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ロータリ除雪車の省エネ化 ―小型軽量高出力化― 更科 勝博*1 白樫 純
ロータリ除雪車の省エネ化 ―小型軽量高出力化― キーワード:ロータリ除雪車、省エネルギー、排出ガス規制対応、ダウンサイジング 更科 勝博*1 1. はじめに 白樫 純*2 した新型ロータリ除雪車について、先述②の省エネルギ ー化への開発アプローチに焦点を当てて紹介する。 ロータリ除雪車は冬季交通確保の為、拡幅除雪、運搬 表 1 ロータリ除雪車仕様(H24 建仕による) 排雪、また山間部冬季閉鎖区間の除雪などの作業に用い 2.2m級 2.6m られている除雪車両の一つである。特に日本においては、 2.6m 級 220kW 級 豪雪地域に人口の多い都市部が多数存在するような世界 全長 [mm] 8,000 以下 8,000 以下 9,000 以下 的にも珍しい国情から、除雪車に対して高い性能が要求 全幅 [mm] 2,200 以下 2,600 以下 2,600 以下 され、車両の用途、大きさを考慮したクラスごとの仕様 全高 [mm] 3,800 以下 3,800 以下 3,800 以下 書(建仕)が定められている。建仕では、車の性能、た 車両総重量 15,000 以下 20,000 以下 20,000 以下 とえば除雪能力、投雪距離、機関出力や除雪幅などが細 [kg] かく定められており、それぞれのクラスの建仕に則って 機関出力[kW] 180kW 以上 220 以上 290 以上 開発されるロータリ除雪車は、自ずとそのクラスごとの 最大除雪量 2,300 以上 2,700 以上 3,400 以上 投雪距離[m] 0~35 以上 0~35 以上 0~35 以上 最大除雪幅[mm] 2,200 2,600 2,600 最大除雪高[mm] 1,500 以上 1,500 以上 1,500 以上 走行速度[km/h] 40 以上 40 以上 40 以上 専用車両として独自の発展を遂げてきた。 (図 1) [t/h] 2. 2.2m 級 2-1. 除雪能力の向上 2.2m級はロータリ除雪車の中では最も車体の小さい クラスにある。除雪幅が 2.2mであるこのクラスは、除雪 作業時の道路の車線占有幅を小さくし、一般交通の妨げ を可能な限り小さくすることが求められている。 図 1 1.0m級及び 2.2m級 さて近年地球温暖化など環境問題が多く取り沙汰され る中で、平成 23 年度より 180kW~560kW のロータリ除雪 車においても新たな排出ガス規制が実施され、規制対象 クラスは 2.2m級、2.6m220kW 級、2.6m級の 3 クラスが 該当することとなった。 (表1) 一方近年の除雪予算の削減傾向のなか、更なる除雪作 業の円滑化、効率化が求められ、他の多くの機械同様ロ ータリ除雪車の作業性向上、性能向上などの要求はます ます厳しくなっている。 これらを背景にして、前述の規制対象クラスの新型ロ ータリ除雪車を、次のような狙いで開発を行った。 ① 平成 23 年度排出ガス規制のクリア ② 省エネルギー化 して、交通規制時間を少しでも短縮することが要求され ている。これはロータリ除雪車においてはいかに短時間 で多くの雪が処理できるかという性能によって表される。 このような雪の処理能力をロータリ除雪車では除雪能力 (t/h)で表し、一般に馬力が高いほど、それに見合った サイズの除雪装置であるものほど除雪能力は高いことが 知られている。 これらの状況を踏まえ、2.2m級は従来機よりも高い除 雪能力を出すことを目標に開発を行った。 2-2. エンジン選定 まず第 1 に環境性能の向上の為、排気装置にバーナー 本稿では平成 23 年度に新潟トランシス株式会社が開発 ※1 新潟トランシス株式会社 特機事業部 技術部 ※2 新潟トランシス株式会社 特機事業部 技術部 特に都市部での除雪作業時では、短時間で作業を終了 付自動再生機能を搭載した DPF(Diesel particulate 車体・艤装グループ マネージャー 車体・艤装グループ スタッフ filter)を採用した。これは排出ガス中に含まれる粒子 状物質(PM)を抑える効果を持つ装置で、これにより平 成 23 年度排出ガス規制に対応した。 2-5. 新型機比較 開発した新型機は一般社団法人施工技術総合研究所に 依頼し、除雪性能評価を行った。2.2m級の従来機と新型 第 2 に従来機に対して除雪能力を高める狙いから、2.6 m220kW 級と同等の最高出力、最高トルクのものを選考し、 かつ小形・軽量化の観点から、小排気量、高加給圧のエ ンジンを選定した。 機の性能比較を表 3 に、2.2m級新型ロータリ除雪車を図 3 に示す。 除雪能力は 14.5%向 上、また燃料当りの除雪量が 26.8%向上、省エネルギー化を達成した。 表 3 2-3. 車体側 2.2m 級性能比較 従来機 2.2m幅 新型機 2.2m 幅 先に述べたエンジン選定において、2.2m級のエンジン 全長 [mm] 7,350 7,400 性能を 2.6m220kW 級まで引き上げること、また小形・軽 全幅 [mm] 2,200 2,200 量エンジンを採用することで、2.6m220kW 級の車体サイ 全高[mm] 3,570 3,570 ズを下位クラスの 2.2m級サイズまでダウンサイジング 車両総重量[kg] 13,420 12,970 することが可能となった。これによりエンジン、駆動系、 最高出力 [kW] 221 250 冷却装置などのパワーラインが両クラスで共通となり、 除雪能力 [t/h] 2,340 2,680 燃料消費率[g/kW-h] 225 216 燃料当り除雪量[t/h-l] 41 52 保守整備・点検においても維持管理が容易になる利点を 持たせることができた。 2-4. 除雪装置 除雪装置は雪を切り崩し、飲み込む働きを持つオーガ、 飲み込んだ雪を遠くへ飛ばす働きを持つブロワ及びブロ ワケース、飛ばす雪の方向を定めるシュートで主に構成 されている。(図 2) シュート ブロワ及び ブロワケース 図 3 2.2m 級新型ロータリ除雪車 性能試験 3. 2.6m級 3-1. オーガ 使用環境 2.6m級は下位クラスに比べ、25%以上大きな出力、除 雪能力を要求されるクラスである。巨大なエンジンに大 図 2 除雪装置各部部品 新型機 2.2m級では除雪能力の向上を目指しつつ、省エ ネルギー化を果たすため、除雪能力の数値シミュレーシ ョンを行い、また過去の性能試験を分析した。 除雪装置及びその構成部品の形状を見直すことで、最 終的に除雪能力を一つ上の 2.6m220kW 級並みの性能へ引 き上げることに成功した。 きな車体本体、3,400t/h と高い除雪能力を誇る大きな除 雪装置を備え、高速道路や空港などで広く用いられてい る。 一方市街地でもその高い除雪能力から除雪作業時間の 短縮が望める為使用されるが、その巨体から下位クラス と比べると、ハンドル操作や車庫入れなど、回送時の取 り回しが劣る点は否めなかった。 また山間部での除雪作業においては、雪の下に隠れて 見えないところに存在する側溝などにタイヤがはまり、 脱輪するようなケースがある。大きな車体で広い輪距(左 右タイヤの間隔)では脱輪に対して特に不利である。 となり、取り回しの改善を達成した。 (図 5) このような背景から、2.6m級において取り回しの改善 を目標にダウンサイジングを狙った。 3-2. エンジン選定 ダウンサイジングを狙う上で障害となる、車体サイズ に影響を及ぼす大きな要因の一つがエンジン・冷却装 置・排気装置を含むパワーユニットである。 高い除雪能力を発揮するために大出力エンジンを必要 とするが、そのために付随するラジエータなどの冷却装 置、排気装置も必然的に大きく重いものになってしまう。 大重量であることは、それを支えるフレームにも太く厚 く高い強度の構造が必要とされ、さらなる重量増を招く 負のスパイラルに陥る結果となる。 各駆動系においても高いエンジン出力、トルクはプロ 図 4 足回りと脱輪の関係 ペラシャフトやアクスル、ベアリングなどに高い強度を 要求し、やはり必然的に大きく重い部品で構成せざるを 得ない。 そこで重量、出力のバランスを考慮した結果、冷却装 置は従来よりも大きなユニットとなるが、ターボによる 高加給圧で出力トルクを補う、低排気量の小形エンジン を採用した。総合的なパワーユニットの軽量化をするこ とで、フレームや各部構成部品の要求強度、負担を低減 し、小形軽量化を実現した。 3-3. ダブルタイヤ装備 重い重量を支えるには、耐荷重の問題から大きい径の タイヤまたは、小径タイヤならばダブルで装着するなど の接地面積を大きくする必要がある。 しかし従来機では車体サイズ(フレームレイアウトや 補機類配置)からアクスルの制約があり、大径シングル 図 5 従来機と新型機 タイヤ装着を採用していたため、脱輪に不利、つまり側 溝に落ちる可能性があるという状況であった。(図 4) そこで新型機では取り回しの改善を狙い、脱輪に強い ダブルタイヤ装着を可能とする足回りを採用すべく、次 に述べるフレーム小形化を行った。 3-4. 除雪装置小型化 ダウンサイジングは除雪装置側でも積極的に行った。 除雪能力を維持したまま小形軽量化をする為、先述の 2.2m級、2.6m220kW 級同様に除雪能力の数値シミュレー ション、性能試験分析を行った。 3-4. フレーム小型化 改良は各部寸法、形状、オーガやブロワの回転数、そ エンジンのサイズと狭い輪距のアクスルに合わせフレ れらのバランスを根本から見直し、先の計算や分析を基 ーム構成を大幅に見直した。フレーム要素を 3D-CAD で部 に最適形状を決定。除雪能力、投雪距離などの性能を維 分的に 3 次元モデリングし、FEM(有限要素法)により各 持したまま大幅なダウンサイジングを達成した。 部強度解析を併用して、軽量でかつ高い強度をもつ構造 を追及した。 最終的に除雪装置を除く車体幅を下位クラスと同程度 まで小形化することで前述のダブルタイヤの装着が可能 外形寸法のみ注目するだけでなく、駆動系も見直しし た。回転物の質量、慣性モーメントを低減することで除 雪作業時の駆動ロス、投雪時の損失を低減させ、除雪作 業時の省エネルギー化に貢献した。 3-5. 新型機比較 開発した新型機は研究所試験を行い、性能評価を行っ た。2.6m級新型ロータリ除雪車を図 6 に、従来機と新型 機の性能比較を表 4 に示す。 新型機は従来機に対して大きく次の点が改良された。 脱輪に対する改善 前後シングルタイヤ 輪距 21%減 ダウンサイジング 車体全長 9.4%減 車体側全幅 8.1%減 軽量化 車体重量 → 前(後)ダブルタイヤ 17.8%減 図 6 2.6m級新型ロータリ除雪車 省エネルギー化 燃料当り除雪能力 22.5%増 (除雪量当たりの燃料消費量 表 4 7.2%減) 4. おわりに 本稿では除雪能力を向上させた 2.2m級と、性能を維持 したまま取り回しを改善した、2.6m級の省エネルギー型 ロータリ除雪車の開発について報告した。 ロータリ除雪車に求められる性能、そして環境への配 慮は今後も高まる傾向にあり、排出ガス規制に関しても、 本稿で述べた平成 23 年度排出ガス規制の数年後には、よ り厳しい規制が控えている。 今後もさらなる省エネルギー化を進めて低炭素化社会 に備えるとともに、オペレータがより安全で安心して使 えるロータリ除雪車の開発・量産を行う予定である。 2.6m 級性能比較 従来機 新型機 全長 [mm] 8,170 7,400 全幅 [mm] 2,600 2,600 車体側全幅[mm] 2,285 2,100 全高[mm] 3,690 3,570 車両総重量[kg] 17,090 14,050 輪距[mm] 1,900 1,495 タイヤ形態(前軸) シングル ダブル 最高出力 [kW] 328 330 除雪能力 [t/h] 3,400 3,400 燃料消費率[g/kW-h] 233 213 燃料当り除雪量[t/h-l] 40 49