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ソリトン方程式に対するワイル群作用
京都大学数理解析研究所講究録 1400 (2004) 182–196 ソリトン方程式に対するワイル群作用 立教大・理 (Kakei, Saburo) 筧 三郎 東北大・理 菊地哲也 (Kikuchi, Tetsuya) 1 はじめに 岡本和夫氏 [O1],野海・山田両氏 [N] らの研究で明らかにされているように,パンルベ 方程式を理解する上でアフィン・ワイル群の対称性が重要な役割を果たす。一方,パン ルベ方程式はソリトン方程式の相似簡約1 としても得られる。そこで,パンルベ方程式 の持つアフィン・ワイル群対称性を,相似簡約する前のソリトン方程式に持ち上げたと きにどのような結果が得られるかを,なるべく一般的な状況で組織的に調べてみようと いうのが,ここで紹介する我々の研究の出発点であった。 通常の Drinfel’d-Sokolov 階層の場合は,ワイル群をソリトン方程式系に作用させる こと自体は,それほど難しいことではない。実際,文献 [NY1] で用いられている手法 を,そのまま適用することができる。Drinfel’d-Sokolov 階層については,それの一般化 として,de Groot らによって “generalized Drinfel’d-Sokolov 階層” というものが定式 化されている [dGHM]。これをさらに拡張し,その拡張された階層に対するワイル群対 称性を考察し,さらにその相似簡約として得られるパンルベ型方程式を調べようという のが我々の目論見である。これまでのところ,野海・山田の結果を一般化した形で,次 のような枠組みが得られている [KK1, KK2, KK3]: • “generalized Drinfel’d-Sokolov 階層” [dGHM] の一般化 • (我々の意味での) 一般化 Drinfel’d-Sokolov 階層のワイル群対称性 • 一般化 Drinfel’d-Sokolov 階層に対する相似簡約のリー代数的記述 模式的に書けば,次の表のようにまとめられる。 ¶ ³ (1) Dolinfel’d-Sokolov 階層 ∩ −→ 相似簡約 Al 型パンルベ系 [N, NY2] ∩ 一般化 Drinfel’d-Sokolov 階層 −→ ? ? ? ⇑ ソリトン系の Bäcklund 変換 ⇑ f→ ←W パンルベ系の Bäcklund 変換 µ 1 ´ “Similarity reduction” を,ここでは「相似簡約」と訳すことにする。 1 表において,枠で囲んだ太字の個所が,今回得られた結果にあたる。右端の ? ? ? の個所に関して,このアプローチでどの程度までの対象を扱い得るか (例えば,ガルニ エ系を扱えるか等) は,現時点では明らかになっていない。以下では, ? ? ? の部分 にパンルベ IV 型方程式 (PIV ) ∂ 2y 1 = 2 ∂x 2y µ ∂y ∂x ¶2 B 3 + y 3 + 4xy 2 + 2(x2 − A)y + 2 y (1.1) が現れる場合を紹介する。 我々の意味での「一般化 Drinfel’d-Sokolov 階層」に属する方程式の例として最も基 本的なのは,次の微分型非線型シュレディンガー方程式 (以下では ∂NLS と略記する2 ) である: 1 qt = qxx − 2q 2 rx − 4q 3 r2 2 (1.2) 1 2 3 2 rt = − rxx − 2r qx + 4r q 2 方程式系 (1.2) において,r = q̄ (複素共役) を仮定し,t 7→ it, x 7→ ix と置き換えれば, ( 1 iqt = qxx + 2iq 2 q̄x + 4|q|4 q 2 (1.3) が得られる3 。この方程式は [ARS, GI] 等で議論されたものであり,シュレディンガー 方程式に微分型の非線型項を付け加えたという意味で,微分型非線型シュレディンガー 方程式と呼ばれる4 。 Drinfel’d-Sokolov 階層はアフィン・リー代数,および対応するリー群の言葉で定式 化されており,我々の行った拡張もその立場から出発している。以下では,まず我々の 行った「一般化」が,どのような意味での一般化かを解説する (2 節)。我々の意味での 一般化 Drinfel’d-Sokolov 階層は,多成分 KP 階層の特殊化としてとらえることができ るのだが,3 節では,そのことを用いて特殊解の構成法を示す。この立場から相似簡約 を行えば,パンルベ方程式のある種の有理解を,行列式を用いて表すことができる。表 題にあるワイル群の作用については,4 節で扱う。相似簡約前のソリトン方程式のレベ ルでも,ワイル群の作用はある種の Bäcklund 変換を引き起こす。もちろん,相似簡約 後には,パンルベ方程式に対する変換となるわけである。 リー代数的観点からの解説は既に [KK3] にあるので,重複をなるべく避けるため, 本論節では基本となるアイデア,および KP 階層との関係,特殊解の構成法等について, より詳しく述べることにする。 2 “Derivative” と “Difference” を区別するために,偏微分記号 ∂ を用いた (B. Grammaticos 氏の示 唆による)。 3 このように複素共役の関係を導入することは,代数的にはアフィン・リー代数の実型を取ることに 対応している [KSS2]。通常の NLS の場合での,実型の幾何的な意味付けに関しては,[I] を参照。 4 「微分型非線型シュレディンガー方程式」と呼ばれる方程式で,可積分なものは何通りもあるが,こ こでは (1.3) をそう呼ぶことにする。 2 2 行列の分解とソリトン方程式 我々のアイデアはアフィン・リー群の「ガウス分解」を一般化することなのであるが, それを説明する前に,行列の分解とソリトン方程式との関係の復習から始めよう。 広田・辻本・今井 [HTI] は,次の形の三重対角行列 M (t) のガウス分解と,離散戸 田分子方程式との関係を議論した: a1 (t) 1 b1 (t) a2 (t) M (t) = .. . O O . .. . 1 bn−1 (t) an (t) ... (2.1) この行列を M (t) = L(t)R(t) (2.2) と分解する。ここで,L(t) は下三角行列,R(t) は上三角行列であり,それぞれ次の形 であるものとする: 1 V1 (t) 1 L(t) = ... O O ... Vn−1 (t) , R(t) = I1 (t) O 1 . .. . 1 In (t) .. I2 (t) O 1 . (2.3) このとき,時間変数 t が 1 つ進んだ M (t + 1) を,M (t + 1) = R(t)L(t) で定義する。 具体的に成分を比較すると,離散戸田分子方程式 Vj (t + 1) + It+1 (t + 1) = Ij+1 (t) + Vj+1 (t), Vj (t + 1) + Ij (t + 1) = Ij+1 (t)Vj (t) (2.4) が得られる。(ただし,V0 (t) = Vn (t) = I0 (t) = 0 とする。) 対角行列 I(t) = diag [I1 , . . . , In ], V (t) = diag [V0 , . . . , Vn−1 ], および正方向・負方向 のシフト行列 Λ+ = [δi+1,j ]i,j=1,...,n , Λ− = [δi,j+1 ]i,j=1,...,n を用いて整理すると,分解 (2.2) は次のように書き換えられる: M (t) = {E + V (t)Λ− } {I(t) + Λ+ } . (2.5) すなわち,与えられた行列 M (t) を,正方向・負方向のシフトに分解したことになる。 b 2 に対応し さて,この考え方をアフィン・リー群の場合に拡張したい。以下では,sl b 2 とは,sl2 た群5 の場合に限定して,話しを進めることにする。アフィン・リー代数 sl 係数のローラン多項式 X(z) = X n z n + · · · + X 1 z + X 0 + · · · + X −m z −m b 2) (X n ∈ sl (2.6) b 2 ) が意味を持つために,作用する空間を “可積分表現” に限定して,さらに時間発 本稿では,exp(sl 展を定める作用素の作用も well-defined であることを仮定している。 5 3 に対して, [Xz m , Y z n ] = [X, Y ]z m+n + m tr(XY ) δmn K, b 2] = 0 [K, sl (2.7) によってリー代数の構造を定めるものであった。ここから得られる群に対して「ガウス 分解」をどのように考えるかが問題である。 次数付け 1 (homogeneous gradation) z の負ベキ,非負ベキに分解する。すなわち,deg(Xz m ) = m として次数を定義 し,その次数に関して正負に分解する: X(z) = (E + a1 z −1 + a2 z −2 + · · · ) × (b0 + b1 z + b2 z 2 + · · · ). (2.8) 次数付け 2 (principal gradation) 係数行列のガウス分解もあわせて使う。すなわち, Ã" # ! Ã" # ! 0 1 m 1 0 deg z = 2m + 1, deg z m = 2m, 0 0 0 −1 Ã" # ! 0 0 m deg z = 2m − 1, 1 0 (2.9) として次数を定義し,その次数に関して正負に分解する: X(z) = X − (z) · X + (z), ¡ ¢ X − (z) = E + a0,1 Λ− + a0,2 Λ2− + · · · + a1 z −1 + a2 z −2 + · · · , ¡ ¢ X + (z) = b0,0 E + b0,1 Λ+ + b0,2 Λ2+ + · · · + b1 z + b2 z 2 + · · · . (2.10) ここで,ai,j , bi,j は適当な対角行列である。 b 2 には 2 通りの次数付けがあるが,一般のアフィン・リー代数 b このように,sl g の場合に は,対応するワイル群の共役類の個数だけの次数付けがあることが知られている [KP]。 一方,ソリトン方程式の階層の構成に際しては,Heisenberg 部分代数 { Λn (n ∈ Z) | [Λm , Λn ] = mδm+n,0 K } ⊂ b g (2.11) によって時間発展が与えられる。Heisenberg 部分代数の取り方は一意的ではなく,上で 述べた次数付けのそれぞれに対して,異なる Heisenberg 部分代数が対応することも知 られている。Heisenberg 部分代数を 1 つ定めたときに,どのようにソリトン階層を構成 するかについて,詳しくは [KK1, KK3] をご覧いただくことにして,ここでは流れのみ をまとめておく: 4 b2 : g(0) = eX , X ∈ sl ⇒ 時間発展 : g(t) = exp [t1 Λ1 + t2 Λ2 + · · · ] g(0) ⇒ Gauss 分解 : g(t) = {g< (t)}−1 · g≥ (t) ¢ ∂g< def ¡ −1 ⇒ 佐藤方程式 : = Bn g< − g< Λn , Bn = g< Λn g< ≥ ∂tn 初期条件 この構成法において,時間発展を定める Heisenberg 部分代数,および Gauss 分解の それぞれにおいて,ワイル群の共役類の個数の分だけの選び方がある。このことを使う と,ワイル群の共役類の個数の二乗の分だけのソリトン階層を作ることができることに b2 なる。それらが,我々の意味での「一般化 Drinfel’d-Sokolov 階層」である。特に,sl の場合は次の 4 つの階層が現れる。 Gauss 分解 Heisenberg 部分代数 (p) (h) (p) mKdV ∂NLS (h) KdV NLS de Groot らの議論 [dGHM] では,Gauss 分解を定める共役類と Heisenberg 部分代 数を与えるそれとの間に,ある種の条件を要請しているため,上の表のうち ∂NLS に あたる部分が含まれない。この意味で,我々の定式化のほうが,より広い範囲のソリト ン方程式を扱うことができるわけである。 3 2 成分 KP 階層との関係 通常の NLS 階層が 2 成分 KP 階層の特殊化として得られることは,良く知られている。 前節で紹介したガウス分解の一般化を用いて 2 成分 KP 階層を拡張すれば,∂NLS 階層 を扱うことができる [KK2]。このことを解説することが本節の目的であるが,そのため に,まずは (形式的)Baker-Akhiezer 関数 Ψ(λ) を,次式によって導入しておこう: Ψ(λ) = W (λ)Ψ0 (λ), ∞ X W (λ) = wn (t1 , t2 , . . .)λ−n , n=0 " # 2 eλt1 +λ t2 +··· 0 Ψ0 (λ) = . 2 0 e−(λt1 +λ t2 +··· ) ここで,wn (t1 , t2 , . . .) は 2 × 2 行列値関数である: " # (11) (12) wn (t1 , t2 , . . .) wn (t1 , t2 , . . .) wn (t1 , t2 , . . .) = . (21) (22) wn (t1 , t2 , . . .) wn (t1 , t2 , . . .) 5 (3.1) (3.2) (3.3) (3.4) さらに,0 番目の係数行列 w0 (t1 , t2 , . . .) は,次の形であることを要請しておく: # " 1 0 w0 (t1 , t2 , . . .) = . (3.5) (21) w0 (t1 , t2 , . . .) 1 Baker-Akhiezer 関数 Ψ(λ) に対する時間発展を,次式で定めよう: ∂Ψ(λ) = B n (λ)Ψ(λ), ∂tn £ ¤ B n (λ) = λn W (λ)QW (λ)−1 ≥0 , (3.6) " # 1 0 Q= . 0 −1 (3.7) ただし記号 [ · ]≥0 は,次数付け 2 (principal gradation) の意味で,次数が正の項を取り 出すことを意味する。すなわち, " # X a n λn Z n∈ ≥0 " # X ∗ ∗ = + an λn 0 ∗ n≥1 (3.8) (12) である。例として,B 1 (λ),B 2 (λ) の具体的な形を記しておこう (q = w1 " # " # 1 0 2qr −2q B 1 (λ) = λ+ , 2r −1 0 −2qr " # " # 1 0 2qr −2q 2 B 2 (λ) = λ + λ 2r −1 −rt1 −2qr " # 2 2 qt r − qrt1 − 2q r −qt1 + 1 . 0 qrt1 − qt1 r + 2q 2 r2 (21) , r = w0 ): (3.9) (3.10) 発展方程式 (3.6) の両立条件から,いわゆる零曲率方程式 (Zakharov-Shabat 方程 式) が得られる: ∂B m ∂B n − + [B m , B n ] = 0, ∂tn ∂tm m, n = 1, 2, . . . . (3.11) 特に m = 1, n = 2 とおいて,上に挙げた B 1 (λ), B 2 (λ) の具体的な形を代入して計算 すると,∂NLS 方程式 (1.2) が得られる。この意味で,(3.11) で記述されるソリトン方 程式の階層を ∂NLS 階層と呼ぶことにする。 この階層の特殊解を構成するために,無限和が有限で切れた場合の Ψ(λ) を考えよう: e fN (λ)Ψ0 (λ), Ψ(λ) =W fN (λ) = w̃0 + w̃1 λ−1 + · · · + w̃N λ−N . W 6 (3.12) (3.13) 先程と同様に w̃n = w̃n (t1 , t2 , . . .) は 2 × 2 行列値関数であり,特に w̃0 と w̃N は次の 形であることを仮定する: " w̃0 = 1 (21) w̃0 # 0 , 1 " # (11) (12) w̃N w̃N w̃N = (22) . 0 w̃N (3.14) この形は,分解 (2.10) に対応している。 これらを特徴付けるためのデータとして,形式的ベキ級数 Ξ(λ, t) を用意する: Ξ(λ, t) = X j∈ Z ξ j (t)λ−j . (3.15) ここで,ξ j (t) = ξ j (t1 , t2 , . . .) は 2 × 2N 行列値関数である: " (j) f (t) · · · ξ j (t) = 1(j) g1 (t) · · · # (j) f2N (t) . (j) g2N (t) このとき,行列係数の多項式 (3.13) は,線型方程式 I dλ N −1 f λ WN (λ)Ξ(λ) = 0 2πi (3.16) (3.17) によって特徴付けられる。方程式 (3.17) を Cramér の公式によって解けば, |0, 1, . . . , N − 2, N − 1, N ; 0, 1, . . . , N − 2| , |0, 1, . . . , N − 2, N − 1 ; 0, 1, . . . , N − 2, N − 1| |1, 2, . . . , N − 1 ; 0, 1, . . . , N − 2, N − 1, N | (12) , w̃1 (t) = (−1)N +1 |1, 2, . . . , N − 1, N ; 0, 1, . . . , N − 2, N − 1| (21) w̃0 (t) = (−1)N (3.18) (3.19) という,“2 重ロンスキアン” による表示が得られる。ここで,Freeman-Nimmo による 記法 [F], ¯ (k1 ) (km ) (l1 ) (ln ) ¯¯ ¯ f1 · · · f g · · · g 1 1 1 ¯ ¯ def ¯ . .. .. .. ¯ ... ... |k1 , . . . , km ; l1 , . . . , ln | = ¯ .. . . . ¯¯ ¯ (k ) ¯f 1 · · · f (km ) g (l1 ) · · · g (ln ) ¯ 2N 2N 2N 2N (3.20) を用いた。また,(3.18), (3.19) において,分母の 2 重ロンスキアンが 0 にならないこと を仮定しておく。 発展方程式を得るために,Ξ(λ, t) の「時間発展」を次のように定める: ∂ Ξ(λ, t) = λn QΞ(λ, t) + Ξ(λ, t)β n ∂tn λΞ(λ, t) = Ξ(λ, t)γ. ただし,β n , γ は 2N × 2N 行列である。 7 (n = 1, 2, . . .), (3.21) (3.22) fN (λ) が (3.17) を満たすならば,対応する Baker-Akhiezer 命題 1. 行列係数の多項式 W 関数 (3.12) は,方程式 (3.6) を満たす。 [証明]. (3.22) により,任意の非負整数 n に対して, I dλ N +n−1 f WN (λ)Ξ(λ) = 0 λ 2πi (3.23) が成立することが分かる。一方,(3.17) を tn で微分して,(3.21) を用いると, ) ( I fN (λ) dλ N −1 ∂ W fN (λ)Q Ξ(λ) = 0 + λn W (3.24) λ 2πi ∂tn が得られる。右辺の { · } 内は λ についての n + N 次多項式なので,それを N 次多項式 fN (λ) で割れば,次の形になることが分かる: W fN (λ) ∂W fN (λ)Q = B n (λ)W fN (λ) + R(λ). + λn W (3.25) ∂tn H これを (3.24) に代入して,(3.23) を用いれば, R(λ)Ξ(λ)dλ = 0 であることが示さ れる。多項式 R(λ) の次数が高々N − 1 であることに注意すれば R(λ) = 0 が得られ, fN (λ) が W fN (λ) ∂W fN (λ) − λn W fN (λ)Q, = B n (λ)W ∂tn h i nf −1 f B n (λ) = λ WN (λ)QWN (λ) , ≥0 (3.26) (3.27) を満たすことが分かる。 これで ∂NLS 階層の特殊解の構成法が得られた。特に ∂NLS 方程式 (1.2) の特殊解を (12) 得るためには,q(t) = w̃1 (21) (t), r(t) = w̃0 (t) とおけばよい。(3.18), (3.19) から分かる ように,上述の方法で得られる特殊解は,2 重ロンスキアンの比として表される。文献 [KSS1] では双線形化法を用いて 2 重ロンスキアンを得ているが,ここで得られた解と 同一のものである。 4 アフィン・ワイル群の作用 (1) f (A(1) 本節では,∂NLS 階層に対する拡大アフィン・ワイル群 W 1 ) の作用を考える。A1 型の拡大アフィン・ワイル群とは, 生成元 : s0 , s1 , π, 関係式 : s20 = s21 = 1, πs0 = s1 π 8 (4.1) によって定義される群であった6 。この群の 1 つの実現として,次のものがある: " # " # " # −1 def 0 λ def 0 1 def 0 1 s0 7→ S 0 = , s1 7→ S 1 = , π 7→ Π = . (4.2) λ 0 1 0 λ 0 これらの 2 × 2 行列は,(3.15) の Ξ(λ, t) に自然に作用させることができる: s0 : Ξ(λ, t) 7→ S 0 Ξ(λ, −t), (4.3) s1 : Ξ(λ, t) 7→ S 1 Ξ(λ, −t), (4.4) π : Ξ(λ, t) 7→ ΠΞ(λ, −t). (4.5) これらの変換によって,微分方程式 (3.21) は形を変えないことを注意しておく。Ξ(λ, t) fN とは,線形方程式 (3.17) を通して関係しているので,上の Ξ(λ, t) に対する変 とW fN に対する W f (A(1) 換は,W 1 ) の作用を引き起こす。 f (A(1) 命題 2. アフィン・ワイル群 W 1 ) の,∂NLS の変数 q(t), r(t) に対する作用は,以 下で与えられる: 1 , q(−t) 1 r(t) 7→ −q(−t)2 r(−t) + qt1 (−t), 2 1 1 , s1 : q(t) 7→ −q(−t)r(−t)2 − rt1 (−t), r(t) 7→ 2 r(−t) π : q(t) 7→ r(−t), r(t) 7→ q(−t). s0 : q(t) 7→ c N (λ, t) を [証明]. ここでは,s0 の場合のみを示そう。まず,W " # (12) 1/ w̃ (−t) 0 def 1 c N (λ, t) = fN (λ, −t)S 0 W W (12) −λ −w̃1 (−t) c N (λ, t) は で定義する。このとき,W I dλ N −1 c λ WN (λ)S 0 Ξ(λ, −t) = 0 2πi (4.6) (4.7) (4.8) (4.9) (4.10) def c b を満たすので,命題 1 の場合と同様の議論により,Ψ(λ, t) = W N (λ, t)Ψ0 (λ, t) が線形 方程式 (3.6) を満たすことが分かる。 c N (λ, t) の形を具体的に求めると, また,W # " # " (12) 1 0 ∗ 1/ w̃ 1 c N (λ, t) = λ−1 + · · · W + (12) (12) 2 (21) ∗ ∗ (w̃1 )t1 /2 − (w̃1 ) w̃0 1 (4.11) となるので,変換 (4.6) が得られる。 (注) ここで考えた変換 (4.6), (4.7) は,文献 [KK1] での変換 sL0 , sL1 とは若干異なって いる。これは,行列 S 0 and S 1 の選び方が異なっていることに対応している。 6 本稿では,π 2 = 1 は要請しない。 9 5 パンルベ IV への相似簡約 (3.2) の W (λ, t) に対して,条件 W (kλ, t) = k αQ W (λ, t̃)k −αQ , t̃ = (kt1 , k 2 t2 , k 3 t3 , . . .) (5.1) r(t̃) = k 2α r(t) (5.2) y(x) = 2q(t)r(t)|t1 =x, t2 =1/2, t3 =t4 =···=0 (5.3) を要請する。これは,q(t), r(t) に対する相似性 q(t̃) = k −1−2α q(t), を意味する。 命題 3. 変数 y(x) を, def で定義する。条件 (5.2) の下で,y(x) はパンルベ IV 型方程式 (1.1) を満たす。ここで, PIV のパラメータは,A = 4α + 3C + 1, B = −2C 2 (C は定数) で与えられる。 [証明]. (5.2) を k に関して微分してから k = 1 とおけば, t1 qt1 (t) + 2t2 qt2 (t) = −(1 + 2α)q(t), t1 rt1 (t) + 2t2 rt2 (t) = 2αr(t), (5.4) が得られる。新たな変数 ϕ(x) を def ϕ(x) = {qt1 (t)r(t) − q(t)rt1 (t)}|t1 =x, t2 =1/2, t3 =t4 =···=0 (5.5) で定義すると,y(x), ϕ(x) は次の関係式を満たすことが分かる: 1 ϕ − y 2 + xy = C, 2 µ 0 ¶2 µ ¶2 00 y ϕ y 2xϕ − + + 2ϕ − 2y 2 + + 1 + 4α = 0. 2y 2y y y (5.6) (5.7) ただし 0 は x に関する微分を表し,C は積分定数である。両式より ϕ を消去すれば,パ ンルベ IV 型方程式 (1.1) が得られる。 命題 2 のアフィン・ワイル群作用は,相似条件 (5.2) の下でも意味を持ち,PIV の変 数 y(x) に (5.3) を通して作用する。 補題 1. 命題 2 で定められるワイル群の作用により,PIV のパラメータ α, C は次のよ うに変換される: s0 : α 7→ −α − 1, C 7→ −C + 2α + 1, s1 : α 7→ −α, C 7→ −C + 2α, 1 π : α 7→ −α − , C 7→ C. 2 10 (5.8) (5.9) (5.10) [証明]. 簡単のため,q0 = s0 (q), r0 = s0 (r), α0 = s0 (α), C0 = s0 (C) とすると,これら は関係式 q0 (t̃) = k −1−2α0 q0 (t), r0 (t̃) = k 2α0 r0 (t), (5.11) 1 C0 = q00 r0 − q0 r00 − q02 r02 + xq0 r0 2 を満たすことが示される。これらの関係式に (4.6) を代入すると,(5.8) が得られる。s1 , π の作用も,同様にして計算することができる。 def f (A1 ) の元のうち,特に並進 T = s0 π の作用に注目しよう。T の y(x) へ 次に,W (1) の作用は,(4.6) と (4.8) によって求めることができる: T (y) = −y − r0 , r T −1 (y) = −y + q0 . q (5.12) これら,および (5.6) により, T (y) + y + T −1 (y) = −2x + 2C y (5.13) が得られる。以上の準備の下で,離散パンルベ方程式 (5.14) を導くことができる。 命題 4. 整数 n に対して,Xn を Xn = T n (y) で定義する。このとき,Xn は次の差分 方程式を満たす: Xn−1 + Xn + Xn+1 = −2x + κ1 n + κ2 + (−1)n κ3 Xn (5.14) ここで,定数 κ1 , κ2 , κ3 はパラメータ α, C と次のように関係する: 1 κ1 = , 2 1 κ2 = −α − , 4 1 κ3 = C − α − . 4 (5.15) [証明]. 補題 1 より, 1 T n+1 (α) = T n (α) − , 2 T n+1 (C) = −T n (C) − 2T n (α) (5.16) が得られる。これらにより, n T (α) = α − , 2 n µ ¶ n 1 1 n T (C) = − α − + (−1) C − α − 2 4 4 n (5.17) が得られる。(5.13) に T n を作用させ,(5.17) を用いると,(5.14) が導かれる。 (注) 文献 [GR] において,差分方程式 (5.14) は,“asymmetric discrete Painlevé I” と 呼ばれている。これは,(5.14) のパラメータを特殊化することで,2 次元量子重 力の研究で表れた離散パンルベ I が表れるためである。一方,文献 [N] では,同じ 方程式が “離散パンルベ II” と呼ばれている。こちらの呼び名は,適当な連続極 限の下に,パンルベ II 型方程式が表れるためである。 11 次に,相似条件 (5.2) を満たすような,∂NLS 階層の特殊解を考えよう。まず,“Euler b を導入しておく: 作用素” E ∂ ∂ ∂ b def E = t1 + 2t2 + 3t3 + ··· . ∂t1 ∂t2 ∂t3 命題 5. 特殊解のデータ (3.15) が,関係式 µ ¶ ∂ b −λ + E + αQ Ξ(λ, t) = Ξ(λ, t)Γ ∂λ (5.18) (5.19) を満たすことを仮定する。ただし,Γ は 2N × 2N 行列である。このとき,対応する解 fN (λ) は,相似条件 (5.1) を満足する。 W b を (3.17) に作用させ,(3.23), (5.19) を用いると, [証明]. 作用素 λ∂/∂λ − E ( ) I fN (λ) ∂W dλ N −1 fN (λ) + αW fN (λ)Q Ξ(λ) = 0 bW λ λ −E 2πi ∂λ となる。さらに,αQ を (3.17) に左からかけて,(5.20) から引くと, ( ) I h i f dλ N −1 ∂ WN (λ) fN (λ) − α Q, W fN (λ) Ξ(λ) = 0 bW λ λ −E 2πi ∂λ (5.20) (5.21) が得られる。(5.21) において,{ · } 内の定数項が消えていることに注意すれば, λ h i fN (λ) ∂W fN (λ) − α Q, W fN (λ) = 0 bW −E ∂λ (5.22) となり,この式を積分すれば,(5.1) が得られる。 条件 (5.19) を満たす Ξ(λ, t) の例として,Schur 多項式で表されるものを考えよう。 まず,基本 Schur 多項式 pn (t) の定義を思い出しておこう: exp(zt1 + z 2 t2 + · · · ) = X Z pn (t)z n . (5.23) n∈ (j) (j) (3.16) の fk , gk を (j) fk = pk−j−1 (t), (j) gk = pk−j−1 (−t) (k = 1, . . . , 2N ) (5.24) と選べば,Ξ(λ, t) が (3.21),および (3.22) で β n = 0, γ = [δi+1,j ]1≤i,j≤2N とした式を満 たすことが分かる。さらに,この場合には (5.19) で α = 0, Γ = diag[0, 1, . . . , 2N − 1] と した式も満たすので,t1 = x, t2 = 1/2, t3 = t4 = · · · = 0 とおけば,パンルベ IV (1.1) および離散パンルベ方程式 (5.14) に対する有理解が得られたことになる。 12 今の場合,Schur 多項式 pn (t) は Hermite 多項式 Hn (t) と一致することが,母関数 を見れば分かる: ¯ exp(zt1 + z 2 t2 + · · · )¯t1 =x, t2 =1/2, t3 =t4 =···=0 X = exp(xz + z 2 /2) = Hn (t)z n . n∈ Z (5.25) 文献 [OKS] では,離散パンルベ I の有理解の行列式を用いた表示を導いているが,本節 の結果はそれの別証を与えたことになる。 6 おわりに 本稿では,Drinfel’d-Sokolov 階層を一般化することによって扱われるソリトン階層とし て,特に ∂NLS の場合を中心に紹介した。∂NLS に関しては,これまでに様々な研究が 成されている。それらの中から,我々のアプローチと関係が深いものを挙げてみよう (論文発表年度順)。 • Ablowitz-Ramani-Segur [ARS]: ∂NLS の相似簡約 → PIV (パラメータは 1 つ) • 神保-三輪-上野 [JMU]: NLS の相似簡約 → PIV (パラメータ 2 つ) • 和達-十河 [WS]: NLS と ∂NLS とを結ぶ「ゲージ変換」 • Grammaticos-Ramani [GR]: PIV の Schlesinger 変換 → 離散パンルベ I • 筧-佐々-薩摩 [KSS1]: ∂NLS の 2 重 Wronskian 解の構成 • 太田-梶原-薩摩 [OKS]: 離散パンルベ I 型方程式の行列式解の構成 • 池田-山田 (裕) [IY]: NLS の多項式 τ 関数と,その表現論的意味 これに対し,本稿で紹介した考え方は,次の表のようにまとめられる。 ¶ ⇑ Bäcklund 変換 f (A(1) ' W 1 ) ' パンルベ IV (パラメータ 2 つ) ⇑ Bäcklund 変換 ∈ → 相似簡約 → ∈ 微分型 NLS ³ 並進 ' 離散パンルベ I µ ´ この視点により,上に挙げた研究を包括的にとらえることができるようになったとい える。 13 PIV とソリトン方程式との関係としては,文献 [N, NY3] で変形ブシネ階層 (3-reduced f (A(1) mKP 階層) との関係が議論されており,その立場から W 2 ) 対称性が導かれること (1) f (A1 ) は,文献 [N, NY3, O2] での W f (A(1) が示されている。しかし,我々が扱った W 2 ) 対称性の部分群にはなっていないようである。この例が示唆しているように,ソリトン 系とパンルベ系との関係は,これまでに良く調べられている principal 階層だけでなく, b 3 の場合でも, それ以外の階層まで合わせて考えるべきなのではないだろうか。実際,sl principal 階層からの相似簡約だと PIV が得られるのに対し,principal でない場合を考 えることで PV を扱うことができる [KIK]。より一般の場合に,どの程度の範囲までの 方程式を扱い得るかについては,現在研究を進めているところである。 References [ARS] M. 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