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Sociological Theory B
マスコミ論 (伊藤賢一) 2008/05/12 第 5 回 マス・メディアの社会的責任(1) 5-1) マス・メディアはなぜ社会的責任論を負うのか 社会的責任 → すべての者が負う訳ではない ・行動を意図的に行い、それを自ら評価できる個人または団体のみが責任を負う 責任の大きさは、個人・団体の果たす役割と公共性の大きさによる マス・メディアの責任 人々の意思決定に果たす役割は大きい → メディアとその従事者、とりわけジャーナリストの職業的責任は大きくなる 5-2) メディアの社会的機能 機能(function) 「狭義には、システム全体について設定される目的に対する貢献という観点からみた、要素や下位システムなど システムの諸部分の作用。個々の要素や下位システムの作用は、相互作用のネットワークを通じてシステム全体 のあり方に影響を及ぼし、その結果としてシステムの目的に対してプラスないしマイナスの貢献をする。…」(徳安 彰・『新社会学辞典』, 有斐閣) 情報技術が高度に発達した先進社会における機能は何か? ・機能を考える際の問題点 → 誰にとっての機能か/逆機能(dysfunction)の問題 a. 環境監視機能 ある社会の内外で生じた出来事を人々に知らせ、それへの対応を促すという機能 b. 世論喚起・形成の機能 メディアは、社会的出来事や問題を報じ、関心を高め、態度や意見の形成を促している c. 教育と社会化の機能 メディアによる報道はさまざまな教訓を残し、今後の活動の指針を与えている。 地位付与機能(status conferral function) 社会的規範の強制(enforcement of social norms) → 社会化(socialization) 報道の逆機能 ・支配的な価値を伝える → 対抗的価値の抑圧、排除 → 環境監視機能が果たされない ・社会に過剰に不安を与えたり、混乱を生じさせることも → 極端な例が、捏造、誤報 新聞社や報道機関などのジャーナリズム組織は、多くの場合、営利企業 → 発行部数や視聴率を上げる十分な動機がある 11 マスコミ論 (伊藤賢一) 2008/05/12 朝日新聞・珊瑚礁事件(1989 年 4 月 20 日 夕刊) 「サンゴ汚したK・Yってだれだ」 → 「日本人は、落書きにかけては今や世界に冠たる民族かも 知れない。だけどこれは、将来の人たちが見たら、八〇年代日本 人の記念碑になるにちがいない。百年単位で育ってきたものを、 瞬時に傷つけて恥じない、精神の貧しさの、すさんだ心の…」 実はカメラマンが自ら傷をつけていたことが判明 (1989 年 5 月 20 日 朝刊) 「サンゴ写真 落書き、ねつ造でした」 5-3) メディアの中立・公正とは何か ポストマン (Postman, N.) 「公共コミュニケーションはどうあるべきかという考えは、 私たちが現在どのような社会に住み、これから住みたいかという判断」にすぐれてかかっている。 日本の放送 → 公共財としての電波 電波三法(放送法・電波法・電波監理委員会設置法)1950 年制定 → 「公共の福祉への適合」という言葉で放送に一定の拘束 ・世界のジャーナリズム研究におけるメディアの公正と中立の概念内容 (← 渡辺, 2001) 1. 両極端を排し、その他の意見を並列的に列挙しようとする、いわゆる NHK 的公平 2. 対立する意見の真ん中をとる、いわゆる中道 3. 権力を悪と考え、権力と社会悪への批判を使命とするウオッチドッグ(番犬)機能 4. 世論の大勢とその動向を重視し、視聴者・読者のニーズの大きさにしたがった対応をすること 5. 少数者の意見表明を大切にし、意見の多様性を保障すること → これらの考え方はそれぞれに利点と根拠があるが、これだけで対応しきれない → 積極的公正・中立(価値判断に積極的に踏み込む)しか方法はない 【参考文献】 黒川貢三郎, 1997, 『マス・コミュニケーション論』, 南窓社. 渡辺武達, 2001, 「メディアの社会的責任」, 岡満男ほか編, 『メディア学の現在〔新版〕』, 世界思想社. Schramm, W. L., 1957, Responsibility in mass communication, Harper. = 1959, ウィルバー・シュラム著, 崎山正毅訳, 『マス・コミュニケーションと社会的責任』, 日本放送出版協会. 大石裕・岩田温・藤田真文, 2000, 『現代ニュース論』, 有斐閣アルマ. 鶴木眞(編著), 1999, 『客観報道 ― もう一つのジャーナリズム論』, 成文堂. 12 マスコミ論 (伊藤賢一) 2008/05/12 朝日新聞 1989 年 5 月 20 日 13 マスコミ論 (伊藤賢一) 2008/05/12 日本経済新聞 2007 年 1 月 21 日 14