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ESPO(東シベリア・太平洋)原油、サハリン開発が 北東アジアの石油
ESPO(東シベリア・太平洋)原油、サハリン開発が 北東アジアの石油・ガス需給に与える影響 1.ロシア政府のエネルギー戦略 ロシア政府のエネルギー戦略の主なポイントは以下の通りである。 ・エネルギー(原油、石油製品、天然ガス)はロシアの主要な輸出商品で、輸出総額の 6割を超えロシア経済の命運を握っている。 ・欧州に偏った原油輸出先を成長著しいアジア太平洋地域にも確保するため「東シベリ ア・太平洋石油パイプライン」(ESPO)を2009年末に稼働させた。 ・サハリンからの原油と液化天然ガス(LNG)の輸出も加え、エネルギー輸出の拡大を きっかけに、アジア太平洋地域との関係強化を図る戦略。 ・ESPOの中国向けパイプライン支線は2011年初めから開始された。 ・中国向けの天然ガスは新たなパイプラインを敷設して輸出する計画であるが、中国側 が当面十分な供給を確保しており、価格面で折り合わず、日本を代替の輸出先として 期待している。 ・韓国へは日本と同じく2011年からESPO原油を輸出開始、サハリンのLNG輸出も拡大。 北朝鮮経由天然ガスパイプラインプロジェクトも推進している。 ・ロシアはその財政状況から一旦は原油等の開発に対し優遇税制を取り入れ開発を促進 させた後に、税収増のため朝令暮改的に取り消してゆく等不安定な政策が石油開発等 を難しくさせている面が見られる。また、サハリン1では天然ガス価格が開発会社と ガスプロムの間で合意に至っていないため、天然ガスはほとんどが再注入されている 状況であり、さらにサハリン2では開発段階で環境問題のクレームからガスプロムが 50%の利権を得て参加することになったこともあり、外国企業が新たに石油・ガス開 発に参加するにはそのリスクから難しい面もある。 2.ESPO 原油並びに ESPO パイプラインの現状と今後の見込み 2.1 ESPO原油輸出状況 東シベリア(タイシェト)を起点に原油を日本海に面する港に運ぶ「東シベリア・太 平洋石油パイプライン」(ESPO)を2009年末に稼働させた。ナホトカ湾のコジミノ港 からESPOブレンドとして出荷されている。 表1 年 経由 2010 コジミノ ESPO原油の輸出実績 輸出量 輸出相手国(%) (100万t) 15.34 (307MB/D) 日本(30)、韓国(29)、米国(16)、タイ(11)、 中国(8)、シンガポール(2)その他 (4) 米国(27)、日本(19)、中国(18)、韓国(13)、 2011 コジミノ 15.20(304MB/D) フィンランド(9)、タイ(7)、シンガポール(4)、 ペルー(1)、インドネシア(1)、インド(1) 中国 15.00(300MB/D) 中国(100) (出所)各種報道より作成。 -447- 2.2 ESPOの現状と今後の見込み パイプラインはタイシェットからスコヴォロヂノまでがESPO1として完成、現在 スコヴォロヂノから先は貨車にてコジミノまで輸送されているが、2012年3Qにはその 区間のパイプラインESPO2(Step-1)が完成する見込みである。 ESPO2(Step-1)完成後はコジミノからの出荷は現在の1,500万トン/年(約300千B/D)か ら3,000万トン/年(約600千B/D)に倍増する予定である。 表2 パイプライン部分 輸送能力(100万t/年) 総延長(㎞) 中継ポンプステーション数 出荷施設(コジミノ) 出荷可能量(100万t/年) バース 受入タンク車数(列・両) 受入タンカー(1,000t) 貯蔵タンク(m3) 積み換え施設(スコヴォロヂノ) 処理能力(100万t/年) 受入タンク車数(列・両) 建設期間 ESPOの基本データ ESPO ESPO-1 80 4,739 41 ESPO-2 Step-1 Step-2 30 2,694 7 20 2,045 13 30 21 50 2 2×72 150 50,000×10 15 1 2×72 80-150 50,000×7 15 1 150 50,000×3 20 150 - 15 2×41 15 2×41 2006-2009 2010-2012 2012年Q3 開業 2009年12月 (予定) (注)総延長は2011年12月時点。受入可能タンク車数の「2×72」は2列72両、計144両、貯蔵タ ンクの「50,000 ×7」は容量50,000m3のタンク×7基の意味。 表3 ESPOの建設段階 ESPO-1 (2009年末開業) ●タイシェト・スコヴォロヂノ間のパイプライン建設(3,000万t/ 年)(中継ポンプステーションを7ヵ所設置) ●ナホトカ・コジミノ湾に積み換えターミナル建設 ●スコヴォロヂノにパイプラインからタンク車への注入設備建設 ●中国への支線建設(1,500万t/年) ESPO-2 Step-1 (2012年Q3開業予定) Step-2 (未定) ●スコヴォロヂノ・コジミノ間のパイプライン建設(中継ポンプス テーションを8ヵ所設置) ●タイシェト・スコヴォロヂノ間の能力増強(5,000万t/年)(中 継ポンプステーションを5ヵ所設置) ●スコヴォロヂノの貯蔵施設の増強(15万m3増) ●コジミノの貯蔵施設の増強(15万m3増) ●コジミノのバース能力増強(15万t級タンカー2隻の同時入港が 可能に) ●スコヴォロヂノ・コジミノ間の能力増強(5,000万t/年) ●タイシェト・スコヴォロヂノ間の能力増強(8,000万t/年) ●中継ポンプステーションを21ヵ所設置、合計41ヵ所に (出所)各種資料より作成。 -448- (600MB/D) (300MB/D) (300MB/D) 図1 2011 年末時点の ESPO 原油輸出(ESPO-1) (1,000MB/D) (300MB/D) (600MB/D) 図2 2012年第3四半期以降のESPO原油輸出(ESPO-2Step-1) -449- (1,600MB/D) (600MB/D) (600-1,000 MB/D) 図3 ESPO原油輸出(ESPO-2Step-2) LNG プラント 石油化学工場 図4 沿海地方諸港 -450- 図5 図6 コジミノ港の出荷施設 東シベリアの石油ガス鉱床 -451- 図7 ヤマロネネツ自治管区とクラスノヤルスク北部の石油ガス鉱床 2.3 東シベリアにおける特恵輸出関税 東シベリアにおける新鉱床 開発を促進するために、ロシア 表4 特恵輸出関税率適用対象の東シベリアの新鉱床 鉱床名 所在地 ライセンス保有企業 現状 ヴァクナイスコエ イルクーツク ガスプロムネフチ 未開発 ヴェルフネチョン イルクーツク ヴェルフネチョンネフチェガス 2011年5月に特典失効 ダニロフスコエ イルクーツク イルクーツク石油会社 2011年8月失効 ドゥリシマ イルクーツク ドゥリシマ 2011年8月失効 輸出関税率の適用措置を開始し マルコフスコエ イルクーツク イルクーツク石油会社 2011年8月失効 西アヤンスコエ イルクーツク イルクーツク石油会社 2011年8月失効 た。(ESPO を意識したと思われ ピリュジンスコエ イルクーツク スルグトネフチェガス 未開発 ヤラクタ イルクーツク イルクーツク石油会社 2011年8月失効 る) ヴァンコール クラスノヤルスク ロスネフチ 2011年5月失効 クユムビンスコエ クラスノヤルスク スラヴネフチ 未開発 タグリスコエ クラスノヤルスク TNK-BP 未開発 スズンスコエ クラスノヤルスク TNK-BP 未開発 ユルブチェノ・トホマ クラスノヤルスク ロスネフチ 試験生産 アリンスコエ サハ(ヤクーチヤ) スルグトネフチェガス 2011年8月失効 ヴェルフネペペドゥイ サハ(ヤクーチヤ) スルグトネフチェガス 未開発 の約 30~40%程度の特恵的関税 東アリンスコエ サハ(ヤクーチヤ) スルグトネフチェガス 未開発 北タラカン サハ(ヤクーチヤ) スルグトネフチェガス 未開発 率を適用するようになった。 スレドネボツオビエ サハ(ヤクーチヤ) タアス・ユリャフ石油ガス生産 試験生産 スタナフスコエ サハ(ヤクーチヤ) スルグトネフチェガス 未開発 さらにロシア政府は右記の通り タラカン サハ(ヤクーチヤ) スルグトネフチェガス 2011年5月失効 チャヤンダ サハ(ヤクーチヤ) ガスプロム 未開発 南タラカン サハ(ヤクーチヤ) スルグトネフチェガス 未開発 政府は東シベリアの 22 の鉱床に 2009 年 12 月 1 日からのゼロ しかし、慢性的な税収不足に 苦しむロシア政府は 2010 年 7 月 からゼロ関税率ではなく、通常 特恵輸出関税を順次剥奪してい る。このことから今後の新規 (出所)各種資料より作成。 鉱床開発の進展が難しくなってゆくことも考えられる。 -452- 2.4 ESPO 原油供給の将来性 2009年12月のESPO1に引き続き、ESPO2(Step-1)も2012年の完成に向けて工事が進 んでいる。アジア太平洋地域に進出するというロシアの戦略は輸送インフラにおいては、 着々と進められている。 一方、原油の供給源に関しては、下記の通り東シベリアからの供給だけでは、ESPO 最終目標8,000万トン/年((約1,600千B/D)を充足させることは困難であり、 の 西シベリアからの相当規模の供給が前提となる。 表5 東シベリアの石油生産予測(単位上段 100万t下段 千B/D) 地域名 2015 2020 2025 イルクーツク州 10-11 200-220 9-11 180-220 13-16 260-320 サハ共和国 8-12 160-240 8-12 160-240 7-10 140-200 0 0 18-23 360-460 3-5 60-100 20-28 400-560 10-15 200-300 30-41 600-820 エヴェンキ自治管区 東シベリア合計 (出所)「石油と資本」社資料。 3.東シベリア・沿海地域における天然ガスの状況 3.1 ガスパイプライン 3.1.1 サハリン~ウラジオストクを結ぶパイプライン サハリン~ハバロフスク~ ウラジオストクを結ぶパイプ ラインは2011年9月に稼動を開始 した。ガスプロムの発表によれ ば 当初はサハリン1と2の プロジェクトのロシア政府枠が 供給されることになっているが、 将来的には、サハリンの追加 開発によるガスが供給される 予定。 このプロジェクトは 完成した第一期工事だけで約 2,000億ルーブル(約67億ドル)と 言われ建設費が高く、容量45億 ㎥/年に対し周辺需要は約20億㎥ /年と稼働率も低いため、不採算 での操業が長期間継続する可能性 が高い。 もともと、2012年9月の ウラジオストクでのAPECサミット 開催を念頭に置いた公共事業的 図8 サハリン~ハバロフスク~ウラジオストク・ ガスパイプライン 最大で300億㎥までの増強が検討されているが、韓国向けパイプライン、LNG輸出基 色彩を強く有している模様。 地の建設等が必要である。 -453- 3.1.2 東シベリアとウラジオストクを結ぶパイプライン(チャヤンダ-ハバロフスクーウラジオストク) 東シベリアからハバロフスクを結ぶパイプラインはESPOパイプラインと並走させる 北ルートとやや南を通り距離を短く結ぶ南ルートが検討されているが、いまだ決ま らず建設も開始していない。 サハ共和国は自国の天然ガス開発に有利であり、既存原油パイプラインに並走であ れば敷設工事が容易であるという点から北ルートを推奨し、ガスプロムは工費節減 の点から南ルートを支持している。 3.2 サハ共和国及び東シベリアのガス鉱床の概要 サハ共和国及び東シベリアの天然ガス鉱床のガスはヘリウム、エタン、窒素 等が多く含まれているため、開発開始の目処は立っていない。 ヘリウムは最大の供給国である米国での生産が減少しているため、2020年以降は世界 市場においてヘリウム不足が予想されることから東シベリア天然ガス由来のヘリウム が注目されている。ヘリウムの分離・回収・貯蔵には巨額の費用が必要となるため 国家レベルの対応が必要となるが今のところロシア政府は具体的方針を出していない。 従って、戦略物資としての重要な位置づけからヘリウムの需要拡大・販路が確認され 分離・回収・貯蔵に関する最終結論が出るまでは、東シベリアのガス鉱床の開発は進 展しない可能性が高いと判断される。 西シベリアの一般的なガスはメタンが96~98%で重い成分およびヘリウムはほとんど 含まれていない。 表6 東シベリアのガス鉱床のヘリウム(He)の埋蔵量およびガスの組成 鉱床名 He埋蔵量、10億m3 ABC1 主要なガス成分、% C2 He CH4 C2H6等 N クラスノヤルスク地方 0.05 - 0.525 69.8 8.0 21.5 ソビンスコエ 0.8 0.1 0.576 67.5 6.4 25.26 ユルブチェノ・タホマ 0.3 0.5 0.183 83.0 8.4 7.8 パイガンスコエ イルクーツク州 ヤラクタ 0.07 - 0.226 82.6 11.1 6.2 ドゥリシマ 0.18 0.04 0.26 84.1 6.8 6.8 コビクタ 3.88 1.2 0.276 92.3 5.7 1.5 ヴェルフネヴィリュチャンスコエ 0.18 0.1 0.13 84.5 7.5 7.46 タス・ユリャフ 0.41 0.05 0.38 84.4 7.0 8.1 スレドネボトゥオビンスコエ 0.75 0.04 0.2-0.67 83.8 6.9 8.0 チャヤンダ 1.85 5.3 0.43-0.63 85.6 6.4 8.2 サハ共和国(ヤクーチヤ) (出所)全ロ石油地質探査科学研究所。 -454- 表7 米国の高純度ヘリウムの供給量と需要内訳 100万m3) (単位 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 114 98 87 87 87 86 76 79.4 77 79.6 78 77 3 29 45 40 35 44 57 57.7 60.7 49.9 39.6 48 国内需要 90.3 89.6 88.9 87.6 80.7 85.1 81.6 75.2 73.5 59.6 46.5 54 輸出 26.8 37 43 39.5 41.3 44.9 51.4 61.9 64.2 69.9 71.1 71 供給 生産量 備蓄放出量 需要 (注)Aグレード、純度99.997%以上。 (出所)US BLM(米国土地管理局)。 4.サハリン開発の状況と今後の見通し 4.1 サハリン1(原油) サハリン1の事業形態、概要は以下の通りである。 事業主体 SODECO 30%(国 50%, JAPEX 14%, 伊藤忠18%, 丸紅12%,その他6%) エクソン 30% ロスネフチ 20% ONGC(インド) 20% 前処理能力 石油が約3万4,000t/日、ガスが2,240万m3/日 出荷基地 デカストリ港(対岸のハバロフスク地方) 各10万m3の原油貯蔵タンク2基 一点係留方式のシーバース(10万t級までのタンカーの通年の寄港が可能) 平均のロットは70万バレル 輸出量の過半は日本向け Sokol 原油名 表8 サハリン1の原油生産量の推移 (単位 上段 2005 0.387 8 2006 2.61 52 2007 11.19 224 2008 9.63 193 2009 8.2 164 100万t、 2010 6.98 140 下段 千B/D) 2011.1-9 6.08 162 (出所)ロシア連邦エネルギー省。 ロスネフチ傘下のコムソモリスク製油所に年間約200万t程度の原油が供給されている。 2010年末にオドプトゥ鉱床で原油の商業生産が開始され2011年末までにピーク生産量 の30千万B/Dが達成される予定 2014年アルクトゥン・ダギでの原油生産が開始される予定でピーク時の生産量は450万 t/年(約90千B/D)に設定されているとのことである。 予定通りにアルクトゥン・ダ ギでの商業生産が開始されれば、2015年ごろにプロジェクトとしてのピーク生産量であ る1,200万t/年(約240千B/D)が達成される可能性がある。しかし、その後は生産が減 少に転じ、2020年の時点では500万~800万t(約100~160千B/D)の水準にとどまるもの と予測される。 -455- 4.2 サハリン1(ガス) 表9 サハリン1のガス生産量の推移 (単位 10億m3) 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011.1-9 0.16 0.76 6.4 8.2 9.0 7.7 6.4 (出所)ロシア連邦エネルギー省。 サハリン1の枠内でのガスの生産量は年間約80億~90億m3で、うち約10億~20億m3 がハバロフスク地方に供給されている。残りのガスは全量地下に再圧入している。 地下への再圧入のための設備の処理能力が限界に達しており、そのことがサハリン1 の原油生産に否定的影響を及ぼしている可能性がある。 発表されている数字によれば、 チャイヴォ鉱床だけで年間100億m3のガスを25年以上にわたり生産するに十分な埋蔵 量が存在するとされている。さらに、残りの2つの鉱床のガス埋蔵量も含めれば、 年産100億m3の水準を40年以上にわたり維持することが可能とされている。しかし、 ロシアの極東地方には現在それだけのガス需要は存在しないし、今後についても当該 量の需要が発生する可能性はない。現実的に見た場合、ガスプロムにガスを売却する という選択肢しか残されていないといえるが、交渉は難航しており、ガスプロムとの 間で早期に合意が得られる可能性は現時点では低くなっている。 サハリン1の今後のガス生産は、もしガスプロムとの交渉が早期に妥結すれば、チャ イヴォ鉱床のガス層での商業生産が2014年にも開始され、2015年には生産量が150億~ 160億m3に達する可能性がある。ただし、この数字を達成するには炭化水素資源処理 設備のガス処理能力を現行の80億m3から150億~160億m3に増強する必要がある。そし て、この生産水準は、少なくとも2020年までは維持されることになる。 4.3 サハリン2(原油) サハリン2の事業形態、概要は以下の通りである。 事業主体 ガスプロム 50%+1株 シェル 27.5%-1株 三井物産 12.5% 三菱商事 10% (もともとシェル、三井物産、三菱商事の3社によるプロジェクトであっ たが、開発段階で環境問題のクレームからガスプロムが 50%の利権を得 て参加することになった。) 前処理能力 原油およびガスコンデンセートが60千万B/D、ガスが5,100万m3/日 出荷基地 プリゴロドノエ港 各9万5,000m3の原油タンク2基 一点係留方式のシーバース(15万t級までのタンカーの通年の寄港が可能) -456- 平均のロットは75万バレル 輸出量の1/3は日本向け 韓国にもほぼ同 程度の量が供給されその他、全体の約25%が中国 Vityaz 原油名 ガスの埋蔵量の合計は6,000億m3以上、石油・ガスコンデンセートのそれは 1億7,000万tとされている 表10 サハリン2の原油生産量の推移 (単位 上段 2005 1.6 32 2006 1.6 32 2007 1.7 34 2008 1.4 28 100万t、 2009 5.5 110 下段 2010 6 120 千B/D) 2011.1-9 4.2 112 (出所)ロシア連邦エネルギー省。 現在生産されている2鉱床は減少傾向を示しているが、新たに2鉱床からの生産を 計画しており、サハリン2の原油生産量が今後大幅に伸びる可能性は低いものの、現 在の生産水準(年間500万~600万t,100~120千B/D)が10年もしくはそれ以上維持さ れる可能性はあるものと考えられる。 4.4 サハリン2(ガス) ガス生産量は、沿岸部のガス事前処理設備の処理能力(186億m3)とLNGプラントの処 理能力(年産量は約1,000万tで、年間140億~150億m3のガスの処理が可能となっている) により制約されることになっている。2010年の生産量は、LNGプラントの処理能力+自 家用の消費量(サイト内の発電設備用にガスが使用されている)にほぼ匹敵する154億 m3であったが、この数値を上限の186億m3にまで高めるには、サハリン~ハバロフスク ~ウラジオストク・ガスパイプライン由での国内市場へのガス供給量を増やすことが必 要となる。 表11 サハリン2のガス生産量の推移 (単位 10億m3) 2008 2009 2010 2011.1-9 0.2 9.1 15.4 11.5 (出所)ロシア連邦エネルギー省。 LNGは長期契約に基づき輸出されており、全体の約6割が日本の電力会社に供給されて いる。その他、全体の30%強を韓国企業が購入している。 東京電力や大阪ガスなど日本の電力・ガス会社はサハリン2のオペレーターであるサハ リンエナジーとの間でLNGの売買契約を結んでいる。その量は2010年9月時点で、合計 494万tにものぼる。契約期間はいずれも20年前後。今後約20年間にわたって毎年500 万t弱のLNGがロシアから日本に輸入される予定である。 -457- 日本の電力・ガス会社とサハリン2のLNG売買契約 東京電力 150万t/24年間 東京ガス 110万t/24年間 九州電力 50万t/22年間 東邦ガス 50万t/24年間 広島ガス 21万t/20年間 東北電力 42万t/20年間 中部電力 50万t/15年間 西部ガス 8,500t/18年間 大阪ガス 20万t/23年間 計 494万t 4.5 サハリン3以降の見通し(原油) サハリン3の対象鉱区では、ガスおよびガスコンデンセート主体の鉱床しか発見されて おらず、原油は商業規模の発見は無く生産の見通しは全くたっていない。またサハリン 4,5,6においても同様の状態となっている。 4.6 サハリン3以降の見通し(ガス) ガスプロムが保有するキリン鉱床のA+B+C1+C2カテゴリー(表13参照)の埋蔵量は現 在、ガスが1,370億m3、コンデンセートが1,590万tと評価されている。同鉱床の開発に 際し、ガスプロムは掘削プラットフォームではなく、海中生産設備を導入するとの方針 を打ち出しノルウェーで建造され、2011年9月にサハリンに届けられた。同鉱床では、 2本の探鉱井で2012年第2四半期よりアーリーガス(商業生産の前段階としての初期天 然ガス生産)の生産が開始される予定となっている。 ガスプロムによれば、キリン鉱 3 床における初期の生産量は約20億m であるが2013年以降に設定されているピーク時に は年間46億~50億m3のガスと約50万t(10千B/D)のコンデンセートが生産される見込 みとなっている。ただ、この数字を達成するには、沿岸部に前処理設備を建設する必要 がある他(キリン鉱床の「アーリーガス」は、サハリン2の前処理設備で処理される可 能性が高い)、サハリン~ハバロフスク~ウラジオストク・ガスパイプラインの起点と なるメイン・ガスコンプレッサーステーションとキリン鉱床とを結ぶ総延長139km(口 径は1,020mm)の支線パイプラインを建設することも必要となる。キリン鉱床で生産さ れるコンデンセートの方は、ガスプロムが主要株主となっているサハリンエナジー(サ ハリン2)の石油パイプライン経由で輸出に供されることになるものと考えられる。 なお、キリン鉱区では、ガスの埋蔵量が3,600億m3と評価されているユジノ・キリンスコ エ鉱床が2010年に発見されているが、その開発の開始時期は未定となっている。ガスプ ロムが保有するサハリン3の3鉱区(キリン鉱床を含む)におけるガスの生産量は2020 年までに160億~180億m3/年に達する、とされているが、年間160億~180億m3ものガス の販路をガスプロムが確立できるのかという点が問題である。国内需要の大幅な伸びは 期待できないので、輸出に活路を見出すしかないと判断されるが、今のところ、輸出相 手国も輸出方式(パイプラインを利用した輸出なのか、LNGの形での輸出なのか)も未 定となっている。ガスプロムはサハリン3のガスを優先的にサハリン~ ハバロフスク~ウラジオストク・ガスパイプラインに供給する方針を出しており将来的 には計画されているウラジオストックのLNG基地向けあるいは韓国向けのパイプライ ンによる輸出向けも考えられる。 サハリン4、5、6の対象鉱区は、現時点では商業 生産が可能な量のガス埋蔵量は発見されていない。したがって、それらの鉱区で10年以 -458- 内にガスの生産が開始される可能性はないと判断される。 表12 A B C1 C2 C3 ロシアの埋蔵量カテゴリー別表示 ロシアの埋蔵量カテゴリー別表示 探鉱と生産活動によって確認された生産可能な埋蔵量 探鉱油・ガス坑井によって確認された生産可能な埋蔵量 推定埋蔵量(商業化可能とみなせるあるいは期待できる埋蔵 予想埋蔵量(C1と同様であるが未探鉱の部分の埋蔵量) 探査が行われているが未試掘の部分の期待資源量 出典:JOGMEC 図9 サハリン大陸棚石油・天然ガス開発プロジェクト 4.7 サハリンおよび極東地域の原油の将来性 予定通りに進展すれば、2016~2017年にサハリン大陸棚では2,000万t/年(約400千B/D) 弱の原油が生産されることになるであろう。ただ、その後、原油生産量は急激に減少し、 2020年ごろには、恐らく、1,000万t/年(約200千B/D)前後の水準にまで落ち込むものと 予測される。 このコンテキストで考えていくと、今後、サハリン産の原油の日本への 輸出量が急増する可能性は低いと判断される。それどころか、2020年ごろからはサハリ ン産の原油の日本への輸出量はかなり大幅に減少する可能性がある。 サハリン大陸棚以外の極東の大陸棚(例えば、マガダンの大陸棚)の鉱区の探査は充分 に行われておらず、現時点で、それらの鉱区での原油生産量の水準を予測することは不 可能となっている。ただ、いずれにせよ、サハリン以外のロシア極東の大陸棚の鉱区に おいて2020年までに原油の生産が開始される可能性は低いものと考えられる。 -459- 4.8 サハリンのガスの将来性 先にサハリンの原油の生産量が今後増加する可能性は低いと述べたが、ガスに関しては、 サハリン1とサハリン3に明確な増産もしくは供給余力が存在する。ただ、サハリン産 ガスの輸出量を増やすには、LNG生産能力の増強等の輸出インフラの整備と販路の確保 が必要不可欠となる。 5.ロシア極東地域で進む大型プロジェクト 5.1極東開発 ロシア極東地域の人口はソ連解体から20年間で約2割、165万人も減少した(1991年806 万人→2011年641万人)。 そうしたなかで、ロシア政権は、2012年9月にウラジオストクでAPECサミットを開催 するのを機に、極東開発に乗り出した。総投資額は2008年から2012年までの5年間で 1兆386億ルーブル(約3兆円)に達する。なかでも、APECサミットを開催するウラジ オストクには、極東開発全体のおよそ66%に相当する6,629億ルーブル(約2兆円)を投 じる。エネルギー関係では、ガスプロムにウラジオストクへのガスパイプラインを2012 年までに建設するよう命じ、石油精製ではロスネフチに石油加工施設を建設するよう指 示した。ガスプロムはまた沿海地方南部にLNGプラントを計画する。 今回の極東開発には「アジア太平洋地域への進出」という、これまでにない新しい要素 が加わった。極東を「東の玄関口」と位置づける戦略転換だ。極東開発を通じたアジア 太平洋へのシフト。プーチンの極東開発には単なる地域開発を超えた発想がそこにはあ る。 9,000 (年初、1,000人) 8,064 8,000 7,360 7,000 6,832 6,547 6,409 6,000 5,000 91 96 図10 01 06 11 ロシア極東の人口推移 5.2 沿海地方LNGプラント建設計画 サハリン~ハバロフスク~ウラジオストク・ガスパイプラインの最終地点のウラジオス トク近郊にLNGプラントを建設する構想。最大生産能力は1,000万t/年。総投資額は70 億ドルにのぼり、2016年の稼働開始を目指す。ガスプロムは、伊藤忠や国際石油開発な どが出資する「極東ロシアガス事業調査㈱」と2011年4月にLNGプラント計画の共同事 業化調査を実施することで合意している。予定地はペレヴォズナヤ湾(図4参照)が有 力とされる。 -460- ESPOの最終地点も当初はペレヴォズナヤ湾を想定していた。しかし環境問題により結局、 プーチン大統領(当時)の「裁定」に委ねられることになり、プーチン大統領は別の場 所に変更するよう命じた。 LNGプラント建設についても同様の問題があり変更される可能性がある。 5.3 沿海地方石油化学プラント建設計画 予定地は、原油出荷地点のコジミノ港付近に近いヴォストーチヌィ港内(ナホトカ 市)の社有地。(図4、5参照) 表13 石油化学工場計画の概要 場所 ロシア連邦沿海地方ヴォストーチヌィ港 位置 ロシア連邦沿海地方ナホトカ市ペルヴォストロイテリ村 事業主体 ロスネフチ(子会社・ヴォストーチヌィ石油化学会社) 第1段階:344万t/年 生産能力(原料ベース) 第2段階:844万t/年 第3段階:1,000万t/年 第1段階の生産品目 ベンゼン:、ポリプロピレンポリエチレン、エチレングリコ ールなど) 第1段階:ナフサや液化炭化水素ガスをコムソモリスクとア 原料調達 スケジュール(*)2010年11 月時点 総事業費 チンスクの各製油所およびアンガルスク石油化学工場から 鉄道で運ぶ 第1段階:2012年夏に着工、2015年第2四半期完了 第2段階:2016年着工、2018年第2四半期完了 第3段階:2018年第3四半期完了 100億ドル(第1段階だけで約60億5,000ドル) 未定 主要な販路 中国、東南アジア、北米(とくに中国を重視) (注)2011年11月時点。(出所)各種資料より作成。 総事業費は100億ドル。第1段階だけでも約60億ドルに達する。 ロスネフチによると、原料のナフサや液化炭化水素ガスはロスネフチ傘下のコムソモリ スク(ハバロフスク地方)とアチンスク(クラスノヤルスク地方)の各製油所、アンガ ルスク石油化学工場(イルクーツク州)から鉄道で輸送する計画である。長期的には、 サハリンよりガスコンデンセートの供給を受けることも視野に入れている。 当初、ロスネフチは、石油化学工場でなく、製油所の建設を計画していた。しかし、石 油製品の輸出先が確保できなかったことから、2011年11月に製油所の建設を断念した。 石油化学工場も採算性を見出せたわけではないものの、原材料ではなくできるだけ付加 価値をつけて加工製品として輸出する国家戦略の手前、加工施設の建設を断念すること は許されない。そこで国(プーチン政権)へのポーズとして、化学工場計画を進めてき たとみるべきであろう。製油所も化学工場も、国家戦略に従って「計画を進めています」 -461- という国へのポーズでしかなく、ロスネフチの姿勢をみると、事業の自然消滅を期待し ている節がある。 6.北東アジア(中国、台湾、韓国)の原油・ガス需給 6.1.中国、台湾、韓国原油、天然ガスの需給実績 6.1.1 中国の原油、天然ガスの需給実績 中国の 2005 年から 2010 年までの原油需要は年率 7.6%で増加したが、生産は年率 2.2% の増加にとどまった。それに対し輸入は年率 13.1%の急激な増加を示した。そのため、2010 年の輸入比率は 56.0%に達している。 中国の 2005 年から 2010 年までの天然ガス需要は、年率 17.9%の高い伸びを示した。 生産も年率 13.2%と高い伸びであったが、需要の伸びに追い付かず需要との格差が拡大傾 向となり、輸入比率が増大している。LNG 輸入は 2006 年、パイプライン輸入は 2010 年か ら開始された。 2010 年の LNG 輸入先は、オーストラリアのシェア 41.9%を中心にマレーシア、インドネ シアと続き、ロシアのシェアは 4.1%に過ぎない。 表14 中国の原油需給バランス実績 需要 生産 輸入 輸出 輸入比率(%) 2005 5,794 3,617 2,522 161 43.5 2006 6,194 3,674 2,889 127 46.6 2007 6,550 3,729 3,246 78 49.6 2008 7,261 3,793 3,540 85 48.8 2009 7,633 3,757 4,002 104 52.4 千B/D 2010 8,341 4,031 4,675 63 56.0 図11 中国の原油需給バランス実績 千B/D 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 ‐1,000 2005 2006 生産 表15 2007 輸入 2008 2009 輸出 需要 2010 中国のロシア原油輸入実績 ESPO サハリン ウラル 計 比率(%) 2005 0 40 158 198 7.8 2006 0 68 207 275 9.5 2007 0 47 180 228 7.0 2008 0 69 178 247 7.0 2009 2 53 180 235 5.9 -462- 千B/D 2010 10 51 183 244 5.2 年率(%) 7.6 2.2 13.1 -17.1 表16 中国の天然ガス需給バランス実績 2005 44.3 46.9 0.0 0.0 2.6 0.0 需要 生産 パイプライン輸入 LNG輸入 輸出 輸入比率(%) 2006 54.0 55.8 0.0 1.1 2.9 2.0 2007 68.4 66.7 0.0 4.3 2.7 6.3 2008 78.9 77.4 0.0 4.5 3.1 5.8 2009 85.3 80.4 0.0 7.8 3.0 9.2 10億㎥ 2010 100.9 87.3 3.6 12.9 3.0 16.3 年率(%) 17.9 13.2 2.9 図12 中国の天然ガス需給バランス実績 120 10億㎥ 100 80 60 40 20 0 2005 ‐20 2006 生産 6.1.2 2007 2008 パイプライン輸入 2009 輸出 LNG輸入 2010 需要 台湾の原油、天然ガスの需給実績 台湾の 2005 年から 2010 年までの原油需要は、年率▲2.4%で減少した。中東からの輸入 がほとんどで、2010 年原油輸入量の 80.6%を占める。また、ロシアからの輸入実績はない。 台湾の 2005 年から 2010 年までの天然ガス需要は、年率 9.1%で増加している。2010 年 の LNG 輸入先はマレーシア、カタール、インドネシアが中心で、ロシアからの輸入は 3.9% である。 表17 台湾の原油需給バランス実績 2005 1,024 0 1,024 0 100.0 需要 生産 輸入 輸出 輸入比率(%) 2006 1,049 0 1,049 0 100.0 2007 1,011 0 1,011 0 100.0 2008 925 0 925 0 100.0 2009 901 0 901 0 100.0 千B/D 2010 908 0 908 0 100.0 図13 台湾の原油需給バランス実績 1,200 千B/D 1,000 800 600 400 200 0 2005 2006 2007 輸入 2008 需要 2009 -463- 2010 年率(%) ▲ 2.4 ▲ 2.4 - 表18 台湾の天然ガス需給バランス実績 2005 10.2 0.8 0.0 9.2 0.0 90.7 需要 生産 パイプライン輸入 LNG輸入 輸出 輸入比率(%) 図14 2006 11.0 0.8 0.0 10.0 0.0 91.3 2007 11.6 0.8 0.0 10.7 0.0 91.9 2008 12.7 0.8 0.0 11.7 0.0 92.5 2009 12.4 0.8 0.0 11.4 0.0 92.3 10億㎥ 2010 年率(%) 15.7 9.1 0.9 1.6 0.0 14.6 9.6 0.0 93.1 台湾の天然ガス需給バランス実績 18 10億㎥ 16 14 12 10 8 6 4 2 0 2005 2006 2007 生産 6.1.3 2008 2009 2010 需要 LNG輸入 韓国の原油、天然ガスの需給実績 韓国の 2005 年から 2010 年までの原油需要は、年率 1.3%で緩やかな増加となっている。 ロシアからの輸入は、2010 年に ESPO 原油が 57 千バレル/日輸入され、サハリン原油等 と合わせて 135 千バレル/日となり、前年比で倍増した。 韓国の 2005 年から 2010 年までの天然ガス需要は、年率 10.1%で増加した。需要の 98% を LNG 輸入に依存している。 2010 年のロシアからの輸入数量が前年比で約 3 倍に急増し、 シェアは 9.0%まで上昇した。 表19 韓国の原油需給バランス実績 2005 2,069 0 2,069 0 100.0 需要 生産 輸入 輸出 輸入比率(%) 2006 2,225 0 2,225 0 100.0 2007 2,161 0 2,161 0 100.0 2008 2,196 0 2,196 0 100.0 2009 2,123 0 2,123 0 100.0 千B/D 2010 2,207 0 2,207 0 100.0 図15 韓国の原油需給バランス実績 2,500 千B/D 2,000 1,500 1,000 500 0 2005 2006 2007 輸入 2008 2009 需要 -464- 2010 年率(%) 1.3 1.3 - 表20 韓国のロシア原油輸入実績 2005 0 6 15 20 1.0 ESPO サハリン ウラル 計 比率(%) 表21 2006 0 21 13 34 1.5 2007 0 90 7 97 4.5 2008 0 57 4 61 2.8 2009 0 66 0 66 3.1 千B/D 2010 57 76 2 135 6.1 韓国の天然ガス需給バランス実績 2005 29.5 0.3 0.0 28.8 0.0 97.7 需要 生産 パイプライン輸入 LNG輸入 輸出 輸入比率(%) 2006 35.8 0.3 0.0 35.1 0.0 97.8 2007 36.7 0.3 0.0 35.9 0.0 97.8 2008 40.4 0.3 0.0 39.6 0.0 97.9 2009 35.3 0.3 0.0 34.5 0.0 97.8 10億㎥ 2010 47.8 0.3 0.0 46.8 0.0 98.0 年率(%) 10.1 1.5 10.2 - 図16 韓国の天然ガス需給バランス実績 60 10億㎥ 50 40 30 20 10 0 2005 2006 生産 6.2 2007 2008 LNG輸入 2009 需要 2010 中国、台湾、韓国の原油、天然ガスの需給予測 6.2.1 中国の原油、天然ガスの需給予測 中国の 2020 年の原油需要は 12,659 千バレル/日と予測され、2010 年からの年率は 7.0% になる。生産は大きく伸びないため、需要増加分を輸入に依存することになり、2020 年の 輸入比率は 67.4%に達する。 中国の天然ガス需要は、2020 年には 2,804 億㎥となり、2010 年から年率 18.6%で伸びる ことになる。生産も CBM 等の開発が進み年率 13.6%で伸びていくが、需要との格差が拡 大していくため、輸入が増加し 2020 年の輸入比率が 47.3%となる。中央アジアからのパイ プライン輸入が順調に増加し、2018 年には LNG を上回るようになる。 表22 中国の原油需給バランス予測 需要 生産 輸入 輸出 輸入比率(%) 千B/D 2010 2015 2020 2025 2030 8,341 10,634 12,659 14,938 16,457 4,031 4,135 4,317 4,449 4,482 4,675 6,849 8,532 10,570 12,046 -63 -59 -54 -50 -50 56.0 64.4 67.4 70.8 73.2 -465- 図17 18,000 中国の原油需給バランス予測 千B/D 16,000 14,000 12,000 輸出 10,000 輸入 8,000 生産 6,000 需要 4,000 2,000 0 2010 ‐2,000 2015 2020 2025 2030 表23中国の天然ガス需給バランス予測 需要 生産 パイプライン輸入 LNG輸入 輸出 輸入比率(%) 2010 100.9 87.3 3.6 12.9 -3.0 16.3 2015 184.6 127.3 26.8 33.0 -3.0 32.4 2020 280.4 149.9 71.5 61.2 -3.0 47.3 2025 404.4 200.4 122.5 83.3 -3.0 50.9 10億㎥ 2030 554.3 311.6 142.5 101.8 -3.0 44.1 図18 中国の天然ガス需給バランス予測 600 10億㎥ 500 輸出 400 LNG輸入 300 パイプライン輸入 生産 200 需要 100 0 ‐100 2010 6.2.2 2015 2020 2025 2030 台湾の原油、天然ガスの需給予測 台湾の原油需要は 2014 年をピークに減少し、2016 年以降はほぼ横ばいとなる。それに 合わせて輸入も推移する。ロシアから原油輸入する可能性は低い。 台湾の 2020 年の天然ガス需要は 198 億㎥で、2010 年から年率 4.7%の伸びを示す。生産 は 2014 年をピークに減少に向かい、2020 年の輸入比率は 93.3%となる。LNG 輸入は、マ レーシアとインドネシアとの長期契約がそれぞれ 2015 年と 2017 年までで、その後はカタ ールとパプアニューギニアとの長期契約だけになっているため、新たな長期契約を模索す ることになる。 -466- 表24 台湾の原油需給バランス予測 需要 輸入 輸入比率(%) 図19 千B/D 2010 2015 2020 2025 2030 908 859 847 859 870 908 859 847 859 870 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 台湾の原油需給バランス予測 1,000 千B/D 900 800 700 600 輸入 500 需要 400 300 200 100 0 2010 表25 30 2020 2025 2030 台湾の天然ガス需給バランス予測 需要 生産 LNG輸入 輸入比率(%) 図20 2015 2010 15.7 0.9 14.6 93.1 2015 17.4 1.2 15.9 91.6 2020 19.8 1.1 18.5 93.3 2025 22.4 0.8 21.4 95.3 10億㎥ 2030 24.9 0.5 24.0 96.5 台湾の天然ガス需給バランス予測 10億㎥ 25 20 LNG輸入 15 生産 需要 10 5 0 2010 2015 2020 2025 2030 -467- 6.2.3 韓国の原油、天然ガスの需給予測 韓国の 2020 年の原油需要は、2013 年をピークに減少傾向となり、2020 年には 2,194 千 バレル/日でほぼ横ばいとなる。輸入もそれに合わせて推移する。 韓国の 2020 年の天然ガス需要は 597 億㎥で、2010 年からの伸びは年率 4.1%となる。LNG 輸入はカタール、マレーシア、インドネシア、オマーンが中心であるが 2015 年以降オース トラリアからの輸入が増加し、2016 年にはカタールに次ぐ第 2 の輸入先となる。ロシアか らの天然ガス輸入も増加し将来的には 100 億㎥/年となる見通しである。 表26 韓国の原油需給バランス予測 2010 2,207 2,207 100.0 需要 輸入 輸入比率(%) 図21 2015 2,225 2,225 100.0 2020 2,194 2,194 100.0 2025 2,224 2,224 100.0 千B/D 2030 2,254 2,254 100.0 韓国の原油需給バランス予測 2,500 千B/D 2,000 1,500 輸入 需要 1,000 500 0 2010 表27 2015 2020 2025 2030 韓国の天然ガス需給バランス予測 需要 生産 LNG輸入 輸入比率(%) 2010 47.8 0.3 46.8 98.0 2015 54.2 0.3 53.1 98.0 2020 59.7 0.3 58.5 98.0 2025 65.0 0.3 63.8 98.1 10億㎥ 2030 71.1 0.2 69.9 98.3 図22 韓国の天然ガス需給バランス予測 80.0 BCM 70.0 60.0 50.0 LNG輸入 40.0 生産 30.0 需要 20.0 10.0 0.0 2010 2015 2020 2025 2030 -468- 6.3 各国の原油、天然ガス需要動向 6.3.1 中国の動向 ESPO 原油は 2011 年始めから大慶支線パイプラインにより 30 万バレル/日で安定的に 輸入されている。2012 年秋には ESPO-2 の稼働により輸送能力が増強されることもあり、 中国には ESPO 原油の引取りを更に増やそうという動きがある。 一方、天然ガスについては、トルクメニスタンから「中央アジア天然ガスパイプライ ン」によりウズベキスタン、カザフスタンを経由し、中国の新疆コルガスまでの総延長約 1,800km、設計輸送能力 300 億㎥/年のガスの輸入を 2010 年から開始した。 中国は需給バランス上 2020 年時点の国産ガス生産量は、CBM 等非在来型の開発が進み、 少なくとも 1,500 億㎥/年に達すると推定される。一方、LNG 輸入は、長期契約の契約状 況等から 600 億㎥/年程度、パイプライン輸入は、中央アジアとミャンマーからだけで 700 億㎥/年程度になると思われ、 需要予測数量の 2800 億㎥/年を満たすことになり当面はロ シアの天然ガスを必ずしも必要としていない状況にある。 6.3.2 台湾の動向 需要の減少や台湾 CPC が 2015 年に高雄製油所の精製設備をマレーシアへ移転する計画 があり、原油輸入が減少していく傾向にある。原油輸入先は中東とアフリカで 95%程度を 占め、ロシアからの原油輸入は実績がなく、この傾向が変化する要因は見当たらない。 一方、天然ガスの需要は増加傾向にある。LNG 輸入については 2010 年にスポットでロシ アからの輸入が 42 万 t あり、ロシア産 LNG の輸入余力が増大する。 6.3.3 韓国の動向 韓国は ESPO 原油を 2010 年から輸入しており、当初は ESPO 原油に価格メリットがあっ たため輸入が伸びた。しかし、2011 年になると ESPO 原油の価格が上昇したためメリット がなくなり、輸入量が急減した。短期的には価格等の要因で不透明ではあるが、中東依存 度の低減、輸送日数が 2.5 日で済むことから、長期的には増加すると考えられる。 天然ガスは LNG 輸入で今後一番輸入シェアを伸ばすのはオーストラリアと見込まれる が、ロシアからの輸入シェアも拡大し、2020 年にはほぼ倍増する見通しである。 ロシアから北朝鮮経由のパイプラインによる天然ガス輸入計画があり全長は 1,100km、そ の内北朝鮮領土内の区間は 700km、供給量は 100 億㎥/年、建設費用は$20 億~30 億にな る見込みである。 図23 ロシア-韓国 天然ガス PL 計画 (JOGMEC: ロシア情勢 2011/9/19) -469- 7.日本から見た ESPO 原油の評価 ESPO 原油を含めたロシア原油の輸入実績 7.1 ESPO 原油(ESPO ブレンドという名称で輸出されている)は 2009 年の 12 月から出荷が 開始されたが、日本への入着ベースでは、2010 年の第1四半期から実績がある。ESPO 原 油登場直前の日本の原油輸入に占めるロシア原油の比率は3%~4%程度であったのに対 して、2010 年 ESPO 出荷開始後は、ロシア原油の比率は7%~8%程度に上昇している。 表28 日本におけるロシア原油輸入割合 ESPO SOKOL VITYAZ その他 ロシア計 ロシア以外計 総計 ESPO SOKOL VITYAZ その他 ロシア計 ロシア以外計 総計 内訳 2008 1Q 0.00% 2.38% 0.00% 0.88% 3.26% 96.74% 100.00% 2008 2Q 0.00% 2.65% 0.00% 1.12% 3.77% 96.23% 100.00% 2008 3Q 20008 4Q 2009 1Q 2009 2Q 2009 3Q 20009 4Q 0.00% 0.00% 0.00% 0.00% 0.00% 0.00% 1.56% 1.77% 2.91% 3.06% 2.36% 1.77% 0.53% 0.57% 0.20% 0.43% 0.37% 1.00% 1.46% 1.17% 1.45% 0.92% 1.39% 1.84% 3.54% 3.51% 4.56% 4.41% 4.12% 4.61% 96.46% 96.49% 95.44% 95.59% 95.88% 95.39% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 2010 1Q 1.15% 2.27% 1.00% 1.05% 5.47% 94.53% 100.00% 2010 2Q 2.18% 1.61% 1.30% 1.93% 7.03% 92.97% 100.00% 2010 3Q 3.44% 1.51% 1.53% 2.02% 8.50% 91.50% 100.00% 2010 4Q 2011 1Q 2011 2Q 2011 3Q 2.96% 2.17% 1.29% 2.34% 1.81% 1.83% 0.73% 0.69% 1.53% 0.62% 0.71% 0.82% 1.10% 0.27% 0.27% 0.72% 7.41% 4.88% 3.00% 4.57% 92.59% 95.12% 97.00% 95.43% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00% (出典 石油連盟資料) ESPO 原油の品質評価 7.2 ESPO 原油は、中東中質原油の代表格であるオマーン原油(OM)と良く似た品質である と言われているが、常圧蒸留装置での収率を比較して見ると、実際下図(図 7.2-1)の通り、 大きな類似性が見られる。API はオマーン原油 33~34 に対し ESPO 原油は 35 と若干軽質 である。 50.0% 45.0% 40.0% 35.0% 30.0% 25.0% ESPO 20.0% OM 15.0% 10.0% 5.0% 0.0% LPG 図24 LN ESPO HN KERO LGO HGO AR OM 収率比較 留分別に見ていくと、ESPO 原油の特徴としては、ナフサ留分から中間留分までは、中 東中質原油であるオマーン原油とおおよそ類似しており、大きな差は確認できない。 -470- 表29 ESPO 原油 留分別 HN KERO 項目 ESPO 数値 ナフテン VOL% アロマ オマーン 特徴(ナフサ~軽油) 20 カラー VOL% 6 煙点 ナフテン VOL% アロマ 22 カラー VOL% GO 項目 7 煙点 数値 項目 Saybolt 28 WAX mm 21 セタン価 Saybolt 26 WAX mm 27 セタン価 数値 wt% 1.2 63.5 wt% 1.9 60.6 *GO(250°~360°) ESPO 原油の留分別の特徴を簡単にまとめると以下の通り。 (ナフサ) ESPO 原油のナフサ留分(HN)の特徴としては、ナフテン、アロマの含有量が低く、接 触改質装置にてリフォメートを生産する際、高オクタン価のガソリン基材を得にくい。 (灯油) 灯油留分に関しては、煙点、カラーを含め、特段大きな問題は見受けられない。(実運 用上障害が出ることは無い) (軽油) 軽油留分に関しては、WAX 分が低く低温性能が良好であり、セタン価にも問題が無い。 ナフサ留分から中間留分までは、オマーン原油との大きな差が認識できなかったが、残 渣に関しては明らかにその違いが現れる。ESPO 原油の残渣の特徴は以下の通りとなって いる。 表30 ESPO 原油 項目 留分別 数値 特徴(残渣) 項目 数値 項目 数値 ESPO 硫黄分 mass% 0.85 バナジウム ppm 5 残留炭素 mass% 5.34 オマーン 硫黄分 mass% 1.81 バナジウム ppm 16 残留炭素 mass% 7.24 AEL 硫黄分 mass% 1.24 バナジウム ppm 7 残留炭素 mass% 5.19 (残渣) 残渣の特徴としては上記の通り、低硫黄、低金属であり、低残留炭素である。この点に おいては中東軽質原油アラブエクストラライト(AEL)と同等の性状を示していると言え る。 ESPO 原油の品質を総括すると、収率としては中東中質原油並みの特徴を持つが、その 残渣は軽質原油並みの良好な特徴を示すものである。 また、ESPO 原油は硫黄分(0.5%)、低温流動性(-40°C) 、全酸価(0.06mg-KOH/ g)等も良好な値となっており、取り扱いにおける制約が非常に少ない原油である。 品質面だけを見れば(価格を度外視すれば)充分に、高い評価を受けるのに値するもの であると結論付けることが出来る。 -471- 7.3 ESPO 原油のロジスティック上の評価 ESPO 原油はナホトカ湾のコジミノ港より出荷されるが、積み込みから日本到着までに は5日間程度が見込まれる。中東から要する時間(20 日間程度)との比較においては、お およそ半月程度の差がある。 コジミノ港からは船のアベイラビリティ、および購入(販売)のロットから 100 千tク ラスのアフラマックス(Aframax)での引き取りとなっている。 中東原油をペルシャ湾 から VLCC で輸送するケースと ESPO 原油をコジミノから日本にアフラマックスで輸送す るケースとのコストを比較すると、 ESPO 原油の輸送コストが1$/bbl 強程度優位となる。 ESPO 原油のロジスティックにおける定量的な評価は以上だが、定性的には他にもメリッ トをいくつか、あげることができる。 ESPO 原油の大半はスポットで取引されているが、そのスポットでの購入(入札)タイ ミングは中東原油のスポットでの入札タイミングより一般的に見ると遅い。そのため、先 の記述の通り実際の輸送時間が短いことと併せると、購入の意思決定から原油処理までを 中東原油と比べて比較的短期間で実現することが可能である。言い換えるならば、ESPO 原油の調達により、マーケット環境好転時もしくは個社の個別状況の変化等に応じて機動 的な対応をすることが可能となる。このことは、ESPO 原油の定性的なメリットの一つと してあげることができる。 また、地政学的リスクという視点で ESPO 原油を含めたロシア原油を見た場合、日本ま での航海において、ホルムズ海峡、マラッカ海峡といった海域を通過する必要が無いこと は、地政学的リスクの分散という意味においては、大きな意味を持つと考えられる。昨今 (2012 年初頭)のイランの核疑惑に対する原油輸入禁止を含む経済制裁への対抗処置とし てイラン側がペルシャ湾封鎖をにおわせ中東での緊張が高まっている現状を勘案するとそ の意味合いは従来にも増して、大きくなっている。 7.4 ESPO 原油の価格を含めた評価 ESPO 原油はスポットでの取引が大半を占めており、その入札はプラッツ・ドバイ±αで 実施されている。ESPO 原油出荷開始直後の 2010 年前半の同原油の価格レベルは FOB ベ ースでドバイ原油と同水準であった。ドバイ原油を下回る(マイナスα)タイミングも散 見された。 2011 年に入ると、ESPO 原油の評価は上昇し、プラッツ・ドバイ+5$/bbl 程度の価格 が恒常的に付くようなってくる。それと呼応する様に、日本における ESPO 原油の輸入割 合は低下することとなった。 この現象は出荷開始1年を経て、ESPO 原油の評価が高まり、ESPO 原油のドバイ原油に 比較した+αが拡大し、更にその水準が定着してきたものと考えられる。その結果、2010 年は価格と品質のバランスから、積極的に購入していた日本勢が、 価格水準の上昇に伴い、 2011 年においては、買い控えているという構図が窺える。 単純に蒸留収率で精製マージンを試算するとオマーン原油とほとんど差が出ないが、残 渣留分の低硫黄、低金属等を考慮すると、マーケット環境等により十分にその価値が評価 される状況も考えられる。 -472- 8.まとめ 8.1 ロシア原油が北東アジアマーケットに与える影響と日本の対応 8.1.1 ロシア原油の生産見込み ロシアでは既存油田の大半の生産が横ばいで推移されることが見込まれる中、大規模な 新規油田が発見されていないことから、中長期的には原油の大幅な増産は期待しづらい状 況である。特にサハリン原油については、2020 年以降生産量が急激に減少する可能性もあ り、ESPO 原油についても、東シベリアでの開発によりある程度は生産量の増加が期待で きるものの、ESPO パイプラインの供給能力(最終的に 8,000 万トン/年、1.6 百万 B/D) に見合う財源を確保するためには、西シベリアからの相当規模の供給が必要である。 8.1.2 ESPO 原油の評価 ESPO 原油は、品質が良く取り扱いが容易であるが、品質の良さが認知されるに伴い、 プラッツ・ドバイ+5$以上の価格が恒常的となっている。スポットマーケットにおいて 手を出しにくい状況にはあるが、マーケット状況、装置構成、稼働状況によってはコスト 以上のパフォーマンスも期待できる原油と評価できる。 それに加え、イラン制裁に伴うホルムズ海峡封鎖の可能性が喧伝される昨今、日本にと ってエネルギーセキュリティーの観点からも ESPO 原油は高く評価できる。 また、ESPO 原油は、物理的な距離が近いことにより輸送コストが中東原油に比べ1$/ bbl 強安いという定量的メリットがある。また、中東原油に比べ輸送日数が 2 週間程度短 いという点ならびにスポットマーケットでの入札タイミングが遅いという点から原油調達 が機動的に行えるという定性的メリットも無視できないところである。 以上をまとめると、朝令暮改的なロシアのエネルギー政策を原因として供給面での不安 は否定出来ないものの、定量的、定性的メリットの多い ESPO 原油(ESPO ブレンド)の 輸入を拡大することは日本にとって意味のあること考える。その際、安定的な調達のため には、現状、取引の大半がスポット契約であるが、ターム化も視野に入れて交渉すべきで はないかと考える。ターム化には、調達の柔軟性に欠けると言ったデメリットも確かにあ るが、ESPO 原油は、中東原油と異なり現在「仕向け地条項」がない。この条件を活かし、 マーケットの状況に応じて転売する等の対応を行うことで、デメリットの影響を最小限に 抑えることも可能ではないかと考える。 8.1.3 北東アジアマーケットに与える影響と日本の対応 中長期的にロシアの主な原油の輸出先であるヨーロッパの 2011 年の IEA 需給予測では、 ロシアの石油輸出は 2010 年 7.55 百万 B/D に対し 2025 年には 6.58 百万 B/D と 0.97 百万 B/D 減少するもののそれ以降は原油生産は安定してゆくと見込まれている。これに対して、 ヨーロッパの石油需要は 2010 年 12.7 百万 B/D から 2025 年 11.5 百万 B/D と 1.2 百万 B/D 減少し以降も減少が継続している。また北米等によるシェールオイルの開発が進んでいる ことから、北米での原油輸入が減少、アフリカ原油等が北米からヨーロッパに向け先が変 化することも考えられ、ヨーロッパにおけるロシア原油の輸入減少が考えられる。そのた めロシアは石油需要の減少が見込まれるヨーロッパから、伸張が著しい中国を狙い、また -473- 日本、韓国を含めた北東アジア向けに原油販売を向けてくる可能性も十分考えられる。 表31 原油生産 石油需要 差引輸出 表32 石油需要 ロシア石油需給 ロシア石油需給 2020 9.89 3.0 6.89 2025 9.68 3.1 6.58 (百万B/D) 2030 2035 9.72 9.66 3.1 3.2 6.62 6.46 IEA 2011 WEO ヨーロッパ石油需給 ヨーロッパ石油需要 2010 2015 2020 12.7 12.5 12.0 2025 11.5 (百万B/D) 2030 2035 11.0 10.6 IEA 2011 WEO 2010 10.45 2.9 7.55 2015 10.42 3.0 7.42 ロシア原油の供給が北東アジア向けに増加されれば、供給の分散化が図れるとともに、 望むべきは欧米向けと比較し、やや価格が高いいわゆるアジアプレミアムの解消につなが る期待も持てる。日本としては、ロシアのエネルギー政策が不安定な面はあるものの隣国 の中国、韓国等と共に今後中長期的に安定した引き取る姿勢をロシアに示し、東シベリア 等での原油開発を促進させると共に、 原油の流れが北東アジア向けにとなっていくよう 戦略を構築してゆくことが効果的と思われる。 8.2 ロシア天然ガスが北東アジアマーケットに与える影響と日本の対応 8.2.1 ロシアの天然ガス開発 天然ガスについては、現時点でサハリン1、サハリン3に明確な増産余力がある。但し、 サハリン1は価格問題の解決が必要であり、サハリン3は前処理施設、パイプライン等の インフラの整備が必要である。東シベリアにおいては、ヘリウム問題等解決に少し時間を 要する課題があるものの、中長期的には新規ガス田の開発が進み、順調に生産量が増加す ると見込まれている。ヘリウム回収設備を設置、ヘリウムの貯蔵設備、販路開拓といった プロジェクトを提示し天然ガス開発を促せ、日本への LNG 輸入の拡大を狙うプロジェク トも一つの選択肢であると考えられる。 8.2.2 天然ガスマーケット マーケットの状況は、北米での「シェールガス革命」に端を発した世界的な需給緩和の 大きな流れがヨーロッパでの天然ガス調達におけるロシアの地位を低下させており、ロシ アにとって北東アジアマーケットの開拓が喫緊の課題であろうと容易に想像できる。 そこで、第一のターゲットとなるのは、今後急速なガス需要の伸びが期待される中国で ある。しかし中国は、順調な増産が期待できる国内生産に加え、トルクメニスタン等中央 アジアやミャンマーからのパイプラインガス輸入、中東、豪州からの LNG 輸入を勘案す ると少なくとも 2020 年まではロシア産天然ガスを必ずしも必要としておらず、中露間の天 然ガス価格交渉が妥結するとは考えにくい。 -474- 8.2.3 北東アジアマーケットに与える影響と日本の対応 ロシアでは、2016 年をターゲットとしてウラジオストク近郊に LNG プラントを建設す る計画があり、そのメインターゲットは原子力発電に変る発電燃料としての需要増が見込 まれる日本、また需要増が期待できる韓国、台湾等北東アジアである。また韓国向けの天 然ガスパイプラインも検討されている。 LNG 基地の進展等により、日本の LNG 輸入価格の引き下げ及び安定的な供給源の確保 が今後期待されるところである。日本としては今後の天然ガス及び LNG のマーケットを 見据えつつエネルギーベストミックスの観点からロシアのガス開発に係わってゆくことも 選択肢の一つと考える。 ロシア産の天然ガス(LNG)が北東アジアの天然ガスおよび一次エネルギーの需給に大 きな影響を与える可能性は否定できない。今後も注意深く、動向を見守る必要があると考 えられる。 -475-