッグにより浮遊し、自己位 置特定用の GPS ビーコン電波を発信し、着水予定の時間に航空機によりそのビーコン電波を 捕えることが出来、回収することに成功しました。図 26 に軌道離脱の状況、図 27 に大気圏再 突入、着水の状況を示します。図 28 に軌道離脱から着水までのトレースを示します。 USERS における帰還は無誘導方式であるため、目的とする着水場所への帰還を実現するに は正確な軌道決定、SEM による正確な REM の帰還姿勢の設定、擾乱の無い SEM と REM の 分離、信頼性の高いシーケンサによる時間制御が必要でありますが、すべて予定通りに達成す ることができました。表 1 に帰還回収時のタイムシーケンスの計画と実績を示します。また図 29 に分離を確認した SEM に搭載した TV カメラの画像を示します。 18 [探索回収作業] 探索回収運用の準備は、SEM/REM 分離計画日の 13 日前(2003 年 5 月 13 日)に、探索回 収運用センター(UROC)を設置することで開始されました。探索回収運用は、日本でチャー ターした航空機 1 機と船 2 隻で実施されました。図 30 は探索回収運用の通信網と体制を示し ます。東京の USERS 探索回収運用センター(UROC)の探索回収指揮者が航空機、船の作業リ ーダーを指揮して作業を進めました。各系との通信は、電話回線ベースで冗長構成をとってい ます。UROC の主な作業は、(1)船、航空機の出発タイミングの決定と指示、(2)軌道離脱 5 時 間前と 24 時間前の帰還運用の GO 判断、(3)船の待機ポイントの指示、です。このために、 (4)UROC では回収海域の風データを含む天候情報の入手と判断、(5)USOC からの軌道情報に 基づく着水点予測を実施しました。 航空機は GPS ビーコン受信器材を搭載し、探索の前進基地としたサイパンへ 5 月 27 日に向 かいました。船は、500 トンと 1000 トンクラスを使用し、GPS ビーコン受信器材を搭載して 5 月 19 日に出港、台風による荒天を小笠原諸島の父島で避けた後、5 月 30 日の回収を迎えました。 航空機は REV からの GPS ビーコンを良好に受信し、20:34(UT)には REV を発見しました。 発見から 3 時間ほどで船による REV 引揚げも完了しました。当日の天候は小雨、南南東の風 2[m/s]、波高 1.5[m]でした。運用のタイムテーブルを表 3 に示します。船は軌道離脱の 2 時 間前には待機位置へ移動を完了し、航空機は着水海域での待機時間を短くするために出発時間 を調整して SEM/REM 分離を確認した後、RBM 点火の約 1 時間前に離陸しました。航空機は GPS ビーコンを受信してわずか 15 分後には REV を発見し、シーマーカーを投下して現場海 域を離れました。今回、ARGOS データは直接運用に使用しなかったが、ARGOS データセン ターより 30 分遅れで電子メールにより配信され、簡易位置特定システムとしての有効性が確 認されました。 135km コントロール コントロール ボックス ボックス 150km 14km RBM点火 REV アフリカ ケニア東海岸上空約483km (中心点 0.35 ゜N、東経49゜E) 着水計画エリア 着水計画エリア 160km 760km 小笠原東方沖 図 24 コントロールボックスと着水計画エリア 図 26 軌道離脱 図 25 SEM/REM 分離 図 27 大気圏再突入・着水 19 図 28 着水場所 時刻(日本時間) 時刻(日本時間) 計画時刻 計画時刻 時35分 分 29日 日10時 分 16時 時40分 時00分 分 23時 時10分 分 30日 日 1時 分 2時 時45分 イベント イベント R EM 30日帰還実施判断 時25分頃 分頃 30日帰還実施判断 29日 日10時 分可視 分離・帰還コマンドアップロード 16時 分離・帰還コマンドアップロード 時34分可視 可視群前 帰還回収実施判断 時00分頃 分頃 可視群前 帰還回収実施判断 23時 SEM地球指向確認 時03分可視 分可視 SEM地球指向確認 30日 日1時 分可視 帰還姿勢移行確認 2時 帰還姿勢移行確認 時42分可視 REM内部電源切替確認 REM内部電源切替確認 REMホイールランナップ確認 REMホイールランナップ確認 分 3時 時47分 分頃 REM分離実施アナウンス 3時 REM分離実施アナウンス 時50分頃 分 4時 時05分 分可視 分離許可コマンド送信 分離許可コマンド送信 3時 時57分可視 分離 時06分頃 分頃 分離 4時 分 4時 時30分 分可視 SEM退避 SEM退避マヌーバ マヌーバ移行確認 移行確認 4時 時22分可視 分 5時 時45分 RBM点火 分可視 RBM点火 5時 時37分可視 航空機GPS受信 ∼ ∼7時頃 時頃 航空機GPS受信 分 6時 時22分 分 6時 時34分 航空機REV目視確認 航空機REV目視確認 時57分 分 8時 回収船REV目視確認 回収船REV目視確認 分 9時 時50分 表3 午前中(目標) REV回収完了 REV回収完了 午前中(目標) SEM/REM 分離から回収まで 図 29 REM 分離状況 Immarsat NOAA/ ARGOS Iridium GPS 警備 ARGOSセンター U US SE EF F H HQ Q USOC/UROC ESA/ESOC NASDA沖縄局/増田局 回収船 監視船 ISAS精測レーダ(内之浦) G ーⅡ サイパン マリンデイ 図 30 探索回収作業体制 20 図 31 航空機による目視発見 8. 図 32 REV 回収状況 おわりに 宇宙機システム、搭載ミッション機器の開発とインテグレーション、打上から軌道上運用、 さらには探索回収作業の実施という一連の作業を計画通り実施できたことから、我国独自の無 人の宇宙実験・回収インフラが完成しました。その特徴や成果をまとめると次の通りとなりま す。 ・実験運用における柔軟性のある宇宙実験システムの実現 宇宙実験を実施するにあたっては、予期せぬ問題や障害により実験条件を変更するなどの対策 が必要となる場合があります。実験運用を通じ、USERS はこの要求を満たすことのできる柔 軟性のあるシステムであることが検証されました。 ・長期にわたる良好な微小重力環境の達成 USERS 宇宙機システムは超電導材料製造実験開始以来、リアクションホイールと磁気トルカ のみによる姿勢維持によって 10μG 以下の微小重力環境を6ヶ月に亘り連続的に実現し、微小 重力環境を長期にわたり維持できる無人宇宙実験システムの特徴を実証しました。 ・軌道上からの帰還・回収技術の確立 長期間軌道上で実験を行った後に、軌道調整を行って実験成果を搭載したカプセルを計画した 地点に正確に帰還させる技術が実証できました。また、GPS などを利用した探索技術や海上回 収技術も実証できました。 USERS プロジェクトは 1996 年の計画開始から7年後に予定通り無人の宇宙実験を行った成 果を自律帰還させ、無事回収に成功してその目的を完全に達成することができました。わが国 の宇宙開発の分野では、これまでに確立してきた打ち上げ手段としてのロケット技術、軌道上 で各種の目的に使用される衛星技術に加え、新たに軌道上からの帰還技術を完成させたことに なります。この意義は極めて大きなものであり、この結果、今後の日本の宇宙環境利用の推進 に大いに資するものと考えます。 21 図 33 回収された SGHF と熱防御系 22