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第2章 家族調査(含 ビデオテープ米国ヘレンケラー・ナショナル・センター

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第2章 家族調査(含 ビデオテープ米国ヘレンケラー・ナショナル・センター
平成13年度厚生科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)
p●
盲ろう者に対する障害者施策の
あり方に関する研究
夕
報
告
書
主任研究者
彰(国立身体障害者リハビリテーションセンタ
-0
寺島
分担研究者
植村
英晴(日本社会事業大学)
福島
智(東京大学先端科学技術研究センター)
山縣
浩(宮城教育大学)
)
研究組織(○印班長)
法律・制度班
○植村英晴
村田拓司
(日本社会事業大学)
(日本障害者リハビリテーション協会)
在宅調査班
智
(東京大学先端科学技術研究センター)
矢田
礼人
(東京盲ろう友の会)
照屋
荘仁
(全国盲ろう者協会)
北村
弥生
(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
○福島
施設調査班
○山内
保孝(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
香川
眞(流通経済大学)
中島
八十一(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
小林
章(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
渡邊
雅浩(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
伊藤
和幸(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
千田
佳遠里(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
高田
明子(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
鳩間
亜紀子(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
事例研究班
浩
(宮城教育大学)
小熊
順子
(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
若林
耕司
(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
太田
早苗
(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
会田
孝行
(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
○山縣
海外調査班
○寺島彰(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
中澤恵江(国立特殊教育総合研究所)
JacquesSOURIAU(フランス)
MarjananaSousalmi(スウェーデン)
EugeneABourquin(アメリカ)
佐藤文子(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
目次
第1章我が国における盲ろう者に関する現行の法と制度
............’
第1節盲ろう者の法律上の定義
第2節盲ろう者に関連する福祉施策
第3節盲ろう者に関する社会福祉法人全国盲ろう者協会の事業
第4節地域の盲ろう者施策と盲ろう者組織の活動(東京都の例)
第2章
家族調査..……….………………….……………17
第1節
施設に入所中の盲ろう者と家族への支援
第2節
在宅盲ろう者の家族への支援
第3節
今後の課題
資料
ビデオテープ米国へレンケラーナショナルセンター(HKNC)
第3章米国の盲ろう者施策
……..…….....….…...…….102
第4章盲ろう者向け福祉機器..…..…..…………….……116
盲ろう者向け時計開発への期待:触読式時計を考える
第1節触読式置時計への私たちの思い
第2節触読式置時計についての考察
第3節ピンディスプレイからの発想
第4節デジタル触読時計
まとめ
.………….…..………....……..…………….150
福祉機器
○伊藤
寺島
研究協力者
和幸
彰
(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
榮晃彦/岩原秀子/渡辺 智恵子/別府あかね/藤鹿
森貞子/尾崎伊住子/石田 良子
一之
第1章我が国における盲ろう者に関する現行の法と制度
本章においては、盲ろう者に関する我が国の現行法と制度(施策)の概要を述べる。
第1節盲ろう者の法律上の定義
我が国においては、視覚と聴覚の障害を併せ有する「盲ろう者」は、どのように定
義されているか。盲ろう者が福祉サービスの提供を受けるためには、その障害が定義
され、公的に認定される必要がある。
1.障害者基本法の定義
この法律は、「障害者のための施策に関し、基本的理念を定め」、その「施策の基本
となる事項を定めること等により」、その「施策を総合的かつ計画的に推進し、もっ
て障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進するこ
とを目的とする」(-条)。同法では、「「障害者」とは、身体障害、知的障害又は精神
障害…があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をい
う」(二条)と定義され、身体障害である視覚と聴覚に障害を併せ有する盲ろう者も
含まれる。
2.身体障害者福祉法の定義
この法律は、「身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、身体障
害者を援助し、及び必要に応じて保護し、もって身体障害者の福祉の増進を図ること
を目的とする」(一条)。同法では、「「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害
がある十八歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたも
のをいう」(四条)と定義されている。従って、視・聴覚の重複障害を有する18歳以
上の盲ろう者で、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者は、別表におけ
る視覚障害と聴覚障害とを併せ有する同法の「身体障害者」ということになる。
同法別表で視覚障害と聴覚障害は、それぞれ次のように定められている。
(1)次に掲げる視覚障害で、永続するもの
①両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者につ
いては、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ。)がそれぞれ0.1以下のもの
②一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
③両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
④両眼による視野の二分の一以上が欠けているもの
(2)次に掲げる聴覚又は平衡機能の障害で、永続するもの
①両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの
1
②-耳の聴力レベルが90デシベル以上、他耳の聴力レベルが50デシベル以上のも
の
③両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下のもの
この身体障害の障害程度には、lから6級までの障害程度等級があり、身体障害者福
祉法施行規則の別表五号に次のように定められている。
(1)視覚障害
1級:両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常のある者に
ついては,きょう正視力について測ったものをいう。以下同じ)の和が0.01以
下のもの
2級:①両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの
②両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率
による損失率が95%以上のもの
3級:①両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの
②両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率
による損失率が90%以上のもの
4級:①両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの
②両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
5級:①両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの
②両眼による視野の2分の1以上欠けているもの
6級:一眼の視力が0.02以下,他眼の視力が0.6以下のもので,両眼の視力の和が
0.2を超えるもの
(2)聴覚障害
2級:両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの(両耳全ろう)
3級:両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの(耳介に接しなければ大声語を
理解しないもの)
4級:①両耳の聴力レベルが80デシベル以上のもの(耳介に接しなければ話声
語を理解し得ないもの)
②両耳による普通話声の裁量の語音明瞭度が50%以下のもの
6級:①両耳の聴力レベルが70デシベル以上のもの(40センチメートル以上の
距離で発声された会話語を理解し得ないもの)
②-側耳の聴力レベルが90デシベル以上、他側耳の聴力レベルが50デシ
ベル以上のもの)
3.特別児童扶養手当等の支給に関する法律の定義
この法律は、心身障害児等について特別児童扶養手当等を支給するとともに、「精
神又は身体に著しく重度の障害を有する者に特別障害者手当を支給することにより、
これらの者の福祉の増進を図ることを目的とする」(-条)。
2
この法律で、「「特別障害者」とは、二十歳以上であって、政令で定める程度の著し
い重度の障害の状態にあるため、日常生活において常時特別の介護を必要とする者」
[二条三項]と規定され、特別障害者手当が支給されている。同法施行令では、同法
二条三項に規定する政令で定める程度の著しく重度の障害の状態を、次のように定め
る(-条二項)。
-…身体機能の障害等…が別表第二各号の一に該当し、かつ、当該身体機能の障
害等以外の身体機能の障害等がその他の同表各号の-に該当するもの
二前号に定めるもののほか、身体機能の障害等が重複する場合(別表第二各号の
-に該当する身体機能の障害等があるときに限る。)における障害の状態であって、
これにより日常生活において必要とされる介護の程度が前号に定める障害の状態に
よるものと同程度以上であるもの
三身体機能の障害等が別表第一各号(第十号を除く。)の一に該当し、かつ、当
該身体機能の障害等が前号と同程度以上と認められる程度のもの」
(1)別表第一(第一条関係)
①両眼の視力の和が0.02以下のもの
②両耳の聴力が補聴器を用いても音声を識別することができない程度のもの
(2)別表第二
①両眼の視力の和が0.04以下のもの
②両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
4.その他
①国民年金法その他の各種年金法や、労働者災害補償保険法、その他の各種労災
保険法などの社会保険制度関連法
②自動車損害賠償保障法
③生活保護法
④障害者の雇用促進等に関する法律
⑤所得税法
⑥原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律
⑦医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法、などの各種法令に、各法律に相応
する障害とその程度の等級が規定されている。しかし概ね、視・聴覚障害が各個別
に規定されているに過ぎず、盲ろうが固有に規定されている訳ではない。
このように、我が国の現行法においては、視覚障害と聴覚障害がそれぞれ別個に規
定され、盲ろう者としての統一的な規定はない。これは盲ろうが、固有の障害と認識
されず、福祉施策の対象者として捉えられてこなかったことを意味している。すなわ
ち、盲ろうは、視覚障害と聴覚障害が単に重複しているに過ぎないと考えられ、独自
の困難を持ち、特別の福祉サービスの提供を必要とする人々であると認識されてこな
かったのである。
3
第2節盲ろう者に関連する福祉施策
ここでは、障害者に対する施策の中で,盲ろう者に関連すると思われる施策を中心
に述べる。
1.身体障害者手帳の交付
身体障害者福祉法に定める障害の範囲にある身体障害者には、身体障害者手帳が交
付され、補装具、更生医療の給付、施設入所等身体障害者福祉法上の各種の援助を受け
る場合の証票として用いられている。この他にも、税の減免、鉄道運賃割引等各種の制
度を利用するためにも活用されている。
1)交付対象者
身体障害者福祉法別表に該当する障害のある者(18歳未満の者も含む)
2)交付申請手続き
①都道府県知事の指定する医師の診断書及び意見書を添付して
②福祉事務所長を経由して知事に申請する。ただし、福祉事務所を設置しない町村
の居住者は、町村長及び福祉事務所長を経由して知事(指定都市市長)に申請す
る。
③15歳未満の者については、保護者が代わって申請する。
3)障害等級
身体障害者手帳の交付に当たっては、障害等級を判定し,手帳に記載する。
2.在宅身体障害者のための施策
(1)「障害者の明るいくらし」促進事業
I)目的
ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活ができるようにす
る社会づくり)の理念の実現に向けて、さまざまな障害のある人が社会の構成員とし
て地域の中で共に生活が送れるよう、また、コミュニケーション,文化・スポーツ活動
等自己表現、自己実現、社会参加を通じて生活の質的向上が図れるよう、必要な社会参
加促進施策を総合的かつ効果的に実施し、障害者に対する国民の理解を深め、誰もが
明るく暮らせる社会づくりを促進することを目的とする。
2)実施主体
都道府県及び指定都市(事業の一部を都道府県障害者社会参加推進センター,障害
者福祉団体等に委託することができる。)
3)事業内容(特に盲ろう者に関連すると思われる事業のみ抜粋)
(1)本事業の中の「Ⅱ選択事業」の【共通分野】において、次の事業は、一部の盲ろ
う者には利用可能である。
〔I情報支援〕
①点字広報等発行事業
4
文字による情報入手が困難な障害者のために、点訳、音訳その他障害者にわかり
やすい方法により、地方公共団体等の広報、障害者が地域生活をする上で必要度の
高い情報などを定期的に障害者に提供する事業
②点字による即時情報ネットワーク事業
社会福祉法人日本盲人会連合が提供する毎日の新しい新聞情報等を、地方点字図
書館等がインターネットを利用して受け取り、希望する地域の視覚障害者(重複障
害者を含む。)に点字物等として提供する事業
③紙上交流事業
日頃交流の機会の少ない障害者同士が、自分の暮らしの様子や活動の紹介、様々
な意見等を、交流誌に発表し紙上での交流を図ることにより、障害者の主体的な交
流を支援する事業
④社会資源活用情報等提供事業
障害者が地域社会で生活するために必要な社会資源及び各種保健福祉サービス
等の`情報を小冊子にまとめ、希望する障害者等に提供する事業
〔2生活訓練〕
①生活訓練事業
障害者等に対して、日常生活上必要な訓練・指導を行う事業で、講習会等の方法に
より、概ね次のような内容の事業を行う。
ア歩行訓練
イ身辺・家事管理
ウ福祉機器の活用方法
エ社会資源の活用方法
オコミュニケーションに関すること(手話、点字、ワープロ、パソコン等)
力家庭生活に関すること(生活設計、家族関係、育児等)
キ社会生活及び職業生活に関すること
クその他社会生活上必要なこと
この事業の中には、通訳・介助者による通訳・介助の確保等をすることにより、盲
ろう者にも利用可能なものもあると思われる。
②家族教室等開催事業
障害者の家族等を対象として障害者の自立や社会復帰等を促進するため、家族教室
等を開催する事業
〔3スポーツ振興等地域交流支援〕
以下の事業の中にも、通訳・介助者による通訳・介助の確保等をすることにより、盲
ろう者に利用可能なものもある。
①レクリエーション教室開催事業
5
戸外活動や障害者同士の交流の機会が少ない障害者の自立意欲を助長するため,
各種レクリエーション教室を開催する事業
具体的事例としては
アハイキング、キャンプ、海水浴、オリエンテーリング等の屋外活動
イ音楽教室、絵画教室、陶芸教室、映写会等の室内活動
②文化・芸術活動振興事業
障害者の文化・芸術活動を振興するため、障害者の作品展や音楽会など文化・芸術
活動の発表の場を設けるとともに、障害者の創作意欲を助長するための環境の整備
や必要な支援を行う事業
〔4啓発広報〕
障害の正しい理解と障害者に対する偏見、差別を是正するため,普及啓発活動を行
う事業。この事業は,未だ一般に認知されていない盲ろう者のためには、必要度のより
高いものである。
ア啓発ポスター、パンフレット、リーフレット等の発行
イ講習会、講演会、学習会等の開催
次に、【障害別分野】事業として、以下のものがある。
〔5身体障害者支援〕
以下に挙げた事業は一般に、単一の視覚障害者と聴覚障害者を前提にしているが、
盲ろう者でも軽度の盲難聴者、弱視ろう者、弱視難聴者や、点字の読める盲ろう者で
あれば、利用できる事業もある。
(1)奉仕員等養成・派遣事業
①点訳奉仕員、朗読奉仕員養成事業
点訳又は朗読に必要な技術等の指導を行って,これらに従事する点訳奉仕員又は
朗読奉仕員を養成する事業
点訳奉仕員の協力内容として、「点字図書の増冊及び普及に協力する。また、市町
村等からの依頼により点字による相談文書の翻訳や回答文書の作成、広報活動等に
協力する」とあることから、盲ろう者独自に入手できる文字情報としての点字の有
用性から、特に重要である。
②要約筆記奉仕員養成事業
聴覚障害、聴覚障害者、とりわけ中途失聴・難聴者の生活及び関連する福祉制度等
についての理解ができ,要約筆記を行うに必要な知識及び技術を習得した要約筆記
奉仕員を養成する事業
要約筆記奉仕員の協力内容として、「市町村等からの依頼により、中途失聴・難聴
者等の意思伝達を仲介するとともに、大会等の場において、講演内容等を頭上投影
機(OHP)などを使用して要約筆記するほか,広報活動等に協力する」とあることから、
6
(中途からの)弱視ろう者・弱視難聴者等にも関連する事業である。
③要約筆記奉仕員派遣事業
聴覚障害者等(音声又は言語機能障害者を含む。以下同じ。)のコミュニケーショ
ンの円滑化に資するため、要約筆記奉仕員を派遣する事業
派遣対象者は、適当な意思伝達の仲介者が得られない聴覚障害者等で、実施主体
が必要と認めた者であり、聴覚障害者等には、弱視ろう者・弱視難聴者も含まれると
思われる(以下同じ)。
④手話奉仕員養成事業
聴覚障害、聴覚障害者の生活及び関連する福祉制度等についての理解ができ手
話で日常会話を行うに必要な手話語彙及び手話表現技術を習得した手話奉仕員を
養成する事業
⑤手話通訳者養成事業
身体障害者福祉の概要や手話通訳の役割・責務等について理解ができ、手話通訳
に必要な手話語彙、手話表現技術及び基本技術を習得した、手話通訳者を養成する
事業
⑥手話奉仕員派遣事業
手話を用いて,聴覚障害者等の日常生活上の初歩的なコミュニケーションの支援
と、聴覚障害者等との交流活動を促進するため、聴覚障害者等の申し出により登録
された手話奉仕員を派遣する事業
⑦手話通訳者派遣事業
手話を用いて、コミュニケーションの円滑化を支援するため、聴覚障害者等の申
し出により登録された手話通訳者を派遣する事業
(2)手話通訳設置事業
聴覚障害者等のコミュニケーションの円滑化を推進するため、手話通訳を行う者を
都道府県本庁及び福祉事務所等の公的機関に設置する事業
(3)外出介護員(ガイドヘルパー)ネットワーク事業
重度の視覚障害者等が,都道府県・指定都市間を移動する場合に、その目的地におい
て必要となる外出介護員を確保するためのネットワークを整備する事業
利用上の要件は
ア社会生活上必要な外出をするときに、目的地において適当な付き添いが得ら
れない場合。
イ外出介護員に支払う手当交通費等の経費は、利用者が負担。
この事業は、軽度の盲難聴者などには利用可能と思われる。
(Ⅱ)盲ろう者を対象とした事業は、この「障害者の明るいくらし」促進事業の中の「Ⅲ
特別事業」にある。また、この特別事業の中の聴覚障害者関連事業は、弱視ろう者、
弱視難聴者も対象となる。
7
(1)「障害者の明るい暮らし」「Ⅲ特別事業」
①盲ろう者通訳・ガイドヘルパー養成事業
「盲ろう者通訳・ガイドヘルパー指導者研修会」(国立身体障害者リハビリテーシ
ョンセンター学院主催)や「盲ろう者向け通訳者養成研修会」(社会福祉法人全国盲
ろう者協会主催)の研修会を修了した者を活用して、盲ろう者の自立と社会参加を
図るため、訪問介護員(ホームヘルパー)、身体障害者更生施設職員等を対象に盲ろ
う者通訳・ガイドヘルパーの養成・研修を行う事業
②手話通訳者特別研修事業
手話通訳者として活動している者を対象に、より高度な通訳技術の習得を目的と
して研修を行う事業
③手話通訳者派遣ネットワーク事業
手話通訳を必要とする障害者が、都道府県・指定都市間を移動する場合に、その目
的地において必要となる手話通訳者を確保するためのネットワークを整備・維持す
る事業
利用上の要件は
ア社会生活上必要な外出をするときに、目的地において適当な手話通訳者が得
られない場合。
イ手話通訳者に支払う手当交通費等の経費は、利用者が負担。
この事業は、弱視ろう(難聴)者など手話を解し得る盲ろう者に利用可能と思われ
る。
(2)「障害者生活訓練・コミュニケーション支援等事業」
平成12年度より、「障害者が地域で自立した生活を送る上で、生活訓練、コミュニケ
ーション手段の確保及び移動を支援することは極めて重要であることから、「障害者
の明るいくらし」促進事業において現に行われているメニュー事業のうち、生活訓練
事業、…点字による即時情報ネットワーク事業、奉仕員等養成・派遣事業、手話通訳設
置事業…を「障害者生活訓練・コミュニケーション支援等事業」として新たに位置付け、
より一層の推進を図ることとした」(注I)。
この事業の中で、盲ろう者に対する施策として、新たに通訳・介助員の派遣等を試行
的に行う「盲ろう者向け通訳・介助員派遣試行事業」が実施される。
l)実施主体
都道府県及び指定都市(ただし、事業の一部を障害者福祉団体等に委託すること
ができる)において試行的に実施。
2)実施内容
重度盲ろう者の自立と社会参加を図るため、コミュニケーション及び移動等の支
援を行う盲ろう者向け通訳・介助員を派遣する事業を試行的に行う事業
派遣対象者は、実施主体が必要と認めた重度盲ろう者。
なお、本事業は、社会福祉法人全国盲ろう者協会が社会福祉・医療事業団の長寿社会
8
福祉基金により行う「盲ろう者在宅福祉推進事業」の対象者と重複しない形で実施さ
れる。
3.、重度障害者等のための施策
(1)
I)特別児童扶養手当等の支給に関する法律
在宅の重度障害者に対し、その重度の障害ゆえに生ずる特別の負担の一助として
手当てを支給することにより重度障害者の福祉の向上を図ることを目的に、盲ろう
者にも特別障害者手当が支給されている。
l)実施主体
都道府県・市及び福祉事務所を設置する町村
2)実施内容
①特別障害者手当
ア対象
20歳以上であって、政令で定める程度の障害の状態にあるため、日常生活にお
いて常時特別の介護を必要とするような在宅の重度の障害者で都道府県知事・市
長及び福祉事務所を管理する町村長の認定を受けた者
イ障害の程度
a身体機能の障害等が別表第二各号の-に該当し、かつ、当該身体機能の障
害等以外の身体機能の障害等がその他の同表各号の-に該当するもの
b前号に定めるもののほか、身体機能の障害等が重複する場合(別表第二各
号の一に該当する身体機能の障害等があるときに限る)における障害の状態
であって、これにより日常生活において必要とされる介護の程度が前号に定
める障害の状態によるものと同程度以上であるもの
c身体機能の障害等が別表第一各号(第十号を除く)の-に該当し、かつ、
当該身体機能の障害等が前号と同程度以上と認められる程度のもの
別表第一(第一条関係)
-両眼の視力の和が0.02以下のもの
二両耳の聴力が補聴器を用いても音声を識別することができない程度のもの
十身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その
状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの
別表第二(第一条関係)
-両眼の視力の和が0.04以下のもの
二両耳の聴力レベルが100dB以上のもの
ウ支給要件
次のいずれかに該当する場合は支給されない。
9
a身体障害者福祉法に規定する身体障害者療護施設その他これに類する施設で
厚生(現厚生労働以下、この章で同じ)省令で定めるものに収容されている
とき。
b病院又は診療所(前号に規定する施設を除く)に継続して三月を超えて収容さ
れるに至ったとき。
②福祉手当(経過措置分)
改正法施行の際,20歳以上の従来の福祉手当受給資格者であって,特別障害者
手当等又は障害基礎年金の支給を受けることができない者については、引き続き
支給要件に該当する間に限って従来通り福祉手当を支給する。
(2)身体障害者ホームヘルプサービス事業
日常生活を営む上で支障のある身体障害者に対し,適切な家事、介護等日常生活の
世話及び外出時の付き添いを行うことにより身体障害者の生活の安定に寄与する等
その援護をはかることを目的とする。
l)実施主体
市町村(市町村社会福祉協議会等に業務委託することができる。)
2)派遣対象
①家事・介護等
重度の身体上の障害等のため、日常生活を営むのに支障がある身体障害者であっ
て、入浴等の介護,家事等の便宜を必要とする者
②外出時の付き添い
重度の視覚障害者等で、市町村、福祉事務所等公的機関、医療機関に赴く等社会生
活上外出が必要不可欠なとき及び社会参加促進の観点から実施主体が特に認める
外出をするときにおいて、適当な付き添いを必要とする場合。
③処遇内容
ア家事・介護
入浴、排泄、食事等の介護、被服の洗濯・補修、住居等の掃除・整理整頓、生活必需品
の買い物,通院介助,その他必要な用務
イ相談・助言指導
各種援護制度の適用,生活・身上等に関する相談・助言指導等
ウ外出時の付き添い
家事・介護に関する業務の一環として行われる外出時の付き添いを除く。
(3)補装具給付事業
補装具は、身体障害者の職業その他日常生活の能率の向上を図ることを目的として
給付される。
!)実施主体
市町村(特別区を含む)(福祉事務所長に委任可能)
2)実施内容
10
補装具の交付、修理等
市町村長は、眼鏡(色めがね、矯正眼鏡、コンタクトレンズを除く。)、補聴器に関す
る身体障害者からの補装具交付・修理申請があるときには、この交付の要否及び処
方について給付判定の手続をする。
なお、盲人安全つえ、色めがね、点字器の交付及び修理に際しては、判定を要せず、
また,義眼、矯正眼鏡、コンタクトレンズの交付及び修理に際しては、補装具交付・修
理申請書等で判定できる場合には、判定を要しない。
3)費用の徴収
市町村長は、当該身体障害者又はその扶養義務者から、その負担能力に応じた費
用を徴収する場合がある。
(4)重度身体障害者日常生活用具給付等事業
在宅の重度身体障害者に対し,日常生活の便宜を図るため、身体障害者の浴槽、便
器等の日常生活用具の給付または貸与を行う。
視覚障害者用ワードプロセッサを点字図書館及び身体障害者福祉センターに設置
し、共同利用を行う。
18歳未満の者については児童福祉法21条の10で規定。
1)実施主体
市町村(特別区を含む)。
2)費用徴収
①給付:補装具の例により費用の徴収がある。直接業者に払い込む。
②貸与:無償
③共同利用:利用に要する実費は負担
3)日常生活用具の種目及び性能
①視覚障害者用
盲人用テープレコーダー,盲人用時計,盲人用タイムスイッチ,盲人用カナタイ
プライター、点字タイプライター、盲人用電卓、電磁調理器,盲人用体温計(音声
式),盲人用秤、点字図書、盲人用体重計、視覚障害者用拡大読書器,歩行時間延長
信号機用小型送信機
以上の外、視覚障害及び聴覚障害の重度重複障害者(原則として視覚障害2級以
上かつ聴覚障害2級)の身体障害者であって、必要と認められる者(要するに重度
盲ろう者)に対し、コンピュータ用の点字ディスプレイが加えられた。
(追記)このうち、平成13年度に「盲人用カナタイプライター」が削除された。
②聴覚障害者用
聴覚障害者用の屋内信号装置、通信装置、文字放送デコーダー、福祉電話(貸与)、
ファックス(貸与)
③共通(身体障害者福祉法による等級2級以上のもの)
火災警報機、自動消火器
11
(5)身体障害者短期入所事業(ショートステイ事業)
重度身体障害者を介護している家族等が、疾病等の理由等により居宅における介
護が出来ない場合に、重度身体障害者を一時的に身体障害者更生援護施設へ保護す
る。
|)実施主体
市町村(事業の一部を社会福祉法人等に委託することができる)
2)対象者
在宅の重度身体障害者(訓練的理由による場合は、家族等介護者を含む)
3)実施施設
あらかじめ市町村長が指定した身体障害者更生施設,身体障害者療護施設及び身
体障害者授産施設
4)保護の要件
家族等の社会的理由,私的理由により一時的に保護する必要があると市町村長が
認めた場合、及び重度身体障害者に対し機能訓練等を、介護を行う者に対しては介
護技術等を習得させることにより,在宅介護の質の向上に資すると市町村長が認め
た場合。
①社会的理由
疾病、出産、冠婚葬祭,事故、災害、失跨,出張,転勤、看護、
学校等の公的行事への参加
②私的理由
③訓練的理由
対象となる障害者を入所させ日常生活動作訓練及び介護の受け方等を指導す
ると同時に、介護を行う者に対しても宿泊を含む介護実習を行う。
(追記)平成13年度には、障害者の情報パリアフリー化の推進を目的として、
新規事業が予算化された。
その主旨は、「視覚障害者等が情報機器を使用する際に必要な周辺機器やソフト
等の購入費用の一部を助成することにより、障害者の情報パリアフリー化を推進し、
就労を促進」するものである。
第3節盲ろう者に関する社会福祉法人全国盲ろう者協会の事業(注2)
l・厚生省委託事業
(1)盲ろう者関係生活相談等事業
盲ろう者やその通訳・介助者等からの日常生活相談等各種相談に応じ、助言や情
報の提供等を行う事業
(2)盲ろう者向け通訳者養成研修事業
盲ろう者の自立と社会参加に欠くことのできない通訳・介助者(盲ろう者向け通
12
訳者)の養成研修を行う事業
(3)障害者情報ネットワーク端末機等整備事業(平成11年度補正予算による)
2.社会福祉・医療事業団助成事業
(1)訪問相談・通訳派遣事業(平成12年度より、盲ろう者在宅福祉推進事業)
利用登録のあった(単独での外出や会話が困難な)重度盲ろう者(身体障害者手帳1
級2級)に対し、「訪問相談利用券」を交付すると共に、訪問相談員を派遣し、移動等の介
助及び各種コミュニケーションの支援等を行うことにより、重度盲ろう者の自立と社
会参加を促進する事業
l)目的
重度盲ろう者に対し、訪問相談員(同協会登録の通訳・介助者)を派遣し,生活・更
生の相談に応じる外、コミュニケーション方法支援,外出時通訳・介助に当たり、盲
ろう者の社会参加の促進を図る゜
2)提供内容
ア生活・就業・就学等の相談
イ手書き文字・手話・点字・指点字・指文字等での対話,読み書き手段の習得訓練
支援
ウコミュニケーション支援(新聞、お知らせ、手紙等の代読、電話介助、代書等)
エ通院・通所・買い物・官公庁への届け出等の外出時における通訳・介助
(2)盲ろう者対話能力開発事業(平成12年度より,盲ろう者向け通訳ボランティア全
国研修事業)
全国各地域の盲ろう者及び通訳・介助者(訪問相談員)等が一堂に会し合同講習会
(全国盲ろう者大会(毎年1回開催))を開催し、情報交換や通訳方法の訓練を行うこと
により、盲ろう者及び訪問相談員相互の交流を深めると共に、盲ろう者の対話能力の
向上を図る事業
平成12年度新たに,盲ろう者向け通訳・介助者の資質の向上を図るため通訳・介助に
必要な知識・技術等についての研修及び通訳介助・相談活動に関する諸問題について
の研究・討議や情報交換を行うこと等を目的とした研修会を開催する予定。
(3)盲ろう者専門紙発行事業・
盲ろう者の専門紙『コミュニカ』を発行して盲ろう者同士の情報交換のための資料
提供をすると共に、賛助会員・障害者関係諸機関等に配布し、盲ろう者の置かれている
現状等について理解を図る事業
(4)盲ろう者福祉啓蒙事業
各都道府県(市)障害福祉担当課、身体障害者福祉関係団体、身体障害者更生援護施
設、ボランティアセンター、各地域の盲ろう者友の会(以下、「友の会」)等に同協会職
員等を派遣して、家庭等に閉じ篭りがちな盲ろう者に関する情報の収集等を行うと共
に、友の会の設立や活動の支援を行う事業
13
(5)友の会活動支援事業
各地域友の会及び準備会の重度盲ろう役員に対して、公用利用券を交付して役員活
動を支援することにより、友の会活動の一層の活性化を図る事業
(6)友の会指導者等研修事業
平成12年度新たに、地域における盲ろう者の福祉活動の拠点である友の会の指導者
等について、各種相談指導及び連絡・調整等,友の会業務に必要な知識、技術等につい
ての研修や情報交換を行い友の会活動の充実を図ることを目的とした研修会を開催
する予定。
(7)盲ろう者に対する介護保険制度の普及・啓発事業
平成12年4月の介護保険制度の開始を前にして(制度の普及.啓発を図るため全国
の盲ろう者及びその家族等に向けて『介護保険と盲ろう者(Q&A)』を作成配布。
第4節地域の盲ろう者施策と盲ろう者組織の活動(東京都の例)
1.地方公共団体の施策(東京都の場合)
各地の地方公共団体でも、盲ろう者友の会のような地域の盲ろう者福祉団体の協力
の下に、盲ろう者に対する施策を講じている。
ここでは、東京都の例を挙げておく(注3)。
l)目的
「盲ろう者のコミュニケーション及び移動の自由を確保し、その社会参加を促進
するため、盲ろう者に対して通訳者を派遣し、もって盲ろう者の福祉の増進を図る
ことを目的とする」
2)派遣対象者
都内在住の盲ろう者(視覚障害と、聴覚又は言語障害を重複してもつ重度の身体
障害者(児)で、身体障害者手帳を所持する者)で,予め通訳派遣事業を行う団体(東
京盲ろう者友の会)に登録した者
3)内容
通訳者による通訳及び盲ろう者の外出時の付添い
通訳派遣事業実施団体により当該事業の円滑な実施を図るため、
ア盲ろう者に対するコミュニケーション方法の講習
イ通訳者のコミュニケーション技術の向上のための講習
ウ盲ろう者に関する広報及び普及・啓発活動
エその他通訳派遣事業の円滑な実施のために必要と認められる事業
4)事業の実施方法
都は、通訳派遣事業実施団体で、事業を適切に行う能力を有すると認めた団体に
対し、予算の範囲内で、事業経費の一部を補助。
2.地域の盲ろう者福祉団体の活動(東京盲ろう者友の会の例)
14
主に都道府県単位で盲ろう当事者とその支援者の団体(盲ろう者友の会と総称)の
活動が活発になり,盲ろう者福祉に大きく寄与してきている。
ここでは、東京盲ろう者友の会の事業を紹介する(注4)。
(1)通訳・介助者派遣事業(東京都補助事業)
l)-1通訳・介助者派遣事業(登録通訳・介助者)
通訳・介助者派遣の利用登録を行った盲ろう者に対し,登録通訳・介助者を派遣し
て,通訳・介助を行う。
-2通訳・介助者派遣事業(専従職員)
何らかの理由により登録通訳・介助者を派遣出来ない場合、専従職員を派遣して、
通訳・介助を行う。
-3通訳・介助者のコーディネート
通訳・介助者派遣の利用登録を行った盲ろう者に対し,通訳・介助者のコーディネ
ートを行う。
2)通訳・介助者養成講習会事業
登録通訳・介助者数を増やすための講習会を開く。
3)盲ろう者向けコミュニケーション方法習得講習会事業
都内在住盲ろう者が,より効果的に通訳・介助者派遣事業を利用出来るように各
種コミュニケーション方法の個人指導を行う。
4)広報・啓発事業
盲ろう者に関する広報・啓発のため、関係諸機関への呼びかけ等を行う。又、派遣
事業に関するニュースレターを作成し、関係者に配布する。
5)ブリスタ貸出し事業
都内在住盲ろう者が、より効果的に通訳・介助者派遣事業を利用出来るように、盲
ろう者のコミュニケーション方法の一つである「ブリスタ(速記用点字タイプライ
ター)」を、必要とする盲ろう者、及び団体に貸し出す。
(2)盲ろう者向け更生援護事業(財団法人東京都地域福祉財団「地域福祉振興事業」助
成事業)
|)盲ろう者の実態把握と盲ろう者情報提供事業
・東京都、及び都内区市町村各社会福祉協議会等関係諸機関の協力を得ながらの盲
ろう者把握と情報提供を行う。
2)盲ろう者向け各種相談事業
・盲ろう者宅に職員,会員、盲ろう者役員等を適宜派遣し、カウンセリング、ビアカウ
ンセリングを行う。
・盲ろう者に関する相談を受け付け、アドバイスや適切な関係機関の紹介をする。
3)盲ろう者の日常的情報処理能力の形成を目指す事業
・盲ろう者向け対話能力開発講習会
主に新たに把握した盲ろう者に対して、個別のニーズに合わせながらコミュニケー
15
シヨン能力向上のための訓練や盲ろう者に関する情報提供等を行う。
4)盲ろう者に集団的学習の場を提供する事業
・盲ろう者向け手話教室
5)盲ろう者の社会参加促進事業!
・盲ろう者向けミニ交流会
6)盲ろう者の社会参加促進事業2
・盲ろう者交流会及び、1泊研修会
7)盲ろう者の社会参加促進事業3
・サポートサービスのコーディネート。ケアマネージメント。
・交流会行事への参画
交流会の司会やその他行事の立案に参画する。
・対外行事への参画
友の会で毎年参加している「耳の日記念文化祭」(東京都聴覚障害者連盟主催)につ
いて、計画立案から実施まで担当する。
・事業部員経験
友の会事業部員として、活動に参加発言するなどの経験を積む。
8)盲ろう者の家族に対する支援事業
・盲ろう者の家族の集い
盲ろう者の家族が集まり、話し合いや情報交換等を行う。
(注I)全国厚生関係部局長会議資料障害保健福祉部
http://www、mhw,go・jp/topics/hl2-kyoku-2/syogai-h/tpOll9-Lhtml
(注2)社会福祉法人全国盲ろう者協会・『協会だより』10号(平成12年6月18日)「平
成11年度事
業報告の概要」、同.「訪問相談事業のご案内(訪問相談員用)」等より。
(注3)東京都盲ろう者通訳派遣事業運営要綱(平成8年4月1日施行)
(注4)東京盲ろう者友の会・通訳・介助者派遣事業実施要綱、同.通訳・介助者派遣
事業事業計画書・更生援護事業事業計画書より。
16
第2章家族調査
盲ろう者はコミュニケーションと移動などの介助を家族に依存することが多いと
考えられる。そこで、盲ろう者の家族へ依存せずに自立を促すために、家族に対して
どのような支援が必要かを明らかにすることを目的として調査を行った。第1節では、
施設に入所中の盲ろう者と家族の関係、家族への支援のニーズについて、施設職員を
対象として実施した調査結果を報告する。第2節では、地域で生活する盲ろう者と家
族の関係と家族への支援のニーズについて、通訳介助者を対象として実施した調査結
果を報告する。第3節では、2つの調査で取り上げられなかった家族の支援について
の課題について考察する。
第1節施設に入所中の盲ろう者と家族への支援
~施設職員を対象とした調査結果~
1.はじめに
「障害保健福祉総合研究事業盲ろう者に対する障害者施策のあり方に関する研
究班」では、平成11年度に全国視覚障害者更生施設を対象として調査を行い、11
施設を70人の盲ろう者が利用していること、入所者の年令、障害の程度、受障時
期は多様であることを明らかにした。同研究班の平成12年度の調査では、盲ろう
者の入所理由の多くが家族による介護の困難であることを明らかにした。また、入
所盲ろう者にはコミュニケーションのみならず、食事や排泄、健康管理、精神の安
定、生活活動にも多くの課題があることを明らかにした。本研究では、施設に入所
している盲ろう者が抱える課題を解決することを目的として、入所前の盲ろう者の
生活にかかわりが深い家族について、施設職員を対象に質問紙法による調査を行っ
た。
2.方法
盲ろう者が入所する11施設の施設長宛に入所している盲ろう者の人数分の調
査票を郵送し、施設職員に記入し返送することを求めた。調査は平成13年11月か
ら12月に行った。
調査内容は(1)盲ろう者と家族の属性、(2)入所者にとって望ましいと職員
が考える居住形態、(3)入所者と家族の交流、(4)家族による盲ろう者への理解、
(5)家族に対する支援と職員から家族への期待、(6)家庭と学校に期待する教
17
育であった。家庭と学校に期待する教育では、盲ろう者が小さい時に家族または学
校に盲ろう者に教育しておいてほしかった、と職員が考えることを選択肢の中から
回答するように求めた。選択肢の内容は平成12年度調査の結果を参考につくった。
選択肢の数は学校については(1)コミュニケーション、(2)健康管理、(3)生
活活動の3領域についての合計8項目であり、家族については上記の3つの分類に
(4)食事や排泄、(5)精神の安定を加えた5領域について合計II項目であった。
3.結果
(1)対象者の分類
入所者の年令、障害の程度、受障時期は多様であることから、ここでは、全体の集
計結果だけでなく、障害の程度や入所時期により分けた3群の集計結果を示す。第1
群は介護程度が重い群であり、職員が家族に排泄のしつけを望んだ9人(以下、重度
群)とした。第2群は中年になってから入所し入所年数が7年以下の11人(以下、
中年群)とした。第3群は20年以上の長期入所者27人(長期群)とした。重度群は
主に先天性であり介護が重度であるために家族による介護が困難で施設に入所した
群と考えられる。重度群は介護が重度であるが障害が重度であったり知的障害を重複
しているか否かは本調査だけからでは明らかでない。中年群は後発障害への対応が高
齢の親には困難であるために長期入所を目的に入所しはじめた群と考えられる。長期
群は入所時年令にかかわらず20年以上の長期に渡り家族から離れて生活している群
であった。
3群の定義にあてはまらなかった入所者9人も上の3群に分類することは可能であ
った。しかし、複雑な因子を減らすために、あえて、定義を変えなかった。すなわち、
9人のうち3人は入所年数が10年以上であったことから長期群に分類することが可
能であり、1人は39才で入所し入所年数は1年であったことから中年群に分類する
ことが可能であると考えられた。また、5人は入所時年令が10代または20代であり、
障害が重度であるか家族の介護力が小さいことが推測された。
(2)盲ろう者の属性
8施設から57人の盲ろう者(以下、入所者)とその家族についての回答を得た。
回収率は施設数で72.7%、盲ろう者数で82.6%であった。入所者の性別は男35人
(61.4%)、女21人(36.8%)、無回答1人(1.7%)であり、年令は平均54.2才、
幅24才から73才であった。入所時の年令は平均38.0才、幅は18才から56才であ
り、入所年数は平均16.0年、幅1年から37年であった。入所者の婚姻状態は未婚
49人、既婚5人、無回答3人であった。
18
3群を比較すると、平均年令は重度群、中年群、長期群の順に高かったが、最高年
令はさほど変わらず(それぞれ、66,61,69才)、入所年令の平均は長期群、重度群、
中年群の順に高かった。中年群と長期群の入所年令の幅は重ならず、重度群の入所年
令の幅は中年群と長期群の入所年令の幅にまたがっていた。入所年数の平均は中年群、
重度群、長期群の順に長かった。
表1入所者の属性
全体57人
重度群9人 中年群11人
長期27人
平均年令(幅):才 54.2(24~73) 44.3(29~66)
55.3(43~61)
62.1(41~69)
才 38.0(18~56) 34.0(20~52)
49.7(42~56)
32.4(18~39)
入所年数(幅):年 16.0(l~37) 10.3(2~28)
5.1(l~7)
26.6(20~37)
入所年令(幅)
表2入所時年令の分布
全体
単位:人(%)
重度群
中年群
長期
10代
2(3.5)
O(0.0)
0(0.0)
1(3.7)
20代
11(19.3)
4(44.4)
0(0.0)
3(11.1)
30代
18(31.6)
2(22.2)
0(0.0)
15(55.6)
40代
16(28.1)
2(22.2)
6(54.5)
6(22.2)
50代
9(15.8)
l(11.1)
5(45.5)
2(7.4)
不明
I(1.8)
0(0.0)
0(0.0)
0(0.0)
合計
57(100.0)
9(100.0)
11(100.0)
27(100.0)
(3)家族の属性
身元引き受け人がきょうだいである比率は全体で52.6%であり、3群では重度群
(33.3%)、中年群(41.7%)、長期群(70.4%)の順に高くなった。身元引き受け人
が親でも兄弟でもない者が6人(10.5%)あり、その内訳は福祉事務所2人、施設1
人、大家1人、娘1人、配偶者1人であった。
表3身元引受人
親
きょうだい
その他
回答
単位:人(%)
全体
20(35.1)
30(52.6)
6(10.5)
I(1.8)
重度群
6(66.7)
3(33.3)
U(0.C
0(0.0)
{](01]
0(0.0)
19
中年群
3(27.3)
5(45.5)
3(27.3)
{)(ILC
O(0.0)
長期
5(15.8)
19(70.4)
2(7.4)
1(3.7)
)01]
9(100.(
[10.(
l苔許一F577TUnz-m-F7~rTTU:~iTi~iTTUm~FJ7TTm-m
入所者のきょうだい数が4人以上の比率は全体で38.6%であり、3群では重度群
(0%)、中年群(33.3%)、長期群(59.3%)の順に高くなった。
表4きょうだい数
単位:人(%)
全体
重度群
中年群
長期
0
3(5.3)
0(0.0)
l(9」)
l(3.7)
1
4(7.0)
I(11.1)
0(0.0)
l(3.7)
2
15(26.3)
3(33.3)
4(36.4)
l(3.7)
3
12(35.1)
3(33.3)
l(9.0)
8(29.6)
4以上
22(38.9)
0(0.0)
4(36.4)
16(59.3)
無回答
I(1.8)
2(22.2)
I(9.1)
O(0.0)
57(100.0)
9(100.0)
11(100.0)
27(100.0)
合計
(4)入所者にとって望ましいと職員が考える居住形態
サービスが十分にあると仮定した場合に入所者にとって望ましいと施設職員が考
える居住形態は、全体では今の施設19人(33.3%)、特殊な設備のある施設11人
(19.3%)、家族と同居11人(19.3%)、グループホーム11人(19.3%)、一人暮ら
し1人(1.8%)、無回答4人(7.0%)であった。特殊な設備のある施設11の内訳は
盲ろう専用の施設9,病院が併設された施設l、個室のある施設lであった.
群により最も回答の多い居住形態は異なった。重度群では55.5%が家族との同居、
中年群では66.7%が盲ろう専用の施設など特殊な設備のある施設、長期群では44.4%
が今の施設であった。
表5入所者にとって望ましいと職員が考える居住形態
全体
重度群
単位:人(%)
中年群
長期
今の施設
19(33.3)
2(22.2)
l(9.1)
12(44.4)
他の施設
11(19.3)
O(0.0)
8(72.7)
3(11.1)
家族と同居
11(19.3)
5(55.6)
2(18.2)
4(14.8)
グループホーム
11(19.3)
2(22.2)
O(0.0)
4(14.8)
ひとり暮らし
I(1.8)
O(0.0)
O(0.0)
1(3.7)
無回答
`I(7.0)
O(0.0)
0(0.0)
3(11.1)
20
合計
57(100.0)
9(100.0)
11(100.0)
27(100.0)
(5)入所者と家族の交流
入所者が職員に対して家族の話をする頻度は、全体では、たまにする25人(43.9%)、
聞いた覚えがない17人(32.7%)、よくする10人(17.5%)、わからない5人(8.8%)
であった。聞いた覚えがない場合が重度群(55.6%)と中年群(45.5%)で高かった。
表6入所者が職員に対して家族の話をする頻度
全体
重度群
単位:人(%)
中年群
長期
よくする
10(17.5)
2(22.2)
2(18.2)
6(22.2)
たまにする
25(43.9)
O(0.0)
3(27.3)
15(55.6)
聞いた覚えがない
17(29.8)
5(55.6)
5(45.5)
5(18.5)
わからない
5(8.8)
2(22.2)
0(0.0)
l(3.7)
無回答
l(1.8)
0(0.0)
l(9.1)
O(0.0)
57(100.0)
9(100.0)
11(100.0)
27(100.0)
合計
帰省の頻度は、なし25人(43.9%)、年に1回未満4人(33.3%)、年に1回以上
19人(7.0%)、月1回以上6人(10.5%)、無回答3人(5.3%)であった。重度群
と中年群では年1回以上が最も多く(それぞれ、55.6%、36.4%)、長期群ではなし
最も多かった(59.3%)。
表7帰省の頻度
単位:人(%)
全体
なし
重度群
中年群
長期
25(43.9)
3(33.3)
2(18.2)
16(59.3)
年1回未満
4(7.0)
l(11.1)
O(0.0)
2(7.4)
年1回以上
19(33.3)
5(55.6)
4(36.4)
7(25.9)
月1回以上
6(10.5)
0(0.0)
2(18.2)
l(3.7)
無回答
3(5.3)
0(0.0)
3(27.3)
l(3.7)
57(100.0)
9(1000)
11(100.0)
27(100.0)
合計
家族による面会は、年1回以上25人(43.9%)、年1回未満12人(21.1%)、なし
11人(19.3%)、月1回以上7人(12.3%)、無回答2人(3.5%)であった。3群と
もに年]回以上がもっとも多かった(それぞれ、66.7%、55.6%、37.0%)。長期群
21
ではなしと年1回未満が他の群に比べ多かった。
単位:人(%)
表8家族による面会の頻度
重度群
全体
なし
年1回未満
年1回以上
月1回以上
無回答
合計
11(19.3)
12(21 l)
25(43 9)
7(12 3)
2(3 5)
【Ⅱ1(O)
57(100
2(22.2)
[](0.[
O(0.0)
6(66.7)
l(11.1)
)(0.[
0(0.0)
9(100.0)
長期
中年群
1(9.1)
3(27.3)
5(45.5)
2(18.2)
l(9.1)
11(100.0)
7(25.9)
7(25.9)
10(37.0)
2(7.4)
l(3.7)
27(100.0)
手紙やFAXなど面会以外の方法による入所者と家族の交流の頻度は、年に数回以上
21人(36.8%)、年に1回程度17人(29.8%)、なし15人(26.3%)、無回答4人(7.0%)
であった。重度群ではなしが最も多く(44.4%)、中年群と長期群では年数回以上が
もっとも多かった(それぞれ、36.9%、37.0%)。
単位:人(%)
表9手紙や電話・FAXによる家族との交流の頻度
なし
年1回程度
年数回以上
わからない
回答
合計
全体
15(56.3)
17(29.8)
21836.8)
O(0.0)
4(7.0)
57(100.0)
重度群
4(44.4)
l(11.1)
3(33.3)
[)(OL
0(0.0)
l(11.1)
9(100.(
9(100.0)
rl2IZ
中年群
3(27.3)
3(27.3)
4(36.4)
l(91)
、(0」]
0(0.0)
】0-(]
11(100.0)
長期
4(22.2)
10(37.0)
10(37.0)
、(0.【
0(0.0)
l(3.7)
27(100.0)
帰省しない25人のうち8人は家族の面会もなく、5人はさらに手紙や電話などで
の交流もなかった。
(6)家族による盲ろう者への理解
入所者と家族のコミュニケーションの通じ具合は、通じている24人(42.1%)、わ
からない10人(17.5%)、ほとんど通じていない7人(12.3%)、あまり通じていな
い11人(19.3%)、無回答4人(7.0%)であった。通じている比率は重度群、中年
群、長期群の順に低くなった(それぞれ55.5%、45.5%、44.4%)。
単位:人(%)
表10入所者と家族のコミュニケーションの通じ具合
通じている
あまり通じていない
ほとんど通じていない
全体
24(42.1)
11(19.3)
7(12.3)
重度群
5(55.6)
l(11.1)
l(11.1)
22
中年群
5(45.5)
2(18.2)
l(9.1)
長期
12(21.1)
4(14.8)
4(14.8)
わからない
回答
合計
I(17.5)
5(8.8)
57(100.0)
2(22.2)
)(0.(
0(0.0)
9000.(
9(100.0)
1(9」)
2(18.2)
11(100.0)
5(15.8)
2(7.4)
[)01]
27(100.0)
家族による盲ろうの状態の理解は、理解している21人(38.5%)、あまり理解して
いない13人(22.8%)、わからない7人(12.3%)、無回答6人(10.5%)、理解して
いない1人(1.8%)であった。理解している比率は重度群、中年群、長期群の順に
低くなった(それぞれ66.7%、63.6%、51.9%)。
表11家族による盲ろうの状態の理解
理解している
あまり理解していない
理解していない
わからない
回答
合計
単位:人(%)
重度群
5(55.6)
全体
21(36.8)
13(22.8)
l(1.8)
7(12.3)
6(10.5)
57(100.0)
3(33.3)
[](01]
0(0.0)
l(11.1)
[)(IlI1
0(0.0)
9(100.0)
中年群
6(54.5)
2(18.2)
)(0.(
0(0.0)
l(9.1)
2(18.2)
00.(
11(100.0)
長期
14(51.9)
5(15.8)
l(3.7)
4(14.8)
3(11.1)
27(100.0)
家族による盲ろう者への介助方法の理解は、理解している26人(45.6%)、あまり
理解していない16人(28.1%)、わからない9人(15.8%)、無回答6人(10.5%)で
あった。理解している比率は重度群、中年群、長期群の順に低くなった(それぞれ
55.6%、45.5%、44.4%)。コミュニケーションの通じ方と介助方法の理解は盲ろう
の状態の理解よりもすべての群で低かった。
表12家族による盲ろう者への介助方法の理解
全体
重度群
26(45.6)
5(55.6)
理解している
16(28 l)
3(33 3)
あまり理解していない
わからない
無回答
合計
9(15 8)
6(10 5)
57(100 0)
l(11 l)
[)({l【0)
O(0
9(100_(0)
9(100
単位:人(%)
中年群
5(45.5)
3(27 3)
l(9 I)
2(18 2)
11(100 0)
長期
12(44.4)
7(12 3)
5(15 8)
3(11 l)
[Ⅱ)_(O)
27(100
(7)入所者の帰省に関連する要因
更生訓練のために一時入所していることが明らかな5人を除いた52人の入所者に
ついて、入所者の帰省の有無に関連する要因をx2乗検定およびI検定により検索し
た。
入所者と家族のコミュニケーションが良い場合、家族による介助方法の理解がよい
場合、家族による盲ろうの状態の理解がよい場合、家族による面会がある場合はそれ
23
以外の場合に比べて、帰省がある場合がない場合にくらべて有意に多かった
(p=0.0019、0.0012,0.0077,0.004)。
入所者の年令が高い場合には帰省なしが多い傾向にあった(p=0.07)が、入所年数、
入所時年令、身元引受人が親か兄弟か、入所者が職員に家族の話をするかしないかの
4条件と帰省や面会の有無との間に関係はなかった。入所者が職員に家族の話をする
か否かは、入所者が発信できるコミュニケーション能力をもつかどうかにも関係する
ため、単独では、入所者と家族の関係を示す指標としては使うのは難しいと考えられ
る。
表13帰省の有無と関連する要因
全体
重度群
中年群
長期
0.24
0.057
話が通じるか否か
0.0019
0.048
家族による理解
0.0077
0.52
>0.99
0.0044
介助方法の理解
0.0012
0.52
0.52
0.0069
家族の面会
0.04
>0.99
0.19
0.057
入所者の年令
0.07
0.78
0.89
0.0013
入所年数
0.15
0.28
0.87
0.29
入所時年令
0.37
0.70
0.84
0.027
身元引受人
0.22
>0.99
0.80
0.13
家族のことを話す
0.55
>0.99
0.24
0.057
面会以外の交流
0.76
0.52
0.50
0.20
家族の居住地の遠近
O」5
>0.99
0.29
0.33
3群にわけると例数の少ない重度群と中年群は全体の結果と異なった。すなわち、
重度群では入所者と家族のコミュニケーションが良い場合は良くない場合に比べて
帰省がある場合がない場合にくらべて有意に多かったが、それ以外には重度群と中年
群に帰省の有無により差がある項目は無かった。
(8)家族に対する支援
盲ろう者の誕生から現在にいたるまでの間における家族に対する支援の必要性に
ついては、不要29人(50.9%)、無回答15人(26.3%)、必要12人(21.1%)、わか
らない1人(1.8%)であった。
表13家族に対する支援の必要性単位:人(%)
全体
重度群
24
中年群
長期
●
必要
12(21.1)
3(33.3)
5(45.5)
3(11.1)
不要
29(50.9)
5(55.6)
6(54.6)
16(28.1)
l(1.8)
0(0.0)
0(0.0)
0(0.0)
15(26.3)
l(11.1)
O(0.0)
8(29.6)
57(100.0)
9(100.0)
11(100.0)
27(100.0)
わからない
回答
合計
支援が必要と回答した12人において、具体的な支援の内容は、帰省中の介助3件、
コミュニケーション方法の学習3件、こまぎれでないトータルな支援3件人、盲ろう
者が社会性を身につけるための距離をおいた対応2件、重複障害になった時の精神的
支援1件であった。
群別にみると、重度群で支援が必要とした3人の支援内容はすべて帰省中の介護で
あった。中年群で支援が必要とした5人は以下のような支援内容をあげた。
・こまぎれでなくトータルな支援が必要。後発の障害に対する理解に乏しい。障害に
対しての生活訓練と自立のための職業訓練のスムーズな移行が困難で生活訓練が十
分に実施できなかったため、修了後の生活に不便さが残った。
・在宅の夫がろうあ者で高齢のため、介助面、生活面が大変で娘さんの負担が大きい。
・在宅生活時から家族と本人にかかわりの深い通訳介助者(この場合はキーパーソン)
からの情報を十分得ておく必要があった。その上での支援は当初から行えればもっと
有効であった。
・盲ろうになってきたとき、この人の状態を家族が不安にならないような精神面での
支援が必要だった。
・コミュニケーション学習、社会性を身につけるための社会自習などの幅広いサポー
ト
長期群で支援が必要とした3人の支援内容は以下のとおりであった。
・聴覚障害が進行した場合のコミュニケーションに関する支援。
・今までどおり手紙のやりとりをしてお互いの近況報告をしてほしい。
・社会性、モラルなどを見につけるために、距離をおいた対応の仕方が必要だと思う。
(9)家族について困ったこと
盲ろう者の家族について困ったことは、なし35人(61.4%)、あり10人(17.5%)、
わからない8人(14.0%)、無回答4人(7.9%)であった。困ったことの内容は、連絡
がない3件、面会や行事への参加が少ないあるいは減ってきた3件、職員の話が家族
にうまく伝わらない2件、入所者の要求に家族はそのまま答えてしまい、自立性が育
たない1件、面会の時母親が話しかけると(親が)帰宅(した)後(子どもが)不燗
25
になると思いスキンシップをためらっている1件であった。
(10)職員から家族への期待
現在の入所者の生活を向上させるために職員が家族に期待することは、なし34人
(59.6%)、わからない18人(31.6%)、帰省・面会・手紙などの交流を増やす13人
(22.8%)、無回答6人(105%)、世話を焼き過ぎず一定の距離をおく2人(3.5%)、
コミュニケーション方法の学習2人(3.5%)であった。
表14家族への期待
単位:人(%)
全体
重度群
中年群
長期
あり
17(29.8)
0(0.0)
4(36.4)
10(17.5)
なし
34(59.6)
4(44.4)
2(18.2)
8(29.6)
わからない
18(31.6)
5(55.6)
2(18.2)
8(29.6)
6(10.5)
0(0.0)
2(18.2)
I(3.7)
57(100.0)
9(100.0)
11(100.0)
27(100.0)
回答
合計
(11)盲ろう者の幼少時に家庭と学校に期待する教育
盲ろう者が小さい時に家族にしておいてほしかった、と職員が考えることを11の
選択肢の中から回答するように求めた結果、無回答13人、なし4人以外の40人につ
いて11種類のべ123項目が選択された。選択された項目数は回答者44人の中では、
平均2.8,幅Oから9であった。選択された項目は多い順に、余暇の使い方や趣味21
人、コミュニケーション方法20人、協調性や社会性16人、ストレスへの対処方法
14人、主体的な生活態度10人、食事のしつけ9人、排泄のしつけ9人、感情のコン
トロル方法7人、社会のしくみ7人、健康管理4人、通訳介助者の頼み方2人であ
った。さらに、回答者が追加記入した内容に、健康に関する情報1人、将来の見通し
1人、障害にとらわれない普通のしつけ2人があった。
表15家庭に期待する教育
単位:人
全体
重度群
中年群
長期
余暇の使い方や趣味
21
6
5
7
コミュニケーション方法
20
9
3
8
協調性や社会性
16
3
5
7
ストレスへの対処方法
14
4
2
2
主体的な生活態度
10
2
26
4
食事のしつけ
9
7
0
0
排泄のしつけ
9
9
0
0
感情のコントロル方法
7
2
2
社会のしくみ
7
2
4
健康管理
4
通訳介助者の頼み方
2
2
0
0
健康に関する情報
0
0
0
将来の見通し
0
0
0
2
0
0
0
13
0
2
2
なし
4
0
2
0
合計
123
45
19
37
平均項目数
2.8
5.0
1.7
1.4
障害にとらわれない普通の膜
回答
盲ろう者が小さい時に学校にしておいてほしかった、と職員が考えることを8つの
選択肢の中から回答するように求めた結果は、無回答14人、なし2人以外の41人に
ついてのべ74項目が選択された。選択された項目数は回答者43人の中では平均1.4,
幅0から5であった。選択された項目は多い11頂に、余暇の使い方や趣味19人、小学
校3年生程度の文法14人、病気や予防の概念や知識10人、あいうえおの読み書き9
人、社会のしくみ7人、健康管理5人、通訳など福祉職の役割3人、身体のしくみ3
人、協調性や社会性1人、主体的な生活態度1人であった。さらに、回答者が追加記
入した項目に、指文字1人、物の名前1人があった。
表16学校に期待する教育
単位:人(%)
全体
重度群
中年群
長期
余暇の使い方や趣味
19
小学校3年生程度の文法
14
病気や予防の概念や知識
10
0
2
9
あいうえおの読み書き
9
3
2
3
協調性や社会性
I
0
0
0
主体的な生活態度
1
0
0
0
社会のしくみ
7
3
27
5
2
10
9
2
健康管理
5
通訳など福祉職の役割
3
身体のしくみ
3
0
2
3
2
2
3
0
0
指文字
0
0
0
物の名前
0
0
14
2
2
4
なし
2
0
1
0
合計
74
16
13
38
1.4
1.8
1.2
1.4
無回答
平均項目数
4.考察
(1)望ましい居住形態を実現させるために必要な施策:在宅サービス、早期告知、
更生訓練
入所中の盲ろう者に望ましい居住形態として多様な選択肢が職員から提示された。
すなわち、今の施設が望ましいと職員が述べた入所者は全体の3分の1であり、盲ろ
う専用の施設、家族と同居、グループホームがそれぞれ2割ずつあった。
群により望ましい居住形態は異なった。重度群で家族と同居がもっとも多かったこ
とはヘルパーなど在宅サービスを提供することが望ましいことを示唆する。また、盲
ろう者には身辺自立できるような教育を提供し、家族には介助方法の研修を提供する
ことにより、在宅サービスで提供する介護量が減ると推測される。しかし、盲ろう者
の発達を考えれば、親が介護できるからといって、成人してからも親に扶養されるこ
とが望ましいとはいえない。従って、成人してからの自立をめざした生活設計を考慮
に入れた支援を受障してから早い段階から盲ろう児者と家族に提供することが重要
であると考える。
一方、中年群では施設入居が望ましいが8割以上であった。その理由は2つ考えら
れる。第一は親の高齢化である。介護がそれほど重度でなくても、高齢化により親は
それまで行って来た介護ができなくなったり、親の死後を考えて盲ろう者は施設入所
を選択すると推測される。第二は、後発障害への適応が困難なことである。施設入所
者の原因疾患の6割を占めるアッシヤー症候群のように30才代以降に急速に視覚障
害が進行する場合には、それまでの就労や生活を続けることは困難になるとともに、
将来の見通しが立ちにくいために緊急の避難先として施設を選択すると考えられる。
中年群で盲ろう専用の施設の比率が高いのは、盲ろう状態への適応が不十分なことを
裏付ける。従って、中年群において適切なのは入所施設ではなく、精神的な支援も含
28
めた更生施設や在宅サービスであると考えられる。更生施設や在宅サービスの担当者
には盲ろう者のコミュニケーションや介助方法についての研修を行うことが必要で
ある。
アッシヤー症候群のように若年から後発障害を予測することが可能である場合に
は、後発障害への対応を早期から準備することにより施設入所の時期を遅らせたり、
一般施設への入所が可能になると考えられる。具体的には、予後の説明を含んだ診断
の早期告知と進行する症状への継続的な支援が必要である。
長期群でも施設入所が望ましいという回答は約半数であり、ひとり暮らしが望まし
いという回答もあったことは、在宅サービスやグループホーム等の充実が必要なこと
を示唆する。
3群において、余暇の使い方・趣味は、盲ろう者が小さい時に家族と学校によって
教えておいてほしかったことの上位であったからことから、成人前から就労や成人し
た後にもできる活動を準備することが重要であると考える。そのためには、盲ろう者
のライフサイクルを視野に入れた長期にわたる支援サービスに従事する人材の養成
とシステムの構築が必要であろう。
(2)入所者と家族のコミュニケーション:家族と施設職員への情報提供と研修
家族と入所者とのコミュニケーション、家族による盲ろうの状態と介助方法の理解
が半数から7割の家族に十分でなかった。長期群では家族と盲ろう者のコミュニケー
ションが円滑で家族による介助方法の理解がよい場合に、盲ろう者の帰省が多かった
ことから、入所が長期にわたる場合には、家族のうち特に身元引受人の6割を占める
きょうだいに対してコミュニケーション、盲ろうの状態の理解、介助方法の理解を促
進する支援をすることが必要であると考える。
具体的には、第一に、情報を収集・提供する中央機関を設け、盲ろう者と家族の生
活に関する事例データベースとコミュニケーションおよび介助指導マニュアルを作
成する。盲ろう通訳介助者の養成事業は平成13年度現在で23の地方自治体で行われ
ており、国立身体障害者リハビリテーションセンターは盲ろうガイドヘルパー指導者
講習会を実施している。しかし、盲ろう者の家族や施設職員を対象とした講習会はま
だない。事例データベースとマニュアルはインターネットなどで公開することにより、
地域の盲ろう者と家族の孤立を防ぐことが期待される。
第二に、地域機関において家族を対象としたコミュニケーションや介助方法の研修
を実施する。研修の目的は、マニュアルで網羅しきれない個々の状況への対処方法を
指導することである。研修には経験のある指導者を派遣するほか、家族の参加を促進
するために研修地までの旅費や宿泊費を家族に給付したり、有職の家族には研修を受
29
けるための有給休暇を保障する。研修や情報提供は一度でなく、盲ろう者の年令や障
害の進行に伴う変化に対応するためにくり返し実施する。
このシステムは、施設職員や雇用主への研修にもそのまま利用できる。職員や雇用
主に研修を提供することにより、一般の施設や事業体への盲ろう者の受け入れを促進
できると考えられる。
(3)入所者への通訳介助者派遣
施設入所の盲ろう者にも公費による通訳介助者の派遣が望まれる。通訳介助者は帰
省の際には入所者と家族のコミュニケーションを活発にし、施設においては入所者と
職員あるいは入所者同士のコミュニケーションを円滑にすると考えられる。
半数近くの入所者がまったく帰省をしておらず、]割程度の入所者は家族と手紙や
電話のやりとりもなかった。帰省を受け入れていない25家族のうち約7割は面会に
来ていることは、受け入れ体制が整えば帰省できる入所者が増えることを示唆する。
平成12年度の調査も、帰省ができない理由は家族による帰省中の介護が困難である
ことを明らかにしている。従って、入所者の帰省を増やすためには、帰省先までの通
訳介助者による送迎と帰省中の通訳介助者の利用が有効であると推測される。長期群
において入所者の帰省の有無は入所者の年令や身元引受人が親かきょうだいかとは
関係なく、入所者と家族とのコミュニケーションが通じやすく、家族が盲ろう者の介
助方法を理解している場合に帰省する場合が有意に多いという結果も、この推測を裏
付ける。
通訳介助者は帰省時だけでなく、入所施設における入所者の日常生活にも必要であ
ると考える。施設における活動すべてに通訳者を使わなくても、状況の説明や決定経
過の説明は盲ろう者の誤解や不安を取り除くために重要であることはすでに指摘さ
れている。通訳介助者を利用することができれば入所できる施設の選択肢も増えると
考えられる。施設入所者が週に2時間ずつ2回程度、通訳介助者を呼び、状況説明や
誤解の解決を行ったり外出することは、盲ろう者による主体的な生活態度を増進する
具体的な方法であると考える。
(4)家族への期待と支援のアンバランス
盲ろう者の家族への期待が潜在的に非常に大きいことが示唆された。なぜならば、
平成12年度の調査で明らかになった盲ろう者の生活における5つの課題(コミュニ
ケーション、食事や排泄、健康管理、精神の安定、生活活動)は、いずれも盲ろう者
が小さい時に家族によって教えてほしかったこととして指摘されたからである。特に、
協調性や社会性、主体的な生活態度のような心理・社会的課題の教育は、学校でなく
家族に期待された。
30
盲ろうの専門家でない家族が5つの課題に取り組むのは容易でないことが想像さ
れ、専門家による家族に対する支援が必要であると考える。にもかかわらず、家族に
支援が必要と答えた職員は2割しかなかった。また、現在の盲ろう者の生活を向上さ
せるために家族に期待することを聞いた結果は2割の事例で家族に帰省や面会を増
やすことを求めただけであった。
家族への期待が潜在的に大きいにも関わらず具体的な家族への期待や支援方法が
提案されない理由は2つ考えられる。第一に、入所前に家族に支援が必要であると答
えない理由は、従来の障害者施策が障害者を対象としており家族を対象としていない
ために家族への支援という発想と具体的な方法を思い付きにくいためであると考え
る。家族に期待することの回答に「わからない」が31.6%を占めたのも、家族に対
する支援が必要であると思わないわけではなく、家族による具体的な貢献方法がわか
らないことをあらわすと考える。そこで、例えば、合衆国において発達障害児の家族
に対して行われているIndividualFamilyPlanのような施策が盲ろう児者の家族に
対しても有効であると考える。第二に、入所者の家族に支援が必要だと答えない理由
は、入所者と家族が関わる機会が帰省、面会、手紙や電話のやりとり、施設行事への
家族の参加だけに限られており、支援の機会も少ないことであると考える。
第2節在宅盲ろう者の家族への支援
~通訳介助者に対する調査~
Lはじめに
盲ろう者とその家族にどのような支援が必要かを明らかにすることを目的として、
通訳介助者を対象に質問紙法による調査を行った。通訳介助者を対象に選んだ理由は
2つある。第一は、通訳介助者は地域で生活する盲ろう者と家族に密接に関わるため
に、盲ろう者と家族のニーズをよく知ることである。なぜならば、通訳介助者は盲ろ
う者の基本的需要であるコミュニケーションと移動を支援するために、盲ろう者の意
識と行動を知る機会を多くもつためである。第二に、通訳介助者は盲ろう者に福祉制
度や社会の反応を伝達する役割を担うことが多いために、盲ろう者のための福祉制度
や社会の問題点に気付く機会が多いと考えられることである。
2.方法
国立身体障害者リハビリテーションセンター学院で行われた盲ろうガイドヘルパ
ー指導者講習会に平成12年度および'3年度に参加者した33人(以下、受講者)に
31
質問紙法による調査を行った。講習会中に質問紙を配付し講習会終了時に回収した。
調査内容は(1)受講者の属性と経験、(2)盲ろう者について困っていること、
(3)盲ろう者の家族について困っていること、(4)家族に対する支援の必要性で
あった。平成13年度受識者には、さらに(5)家族が困っていることをきいた。
3.結果
(1)対象者の属性と経験
17都道府県の受講者33人から回答を得、回収率は100%であった。平成12年度受
識者は19人、平成13年度受講者は14人であった。盲ろう通訳介助の未経験者は6
人であった。以下に経験者27人(以下、対象者)から得た回答結果を報告する。対
象者の性別は男1人、女26人で、年令は平均43.4才、幅22才から63才であった。
対象者の最終学歴は中学1人、高校13人、短大7人、4年制大学4人、無回答2人
であった。全国盲ろう者協会の訪問相談員または地域の友の会の通訳介助者13人、
施設職員5人であった。経験年数は平均6.8年、幅0年から25年であり、これまで
に通訳介助した盲ろう者の数は平均11.6,幅1人から50人であった。ただし、経験
年数は平成12年度調査では盲ろう者以外の障害者に関わった年数も含めてたずね、
平成13年度調査では全国盲ろう者協会の訪問相談員または盲ろう者友の会の通訳介
助者になってからの年数をたずねた。
(2)盲ろう者について通訳者が困ったこと
盲ろう者について通訳者が困ったことがある18人(66.7%)21件、無回答9人
(33.3%)であった。困った内容を以下に列挙する。また、通訳介助者でなく盲ろう
者が困ったことの記入が3件あった.
(1)特定の通訳介助者に依頼が集中する。(13-2)(12-10)
(2)一人でどこへでも行ってしまい、通訳介助を利用しない。(13-3)
(3)後発障害(視覚)を受容できず、介助を拒否した。(12-2)
(4)支援をあたりまえだと思う人がいる。(12-4)
(5)通訳介助、手引き、ボランティア、ヘルパーの区別をわかってもらえない。(13-3)
(6)盲ろう者の家族(全盲)の介助も頼まれた。(13-3)
(7)前もって分かっているのに、急に通訳介助を依頼した。(13-10)
(8)2人の盲ろう者の会話の通訳をしたとき、口論になり、どちらが正しいと思う
か意見を求められた。(13-9)
(9)生活訓練指導員も都道府県に他にいないので(通訳者の)仲間がいない。(12-3)
(10)公共交通機関がない地域に行く時、通訳者の車を使用する。(12-6)
32
(11)コミュニケーションが難しい。(12-3)(12-7)(12-11)(12-12)
(12)一度、誤解を受けると解くのが大変。(12-13)
(13)盲ろう者の理解力をつかみ、理解力にあった伝達方法で情報保障すること。
(12-8)
(14)なかなか自立までいかない。(13-11)
(15)家族以外とコミュニケーションができない。(13-13)
(16)訪問販売で高価な買い物をしてしまった(13-14)
(17)自発的な公道が無く受け身。(12-0)
これらの内容は以下の4つに分類された。
(a)通訳介助の役割と依頼のマナーを盲ろう者が理解していないこと
(b)通訳介助の制度上の問題
(c)意思伝達が難しいこと
(d)盲ろう者が家族に依存的なこと
(3)盲ろう者の家族について通訳者が困っていること
困ったことがあった14人(51.9%)18件、無回答13人(48.1%)であった。困った
内容を以下に列挙する。
(1)コミュニケーションの手段を伝えたいが本人と家族の理解が得られない。
(13-1)
(2)盲ろう者とのスムーズなコミュニケーションをとることに関心がなく、諦めて
いること。(12-1)
(3)盲ろう者とのスムーズなコミュニケーションができないために、盲ろう者を精
神的に不安にさせている。(12-2)
(4)家族がコミュニケーション手段を持たない(12-10)
(5)所属の施設で訓練を行いたいが上司の理解が得られず、訓練時間もとれない。
(13-1)
(6)盲ろう者(親)が原因で子どもが離婚した。家族に見えにくさ、障害認識をも
ってもらうのが困難。(13-10)
(7)20代の盲ろう女性の母親が友の会の活動を理解してくれない。(13-10)
(8)盲ろう者の父親が心配のあまり外泊や遠出を敬遠し全国大会などの参加に制限
ができてしまっている。(13-14)
(9)まわりにろう者がいなく他者との交流がない。家族も自分達でなんとかするの
いってんばり。(13-10)
(10)社会的問題でも家庭内にとどめてしまう。(13-11)
33
(11)施設入所の盲ろう者について、指導内容を把握してもらえず、帰省の度に施設
での指導の積み重ねが崩れてしまう。(12-0)
(12)障害についての理解がなく社会規範を押し付けがち。(12-8)
(13)障害についての理解がなく不満や愚痴をいう。(12-9)
(14)障害をもった家族がいることをしられたくないと考え、連絡をとりにくい場合
があった。(12-11)
(15)通訳介助者にお任せになってきた。(12-13)
(16)盲ろう者と友の会事務局がうまくいっていない場合があること。(12-14)
(17)家族(弱視者)が(通訳者に)相手をしてもらおうとして通訳できなくなるこ
とがあった。(13-3)
(18)ありすぎて何を書けばいいのかわからない。(12-4)
これらの結果は以下の3つに分類される。
・家族が盲ろう者のコミュニケーションをとることに熱心でない
・盲ろう者が社会に関わることに理解がない。
・通訳介助者の役割を理解していない。
(4)盲ろう者の家族が困っていること
盲ろう者の家族が困っていることを平成13年受講者14人に聞いた結果は、ある5
人9件、無回答9人であった。また、平成12年受講者のうち2人も家族が困ってい
ることを記入した。困っている内容を以下に列挙する。
(1)うまくコミュニケーションがとれない。(13-9)
(2)家事負担が盲ろう者の子どもに全部かかる。もっと子どもらしくあってほしい
と時に不燗になる。(13-2)
(3)親なき後、家族が一緒に住めなくなった時の生活保障。(13-10)
(4)家族以外のサポート不足。(13-10)
(5)教育、育児、就職、結婚、出産、老後の盲ろう者のニーズにこたえられるサー
ビスがない。
(6)情報が入らない(12-3)
(7)どこに相談していいかわからない(12-3)
(8)親戚の理解がない(13-9)
(9)家族に盲ろう者がいることを外部の人に知られたくない。(13-13)
(10)家族以外の人とのコミュニケーションをはかりたい。(13-13)
これらは以下の3つに分類される。
(a)コミュニケーション
34
(b)盲ろう者に対するサービスの不足
(c)盲ろう者および障害者に対する社会の理解不足
(5)盲ろう者の家族に対する支援
家族に対して支援が必要だと思う23人(87.0%)24件、無回答3人(11.1%)、わ
からない1人(3.7%)であった。必要だと思う場合の支援内容を以下に列挙する。
(1)通訳介助
(2)ガイドヘルパーの充足(12-18)
(3)通訳介助の研修(13-4)(13-10)(12-1)(12-2)(12-7)
(4)盲ろうの状態や原因の理解(12-2)
(5)情報提供(12-9)
(6)情報交換(13-10)
(7)家族にも訪問相談制度が必要(12-19)
(8)家族のネットワーク(13-11)(12-8)(12-10)
(9)交流の機会(13-10)(12-1)
(10)相談機関(13-1),(13-11)(12-9)
(ID相談機関の一本化(教育、生活など分割せずに)(12-3)
(12)精神的ケア(12-16)
(13)カウンセリング(12-7)(12-14)
(14)レスパイト(13-*)(12-7)(12-13)(12-14)
(15)自分の時間が現在以上にとれるような環境づくり(12-6)
(16)家族が趣味にも参加できるように通訳介助の適用範囲を広げてほしい(1213)
(17)盲ろう者のデイサービス(13-4)
(18)自立支援(13-13)
(19)盲ろう者の授産・更生施設、ショートステイ、デイサービス、グループホーム、
老人ホームが県に最低lか所は必要。(13-10)
(20)現行サービス(友の会や自治体のサービス)の周知(13-14)
(21)地域の保健婦などとつながりがとれるように(12-3)
(22)盲ろう者への支援体制の普及(12-1)
(23)家族が盲ろう者をありのままに受け止め、将来を見通せるような援助(12-12)
(24)緊急に支援が必要な場合の宿泊可能な施設で情報交換できる憩いの場所
(12-15)
これらは以下の5つに分類される。
35
(a)家族のコミュニケーション補助(家族による通訳介助者の利用、家族に対
するコミュニケーション研修)
(b)情報提供
(c)相談
(d)家族のネットワーク
(e)カウンセリング
([)レスパイト
4.考察
対象者の3分の2が盲ろう者について何らかの困った経験があり、その多くに直接
間接に家族の関与が考えられる。すなわち、盲ろう者が家族に依存的なのは家族が盲
ろう者の自立を促していないことを示す。また、盲ろう者のコミュニケーション能力
が不足していたり通訳介助制度について理解不足であることも家族の援助によって
是正することが期待できるからである。
対象者の半数が挙げた盲ろう者の家族についての困った経験も、上記の盲ろう者に
ついての困った点と直結する。すなわち、家族が盲ろう者とのコミュニケーションに
熱心でない場合に盲ろう者はコミュニケーション能力を向上させることが困難にな
る。また、家族が盲ろう者と社会との関わりに熱心でない場合に盲ろう者は家族に依
存的になる。そして、家族も盲ろう者同様に通訳介助制度をよく理解していない場合
がある。同じことは、盲ろう者の家族が困っていることとして、コミュニケーション、
社会の理解不足、盲ろう者に対するサービスの不足としても回答された。
対象者の8割以上は盲ろう者の家族に支援が必要だと回答した。具体的な支援方法
は今後の検討課題である。以下に家族に対する支援方法の私案をあげる。第一に、家
族へのコミュニケーション研修は必須である。盲ろう者の障害と進行にあわせて、受
傷から継続して行う必要があると考える。研修には一般的なコミュニケーション技術
だけでなく個々の盲ろう者の障害にあわせた個別指導が重要である。一般的な研修に
は、通訳介助制度など盲ろう者に対する福祉制度、盲ろう者の介助方法についての情
報提供を含めるとともに、家族のネットワークつくりのきっかけにする。また、多様
な障害の程度にあわせた個別の研修においてカウンセリングや相談に応ずる゜家族が
通訳介助者として登録することもあわせて検討する。第二に、盲ろう者や障害者全般
について社会による理解を求めるためには、通訳介助者の養成、施設職員や雇用主へ
の研修を行うことにより、具体的な情報を社会に広げることが考えられる。また、家
族に対する研修を行う人材を要請する必要がある。第三に、家族の介助負担を軽減さ
36
せるためには、通訳介助、一般施設でのデイケアおよびショートステイの受け入れ、
グループホームなど地域での生活の場、就労を普及させることが有効であると考える。
(補遺)
集計後に、平成12年と13年受講者に「盲ろう者が困っていること」を郵送法により
調査した。結果だけ以下に列挙する。
(1)都道府県によっては盲ろう者に対するサービスが一切ない。(12-3)
(2)地域に盲ろう者のための生活訓練を受ける場がないこと(12-9)
(3)地域に盲ろう者が情報を得たり、相談する場がないこと(12-9)
(4)全国協会のチケットが足りない。(13-k)
(5)介助と通訳の両方ができるガイドヘルパーが少ない。(13-k)
(6)盲ガイドヘルパーでは通訳ができない。手話の研修が必要。(13-k)
(7)プライバシーに関わることが多いため、通訳と介助だけでなく人間的に信頼で
きる特定の人に頼りがちになる。これを盲ろう者のわがままだと思われてしまう
ことが多い。(13-m)
(8)介助と通訳の両方をできる特定の人を長期に派遣してもらえない(13-k)
(9)県内でも地域により行政がわかれており、派遣状況が違う。(13-k)
(10)盲ろう者についての理解が社会にないため、接し方がわからなかったり、知的
障害のように思われてしまうことがある。そのために、うまくコミュニケーショ
ンをとれない。(13-m)
(11)必要とする時にガイドヘルパーがいるとは限らない。(13-m)
通訳者が指名されると、通訳者同士でも盲ろう者と通訳者の間でも歪みが生じや
すい。(13-m)
第3節今後の課題
第1節と第節で触れていない家族支援に関する研究課題は以下の6つである。
第1に、盲ろう者自身を対象とした家族についての調査が必要である。本研究班の
平成12年度実態調査において、家族との問題に、(a)家族とのコミュニケーションに
困難があること、(b)通訳者としての家族への期待が大きいこと、(c)家族が盲ろう者
の自立を阻むことがあることが指摘されている。具体的な施策に結び付けるためには、
さらに詳しい調査研究が必要である。
第2に、盲ろう者の家族を対象とした調査が必要である。我々は、第1節の対象施
設入所者の家族に調査を実施中であるが、地域で生活する盲ろう者の家族を対象とし
37
た調査も必要である。
第3に、地域で生活するが通訳介助者を利用していない盲ろう者の家族関係の調査
が必要である。通訳介助者を利用していない場合には利用している場合よりも、家族
の介助負担が大きかったり、盲ろう者の社会参加が少ないことが推測されるため、現
状とニーズを明らかにすることは重要である。我々は、本研究班の事例班が平成11
年度報告書で紹介したK君の家族を対象に質問紙法による調査を行っており、施設に
入所している盲ろう者の家族を対象にした調査とあわせて報告する予定である。
第4に、第1節で対象とした視覚障害者更生施設以外の施設に入所する盲ろうとそ
の家族の状況を、第1節の結果と比較する必要がある。たとえば、北海道が平成10
年に行った盲ろう者実態調査では、在宅者296名、施設入所者101名であった。しか
し、本調査の対象となった視覚障害者更生施設には北海道に入所者はなかった。
第5に、家族の交流会の現状と課題も明らかにする必要がある。日本では、東京な
ど一部の盲ろう者友の会で家族の交流会が行われている。また、米国のナショナル・
ヘレン・ケラー・センターにも盲ろう児の家族のネットワークがあり、その活動は我
が国にも参考になると考えられる。
第6に、家族に対する支援の試行事業を行う必要がある。家族に対する支援のあり
方は、他の障害でも確立されていない。プロトタイプとして盲ろう者の家族を対象と
した支援事業の試行は実施する価値があると考える。
38
資料ビデオテープ米国へレンケラーナショナルセンター(HKNC)
米国へレンケラーナショナルセンターのプログラムを紹介したビデオテー プ
(HELENKELLERNATIONALCENTER:OpenCaplioned)を許可を得て邦訳しました。
39
図I盲ろうの専門職ダイアン・ウエイス
F7~テフーヲ三才ラヨ:こんにちは、私はダイアン・ウェイスです。視覚障害者のため
のニュージャージー・コミュニケーションに所属している盲ろうの専門職です。私は
2つの理由で、ヘレンケラー・ナショナル・センター(HKNC)をお勧めします。第一
に、このセンターは、生活において困難がある盲ろう者に対し、あらゆる分野につい
て評価と訓練をひとつの施設で行なう米国で唯一の場であることです。第二に、私の
クライアントの盲ろう者が、他の盲ろう者と交流できることは素晴しい場所です。町
や地域には盲ろう者は-人しかいなくて大変に孤独なことがありますが、このセンタ
ーに来ると、まさに同じ状況にあるたくさんの人々と出会うことが出来ます。技術的
な訓練と他の盲ろう者との交流、HKNCはクライアントに非常に多くのものを提供
します。
40
図2
左がHKNC構内を白杖を使って歩くデレク。右はデレクの両親。
同フヲーワラ亙詞:はじめてここを訪れた時私達はデレクのケースワーカーのスーザ
ン・レッサさんと会いました。彼女は私達を案内して、施設や利用者宿舎、訓練セン
ターを見せてくれました。彼女は私達とデレクを、この先デレクと一緒に働くことに
なるスタッフに紹介してくれました。スタッフは、デレクの質問や、私たちが持つか
もしれない疑問に何でも答えてくれました。私たちは、デレクと一緒に働くことにな
るスタッフを何人か見て、その忍耐強さと、ヘレン・ケラー・センターにいる訓練生
たちと一緒に働いている様子に、とても感動しました。デレクのニーズを判定する評
価期間、つまり、デレク個人のニーズに合うのは何かということをいろいろと試して
みる次の8週間のためのインテーク面接で、私たちは話し合いました。この時、デレ
クはここの伝統的プログラムに参加したいと希望しました。彼の、そして私たちの目
標は、必要最小限の介助で、彼が自立して生活ができるようになることです。この8
週間の最後に、デレクがどれくらいの期間ここで訓練する必要があるのか、目標を何
にし、どんな分野で仕事に就くのか、センターの専門家たちが判断します。デレクは
こんなに遠く家から離れたことはありませんでした。25歳にもなるのに、まだまだ赤
ん坊のようで、私は心配でたまりませんでした。でも、ここのスタッフが訓練生たち
とどんなふうに働いているかを見て、私はデレクと安心して別れられます。彼も、私
たちと離れる準備ができました。デレク自身、居心地が良いと思わなければ、私たち
に「さようなら」を言おうとはしなかったでしょう。
41
。二:寵舞
図3右からデレクの両親、盲ろう者デレク、HKNCのスタッフ
1
畷”
ⅢH1亀:IBM
HHICHSroEINTE…画一・
HITHuF-B
図4男性盲ろう者(手話で発信)
42
F訂正盲フヲーテ罰:このセンターの設備に私は本当にびっくりしました。私のニーズに
合っているので本当に役立ちました。例えば、点字訓練があります。自立生活部門で
は私は調理訓練を受けていて、モビリティ部門では安全な移動方法を教わっています。
そしてもちろん、職業訓練部門もあり、コンピューターについて教えています。そこ
にはナビゲーター(訳注:図45参照)があり、コンピューター機器のとりあつかい
を補助します。盲ろう者のニーズに合うよう特別に作られた、すばらしい設備とサー
ビスが本当にたくさんあります。
図5女性盲ろう者(発声)
岡正實Z~ヲ詞:私が受けている自立生活訓練は、とてもすばらしいです。私は調理
と清掃を教わっています。私はここの訓練士たちが大好きです。本当にすごいと思い
ます。彼らはいつでもここにいて、助けが必要な時には、助けてくれます。
43
図6男性盲ろう者(手話で発信)
F輌言Z~冤引:私はこのヘレン・ケラー・センターで、楽しい生活を送っています。
とてもたくさんのことを学びました。今は、将来のこと、これから私が何をするかを
考えています。カウンセラーたちからは、たくさんの支援を受けました。私たちは実
際に、近所で職探しをしました。このように、私はこのヘレン・ケラー・センターで
の訓練を修了した後の仕事の計画をたて、自分で選んだ仕事を見つけることができま
す。
44
図7女性盲ろう者(発声)
Eで柾言う百~ヲ召:ヘレン・ケラー・センターに来たことは、私の人生で最高の出来事
でした。ヘレン・ケラー・センターは、私の命を救ってくれたのです。
45
vut
図8HKNC所長ジヨー・マクナルテイ
ジョー・マクナルティ所長|:こんにちは、ヘレン・ケラー・ナショナル・センター
所長のジョー・マクナルテイです。このセンターは1969年に設立され、設立当時よ
り、盲ろう者が地域で自分の選択で生活し働くことを可能にするという私共の使命を
サポートするために、多くのプログラムを開発しました。私共が提供しているプログ
ラムの-つは、本部があるここニューヨーク州のサンズ.ポイントで行われています。
ニューヨーク市から45分ほどの距離です。
46
一■ ̄■=
図9
ニューヨーク州のサンズ・ポイントにあるHKNCの本部ビル
だれかが……盲ろう者本人や、その家族、あるいは地域で彼らと関わっている専門
家たちがヘレン・ケラー・センターに行こうと決めるかどうかには、多くの要因が関
わっています。そこで、さまざまな疑問が次々と浮かんできます。いくつかを挙げて
みますと、
・歩行訓練は-週間に何時間受けるのだろうか?
・コンピューター訓練はあるのだろうか?
.それはどんなタイプのコンピューターと技術なのだろう?
・ルームメイトと同室しなければならないのだろうか?
・訓練のない週末には何があるのだろうか?
などです。このビデオテープは、こういった疑問の数々にお答えするために作られ
ました。
また、HKNCでのプログラム全体を包括的に見るように作られています。
・プログラムにだれが参加しているか?
。なぜここに来ているのか?
・ここで身につけた技能を生かして何をしたいと思っているのか?
・ここで私たちがどんな訓練をどのように提供しているのか?
を、このビデオテープは説明します。
47
テープをご覧になれば、自市牛活と雇用という2つの主な訓練分野に力が入れられ
ていることにお気づきになるでしょう。また、訓練の大部分がキャンパス外で行われ
ていることにも気づかれることでしょう。お店で買い物技能、対人関係を習得したり、
あるいは仕事の技能向上のための訓練を実際の仕事現場において行なったりします。
訓練のためにこのセンターにやってくる人に保証できることがいくつかあります。
第一に、訓練の目標に向かってたくさんのことを学びます。第二に、私共はできる限
り、その人にあったプログラムを開発します。皆様がこのビデオテープをご覧になり、
私共の熟練したスタッフの専門性と、熱心さ、そして責任にもお気づきいただきたい
と願っております。
緑に囲まれた25エーカー(101,175平方メートル)の敷地にあるヘレンケラー・イ
ンターナショナル・センターの本部は、訓練と管理棟、訓練生宿舎、屋外トラック、
庭園があります。宿舎はバス付きの2人部屋で、カフェテリア、訓練生用ラウンジ、
庭園があります。
コンピューター2
夕一室、洗濯場があります。
纏麺蕊圏lと薊劉劉遡濁麺麺■一因園
図lOHKNCの訓練と管理棟
48
RIRロ
図llHKNCの屋外トラック
記.I
」・眼
駕鰕鍬?
uM1繍
雫蝋繊熟2
-℃ ̄
『
)
一
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一■
、 ̄了刃
一怠一、アーンー
・・荊
1.00
の
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二J;iiiiii
1J:.」
セキ
図12宿舎のベッドルーム
49
 ̄の
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鐘鏑
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ヨ■■ヨェ
図13カフェテリア
図14訓練生用ラウンジ
50
Imllhm
/・Ar」
I
図15訓練プログラム:伝統的なプログラムとPATH(パーソン・センタード・アプ
ローチ)
訓練生は2つの訓練プログラムのうち、どちらかを選ぶことができます。2つとは
伝統的プログラムとPATHプログラムです。PATHとは、「パーソン・センタード・アプ
ローチpersoncenteredapproach」略語です。PATHは、機能的訓練により成果を上
げられる人を対象としています。訓練士のコア・グループが、起床時間すべて、1週
間に7日間の訓練と支援を提供します。
パーソン・センタード・アプローチでは、訓練生はそれぞれの嗜好、能力、可能性
にあった、地域社会を基盤とした活動に参加します。この訓練は、自立と地域社会へ
の統合を促進し、雇用機会に結びつきます。訓練生一人一人は普通の成人の日常の活
動を探り参加する機会を持ち、自分の好きなライフスタイルを確立し、地域社会での
生活に必要な技術の習得を助けとなります。
51
図16居室で起床して、洗面に行く盲ろう者と介助者(あるいは訓練士)
身辺処理技能
訓練と支援は毎朝7時15分に入浴、歯磨き、髭剃り、着衣、衣類と居室の管理な
どの身辺処理技能として始まります。これらの技能は、自立と自尊心を学び、成し遂
げる機会となります。
52
|露
雪鑿劇
1ill■''111蕊iiiiiiiii
図17起床して洗面をする訓練生
訓練の主要な部分は、コミュニケーション技能の開発です。PATHの参加者はさ
まざまなコミュニケーション方法を使って、情報を表現したり受け取ったります゜そ
のコミュニケーション方法には以下のようなものがあります:
PATHにおけるコミュニケーション方法
・行動反応・ジェスチャー
・発声・オブジェクトシンボル
・絵・手書き文字
・点字・手話
53
lWmi1iiilWi
〆
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、
」、.ゴ『ゴ
$
図18右の壁に-週間の予定がオブジェクト・シンボルを使って示してある。
訓練士に手を導かれているのが盲ろう者のラス
コミュニケーション技能の開発は日常生活のすべてに関連します。訓練士は、豊富
な会話をする環境を作りだし、訓練生と信頼関係を築き、訓練生にリードさせること
でコミュニケーションを取りやすくします。フォーマルな言語技能の習得が十分でな
い参加者に対しては、触って理解できるオブジェクト・シンボルを用いたカレンダー
でその日の出来事を提示します。ラスは一連のカレンダーを確認するように指導され
ています。
54
図19部屋の入り口に何の部屋かを示すオブジェクト・シンボルが貼ってある。
オブジェクト・シンボルは、キャンパスのいたるところに見られ、位置どりの判断
の確実な手がかりとなり、単独でのオリエンテーションとモビリティを助けます。
55
図20食事の準備のために、棚から食器を取り出す訓練生。棚の扉に
中に入っている食器をオブジャクト・シンボルが示す。
仕事に出かける前に訓練生たちは朝食の準備をします。簡単な食事の準備にはテー
ブルを整え、冷たい飲み物か温かい飲み物を用意し、電子レンジやそのほか簡単な器
具を使用します。蝕知覚を利用した安全な調理技術がファミリー・スタイルの食事の
準備にも使われます。
56
図21朝食の用意をする訓練生と給仕される訓練生を訓練士が通訳する。
普通の朝食をとる間に社会性をすすめ、コミュニケーション技能も自然に向上しま
す。正式な言語を使わなくても会話をすることはできます。動きや、環境の中の手が
かり、実物やジェスチャーは、コミュニケーションの送受信の方法として利用できま
す。例えば、一緒に皿を洗う時に自然に会話します。
57
1日のスケジュール
図22
スケジュールの確認をしているところ。左がシーラ、右がスコッテイ。
訓練のある日の最初には、その訓練生はその日のスケジュールを再確認します。シ
ーラは点字を使います。彼女はスケジュールを再確認し、具体的な仕事内容を打ち出
します。スコッティは浮き出し文字を使い、その日の仕事の内容を把握します。
58
澱Hm
D
図23
スコッティが使っている浮き出し文字。
59
■已田塵1:冊ロ呂屈ロ:雷
】副■
図24帽子をかぶっているジョン
ジョンは実物(オブジェクティブ・シンボル)を手がかりとして使います。ここで、
彼は帽子を渡されています。この帽子は、彼がカフェテリアで工業用食器洗浄機を扱
う仕事をする時にかぶるものです。帽子を手にとり、頭に乗せることは、ジョンにと
ってこれから仕事に行くという合図です。作業を予想することが、その日の予定を立
てることを助けてくれるのです。将来的には、彼が自ら進んで帽子とカフェテリアで
の仕事を結びつけられるようになり、快適度と自立度を高めてほしいと考えています。
PATHの訓練生の多くは、勤務経験がほんの少ししかないか、まったくない人です。
この訓練の主な目標は、地域社会で実際の仕事に就くことです。職種は、個人の体力、
興味、好みに基づいて選ばれます。
60
地域社会での雇用
醜iii蘆iiiiiiI悪12
図25靴屋の展示用プラスチック板をふくスコッティ
アメリカのすべての靴屋には、我々がプレキシガラスと呼んでいる靴を置く展示用
のプラスチック板がありますが、スコッティのここでの仕事はそれら1つ1つのほこ
りを掃うことです。スコッティは、ある所から始めて店中すべてを網羅するやり方を
きっちり理解しています。
PATHプログラムでは、訓練生1人1人の興味と能力にあった仕事を個性化して
います。スコッティは彼の居室の掃除や決まった順番に物を整理することに興味を示
したので、私たちはここジミー靴店を選びました。スコッテイがここで働き始めて3
ヶ月たちますが、完壁にうまくいっています。
61
li i li li i ili i i i i l1i i
図26サンズ・ポイントにある老人ホームの洗濯ものをたたむ訓練生のシーラと指導
員のカーメラ(右)
、Fヌーヲ|:こんにちは、私の名前はカーメラ、彼女はシーラです。私たちはヘレン・
ケラー・センターのPATH部門から来ました。今、シーラはここサンズ・ポイント
の老人ホームで働いています。彼女は衣服にとても興味を示しましたので、私たちは
セント・フランシス老人ホームでの仕事を組み込んでみました。彼女は今もそこで、
タオルを折り畳むという仕事をうまくやっています.私たちは、彼女の衣服への興味
を発展させました。そして彼女は、この老人ホームで、衣類をハンガーにかけるとい
う仕事を、ご覧のとおり、実によくやっています。
62
図27自動販売機に商品を入れる訓練生のダリア(右)と指導員
ダリアは、自動販売機に商品を補充するために必要な技能を学んでいます。彼女は
これまでに、ソーダの缶を振り分けて訓練士に手渡すことを習いました。訓練士は自
動販売機に缶を入れるために、正しい場所を介助をして教えています。訓練を開始し
てから、ダリアはだんだんと仕事に粘り強く取り組むようになり、一連の作業を積極
的に実行する能力を身につけました。
63
霊雷蘭圃壺爾
_愛歴
図28工業用食器洗浄機から食器を取り出す作業を行う訓練生トーマス(右)と
指導員
トーマスは、工業用食器洗浄機から食器を取り出す作業に慣れてきました。ダリア
とトーマスの2人にとって、仕事に関連した活動に参加するのは初めての経験です。
職種と訓練方法は、本人の好みと本人に合った仕事は何かを反映します。広範囲にわ
たる訓練と支援によって、地域社会での意味のある仕事をするという彼らの長期目標
は達成されるでしょう。HKNCの統合訓練チームは、州の職業リハビリテーション
カウンセラーや地域のサービス提供者と密接に関わりながら、ダリアやトーマス、シ
ーラ、スコッティ、ジョンたちが自宅に戻った時、職に就いて成果を挙げることがで
きるよう、仕事探しと必要な支援の判断を行います。
64
l il 1jl1i i i l 1i i l
旧BIF■-口1■E■Ⅱ■EE二皿脂ロロロ聖ロ■■
IⅡ■=空弓UF■■ロ■■
UnUHB=戸■・■王
図29買い物リストをつくる訓練生のスコッティ(左)とシーラ(中央)、指導員(右)
が会話の介助をする。シーラの前にあるのは点字タイプライター。
訓練時間が終わると、訓練生は家庭での生活をします。シーラとスコッティは買い
物リストを作っています。訓練生たちは自分が使いやすいコミュニケーション方法を
使用し、開発します。シーラは点字で簡単な単語を読み書きすることができます。ス
コッテイは文字の視覚的記憶があるので、浮き出し文字を好んで使っています。訓練
士はこの共同作業を進めるために、シーラとスコッテイの会話がつながるよう手助け
をします。
65
図30シーラとスコッティがピザの形を相談するのを指導員が介助する。
スーパーマーケットでは、シーラとスコッティはリストを参照し、棚からどの商品
を選ぶか決めます。買い物客なら誰でも知っていることですが、さまざまな選択肢が
あります。スコッティは四角ではなく丸いピザを選びます。コミュニケーションの価
値は訓練活動のすべての面において強調されます。選択し表現する力は、スコッティ
が取り組んでいるコミュニケーションの目標の1つです。
66
図31買った食品類を袋につめるスコッテイ(手前)とレジに並んでいるシーラ(奥)。
食品の買い物にはいろいろな技能が含まれます。例えば手引き者との接し方、選択、
語彙の拡張、並んで待つこと、食品類を袋につめること、買った物の的確な金額の支
払いなどです。
67
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議鶏碧麺一窯
■中
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〆
金野
i i i l Il l l i
露惑
図32買ってきた食品類をキッチンの冷蔵庫に収納するシーラ。食品には点字を
書いたラベルをはっておく。
買ってきた食品類をキッチンの冷蔵庫やキャビネットに収納するまで、この作業は
終わりではありません。浮き出し文字や点字のラベルは、彼らが朝食や昼食、夕食の
支度をする時、単独で食品の判別するために使用されます。
68
濯蕊iH
図33夕食後の余暇には、プールも利用する。
夕食後、訓練生はのんびりとリラックスしたり、さまざまな好みの余暇活動に取り
組みます。アロマテラピー、体育館や地域のヘルスクラブでの運動、近所の商店街で
買い物、近隣のレストランでの食事などが、訓練生たちの楽しみの数々です。
69
伝統的PATHプログラム
図34訓練生たちが通訳の支援を受けながら、会議に参加している場面。
伝統的プログラムを提供されている人々の視覚と聴覚の喪失度、教育的・文化的背
景は、個人によって実に多様です。これは、訓練生たちが通訳の支援を受けながら、
会議に参加している場面です。コミュニケーション方法の好みと能力はそれぞれ異な
るため、マン・ツー・マンでの通訳はとても有効です。参加者の多くは、第一言語と
して、そして好んでアメリカ手話を使用します。アッシャー症候群(1)型、それに他
の疾病を持つ訓練生たちは、ASL(AmericanSignLanguageアメリカ手話)を視野
の中に入るように見たり、あるいは触手話として活用し'情報を受け入れます。手話に
もいろいろな種類があります。第一言語が英語である人の中には、ピジン手話と呼ば
れる英語の語順の手話、英単語を羅列していく方法を好む人もいます。残存聴覚を最
大限に生かすことが可能である人々は、補聴器具を使用して会話を聞き取ります。概
念やメッセージの理解を高めるために、絵を用いたコミュニケーションが最適である
人々もいます。
70
職業サービス
伝統的プログラムでは、雇用結果を重視した統合的アプローチを通して評価と訓練
を行います。ここでは職業的サービス部門によってなされる職業調査とマン・ツー・
マンの訓練で成果を挙げています。他の訓練分野での目標を達成しながら、訓練生は
実用的な技能を学びます。うまく雇用され、継続して勤務していくために必要なこと
Iま以下の通りです。
・従業員としての技能と適性
・時間厳守
・仕事の質
・雇用主とのコミュニケーション
・同僚とのコミュニケーション
・監督の受け入れ
・社会性
●
これらは必要な時には職業訓練専門家の支援を得て実施されます。
図35女性盲ろう訓練生
●●
魎
私は職業サービスと呼ばれるクラスに参加し、職業訓練を受けています。
私は事務をしています。キャンパスを出て、地域の中央研究所へ事務の仕事をしに行
きます。木曜日には科学博物館へ行き、そこで動物の世話の手伝いをします。
71
■■Ⅸ■nBH・ロBi記■目盟二N目
図36箱詰め作業をする訓練生
HKNCは、職業評価に非伝統的アプローチを取っています。つまり、個人の興味、
能力、訓練ニーズを決めるために地域社会に基づいた状況によるアセスメントを行い
ます。HKNCに来る訓練生たちの職歴はさまざまです。職業的な興味を探ることが
初めてである人もいれば、現在の残存視聴力を考慮に入れて代替の職業を考える人も
います。HKNCの訓練生たちは、状況によるアセスメントに参加し、キャンパス内
および地域で、30以上の作業場面での訓練を受けます。いくつかの地域ビジネスはH
KNCと仕事の契約を結んでおり、その職業はキャンパス内で職業訓練分野の訓練生
たちによって行われます。
72
図37電子器具の組み立て作業をする訓練生グレッグ
ポニーとクラリサは箱詰め作業をしています。インポート・ビアという名前の輸入
雑貨取扱店と契約しています。グレッグは電子器具の組み立て作業をしています。ヘ
ッドフォンのジャックを接続するのに必要な部品をハンダ付けして、音声電卓に組み
立てなおすのです。グレッグはおよそ2ヶ月間、この作業の訓練を受け、職業訓練専
門職からの支援を必要としないほど優秀で熟練した作業ができるようになりました。
73
日、日田:■、■UBI皿副
■
図38木工工芸をする訓練生
訓練生たちは、キャンパス内の売店で手動や電動の工具を使って木工工芸を楽しん
でいます。安全な技能と触覚的適応が強化されます。家具作りは、余暇活動として楽
しまれることも、実用的な職種選択の一つとして継続されることもあります。職業訓
練のほとんどはキャンパス外で行われます。地域の仕事は、すべての訓練分野におい
てそれまでに習得してきた技能を統合するための訓練環境を提供します。
訓練生にはコミュニケーション、オリエンテーション、モビリティの技能を一般化
し応用する機会があります。ロービジョンや聴覚的サービスと同様に、福祉機器は仕
事でもつかわれます。環境評価と適合は、個人の仕事上の快適さと自立性を最大にす
る必要にあわせて完成されます。
1992年以来、AⅥSは訓練生のためのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:現
場での職業訓練)の機会を提供しています。選択できる職種は、メールルーム、保険
業務、倉庫、印刷屋、入力です。
74
繍
一
ダル
鍵
守
蕊:
l鱸
勘
霊1i5i1嚢!
鍵
図39AVISで働くジュデイ
ここでは、ジュデイスが8つの部品を組み立ててトレーニー.パケットを作って
います。ジュディスはここAⅥSで1日中働いて、完全に自立して材料を集め業務を
完成させています。
75
iiiiliiiii蓋iiiiiiii蕊I
図40AVISの保険部門で働くダナ
ダナはHKNCでの彼女の訓練の大部分をAⅥSの保険部門で働いています。彼女
は大変うまくやっているので、職場の同僚が休んでいる間、上司は彼女に6週間フル
タイムで代わりを務めてほしいと頼みました。
76
図41病院のクリーニング部門で働くリチャード(右)
リチャードは地域の病院のクリーニング部門で働いています。彼は自分の仕事を一
人で段取りよく行うことを学び、必要な時に職業訓練専門家から支援を受けます。
77
霞1
艤癌三一
■
■
:I日出H皿■四■ロ三■皿、四日
目爬咽■■斑却
図42サンドイッチ店で働くグレッグ
グレッグは、HKNCにいる間、さまざまな仕事に参加し、食品サービスの仕事が
向いていると決めました。イタリア料理店と地域のサンドイッチ店で、パートタイム
で働く機会を得ました。職業訓練に加えて、伝統的訓練プログラムは以下のような評
価と訓練プログラムを提供します。
評価および訓練プログラム
コミュニケーション訓練センターは、以下の訓練を提供します。
・コンピューター
・点字・手書き文字
・ろう文化・タイピング
・福祉機器・時刻の把握方法
・銀行利用と家計運営
・代替コミュニケーション
・手話
・読解力
78
~~ ̄
國口Ⅱ
図43点字訓練をする訓練生B,I.(右)と訓練士
訓練生には、訓練を受ける準備ができたと感じた時に、点字訓練を始める選択肢が
あります。BJ・の点字訓練を担当している訓練士はHKNCの卒業生です。訓練は訓
練生のペースに合わせて行われます。触手話は好んで使われるコミュニケーション方
法です。グループ訓練では、訓練生は求人広告を読み、採用の見込みがある雇用主へ
の適切な質問方法などを話し合いながら、略語や語彙に馴染んでいきます。
福祉機器
福祉機器は、多くの盲ろう者の生活の質を高めます。遠距離通信機器は情報にアク
セスするために重要です。
79
、〆
図44テレプレイルを使う訓練生ステイシア(左)
勵閥雨王ヌテラ7~ラテ]:電話を聞き取ることができなくなったのは大きな変化でした。
電話を使うことは友人や家族と共に、私の生活の一部です。この機械は日常生活に役
立ち、昔と同じような自立するために役立ちます。私は色々な方法を勉強してきまし
た。このテレブレイルは私の命の恩人です。
80
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図45パソコンのナビゲーター
デリックはナビゲーターを使用しています。この機器は点字のピンが次々に文字を
形作ることにより、コンピューターのモニターを点字で読み取れるようにしたもので
す。
81
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鰯繊蕊!
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■'四■ロ■UBI■■=■pHヨニ【囮EEH囚
図46拡大読書機を使って印刷物を読む訓練生BJ.
画面拡大プログラムは標準サイズの文字を弱視の人が読むのに適したサイズに拡
大して表示します。BJ・は拡大読書機あるいはCCTVと呼ばれる機器を使っています。
簡単な印刷物を読むことができます。
82
、ノ
図47ブレイルライトという携帯用点字ワードプロセッサ
HKNOでは、このような福祉機器を、盲ろう者が試しに使い、仕事や他の場面、
例えば大学の教室で、その有効性を確かめます。ブレイルライトという携帯用点字ワ
ードプロセッサは、情報をタイプするだけでなく、保存することができるので、後で
点字ディスプレイを用いて読み取ることができます。技術の発達は、訓練生独自のコ
ミュニケーション方法への挑戦に合った独創的な戦略を発展させました。
83
図48盲ろう者スコット(発声)
応-m:私が読むことのできる方法が何かないものかと、私たちは何度も話し合
いました。そして、点字を目で見るというアイディアを考え出しました。つまり、私
の目で見えるくらいに点を大きくし、その6つの点で、点字lマスを形作ります。テ
キストファイルをこれらの点に変換し、1度にl文字ずつ読みます。そして、私はこ
のアイディアをコンピュータープログラムに組み込みました。このアイディアでは、
点字のマスは動きません。完全に止まっており、1度にI文字が表示され、それから
形を変え、次の文字を表示します。私たちが一緒に考え出したこの方法を、私たちは
ビジュアル・ブレイルと呼んでいます。
オリエンテーションとモビリティ訓練
オリエンテーションとモピリティ訓練は、さまざまな環境において、自立して、安
全に移動するための技能を習得する機会を訓練生に提供します。ヒラリーは白杖技術
を向上させるためにキャンパス内の憤れた道で練習をしています。
84
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CROSSSTREET。
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pH■:Imロ■・【
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縄w対1
図49道路を渡る時に盲ろう者が手引き者を得るためにかかげるカード
B,J・はポート・ワシントンの村で、地域の人に支援依頼をして目の見える手引き者
を活用して安全に通りを横断したりします。地域社会には、社会参加のための機会が
たくさんあります。歩行訓練が終わると、訓練生たちは地域のレストランに集まって
軽い昼食をとります。この他に伝統的訓練プログラムには自立生活訓練があります。
85
白市堆活訓練
■!匙
図50自立生活訓練の様子(2組の訓練生と指導員)
・安全な調理
・家事
・家庭管理
・衣類管理
.メニュー作り
・銀行利用と家計運営
訓練生は故郷の地域社会で、できる限り自立して生活をするための技能を習得しま
す。訓練は訓練生の能力や可能性、好みのライフスタイルに適応しています。グルー
プホームや、援助付きアパート暮らし、地域社会の支援を受けながらの自立生活など
の多伎な将来の生活状況に対し準備を行います。訓練の最終段階では、訓練生はキャ
ンパス内のアパートか地域のアパートのどちらで暮らすかを選択します。
86
ロ:■EH目I四目肥回皿■部二■■。■■羽
図51アパート
AIMプログラム
アパートでの共同生活を意味するAIMプログラムに参加すると、訓練生には4ヶ
月から6ケ月の期間、ポート・ワシントンにある3つのアパートのうちの1つに居住
する機会が与えられます。そこで訓練生たちは、自立生活訓練で習得した技能を改善
します。アパート生活を送るという経験は、自信を築く助けとなります。家計管理や
帳簿管理、メニューを考えること、食料品の買い物、住民とのコミュニケーションは、
自信を必要とする日常の作業です。自分でアパートで暮らすことは、訓練生にとって、
教室での訓練では得られない貴重な学習経験です。
87
サポートグループ
pportGr
図52サポートグループの様子
HKNCの訓練生たちにはサポートグループに参加する機会があり、彼らに共通し
ている視覚と聴覚障害の問題について話し合います、例えばアッシャー症候群(1)型、
(2)型、(3)型の違いなどについてです。アッシャー症候群のサポートグループは週1
回、ミーティングを開きます。メンバーたちの感情や意見あるいは不安などを分かち
あうことができ、安心して話し合う環境ができています。ここは、サポートを与えた
り、求めたり、見つけたりする場です。アッシャー症候群をであるHKNCの訓練士や、
臨床ソーシャルワーカーも参加しています。同じような人生経験や言葉、文化価値を
持った新しい友人と出会う機会があることは、このサポートグループの重要な特長で
す。グレッグがアッシャー症候群の仲間たちと過ごす心地良さについてコメントしま
す。
|ワアーヲ列(手話):自分がアッシャー症候群であると初めて分かった時本当にシ
ョックを受けました。それからヘレン・ケラー・センターに来ました。周りに私と同
じような状況の人たちがいたことは、本当に助けになりました。アッシャー症候群の
人たちといると、大変心地よく過ごせます。以前は、アッシャー症候群は世界中で自
分独りだけだと思っていました。でもここに来て、みんなと会い、簡単に会話できる
ようになり、社交的になり、本当に快適になりました。
88
パーソン・センタード・サービス
個人を中心とした支援サービスはHKNCにいるすべての訓練生に提供されます。ケ
ースマネージャーが訓練生ひとりひとりに密接に関わり、各人が評価と訓練プログラ
ムに満足することを保障します。ケースマネージャーは統合訓練チームによる支援サ
ービスもコーディネートします。例えば以下の通りです。
・支援サービス
・臨床ソーシャルワーク
・精神療法
・医療サービス
・言語療法
・ロービジョン
・聴覚
訓練生は1週間に1度行われるマン・ツー・マンでのカウンセリングに参加するこ
とも選べます。
言語療法
一議繭薦而甫扇
部ロ■:■ロ■副ヨHUDⅢヨ、
89
図53盲ろう者(左)と言語療法士(右)
ここの言語療法士は、言語的治療、コミュニケーションの拡大を含むコミュニケー
ション技能訓練とを担当しています。
FF百コ:私は他の人達とのおしゃべりが好きですし、教えることも好きで、うま
く発表するように心掛けています。きちんと調整されたスピーチ技能を保ちたいと思
っています。
ロービジョン
ロービジョン専門家は視力検査士や視能訓練士と協力して働いています。機能的ロ
-ビジョン評価をし、残存視覚を最大にします。
聴覚
図54訓練士と盲ろう者。補聴器の適合。
聴覚評価では、聴覚補助具や補聴器など、音性拡大機器よって残存聴覚を最大にす
方法を決定します。コミュニケーションの方策は、多様な環境と社会との相互関係
る方法を決定します。コミュニケーションのう
において訓練と支援によって探っていきます。
90
芸術訓練とレクリエーション活動
::i1iimlI1蓬i11IiIii
図55ドライフラワーのアレンジメントをする盲ろう者
夕方や週末には、訓練生達の時間の使い方は多様です。芸術訓練とレクリエーショ
ンプログラムによって、技能や趣味を発展させる機会が提供されます。芸術訓練部門
では多様な媒体と指導を受けることができます。訓練生の自己表現の手段にもなりま
す。ドライフラワーのアレンジメントラッチフッキングIatchhooking、粘土細工、
革細工、陶芸、絵画があります。将来に楽しく続けられるよう、創造する意味を発見
するところです。
91
訓練生の課外活動会議
図56訓練生による余暇についての話し合い。各人に通訳がつく。
毎週の課外活動会議で、訓練生たちは夕方や週末のレクリエーション活動の計画を
立てるための意思決定過程に意見を出し合います。1ヶ月のカレンダーに特別な行事
や特別活動を書き込み周知します。
92
レクリエーション部P目
部門
尋
図57レクリエーション専門職のマリカル・マルケス
●●
皿
私の名前はマリカル・マルケスです。ここへレン・ケラー・センターの
レクリエーション専門職です。ギャローデット大学の修士課程で学んでいた時に実習
ヨン専門職です。ギャローデット大学の修士課程で学んでいた時に実習
てこのヘレン・ケラー・センターに来ました。その後に夏期プログラム
生として初めてこのヘレン・ケラー・センターに来ました。その後に夏期プログラム
ション助手になり、ここで働くようになりました。レクリエーション部
のレクリエーション助手になり、ここで働くようになりました。レクリエーション部
門では盲ろうの訓練生に、夕方や週末の時間、いろいろな活動を提供しています。キ
ャンパス内の活動もキャンパス外の活動もあります。キャンパス内での最も人気のあ
る活動は、パーティを企画することです。訓練生たちは、様々な機会に誕生会などの
計画をするのが大好きです。これは、訓練生たちの交流パーティです。新しく入った
訓練生は他の訓練生から学ぶことができます……おそらく、盲ろうの訓練生と会うの
はこれが初めてです。工芸の時間もあります。ゲームもします。戸外での活動も企画
します。訓練生たちがウォーキングを楽しむ運動場もあります。センター内に訓練生
が使える体育館もあります。ロング・アイランドやニューヨークへも小旅行に行きま
す。こういった活動は夕方だけでなく昼間にも行われます……1日がかりの活動では、
93
博物館にも行きます。動物園に行ったこともあります。 乗馬やロッククライミングの
ような素晴らしい活動もあります。
支援サービス 提供者
図58支援サービス提供者と盲ろう者(中央の男性)
訓移
訓練生は支援サービス提供者 (SSP)とボランティアを利用できます。SSPは、
楽しみのために外出したいときに利用されます。
練生が個人的な用事やサービス、楽しみのために外出したいときに利用されます。移
動介助、銀行利用の介助、宗教や地域での個人的活動に参加する際の介助などを提供
します。ボランティアは宿題や手紙書きの介助をしたり、レクリエーション活動の介
助を行います。
HKNC
PATHおよび伝統的プログラムの目標は、職を得て継続していくのに必要な技能を
獲得することです。さらに、訓練生はうまく家事をする技能も習得します。それぞれ
の訓練生は、HKNCのケースマネージャー、地方代理人、協力してくれるメンバー、
94
家族からなるチームと共に、州立職業リハビリテーションカウンセラーや障害ケース
マネージャーとも密接な関わりを持って働きます。職を得たり住む場所を見つけたり
するための段階を判断します。段階によって関わりを持つ人が違う場合があるからで
す。HKNC地方支部とHKNCと他のサービス提供者や支援チームの他のメンバーは、
訓練の初期段階から計画に参加しています。一方、訓練生はHKNC職業訓練専門家
とケースマネージャーの支援を得て、職能開発のような活動をし、住む場所を探し続
けます。
図59女性盲ろう者
岡王盲Z~ヲ署1:自宅に戻ったら、仕事に就くつもりです。獣医師の助手になるため
に短大に行って2年間の課程を修了することも考えています。そうしたら、動物管理
士になれますから。
95
図60男性盲ろう者一スコット
反ヨーワーF1:私は引き続きヘレン・ケラーセンターにいて.点字プログラム部門に
いた時と同じメンバーと一緒にコンピューター技術部門で非常勤で働きます。それか
ら今、私たちは独特な重複障害を持つ訓練生を助けるために新しく設置された研究事
に従事していますで。そこでは、この学校が私を助けてくれたように、そのような訓
練生の生活を助けるためのコンピューター関連技術と適応補助具の開発を行ってい
ます。
96
HHU塵ロー鵬T弓HUB■■
図61盲ろうのカップルースコットとサンドラ
毎ラーF弓l:ヘレン・ケラーセンターは、大学を続ける自信を私につけさせてくれ
ました。それから、ここで、素晴らしい夫スコットと出会いました。私たち新婚1年
目です……7月6日に結婚しました。
反ヨーワーF1:現在、私とサンドラはニューヨーク州のヘンプステッドのアパートで暮
らしています。そこで私はホフストラ大学に通っています。サンドラは、マロイ大学
で聴講して単位をとっています。
ここに来たことは私の人生をがらりと変えました。私と同じような人たちがそばに
いるのは、私の人生で初めてのことでした。ここには心から親しむことのできる人た
ちがいて、彼らはこれから私がどんな経験をして行くのか分かってくれます。彼らは
私に、視覚を失ってからも人生は続いていくのだということを教えてくれました.
97
図62衣料品を扱うナンダーニ
ナンダーニがここに来てから1年以上経ちます。彼女はここでとてもうまくやって
います。私たちは去年彼女を雇いました。2ヶ月前に初めて査定をしましたが、彼女
はその査定でとても良い結果を出しました。
98
---
-1■
11
図63パン屋で働くリックベット(左)と店主
「マフ屋、;詞:私がリックベット・マルギストと一緒に働きはじめた頃私はいわ
ゆる障害者と一緒に働くというのがどういうことなのか疑問がたくさんありました。
私にはその疑問に答えることはできません、というのは、私はリックベットに障害が
あると思っていないからです。彼と私の関係は他の人と変わりません。月曜日に仕事
に来ると、l日中フットボールのことを話します。彼はジャイアンツの大ファンなん
ですよ。私たちはおおいに楽しんでいます。彼は他の人と同じように分かっています。
彼が聞き損ねると、私が教えます。そして嬉しいことに、彼が私に教えてくれるほう
が、私が教えるよりも多いのです。私が彼から学んでいることは、彼が私から学んで
いることよりもずっと価値があると感じています。
99
望里・mBUm■■
旧■、■UBI■HuID1ご口E1口■
ロピ四u-HE・皿Ⅲ、l ̄UlRp
図64マクナルテイ所長
F万子兀宇ラ7所司:このビデオテープは、ニューヨーク本部におけるリハビリテー
ション訓練プログラムに主眼をおいていますが、私たちはプログラムやサービスを全
米で提供しています。高齢者プログラム、国立の訓練チーム、HKNC支部、そして
提携ネットワークなどがあります。これらすべては州や地域の機関に盲ろう者サービ
スを提供する能力を増強するためにデザインされています。盲ろう者の自宅のある地
域社会において、彼らへのサービス提供を行う州または市町村機関の受け入れ拡大の
ために設立されたものです。これは確かに挑戦的事業でありますが、私たちは成功を
おさめてきたので、心底やり甲斐があります。何度も繰り返し申し上げますが、盲ろ
う者は、適切な教育プログラム、良質の職業訓練、必要なフォローアップサーピスと
支援を通し、地域で自己選択によって生活し働くことができることを実証してきまし
た。
100
図65盲ろう男性
h言う言~夛勇圏:ヘレン・ケラー・センターは、私が自分の将来を見つめることを本当
に助けてくれました。あなたもここに来て、あなたのニーズに合った訓練を受けられ
ることを心から望んでいます。
詳細情報はこちらへ:
HKNC
l-800-255-0422x275
101
第3章米国における盲ろう者サービス
1.これまでの盲ろう者サービス
米国で教育を受けた最初の盲ろう者は、ローラブリッジマン(LauraBridgman)で
ある。彼女は1829年、ニューハンプシャー州に生まれ、1837年にマサチューセッツ
州にあるパーキンス盲学校への入学を許可され、初代校長であるサミュエルグリド
リーハウ(SamuelGridleyHowe)のもとで教育を受けた。彼女は指文字
(fingerspelling)、凸字本(raisedletter)を使ってコミュニケーションをとった。
2人目の教育を受けた盲ろう者であり、もっとも有名な人物がヘレンアダムス
ケラー(HelenAdamsKeller:1880-1968)である。パーキンス盲学校(Perkins
lnstitutefortheBlind)のアンマンスフィールドサリヴァン(後にメイシ
ー)(AnneMansfieldSullican,laterMacy)と共に7歳から読み書きの特別教育を始
める。彼女はラドクリフ大学に入学することができ、1904年には主席で卒業する.そ
の後彼女はマサチューセッツ盲人委員会(MassachusettsComisisionfortheBIind)
で働く。生涯を通して彼女は、アメリカ盲人財団(AmericafoundationfortheBlind)
のために働き基金を募り、またイギリス、フランス、イタリア、エジプト南アフリ
カ、オーストラリア、日本といった世界の国々を旅した。ケラーは平和主義者でもあ
り社会主義運動にも積極的だった。第2次大戦後彼女は、退役戦傷者を病院に見舞い、
そしてヨーロッパでは身体障害を持つ者の代表として講演した。
1900年以来1950年までに、パーキンス盲学校(PerkinsSchoolfortheBlind)・
ニューヨーク盲学校(theNewYorklnstituteforttheBlmd)・オーバーブルック
盲学校(OverbrookSchool(ortheBIind)・ミシガン盲学校(MichiganSchoolforthe
Blind)・テキサス盲学校(TexasSchool[ortheBlind)・イリノイ視聴覚補助学校
(IllinoisBrailleandSightSchool)といった学校で盲ろう児に対するプログラム
がいくつか作られた。
盲ろう者に対するリハビリテーションおよび職業指導サービスの発展は最近のも
のではない。ルイスベッティカ(LouisBettica)によれば、職業指導サービスは、
1924年に始まった盲人のための産業ホーム(IndustrialHome[ortheBlind--IHB)
をとおして職業指導を受けることが可能であった。ベッテイカはIHBの盲ろう者部
門のディレクターであり、この分野の草分けであるが、1945年に正式なプログラムを
設け、盲ろう者のためのプログラムの基礎を形作った。彼は全米にある盲人の機関が、
指話用のアルファベット(AmericanSignLanguagemanualalphabet)を用いた指文字
通信を学ぼうとする盲ろう者のための委員会を作ることを提唱した。
彼は、盲ろう者であるクライアントと共に作業するためのプロセスを示した。それ
は次のように要約される。
・医学的経歴を含めた個人の完全なバックグラウンドを把握する。
102
・クライアントの自宅を訪問し、プログラムに関しての完全な承認を得る。
・ワーカーはクライアントと互いに知り合い、居住と訓練に関する必要条件を説明
する。
・クライアントに設備や作業所のオリエンテーションをおこなう。
.「非熟練操作(unskilledoperation)」の訓練を施す。
・クライアントに当人の問題をサポートしてくれる人物について教える。
1947年IHBの盲ろう者部門は35名の盲ろう者にプログラムを実施し、そのうちの
17名をライトボーイ事業(LightBuoylndustries)として知られる作業所で雇用した。
ここで特記されるのは、これらのサービスを施されたのがすべて男性であったことで
ある。
1962年から1964年にかけて世界的に流行した風疹は、数千人の盲ろうを持った子
供が生まれる結果をもたらした。5000名以上が盲ろうとみなされ、この伝染病は、こ
うした子供たちのニーズに対応する設備や専門家が不足していることを浮かび上が
らせた。
1967年のリハビリテーション法の改正を通して,ヘレンケラーナショナルセンター
が設立され、全米および米国領土内の盲ろう者を対象とした「ナショナルセンター」
として運営される。センターは徹底的で包括的な評価と訓練を提供するために企図さ
れ本部はニューヨークのサンズポイント(SandsPoint)に置かれた。
1968年米国議会で、盲ろうを持つ子供と青年のための施設とサービスを確立するた
めの法律90-230が通過した。学校プログラム、子供から22歳までを対象とした直接
的サービスの拡充に焦点が置かれ、盲ろう児に対する地域プログラムの促進を図るた
め10ヶ所の地域センターが設立された。盲ろう者のための教員を養成するために、
ボストン大学(BostonCollege)、ポートランド州立大学(PortlandStateUniversity)、
サンフランシスコ州立大学(SanFranciscoStateUniversily)、ジョージピアボディ
大学(GeorgePeabodyCollege)、ハンター大学(HunterCollege)、ミシガン州立大学
(MichiganStateUniversity)その他に連邦基金が提供された。
1975年米国議会で障害者に自由で適正な教育を保障するための法律94-142(障害
者教育法)(theEducationo[theHandicappedAct)が通過した。1983年に改正され、
盲ろう児へのサービスに対する優先事項が与えられる。1987年および'989年、教育
省(US・DepartmentofEducation)から盲ろう児を対象とした資金提供の廃止がうな
がされたが議会はそれを拒否した。1988年、特別サービスの継続を訴える全国盲ろう
連合(NationalCoalitiononDeaf-B1indness)が組織される。1990年には障害者教育
法(Educationo[theHandicappedAct-のちにIDEA・Thelndividualswith
DisabilitiesEducationActに改名)の再有効化(re-authorization)で盲ろう児に対
する連邦プログラムが継続され、盲ろう児(者)に関する情報の収集と普及を目的と
した国立の情報センターが設立された。
103
2.米国における盲ろう者サービス内容の概略
米国は、出生から老齢期までのあるべき教育、リハビリテーション、サービスの包
括的なシステムを実現させることを目的としてきた。
盲ろう児によるニーズは各州の教育制度の中で述べられている。方策は以下のよう
に述べられている。10代の盲ろう者が中等の教育機関から、単科大学や仕事に進む場
合、教育制度、成人リハビリテーションシステム、国立技術支援連合(National
TechnicalAssislanceConsotium)の協力を通してサービスを受けることができる。
成人の盲ろう者は地元の州で、盲ろう者の為の委員会、州のリハビリテーション部
門、盲ろう特別プロジェクトおよびヘレンケラーナショナルセンターからサービス
を受けることができる。高齢者は、州の高齢者部門、及びヘレンケラーセンターの高
齢者プログラムからサービスを受けることができる。
3.盲ろう児及び盲ろう者に影響を与える主要な法律
米国には、盲ろう者に大きな影響を与える法律が多くある。各州、市や郡など地方
行政が盲ろう者に関する法律を制定しているが、全米で適用され、最も普及している
のが連邦法で、これは議会を通過し、大統領によって署名されるものである。主要な
法律を以下に要約する。
<障害を持つアメリカ人法>(TheAIlericanswithDisabilityAct--ADA)
本法(1990年7月26日制定)は、米国社会を障害者に、より開かれたものにする
ことを目的とするもので、広範囲の内容をもつ法律である。
本法は5項目に分かれる。
・雇用(項目l)
全ての雇用環境において障害者個人の権利を保護する適切な設備が提供されなけ
ればならない。
変更には、制度改革、職場内の設備配置の変更、設備の充実化などといったものが
考えられる。雇用環境には、申請過程、雇用、賃金、保障、その他全てが含まれるで
あろう。健康診断は、特に規制される。
・公的サービス(項目2)
公的サービスは、州、及び地方当局によるもの、NationalRailroadPassenger
Corporation、その他の交通機関を含み、これらの組織は、健常者の利用内容につい
て、障害者を拒否することはできない。さらに、公立バスなどの公的移動機関は、障
害者が利用しやすい状態になっていなければならない。
・公的な設備(項目3)
全ての新規の建築や改造は、障害者を考慮したものでなければならない。たとえば
現存する設備、サービス上の障壁は前もって可能な限り取り除かれなければならい。
公的な収容施設には、個人的な移動機関、レストラン、ホテル、スーパーマーケット
104
小売店などが含まれる。
・遠隔のコミュニケーション(項目4)
電話通話サービスを一般に提供する遠隔コミュニケーションサービス会社は、聴覚
障害者が用いる電話福祉機器(TIvY)等を利用する個人に電話の取次ぎサービスをし
なければならない。
・その他(項目5)
その他には、ADA法にもとづいて権利を主張するなかで、障害者盲ろう当事者や
擁護する人に対して(a)強制、脅迫もしくは(b)復讐を禁止する規定が含まれる。
ADA法は、基本的に障害を持つ個人に真っ先に適用されるが、排他的ではない。
個人が以下のどれか一つに該当するならば適用される。
・身体的、精神的障害によって事実上、生活活動が制限されている。
・障害の記録を持っている。
・障害があると認識されている。
その他、次のような環境下の個人にも該当する。
l)障害があることが知られている個人と交流のある両親によって保護されている
者。
2)ADA法にもとづいて障害者の権利主張を支援することによって脅迫や復讐に遭
っている者。
ADA法の雇用提供が15人以上の労働者を持つ雇用者に適用される一方で、公的設
備の提供は、労働者の人数にかかわらず、あらゆる規模の業務に適用される。州と地
方行政は、その規模は関係しない。
一般的に、ADA法は、行政機関、企業、サービス提供者、雇用者が障害者の参加
を妨げている障壁を取り除くことを望んでいる。変更に多くの資金がかかる場合には
いくつかの例外がある。全ての変更ができない場合は、変更が盲ろう者、聴覚障害者
にとってより開かれたものになるよう可能な限りの努力をしなければならないとし
ている。
さらに本法では、盲ろう者は行政機関や企業に、コミュニケーションを取るために
何が必要かを知らせる必要があるとしている。ノート、通訳、盲ろう者用のTDDの
ような電子機器は、すべてコミュニケーションをとる為の手段である。
州、地方政府には、政府事務局及び裁判所とともに、行政機関やサービスが含まれ
る。これらのなかには社会的サービス機関、刑務所、警察/消防、学校制度、公共ス
イミングプール、自治体運営のゴルフコース、市民集会施設、くじ引き施設、動物園
がある。盲ろう者はこれらのサービス施設に参加できるようでなければならない。
政府機関は、盲ろう者のニーズがあった場合、熟達した通訳者を提供する必要があ
る。通訳者を指名する前には、その人物に同意を得なければならない。このとき料金
を支払うのは政府機関である。聴覚補助機器も要求があって適切な場合は使用される
こともある。
105
店舗、会社、ホテル、劇場、レストラン、小売店、銀行、博物館、公園、図書館、
私立学校、などこれら全ては盲ろう者とコミュニケーションをとる為の補足的支援や
サービスを提供しなければならない。文書化されているものもときに十分なコミュニ
ケーション機能を果たすことがある。その他の場合、聴覚補助機器、TDD、または通
訳者が必要とされることがある。
公的収容施設、ホテルなどの業務では、通常の電話が使用できるときはTDDが提供
されなければならない。ショッピングモール、病院の待合室、球場、会議施設、空港、
その他4台以上の公衆電話が設置されている建物には最低1台のTDDが設置されて
いるべきである。
政府から補助金を受けている病院では、盲ろう者に対し、一般と変わらないサービ
スを提供しなければならない。病院側は、盲ろう者の医師、看護婦とのコミュニケー
ションを確実にできるようにしなければならない。重要な情報の伝達が必要なときは、
熟達した通訳者を提供しなければならない。重要な情報の伝達とは、病状、またどん
な治療内容が必要であり可能であるかなどである。その他に、支払い、文書への記入、
医療情報の提供、また,いつ治療が終了するかなどがある。病院から提供された通訳
者の伝達内容が理解できないときは、別の通訳者に依頼してもよい。病院は通訳者提
供料を盲ろう者に課すことはできない。個人の臨床医もADA法に従うことが要求さ
れる。
ADA法では、雇用者は募集要項、雇用、解雇、賃金、昇進、その他労働者として
受けられるあらゆる保障において差別することはできない。このことは、熟達した通
訳者が面接時に立ち会うことができるようにしておくべきことを意味している。募集
時に口頭の審査がなされるとき、盲ろう者には適正な筆記審査を設けなければならな
い。盲ろう者は、仕事の重要な部分を介助なしでできるようでなければならない。雇
用者は盲ろう者に,仕事の機会を与えるために、可能なときはいつでも仕事を変更さ
せるべきである。
く障害者教育法>(IndividualswithDisabilitiesEducationAct-IDEA)
障害者教育法(IDEA)は、障害を持つ子供に対する適正な特殊教育と関連サービスを
保障するため、州、地方教育機関に連邦財政補助を提供するための教育法である。
多分野の専門領域から構成されるチームによって、Iから13の障害分類に該当し、
特殊教育と関連サービスを必要とすると決定された3歳から21歳までの子供(若者)
は、この法が適用される。分類は、自閉症、ろう、盲ろう、聴覚障害、精神遅滞、重
複障害、肢体不自由、その他の健康障害、重篤な情緒障害、顕著な学習障害、発話・
言語障害、外傷性脳損傷、視覚障害の13項目である。
本法律は、自由で適正な公教育を提供する責任を発生させる(afree,appropriate
publiceducation-FAPE)。mPEは、特殊教育と関連サービスにおける定義である。
特殊教育とは「障害を持つ子供の個別のニーズにこたえるため、両親は無負担で、特
106
別に企画された指導のこと」をいう。関連サービスは、児童が特別に企画された指導
から利益を得るために、それらを要求する場合に,提供される。州は、「完全な教育機
会」を全ての障害を持つ子供に供給することが要求されている。
IDEAは、明確な内容を持つ文書とIEP会議への規定人数の参加を通して、独立し
た教育プログラム(IndividualizedEducationProgram--IEP)の発展を要求している。
IDEAは、法律中の項目、BとHに基づき、障害を持つ乳幼児、子供、若者を支援
するというIDEAの要求にかなう州と地方教育機関を援助するために連邦基金を提
供する。IDEAはまた、属性、評価、配置に関して、両親への注意書きを要求する。
さらに、注意書きはいかなる配置の変更にも先立ってなされなければならない。
総合的評価が要求される。多分野の専門領域から栂成されるチームは子供を評価す
るが、最初の評価の前には両親の同意が求められる。IDEAは、少なくとも3年おき
に再評価がなされることをもとめている。評価と、配置の評価において、IDEAは、
1つ以上の方法、情報源が用いられることを求める。あらゆるところからの情報は、
資料化され性意深く検討される。適性を判断する際は、その児童のこと、評価データ、
配置の選択肢をよく知る者の集まったグループによってなされる。配置の決定は、児
童に最も制限のない環境を提供するものとする。
IDEAは、地方教育機関に対し、子供の属性、評価、配置に同意していない両親に、
公平なヒアリングがなされるよう明確な要求を描出している。
く1973年リハビリテーション法>(TheRehabilitationActoM973)
リハビリテーション法は、連邦機関によって指揮されるプログラム、連邦財政補助
を受けるプログラム、連邦による雇用、連邦と契約を結ぶ者の雇用現場において、障
害に由来する差別を禁止している。リハビリテーション法下での雇用差別判定の基準
は、ADA法の第1項と同じである。
501条では、行政機関の中の連邦政府関係機関による雇用における積極的差別撤廃
措置(affirmaliveaction)と非差別(nondiscrimination)を求める。より多くの情報
収集と、不満を整理するために被雇用者はこれらの機関の雇用機会均等事務局(Equal
EmploymenlOpporlunityOmce)に問い合わせる必要がある。
503条では、積極的差別撤廃措置を要求し、連邦政府との契約者、および$10,000
以上で契約している準契約者による雇用差別を禁止している。
504条では、「米国内の認定されたすべての障害者は、連邦政府から資金援助を受け
ているか、もしくは、行政機関、米国郵政機関によって運営されるあらゆるプログラ
ムにおいて除外されたり、利益を受けられなかったり、差別状況下に置かれるような
ことがあってはならない。」と規定している。
各連邦機関には、機関独自のプログラムに504条を適応させた独自の規定がある。
連邦資金援助を受けている機関でも、機関全体に適用される504条に即した規定があ
る。これらの規定に共通している項目には、障害を持つ被雇用者にとって適切な収容
107
設備を整えること、プログラムへのアクセシビリティ、視覚および聴覚障害者との有
効なコミュニケーション手段を整える。新規の設備工事、改築に容易に応じられるよ
うにすることなどがある.各機関は、これらの規定が守られることを強化する責任が
ある。504条は、民事訴訟を通しても強化される。法廷に臨む前に、連邦機関への不
満を提出したり、また訴訟を起こす権利を認める文書(right-to-sueletler)を受け
取る必要は必ずしも必要なものではない。
508条では、連邦政府による電子機器、情報技術の入手、発展、管理を規定してい
る。508条では、障害を持つ被雇用者、および市民が連邦の電子機器、情報技術が利
用しやすい状況にあらねばならないことを規定している。
利用しやすい情報技術システムというものは、多岐にわたる方法で運営されるもの
であり、利用者1人の感覚と技術に頼るべきものではない。例えば、出力方法が視覚
的なものである場合は、視覚障害者は利用することが困難である。また、音声出力の
ものは、聴覚障害者にとって不便である。障害者は、508条に則って、情報システム
を利用する事を可能にするためのソフトウェア、周辺装置を必要としている。
4.盲ろう者を含む障害者に関する数値
全米の人口と障害者に関して用いることのできる統計はさまざまにある。今回、厳
密な統計は必ずしも網羅できてはいない。推定では、全米に約40,000から70,000人
の盲ろう者がいる。ウェスタンオレゴン州立大学の教育調査部門の研究では、5,000
人以上の子供と若者が確認されている。推定では、約11,000人はいるであろうと考
えられている。一般的に、重複障害をもって出生する確率は10万人に3人の割合で
あると考えられている。盲ろうの原因にはいろいろある:風疹、CHARGE連合、ア
ッシャー症候群、遺伝子異常、事故、そして病気などによるものが多い。
以下の数値は、盲ろう児(総数:9,514人)の国家データベースを管理している国立
技術支援連合(NationalTechnicalAssistanceConsortium:NTAC)の報告によるもの
で、2001年に米国で用いられたものである。
不確定.………...…….….……..………...….….
108
11
更なる検査を要する…..………....……..……….…….
22
光の認識(Iightperception)……….….…..………..……
光の認識がまったくできない…….….…..…..……………
皮質性視覚障害(corticalvisualimpairment)……..….…….
進行性視覚喪失(progressivevisionloss)…...……….....…
%%%%%%%%
法律上の盲(legallyblind)(良いほうの視力が20/200以下)……
26992219
視覚障害分類で報告された盲ろう児
視力低下(良い方の視力が20/70~20/200)….………..…
聴覚障害で報告された盲ろう児
(5段階)
軽度(25-40dB喪失).……...…20%
中等度(41-55).………………20%
中等度から重度(56-70)……..…16%
重度(71-90).…....……….…21%
最重度…..…….……………3%
付随する障害が報告された盲ろう児
行動障害….…………….…………………
複合的ヘルスケアを必要とする…….....………
その他の障害...……….….……………….
%%%%%
認知障害………………………………….
79872
5633
身体障害……...……….…………………
病因分類で報告された盲ろう児
11
その他の胎児期合併症……..…..…………….
その他の出生後合併症、先天的でない……………
CHARGE症候群…………….………………
小頭症.……….…………….….…………
髄膜炎……..…...……………….……….
窒息………..…………..….…………….
サイトメガロウイルス(CMV)…….….….…….
水頭症……………….……………………
アッシャー症候群……………………………
1
不明…...……..…...….…………..……
%%%%%%%%%%%%
その他の遺伝性症候群.……………….….….
217654433337
早発症の併発(complicalionsMprematurity)……
ヘレンケラーセンターでは成人の盲ろう者約7000人のデータ ベーススを管理してい
る。このデータに基づいた調査で次のようなデータが示された。
盲ろう者の病因
アッシャー症候群
タイプI….……………...….……....… 22%
タイプII…....….….…...……....……. 13%
タイプ111..…........……….……………
109
1%
明確ではない/疑わしい……………………14%
合計…....….…….……………………50%
風疹……………….…..…………….….36%
ダウン症候群.………..…........…..………2%
レーベル病…..………...………………1%未満
神経線維腫症…..……………………….1%未満
他の多くの医学的状況や症候群も盲ろうの原因と考えられるが、それらの報告は全
て全体の1%未満である。
5.障害者の資格・障害の定義
米国には、個人の障害を登録する為の全米の統一基準や「手帳」は存在しない。政
府からの保障、政府および私的機関からのサービス、法的権利の擁護を得るなど、個々
において障害認定が必要とされる。
例:.州立の盲人委員会から援助を受けるためには、法律上の盲人(legallyblind)
でなければならない。「法律上の盲人」はアメリカでは一般的に受け入れられ
ている表現で、良い方の目の矯正視力が20/200以下であるか、視野が20で
ある(subtend20degrees)場合をいう。
・好適交通機関で割引料金で利用するには、医学的検査によって診断される身
体障害があることを医師によって証明される必要がある。障害を持つ個人は、
医学的証明の後、パスや電車を利用する際の証明書が発行される。
・子供の場合は、専門家による総合的教育チームが評価し子供の障害を報告し、
その子供に適した学校を紹介しなければならない。
国の統一基準が存在しないため、州、政府機関等の規定にしたがって何千という基
準が存在している。
例えば、ADA法では、
ADA法において障害があると認められるのは、当人が(1)生活活動が実質的に制限
されるような身体的もしくは精神的障害を有している場合、(2)障害の記録がある場
合、(3)障害があると認識されている場合である。当人はこれらの定義のうちの少な
くとも一つを満たしていなければならない。それを判断する者はまず、当人が最初の
定義を満たしているかを判断しなければならない。もし、当人が最初の定義を満たし
ていないと判断される場合、もしくは判断しかねる場合は、第二、もしくは第三の定
義に当人があてはまるかどうかを判断する。
IDEA法では、次のように述べられている。
障害を持つ子供:
(A)一般的に「障害を持つ子供」とは、以下の場合である。
(i)精神的遅滞(,mentalreterdation)、聴覚障害(ろうを含む)、言語障害、視
110
覚障害(盲を含む)、重篤な感情障害(emolionaldisturvances)
(ii)これらの理由によって特殊教育や関連サービスを必要とする者
(B)子供とする対象年齢を3~9歳である場合、これは州や地方教育機関の自由裁
量であるが、
(i)州や診断機関の定義によって、次に挙げる発達の領域に-つ以上の遅滞が見
られる場合:身体的発達、認知的発達、コミュニケーション発達、社会的・
感情的発達、適応発達(adaptivedevelopment)
(ii)これらの理由によって、特殊教育や関連サービスを必要とする者
(アリゾナ)州の教育部門における盲ろうの定義は次のようになっている。
盲ろうは、聴覚及び視覚障害双方を有することが深刻なコミュニケーション障害
の原因となり、ろう、盲どちらかの特殊教育プログラムに適応させることができな
い場合を指す。34CFR300.7(c)(2)
全米では、次の様な盲ろう者の定義が一般的に用いられている。
.「盲ろう」は、視覚及び聴覚の重複した喪失のことを指す。これはまた、重複障
害(dualsensoryimpairment)としても知られている。完全失明と完全失聴によっ
て盲ろうとされる個人はほとんどいない。ほとんどの盲ろうと判断される子供は、
日常生活において有効ないくらかの視覚及び/もしくは聴覚を有している.
・盲ろう児の認知的,発展的能力は、先天的なものから重度の重複障害(mulliple
impairment)まで、幅広いものである。盲ろうと判断される80%もの子供が、その
他の障害をあわせもっていると報告されている。これらのなかには精神的遅滞、身
体的障害、社会的/感情的問題、そしてコミュニケーションの発達遅滞などがある。
・盲ろうは視聴覚の重複した喪失であるため、個人の数だけその障害の内容に違い
がある。このことから、まったく同じ障害を持った子供というのは存在しない。
6.財政と予算
盲ろう児に対する補助金は教育省から支出されている。一般的に、成人の場合は、
保健省(DepartmentofHeallhandHumanServices)から支出されている。
盲ろう児、家族、教育者を支援するプログラムが、各州もしくは数州にわたる地域
によって確立されている。このプログラムは「307-11プログラム」または、「技術支
援プログラム」と呼ばれている。プログラムは連邦政府が出資している。最大規模の
プログラムを実施している5州の1999年度の予算は次のとおりである。
州
カリフォルニア
イリノイ
州
ニューヨーク
盲ろう人口
%
$予算('99)
1,297
、118
600,000
425
.039
279,537
盲ろう人口
1,110
%
、101
111
$予算('99)
503,528
オハイオ、ウィスコンシン
723
、066
410,670
ペンシルヴァニア
474
.043
357,980
全米
11,013
1.00
9,199,964
7.盲ろう当事者、盲ろう者に関する専門組織・州立、地方組織
米国には、民間、公的な者を含めて、盲ろう者の為の団体が多くある。多くの盲ろ
う当事者・支援団体は、盲ろう当事者によって、設方運営されている。
(1)主要な団体
・アメリカ盲ろう者協会(AmericanAssociationoftheDeaf-BIind(AADB))は、
重複障害を持つ人のための盲ろう当事者アドボカシーグループで、盲ろう者、家族、
教育者への技術支援を提供している。
・全米盲ろう者家族協会(TheNalionalFamilyAssociationforDea[-Blind
(NmDB))は、ボランティアを主体とした団体で、盲ろう者の家族間のネットワー
クとしては全米最大規模である。
(2)主要な専門機関
・ヘレンケラーナショナルセンター(TheHelenKellerNationalCenterfor
Dea[-BIindYouthsandAdulls(HKNCD))では、居住設備を完備し、盲ろう者のリ
ハビリテーションを行っている。センターでは、全米に10ケ所の地域センターを
持ち、フィールドサービスとして、ケースマネージや美術、コンピュータ教育、自
立生活支援、医療、など多様なサービスを提供している。
ヘレンケラーセンターの他の公的、民間機関からもこのようなサービスが同様に提
供されている。
・全米盲ろう者技術支援連合(TheNationalTechnicalAssistanceConsorIium[or
ChildrenandYoungAdultsWhoAreDeai-BIind(NTAC))は、連邦資金によって運
営される団体で0~28歳までの盲ろう者の家族およびその支援機関に技術支援を提
供している。その目的は、盲ろう児の教育環境を整え、彼らの将来の就職と生活に
むけて準備することである。具体的支援内容としては、家族やサービス提供者に対
する訓練、情報提供、会合の開催などである。
(3)主な情報サービス提供機関
・DBリンク(DB-LINK)
DBリンクは連邦資金によって運営される情報サービスセンターで、0歳~21歳
までの盲ろう者に関する情報を扱っている。全米盲ろう児情報センター(The
NationallMormationCIearinghouseOnChildrenWhoareDea「-B1ind)によっ
て管理されている。4つの機関が情報提供に協力している。協力機関:アメリカ盲
ろう者協会、ヘレンケラーナショナルセンター、パーキンス盲学校、教育調査機関
(TeachingResearch)情報は全米の盲ろう者、家族、研究者、教育者、雇用者等
の問で広く利用することができる。
112
また、盲ろう者に利用されている出版物も多い。それらは、州や地域、団体によっ
て発行されている。
(4)政府機関
・教育省(UnitedStalesDeparlmento[Education)には、特殊教育リハビリテー
ションサービス事務局(TheOmceofSpecialEducationandRehabililalive
Services(OSERS))が設置されており、全年齢にわたる障害者の支援に携わってい
る。ブッシュ大統領の政策方針一LeaveNoChildBehindagendaおよびNewFreedom
lnitiativeに基づき、OSERSでは、特殊教育、職業リハビリテーション、調査研
究の主要三分野において個人、家族、学校、州に対して幅広い支援を提供している。
OSERSは、学校に対するガイドラインの提供や介入、統合雇用機会拡大の助長等
を通して、米国の障害者への対応を促進させるための政策を率先していく役目を果
たしている。
8.コミュニティ、在宅基本サービス
米国で確立された共同体主体の盲ろう者サービスのモデル事業で特筆すべきもの
が2例ある。
(1)HKNC/CBVHコミュニティサービスプログラム
1998年に既存のリハビリテーションプログラムを基本とした専門サービスチーム
を結成した。活動内容には3つの基本領域がある。
l)リハビリテーションティーチング
日常生活活動と自立生活手段の指導を行う。具体的には、調理、掃除、台所など
の家中の設備の使い方、火災報知期などへの対応の仕方などである。指導者は、基
本的コミュニケーション手段についても指導できるよう準備している。盲ろう者盲
ろう当事者の家内での自立を促進させるために、この訓練に家族も参加し方法を理
解することが奨励されている。訓練を受けた後も盲ろう当事者や家族の必要に応じ
てフオローアップがなされる。地域の公的交通機関を利用した移動方法の訓練も行
われる。
2)職業開発指導
適切な職能評価、職業指導、相談の継続によって盲ろう者はその能力に合った職
業に就業することができるという考えのもと、ジョブデベロッパーとジョブコーチ
が盲ろう者の就業をサポートする。ジョブデベロッパーが技能を評価し、盲ろう当
事者の希望を聞き雇用者と連絡をとる。ジョプコーチは、雇用された職場で仕事が
うまくいくように継続的に盲ろう当事者をサポートする。
3)ケースワーク
サービスが提供されてから1年がたつと、リハビリテーションが直接の影響には
なっていない問題が明らかになってくる。このような問題はしばしば家庭や職場で
の問題の原因となる.ヘレンケラーセンターでは盲人委員会(Commission[orlhe
113
Blind)からケースワーカーを雇用するための資金提供を受け、政府援助や医療、精
神面などに関する盲ろう者の問題解決をサポートするケースワーカーを対応させ
ている。
(2)オハイオ盲ろうサービスプログラムコロンバススピーチヒアリングセンター
(ODBOP)
盲ろう専門の担当者がオハイオ州全域に赴き、サービス提供や、関係設備との仲介
等をしている。サービス内容はヘレンケラーセンターのものとほぼ同じである。
9.収入
盲ろう者のなかにも雇用されている人はいるが、その数は少ない。盲ろう者で、職
歴(3ケ月連続の就労が40回以上)のある場合、もしくは盲ろう当事者が21歳にな
る前に両親が死亡した場合、社会保障障害年金(SSDI)を受給する資格が与えられ
る。支給額は大体一月あたり$1,000である。SSDIの受給者は医療保険年金の受給
もしている。
職歴のない盲ろう者の場合は社会保障SSIをうけることになる。一月の支給額は大
体$600から$700である。SSI受給者は、メデイケイドとして知られる医療保障を
受ける資格がある。
食料切符(FoodStamps)、住宅保障等のその他の年金も個人の状況に応じて支給さ
れる。
10.福祉機器
米国には、盲ろう者によって使用される多くの福祉機器がある。
・ブレイルライト:音声出力機能のついた点字ディスプレー
・ブレイルトーク:点字ディスプレー
・レーザーケーン:レーザーで障害物を感知し使用者に音声と振動で知らせる機能
を持った杖
.オムニページ:ポケットやベルトに携帯し、その音や振動によって電話やドアベ
ルが作動したことを知ることができる。
・ラルフ:現在改良中であるが、いろいろな機器に接続でき、指文字出力できる装
置
・タクトエイド:音を振動に変換でき、携帯して使用する装置
・トーキンググローブ:アメリカの片手による指文字アルファベット認識に用いら
れるグローブ
・テレブレイル:盲ろう者がTTYを利用するときに用いる装置
・テレタッチ:通常の文字配列のキーボードと点字で入力しピンディスプレーで出
力される装置だが、現在隼産されていないため入手困難である。
114
11.スポーツ、レクリエーション
盲ろう者には、以下のように多くのレクリエーションの手段がある。
・コンピュータ、インターネット上のチャットルーム
・全米盲ろう会議への出席
・盲ろう者支援団体
・保護者ネットワーク
・各地の盲ろう者サービスセンター
若者や成人の盲ろう者にとっての主な活動は、室内、屋外双方の多岐にわたる活動
を提供するキャンプに参加することである。多くの施設、団体が短期・長期のキャン
ププログラムを実施している。
まとめ
米国の盲ろう者支援の歴史はヘレンケラーに代表されるように19世紀後半以来の
歴史を持っている。1960年代の風疹の流行によって多くの盲ろう児が生まれ、それに
より盲ろう者サービスが拡充されることになった。
米国の盲ろう者サービスのあり方の特色は、まず州や行政機関ごとの独自のプログ
ラムに沿って盲ろう者の定義や規定に違いが見られることである。また、盲ろう当事
者、家族などによる団体、協会が多く設立されており、ネットワークが非常に充実し
ている。情報公開、交換も盛んで、これがサービス内容の発展に有効に働いている。
リハビリテーションプログラムは、個人の自立に目標を置いた内容になっており、
特に日常生活での自立と可能な限りの就業を積極的に支援している点が特徴的であ
る。
115
第4章盲ろう者向け福祉機器
~盲ろう者むけ時計開発への期待:触読式置時計を考える~
触読式置時計を考える会
中澤惑江・榮晃柴・岩原秀子・渡辺智恵子・別府あかれ・藤鹿一之・森貞子
尾崎伊佐子・石田良子
1.触読式置時計への私たちの思い
はじめに、盲ろう者むけの触読式置時計開発に向けて当事者、家族、関係者からの期待を
込めた意見を紹介する。
①「触読式置き時計が必要とされる訳」
岩原秀子(社会福祉法人光道園)
私は、施設で盲ろう者の生活支援の仕事をしています。一昨年、50歳代で、網膜色素変
性により視力を失い、中途盲ろうになり、施設入所された女性を担当することになりました。
入所当時の彼女は、どことなくいつも悲しそうな表情で、まるで能面のような顔つきで、
笑顔はほとんど見られないといった感じでした。視力を失って、家族と別々な生活を余儀な
くされたショックは大きく、身辺面などは他人の世話を受け、移動面においても食事や、入
浴などいつも誰かに連れて行ってもらう、無気力に近いような生活を送っていました。
彼女と話しをしていくうちに、まだ視力が幾分残っていた頃の楽しかった思い出話、その
話しの中で、いつも何時に起きて、何時に仕事に行ってとかという、「何時!」という手書
き文字がありました。私はふと気づきました。時間の概念はあるし生活の組立ても、自分で
きちんとできていたのだから、ただ、視力を失ったので、時計を見ることができなくなって
どうしていいかわからないまま、きてしまったんだと・・
そこで、触るということで、時計というものを理解し視力のあったころのような、生き生
きとした生活をなんとか取り戻してほしいと思い、触ってわかる時計がないものかと考え、
触読の腕時計を一度触ってもらいました。が、今の彼女はまだ視力を失ったショックから立
ち直ることが出来ないためか、「目が駄目だから」「細かいものは触りたくない」と、とても
拒否的な反応が多く見られました。やはり、いきなり触読の腕時計を把握するのは無理で、
ましてや消極的な性格の人は難しいと感じました。大きいものから徐々に小さなものに移行
できるような方法をとらないとだめだと感じました。
そこで、市販されている触読の置時計はないものかと、あちらこちらとあたってみました
が、過去は販売していたが、現在販売されているものはないとのことでした。
116
ない!だけど、なんとか時計を触読できるようにならないものか彼女が触読に興味が持てる
ような大きさの時計はないものか?と考えたところ、文字の浮き出し方がはっきりしていて
針の頑丈な、壊れたハト時計があったので、それを使って一緒に触読の練習をはじめました。
触って時間を読み取る食事の時間、作業の時間など、自分で時間を作って触って読み取る、
そんな繰り返しのなか、能面のような顔つきが、次第に明るくなりはじめました。でも針は
動かず時計としては、機能しない。それで、景品にもらった目覚まし時計の蓋をはずして、
12,3,6,9のところに印をつけて使ってもらいました。しかし、触るということの力加減
が難しく、針が壊れてしまいます。もっと針がしっかりしているものはないものか?と感じ
ました。また、ロシア製の手巻きの時計も針はしっかりしていて良かったのですが、ぜんま
いを巻くということ力灘しくついつい忘れてしまって、いつから時計が止まっているのか、
また、時間を合わせてほしいといった行動もなく、あまり使おうとはしませんでした。やは
り中途盲ろうの人に必要な触読式置時計の条件としてあげられるものは、まず、針やムーブ
メントが丈夫なこと。手巻ではなく、電池式かもしくは電動式のもので、継続して時を刻む
もの。文字盤の凸表示がはっきり触りとれるもの。触読式腕時計に移行しやすいような大き
さのものがないということが問題だということが挙げられます。
時間を知ることで、日々安らぎがあり、そこから生活を組立て生き生きとした人生を取り
戻すことができる、元気づけてくれるそんなことからその人にあった、触読式の置き時計が
是非必要とされるのではないかと思われます。
②「見えなくても、聴こえなくても・・・」
藤鹿一之(盲ろう)
見えなくても、聴こえなくても・・・、時間を確認する事が出来ます。
今、突然、視覚と聴覚を失ったら・・・、あなたはどのようにして時間を確認しますか?
私たち盲ろう者は五感のうち、視覚と聴覚という大切な感覚を二つも失ってしまいました。
では、どのようにして独力で時間を確認すればいいのでしょうか・・・77
嗅覚や味覚で時間を確認するのはほぼ不可能です。
とすると、残された感覚は・・・、そうです、触覚です。
時計の針に直接触れて時間を確認する.・・・
これなら盲ろう者でも独力で時間を確認する事が出来ます。
しかし・・・、現在、日本では触読式置時計は製造されていません。(触読式腕時計はあり
ますが、これは小さくて2本の針が重なった時などは触読しにくい場合があります)
先日、早朝、目を覚ました私は戸外がすでに明るくなっているので触読式腕時計で
時間を確認しました。(私の目は光には反応する)6時半。
117
まだ眠いけど、そろそろ起きるか、とぶつぶつつぶやきながら起床。
腹筋、背筋など、少々物音をたてながら朝の柔軟運動を始める。
しかし、どうも様子がおかしい・・・。
もう1度、触読式腕時計で時間を確認
6時1ゲー1さっきは5時半だったんだアー!
1時間読み間違えた-11
ドタパタしたので家族も起こしてしまい、「迷惑だ!」と叱られてしまいました。
こんな時、触読式置時計があれば時間を読み間違える事もなかったのに.・・・
誰かと何処かで待ち合わせをしているとします。
この場合、1時間、読み間違えていたらどうなるでしょうか・・・・
待ち合わせ場所に1時間早く到着した場合は自分が待ちぽうけする事になります。
逆に1時間、遅刻したら相手の方を1時間も待たせてしまう事になります。
このように、時間を読み間違えてしまうと、自分だけではなく他人にも迷惑をかけてしまい
ます。
盲ろう者も人間です。
正確な時間を知る権利はあると思います。
触読式置時計を使って有意義な毎日を過ごしターイ!
これが盲ろう者の切実な願いです。
③「盲ろう者Nさんの時計」
渡辺智恵子(社会福祉法人光道園)
今から4年前に盲ろうのNさんに出会いました。私と同じ年に配属されたろう職員のSさ
んが今の施設に配属になるまで、Nさんが手話で発している言葉は、誰もわからない状態で
した。うちの施設が、盲がベースの重複障害者を主に受けていて、職員の手話の読み取りが
充分でなかったこと、それから、Nさん自身も触読手話の読み取りが苦手だったのがその理
由です。Nさんとのコミュニケーションは主に手書きで、どうしても伝えなければならない
ときだけ行われていたようです。
盲ろうのNさんが今の施設に入所したのは、今から6年前、Nさんが盲ろう状態になって
約1年半が経過した後でした。今もそうなのですが、Nさんは潔癖な面があり、例えば手書
きで職員がNさんの手に文字を書くと、まるで相手の手がきたないかのように、パンパンと
手を掃います。触手話で、話そうにもNさんの手はまるで板のように読み取りを拒む状態で
した。触手話の読み取りに慣れてもらおうにも、彼の方にその気がないように思えます。ま
た、人と接触するのを非常に嫌がる面を持ち、例えば、作業中に自分の前に座っている人が
118
机を揺らしたとか、誰かに接触した場合、Nさんは大声を出したり、机をパンパン叩いたり
し、回りの利用者がびっくりすることがよくあります。
私が出会ったころのNさんは、触読式の腕時計を持っておられず、担当者にたずねると、
「Nさん力塒計が欲しいと言ってこられたので、今まで2つ触読式の腕時計をNさんに渡し
た。しかし、彼は2度とも床にたたきつけて壊してしまった。」とのことでした。
Nさんにどうして時計を壊してしまうのか尋ねてみました。Nさんは手話で「時計の文字
盤と針が細かくてわからない。わからないから壊したんだ。」との返事を返して来られまし
た。
実際、時計を持っていないNさんは作業の時間に遅れてきたり、食事の1時間前くらいか
ら食堂前の廊下で待っているという状態でした。例えば、私が「今は4時半であと食事まで
に1時間半あるよ」と伝えても、「かまわない、待っている」というNさんの返事があるよ
うなことが、度々ありました。時計を持たないNさんは、時間がわからないから、そうやっ
てあいまいな時間の中で、生活するしかしょうがなかったのだと思います。また、食事の前
に、廊下で待っている間にも、他の利用者にぶつかって大声を出さなくてはならないことも
何回かありました。
そんなころ、たまたま他の盲ろう者のTさんが、10年くらい前にセイコーで製造されて
いたタッチ・ミーという時計の針が取れてしまったから治して欲しいと私のところに持って
来られました。私は、こんな触読式の置時計もあるのかと感激するとともに、Nさんに大き
な置時計のような触読式の時計があれば、時間がわかるかもしれないと思いました。
まず、Tさんのタッチ・ミーも治さなくてはならないので、セイコーの会社に問い合わせ
て見ました。会社からは、もう製造は中止されていて、部品もなく直すことができないとの
返事でした。
私は、それでは新しい触読式の時計を探してみようと思って、盲人の用具を取り扱ってい
る施設に10軒ぐらい電話をかけました。どこかにきっとあるそう思ったからです。結局、
東京へレンケラー協会に、ドイツから輸入された触読式の置き時計がありました。
早速、購入してNさんに渡しました。Nさんは、「首からぶら下げられるようにしたい」
と言ってこられたので、紐とガムテープをわたしました。Nさんは、自分で首からぶらさげ
られるようにして、今も大事にそのドイツ製の触読式置時計を使用されています。時間もわ
かるようになり、食事の時間を自分で確認して食事に来られます6作業にも、時間を確認し
てくる事ができるようになりました。また、作業場の出入りや食堂の出入りのときに、人と
ぶつかる確率が少ない時間を選んでやってくるようになったので、人にぶつかって、大声を
出す事も少なくなりました。
時間がわかれば、自分で予測をたてて動くことができます。時間がわかれば、もっと余裕
119
のある生活ができるようになるのだと時計を持ったあとのNさんを見て思いました。
Nさんは、今も時計を1つ持っているだけの状態です。去年、他の盲ろう者にNさんと同
じ触読式の置時計を注文しようと東京へレンケラー協会に電話をしたら、もう品切れの状態
で、いつ入るかわからないとのことでした。当然、ほかをあたってみましたが、日本のどこ
にも触読式の置時計は見当たりません。
もし、Nさんの時計が壊れてしまったら、外国製で部品がなく直すことはできないと思い
ます。そして、代わりはないのです。
どうか、日本にも触読式の置時計を作ってもらえるように、いつ壊れても代わりがある状
態を作ってください。Nさんのように触読式の腕時計を使いこなすことができない盲ろう者
は、たくさんいると思います。また、高齢になられて耳も遠く、目も見えにくくなった人、
盲人で糖尿病で神経が侵されて指先の感覚がにぶくなってしまった人たちにも、触読式の置
時計は必要だと思うのです。
たくさんの人が、見通しを持った生活ができるように、生きている時間を大切にできるよ
うに触読式の置時計をいつでも供給できる体制を作って欲しいと思います。
④「敦史の時計」
森貞子
生まれつきの盲ろう(弱視難聴)の子供を持つ母です。現在、小学生高学年です。会話に
は触手話と指文字を使っています。生まれつきの盲ろう児に何をどうおしえていったらいい
か?
それはまず、生活を共にすることです。
日が昇り、窓越しにほほに温かさをかんじたら朝。
「おなかすいたねえ、何食べようか?」フライパンに冷蔵庫から出した卵をいっしょに手を
そえながら割ります。
「おいしいね。」
椅子に座り目の前にでてくる食べ物はどのようにしてでてくるのか、どのように作られる
のか、時には食材そのものを畑で作り、収穫し、料理する。
生活そのものが勉強であり、繰り返すことによって一日を知り、自身の世界のひろがりをも
たらし、時を知ることによってより充実した生活が送れるようになるんだと思います。
一日を知り、時を知った我が子は次は自己管理という分野に入ってきました。
主に学校という生活の中で「あと何分だから、次の用意をしなくては」という生活に
入ってきました。が、用意された時計はちょっと触っただけで針が動いてしまいます。
「時間だ!!」と思って動いたら、まだ、数分あった。というようなことはしょっちゅうだ
120
と聞きます。
学校生活以外、普段の生活でも時を知った我が子は、例えば私が車の運転をしている時な
どうしろから「今、何時?」としょっちゅう聞いてきます。
運転をしているから私とは会話ができないことは知っています。外の景色が見れるわけでも
なく音楽を聴けるわけでもない。退屈の時間はあとどれくらい?と聞いているかのようです6
生活の基盤となる時をわかりやすく正確に知ることができる時計の必要性を私に小学生
らしい発想をしてくれた設計図が次にあります。
(設計図を書きながらの、母と子の会話です)
ママ「どうして、針が外なの?」
敦史「針がだんだん下に行く」
ママ「どうやって、何時って分かるの?」
敦史「点字で、電気でパッパッてついて、
1時、2時って分かる」
ママ「何分っていうのは?」
敦史「反対側に同じように針が上から下へ。
そして、点字で印つける」
ママ「三角形がいいの?」
敦史「そう。それで、12時になったら、詞
敦史「そう。それで、12時になったら、またバーンって上へ上がるの」
ママ「カチカチって動くの?」
敦史「そう」
ママ「丸は何?」
敦史「起きたいとき、寝たいときの時間」
私が敦史から聞いて想像したのは、メトロノームのような形で、針が1時から2時になる
とき、ぱっとかわる。まあ、電気がつくのは、質問していって中で、思いついたようですが6
⑤「時間の流れを覚えるために」
尾崎伊佐子
私の子供は全盲難聴の盲ろう児。5歳手前まで少しは見えていた記憶が彼にとっては財産。
触ると時計であることはわかりますが、時間の概念は入っていません。
夜中12時過ぎだというのに、真っ暗い部屋の中で、大好きなトーマスでまだ遊んでいま
す。「一体何時だと思ってるの?いい加減にして!」
こんなに夜遅く起きているから、当然朝も起きられない。起きたとしてもマイペース。
121
「早く、早く、おくれるよ~」私ばかり気が焦る。
何とかして時計を覚えてくれないかな~。せめて長針と短針の位置だけでも覚えたら、「も
う寝る時間だよ、ごはんの時間だよ、家を出る時間だよ」ってわかるかも、なんて考えて、
家にある時計のふたを外してみたものの、触らせると針は動くし、曲がったり、おれたり、
はずれてしまって、使い物にならない。もっと触っても頑丈で、すぐに壊れない針のついた
時計がないかなあ?
何故、時計って丸いのだろう?数の概念もなかなか理解できない子供には12はとても中
途半端な数だし、短針も長針も同じ数字で読まないといけないのは余計に混乱させるかもし
れない、別に丸じゃなくても横に長い時計でもいいのかも・・・考えているうちに色んな疑
問が次から次へとわいてきます。
そんなとき「触読式置き時計を考える仲間達」と出会いました。そして今、日本製の触読
式置き時計は生産されていないこと、外国製の物はあるけれど、値段も高く、もし壊れても
アフターサービスが万全ではないこと等いろいろ問題点があることを知りました。
これから時計を覚えていく盲ろう児にも使いやすい時計をつくりたい。そんな想いからこ
の仲間達と一緒に考えていきたいと思っています。
⑥「触読式置時計が必要な人たち」
別府あかね(視覚障害者生活訓練指導員)
私は視覚障害者の生活訓練指導員として、主に中途視覚障害者の訓練に携わっています。
視覚障害者には音声の置時計や腕時計がありますが、高齢の方には、音が聞こえにくい.聞
こえないという方も少なくありません。力)といって、触読式の腕時計を把握することは難し
く、置き時計のように少し文字盤が大きければ利用できる方もいると思います。
弱視で耳の遠い男性がコントラストのはっきりした触読式置き時計を見て「これなら見え
る。」と言ってました。ぜひ、触読式置き時計を作成するときには、文字盤のコントラスト
に配慮して保有視覚を活用できる工夫を盛り込んでほしいです。
また、音声腕時計を利用している視覚障害者から「会議中など場面によって音がうるさく
て…。なにげなく時間を見た(聴いた)つもりがみんなに時間を気にしているように思われ
て困る。かといって触読式の腕時計の触読は苦手だしなあ゜」と、相談されたことがありま
す。このように単一の視覚障害の方でも、困っている人がいます。触読式の腕時計が無理で
も、置き時計のように文字盤が大きければ、触読可能な方もいると思います。また時計の概
念があり、点字の読める視覚障害者ならば、点字(ピンディスのようなもの)で「○時○分」
というデジタル表示なら、時間を知ることができると思います。
このように盲ろう者だけでなく、単一の視覚障害者や、弱視で耳力瞳くなった高齢者など
122
触読式腕時計は利用できないが、触読式置き時計の大きな文字盤や、丸い時計にとらわれな
い(棒状、山形、デジタル)触読式の時計を求めている人はたくさんいると思います。
⑦「触読式置時計が無い」
石田良子(盲ろう者の通訳・介助者)
80才を過ぎたそのおじいさんは、老人ホームで生活をしています。視覚障害から、聴力
も落ちてきての盲ろう者です。ときどき、通訳のためにお邪魔します。
ホームの夕食の時間が近づいて、「そろそろおいとまします」と、言うと、「まだ、こんな
時間ではないですか。食事には1時間もある」。長年使い慣れた触読式腕時計に触れながら
言います。「また、間違えている!」。特に最近は、腕時計の触読が難しくなってきているの
が分かります。
盲難聴のSさんは、肢体障害もあります。音声時計を使っていますが、声が小さくて聞き
にくい。「でも、僕が針を触読しようとすると、そっと触ることが難しいので〈すぐに針が壊
れてしまうんですよ」。
一人暮らしの盲ろう者Hさんは、糖尿のために、手先の感覚が鈍くなっているようで、点
字の読み取りも難しくなってきています.蓋をはずした置時計での触読で、時間を確めます。
毎日、何度となく触られて、置時計の針は、しなってしまっています。「新しい触読式置時
計を探しましょうよ」。
もう、2年も前から、Hさんと一緒に、触読式置時計探しが始まりました。視覚障害者の
必需品ですから、視障者向けの用具販売所に行けば;当然手に入ると思った触読式置時計が、
既に日本では製造していない事を知ったのは、こんなときでした。古い輸入品の在庫を探し
てもらう事も、出来なくなってきています。
「どこかで頼んで作ってもらえないかしら?」「作ってもらっても、いくつも売れないだ
ろうからねえ」。
「生活用品等何でも掲示板」での会話のなかから、同じような`悩みを持つ不思議な結びつ
きの仲間ができていくのは、2001年の春頃からのことです。
⑧「光道園の盲ろうの方たちが触読式の置き時計を求めていたこと」
柴晃彦(社会福祉法人光道園)
現在、国内で販売されている時計には腕時計型が数種類有りますが、腕時計型には幾つか
問題があります。
1、長短針と軸の接合部分の強度が弱く、針の指す位置が狂う事が多い。
2、文字盤が小さく触読が難しい事もある。
123
光道園に入居されている盲ろう者の方の中には、触読と言う行為が不得手という人もおり
先に述べた腕時計型の欠点が、触読と言う行為を更に難しくしています。
腕時計型は文字通り腕首に装着して使用するという性質上、文字盤の大きさにも限りがあり、
時計本体のメーブメントもそれなりに小さいものとなります。またコスト上の問題でムーブ
メントは一般の物を代用しています。これは触読という行為を想定していない代物ですので、
針の強度や軸との接合部分の強度を意図的に落し、ムーブメントが壊れるより前に針が曲が
ったりまた軸がずれたりするように出来ています。ですから、針の強度・取り付け強度をU
Pさせる事は現実的ではない.
ならばどうすれば良いのか?私達が欲しい時計は、“文字盤が大きくて・針の強度があ
り壊れず・時の狂わない時計11,,色々と情報を集めると、以前発売指されていた触読式置
時計が希望に近い物という事が判り色々な所を捜しました。が、置時計は見つからない。そ
の時点で販売停止。さらにデットストックを捜す為に色々な所へ問い合わせもしました。日
本点字図書館等の各種団体へ.時計店へ・メーカーへは再発売の要望も。けれど見つからな
い。勿論ネット上でも捜しました。考えられる全てのキーワードを使って検索を掛けてみま
したが触読式置時計は出てきません。しかし別のものが見つかりました。国立特殊教育総合
研究所重複障害研究部第二研究室の中澤惠江氏が主催している『盲ろう情報ネットワーク』
(http:〃www・nise・go.』p/research/cho[uku/nakazawa/index・html)でした。ここのコンテ
ンツの一つである“掲示板,,に“現在、触読式置時計を捜しています。ご存知の方はいませ
んか?,,と言うような投稿をしたところ中澤氏力精報をお持ちで、それは、アメリカの『ヘ
レン・ケラー・ナショナル・センター』(http://www,helenkeller,org/national/indexhtm)
で見た事があり、また、近々渡米した時に捜してきてくれると言う話しになりました。その
後、中澤氏は12時間時計と24時間時計の2つを購入して帰国されましたが、私共も至急購
入したいと申し出たところ、高価であるという事と、また光道園の購入希望者が多いう事も
有り、“一度試用してから購入の是非を決めたら?”とのアドバイスを頂き試用する事とな
りました。この時計は2種類あり、もう一人の方(私と同じ光道園の職員です)とそれぞれ
が交互にお借りし、時計を試す手筈でしたが、諸般の事情により私が先に2台とも借り受け
十分に試用した後に次に回すという事となりました。
お借りした時計(後に多数購入)AmericanTime&SignalCo.(http://www・atsclock.c0m/)
試用する盲ろう者が多いという事もあり、-通り試し終わるまでに-ケ月を要しそうでし
たので、もう一人の方に対して余りに申訳無かったとの思いから、せめて写真だけでも見て
もらおうと思い、簡単なコメントと共にネット上に写真をUPしたのが、『触読式置時計』
(http:〃www2.to/helen-home/)の始まりです。
124
当初は、数枚の写真と簡単なコメント。また気紛れで置いたゲストブックだけでしたが、
何時しかこのゲストブックに人が集まりだし、そして話しが盛り上がり私ともう一人の方以
外にも試用する方が数名現れ、その方達の書き込みが、やがて時計という枠を超え『生活用
品等、何でも掲示板』となり、この後のレポート(自分達で時計を作ろう!)に続くのです。
○「盲ろうの子どもと時計(思考の論理性と見通しの重要性)」
中澤恵江(国立特殊教育総合研究所)
重度の情報障害のある盲ろう児に、周囲のことを理解できるよう配慮した教材は、非常に
分かりやすく、盲ろう教育の枠をこえて他の障害分野で応用されています。限られた情報を
論理的に組み立てて世界を把握してきた盲ろう児は、教材に論理の飛躍があると、それを許
してくれません。私たちが所与のものとして扱う事柄を、そのまま提示しただけでは納得し
ない場合は、その事柄の本質を私たちが考察し、論理を基礎から積み上げていかないと盲ろ
う児は納得してくれません。そのため、盲ろう児のために開発された算数や理科等の教材は
論理的で理解しやすく、学校で行われている通常の算数教育等では納得できない子どもたち
の教育にも活用された例もあります。ここで扱う「時計」も、所与のものとして盲ろうの子
どもたちが納得しない事柄の一つです。
ことばを習得していない盲ろうの子どもに、一日の日課の変化をどう伝えるか。盲ろうの
子どもにこの情報を伝えることは、見えて聴こえる子どもに比べると、格段にむずかしいこ
とです。ですが、情報が限られている盲ろう児だからこそ、一日の見通しをもてるようにす
ることが特に重要になります。次々と授業が変わっていく学校の生活は、見通しがなければ
否応なく盲ろう児を受け身の立場においてしまうことになるからです。
次ぎに何が侍っているかという見通しをもてることは、盲ろう児に安心感を与え、その活
動への主体的なかかわりを可能にします。「次は大好きなプールだ!」とわかっていそいそ
と準備に向かったり、「退屈な全体集会にいくのか」とわかって教室から出るのをしぶった
り、「今日は早く学校が終わるから、給食の後はすぐスクールパスだ」と日課が突然変わっ
ても、見通しがあればそれに驚かされないですんだり。
まずこれを可能にするのが日課箱です。
日課箱とはつぎのようなものです。日課の各コマを空き箱で表し、時間の流れにしたがっ
てならべます。すなわち、時の流れを空間における一本の直線のように表しています。そし
て、各授業を、その授業で行う活動でその盲ろう児が用いる道具等によって表し、その実物
を箱の中に入れておきます。例えば、音楽の場合は太鼓のばち、工作の場合ははさみ、プー
ルでの水泳の場合は水泳帽、給食の場合はスプーン、下校は家に持ち帰る連絡帳、等々です。
125
この日課箱の活用によって、学校での日課の見通しをもてるようになる盲ろう児は多くい
ます。また、その有効性から、知的障害のある子どもの教育でも広く使われるようになって
きました。見える子ども達には、この箱に各授業の開始の時刻が記されている時計の絵を張
り付けておき、傍らに本物の時計をおくことによって、その両者を見比べて徐々に時計の理
解へと進めることが同「能です。見える子ども達は、日常的に時計を目にしているため、それ
を所与のものとして受け入れやすいのです。そして、一層の線状に表現されている日課箱の
時の流れを、二層(時と分)の針の円状の動きに置き換えていくという、論理の飛躍を比較
的容易に受け入れてしまうのです。
盲ろうの子ども達の場合、時の経過を表す一層の線状の日課箱から二層の円状の時計に飛
躍することができる子どもは、特別に才能に恵まれた少数の子どもに限られてきます。それ
は、時計に接することが極めて少ない生活をして、しかも触読しやすい時計がないというだ
けでなく、時を表す形式の大きな変化が、日課箱から通常の時計の間にあるからです。
論理的な思考を積み上げていく盲ろう児には、時が過ぎていくことと日課のはじめと終わ
りの時刻を理解するためには、日課箱の次の段階として、まず一日に対応する一層・線状の
時計が必要だろうと考えます。この一層・線状の時計によって時の概念、時刻の概念の把握
は数段に容易になるだろうと予測されます。
「時」の流れを自然現象や周囲の変化から把握しにくい盲ろうほど、「時計」を必要とす
る障害はありません。盲ろう者にとって、時計は自らの生活を主体的に組み立て、他者の生
活に調整して社会生活を円滑に営むために不可欠のものです。時計のもたらす恩恵から閉め
出されていた盲ろうの子ども達が、この線状の時計によって、その恩恵を得る機会が広がる
可能性があります。また、時の概念の土台が確実になれば、異なる形式の時計を理解できる
ようになる盲ろう児も増えることでしょう。
盲ろう児に分かりやすい時計は、時計が理解できないでいる他の障害のある子どもにも、こ
こでも活用できると予測されます。いくつかの産業国の盲ろう教育の現場をたずねましたが、
盲ろう児のための線状の時計を目にすることはありませんでした。盲ろう児のための時計は、
盲ろう児のニーズに根ざして、私たちが新たに創作する必要のあるものであると思います。
○生活用品等、何でも掲示板
(以下文責石田良子)
[触読式置時計を最大限に活用することを目的に開設」という但し書きのあるサイトが開
かれました。日本ではもっとも古くから、視覚障害を基盤にした重複障害者を受け入れた、
福井県の光道園。中でも、30名近い盲ろう者が生活を共にしているヘレンホーム。ここの
職員、榮さんが開いたものです。
126
日本では製作されなくなってしまった触読式置時計。残っているものも、触読に耐えるに
は弱点が多過ぎた触読式置時計。ここに、アメリカで作られているどっしりとした、触読に
も耐えられそうな置時計が手に
入ったのです。
この時計を、何とかヘレンホームの人たちの使い
やすいように改良してみようという作業が、
紹介されました。
このサイトに開かれた「生活用品等、何で
も掲示板」には、各地で触読式置時計の必要
性を感じていた人たちが、集まり始めました。
○触読式置時計を考える仲間
「生活用品等、何でも掲示板」での話し合いの中で、触読式置時計の必要性はお互いに強
く再認識されました。
「触読式置時計をどこかで作ってもらえないか」。
「作っても需要が少ないから製造を中止したわけだから、売り出せば買いますという仲間
を募らないと、頼めないのではないか」。
「必要とする人たちは、まだまだ日本中にたくさんいるはず。何とかそんな人たちの声が
集められないだろうか」。
毎年夏に『全国盲ろう者大会』が開かれます。掲示板の仲間は色々な立場で盲ろう者と関
わっていますから、当然のように、この大会で顔を合わせることになります。そして、全国
からは、多くの盲ろう者と、盲ろう者にかかわりを持つ人たちが集まってきます。
「このチャンスを何とか使おう」。
話が出たのが6月半ば6大会のプログラムは既に出来上がってしまっていました。だめで
元々と、お願いした結果、『友の会コーナー』に、パネル1枚分の発表チャンスをいただく
ことが出来ました。「友の会ではないので、あまり派手にならないように、控え目に」との、
注意つきです。
全員顔を合わせたこともない7人の仲間。掲示板でのやり取りだけで、一つの目的に向か
って「思い」をまとめる事が出来るのか?むしろ、こんな実験的要素も含めて、活動開始
です。それぞれが仕事や家庭を持ち、立場も年齢もまちまち。何より全員が個性的で、その
「思い」も、「触読式置時計」という、テーマは一つであっても、のばしていくに従って自
由に広がってしまいます。先ずは、役割分担から初めました。
8月24日。大会2日目に『友の会コーナー』がオープン。「控え目に」を合言葉にしてい
127
たはずの「触読式置時計を考える仲間」のパネルとアンケートは、仲間の「思い」が溢れて
しまい、とても控え目とはいえないものになりました。
パネルは、全面触って楽しんでもらえるようにしました。それぞれの仲間が持つ触読式置
時計のイメージを、身近にあるダンボールなどの素材で作った、他愛もないものです。目的
は、これを見たり触ったりして楽しんでもらう中で、「触読式置時計の必要性を気付き、ア
イディアを出してもらう」
ことです。
お願いしたアンケートも、
その回答から多数決で時計
の形を決めるようなもので
はなく、アンケートに答え
ながら、問題点に気付いて
もらうのが目的です。そし
て、もう一つ置いたのは、
既に製造を止めてしまって
いたり、外国製であったり
する、触読式置時計のサン
プル。あちこちで借り集め
てきた物です。
「種は蒔かなければ出ない。蒔かないで諦めるよりは、蒔いてみよう」。
時計が欲しいと思っても、それを作るために、何の力もない私たちが、ただ「思い」をぶ
つけただけの、そして、大いに楽しんだだけのコーナーでした。
128
触読式置時計を考える仲間アンケート
触読式置時計を作ってもらおうと考えています。
アンケートの回答用紙に○、またはお考えを書いて、アイディアをお貸しください。(○
はいくつでも構いません)
あなたご自身が必要でなくても、必要とする方たち(これから時計を覚える盲ろう児、指
先の感覚に鋭さがない方)のためにご協力ください。質問は全部で7問です。
F1可触読式時計に付いて。
ア、市販の腕時計で充分イ、置時計があるといいウ、置時計は手に入らない
エ、
高すぎるオ、壊れやすい力、種類が少なくて選べない(その他)
「回司触読式置時計があったらいいと思いますか。
ア、自分が使いたいイ、自分は使わないウ、便利に使う人がいると思う
エ、盲ろう児・中途盲ろう者には必要だと思う(その他)
F面司触読式置時計を作るなら、望みたいこと。
ア、どっしりと大きい物イ、携帯できる小型ウ、午前と午後が分かる物
エ、
コンセント式オ、丸い時計力、三角の時計キ、四角い時計
ク、電池式ケ、アラームつき(バイブレーター)(その他)
「可司針について
ア、細いほうが触って分かりやすいイ、太いほうが丈夫
ウ、「針」という考えを変えて、円盤にする。エ、時針と分針の形を変える
オ、時針と分針の感触を変える(その他)
「5可文字盤について
ア、位置がわかれば、点だけでよいイ、数字を入れる
ウ、点字で数字を入れるエ、奇数と偶数の印を変える
オ、3,6,9,12だけ、分かりやすぐ(その他)
「5引値段について、いくらまでなら買いたいですか。
ア、1,000円イ、3,000円ウ、5,000円
エ、10,000円オ、20,000円力、いくらでも良い(その
エ、10,000円オ、20,000円力、いくらでも良い(その他)
「7司他にメッセージがおありの方は、回答用紙裏面にご自由にお書き込みくださ
い。
触読式置時計が新しく出来たら、知らせて欲しい方はお名前とご連絡先をお
書きください。
129
触読式時計についてのアンケート回答(回答者49名)
I
人数
1アイウエオカ2アイウエ3アイウエオカキクケ4ア
触読式時計について
ア
市販の時計で充分
イ
置時計があるといい
エ
オ
力
2
III
ウ
8
31
置時計は手に入らない
10
高すぎる
5
壊れやすい
4
種類が少なくて選べない
1
あったらいいと思いますか。
ア
自分が使いたい
イ
自分は使わない
ウ
便利に使う人がいると思う
エ
盲ろう児・中途盲ろう者には必要
3
作るなら望みたいこと
ア
どっしり大きい物
イ
携# fできる小形
ウ
午前と午後が分かる物
エ
コンセント式
オ
丸い時計
力
三角の時計
キ
四角い時計
ク
電池式
ケ
アラームつき(バイブレーター)
その他
4
針について
ア
細いほう が触って分かりやすい
壊れやすくては失格
9
その他
その他
その他に書き込まれた意見
盲人用腕時計で充分
18
4
28
28
家のどこかにあれば便利
11
25
17
4
コンセントだと電気がもったいない
9
コンセントと電池併用
1
6
19
25
5
130
パイプと音が選べる物
電光文字・押して光
|イ||太いほうが丈夫
’’911短針を長針より太くする’
ウ
円盤にする
9
太い針で先を細く
エ
形を変える
18
感触を変えるのは良い案.
オ
感触を変える
23
触って簡単に動かないように
その他
5
ア
イ
ウ
エ
’ I
文字盤に付いて
11
点字は数符抜きでよい
数字を入れる
13
点だけの法が性格に読める。
点字で数字を入れる
14
ニーズによって5種類あるといい
奇数ぐうすうの印を変える
10
墨字でも分かるようにする
14
分かりやすいもの
6
9
12だけ、分かりやす
く
その他
6
ア
イ
ウ
エ
オ
力
7
初心者には数字も
点だけでよい
3
オ
盲ろう者には秒針は必要ない
4箇所数字あとは点
値段
1,000円
6
3,000円
19
5,000円
17
10,000円
8
補助金を使い、高くても良いものを
20,000円
1
安いほう力轆入しやすい
いくらでも良い
3
安いもの
その他
1
安いほうがいいが、丈夫なもの
他のメッセージ
131
盲ろうや盲人だけでなく
誰にでも使えるように、
音声時計は場所によっては使えない
盤面を水平または45度にする
コードレスのパイプで、
ポケットに信号を飛ばす
おしゃれな触読式置時計がいい。
頑張ってください。
様々な企画で、プログラムが重なっている大会の中で、このコーナーに立ち寄ってくださ
った人数は多くはありませんでした。しかし、ここで新たに分かったことの内、書き留めて
おきたいことがあります。
それは、盲ろう者とはいっても、指先も敏感で触読式腕時計が充分に使える方たちにも、
触読式置時計が望まれていた事です。考えてみれば、健常である私たちでも、外出時には腕
時計や懐中時計を使うけれども、家にいる時には柱時計を見ます。これと同じように、家に
いる時には、なるべく家の各部屋に触読のしやすい置時計を置いておきたい。
「触読式置時計の需要は、腕時計の触読が難しい盲ろう者」といった枠がはずされたとい
うことです。
もっと驚いたことは、音声時計の普及で、触読式置時計からは離れてしまったと思ってい
た、視覚障害者の方たちが、私たちの考えに大いに共鳴してくださった事です。「私たちだ
っていいのが出来れば使いたいですよ。いちいちうるさい声を聞かなくても、好きな時に軽
く触れやすい時計は、欲しいですね」。
自分たちでも欲しいのだから,盲ろう者には必需品だと、一番深く理解を示してくれたの
が、視覚障害者の方たちでした。
○触読式置時計を作ろう
盲ろう者大会での「時計コーナー」は、同時に「生活用品等、何でも掲示板」の仲間のオ
フ会にもなりました。掲示板での話し合いだけで、一つのコーナーを作り上げたという仲間
意識が、顔を合わせ、言葉を交わすことで、深まりました。
「蒔いた種の芽生え」かも知れません。ここで、終わるはずはない。各自が膨らませた時
計構想を、具体的な形にまとめてみたい。相談のチャンスが欲しい。でも、7人の仲間たち
は、高知県、奈良県、福井県、岐阜県、埼玉県、東京都、と、各地に散らばっています。一
同に会することが難しい。触読式置時計は、「思い」だけで終わってしまうのだろうか。
そこに、同じように盲ろう児の時計に関心を持っていた中澤恵江氏からお話がありました。
氏が研究協力者として参加している「盲ろう者に対する障害者施策のあり方に関する研究」
の中の、福祉機器部門に、仲間の触読式置時計に関しての考えを、研究報告として出してみ
ないかという積極的なお誘いです。
「思い」はあっても、社会的な力が無いものばかりの集まりの仲間が、一つの目標を提示
していただいた喜び6ただし、「研究報告」などという、固いものは不似合いだし、書けま
せん。
書いてみましょうと、話がまとまった中には、この、「何の専門知識も持たない、仲間。
だからこそ出せるかも知れない大胆な発想。専門知識がない分、盲ろう当事者とのかかわり
132
が深い仲間。こんな特徴をぶつけてみよう」と言う、気持ちがありました。
障害者の将来を切り開くであろうハイテク機器の研究とは少し違う、かつてはあったもの
が製造を止めてしまったような、日常の生活用品である時計。時計のメカニズムを知らない
からこそ、仲間は使う側の要求という面を、遠慮なく押し出せるかも知れない。もし、その
後を引き継いで専門家が製作構想を出してくださる時には、考慮して欲しい事を出来るだけ
並べてみよう。そんなものが研究報告になるかどうかは分からないけれど。
仲間なりの時計会議が始まりました。掲示板、メールを使って、そして各地でチャンスを
作っては、全員集合は無理でも、何人かずつでも、仲間の顔がiiiiえばそこは「時計会議」の
場所になりました。
この時点から、中澤氏も「触読式置時計を考える仲間」に加わってくださいました。
○盲ろう者と時(とき)
麻酔をかけられて、あるいは何かのトラブルで意識を失った人が、意識を回復したとき最
初に知りたいこと、最初の質問は、「ここはどこ?」「今は何日の何時?」
空間と時間の中に生活している私たちは、自分の存在に安定感を得るために、場所と時間
をしっかり掴んでいたいという習性があるのでしょうか。
場所は、自分が移動しない限り、足元にあります。時間は、私たちの意志に関係なく流れ
てしまいます。太陽の位置、おなかの空き具合、しごとに熱中しての疲れ具合、見慣れたテ
レビ番組、いろいろなことで時間の流れを感じてはいますが、まるで万人共通の癖のように、
私たちは時計に目を向けます。いったい、平均すると1日に何回、時計に目を向けているで
しょうか。文明社会の中で時間に支配されているのではないかとも思えてしまいます。
しかし、そうではなく、時計に目を向けることで、みんなと同じ時を生きているという安
心感を得ているのではないか?これは、盲ろうの方たちと一緒にいる時間が多いほど、感
じられる事かも知れません。
「目を向ける」より「手で触れる」という動作が大きいから、目立つのでしょうか。私た
ちと一緒にいるときにも、盲ろうの方たちは何回も時計に手を触れます。遅れてはいけない
約束の時間があるわけでもないときにも。多分、一人でいるときには、もっと度々時計に触
れているのではないかと感じます。
私たちの生活と関係なく眠り、起きるとお乳を飲み、また眠る赤ちゃんが、成長して、最
初に社会の中に溶け込むのも、昼と夜、3回の食事といった、時間の流れの共有です。社会
とのつながりに必要なコミュニケーションに障害を持ち、しかも周囲の人の存在が掴みにく
い盲ろう者にとって、時計は社会の中で生活するための羅針盤の役割を果たしているように
思います。
133
かつては貴重品であった時計が、安価になり、種類も増え、家中時計だらけといった中で、
一番に考えられなければならないはずの、「盲ろう者の使える時計」が、製造中止になって
いる。
こんな大変な問題に気付いた今から、少しでも早く、触読式置時計を復活させる。復活さ
せるにとどまらず、また、有り合わせを使いこなすのではなく、盲ろう者が使いやすい時計
を、新たに考えていく必要があるのではないかというのが、私たち仲間の考えです。
○触って読み取る時計
赤ちゃんに知恵がついてくると、見えたものは何でも触って見る。触覚でものを判断する
のは、人間の五感の中でも大切な能力だったに違いありません。
社会が広がり、その広がりに適した視覚と聴覚という感覚に頼る事がおおくなって、触覚
は退化してしまっているようにも思います。視覚に障害のある子供にさえ、親が「何でも触
るのは汚いし、はしたないから止めなさい」などと言っている言葉を耳にしたことがありま
す。
そんな中で中途で盲ろうになった人たちが触覚を呼び戻すには時間がかかります。
視力や聴力が数値で測れるように、触覚にも個人差があるはずです。歳をとればく老眼に
なったり、耳力猿くなるのと同じように、触覚も衰えるはずです。
盲ろう児は、触覚は持ちつづけているといえるかも知れません。ただし反対に、長い歴史
の中で世界中で取り上げられるようになった、「24時間制」という、時計の概念を、これか
ら覚えていくという難しさを持っています。
今回、主に盲ろう者を対象とした時計を考える中でも、また、多くの盲ろう者や視覚障害
者・聴覚障害者の方の意見や要望の中にも、「多くの人が共用できる時訪という考え方が
ありました。
盲ろう者という言葉には、弱視難聴者まで含まれます。触読と同時に、光・色・音を組み
合わせることで、「多くの人が共用できる時計」にしていけるかも知れません。しかも、商
品として考えると、市場も広がります。そんな中で、「今回は、欲張らず、先ずは触読と言
う事に絞って考えよう」と、いう方向を取ることに、仲間の意見がまとまりました。
もともと、機械との関連さえ分かっていない私たちの構想は、あくまでも、「もっとも、
市販の時計に順応しにくい人たちが使いやすい時計」。実現の可能性さえ余り考慮せず、製
造過程の研究者にバトンタッチするまでの構想として、自由に考えていくことにしました。
こうした、研究と言うよりは、夢も含めての触読式置時計を考える会が回数を重ねる中で〈
ある程度のまとまりをもってきた「構想」を、何処までお伝えできるか分かりませんが、つ
たない文で書いてみようと思います。
134
2.触読式置時計についての考察
○既存の置時計と触読式置時計
「時計」と言えば;置時計、掛け時計、腕時計、懐中時計など、いずれも2本の針が円運.
動をする時計だった時代から、数字を表示するデジタル時計が加わってくるようになりまし
た。加わるどころか、家中あちこちに、時間を表わす数字が見えます。最近では、音声時計
も家庭に入り込んでいます。
この中で、まず今回私たちが考える「触って分かりやすい時計」といえば、形のある針の
動き、いわゆるアナログ時計。大きさからは置時計、掛け時計。掛け時計の場合は、高さと
触読に耐えるためにしっかりとした固定という条件が必要です。
市販されている置時計を、触って読み取りながら、触読式には向かない問題点を見つけて
改良してみます。裏をかえせば、触読式置時計に必要な条件になります。
・ガラスやプラスティックで盤面を覆っているカバーをはずす。
・手首と指先が自然な形で盤面に触れられるように時計本体を寝かせる。
・動きが速く、触読の暇を与えない秒針は、根元で切り落とす。中央は、分針と時針が
軸から抜け落ちないように蓋の役目をしているために、はずしてしまうわけにはいかな
い。
・アラーム設定が針の場合は、紛らわしさ解消のために、取り外す。
・文字盤の文字の位置にあわせて、触って分かる突起をつける。
これだけのことをすれば、一応触読可能な時計になります。
次に、この時計を、中途盲ろうで、まだ触読になれていない人が使った場合の欠陥を挙げ
てみます。
①本体が安定しない。
②本体の上下(角度)が分からなくなる。
③触読が未熟なために、針に触れると針の位置を動かしてしまう。
④針が曲がったり折れたりする。
⑤針が抜け落ちる。
⑥位置が離れていると、長針と短針の区別がつきにくい。
⑦長針と短針の位置が近いと、読み取りが難しい。
⑧針の指し示す数字やしるしが読み取りにくい。しっかり読み取ろうとすると、針が動い
てしまう。
⑨針が折れたり、抜け落ちて失った場合、針だけを買う事が出来ない。
135
○実験の結果から
ここからは、自宅にあった高価でない目覚し時計を、一つ実験用に改造して自分で実験し
て見ての結果も入っています。
アンケートでは、触読経験者も多数回答を寄せてくださいましたが、むしろ、触読のベテ
ランぞろい。私の実験結果のほうが、中途で視力を失っての中途盲ろう者(視覚障害者から
の盲ろう者は除くという意味)の、初期の触読状態に近いのではないかと思われます。
その、私の実験結果からいうと、一番困るのが③で、まず針を探す間に、すでに横からの
力で針を動かしてしまう事でした。
次に、①、本体が安定しないこと。不器用さもあって、左手で固定しないと読み取れませ
ん。本体が軽いことにも原因がありそうです。
本体の上下②は分かるにしても、4時と5時などの場所がはっきりしません。
触読になれていない者にとって、腕が身体の横から出ていうこと。腕が体の正面から直角
に伸びている物ではないということが、よくわかりました。触ったものと身体との角度が、
簡単には身に着かない、訓練のいるものだということを感じました。
勿論数字に点のしるしは付けましたが、この点をしっかり確認しようとすると、また、針
を動かしてしまうのです。これは、触読になれた方の場合を見ていると、隣の点を読み取っ
て、隠れている点を知る方法をとるようです。私の場合は、点字の数字をつけたのではなく、
3,6,9,12には点三つ。1,4,7,10には点一つ。2,5,8,11には点二つを着けました。
複数の点は、縦に(針の延長線上に)並べました。ありあわせの視覚に訴える時計ですから、
点をつけるスペースが無いということもあり、しるしは長針に隠れてしまうわけです。針の
長さに問題があります.
⑥⑦について意外だったことは、離れているときのほうが、短針と長針の区別が難しいこ
と。近くにある時には、長さより、上下関係(短針の上に長針がある)が、針の区別に役立
った事です。上下関係を比べるには、2本の針が近くにあったほうが比べやすいという事で
す。離れているときでも、針の太さの違いより、根元まで指を滑らせて、下についているか
ら短針と、言った確認が必要でした。
勿論、太さや感触で、短針と長針の識別を楽にする方法は有効かも知れません。しかし、
感触の違いを調べるほどゆっくり撫で回すものではなさそうです。針の先にしるしとしての
突起をつけることは、「短針が長針の下にある」ことから、難さがあります。太さをかえて、
1本は針、1本は板に感じるような違いは分かりそうです。
私が実験に使った時計の針は、長針が長さ3.5cm、幅3,.短針が長さ22.5cm、幅4,゜
この場合、離れていると違いを感じるのが難しかったのです。近くにあると、上下関係で分
かります。たまたま、秒針に使っていた針が他の2本とは違い、大変細い縫い針のように見
136
えるものでした。これを付けてみると、他の2本との違いがとてもはっきり分かりました。
幅が4mと3mmの違いでは、同じ板状のものに感じてしまうのに対して、この、幅1mmの針
は、板ではなく「針」にかんじます。
触読実験をして、見ているときとの違いが大きかったのが、文字盤と針との間が、意外に
離れている事でした。針の先がどの文字を指しているかを確かめるために、中心から針の先
端に指を滑らせると、その先には文字との段差があります。私のように初心者の場合、針に
添って指を滑らせる間に、おさえつけて、針を弓なりにまげていることになります。これは、
元来の時計の針というものが、軽さを要求されて、薄く弾力性を持っているために可能にな
っています。しかし、この間に針の動きは止められ、針の変形を招き、いずれは折れる可能
性にもつながり、無理な角度は軸からはずれる原因にもなるわけです。
また、視覚に訴える時計の針は、見た目の形がいいように、数字の上まで長く伸びていま
す。触読式の場合は、針の長さを短くして、文字盤の文字またはしるしを触りやすく、場所
を空ける必要がありそうです。
④⑤、実験の間には針は壊しませんでした。私の使った実験用の時計の針は、金属では
なく、プラスティック系の素材でした。折れたり曲ったりに対しての丈夫さのためには針を
太くする事も有効でしょうが、触って分かりやすいのは、むしろ細い針のような気がしまし
た。
アンケートの回答、自由討論の時計会議、実験などから、仲間と一緒に引き出したアイデ
ィアを整理し、一つの時計をイメージしてみます。
○本体はどっしりタイプ
ヘレンホームの盲ろう者の中には、小形の置時計を首から下げて生活している人がいたと
聞きました。腕時計の代わりに、外出時にも持ち歩きたいと考えると、カバーがなく、針が
露出しますから、旅行用の時計のように、蓋つきのものが有効です。
今回は、「より使いやすい」ものを中心に考えるので、ここでは、据え置き式の置時計を
取り上げます。
・文字盤の部分は円形。直径lOcmo
・文字盤は水平、または傾斜角30度以内になる
ようにする。
・本体は、重量感があり、手で触っても簡単に動
いてしまわないもの。
・本体の形は菱形。四つの頂点を文字盤の12,3,
6,9、に合わせる(左手を添えた時に、時計の正
137
面が分かりやすい)。角は、危険のないように丸みをつける。
・正面(12時の方向)が分かるようにするには、30度以内の傾斜をつけることが有効にな
る。水平の場合は、12時方向を示すしるしなどをつける。
○文字盤
・円形
・中心から12箇所の文字に向かって、浮き出させた放射線を置く。
触読実験から、文字の表記は-箇所で表わす
より、どの部分で触れても分かりやすいよう
に、浮き出した線を使うことがよさそうです。
2)文字盤
分を示す60本の線まで、中心から出すの
はかえって紛らわしいので、分の刻みは、円
周に近い2cm幅に、時間を表わす線よりは、
細く低い浮き出し線で表わす。
時間線の内、12,3,6,9は、特に太くするか、
円周近くにしるしの突起をつける。
○針
・針の長さは、文字盤の数字が浮き出し線になっているので、その線に至I膣していれば
いいことになります。短針が中心から2cm,長針が3.5cmあれば、足ります。
・針を押し付けて、軸との連結部に負担をかけないためには、針は硬質の素材で作り、
軸との連結もしっかり止める。この場合は、特に文字盤との間隔が広い長針は、先のほ
うで曲げて、文字を表わす線に近づける。
・針の太さは、短針は幅4~5,.先を少し細くする。
長針は幅l~2mmといった細い物にし、素材は硬質な
もので、長針の先は、文字盤に近づけるように、カー
ブさせる。
アンケートでは、「感触を変える」「形を変える」な
どの意見が多かったのですが、実際には、感触や形を
確認するような触り方にはならないような気がしま
した。太さと長さの違いで、後は、針の上下関係で充分のように思います。
○円板針
138
時計に触れて、針を探す段階で、横からの力で針を動かしてしまう。これを解消するため
には、針を円板型にすることが有効だと思われます。
中心部では360度の円板にし、円板の端から、短い針の先を飛び出させたものは、過去に
作られた日本製の時計にもありました。
これは、「針が折れにくい」という点では、
確かに役に立っていたと思います。所が、円
4)円盤針
板型の針には、宿命としての難しい点があり
麓
ます。それは、時計の針が、「短針が下、長
針が上」に着いているということです。
これは、ゼンマイと歯車、そして軸といっ
た組み合わせから当然出てくる順番でしょう。
雇
もし、長針が下、短針が上なら、円板型の
針は、普及したと思います。この、上下関係のために、円板針は複雑になり、せっかくの円
板型のよさが出せません。下にある短針の円板が大きく、上に乗る長針の円板が小さい。そ
れにも関わらず、そこから突き出す針先は、長針を短針より長くしなければならない。この
結果、やはり、触読の妨げになって、私には大変読み取りにくい物になっています。
使いやすさだけを追求して、軸の太さの関係は無視し、針の上下を入れ替えてしまうとい
う考え方もあります。しかし、今考えている触読式置時計の役割は、「いずれは触読になれ
て、触読式腕時計なども使いこなす」「他の触読式時計と平行して使いこなす」「これまでは、
普通の触読式時計を使っていた」人たちです。全く新しい時計として、斬新な時計を考える
場合は別にして、これまでの時計と同じ形で、短針と長針の入れ替えをすることは、かえっ
て紛らわしくなります。
●針を軸に固定することは出来ないか?
針の形や強さからいうと、9ページにあるア
メリカ製の時計の針が、私には一番安心して触
5)針・軸の固定
れるものの-つでした。しかし、この時計も長
く使って見た使用者の場合、「ある日突然、ビー
ンという音と共に、はじけて飛んでしまった」
という報告があります。いくら固く止めても、
長い間の振動で緩みが出てくるものかも知れませ
ん。針は、本来、軸に差し込まれている物です。
これを、軸に固定してしまう事は出来ないもの‐
軸に固定してしまう事は出来ないものでしょうか。 言葉はわかりませんが、ハン
139
ダ付けしてしまうといったことです。当然、時計を組み立てる段階で、文字盤にはめること
が出来なくなります。機械部分から突き出た軸を、文字盤の中心に空けた穴から差し込んで、
文字盤の表に飛び出した軸に針をはめる。これが一般の順序です。
この時、文字盤を左右(あるいは上下)に二つの部分に分けておいて、機械部分と針の間
に、後から文字盤をセットする事を考えることで、針を軸に固定してしまうという可能性は
ないものでしょうか。
○日本で作って欲しい
136ページに出した写真の時計は、アメリカから取り寄せた物です。
現在、海外で優れた商品が出来ていれば、取り寄せることは出来ます6しかし、個人的な
取り寄せには、大変な手間がかかることは書く以前に、お分かりいただけるでしょう。今回、
渡米された方にお願いして、現地で発注。届くまでの期間の長かったこと。やっと日本まで
送り届けられたとき、今度は「1箇所にまとまった数の新品時計が届いた」と言うことで、
商売用と思われてしまったのか、空港の税関に留め置きになってしまいました。手元に届い
たのは、発注から数ヶ月後。
勿論、商品の値段に加えて、送料などもかかってしまいます。
使い始めての問題は、
.壊れた時の交換部品が無い。
・修理を引き受けてくれるところが無い。
・説明書の日本語版が無い。
・アメリカが、全国統一へルツであるため、日本のように、西と東でヘルツの切り替えが
必要な国での対応が無い。つまり、購入時に、「関西で使います」と、頼めば、ヘルツの
対応はしてくれますが、その後、引っ越して関東に行ったら、使えないという事です。
海外で、性能のよい時計が出来てくることも、勿論嬉しいことではありますが、やはり、
日本で製造販売して欲しいと思います。
○動力
電源をコンセントから取るか、電池を使うか。
アンケートでは、電池式を希望する回答が多くなっています。ここまでは、私の実験では
分かりませんが、部屋の中にコードが這うというのは、できれば避けたいことになるかと思
われます。自分の使い勝手のいい場所に置けるように、電池式が好まれる理由もあると思い
ます。しかし、これから多く出てくる注文に対して、電池では動力源として不足というもの
もあるでしょう。
140
ここで最初に取り上げた、もっとも市販されている時計の構造に近い触読式時計を考えた
場合は、電池を使うことが望まれます。
○アラームやタイマーについて
今回の時計には、アラームやタイマーを付けることを考えに入れていません。もっとも基
本的な、時間を知る目的だけに絞ります。しかも、触読式の時計です。
時計談義の中でも、弱視ろうの人、盲難聴の人にも使いやすいようにというアイディアは
たくさん挙げられました。しかし、今回の構想の中では、これは二次的なものとします。
「ついでに、盲ろう者にも使える時計」ではなく、「盲ろう者の時計」です。そのために、
色、光、音などのことも、ここでは考えに入れません。
以上は、既存の時計からの展開です。
どんな時計にしても、触読式の商品を売りに出すときには、「壊すこと」「なくすこと」が、
一般商品より多いという予想のもとに、修理、部品の交換ができる状態を用意する。できれ
ば、針などは「替え」を添えて売るぐらいのことを考えていただきたいものです。
3.ピンディスプレイからの発想
時計会議(時計についてのおしゃべり会)の中で、ピンディスプレイが仲間のイメージに
入り込んだのは、意外と早い時点でした。並んで開いている穴から、次々にピンが飛び出し
てきて、点字を並べていくピンディスプレイ。
あのピンが、次々に飛び出すことで、時間の経過を示していく方法につながらないか?
この話が飛び出した瞬間に、それぞれの仲間の中で、いろいろな場所に大小さまざまなピ
ンが飛び出すイメージが広がったようです。
私たちにはピンディスプレイを動かしているコンピュータの仕組みは全く分かりません。
つまりは、実現可能か不可能かも全く分かりません。まず、可能性を問い合わせてしまった
ら、話はそこで終わってしまうかも知れません。例え不可能でも、それを知らないまま、私
たちの発想は自由に広げようという、大胆な申し合わせには、簡単に全員一致しました。
それがもし、時間を知ることに難しさを感じたり、これから時計を覚えていく子供たちに
役立つものなら、大いに考えてみたい。
もう一つ、ピンで時を知らせることが出来れば、針とは違って、いくら長く触っていても、
乱暴に探しても、、針の動きを邪魔してしまうようなことが無い。常に動いている物ではない
という事です。
141
○横長棒時計の構想
朝、お母さんに起こされて、朝ご飯。学校に行くと、友達や先生に囲まれる。お勉強の時
間やお弁当の時間。そろそろお母さんが迎えにきてくれるかな・・・?
1日の時間の流れを感覚として受け止め、過ぎた時間やこれから迎える時間の存在を知り
始めた盲ろう児が、時間の流れと時計の動きを関連付ける時期になります。
ここで、円運動を繰り返す時計の動きと、時間の流れを結びつける難しさがあるようです。
「時間の流れを横に長く置いて見たらどうだろうか」。横に伸びた1本の棒。この長さが
1日とすると、現在は1日の内のこのあたりにいる。お勉強の時間は、長いと感じるけれど、
1日の長さの中では、このぐらいの部分。
盲学校の先生が、歴史の授業での体験を話してくださいました。壁に点字用紙をずらっと
並べて、この何枚目までがどんな時代、次の何枚が何時代。この方法で子供たちが掴んだ歴
史の流れ、時代の長さの割合と同じような効果が、横長時計で実現できるのではないか。
施設などでは、1日の予定表を知らせる時計としても使えるかも知れません。
○横長棒時計の考えが、広がっていった経過
・盲ろう児の時間教育に使う。
・盲学校や施設で、大勢が触る場所で使えるのではないか。
・24時間を横に並べて、左から右へピンが順に突き出す。24時まで行くと、突然スタ
ートの0に戻る。次の日の始まり。
.過ぎた時間とこれから向かえる時間の区別に、午前0時には、全部のピンを出しておい
て、過ぎた時間は、ピンが引っ込んでなくなって行く。全部なくなった24時には、突然、
全部のピンが飛び出し、新しい24時間が用意される。
・ピンの出入りでなく、針が左から右に移動していくのはどうか。
・ピンの代わりに、ピアノの鍵盤のような盤を並べて、未だこれから使える時間は上に、
終わった時間は鍵盤を押したときのように下がってしまう。
・目盛り(ピンの数)は10分ごと、多くても5分刻みでどうか。
・各目盛り(または、15分おきなど)に、予定を表わすしるしを付けられるような工夫
は出来ないか。
・棒を2本にして、1本が時間だけ、2本目が分を表わす方法はどうか。
横長棒時計の柵想を楽しんでいるうちに、この横長棒時計は、10分を1cmとしても、全
長が約150cm・触読には大きすぎる物になることに気付きました。
施設や学校に1台あって、予定表にあわせた使い方と言うのには有効でしょう。
142
しかし、特に子供が親しんで使うには、せめて子供が、両手で一度に触れる大きさにした
い。
I
、
スタートとゴールを近づけるために、考えたのが、半円型。太陽の動きを表わすようなイ
メージは、時を表わすにはいいのではないかという考えです。
そして、次に飛び出した形が、横長棒時計からの発想の決定版になりました。
○山形時計
横長時計の24時間を半分に切ります。それぞれは0時から12時まで。1本目の12時間
は午前を表わし、2本目が午後を表わします。昼の12時、正午を頂点として、直角二等辺
三角形の二等辺に2本の棒時計を当てはめます。
先ずは、壁掛け用として考えます。
・午前は左下から頂点に向かって登って行きます。
・午後は、頂点から右下に向かって降りて行きます。
おなじ、0から12を使いながら、午前と午後という考えが入って来ます。
・棒の断面図は、触読しやすいように、垂直より斜めにします。
・目盛りは、面を横切った立体線で表わします。
・時間に当たる線は太く高くします
・目盛り線の上に、ピンが出たり入ったりする穴が並びます。
・目盛り線の上に、立体数字か点字の数字を付けます。
・時間ごと,または30分毎に穴をあけておきます。これは何かの予定時間を穴に差し込め
る駒のようなもので表わす時に使います。
.この、山形に組みあわされた2本の棒を、はずして使うことも考えられます。横長時計
の12時間時計になり、教材としての使い道があるとの意見もありました。
・山形の三角形の空間に、円形の時計をはめ込む考えもあります。長い時計から、いずれ
は円運動の時計に移行する教材に、役立つのではないでしょうか。
143
○針一本時計
棒時計の構想を楽しみながら、気付いた
9)針一本
ことが二つありました。
・円周という線は、長さに比べて面積を
取らないものだ。
・針が一本でも時間だけでなく、分の位
置だってある程度は読み取れる。
どちらも当たり前のことながら棒時計
を考えたお陰で、実感できた事でした。
ここから再び、円形時計に戻ってきます。
まず、円運動の時計の針を一本にすることで、何力噺しく考えられるか。
・待望の、円板針が使える。ここで、針一本時計の誕生です。
・文字盤の目盛りを細かくするために、文字盤を大きく、直径20cmにします。
・文字盤の中央、直径14cmを、へこまします。
・円板針の直径が、14cm。もちろん、うまく窪みの中で円板が回るように、
多少のゆとりを持たせます。
・円板の中心から一本の半径を盛り上がった線にします。これが、針の役をします。円板
144
から針の先を飛び出させる必要はありません。針を押して動かしてしまうことと、細い針
の持つ弱さが解消されます。
・文字盤は、中心からの放射線を使い、数字に当たる線は太く高くします。
・12,3,6,9のところには、円周近くにしるしを入れます。
・円板が窪みにはまっているために、12時には、針の直線と文字盤の12を示す直線とが、
段差の無い一本の線になります。
.この大きさにすれば、10分毎の目盛りまでは入れられそうです。
.もし、針が重すぎて動かすのが大変な時には、針の円板に窓を開けることになるので
しょうが、できれば、穴はあけたくありません。また、針を横からの力で動かす元にな
るからです。
○時時計(じどけい)と分時計(ふんどけい)の組み合わせ
このあたりでは、盲ろう児の時計教材的な考えが強くなっています。
針一本時計を使いこなすようになると、次に難しい時計の問題。同じ360度の円を使って、
12時間を表わしたり60分を表わしたりする使い分けです。
針一本時計を、二つ並べることで、およそでしか捉えられなかった分を、分時計のほうで
見直すことが出来ます。この場合は、時時計も、大きくする必要がなくなります。時時計で、
何時と何時の間と見分け、次に分時計で分を読み
取ります。
盲ろう児はいずれは針二本の時計
を、軽く触れて読み取るようになっ
10)時時計と分時計
ていきます。
触読の難しい人にも、勿論
便利な物になります。本のように、
開くと両面に時時計と分時計。おし
ゃれな時計が出来そうです。
○ピン時計
棒時計で使ったピンを、円形時計で使って見るとどうでしょう。
・文字盤の直径は10cmあれば十分です。
・直径8cmと、直径5cmの同心円を描きます。
・直径8cmの円には60個の小さなピンホール。
、直径5cmの円には12個の大きめなピンホール。
145
・中心から12本の放射線を盛り上がらせます。分の部分は刻みは無くてもいいでしょう。
12,3,6,9に当たる線は太めにし、特に、12が分かるようにしるしを付けます。
・時間を表わすピンは大きめに。
分を表わすピンは、小さめにします。
.このピン時計は、小形にすることも可能だ
11)PlN時計
と思います。
このピン時計で、始めてかなえられたのが、
「時針(時ピン)が、1時間同じ場所にとどま
る」と、言う事です。これは、アンケートの回
答にもかかれていた注文でした。
これは時計の読み取り方の難しさを解消し
ます。例えば、12時55分の場合、時針は殆ど
1時を指しているにも関わらず、「12時」と、読み取らなければならず、難しいといいます。
そういえば、最近は「1時5分前」と、いう時計の読み取り方がなくなったことに気付か
されました。これは、デジタル時計の登場に関係しているのでしょうね。
私の子供時代には、「・・・分前」という読み取りを教えられていたと思います。
○針一本時計とピン時計の組み合わせ
針一本の分時計に、時間はピンで表わすという、組み合わせも考られます。
反対に、針1本の時時計に、分をピ
ンで表わす組み合わせもできます。
メリットは、ここまでに書いた、そ
れぞれのよさを併せ持つという事に
なります6
午前か午後か、今回考えた時計は、
いずれも読み取り安さがテーマです
から、円を使う場合には、24時間制
で、複雑にしてしまうことは避けま
す。
ところがここに、「盲ろう者用の時計には、是非付けたいもの」があります。
私は、夜更かしで知られています。そんな私のところに、真夜中に電話がかかってくる事
があります。
146
「もしもし、石田さんですか。今は昼ですか?夜ですか?」
一人暮らしの盲ろうの友達からです。例えば風邪気味で、薬を飲んで寝てしまったような
場合に、いつもとは違った眠りに落ちてしまう。目が覚めて、時計を見る。
「2時か。でも、夜中の2時かしら?それともぐっすり眠ってしまって、昼の2時になっ
ているのかしら?」
そうです、午前と午後を表示する何かが欲しいのです。
これから時計を覚える盲ろう児にも、同じ12時間ではあっても、午前と午後があること
も、分かってほしい。
例えば、短針が12を超える時に、切り替えをする。
アラーム機能が、いつも12時のところにあると考えてもいいかも知れません。
午前と午後、二つの使い分けですから、例えば、ピンを使って、文字盤の分かりやすい位
置に大き目のピンが出ているか、引っ込んでいるか。こんな、二進法の考えでいい訳です。
どの時計にも、できるだけ付けたい機能です。
どちらかといえば、存在感をはっきりさせるために、12時の線を挟んで、左右に大きな
ピンホールを作り、午前は左、午後は右のピンが出ているといった表示がいいと思います。
ピントいうより、平たい盛り上がりで、他のピンとの感触を変えるのがいいかと思います。
針2本の時計などで、文字盤に付けるスペースのない場合は、本体の上にアラームをセッ
トする時の飛び出しボタンのように、文字盤の外での表示でもいいかも知れません。
○時を刻む
j百年休まずにチクタクチクタクおじいさんと一緒にチクタクチクタク〕
「大きな古時計」の歌詞の一部です。
「私たちの生活と時」との関係は、大きな
13)午前午後
天体の動きを元にする、1日の長さと同時
に、「ひと時も休まず流れる」もの。体内
 ̄■■■■■■■■■■--
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の鼓動にも似た、秒を刻む音、振り子の動
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を諦めたのですが、ピン時計を考えた時点
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では、速すぎる動きとして、秒針の触読
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。毛
針の動きと触読を組み合わせた時点
から、この可能性は蘇ってくると思います。
文字盤のどこかに、秒をあらわすピンを設ければ、そのピンの「出る」「ひっこむ」とい
147
うリズムで、「チクタクチクタク」が伝えられる。
ここでは、ピン時計の中心に、秒を刻む秒ピンをつけてみました。上の二つの円は、午前
午後の表示です。
どの時計にも、可能な限り、付けiUえたいものです。
4.デジタル触読時計
○点字デジタル時計
デジタル時計の触読というと、おかしな感じがしますが、ピンディスからの発想に入った
時から、とても可能性がありそうな気がしています。
たった四つのマスに、ピンディスの6ピンをはめ込むだけで、点字で刻々と変る時間を表
示することが出来そうな気がしています。
数符は固定してしまった点。二つ並んだマスの後に、「:」を固定し、また、二つのマス。
-つ目のマスは、lだけ。
二つ目のマスは、lから0まで。
分に移って、三つ目のマスはlから6まで。
四つ目のマスはlから0まで。秒の表示も並べてもいいでしょう。
本体は置時計の大きさになったとしても、出来そうな気がします。
浮き出し数字デジタル時計
点字を手に入れていない
人のことを考えると、墨字
の数字を浮き上がらせる事
も考えられます。一般のデ
ジタル時計でも、7本の線
の組み合わせで、Iから0
までの数字を表わすことが
あります。その、7本の線
を持ち上げて飛び出させることで、触読することができるのではないでしょうか。
もしかすると、この線は、1本の線でなく、点の並びのほうがいいのかも知れません。
やたらと夢を育てて来た仲間たちからは、今でも新しいユニークな考えが届けられてきま
す。ここに、書き留めることが出来たのは、ほんの少数の例に過ぎません。
それぞれの人のニーズに合った時計は、盲ろう者の数だけ必要で、私たちが時計屋の店先
で楽しみながら選ぶように、「どれが自分にとって使いやすいか」「どれが好みにあっている
148
力)」と、盲ろうの方たちも、店先で触読式置時計を選ぶ楽しさがもてることが私たち仲間の
理想です。
障害者やお年よりの使いやすさを考える事が、全ての人に優しい製品を生み出していくと
言われます。それどころか、わずかな、特別な条件を持った人たちのためにと、考えている
中で,常識に縛られていた枠が外れて、新しい世界が開けることにもつながっていくのかも
知れないと感じました。
総合型
重量感のある、どっしりとした置時計。デザインによっては、部屋の雰囲気まで変えてし
まう調度品にもなりそうです。
私たちの考えたイメージ時計を総合して、山形時計の間に、ピン時計とデジタル時計をは
め込んで見ました。
盲ろうの少年、敦史君の描いてくれた時計の設計図に、とても良く似ていることに驚きま
した。
謝辞:触読式置時計を考える仲間の考えやイメージを15点の的確な絵に具体化してく
ださいました石田アイ子氏に、ここに心からの感謝の意を表したいと思います。
149
まとめ
本研究は、今後の盲ろう者施策の充実に向け、国内外における冑ろう者施策について調
査するとともに、当事者の要望調査を踏まえて、今後の盲ろう者施策のあり方を提案する
ことを目的としている。
各年度の調査研究の実施内容は次のとおりであった。
平成11年度
①わが国の盲ろう者関係制度
②わが国の施設サービスの実態
③わが国の在宅サービスの実態
④盲ろう者のニーズの実態把握のための「ニーズ調査」のための予備的調査
⑤諸外国の制度の調査
平成12年度
①地方自治体の盲ろう者関係制度
②施設入所盲ろう者の実態
③在宅盲ろう者及び家族のニーズ調査
④在宅盲ろう者についての事例研究
⑤盲ろう者向け福祉機器の現状把握
平成13年度
①米国の冑ろう者関係制度の詳細
②冑ろう者及び家族サービスのあり方
③盲ろう者の時間感覚についての事例研究
④盲ろう者施策のあり方についての検討
研究の結果、わが国の盲ろう者のみを対象とした国レベルのサービスは、国の事業とし
て日常生活用具としての点字ディスプレイの支給および盲ろう通訳・ガイドヘルパー養成
事業、全国盲ろう者協会による盲ろう者通訳・介助者派遣事業および通訳用点字タイプラ
イターの貸与等に限定されていた。都道府県レベルの盲ろう者施策については、全国19の
地方自治体で、旨ろう者通訳・ガイドヘルパー養成事業、盲ろう者向け通訳・介助員派遣事
業等を実施していることがわかった。
また、盲ろう施設調査においては、施設内のコミュニケーションの問題、家族支援のニ
ーズ等が明らかになった。在宅調査からは、「孤独」、「緊急時への不安」、「コミュニケーシ
ョンの不安定さ、不確実さ」、「適切なコミュニケーションに対する周囲の無理解」、「通訳・
介助者派遣制度の不十分さ」、「家族からの疎外」等多種多様な困難やそれに伴うニーズが
存在することが明らかとなった。
事例研究からは、働き口がない、外出ができない、コミュニケーションができないとい
う悩みを解決できないでいる実態が明らかになったが、一方、共同作業所等の地域利用施
設での活動に生きがいを見出している例もあった。また、家族支援の必要性も示唆された。
盲ろう者及び家族の状況については、心理的・社会的教育について家族に対する期待が大
150
きかつたが、現状では、十分対応されておらず、家族に対する専門的支援の必要性が示唆
された。
盲ろう者向け福祉機器については、盲ろう者の生活を支えるには全く不十分な状態で、
まだ取り組みが始まったばかりという状態であった。
また、外国の状況について、米国、フランス、北欧の状況についてその内容をまとめた。
これまでの研究の成果を踏まえ、つぎのような施策の充実が望まれる。
①盲ろう通訳派遣制度の充実
②家族支援制度の充実
③盲ろう者のリハビリテーション施設の充実
④盲ろう関係職員の養成・研修の充実
⑤地域サポートの充実
⑥コミュニケーションやセキュリティー関係機器の開発
⑦セキュリティーシステムの整備
⑧職業開拓
⑨一般社会の啓蒙施策の充実
今後の旨ろう者施策の充実に向け、本研究の成果がお役に立てれば幸いである。
最後に、本研究に参加いただいた多くの研究者および研究協力者の皆様に心より感謝申
最後に、
し上げる。
主任研究者
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寺島彰
平成13年度厚生科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)
「盲ろう者に対する障害者施策のあり方に関する研究」報告書
発行者寺島彰(主任研究者:国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
〒359-8555所沢市並木4-1
発行平成14年3月31日
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