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活性型ビタミン D3 のヒト筋管における骨格筋萎縮因子への作用

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活性型ビタミン D3 のヒト筋管における骨格筋萎縮因子への作用
Title
Author(s)
活性型ビタミンD3のヒト筋管における骨格筋萎縮因子へ
の作用メカニズムに関する研究 [論文内容及び審査の要
旨]
早川, 直彦
Citation
Issue Date
2015-03-25
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/58664
Right
Type
theses (doctoral - abstract and summary of review)
Additional
Information
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above URL.
File
Information
Naohiko_Hayakawa_review.pdf (審査の要旨)
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
博士の専攻分野の名称
審査担当者
博士(医 学)
氏 名 早川 直彦
主査 准教授 北 村 秀 光
副査 教 授 近 藤
亨
副査 准教授 森 松 組 子
学 位 論 文 題 名
活性型ビタミン D3 のヒト筋管における骨格筋萎縮因子への作用メカニズムに関する研究
(Studies on effect of 1 ,25(OH)2-vitamin D3 to skeletal muscle atrophic factors
in human myotubes)
本研究では、活性型ビタミン D3(1 ,25(OH)2D3)のヒト骨格筋への作用メカニズム解明
を目的とし、培養ヒト筋管を用いて骨格筋萎縮因子である MAFbx および MuRF1、筋肥大因
子 IGF-1 および炎症性サイトカイン産生誘導への作用を検討した。正常ヒト骨格筋細胞か
ら分化させた筋管について 1 ,25(OH)2D3 を添加した後、各標的遺伝子の解析を行った結果、
MAFbx と MuRF1 遺伝子の発現が減少し、骨格筋の成熟と肥大に関係する IGF-1 遺伝子の発
現には変化はないことが明らかとなった。また 1 ,25(OH)2D3 添加により炎症性サイトカ
イン IL-6 の発現が増加し、TNF- の発現は減少することが示された。ヒト骨格筋を用いた
Microarray 解析結果から PI3K/AKT シグナルのパスウェイ解析を実施し、ビタミン D3 の標
的制御因子の探索を行った結果、1 ,25(OH)2D3 添加後、BCL-2 がアップレギュレーション
し、PP2A、JIP1、14-3-3 および β-CATENIN がダウンレギュレーションされ、1 ,25(OH)2D3
は骨格筋において、アポトーシス、インシュリン反応性、形成・分化の調節に関与する可
能性が示された。
学位論文発表後、副査の森松組子准教授から活性化ビタミン D3 が PI3K/AKT シグナル経
路を制御する作用メカニズムについて、げっ歯類を使用した動物モデルでビタミン D3 の骨
格筋に対する作用が評価できない理由についての質問があった。これらの質問に対して、
申請者は活性化ビタミン D3 の骨格筋における作用について non-genomic なレギュレーショ
ンが重要で、特にリン酸化の制御に関与する可能性が高いこと、げっ歯類とヒトとでは、
ビタミン D3 受容体の発現には差がなく、その代謝経路における差異が作用の差に関係して
いる可能性が考えられると回答した。
副査の近藤亨教授から、トリチウム標識したビタミン D3 を用いた実験において、骨格筋
において特異的な分布が認められないこと、骨格筋の前駆細胞、リンパ節における分布に
ついて、本研究において遺伝子発現レベルでの解析の意義、骨格筋からの炎症性サイトカ
インのタンパク産生レベル、ビタミン D3 が他の細胞に作用する可能性、PI3K/ATK シグナル
経路以外のパスウェイ解析について、またビタミン D3 のがん治療薬としての可能性につい
て質問があった。これらの質問に対して、ビタミン D3 の骨格筋の核内における明確な集積
は認められなかったが、細胞質における分布とその機能制御の可能性が考えられること、
骨格筋の分化誘導段階での作用やリンパ節等他器官からの作用も考えられること、遺伝子
発現レベルでの解析は標的遺伝子の発現変化も小さいことから、タンパクレベルでの確認
が必要であること、骨格筋からの IL-6 産生はタンパクレベルでも確認されたこと、また他
の細胞からのパラクライン機構の可能性も否定できないこと、シグナル解析ではビタミン
D3 の代謝に関連する CYP24 の著しい変動が認められたこと、ビタミン製剤はカルシウム上
昇が問題となり、がん治療薬としてはその使用が限局されることが考えられると回答した。
主査の北村秀光准教授から、骨格筋における IL-6 の作用効果について、また生体内での
IL-6 の産生細胞・組織について、骨粗鬆症患者の治療標的として IL-6 シグナル経路の可
能性について、生体モデルを使用たビタミン D3 の評価に関する方法・可能性についての質
問があった。それらに対して、申請者は IL-6 は筋形成と筋萎縮の双方の制御バランスによ
り、生体内では骨格筋の維持・調節がなされていること、加齢の過程では脂肪細胞が IL-6
の主な産生細胞であると考えられること、IL-6 シグナルの制御による筋形成の促進に繋が
る可能性も考えられること、また今後、動物モデルにおいて、フットプリント法やロータ
ーロットテストなど他の評価を行なうことで、ビタミン D3 の作用を検証することも可能で
あると回答した。
最後に、聴講者から、マウスの坐骨神経を損傷する挫滅モデルの結果は廃用性萎縮が原
因であるか、分化誘導した筋管の形態にビタミン D3 投与後変化が認められたか、ビタミン
D3 が全身に分布するかの質問があった。これに対して、廃用性萎縮の可能性も否定できな
いこと、形態の顕著な変化は認められないこと、全身に分布する可能性はあるが、特に骨、
皮膚、甲状腺への集積が認められるとの回答を行った。
この論文は、培養ヒト筋管を用いたビタミン D3 の新規評価系が構築されたことだけでは
なく、活性型ビタミン D3 が骨格筋の機能調節において MAFbx、MuRF1 の発現制御を介して
筋委縮を抑制することを示した点で高く評価され、今後、ビタミン D3 製剤を使用する際に、
骨粗鬆症患者の転倒防止を含む骨格筋への作用メカニズムの解明に寄与することが期待さ
れる。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、これまでの研究活動における研鑽なども併
せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。
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