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民事労働事件と高等裁判所
民事労働事件と高等裁判所 民事労働事件における高等裁判所の概況 田 信 義 民事労働事件と高等裁判所 七一︵七一︶ 二 ところで、この一般的状況を全国八高等裁判所別に分類すると、およそつぎのような結果となる︵第一表参照︶。 いて、かなりきびしいものがあることを指摘できるようにおもわれる。 と、数率的な接近がみられる。したがって、ここから、わが高等裁判所の一般的状況は、労働者がわの権利主張につ 治体をふくむ︶がわの申請にかかる二二〇事例については、勝訴数五五事例︵四二・三%︶・敗訴数七五事例︵五七・七%︶ 例︵二〇・二%︶・敗訴数九九事例︵七九・八%︶と、数率的な懸隔がはなはだしいのにたいして、使用者および国︵地方自 は一五八事例︵五二・三%︶となっている。しかも、労働者がわの申請にかかる二四事例については、勝訴数二五事 四事例を労働者側勝訴のものと、使用者側勝訴のものとに分類すると、前者は一〇五事例︵三四・二%︶であり、後者 馳 ここで検討の対象とされる高等裁判所の諸事例は、﹃判例集﹄掲載のもので、総数三〇四事例である。この三〇 ︵1︶ ︵2︶ 島 1 0 ヱ 0 0 2 11 0 0 2 0 1 14 ・583 1 ユ 34 2 0 0 4 2 0 8 ・235 1 0 0 0 2 3 14 0 0 6 0 0 2Q ・588 3 3 6 0 0 0 工 0 1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 o 7 0 1 4 0 0 O O O O O 0 2 0 0 工 0 0 3 4 1 D D 3 0 0 8 札 幌 12 ・480 11 9440 2 0 0 0 5 王 0 ユ5 158 ・520 説︵島田︶ 2 G O 5 0 0 3 0 0 6 2 0 ︵計︶ 10 ・476 9 ︵計︶ 10 0 0 0 0 0 25 99 0 348 7 1 2 2 工 (24) 26 1 1 1 0 0 0 0 値 台 1 0 0 5 0 0 0 8 ・381 7 ・292 高 松 ︵計︶ 2 2 4 G O 4 0 0 2蛋 福 岡 6 0 2 工2 6 1 ユ 21 広 島 ユ05 ・345 36 ・522 26 ・378 (68) 25 1 3 磁 11 ユ 14 0 0 21 1 0 名古屋 304 5 5 6 5 0 ユ 18 2 0 大 阪 (300) (計) 6三 ・536 69 ( ×琶 労 中 地使 国 社 ● ● ● O O O △ △ △ △ △ 論 41 0 2 12 6 0 2 0 1 6 4 ユ3 35 ・307 114 8 ユ 2 19 4 工 (112) 東 京 第1衰 労 中 地使 国 労 中 地使 国 社 O O O ● ● ④ 、総数 〔備考〕・()内は実数。 七二︵七二︶ まず、取扱件数一〇件以上の高等裁判所を労働老側勝訴率の高い順序で配列 すると、1仙台︵四四%︶、H名古屋︵三八・一%︶、皿大阪︵三七・八%︶、四 東京︵三〇.七%︶、V広島︵二九・二%︶、W福岡︵三二・五%︶であり、四位 以下が平均勝訴率︵ご西・五%︶以下となっている。つぎに、同様に使用者側 勝訴率の高い順序で配列してみると、1福岡︵五八・八%︶、n広島︵五八・三 %︶、皿東京︵五三・六%︶、W大阪︵五二・二%︶、V仙台︵四八%︶、W名古屋︵四七 ・六%︶であり、V位以下が平均勝率︵五二.O%︶以下となっている。 したがって、労働者側勝訴率が平均値より低く、使用者側勝訴率が平均値 より高いものとして、福岡・広島・東京の三高等裁判所があり︵第一グルー プ︶、双方とも平均値より高いものに大阪高等裁判所があるほか︵第ニグルー プ︶、前者が平均値より高く、後者が平均値より低いものとして、仙台・名 古屋の二高等裁判所があることがしれる︵第三グループ︶。ここでは、なによ りも、取扱件数の比率が三七・五%をしめる東京高等裁判所が第一グループ に、一ご丁七%をしめる大阪高等裁判所が第ニグループに位置することに注 目すべぎであろう。しかも、、この両裁判所の労働者側勝訴数︵六一件︶が、全 労働者側勝訴数︵一〇五件︶にたいする割合において五八・一%にもあたり、 また両裁判所の労働者側敗訴数︵九七件︶が、全労働者側敗訴数︵一五八件︶にたいする割合において六七・七%にもあ たるということじたいのうちに、いかに両高等裁判所の動向が、高等裁判所総体の労働者側勝訴率を低めるうえで、 つよい影響力をもちえたかをしりうるようにおもわれる。 ︵1︶ ここで使用された判例集は、﹃労働関係民事事件裁判集﹄一∼七号、﹃労働関係民事裁判例集﹄一巻一号∼二〇巻六号、﹃高 等裁判所民事判例集﹄一巻一号∼二二巻五号、﹃最高裁判所民事判例集﹄一巻一号∼二四巻二号である。 ︵2︶ 本稿のタイトルは、﹁民事労働事件﹂と表示したが、行政関係労働事件をもふくめて、その総数は三〇五件である。 この うち、五件ほど反訴がふくまれるので、その実数は、ちょうど三〇〇件にあたる。 二 原審判決との対比からみた高裁判決の態様 ︸ みぎにのべた高等裁判所における民事労働事件の一般状況、すなわち、労働者がわの権利保障にきびしく、使 用者がわの権利保障にあまいという動向は、さらに原審判決︵または決定、以下おなじ︶との対比によって、いっそうあ きらかとなるようにおもわれる。 全高等裁判所の判決︵または決定、以下おなじ︶において、原審判決と対比しうるものの総数は、二一八事例ある︵第 二表参照︶。この二一八事例のうち、原審において労働者側勝訴判決は、一〇六事例であり、また労働者側敗訴判決 は、一一二事例がみられる。 ところで、前者の一〇六事例について、高等裁判所で労働者側勝訴を維持されたもの︵A.D︶は、五六事例︵五二 民事労働事件と高等裁判所 七三︵七三︶ 第2表 七四︵七四︶ ・八%︶であり、労働者側敗訴に逆転されたものは︵A ・F︶、四三事例︵三九・六%︶である。また後者の二二 事例において、高等裁判所で労働者側敗訴を維持された ものは︵C・F︶、八九事例︵七九・五%︶であり、労働者 1 0 1 2 3 0 ・333 ・667 ・035 ・170 ・795 ・076 4 19 89 112 8 びしい態度を侍することを雄弁にものがたるもの、とい よりも、高等裁判所が労働者の権利保障に、きわめてき 0 敗訴判決へと逆転されたわけである。このことは、なに 8 たのにたいし、原審労働者側勝訴判決の四〇%ちかくが 5 原審労働者側敗訴判決のほぼ八○%ちかくが維持せられ 2 ︵一七%︶である。換言すれば、高等裁判所においては、 ・125 ・250 ・625 ・工43 1 1 ・857 6 ・500 ・500 56 42 ・528 ・396 二 つぎに、みぎの高等裁判所総体の動向を基礎とし 1 えるだろう。 ・143 ・857 7 2 106 て、各高等裁判所がいかなる態様をしめすかをながめて 7 仙 台 札 幌 みよう。第三表は原審における労働者側勝訴判決および 高 松 C・e冨敗訴一部逆転 0 (以下おなじ) 側勝訴に逆転されたものは︵c.D︶、わずかに一九事例 0 0 0 0 0 1 6 ・143 ・857 2 12 14 2 5 ・182 C・D=敗訴逆転 4 ・454 ・364 論 敗訴判決の総数を一としたばあいに、 高等裁判所のそれらがいかなる変化をしめすかをたしかめたものである。ま 広 島 11 福 岡 C。F=敗訴維持 ・077 ・077 ・846 ・375 A・e’一勝訴一部逆転琶 13 8 5 3 0 名古屋 ・625 1 1 ・072 ・286 ・642 1,000 11 備考〕 説 A・D=勝訴緩痔 A・F嚇訴逆転 島 1 4 14 9 0 0 3 0 ・567 大 阪 3 ・200 ・800 ・023 ・133 ・844 ・400 ・033 3 12 15 17 1 ・368 12 30 ・50G ・131 1 6 38 45 14 5 19 38 東 京 総 数 総 数 A・D A・F A・e7 一審労働者側敗訴 C・F C・D C・e 一審労働者側勝訴 第3表 3 4 7 2,333 14 広 .島 8 5 1 6 ・750 13 11 3 14 1,077 4 2 6 ・545 14 12 5 17 1,214 東 京 39 19 6 25 ・641 45 38 14 52 1,155 大 阪 30 12 3 15 ・500 15 12 17 29 1,933 民事労働事件と高等裁判所 二し 一 高 松 7 6 0 6 ・857 0 0 1 仙 台 7 6 2 8 1,143 8 5 1 6 .750 札 幌 2 1 1 2 1,000 3 2 1 3 1,000 ことを確言することは困難かもしれない。しかしそれ以外 るが、これは基礎数がすくないので、そうした傾向のある ず、双方に変化がみられなかったのは札幌高等裁判所であ 1,186 七五︵七五︶ 判所は、この場合にも一九三・三%と高率をしめし、福岡 か、他の高等裁判所はいずれも上廻っている。大阪高等裁 仙台の二高等裁判所が、原審判決の比率において下廻るほ これにたいし、労働者側敗訴判決のばあいは、名古屋・ 審勝訴判決の五〇%にしかあたらない低率さである。 る。大阪高等裁判所にいたっては、労働者側勝訴判決が原 ほか、東京・福岡・大阪などはいずれも平均値をわってい 率をひくめ、高松・広島がかろうじて平均値をうわまわる めているだけである。その他の高等裁判所は、いずれも比 台の二高等裁判所が、原審判決総数にたいする比率をたか すると、第一に労働者側勝訴判決のばあいに、名古屋・仙 ていどまでその傾向を推測できるようにおもわれる。そう の高等裁判所については、このていどの基礎数でも、ある 121 102 9 0 b−a b−a 3 11 ・701 75 107 .643 名古屋 福 岡 C・D 原審 総数 A・D (a) 9 二審 総数 (b) C・F A・F 原審 総数 (a) 二審 総数 (b〉 労働 者側 敗訴 労働者側勝訴 論 説︵島田︶ 七六︵七六︶ 高等裁判所とともに平均値を上廻っている。広島高等裁判所が平均値以下にあるのは、勝訴判決とただしく対応して いるが、東京高等裁判所は平均値以下にあり、勝訴判決とぎやくの対応関係をしめしている。 みぎの関係を労働者側勝訴判決につき高率、敗訴判決につき低率の順序で配列してみると、名古屋・仙台・札幌・ 広島・東京・福岡・大阪の順位となる。そして、この順位を第一表にもとづく配列と対比して、ただちにきずくこと は、大阪高等裁判所の順位がいちじるしく低下したことである。これは、ここで検討された事例が、原審判決と対比 しうるものだけに限定されたことにもよろう。しかし、決定的には、大阪高等裁判所における原審労働者側勝訴判決 の敗訴判決への逆転率が、五六・七%と高率をしめ、原審労働者側敗訴判決の勝訴判決への逆転率二〇%では︵第二 表参照︶、とうていカヴァーしぎれなかったことによるもの、とかんがえられる。 この原審労働者側勝訴判決からの逆転率が、順位の変動におよぼす影響は、平均逆転率が三九・六%からみてかな りつよい要素となっているのは、とうぜんであろう。他の高等裁判所のばあいにも、これとおなじことがみられるの も、このことをしめす証左である。すなわち、原審労働者敗訴判決からの逆転率は、札幌・名古屋・仙台・大阪・福 岡・東京・広島の順で低くなり、上記の順位と対応しないが、原審労働者側勝訴判決からの逆転率は、名古屋・仙台 ・東京・広島・福岡・札幌・大阪の順で高くなり、不定要素のある札幌を除外すれば、・上記の順位とほぼ対応関係を しめしているわけである。 三 そこで、つぎにこの原審勝訴判決からの逆転敗訴判決について、すこしく分析をくわえることとしよう。 1 仙台高等裁判所 ︵ まず、逆転率一四・三%の仙台高等裁判所の事例からみよう。ただ一つの逆転敗訴判決である東北電気製鉄事件 ︵昭二五㈲一一五号、昭二五・一二・二七判、労民集一巻六号一〇七一頁、谷本仙一郎・村木達夫・猪狩真泰裁判官︶は、緯合 員たる政党員による社宅・工場内外でのビラはり・掲示板設置その他の宣伝活動にかんするものである。原審判決 ︵盛岡地裁、昭二四㈲八六・昭二五㈹一四併合、昭二五・五・二四判、労民集一巻三号四六二頁、大竹敬喜・小島弥作・杉本正 雄裁判官︶は、ビラはりが数度の﹁不詳事﹂︵事故︶につき会社にたいし設備不完全を警告し、従業員の覚醒をうなが し、待遇改善の態度を強化するためになされたとはいえ、文言が矯激で公衆を刺激し、いたずらに会社への反抗を激 成するものとして正当な言動とはいえない。だが、これは通常解雇の原因となるにしても、就業規則所定の﹁事業経 営上己むをえない事由﹂による即時解雇の原因にはあたらない。また政党機関紙における﹁和歌川工場人民管理﹂の 記事も、それへの具体的実行に着手したことがない以上、たんなる政治的信条の宣伝にとどまり、労基法第三条によ り、かかる記戴を解雇事由となしえない、とするものであった。 この原審判決は、数度の事故により死亡者・重傷者をだしている状況のなかで、﹁人殺し工場﹂﹁一九の春を誰に奪 われたか﹂﹁資本家の怠慢により労働者犠牲となる﹂﹁組合員よ起て、戦え、共産党を先頭に﹂等々のビラが、労働者 として不当な言動となるかの間題をのこしてはいるが、総じて﹁凡そ非合法的行動の伴わない理論宣伝︵前記﹁和歌川 工場人民管理﹂の記事︶に付ては社会各個人の自由判定に委すべく、被申立人︵使用者︶がその為或種の影響︵取引停止 金融杜絶など︶を受くることありとするも、かかる合法的な影響は之亦各人の甘受すべぎところで、之を捉えて右就業 規則の規定に該当する解雇事由と認めることは出来ない﹂︵括弧内日筆者︶との主張にもみられるように、基本的人権 民事労働事件と高等裁判所 七七︵七七︶ 論 説︵島田︶ 七八︵七八︶ にたいする配慮と言論にたいする寛容性を失していない内容のものであった。 これにたいして、高裁判決は、﹁人民管理﹂の記事は、当時の社会情勢︵﹁いわゆる九月革命説の流布、松川事件.平事件 三鷹事件等の発生、広島日鋼その他に騒擾ストの頻発等﹂︶をあわせかんがえれば、工場の経営組織を変革しようとする具 体的意図の表現であって、﹁事業経営上己むをえない事由﹂による解雇にあたり、政治的信条をとうた解雇ではない。 またビラはりにより職場規律が馳緩し、能率が低下し、事業経営に不安・支障をきたすおそれがあるため、解雇がや むをえないとみとめられるようなばあいには、みぎの事由にあたるとするのが相当であるとして、原審で取消された 使用者がわによる仮処分決定︵従業者たる地位停止︶を認可している。 この高裁判決の特徴は、解雇有効性の結論を﹁合理化﹂するために使われた﹁事業経営上己むを得ない事由﹂が、 労働者のビラはり・宣伝活動とそれによる結果の実現︵共同管理・職場規律の馳緩等︶という客観的事実の媒介なしにも ちいられた点にある。その結果として、この判決では、基本的人権の保障とか、言論にたいする寛容性への配慮がす っかり影をひそめ、経営の論理にたいする配慮のみが、判決全体をおおいつくす結果となったわけである。 2 広島高等裁判所 ︵ その逆転率は三七・五%であり、事例は三件ある。 i 第一は、中原炭鉱労災補償審査決定取消事件︵昭二八㈲一五八号、昭二九・四・八判、労民集五巻二号一九七頁、植山 ︵ 日二・佐伯欽治・松本冬樹裁判官︶で、杭木をかかえたまま転倒して負傷したものが、その後負傷のためこうむった精神 的打撃と、負傷についての精神的煩労が原因となってひきおこした外傷性神経症につき、労災保険審査会が業務上の 疾病でないとの理由で、申立不認の決定をなしたことをあらそうものであった。 原審判決︵山口地裁、昭二八桁一四号、昭二八.七.三〇判、労民集四巻六号一二七九頁、河辺義一.権橋茂夫.宮崎富哉裁判官︶ は、外傷性神経症が本件程度の業務上の負傷のばあいに、受傷者のだれもが惹起すものでなく、またつねに業務上の 負傷を直接原因としておこるものでないことをあきらかにしながら、だが﹁労働保護立法の一環として特段の事情あ る場合を除くの他原因の如何、責任所在の如何を問わず凡そ労働者が業務に関係して労働能力の減退乃至喪失を惹起 した場合迅速且つ公正に当該労働者及びその家族の生活保護乃至労働能力の回復を計ることを目的とする労働者災害 補償保険法の精神に鑑みるときは前記の事実を以て直ちに器質的病変を有しない外傷性神経症は一般に業務上の負傷 と相当な因果がないと言い去ることはできない﹂となした。 この原審判決を取消した高裁判決は、外傷性神経症と負傷とのあいだの相当因果関係の存在をみとめながら、それ が労災補償保険法・労働基準法・同法施行規則上の﹁負傷に基因する疾病﹂というより、むしろ負傷治療後に残存す る神経機能障害であり、障害補償費の給付対象となっても、休業補償費の給付対象とならない、となすにいたった。 この高裁判決の判断の当否は、いまにわかにぎめられないとしても、あぎらかに指摘しうる点は、高裁判決のどこ からも、原審判決にみられる労働者保護法の精神にたいする考慮がうかがえなくなっていることである。精神ぬきの たんなる技巧的解釈が、ブルジョア法体系のもとで、労働者の生活や権利にたいする配慮を欠落させてしまうのは、 “1 1 第二に、山陽電気軌道事件︵昭三九㈱一一七号、昭四〇.九.一三判、労民集一六巻五号六一二八頁、松本冬樹.浜田治・ きわめてとうぜんなことでもある。 民事労働事件と高等裁判所 七九︵七九︶ 論 説︵島田︶ 八○︵八O︶ 長谷川茂治裁判官︶であるが、公選法違反等の刑事罰が確定した労働者にたいする懲戒処分︵諭旨解雇︶の効力があらそ われたものである。原審判決︵山口地裁下関支部、昭三七㈲八七号、昭三九・五・八判、労民集一五巻三号四五三頁、渡辺伸平 裁判官︶は、即時解雇をみとめる労働基準法第二〇条一項但書後段の﹁労働者の責に帰すべぎ事由﹂とは、解雇にあた り予告ないし予告手当支給の必要ないていどに重大な背信的行為が労働者にあるばあいを指し、本件のように企業外 のできごとで刑事罰をうけ、企業の名誉を損傷したような広義の義務違反のばあいも、それは﹁企業の信用を或る程 度左右し、経済的な面での影響も無視でぎない程度に重大な場合に限定﹂すべきであり、申請人らの刑事罰が即時解 雇に価するほど重大なものといえない。また﹁解雇権の発動は少くとも労働者の義務違反が重大で企業の経済的成果 への影響も無視できず、当該労働者を企業内に依然存置するにおいては企業経営の円満な遂行が阻害される虞がある 場合にのみ限定して認むべきもの﹂であり、刑事罰が申請人の現実の業務執行になんら支障もなく、運転手としての 正常な業務執行の人格的適応性を否定しなければならないほどのものでもなく、申請人らが刑事罰をうけたことによ り、 ﹁私企業として経済的又は経営秩序維持の面で営業上受ける影響は殆んど皆無であると推認されること﹂などを 勘案すると、懲戒権の適正な行使をあやまったものとして解雇は無効である、と判示したものである。 高裁判決は、使用者が懲戒権発動にあたり所定懲戒方法のいずれを選ぶかは、社会通念にてらしていちじるしく妥 当性をかかないかぎり、使用者の自主裁量にゆだねられていると前提して、本件諭旨解雇処分は﹁いささか苛酷の嫌 いがないでもないが﹂、刑事事件が選挙犯罪として悪質のもので、従業員としての適格性に疑をもたしめるていどの ものであり、また新聞に報道されて世間の注目をもひいている。してみると、会社が﹁これを放置すれば他の従業員 に悪影響を及ぼして職場規律を乱すおそれがないとはいえないから、解雇処分をもって臨んだのも無理からぬことと も思われる﹂。のみならず、支部組合との争議妥結協定で、組合提案どおり、懲戒解雇が諭旨解雇にあらためられた 経過にてらすと、関係者問では被控訴人らの所為が、すくなくとも諭旨解雇に価するものとかんがえられていたこと が疏明せられる。よって、みぎ諭旨解雇は、社会通念にてらし、いちじるしく妥当性をかくものとは解せられない、 となしたわけである。 いうまでもなく、本件解雇は、高裁判決もいうような、﹁いささか苛酷の嫌いがない﹂でもない事情と、﹁無理から ぬこととも思われる﹂事情との背反する状況のうえでなされたものである。原審判決は、刑事罰が申請人らの従業員 の適格性をうしなわしめるていどのものではなく、他の従業員に悪影響をおよぼし職場規律を乱すおそれがないとし て、前者の事情をおもくみたのにたいし、高裁判決はまったくぎゃくの評価にたって、後者の事情をおもくみたわけ である。だが、このばあいに、どうかんがえても、公選法違反等の犯罪行為が、新聞報道による世間の注目をひいた 事実を媒介としても、ただちに﹁職場規律﹂の素乱へとむすびつく客観性は、いちじるしくとぼしい。これが直結す るとかんがえうるには、やはり使用者の懲戒権行使の自由をおおはばに許容して、経営秩序維持に労働者の権利を従 属さすべきことに価値をおくかんがえかたが前提とされなければならない。この高裁判決は、まさにこのことをはっ きりさししめしたもの、ということができよう。 ⋮m 第三は、下関電報局事件︵昭四一㈱二七九号、昭四二・二・一六判、労民集一八巻六号二五五頁、宮田信夫.辻川利 ︵ 正・裾分一立裁判官︶で、政党演説会に右翼がなぐりこんだ際に、状況撮影中の巡査にたいし暴行傷害をくわえたかど 民事労働事件と高等裁判所 八一︵八一︶ 論 説︵島田︶ 八二︵八二︶ で起訴されたものが、公社のなした休職処分をあらそったものである。一・二審判決とも、本件刑事事件の事案が軽 徴なものでないとの点では軌をいつにする。だが、それにもかかわらず、原審判決はみぎ犯罪が偶発的なものであ り、職場外でおこなわれ、かつ申請人の職務上の誠実性にたいする評価とかかわりないこと、公社業務が公共性をお びるとはいえ、職員の身分上のとりあつかいが公務員とおなじでなくてもよいこと、休職処分が実質上不利益な処分 であること等々から、休職処分の必要性が稀薄であると判断したのにたいし、高裁判決は前記事情を考慮にいれて も、本件が情況のとくにかるいばあいにあたるとみとめず、休職処分にふすべぎだとした局長の判断に、裁量権の逸 脱があったとみと め え な い 、 と 判 断 し た の で あ る 。 原審判決で考慮され一定の評価をうけた事情が、高裁判決ではまるで評価されなかった原因は、懲戒処分︵休職処 分︶の使用者による恣意的適用を制限しようとする観点から、有罪判決の確定まで申請人を職場にとどまらせること が、﹁職場の体面を著しく損い、その他労働秩序を乱す結果を招くものとは認められない﹂し、また﹁被申請人の名 誉・信用を損う事情があるものとは認め難い﹂となした原審判決の認識に、おもいいたらなかった点にあるようであ る。この意味において、この高裁判決も、使用者による懲戒権行使一秩序維持に一義的な価値を承認した判決であっ た、といえよう。 3 東京高等裁判所 ︵ ︵1︶ その逆転率は三六・八%であり、一四事例がかぞえられる。この一四事例のうちには、逆転もやむをえないとみら れないではない事例も存するが、その大部分は逆転について首肯しえず、あるいはすくなくとも疑義のあるものばか ︵2︶ りである。以下に代表的な若干の事例をあげて、検討をすすめよう。 の まず、国鉄仲裁裁定事件︵昭二五墜二三号、昭二五・五・二四判、労民七号二一三頁、裁判官不詳︶である。この高裁 判決は、仲裁裁定にさだめられた四五億円のうち、既払分一五億五百万円をのぞく残額についての支払義務の存在を 前提として、任意の履行を命じた原審判決︵東京地裁、昭二四図三五五八号、昭二五・二。二五判、労民七号一六一頁、裁判 官不詳︶を、残額がいっさい公社の予算上・資金上不可能な資金の支出を内容とし、かつ国会の承認のないことを理 由にこの部分の裁定に効力がしょうじないとして、取消すにいたったものである。 原審判決と高裁判決との解釈上の主要な対立点は、前者が裁定について国会の不承認があったばあいにも、その性 質と内容にかんがみ、後日公社の資金をもってまかなえるようになったとぎ履行しても目的を達しうるのだから、国 鉄労組と公社間では法的規範として有効に存続すると解したのにたいし、高裁判決がそうは解しなかったところにあ る。そして、この解釈の差異をみちびきだした根底には、労働基本権にたいする理解の仕方に、決定的な差異があっ たということである。 原審判決は、﹁争議権は労働者がその生存を維持するための重大な権利﹂であり、﹁公共の福祉を以ってしても、生 存権の保障なくしては、労働基本権を奪い、または、制限し得ない﹂。公労法が争議権剥奪の代償として仲裁制度を みとめることにより、職員の生存権保障をこころざすのも、みぎの理由にもとずく。同法第三五条但書︵予算上.資金 上、不可能な資金の支出を内容とする裁定につき、国会の承認を必要とする︶は、仲裁裁定に重大な制限をかするが、これに より仲裁制度の機能をそこなうよう解釈してはならない。﹁もし、いかなる解釈によっても、仲裁制度がその機能を 民事労働事件と高等裁判所 八三︵八三︶ 論 説︵島田︶ 八四︵八四︶ 果し得ないとするならば、本法は明かに労働基本権ないし生存権を保障する前記憲法の諸条項に違反すると断ぜざる を得ないのである﹂とまでいいきっている。 これが高裁判決になると、﹁国鉄の職員に争議行為が禁止されているのは、国鉄が公共企業体として有する公共的 性格の度合が強く、大規模な争議は、国民の生活を危殆に陥れ国民全般の生存権を脅かす虞れがあるというところか ら出ているのである﹂と、まったく労働者の生存権・労働基本権︵とりわけ争議権︶保障への配慮を無視し、あとは国 鉄の財政能力や大蔵大臣の予算流用の自由採量権などをうたっているにすぎない。 なによりも、この事件は、労働者的権利の具体的な擁護にあたり、労働者の生存権・労働基本権保障にたいする理 解の深浅が、決定的な要因となることをいかんなくさししめしたものといえよう。労働者側勝訴から敗訴への逆転判 決は、このような生存権・労働基本権保障の無視ないし軽視のうえによってたっているわけである。 鋤 第二に、千代田丸事件︵昭三四㈱九〇二号、昭三八・六・二四判、労民集一四巻三号八五〇頁、鈴木忠一.菊池庚子三. ︵ 加藤隆司裁判官︶で、李ライン内の海底電線修理のための出航命令を拒否させたことが、公労法第一七条違反の争議行 為をあおり、そそのかしたものとして解雇された組合役員が、解雇の効力をあらそったものである。問題は、かかる 危険海域の工事におもむくことが、千代田丸乗組員の労働契約上の義務であったかどうか、という点であった。 原審判決︵東京地裁、昭三二⑰七九九六号、昭三四。四・二判、労民集一〇巻二量二七七頁、桑原正憲.大塚正夫.石田穣一 裁判官︶は、朝鮮海峡における海底線工事は、千代田丸乗組員の通常の労働環境とはことなった危険な環境でおこな われるので、その労働はそのつど労使の団体交渉により妥結する条件をもって、労働条件とする約旨であった。だか ら、団体交渉の妥結をみぬままだされた出航命令は、労働契約内容の変更のこころみだが、それが可能なのは、けっ きょく労働者の同意の有無にもとめざるをえない。ところで、本件工事は、公社や千代田丸乗組員が﹁いかに注意し ても、なお生命身体に対する危険が絶無とはいえない海域における工事なのであるから、千代田丸乗組員は自己の満 足する労働条件ならば格別、それ以外の条件ではそんな危険にさらしてまで自己の労働力を売っていないと見るのが 社会通念上むしろ通常である﹂ので、みぎ変更に同意したとみとめられず、けっきょく労働条件未定のまま危険海域 に出航する義務が乗組員にあったとはかんがえられない、としたものである。 これにたいし、高裁判決は、公社が発足当初から、本件海底線修理工事をその業務範囲となし、公社法第三条に規 定する業務および公社の職制・分課規程にいう海底線のうちには、本件海底線もとうぜんふくまれると解すべきであ り、また千代田丸は公社所有の海底ケーブルの布設・保全業務に従事し、進水以来おもな行動海域は九州南部・北部 海面・目本海等であり、その範囲内ではとくに工事区域に拘束なく、固定した受持区域もなく、命令により出航して 業務に従事していたこと、本件現場はみぎ航行区域・行動海域のうちに位置することがみとめられるので、本件海底 線修理に従事すべきは千代田丸乗組員の労働契約上の義務である、としている。そして、判決は被控訴人らが本件修 理工事には日本側の努力をもってしても予防しえない危険があることをしめした事例について、それらは修理のため 現場に出航することをこばみ、契約上の義務の強制をゆるさないていどの危険の存在とみとめえないとしりぞけ、一 定の護衛措置と公社案にしめされた特別措置による給与︵組合は承諾していないー筆者︶により、乗組員の﹁相対的・ 主観的な危険感﹂にたいする保障措置がこうぜられたものとみとめられるから、乗組員の出航義務にはなんら消長を 民事労働事件と高等裁判所 八五︵八五︶ 論 説︵島田︶ 八六︵八六︶ ぎたさなかったというべぎである、となしたわけである・ 労働契約において、労働者が売りわたすものは労働力であって、労働者の生命ではない。この自明であるはずの近 代的労働契約の原理が、高裁判決の手にかかると、しかく明瞭ではなくなる。このことは、高裁判決が、公社の労働 関係を労働者の人身支配をもゆるすような﹁特別権力関係﹂と意識しながら、一方で労働者の職務専念義務に不当な おもみをおぎ、他方で業務命令の絶対性にたかい価値をみとめたことの結果にほかならないようにおもわれる。判決 が労働者の義務性を論ずるにあたり、公社法・職制規程・分課規程の形式的解釈からはじめたことは、まさにみぎの ことを端的にものがたっている、といえよう。 しかも、判決は業務命令の絶対性に幻惑されるのあまり、労働者がわの立証した危険事実さえ、適切に評価しえな い誤りをあえておかしたのである。最高裁判決︵後出︶により、この高裁判決が破棄されるにいたったのも、まさにこ の点の誤認に起因するものであった。 揃第三に日本食塩事件︵昭四二㈱五五一号、昭四三・二・三二判、労民集一九巻一号一三四頁、毛利野富治郎・加藤隆司・ G 矢ヶ崎武勝裁判官︶であるが、組合規約にも規定されていない﹁離籍処分﹂をうけた組合員を、使用者がユニオン・シ ョップ協定にもとづぎ解雇したことが、あらそいのひとつとなったものである。この点、原審判決︵横浜地裁、昭三九 ⑨六〇六号、昭四二・三二判、労民集一八巻二号一三九頁、森文治・柳沢千昭・門田多喜子裁判官︶は、離籍処分を実質的除 名であるとし、除名の正当理由もなく、適法手続にしたがわないことを理由として無効となしたうえで、ユニオン・ ショップ協定にもとづく解雇が有効であるためには、それが団結権擁護のためになされることが必要であり、亦っ解 雇は労働組合にたいする使用者の協力義務の履行としてなされるのであるから、除名が無効であればみぎの協力義務 は発生せず、無効の除名にもとづく解雇は団結権擁護に無関係の解雇で、﹁労働組合法の精神に反し、解雇権濫用﹂ である、となした。 高裁判決は、がんらい使用者は法令・労働協約の規制あるばあいをのぞき解雇の自由をもっと、大上段にふりかぶ って、シ・ップ制は組合の統制力強化に目的があり、組合の自主性を尊重して、除名の有効無効は使用者の調査すべ き事項でなく、除名通告あれば使用者において解雇すればたり、これによってしょうじた被解雇者の損害は組合との あいだで決せらるべきもの︵除名無効ないし損害賠償の訴︶である、とぎりすてている。 本件で解雇の原因となったものは、組合規約にもさだめない﹁離籍﹂であって、﹁除名﹂ではないづし売がって、 この離籍処分には法的意味がみとめられるはずはなく、ましてユニオン・ショップ適用の問題などおこりうるもので はない。高裁判決のように、いくら使用者による解雇が自由だといってみても、この離籍を理由とする解雇が、解雇 権の濫用となるのはとうぜんのことである。この点、一・二審とも、離籍処分を除名処分とする誤りをおかした。 しかし、おなじ誤りをおかしたにしても、原審判決は、団結権擁護の観点にたち、除名無効の場合について使用者 の協力義務を否定し、本件解雇を解雇権濫用と構成して、みぎの正論にちかづく結論をしめした。これにたいして、 高裁判決は、解雇自由の観点にたち、除名の有効・無効は労働者と労働組合間の問題であると構成し、みぎの正論か ら遠くへだたる結論をしめした。いずれが、労働者的権利の保障に忠実であったか、いわずしてわかろう。高裁判決 の背後には、労働組合の民主的運営にたいする配慮が、まったくかけていることを読みとることができよう。 民事労働事件と高等裁判所 八七︵八七︶ 論 説︵島田︶ 八八︵八八︶ 聾 ついで、順天堂事件︵昭四〇㈱二五一一号、昭四三二〇・三〇判、労民集一九巻五号二三ハ○頁、岡部行男,川添利起. ︵ 蕪山厳裁判官︶がある。本件での中心問題は、外来患者・面会人・インターン生・学生などにたいするピケッティソ ︵3︶ グの正当性であった。原審判決︵東京地裁、昭三六㈲二一四五号、昭四〇・二・一〇判、労民集一六巻六号九〇九頁、橘喬・ 吉田良正・高山最裁判官︶は、ピケ現場における医師と患者の接触妨害・重急患者等の阻止等々につき、違反行為とみ とめられるものもあったが、その情況において悪質重大とはいえないとして、争議指導者の解雇を不当労働行為だと した。これにたいし、高裁判決は本件ピケッティングをとうてい労働組合の正当な行為とはいえないとし、その他使 用者に不当労働行為意思がみとめられないとなした。 ﹁わが国における労使関係、とくにその争議方法の実態やストライキに対する一般市民の理解水準等の現状にかん がみると、⋮⋮平和的説得の方法のみによっては通行阻止等の目的を実現し難く、ひいてはストライキの実効を期待 し得ない場合がまま存することは、容易に了察し得るところである。かような労使関係の実情に、ストライキが労働 者の団体行動の重要なものとして憲法の保障する基本権に属することを思い合わせるならば、単にストライキに随伴 するピケ活動が当該争議の第三者を対象とし、あるいはいわゆる平和的説得以上の積極性を有するとの点を捉えて、 一概にストを違法視するのは、当を得ない。すなわち、ピケの正当性の限界については、ピケに至る争議の背景、労 使の対抗関係・実行手段における反社会性の強弱、使用者や第三者に与える実害の程度など諸般の事情を較量し、具 体的場合に応じてこれを判断すべきものと考える﹂。これが、原審判決の判断の基礎となった評価規準であり、かつ 現実の判断においても、使用者のスト当時におこなった数々の不当労働行為が、本件ピケ行為の正当性評価に影響を あたえていることを容易にうかがいうるのである。 高裁判決には、こうしたピケッティングの真相にせまろうとする具体的判断はみられない。高裁判決がピケッティ ングの正当性の判断規準としたものは、平和的説得という抽象的・固定的概念であり、使用者がわの不当労働行為の 存在はピケときりはなされた、別個の﹁法の定める手続に従って救済を求めるべき﹂事情にしかすぎないのである。 団結権侵害にいかりたぎる争議労働者に、裁判官なみの冷静な判断を要求することじたい、いかに現実ばなれの主張 となるか、この高裁判決の裁判官には、まるでわかっていないのである。 それぽかりではない。高裁判決は原審判決の前記評価規準を排斥して、平和的説得の範囲をこえる争議権の行使の 容認は、第三者に不当に不利益を転稼し、その自由を制約し、第三者の基本的人権を侵害することとなり、憲法第二 八条がかかる行為まで保障したものとは解せられない、と論じている。高裁判決はあきらかに、憲法第二八条の争議 権保障が、争議行為により使用者ないし第三者のこうむるであろう不利益や自由の制約はやむをえざる制約として、 使用者ないし第三者においてこれを甘受すべきことを全法体系の規範的要請となしたことの意味あいなどをまるで失 念しているもの、といえるだろう。 v そのほか、労働関係の現実にそむき、その概念的な法の解釈適用をもってしては、とうてい労働関係の法的規 制に具体的妥当性をえられないとみられる高裁判決は、かなりおおい。・ック・アウト中の争議労働者による争議脱 落者の就労や製品・材料搬出入の妨害禁止をみとめた目黒製作所烏山工場事件︵昭三六⑦三四三号、昭三六.七.一四判、 労民集二春四号五八九頁、薄根正男・元岡道雄・小池二八裁判官︶では、原審判決︵宇都宮地裁、昭三六⑫二七号、昭三六. 民事労働事件と高等裁判所 八九︵八九︶ 論 説︵島田︶ 九〇︵九〇︶ 四・二八決、労民集二春二号二四三頁、石沢三千雄・橋本攻・竹田稔裁判官︶が、使用者において人員整理をしない確約を やぶり、組合の賃上げ争議中に、入事協議条項のある労働協約も無視して一方的に七六名の指名解雇を発表し、つい でロック・アウト宣言をおこない組合員の就労要求を拒絶する一方、新組合員による就労を強行し、組合の抵抗によ る突発事故がしょうずるや、ただちにこれをとりあげ違法よばわりして、違法な争議行為の排除のみを固執し、争議 の根本的解決の努力をつくさないことに争議長期化の原因が疹った、とした具体的認定はかげをひそめ、ただ使用者 がわの操業の自由が主張されただけである。 また、原審判決が﹁組合分裂ー集団的脱退ー第二組合結成ー第二組合の就労強制という過程が労働争議の一類型と なった観がある﹂ことをみぬき、新組合結成の決定的要因は会社に迎合して争議切りくずしを企図した点にあり、新 組合の﹁御用的性格は払拭しきれ﹂ず、﹁集団的スト破り﹂であるとした認定や、役職員による出荷も、スキャッブ 禁止の協約違反による﹁スト破り﹂だとした認定も、高裁判決ではみることがでぎず、ただユニオン・シ・ップ条項 やスキャヅブ禁止条項が、組合分裂により失効したとのぎわめて形式的な主張が展開されているだけである。 駐留軍用船BD六〇六九号事件︵昭三一㈱二〇三四号、昭喜丁八・六判、労民集八巻四号五二頁、牛山要・岡崎隆・渡辺 一雄裁判官︶も、原審判決︵東京地裁、昭三〇⑨八九一〇号、昭三一.九.二四判、労民集七巻五号九五七頁、西川美数.岩村泓 雄.好美清光裁判官︶が、作業監督の米軍人による舷窓をひらけとの命令にただちにしたがわなかった労働者につき、 それが勤務時聞外なので命令不服従・勤務怠慢といえないとしたのにたいし、高裁判決では舷窓をあけることは作業 といえるほどの労働ではないから、被控訴人の態度は時問外の作業拒否ではなく、当該米軍人への反感を直接表示し たもので、解雇もやむをえないと判断された。だが、いかに米軍用船内といえども、たんなる労働者の個人的反感だ けを解雇事由として容認するのは、解雇自由論をもってしても、とうてい不可能なことである。こうしたことは、こ の高裁判決をおいて、寡聞のせいでもあろうが、他に事例のあることをしらない。だから、舷窓の開扉が作業といえ る程度の労働でないと間題をすりかえようとこころみた判決は、かえって本件解雇の不当性を暴露する役割をはたし てしまった、ともいえるのである。 その他、人員整理︵総従業員にたいする解雇者の比率は、﹁最高二割を僅かに超過﹂︶にさいし、﹁秋田地方闘争本部の役員 については三八名対二五名であって六割五分を超え、秋田支部については二七名対九名であって三割三分﹂であるこ となどをあげ、役員の解雇が不当労働行為にあたるとなした帝国石油事件の原審判決︵東京地裁、昭二四㈲一九一号、昭 二四・八・一八判、裁判所時報四二量二頁、柳川真佐夫・中島一郎・高島良一裁判官︶をくつがえした高裁判決︵昭二四㈱六〇 三号、昭二五・四・二七判、労民集一巻二号二〇九頁、大江保直・梅原松次郎・奥野利一裁判官︶や、組合員結成の中心人物で 組合委員長となったものにたいする転勤命令拒否を理由とする解雇が、不当労働行為にあたるとなした日本医療団水 戸病院事件の原審判決︵東京地裁、昭二四⑫二六二五号、昭二五。三.一八判、労民集一巻一号一頁、柳川真佐夫。中島一郎. 高島良一裁判官︶をくつがえした高裁判決︵昭二五㈱二九九号、昭二六・八・二八判、労民集二巻四号四二九頁、大江保直.梅 原松次郎・奥野利一裁判官︶になると、ほとんど理由らしい理由さえもみられないのである。 ︵1︶ 本文中で論ずる事例のほか、朝日新聞東京本社事件︵昭二四㈱五二二号、昭二六。四.二八判、労民集二巻三号三六五頁、 渡辺藻・浜田潔夫・牛山要裁判官︶、東繊商事事件︵昭三〇㈲四二四号、昭三一・六・二八判、労民集七巻四号八三三頁、内 民事労働事件と高等裁判所 九一︵九一︶ 論 説︵島田︶ 九二︵九二︶ 田護文・原増司・高井常太郎裁判官︶、池子火薬廠田奈支廠事件︵昭三一㈱二六二一号、昭三五。四・八判、労民集一一巻二 号三〇三頁、川喜多正時・小沢文雄・位野木益雄裁判官︶、長野電鉄事件︵昭四〇㈱二四九六号、昭四一・七・三〇判、労民 集一七巻四号九一四頁、奥野利一・萩原直三・真船孝允裁判官︶、駐留軍語学手当請求事件︵昭四二㈲一五一九号、昭四三. 九・一六判、労民集一九巻六号一四三七頁、毛利野富治郎・石田哲一・矢ヶ崎武勝裁判官︶、 シンガー・ソーイング.メシ ン事件︵後註︶。 シンガー・ソーイング・メシン事件︵昭四三㈱八八九号、昭四四・八こ二判、労民集二〇巻四号八四〇頁、長谷部茂 ︵2︶ 吉・石田実・麻上正信裁判官︶Q退職金債権と損害賠償債権との合意による相殺。 本件についての詳細な批判については、拙稿﹁ピケット権の本質とその法的問題点﹂労働法律旬報六九八号三頁以下参照。 ︵3︶ 3 福岡高等戴判所 ︵ ︵1︶ その逆転率は四五・四%で、事例は五例をかぞえる。 i まず違法ピケ行為を理由とする解雇があらそわれた朝日新聞西部本社事件︵昭三二㈱二〇三号、昭二四.四.四判、 労民三号九五頁、裁判官不詳︶では、労調法旧第四〇条にいう争議労働者の解雇にかんする労働委員会の同意なるもの は、争議行為に対抗するための解雇禁止を解除する効果をもつだけで、司法的価値判断を決定する効果をもつもので ないことは、同条が行政法規たる本質上きわめて明白だとして、労働委員会の同意をえない解雇を無効とした原審判 決︵福岡地裁小倉支部、昭二三㈲九〇号、昭二三・二・九判、労民一号一二二頁、裁判官不詳︶をくつがえしている。 しかしながら、この点にかんする原審判決の判断は、きわめて委曲をつくしたものである。すなわち、本条は使用 者がわのもつ有力な争議対抗手段を制限して、労働者を保護しようとするものである。解雇こそ争議の勝敗をけっす る極手であり、労働者の努力いかんによってもふせぎがたい致命的手段であるところから、それを封じ争議の衡平を 維持しようとするのが、本条の立法理由にほかならない。争議行為にも正当・不当なものがみるが、不当なばあい に、これを理由に解雇できぬとするのは不合理であり、労働者保護に傾重することとなるので、正当・不当をとわず 全面的に解雇を禁止するわけにはいかない。さりとて、争議行為の正当・不当を使用者の恣意的判断にまかすことも できない。そこで、争議行為の正当・不当をとわず争議行為を理由に解雇するには、労働委員会の同意を要すると し、労働委員会の判断により、労資双方の利害を適当に規整しようとしたのである。本条が﹁正当﹂という字句をこ とさら使用しなかったのは、そのためである。しからば、本条は一種の効力規定で、労働委員会の同意をともなわな い解雇は、つねに無効であるが、同意は認定的なもので解雇の効力発生の条件をなすにすぎない、と。 たしかに、本条を争議行為を理由とする解雇禁止の解除規定だと解したのでは、罰則の適用を意にかいしない使用 者にとっては、ほとんどその制約も無意味になってしまう。したがって、本条を多少とも意味あらしめるためには、 みぎの原審判決の理解にしたがうほかあるまい。高裁判決が行政法規たる本質上とうぜんだとみずからの解釈を正当 化したのは、じつは理由らしい理由をなにものべなかったことにほかならないのである。 五・九・二七判、労民集一巻五号八八四頁、小野謙次郎・桑原国朝.森田直記裁判官︶がある。原審判決︵昭二三㈲一八四号、昭 廿第二に、組合の解散後に組合活動家を経営への非協力を理由に解雇した熊本電鉄事件︵昭二四㈱四六七号、昭二 ︵ 二四・五・=判、労民五号九三頁、裁判官不詳︶は、使用者が解雇時および労働委員会の審議で解雇事由をあきらかに 民事労働事件と高等裁判所 九三︵九三︶ 論 説︵島田︶ 九四︵九四︶ しなかったこと、本件において、使用者においては申請人らが従業員間に紛争をおこし一般従業員の能率を低下させ た旨を主張していること、申請人が使用者の組合御用化の陰謀と組合幹部がこれに乗ぜられている旨を指摘し、組合 員間の内紛問題となり、解散決議に発展したこと、使用者が解散数日後に新組合設立のある動向を熟知しながら、設 立までの空白期間に一挙に解雇したこと、解雇が空白期間におこなわれたから、不当労働行為などにならない旨を強 調していること等々の事情から、解雇は﹁組合紛糾問題に於て反面旧組合を御用化せんとする陰謀ありとして会社側 の態度を非難した申請人⋮⋮等に対する被申請会社当局者の反感が直接の原因となり、右組合員間の軋礫を機として 組合解散後の空白期間に乗じ、申請人を解雇したものであることを推知﹂できるとなし、﹁使用者がその内部的紛争 に干渉して自己に好都合ならざる一派を解雇することも﹂不当労働行為にあたるとなした。 高裁判決は、本件解雇が被控訴人を﹁会社の円滑な業務運営に支障をきたす非協力者﹂とみたからであり、かつ ﹁控訴会社において⋮⋮新組合の健全明朗を期待したればこそ、組合員多数が組合の脱皮成長を念願して自主的に為 した組合の解散に協力する意味で、新組合の結成前に被控訴人を解雇したものである事実﹂が疏明されるとして、け っきょくは﹁本件解雇は、被控訴人等をはじき出すために、控訴会社が組合の一部御用幹部と共謀策動したものでは なく、叉三日の空白期間をねらった不意打ちでもなくて、控訴会社において、解散後新しく生れるであろう新組合の 健全明朗を期待し、それを育生する意味で、新組合の結成前の適時に際し、過去において組合の健全明朗化を妨げた 被控訴人を解雇しただけのことである﹂から、不当労働行為にあたらないとしている。 この判決を一読して、われとわが目を疑わないものは、だれもおるまい。最高裁判決︵昭二五㈲三八七号、昭二八.一 二・四判、二小、労民集四巻六号四九九頁、霜山精一・小谷勝重・藤田八郎・谷村唯一郎裁判官︶が、﹁原判決は、上告人等を 解雇したのは旧組合の解散に協力する意味でしたものであると判示し、被上告人が一見組合の結成運営に介入した事 実を確定したかのごとくであるけれども、⋮⋮原判決の趣意は要するに、既に解散により消滅した旧組合の存否に関 し更に紛争の継続するを回避しようとする意図もあったことを説明せんとしたものに止まり、これをもって解雇理由 としたものと認め難い﹂と、やや牽強付会ぎみの陳弁につとめたとしても、その事情はすこしもわかるものではなか った。なぜならば、最高裁判決の陳弁をもってしても、高裁判決が﹁解散協力﹂という認定事実のうえにたって、は っぎりくだした﹁新組合の健全明朗を期待し、それを育生する意味﹂で解雇したとの判断は、なおのこされているか らである。この判断がかえられないかぎり、不当労働行為成立へと論理が展開するのが、ぎわめて自然のみちすじで ある。高裁判決がこのみちすじをたどらなかったことは、不当労働行為について、まるで無自覚であったことを物語 る以外のなにものでもなかった、といえよう。 川⋮⋮ 第三に、スタータクシー事件︵昭三九㈱二八二号、昭四一・二・二四判、労民集一七巻一号五八頁、中村平四郎・丹生義 孝・山口定男裁判官︶がある。本件では、メーター不倒のまま職場の同僚を輸送したことを理由とする懲戒解雇があら そわれたが、原審判決︵福岡地裁、昭三八㈲二九五号、昭三九・四・一〇判、労民集一五巻二号二五八頁、江崎弥・諸江田鶴雄・ 伊藤邦晴裁判官︶は、いちおうメーター不倒についてはおもい処分をするのがタクシー業界一般の方針であることをみ とめながらも、使用者が買収・供応により組合切りくずしをはげしくおこない、その結果第二組合を結成させ、その 後も第二組合への加入を勧誘しつづけているこ・乙、申請人の一人は支部大会でほとんど毎回議長に選任されていた 民事労働事件と高等裁判所 九五︵九五︶ 論 説︵島田︶ 九六︵九六︶ し、同僚の懲戒処分につき抗議をしたこともあったこと、本件事実のあったのちまだ解雇通知のなされていないと ぎ、第二組合員で会社の意向をうけたものが、申請人の一人に﹁⋮⋮会社としては君をやめさせる必要はないが、野 口︵前掲の申請人i筆者︶をやめさせるためにはどうしても君に身を引いてもらわねばならない。野口は組合活動が活澄 だし、運収もあがらん上に欠勤も多い。やめてしばらくしたら、君については又会社に復帰できるようにしてやる﹂ 旨を勧告したことから、不当労働行為の成立をみとめた。 これが高裁判決においては、本件懲戒解雇は組合切りくずしを意図してなされた疑いがないではないが、みぎの第 二組合員による勧告部分は﹁たやすく措信し難いところである﹂し、被控訴人野口については、ほとんど毎日議長に 選任されたこと、同僚の懲戒処分について抗議したことがあるにすぎず、その他組合活動が顕著であったり、その組 合活動のゆえに会社から嫌忌せられていたような事実を認めるに足る証拠もないから、懲戒解雇の決定的原因となっ たものは不正行為であった、という判断にすりかわるのである。 本件不当労働行為の認定にとり、肝心かなめの部分である第二組合員の勧告が、﹁たやすく措信し難﹂しで、すっ ぽり大穴があけられてしまったが、しかし、それ以外の事実をつづりあわせてみても、被控訴人野口について、不当 労働行為がまったくなりたたないともおもわれない。要は、担当裁判官が労働者的権利の保護という価値体系を支持 するかどうかに、事実認定や認定事実の評価がかかっているからである。もし高裁判決にして、労働者の権利擁護に 価値をおいたとすれば、﹁たやすく措信し難い﹂勧告部分も、あるいは措信されていたかもしれないのである。 なお、最後に筑邦貨物自動車事件︵昭二六㈱七〇一号、昭二七・六二九判、労民集三巻二号一七四頁、二階信一・竹下利之 右衛門・秦亘裁判官︶は、原審判決︵福岡地裁久留米麦部、昭二六㈲六七号、昭二六・九・二一判、労民集二巻四号四四九頁、弥 富春吉裁判官︶にあらわれなかった﹁合意退職﹂がみとめられている。したがって、福岡高裁の逆転労働者側敗訴判決 のうち、納得できる理由のものはただこの一件があるだけである。 ︵1︶ 本文に論じた事例のほか、使用者がわにょる組合事務所明渡請求をみとめた興国人絹パルプ事件︵昭三九㈱八一二号、昭 四一・一二・二三判、労民集一七巻六号一四五七頁、小西信三・入江啓七郎・安部剛裁判官︶があるが、原審判決の理由が 不明なので省略しておく。 4 大阪高等裁判所 その逆転率は最高の五六・七%であり、一七事例をかぞえる。この一七事例のうち、手続上逆転もやむをえないと みられるもの一例、一定事情の存在のため、逆転もやむをえないとみられるもの三例、逆転について納得しうる理由 ︵1︶ ︵2︶ ありとみられるもの一例がある。したがって、実質逆転率はやや低下することになるが、なお四〇%をくだらぬ高率 ︵3︶ を維持するわけである︵ちなみに、福岡高裁の実質逆転率は三六.三%、東京高裁のそれは三五.八%︶。 ︵4︶ みぎをのぞいた一二事例においては、いずれも逆転を首肯しえず、すくなくとも逆転に疑義があるものであるが、 以下に代表的な若干の事例をしめしておこう。 D まず、神戸製鋼事件︵昭三〇㈲四八六号、昭⋮丁八・二九判、労民集八巻四号四;貢、松村寿伝夫.竹中義郎・南新一 裁判官︶は、工員として八年間勤務していたものが、組合役員に当選直後前歴詐称︵﹁小卒﹂を﹁中卒﹂に︶を理由に懲 戒解雇された事例であるが、原審判決︵神戸地裁、昭三〇㈱七二号、昭三〇.四.二一判、労民集六巻二号一七一貢、山内敏 民事労働事件と高等裁判所 九七︵九七︶ 論 説︵島田︶ 九八︵九八︶ 彦・大野千里・奥村正策裁判官︶は、学歴詐称が就業規則所定の懲戒事由たる﹁重要な前歴﹂の詐称にあたるとしつつ も、解雇が労働者の﹁死命を制する極刑﹂であることから、解雇権行使に慎重を期すべく、八年前の事由にもとづく 処断事例は稀有などの事情を考慮して、懲戒解雇を解雇権濫用であるとなした。 これにたいし高裁判決は、同人が勤務成績が標準以下であり、かつ詐称により四万円余の賃金過払をうけており、 またながらく組合執行委員に選ばれ、労働条件について心得ていなければならない地位にあったことや、懲戒委員会 で組合側委員の同意があったことなどをあげて、解雇権濫用でないとした。また高裁判決は、労働老のなす労働組合 の正当な行為とまったく関連性のない事項にわたる個人的背信行為が就業規則の懲戒事由にあたるときは、いつでも 懲戒権を行使しうべく、犯則労働者において不当労働行為を理由に懲戒処分の効力を否定しえない、とも論じてい るo 八年前の事由にもとづく処断事例はまったく﹁稀有﹂であった事情が、原審判決では解雇権濫用の要素にむすびつ き、高裁判決ではむすびつかなかったわけであるが、この事実評価の差異は、けっきょくのところ、解雇が労働者の ﹁死命を制する﹂ことになるかならないかの、裁判官における価値感の相違にほかならなかった。そして、いうまで もなく、原審判決の生存権への配慮にもとづく事実評価のほうが、より労働者的権利の保障に価値をおく態度であっ たことは、たしかである。 ︵5︶ だが、この高裁判決において、批判されなければならないのは、みぎの点もさることながら、不当労働行為の成立 を否定したところである。第一に、懲戒事由該当行為があれば、無条件的に不当労働行為が成立しないかのように判 決は主張するが、使用者は自己の不当労働行為的意図を紛色するため、さまざまな懲戒的事実を提示して、活動家の 企業追放をはかろうとするのは労働事件の常識である。だから、多くの判例においても、その方法にいちおう問題が あるにしても、懲戒的事実や組合活動の事実を比較較量して、労働者の不利益取扱につき使用者に不当労働行為的意 図があったかどうかが検討されてきているのである。したがって、高裁判決の手法をもってすれば、不当労働行為の 成立をみとめられる労働事件は、実際上ほとんどなくなってしまう、といってよいだろう。 第二に、みぎのことともかかわるが、ながらく組合の執行委員をやっていた者が、本社工場に転勤後、代議員・常 議員︵いずれも組合役員︶に当選した直後に前歴詐称の責をとわれたことである。長期勤続者の前歴詐称が問題化する多 くの事例は、その者が組合役員に当選するなど活溌な組合活動を開始したばあいにおいてであることをしめしてい る。このことは、あぎらかにその者の組合活動を嫌悪する使用者が、組合活動がなければなさなかったであろう身元 調査を開始し、たまたま前歴詐称のあったことを奇貨として、懲戒処分を敢行する事実をものがたるものといえよ う。だから、本件の場合にも、こうした事情を十分検討すべきであった。だが、こうした点に注目するには、高裁判 決はあまりにも労働者的権利の保障に無智であった、といえまいか。 員 つぎに、南海バス事件︵昭三三㈱四五八号、昭三五・七・一四判、労民集一一巻四号七七四頁、加納実.沢井種雄.本井巽 ︵ 裁判官︶がある。本件は現場監督︵課長︶の地位にあるもののなした反経営者的言動が、﹁事業の都合により己むを得な いとき﹂という就業規則所定の解雇事由にあたるかどうかがあらそわれたものである。原審判決︵和歌山地裁、昭三二㈲ 五七八号、昭三三・三去二判、労民集九巻二号一四四頁、亀井左取・嘉根博正・舟木信光裁判官︶は、労働法の精神から、職務 民事労働事件と高等裁判所 九九︵九九︶ 論 説︵島田︶ 一〇〇︵一〇〇︶ 内容が会社の利益代表者の立場に近づけばちかづくほど、些少な反経営者的言動も企業運営に影響するので、比較的 容易に﹁やむを得ない事由﹂とみとめられるが、職務内容が一般従業員に近づけばちかずくほど、その言動が企業運 営に支障をきたす﹁やむを得ない事由﹂とするには慎重でなければならないとの基準をたて、本件監督者の言動が現 実に職場規律をみだし経営上の支障や損害をあたえたとはみとめられず、またその地位が会社の利益代表者というよ り、むしろ一般従業員にちかい色彩のものであることを理由に、解雇事由に該当しない無効な解雇であるとなした。 これにたいし、高裁判決は、被控訴人の職務内容が、従業員の労務配置・給与等の決定権や人事権等の経営の中枢 に関与するものでなかった、となした原審判決の認定事由を無視して、なんらの根拠もしめすことなく、同人が社長 にかわり施設の運営に従事する全人員を指揮監督すべき地位にあったとし、ぎわめて形式的に会社の利益代表者性を みとめたうえで、解雇事由への該当を肯定している。 ところで、この高裁判決でも問題なのは、被控訴人が原審以来主張してきたつぎの事実、すなわち、同人は組合結 成により副委員長となり、以後執行委員などの役員を歴任してきたため、控訴人は同人を嫌悪し、いったん解雇しよ うとしたが外部のあっ旋により果せず、運輸課長に昇格させて非組合員となしたのち、たまたま宿直中に開かれた組 合大会が私鉄総連への加盟決定をなしたことの情報提供をしなかったので、運輸課長を免じて、一ヵ月約一万円の減 給をともなう日の岬パークヘの転勤を命じ、さらに本件解雇におよんだ、という事実である。ここから、被控訴人は みぎの控訴人による一連の行為が、まさに同人の﹁過去における組合活動﹂のゆえにした不当労働行為である、と主 張してきたわけである。 高裁判決は、この主張について、その﹁疎明は不十分﹂であると、いとも簡単にしりぞけてしまっている。しか し、一般的にいって、経営陣に内部紛争があるような特別な場合をのぞいて、会社の利益代表者が反経営者的言動を 従業員にしめすことは、まずかんがえられないところである。それがあえて本件のような言動にでるというのは、な にか特別の事情からとかんがえるのは、通常人の常識でもある。そうだとすれば、特別の事情として主張している被 控訴人の主張事実を、たんに反論不能な裁判官の心証形式の世界に埋没させてしまうのは、一定の結論を先行させた 判断と評されてもやむをえまい。 しかも、ことがらは団結権侵害という公益にかかわる事実の主張である。高裁判決が、労働者的権利の保障に忠実 であれば、けっして﹁疎明は不十分﹂などとかたづけうる問題ではなかったはずである。 揃 第三に、三菱重工事件︵昭三七㈲六二八号、昭四三.九・二六判、労民集一九巻五号一二四一頁、入江菊之助.乾達彦.小 谷卓男裁判官︶があげられる。本件は、民青同盟員が労働条件に関する意見・総選挙への関心、民青同盟への関心や 意見等を調査事項としたアンケートを無許可で従業員に配布した行為が、就業規則所定の懲戒事由たる﹁無許可で事 業場内において従業員として不適当な印刷物を配布したとき﹂に該当するかどうかがあらそわれたものである。原審 判決︵神戸地裁、昭三六⑨三〇四号、昭三六・一二・四判、労民集一二巻六号一〇四〇頁、小泉敏次.正木宏。西池季彦裁判官︶は、 本件文書が労働条件の改善の要求をふくむものであるから、労働組合を通じてなさるべきであり、また政治的色彩が つよいので、アンケート配布行為は政治活動であるとする使用者側の主張をすべて排斥し、﹁従業員として不適当な 印刷物の配布﹂にあたらないとした。 民事労働事件と高等裁判所 一〇一︵一〇一︶ 論 説︵島田︶ 一〇二︵一〇二︶ ところが、高裁判決は、労働協約にみぎ就業規則と同一規定があり、かつ労働協約第一二条に﹁組合、支部または 組合員が会社の構内および施設において政治活動を行なう場合は、組合または支部の統制によること⋮⋮﹂と規定す ることなどから、﹁従業員として不適当な印刷物﹂中には、労働継合の統制に服しない政治活動の表現である印刷物 がふくまれると解し、本件文書はまさにそれに該当するとなした。 だがそうなると、本件文書配布行為は休憩時間を利用してなされたものであるから、それをも禁ずる就業規則・労 働協約が、政治活動の自由という人権規定︵憲法一九・二一条︶や休憩時間の自由利用を保障する労働基準法第三四条三 項に抵触するのでないかの問題に、高裁判決はこたえなければならなくなる。この解答に、高裁判決が人権保障をど のていど真剣にかんがえぬいたかがしめされるはずである。だが、案に相異して、高裁判決には低調なひびきしかな かった。すなわち、私的自治の原則を基調とする国民の生活活動の領域では、自由意思による政治活動の自由の制限 も、合理的理由があるかぎり公序に反するものでないとしたうえで、企業施設内での政治活動の制限は、政治活動が 施設管理を妨げ、就業中の労働者の労働義務の履行を妨げるとともに、休憩時間中のそれも他の労働者の自由利用を 妨げて作業能率を低下させるから、いづれも企業運営上の必要にもとづくものであり、合理性をかくものとはいえな い、というわけである。 この結論は、東京高裁判決︵昭四二㈱二四三三号、昭四四・三・三判、労民集二〇巻二号二二七頁、近藤完爾.田嶋重徳・小 堀勇裁判宮︶で取消された日本ナショナル金銭登録機事件にたいする原審判決の結論とほぼ同一である。その特色は、 ﹁企業運営上の必要﹂にばかり目がむけられて、﹁人権尊重﹂の価値をそれほど重んじないところにある。 W 第四として、大阪鉄道局定員法事件︵昭二五㈱二二一号、昭二五.八.一二判、労民集一巻五号九三二頁、大嶋京一郎. 林平八郎・大田外一裁判官︶があげられよう。原審判決︵大阪地裁、昭二四@七七六号、昭二五.五・一一判、労民七号一四一 頁、裁判官不詳︶は、定員法による人員整理において総裁の国鉄職員にたいする行為は.強化された私法上の権利行使 にすぎないとし、非協力という整理基準には、国鉄の運営阻害となれば正当な組合活動もふくまれていたとし、組合 役員三名の免職につき不当労働行為の成立をみとめたものである。これにたいし、高裁判決は、定員法は国鉄総裁に 人員整理についての公権力を賦与し、その発動により整理を実施し、職員側に忍従をしいたもので、その範囲で本来 の私法関係は、上下服従の公法関係に転化せしめられたと解するのが相当であるとの前提をとった。そしてここか ら、定員法による解雇が行政処分である以上、たとえ不当労働行為の事実があったとしても、行政事件訴訟特例法に より、民事訴訟としての仮処分命令をもとめることはできないとなした。 ここで問題なのは、雇用という私法関係が、定員法により上下服従の公法関係に転化したという理論であるが、今 日ではすでに破産した特別権力関係論であるにほかならない。ということは、高裁判決が権力者的発想しかできなか ったことでもある。そして、なによりも問題なのは、一方において、こうした理論をひきだす前提としての定員法の 内容につき、免職処分につき団体交渉もゆるされず、苦情申立もできず、まったく一方的に免降職がでぎ、行政上の 不服申立のよちもあたえていないことを指摘しながら、他方において、しごく簡単に公共の福祉のため必要あるもの として、定員法の合憲性をみとめていることである。いうまでもなく、ここでは、定員法による解雇により実現され る﹁公共の福祉﹂の具体的内容などは、まったくあきらかにされていない。そればかりでなく、団体交渉権制限にた 民事労働事件と高等裁判所 一〇三︵一〇三︶ 論 説︵島田︶ 一〇四︵一〇四︶ いする代償措置どころか、解雇という不利益措置の﹁保障﹂しかあたえていない定員法が、とうてい合憲性を維持で きるしろものではなかった。だが、それにもかかわらず、高裁判決では、このことに思いをはせることすらしていな い。徹底した人権無視・権力追従の判決であったといえる。 v 最後に、阪神電鉄仮処分異議事件︵昭三五㈱八︼O号、昭三八.四・二六判、労民集一四巻二号六五一頁、加納実.沢 井種雄・加藤孝之裁判官︶がある。この高裁判決は、レッド・パージにつき労働協約所定の解雇協議約款に違反してな されたことを理由として、その無効性をみとめた原審判決︵大阪地裁、昭三九㈲七二三号、昭三五・五・一〇判、労民集一 一巻三号四五五頁、宮川種一郎・奥村正策・山下巌裁判官︶を取消したものである。 高裁判決は、まずレッド・パージに関するマッカーサー書簡等はたんに報道機関についてだけでなく、その他の重 要産業をもふくめてなされたと解すべきだとの指示が、最高裁にたいしなされたのは顕著な事実である、ということ からはじまる。そして、かかる解釈指示が、当時の国家機関および国民にたいし最終的権威をもっていた旨を判示し た昭和三五年四月一八日の最高裁大法廷決定を引用して、当裁判所も最高裁を信頼して、かかる事実があったものと みとめるほかなく、またその解釈指示に下級裁判所はしたがわなくてもよい、との趣旨のものとはとうていかんがえ られないことを指摘する。こうした前提にたって、判決はこの命令指示が日本国憲法その他の国内法および労働協 約・就業規則の適用を排除するもの、と解釈するわけである。このように論旨をすすめてきた高裁判決は、この命令 指示が攻撃的破壊行為者の追放を命じたものだとし、賃上げまたは越年闘争時の﹁喧燥混乱状態﹂をひきおこした主 導者として、被控訴人らの解雇をみとめるにいたるのである。 この高裁判決は、﹁占領下の問題は矢張りその当時の事態を前提として之を評価するのが相当﹂などと逃口上を用意 しているが、最高裁判所への盲従ぶりはとうていおおいかくせない。しかも、盲従への対象となった最高裁判決たる や、占領終了後においてさえ、日本国憲法その他の国内法を無視して、なおアメリカ占領軍のなした解釈指示にした がうというような、・およそ独立国の裁判所にふさわしからぬ高度に政治的判決なのである。だから、政治権力に追従 せず、司法権の独立に価値をおこうとする裁判官なら、とうぜんのこととして、日本国憲法その他の国内法・労働協 約等を基準として裁判をなすべぎはずであった。この高裁判決には、労働者的権利の保障を云々する以前に、もっと 裁判の原則的問題につき批判さるべぎ姿勢があったといえる。 のみならず、被控訴人を攻撃的破壊行為者と認定した賃上げおよび越年闘争時の﹁喧喋混乱状態﹂については、そ ヤ れを論ずる記述中に、﹁被控訴人N・H等のアジ演説﹂、分会ごとにスクラムをくみ分会長を先頭に掛声・労働歌を放 ヤ 唱しながら交渉室の周りをかけめぐる等の混乱状態のさいに、﹁被控訴人H・Y等も赤旗をふりかざし笛を吹き鳴ら して駈け廻っていた事実﹂、組合員のなかからつねに弥次・罵声・脅迫的言葉がはかれた交渉状況のさいの﹁被控訴 人Nが執拗に会社側に迫﹂った事実のほか、被控訴人らについて具体的事実はなにもふれられていないのである。つ まり、この﹁喧燥混乱状態﹂を描写する部分を読むと、以上の被控訴人らの事実は、混乱状態の一点景にしかすぎな くなり、混乱状態の主導的要素とはとうてい読みきれないのである。 ﹁攻撃的破壊行為者﹂として、他の者は追放の対象とならず、なにゆえ被控訴人らだけが追放の対象となりうるの か1高裁判決においては、納得しうるにたる事実がしめされているとはけっしておもえない。形式のうえでは、そ 民事労働事件と高等裁判所 一〇五︵一〇五︶ 払醐 説 ︵島田︶ 一〇六 ︵一〇六︶ れがしめされてもいようが、真実のうえでは、なにもしめされていず、ただその基底にあるのはレッド・パージの適 法化意識だけであるというのが、この高裁判決の特色であったといえよう。 神戸製鋼仮処分執行停止申立事件︵昭三三⑦七三号、昭三三・七・一五決、労民集九巻四号五九〇頁、藤城虎雄・亀井左 ︵1︶ 取・坂口公男裁判官︶。解雇の意思表示の効力停止の仮処分判決が取消され、 かつ確定した以上、賃金相当額の支払を命ず る仮処分決定の執行停止の申立は容認される、としたものo 紡機製造事件︵昭二九㈱=嚇二三号、昭三二・五・一五判、労民集八巻三号三五九頁、朝山二郎・坂速雄・岡野幸之助裁 ︵2︶ 判官︶。解雇の意思表示の撤回。敷島紡績飾磨工揚事件︵昭三六㈱五八四号、昭三七・一・三一判、労民集一三巻一号四九 頁、岩口守夫・安部覚・藤原啓一郎裁判官︶Q実兄の退職強要擁強迫情況をのがれた後の退職金受領Q播磨鉄鋼事件︵昭三 七㈱三八号、昭三八・三・二六判、労民集一四巻二号四三九頁、平峯隆・大江健次郎・北後陽三裁判官︶。解雇の係争中、 企業譲渡により、労働関係の終了。 コクヨ深江工場事件︵昭三九㈱八四六号、昭四一・一・二〇判、労民集一七巻一号二七頁、小石寿夫・日野達蔵・松田延 ︵3︶ 雄裁判官︶ 本文および後註に掲げたもののほか、つぎがあるQ京都市立小学校事件︵昭二五㈱五九六号、昭二八・二一・一六判、労 ︵4︶ 民集四巻六号五九八頁、吉村正道・大田外一・金田宇佐夫裁判官︶、神戸補給基地事件︵昭三〇㈱一五二六号、昭三二・ 八・二九判、労民集八巻五号七九二頁、松村寿伝夫・竹中義郎・南新一裁判官︶、小畑鉄工所事件︵昭三五㈱一〇七八号、 昭三七・六・七判、労民集一三巻三号六九七頁、沢栄三・斎藤平伍・石川義夫裁判官︶、 日通大阪支店事件︵昭三九㈲六〇 七号、昭四二・七・一八判、労民集一八巻四号七九四頁、岡野幸之助・宮本勝美・神保修蔵裁判官︶、関酉精機事件︵昭二 九・二・二七判、最民集一〇巻一一号一四一九頁、裁判官不詳︶Qこれについては、後述する。 ︵5︶ 川崎製鉄前歴詐称事件︵昭三〇㈲七二四号、昭三二・一〇・八判、労民集八巻五号六九九頁、田中正雄・松本昌三・乾久 治裁判官︶o﹁新制高校二年中退﹂を﹁新制中学校卒業﹂としたものo富士化工機事件︵昭三五㈱五一〇号、昭三六・一二・ 二〇判、労民集一二巻六号一〇七九頁、石井末一・小酉勝・岩本正彦裁判宮︶。使用者の組合弱体化策など不当労働行為を みとめながら、組合の中心人物の﹁前科歴﹂の詐称を理由に差別扱いを否定Qこの判決は、解雇後の犯罪についても問題と する不当なものQ 四 前節において、控訴審での逆転判決を中心に原審判決との対比をこころみたわけであるが、そこでなによりも まず指摘できることは、高等裁判所での逆転判決のほとんどが、認定事実をかえないにもかかわらず、事実評価や判 断理由だけをうごかしている、ということである。しかも、高等裁判所がうごかした事実評価や判断理由それ自体 は、労働者的権利の保障の観点からはほど遠いものであった。つまり、民事労働事件における高等裁判所は、政治権 力や資本がわの利益に追従し、かつそれを重視するが、労働者的権利の保障のためには、その機能をほとんどはたし えなかったということが、事実をもって語りえたこととおもわれる。 圏 そこで、ここでは、最高裁判決との対比において、高裁判決の態様に関する特色をあらためてえぐりだしてみ 高裁判決のなかには、すでに指摘した阪神電鉄事件判決のように、最高裁判決に盲従する自主性なぎ裁判さえ 三 最高裁判決との対比からみた高裁判決の態様 ある。 民事労働事件と高等裁判所 一〇七︵一〇七︶ 論 説︵島田︶ 一〇八︵一〇八︶ ることとする。 最高裁判所に係属した民事労働事件の事例は、六七をかぞえる。このうち、労働者側勝訴に終ったものは二二事例 ︵三二・八%︶であり、労働者側敗訴に終ったものは四一事例︵六丁二%︶である。そして、労働者側上告にかかわ る四〇事例の勝訴数は三事例︵七・五%︶、敗訴数は三七事例︵九二・五%︶であるにたいし、使用者側上告にかかる二 三事例の勝訴数は四事例︵一七・四%︶、敗訴数は一九事例︵八二・六%︶となっている。 これを高等裁判所のばあい︵前述︶と対比してみると、高等裁判所での労働者側勝訴率は三四・四%であり、労働者 側敗訴率は五二・一%であったから、最高裁判所においては、前者で一・六%減とほとんど変化がみられず、後者で 九・一%増とやや比率をたかめていることとなる。つまり、このことは、最高裁判所も一般的にいって、労働者の権 利保障につき高等裁判所と同程度以上にきびしい態度をしめすもの、ということができる。 ところで、高等裁判所における労働者側申請のばあいの勝訴率は二〇・二%、敗訴率は七九・八%であり、使用者 側申請のばあいの勝訴率は四二・三%、敗訴率は五七・七%であった︵前述︶。したがって、上訴者別の勝敗率のひら きかたは、最高裁判所のほうがはるかに近似性あるものとなっている。ということは、一面において、最高裁判所の ばあいには、すでに一・二審の裁判で事実的にも理論的にもねられた事件を対象とするため、高等裁判所のばあいの ように、上訴者別で勝敗率に差異があらわれなかった結果をしめすもの、ともかんがえられよう。だが、他面におい て、高等裁判所がすでに原審労働者側勝訴の逆転判決についての検討でしめしたように、認定事実をそのままに、労 働者的権利の保障にほど遠い粗雑な事実評価や判断理由をもって、原審労働者側勝訴判決︵上訴された一〇七事例︶の三 九・六%をも敗訴判決に逆転させたことをあわせかんがえるならぼ、最高裁判所のほうが使用者がわにたいしても、 高等裁判所ほど甘い顔をみせなかったことをものがたっている、ともいえよう。 二 このことをまたべつな角度から検討してみよう。第四表は、最高裁判所まで係属した事件につぎ、審級のどこ かに一部勝訴・敗訴のある判決を除外し、申請者別に各審級での勝訴・敗訴の状態をあきらかにしたものである。ま ず、労働者側申請にかかわる事例の勝敗率をみれば、審級が上るごとに、労働者側勝訴の判決をうることがむづかし くなってくることを如実にしめしている。これは、具体的事実を遠ざかれば遠ざかるほど、裁判がただ判決のうえで つじつまをあわせさえすればよしとする形式主義的なものに流れること、とりわけ法律審である最高裁判所では、そ の傾向をさけられないことの結果でもある。だから、民事労働事件についても、みぎの最高裁判所の一般的傾向は、 49 例外なく貫徹されているといってよい。 90 7 33 1 6 ΩU ヴ‘ 2 0 2 9 4 1 唱 つぎに、使用者側申請にかかわる事例の勝敗率をみると、ここに 30 21 3 2 00 25 9 ワ’ 28 2 震U 24 ︻∂ り○ の4 ︻0 ㊥ 47 計 ○ ヲ ● 9 計 使用者側申請 民事労働事件と高等裁判所 一〇九︵一〇九︶ 判決をうることがむづかしくなる、との労働者側申請事例にみられ 労働者側申請 者側申請にかかわる事例については、審級が上るにしたがって勝訴 ○ あいだで、その格差を顕著にあらわしている。ということは、使用 第 8 である。とりわけ、高等裁判所の勝敗率は、最高裁判所のそれとの 2 2 8 2 2 7 7 2 4 興味ぶかい事実があらわれている。すなわち、使用者側の勝訴率が 2 8 2 0 0 9 2 3 8 表 1 略 、 4 2 もっとも高く 敗訴率がもっとも低いのは、高等裁判所であること 皿 11 1 第 5 表 (高等裁判所) (高等裁判所) 畷蔽 東大名広瀦仙札一 A縮裁 束縫広瀦蝋 労働者騰 京域屋島岡松台幌 労働者購訴 京阪塵島岡飴幌響 論 嫡裁判磁 嫡裁判決支讐 論 騰欝鑑2 騰:器警工・エ2妾1 灘::雰:614252!騰叢:鴬:,ユ諜説 1霧::鼎碁 纏萎冨 (3)労●→労o→自●1 曇 ) b高裁判決逆転 (1}労○嘆・噸o エ わ磁繊逆転 (1}労o→教●→教0 1 (1)労・噸。→労○、: (2園●→国・一馴1 (2巌・→使。_社。エ 第 6 表 (計》 A 最商栽判決で労働者側敗訴の場合…一…・”辱・・…・・””川』・31 B 最高裁判決で労働者iB嚇訴の場合…一・・一”鴫・”・”・川…・20 151 a蔽判決搬搬伽もの’。一・一一…し”一…‘ρθ9−28 a高鮒決破幣れたもの一一一一・.・_...賜_,エ846 11灘鷺灘蔭:::::::::::::::::::ll ll羅1鷺灘藝:::::::::::::::::::::貿/ 灘灘灘慧:::二:::::::::::::畦 1壌灘欝灘套::::::=::::::::::調 わ蔽撒継輪絵もの”・・“・一一“■・一唖”一“3 5商灘決鑓撚れたものe◎一一‘…・一一。_,.曙5 灘難慧覇欝:::::::::::::::::::::l ll二諜糠離叢:ll::::::::::講 {3〉略労1賭鰍飛蹴轍磁転一一一6一…0 (3P審燗者鰍講議撒で支持・一___,_0 (4)一審鯛翻勝蹴蹴判激逆転…一…一一亀・o ④一徽用翻勝訴鵬辮r薦支持一___、、._o 一一〇︵一一〇︶ た命題が、高等裁判所の存在において貫徹し えなくなることをものがたる。 これらの事実は、上級審ほど労働者的権利 の保障にきびしいという一般的傾向のなか で、高等裁判所が最高裁判所以上に使用者が わの権利保障にあまいという態度をしめすも の、といってさしつかえなかろう。 三 それでは、そのような高等裁判所の態 度は、具体的にはいかなるところにあらわれ てくるだろうか。 第五表は、最高裁判所での労働者側勝訴・ 敗訴判決を基準として、一審以来の裁判結果 の態様を高等裁判所別にしめしたものである ︵審級のいずれかに一部勝殿訴判決のあるものは 除外︶。この第五表を整理して、その意味づけ をおこなったのが第六表である。この表によ ってきづくことは、最高裁判所による高裁判決の支持率がきわめて高いことである︵九〇・二%︶。だが、当面の課題 にとって、問題なのは、むしろ最高裁判所において高裁判決を逆転した判決である。 第七表は、みぎの表をもとにして、第一審における労働者側勝敗訴別を基準に、各審級での推移をしめそうとした ものである。この表によれば、第一審労働者側敗訴判決においては︵B表︶、最高裁判所における高裁判決の逆転が存 在しないから、問題にならない。最高裁判所における高裁判決の逆転があるのは、第一審労働者側勝訴判決について の部分である︵A表︶。 3 6 3 22 そこで、この部分を検討してみると、最高裁判所における逆転 2i 判決は、一・二審労働者側勝訴判決について三事例、一審労働者 15 側勝訴・二審労働者側敗訴判決について二事例が存する。前者の 皿 i勝訴 敗訴 敗訴 勝訴 敗訴 表 を維持できなくなるとの一般的傾向︵A表の太線でかこった部分︶に ︵ ︵ A B ︶ ︶ 三事例は、一審労働者側勝訴判決が、上級審になるにつれ、勝訴 勝訴 18 8 3 22 7 したがったもので、そのかぎりで不自然ではない。しかしなが II 敗訴 勝訴 敗訴 からはずれ、あきらかに不自然である。そして、この不自然さ 第 ら、後者の二事例︵A表破線でかこった部分︶は、みぎの一般的傾向 勝訴 26 25 民事労働事件と高等裁判所 一一一︵一一一︶ は、一審労働者勝訴判決が、高等裁判所により逆転され、またそ 敗 訴 勝 訴 れが最高裁判所により逆転されるにいたったことに起因する。 1 論 説︵島田︶ 一一二︵一一二︶ いうまでもなく、このことは、高等裁判所における労働者側敗訴判決のうちには、最高裁判所によっても支持され えない部分があるほど、高等裁判所が使用者がわの権利保障にかたむきすぎていることをものがたるもの、といえよ う〇 四 そこで、みぎの二事例がいかなる内容のものであったかを検討してみよう。 D ぞの一つが・関西精機事件︵階二九㈲三五二号・昭一三・二・二判・二小・最民集一〇巻一一号一四二一貢・栗山茂・ ︵ 谷村唯唱郎・池田克裁判官︶である。本件は、営業不振のため休業した会社において、休業前の従業員の未払賃金を支 払うため在庫品の売却・半婁品の仕上販売等の任にあたり、会社再建を依嘱された者︵再建と同時に﹁取締役﹂に就任︶ が、自己の未払賃金等を請求したところ、会社がわが同人の保管にかかる集金が盗難にかかったことを理由に、損害 賠償請求権をもって未払賃金請求権との相殺を主張したものである。 高裁判決︵昭二九・二・七判、最民集一〇巻一一号一四一九頁、裁判官不詳︶は、未払賃金等の存在と盗難による損害賠 償請求権の存在とをみとめただけで、会社がわの相殺の意思表示により未払残債務は消滅したと、しごく簡単に未払 賃金等の支払を容認した原審判決を取消してしまった。 これにたいし、最高裁判決は、労働基準法第二四条一項の賃金全額払の原則から、賃金債権にたいしては損害賠償 債権をもって相殺することがゆるされず、同人の請求する債権中、取締役の報酬としての給料は賃金といえないとし ても、休業中の整理手当︵取締役就任の際に、会社が支払うと約束したもの︶は賃金にほかならないにもかかわらず、漫然 と債権全額につき損害賠償債権との相殺を有効とみとめたのは、法律の適用をあやまったものである、となした。 両判決を対比してみて、すぐとしれることは、高裁判決には労働基準法の存在などまるで念頭にないことである。 たとえこれが当事者の主張になかったものとしても、まさに裁判官においてその点に関する釈明権を行使すべぎ問題 であった。だが、あえてそれがなされていなかったことは、裁判官の意識のかたすみにすら賃金保護のかんがえがか すめなかったことによる、とみるほかあるまい。ことほどさように、高等裁判所の裁判官は、労働者的権利の保障に ︵1︶ 価値をおかず、かつこれに無関心なのである。そして、この高裁判決は、はからずもそうしたことの一端をさらけだ 田正俊・田中二郎・下村三郎・松本正雄裁判官︶である。 した、とみてさしつかえなかろう。 2 つぎの事例は、干代田丸事件︵昭三八㈲一〇九八号、昭四三二二・二四判、三小、最民集二二巻一三号三〇五〇頁、横 ︵ 本件の一・二審判決については、すでにふれたところであるが︵八四頁以下参照︶、最高裁判決はつぎのような理由か ら原審判決を破棄差戻している。すなわち、原審判決は認定諸事実から、労働契約上の義務の履行を強制しえないて いどの危険が存しないとするが、米海軍艦艇による護衛が付されたことや、従前危険海面手当等の支給に関する団体 交渉の妥結後に出航がなされたことは、当事者問に危険が具体的なものとして意識されていたからである。また危険 の評価にあたり、当時のわが国と韓国との緊迫状態を度外視することはゆるされない。そして、かかる危険は労使双 方がいかに万全の配慮をしてもさけがたい軍事的なものであり、乗組員の予想しうべき海上作業にともなう危険の類 でないから、危険の度合がかならずしも大でないとしても、乗組員において、意に反して義務の強制を余儀なくされ るものとは断じがたい。したがって、乗組員の出航拒否行為をもってただちに公労法第一七条に違反すると断ずるの 民事労働事件と高等裁判所 一コニ︵輔二二︶ 論 説︵島田︶ 一一四︵一一四︶ 嫁酷であり、またかりに違法があるとするも、違法性の度合はぎわめて軽徴である。 最高裁判決は、さらに論旨をすすめて、公労法第一八条は第一七条違反者の解雇を規定しているが、﹁職員の労働 基本権を保障した憲法の根本精神に照らし﹂、また身分保障を規定する公社法の趣旨にかんがみると、職員に対する 不利益処分億、必要な限度をこえない合理的範溺にとどめなければならない。本件において.交渉が妥結してから出 航するのが例であったという事実に徴すれば、前示のような事情のもとに、乗組員が出航を一時阻害したというだけ の理由でなされた本件解雇は、妥当性・合理性をかぎ、公社にみとめられた合理的な裁量権の範甥をいちじるしく逸 脱したものとして無効と解すべきである、となした。 この最高裁判決が、前掲高裁判決にくらべて格調高いものとなったのは、いうまでもなく、﹁労働基本権を保障し た憲法の根本精神﹂に立脚して、判決を説きおこしたところにある。高裁判決においては、その判断の基調におかれ たものは、業務命令の絶対性と職務専念義務の不当な強調であった。つまり、高裁判決鳳、現行法秩序において、業 務命令の絶対性・職務専念義務を価値あるものとかんがえていたが、労働基本権保障の憲法の根本精神をそれほど価 値あるものとかんがえていなかった、といえるだろう。 上級審ほど人権保障がうすくなるとの一般命題の展開を、民事労働事件のばあいに高等裁判所においてさまたげた 要因は、労働基本権保障の曹としてなお十全の機能を果していない最高裁判所によっても投判されるような、この高 等裁判所の憲法不在。労働基本権保璋にたいする無感覚と無理解・労働者的権利保障の価値体系支持への拒否に、L ばしば存在していたとみられるのである。 ︵1︶ なお、高裁判決が賃金保護の法原則におもいおよばなかったのは、請求権者が﹁取締役﹂であったからであろうoこの点 は、最高裁判決についても共通することであるが、本件のような会社再建を依頼されて、在庫品売却・半製品の仕上販売。 未払賃金の支払ていどの業務にたずさわるにすぎず、しかも﹁取締役﹂就任後いくばくもなく退職しているような者が、実 質的に取締役であろうはずはないQすこしでも、事実の形式にではなく、実態に注意するならば、この者がたんなる名目的 ﹁取締役﹂であり、その報酬も賃金であったことがみぬけたはずである。概念法学的訓練の機会しかあたえられていない上 級審裁判官には、こうした判断を要求することは、あるいは無理なのかもしれない渉Q 四 労働者的権利の保障と高裁判事 ーむすびにかえて 剛 高等裁判所は、事実審にかかわる最終裁判所である。したがって、訴訟技術上は高等裁判所の段階までに、訴 訟当事者の有利に訴訟事実を確定しておくことの重要性が、しばしば指摘せられている。だが、それにもかかわら ず、たとえ訴訟当事者の有利に訴訟事実を確定しておいたとしても、裁判官による認定事実の評価次第によっては、 かならずしも当事者の予期した結果がえられないこととなる。すでにのべた千代田丸事件にたいする東京高裁判決 が、まさにその典型例である。つまり、認定事実にたいする裁判官の評価を決定するものは、裁判官みずからが支持 する法的価値体系のいかんにかかってくる、といっても過言でない。これを労働事件にそくしていえぼ、担当裁判官 において、労働基本権保障の憲法的価値体系を、程度の差こそあれ、支持するかどうかに裁判の結果がかかってく る、といえるわけである。 民事労働事件と高等裁判所 一一五︵一一五︶ 論 説︵島田︶ 一一六︵一一六︶ 二 ところで、これまでのところでは、おもに高等裁判所一般を問題として、労働者的権利の保障機能やその態様 を検討してきたのであるが、ここではみぎの観点から、すこしく問題を再検討しておくこととする。 高等裁判所の個別裁判官が、民事労働事件において、労働者的権利の保障にいかに対応してぎたかをしめす第八表 によれば、高等裁判所の一般的傾向のなかで、それに抗するかのように、労働者的権利の保障に価値をおく裁判官の 存在することをしる。裁判官個人の取扱件数がきわめて少ないので、多分に浮動的要素のあることを否定しえない が、それでも取扱件数五件以上の裁判官四〇名を労働者側勝・敗訴を基準に、順位別で配列したばあいに、取扱件数 の過半数につき労働者側勝訴判決をくだした裁判官は、東京高裁の近藤完爾裁判官以下六名であるにすぎない。 この六裁判官の所属庁が、東京・大阪の二高裁であることは、両高等裁判所がしめる労働者側勝訴率の低位のゆえ に︵七四頁以下︶、両庁所属のいかにおおくの裁判官が、労働者的権利の保障にそぐわない判決をおこなっているかが わかる、というものである。このことの一端は、三一位以下に配列された裁判官のほとんどが、東京高等裁判所の裁 判官であることによっても、しめされている。 また、おなじく第八表によれば、労働者側勝訴率五〇%以上の裁判官においては、逆転勝訴判決へのかかわりが七 例みられるにたいし、労働者側勝訴率五〇%以下の裁判官においては、逆転勝訴判決へのかかわりは二例︵おなじく 一六位にランクされた福岡高裁の竹下利之右衛門.小西信三裁判官︶にすぎず、一般的には逆転敗訴判決へのかかわりをふ かめている。いうまでもなく、このことは、労働者側勝訴率の高い裁判官のほうが、労働者的権利の保障に質的にも高 い判決をしめしうる可能性をもつことをものがたるもの、といえよう。たとえば、東京高裁の近藤完爾・田嶋重徳・ 第8表 民事労働事件と高等裁判所 裁判 官名 1 1 1 4 5 6 7 8 9 10 件数 近藤完爾(東) 6 田嶋重徳(東) 6 小堀 勇(東) 5 5 6 菊池庚子三(東) 吉村正道(大) 労働者側勝訴 5 6 大田外一(大) 県 宏(名) 6 7 熊野啓五郎(大) 毛利野富治郎(東) 7 大野美稲(大) 6 6 5 4 4 1,000 3 .600 3 3 3 3 .500 労働者側敗訴 0 0 0 1 1 2 2 3 3 4 12000 1,000 .800 。667 .500 .428 .428 逆転勝訴 1 工 1 2 .200 工 .400 1 2 。333 .500 2 .428 .572 2 7 8 牛山 要(東) 32 薄根正男(東) 33 伊藤顕信 (東) 10 34 奥野利一(東) 12 35 岩永金次郎(福) 36 藤江忠二郎 (東) 37 梅原松次郎(東) 38 大江保直(東) 39 岡崎 隆(東) 40 白木 伸 (名) 5 5 5 1 .142 5 .714 1 1 。125 7 .875 .100 ヱ 。080 6 10 6 8 5 5 13 1 1 .600 3 .833 2 3 4 5 7 0 0 0 0 0 0 1 .167 ↓ ↓ 31 逆転敗訴 .400 .600 2 2 .800 .833 .875 1,000 (備考)取扱件数5件以上の裁判官40名を対象とした。 裁判官名の後に( )に入れたものは、所属庁名の略である。 例、(東)=東京高等裁判所。 小堀勇裁判官がかか わった逆転勝訴判決 は、組合役員にょる 休憩時聞中の政党機 関紙︵ビラ︶の配布行 為にたいする懲戒解 雇の無効性をあきら かにした日本ナショ ナル金銭登録機事件 ︵昭四二劔二四二三号、 昭四四・三・三判、労 民集二〇巻二号二二七 頁︶であり、また東 京高裁の菊池庚子三 裁判官がかかわった 逆転勝訴判決は、木 一一七︵一一七︶ 論 説︵島田︶ 一一八︵一扁八︶ 材市場会社の要請により木材間屋がなした従業員の解雇につき不当労働行為の成立をみとめた由恵木材事件︵昭一三二 ㈱二七八四号、昭三五・一〇・一〇判、労民集一一巻五号二〇三頁、角村克己・吉田良正裁判官と構成︶であることからも、そ の水準の高さをおしはかることがでぎよう。 三 それでは、どうしてこのような労働者的権利の保障に重きをおく法的価値体系を支持する裁判官と、そうでな 裁判官の労働問題についての理解度のほか、客観的な権利闘争の展開状況等について、また労働者的権利の保障に忠 い裁判官があらわれるのか。この点を決定づける諸要因のうち、裁判官の職業的基礎としての法学教育のあり方や、 ︵1︶ 実ならざる法理論のうらがわに流れる憲法意識の稀薄性については、すでに具体的に論じたことがある。そこで、こ ︵2︶ こでは、裁判官が概念法学的思考方法にしがみつくかぎりでは、とうてい労働者的権利の保障におもきをおく裁判を 実現できないことを指摘して、本稿をむすぶこととする。 このことを証明する典型例は、労働者的権利の保障に相対的高位をしめる名古屋高等裁判所のうちで、その傾向と は逆に、偲人別ランクで第四〇位に配列された白木伸裁判官のかかわるトヨタ自動車事件︵昭二五㈲一七号、昭二五・ 八・一九決、労民集二巻一号五九頁、中島奨・茶屋勇吉裁判官と構成︶がある。 本件は、企業整備による人員整理につぎ紐合の同意を必要とする労働協約に違反する人員整理をしてはならないと の仮処分申請において、使用者がわが労働協約の効力をあらそったものである。原審決定︵名古屋地裁、昭二五㈱一六 二号、昭二五・五・二九決、労民集一巻三号四八O頁、山口正夫・奥村義雄・杉山克彦裁判官︶は、改正労働綻合法第一四条が 協約当事者の﹁署名﹂を効力発生要件としたところから、﹁署名﹂は自署であり、﹁記名捺印﹂または﹁捺印﹂をもっ てかえることができず、﹁記名捺印﹂のみで﹁署名﹂のない労働協約ば、労働協約としての効力を保有しないもの、 とな し た 。 これにたいして、抗告組合がわは、平賀健太法務府民事局第六課長︵のちに、東京高裁判事、註︵2︶をみよ︶さえも が、労働緯合法第一四条の﹁署名﹂に﹁記名捺印﹂をふくむとの解釈をしていたことにめをつけ、その点を指摘した のであったが、高裁決定は原審と同様にかんがえるので、抗告人主張のような﹁少数学者﹂︵刻︶の見解をとらない、 と抗告理由を排斥した。また高裁決定は、署名のない協約はたんなる契約としての効力しかもたず、労働協約として の個々の労働老を拘束する効力︵規範的効力︶もしょうじない。もし、そうでなければ、労働緯合法第一四条に署名を 必要とした条文は、無用にきすることになるからである。だから、使用者と労働組合とのたんなる契約からは、個々 の労働者の解雇を阻止することはでぎない、と論旨をはこぶわけである。 この高裁決定に、まさに概念法学の極致をみる思いを禁じえないのは、おそらく筆者ばかりであるまい。第一に、 労働組合法第一四条が﹁署名﹂を効力発生要件となしたのは、協約書面上の労使問の合意がたしかになされたことの 確証方法としてであり、それじたいぎわめて技術的方法の問題である。だとすれば、合意の存在が﹁署名﹂で確証さ れようが、﹁記名捺印﹂で確証されようが、合意の存在自体に本質的な差異をもたらすはずぱない。蜜して、署名に したしまず、記名捺印をもって合意の確証方法とするわが国の慣行や、その慣行を妥当として法認した手形法ω小切 手法の存在を考慮にいれれば、認名捺印はあるが署名をかく労働協約の効力まで否認ずる解釈を5ちだずには、それ なりの理由を必要としたはずである。だが、高裁決定が全面的に支持をあたえた原審決定にも、合意の慎重性という 民事労働事件と高等裁判所 一一九︵一一九︶ 論 説︵島田︶ 一二〇︵一二〇︶ 理由以外に、理由らしい理由はみいだせないのである。 高裁決定は、その後不当にも最高裁判決︵昭二五㈲一〇三号、昭二六・四・二判、大、最民集五巻五号一九五頁、長谷川太 一郎・沢田竹治郎・霜山精丁井上登・栗山茂・真野毅・小谷勝重・島保・斎藤悠輔・藤田八郎・岩松三郎・河村又介裁判官︶にお いて支持されることになるが、しかしその解釈の合理性はかなり疑わしかった。そこで、昭和二七年の法改正︵法二 八八号︶により、労働組合法第一四条に﹁署名﹂とならんで﹁記名押印﹂が規定されることにょり、みぎの条文の文 言にのみとらわれて、合理性・妥当性をかく法解釈にとどめがさされたのである。 第二に、高裁決定は、署名をかく労働協約の規範的効力さえ否認した。このことは、究極的には、労働組合のまっ たき否認を意味するのである。なぜかといえば、個々の労働者の交渉では期待できない賃金・労働諸条件の改善を意 図して労働組合が結成され、その労働組合が集団的に要求を提示して団体交渉をおこない妥結したところのものこそ 労働協約だからである。したがって、労働協約でさだめる賃金・労働条件が個々の労働者の契約内容となること︵規 範的効力をもつこと︶は、労働者団結の存在を前提とする以上、否定しうべきもないところである。だから、労働組合 が国家法により承認される以前においても、労働協約の規範的効力をみとめる大阪控訴院の判決︵昭七.一二.二一 判、法律新聞三五〇四号︶が存在しえたわけである。まして、団結権保障の憲法次元においては、たんなる署名をかく 労働協約から、その規範的効力をうばいさる理由は、まるでなくなっているといえる。 高裁決定がこう理解できなかったのは、労働協約の規範的効力は、団結権保障の法構造から労働協約に本質的なも のではなく、国家法により特別付与されたものだ、とかんがえたためであろう。この理解は、法律があって社会実態 が形成されるという法律万能的な、また法律による社会統制機能の一面的な把握しかなしえない概念法学的思考方法 の端的なあらわれでもある。 こうした高裁決定にくみした白木伸裁判官が、本件において団結の存在を無視した人員整理を﹁合理化﹂するとと もに、労働者側勝訴判決において最低位にランクされたのも、ゆえなきことではなかった。 二二 ︵二二︶ ︵1︶ 拙稿﹁民事労働事件からみた東京地方裁判所﹂︵戒能博士還暦記念論文集﹃日本の裁判﹄所収︶二二二頁以下参照。 ︵2︶ 拙稿﹁司法反動化と労働事件ー平賀裁判官の分析﹂労働法律旬報七六七号三頁以下Q 民事労働事件と高等裁判所