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ITS技術を活用したエゾシカとの交通事故対策に向けて
道路を横断するエゾシカの行動特性の把握について − ITS 技術を活用したエゾシカとの交通事故対策に向けて − Understanding the Behavior of Ezodeer on Roads: Toward ITS Countermeasures to Prevent Ezodeer Induced Road Accident 三好 達夫* 加治屋 安彦** 鈴木 武彦*** Tatsuo MIYOSHI, Yasuhiko KAJIYA, and Takehiko SUZUKI 2003 年7月 北海道開発土木研究所 防災雪氷研究室 道路を横断するエゾシカの行動特性の把握について − ITS 技術を活用したエゾシカとの交通事故対策に向けて 技術を活用したエゾシカとの交通事故対策に向けて − Understanding the Behavior of Ezodeer on Roads: Toward ITS Countermeasures to Prevent Ezodeer Induced Road Accident 三好 達夫* 加治屋 安彦** 鈴木 武彦*** Tatsuo MIYOSHI, Yasuhiko KAJIYA, and Takehiko SUZUKI 北海道では毎年、自動車と野生動物との衝突事故がしばしば起きており、交通安全の点で重大 な問題の一つとなっている。特に道東地域ではエゾシカとの交通事故(以下、エゾシカ事故とい 引が多く発生しており、この事故は、エゾシカの死や車両の破損という結果を招き、最悪の場 合、人の生命を奪うこともある。 本研究の目標は、ITS 技術を活用してエゾシカ出現情報をドライバーに適切に提供するシス テムの構築を図り、事故を減少させることである。 本報では、エゾシカ事故が比較的多く発生している一般国道 44 号の別寒辺牛湿原周辺において、 エゾシカの道路上とその近傍での行動を監視カメラおよび現地観察によって調査し、データを収 集・解析することにより行動パターンの把握を試み、その結果、エゾシカの行動特性の一端を捉 えることができたので報告する。 《キーワード:ロードキル;エゾシカ事故;ITS》 Vehicle collisions with wildlife often happen on road in Hokkaido every year. This is one of the significant problems from standpoint of road safety. Ezodeer-vehicle accidents particularly occur numerous in Eastern Hokkaido. These accidents kill ezodeer and damage to cars, at worst loss of life. Toward decreasing this accident, we are developing a warning system that uses ITS technology to provide drivers with relevant information on ezodeer detected on roads. This paper describes the results of field observations on ezodeer behavior on roadway and the vicinity conducted by camera and exploration at Route 44 near Bekanbeushi wetlands, including an analysis of the data. As a result, we find a part of the behavior of ezodeer. Keywords: Road kill. Ezodeer accident. ITS 北海道開発土木研究所月報 No.602 2003 年7月 15 1 はじめに 北海道内では、エゾシカ事故に対し様々な対策が講 じられ効果を発揮している。基本的な対応策としては エゾシカを対象としたものとドライバーに対するもの とに大別され、エゾシカを対象としたものは、アンダー パスとフェンスまたはオーバーブリッジとフェンスに よりエゾシカを横断通路へ導く方法やフェンス、テキ サスゲート、ワンウェイゲートなどにより道路上への 浸入を制限する方法、リフレクターにより車のライト を反射させ警戒させる方法などがある。一方、ドライ バーに対しては注意看板の設置やエゾシカについての パンフレット配布など情報提供によりドライバー自身 に注意喚起してもらう方法である。 本研究は、ドライバーヘの注意喚起の方策として、 ITS技術を活用し、エゾシカ出現情報をドライバー に対し効果的に提供するシステムの構築を図るととも に、ハード的対策の活用も視野に入れ、総合的な対策 によりエゾシカ事故を減少させることを目的としてい る。この研究において想定しているITS技術の活用 というのは、例えば、カメラや赤外線センサーを用い 道路周辺でのエゾシカの動きをセンシング、そこで蓄 積されたエゾシカ出現状況データを加工し、道の駅や インターネットなどを利用して広域的に情報発信した り、既存の道路情報板を利用し運転中のドライバーヘ 注意喚起をしたりすることである。データの活用イ メージを表−1 表−1に示す。 表−1 表−1 エゾシカデータ活用策イメージ 図一1 調査対象区間 当該区間はエゾシカ事故が比較的多く発生し、過年 度調査でも多数のエゾシカ横断痕跡が確認されてい る。このような箇所ではフェンスやカルバート等によ り道路と動物の生息域を分離することが効果の高い対 策であるが、対象区間延長が7km と長く、生息域も広 域に広がっていることからフェンス等による対策を全 て施すことは難しい状況にある。また、周辺に広がる 別寒辺牛湿原は、道立自然公園及びラムサール条約登 録湿地に指定されており自然環境を保全すべき地域に もなっている。 3 現地調査方法 今回、エゾシカに関して行った現地調査は、エゾシ カ出現頻度が高い箇所にカメラを設置し 24 時間監視す るカメラ監視調査と対象区間を自動車で巡回しながら 一定時間毎に調査員が観察する巡回観察調査である。 現地調査方法の概要を表−2 表−2に示す。 表−2 表−2 現地調査方法概要 このような対策の実現に向けた基礎調査として、エゾ シカの道路上ならびに道路近傍での行動把握が必要と 考えた。そこで、既存資料を基にエゾシカ事故が比較 的多く発生している一般国道 44 号厚岸町の別寒辺牛湿 原周辺において、カメラによる監視調査および調査員 による巡回観察調査を実施した。本報では、これらの 調査結果並びに結果から得られたエゾシカ行動特性の 一端について報告する。 2 調査対象区間 調査対象区間は、北海道厚岸郡厚岸町に位置する一 般国道 44 号厚岸太田∼糸魚沢問(kp52∼59km 地点 約7km)とした(図−1 図−1) 図−1 。 16 北海道開発土木研究所月報 No.602 2003 年7月 図−2 エゾシカ道路出現頻度(1週間毎)&エゾシカと車両とのニアミス回数 4 調査結果と考察 4.1 カメラ監視調査の結果と考察 カメラにより捉えたエゾシカの横断状況は写真−1 写真−1 のとおりである。この動画像からエゾシカの道路出現 状況(日時、個体数、横断方向、行動など)を把握する。 に整理したものである。また、グラフの模様分けは出 現時間帯を表している。カメラ調査開始から3/14 現 在までの間でエゾシカ確認数は合計 463 回、延べ個体 1,151 頭となった、この図から、エゾシカは 10 月から 出現し始め、その後 11 月、12 月とその頻度が徐々に高 くなり1月にピークに達し、2月、3月前半へと減少 している。具体的には、10 月は 12 回 14 頭、11 月は 45 回 82 頭、12 月は 121 回 252 頭、1月は 211 回 659 頭、2月は 61 回 117 頭、3月前半は 11 回 27 頭となっている。また、 線グラフはエゾシカと走行車両とのニアミス回数を表 しており、ピークの1/17-1/23 に 17 回と最も多く、 写真−1 エゾシカ(雌) 横断状況 次に録画テープから確認したエゾシカ出現状況の結 果をグラフにより示す。なお、本論文では 2002/ 9 /27 から 2003/3/14 までの調査結果により記述しているこ と、12/20-24、2/4、2/17-19、2/27-3/3はシス テム異常のためデータが無いことを予め申し添えてお く。 まず図−2 図−2は、エゾシカの道路出現頻度を1週間毎 図−2 北海道開発土木研究所月報 No.602 2003 年7月 図−3 エゾシカ道路出現時刻 17 図−4 エゾシカ道路横断方向 出現頻度に比例していることが分かる。なお、これに ついては後述する。 図−3は、出現時間について着目したグラフで、エ 図−3 ゾシカが出現した時刻を2時間毎に集計したものであ る。この図から、16 時∼8時の時間帯に多く出現して おり、特に 16 時∼18 時の夕方から日没後が多く 129 回 384 頭と回数、頭数ともに最大となっている。また、 夜明け前にも比較的多くなっている。 次に、図−4 図−4は、エゾシカがカメラ画面の中でどの 図−4 方向に道路横断したかを示したもので、上段グラフは 右側→左側で、これは海岸方面から内陸方面へ横断し たことを表し、下段グラフは左側→右側で、内陸方面 から海岸方面を表している。なお、このデータには、 横断しなかった個体と横断しても直ぐに戻った個体は 含んでいない。この図から、エゾシカの道路横断方向 についての傾向として、右側(海岸方面)→左側(内 陸方面)では、16 時∼20 時の時間帯が特に多くなって おり、ついで 20 時∼24 時に出現している。また、左側 (内陸方面)→右側(海岸方面)では 24 時∼4時なら びに4時∼8時に多く、横断をしていることが分かる。 18 写真−2 エゾシカと車両とのニアミス状況 さらに、グラフからは具体的な数値を直接読みとるこ とは難しいが、横断個体数について、右側→左側が 484 頭で、左側→右側が 479 頭とほぼ同数であり、週単位 での出現頻度も同様の傾向となっていることがわか る。推測ではあるが、エゾシカは、冬季の間、餌を確 保するため、この国道を通過して餌場とねぐらを行き 北海道開発土木研究所月報 No.602 2003 年7月 図−5 エゾシカと車両とのニアミス(時間帯別) 来しているのではないかと想像できる。 今回、2002/9/27-2003/3/14 の約5ケ月半の間に エゾシカと走行車両とのニアミスを 34 回確認してお り、この状況の一例が写真−2 写真−2のとおりである。 写真−2 そして図−5 図−5は、これについて時間帯別の確認割合 図−5 を示したグラフである。なお、接触事故は発生してい ない。この図から、ニアミス数の 76%が 16 時∼20 時の 時間帯に起きていることが分かる。この要因としては、 1)エゾシカの道路横断頻度が高いこと。2)交通量 が比較的多い時間帯であること。3)日没前後で、エ ゾシカを視認することが日中と比較して難しいこと。 が考えられる。 4.2 巡回観察調査の結果と考察 約7km の対象区間で実施した巡回観察調査の結果を 次のとおり示す。グラフは 10 月(10/21-22、23-24) と 11 月(11/18-19、20-21)のデータをまとめている。 図−6 エゾシカ確認地点 (10 (10 月&11 月&11 月) 図−6は、エゾシカの確認個体数を確認地点毎 図−6 (500m 毎)に整理したものである。グラフの下の図 は、道路周辺の地形概況を複式的に示したものである。 この図から、エゾシカ確認区間の結果と対象区間周辺 北海道開発土木研究所月報 No.602 2003 年7月 図−7 エゾシカ確認時刻(10 (10 月&11 月&11 月) の地形状況との関係を見ると、確認個体数が比較的多 い区間(kp52-53.5km や kp57-59km)は山地や切干 地形の箇所であり、確認数が比較的少ない区間 (kp53.5-57km)は湿原・平地の箇所であることが わかる。調査が4日間と少ないが、この結果から推測 すると、山地区間で確認が多いのは樹木が生えており エゾシカが道路の近くまで来ても身を隠すことが出来 ること、また周囲より小高くなっているため状況を把 握し易いこと、地面が固く歩行し易いこと、そしてね ぐらと地形的に連続し移動経路が短いことが考えられ る。その他切土法面の箇所では餌となる植物があり誘 引されていることも考えられる。 図−7は、巡回観察調査によってエゾシカが確認さ 図−7 れた時刻を2時間毎に集計したものである。この図か らは、16 時∼6時の時間帯に多く確認(63 回 164 頭) されており、日没後と夜明け前にピークが見られるこ とが分かる。これはカメラ監視調査の結果とほぼ同様 な傾向となっていると言える。 5 まとめ 上記の結果と考察をまとめると、現時点の当該調査 区間におけるエゾシカ行動特性は次のとおりである。 1)図−2 12 月中旬から1月末にか 図−2より出現個体数は 図−2 けて多い。 2.)図−3,7 時∼6時 図−3,7より日没頃から夜明け前(16 図−3,7 頃)に多く出現・横断している。 3)エゾシカ横断について方向と時間帯、方向と個体 数にある決まった傾向が見られる。 4)エゾシカと車両とのニアミスは日没前後(16 時∼ 20 時)が多い。 5)図−6 図−6から対象区間では出現地点は、山地や切土 図−6 地形の箇所で多く、平地・湿地の箇所で比較的少 ない。 このように、月日や時刻によるエゾシカの出現頻度 19 の違いや地形的変化による出現状況の違いを捉え、エ ゾシカ事故へ結びつく可能性のある要因を分析するこ とが重要である。そして、この情報資源を適切に加工 し道路利用者へ伝え、注意喚起することが当該事故対 策の基本となるものである。 そのほか、今回実施したカメラによるエゾシカ監視 調査手法については、図−6 図−6から設置地点 図−6 (kp57.8km)は、確認個体数の一番多い区間であり、 妥当であったこと。図−2 図−2, 図−2,3,6,7からカメラ監視 と巡回観察の調査結果が同様の出現傾向を捉えたこ と。客観的な出現状況(日時、頭数、横断方向、行動 など)を把握出来たことから有効な調査手法と言える。 三好 達夫* Tatsuo MIYOSHI 北海道開発土木研究所 道路部 防災雪氷研究室 研究員 20 6 あとがき 今後は、カメラ監視調査を秋期以降まで実施し、道 路を横断するエゾシカの行動特性について年単位で把 握し、その結果をもとにエゾシカ事故対策の仕組みに ついて検討する予定である。 最後に、本調査にご協力いただいた北海道開発局釧 路開発建設部及び関係各位に感謝の意を表します。 参考文献 1)網走開発建設部ホームページ;一般国道 334 号斜 里エコロード、http://www.ab.hkd.mlit.go.jp/ douro/ecoroad/index.html 加治屋 安彦** Yasuhiko KAJIYA 北海道開発土木研究所 道路部 防災雪氷研究室 室長 鈴木 武彦*** Takehiko SUZUKI 北海道開発土木研究所 道路部 防災雪氷研究室 研究員 北海道開発土木研究所月報 No.602 2003 年7月