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1 製品仕様の決定 DS-UWBを選んだわけ
本稿では,筆者ら(サイレックス・テクノロジー)が開発した の量産品も市場に登場しつつありました.これら無線 LAN 無線画像転送システムを取り上げる.本システムは UWB 通信 を用いた無線プロジェクタ・アダプタもすでに数種類発売 技術を用いて,JPEG-2000 のディジタル・データをリアルタ されており,ある程度の市場性が見込めることは確実と思 イムでネットワークに配信するものである.このようなシステ えました. ムでは,画質や伝送速度,接続の安定性などの要求仕様を満た す必要がある.ここでは,こうした課題をクリアするために筆 ● 新規性と実現性のバランスをとり,DS-UWB に賭ける 者らがどのようにして通信方式やデバイス,システム構成を決 一方,次世代の高速無線通信規格として「UWB」という 定していったのかその過程を紹介する.また,開発したシステ ことばが業界を騒がせており,その標準化はIEEE 802.15.3a ムの実機評価をもとに,製品化への課題をまとめる.(編集部) として策定中と報道されていました.標準の候補としては 複数の方式が提唱されており,筆者らのプロジェクトが発 筆者らは UWB(ultra wideband)通信を利用したリアル 足した時点では,米国 Freescale Semiconductor 社の提唱 タイム無線画像転送システム(UWB-XGA システム)を開 する DS-UWB(direct sequence-ultra wideband)方式と 発しました.このプロジェクトはもともと「無線プロジェ MBOA(現在 WiMedia Alliance)の提唱する MB-OFDM クタ・アダプタ」という製品構想で始まりました.会議室 (mul-ti band-orthogonal frequency division modulation) でプレゼンテーションを行うとき,話し手がノート・パソ 方式が最終候補としてしのぎを削っている,というところ コンを抱えてプロジェクタの前に移動し,ビデオ・ケーブ までは情報を把握していました. ルをねじ込み,ファンクション・キーを押して外部モニタ MB-OFDM 方式は,当時米国 Intel 社が提唱した USB の 出力へ切り替える,この一連の作業を行うようすを見るた 無線化仕様である Wireless USB 注 1 の基本仕様として採用 びに,「あのケーブルがなくなったらさぞ便利だろう」と考 することが発表されていました.参入メーカも多く,業界 えたのが発端です. 全体に勢いが感じられる一方で,試作品も含めてチップ開 発が進んでおらず,実現性に一抹の不安を残していました. 1 製品仕様の決定 ── DS-UWB を選んだわけ 一方,DS-UWB はFreescale Semiconductor 社1 社の提唱 であるものの,民生機器向け UWB チップセットの草分け である米国 XtremeSpectrum 社注 2 直系の技術を保有して この構想が持ち上がった当時(2004 年)は,伝送速度が 11Mbps の無線 LAN(IEEE 802.11b)が普及期を迎えてお り,また伝送速度54Mbps のIEEE 802.11g やIEEE 802.11a KeyWord 90 注 1 :その後,Certified Wireless USB としてUSB-IF(Implementers Forum) で規格が策定された. 注 2 :同社は 2003 年 11 月に米国 Motorola 社(現在の Freescale Semiconductor 社)に買収された. DS-UWB,IEEE 802.11b,MB-OFDM,JPEG-2000,XS110,KS8695P,RB5C634A,EP1C6F256, AD9882A,ADV7125 Design Wave Magazine 2006 November 表1 通信方式の検討 通信方式 IEEE 802.11 UWB(DS-UWB) プラス要因 ¡すでに普及しており,実績のある技術である ¡パソコン側の無線機能がすでに市販されており, プロジェクタ側を作るだけでよい ¡「日本初の UWB 採用製品」というインパクトが狙える ¡既存 UWB チップ「XS110」で伝送速度 110Mbps, 次世代チップでは 220Mbps ∼ 660Mbps と発表されており, 速度面で IEEE 802.11 に大差をつけられる可能性がある ¡UWB はピコネット方式であり,モード設定や SSID/WEP 設定などの煩雑さがない マイナス要因 ¡IEEE 802.11 対応の無線 LAN プロジェクタはすでに先行 製品が発売されており,新規性に乏しい ¡IEEE 802.11a/g の伝送速度は 54Mbps,実効スループット は 25Mbps 程度にとどまる ¡動作モード(アドホック/インフラストラクチャ), セキュリティ設定(SSID,WEP/WPA 設定,パスワードや 証明書など)が煩雑である ¡いまだ発展途上の技術であり,実績がない ¡標準規格や法制上の問題が残されている ¡パソコン側,プロジェクタ側をセットで販売する必要がある ノート・パソコン UWB 無線通信 ノート・パソコン デバイス・ドラ イバ,ユーティ リティなど UWB 無線通信 受信/表示器 ユニット プロジェクタ VGA接続 受信/表示器 ユニット 送信器ユニット(ドングル) : USB,CompactFlashなどで パソコンへ接続 (a) ソフトウェアによるキャプチャ プロジェクタ VGA接続 VGA 接続 送信器ユニット: VGAコネクタで パソコンへ接続 (b)ハードウェアによるキャプチャ 図1 キャプチャ方式の検討 表示画像をキャプチャし,ネットワークに送信するだけでソフトウェアにかなりの負担がかかる.今回は送受信ともに専用ハードウェアを用意した. いました.すでに量産仕様のチップセットである「XS110」 た.しかし, がリリースされているなど,実現性において先行している ¡当時パソコンに装着できる UWB アダプタの入手性が不 ことがうかがえました. 明瞭だった 既存の市場を考えて IEEE 802.11 の無線 LAN ベースに ¡表示画像をキャプチャし,ネットワークに送信するだけ するか,将来性に賭けてMB-OFDM のUWB にするか,両 でソフトウェアに相当の負荷がかかり,パソコンの使用 者の中間をとって DS-UWB にするか,企画,営業,ソフ 体感速度を損なう(図 1) トウェア/ハードウェア開発の担当者を交えて議論を重ね た結果,DS-UWB を採用することを決定しました(表 1). ¡Windows Media Player のような動画表示は原則として キャプチャできない仕様になっている などの問題があり,今回は送受信側ともに専用ハードウェ ● 送受信側ともに専用ハードウェアを用意 要求性能は当時のノート・パソコンやオフィス向けプロ アを用意し,アナログ VGA 出力信号を用いて接続する構 成としました. ジェクタで一般的だった,1,024 × 768 ピクセル(いわゆる XGA)の画像サイズ,30 フレーム/s(目標値)のフレーム速 ● 必要性能を出すため JPEG-2000 チップを採用 度としました.ただし,比較的動きの少ないプレゼンテー 24 ビット・カラーの XGA 画像 1 枚は,無圧縮で 2.25M ションを主な用途とすることから許容下限を 15 フレーム/s バイト(18M ビット)の容量があります.採用する UWB チ と設定しました. ップセット(XS110)の実効スループットが 66Mbps(60%) 受信側(表示側)には専用ハードウェアが必要ですが,送 と仮定しても,無圧縮では 3.7 フレーム/s のフレーム速度 信側(キャプチャ側)はパソコンのバス(USB や mini-PCI, しか実現できません.30 フレーム/s を達成するためには, SD カードなど)に UWB アダプタを装着し,ソフトウェア 少なくとも容量比で 1/8 に圧縮する必要があります. で表示画像をキャプチャして送信する構成も考えられまし DCT(離散コサイン変換)を用いる古典的な JPEG の場 Design Wave Magazine 2006 November 91 2