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OECD加盟国のリスト
日本国際経済学会第 68 回全国大会報告論文
市場的手段の効果と環境物品交渉に関する一考察
―環境物品交渉の構図を中心に―
日野道啓(九州大学炭素資源国際教育研究センター)
[email protected]
Ⅰ.
はじめに
本研究の目的は、ドーハ開発アジェンダ(DDA)から WTO において交渉が開始された
環境物品(Environmental Goods)の自由化をめぐって難航する交渉の把握を可能にし、
かつ市場的手段の環境効果を左右すると考えられる交渉の構図を明らかにすることである。
WTO の限界が叫ばれて久しい。事実、その脆弱な基盤にも関わらず、戦後の貿易自由化
を牽引した GATT 体制とは対照的に、WTO は、国際機関としての強固な基盤をもつにも関
わらず確たる成果を挙げるに至っていない1。その最たる現象が、長引く DDA である。そ
の結果、世界的に、FTA への傾斜が生じている。ただし、WTO の果たすべき役割がすべて
否定されたわけではない。むしろ、近年では、WTO への期待が高まっている。その理由の
第 1 は、世界大での保護主義的な措置の抑制および防止である。昨年発生したサブプライ
ム問題による実物経済への影響が顕在化するに連れて、各国は保護主義な貿易措置を多く
設けており、その抑制および防止が世界大での課題となっている。第 2 に、気候変動問題
への貢献である。たとえば、2007 年 12 月 25 日に開かれた、気候変動枠組条約第 13 回締
約国会議のサブイベントとして気候変動問題に関する貿易大臣非公式対話では、気候変動
問題への対処および持続可能な発展への貢献という観点から、WTO の果たすべき役割が改
めて認識された2。また、WTO 自身も WTO[2009]を出版し、貿易と気候変動問題の関係
および WTO の役割を整理している。本研究が注目するのは、後者の WTO に期待される役
割である。そして、気候変動問題への貢献に、密接に関連する交渉課題が、環境物品の自
由化交渉である。
さて、環境物品とは、そもそも何であろうか。WTO 内に、その定義は存在しない。後述
するが、それが交渉を停滞させる一つの原因となっている。直感的に説明すると、排水管
理に有益な水の濾過機やクリーン技術が体化された一般製品よりも節水型の食器洗浄器な
どをさす。本研究では、環境物品を以下のように定義する。
「類似の用途をもつ物品に比べ
て、相対的に優れる環境技術が体化されている、または環境問題への取り組みに必要な物
1
品」 3 である。なお、環境物品は、環境サービスとともに「環境物品およびサービス
(Environmental Goods and Services: EG&S)」として、DDA の「貿易と環境」の 1 テー
マとして実質的に交渉が開始された項目である。環境サービスは、ウグルアイランドにお
いて、サービス品目表(MTN. GNS/W/120)が作成させており、1998 年末の時点で約 50
の加盟国がコミットメントを行っている。ただし、分類表の改訂の必要性が提議されなが
らも、ウルグアイラウンド以降、環境物品と異なり、交渉は停滞気味である4。
ところで、環境物品交渉には、三つ巴の対立が存在する5。つまり、米国を中心にした環
境物品の自由化を主目的とした「自由貿易派」
、EC(EU)6 を中心にした環境取組みを主
目的とした「環境派」、インド・ブラジルを中心にした自由貿易および環境取組みに非積極
的であり、特別かつ異なる待遇(special and differential treatment:S&D)を主 目
的とした「管理派」の対立がある。しかし、近年、上述の通り、気候変動問題へ貢
献という外部からの規範の浸透により、各国の主張に変化が見られる。その結果、
交渉の争点が変わりつつあり、一見すると対立は影を薄め、それぞれの主張の歩 み
寄りが確認される。しかし、重要な争点は解決しておらず、妥協の仕方によっては 、
環境物品の自由化に内在する環境効果に多大な影響を及ぼすと考えられる。した が
って、自由化に内在する環境効果を検討するためにも、移り変わる争点の鳥瞰的 な
把握を可能にする対立の構図の検討は必要となる。
本研究は、次のような構成となっている。第Ⅱ節では、市場的手段である環境物品の自
由貿易に、期待される環境効果を検討する。第Ⅲ節では、環境物品の自由化交渉の進展を
確認し、交渉の現状を明らかにする。第Ⅳ節では、交渉の現状の把握を可能にする、交渉
の構図を明確化する。第Ⅴ節では、第Ⅳ節の検討結果から導出される市場的手段の効果に
ついての一定の政策的示唆を確認する。そして、第Ⅵ節では、本研究の結論および今後の
課題を述べ、むすびとする。
Ⅱ.
市場的手段の効果―普遍的環境問題への対処―
(1)新しい環境問題の性質
現在、地球規模の環境問題に、国際的な関心が向けられている。その端的な例は、地球
温暖化問題である。地球温暖化問題は、従来の環境問題にみられない性質をもつ7。その性
質を明らかにするために、同じく地球規模の環境問題であるオゾン層の破壊問題との対比
を行いたい。その際、環境問題の原因行為となる、特定の普及性をもった経済活動である
「被害原因」に注目する。これは、われわれ人間社会にとって何らかの意味で有害性をも
2
表 1 被害原因の種類とその性質
被害原因の種類
経済活動の形態
具体例
特殊行為
企業の特殊な生産活動
工場からの排気ガス・排水など
特定行為
企業の生産活動・消費者の消費活動
フロンガスの生産・使用など
普遍行為
企業および消費者のライフスタイル
化石燃料の使用など
出所)筆者作成
つあらゆる経済活動をとらえるものであることを留意されたい。したがって、本研究では、
環境問題を市場外の例外的な問題として扱うのではなく、経済活動の恒常的な結果として
とらえる8。
それぞれの環境問題に応じて、さまざまな被害原因が存在する9。被害原因は多様である
が、その経済活動の種類によって、次の 3 種類に類型化することができる(表 1 を参照)。
第 1 に、四大公害病にみられるように、企業による生産活動にもとづくものである。この
ような被害原因を「特殊行為」と呼ぶことにする。第 2 に、オゾン層の破壊問題にみられ
るように、企業の生産活動のみに限定されず、消費者の消費活動にもとづくものである。
このような被害原因を「特定行為」と呼ぶことにする。第 3 に、地球温暖化問題にみられ
るように、企業および消費者の生産活動および消費活動に限定されない、企業および消費
者の行為そのものが被害原因となっている問題である。換言すると、生産・消費活動とい
う特定行為の結果のみに焦点をあてるのではなく、企業および消費者という主体の行動様
式全般、つまり、ライフスタイルそのものを問題にしなければいけない問題である10。この
ような人類の普遍的な経済活動に由来する、被害原因を「普遍行為」と呼ぶことにする。
さて、上述の通り、地球温暖化問題およびオゾン層の破壊問題は、被害原因を行う経済
主体が特定の区域に存在するのではなく、地球規模に達している。このような被害原因が
存在する空間を「被害原因」と呼ぶことにする。普遍行為は、その活動の普遍性のため、
空間的拡散性が非常に高い。また、特定行為においても、その空間的拡散性はある程度高
いといえる。日野[2009]は、被害原因が普遍行為で、かつ被害空間が地球規模に達して
いる性質をもつ環境問題を「普遍的環境問題」と呼び、また被害原因が地球規模に達して
いる性質をもつ環境問題を「地球環境問題」と呼んだ。
さて、特定行為と普遍行為を比較すると、被害原因の実施主体となる経済主体または活
動内容の対象が異なることがわかる。その結果、地球規模の環境問題である、両問題の被
害空間に、わずかな相違が生じている。表 2 は、主要国におけるフロン類の代表的な一種
であるクロロフルオーガン(chlorofluorocarbon:CFC)の排出量を示している。両表から
3
表 2 主要国の CFCs の生産量および消費量(オゾン層破壊係数トン)
1986
生産量
1990
消費量
生産量
1995
2000
消費量
生産量
消費量
生産量
消費量
日本
119997.8
118134
109311.4
97723.2
29757.4
23063.8
0
-24.2
米国
311021.2
305963
199696.6
198308.2
34727.6
35529.6
461.1
2613
イギリス
102014.4
n.a.
580806
n.a.
4029
n.a.
0
n.a.
ドイツ
123652.8
n.a.
78470
n.a.
0
n.a.
-53.2
n.a.
韓国
1405
8528.6
9686
19605
9746
10009
7388
7395.4
メキシコ
8609
8818.2
10576
12037.2
15737
4858.7
7546
3059.5
中国
11540
29237.2
20687.6
41829
46671.6
75290.8
39962.8
39123.6
インド
2202
2202
0
4357.5
21779.6
6402.4
20403.8
5614.3
注)CFCs の消費量とは、CFCs の生産量に CFCs の輸入量を加えたものから CFCs の輸出量を引いたも
のである。韓国の 90 年のデータは存在しないため、92 年のデータを代用している。
出所)UNEP ウェブサイト(http://ozone.unep.org/Data_Reporting/Data_Access)より作成
図 1 主要国の温室効果ガスの排出量(MtCO2eq)
8,000
6,000
1990
4,000
1995
2,000
2000
0
2005
米国
日本
イギリス ドイツ
韓国
中国
インド
出所)日野[2009]
確認できる通り、先進国だけではなく、途上国も CFC を排出している。その意味ではやは
り、被害原因を行う経済主体が存在する空間は地球規模に達していることが確認される。
ただし、その排出量には、大きな隔たりがある。つまり、主要な排出国は先進国である。
その一方で、主要国における温室効果ガスの排出量を示した図 1 をみると、大部分の温室
効果ガスが、先進国からのみ排出されているのではなく、途上国からも排出されているこ
とがわかる。とくに、中国・インドは、その排出量および伸び率ともに、大多数の先進国
を凌駕している。つまり、地球温暖化問題は、途上国が主要な汚染国となっている問題で
4
あり、したがって、公平性などの問題をいったん無視するならば、途上国の政策的な関与
が不可欠な問題である。
(2)環境問題に対する 2 つの政策
地球規模の環境問題への対策を考える場合、表 2 および図 1 をみれば明らかなように、
一国内の取組みだけではなく、国際的な枠組みにもとづく政策の施行が期待される。地球
規模の環境問題に対して、国が主体となり、各国の利害対立と政治的な妥協によって実施
される環境政策を、
「国際環境政策」と呼ぶことにする11。また、本研究が関心を向ける EG&S
は、貿易を活用した国際経済政策の応用政策である。つまり、地球規模の環境問題に対処
する地球環境政策の一部としての国際環境政策である。
さて、環境問題に対する政策は多様であるが、被害原因に及ぼす効果に注目すると、次
の 2 種類に整理することが可能であろう。
第 1 に、被害原因の「量」を変化させる政策である。つまり、汚染吸収源(浄化作用可
能量)まで被害原因に付随する環境負荷を縮小させるために、被害原因の量を抑制するも
「禁止的手段」である。具体的として、
のである12。端的な手法は、被害原因の禁止させる、
オゾン層問題への対策として、フロン類の生産・使用を禁止した「モントリオール議定書」
を指摘できる。このような政策は、①効果が直接的であるため即効性があること、②禁止
される経済活動の対象が限定的である場合に有効であるなどの特徴をもつ。
第 2 に、被害原因の「質」を変化させる政策である。つまり、当該活動を、代替的な(と
考えられる)経済活動に変更させることで、単位当たりの経済活動の環境負荷を縮小させ
るものである。いわゆる、「環境効率」の改善策である13。
環境効率の改善策として注目される政策手段が、
「市場的手段」である。市場的手段とは、
市場メカニズムを機能・円滑化させることで、特定の政策目標を実現するものである14。つ
まり、環境効率に優れる代替的な活動費用を相対的に引き下げる、または環境効率に劣る
活動費用を相対的に引き上げるように、市場メカニズムの障害を削除・撤廃するものであ
る。このような対策は、経済活動を直接的に禁止しないために、経済活動の妨げになりに
くいという特徴をもつ。
以上から、地球温暖化問題に対して、オゾン層問題とは異なる政策が実施されたその理
由が確認できる。つまり、次の 2 つの原因のため、地球温暖化問題には、禁止的手段が利
用できなかったのである。
第 1 に、技術的な問題である。つまり、フロンガスにおいては、代替フロンという代替
的な経済活動を保証する環境技術が確立したいたため、禁止することが可能であった。こ
のような、当該被害原因の環境負荷を解決し、代替的な経済活動を可能にする技術を、
「絶
5
対的環境技術」と便宜上、呼んでおこう。一方、地球温暖化問題は、上述の通り、人類の
普遍的な経済活動に由来するものであった。したがって、絶対的環境技術の発展を望むこ
とは困難であると考えてよいだろう。現実的な対応策は、①被害原因の環境負荷が相対的
に低い経済活動を可能にする「相対的環境技術」の開発と、②多様な被害原因に対処する
ための、新技術の普及である。
第 2 に、制度上の問題である。つまり、被害原因が、上記の通り、多様であるため、禁
止的候補にあがる活動が多過ぎてしまい、そのルール化が困難である。くわえて、環境問
題への対策に関する考え方が一致しない各国間の交渉のなかで、パフォーマンス規制の水
準を導くことも決して容易ではない。とくに、途上国への関与が求められる問題であるた
め、その設計は困難をともなう。
したがって、地球温暖化問題に対処する方法として、被害原因の「質」を変化させる効
果をもち、また経済活動を規制しないため、経済発展を志向する途上国などにも比較的受
け入れられやすい政策手段である、
「市場的手段」が採用されたと考えられる。
(3)EG&S に内在する環境効果
WEO(世界環境機関)が存在しない今日の国際情勢において、国際的に実施可能な市場
的手段は次の 3 つである。第 1 に「排出権取引」であり、第 2 に「共同実施」であり、第 3
に「環境産業の拡大」である。事実、第 1 および第 2 の政策手段は、京都メカニズムにお
いて、排出量取引、CDM(クリーン開発メカニズム)
・JI(共同実施)として整備されてい
る。第3の政策とは、具体的には、本研究が注目する WTO における EG&S の自由化交渉
である。
「環境産業の拡大」は、当該商品の関税および非関税障壁を撤廃し、市 場 を拡大 お
よび創造させることで、次の 3 つの正の環境効果をもつ。第 1 に、環境対策の誘 発
効果である。つまり、環境対策に不可欠な商品の国際取引価格を低下させること に
よって、当該商品の利使用を不可欠とする取組みの費用を削減し、取組みの実施 を
刺 激 す る 効 果 で あ る 。 も っ と も 期 待 さ れ る 効 果 が 、「 共 同 実 施 」 の 誘 発 効 果 で あ る
(EG&S による「投資費用の削減効果」)。つまり、CDM・JI の実施に不可欠な 商
品の取引費用を下げることによって、事業を活性化させる効果である(図 2 を参照 )。
さらに、付言すると、CDM・JI 事業の実施には、EG&S の貿易を活発される効 果
が 期待で きる ( CDM・ JI に よ る 「貿易 促進 効果」)。つ まり、 当該 事業に 不可 欠な
環境物品およびサービスが途上国で調達できない場合、当該商品の貿易が生じる。
つまり、EG&S および CDM・ JI は、相互補完関係にあるといえる。
第 2 に、技術の普及効果である。市場的手段の機能は、上記の通り、市場メカニ
6
図2
EG&S と CDM・JI の 相互補完 関係
出所)筆者作成
ズムの活用・円滑化であった。市場の基本的な機能として、価格による情報伝達を指
摘できる。つまり、EG&S の関税および非関税障壁の削減・撤廃は、当該商品の価格低下
を実現し、代替商品に対して相対的環境負荷に優れる当該商品の選好を高める。換言する
と、代替商品に対して、当該商品の品質の良好性という情報を価格の低下によって、伝達
するものである。したがって、当該商品の品質の良好性という情報のみを提供するエコ・
ラベルとは、性質が異なる。
そのような伝達によって、価格が商品選択の唯一の判断基準であるような消費者は、環
境効率の優れる商品の消費量を増やすことになる。もっとも、価格ではなく、商品の品質
が選択基準である、消費者への影響力は限られる。なぜなら、そのような消費者は、すで
に当該商品を消費しているためである。したがって、情報伝達効果の意義として、エコ・
コンシューマーではない、一般的な消費者の選択・購入行為に影響を及ぼす点を指摘でき
る。もっとも、情報の不完全が想定される市場では、情報伝達効果の意義はより明確に確
認される。
このように、
「環境産業の拡大」は、消費者の選択・購入行為が変化し、環境効率の悪い
商品から「離脱」または当該商品の質の改善を求める「発言」(Hirschman[1970])が続
く限り、環境効率の悪い商品は適応をよぎなくされ、環境効率の優れる商品は市場規模を
拡大させる。その結果、当該商品に体化されている相対的環境技術が普及することになる。
ただし、技術(の)「普及」と技術(の)「移転」は区別しておきたい。技術の普及とは、
市場メカニズムに反応した受動的なプロセスであるのに対し、技術の移転とは、各経済主
体の主体的なプロセスであり、経験および利用を通じた学習をともなうものである15。
7
第 3 に、技術開発(イノベーション)の誘因効果である。上記の通り、
「相対的環境技術」
の開発は、普遍的環境問題への対処には不可欠な活動である。環境対策に必要な物品だけ
でなくクリーナー技術が体化された品目に関して、市場の拡大とともに多くの新製品の開
発または既存の技術の更新が望まれる16。理論的には、イノベーションとは既存の均衡点を
打破し新しい均衡点を導き、企業家に利潤を回復させるものである。既存の商品や工程の
わずかな変更な変更によって生じる「増分的イノベーション」の実現は、技術機会ととも
に需要圧力に依存すると考えられる。くわえて、イノベーションの起源や初期開発に関係
する「根本的イノベーション」は、需要圧力に依存しない突発的なイノベーションである
が、潜在的市場を実際に念頭において研究開発をしており、社会的および経済的影響を受
けていると考えられる。
(4)普遍的環境問題への対処
以上、1990 年代後半以降の環境問題に、「普遍的環境問題」という新しい性質が生じて
いること、そして普遍的環境問題に対処するための唯一有効な国際環境政策が市場的手段
であることを明らかにした。くわえて、環境物品の貿易自由化に内在する環境効果が、①
環境対策の誘発効果、②技術の普及効果、③技術開発の誘因効果であることを確認した。
分析の結果、利害対立のある各国は、現代の環境問題の1つの重大な性質として、普遍
的環境問題を共有化したことによって、EG&S(および CDM・JI)といった、今までにな
い国際環境政策が 実施さ れ る よ うに な っ た と考 え ら れ る。 つ ま り 、EG&S に 内 在 す
る環境効果の実現が、環境物品交渉の政策的課題である。
Ⅲ.
交渉の進展と争点
環境物品交渉は、2007 年以降大きな進展をみせている。進展とは、争点の 1 つが解消さ
れたことを意味する。ただし、残念ながら、すべての争点が解消されたわけではない。以
下で詳しくみていこう。
(1)「自由派」と「環境派」の合意―気候変動に優しい物品およびサービス―
交渉の進展を印象付けた出来事は、
「自由貿易派」である米国と「環境派」である EC が
「気候変動に優しい物品およびサービス(climate-friendly goods and services)」リストを、
2007 年 12 月に共同提案したことである。これは、EG&S のなかでも、とくに、地球温暖
化問題に資する、またはその対策に必要な商品を選別したものである。EC の提案に、米国
8
が同意した賛同したことによって共同提案するに至った。2013 年まで品目の関税ゼロを目
的としている。
EC は、後述の通り、米国との見解の相違に固執するのではなく、早期の成果の導出を優
先したと考えられる。つまり、本研究の冒頭でも言及した、京都議定書の第一フェーズを
目前に控え、世界大での地球温暖化問題への取組みの関心が高まるなか、気候変動問題へ
の貢献という規範に呼応したと考えられる。その意味では、EC などの「環境派」が、自由
貿易の実施を主目的とする米国などの「自由貿易派」の主張に近づいたといえよう。その
結果、日野[2007a]が指摘した、「自由貿易派」
・「環境派」
・「管理派」の三つ巴の対立の
なかで繰り広げられた争点の 1 つが解消されたといえる。
(2)環境物品フレンズの形成
気候変動にやさしい物品およびサービスにくわえて、
「自由貿易派」と「環境派」の歩み
寄りを印象付けたのが、
「環境物品フレンズ」の形成である。環境物品フレンズは、カナダ、
EC、日本、韓国、ニュージーランド、ノルウェー、台湾、スイス、米国で構成される。こ
れらの構成国のすべてが、かつて独自の品目リスト案を作成している。したがって、これ
らの構成国は、
「リストアプローチ(list approach)」と呼ばれる、具体的な品目の特定化
を通じて交渉を進める方式に、親和的な加盟国である17。
環境物品フレンズは注目すべき成果として、リスト案(以下、フレンズリストと表記す
る)(JOB(07)/54)を作成した。構成国は個別に作成した独自の品目リスト案を更新す
ると同時に、構成国との意見交換を通じて、この品目案を作成している。その結果、各国
の主張に変化がみられる。その典型例が EC である。代表的な変更点は、次の 2 点である。
第 1 に、EPP(環境上望ましい産品)の取り扱いについてである18。EC は、EPP の判断基
準を変化させている。米国(TN/TE/W/52, TN/MA/W/18/Add.7)・ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド
(TN/TE/W/48)・スイスリスト(TN/TE/W/57)にも EPP がリストアップされてい
た が 、 そ の 判 断 基 準 は 、「 最 終 用 途 目 的 」 と 「 産 品 の 処 分 性 」 に 限 定 さ れ て い た 。
しかし、本 来、EPP とはライフ サイクルの 各ステージにおける環境負荷の低い商品で
ある。したがって、その判断基準は多様に存在するはずであるが、産品関連 PPM 基
準しか考慮していない。これに対して、EC は、判断基準として、生産のインパ ク
ト(the impacts of production) をあげていた(TN/TE/W/47)。つまり、産品非 関
連 PPM 基準の活用の余地が示されているといえる。もともと、EC は、PPM を め
ぐっては、「材料と生産のあり方」(sustainable production characteristics) を 評
価基準として考慮する議論を受け入れると述べていた(TN/MA/W/1) 19。第 2 に 、
農業分野の削減である。カタールリストを除いて、概して、各国独自のリスト案 に
9
は、農業分野が含まれていなかった。しかし、EC リストでは、セクター(sector)
の一項目として提案していた 20。
EC の主張の変化の背景として、次のような要因が想定される。まず、産品非関連 PPM
に関しては、自由貿易派が猛烈に反発していた。この基準の採用は、運用上、貿易自由
化に支障を与え、自由貿易の原則に影を落とす懸念があるからである。産品非関 連
PPM を理由に産品の差別化をすることは、「アスベスト事件」などの例外はある も
のの、原則、GATT 違 反とされている。その理由として第 1 に、生産方法の違い は
産品の費用を決定する比較優位の源泉の 1 つであるからである。つまり、これを 基
準に差別化をするとあらゆる種類の産品の差別化を可能にしてしまう。第 2 に、産
品の生産工程を輸入国側で特定することは一般に困難であり、その運用が恣意的 に
なりやすい。第 3 に、自国の環境の状況等に従って設定された PPM 規制を環境 の
状況等が異なる他国に適用することは、環境保全上の観点からも望ましくない可 能
性 が あ る な ど が 考 え ら れ る 21。 以 上 よ り 、 こ こ に 「 自 由 貿 易 派 」 と 「 環 境 派 」 の 決
定的な対立軸の解消を確認できる。
農業分野の問題に関しては、もともと先進国の多くは反対していた。その言い分
は 、 環 境 物 品 交 渉 は 、 貿易と環境に関する委員会(CTE)の監視のもと、環境物品は非
農産品市場アクセス交渉(Non-Agricultural Market Access Negotiating Group:NAMA)
にて行われているため、農業を含めることはできないというものである22。したがって、EC
は、早期の合意のためにも、各国の反発の回避策として、主張を変更させたと考えられる。
なお、個別の品目の具体的な選定方法に関しては、HS(Harmonized Commodity
Coding and Description System:国際統一商品分類)が使用されている。環境 物
品フレンズが過去独自で作った品目も、HS1996 の 6 桁分類を使って特定化して い
た。しかし、フレンズリストでは、①HS2002 が使用されていることと、②各国 の
意見調整を経たことによって、分類項目が変化している。ただし、6 桁分類とい え
ども分類自体が荒く、各国の見解が完全に合意にいたっていない品目も存在する。
その場合、国内のみで通用する統計細分を用いて品目を特定化している。しかし、
統計細分の使用は、貿易自由化の運用過程に新たな課題を生じさせてしまう。な お
環境物品フレンズは、統計細分の弾力的な運用の一例として、統計細分を用いた 品
目に関しては、必ずしも 6 桁分類を用いる必要はなく、統計細分の利用をオプシ ョ
ンとするというアイデアを提示している 23。
以上のように、環境物品フレンズは、構成国間での一定の見解の調整に成功したと考え
られる。したがって、環境物品フレンズの形成は、交渉をリードする先進国間の合意形成
の象徴的な事例であり、環境物品交渉の進展を意味するものである。
10
(3) 「管理派」の新たな提案
途上国は、リストアプローチに対して、一貫して距離を置いている。インド・アルゼン
チンによって、リストアプローチに代わるアプローチとして、提案されたのが「統合アプ
「統合アプローチ」とは、WTO が加盟国に共通
ローチ(integrated approach)」24である。
のコミットメントを強いるものではなく、国レベルで指摘国家機関(DNA)が、企図した
環境計画の実施期間中だけ必要な環境物品およびサービスを特定譲許するというものであ
る。具体的には、インドが提案した「環境計画アプローチ( Environmental Project
Approach:EPA)」と、アルゼンチンが提案した「統合アプローチ」がある25。
このアプローチのメリットは、次の 3 点である(TN/TE/W/51)。第 1 に、
「二重の使用目
的 」 問 題 へ の 効 果 的 な 対 応 で あ る 。 二 重 の 使 用 目 的 と は 、「 環 境 に 資 す る 使 用 」
(environmental use)と「環境に資さない使用」(non-environmental use)と い
う環境に与える影響が全く異なる「二重の使用目的」
( dual use)をもつ場合がある。
たとえば、パイプは、下水道の整備のために必要となる。しかし、一方で、パイ プ
は、工場の汚水を河川に放出することにも使用可能である。当然ながら、前者の用途
目的の場合のみが、環境物品として判断されなければならない。途上国にとって「二重の
使用目的」問題への懸念とは、本来的に、環境に資する用途が限られているにもかかわら
ず、わずかな環境に資する使用を口実に、先進国の比較優位財が環境物品の認定を受ける
ことである。リストアプローチでは、先進国が主導でリストアップされた品目すべての自
由化が必要なため、二重の使用目的問題が生じる公算が高い。その結果、短期的に途上国
の固有の環境問題に対処するための製品を製造する中小企業を破壊し、さらに長期的に途
上国の環境産業の発展機会を奪う懸念がある。その点に関連して問題となるのが、技術移
転の担い手の有無の問題である。技術移転の担い手は途上国の企業だけではなく、多国籍
企業の子会社も存在する。また、途上国の現地企業の育成には多くの時間を要すると考え
られる26。ただし、環境問題とは、現地の自然および社会状態、そして、文化価値に依存す
る(TN/TE/W/73)と考えるならば、環境対策も現地適応が必要となるかもしれない。たと
えば、多国籍企業が、販売する化粧品の成分を現地の気候や消費者の肌の状態に合わせて
変更しているように、現地の環境基準にあわせた仕様の変更や、資本集約的な環境物品の
使用方法の簡素化などが考えられる。現地適応が必要であるとした時、現地適応の主要な
主体が、現地企業あるいは多国籍企業の子会社いずれが望ましいかについては慎重な検証
が必要である27。ところで、統合アプローチでは、環境目標を達成するために企図された計
画に必要な物品が自由化されるため、
「二重の使用目的」問題は生じない公算が高く、たと
え生じたとしてもその影響力は限定的であると考えられる。
第 2 に、環境物品と環境サービスの総合的な自由化が可能である。両者の関係とは、本
11
来は不可分の関係にあると考えられる28。しかし、現交渉の形式では、相互排除的な取組み
となっており、またリストアプローチでは、この問題への対処策がいっさい講じられてい
ない。統合アプローチでは、DNA が必要な物品およびサービスに特定譲許を与えるため、
統合的な自由化が実現される。
第 3 に、統合アプローチでは、当然のことながら各加盟国が、それぞれの能力およびそ
れぞれの環境基準と目的に則して計画を実行できる。つまり、各加盟国の裁量権は保持さ
れ、したがって、リストアプローチと異なり、先進国と同水準のコミットメントから開放
されるが、しかし共通して環境問題に取組むわけである。この取組みの性質は、地球サミ
ットで謳われた「共通だが差異のある責任」に他ならない。つまり、統合アプローチは、
中国やブラジルなどをはじめとした多くの途上国が声高く提案してきた、途上国と LDC(後
進開発途上国)への S&D の実践案であることを意味する。
ただし、先進国からの統合アプローチに対する評価は決して高くない。その最大の理由
は、市場アクセスの改善が望めず、自由貿易の実現を期待できないというものである
(TN/TE/R/14)。
そうしたなかで、ブラジルがリストアプローチに代替案として、伝統的な自由化方法を
提案した(TN/TE/R/21)。それは、「リクエスト・オファー方式」である29。周知の通り、
この方式は、各国からのリクエストに応じて、自国が引き下げ可能な品目を相手国にオフ
ァーするものである。したがって、自国が必要と判断した品目のみの関税引き下げが可能
であり、環境物品の定義問題を回避できるというメリットがある。くわえて、伝統的手法
であるため、統合アプローチなどと比べると馴染みやすいアプローチといえる。もっとも、
リクエスト・オファー方式は、関税率を引き下げるための主要な手段であるが、ブラジル
の提案の意図は次の 2 点にあると考えられる。第 1 に、国内産業の保護・育成の手段と成
り得ることであり、第 2 に、国内の環境問題への対策費用を抑えるために必要な環境物品
の調達のためである。したがって、前者の意味をもつため、単純な自由貿易主義的政策と
いうわけではなく、その一方で後者の意味をもつため、単純な保護主義的政策とは異なる
ものといえよう。このようにリクエスト・オファー方式は、統合アプローチに内在する①
「二重の使用目的」の効果的な対応、③S&D の実践案という長所を引き継ぐものであると
いえる。統合アプローチを主張したインド・アルゼンチンなどを含めて途上国は、概して、
この提案に好意的である。くわえて、その実現性の高さからしても、注目に値するもので
ある。
ただし、先進国は、①リクエスト・オファー方式は、交渉国間で関税引き下げ効果が同
等になるように長い調整時間を要すること、②輸入品目の選別によって、とくに途上国市
場の開放が望みにくいなどの理由により、概して否定的である(TN/TE/R/21)。
12
(4) 途上国の比較劣位―主要国の環境物品貿易―
本項では、やや長い手続きになるが、途上国がリストアプローチに反対する経済的背景
を統計データから確認しておこう。
a. 貿易データ
主要国が提出している多くの品目リストには、上述の通り、品目ごとに HS(国際 統一
商品分類)が可能な限り割り当てられている。したがって、統計分析が可能とな っ
ている 30。
WTO における公式の品目リストは、上記の通り、存在しない。WTO 事務局が、品目リ
ストを作成しているが(TN/TE/W/63)、これは環境物品フレンズが独自に作成した品目リ
ストを寄せ集めただけのものであり、品目数が 400 以上にも及ぶ。環境物品フレンズが述
べる通り、長大過ぎて分析にはやや不向きである。一方、フレンズリストは 153 品目で構
成されている(JOB(07)/54)。ただし、フレンズリストは、HS2002 が使用されている
ため、長期のデータが取りにくい。また、先進国の関心品目に傾斜している懸念があるた
め、相対的に中立性に欠ける点をもつといえる。その点からすれば、フレンズリストのも
とになった各国リストの基礎を提供した OECD リストおよび APEC リストの方が、あくま
で相対的でしかないが、
より適当であるといえよう31。くわえて、OECD リストおよび APEC
リストは、HS1996 を用いているため、より長期のデータが入手可能である。もっとも、
HS1996 でも、決して長期間のデータが扱えるわけではない。ただし、また、OECD にお
ける EG&S 産業の研究が 1993 年から始まっていたように、環境物品の貿易は、90 年代か
らの現象であると考えられる。
表 3 は、両リストの HS 分類についての比較したものである。一見してわかるように、
HS6 桁分類で特定化された総数は OECD リストが 161、APEC リストが 109 である。ただ
し、OECD リストおよび APEC リストには多くの HS コードが重複しているため、これを
表 3 OECD・APEC リストの HS コード比較
総 HS コード
処理後
OECD リスト
161
121
APEC リスト
109
104(49)
54
共通コード
注)APEC リストの括弧内の数は、統計細分で特定化されている品目数を表している。
出所)OECD/Eurostat[1999]、WT/GC/W/138/Add.1 より作成
13
排除すると、品目数がそれぞれ 121、105 になる。なお、両リストの共通コード数は、54
である。両リストの類似性は比較的高いといえよう。したがって、両リストから読み取れ
るそれぞれの環境物品貿易のトレンドに著しい変化はないと考えられる。本研究では、両
リストが HS6 桁で特定化したコード数である 171(=121+104-54)項目を使って、環境物
品貿易をデータ分析する。ただし、OECD リストの HS コードである、222010、283521、
283822、381500、841000、980390 は該当する HS1996 にコードがないため計算していな
い。したがって、165(=171-6)項目を使って分析する。
b. 主要国の輸出入額
まず、比較優位の算出のもとになる、主要各国の貿易データから確認しておこう。図 3
は、2006 年の輸出入額上位 15 カ国と 96-06 年間の輸出入額の成長率をそれぞれ表してい
る。2006 年の輸出額上位 15 カ国中、EC の輸出額が、圧倒的に高いことがわかる。EC に
続いて、米国、日本が位置し、いわゆる Triad が上位を占めている。ただし、これらの国々
の輸出成長率は相対的に低い。Triad に続く第 4 番目に位置するのは、途上国の中国である。
ところで、上位 15 カ国中、途上国は、中国以外に、香港、シンガポール、マレーシア、タ
イ、ブラジル、インド、ロシアである。これらの国々の特徴として、輸出額の成長率が、
先進国と比べて、相対的に高い点を指摘できる。とくに、中国、インドの成長率は非常に
高い。中国の現時点の輸出額および成長率から判断すると、近い将来、日本・米国を追い
抜く可能性が高い。
そして、輸入額の上位 15 カ国と成長率をみてみると、全体の構図は、輸出額上位 15 カ
国と違いがない。ただし、①中国が、すでに日本を追い抜いて、世界第 3 位の輸入額を計
上している点、②輸出と同様に、中国、インドの輸入額の成長率が著しいが、全体的に、
途上国の成長率は輸出の成長率ほど高くなく、その結果、EC・米国・日本との成長率の差
があまり開いていない点が輸入額のみにみられる特徴である。
図 4 は、EC 加盟国のなかでの 2006 年の輸出入上位 15 カ国とその成長率を示している。
輸出入ともに、ドイツ、フランス、イタリア、イギリスの取引高が多い。しかし、図 3 に
あった他の先進国と同様に、発展水準の高いこれらの国々の輸出入の成長率は低い。その
一方で、市場経済移行国である、ハンガリー、ポーランド、チェコ、ルーマニアの輸出入
の成長率は著しい。図 4 にあった途上国の成長率よりも、全体的に高い。とくに、ハンガ
リーの輸出入の成長率は非常に高く、中国、インドさえも凌駕している。
ただし、各国の環境物品貿易額は、次の 2 つの原因により過大評価されていると考えら
れる。第 1 に、HS6 桁以下によって特定化されている環境物品の貿易を、6 桁分類で把握
しているためである。APEC リストは統計細分を用いて品目を特定化していた。また、OECD
14
図 3 2006 年の環境物品の輸出入額の上位 15 カ国と輸出入の成長率
(1 億ドル[左軸]・%[右軸])
2600
2400
2200
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
900
1800
500
800
700
600
500
400
300
輸出額
200
成長率
100
0
1600
400
1400
1200
300
1000
800
200
600
400
100
200
0
0
注) ルーマニア、ラトビア、スロバキア、シンガポール、ロシア、マレーシア、ブラジルは 96 年のデ
ータが欠損していため 97 年のデータを代用した。同様に、ベルギー、ルクセンブルク、タイは、
99 年のデータを代用した。
出所)United Nation’s Comtrade database(http://unstats.un.org/unsd/comtrade)より作成
15
輸入額
成長率
図4
2006 年の EC の環境物品の輸出入額の上位 15 カ国と輸出入の成長率
(1 億ドル[左軸]・%[右軸])
1000
1000
900
900
800
800
700
700
600
600
500
500
400
400
300
300
200
200
100
100
0
輸出額
成長率
0
500
1000
450
900
400
800
350
700
300
600
250
500
200
400
輸入額
150
300
成長率
100
200
50
100
0
0
注) ルーマニアは 1996 年のデータが欠損していため 97 年のデータを代用した。同様に、ベルギーは、
99 年のデータを代用した。
出所)United Nation’s Comtrade database(http://unstats.un.org/unsd/comtrade)より作成
16
リストにおいても、HS コードは、第一次接近的に利用されているに過ぎなかった。貿易額
の過大評価の一例をあげると、米国では、HS847989(other machines, nes, having
indicidual functions)のなか に、”trash compactors”が統計細分によって位置付けられて
いる。しかし、”trash compactors”の 2000 年の米国の輸入額は、HS847989 全体の輸入額
の 1%以下である(UNCTAD[2003])。第 2 に、「二重の使用目的」の問題である。と
くに、APEC リストのほとんどの品目は、
「二重の使用目的」をもつと考えられている(GoI
[2003])。
c. 主要国の比較優位
さて、本研究では、Lafay[1987]が提示した顕示比較優位(Revealed Comparative
Advantage Index:RCA)指数を用いて、各国の比較優位を分析する。各国の比較優位は、
一般に、Balassa[1965]が提示した RCA 指数を用いて分析される。これは、輸出額のみ
を利用する指標であり、世界の平均的な輸出比率と比較した時の当該国の輸出比率の大き
さを示すものである。輸出額のみを利用した理由は、1960 年代当時の輸入額が、関税など
の保護主義的措置によって影響を受けていたためである。しかし、その後の数回にわたる
GATT/WTO の多国間交渉の結果、近年では、関税障壁および非関税障壁が低下している。
また、製品輸入比率の拡大にともない、輸入という要因を分析の対象に取り入れる必要性
が生じている32。事実、上記の貿易データで確認したように、途上国は、輸出額のみを大幅
に拡大させていただけでなく、輸入額も軒並み拡大していた。したがって、本研究では、
輸出額および輸入額を総合的に取り入れた指標である、Lafay の RCA 指数を利用する。
本研究で利用する Lafay 指数は、以下の通りである。X および M は、当該国の世界全体
に対する輸出および輸入額を表し、Xi および Yi は、当該国の世界全体に対する環境物品
の輸出額および輸入額を表す。そして、Bi は、理論的収支を意味する。Ci の値が正である
場合、当該国は環境物品の生産に比較優位をもち、Ci の値が負である場合、当該国は環境
物品の生産に比較劣位となる。
· 1000
·
· 1000
表 4 は、2006 年および 1996 年の主要各国・地域の RCA 指数を示している。途上国の輸
出額の伸びとは裏腹に、ほとんどの途上国の RCA 指数は負の値となっている。また、表
3-8 にのせていない、途上国の RCA 指数は 96 年および 06 年ともにすべて負の値である33。
17
表 4 主要各国・地域の RCA 指数
EC
1996 年
2006 年
5.7
8.4
1996 年
2006 年
米国
12.5
10.6
2.3
-1.2
日本
22.0
21.5
ベルギー
-2.4
-1.6
カナダ
-15.6
-9.8
デンマーク
16.0
18.4
韓国
-29.0
-10.5
フィンランド
-7.1
2.2
メキシコ
-25.2
-6.5
1.6
8.5
スイス
16.0
11.6
ドイツ
15.7
15.5
オーストラリア
-22.4
-19.0
ギリシャ
-6.1
-2.2
ニュージーランド
-9.3
-6.2
アイルランド
-6.6
-4.9
ノルウェー
-16.7
-9.5
イタリア
14.7
18.5
ロシア
-17.9
-19.1
ルクセンブルク
3.6
8.4
クロアチア
-10.8
-4.5
オランダ
0.2
11.2
ベラルーシ
-10.8
-7.8
ポルトガル
-4.7
17.3
香港
-1.9
0.5
スペイン
-5.6
-0.7
シンガポール
-10.4
-6.0
スウェーデン
-7.8
-1.8
タイ
-21.7
-15.2
イギリス
7.4
6.6
マレーシア
-20.9
-8.9
キプロス
3.1
6.2
インドネシア
-25.8
-10.2
チェコ
-9.6
0.6
中国
-22.1
-9.0
エストニア
-1.5
-2.3
ブラジル
-17.5
-8.5
ハンガリー
-2.1
-10.3
インドネシア
-12.3
-4.4
-10.7
-0.9
イスラエル
-1.5
7.5
ポーランド
-1.1
-10.6
トリニタード・トバコ
44.4
29.3
スロバキア
-11.1
-8.0
レバノン
0.8
0.8
スロベニア
1.9
8.6
-11.3
24.4
ブルガリア
-8.6
-3.8
ルーマニア
-14.6
-9.6
オーストラリア
フランス
ラトビア
エルサルバドル
出所)United Nation’s Comtrade database(http://unstats.un.org/unsd/comtrade)より作成
ただし、環境物品の輸出入額ともに上位国であった、シンガポール、マレーシア、中国、
ブラジル、インドなどでは、RCA 指数の改善傾向は読み取れる。他方、途上国において、
18
RCA 指数が正の値となっているのは、イスラエル、トリニタード・トバコ、レバノン、エ
ルサルバドルの 5 カ国に過ぎない。レバノン、トリニタード・トバコなどは典型的である
が、少数の輸出財が、全体の輸出額の過半数を占めるにいたっている。そして、香港の RCA
指数だけが、負の値から正の値に好転している。
一方、先進国に目を向けると、EC、米国、日本が環境物品に、比較優位をもっているこ
とが分かる。とくに、EC は、その値を大きく伸ばしている。EC 加盟国に注目すると、発
展水準の高い国のみが正の値をとり、輸出入ともに成長率が著しかった市場経済移行国な
どのその他の国々は、軒並み負の値となっている。ただし、成長率がもっとも高かったチ
ェコおよびスロベニアだけは正の値である。また、EC、米国、日本以外の先進国で、RCA
指数が正の値となっているのは、スイスだけである。ただし、多くの国々は、RCA 指数を
改善させている。なかでも、メキシコの改善は著しい。また、ニュージーランドは、96 年
および 06 年ともに、RCA 指数は負であるが、他の先進国および途上国と比較して、その
値が高くないことも注目に値する。つまり、環境物品に関して比較優位をもつのは、EC、
米国、日本の 3 カ国を含めた一部の先進国に限られ、途上国は比較劣位にある。
以上の分析より、①先進国の一部が環境物品に対して比較優位を持つのみであり、途上
国をはじめとしたその他の国々は比較劣位にあることが分かった。くわえて、②輸入市場
の成長率は、市場移行経済国もっとも高いが、途上国および先進国(なかでも Traiad)の
成長率も決して低いわけではなく、なかでも中国およびインド市場は今後拡大が見込まれ
るとの結論を得た。
(5)途上国の利益および配慮をめぐって
S&D をめぐっては、先進国側も何ら策を講じていないわけではない。環境物品フレンズ
は、途上国の自由化の期限を、先進国よりも延期させると述べる(JOB(07)/54 )。また、
そ の 他 で は 、 米 国 が か つ て 提 案 し た 「 補 完 リ ス ト ( complementary list )」
(TN/MA/W/18/Add.5, TN/TE/W/38)、または補完リストを批判した中国の提案による「開
発リスト(development list)」(TN/TE/W/42)の採用を示唆している。
補完リストとは、関税削減・撤廃で合意された品目リスト(コアリスト)から自由化を
選択的に選別できる品目リスト(補完リスト)で構成される。途上国への配慮として、途
上国は先進国に適用される補完リストのなかで自由化しなければならない一定の割合(x%)
よりもより少ない割合の選択でよいとする。一方で、開発リスト方式とは、途上国輸出関
心産品の選定にプライオリティが与えられた、関税削減・撤廃に合意が与えられた品目リ
スト(共通リスト)から免除または関税削減水準の低下を意図して、個別の途上国によっ
て選ばれた品目リスト(開発リスト)で構成されるものである34。
19
ただし、交渉はすでに進展しており、上記の通り、途上国は、世界共通の品目リスト案
の作成に便益を見出してはいない。したがって、途上国からの反応は芳しくない。共通リ
ストでは、品目の選定の過程において、途上国の輸出関心産品にプライオリティが与えら
れるということであったが、途上国の輸出関心産品とは何かについて、具体的に途上国側
からの提案はあまり行われてこなかった。現状における代表的な議論は、農業品目、いわ
ゆるバイオ燃料である35。こうした動向は、途上国の輸出関心産品を明確化させるものであ
り、したがって、まずは評価する向きもあるのもの、上記の通り、大半の先進国は肯定的
ではない。
その他の S&D と関連する議論として、非関税障壁の問題が指摘されている。その点に関
して、キューバが注目すべき提案を行っている。それは、非関税障壁の撤廃問題に関連し
て、クリーナー技術の移転を促進するために、TRIPs に明記されているパテントの保護期
間を削減すべきであると主張する(TN/TE/W/73)36。ただし、非関税障壁をめぐる議論は、
現状では活況でない。現実問題として、まずは環境物品の関税削減および撤廃を進展させ、
それからの取組みとなろう37。今後の展開が注目される。また、キューバは、途上国によっ
て実施される、環境サービスの契約、技術移転および獲得そして環境計画のためのインセ
ンティブを提供するソフトローンおよび援助の必要性を主張している38。ただし、WTO の
枠組みを通じて上記の支援策を実施するのか、個別に加盟国が実施するかなど、不明瞭な
点が多い。
Ⅳ. 交渉の構図
(1)ガバナンスボックス
本節では、現状の環境物品交渉の構図について検討したい。その際、交渉の争点の推移
を明確化し、かつ現状の交渉の鳥瞰的な把握を容易にするガバナンスボックスを使用する。
ガバナンスボックスとは、日野[2007a]が提示した、相反する規範が混在する WTO の原
理原則を視覚的表現したものである39。ガバナンスボックスは、貿易関係の規律と貿易目的
という 2 つの軸によって作られる、4 つのボックスからなる(図 5 を参照)。まず、貿易関
係の規律に関しては、GATT 体制からの伝統的機能である、市場による資源配分を実現す
るための規律を「市場原理原則」とする。そして、TRIPs などの貿易自由化に相反する市
場による資源配分の規制に関する規律を「市場管理原則」とする。これは、GATT の当初
の理念である、「資源の最適配分に信頼を寄せた市場メカニズムを維持す
るための取り決め」(西田[2002])を主軸にして、それと対置する規律を捉えようとする
20
図 5 ガバナンスボックス
注)各ボックスの数字は、ボックスの番号を示している。
出所)日野[2007a]
ものである。
また貿易目的に関しては、経済学の伝統的規範基準に基づいて志向される目的を「経済
的目的」とし、経済学の伝統的な規範基準とは異なる規範に基づいて志向される目的を「非
経済的目的」とする。これは、WTO 協定前文に示された種々の目的を整理するものである。
さて、ボックス 1 は、経済的目的と市場原理原則に規定された効率性を規範基準にもつ
ものである。これは、GATT/WTO の最も一般的な役割を示すものであり、経済的目的を実
現するための市場メカニズムの浸透を志向するものである。
ボックス 2 は、長年、経済学者が批判を呈した GATT/WTO の機能であり、経済的目的
のために貿易自由化を阻害する市場ルールの発展を志向するものである。アンチダンピン
グなどのいわゆる貿易救済措置の大部分がこのボックスに位置する。このボックスの規範
基準として、
「同感性」
(sympathy)をあげることができる。ここでいう「同感」とは、
「中
立的な観測者」のそれであり、各個人が利己的な行動をとっても社会的に秩序を成り立た
せるためのモラルをさす(Smith[1759])。つまり、
「中立的な観察者」の「同感」が得ら
れる範囲内で競争を実現するために必要なルールをさす。
ボックス 3 は、WTO になって追加されたものであり、非経済的目的と市場原理原則に規
定されたボックスである。このボックスは、環境などの非経済的目的を考慮した市場メカ
ニズムの浸透を目指すものである。規範基準として「持続性」を指摘できよう。
ボックス 4 は、同じく WTO になって追加されたものであり、
「文化」や「労働」などの
非経済的目的のために市場ルールの発展を志向するものである。このボックスの規範基準
として「倫理性」を指摘できよう。
21
(2)交渉の構図
途上国が統合アプローチを提唱し、先進国と対峙する主張が明確になった当初の物品交
渉の状況は図 6 として表わされる。
「自由貿易派」は、今後成長が見込める途上国市場の開
放を通じて自国に比較優位のある財の自由貿易の実現を主目的として、その副次的効果と
して環境効果の実現を想定していた。したがって、
「自由貿易派」は主としてボックス 1 に
位置し、わずかにボックス 3 にも触れている。そして、「環境派」は、DMD のパラ 6 に
あるように UNEP(国連環境計画)などと持続的な協力を図りながら、GATT 体 制
時には例外的事項であった「非経済的目的」の促進のため、必要があれば産品非 関
連 PPM 基 準を採用して「同種の産品」に修正を迫ろうとしていた。ただし、環境
戦略に優位性をもつ企業が、その優位性をより強固にするために政府等に働きかけ、国際
的な環境規制が設けられるというメカニズムが存在するため(Rugman et al.[2001])、当
事国間に経済的思惑がまったくないというわけではないであろう。したがって、「環境派」
は、主としてボックス 3 に位置するものの、すべてのボックス内に位置付けられる。上記
では、
「自由貿易派」および「環境派」双方が、環境物品貿易に比較優位をもつことが確認
されている。最後に、「管理派」は、「 自 由 貿 易 派 」 お よ び 「 環 境 派 」 の 双 方 の 争 点 に
反対を示し、S&D を主目的としていた。したがって、主としてボックス 2 に位 置
し、またボックス 4 にも触れている。
しかし、本研究の分析の通り、環境物品フレンズの形成は、「自由貿易派」と「環境派」
の接近を意味する。また、リクエスト・オファー方式の提案は、
「管理派」の位置づけの変
更をわれわれに要請する。新しい交渉の構図は、図 7 のように表わせよう。この図から、
現状の交渉に関して次の 2 点を指摘できる。第 1 に、各派の主張の接近である。つまり、
「環
境派」および「管理派」ともに、以前と比較するとボックス 1 に接近している。とくに、
「自
由貿易派」および「環境派」ともに、市場原理原則を手段とすることで一致しており、主
目的の相違は異なると考えられるものの、争点化はしていない。一方、
「管理派」は、S&D
の実現に固執することで、市場管理原則を手段として用いる姿勢を示している。第 2 に、
交渉の構図の回帰である。確かに、各派の主張は接近しているものの、交渉の争点は依然
として存在する。それは、
「自由貿易派」および「環境派」と「管理派」で繰り広げられる、
市場原理原則と市場管理原則という手段をめぐる対立である。その様相は、GATT 体制時
の論戦に回帰したと考えられる。つまり、
「環境派」の主張から、ボックス 4 に関する提案
が表面化しなくなったことにより、WTO の構造的特質に修正を課し、環境問題に関して
WTO に新たな役割を付与する可能性をもつ討議が影に隠れてしまい、かつ途上国が S&D
の実践案をより明確化したことにより、GATT 時代から存在する南北対立の構図を鮮明化
しているといえる40。
22
図6
環境物品交渉における 3 つ巴の対立
注)矢印は、各派が依拠する中核となるボックスから伸びており、また矢印の向きは、
各派が考慮しているボックスを示している。
出 所 ) 日 野 [ 2007a]
図7
現行の環境物品交渉の構図
注)矢印は、各派が依拠する中核となるボックスから伸びており、また矢印の向きは、
各派が考慮しているボックスを示している。
出所)筆者作成
23
Ⅴ.
市場的手段の効果についての政策的示唆
本節では、現状の交渉から導出される、環境効果についての政策的示唆を確認する。た
だし、検討材料は限られていることに留意されたい。
(1)気候変動問題への貢献
気候変動問題への貢献という点に関しては、自由化が早期に実現するほどにその期待が
高まる。WTO 交渉に影響力をもつ加盟国で構成される「自由貿易派」と「環境派」の主導
によって、HS 分類の改訂という要因に影響を受けつつ、途上国の自由化を原則対象外とす
るならば、早期の自由化の実現可能性が高い。原則対象外とは、すべての途上国を一律で
対象外にしない、柔軟な措置という意味である。途上国を原則対象外とする方式は、交渉
のなかで提案された以外では、次の 2 つがある。第 1 に、ITA(情報技術協定)方式である。
ITA とは、情報技術物品への関税撤廃を目指し形成された国際合意であり、1996 年にシン
ガポールで開催された WTO 閣僚会議において合意されたものである。MFN ベースで関税
削減が実施されている。その結果、当初は 29 カ国だった参加国も、2007 年現在では 70 カ
国にまで拡大し、1997 年から 2005 年にかけて IT 物品の貿易は 2 倍以上の増加かつ年率
8.5%の伸び率を記録している41。したがって、高い実績を残していると評価できよう。た
だし、ITA 方式は魅力的であるものの、その採用は容易でないと考えられる。その原因と
して、World Bank[2008]は、貿易自由化によって生じる便益の発生空間の相違を指摘し
ている。くわえて、困難性は、両者の物品の性質の相違に由来すると考えられる。つまり、
IT 物品とは、戦後、先進国の高い購買力を市場して開発されたものであり、途上国にはそ
の需要が存在せず、したがって、産業基盤は存在しかなかった。事実、近年の中国などの
アジアの途上国にみられる IT 物品の輸出の伸びは、先進国の多国籍企業によって移転され
た工程によるものであり、多国籍企業によって与えられた貿易構造といえる。一方の環境
物品は、最先端のクリーナー技術が体化された物品などは例外であるものの、国内の固有
の環境問題対策用に作られた品目やさらに EPP などに関しては、もともと国内に需要が存
在していた。したがって、各国内に産業基盤が存在する。以上より、IT 物品の貿易自由化
は、途上国内の産業に悪影響を及ぼす可能性が相対的に低い。しかし、その一方で環境物
品の自由化は、途上国内の産業に悪影響を及ぼす可能性が相対的に高いと考えられる。事
実、上記の通り、途上国は国内産業の保護・育成を考慮し、先進国の同質のコミットメン
トに反対していた。したがって、ITA 方式の採用は一筋縄ではいかないと考えられる。第 2
に、政府調達協定にみられる複数国間貿易協定である。複数国間貿易協定とは、WTO 協定
の附属書四に含まれるものであり、一括受諾方式の対象外である。この方式であれば、DDA
24
の結論とは独立して発効が可能であり、途上国は参加を強制されない。参加を熟慮する時
間が十分に与えられるとともに、参加国がクリティカル水準ル(Clitical level)に達した場合、
改めて一括受諾方式に統合することも可能である(World Bank[2008])。
しかし、いずれにしても、CDM の対象国である途上国の自由化が限定的であるならば、
気候変動問題の貢献は限られたものに留まらざるをえないだろう。
(2)技術の普及
技術の普及に関しても、先進国間の貿易自由化によってその効果の実現が期待される。
ただし、貿易データからも確認された旺盛な輸入需要を持ち、環境技術の普及の余地が大
きいと考えられる途上国が限定的であるならば、技術の普及効果は限られてしまう。
また、技術の普及に密接に関連する問題が、品目リストの更新問題である。OECD[1996]
の指摘にあったように、今後次々と新しい環境物品が開発されると考えられる(また、そ
うでなければならない)
。つまり、既存の環境物品の先端性を相対化させるように新しい環
境物品が誕生し、両者は絶えず共存することになる。したがって、品目リストの更新は不
可欠な課題である。しかし、更新手続きに関しては、EC(TN/TE/W/47)やニュージーラ
ンド(TN/TE/W/46)、環境物品フレンズ(JOB(07)/54)などがその必要性について言及
しているものの、具体的方法は、詰められていない。その背景として、更新の具体的に方
法を論じる際に、環境物品の特定化方法または定義に関する議論が不可避であるからと考
えられる。しかし、ITA の先駆的事例は、われわれに、更新手続きの明確化の必要性を訴
える。ITA においても、品目リストの更新の必要性が強く認識され、また宣言(WT/(96)/16)
においては 3 年ごとの品目リストの更新が明記されていた。実際、追加の品目に関する提
案がわずかながらあったにもかかわらず、1996 年以降、まったく品目は追加されていない。
また、2008 年の EC の ITA 製品課税問題も記憶に新しいところである。これは、EC が ITA
の対象物品について、技術進歩による多機能化・高機能化を理由に、ITA 対象外として
高関税を課したことに対して、日本、米国および台湾が WTO パネルの設置を求めた問
題である。したがって、品目リスト更新について、実効性のある手続きが求められよう。
つまり、環境物品の普及は、市場メカニズムに依存するのに対して、品目リストの選定
過程は、あくまで人為メカニズムに依存するものであることを忘れてはならない。
(3)技術開発の誘発効果
第 3 に、技術開発の誘因効果という点に関しては、残念ながら検討できる材料が極めて
限られている。根本的イノベーションおよび増分的イノベーションは需要要因に影響を受
けると考えられるため、環境物品市場の安定的拡大は、技術開発の誘発効果となりえよう。
25
Ⅵ.
むすびに
本研究の検討の結果、現状の環境物品交渉の構図が、自由貿易の推進と S&D の実現とい
う南北対立の構造を有しており、WTO の構造的特質を反映した議論から古くて新しいテー
マに回帰したことを明らかにした。
また、現状の交渉の構図から、環境物品の自由化に内在する環境効果についての政策的
示唆を確認した。先進国間の対立が非表面化した今日、途上国を原則対象外と自由化方式
は、貿易自由化を実現するもっとも可能性高い選択肢であるといえる。その結果、気候変
動問題への貢献および技術の普及面で一定の成果を上げられるといえる。しかし、その半
面、CDM の対象国であり、潜在的に技術普及の余地が大きいと考えられる途上国の不参加
は、気候変動問題への貢献および技術の普及効果を限定的にすると考えられる。
最後に、今後の課題を記して結びとする。第 1 に、市場的手段の環境効果の充実である。
本研究はあくまで政策的示唆に留まったが、より詳細な環境効果の分析には、計量分析を
用いた定量的分析が必要であろう。第 2 に、本文でも述べた通り、技術移転の経路につい
て定性的な検討である。環境物品の貿易自由化が実現していない現状では事例は限られて
いるものの、現地企業および多国籍企業の適応過程を含めた検討が求められる。
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1
鳴瀬[1989]は、GATT 体制の存続理由を、GATT 体制がもともと「背骨を欠いている」ことに求め
ている。
2 詳しくは、外務省の HP(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/kankyo/informal_0712.html9)
(accessed 09.6.8)を参照されたい。
3 なお、代表的な定義として、OECD、UNCTAD の定義がある。OECD は、
「環境リスクを減少させて、
資源使用と汚染を最小化するための洗浄技術、産品およびサービスを含み… 水、大気、土壌への環境損失、
ならびにエコシステム、騒音、廃棄物と関連する問題への、測定、防止、 制限、最小化あるいは修正する
ための物品およびサービスを生産する諸活動」
(OECD/Eurostat[1999]p.9)と定義している。分析用に
設けた定義であるため、意図的に対象を広く把握できるものとなっている。UNCTAD では、環境物品の
定義として、①環境サービスを経由して提供されるもの、②環境サービスとして提供されるものの 2 つを
あげている。具体的には、前者が、環境サービスを届けるために不可欠な物品(例、廃水処理・廃棄物管
29
理)であり、そして後者が、貿易相手の他の同様の産品より、「環境上望ましい産品(Environmental
Preferable Product:EPP)」である(UNCTAD[2004])。EPP とは、
「同様の目的をもつ代替品よりも、
産品のライフサイクルの各ステージにおいて環境に対してあまり深刻な害を及ぼさない産品、または環境
保全に著しく貢献する販売と生産という特質をもつ産品」
(UNCTAD[1995]pp.5-7)をさす。UNCTAD
の定義は、環境物品そのものを定義したというよりも、環境サービスとの関連のなかで環境物品の性格を
明確化したものといえよう。
4 環境サービス交渉に関しては、たとえば、日野[2005a]pp.4-7 などを参照されたい。
5 詳しくは、日野[2005a、2005b、2007a]を参照されたい。
6 EC とは、EU が WTO 加盟の際に登録した名称である。したがって、EU は、WTO の公式文書では EC
と記される。
7 以下の考察に関して詳しくは、日野[2009]を参照されたい。
8 このような発想は、Kapp[1950]などにみられる。
9 World Bank[1992]が示した環境クズネッツカーブの 3 つの形状を構成する、それぞれの環境問題に
は、異なる被害原因が存在する。
10 このような発想は、OECD[2002]が提示した環境問題に関連する「消費」の定義にみられる。この定
義は、マクロ経済学の概念としての消費という消費者の購入行為に焦点をあてるものでも、
「消費者に効用
を与える基本要素の破壊」
(Marshall[1920])という使用行為でもなく、
「(消費に関する)消費者の一連
の行動」を把握するものである。つまり、消費に関する消費者の一連の行動を、物品およびサービスの選
択・購入・使用・維持・修繕・廃棄の過程として把握し、それぞれの活動の質的転換を図る必要があると
述べる。
11 国家間の関係性の視点の重要性に関して、たとえば高橋[2006]は、
「世界経済の歴史的・動態的認識
を可能にするもの」(p.45)であると述べる。
12 そのような研究成果として、たとえば Daly and Farley[2004]などがある。
13 環境効率とは、人間の欲求を満たすために生態資源が用いられる効率をさすものである。理念的には、
ある経済主体が、自身の欲求を満たすために、特定の目的を達成するために行った経済活動の結果である
「産出」を、経済活動に必要な資源および経済活動の結果排出される汚染物質などの環境への負荷である
「投入」で除した割合で示される。詳しくは、OECD[1998]を参照されたい。
14 「市場的手段」によく似た政策手段として、
「経済的手段」というものがある。この手法も市場メカニ
ズムを利用するものである。ただし、政府の介入策であるという点で市場的手段とは性質が異なる。もっ
とも、Stavins[2001]や Anderson and Sprenger[2000]などのように、市場的手段は、市場そのもの
に働きかける政策を包含できるため、経済的手段よりも射程の広い用語として使用される場合もある。な
お、WEO(世界環境機関)が存在しない今日の国際情勢において、現実的観点から、国際的に実施可能な
国際環境政策は次の 5 つである。第 1 に、被害原因を禁止させる「禁止的手段」
、第 2 に、越境的な被害原
因の情報を管理する「越境管理手段」、第 3 に、市場メカニズムを活用する「市場的手段」、第 4 に、各国
間で到達目標を定め合意する「枠組規制的手段」、第 5 に、政府と企業が合意して実施される対策である「合
意的手段」である。現状においては、経済的手段を用いた国際環境政策は存在しない。詳しくは、日野[2009]
を参照されたい。
15 たとえば、
パソコン価格の低下は、パソコンの普及を通じた情報技術を普及させる契機をもつ。ただし、
パソコンの普及は、消費者および企業における情報技術の利使用の定着を必ずしも意味しない。なぜなら、
パソコンの利使用には、ブラインドタッチなどの習得をはじめとした利使用者の知識が必要であり、また、
その日常的な活用には、主体の行為の見直しが必要となるからである。Mytelka[2007]も、技術の普及
が自動的に技術の移転を意味するわけではないと述べる。ただし、技術移転はもっぱら企業や組織を対象
とした用語である。環境技術の普及および移転に関するより詳しい議論は、別稿で行うことにする。
16 OECD[1996]は、今後 15 年間使用されるであろう品目の半分は現在していないと推計している。
17 独自に品目リストを作成していながら、環境物品フレンズに加わっていないのは、作成形式が異なるリ
ストを作成した、カタールだけである。なお、カタールリスト(TN/TE/W/19, TN/MA/W24)の目的とそ
の性格については、たとえば、日野[2004]を参照されたい。
18 EPP については、本研究の注 2 を参照されたい。
19 ま た 、 ノ ル ウ ェ ー は 、 気 が 進 ま な い と し な が ら も PPM 基 準 を 扱 う こ と に 異 議 は な い と 述 べ
て い た ( TN/TE/R/9)。
20 農 業 分 野 に 関 し て は 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド リ ス ト の 初 期 リ ス ト に も 提 案 さ れ て い た 。
21 詳 し く は 、 天 野 [ 2003] な ど を 参 照 さ れ た い 。
22 ちなみに、環境サービスはサービス貿易理事会の特別会合(Council on Trade in Service Special
30
Session:CTSSS)にて行なわれている。
23 も ち ろ ん 、統 計 細 分 に 関 す る 運 用 上 の 課 題 は 、HS 分 類 の 充 実 に よ っ て や が て 解 決 し て い く 問
題 と い え る 。実 際 、HS2002 の 改 訂 で は 、取 引 額 が 少 な い に も 関 わ ら ず 、環 境 問 題 に 関 す る コ ー
ド が 設 け ら れ た 。 ま た HS2007 の 改 訂 で は 、 さ ら に 環 境 問 題 が 重 視 さ れ 、「 環 境 に 優 し い 物 質 」
などのコードが新設された。
24 日野[2007a]では、
「計画アプローチ」と呼んでいた。分析当時は、WTO 文書のなかに「統合アプロ
ーチ」の表現は一般的に用いられておらいなかったため、アプローチの性質から判断して「計画アプロー
チ」と命名した。両者は同一のものであるが、WTO 文書のなかで前者が用いられているため、前者で表記
を統一することにする。
25 EPA と統合アプローチは、コミットメントの対象となる物品の選定方法に相違がある。詳しくは、た
とえば、日野[2007a]を参照されたい。
26 その一方で、実物経済を規定するグローバル生産システムの形成は、所有関係の有無に関係のない国境
を超えたリンケージを形成し、生産行為のみならず、研究開発活動・部品調達・流通行為などを国際的に
分散させる。システム内部に統合化される企業は、濃密な学習の機会を提供されるため、地位向上の契機
をつかむことができる。グローバル生産システムと貿易については、たとえば、石田[2007]を参照され
たい。
27 別稿で詳しく論じたい。
28 たとえば、上述した、OECD、UNCTAD の定義など。
29 その他では、
「バスケットアプローチ(basket approach)」を提案している。ブラジルによると、品目
に関するポジティブリストである。ただし、ブラジル自身は、あくまでセカンドオプションと述べる。
30 唯 一 の 例 外 が 、 カ タ ー ル リ ス ト で あ る 。
31 OECD リストおよび APEC リストについて詳しくは、日野[2005a]や Steenblik[2005a]などを参
照されたい。
32 Lafay の RCA 指数を用いた分析として、たとえば石田[2006]がある。
33 ただし、特定の品目に注目すればその限りでもない。UNCTAD[2003]によれば、EPP の多くの品目
に関しては、途上国に国際競争力がある。ただし、EPP の輸出額が環境物品貿易の全体額に占める割合は
10%未満であるため、途上国の貿易収支への貢献度は限られる。
34 「コア・補完リスト方式」
、「共通・開発リスト」方式の詳細および相違に関しては、日野[2004]を参
照されたい。
35 ただし、当然ながら、反対意見も存在する。たとえば、キューバは、バイオ燃料の原料となる一次産品
貿易の活発化は、一次産品の国際価格を高騰させてしまう懸念があり、途上国に安全保障上の問題を発生
させる懸念があるとして反対している(TN/TE/W/73)。
36 その他では、ペルーなども同様の提案をしている(TN/TE/R/21)
。
37 事実、後述する ITA(Information Technology Agreement:情報技術協定)においても、非関税障壁
に関する規定はない。
38 Jha[2008]によると、気候変動に関連する物品に限定されるが、実証分析の結果、それらの輸入に影
響を及ぼす要因として、関税よりも技術支援の方が、効果が高いとの結論を得ている。
39 ガバナンスボックスについて詳しくは、日野[2007a]を参照されたい。
40 なお、留意点であるが、当然ながら途上国の利害が完全に一致し、一枚岩であるわけではない。ただし、
それは、南北対立が熾烈を極めた、1960 年代においてもその例外ではなかった。また、同様のことは、先
進国間にも当てはまる。南北対立に注目する意義は、途上国間または先進国の対立を強調する以上に、WTO
交渉の現構図を把握できる点に求められる。
41 詳しくは、WTO の HP(http://www.wto.org/english/news_e/news07_e/symp_ita_march07_e.htm)
(accessed 09.7.21)を参照されたい。
31
Fly UP