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(新車)販売業の活力の再生に向けた基本指針
自動車(新車)販売業の活力の再生に向けた基本指針(事業分野別指針) 一 現状認識 イ 業界の特徴 自動車は、経済社会の基盤となる輸送手段を提供するのみならず、生活文化 を形作る重要な要素ともなっている消費財である。自動車(新車)販売業は、 国内における自動車(新車)の販売を通じて戦後のモータリゼーションを主導 し、我が国の自動車産業の発展の基盤を築き上げる役割を果たすとともに、小 売サービス全体の中でも、今なお枢要な位置を占めている。 自動車(新車)販売業の市場規模は約 11 兆円(2004 年)であり、小売業全 体の販売額の約 8.3%を占め、また雇用者数も 30 万人を超えている。 ロ 業界の現状 1 市場環境 上述したとおり、自動車(新車)販売業の市場規模は小売業全体の中でも 大きいものであるが、昨今の経済成長の鈍化、自動車の普及の進展、少子高 齢化の進展等の経済社会情勢の変化に伴った国内市場の成熟化や、自動車の 平均使用年数の長期化等により、足下の自動車の国内販売は伸び悩んでおり 、特に、軽乗用車以外の乗用車の販売台数の落ち込みが大きくなっている。 また、軽乗用車の販売台数についても堅調な伸びを示していたが、2007 年に は減少した。商用車についても、排ガス規制の強化による代替需要の発生な どにより一時的に販売が上向く時期はあっても、運送事業者の経営環境の悪 化もあり、販売の趨勢は減少傾向にある。 ストックベースで見た保有台数は、乗用車については当面は伸び続けてい るものの、商用車については既に減少に転じており、いずれにしても、現下 の市場環境の下では、今後の国内新車販売が飛躍的に拡大することは期待で きない状況にある。 こうした状況の中、自動車メーカーの系列販売という長年確立した商慣行 の下、主としてメーカー主導でのチャネル統合等が進展しているが、新車販 売が伸び悩む中で、総体として自動車販売業者の収益状況は悪化している。 また、現時点においては、他の流通業態で見られるような新興国等からの輸 入拡大による価格破壊といった現象は生じていないが、自動車に関する消費 支出は減少しており、携帯電話やインターネットなどの他の商品・サービス との競合が生じている可能性がある。また、整備等の関連サービス分野につ いても、大型自動車用品フランチャイズ店等の競合事業者との競争は激しく なるものと考えられる。 2 産業構造 自動車(新車)販売業は、自動車メーカーの系列販売という商慣行が確立 1 しており、自動車メーカーが単独又は複数の自動車販売チャネルを設立し、 それぞれのブランドを有したチャネルが、それぞれ特定の車種の販売を担当 している。これは異なる自動車メーカーの販売チャネル間ではもちろんのこ と、同一自動車メーカーの販売チャネル間においても競争を推進する仕組み であって、このような販売体制は、従来は販売促進に大きく寄与してきた。 3 雇用環境 自動車販売の現場においては、技能やノウハウを持った販売員と整備サー ビスを担う技能者の確保が必要となる。しかしながら、労働人口の減少等に 伴い、販売や整備に携わる従業員の確保・育成が困難になるおそれがある。 趨勢としても、商業統計によれば、自動車(新車)販売業における従業者数 は、1991 年の約 49 万人から 2004 年の約 33 万人となり、減少傾向にある。 また、定着という面でも、自動車(新車)販売業における新車営業スタッフ の採用 3 年後の定着率は 7 割前後であり、若手人材をいかに定着させるかと いう課題を抱えている。 ハ 課題 上述したとおり、国内市場の成熟化や自動車の平均使用年数の長期化等によ り自動車の国内販売は伸び悩んでおり、生産性向上を阻害する外部要因となっ ている。これに加え、自動車には、他の消費財と異なり、複雑かつ多段階の税 が課せられるとともに、登録や販売に関して多種多様な規制・制約が課されて いる。こうした税制や規制が、消費者の購入意欲の増進や事業効率の改善を困 難にしているという側面もある。 こうした中、自動車(新車)販売業における課題は以下のように整理できる。 1 販売台数の平準化 自動車の販売台数は3月が最も多い。これは、販売側は決算期を迎え売上 を増やそうとすることやユーザー側は新年度を控えて新規需要や買換需要が 増加することによる。3月の販売台数は、最も販売台数が少ない月の倍以上 となるなど、月別の販売台数には大きな偏りがあるため、必要な設備・人員 とも月によって大幅に異なっており、これが販売店のリソースの極端な不足 や余剰を生じさせ、経営の効率を損なっている。このため、いかに販売台数 を平準化するかが課題となっている。 2 バリューチェーンの構築 新車販売が伸び悩む中で、個別企業の創意工夫による生産性向上のための 取組が始められているが、新車販売をコア事業としつつも、新車販売とそれ 以外のサービスを組み合わせた「バリューチェーン」の構築がこれまで以上 に必要になってくると考えられる。 既に乗用車店、軽四併売店(軽自動車を主に販売している店舗)、輸入車 店、大型車店など店舗の種類に関係なく、新車販売以外の事業から生じる収 2 益が全体の収益に占める割合は高まってきており、新車販売以外の事業の重 要性が増大していると言える。 3 ITを活用した顧客管理の効率化 販売店においては既納客との長期的・継続的な関係を維持していくことが 車検等サービス分野の売上増加、将来的な新車販売などの面で非常に重要で あり、自動車の使用期間の長期化や新車販売スタッフの定着率の低さといっ た点を考えると、ITを活用して顧客管理を継続的・効率的に行うことが必 要である。また同時に、中古車販売や金融サービス業等などの関連事業との 連携を強化することも必要である。 4 魅力ある職場作りと人材育成 月別販売台数の不均一さ、顧客のスケジュールに合わせた営業や納車の必 要性、顧客の車検時期の重複などの要因により、販売員や整備エンジニアの 労働時間の長時間化、また逆に閑散期における非効率な配置などが問題にな っている。一方で自動車の機能向上に伴い消費者に説明すべき事項が増大し ている結果、販売員の負担はこれまで以上に増加しており、自動車販売業の 職場は必ずしも魅力溢れる職場と言えなくなっている側面がある。 また、今後はさらに高度な整備技術や新車販売以外の分野での収益の増大 が求められることが予想され、優秀な販売員・整備エンジニアの確保と効率 的な育成が重要な課題となる。 二 事業分野別指針の策定の必要性 上述のとおり、自動車(新車)販売業は、市場規模は約 11 兆円と小売業全体 の販売額の約 8.3%を占めており、雇用者数も 30 万人を超える重要な産業である。 自動車販売業における生産性の「水準」については単純な各国比較が困難であ るものの、欧米と比べて、我が国の自動車販売業の生産性の上昇率は低くなって いる。また、欧米と比較して新車販売の利益率は高いと言われているが、厳しい 市場環境を踏まえれば、今後は減少していくおそれが高い。実際に、「売上総利 益率」は 2001 年の約 16.3%から 2006 年には約 15.3%となっており、ここ数年 間は低下傾向にある。また、「営業スタッフ 1 人当り新車直販台数(年間)」は 乗用車店合計では 2002 年の約 42.3 台から 2006 年には約 38.7 台とこちらも若 干の低下傾向が見られる。 今後、飛躍的に市場が拡大することは見込めない中で、生産性の向上による収 益の確保は、自動車販売業の経営上の重要な課題であるとともに、我が国経済全 体にとっても重要な課題である。このような背景から、自動車(新車)販売業に ついて事業分野別指針を策定し、自動車(新車)販売業の生産性向上を促すこと とする。 3 三 生産性向上に関する基本的方向性 自動車(新車)販売業の生産性向上に関する大きな方向性としては、以下のよ うに考えられる。 イ 付加価値の向上 1 消費者の嗜好に沿った魅力ある商品の販売 新車販売を拡大するため、自動車の持つ魅力を的確に伝達することが自動 車(新車)販売業の使命であるとの認識のもとに、顧客との直接的なコミュ ニケーションの場を活用して、環境・エネルギー性能の高い自動車や次世代 自動車の商品展開と普及を推進することが重要である。 また、創意工夫を凝らし、残価設定型ローンなどの新たな販売手法の開発 や女性に好まれるような魅力ある店舗作りによる店頭販売の活性化といった 従前からの取組を更に強化することが重要である。 2 ストック・ビジネスの積極的な展開 新車販売を事業の中核としつつも、ストック・ビジネス(後日定期点検や 車検の実施、保険や金融商品、補修品、自動車部品や自動車用品等の販売と いった販売した自動車等に係るサービス需要を的確に取り込み、収益をあげ ようとする取組)の積極的な展開を図っていくべきである。そのためにも、 例えば、今後求められる高度な整備技術にも対応できるよう、整備に係る適 切な設備投資と人材の確保・育成を進めていくことが重要である。 3 IT を活用した顧客管理の効率化 販売店においては既納客との長期的・継続的な関係を維持していくことが 車検等サービス分野の売上増加、将来的な新車販売などの面で非常に重要で あるが、自動車の使用期間の長期化や、販売スタッフの定着率の低さから、 販売店として顧客管理を継続的・効率的に行うことが必要である。 そのためには、IT を活用して豊富な情報を適切に整理・蓄積するとともに 、全社規模による顧客管理の効率化を図ることが重要である。また同時に、 中古車販売や金融サービス業等の関連事業との連携を強化することも重要で ある。 ロ 経営の合理化・効率化 1 経営統合や業務提携による効率化 これまでも自動車メーカー主導での販売チャネルの統合等の事業再構築が 進展しているが、今後は、自動車(新車)販売業者自身の主導による販売店 舗網の集約・拡大の可能性についても検討すべきである。また、整備関連業 者との提携による整備サービスの効率的な運営、自動車(新車)販売業者の 共同での店舗展開の推進などサービスの質を落とさずに効率化を図る取組を 進めるとともに、提携等による相乗効果を生み出す取組を更に進めていくこ とが重要である。 4 2 業務プロセスの改善と店舗業務の効率化 販売員や整備エンジニアの効果的・効率的な活用を行うため、適切な人材 配置や時間管理の徹底、バックアップ体制の確保等を進めるとともに、顧客 対応について専門性の高い人材による対応集約化や利便性を考慮したコール センターの設置、関係資料のデータベース化等のシステム整備を進めていく ことが重要である。 3 人材育成 自動車の機能向上に伴って消費者に説明すべき事項が増大している状況等 も踏まえつつ、販売員の技能・ノウハウを新規採用者や若手に的確に伝達す る仕組み作りを進めるべきである。また、自動車の電子化の進展など今後求 められる高度な整備技術に対応できる人材を確保し、社内教育を通じて育成 していくことが重要である。 また労務管理の適正化を含めた魅力ある職場作りを進めることによって、 新規採用が厳しい状況の中においてもディーラー経営の要である良質の人材 を確保することが必要である。 四 その他配慮事項 イ 雇用等への配慮 自動車(新車)販売業者の生産性の向上が、その雇用する労働者の犠牲の上 に図られることは、厳に避ける必要がある。このため、自動車(新車)販売業 者が事業再構築、共同事業再編、経営資源再活用、技術活用事業革新又は経営 資源融合を実施するに当たっては、雇用する労働者の理解と協力を得るととも に、失業の予防その他労働者の雇用の安定を図るための必要な措置を講ずるこ とが必要である。 ロ 関連法規の遵守 生産性向上の施策を進めるにあたっては、個人情報保護、労働関連法令、消 費者保護関連法令、環境保護関連法令など関連法規の遵守を徹底する必要があ る。また、リコール等に係る情報を入手した際には自動車メーカーや関連当局 と的確に情報共有を進めることが必要である。 ハ 地球環境問題への配慮 地球温暖化対策の推進が必要となっている状況を踏まえ、各店舗における温 暖化効果ガスの低減に努めることが必要である。 5