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1 欧州の環境・エネルギー政策の地域的側面 ――スペインにおける再生

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1 欧州の環境・エネルギー政策の地域的側面 ――スペインにおける再生
欧州の環境・エネルギー政策の地域的側面
――スペインにおける再生可能エネルギーによる発電の地域間相違と電力システムを巡る争い――
ユイス・バユス(京都外国語大学)
はじめに
EU 再生可能エネルギー政策に基づいてスペインの再生化のエネルギー政策が実行されている。しかし、
スペインの自治州によって再生可能エネルギー普及がかなり異なっている。本報告は、カタルーニャ州
北東部の事例を分析し、この州の再生可能エネルギー普及がなぜ他州に比べて遅れているのか、これの
主な原因として大規模風力発電や大手電力会社を中心としたシステムへの反対があるという仮説を分析
する。また、その地域で市民と自治体の再生可能エネルギー(以下 RE)の取り組みも説明する。
1.再生可能エネルギーによる発電システム
RE システムは、生産優先モデルと地域社会優先モデルがある。生産優先モデルは大規模発電所、大企
業、生産性や中央管理に基づいたシステムである。地域社会優先モデルは小規模発電所、地域自給、中
所企業、市民参加や自治体の政策に基づいたシステムである1。発電システムのモデルについては、EU 政
策が何も決めていないが、スペインの政策及びカタルーニャ州の政策は生産優先モデルを進めている。
2.電力部門の関連政策
2.1.電力部門の自由化政策
EU における電力部門の統合および自由化を目指している 1996 年の EU 指令
「EU 内電力市場の共同規則」
2
に基づいて、スペインで 1997 年に「電力部門法」3が決定され、この法律によってスペインにおける電
力部門の自由化が行われ、2003 年に完成された。現在、発電部門、送電部門と小売り部門は分離され4、
送電は独占的に準国営の Red Electrica 社によって行われているが、エネルギー産業省の許可を取得し
たら発電部門と小売部門に新しい会社が入ることができる。また、消費者は自由に小売り会社を選ぶこ
とができる。
2.2.再生可能エネルギー振興政策
2.2.1. EU 指令「再生可能エネルギー振興にあたって」
現在の EU の RE 振興政策を定めたのは、2009 年の指令「RE 振興にあたって」Directive 2009/28/EC
(2009 年 4 月 23 日)である。この指令は各国の 2020 年の RE 目標を定め、目標を達成するために、また
投資家に安定を与えるために各国の行動計画作成を命じ、エネルギー効率を上げることを強調し、
「RE に
よる電力の保証」
(guarantee of origin)制度5を定め、RE のグリッドアックセスを保障する国の責任を
Allen, J. et al. (2012)、Bagliani, M. et al. (2010)、Devine-Wright, P. and Wiersma, B. (2013)、Saladie,
S(2008)、和田 武(2011)。
2 Directive 96/92/EC(1996 年 12 月 19 日)
3 Ley 54/1997(1997 年 11 月 27 日)
4
発電と電気の小売りは法的に分離されたので発電会社と小売会社が同じ持ち株会社に経営されるケー
スもある。
5 高効率コジェネレーションも含まれている。
1
1
強調し、FIT などの RE 振興制度を進め、RE 事業化関連の手続きの単純化および透明化を求め、バイオ燃
料についての規制も定めている。国は目標の達成を義務づけられているが、達成しなかった場合は制裁
がないこともある。
2.2.2.スペインにおける EU 政策の実行
1)目標
Directive 2009/28/EC によってスペインの 2020 年 RE の目標は、消費エネルギーにおける RE の20%
と交通における再生可能燃料の10%である。
消費エネルギーにおける RE 割合は 2005 年に 8.7%であり、
2012 年に 14.3%まで上り、2020 年目標へ進んできた6。特に、発電部門の RE 割合は 2012 年に 30.3%で
あった(APPA,2015)7。発電における風力の割合は 2013 年に 20.9%であり、第一の電源となった (AEE,
2015)8。
一方、大手電力会社が風力発電の大きな割合を占め、2014 年に Iberdrola (24%)、 Acciona Energia
(18.6%)、 EDPR (9.1%)、 ENEL Green Power Espana (6.5%)、 Gas Natural Fenosa Renovables (4.3%)
であった。その他は RE 発電の大企業である。
2)振興政策
RE を普及させるために、スペイン政府は RE 行動計画を作成した。2011-2020計画はEUに
よる目標を達成するための計画であり、それぞれの RE について現状、目標、発展の支障、政策提案と援
助制度を明記している。
1998 年に導入された援助制度によって、RE による発電が受ける収入の決定方法は二つある。一つは、
政府が定めた値段によって電気を販売する方法である。もう一つは、フィットインタリフ(FIT)制度で
あり、市場による値段に政府が定めたプレミアムが加えられる方法である。しかし、2012 年にフィット
制度は廃止された。
3)情報公開
消費者の選択の権利が実現するための政策もあり、2001 年の EU 指令 2001/77/EC と 2009 年の EU 指令
2009/28/EC は、「RE による電力の保証」制度および「電力ラベル」制度を定めた。EU 指令はスペインで
2007 年の省令 1522/2007 と 2011 年の省令 2914/20119によって遂行された。
「RE 電力保障」制度に従って、
電力会社が発電した RE による電力の量に合わせてその電源を保証する「電子保証書」をエネルギー委員
会10から受ける。この保証書は消費者に提供されている電力が RE から発電されたことを保証する。
また、
「電力ラベル」制度11に従って、全ての電力小売り会社は年間の提供した電力から各電源の割合
と全国割合との比較、その発電による二酸化炭素排出量と全国発電との比較、その発電による電子廃棄
6
欧州委員会(COM(2013)175 final)”Informe de situacion sobre la energia renovable”(
「再生
可能状態のレポート」
)と欧州委員会(2014)”2014 Country Reports: Spain”。
7 Asociacion de Empresas de Energias Renovables (APPA) (2015)
http://www.appa.es/01energias/07primaria.php
8 Asociacion Empresarial Eolica (2015)
http://www.aeeolica.org/es/sobre-la-eolica/la-eolica-en-espana/generacion-eolica/
9 Orden Ministerial 1522/2007(2007 年 5 月 24 日)と Orden ITC/2914/2011(2011 年 10 月 27 日)
。
10
11
スペインエネルギー委員会はスペインの電力部門監視当局である。
スペインエネルギー委員会の回状 1/2008(2008 年 2 月 7 日)は電気ラベルの基準を定めている。
2
物と全国発電との比較をお客に伝える義務がある。また、エネルギー委員会が同じ情報を管理し、ウェ
ブサイトで公表する12。さらに、同ウェブサイトに電力小売り会社全ての値段、電力がグリーンであるか
13
、また提供するサービスについても比較ができる14。
しかし、EU 政策もスペイン政策も、目標が量的な目標であり、電力システムのモデルについての目標
はない。スペインで RE による発電を行っているのは主に利益を優先する大手電力会社と RE 大企業であ
る現状がある。
3.スペインにおける RE による発電の地域間比較
スペインのカスティリア・イ・レオン州は、スペインで最も風力発電が進んでいる州であり、2014 年
に風力による最大可能な発電は 5,560.01 MW であった。一歩、カタルーニャ州は州政府の RE 振興政策に
もかかわらず、2014 年に風力による最大可能な発電は 1,268.85 MW だけであった(AEE, 2015)。この州
で風力発電所建設へ反対運動が強く、発電所を建設する計画のあったカタルーニャの北東部は現在、一
つもない。
しかし、一方、カタルーニャ州にはスペインの最大 RE 協同組合があり15、EU における新エネルギーモ
デル16を目指している自治体ネットワーク(
「Convenant of Majors」と「Energy Cities」)に参加を高め
ている。他方、カスティリア・イ・レオン州は RE 協同組合がないし、ネットワークに参加する自治体は
ほとんどない。このため、カタルーニャ州における自治体と市民の RE への関心度は高いと思える。
4.協同組合「Som Energia」の事例
新しい電力システムを目指し、RE100%による電力の小売り協同組合として「Som Energia」
(我々はエ
ネルギーである)が、2011 年にカタルーニャ州北東部の町で設立された。電力市場で RE 保証書を持つ電
力を購入して組合員に販売する。また、太陽光発電所およびバイオガス発電所を建設して発電も行って
いる。2014 年に、スペイン全国でメンバーは 18,092 人あり、契約は 21,863 件あり、2.3GWh(売電量の
5%)を発電し、47GWhを販売した(Som Energia, 2015)17。
「Som Energia」の重要な特徴は二つある。一つは、発電所の建設に条件を付けたことである。それは、
環境・社会・経済への影響を評価すること、地域社会の意見を反映すること、消費場所の近くに設置す
ること、またスペイン電力協会(UNESA)のメンバー会社と原子力関係会社と取引しないことである。も
う一つは、組合員の参加は総会への出席にとどまらず、スペインのあらゆる地域にある地域グループや
ウェブサイトで議論することやさまざまな活動を行うことである。つまり、
「Som Energia は単なる RE 消
費者協同組合ではなく、環境・地域社会に考慮した発電および電力政策に市民参加を促進している組織
http://gdo.cnmc.es/CNE/resumenGdo.do?informe=garantias_etiquetado_electricidad
この場合、グリーンというのは提供する電力の 100%が再生可能エネルギーあるいは高効率コジェネ
レーションによる電力である。
14 http://www.comparador.cne.es/comparador/index.cfm?js=1&e=N
15 EU における再生可能エネルギー関係協同組合の連合会である「Renewable Energy Sources
COOPerative」 (RESCoop)にメンバーは 297 社があり、その中スペインの協同組合は 6 社がある。
http://rescoop.eu/
16 新しーエネルギーモデルというのは、再生可能エネルギーを中心に発電し、エネルギーを効率に使用
し、またエネルギー政策、発電と消費における自治体と市民の参加が中心とするモデルである。
17 https://www.somenergia.coop/
3
12
13
である。
5.Alt Emporda 地域における自治体の取り組み
5.1.Ordis 市の取り組み
風力発電所建設に反対したカタルーニャ州北東の Alt Emporda 地域にある Figueres 市とその周辺の
15 自治体が 2007 年に「Figueres 周辺の環境ネットワーク」を設立した。そのメンバーである Ordis 市18
と Alt Emporda 地域の環境保護団体(IAEDEN)が協力して「エコ村からエコ地域へ」というプロジェク
トを行っている19。このプロジェクトは、エネルギー使用効率上げ、太陽光発電、小規模風量発電とバイ
オガス発電を設置して、町の電気自給を上げ、町の電気消費による二酸化炭素排出量を減らすことを目
的にする。
5.2.Figueres 市の取り組み
Figueres 市は「Convenant of Majors」と「Energy Cities」、また「Figueres 周辺の環境ネットワー
ク」にも加盟している。「Convenant of Major」のメンバーとして、2020 年までに市における消費電力の
20%を RE による発電で賄おうと約束している。このため、作成した「持続可能なエなルギーのための行
動計画」に基づいて、太陽光発電所、太陽熱発電所、バイオマス発電所、地熱設備の建設を進めている。
さらに、Interreg IVC の「IMAGINE-Low Energy Cities」20プロジェクトに参加して、新しいエネルギー
文化を普及するために、他の EU の都市と協力してさまざまな活動を行っている。
6.まとめ
EU の電力部門自由化政策、また EU の RE 政策に基づいてスペインの電力部門の自由化および RE 政策
が実行されている。しかし、EU の政策もスペインの政策も RE の量的な目標を決めているが、
「地域社会
を優先する発電システム」を目的としていない。その結果、スペインで RE 発電は大規模風力発電所およ
び大手電力会社を中心としている。この電力システムのモデルに対する不満は、カタルーニャ州におけ
る風力発電への反対運動の主な原因であると言える。
カタルーニャ州では新しい電力システムへ移動を狙って、市民と自治体から新たな取り組みが登場し
ている。例えば、RE による電力保証書を活用して 100%グリーン電力を販売する協同組合が設立された。
この協同組合は RE に基づいた電力システムの実現を目指すのみならず、地域レベルで市民のエネルギー
政策への参加も促進している。また、自治体は EU の自治体の協力ネットワークに参加しながら、独自の
RE 計画を実行しているのである。
18
19
20
Ordis 市は「Convenant of Majors」にも加盟している。
http://www.ordissostenible.cat/
http://www.imaginelowenergycities.eu/
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