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産後うつ状態と関連する心理社会的要因の縦断的検討

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産後うつ状態と関連する心理社会的要因の縦断的検討
人間科学研究 Vol. 19, Supplement (2006)
修士論文要旨
産後うつ状態と関連する心理社会的要因の縦断的検討
Longitudinal Study of Psychosocial Factors Associated with Postnatal Depression
小暮 恵(HideharuSugimoto) 指導:野村 忍教授
妊娠中要因からの影響は有意ではなかった。さらに、妊娠中要
【問題と目的】
出産後は女性の生涯のうちで最も精神障害が発症しやすい時
因と出産後要因の間に関連が認められたため、影響関係を想定
期であり(吉田ら、 1999)、その中でも産後うつ病は10-20%と
いう高い発症頻度(Yamashita et al.、 2000 ; Yoshida et al、
し、パス解析によるモデルの検討を行なった(Figurel),そ
の結果、妊娠中EPDS、 「出産への準備」は「家事・育児の心配」、
1997 であるにもかかわらず、あまり知られていないのが現状
「心身疲労」、 「親としての自信」を経由して、産後EPDSへ影響
である。心理社会的側面からの研究は、産後うつ病の頻度やス
を与えていることが明らかとなった。
クリーニング、発症危険因子の同定から、発症に関与する妊産
婦の脆弱性や予防的介入、およびメンタルヘルスサービスの向
上の研究へと移っている(吉田、 2001 。しかしながら、有効性
の認められた介入方法はまだ存在しない(Dennis、 2005;Austin、 2003 ; 0grodniczuketal.、 2003)。そこで、本研究では、
産後うつ状態の予防的観点から、妊娠中から出産後にかけて縦
断的調査を行ない、介入可能な要因を検討することを目的とす
る。
【方 法】
調査対象:首都圏の産婦人科に通院している、妊娠後期の妊婦
*〆.05, ☆☆jtX.01, ☆ *p<.001
GFI=.995
AGF=949
111名を対象とした(平均年齢31.31±3.43歳)0
Figure l 産後うつ状態に関する RMSEA-.000
パスダイアグラム
調査時期: 2005年6月∼11月
手続き:調査は無記名にて、質問紙で行なった。入院説明会の
【考 察】
際、研究の主旨を十分に説明した上で、同意の得られた妊婦に、
産後うつ状態に関連する要因のうち、妊娠中に予防的介入可
通し番号のついた妊娠中・出産後の2種類の質問紙を配布した。
能性のある要因として、妊娠中のうつ状態、出産への準備不足
質問推:妊娠中(丑日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票;
や出産に対する不安が挙げられた。妊娠中のうつ状態そのもの
EPDS (岡野ら、 1996) ②State-Trait Anxiety Inventory-Form
JYZ ;新版STAI (肥田野ら、 2000)の状態不安③日本版Prenatal
が、適切なサポートやケアを受け損ね、胎児の健全な発達を妨
Self-Evaluation Questionnaire ; J-PSEQ (岡山ら、 2002 ④
に初産婦において出産への不安や恐怖心が強いことが明らかと
げる危険性もあるため、早期の介入が必要であろう。また、特
簡易化胎児愛着尺度(高橋ら、 1996) ⑤精神疾患簡易構造化面
なった。従って、産前教室や個別指導において、出産への準備
接法M.I.N.I.日本版(大坪ら、 2000)の大うつ病エピソードの
項目
や親になる心構え、出産に伴う生活変化等についての心理教育
が必要であると思われる。
出産後①日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票; EPDS (岡
また、産後うつ状態への介入には、出産後に行なうことがよ
野ら、 1996) (畜産裾期育児生活肯定感尺度改訂版(島田ら、 2003)
り有効である可能性が示唆された。出産後に介入可能な要因と
③産裾期女性の心配尺度Maternal Concerns Question-
して、心身疲労や家事・育児に対する心配、親としての自信の
naire ; MCQ (丸山、 1999) ④父親の育児サポートに関する母
なさが挙げられた。これらは、産後の女性一般に認められる症
親の認知尺度(中鳴ら、 2000)
状であるため、その背後に産後うつ状態があることが見逃され
【結 果】
てきた可能性がある。よって、それらの訴えの強い女性につい
産後うつ状態に影響を与える要因を明らかにするために、産
ては、特に注意を払う必要がある。
後EPDS得点と有意な関連の認められた要因を用い、階層的重
産後うつ病は、発症時期を前もって特定できることから、事
回帰分析を行なった。ステップ1では、妊娠中の要因である妊
前に予防的な対策を講じられる可能性は高い。周産期の女性は、
娠中EPDS得点と「出産への準備」を投入し、ステップ2では、
医療・保健機関との関わりが多いため、それらとつながりのあ
産後要因である「心身疲労」、 「家事・育児の心配」、 「親として
るうちに予防的介入を行なうことが重要である。今後、リスク
の自信」を投入したO その結果、 /?-.68 (7?-.47)という有意
ファクターと対応した介入プログラムの効果検討についての研
な重相関係数が認められたがIF[3,107] -30.014、 p<.00¥)、
究の蓄積が必要であろう。
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