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CBN による生鋼材仕上げ加工に関する研究
生産技術科 総合制作実習 CBN による生鋼材仕上げ加工に関する研究 新井 和也 遠藤 郁 中根 顯太郎 1.はじめに CBN は,主に焼入れ材の加工に使われているが, 技能五輪などの競技会では,生鋼材の仕上げ加工に使 われており,非常に美しい仕上げ面が得られることが 知られている.また,CBN は非常に硬度が高いため, 耐摩耗性に優れると考えられるが,CBN による生鋼 材の加工データは非常に乏しい.そこで,実際の製造 工程の仕上げ加工にも使用することを念頭に置いた加 工データを採取する必要がある.工具摩耗が少なく, 美しい仕上げ面を得られれば,量産加工などにおいて 大きなメリットをもたらすと考えられる. 4.テーラーの工具寿命方程式 工具摩耗の程度は,すくい面にでるクレータの深さ と,逃げ面に発生する逃げ面摩耗幅の大きさで決めら れる.その判定基準は規格(JIS B 4011)で定められ ている.この基準に達するまでの総作業時間を寿命時 間とする.テーラーによる実験では切削速度 V と寿命 時間 T との間には次式(1)の関係があるとされ,こ れを寿命方程式と呼んでいる. VTn=C (1) ここでnおよびCは工具と被削材の関係で決まる定 数である. 上式(1)の両辺を対数にとり整理すると式(2)の ようになり,切削速度 V と寿命時間 T を対数座標上に とれば切削速度 V は勾配nの直線で表される(図 3 参 照).直線は,図 1 で示すように,右上に上がるほど 工具寿命が長いことを表している. 2.目的 今回は,生鋼材の仕上げ加工に CBN が使用できる かを,工具寿命により検討することを目的とする.そ の方法としては,CBN と一般的な生鋼材の仕上げ加 工に使用されるサーメットを用いて,生鋼材を半自動 旋盤により加工し,工具寿命を比較する. lnV=lnC-nlnT (2) 3.CBN とサーメットの比較 CBN は,ダイヤモンドに次ぐ硬さを持っており, 熱に対してダイヤモンドよりも安定している.また, 熱伝導率が高く切削熱の拡散がしやすい.一方,サー メットは,超硬と比較して耐熱性や耐摩耗性が高い. 鉄との親和性が低いため,構成刃先がなどを生じにく く,美しい加工面が得られる. CBN チップとサーメットチップの違いをまとめた ものを表 1 に示す. 表 1.CBN とサーメットの主な違い CBN サーメット 立方晶窒化 ホウ素 (CBN) TiC TiCN 3200~3400 500~3000 1.00 2.0 被削材 焼入れ鋼 高硬度材料 鋼 価格 約 7,000 円/1c 約 300 円/1c 主成分 硬度 (HV) 抗折力 (GPa) 図 1.寿命曲線の例 5.実験方法 まず,サーメットチップを用いて,鋼を仕上げ加工 するときの一般的な切削条件を選定し,切削速度のみ を変化させて,切削時間と工具摩耗の関係を調べた. つぎに,工具材種を CBN チップに変更し,同様の切 削条件で加工し,その結果を比較することにした.表 2 にその切削条件を示す.テーラーの工具寿命方程式 において,工具寿命は,切削速度と強く関係し,送り 速度や切り込み量とは,あまり関係がないことから, 今回は,切削速度のみを変化させて実験を行なった. 3 表 2.実験機材および切削条件 今回の実験では,初期摩耗と呼ばれる切削開始直後 の著しい摩耗は見られなかった.図 2,図 3 により切 削速度 250m/min の場合,CBN,サーメットともに 同じようなデータが得られた.しかし,切削速度 150m/min においては CBN チップのほうが長寿命で あった. これらのデータをもとに VT 線図の作成に臨んだが, 完成には至らなかった.これは,今回収集したデータ だけでは実験回数が少なかったことに起因すると考え られる. 瀧澤鉄工所 TAC-510 使用機械 CBN:京セラ SCLCR2525M-09 バイトホルダー サーメット:タンガロイ ETGNR2525M33W CBN:京セラ CCMW09T302T08815ME-TBV01195 KBN510 チップ サーメット:タンガロイ TNGG160402-01 NS530 被削材 S45C φ100×250 回転センター 使用 切削速度 切 削 条 件 7.仕上げ面について 現在,生鋼材仕上げ加工にサーメットチップは,大 変多く用いられているが,その理由の一つとして,美 しい仕上げ面が得られることがあげられる.今回, CBN チップを使用して生鋼材を加工したところ,サ ーメットチップで加工した面と比較しても遜色のない 美しい仕上げ面が,安定して得られた.CBN チップ とサーメットチップを用いた仕上げ面の比較を図 4 に 示す. 100~250m/min 50m/min 毎 送り速度 0.05mm/rev 切り込み量 0.1mm 6.実験結果 切り込み量を 0.1mm とした結果,逃げ面摩耗幅を 工具顕微鏡等での計測が困難となってしまった.そこ で,加工するときの狙い寸法と,実寸法との差を工具 摩耗量とした.実寸法の測定には,マイクロメータを 使用した. ここで,サーメットチップで加工した場合の切削時 間と工具摩耗量の関係を図 2 に,CBN チップで加工 したものを図 3 に示す. 工具摩耗量(mm) 0.25 切削速度 図 4.CBN チップ(左)とサーメットチップ(右)の比較 100 150 200 250 0.2 0.15 8.おわりに 今回,CBN による生鋼材仕上げ加工に関する研究 を行なって,半自動旋盤をはじめとした今までに経験 のない機器を使用したことで,その取り扱いに大変苦 労した.しかし,使いこなすために努力したことで新 しい知識や技術を身につけることができたと思う.ま た,CBN による生鋼材加工に関する研究は,先行事 例が少なく,すべてが手さぐりとなってしまった. 今後は,さらに加工実験を繰り返し,たくさんのデ ータを採取することで,新たな知見が見出すことがで きると考えられる. 0.1 0.05 0 0 50 100 切削時間(min) 150 図 2.サーメットチップの摩耗の推移 工具摩耗量(mm) 0.25 切削速度 (m/min) 0.2 100 150 200 250 0.15 0.1 参考文献 ・ 鳥居 彦之(1965)『切削工具(わかり易い機械講座)』 ・ 加工技術データベース‐寿命方程式 (http://www.monozukuri.org/mono/db-dmrc/cutt ing/basic/tool_life/life_eq.htm) ・ Wikipedia-立方晶窒化ホウ素 (http://ja.wikipedia.org/wiki/立方晶窒化ホウ素) 0.05 0 0 50 100 切削時間(min) 150 図 3.CBN チップの摩耗の推移 4