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第3部 地域における「食育」
第3部 第4章 地域における「食育」 農業分野における「食育」 第4章 農業分野における「食育」 第1節 農業の現状と課題 表するとともに、生産から流通・消費にわたる道 産食品の安全・安心を確保することが重要なこと 1 北海道農業を取り巻く情勢 から、生産、製造・加工から流通、消費に至るま 北海道の農業・農村は、豊かな自然と広大な土 でのそれぞれの段階で、安全・安心を継続的に確 地資源を生かし、生産性の高い専業的な経営を主 保するための取組指針として、道は2 0 0 2年9月に 体に、我が国における食料の安定供給や国土・環 「道産食品安全・安心フードシステム推進方針」 境の保全などの面で重要な役割を果たすとともに、 を策定した。推進方針では、トレーサビリティシ 本道経済社会を支える地域の基幹産業として発展 ステムの構築を主要な対策の1つと位置付けてい してきた。 る。 全国の4分の1の耕地面積を生かし、稲作、畑 また、消費者の安全・安心な農畜産物を求める 作、酪農などの土地利用型農業を中心に、農業産 ニーズに応える生産サイドの取組として、道はク 出額は1兆4 5 7億円で全国の1割強を占め、国産 リーン農業や有機農業を推進するほか、より高い 供給熱量の約2割を供給している。本道の農家の 安全基準をクリアした食品を道が独自に認証する 1戸当たり経営耕地面積は、都府県の約1 4倍に当 制度を創設することとしている。 たる1 7. 2ha と、大規模で専業的な経営を展開し ている。 さらに、これまでの「食」や農のあり方を反省 し、 「食」の持つ意味や役割を問い直し、産地や 本道の農業・農村は、食料の安定供給といった 品質、生産方法などのこだわりや多様な地域の食 基本的な役割に加え、国土保全機能、アメニティ 文化を守り伝えようとする「スローフード」が注 機能、教育文化機能など多面的な機能を有してお 目を集めており、その考えに立って、北海道農業 り、道が1 9 9 7年度に行った調査によると、農業産 が今後も持続的に発展するための方策を検討しよ 出額を大きく上回る1兆2, 5 8 1億円の評価となっ うと、道は2 0 0 2年度に「スローフード&フェアト ている。近年、こうした機能を生かして、ファー レード研究会」を設置し、2 0 0 3年4月に「北海道 ムインやファームレストラン、直売などのグリー スローフード宣言」を公表した。 ンツーリズムの取組が活発になっている。 しかしながら、近年、農業の国際化の進展や国 内の産地間競争の激化などにより、農産物価格が 低下しているほか、農家戸数の減少や農業従事者 の高齢化、農村の過疎化の進行など、本道農業は 多くの問題に直面している。 これまで、農畜産物を大量生産し、どのように 消費されるのか分からないまま、大消費地へ大量 出荷してきたため、多様化する消費者ニーズに対 応できず、生産現場と消費現場に大きなかい離が 生じてしまったという問題もある。 さらに、2 0 0 1年に我が国で初めて確認された牛 海綿状脳症(BSE)の発生や、牛肉の産地偽装 表示など相次ぐ食品表示の問題などにより、消費 者の食品に対する信頼が大きく揺らいでいる。 このような中で、食品に対する信頼を回復する 北海道スローフード宣言 基本理念 1 次代を担う子どもたちをはじめ道民の健康的 な食生活を守る 2 質の良い安全な食材をつくる地域の農林水産 業を支える 3 活気にあふれ個性ある食文化を育む農山漁村 をつくる 取組指針 地産地消を進める 生産者と消費者の顔が見える関係を築く 食を楽しむライフスタイルをつくりあげる 環境との調和を基本に安全で品質に優れた 農産物を生産する 知恵と工夫を活かしたこだわりの加工品づ くりを進める 地域の特色ある食材を守り食文化を育む 自然が豊かな農山漁村でゆったりとした時 間を過ごす 子どもたちをはじめ道民の食育を進める ために、消費者の視点に立ち、情報をいち早く公 6 3 2 「スローフード」の視点で取り組む 「食育」 らし、地域の食文化を知る環境が整っており、食 農村の多面的機能を活用した教育活動に、農林 育」の場として最適である。子どもたちは、体験 べものの背景を知るという意味において、 「食 水産省、文部科学省とも着目し、促進しようとし により学ぶ方がより身に付くといわれているので、 ている。農村空間の中で五感を働かせ、育てる・ 稲刈りなどの農作業や豆腐づくりといった農産加 料理する・食べるという体験を通して、命のつな 工、わら細工などの伝統技術を体験することで、 がりを認識し、生きる力を育む教育を、学校が授 より高い教育効果が期待できる。 業に取り入れようとしており、一方で、農業者は 農業・農村での体験により得られる教育的な効 小・中学生などの農業体験を受け入れ、農業のこ 果として、次のようなものがあげられる。一つ一 とを知ってもらおうとする活動が増えている。こ つの項目について教育的効果が期待されるが、そ のような「食」や農を通して学ぶ活動を、一部の れぞれを関連づけて取り組むと、より大きな相乗 行政では「食農教育」という言葉で呼んでいる。 効果が期待できる。 北海道においては、 「北海道スローフ ー ド 宣 言」の取組指針の一つに「食育」が位置付けられ 食べものと生産現場のつながりを知る ていることから、道農政部は、2 0 0 3年度から「ス 現代は食品の大量生産、大量流通、大量消費が ローフード」の視点に立った「食育」の事業を推 進んで、遠隔地から運ばれたパック詰めやカット 進している。 された食品が多数を占めており、畑で育つ作物や 家畜を食品と結びつけて考える機会が少なくなっ 第2節 「食農教育」の可能性 ている。 そこで、生産現場に出かけて、生長している作 最近、新聞やテレビなどで「食育」が取り上げ 物や生きている動物の姿を見ることにより、これ られる機会が増え、消費者などの「食育」に対す らと食べもののつながりを知ることができ、作物 る関心が高まっており、小・中学校においても総 や家畜の命をいただいて生きていることを実感す 合的な学習の時間を活用した農業体験の取組が増 ることで、 「いただきます」の意味を理解するこ えてきている。 とができる。 ここでは、農業・農村において「食農教育」を また、農業者が時間をかけて様々な作業を経て 行う場合に得られる教育的効果にスポットを当て 収穫を迎えるということを知ると、農業生産の大 るとともに、農業からアプローチする「食育」の 変さを理解し、食べものを粗末に扱わない、無駄 様々な事例について紹介し、これらから導き出さ にしないという意識が芽生える。 れる農業・農村で取り組む「食育」の課題や可能 性を探ることとする。 地域の産業について理解を深めることができ る 1 農業・農村で得られる教育的効果 道内の多くの市町村は、農業が基幹産業である 農業は生命産業ともいわれ、自然の中で作物や が、農家子弟以外の子どもたちは、意外と農業の 家畜などを育てる産業であり、生産の場である農 ことを知らないものである。たとえば、春先の青 村は、そこに身を置くだけで心が安らぎ、感性が 青とした秋まき小麦の畑を見て芝生と思ってしま 豊かになる空間が広がっている。また、土に触れ、 う子どもや、牛は生まれたときから牛乳を出すも 作物に触れ、動物と関わることなどで、人間性が のと思っている子どもがいる。 回復し、癒される効果があるといわれている。 「百聞は一見に如かず」というように、農業体 また、農村には郷土料理などの文化が、都会よ 験学習により、実物を見たり触れたりし、農業者 りも根強く残っていて、地域のお年寄りなどはこ の話を聞くことで、地域の産業である農業の歴史 れらの伝承者や語り部となっている。 や特徴、自分たちの生活との関わりなどについて、 このように、農業・農村は、生産現場や田舎暮 6 4 正しい知識を得、理解を深めることができる。 そのことにより、地元産の農畜産物に愛着を持 ち、子どもの時から「地産地消」の行動が身に付 農作業の一部を体験 農畜産物加工の体験 くことが期待される。 がある。このうち、は種から収穫に至るまでの一 連の作業を体験するものが、農作業の大変さを知 生命の尊さや不思議さ、育てる喜びを知る るとともに、収穫に至った時には、最も達成感を 作物を育てる場合、種をまいて何日か経って芽 味わうことができる。一部の作業を体験する場合 が出た時は、自然の摂理に感動するものである。 でも、田んぼに全ての苗を植え終える、秋に全て 天候を見ながら、生長に合わせて水やりや草取り の稲を収穫するなど、これまでやったことがない などの作業をし、いよいよ収穫する時は、育てる 初めての作業に挑戦し、やり終える経験は達成感 喜びを感ずるものである。 につながる。また、加工体験も、苦労して作業す 多少形が悪くてもいとおしく思うし、不思議な る過程を経て製品が出来上がることで、達成感を ことに、学校農園などで育てた野菜は、たとえ嫌 感じることができる。 いな野菜でも、食べることができるという。家畜 に、えさをやったり、搾乳の時に動物の体に触れ 農業者などと関わる中で社交性が育まれる たり、出産に立ち会ったりすることなどで、生命 小・中学校の農業体験学習は、農家のほ場を借 の尊さや不思議さを感じることができる。これら りたり、農家が指導者として技術を教えることが は、日常の生活では、ましてやテレビゲームなど 多い。また、行政や農業試験場、町内会などの地 では体験できないことである。 域住民が様々な形で協力しているところもある。 天候不順などにより、生育が遅れたり、病気な 放課後や休みの日などに、生育状況が気になり、 どで家畜が死んだりする場面に立ち会うことは、 ほ場まで作物を見に行ったり、疑問なことを農業 自然は人間の思い通りにならないものであること 者に質問する子どももいる。交流を通して信頼関 や、他者中心の生き方を知る機会となる。 係が築かれ、仲良くなり、親には相談できないこ とを受入れ先の農業者に相談したり、将来にわ 農産物の旬のおいしさを知る たって交流が続くこともある。 子どもたちは、自分の身内や先生以外の大人と 現代は、栽培技術や輸送技術の進歩などにより、 イチゴやトマト、きゅうりなどが一年中出回って 会話をしたり、関わることで、社交性が身に付き、 おり、旬の時期が分かりにくくなっているが、旬 人に感謝する気持が芽生える。また、いろいろな 以外の時期のものは、味や香りが薄く、美味しく 技術を知っていて、農業機械などを操作する農業 感じられない。栽培に適した時期に生産する方が、 者に対しては、素直に尊敬の念を抱くようである。 農薬や化学肥料を余分に投入しなくてもよいので 安全・安心であるほか、栄養価も高く、何といっ ても味が良い。ましてや、完熟したものをもぎた てで食べる美味しさは格別である。 「食」に関する文化や郷土料理を知る 社会科の授業の一環として、農村の高齢者など が、昔の農村の様子などを子どもたちに話して聞 農業体験は、収穫したての作物を口にすること かせたり、わら細工などを教えることがある。子 で旬の時期を知り、本物の美味しさを覚える貴重 どもたちは、昔の地域の様子や暮らし、普段の食 な機会である。このような経験により、なぜ旬の 事、祭りのことなどを聞いたり、伝統技術に挑戦 ものがよいのかということや、買い物をする際に することにより、地域の歴史や生活、伝統文化や は、できるだけ地元の旬のものを選ぶということ 先人の知恵を知り、自分と地域とのつながりを実 を学ぶことが期待される。 感し、郷土について理解を深め、ふるさとを愛す る心が育つことが期待される。 達成感を味わう 小・中学校で行われている農業体験学習には、 農作業の全ての体験 2 「食農教育」の事例 上記のような農業・農村で得られる教育的な効 6 5 果を活かし、各地で「食農教育」の取組が行われ 証・登録しているもので、道内には4 3の認証牧場 ている。取り組む主体は、個人、グループ、地域、 がある。主に、幼稚園、小・中学校の酪農体験を ネットワークなど様々であり、取組の形態や内容 受け入れる活動を行っている。 最初、牛舎に入ったとき臭いと言っていた子ど も実に多種多様である。 次に、代表的な「食農教育」の事例のいくつか 話を聞き、搾乳体験をしたりアイスクリームやバ を紹介してみたい。 もたちは、牛の成長や、牛乳ができる過程などの 総合的な学習の時間を活用した農業体験・加 ター作りを行ううちに、匂いは全然気にならなく 工体験の受入れ なり、帰る時には表情が生き生きとしているそう 小・中学校で、総合的な学習の時間などを活用 し、農家のほ場などで田植えや稲刈り、野菜の収 である。認証牧場は、定期的に情報交換や資質向 上に努めている。 また、牧場を開放し、酪農の持つ豊かな自然環 穫、搾乳などを体験する学習は、道内各地で活発 境資源や生命資源を通して、都市生活者や子ども に行われている。 農業体験の受入れが可能な農家として、 「ふれ たちの健康的で心豊かな暮らしを応援する酪農家 あいファーム」がある。ふれあいファームは、道 がネットワークする「体験交流牧場」に、道内の が都市住民との交流活動に意欲的な農家として登 5 4農場が登録している。 録しているもので、2 0 0 4年では約8 0 0農場が登録 されている。収穫体験や搾乳体験、加工体験、施 写真3‐4‐2 北海道体験交流牧場ガイド 設見学などを行うことができる。総合的な学習の 時間を活用した小・中学校の体験学習を受け入れ ているところも多い。 図3‐4‐1 ふれあいファーム このほか、道内の農協青年部でも、小学校と連 写真3‐4‐1 牛舎での搾乳体験 携して、田植えや稲刈り、もちつき、果樹の管理 作業、子牛の世話、トラクターの試乗、そば打ち、 ジャム作りなどの指導や支援を行い、 「食農教 育」に協力しているところが数多くある。 休日等における農業体験の受入れ 「旭川市民農業大学」は、旭川市役所が事務局 となり、市民から希望者を募り、1年間の体験学 習を通じて旭川の農業や農村の実情を知ってもら うために、1 9 9 6年から開催している農業体験講座 である。受講料は年6, 0 0 0円である。受講者は米 と野菜の複合、果樹農業、畜産農業、酪農業の4 酪農教育ファームは、 中央酪農会議が、安全 コースの中から希望するコースを選び、月1∼2 性や衛生管理など一定の水準に達した酪農家を認 回、1農家が7∼8人のクラスを受け持ち、系統 6 6 的に農作業を行ってもらうほか、農家との交流会、 と泣き出す高校生もいたり、何年か後に、再び訪 冬期間は農産加工や講義などが行われ、最後には ねてくることもあるそうだ。 報告会、修了式が行われる。2 0 0 3年の受入農家は 空知支庁では、管内で修学旅行生の受入れや都 1 1戸、受講者は7 2名であり、過去7年間の受講者 市農村交流に取り組んでいる農業者グループなど は延べ4 7 0名に達している。受講者には、土に触 が広域的に連携し、情報交換や資質向上を行い、 れ、作物に触れながら「食」と農を楽しく学び、 より活発に活動を行っていくためにと、2 0 0 4年2 生産者と消費者の一体感が形成されると好評であ 月2 4日、農業者、関係機関などで構成される「そ る。 らち DE い∼ね」という組織を立ち上げた。 由仁町のふれあい体験農園みたむら(三田村雅 人代表)では、2 0 0 2年から「ふれあい農業小学 写真3‐4‐3 「そらち DE い∼ね」設立記念シンポジウム 校」を開講しており、2 0 0 3年は5月から1 0月まで の1 2回、親子など6 5名の野菜づくりなどの農業体 験を受け入れた。受講者は新聞などで募集し、札 幌市から近いこともあり、札幌市民の応募も多い。 受講者は、月1回、技術指導を受けながら農業体 験をし、取れたての農産物を使った料理を味わう などの活動を通じて、農作業だけではなく、農業 者との交流を楽しんでいるようである。 この2つの事例は、いわば農業版カルチャース クールといえる。費用が手頃であり、スケジュー ルが決まっていて参加しやすいので、今後、こう した講座に対する需要は増えると予想される。 大学カリキュラムと連携した「食農」体験の 受入れ 農家による修学旅行生の受入れ 修学旅行で観光地ではなく農家を訪れ、農作業 体験するところが増えている。 札幌市の北星学園大学は、2 0 0 2年度から文学部 心理・応用コミュニケーション学科を新設した。 1年次は総合講義で、1 2分野の専門的な知識や現 旭川市の古屋農園(古屋勝代表)は、2 0 0 1年か 場の取組を学び、2年次は4分類の中から、いず ら札幌市立八軒西小学校の6年生の修学旅行を受 れかのフィールド実習を選択することとなってい け入れている。子どもたちは、長靴持参で参加し、 る。2 0 0 3年度、2年次に産業・野外系を選択した ビニールハウスでピーマンやトマトなどを収穫し 学生の実習を、長沼町の JA ながぬま代表理事組 たり、伝統技術であるわら草履作りを体験してい 合長である駒谷信幸氏が受け入れた。1 8名の学生 る。観光地へ行くのとは違い、これまで経験した は、3月から9月までの延べ2 4日間にわたり、駒 ことのない新鮮な体験として、一生忘れられない 谷農場で、春の育苗管理から野菜の収穫までの農 思い出となっているようである。 作業と、元厩舎を宿泊施設に改造する建築作業を 道外からの中・高校生の修学旅行を受け入れて、 体験した。学生たちは、農作業やモノづくりの達 農作業やファームインを体験させる事例も増えて 成感は大きかったようであり、とれたての農産物 いる。深川市のふれあいファーム登録農家1 9戸が、 の美味しさに驚いたそうである。大学も、初期の 2 0 0 1年に修学旅行生などの農業体験の受入れ組織 目的を達成できたと評価している。 として「元気村・夢の農村塾」を立ち上げ、2 0 0 3 駒谷氏としても、経営データまで公表して農業 年には大阪教育大学附属池田高校と大阪此花学院 の現場を知ってもらうことで、将来の消費者との 高校の修学旅行生等2 8 0人を受け入れ、収穫作業 信頼関係につながったと手応えを感じている。 や農家での生活を体験をしてもらった。受入れ農 家とすっかり打ち解け、帰る時に、帰りたくない 6 7 学校、農家、地域、関係機関を巻き込んだ なった、料理に興味を持つようになったなどの効 「食農教育」 (第1章第2節参照) 果があったと報告されている。 札幌市立茨戸小学校は2 0 0 3年度、5年生の総合 的な学習の時間に、稲作体験に取り組み、この取 写真3‐4‐4 料理教室の風景 写真3‐4‐5 お料理の社会科 組に PTA、町内会、農家が協力したほか、民間 団体である「食農わくわくねっとわーく北海道」 と道農政推進連絡会議(北海道開発局、北海道統 計・情報事務所、北海道農政事務所、北海道農業 研究センター、農林水産省消費技術センター小樽 センター)が「わくわく学び隊茨戸プロジェク ト」を組織して支援した。 わくわく学び隊は、民間団体と行政関係機関の 連携による「食農教育」の支援にモデル的に取り 組むもので、田植え、稲の観察会、田んぼの生き 物調査、稲刈りとはさがけ、調理実習などの時に、 専門家として技術指導や説明を行った。小学校か らは、専門家の指導により効果的な学習ができた と好評であり、会ではこうした関係機関による支 援の取組が各地に広まることを期待している。 この取組は2 0 0 4年2月1 1日に「食と農のシンポ ジウム」として報告会が開催されたほか、1年間 の活動を紹介するビデオが作成された。 料理教室で学ぶ「食」と農 帯広市に住む元中学校の社会科教師の村田歩さ んと、元高校の家庭科教師のナホさん夫妻は、定 年退職後、地元の小学生を対象に、月1回土曜日 に、 「ぼくとわたしの楽しいクッキング教室」を 開いている。 ユニークなのは、料理の技術を教えるだけでな く、オリジナルのテキストを使い、料理の社会科 として、地域の農業のほか、世界の歴史や地理、 安全な食品の選び方、遺伝子組み換え、南北問題 に至るまで教えている点である。 農家による都市住民を対象とする料理教室 江別市の女性農業者などが、市民に地元江別の 農畜産物を味わい、本物のおいしさを知ってもら たとえば、お菓子作りで砂糖を使うときは、ま おうと、2 0 0 3年に「まるごと江別グルメ会」を立 ず生のビートを見せ、次にスライスしたものを食 ち上げた。会では、公募した市民2 4名を対象に、 べさせ、砂糖が何からどのように作られているか 毎月1回、会員の農場でとれた農産物を使った を五感を使って知ってもらうところから始めてい 「地産地消」の調理実習を行っている。メニュー る。 は地域に根ざした料理、旬の食材を活かした料理 教室は7年間で1, 2 0 0人以上の子どもが卒業し などで、1年間の講座の終了後にレシピ集を作成 ていて、毎年待機者が出るほどの人気がある。保 した。消費者にとっては、江別市は農業生産地で 護者からは、料理の大変さを理解し、親に感謝す あることを認識し、また、地域の「食」の豊かさ る気持ちが芽生えた、後片づけを手伝うように を実感するよい機会となった。 6 8 その後、レシピ集を見た関係機関からの提案を 受け、一般向けの試食交流会「江別料理ごよみ」 を築く、 「地産地消」を促進することが重要であ る。 を2 0 0 3年1 0月3 0日に開催した。約1 0 0名の市民、 そのためには、消費者又は将来の消費者に、地 関係者が地元の食材を使った2 7種類の料理を味わ 域農業のことを知ってもらい、愛着を持ってもら い、中にはオクラ・むかごご飯、ユリ根入り卵豆 うことが必要であり、農業者は自らの役割の一つ 腐 な ど の 珍 し い メ ニ ュ ー も 紹 介 さ れ、地 元 の として、積極的に「食育」に取り組むことが望ま 「食」の豊かさを知ることができたと好評であっ れる。 また、農業関係の機関・団体も、 「食育」の重 た。 要性を認識し、農業の役割の一つに位置付けて、 荒れた中学校を農と「食」で立て直し アメリカのバークレー市でオーガニック・レス トランを経営するアリス・ウォーターズ氏はアメ リカ国内ではカリスマ・シェフとして名高いが、 積極的に取り組むとともに、地域の活動を支援す ることが必要である。 活動の情報提供、交流が必要 市内の荒れたマーティン・ルーサー・キング中学 各地域でそれぞれの農業の特色や食文化などに 校を立て直すため、同校の校長とともに、1 9 9 4年 応じて、手法も内容も多様性を持った「食育」の から「食べられる学校農園」 (The Edible Schoo- 活動が行われている。相互に情報交換する機会が lyard)プロジェクトに取り組んだ。 ないため、実践者は他の地域の活動や異なる手法 このプロジェクトは、有機農業による学校農園 の活動については知らない場合が多い。 造りと、子どもたちが丹精して育てた作物を料理 このため、今後の活動を展開していく上での参 して、皆で語らいながら味わうキッチン・クラス 考となるよう、各地の取組の情報を流すことや、 ルームを、必修科目として学校教育の中に設ける 実践者が一堂に会しての事例発表、相互交流の機 というものである。地域の造園家や有機農家、教 会を設けることが必要である。 育者などの協力を得るとともに、支援者を募って 基金を設け、運用資金を活用して活動を行った。 コーディネートする機関が必要 農業の癒しの機能、みんなで食べる楽しさなど 農業体験を受け入れたい農業者と、体験学習を により、人間性が回復され、徐々に効果が出、こ したい先生がうまくつながっていないケースが多 のプロジェクトは成功を収め、中学校はよみが い。 帯広市は、農林課の独自事業として農業体験学 えった。今では全米の小・中学校で同様の取組が 増え、世界的にも注目されているそうである。 習を実施しており、学校と農業者のコーディネー トをするほか、報告書を各学校に配布して事業を 3 農業から取り組む「食育」の課題 PR しているが、他の市町村ではそうしたケース 上記で代表的な事例を紹介したように、熱心な は少ない。 「食農教育」に関心のある先生や、都 農業者や先生などにより、様々な「食育」の取組 市と農村の交流に意欲的な農家の個人的なつなが が行われ、各地ですばらしい効果を上げているが、 りで、実施に至るケースが多いのが現状である。 一方で課題もある。 市町村、農業関係機関、農業改良普及センター 次に、こうした課題について分析し、今後、農 などが、日頃から受入れ可能な農家の情報を集め 業から「食育」に取り組む場合の参考としたい。 ておき、学校から問い合わせがあった場合に紹介 するコーディネート機能を果たすことが必要であ 「食育」を農業の役割として位置付けること る。 が必要 北海道農業が生き残るためには、生産者は消費 者が求める安全な農畜産物を生産し、消費者はそ れを買うことにより生産者を支えるという好循環 体験は費用負担が必要なことを理解してもら う 農家は、農業のことを知ってもらいたいという 6 9 思いから、小・中学校の体験学習を受け入れてい ない。 るのであるが、営農時間を割いて対応しているこ 道内の実践者の参考とするため、今後、試験研 と、きちんと指導するには準備をして仕事として 究機関などにおいて、海外を含めた「食育」の優 対応するのが望ましいことから、労働の対価とし 良事例の分析、調査・研究を行い、結果を広く公 ての謝礼は必要である。また、収穫物を持ち帰る 表することが望まれる。 場合は、当然、その費用を負担してもらう必要が ある。 4 農業が取り組む「食育」の展望 農業体験学習は、農家のボランティアに頼るの 北海道の農業・農村には、 「食農教育」に活用 ではなく、費用負担を伴うものなので、どこが負 が可能な地域資源や文化、技術がまだまだ多数存 担するかや金額を予め決めておく必要がある。自 在する。そうしたものを活用し、食べ物が生産さ ら費用のことを言い出しにくいという農業者もい れる過程を知る、本物の味を知る、地域の食文化 るが、同様の取組の情報を集めるなどし、適当な を知る機会を、農業サイドと教育サイドなどが連 金額を検討することが望ましい。酪農教育ファー 携を深め、できるだけ数多く作ることが必要であ ムはそれぞれ農業体験の受入れの費用を明示して る。 いる。 現在、国会で検討されている「食育基本法」は、 また、バスなどで移動する場合は、借上げ料や 「食育」を、教育の基本となる知育、徳育、体育 傷害保険がかかる。市町村や農協の事業があれば の基礎となる重要なものととらえ、健康で文化的 それを活用し、助成が受けられない場合には、父 な国民の生活と豊かで活力ある社会を実現するた 母に理解を求めて負担してもらうことが必要とな め、国民運動として「食育」の推進に取り組んで る。 いくことをうたっている。法律が成立すれば、保 育園、小・中・高校、大学における農業体験学習、 受入れ農家の拡大が必要 農業者は、消費者ニーズを把握して売れるもの 週末などの農業体験、農村への修学旅行、大学カ リキュラムとの連携、インターンシップの受入れ、 を生産しなければならない時代となり、消費者の 農業の現場も学べる料理教室、さらには園芸療法 声を聞くため、消費者との交流に取り組む農業者 など各地の「食育」の取組に、一層弾みがつくと が増えてきている。こうした農業者はふれあい 思われる。 ファームや「食農教育」にも熱心に取り組んでい 「食農教育」は、体験するその場限りのもので るのであるが、地域によっては受入れ農家が少な はなく、その後も人と人の顔の見える交流が続い く、体験したいという学校側のニーズに対応でき たり、農産物の直接販売につながっていくことも ないところもあるので、今後、 「食農教育」の重 あるものである。 要性をもっと PR するなどして、農家の理解を求 め、受入れ農家を拡大することが必要である。 経済が行き詰まり、公共事業や国・道の補助金 にはもはや期待できず、農業を取り巻く情勢も明 また、新たな受入れ農家を増やすには、受入れ るい見通しがない中で、 「食農教育」を進めるこ に必要となる施設整備や体験内容、指導のポイン とにより、消費者が地域の農業を見つめ直し、地 ト、受入れの心得などをまとめたマニュアルの作 元の農畜産物を買い、地元の農業者を支えるとい 成が必要であるほか、育成のための研修会を開催 う「地産地消」の行動が拡大する可能性は大きい。 することも望まれる。 今後、 「食 農 教 育」を 農 村 の 新 た な コ ミ ュ ニ ティ・ビジネスととらえて、農村全体でシステム 「食育」に関する調査研究が必要 道内における農業体験の受入れやそれに伴う費 化して取り組むことが期待される。こうした活動 は行政主導ではなく、民間の自主的な活動に委ね、 用負担の実態、農業経営への寄与度、受入れ農家 必要な場合には、行政などが側面からサポートす にとってのメリットや子どもたちへの効果などに る体制が望ましい。 ついて、これまで十分な調査・研究が行われてい 7 0 そうした活動の輪が広がれば、地域のコミュニ ティ力が高まり、地域経済を下支えするとともに、 持続可能な地域社会形成の一助となり、農村地域 が活性化することが期待される。 7 1