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工場における生産革新の進化について - PFU

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工場における生産革新の進化について - PFU
寺嶋博義 *
Hiroyoshi Terashima
*
PFU テクノワイズ株式会社 生産技術部
PFU テクノワイズ 1 は,改善改革が進む風土造りをめざして 2002 年より生産革新活動をスタートし
た.改善・改革は無限であり,生産革新活動も継続進化している.
工場が分散していた時期から工場統合などの工場環境の変化の中で,また変種変量生産環境の中で,どの
ようなコンセプトで,またどのように活動が進化してきたかを革新事例を通して紹介する.
In 2002, PFU Techno Wise Limited started production innovation activities with the aim
of creating an environment that is conducive to improvement and innovation. Improvement
and innovation are boundless, and the production innovation activities are constantly
evolving.
This document uses examples of innovation to explain what concepts were employed and
how activities evolved during changes made to the plant environment (such as plant
integration) since the time when plants were decentralized, and also within the diverse
mix/varied volume production environment.
1
まえがき
導入・運用・改良していくことが生産革新活動である.
PFU テクノワイズ 1 では,スキャナーや情報処理
本論文では,工場環境が変わる過程で改革してきた
端末などの装置の製造を行っており,お客様にコスト・
事例を幾つか取り上げ,その特徴,成果,又推進上でぶ
品質・納期面で満足と安心を与える工場を目指して日々
つかった壁などについて紹介する.
の生産活動と並行して生産革新活動を継続している.
最後に,今後の生産革新推進において,顧客満足度
生産革新活動は,図−1に示すように生産性の向上
や製造リードタイム(所要時間)短縮,調達リードタイ
ム短縮,在庫削減,スペース削減などを目的として,生
産過程に潜むあらゆるムダを排除していくことと言い換
えることが出来る.ムダは,付加価値のない作業,造り
すぎ,非効率なラインレイアウト,非効率な工場内倉庫
配置と工場内物流,部門間の情報停滞,調達における欠
品など様々である.
そのムダを排除していくために,現実的には知恵と
工夫を凝らしたしかけ(ライン設備などのハード)やし
くみ(制度,管理システムなどのソフト)を生産過程に
PFU Tech. Rev.,21, 2,pp.57-63(11,2010)
意識改革
工場環境
スペース・レイアウト
【生産革新】
・柔軟性
・流れのシンプル化
・人間性
生産過程に潜む
あらゆるムダの
徹底排除
■あらゆるリードタイ
ムの短縮(在庫削減)
■スペース削減
■生産性向上
■品質向上
生産ライン
生産管理・ 取引先∼工場∼
調達
顧客の全体プロセス
●図―1 生産革新の対象と狙い●
(Fig.1-Targeted areas and goals of production innovation)
57
工場における生産革新の進化について
およびマザー工場 注1)としての総合力向上を狙いとした
展開を図るために全プロジェクトを対象に毎月 1 回の
活動テーマを考察し,工場としてのビジョンを描く.
生産革新報告会を開催し,改革状況と SHOP 注2)損益
を報告し進捗に対するコメントや方向付け,あるいは新
2
環境変化
PFU テクノワイズ 1(以降,PTW)での生産革新
活動当初の工場でのものづくりの環境は,量の時代から
規テーマの抽出を行っている.
4
生産革新の変遷と進化
変種変量の時代へ移り変わり,これに伴い工場の課題も
図−2に示すように PTW での取組みは,2002 年
変化してきた.工場を構成する人・設備・材料・情報な
よりスタートし現在も継続している.活動の変遷におい
どに対して柔軟性が要求される環境となった.
ては,工場が分散していた時期での学習開始・工場の基
工場が最大 9 拠点に分散していた時期があったが,
礎作り段階,また分散工場への横展開を進めるための意
この時期は各工場でのものづくりは,纏めて造る方が早
識改革段階,工場統合後の段階で取組みも次に示すよう
いという能率を優先する意識が残っており全体効率を追
に進化している.
求する意識改革も必要となってきた.
(1)工場が分散していた段階
生産革新の学習をベースとしたセル生産への全面変
3
生産革新推進上のコンセプトと推進
体制
3.1 コンセプト
更などライン改革が中心であった.いわゆる点の改善が
主体であった.
(2)分散していた全工場への水平展開の段階
当時の主力工場であった羽咋・高松工場から生産革
工場が生産革新を進める上での基本的なコンセプト
新の学習と実践を開始したが,他の工場への水平展開を
は,前述の生産環境の変化に常に追従し,効率性を追求
図るために,3S と SHOP 制をスタートさせ意識改革
し続けることである.改革の狙いは,現時点での生産方
活動が進化に加わった.
法や生産管理方法のムダを発見・排除し,また柔軟性,
(3)工場統合後の段階
流れ性,人間性の尊重を重視した革新的なしかけやしく
分散工場ゆえでのムダが散見され始め,2004 年頃
みを構築していくことである.また,顧客や取引先と情
より工場統合に向けての検討が開始された.分散してい
報をつないで全体チェーンのなかでの全体効率を追求し
た各工場は,現行スペースを 30 %削減して統合工場
たしくみを構築していくことも重要である.さらに,
へ移動すべく事前準備を進めた.スペース改革意識が高
「良い工場は最高のセールスマン」と言われるが,生産
まった時期であった.2006 年には工場統合による設
革新活動は営業支援活動であるという考えが重要であ
計,製造一括請負いが可能な ProDeS センターが誕生
る.
2002
2003
2004
2005
2006
ビジネス立上
生産革新は,テーマにより個人で進めることは困難
構造改革
3.2 推進体制
ProDeS 事業立上
(工場再発足期)
・元ホームセンター建屋
賃借からのスタート
製造工場最大 9 ヶ所
な場合が多い.つまり,生産の方式や管理の仕方を変え
るには,社内関係部門,関係会社さらに顧客との仕様打
合せや交渉が必要となり,経営層の判断をあおぐ場合が
多々ある.また,生産革新テーマはトップダウンで行わ
れる場合が多い.したがって,生産革新推進上での組織
を作って進めることが必要となり,改革組織のトップは
2007
2008
2009
製造革新
2010
2011
マネージメント革新
・ProDeS センター開設
・製造拠点統合ワンフロア化
PFU グループ
・ProDeS 開発部隊のセンター集結
グローバル SCM 戦略
・クリンルーム増設
・SHOP 高度化
・SMT ライン導入
・一気通貫生産体制完成
・お客様との SCM 統合化
生産革新活動
工場としてのベース造り
全ラインセル生産導入
生産革新基本
ステップの実践
PT 板 IMT リードタイム短縮 S510 高品質
装置後補充ライン化
ラインへの改革
■生産革新 WG スタート→
■SHOP 制→
■3S 小集団→
■3S パトロール→
SCM /間接/物流改革
グローバル SCM・
後補充定着
PT 板 IMT-SMT 一貫体制
PT 板 IMT ワンプラットホーム
ライン
出荷連動型生産
納入指示方式採用
特定顧客との SCM モデル実践
グローバル SCM
後補充生産の定着化
欠品レスモデルの実践
セル究極モデルの追求
PULL 生産
システム導入
部品倉庫レス,ラインサイド化推進
調達改革
役員とし,トップダウン型を取っている.また,全社横
●図―2 生産革新の経緯●
(Fig.2-Background of production innovation)
注1)マザー工場とは,複数の工場を有する場合,製品を作り出す
上での設計品質,製造品質,さらに生産設備・治工具類などを
含めた生産技術などを他の工場に対して主体的な立場で指導出
来る工場を言う.
注2)SHOP(店)は,工場の一つの生産ラインを意味する.工場
全体の損益改善の仕組みとして,ラインを店と見なし,ライン
マネージャーはその店の経営者としてラインの損益管理を行う
ことから,生産ラインを SHOP と称している.
58
PFU Tech. Rev.,21, 2,(11,2010)
工場における生産革新の進化について
した.これにより生産革新活動は,人・設備・材料の物
インを開発し運用してきた.なお,微動ラインとは,
理的集約のメリットを生かし,点の改革から工程間,部
わずかずつ一定のスピードで動くラインを意味し,
門間,顧客と工場間,取引先と工場間などの線の改革へ
このラインを使うことで,作業の多少の遅れは作業
と進化した.
者がラインの進行方向に動くことで吸収できるの
以下に各段階での事例を記載する.
で,生産数の安定に効果がある.
④ 生産の予定実績進捗の見える化
5
生産革新の基本コンセプトに基づく
改革事例
5.1 工場が分散していた段階での事例
PTW の主力工場は,羽咋工場(装置組立)
,太田工
場(板金加工)
,東河原工場(装置組立)
,高松工場
(PT 板ユニット製造)
,潟端工場(サーバーロッカー組
立)があげられ,各工場独自での改善活動を進めてきた.
本日の計画数,現時点の予定数と実績,遅れを
モニターで見える化したしくみを採用した.
⑤ ラインサイド倉庫化
部品供給の運搬のムダを省く為に,ラインの近
くに部品倉庫を設け,ラインを止めないために専任
の部品供給者を採用した.
3)成果と考察
セル生産や共用ライン化など個々の改革は,生産性
生産革新活動の本格的展開は開発製造サービス
に貢献してきた.また,活動を振り返れば,生産方式
ProDeS
の基本を学習し実践してきたことにより,現在の装置
のメイン工場であった羽咋工場及び高松工
参1)
組立ラインにおける生産方式のベースを築いてきたこ
場から始まった.
(1)装置組立工程(羽咋工場)での取組み事例
1)U 字屋台型セル生産
U 字屋台型のセル生産方式は,入りと出を 1 か所
とがこの段階での成果であると考える.
(2)PT 板後加工工程(高松工場)での取組み事例
1)生産革新の基本ステップの実践
でコントロールできる構造で,目的はライン内仕掛総
高松工場でもまず学習から始めた.学習内容は,生
量を最小に保つことやライン内での助け合い作業を可
産革新の基本ステップの決める 3 条件(順序を決め
能にすることにある.また,屋台のような構造は,部
て流す,総量を規制して流す,PT 板の特性により通
品や工具を手元に置くための構造であり繰り返し作業
るルートを決めて流す)
,守る 3 条件(平準化して流
の工数削減のためのしかけである.このコンセプトの
す,運搬時の 1 の単位数量を決める,その日の生産
もと,羽咋工場では,2003 年より直線ライン,コン
計画を遵守する)
,改善する 3 条件(工程と工程を結
ベアライン主体の生産方法を取っていたが,全面的に
合する,少ないロットサイズで流す,同期させる)が
セル生産方式へ変更した.
あげられる.高松工場 PT 板工程(表面実装工程 注4)
2)セル生産を支える基礎的改革
以降の後加工)でこの基本ステップにそった改革をコ
① 共用ライン化
ンセプトとして実施してきた.目的は,製造リードタ
工場スペースは限られている為,機種別に専用
ラインを持つのではなく,製品サイズ別に流すライ
ンを共用する方式を採用した.
② ラインの間締め
とブロック・レイアウト
注3)
イムの安定と短縮であった.
2)意識改革
ここでの取組みにあたっては,作業者及び管理者が,
これまでの纏めて作る概念から小ロットで流す意識へ
個々のラインの間締めと物流動線を単純化する
の変革と教育に時間がかかり,革新が進むようになっ
為にメイン通路に向かって規則正しくラインを配置
たのは,活動開始から約 1 年を要した.意識改革と
するブロック・レイアウト方式を採用した.
してこれまでと異なる基本の概念をつかむまでは時間
③ 微動ラインの採用
を要したが,ねばり強く教育を継続してきた.
台車上で組立をする卓上製品に対し,一つの製
品を作るまでの所要時間の生産タクトを守るためや
不良発生時,ラインの全工程を止めるための微動ラ
注3)ラインの間締めとは,工場スペースを有効に活用することや,
ムダな歩行などを無くすことを目的に,ラインレイアウトを工
夫してラインスペースを削減することである.
PFU Tech. Rev.,21, 2,(11,2010)
3)成果と考察
従来,PT 板製造リードタイムは,平均 40 H であ
ったが,約 5 H へと 1/8 に短縮した.
注4)ここでの表面実装工程とは,一般に SMT ラインを言ってお
り,電子部品を自動搭載する工程のこと.SMT は,Surface
Mount Technology の略.
59
工場における生産革新の進化について
この活動は,現在の生産革新活動を進める上での基
(生産性)
,Q(品質)
,C(コスト)
,D(納期)
,M(モ
礎となっている.後述するが,表面実装工程後の部品
ラール)
,S(安全)を管理し維持向上を図ることであ
組込みや試験・梱包までの仕掛り量を一定に保ち,製
ったが,SHOP 長の役割は,PQCDMS +損益改善で
造リードタイムを安定化するしかけ(ワン・プラット
ある.SHOP 制を導入した狙いは,各ライン毎の損益
ホームライン)を短期間で実現している.
を把握し,対策を打っていけるようにすることである.
またライン管理者が店長という立場の自覚と店の損益に
5.2 分散していた全工場への水平展開段階での事
例
羽咋,高松工場の改革が進むにつれ,他工場への展
開を,生産革新のベースである 3S(整理・整頓・清掃)
責任感とやりがいを持たせることにある.
スタート時は,発生費用と収入費用のデータの精度
は劣るものがあったが,現在は,経理ベースで損益が出
るように改善されている.
とコスト意識改革のベースとなる SHOP 制を切り口に
SHOP 制の維持は,月に 1 回の役員を含めた報告会
水平展開を行ってきた.また,全工場への水平展開を図
を行い,問題の把握と改善の動機付けを行っている.こ
ることに加え作業者のモチベーション向上を狙って年 2
の活動により,損益の悪い SHOP は,工数改善に加え,
回の発表会を開催するようになり現在も継続している.
他ラインへの応援,スペースの削減,間接スタッフの固
また,このようなボトムアップ活動に加えて,改革風土
定費配分見直しなど損益を意識した活動が見られるよう
強化を狙って会社トップ・役員を含めた中間管理職以上
になった.
での生産革新合宿を開始してきた.これも年 1 回実施
5.3 工場統合後の段階の事例
し継続している.
(1)3S の取組み
これまで,PTW の生産拠点は多い時期で 9 拠点あ
3S のスタートは,東河原工場でモデルケースを作り,
り,建屋の賃借負担,人の分散や移動ロス,物流ロスな
各工場へ展開する方法を取った.また同時に月に 1 回
ど大きなロスが発生していた.2004 年より統合計画
の 3S パトロールを開始した.工場が分散していたた
のための調査が開始され,2006 年 5 月には ProDeS
め,1 日がかりでのパトロールとなった.現在も継続中
センター工場部門が稼動した.図−4は,工場統合後の
である.また,同時に各工場から女性の 3S 委員を選
主な改革項目を示している.ここでは,表面実装ライン
任し 3S 小集団活動を開始した.これが,現在の 3S
導入に伴う工場結合事例,板金工程と装置工程の結合事
パワーへと引き継がれてきている.
例,共通間接業務(物流)などの線の改革へと進化して
(2)SHOP 制の取組み
きた内容を取りあげる.
図−3に示す様に従来のライン管理者の責任は,P
(1)PT 板表面実装ライン導入に伴う工場結合事例
今まで,高松工場では PT 板の表面実装工程は,外
■従来の生産マネージャーの役割 ⇨ プロセスの管理
■SHOP マネージャーの新しい役割 ⇨ 結果責任を負う経営者
部へ委託していた.ProDeS 工場竣工から約 2 年後の
2008 年 9 月に,製造リードタイム短縮及び加工費削
減を目的に表面実装ラインを導入し,同年の 10 月よ
管理から経営へ
従来の
生産マネージャーの役割
SHOP マネージャーの
新しい役割
P(生産性)
Q(品質)
C(コスト)
の維持向上
D(納期)
M(モラール)
S(安全)
(プロセスの管理者)
無事1日済んだ!品質も納期
も原価も OK. 事故も無かっ
た.予定通り出荷した!誰に
も文句は言われないぞ!
左に加えて
さらに
間接業務改革(AR2000 ライン)
ROBOT 工程−組立工程の
工程結合
損益責任
部品ベンダー
工作棟
板金加工工程の
後補充生産化
製造棟
から
今日は,PQCDMS 全て OK!
そして利益も OK !利益が出
ていないときは,原因は?対
策しなければ!!
構内物流改革
PT 板社内一貫体制の
構築
携帯業務端末ライン改革
特定顧客との SCM モデルの構築
特定顧客
●図―3 SHOP 経営にける SHOP 長の役割と責任●
(Fig.3-Role and responsibilities of the shop head for overall
shop management)
60
●図―4 工場統合後の主な改革項目●
(Fig.4-Main reform agendas after plant integration)
PFU Tech. Rev.,21, 2,(11,2010)
工場における生産革新の進化について
り本格稼動させた.
1)工場結合
本改革のコンセプトは,ProDeS センター内へ表
た.
3)成果と考察
高松工場の ProDeS センターへの結合により,
面実装工程,高松工場の PT 板後加工工程及び電子
人・設備・材料が 1 か所に集約され,物流ロスの排
部品倉庫を全て結合し,物流ロスの排除と表面実装ラ
除,共益費用の削減,人の集約による迅速な負荷対応
イン−後加工の一貫製造体制を構築し,製造リードタ
が図られた.また,ワン・プラットホーム方式の採用
イムを短縮することである.また,この結合で人も全
など個々の改善の積み上げにより,製造リードタイム
て ProDeS センターへ移動することとなり実質,工
を半減することが出来た.この成果も過去からの学習
場は ProDeS センター 1 か所となり,工場統合も最
の積み重ねや設備開発における生産技術面での工夫に
終の姿になった.
よるものと考える.
2)ワン・プラットホームラインの設置
(2)板金加工工程の後補充生産化と装置工程の結合
工場統合後の特長的な事例としては,図−5に示す
装置の金物部品を製作する板金加工工程は,これま
ように表面実装工程後の部品組込み,試験,梱包など
では計画に合わせた機械毎のロット生産方式をとってい
後加工工程での「ワン・プラットホーム方式」があげ
た.計画は,装置組立の計画と同期するものであるが,
られる.この方式は,
「異なる品種の PT 板や異なる
欠品などにより装置組立計画も変動し,板金工程では造
製造ロットサイズの PT 板を平均的なタクトタイム
りすぎや不足などが発生するケースもあった.ここでは,
で微動ライン上へ流し,製造リードタイムの安定を図
線の改革事例として装置組立工程と板金加工工程間での
る」というものでリードタイム安定の理論を実践した
後補充生産を実施した事例を紹介する.
ものである.
1)後補充生産
製造リードタイム=工数+停滞で表せるが,投入か
造りすぎや不足を解消するために顧客(ここでは装
ら排出までのリードタイムが 8 H となるようなロッ
置組立工程)からの引取り数を追加補充し即納可能な
トサイズや流す品種が条件となる.
方式をとった.
これまでは表面実装工程後の仕掛りの山の中から次
具体的には,図−6に示すように装置の日当たり生
の工程へ流すために作業者が探しにくるか,現場の工
産数×製造リードタイム×安全係数の部品保管量を設
程管理者が次工程の空き状態を確認して供給してい
定し,引取りに合わせて貯蔵所へ補充する方式をとっ
た.ワン・プラットホーム方式では,
「仕掛り総量規
た.生産指示は,引き取られた分を製造指示かんばん
制」
,
「工程管理者による作業指示レス化」
,
「仕掛り量
で行う.装置組立工程がある程度,平準化がされてい
の見える化及び進捗の見える化」
,
「微動によるリード
ることが条件となる.
タイム安定化」が図れ,新たな取り組みへと進化させ
2)運用開始にあたって
これまでの,計画生産とは異なるため現場での運用
は,事前のシュミレーションを行った.ここで苦労し
た点は,これまでの計画生産方式から後補充生産方式
への意識改革と教育に時間を費やしたことがあげられ
る.対象機種は,主要 3 機種から開始した.
顧客(装置組立工程)から引かれた分を補充生産
補充リードタイム= 1 日
レーザー
補充リードタイム= 1 日
加工セル
組立セル
洗浄
③
SP
半自動
④
貯蔵所A
複合機
補充リードタイム= 1 日
曲2
曲1
貯蔵所B
1 台キット
機種別保管
①
完成品
貯蔵所C
②
顧客
装置組立
工程
防錆
製造指示
製造指示
出荷時,完成品の
かんばんをはずし
ポストへ入れる.
微動ライン(29 m/8 h)による,投入から完成までのリードタイム
の安定化とライン上での仕掛り量の規制
●図―5 ワン・プラットホームライン●
(Fig.5-A one-platform line)
PFU Tech. Rev.,21, 2,(11,2010)
製造指示かんばん
かんばんをはずし
ポストへ入れる.
親かんばんから図番
単位のかんばんが必要.
●図―6 後補充生産●
(Fig.6-Later-replenishment production)
61
工場における生産革新の進化について
倉庫を各ラインサイドの貯蔵所に分散し,入出庫リー
3)成果と考察
装置組立工程への供給は,欠品ゼロとなり,また即
ドタイムの大幅短縮を実現した.また,部品受付から
納体制を構築でき,製造指示はかんばんで行われるた
エレキ部品検査とメカ部品検査を経て貯蔵所行きプラ
め簡略化が図れた.従来の製造リードタイムは機械別
ットホームまでの整流化を行った.
さらに,各貯蔵所までのライン別不定期不定量運搬
に 1 日として設定されており,部品は通常,複数の
機械を経て加工されるため,全て作り終えるのに長い
を採用した.
また,ダンボール不要化(樹脂性ケースを使った納
場合は,5 日∼ 6 日を要した.しかし,必要な時
(ものが引取られた時)に必要なだけ(かんばんに記
載された数量を)造り,貯蔵所へ補充する方式により
品)による開梱不要化を推進してきた.
3)成果と考察
従来の計画変動による造りすぎを無くすことが可能と
受入からラインサイドの貯蔵所までのリードタイム
なった.板金工程の活動は,緒に就いたばかりである
は,従来平均 2 日かかっていたものが,4 H 以下と
が,活動に熱があったものと思われ急速に進めること
大幅な改革効果が得られ,入出庫作業の人員も 10 名
が出きた事例である.
から 5 名へ半減した.この成果は,これまで倉庫部
(3)工場内物流改革事例
門,検査部門の組織の壁を無くすことによる組織間受
ここでは,製造ラインをはじめとする全ラインに対
しての共通機能である受入・検査・倉庫部門でのリード
け渡しの停滞を省くことができた典型的な停滞改革事
例である.
タイム短縮事例を紹介する.
1)工程分析と整流化
図−7に示すように部品の入荷から部品倉庫までの
作業と停滞を分析することからはじめ現状のリードタ
イム把握と課題抽出のステップを踏んだ.
6
生産革新活動の継続進化について
改革事例のコンセプトや成果を述べてきたが,改善
改革は,時間が立てばこれも古いものとなってしまう.
又,ここでの改革コンセプトは,整流化(必ず決め
られた工程を通ること)があげられる.
つまり,改革後の改良を含め改善には終わりが無い.し
たがって,今後も継続進化させていくことが必要となり,
具体的には,部品の特性(メカ部品,エレキ部品)
,
次に示す取組みが不可欠である.
検査有り無し,行き先別などにより部品が通るルート
(1)強力な推進者とトップダウン
を決めて,合流などによる停滞を無くし,ルート毎の
(2)定例進捗報告の継続
リードタイムの安定を図ることである.
(3)外部機関を活用するなどの教育の継続
2)課題の着実な実行
(4)合宿,発表会の継続
電子部品倉庫を 2 階から 1 階フロアーへ移動し,
(5)進化するためビジョンを描く
停滞分析:停滞か所(★)の削減 6 ∼ 7 か所⇒ 3 か所
受入待ち★⇨検査待ち★⇨倉庫行き待ち★⇨入庫待ち★⇨出庫
後停滞★⇨ラインサイド入庫待ち★の停滞は,6 か所
現状の構内物流図
受入検査
変更後の構内物流図
入庫: 出庫:
入庫待ち
共通部品倉庫 ラインサイド倉庫
一次出庫置場 工程別 KIT
1F
★
★
★
★
★
★
入庫: 出庫:
入庫待ち
共通部品倉庫 ラインサイド倉庫
一時停滞,人⇨人バトンタッチポイント:★
2F
ラインサイド ★
★
倉庫エリア
★
受入検査
一次出庫置場 工程別 KIT
一時停滞,人⇨人バトンタッチポイント:★
KIT
エリア ★
受入待ち★⇨検査待ち★⇨ラインサイド行き運搬用車一時保管
★の停滞は,3 か所(タクシーに乗ったものは直接ラインサイ
ドストアへ 4 H 以内運搬&入庫)
★
★
★
★
★
部品倉庫
エリア
★★
1F
2F
ラインサイド
倉庫エリア
部品倉庫
エリア
KIT
エリア
★
★
受入検査エリア
★
★
受入検査エリア
●図―7 停滞分析●
(Fig.7-Stagnation analysis)
62
PFU Tech. Rev.,21, 2,(11,2010)
工場における生産革新の進化について
(6)生産技術力の向上と改善が進む風土造り
(5)人間尊重の風土造り
工場でものを造るのも,システムを考えるのも,改
7
今後の生産革新テーマとビジョンの
考察
善改革するのも全て人である.生産革新では,今までの
やり方を自己否定するという考えがあり,他人の新たな
意見を尊重することが大切になる.生産革新活動を通じ
工場の使命は,お客様へ安くて良い製品を安定供給
て互いに尊重しあい,達成感を共有できるような風土が
することであり,そのために「顧客や営業情報に基づく
出来,改善がさらに進化していくことが理想と考える.
生産計画」
,
「部品調達」
,
「製造」
,
「梱包出荷」などの基
本機能を有している.この機能の向上に向けて,工程性
(流れ性)
,生産負荷への柔軟性,人間性尊重,さらに生
産技術力の観点から,今後チャンジすべきテーマを幾つ
か取り上げ,あるべき姿を考察する.
(1)生産方式の改革
8
むすび
PTW の生産革新は,2002 年より開始し 9 年間継
続してきた.この間,革新レベルも点から線へと進化が
見られた.また,人の改革に対する知識も教育を通じ着
現在の生産ラインは,製品サイズ別・機種別ライン
実に深まってきており,改革風土も向上している.これ
が基本となっており,複数のラインが存在する.しかし,
も継続的なトップダウンと新しい考えを取り入れるため
各ラインでは負荷の変動により人あまりが発生するケー
の継続教育がボトムアップの活動を支えてきたものと言
スも多々ある.コンセプトは,品種が増える環境では,
える.
機種別ラインをさらに集約し 1 ライン当たりの品種を
増やしてトータルの生産数量を上げることによる効率の
改善改革には,終わりは無く,今日の状態は,いつ
か改善改革が必要になる.
向上を狙うことである.作業対象となる製品が変わる度
工場が存続進化していくために,前述したようなビ
の準備作業である段取り替えが増えることや多能工化の
ジョン追及型のテーマの実行とこれまで工場に不足して
促進の課題を克服し,複数の機種が効率を考慮した順番
いた生産技術による工場のムダを排除するためのしか
で流れる工場を追及したい.
け・しくみの革新を強化し魅せる工場造りを展開する.
(2)生産プロセスの改革
最後に,図−8に示すように多くの課題を実現し,
後工程からの引きに合わせて生産および調達する後
顧客に感動と納得を与えられる「営業支援としての生産
補充の方式を,工場の各工程間,顧客と工場間,工場と
革新活動」とマザー工場として「海外に勝る生産技術力
取引先間で推進する.
と指導力強化」を今後の活動のキーワードとして展開し
理想は,欠品が無く操業度が安定し,顧客希望納期
たい.
を遵守できる工場であると考える.
(3)生産環境の改革
1 フロアーに工場機能が集約されていることを生か
参考文献
参1)ProDeS 紹介ページ
http://www.pfu.fujitsu.com/prodes/consistent/
した最適レイアウトとシンプルな流れ造りや環境・省エ
ネの合理化などがあげられる.理想は,各ラインの現状
の環境が見える化され,又,異常値がフィードバックさ
れて省エネ改善が進み環境への貢献が出来ている工場で
ある.
(4)生産技術力強化とそれを生かした改革
ローコストオートメーション,画像認識技術を活用
した品質安定,無線技術を使った各種データ収集の自動
化,ソフト技術を活用した間接業務の自動化などのしか
け・しくみの充実と魅せる化を図っていく.この活動継
続により,海外を含めた他社にまねの出来ない改革風土
が定着し,さまざまな工夫が展開された状態になること
が理想である.
PFU Tech. Rev.,21, 2,(11,2010)
お客さまが感動・納得する工場!!:良い工場は最高のセールスマン
ローコストオートメーション/日々改善
3S /生産革新
出荷
整流化/総量規制/順序生産
生産計画遵守/ 1 の単位運搬
/平準化
工程結合/同期化/小ロット化
後補充生産化
ProDeS 工場
IMT
CR
かんばん発注
SMT
疑似整流化
間接業務改革
貯蔵所
欠品レス・在庫ミニマム
倉庫
メカニカルセル化
受入
1 フロアーを生かした流れ化(機能的レイアウト)
スペース改善
自動化
平準化納品
装置混流生産化
後補充システム
メカニカルセンター
装置ーメカ結合
ノウハウ蓄積・伝承
全てのリードタイム短縮(在庫削減) 損益分岐点の低減 付加価値率の向上 原価低減
さまざまなしかけ・しくみの構築
●図―8 夢の実現●
(Fig.8-Realization of a dream)
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