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支台築造用ファイバーポストの特性
歯科医の時間 ラジオNIKKEI 2006年4月18日午後9時15分∼午後9時30分放送 企画協力:日 本 歯 科 医 師 会 支台築造用ファイバーポストの特性 東京医科歯科大学教授 高橋 英和 ●鋳造ポストとファイバーポスト● 歯科診療において、いわゆるプラスチック、高分子材料が多く利用されています。高分 子材料は加工性に優れるとともに、色調も歯質と類似することが可能なため、歯科診療の いろいろな場面で応用されています。しかしながら、高分子材料の機械的性質を金属材料 と比較すると、必ずしも十分ではなく、今までは高分子材料の太さや厚さを大きくする方 法で機械的性質の不足を補っていました。ところが、高分子材料に細いガラス繊維を含有 させたところ機械的性質が向上することが知られ、ガラス繊維補強プラスチック、FRP としていろいろな分野で利用されてきています。歯科用材料としてはブリッジ用のシート 材料や支台築造用のファイバーポストとして、すでに海外では多くの製品が販売されてい ます。 ところで、日本では支台築造に鋳造ポストが多く用いられてきました。近年、支台築造 と歯根破折の関連が注目され、その原因の一つとして金属製ポストの使用が指摘されてい ます。これは、変形に対する抵抗の度合いを表す弾性係数が金属材料では象牙質と比較す ると大きいために、歯冠部に加わった力がポスト先端に伝達され、その結果として歯根部 での破折が生じると考えられているためです。 一方で、歯質と接着するレジンが開発されてきたことにより、コンポジットレジンを用 いた支台築造が急速に広まっています。しかし、コンポジットレジンだけでは機械的性質 が不足する場合があり、支台築造用のファイバーポストが併用されることがあります。 ガラス繊維もしくは炭素繊維をレジンで固めたいわゆるファイバーポストは、海外では いろいろな素材、形状の多数の製品が市販されています。わが国では2003年10月に1製品 が、また本年新たに2製品が認可され、今後他の製品も認可されていくと思います。そこ で、これらのファイバーポストの特徴がどのようなものであるかを解説したいと思います。 ●ファイバーポストの調査● 調査したものは国内外の市販品、試作品の13製品です。いずれの製品も、直径の異なる ポストが3∼6種類あります。色調は炭素繊維を用いたものは黒色ですが、ガラス繊維を 用いたものは白色もしくは半透明です。形態としてはテーパーが付与されて先端部が細く なっているもの、太さが二段階になっているもの、途中で何段かの溝やくびれのあるもの、 ガラス繊維を編みこんだものがあります。ポストを挿入するための根管拡大が最小限です むようにそれぞれの形態にあった専用のドリルを用意するなどの工夫がなされています。 また、多くの製品がそれぞれの形態にあった専用のドリルも販売しています。さらにポス ト合着用のレジンセメントや築造用セメントを推奨しているメーカーもあります。 これら製品の組成はメーカーによりますと、炭素繊維、ガラス繊維、石英ガラス繊維、 ジルコニア含有ガラス繊維を40∼60%含み、レジン、アクリル樹脂、エポシキ樹脂などで 成形しているとされています。しかし、組成や物性値に関する情報は必ずしも十分に公表 されてはいません。 各ファイバーポストの表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、多くの製品では表面 にガラス繊維が露出している像がみられ、これらの製品はガラス繊維とレジンを硬化させ てから機械加工によって各種の形態を付与したと考えられます。 次にファイバーポストを割断して、繊維の太さと繊維ならびにレジンに含まれる成分を X線マイクロアナライザーにて元素分析をしてみました。繊維としては炭素が主成分の炭 素繊維、シリカ、アルミナ、マグネシアを主成分とするガラス繊維、シリカ、アルミナの ほかにジルコニアを含有するガラス繊維に分類でき、繊維の太さは6∼15ミクロンメート ルでした。また、固定しているレジンはフィラーを含まない製品と、バリウムとシリカか らなるフィラーを配合している製品とがありました。ジルコニアやバリウムはX線造影性 を有するため、これら製品のエックス線写真を観察すると象牙質と同等以上のエックス線 造影性があり、口腔内に装着しても十分にその存在が認識できるものと思われました。 ポスト材料の物性値としては、主に曲げ試験で評価されています。そのなかで曲げると きにどのくらい力に耐えるかを示す曲げ強さと、たわませたときのたわみやすさの目安で ある曲げ弾性係数について調べてみました。本来、曲げ試験では、調べる材料の直径に対 して十分に間隔を広げて試験を行うべきですが、市販のファイバーポストのほとんどは直 径が一定である部分が短く、間隔が十分に広く取れません。そのため、この結果はあくま でも相対値であり、実際の値は示した結果よりも大きいものと考えられます。曲げ強さの 結果は460∼900MPa であり、比較対象として測定した牛歯歯根象牙質の270MPa よりも十 分に大きな値でした。弾性係数の結果は10∼24GPa であり、多くの製品が象牙質の16GPa に近い値を示しました。しかし、先ほどお話しましたように、この値は絶対値ではなく、 ファイバーポストのように繊維が長軸方向に配列されている場合は、曲げる間隔を広くす ると、弾性係数は大きくなり、ファイバーポストの実際の値は象牙質より大きくなること が予想されます。ガラス繊維の弾性係数は60∼70GPa であり、繊維の体積含有量を40∼ 60%とすると弾性係数は24∼42GPa であり、ほぼメーカーの公表値に近い値になります。 はじめにお話しましたように、ファイバーポストの弾性係数が象牙質に近似しているか ら歯根破折を引き起こさないとされていますが、多くの製品の実際の弾性係数は象牙質よ り大きいと考えられます。また、適切に鋳造支台築造を処置すれば、臨床経過観察の結果 では、歯根破折を引き起こす確率は大変小さいとする指摘もあります。今お示ししました ようなファイバーポストの曲げ特性が、本当に歯根破折の防止に有用かは今後の研究結果 が必要と思います。 ファイバーポストを用いた支台築造ではコア用コンポジットレジンやレジンセメントと の接着が重要です。しかし、ファイバーポストを成形するために使用しているレジンは、 架橋剤を多く含むために、表面処理を行わないとコンポジットレジンとは十分に接着しま せん。そのためファイバーポスト表面積を増やして機械的嵌合効力を大きくするサンドブ ラスト処理、ポスト表面のガラス繊維との接着を改善するためのシラン処理が、レジンと 大きな接着力を得るためにはそれぞれ有効とされています。 ファイバーポストは審美性に優れているため、その効果に大きな期待が寄せられていま す。しかしながら、ファイバーポストに関する有用性については、必ずしも十分な疫学的 評価がまだされていないのが現状だと考えています。いままでの鋳造支台築造や既製金属 ポストのすべてに置き換われるものではないので、適切な症例選択を基に使用することが 大切と思います。