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1.3MB - 京都精華大学

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1.3MB - 京都精華大学
京都精華大学紀要 第三十五号
−31−
京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶
── リニューアル前後における意識調査 ──
小 松 正 史
KOMATSU Masafumi
1.はじめに
筆者は2006(平成18)年度から,京都タワー株式会社(京都市下京区)と共同連携して,京
都タワー展望室5F(T5)の「音環境デザイン」事業を実践している。京都タワー展望室は,
開業以来43年振りに全面的なリニューアル工事が施され,2007(平成19)年3月下旬に完了し
た。その際,音環境にも配慮した改良工事,いわゆる音環境デザインが実践されることになっ
アンビエント・ミュージック
た。この経緯と過程は,
「 環 境 音 楽 と展望景観の相互作用に関する心理実験」 ,
「リニュー
アル前後における現場の音環境調査」2)の2稿で紹介した。
本稿では,本プロジェクトを総括する位置づけで,リニューアル前後において,来塔者や従
業員がどのように展望室内外の空間を意識していたかを明らかにするために,現場調査の結果
を報告する。
具体的には,① 来塔者に実施した印象評定結果の量的比較(音環境デザイン導入の効果測
定),② 来塔者に実施した自由回答形式のアンケート調査の質的まとめ,③ 従業員に実施した
アンケート調査の量的比較,④ 京都タワー事業部に実施したヒアリング調査のまとめ,の4
点を報告する。そして,約2年間に渡り行ってきた京都タワー展望室の音環境デザイン事業を
総括し,今後のあり方を模索してみたい。
2.京都タワー・リニューアルと,筆者の関わり
京都タワーは地上9F のビル屋上に立つ,高さ131m の円柱状建造物である。地上100m にあ
る展望室5F の総面積は約130㎡で,京都盆地が一望できる。工事前における展望室の音環境
の現状は,来塔者の足音や声,スピーカや遊具機械から流れる無秩序な電子音が発生してい
た2)。筆者は,京都タワー株式会社に対し,リニュール工事に伴う「音環境デザイン」の考え
方と導入プロセスを示し,研究者の立場から社会貢献活動を行う意思を伝え,2006(平成18)
−32− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
年8月から,このプロジェクトに関わった。そして,2007(平成19)年4月,リニューアル工
アンビエント・ミュージック
事が完了した。天井部分には LED 照明と,筆者が制作した 環 境 音 楽 の再生に対応した音
響設備が整えられた。床下にはカーペットが敷設され,足音の発生が抑えられる空間となった。
3.京都タワー展望室における音環境デザイン・プロセス
音環境デザインの指針は,「(音の付加・保全←→音の削減の)方向性」と「(生活の質に関わ
る)優先順位」をどのように設定するかによって決定され,感覚環境設計をトータル・コーディ
ネートする素質を備えた「音環境デザイナー」が,クライアントや施工業者と密接に関わりな
がら,工事後のメンテナンスまで踏まえ,音環境デザインが施される3)。京都タワー展望室では,
【マイナスの音環境デザイン(騒音源の削除:ゲーム機などの器具を撤去)】,【ハコの音環境デ
ザイン(建築材の選択によるひびきの制御:吸音性の高いカーペットを使用)】,【プラスの音
アンビエント・ミュージック
環境デザイン(演出音の付加:筆者が制作した 環 境 音 楽 の導入)】を実施した。
京都タワー展望室音環境デザイン・フローを,図─1に示す。音環境デザインのプロセスに
関しては,「企画・調査・計画段階(上位計画・調査・詳細計画)」,「設計・施工段階(設計施
工の検討・実施設計の決定・施工)
」,「管理段階(メンテナンス)」の3段階を経て,実現の目
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図─1 京都タワー展望室音環境デザイン・フロー
京都精華大学紀要 第三十五号
−33−
処が立つ。重要ポイントは「計画初期段階から,音環境デザインを全体計画に反映させる」,
「事
前の現場調査を綿密に行う」,「事後調査を含めたメンテナンス作業に配慮する」の3点である
と,筆者は考える。
今回の京都タワー展望室での音環境デザイン活動では,
「企画・調査・計画」の段階で,上
記の音環境デザインの配慮指針を,京都タワー側と施工業者を踏まえたミーティングで事前告
知をしたため,計画の初期段階で同意のもと,音環境デザインを推進することができた。同時
に,リニューアル前の展望室において,音環境調査と来塔者への意識調査を行った。「設計・
施工」の段階では,建築材や音響設備に関するアドバイスや提案を行い,施工時の専門的技術
を要する工程は,すべて施工業者に依頼した。「管理」の段階では,リニューアル前に行った
音環境調査と意識調査を同じ方法で再度行い,定期的に現場を訪問しながら,筆者制作の
アンビエント・ミュージック
環 境 音 楽 の音量設定や,新音源を導入するなどの活動を継続している。
4.リニューアル前後における来塔者意識の量的調査
4.1 概要
1)目的:リニューアル前後において,展望室から見た風景や,展望室内の音の印象がどのよ
うに変化したかを明らかにするために,展望室を訪問した来塔者を対象に,現場空間において
SD 法による印象評定を行った(音環境デザイン導入の効果測定)。
2)時期:調査は2回に分けて行った。リニューアル前は2006(平成18)年8月∼9月に,リ
ニューアル後は2007(平成19)年7月∼9月に,来塔者に質問票を配布・回収した。その際,
記入時間帯を昼(午前9時∼午後5時)と,夜(午後5時∼9時)に分けた。
3)手続き:SD 法に用いる表現語対は,京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト
⑴
1)
で使用したものから11対を選定した。評価条件には「展望室から見た風景の印象(視と
略する)」と「展望室内の音の印象(音と略する)」を設定し,同じ表現語対を使用した(時間
帯条件と評価条件を合わせると,8条件になる)
。そして,視聴覚の相互作用をみるための語
対「風景と音が合わない - 風景と音が合う」を併せ,5段階尺度による SD 法により評定させた。
評定依頼の方法は,タワー従業員が不特定の来塔者を呼び止め,評価作業の承諾を得たのち,
評価方法と予示情報を記した質問票を手渡した。その後,来塔者に展望室内を自由回遊しても
らい,印象評価を実施した。評価に要した時間は約5分間であった。
4)実験協力者:表─1に実験協力者の属性状況を示す。リニューアル前調査においては,地
域構成は関西,関東,中部の順であった。性別は,男性45.6%,女性54.4%であった。年代は,
−34− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
20代 と30代 が 併 せ て54.4 % を 占 め て い た。 リ
表─1 実験協力者の属性状況
ニューアル後調査においては,地域構成は関西,
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関東,中部の順であり,リニューアル前と同じ並
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びであった。性別は,男性29.7%,
女性70.3%であっ
た。年代は,20代と30代が併せて53.1%を占め,
これもリニューアル前とほぼ同数の割合であっ
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4.2 結果
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検定結果で,有意水準5%で有意,
「**」は,有意水準1%で有意であることを示している)
。
全体に共通した傾向としては,リニューアル前にみられた喧噪感が緩和され,快適さに関わる
評価がプラスの印象に変化している。特に音の印象評価が,風景に比べてプラスに変化してい
る。各条件を詳細に眺めると,
《昼・視(図─2)》は,「不快な - 快適な」の評価で高い有意
差が現れている。
《昼・音(図─3)》は,「不快な - 快適な」
「静かな - うるさい」
「オトナび
た - コドモびた」の評価で高い有意差が現れている。《夜・視(図─4)》は,「広い - せまい」
「静かな - うるさい」の評価で高い有意差が現れている。《夜・音(図─5)》は,「不快な - 快
適な」「広い - せまい」の評価で若干の有意差が現れている。特に,視覚要素を対象とした風
景の印象評定であっても,
《夜・視》においては,聴覚的な印象である「静かな - うるさい」
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図─2
図─3
図─4
図─5
昼・視の平均評定尺度値
昼・音の平均評定尺度値
夜・視の平均評定尺度値
夜・音の平均評定尺度値
京都精華大学紀要 第三十五号
の評定に大きな差が出ており,視聴覚の相
−35−
表─2 実験に用いた表現語と因子負荷量
互作用(共鳴現象)が現場で発生している。
風景の評価に音の影響が現れているものと
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評定条件間でどれだけの評定差があるかを
詳細にみるため,全来塔者の評定データを
繰り返しとみなして,評定尺度を変量とし
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語と因子負荷量を示している。第1因子の
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13.4%であった。第1因子は「不快な - 快適な」などの因子負荷量が高く“快適性因子”と解
釈した。第2因子は「静かな - うるさい」などの因子負荷量が高く“静けさ因子”と解釈した。
次に,8条件間の評定差を視覚的に概観するため,刺激ごとに算出した全来塔者の因子得点
を平均し,その値を2軸平面に布置した。図─6に因子得点布置図を示す。横軸は「快適性因
子」を,縦軸は「静けさ因子」を示してい
る。いずれの評価条件においても,リニュー
アル後で快適性が増している。リニューア
ル後の音の印象は,快適さを増しつつ,静
けさの印象も増加しており,今回施行され
た音環境デザイン事業の効果を示す結果が
みられた。また,風景に比べて音の評価
は,リニューアル前後で大きなプラスの差
を生みだしているものの,快適性の評価は
低く,改善の余地がみられる。リニューア
ル工事によって,風景の印象はゼロからプ
ラスに好転し,音の印象はマイナスからゼ
ロにリセットされたと解釈することもでき
図─6 因子得点布置図
る。
3)クラスター分析結果:刺激ごとに全被験者の評定データを平均した値を変量として,ユー
クリッド距離測定法によるクラスター分析(ウォード法)を行った。図─7にクラスター分析
−36− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
で得られたデンドログラム(樹状図)を示す。風景よりも音の評定結果で刺激がまとまってい
ることがわかる。このことは,風景よりも音領域の方で,明確な評定差が現れていることを示
す結果であり,音環境デザインを施したことによって,特定の統一感が提供できた可能性があ
ると解釈できる。
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図─7 クラスター分析で得られたデンドログラム(樹状図)
4)風景と音の調和度(風景と映像の「合う - 合わない」の評定)
:表─3に,調和度に対す
る平均値と標準偏差を示す。評定値が3で中位点となり,値が高いほど風景と音が調和してい
ることを意味している。リニューアル前では両時間帯ともに中位点より若干低い値となり,リ
ニューアル後では両時間帯ともに中位点よ
表─3 調和度に対する平均値と標準偏差
りも高い値となり,リニューアルによって,
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ことを示す結果となった。標準偏差(ばらつ
きの程度)は,リニューアル前よりも後の方
で低い値となっており,来塔者による調和の
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評定傾向が共通していることがわかった。
4.3 考察
リニューアルの結果,いずれの評価条件でも,リニューアル後で快適性が増している。特に
音の印象の変化が大きく,その度合いは,昼(午前9時∼午後5時)の時間帯において顕著で
あった。そして,昼の風景の評価がすべての条件の中で特段に悪かったが,空間の視覚要素(ゲー
ム機の撤去)の改良によって,室内外を含んだ空間全体の質の向上につながった。視覚的喧噪
感(視覚要素からうるささを感じる感覚)が減少し,視覚が及ぼす音の印象に影響したとも言
京都精華大学紀要 第三十五号
−37−
える。
今回の現場の意識調査で,音が及ぼす視覚への影響が確かめられたが,両者は双方が影響し
合う共鳴関係の状態であり,決して切り離せない役割を担っている。考察を概括すると,もと
もと評価の高い展望風景は,よい印象からさらにプラスに転化し,喧噪感の強かった室内環境
音のマイナス印象はゼロに立ち返り,場合によっては,好転評価される状況もみられたと言
える。
5.リニューアル後における来塔者意識の質的調査
5.1 調査方法と手順
京都タワー展望室を訪問した来塔者33人(男14人,女19人,年齢幅:19∼22歳)に,自由
回答形式の質的アンケート調査を実施した。調査票は,① 視覚環境についての自由記述,②
聴覚環境についての自由記述,である。調査手順は,2007(平成19)年9月30日と10月2日の
午後5∼6時(日没前後)である。夕暮れから夜にかけて風景や室内の印象が,どのように変
化するかを捉えるために,この時間帯を選んだ。まず来塔者に,展望室内を自由に散策させた
後,クリップボードに固定した調査票を渡し,意見を自由に回答させた。回答所要時間は約15
分であった。集計方法は,1文章ごとに内容を分類し,その内容を「肯定的」「否定的」「その
他」に分けた。視覚環境の自由記述まとめを表─4に,聴覚環境の自由記述まとめを表─5に
示す。網掛け濃部は肯定意見の上位件数,網掛け淡部は否定意見の上位件数である。指摘件数
は,視覚環境が94文章,聴覚環境が93文章と,ほぼ同数であった。
表─4 視覚環境の自由記述まとめ
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−38− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
5.2 視覚環境についての回答結果
分類件数で多く指摘されたものは,
「① 室内」
「② LED( 発光ダイオード)
」
「③ 展望風景」
「④
感覚印象」「⑤ TPO(時・場所・場合に適ったサービス提供)」の順であり,「① 室内」で肯定
と否定の意見が分かれていた。肯定的意見で最も多かったもの(網掛け濃部)は,
「③ 展望風景」
であり,京都盆地の街並みを俯瞰で眺めることの素晴らしさを指摘していた。これは,展望室
の最大の目的である「来塔者に展望景観を提供すること」に適った回答と言える。続いて「②
LED」が挙げられており,発色の美しさを幻想的で綺麗な印象と捉える回答が多かった。続く
「④ 感覚印象」については,来塔者が心情的に感動し,
「ムーディーな雰囲気に対しロマンティッ
クに浸る」といった,内面的な心理を満足させる感情が現れる意見がみられた。「⑤ TPO」に
関しては,時間帯・天候・季節によって,展望室から眺める光の変化を一期一会の面持ちで堪
能し,感動する意見が多数みられた。
否定的意見で最も多かったもの(網掛け淡部)は,「① 室内」であり,空間の狭さや窓枠が
邪魔といった,リニューアル工事以前から継続している建物構造の問題点を指摘していた。ま
た,LED や夜景を美しく見せるため室内を暗く演出していることに不快感をもっている人も
いた。続いて「③ 展望風景」が挙げられ,高所恐怖症などの個人嗜好が出されていた。
要約すれば,展望室内外を彩るさまざまな光の鮮やかさに惹かれつつも,室内の狭さや暗さ
に,多少の不快感を有する人がいることが読み取れる。
5.3 聴覚環境についての回答結果
分類件数で多く指摘されたものは,「① 調和」
「② 感覚印象」「③ 環境音楽」「④ TPO」「⑤
ピアノ」「⑥ 室内音」の順であった。肯定的意見で最も多かったもの(網掛け濃部)は,「①
表─5 聴覚環境の自由記述まとめ
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京都精華大学紀要 第三十五号
−39−
調和」であり,環境音楽と室内空間との調和感がよいとの意見が出されていた。空間全体に落
ち着きを感じ,視覚と聴覚が調和し,環境音楽が風景を自然に引き立たせているとの記述が多
かった。続いて「② 感覚印象」が挙げられており,日常とは違う世界や異空間に来たような
感覚をもち,ロマンティックな印象があるとの意見があった。続く「③ 環境音楽」については,
無視することもできる音楽で,絶妙なバランス感があり,静かでなめらかであることや,主張
しない音楽のはたらきを実感したとの指摘があった。「⑤ TPO」に関しては,朝昼晩や時間帯,
季節や天気によって音楽を提供することの大切さが述べられていた。「⑥ ピアノ」に関しては,
音がさわやかで気持ちよく,夜景にふさわしいとの意見があった。「⑦ 音量」に関しては,環
境音楽が邪魔にならず,ほどよい大きさで再生されているとの感想があった。
否定的意見で最も多かったもの(網掛け淡部)は,
「⑥ 室内音」であり,空調音(エアコン)
の音のうるささを指摘する人がいた。空調は大型の既存設備で抜本的改良が難しく,今回のリ
ニューアル工事では変更を見送られたものであるが,その影響が多少見られる結果となった。
また,展望室内は閉空間であることから,混雑期に発生する来塔者の声が気になるとの意見も
あった。「③ 環境音楽」に関しては,肯定的な意見が多数みられる中で,音楽はなくてもよい
という印象や,逆に音楽が頭の中に入ってきて落ち着きがなかったという,示唆深い回答もあっ
た。不特定多数の人々が行き来する公共空間に,環境音楽を導入することの是非が再考される
真摯な指摘である。「⑧ 音質」については,環境音楽に包まれる感覚がさらに必要であり,ハー
ド機器面において,均質でクリアな音の再生に努める必要性を述べた意見があった。
要約すれば,環境音楽と室内空間との調和感がよく,TPO に適った再生状況がありつつも,
閉空間で発生する人声や空調音の不快さが時折現れるとともに,環境音楽のあり方や,再生方
法を改良すべきとの見解が見受けられた。
5.4 考察
視覚環境と聴覚環境の相違点を挙げるとすれば,視覚環境は,展望室内外で目に見える具体
物に対して,即物的な印象や評価を回答する内容が多くみられた。具体例としては,鉄筋・
LED・ヘッドライトやテールライト・夕陽・望遠鏡・椅子などである。その一方で聴覚環境は,
調和感や感覚印象といった,間接的で不可視な雰囲気に対して指摘を行う内容が多くみられた
(視覚環境では,感覚印象が4番目,調和が7番目であるが,聴覚環境では,感覚印象が2番目,
調和が1番目に挙げられている)。具体例としては,落ち着く・調和する・雰囲気・マッチ・
自然・異空間などである。
聴覚環境は肉眼で見ることができず,手で触れることもできない曖昧な要素であるため,上
記のような記述があったものと思われる。とはいえ,聴覚環境は潜在的・間接的に視覚環境に
−40− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
影響を及ぼしており,音としてはわずかな違いであっても,場の高度な演出が必要とされる閉
空間の京都タワー展望室では,音の影響が大きいこともあって,決して無視できない要素であ
ることが,自由回答結果から読み取ることができた。
聴覚環境の回答結果を詳細にみると,全体的な音の印象以外にも,音環境デザインのあり方
に対し,参考となる回答があった。具体的には,環境音楽の楽曲的構成に関するものがあり,
白玉(間隔の長い全音符のこと)が多用され,控えめな音楽である一方,環境音楽とは言って
も楽曲である限り,メロディが使われているので,音楽を気にする人にとっては,無意識のう
ちに耳に入り込み,思考領域に侵入する可能性もある。そのため,導入には慎重で謙虚になる
必要があると思われる。また,環境音楽の再生環境を一考すべきであるとの意見もみられた。
局所的に設置されている天井スピーカから環境音楽を流すことの限界点を認識させられる指摘
である。
要約すれば,回答者の多くは,今回導入した環境音楽を,景色の美しさを引き立たせる自然
な音楽として評価している。音や音楽に強い意識をもつ人にとっては,印象が分かれる部分も
あり,商業空間や公共空間に,音(音楽)演出を採用することに対する,繊細な問題点が浮き
彫りになったように思われる。
6.リニューアル前後における従業員意識の量的調査
6.1 調査方法と手順
リニューアル前後で展望室の状況がどのように変化したかを知るために,現場の継続変化を
詳細に把握している従業員を対象に,量的アンケート調査を行った。調査時期は,2007(平成
19)年6月∼8月である。調査対象は,展望室を中心とした京都タワー施設内で,接客をおも
な業務内容とする従業員24人である。調査票は,「平日・昼間」「平日・夜間」「休日・昼間」「休
日・夜間」の4条件ごとに,①リニューアル前後の音環境の変化について「静かになった - う
るさくなった」の5段階評価とその理由,②リニューアル前後の風景の変化について「風景が
良くなった - 風景が悪くなった」の5段階評価とその理由,である。変化を感じる理由を指摘
させる方法は,あらかじめ設定した項目(「施設について」「お客さまについて」それぞれ6項
目ずつ)を複数回答させた。
京都精華大学紀要 第三十五号
−41−
6.2 調査結果
6.2.1 音環境の変化について
音環境の変化に関する印象まとめを図─8に示す。「非常に静かになった」「やや静かになっ
た」と回答した人の割合が,平日・昼間では79%,平日・夜間では88%であり,静かになった
という印象が多くを占めた。休日・昼間では42%,休日・夜間では67%であり,平日に比べる
と割合は少ないものの,リニューアル工事によって,多くの従業員が,展望室内が静かになっ
た印象をもつことがわかった。逆に,「ややうるさくなった」「非常にうるさくなった」と回答
した人の割合が,平日・昼間では13%,休日・昼間では33%であった。これは,変化を感じる
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理由にも挙げられているとおり,来塔者数の増加が一因と考えられる。
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図─8 音環境の変化に関する印象まとめ
6.2.2 風景の変化について
風景の変化に関する印象まとめを図─9に示す。風景の変化は,音環境に比べるとよりよい
印象をもつ人が多い。「非常に風景がよくなった」「やや風景がよくなった」と回答した人の割
合が,平日・昼間では75%,平日・夜間では92%であり,風景がよくなった印象がほとんどで
あった。休日・昼間では67%,休日・夜間では88%であった。逆に,「やや風景が悪くなった」
と回答した人の割合が,平日・昼間,休日・昼間ともに4%であった。夜間では皆無であった。
その回答者が「山を削り建物を建て風景が悪くなった」と自由記述に記していることから,展
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望室から見える風景の乱れが多少影響していると思われる。
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図─9 風景の変化に関する印象まとめ
−42− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
6.2.3 変化の理由について
変化を感じる理由まとめを表─6に示す。
表─6 変化を感じる理由まとめ
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1)施設について
「環境音楽が流れるようになったから」が74%,「ゲーム機等の電子音がなくなったから」が
72%であり,4条件ともに高い割合で指摘され,聴覚要素の濃い項目が挙がった。続いて「内
装を改良したから」が47%,「天井に照明(LED)を導入したから」が45%,「床がカーペット
に変わったから」が43%指摘され,視覚要素の濃い項目が挙がった。LED の指摘に関しては,
夜間が昼間に比べて約3倍の数となっていた。展望室内のカーペット導入は,聴覚要素にも大
きく影響を及ぼしており,「音が反響しなくなったから(20%)」の項目と深い関連があるもの
と思われる。
2)お客様(来塔者)について
「お客様の滞在時間が増えたから」が56%と最も多く,ゆったりくつろいで展望室に滞留し
ている様子が読み取れる。続いて「お客様の人数が増えたから」が47%となっており,「休日・
昼間」での指摘が高かった。同時間帯での音環境の印象が各時間帯の中で最も悪く,人数の多
さが喧騒感につながった可能性がある。
「お客様の声(会話)が増えたから」が23%指摘され
たものの,「休日・昼間」以外ではきわめて少なかった。
「お客様の声(会話)が減ったから」
は20%で,各時間帯を通して一定の指摘数があった。「客層が変わったから」は19%で,
「休日・
夜間」での指摘数が若干多かった。この結果は,来塔者の行動形態が今回のリニューアル工事
によって変化し,それに伴う客層の移り変わりがあったものと考えられる。
京都精華大学紀要 第三十五号
−43−
6.3 従業員アンケートの考察
多くの従業員は,リニューアル後の展望室内が静かになったとの印象をもつ反面,リニュー
アル後の来塔者数増加に伴い,来塔者の声や活動音が増え,特定の時間帯で喧噪感が多くなっ
た印象をもつことがわかった。音環境デザインを施すことによって“静けさ”が得られたこと
と,リニューアル効果の好影響によって来塔者が増加し,時折うるささ(場合によっては“に
ぎわい”とも表現され得る)が増えたことは,背反する現象である。
結果をみる限りでは,特に「平日・夜間」で静けさが,「平日・昼間」で喧噪感が現れており,
一種の「音環境の棲み分け状態」が形成されている。“にぎわい”も,集客施設の重要な魅力
であるため,むしろ,その音環境をどのように展望室空間内で演出させるかが,今後の課題に
なるものと思われる。今回の従業員アンケート調査によって,多くの時間帯で“静けさ”が大
幅に増加されたという事実が確かめられたので,時間帯によっては,展望室の空間的資質が変
わること(つまり,休日の昼間には,来塔者が増えてにぎわいが増すという予測)を事前に予
告するのも,一案と考えられる。また,すべての時間帯において,来塔者の滞在時間が増えた
との指摘が最も多く,来塔者が展望室内に滞留しようとする傾向,つまり,リニューアル工事
によって,何らかの魅力が展望室内に付加されたものと思われる。
7.京都タワー事業部に実施したヒアリング調査のまとめ
7.1 調査方法と手順
京都タワー展望室の音環境デザインを遂行するにあたり,現場で共同活動を行ってきた京都
タワー事業部にヒアリング調査を行った。聞き取りの目的は,今回行った音環境デザインの意
義と成果や,クライアント(施主)が感じた現場の状況を,総合的に検証することである。調
査時期は,リニューアル完了後の変化が一段落した2008(平成20)年2月2日(土曜日)に,
約5時間に渡り京都タワー事務所で行った。ヒアリング内容は現場で聞き取り内容を筆記し,
後日,項目別に分類した文章の形式でまとめた。内容の分類細目は,「京都タワーの理念」「リ
ニューアル・プロジェクト過程」「音環境デザイン」である。
7.2 調査結果
7.2.1 「京都タワーの理念」について
京都タワーは一民間企業が運営しているものの,公共的側面を多くもつ施設と考えている。
京都タワーは「中立的公共性」を保つことが大切であり,市民や観光客にとって,開かれた施
−44− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
設にしていきたい。市民や観光客に対し,京都を再発見する役割を担う施設でありたい。
7.2.2 「リニューアル・プロジェクト過程」について
1997(平成9)年頃から来塔者数が減少する中で,京都タワーの何らかの改良が必要と考え,
2006(平成18)年8月に社長(当時)を筆頭にしたリニューアル委員会が発足した。リニュー
アル事業は改良(改築)工事なので,タワーの基本構造を抜本的に変えることは難しかった。
そのときに,音環境デザインの提案を受け入れることになり,その時期は妥当であった。展望
室の音環境デザイン活動は商業目的ではなく,研究活動の実践の場としての取り組みであった
ので,時間をかけ,両者の信頼関係を保ちながら,着手することができた。個人的な商業施設
ではない京都タワーで,公共性の強い音環境デザインの取り組みが成功したことは,画期的と
感じている。
7.2.3 「音環境デザイン」について
リニューアル前は,風景をゆっくり見るような雰囲気は少なく,来塔者の満足感も低かった
が,リニューアル後は,環境音楽のおかげで「風景を見るための空間」になり,落ち着いて自
然に風景を味わうことができるようになった。
環境音楽は,耳障りでなく静かで,何気ない感覚があるのが素晴らしい。聞きやすく心地よ
さがあり,学術的な研究活動の一環として制作されたことも魅力である。しかし,環境音楽の
専門的・学術的な考え方は理解しづらいので,身近でわかりやすい提示方法が必要ではないか。
今後,音環境を含めた快適空間の質を高めることが課題である。
7.3 ヒアリング調査の考察
ヒアリングを概観すると,本プロジェクトはタワー側に好意的に受け入れられ,研究実践活
動の妥当性を尊重し,最大限に場の提供の計らいがあったことが再認識された。さらに,リ
ニューアル事業の方向性と実施時期が,筆者が提案・計画した音環境デザインの方向性と一致
したため,スムーズに実行できたと考えられる。 表─7に,京都タワー展望室の音環境デザイン活動年表を示す。これを見ると,京都タワー
(クライアント),施工会社(施工者),筆者(音環境デザイナー)の関係性と介入時期がシン
クロしている。とくに,3者間のミーティングを行った時期は重要である。工事内容が変更可
能な時期に,音環境デザインのエッセンスが三者間で共有されたことが,今回の音環境デザイ
ンの適切な効果が生みだされた原因であると,筆者は考える。
そして,音環境デザインの必須項目である現場調査を,リニューアル前後の2度に渡って実
京都精華大学紀要 第三十五号
施したことや,その際に,アン
ケート調査を現場で実施できた
ことが,音環境デザインの効果
測定の実現につながった。商業・
公共空間で実施される多くの音
環境デザインでは,導入前後に
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に変化するかを詳細に調べるこ
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トの意向などが障害であったと
思われる。その困難な状況をク
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の理解と協力によるものと考え
ている。
さらに,リニューアル後のメ
−45−
表─7 京都タワー展望室の音環境デザイン活動年表
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ンテナンス(維持管理)に関わる活動が,音環境デザインの質を高めるためには重要な作業で
ある。2007(平成19)年春のリニューアル後も,京都タワー事業部からの依頼に応える形で,
TPO に配慮した環境音楽の提供が続いている。その際には,音環境デザイナー(=筆者)が
アドバイスする形で,タワー従業員が,再生音量をはじめとした音環境全体のチェックと再調
整を行い,継続したメンテナンス活動を行っている。京都タワー事業部に行ったヒアリング調
査においても,維持管理が非常に大切であることが共通の認識である。時間の経過に伴い,機
材の放置や,音環境の維持が惰性化すると,音環境の質が変わる可能性もあるため,音環境デ
ザイナーが定期的・継続的に現場を視察し,その都度適切なアドバイスを行うことが必要と考
えている。
8.おわりに
本稿では,京都タワー展望室のリニューアル工事前後において,来塔者と従業員を対象とし
た意識調査を行い,SD 法とアンケートによる質的データと自由回答とヒアリングによる量的
データにまとめた。
「来塔者への SD 法による印象評定」は,リニューアル後の全評価条件において快適性が増し,
−46− 京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑶ ── リニューアル前後における意識調査 ──
音が及ぼす視覚への影響が確かめられた。音と視覚は双方が影響し合う共鳴的役割の存在であ
り,切り離せないことが確かめられた。
「来塔者への自由回答」は,環境音楽を,景色の美しさを引き立たせる自然な音楽として評
価しているものの,音楽に強い意識をもつ人にとっては,その印象が分かれる可能性もあり,
公共空間での環境音楽の導入には繊細な問題点があることがわかった。
「従業員への量的アンケート」は,リニューアル後の展望室内が静かになったとの印象をも
つ反面,リニューアル後の来塔者数増加に伴い,声や活動音が増え,特定の時間帯の喧噪感が
多くなったことがわかった。
「京都タワー事業部へのヒアリング」は,音環境デザインの方向性が,タワーの構想するリ
ニューアルの方針と一致したため,本プロジェクトがスムーズに実行できたことが確かめられ
た。さらにリニューアル事業の初期から,3者間(クライアント・施工者・音環境デザイナー)
の関係性が良好に保たれ,惜しげなく場の提供の計らいがあったことによって,より高い効果
が生まれたことが認識された。
リニューアル事業の効果を示す指標として,京都タワー来塔者数の年度別変遷を図─10に
示す。開業当初以降,60∼80万人を推移してきた来塔者数が,1991(平成3)年をピークに
減少を重ね,1997(平成9)年以来40万人を満たない状況が続いてきた。2006(平成18)年に
リニューアル工事が始まった頃から,来塔者数を取り戻し,2007(平成19)年度には前年比で
約2割程度の延びを見せている。この成果は,音環境デザインだけでなく,展望室内装・LED
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図─10 京都タワー来塔者数の年度別変遷
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京都精華大学紀要 第三十五号
−47−
導入・塔体舗装・エントランス(T1階)やエレベータ改装・スカイラウンジ「空」のグラン
ドオープン(T3階)の全面リニューアル事業をはじめ,展望室の望遠鏡の無料化,イメージ
キャラクターによる PR やイベント事業などの複合的な活動が集積されて生みだされたもので
ある。
音環境デザインは,個人差の大きい領域であり,可視化が難しい対象でもあるため,直接的
な効果や求心力がきわめて薄い領域である。音環境デザインは考え方が難しく,身近でわかり
やすい提示方法が必要という事業部の意見や,環境音楽曲を紹介するコーナーの必要性を問う
来塔者の声もあるように,来塔者の聴覚意識を楽しく興味深く開かせるための紹介方法の模索
が必要である。
音環境デザイン活動は,社会的認知度の低さが原因なのか,未だ満足した流れを出せるまで
には至っていない。しかし,京都タワーをはじめとした現場の中で,そうした考え方を浸透し
実現させ,現場の事例を増やすことがこの分野の進化(深化)や発展につながると考えている。
音環境デザインを含めた感覚環境デザインが,社会的に重要な潮流になることを願いつつ,
筆者が京都タワーで行った音環境デザイン事業の初期的成果報告を,本稿で一つの区切りとし
たい。
謝 辞
本研究と音環境デザイン実践活動を行うにあたり,京都タワー株式会社・事業部のみなさま,調査にご
協力戴いた来塔者のみなさま,京都精華大学生に感謝をいたします。
参考文献
1)小松正史「京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑴ ─環境音楽と展望景観の相互作用に
関する心理実験─」京都精華大学紀要33号,2007年,135-150頁。
2)小松正史「京都タワー展望室の音環境デザイン・プロジェクト⑵ ─リニューアル前後における音環境
調査─」京都精華大学紀要34号,2008年,91-103頁。
3)小松正史『サウンドスケープの技法 ─音風景とまちづくり─』昭和堂,2008年,25頁。
4)船場ひさお「東京タワー展望台の音環境変化に関する従業員へのアンケート調査」日本騒音制御工学
会2004年度秋季研究発表会講演論文集,2004年,73-76頁。
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