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独立行政法人 海洋研究開発機構年報︵平成二十五事業年度︶
本 部
〒237-0061 神奈川県横須賀市夏島町 2-15
電話(046)866-3811(代表)
横浜研究所
〒236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町 3173-25
電話(045)778-3811(代表)
むつ研究所
〒035-0022 青森県むつ市大字関根字北関根 690
電話(0175)25-3811(代表)
高知コア研究所
〒783-8502 高知県南国市物部乙 200
電話(088)864-6705(代表)
国際海洋環境情報センター
〒905-2172 沖縄県名護市字豊原 224-3
電話(0980)50-0111(代表)
東京事務所
〒100-0011 東京都千代田区内幸町 2-2-2
富国生命ビル 23 階
電話(03)5157-3900(代表)
独立行政法人海洋研究開発機構
平成 25事業 年度
年報
独立行政法人海洋研究開発機構
平成 25 事業年度
年報
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
平成 25 事業年度 海洋研究開発機構のあゆみ
平成 25 事業年度 海洋研究開発機構のあゆみ
ナノエマルション化したもの
通常のエマルション
(a)水深 1,979m
(b)水深 1,830m
有人潜水調査船「しんかい 6500」
世界一周航海「QUELLE2013」の実施
深海底から噴き出す熱水にヒントを得て極めて短い時間で
ナノエマルション化する手法の開発に成功
海底火山から初生マグマを世界で初めて発見
太平洋での低層水温の上昇の発見と、そのメカニズムの
解明によって IPCC 第 5 次報告書へ大きく貢献
世界初 ! カリブ海深海 5000m からのライブ中継
約 30 万人が一体感
東北マリンサイエンス拠点形成事業を推進する
東北海洋生態系調査研究船「新青丸」完成
東北地方太平洋沖地震の巨大すべりのメカニズムが明らかに
新型無人探査機「かいこう Mk-IV」命名・披露式を実施
東北地方太平洋沖地震研究、
津波が巨大化した原因場所の特定
深海ブーム到来 ! 国立科学博物館特別展「深海」を開催
ベクトル津波計による新しい海底津波観測手法を立証
真核生物における rRNA 遺伝子の水平伝播を
世界で初めて発見
人工熱水噴出孔を利用した燃料電池型発電に成功
自転速度の変動が地球磁場に与える影響を解明
南海トラフ掘削で科学掘削の世界最深度記録
(水深 3,462.8m)を更新
「実用化展開促進プログラム」により支援した、フリーフォール型
深海探査シャトルビークル「江戸っ子 1 号」の実海域実験に成功
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
序
海洋研究開発機構は、平成 21 年度から平成 25 年度
す。第 3 期中期計画の推進のため、従前までの体制を改
までの 5 ヶ年に渡る第 2 期中期計画を実施しました。この
め、より組織横断的かつ戦略的な研究・開発を実施できる
第 2 期中期計画期間中は、海洋科学技術をはじめとする
よう組織再編を実施しました。その新体制の下で、国の海
各関連分野においてさまざまな成果が得られました。
洋政策等に示された重要課題の解決に貢献するべく、以
地球環境変動の分野では、国際プロジェクトの下、海
下の事項を重点研究開発と位置づけます。
洋地球研究船「みらい」等の船舶において得られた観測 (1)海底資源開発
結果に基づく研究成果が、気候変動に関する政府間パネ (2)海洋・地球環境変動研究
ル(IPCC)第 5 次評価報告書へ引用される等の貢献が (3)海域地震発生帯研究開発
ありました。
また、生物科学の分野では、東北マリンサイエンス拠点
(4)海洋生命理工学研究開発
(5)先端的掘削技術を活用した総合海洋掘削科学の推進
形成事業に参加し、東北地方太平洋沖地震や津波によ (6)先端的融合情報科学の研究開発
る沿岸域の海洋生態系の変化について調査を実施し、影 (7)海洋フロンティアを切り拓く研究基盤の構築
響評価を行いました。これを通して、沖合底層漁場の資
源生物や環境の現状、及びその変動メカニズムの解明に
向けて取り組みました。また、マリアナ海溝に生息するカイ
コウオオソコエビから、バイオマスの利用につながる画期的
な新規酵素の発見がありました。
平成 23 年 3 月に発生した東日本大震災に関しては、
「東
北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)」の下、各種
船舶による調査を行い、検証を重ねてきました。その一環と
これらの課題の遂行により得られた科学的知見を活かして、
海洋・地球・生命システムの統合的理解を目指し、さらに国
家的、社会的ニーズに機動的かつ重点的に対応します。
私ども海洋研究開発機構は、これからも国民の皆様、社
会からの要請に応えるべく、役職員一丸となってその役割を
果たして参る所存です。今後とも、皆様から一層のご支援、
ご理解そしてご指導を賜りますよう、お願い申し上げます。
して、巨大地震と津波を引き起こしたと考えられているプレー
ト境界断層の地質試料の採取、孔内温度の長期測定等
を実施し、地震発生時にプレート境界断層浅部の摩擦係
数が非常に小さく、滑りやすい状態であったことを明らかに
しました。
技術開発の分野では、これまで当機構で培ってきた要
素技術を結集させた無人探査機「かいこう Mk- Ⅳ」や、
自律型無人探査機「ゆめいるか」「おとひめ」「じんべい」
の開発、運用を開始しました。また、海底広域調査研究
船の建造に着手し、将来の海洋資源等の広域科学調査
に資することが期待されています。
当機構は、平成 26 年度より第 3 期中期計画を開始しま
独立行政法人海洋研究開発機構
理事長 平 朝彦
目 次
目 次
1. 海洋研究開発機構の概要
(1)事業概要. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
(2)予算額と職員数の推移. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
(3)本部及び事業所. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
(4)組織図. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
(5)主要施設・設備. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
(6)国際協力. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
2. 各部署の概要および主な成果
地球環境変動領域(RIGC). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
地球内部ダイナミクス領域(IFREE). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
海洋・極限環境生物圏領域(BioGeos). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
地震津波・防災研究プロジェクト. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
海底資源研究プロジェクト. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
システム地球ラボ:プレカンブリアンエコシステムラボユニット. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38
システム地球ラボ:宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリングラボユニット. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41
アプリケーションラボ(APL)
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 43
むつ研究所(MIO). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46
高知コア研究所(KOCHI). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48
海洋工学センター(MARITEC). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 53
地球シミュレータセンター(ESC). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58
地球情報研究センター(DrC)
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64
地球深部探査センター(CDEX)
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 70
東日本海洋生態系変動解析プロジェクトチーム(東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)). . . 74
3. 賛助会について. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 78
海洋研究開発機構の概要
1. 海洋研究開発機構の概要
海の水深 5,000 mの深海から潜航調査のインターネット生
中継を行い、約 30 万人が視聴しました。
広報活動においては、国立科学博物館と共催で特別展
(1)事業概要
「深海」を開催し、59 万人を超える来場者を迎える等、当
独立行政法人海洋研究開発機構(以下「当機構」とい
機構の成果を広く国民にアピールし、深海ブームを巻き起
う)は、我が国における海洋科学技術の総合研究機関と
こしました。
して、海洋に関する基盤的研究と技術開発を通じて、海洋
平 成 25 年 12 月 24 日に閣 議 決 定され た「 独 立 行 政
を中心とした地球システムの解明に挑み、そこから得られ
法人等に関する基 本的な方針」により、当機構は研究
た成果によって人類の生存にとって重要な課題の解決に貢
開発型の法人となること、
「地震・津波観測監視システム
献しています。
(DONET)」を独立行政法人防災科学技術研究所へ移管
平成 25 年度は平成 21 年 4 月から開始した第 2 期中期
すること等が決定されましたので、今後、適切に対応して
目標期間の最終年度にあたり、これまで展開してきた研究
まいります。
開発・技術開発を総括する一年となりました。
(2)予算額と職員数の推移
東北地方太平洋沖地震に関連した調査研究については
地震発生直後から実施しておりますが、平成 25 年度には、
独立行政法人化以降の予算額と職員数の推移を下のグ
平成 24 年度に実施した東北地方太平洋沖地震調査掘削
ラフに示します。平成 25 年度予算は、国の歳出が税収を
にて地球深部探査船「ちきゅう」の掘削孔に設置した長
大きく上回る状態が続いていることを踏まえた財政健全化
期孔内温度計の回収に成功し、世界で初めて断層運動で
の方針により厳しいものとなりましたが、海底広域研究船
生じた残留摩擦熱を直接観測しました。この温度データと
の建造費等については平成 24 年度補正予算から継続して
措置されました。
「ちきゅう」により採取した地質試料、孔内計測データ等
から、東北地方太平洋沖地震の発生メカニズムを科学的
職員数は、競争的資金等の増加による任期制職員の増
に実証し、海溝型巨大地震・津波の発生メカニズムの解
加等のため、近年、増加傾向にありますが、国家公務員
明に向けて大きな進展をもたらしました。これらの成果に
の給与臨時特例措置(平成 24 年 4 月 1 日から 2 年間)の
ついては、米国科学雑誌『Science』に 3 編の論文が同時
趣旨に則った措置を採る等、適切な給与水準の維持や人
掲載されました。
件費の抑制に努めました。
また、地震とそれに伴う津波により劇変した海洋生態系
の回復と漁業復興に向けて、東北大学、東京大学と共同で、
文部科学省補助事業「東北マリンサイエンス拠点形成事
業」に取り組んでいます。平成 25 年 6 月には、東北海洋
生態系調査研究船「新青丸」が当機構に引き渡され、東
北地方沿岸・近海域での調査研究を開始しました。
地球環境変動研究については、海洋地球研究船
「みらい」
や観測ブイ、陸上レーダー等を用いて、大気・海洋・陸域
における様々な観測を実施しています。平成 25 年 9 月に
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 5 次評価報告
書第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)、評価が発表
(3)本部及び事業所
されましたが、これには当機構の研究者が主たる著者とな
りこれまでに発表された観測や予測に関する科学論文が
121 編引用される等、当機構は多くの科学的知見を提供し、
地球環境変動の解明に貢献しました。
平成 26 年 3月31日時点の本部及び事業所は以下のとお
りです。
名称
所在地
横須賀本部
神奈川県横須賀市
深海など極限的な環境の生態系の解明を目指し、有人
横浜研究所
神奈川県横浜市
潜 水 調 査 船「 しんかい 6500」 を用いた世界 一周航 海
むつ研究所
青森県むつ市
極限環境生物圏研究については、高温熱水、湧水、超
「QUELLE2013」を約 1 年かけて行い、
インド洋、
ブラジル沖、
高知コア研究所
高知県南国市
カリブ海、南太平洋から多くの貴重な試料やデータを得る
東京事務所
東京都千代田区
ことに成功しました。また、Web メディアと協働しカリブ
国際海洋環境情報センター
沖縄県名護市
1
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
(4)組織図
海洋研究開発機構の概要
【役 員】
⌮஦㛗
⌮஦
⌮஦
⌮஦
┘஦
┘஦
ᖹ䚷ᮅᙪ
ⓑᒣ䚷⩏ஂ
ᇼ⏣䚷ᖹ
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୰ཎ䚷⿱ᖾ
【研究部門】
地震津波・防災研究プロジェクト
地球環境変動領域
システム地球ラボ
プロジェクトチーム
海洋環境変動研究プログラム
プレカンブリアンエコシステムラボユニット
熱帯気候変動研究プログラム
宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリングラボユニット
東日本海洋生態系変動解析
プロジェクトチーム
北半球寒冷圏研究プログラム
物質循環研究プログラム
研究支援部
地球温暖化予測研究プログラム
支援第 1 課
短期気候変動応用予測研究プログラム
支援第 2 課
次世代モデル研究プログラム
気候変動リスク情報創生プロジェクトチーム
海底資源研究プロジェクト
地球内部ダイナミクス領域
【運営管理部門】
海洋プレート活動研究プログラム
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ⲡ㔝㻌᏶ஓ
固体地球動的過程研究プログラム
経営企画部
地球深部活動研究プログラム
むつ研究所
地球内部物質循環研究プログラム
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㫽ᾏ㻌ගᘯ
研究グループ
研究推進グループ
管理課
企画課
高知コア研究所
経営戦略室
研究グループ
科学支援グループ
管理課
法人統合準備室
総務部
アプリケーションラボ
海洋・極限環境生物圏領域
総務課
深海・地殻内生物圏研究プログラム
先端情報システム創成理工学
プログラム
海洋環境・生物圏変遷過程研究プログラム
予測応用理工学プログラム
横浜管理施設課
深海応用理工学プログラム
東京事務所
海洋生物多様性研究プログラム
施設課
法務・コンプライアンス室
㻮㼕㼛㻳㼑㼛㼟
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ᡤ㛗䚷ᒣᙧ㻌ಇ⏨
人事部
【開発・推進部門】
海洋工学センター
人事第 1 課
地球シミュレータセンター
地球情報研究センター
地球深部探査センター
企画調整グループ
情報システム部
データ技術開発運用部
企画調整室
産学連携課
海洋技術開発部
シミュレーション高度化研究開発プログラム
国際海洋環境情報センター
運用室
外部資金課
運航管理部
シミュレーション応用研究開発プログラム
地球研究情報データベース
構築チーム
国際協力プロジェクト推進室
国際課
環境保安グループ
図書館課
海洋研究船建造室
人事第 2 課
事業推進部
職員課
職員サポート課
経理部
経理課
財務課
契約第 1 課
広報部
契約第 2 課
広報課
報道課
安全・環境管理室
監査室
2
3
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
各部署の概要および主な成果
(5)主要施設・設備
船 舶
潜水船・探査機
有人潜水調査船
「ちきゅう」
「なつしま」
地球深部探査船
海洋調査船
深海巡航探査機
「しんかい6500」
3000m級無人探査機
「うらしま」
「ハイパードルフィン」
長 さ :210.0 m
幅
:38.0 m
船底からの高さ :130 m
乗 員 数 :200 名
総 ト ン 数 :56,752 トン
長 さ : 67.3 m
最 大 掘 削 水 深 :2,500 m
総トン数 : 1,739トン
ドリルストリング長 :10,000 m
乗 員 数 : 55名
就 航 年 :2005 年
就 航 年 : 1981年
最大潜航深度
乗 員 数
長 さ
空 中 重 量
最大潜航深度 : 3,500 m
長 さ : 10.0 m
空 中 重 量 : 7.0トン
: 6,500 m
:3 名
: 9.7 m
: 26.7トン
無人探査機
「かいこう」
「かいよう」
海洋調査船
「よこすか」
支援母船
長 さ : 106.0 m
総トン数 : 3,350トン
総トン数 : 4,439トン
総トン数 : 4,517トン
乗 員 数 : 60名
乗 員 数 : 60名
乗 員 数 : 60名
就 航 年 : 1985年
就 航 年 : 1990年
就 航 年 : 1997年
「白鳳丸」
学術研究船
自律型無人探査機
「おとひめ」
「かいれい」
長 さ : 105.2 m
「みらい」
自律型無人探査機
「じんべい」
深海調査研究船
長 さ : 61.5 m
海洋地球研究船
最大潜航深度 : 3,000 m
長 さ : 3.0 m
空 中 重 量 : 4.3トン
最大潜航深度:
(ランチャー)11,000 m
(ビークル(Mk-Ⅳ))7,000 m
長さ、空中重量:
(ランチャー)
5.2 m、5.8トン
(ビークル(Mk-Ⅳ))
3.0 m、5.5トン
自律型無人探査機
「ゆめいるか」
最大潜航深度 : 3,000 m
長 さ : 4.0 m
空 中 重 量 : 1.7トン
最大潜航深度 : 3,000 m
長 さ : 2.5 m
空 中 重 量 : 0.85トン
無人探査機
「ABISMO」
「新青丸」
東北海洋生態系調査研究船
最大潜航深度 : 3,000 m
長 さ : 5.0 m
空 中 重 量 : 2.7トン
最大潜航深度: 11,000m
長さ、空中重量:(ランチャー)2.7 m、3.0トン
(ビ ー ク ル )1.3 m、0.35トン
施設設備
長 さ : 128.5 m
長 さ : 100.0 m
長 さ : 66.0 m
総トン数 : 8,706トン
総トン数 : 3,991トン
総トン数 : 1,629トン
乗 員 数 : 80名
乗 員 数 : 89名
乗 員 数 : 41名
就 航 年 : 1997年
就 航 年 : 1989年
就 航 年 : 2013年
4
「地球シミュレータ」
プロセッサ数:
ノ ー ド 数:
ピーク性能:
主記憶容量:
「潜水訓練プール」
「高圧実験水槽」
「超音波水槽」
「コア保管庫」
1280 個
160 台
131 テラフロップス
20 テラバイト
5
海洋研究開発機構の概要
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
(6)国際協力
Margins Program)
・InterRIDGE( 国 際 海 嶺 研 究 計 画:An initiative for
international cooperation in ridge-crest studies)
・IODP( 国 際 深 海 科 学 掘 削 計 画:International Ocean
Discovery Program)
・OBIS(海洋生物地理情報システム:Ocean Biogeographic
Information System)
・PICES( 北 太 平 洋 海 洋 科 学 機 構:North Pacific Marine
Science Organization)
気候変動をはじめとする地球規模の環境変動等の問題に
対応すべく、海洋の観測及び研究は、全球的規模での展開
が求められています。
こうした問題の解明に貢献し、また、海洋観測・研究をより
効果的かつ効率的に推進していくため、国際共同計画の推
進や国連機関をはじめとする国際機関、あるいは海外の諸研
3)政府間協力協定に基づく協力
究機関との良好な協力関係の維持及び構築を図っています。
アメリカ、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、カナダ、
1)多国間国際協力への貢献
韓国、中国、ドイツ、ニュージーランド、ブラジル、フランス、
国連教育科学文化機関(UNESCO)の政府間海洋学
ロシア、EU 等と日本の政府間協力協定に基づき研究協力
委員会(IOC)に対しては、関連国際会合に専門家を派遣
を行っています。
し、IOC 関連活動の支援を行うとともに、国連海洋法条約
平成 25 年度に開催された主な政府間協力会合及びワー
施行下での円滑な海洋観測・研究を遂行するために必要と
クショップは以下のとおりです。
なる国際的な動向の把握を行っています。平成 20 年 1 月より、
・平成 25 年 6 月 第 8 回日仏科学技術合同委員会
IOC の関連事業・会合に対する我が国の推進体制の強化を
・平成 25 年 6 月 第 2 回日 EU 科学技術合同委員会
目的として、
当機構内に「IOC 協力推進委員会」が設置され、
・平成 25 年 7 月 日豪海洋科学ワークショップ
専門家による各国際研究プロジェクトへの対応等の検討・意
・平成 25 年 9 月 第 11 回日露科学技術合同委員会
見交換が行われています。平成 25 年度には、IOC 協力推
・平成 25 年 9 月 第 2 回日 NZ 科学技術合同委員会
進委員会の下に設置された専門部会の中で、3 分野の専門
4)海外関係機関との協力
部会において専門家による意見交換が行われ、平成 25 年 6
アメリカ、イギリス、インドネシア、オーストラリア、カナダ、韓国、
月に第 6 回 IOC 協力推進委員会を開催し、各専門部会で
ドイツ、ニュージーランド及びフランスの各国関係機関と包括
の意見交換の結果を踏まえた今後の IOC 関連活動への対
的な機関間研究協力のための覚書を締結しています。平成
応等が検討されました。また、IOC に対する我が国の貢献
25 年度は、8 月に韓国海洋科学技術院(KIOST)
、平成
に寄与するとともに海洋研究の国際的な展開に貢献するため、
26 年 2 月に米国海洋大気庁(NOAA)と覚書に基づく定期
平成 25 年 1 月よりIOC 本部(フランス・パリ)へ国際課職
協議を実施しました。また、欧州海洋研究掘削コンソーシアム
員 1 名の 2 年間の派遣を行っています。
(ECORD)およびオーストラリア・ニュージーランド IODP コン
さらに、当機構の主要観測調査海域の一つである南太平
ソーシアム(ANZIC)と覚書を新規に締結しました。
洋において影響力を有する SOPAC(南太平洋応用地球科
学委員会)等をはじめ、その他の海洋関連国際機関に対し
ても、必要に応じて研究者等を派遣し、その研究活動等に
貢献しています。
2)国際共同計画
当機構は以下に示す各国際共同計画への参画、活動へ
の貢献を行っています
・ARGO(全海洋高度国際監視システム:The Array for Real
Time Geostrophic Oceanography)
・CLIVAR(気候変動とその予測可能性に関する研究: Climate
Variability and Predictability)
・GEOSS(全球地球観測システム:Global Earth Observation
System of Systems)
・GOOS(全球海洋観測システム:Global Ocean Observing
System)
・GCOS(全球気候観測システム:Global Climate Observing
System)
・ICDP(国際陸上科学掘削計画:International Continental
Scientific Drilling Program)
・ISC(国際地震センター:International Seismological Centre)
・InterMARGINS(国際大陸縁辺海域研究計画:International
ECORDとのMOU調印式
各国関係機関と包括的な機関間研究協力のための覚書の
他、24 カ国の関係機関と共同研究にかかる実施取決めを締
結しています。平成 25 年度は、インドネシア科学技術評価応
用庁(BPPT)と実施取り決めを更新、さらにニュージーラン
ド国立水圏大気研究所(NIWA)及びモスクワ大学(MSU)
と実施取決めを新規に締結しました。
6
各部署の概要および主な成果
さらに、当機構は、アラスカ大学国際北極圏研究センター
(IARC)との研究協力に関する共同研究実施取決めに基
づき、共同研究を実施しています。また、ハワイ大学国際太
平洋研究センター(IPRC)との研究協力に関する共同研究
実施取決めに基づき、共同研究を実施しています。両機関
と今後さらなる研究協力を実施するために、アラスカ大学フェ
アバンクス校及びハワイ大学とそれぞれ包括的な機関間研究
協力のための覚書を締結し、また新たな共同研究実施取決
めをそれぞれ締結しました。
世界の主要海洋研究機関のフォーラムである POGO(全
QUELLE2013における、南アフリカでの「よこすか」「しんかい 6500」の
球海洋観測パートナーシップ)にも参加しており、平成 26 年
高校生を対象とした特別公開
1 月 22 日から 24 日までオーストラリア・ホバートで開催された
第 15 回年次総会に機構役員が参加し、世界の海洋研究機
関と海洋観測等にかかる協議を行い、連携を深めました。
5)その他
平 成 25 年 度は、 有 人 潜 水 調 査 船「しんかい 6500」
を用いた生 命の限 界を探るための世 界 一 周 調 査 航 海
QUELLE2013 を実施しました。航海の寄港地である南アフリ
カ、
ブラジル、
トンガ及びニュージーランドにおいて、各国の政府・
科学技術関係者、現地日本大使館関係者、在留邦人等を
対象に「しんかい 6500」及びその支援母船「よこすか」の
QUELLE2013 ブラジル・サントス港に停泊中の「よこすか」
特別公開を実施し、当機構及び日本の海洋研究の紹介を行
いました。特にブラジルにおいては、今後機構が研究開発活
動を展開するための基盤作りに貢献でき、トンガにおいては王
族の訪問も実現されました。
また、ドイツヘルムホルツ研究センター協会アルフレッドウェゲ
ナー極域・海洋研究所、台湾国家実験研究院(NARLabs)
、
英国サザンプトン国立海洋研究所(NOCS)等の海外の政府・
研究機関等から来訪者があり、施設視察、意見交換等を行
いました。
その他、平成 25 年 7 月にオーストラリア海洋科学研究所と
QUELLE2013における、ニュージーランドでの「よこすか」「しんかい
ともに日豪マリンフォーラム「サンゴ礁と地球環境変動」を開
6500」の政府関係者と報道陣を対象とした特別公開
催し、日豪の研究者より地球環境変動研究への取り組みおよ
び今後の展望を一般の方々にもわかりやすく紹介しました。ま
た、地球観測に関する政府間会合(GEO)第 10 回本会合
及び閣僚級会合(平成 26 年 1 月、スイス・ジュネーブ)
、米
国科学振興協会(AAAS)年次総会(平成 26 年 2 月、
米国・
シカゴ)等において、パネル展示・講演・説明を通じ、積極
的に当機構の研究開発事業を紹介しました。
日豪マリンフォーラム「サンゴ礁と地球環境変動」のパネルセッション
7
各部署の概要および主な成果
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
2. 各部署の概要および主な成果
地球環境変動領域
(RIGC)
概要
多様な海洋観測データの統融合による海洋環境の
再現
私たちが暮らしている地球上では、大気・海洋・陸域での
自然環境、さらにその中で育まれた生態系が互いに作用し
数年から数十年規模の時間スケールを持つ気候変動には
合って地球環境をかたちづくってきました。46 億年に及ぶ地
海洋内部の変動が重要な役割を果たしていることが知られて
球史の中で、この数千年の間は、地球環境が私たちにさまざ
います。気候変動の研究を進めるために 20 世紀後半から
まな恩恵を与え、人類の存続とその文明を守り育ててきまし
国際的な連携の下、大規模な海洋観測が実施されています。
た。しかし近年、地球温暖化など人間活動に起因する急激
観測船でその場に赴いて水温や塩分を測ったり、採水するこ
な変化が現れてきており、その実態を知り、原因を解明する
とで溶存物質の濃度を調べたりする一方で、21 世紀に入っ
とともに、さらに自然がもともと内包している変動も含めた将
てからは自動昇降式の観測フロートを全球的に展開することで、
来の地球環境の変化、さらには猛暑、寒波の発生や豪雨の
広範囲の海域を継続的にモニタリングするようにもなってきまし
傾向など、より生活の時間スケールを持った予測を通じて社
た。前者では微細な海洋の変化を海底付近までとらえること
ができますが船舶の通ったところしか観測できません。後者で
会の永続的な発展に貢献することが、全ての自然科学への
は海の流れに任せて広範囲の変動をモニターできますが、観
課題となっています。
測精度や観測可能深度は船舶のそれには及びません。また、
地球環境変動領域は、多様な手法で大気・海洋・陸域・
1990 年代以降、人工衛星によって海面水温や海面高度の
生態系の観測研究を行い、それらの変化の実態をとらえ、そ
時間変化を高解像度で評価できる方法が発展してきたことも相
れをもとに変化のメカニズムを知り、さらにこれらのさまざまな
まって、海洋環境の変化を知る唯一の手掛かりである観測デー
知識を統合したモデルを開発し、将来の環境変化の予測を
タはそれぞれの取得方法に依存して精度、空間間隔、時間
行っています。それは、この研究領域が、「我々が自然科学
間隔などに特徴的な優位性を持つようになってきました。
を通じて集積する知識をもって人類と地球環境との調和のと
これらのデータから研究対象とする気候変動現象のシグナ
れた持続的かつより生産的な社会構築に役立てる」というビ
ルを取り出し、できるだけ不確定性の低い知見を得るために
ジョンを持ち、そこから「JAMSTEC が自然科学の世界のC
はそれぞれのデータが持つ優位性をうまく引き出して解析を進
OEとしての基盤を持ち、日本の、さらには世界の経済的社
める必要があります。そのためにデータ統合の研究が盛んに
会的なニーズに応え得る組織として認識されることを目指して
なってきました。統計学の知見を活かし多様な性質のデータ
地球環境変動研究を実施する」というミッションを遂行してい
を客観的に統合するデータ同化手法を応用することで、より
るからに他なりません。実際、2011 年 3 月 11 日の東北地方
高品質のデータセットを生み出すことができます。
太平洋沖地震に起因した福島第一原子力発電所から放射
性物質の放出に対応し、海洋モニタリングと、それに基づい
た海洋放射性物質の拡散予報が整然と行われ社会への情
報提供を行ったことは、記憶に新しいところです。気候変動
に関する海洋観測や予測は、今や RIGC/JAMSTEC 抜き
には考えられなくなっていることは、昨年公開された IPCC 第
五次報告で 121 編という非常に多数の主著論文が引用され
たばかりではなく、RIGC/JAMSTEC が公開した観測データ
や、MIROC モデルの結果を引用した論文数の際だった多さ
2000
2000
1999
1999
1998
1998
1997
1997
1996
1996
1995
1995
1994
1994
1993
1993
1992
1992
1991
1991
1990
120E
からも明らかです。なお、地球温暖化予測については、新た
に「気候変動リスク情報創成プロジェクト」が動き出しました。
140E
160E
180
160W 140W 120W 100W 80W
1990
120E
140E
160E
180
160W 140W 120W 100W 80W
16 17 18 19 20 21 23 24 25 26 27 28
図 1. 1990 年から2006 年までの水深 100mにおける太平洋赤道域の水温の
RIGC/JAMSTEC が、そのビジョンの実現とミッションの遂行
プロット。係留ブイや自動昇降式観測フロートなどによって取得された観測デー
を目指し、領域全ての研究者の不断の努力によって、着実に
タ(左)とそれらを数値モデル結果と統合した海洋環境再現データ(右)によるプ
世界をリードしてきていることをご理解いただければ、幸せこ
位は℃である。
ロット。観測の空白域が海洋大循環モデルの力学にしたって補完されている。単
れに過ぎるものはありません。
8
各部署の概要および主な成果
特に最近では計算機科学の発展に伴い、観測データのみ
図 3 に示されるようにインド洋ダイポール現象にはインド洋東部
ならず、数値モデルから得られる海洋循環に関する情報も併
のスマトラ島沖の水温が低下する正のもの(図3a)と、逆にス
せて統合し、時間・空間的に均一な品質を持つ過去数十年
マトラ沖の水温が上昇する負のもの(図3b)の 2 種類が存在
間の海洋環境を再現することが可能になってきました(図1)。
します。今回は 2000 年以降に発生した正負あわせて 8 例の
JAMSTEC では四次元変分法という力学解析に適した
現象を対象に、その発達と衰退においてどんな物理・熱力学
データ同化手法を応用し、様々な気候変動研究に貢献しうる
過程が重要であるかを観測データの解析により明らかにしました。
過去 53 年間(1957 ~ 2009 年)にわたる海洋環境再現データ
セットを作成しました(Estimated STate of global Ocean
for Climate research: ESTOC)。ここでは近年の地球温暖
化研究でその動態が注目されている溶存無機炭素についても
データ同化による再現を試みています(http://www.godac.
jamstec.go.jp/estoc/j/)。ESTOC を利用した研究成果の
一例を紹介します。海水温の変化は、熱膨張・収縮に伴い
海面水位の変化を引き起こすことが知られています。図2は
ESTOC の均一な品質の水温場から見積もった海面水位変
化を示しています。このような亜表層まで含めた時間空間的
に連続な海洋環境変動の描像は船舶やフロート・ブイによる
海洋観測データ、あるいは人工衛星によるリモートセンシング
プロダクトだけでは精度よく再現することが難しく、データ同化
手法を応用した数値モデルから得られる情報との統融合が海
図3. 典型的な正
(a)
と負
(b)
のインド洋ダイポール現象卓越時の海面水温と海面付
洋環境の再現性を大きく向上させています。
近の流速の分布。黄色の丸は本研究で使用した係留ブイの位置を表す。
正のダイポール現象に伴う東部の低水温の発達に注目すると
(図4a 左)
、太陽放射が海洋を暖めようとするものの、海洋
内部の冷水の移動によって冷えていることがわかりました。ま
た、衰退に注目すると(図4a 右)
、太陽放射による加熱と風
の弱化による海洋の熱損失の減少が要因であることが明らか
となりました。一方、負のダイポール現象に伴う東部の高水温
の発達に注目すると、海洋内部の暖水の移動と風の弱化によ
る海洋の熱損失の減少が要因として挙げられ、減衰時には
図 2. ESTOC から見積もった 800m 以浅の水温変化にともなう海面高度の変化。
太陽放射の減少と風の強化による海洋の熱損失の増加が主
1997 年 12 月のスナップショット。大規模なエル・ニーニョ現象に伴いペルー
たる要因であることが明らかになりました(図4b)。
沖で約 30cm の海面水位上昇が確認できる。単位は cmである。
正と負のインド洋ダイポール現象は、卓越時の海面水温分
今後、ESTOC を使った気候変動研究を進めるとともに、さ
布を見ると、単に符号が反転した現象に見えますが、その発
まざまに進化していく高度な海洋観測によって得られるデータ
達や衰退の過程はそれぞれ異なる要因が担っていることが観
をより効率的に利用できるようデータ統合手法の研究にも力を
測データから理解できました。
注いでいきます。
このようなインド洋ダイポール現象は、結果としてインド洋沿
岸域の大気へも強い影響を与えています。例えばインド洋東
インド洋ダイポール現象の理解に向けて
部のスマトラ島では、ほぼ一年を通じて沿岸地域に日周期対
熱帯インド洋には熱帯太平洋のエルニーニョ現象と似たイ
流活動による多量の降水がもたらされ、沿岸豪雨帯を形成し
ンド洋ダイポール現象という短期気候変動現象がありますが、
ていますが、この豪雨が時には鉄砲水となって災害を引き起
それはインド洋の西部と東部の海水温が数年おきに 1 〜 2℃
こします。この沿岸豪雨帯を長期間にわたり人工衛星や気象
、インド洋周辺をはじめ日本を含む世
変化する現象で(図3)
レーダーで観測すると、負(正)のダイポール現象時には降
界の気候に影響を与えるものです。我々は 2001 年より係留ブ
水量が多く(少なく)なるのですが、さらに乾季から雨季へ
イを東部インド洋に設置し、インド洋ダイポール現象の理解を
の移行が 1ヶ月以上も早く(遅く)なることが判明し、地域農
主たるターゲットとして、長期に渡る海洋観測を進めてきました。
業等への影響も大きいことが分かりました。
9
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
では、なぜインド洋ダイポール現象は発生するのでしょうか?
で2000 年から行ってきた通年の係留系観測結果を、海洋地
実はまだ解明されていません。海洋内部の変動が主因とす
球研究船「みらい」など船舶観測の結果と共に解析すること
る説やモンスーンやマッデン・ジュリアン振動(MJO)などの
で、北極海海盆域に入る流量・淡水流量・熱流量を求めまし
大気現象の影響が大きいとする説など、諸説あります。いず
た。年平均流量は0.48Svであり、これはベーリング海峡から
れにしても前述通り、海面水温の変動から見つかる現象です
北極海に入る流量の約 55%に相当します。熱流量(結氷温
が、海洋内部の構造が変化し、大気活動にも影響を与える
度に対する値)は年々変動が大きく、0.93TW(2006 年)から
ことから、インド洋における主要な大気海洋相互作用の結果
3.07TW(2012 年)の範囲で変化していました。特に海氷面
とみることができます。ダイポール現象との関係が指摘されて
積が少なかった2007, 2010, 2012 年は熱流量が 3.0TW 以上
いる MJO は、主に中部インド洋で大気対流活動が活発化し、
と大きな値を示しました。この値は、1mの厚さの海氷をほぼ日
その後ダイポール現象の現れる東部インド洋まで東進しますが、
本の面積に相当する領域で融解させる/ 結氷させなくする熱
最近の研究ではその MJO 対流の発生に海大陸域の対流活
量に相当します。今後はこれら海洋の熱輸送が北極海環境
動が影響しているとの報告があります。つまり、インド洋から海
に与える影響を調べていく予定です(図5)。
大陸まで、海洋と大気を同時に観測し、理解していくことがイン
ド洋ダイポール現象の正しい理解のために求められています。
図 5. バロー海底谷を通過して北極海海盆域に流入する流量・淡水流量・熱流量
の変化(2000 年 9 月から2013 年 9 月)。灰線は平均値を、赤線・青線はそ
れぞれバロー海底谷係留系 3 系もしくは中央部 1 系を用いて求めた値。Itoh et
al.(2013)をアップデートしたもの。
(2)環北極陸域の水循環の変化と将来変動性:近年の温暖化
図4. インド洋ダイポール現象に伴う東部の海水温の変化とそのメカニズム。a)は
正の b)は負のインド洋ダイポール現象に伴う東部の低水温と高水温の発達と衰
のため、水循環構成要素(積雪・降水・貯留・蒸発散・流出)
退を表す。
の変動量が増加し、かつその変動周期が早くなるという水循環
の強化が起こっています。その中でも北極海に流入するシベリ
温暖化に伴う北極域海洋・陸域の中長期変化
ア大河川では長期的な流量増加が注目されている一方、東シ
寒冷圏の大気・海洋・陸域変化は地球温暖化とともに変
ベリアでは降水量増加による湿潤化も重なり、活動層厚の増加
化し、海氷減少や凍土融解などの現象が発生していますが、
や、森林の枯死化など広域の変化の進行が起こっており、それ
未だ数多くの現象の実態が分からず、過去再現・将来予測
らが河川流出や大気・陸面間の水・熱循環に強く影響すると
が求められています。このため、鍵となる場所での観測を行い、
考えられています。このことから、レナ川流域における陸面プロ
実態を把握し変動プロセスを明らかにすること、そしてそれが
セスの河川流出の影響について陸面モデルを用いて過去およ
環北極・中緯度に及ぼす影響を評価することを重要視し、研
び将来について検討し、その結果を紹介します。
究を行っています。
図6は過去の降水量、河川流出及び蒸発散量の年々変動の
今年度は観測及び解析に基づき、北極海と周辺陸域での
結果を示しています。これより、降水量の増加が近年の河川
中長期的な変化及び、将来変化と予測可能性に関して得た
流出量の増加の主要因であることが分かり、またそれが蒸発
知見を紹介します。
散量の増加にも一定程度寄与することが明らかとなりました。
(1)バロー海底谷で見られる北極海への熱輸送:太平洋側
から北極海に入る水塊は、北極海に熱や淡水・栄養塩を供
給しています。その重要な流路の一つであるバロー海底谷
10
各部署の概要および主な成果
2014 年の「みらい」北極航海では、国際連携のもと北極圏の
ラジオゾンデ観測網を実験的に強化し、どの程度広範囲に北
極圏の天気予報が向上するかを調べるためのデータ同化実
験を行う予定です。
図 6. 陸面モデルを用い、1900 ~ 2010 年について得られたレナ川流域の降
水量(黒)、と河川流量(青)及び蒸発散量(赤)の計算結果。
図 8. 2010 年「みらい」北極航海の事例の概念図。北極海上のラジオゾンデ観
将来の変動性を知るために、温暖化シナリオ A1B 結果に
測によって、北極圏の対流圏の気温は低めに、成層圏下部は高めに補正される。
観測の影響は一部中緯度の気温や風の場にまで及ぶ。
基づく温暖化実験を行い、長期的な河川流量・蒸発散量変
化を現在状態との偏差を得たところ(図7)
、将来の降水量
大気中PM2.5エアロゾル粒子の起源を探る
の増加は、河川流量への寄与は小さく、蒸発散量の増加に
大きく寄与するという結果を得ました。つまり、近年の降水量
PM2.5 とは、大気中を漂うエアロゾル粒子のうち直径 2.5
の増加は、河川流量の顕著な増加を引き起こしているが、温
マイクロメートルよりも小さい微小粒子のことで、健康への影響
暖化に伴い発生すると言われている長期的な降水量の増加
だけでなく、太陽光を直接反射・吸収することや、雲をつくる
の影響は、むしろ植生変化に伴う蒸発散の増加を生じさせ、
核として働くことを通じて、気候への強い影響をもたらすことが
河川流量の増加には大して結びつかない可能性のあることが
知られています。また、土壌ダストや産業活動から大気中へ
分かりました。
発せられる鉄や窒素酸化物等は、エアロゾル粒子として海洋
120
気温=Ctrl+3 ℃
まで運ばれたのちに沈着すると栄養塩として機能し、海洋生
気温=Ctrl+3 ℃,降水量=Ctrl+30%
Water Balance (m m)
90
60
態系にも影響する可能性が指摘されています。しかしながら
30
その発生源や成分、近年の量の変化については情報が限ら
0
-30
Q
流出量
ET
蒸発散量
れており、その動態を解明することは大きな課題となっていま
SM
す。2013 年 1 月、北京周辺で激甚な汚染が発生し、100m
貯留量
先でさえもかすんで見える現地の映像や、PM2.5 時間値で
-60
約 900µg/m3 に達する数値が大きく取り上げられ、日本へ越
-90
Difference (mm) = treatment – control
境輸送される可能性についても急速に国民の関心が高まりま
-120
した。物質循環研究プログラムでは、観測とモデリングの連
図 7. 温 暖 化シナリオA1Bにもとづく温 暖 化 実 験によって 得られたレナ川
流 域 の 水 収 支 の 現 在 状 態 から の 偏 差( 赤:気 温 =Ctrl+3 ℃, 青:気 温
携によって、PM2.5 エアロゾル粒子の起源解明に取り組み、
=Ctrl+3℃, 降水量 =Ctrl+30%)
情報を発信しています。
(3)観測点充実による予報精度向上の検討:北極海の海氷
1. 東アジアにおけるPM2.5 の実態と起源を探る
減少の影響は、社会的に様々な形で波及することが知られて
きました。特に中緯度気候の極端現象の理解や北極海航路
私たちは 2009 年から越境大気汚染の「入口」である長
の運用(海氷予測や気象予報)においては、北極海周辺の
崎県・五島列島の福江島で PM2.5 濃度の連続観測を行っ
大気の流れを正確に把握する必要があります。高層気象観
てきました。過去 4 年間の観測結果から、平均的には、冬・
測データが乏しい北極海上でも、「みらい」等の観測データ
春・秋に高濃度、夏に低濃度となる季節性があることが明ら
があれば、北極低気圧の位置や強さ、気温分布などを正確
かになりました。さらに、高濃度の PM2.5 が観測された時には、
に再現・予報できることが、地球シミュレータセンターのデータ
大陸方面からの気流の影響が強いこと、人間活動の指標と
同化システムALERA2によって示されました(図8)。2013 年、
考えられるブラックカーボン(すす)の濃度も高くなることから、
11
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
ることは今後の課題です。
越境大気汚染の影響が強いことが示唆されました。
また、観測とシミュレーションでは共通して西日本から東日本
領域化学輸送モデル WRF-CMAQ を用いた PM2.5 のシ
ミュレーションは、観測された短期変動をよく再現するものの、
にかけて濃度が低下する「西高東低」の傾向が見られ、濃
観測値を過小評価することが明らかとなりました。この原因を
度分布については一致度が高いことがわかりました(図 10)。
調べるため、PM2.5 の化学成分ごとの分析を行い、モデル
さらにモデル計算において仮想的に、PM2.5 の原料となる物
シミュレーションとの比較を行ったところ、硫酸塩などの無機物
質の発生量を日本・中国・朝鮮半島の地域ごとに 20% 変化
はよく一致するものの、モデル内の有機物濃度は観測値の約
させる感度実験を行い、それに伴うPM2.5 濃度の変化量を
1/5 程度と低いことが明らかとなりました(図 9)。有機エアロ
利用して、日本各地における PM2.5 濃度の発生源別の寄与
ゾルの起源を明らかにし、モデルで適切に表現できるようにな
率を求めました。その結果、九州~近畿にかけての西日本で
は、中国からの寄与が 5 割以上と高く、越境輸送の影響を
強く受けていること、一方で関東地域では日本からの寄与が
5 割程度と高く、中国からの影響を上回ることも明らかになりま
した。
2. 蛍光性に基づく有機エアロゾルの分類計測装置
の開発
未知の成分の割合が多い大気中の有機物を明らかにする
図 9. 2009 年春季、福江島での平均 PM2.5 化学成分の濃度内訳。左が観測、
右がモデルシミュレーション結果。
ことを目標として、粒子の蛍光性に着目し、有機物粒子を分類・
計測できる新しい装置の開発も進めました(図 11)。1 個ず
つ識別された粒子に対して紫外レーザーを照射し、発せられ
る蛍光の波長特性を測定することで、燃焼起源物質、土壌
起源物質、バイオ系粒子を分類計測できることが実証されつ
つあります。今後は、このような新しい装置の性能評価を進め、
野外計測データを取得することで、物質ごとの量や動態を明
らかにし、モデルシミュレーションの改良に結びつける計画です。
人類が経験した最大の気候変動、10万年周期の氷期−
間氷期サイクルのメカニズムを解明
人類が進化してきた第四紀後半の最近 100 万年間は、約
図 10. 2010 年の平均 PM2.5 濃度分布。点は観測値。背景はモデルシミュ
レーションによる値。
10 万年周期で繰り返される「氷期−間氷期サイクル」という
現象があったことがよく知られています。海水準変化に換算
して約 130m に相当する大氷床の拡大・縮小や全球的な気
候の変動を伴っていました。この大変動の根本要因は、夏の
日射変動であると考えられています(ミランコビッチ理論)。自
転軸の傾きや北半球の夏における太陽と地球の距離といった、
夏の日射量を決定する各要素の変動周期が、氷期−間氷期
サイクルと密接に関わっていることが古気候データの統計学的
解析から示されていました。しかし、日射強度そのものに主に
見られるのは約 2 万年と4 万年の変動周期であり、氷期−間
氷期サイクルの 10 万年周期は顕著に見られないという問題も
ありました。
そこで、地球環境変動領域地球温暖化予測研究プログラ
図 11. レーザー誘起蛍光法による粒子分類計測装置の模式図。
12
各部署の概要および主な成果
南半球の気候に影響を及ぼす亜熱帯ダイポール
ム古気候研究チームの阿部彩子招聘主任研究員(東京大
学大気海洋研究所准教授)
、齋藤冬樹研究員らのグループ
亜熱帯ダイポールは南インド洋、南太平洋、南大西洋に
は、国立極地研究所、コロンビア大学、スイス連邦工科大
存在する気候変動現象で、海盆の北東部と南西部に平年
学の研究者と共同して、最新の氷床−気候モデルを用いたシ
より冷たい海面水温と暖かい海面水温を伴います(図 13)。
ミュレーションを行いました。その結果、10 万年周期の氷床
亜熱帯ダイポールは南半球の夏(12 月~翌 2 月)に最も発
変動や、氷床拡大期における氷床量・地理的分布を再現す
達し、アフリカ南部やブラジル南東部、ニュージーランドで
ることに成功しました。また、氷期と間氷期が 10 万年周期
降水を増加させる傾向にあります。降水の変化は、自然災
で交代する大きな気候変動は、日射変化に対して気候システ
害や農作物の収量の変化をもたらすため、亜熱帯ダイポー
ムが応答し、大気−氷床−地殻の相互作用によりもたらされ
ルを正しく理解し、事前に予測することは地域社会にとって
たものであることを、世界で初めて突き止めました。とりわけ、
極めて重要です。
北米大陸の形状や気候の地理的分布が決め手となっており、
北米の氷床には小さな日射量変化に対して大きく変化しやす
い条件が整っていたことが分かりました。さらに、大気中の二
酸化炭素(CO2)は、氷期−間氷期サイクルに伴って変動し、
日射変動への応答で生じる気候変動の振幅を増幅させる働
きがあるが、CO2 が主体的に 10 万年周期を生み出している
わけではないことも分かりました。
地球の極域の気候と氷床の変化は、現在進行している地
図 13. 南半球中緯度に存在する気候変動現象「亜熱帯ダイポール」。暖色(寒
色)が平年よりも海面水温が高い(低い)ことを示す。
球温暖化の重要な指標であるとともに、海水準を直接変動さ
せる要因にもなっています。この研究は、地球温暖化とその
私たちはこれまで、亜熱帯ダイポールの発生メカニズムにつ
影響の長期予測に用いられる氷床−気候モデルの信頼性を
いて調べてきました(図 14)
。亜熱帯ダイポールが発生する
検証する上で重要な意義があります。また、より普遍的に地
南半球の晩春から初夏(10 ~ 12 月)にかけて、まず亜熱
球の気候変動史の原因を解き明かす道筋ができ、今後の研
帯高気圧が南側で強まります。これに伴い、海盆の北東部で
究の発展が期待されます。
は高緯度から乾いた風が吹き込み、海面からの蒸発が盛んに
この研究成果は、「Nature 誌」(8 月 8 日付け)に掲載さ
なります。その結果、海面付近で冷たい海水ができ、下部の
れました。また、同じ号の「News and Views」と、
「Science
海水と混ざることで、海面付近に存在する水温一様な層が厚
くなります。水温一様な層を日射が温めようとしますが、平年
誌」(8 月 9 日付け)にも紹介されました(図 12)。
よりも層が厚いために、日射による加熱の効果が弱められます。
こうして、海盆の北東部では海面水温が平年よりも冷たくなる
ことが分かりました。一方、海盆の南西部では、裏返しのメカ
ニズムにより、海面水温が平年よりも暖かくなります。
図 12. 氷床-気候モデルで再現された
2万年前の氷床分布(上)
、その前後の
氷床体積の時間変化(中、丸印が2 万
年前)
、および氷床体積と日射量との関
係(下)
。横軸は夏の日射量で二酸化炭
素濃度が280,220ppm の場合を示す。
赤線と青線は日射量に対する氷床の定
常解の体積である日射量では多重解と
なる。黒線は再現された氷床の体積時系
列の最後 12 万年分を日射量と体積で表示したものであり、2 千年ごとに点、丸印
が2 万年前である。日射量の変動に応じて氷床体積が徐々に成長し(赤線の定常
解に近づく)
、2 万年前でほぼ極大となる。その後は日射量の増加に伴って一気に
体積が減少する(青線の定常解に近づく)様子がわかる。
時間を追った変化の様子は、下記サイトの動画で見ることができる。
図 14. 亜熱帯ダイポールの発生メカニズム(南インド洋の例)
http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2013/20130808.
html
13
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
いため、台風進路や強度だけでなく発生を精度よく予測するこ
亜熱帯ダイポールの発生に伴い、亜熱帯高気圧が南側で
強まると、海洋から大陸に運ばれる水蒸気の量が増えるため、
とも重要です。
台風は千 km スケールの雲の集団ですが、その発生・発
周辺国では降水が増加します。それではなぜ、亜熱帯高気
達プロセスには1万 kmスケールの熱帯波動から、
数 kmスケー
圧が南側で強化するのでしょうか?
これまでの研究で、熱帯域の「エルニーニョ・南方振動」
ルの個々の積乱雲まで、様々なスケールの現象が寄与してい
や南半球中高緯度の気候変動現象である「南極振動」が
ます。したがって台風発生の予測のためには、これらの現象
亜熱帯高気圧の変動に関わっていると示唆されていました。し
を包括的に再現できる数値モデルが必要です。私たちの研究
かし、詳細なメカニズムは明らかでありません。そこで、地球
チームでは、2000 年代初頭から、個々の積乱雲も解像できる
シミュレータを用いて大気海洋海氷結合モデル「SINTEX-F2」
ほど超高解像度で、かつ 1 万 km スケールの波動も再現でき
による数値実験を行い、亜熱帯高気圧の変動メカニズムにつ
る全球大気数値モデル NICAM を開発してきました。
いて調べました。熱帯域の各海盆において海面水温の経年
2004 年は季節内変動と呼ばれる、北西太平洋熱帯域の大
変動を抑えた実験を行ったところ、各海盆で亜熱帯高気圧が
気変動が顕著でした。それに伴って、フィリピン東方海上の対
南側で強まり、亜熱帯ダイポールが発生することが分かりまし
流活動が活発だった 6 月と8 月にそれぞれ 5 個(平年値 1.7 個)
、
た。また、亜熱帯ダイポールの発生頻度や振幅に大きな違い
8 個(平年値 5.9 個)
と多くの台風が発生した一方で、対流活
は見られませんでした。さらに、亜熱帯高気圧の南側での強
動が不活発だった 7 月、9 月にはそれぞれ 2 個(平年値 3.6 個)
、
化には、南極振動が強く関わっていることが明らかになりました
3 個(平年値 4.8 個)の台風しか発生しませんでした。このよう
(図 15)
。これらの結果は、エルニーニョ・南方振動のような
に季節内変動と台風発生は密接に関わりがあります。これまで
熱帯域の気候変動現象が存在しなくても、南半球中高緯度の
の研究から、NICAM が季節内変動とそれに伴う台風発生を精
南極振動が、亜熱帯高気圧を変動させ、亜熱帯ダイポールを
度よく再現できる事がわかっていますが、どのくらい前からどのく
発生させることを意味しています。
らいの精度で予測できるのかわかっていませんでした。地球シミュ
レータよりも高速なコンピュータが必要だからです。
2012 年 9 月に神戸に完成したスーパーコンピュータ「京」は
地球シミュレータのおよそ 100 倍の計算能力があります。そこで
私たちの研究チームは「京」を用いて 2004 年 8 月の毎日を起
点とする30日間のシミュレーションを行うことで、
それらを調べました。
図 16 は 8 月のそれぞれのシミュレーションで、フィリピン
東方の対流活動がどのように予測されたかを示しています。
図 15. 亜熱帯ダイポールの発生に影響を及ぼす気候変動現象:熱帯域の気候変
NICAM は 8 月の活発な対流活動が北進する様子と9 月に対
動現象には、エルニーニョ・南方振動、インド洋ダイポール、大西洋ニーニョが、
流活動が弱まる様子をおおむね予測できています。
南半球中高緯度には南極振動が挙げられる。
次に台風発生予測の精度を調べました。8 月前半に発生した
本研究で得られた知見は、亜熱帯ダイポールの発生メカニ
4つの台風のうち台風 11、14 号の予測は発生直前であっても
ズムを正しく理解することに貢献するだけでなく、現象を事前
難しいことがわかりました。これらの台風は、北緯 26 度よりも北
に予測することにも役立ちます。亜熱帯ダイポールを事前に予
測するためには、熱帯域の気候変動現象だけでなく、南半球
中高緯度に存在する気候変動現象もまた、事前に予測する
必要があります。南半球中高緯度の気候は、海氷の分布や
南極上空のオゾン量などにも強く影響を受けるため、これらの
要素を気候モデルで正しく表現する必要があります。今後は、
物理・化学過程を含めた気候モデルの開発と、より高精度な
予測情報を国際社会に提供していきます。
スーパーコンピュータ「京」を用いた台風発生予測
研究
台風は水資源を供給する一方で、しばしば甚大な風水害を
図 16. フィリピン東方における対流活動。横軸は 8 月1 日からの日数。縦軸は
緯度。赤色は活発な対流がシミュレートされた領域。黒線で囲まれた領域は活発
もたらします。東南アジアの国々にとっては台風発生海域が近
な対流が観測された領域。4 桁の数字はシミュレーション開始月日を示す。
14
各部署の概要および主な成果
で発生しており、あまり発達せず、寿命も短い台風でした。台
測できません(図 18)
。誤差感度解析から、この予測誤差は
風 12、13 号の発生は良く予測できました。8 月後半に発生した
主にアリューシャン低気圧の変動に関わる初期誤差と関係が深
台風 15 ~ 18 号は 2 週間程度前から良く予測できる事がわかり
いことがわかりました。よって、高度な同化手法を用いて大気
ましたが、それ以上前からだと予測が難しいことがわかりました。
状態も直接的に同化することが近未来予測性能の向上に有
なぜ 2 週間以上前からの予測は難しかったのでしょうか?図
効であると期待されます。
17 は 7 つの初期値日ごとにいくつのシミュレーションが台風 18
また、私たちは近未来予測性能の向上および過去 100 年
号の発生域の西風の広がりを予報できていたかを示していま
規模の気候場の再現を主な目的として、大気海洋結合系での
す。1 週間前ではすべての、
2 週間前では半数のシミュレーショ
新たなデータ同化・予測システムの開発を行ってきました。この
ンが台風 18 号の発生域の南側に西風の広がりを予測できて
システムは、アンサンブル・カルマンフィルタと呼ばれる高度な同
いますが、3 週間前では台風 18 号の発生域の南側の西風を
化手法を用いていて、大気と海洋の両方の観測値を効率的に
予測できたシミュレーションはありませんでした。このことから西
同化することができます。その検証のために、2004 ~ 2010 年
風の広がりを予測できたかどうかが台風発生の予測に重要で
の地表気圧と海面水温のみを用いて、全球の大気と海洋の循
あったことがわかります。
環場の再現性を調査しました。その結果、対流圏内の大気の
またシミュレーションでは、間違って台風を発生させるケース
循環と混合層内の海洋の水温が再現可能であることがわかりま
もいくつかありました(図 17 の赤色印)
。予報精度を高めるた
した。また、従来のように海洋のみを同化(図 19 上)した場
めには、今後も熱帯海上で起こる現象を正しく理解し、それを
合に比べて、
大気も併せて同化(図 19 下)
した場合の方が(予
モデルの改良につなげていくことを続けていく必要があります。
測の初期状態に対応する場の)誤差が確実に小さくなることが
わかりました。今後はこの新しい同化システムを近未来予測に
本格的に導入し、近未来予測性能の向上を目指します。
図 18. 地上気温の予測値(等値線)と予測誤差(色)の例。いずれも 19712000 年気候値に対する5 年平均偏差。予測値は初期時刻 2006 年 1 月1 日
図 17. 台風発生(上段)3 週間前、(中段)2 週間前、(下段)1 週間前の7つの
からの 6アンサンブル平均値であり、予測誤差は観測値の標準偏差で規格化した
シミュレーション(開始月日はそれぞれの図の左上に示す)のうち、台風 18 号発
値(灰色は観測データが検証に不十分な地域)。
生直前の高度約 1500mにおける西風領域をいくつのシミュレーションが予測し
たかを色で示す。黒線は観測された西風領域の範囲を示す。北緯 11 度、東経
165 度付近の桃色の印は 8 月28 日の台風 18 号の位置。青色、橙色、緑色の
印は NICAM で予報された台風 18 号の位置。赤色の印は間違って予測された台
風の位置をそれぞれ示す。
アンサンブル同化システムを用いた近未来予測性能
の向上
近未来予測では地球温暖化に加えて、初期値化によって
気候システムの揺らぎもうまく予測する必要があります。これま
で開発してきたアンサンブル同化システムを用いて、
近未来(十
年規模)予測実験を実施し、アンサンブル数と事例数を増や
して信頼性の高い検証解析を行いました。日本付近を含む多
くの地域における地上気温の動向について数年間に及ぶ予
測可能性を実証しました(図 18)
。一方で、北太平洋の中高
緯度域ではシグナルノイズ比から潜在的な予測可能性が指摘
されるにもかかわらず実際の予測性能が低く、太平洋の十年
図 19. 図 18 の実験に対応する2006 年 1 月の海面気圧(等値線 )とその誤差
(色 )。上図:海洋データ(海面水温)のみを与えて同化した実験。下図:海洋に
加えて大気のデータ(地表気圧)も与えて同化した実験。いずれも 30メンバー
規模変動(PDO や NPGO)に関わる海面水温変動を長く予
のアンサンブル平均値。
15
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
地球内部ダイナミクス領域(IFREE)
概要
洋底堆積物の重い同位体分析の系統的な分析と解析から、
2億2千万年前に起こった生物の大絶滅のない巨大隕石衝
地球内部ダイナミクス領域では、地球表層における巨大地
突を同定したことは大きな成果です。
震や火山噴火現象および有用元素濃集体の定量的な理解
のために、地殻から中心核にいたる地球内部の全域に渡るダ
イナミクスを詳細に明らかにしようと研究しています。このため、
基盤的な研究と、それらを融合した発展的な研究領域を設
海洋プレートダイナミクス
沈み込む直前の海洋プレート構造の進化
け、それらの課題を遂行する海洋プレートダイナミクスプログラ
日本列島は海洋プレートの沈み込みに伴って形成された弧
ム、固体地球動的過程プログラム、地球深部ダイナミクスプロ
状列島で、2011 年東北地方太平洋沖地震に代表されるよう
グラム、そして地球内部物質循環プログラムの 4 プログラムが
な海溝型巨大地震をはじめとして、地震活動や火成活動が
研究開発を行っています。これらのプログラムはまた、機構内
盛んな場所です。これらの活動は上盤である日本列島と下盤
部の高知コア研究所をはじめ、他の 2 つの研究領域とも連携
である海洋プレートの相互作用によるものですから、発生メカ
して、機構の研究船、地球深部探査船「ちきゅう」、および
米国科学掘削船「ジョイデス・レゾリューション号」を利用して、
国際深海科学掘削計画(IODP)を主導的に進めてきました。
2013 年度では、2011 年の超巨大地震の引き続く緩和過
ニズムの理解には沈み込む海洋プレートの実態把握も欠かせ
ません。特に、海洋プレートが含水鉱物として運搬する水が
重要であると考えられています。というのも、水は沈み込み帯
での火成活動、火山活動を規定し、脱水反応やプレート境
程を明らかにすることで、プレート境界地震の物理過程を明ら
界での摩擦係数などを通じて地震発生にも影響を与えるほか、
かにすること、巨大地震の前後での海底地震活動、プレート
マントルの物性に作用することでマントル対流にも影響するな
境界の内部構造の変化、海底地形の変化などから、海溝軸
ど、水はリージョナルからグローバルまで地球内部のダイナミク
へいたる巨大地震性変位の原因についての理解を深めまし
スと密接に結び付いているためです。
た。また、このようなプレート境界断層面のボーリングコアを採
しかし、海洋プレートがどこで、どのように水を取り込み、そ
取するのに成功し、その物質の特異な構造と性質を明らかに
してどのくらいの水量を沈み込み帯に運搬しているのか、そ
しました。また、個別要素法を大規模に用いて付加体構造
の実態はほとんど明らかになっていません。従来、海洋プレー
の時間発展を追跡し、巨大な変位を伴うせん断集中面が海
トが水を取り込むプロセスとしては、中央海嶺における熱水
側に不連続的にジャンプすることを示しました。このような計算
循環による海洋地殻の含水化がもっとも重要であると考えられ
機実験とともに、3 次元アナログ実験によって、付加体の特異
てきました。しかし、近年の構造研究や岩石実験の進展から、
的ダイナミクスが示されつつあります。
海洋プレートが海溝から沈み込む直前に折れ曲るアウターライ
プレート運動の特異的な挙動は、滞留スラブの構造が示す
ズ海域において、プレート折れ曲りに伴う断層を通して海洋プ
不安定なプレートの下部マントルへの落下によって示され始め
レート内に水が浸透している可能性が指摘されるようになって
ました。密なネットワーク観測網の構築による詳細な西太平洋
きました。マントルは蛇紋岩化することで、地殻に比べて大量
域の太平洋プレートの沈み込みパターンは、大規模褶曲構造
に含水できるため、もしもマントルまで水が浸透しているならば
をとりつつ600km程度の震度で滞留する様相から 1,500km
従来の想定よりはるかに大量の水が沈み込み帯に供給されて
を越す下部マントル内部での褶曲構造をとりながらのスラブの
いることになります。
沈降が明らかにされました。こうした地球深部でのスラブの運
このような経緯から、ここ 10 年、プレート折れ曲り断層の
動が表層域における沈み込みのダイナミクスに大きく寄与して
発達に伴う海洋プレートの構造進化を解明することを目指した
いると推定されます。
構造研究が世界各地の沈み込み帯で盛んに実施されるように
グローバル地球化学はプレート境界域の水やガスなどの循
なり、折れ曲り断層の発達に伴い海洋プレート内の P 波速度
環を明らかにする上で重要な貢献を果たしつつあります。島
(Vp)が徐々に低下することが明らかになってきました。しか
弧地殻の形成のなかでも、有用元素の濃集過程に、従来想
し、Vp の低下は、
(1)断層や亀裂の発達に伴う間隙率の
像されていた地殻内部のみの循環濃集過程とは異なり、沈み
上昇、
(2)水の浸透、の二つの可能性を示唆しますが、Vp
込む海洋プレート上の堆積物の関与と島弧下マントルでの流
のみでは両者を区別することはできません。両可能性を判別
体の移動過程の関与が明らかにされつつあります。また、海
16
各部署の概要および主な成果
し、海洋プレート内に水が浸透しているかどうかを見極めるに
おける地震や火山活動の不均質性を理解するためにも、断
は、水の存在に敏感な物理量であるポアソン比や Vp/Vs 比
層の発達に応じて海洋プレートが取り込む水量を把握する研
を把握することが不可欠です。
究も進めていく必要があります。
そこで我々は、Vp に加えて Vs 構造も把握することを企図
して、千島海溝に沈み込む直前の太平洋プレートにおいて、
エアガンと三成分地震計(上下動、水平動二成分)を装
備した海底地震計による大規模な構造探査を実施しました
(図 1)。
図 2. 探査測線に沿った Vp/Vs 比構造。縦軸は海洋地殻トップからの相対深度。
海溝軸に近づくに連れ、Vp/Vs比が浅部から上昇している様相を初めて明らかに
することに成功した(Fujie et al., 2013)。
固体地球動的過程研究プログラム
昨年度実施されました東北地方太平洋沖地震調査掘削
(JFAST)で得られた孔内検層データと掘削試料の解析に
よって、2011 年東北地方太平洋沖地震時にすべりを起こし
たプレート境界断層の構造と組成を明らかにしました(図 3:
Chester et al., 2013)
。
また、
断層試料の力学実験から、
プレー
ト境界断層の剪断応力が小さいことを明らかにしました(Ujiie
et al., 2013)。さらに、掘削孔に設置した温度計の回収により、
地震時の摩擦係数が極めて小さかったことが推定されました
(Fulton et al., 2013)。一方南海掘削では、
フィリピン海プレー
ト上から得られた堆積物試料の詳細な解析により、従来まで
図 1. 千島海溝沖におけるエアガンと海底地震計による構造探査。(上図)調査海
域図。(下図)測線に沿った海底地形。海溝寄りの左(北)側では折れ曲がり断層
は不明だった 1500 万年前以降の日本列島および東アジアと
(horst/graben)が発達している。
伊豆小笠原弧からフィリピン海プレートへの物質供給プロセス
とその変遷が解明されました(Pickering et al., 2013)。
水中にあるエアガンからは音波(P 波)しか輻射されない
ため、地下の S 波構造を把握するには P 波から S 波への変
換波を用いなければならないという難点がありますが、我々の
三成分地震計は明瞭な変換波を記録しており、このデータに
新たに開発した変換波を用いた構造モデリング手法を適用す
ることで、我々は折れ曲り断層の発達に伴い海洋プレート内
の Vp/Vs 比が上昇することを世界に先駆けて明らかにする
ことに成功しました(図 2)。
Vp/Vs 比の上昇は海洋プレート内の水量が増加している
ことと整合的であり、折れ曲り断層の発達に伴い海洋プレート
内に水が浸透していることを強く支持するものです。すなわち、
沈み込み帯で発生する地震や火山活動の理解には、沈み込
む直前の海洋プレート構造の変質を把握することが重要であ
図 3. 採取されたプレート境界断層付近の孔内検層データ、コア解析データ、コア
画像
ることを改めて示した結果であります。
しかし、実際に浸透した水量など定量的な議論は今後の
最近の高温高圧物理によって明らかにされたコア物質の熱
課題です。また、場所により著しい違いを呈する折れ曲り断
伝導率について、コアならびにマントルの熱化学進化に与える
層の発達度合いが、水の浸透量の場所による違いにどの程
影響の評価を数値計算で調べたところ、
コアの熱伝導率はマン
度影響するのかもわかっていません。今後は、沈み込み帯に
トルやコアの熱進化へは影響を与えず、コアの磁場進化なら
17
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
びに密度構造に影響を与えることが明らかになりました(図 4)。
また、ストークス流と個別要素法の新しいカップリング手法を開
発し、従来の計算手法では取り扱うことの難しい、マグマ(高
粘性流体運動)と結晶との相関の数値モデル計算を可能にし
ました(図 5)。さらに、波面内磁場の増幅によってケルビン-
ヘルムホルツ不安定が非線形安定化されることと、磁気回転
図 6. 室内地震探査実験装置を用いた高校生向け実習の様子 (左)寒天を叩い
不安定性によって駆動される磁気乱流の飽和値が(乱流散
て波の伝播を観察する様子(右)研究者の助言を受けながら波形の解析をする
生徒達
逸が駆動する)対流運動によって上昇することが、高精度衝
撃波捕獲コードおよび輻射磁気流体力学コードを用いた数値
シミュレーション研究から明らかになりました。一方、振動対
地球深部活動研究プログラム
流の位相縮約法を定式化し、振動対流の共通ノイズ同期の
解析とその最適化を行ったほか、空間並進自由度を持つ振
海底地球物理観測、地球化学研究、マントル・コア対流シ
動対流の位相縮約法の定式化も行いました。
ミュレーションを組み合わせ、地球深部活動の様態や原因を
解明するとともに、その地球表層環境への影響を評価する研
究が進められています。
自転速度変動による地球磁場変動
地球磁場は地球内部のコアでのダイナモ作用により生成・
図 4. コア-マントル結合系の熱化学進化計算から得られた温度(上)および組成
維持されています。この地球磁場は、有害な銀河宇宙線や
(下)構造の時間進化
太陽風等の宇宙線が直接地表に降り注ぐことを防ぎ、またそ
れらによる大気の散逸を防ぐ働きもあります。そのため地球表
層を我々生物が生存できる環境に保つために必須となる役割
を果たしています。
地球磁場は一定ではなく、その強さは様々な時間スケール
で大きく変動していることが知られています。その原因を明ら
かにする事は、今後の地球磁場変動と地球表層のハビタブル
環境の未来を知る上で重要な要素の一つと考えられています。
図 5. 高粘性中の粒子の運動(右)とStokes-DEM手法による計算(左)の比較
磁場変動の中で最近注目されているのが、1 万年から 10
一方、当プログラムでは、固体地球科学のアウトリーチ活
万年の時間スケールでの変動です。この変動では磁場が最
動にも注力して参りました。例えば、地球科学の中でも大気
大数十%の割合で大きく変化しており、変動の様子が氷期と
海洋物理や火山分野に比べて、地震学で扱う現象は視認し
間氷期が繰り返し訪れる気候変動(ミランコビッチ周期)と似
にくく、これまでに断層破壊や波動伝播に関する動的な実験
ています。しかしこの地球磁場変動の起源や気候変動との
教材は非常に少ない状況でした。そこで我々は、地震波速
関係については明らかになっていません。
度が遅く、地震波を可視化できる寒天を用いて、室内地震探
我々は、氷期-間氷期を伴う気候変動によって高緯度地域
査実験装置を開発しました。本装置は波の伝播が見えるだけ
の大陸氷床が拡大、縮小を繰り返すことで地球全体の慣性
でなく、波形を取得して通常の地震波探査同様に解析するこ
ともできます。実際に同装置で高校生向けの地震探査実習を
モーメントが変化し、自転速度に変動が引き起こされることに
実施し効果を確認しました(図 6)。また一般公開での実演
注目しました。
や地震学教育に関するシンポジウムでも好評を博しました。直
この変動は外核内の対流へ影響し、地球磁場に影響を及
感的に波の伝播を実感できる本装置によって、地震探査でど
ぼすと考えられます。この考えに基づき、世界で初めて地球
んな研究をしているのかを分かりやすく社会に伝えられるように
自転速度の変動が地球磁場へ与える影響について地球ダイ
なると期待されます。
ナモの数値シミュレーションにより解析を行いました。
18
各部署の概要および主な成果
その結果、自転速度変動が原因となって地球外核内の液
その結果、およそ 2 億 1500 万年前に、直径 3.3 〜 7.8 km
体金属の対流運動が変化し、地球磁場の変動が引き起こさ
の巨大隕石が地球に衝突した強固な証拠を発見しました。
れることを世界で初めて定量的に明らかにしました。自転速度
同様にオスミウム同位体を用いた成果として、別子型鉱床
の変動(約 2%)に対して遙かに大きな割合で地球磁場の
の形成年代を決めた成果が挙げられます。愛媛県別子鉱床
強度に変動(約 20 ~ 30%)が生じ(図 7)
、自転速度の変
に代表される別子型鉱山は、もともと太平洋の真ん中にある
動と地球磁場の変動の間には時間のずれが存在することが
海嶺という海底火山の熱水活動で形成されたと考えられてい
明らかになりました。また自転速度の変動によりコアからマント
ますが、いつ形成したかは不明でした。そこで、レニウム-
ルへ輸送される熱量にも約 10% の大きな変動が生じることも
オスミウム同位体年代測定法によって、ジュラ紀後期の約 1
分かりました。
億 5 千万年前に生成したことを見出しました。中央海嶺の極
以上の成果は、地球磁場変動のメカニズム解明に役立つ
めて活発な火山・熱水活動が大規模な海底熱水硫化物鉱床
ばかりでなく、これまで明らかになっていなかった気候変動と
を生成するとともに、火山から噴出した二酸化炭素によって大
地球磁場変動の関係を解明するための有力な手掛かりにな
気中の二酸化炭素濃度が上昇しました。それによって、極域
ると期待されます。(本成果は 2013 年に Physical Review
の氷床が消滅し、海洋大循環が停止することによって、全世
Letters に出版されました。)
界的な無酸素海洋が発達し、結果として海底熱水硫化物鉱
床の保存につながったという一連の地質現象を引き起こしたこ
とが明らかになりました。地球の資源の生成と古海洋環境変
遷が密接に関係していることを解明した画期的な研究成果と
いえます。
図 7.(a)氷期と間氷期の間で、氷床消長により地球の慣性モーメントと自転速度
が変化する。
(b)シミュレーション結果より、2 万年周期(ミランコビッチ周期の一つ)の自転速
度変動において、2% の自転速度変動に対して地球磁場が 20 ~ 30%と大きく
変動する事が分かった。
図 8. オスミウム濃度とオスミウム同位体比の垂直変化。粘土岩では、隕石に特
有の高いオスミウム濃度と低いオスミウム同位体比が同時に検出される。岐阜県
同位体分析による三畳紀の巨大隕石衝突とジュラ紀
坂祝町。
後期の海洋無酸素事変の発見
今から約 2 億年〜 2 億 3700 万年前の三畳紀後期という
地球内部物質循環研究プログラム
時代は、生物大量絶滅イベントが繰り返し起こった時代として
見えてきた海洋プレートの生成と解体
知られています。この絶滅イベントの原因として、隕石衝突
の可能性が指摘されてきましたが、これまで確かな証拠はみ
海洋底をつくる海洋プレートのでき方と、地球内部に沈
つかっていませんでした。2012 年、岐阜県坂祝町の木曽川
み込んだ海洋プレートの解体は、プレートテクトニクスと地球
沿いに露出するチャートとよばれる岩石に挟まれた粘土岩から、
内部の物質循環を探る、地球科学の重要な研究課題です。
三畳紀後期に隕石が落下した証拠が世界ではじめて発見さ
IFREE では米国の掘削船ジョイデス ・ レゾリューション号によ
れました(Onoue et al., 2012, PNAS)。しかし落下した隕石
る、太平洋をつくる海洋プレートが生成する海嶺の調査に参
が地球環境に大きな変動をもたらすほどの巨大な隕石であっ
加し、海洋地殻下半部をつくる“はんれい岩”の採取に、世
たかどうかは分かっていませんでした。
界で初めて成功しました(図 9 右写真)。このはんれい岩は
国立大学法人九州大学、国立大学法人熊本大学と独立
マントルで発生して間もないマグマと、マグマが結晶化して出
行政法人海洋研究開発機構の研究グループは、岐阜県坂
来た多様な成分のマグマからできていることがわかりました(図
祝町および大分県津久見市から採取された岩石試料につい
9 右上概念図)。この多様なマグマが混合し、平均的な中央
て、白金族元素のひとつであるオスミウム同位体分析を行いま
海嶺玄武岩の全岩化学組成を説明することが出来ると考えら
した(図 8)。
れます(図 9 右下グラフ)。
19
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
沈み込んだ海洋プレートの解体とマグマ活動の励起
0
Site U1415
0
10
海洋地殻
海嶺における
玄武岩マグマ
生成と海洋地
殻の形成
沈
沈 み込
み
込 む海
み
帯 洋プ
に
お レー
け
る ト
脱
水
・
変
成
作
用
マントル融解
マグマ発生
海洋地殻物質上昇
20
含水マントル
遷移帯
脱水
マントル
18
16
マントル遷移帯
14
12
10
ハルツバーガイト
溶岩と岩脈
浅部ガブロ(集積岩)
Site U1415 層状集積岩
Site U1415 トロクトライト
平均海洋地殻組成
平均化学組成
単斜輝石結晶開始
斜方輝石
結晶開始
海洋地殻の深部マントルリサイクリング
4
結
晶
集
積
ト
レ
70
cm
ン
ド
MgO (wt%)
0
50
60
マグマ結晶トレンド
6
40
初生中央海嶺玄武岩
8
700
停滞海洋プレート
30
マントル融解・マグマ生成
CaO (wt%)
深度 (km)
し
た
含水マントル上昇
炭
海 酸
洋 塩
地 を
堆
殻 含
積
玄 み
物
武 脱
岩 水
500
中央海嶺におけるマグマ活動による海洋プレートの生成
リソスフェア
100
300
沈み込み帯火山
5
10
15
20
25
30
35
海嶺下部地殻
海洋プレート
図 9. 中央海嶺マグマによる海洋プレートの形成(図右)と、沈み込んだ停滞プレートの解体によるマグマ活動の励起の様子(図左)を示す。
右図は Gillis et al.,( 2014) Nature,左図は Sakuyama et al. (2014) Chemical Geologyより簡略化。
一方、太平洋プレートは日本海溝から地球内部に沈み込み、
とで、初生マグマの組成を推定することが可能となり、沈み
中国や韓国の地下 700kmまで沈み込んで停滞しています
(図
込み帯の火山における未分化なマグマから成る溶岩について、
9 左下)。この停滞プレートの上には、現在も活動する玄武岩
世界で初めて系統的な採取及び分析解析を行いました。
火山があります。玄武岩の化学分析を実施した結果、玄武
系統的な初生マグマ解析の結果、沈み込み帯のマグマの
岩の中には沈み込んだ海洋プレートをつくる中央海嶺玄武岩
成因に関して、「ミッション・イミッシブル」という新たな仮説が
や、その上にたまった堆積物に由来する成分が含まれる事を
立てられました(Tamura et al., 2014)。スラブ(沈み込んだ
発見しました。停滞プレートでは脱水や解体がおこり,その成
プレート)由来の成分は、お互いに immiscible な(液体とし
分が上部マントルに影響を与えてマグマを発生させている事を
て混じり合っていない)状態の炭酸塩メルトと珪酸塩メルトであ
示します(図 9 左上)。
り、それらが別々にマントルを融解し、異なる初生マグマを生
じた、とするのがミッション・イミッシブル仮説です。
沈み込み帯の初生マグマ
大陸地殻の形成や火山の成因を明らかにする上で、マグ
マの成因やその物性を解明することは重要なことと考えられて
きました。しかしながら、マグマの組成は地表に到達するま
でに変化してしまうために、初生マグマ(出来たてのマグマ)
については、マグマの生成プロセスや組成についても明らか
になっていませんでした。
パガン島はマリアナ諸島最大の火山島で標高 570m の活
火山ですが、火山の本体の大部分は海面下にあり、麓は水
深 3,000m まで続いています。我々は 2010 年に、このパガ
ン島の海底(約 1,800 m~ 2,200 m)を、海洋研究開発機
構が所有する無人探査機「ハイパードルフィン」で潜航調査
し、
海底斜面(水深 2,000m 付近)から新鮮な枕状溶岩(図
10)を採取しました。これらを分析解析した結果、初生マグ
マに非常に近い組成を持つ未分化なマグマから成る溶岩であ
ることが判明しました。そして、室内実験の結果を踏まえるこ
図 10. マリアナ弧パガン火山海底から採取された初生マグマ
20
各部署の概要および主な成果
海洋・極限環境生物圏領域(BioGeos)
概要
東北日本の海洋生態系に大きな影響を与えました。私たちは、
震災発生後、いち早く沖合を中心とした調査を開始し、巨大
海洋・極限環境生物圏領域は、海洋を中心とする生物圏
地震と津波が海洋生態系にどのような影響を与え、どのよう
について、生物の調査および生態・代謝機能等の研究を行っ
に回復していくのかを継続的に観測する調査を行っています。
ています。特に、深海、熱水系、冷湧水系、嫌気環境ある
また、2011 年度に立ち上がった東北マリンサイエンス拠点形
いは地殻内等、生物にとって極限的な環境を対象としていま
成事業を基軸にしながら、三陸沖の大陸棚から大陸斜面上
す。また、海洋・極限環境に適応する生物群の資源として
部の調査を行っています。その結果、三陸沖の詳細な海底
の潜在的有用性と役割を掘り起こし、社会と経済の発展に資
地形図を作成するとともに、大陸棚から大陸斜面上部にかけ
する知見、情報を提供しようとしています。さらに、これら海
て瓦礫が多く分布しており、その分布は三陸北部と南部で異
洋生物圏の大気・海洋や固体地球との相互関係を理解する
なっていることを明らかにしました。また、瓦礫は海底の異物
ことを通じて、将来発生しうる地球環境変動が生物圏に与え
として存在し続けるわけではなく、分解されていくこと、また、
る影響を評価することに貢献することも目指しています。
一部には魚礁としての役割を果たしていることなどが明らかに
このため、海洋生物多様性研究、深海・地殻内生物圏
なって来ています。このような情報は、水産業に従事する方々
研究、海洋環境・生物圏変遷過程研究の 3 プログラムに所
に資すると考えており、関係諸機関に連絡し、情報共有を行
属する 70 名を超える研究者らが、以下の具体的なテーマに
なっているところです。
従って研究を展開してきました。
2013 年には、南大洋を中心とした深海に分布する極限環
1)生命の起源と進化のメカニズムの解明(生物多様性
境を有人潜水調査船「しんかい6500」及び支援母船「よこ
の理解)
*生命の起源から初期生態系進化(生命の限界)
すか」を用いて集中的に調査する、世界周航航海 QUELLE
(クヴェレ)2013 を実施しました。本航海では、深海極限環
*真核生物進化(細胞内共生による真核生物誕生の理解)
境に適応して生きる生物群について、その適応生態、エネル
*単細胞から多細胞へ(細胞分化、情報伝達など)
ギー利用を理解する事を通じて、生命の起源や進化のメカニ
2)海洋を中心とする地球生命圏の構造と機能の解明
ズムに迫ろうとしました。インド洋中央海嶺、南大西洋ブラジ
ル沖海域、カリブ海ケイマン凹地、トンガ-ケルマディック海溝
*生物地球化学循環とその変遷
域を対象として調査を行い、さまざまな生息場所に適応した新
*海洋環境のモニタリング(海洋酸性化、多様性変動)
しい生物を発見しました。また、生物の生息場所の成因につ
*極限環境生物の適応生態(高温高圧、低温、CH4、
ながる地学現象の発見をしました。成果の一部は、その時々
H2S、無酸素 etc →特殊な代謝系、細胞内共生)
で、メディアにも紹介されており、JAMSTEC が注目を集める
3)生物素材・酵素などの機能分子、微生物の応用研究
一助になったと思います。アウトリーチ面では、寄港地のケー
*バイオリアクターによる二酸化炭素固定と CO2 回収貯留
プタウン(南アフリカ)
、リオデジャネイロ、サントス(ブラジル)
、
(CCS)
ヌクアロファ(トンガ)
、オークランド(ニュージーランド)では、
*生物、酵素を用いたエネルギー開発(CH4 → C3H8)
市民・研究者を対象としたオープンハウス、そして日本人学校、
*有用酵素・膜物質などを用いた試薬・素材の開発
現地の中高校生に向けた授業等を実施し、JAMSTEC の研
究と技術開発レベルの高さを示すことができたと思います。
以上の研究を展開するにあたっては、さまざまな技術開発
が必要です。本研究領域では、新たにさまざまな生物・化学
海洋生物多様性研究
分析手法、極限環境生物培養手法、現場生物環境モニタ
リング手法などを開発しています。海洋・極限生物圏研究領
海洋生物多様性研究プログラムでは、海洋特に深海にお
域は、以上の研究手法および JAMSTEC のファシリティーを
ける生物の多様性、生物間の捕食や共生などの相互作用
駆使し、IODP、InterRidge、CoML などの国際的な研究
および多様性が生態系において果たす役割、生物の分布を
プログラムに参加することを通じて世界をリードする研究成果
決めている要因、さらに生物の多様性が生み出されるため
を上げています。
の進化機構などを研究しています。また、多様な生物の中に
2011年 3 月 11 日に起こった東日本大震災と原発事故は、
は、有用な物質や工業的に利用可能な酵素があると思われ
21
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
ることから、有用物質や酵素の探索や、それらの生産システ
ロールの代替物質として機能している可能性を示しました。し
ム、そして、そのような酵素の利用の研究も行っています。こ
かし、その他多くの嫌気性真核微生物においてはステロールも
のような研究から明らかになった生物の多様性は JAMSTEC
テトラヒマノールも検出されず、その代替物質が何であるのか
の地球情報研究センターや国際海洋環境情報センターと連
は依然謎に包まれたままです。今後、それらの嫌気性真核生
携して JAMSTEC のデータベース BISMaL(Biological
物における細胞膜柔軟性維持のメカニズムを明らかにし、そ
Information System of Marine Life)として発信しています。
の知見に基づいて真核生物の成立と初期進化を考えます。
このデータベースは、国際的な海洋生物データベース OBIS
(Ocean Biogeographic Information System)にリンクし
ています。現在、BISMaL には、多様性指数など、多様性
の解析や生物分布の解析のためのツールが準備されつつあり、
将来、生物の多様性を研究する世界中の研究者が利用でき
るようになります。
平成 25 年度は、これらの他に東北マリンサイエンス拠点形
成事業および QUELLE2013 にも参画しました。
嫌気性真核生物におけるステロール代替物質の発見
真核生物は一般的にトリテルペノイドの一種であるステロー
ルを細胞膜中に有していることが知られています。ステロール
は細胞膜の「補強材」としての役割も果たしていますが、さ
らに真核生物における細胞膜の柔軟性維持、食作用にも大き
図 1. 嫌気性真核微生物 Andalucia incarcerata の脂質画分の GC/MS 解析
く関与しています。この真核生物の食作用は、ミトコンドリアの
の結果。A.incarcerata の脂質画分からはステロールが検出されず、テトラヒマ
ノールが検出される。同じ培地中に存在する餌バクテリアからはテトラヒマノール
獲得においても重要な役割を果たしたと考えられています。ス
は検出されない。
テロールはスクアレンと呼ばれる物質から複雑な生化学反応を
経て合成されますが、その反応系の中で分子状酸素を要求
シロウリガイのエラ組織から分泌される粘液糖タン
するステップが存在します。つまり、ステロール合成は好気的
パク質
条件下のみで起こりえます。ここで「酸素の無い環境に生息
シロウリガイ類は深海の熱水噴出域や湧水域に生息する
する真核生物は如何にして細胞膜の柔軟性を維持し、食作
二枚貝で、鰓に硫黄酸化細菌を共生させています。宿主と
用を行っているのか ?」という疑問が生じます。海洋環境に
共生細菌間の相互作用を理解することを最終目的として、シ
は酸素の無い場所が至るところに存在し、そこには真正細菌
ロウリガイのエラに対するモノクローナル抗体(mAb)のライ
や古細菌だけではなく、極めて多様な真核微生物も生息して
ブラリーの作製を行いました。その中で、シロウリガイのエラ
います。単純に考えれば、酸素の無い環境でこれらの嫌気
組織に特異的に局在する分子に対するモノクローナル抗体を
性真核微生物は、その生合成に分子状酸素を必要とするス
免疫染色によりスクリーニングし、エラ組織の共生細菌がい
テロールを作り出すことは出来ないはずです。また、餌となる
真正細菌や古細菌は基本的にステロールを有していないため、
餌からステロールを確保することも出来ません。しかし、酸素
ない frontal zone は染色されず、共生細菌がいる細胞(バ
クテリオサイト)表面とその内部及びバクテリオサイトの外側
(interfilamental space)のみを特異的に染色する mAb を
の無い環境に生息する真核微生物の多くは、実際には食作
得ました(図 2)。抗体が認識する分子を同定するため、酵
用により真正細菌や古細菌を活発に補食し生命活動を営んで
素処理、レクチンとの共局在性、粘液構成多糖との交差反
います。最近、我々は一部の嫌気性真核微生物のゲノム中に
応性、粘液構成多糖の単糖組成解析(HPLC 解析)を行い、
(その生合成に分子状酸素を必要としない)テトラヒマノール
抗体が認識する分子がエラ組織から分泌される粘液に含ま
(図 1)と呼ばれるトリテルペノイドを合成するための遺伝子が
れる糖タンパク質である可能性が示されました。この mAB を
存在し、それらの生物の細胞膜中ではテトラヒマノールがステ
22
各部署の概要および主な成果
用いてウエスタン解析をおこなったところエラ組織以外の二枚
我々は世界に先駆けて、NHK、米 Discovery Channel
貝で粘液を分泌するとされる組織(外套膜、足、卵巣)で
と共同で深海底に鯨遺骸が沈降した直後から白骨化するま
は検出されませんでした。一般的に粘液は、粘膜免疫の主
でのプロセスを明らかにすることを目的として、大規模な鯨沈
要な分子で、病原菌やウイルス感染の防御に重要と考えられ
設実験を相模湾で実施しました。沈設に用いたのは 2008 年
ていますが、今回みつかった粘液に含まれる糖タンパク質は、
4 月に愛知県知多半島で死後漂着したマッコウクジラの幼体
バクテリオサイトの保護と、共生の維持に重要な役割を担って
で、全長約 5 メートル、体重約 1.2トンの雄を冷凍保存したも
いる可能性があります。
のでした。2012 年 6 月、鯨沈設 3 時間後から潜航調査を開
始し、海底設置型コマ撮りカメラも併用しながら 2012 年 8 月
までの約 2 ヶ月半にわたる連続観察を実施しました。その結
果、鯨遺骸は海底設置後、非常に短期間で筋肉や脂肪など
の軟組織が消費されることを明らかにしました。沈設 2 週間
後には軟組織の 5 割以上が消費され、2 ヶ月後にはほぼ白
骨化していました。軟組織の主な消費者はカグラザメ(図 3)
図 3. 相模湾の深海底に設置した鯨遺骸に集まるカグラザメ
やコンゴウアナゴ、タカアシガニ、オオグソクムシといった動物で、
これまでに鯨遺骸の消費者として知られていたヌタウナギ類は
ほとんど出現しませんでした。また鯨沈設からわずか 2ヶ月後
には脊椎動物の骨のみを住み処とするホネクイハナムシ類が
出現しました。
今回の沈設実験によって、パルス的に降り注ぐ巨大沈降粒
図 2. シマイシロウリガイのエラ組織に発現する糖タンパク質の免疫染色
子に対し、深海生態系はダイナミックな反応を見せることを明
明視野;(b)
、
(d)
、
(e)
、得られたモノクローナル抗体染色(緑色)(
; c)
、
(f)
、
(g)
、
得られたモノクローナル抗体染色(緑色)と共生細菌のGroEL抗体染色(赤)と
DAPI染色(青)(
; d)
、
(f), 図(a)のA部分の拡大図;(e)
、
(g)
、図(a)のB部分
らかにしました。また先行研究により通説となっていた鯨分解
の拡大図。スケールバー、
(a)–(c): 50μm;(d)–(g)
、5μm。矢印、バクテリオ
に関わる様々なプロセスは、必ずしも全深海底に共通ではな
サイト; FZ:, frontal zone; bac: バクテリオサイト; if: interfilamental space
いこともわかりました。毎年数万頭に及ぶ大型鯨類が深海底
に沈み、またその何十倍もの海棲哺乳類や大型魚類が海洋
鯨骨生物群集遷移における初期過程の解明
には生息していることを考えると、このような大規模沈降フラッ
地球史上最大の動物である鯨類は死後、その多くが深海
クスは世界中のいたるところで起きている事象であり、表層と
底に沈み、周辺には独特の生物群集が形成されることが知ら
深海とを繋ぐ物質輸送のスーパーハイウエーとして役割を担っ
れています。これを鯨骨生物群集と呼びます。鯨遺骸は貧
ているのではないでしょうか。
栄養な深海底に降り注ぐ最大の沈降粒子で、一頭の遺骸が
海底にもたらす有機物はその地点における 2000 年分の沈降
粒子の総和に匹敵すると言われています。このように鯨遺骸
の沈降は深海底に多大なインパクトを与える可能性が高いに
も関わらず、調査機会が限られていることや試料入手の困難
さから十分な研究が行われていませんでした。
23
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
硫化水素添加水槽によるシロウリガイ類の飼育
耐熱性アガラーゼの耐熱機構
シロウリガイ類の共生メカニズムを解明するために、飼育下
深海微生物から有用酵素を探索した結果、駿河湾に位置
で詳細な生態観察や実験を行うことが極めて重要です。我々
する深度 2,406m の海底泥サンプルより耐熱性アガラーゼ生
は可能性の一つとして硫化水素添加水槽を用いたシロウリガイ
産菌を発見しました。本酵素は既に遺伝子解析用酵素として
の長期飼育の確立を目指しました。まずは飼育個体の状態を
試薬メーカーより製品化され、ヒトゲノム解析などに応用されて
評価するために、無機炭素同位体取り込み実験を行い、海
います。本年度は本酵素がなぜ高い温度に対しても安定に
水中に含まれる二酸化炭素がバクテリアを介して、動物(シロ
活性を維持できるのか解明できたので報告します。
ウリガイ)に有機物として取り込まれているか確かめました。実
まず、遺伝子工学的手法を用いて本酵素の大量生産に成
験では飼育水を硫化水素添加した条件と添加しない対照実
功しました。続いて本酵素の結晶化条件を検討しました。得ら
験区の 2 つに分け、1 週間飼育を行いました(図 4)
。共生
れた良質な酵素結晶(図 5A)に X 線を照射し、その回折像
細菌の共生器官であるエラとそうではないアシについて、有機
を基に本酵素の立体構造モデル(図 5B)が構築できました。
物の炭素同位体比を分析した結果、硫化水素ありと硫化水素
耐熱性を有しない通常のアガラーゼの立体構造と比較した結
なしの各 1 個体の 2 個体で無機炭素が有機炭素として取り込
果、耐熱性が高い原因の一つは酵素全体の構造がとてもコン
まれていることが確認されました。また硫化水素ありにおけるシ
パクトな構造を呈していると推定されました(図 5C)
。通常のア
ロウリガイのエラにおいて、硫化水素無よりも高い無機炭素の
ガラーゼに比べて、ランダムコイルから形成されるループ部分が
取り込みが確認されました。このことから生息域から採取され
少なくとも3 か所も少なく、さらに酵素分子の表面に存在するプ
て 10 日以上経っていても共生細菌による有機物合成能が失
ロリン残基の数が通常のアガラーゼと比較して極めて多い(図
われず、硫化水素により無機炭素取り込みが昂進されることが
5D)ことも高い耐熱性の大きな要因であると判断できました。こ
示唆されました。以上の結果を踏まえると炭素同位体比ラベル
のたび得られました酵素耐熱化の知見を今後の工業用酵素の
実験は、飼育が良好な場合に無機炭素固定を確認できること
開発に活かしていきたいと考えています。
から、動きが少なく飼育状態の良し悪しが非常に判断しづらい
シロウリガイの状態を把握する為の評価対象の一つとなり得ま
す。今後も室内実験系を用いて、長期飼育を行った時の共
生細菌の無機炭素取り込み能や個体の状態の変化をモニタリ
ングすることで、深海共生二枚貝の生態に深く切り込んでいき
たいと考えています。
図 4. 硫化水素添加水槽で飼育されているシロウリガイ。サンゴ砂からなる模擬
堆積物に直立し水管を出している。硫化水素は模擬堆積物中に埋設されたチュー
ブからゆっくりとしみだす格好で供給されるため、小さな水槽の中で酸化的な環
境と還元的な環境の両立を実現している。
図 5. 耐熱性アガラーゼの結晶(A)、結晶解析から得られた 3 次元構造(B)、通
常のアガラーゼと比較するとコンパクトであること(C)、プロリンが多く構造が硬
いと思われる(D)。
24
各部署の概要および主な成果
深海・地殻内生物圏研究
ムが極めてダイナミックな熱水循環を引き起こす活動的な地質
場であることが生物−微生物学的な立場からも明らかになりま
(1)深海・地殻内生命圏探索研究
した。さらに、南太平洋における海山における生物多様性や
深海・地殻内生物研究プログラムでは、「しんかい 6500」
深海平原における微生物活動に関する調査も行いました。こ
及び「よこすか」を用いた世界極限環境生物圏探求航海
れら一連の調査航海の観測データや試料を用いて、深海・
「QUELLE2013」を主導する航海を計画・実行しました。イ
海底下の未知の微生物生態系の多様性や機能について、よ
ンド洋においては中央インド洋海嶺ロドリゲスセグメントに存在
り詳細な研究を進めていきます(図 7)。
するドードー・ソリティア熱水活動域を再訪し、
白いスケーリーフッ
トやアルビンガイなどの熱水化学合成生物に対して、様々な
現場環境条件の測定や現場固定による貴重な試料採取、現
場環境を模擬した船上実験による代謝活性測定など次世代
型の熱水化学合成生物群集の共生システムや生理生態研究
を行いました。残念ながらかいれい・エドモンド熱水活動域の
調査はほとんどできませんでしたが、それでも少ないチャンス
を生かして、インド洋で 6 番目となる熱水活動域であるヨコニ
ワ熱水域を発見することができました。さらに、カリブ海におい
て、超低速拡大軸に存在する世界最深の熱水を含む中部ケ
イマン海膨における熱水活動域の調査を行いました。本研究
調査では、世界で初めてとなる有人潜水船による科学調査の
図 7. 同じくカリブ海中部ケイマン海膨における海洋コアコンプレックス直上から
様子をリアル中継する試み(ニコニコ動画による)を行い、日
高温熱水を噴出するフォンダム熱水フィールドの熱水噴出
本全国で 35 万人がリアル中継を視聴し、通算 50 万人の人
がこの科学調査に関連する番組を視聴しました。これは科学
調査そのものが一般社会の関心を集めることができる優れた
(2)深海化学合成共生システム研究
中央インド洋海嶺かいれいフィールドに生息する硫化鉄を
科学アウトリーチであることを示すものでした(図 6)。
纏ったスケーリーフット(黒いスケーリーフット)の消化組織内
に共生する共生菌のゲノム解読に成功しました。
本共生菌は 2.6Mbp のゲノムを有しており、ほとんどゲノム
縮小を受けておらず、比較的最近になって共生システムを獲
得したガンマプロテオバクテリアであることが分かりました。ゲ
ノム配列からイオウ酸化による化学合成独立栄養型生活を有
しており、イオウ化合物以外に水素も利用している可能性が
示されましたが、船上飼育実験の結果から、硫化水素を主
要なエネルギー源として利用していることが明らかになってい
図 6. リアル中継で 35 万人が目撃したカリブ海中部ケイマン海膨における世界
ます(図 8)。
最深のビービ熱水フィールドのリミカリス・ハイビサエ群がるチムニー
一方、中部ケイマン海膨における熱水活動域の調査から、
超低速拡大における熱水活動域における熱水化学の多様性
が明らかになり、またハイパースライム型微生物生態系の駆
動原理についての新しい知見を示唆する結果が得られてい
ます。さらに、続いてマリアナ前弧域における蛇紋岩化流体
湧水域(しんかいフィールド)の調査も行いました。ここでは、
水深 5600m という深度において炭酸塩チムニーを伴う蛇紋
岩流体が湧いており、マリアナ海溝−前弧−島弧−背弧システ
25
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
の特定を行い、最も優占するイプシロンプロテオバクテリアがイ
オウ酸化共生菌の実体であることを証明しました。さらに、同
様の実験をメタン酸化共生菌について行い、メタン酸化がガ
ンマプロテオバクテリアのメタノトローフによって行われているこ
と、その活性に圧力の影響がないことを明らかにしました。ま
た、新たに開発された現場固定法による RNA に基づくメタト
ランスクリプトミック解析を行い、現場固定法が極めて有効で
あり、深海から生物を回収する際、mRNA の 90% 近くが分
解されてしまうことを見出しました。今後、現場環境条件を再
現した飼育装置による実験や現場固定法によるメタトランスクリ
プトミック解析、あるいは現場活性測定実験といった画期的な
機能解析方法論の開発とともに、深海における化学合成生
図 8. 中 央 インド 洋 海 嶺 か い れ い フィー ルドに 生 息 す る 硫 化 鉄 を 纏った
物や共生菌の知られざる真実の生理・生態を明らかにしてゆ
スケーリーフットの消化組織内に共生する共生菌のゲノム構造
きたいと思っています(図 10)。
またスケーリーフットによる厳しい選択圧を受けており、極め
て遺伝的多様性に乏しい共生システムであることも分かりまし
た。この研究は世界で初めての巻貝共生菌のゲノム解析であ
り、今後独自の共生システムを有する巻貝と共生菌の共生進
化についてのマイルストーン的な研究になることが期待できます
(図 9)。
図 10. 現場活性保持試料採取システムの開発とゴエモンコシオリエビの外部共
生菌に対するメタトランスクリプトミック解析の結果。現場固定法が極めて有効
な方法であることがわかった。
(3)深海・地殻内生命圏探索ツールの開発
地球深部探査船「ちきゅう」を用いた IODP 沖縄熱水掘
図 9. 中央インド洋海嶺かいれいフィールドに生息する硫化鉄を纏ったスケーリー
削航海で創成された人工熱水噴出孔も用いた研究やそれを
フットの消化組織内に共生する共生菌とスケーリーフットの共生関係
利用した深海・地殻内生命圏探索ツールの開発を行っていま
また、沖縄トラフの熱水活動域に優占する化学合成生物で
す。一つは掘削孔を利用した超高純度地殻内流体採取ツー
あるゴエモンコシオリエビの共生システムについて画期的な成
ル「カンダダシステム」の開発であり、マリアナ前弧蛇紋岩海
果を挙げることができました。これまで、ゴエモンコシオリエビ
山の海底下地殻内流体の採取に成功し、汚れのない蛇紋岩
の剛毛には外部共生菌が生息し、その外部共生菌を食べる
流体の化学的特徴の決定と海底下微生物群集の存在の有
ことでゴエモンコシオリエビが生きていることが知られています。
無についての研究を行いました。また、人工熱水噴出孔を利
しかしながら、外部共生菌にはイオウ酸化とメタン酸化プロテ
用した深海熱水発電に世界で初めて成功し、将来の人工熱
オバクテリアが共生していることが示唆されていましたが、そ
水噴出孔を利用した複合発電の可能性を大きく拡げる画期的
れを直接示す証拠は得られていませんでした。まず、外部共
な成果となりました。さらに、IODP 沖縄熱水掘削によって変
生菌がイオウ酸化代謝を行っていることを直接活性測定するこ
化した伊平屋北熱水活動域の熱水噴出パターン、熱水化学、
とによって証明しました。しかも、新しく開発された高圧飼育
周辺生物群集について 2 年にわたる観察と調査を行い、海
装置を用いて現場圧力下での活性測定に成功し、大気圧下
底下熱水溜まりから噴出する熱水化学の時系列変化や新し
と高圧下において外部共生菌の活性自体には大きな変化が
い環境に移住する化学合成生物群集の定着パターンやバイ
ないことを世界で初めて明らかにすることができました。さらに
オマスの変化を世界で初めて明らかにしました。人工的な環
Nano SIMS によるイオウ酸化共生菌の活性と共生菌の系統
境変化に対する深海生態系の応答を明らかにする研究は今
26
各部署の概要および主な成果
後の深海・地殻内生命圏研究の重要なアプローチであり、そ
東に位置する太平洋側の地点において、フリーフォールカメラ
の有効性を大いに喧伝することができました。その他、未だ
システムを用いて水中と海底の状況をハイビジョンビデオ撮影
詳細が分かっていない深海・地殻内生命圏の多様性や機能、
し、堆積物コアの採取を行いました。取得映像を解析した結
生理、生態を明らかにする様々な現場環境センサーや新しい
果、両調査地点において海底から 30m ~ 50m の高さまで
分析ツールの開発も着々と進めています。
非常に強い濁りの層が存在することが分かりました。また、海
溝軸の海底には生きた底生生物はほとんど見られませんでし
た。堆積物の観察・分析の結果、海溝軸からの堆積物の表
海洋環境・生物変遷過程研究
層から深さ 31cm は、乱泥流によって斜面の堆積物が移動・
南極海の変動が北半球の気候変動とリンクしていた
再堆積した層であることが分かりました。このことは、天然・
ことを発見
人工ガンマ線放出核種の分析からも支持されました。さらに、
太平洋側で採取された堆積物の表層(深さ 0 ~ 1cm)からは、
国際深海掘削計画(IODP)によって、南極アデリー海に
福島第一原子力発電所事故に由来するセシウム 134 が検出
おいて過去 2000 年間を連続して高精度で記録する堆積物
されました(図 12)。原発事故後数か月で、日本海溝太平
試料(Site U1357B)が採取されました。この堆積物試料を
洋側の海底でこのような核種が検出された理由として、震災
用いて、世界中の多くの研究者が共同して、南極海の過去
直後の植物プランクトンブルーミングで生産されたマリンスノー
の変動を読み解く研究を行っています。私たちは南極海の表
に吸着して沈降したことが考えられます。実際、衛星リモート
層水環境、特に水理学的な性質の歴史的変遷について研
究を行ってきました。本研究プログラムにおいて実用化された
クロロフィルの窒素安定同位体比が、南極海における過去の
センシングから、3 月下旬から 4 月上旬にかけて植物プランク
トンの大発生があったこと、6 月の調査で調査点近傍の水深
5,800m 地点から、この時期に生産・沈降したと考えられるマ
窒素サイクルについて基調な情報をもたらしてくれます。それ
リンスノーの集合体が見つかったことがあげられます。一方、
によると、過去 2000 年間にわたって、窒素同位体比の変動
海溝軸でセシウム 134 が検出されなかった理由として、乱泥
が大きくゆらいでいただけでなく、それが小氷期-中世温暖
流による希釈効果が考えられます。すなわち日本海溝斜面は
期-暗黒時代(ダーク・エイジ)といった北半球、特に北ヨー
度重なる余震によって、重力的に不安定で乱泥流が生じやす
ロッパで見られる気候変動とほぼ同期して変動してきたことを
い状態にあったことが示唆されます。
明らかにしました(図 11)。北半球が温暖な時代には南極海
でより多くの硝酸塩がプランクトンによって利用され、寒冷期は
その逆のことが起きています。両者をつなぐ詳しいメカニズム
は現時点では不明ですが、地球上の各地の気候がテレコネ
クションでつながっている一端を明瞭に示す成果です。
図 11. 南極海(アデリー海)で採取された堆積物中に含まれるクロロフィル化合
物の窒素同位体比記録。Chl a:クロロフィル a、Phe a:フェオフィチンa、Pphe
a:パイロフェオフィチンa、SSCE:ステリルクロリンエステル
日本海溝における震災 4 ヶ月後の環境撹乱の発見
東北地方太平洋沖地震から 4 か月後の 2011 年 7 月、震
図 12. 日本海溝海溝軸(上)
、同・太平洋側(下)より採取した堆積物コアの X 線
源から 110km 離れた日本海溝の海溝軸と、そこから 4.9km
CT写真とExcess
27
210
Pb、137Cs、134Csの各放射性核種のプロファイル
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
岩礁地における海生生物の食物連鎖構造を解明
位体比を用いることで、生物の栄養段階をおよそ±0.2 の高精
度で捉え、生態系構造を視覚化することができました。
海洋生態系は、さまざまな生物群集から構成される複雑な
これは、骨格構造・胃の内容物・全窒素同位体比などを
捕食−被食の関係で成り立っています。本プログラムで開発さ
用いた従来の栄養段階推定法の見積もり誤差が±1 〜 2 で
れたアミノ酸窒素同位体比を用いた栄養段階の推定法を用い
あったことを考えると、画期的なことであると言えます。われわ
ることで、生態系における捕食−被食の関係を正確に調べる
れの研究では、生物の正確な栄養段階の推定だけではなく、
ことができます。この方法を用いた一例として、岩礁地に生息
共生生物と宿主生物の関係とその進化、環境の変化に対す
する様々な海洋生物の栄養段階を示します(図 13)
。岩礁
る生態系構造の応答なども掴むことができるようになってきまし
地では、繁茂する海藻類が生態系の底辺を支え(一次生産
た。環境の変化によって、この関係性のどこか一部分の生物
者)
、その上に、アワビやサザエ、ウニなどの一次捕食者が
位置します。さらに、雑食性である、
カニなどの甲殻類が位置し、
二次〜三次の捕食者として種々の魚が生育し、ウツボなどが
だけでも増減すると、全体のバランスが変化してしまうことが
分かります。
岩礁地生態系の頂点に位置します。このようにアミノ酸窒素同
図 13. 岩礁地に生息する様々な海生生物の栄養段階
28
各部署の概要および主な成果
地震津波・防災研究プロジェクト
概要
熊野灘に設置された地震・津波観測監視システム第 1 期
地震津波・防災研究プロジェクトでは、地震や津波による
(DONET1)と比較するとDONET2 は、より広範な範囲の
観測を行うことができます。その観測点の構築には ROV によ
被害の軽減を目的とした調査・研究・技術開発を行っています。
る展張ケーブルの敷設が欠かすことができません。ROV によ
2011 年に起きた東日本大震災は近代日本における未曾有
る展張ケーブルの敷設作業は、長時間にわたり繊細な敷設
の大津波災害でした。
日本は、周囲を 4 つのプレートで覆われている世界有数の
制御が必要であるため、自動化による効率的な敷設が必要と
地震国であり、これまでも巨大地震や津波が繰り返し発生し、
されていました。展張ケーブル敷設作業のうち、最も重要な
その度に被害が多発していました。
作業であるケーブル繰り出し量の調整を自動的に行う装置の
日本の地震研究は、世界のトップレベルです。しかし、東日
開発を昨年度に行い、今年度は、実海域試験において装置
本大震災以降、海溝型地震研究については不十分な点があっ
の有効性を確認後、DONET2 の構築作業に導入しました。
たこと、またこれまでの研究成果が防災、減災への啓蒙活動、
DONET1 の本格運用開始後、この海域で発生した微
災害対策や避難対策などに活かされてきたのかという点につい
小地震の震源決定作業を進めていますが、今年に入ってか
て議論が盛んに行われています。東日本大震災を踏まえ、海
ら昨年と比較して地震発生頻度がやや低調になっています。
溝型地震研究課題の見直しや地震研究成果の情報発信・活
更に限られた狭い範囲で地殻変動があったことも観測され、
用は、今後再来が危惧されている南海トラフ巨大地震や首都
DONET データを用いて、引き続き熊野灘周辺の地殻活動を
圏直下地震への備えにおいて喫緊の課題であるといえます。
モニタリングしています。
以下に、地震津波・防災研究プロジェクトが現在実施して
また、東日本大震災以降、津波即時予測の研究も進めて
いる各研究プロジェクトについて、今年度の成果を中心にご
きました。津波増幅率に着目し、DONET で観測した水圧値
紹介いたします。
から沿岸域の津波高や浸水エリアを表示するシステムを構築
する研究などを行っています。
地震・津波観測監視システム(DONET)
さらに、これらを社会に活かす試みとして、平成 25 年度
今年度は、地震 ・ 津波観測監視システム第 2 期(以下、
には2件の共同研究に係る協定を取り交わしました。一つ目
DONET2)の構築位置について、昨年度に実施した構築
は 9 月に和歌山県と締結した「地震・津波観測監視システ
予定海域の事前調査結果により、海底ケーブル敷設ルートと
ム(DONET)により得られる観測情報の利活用に関する協
観測点構築位置を決定し、その工事に着手しました。
定」、もう一つは10月に締結した三重県尾鷲市、中部電力
陸上局設置地点では海底ケーブルを陸揚げするために、
株式会社との「地震・津波観測監視システム(DONET)
弧状推進工法により陸上から浅海部までの管路構築を行いま
により得られる観測情報の活用に関する協定」です。和歌
した。また、
観測センサーなどの海中部を構成する機器(以下、
山県との協定は、地方自治体と取り交わす初の協定となります。
「観測点」)の開発、および製造を完了し、浅海部までの管
これらの協定は、DONET により得られる観測情報の社会
路から先の海底に、海陽町陸上局舎側から観測点の構築を
実装の可能性を探るパイロットプロジェクトとして締結したもの
開始し、2014 年 3 月までに北側の基幹ケーブルの敷設、ノー
であり、協定締結を契機に今後、DONET により得られる観
ド 3 台の設置等を実施しました。(図 1)。
測情報の利活用が進展することが期待されています。
南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト
2012 年度に終了した「東海・東南海・南海地震連動性
評価研究プロジェクト」の知見の蓄積に基づき、2013 年 8 月
より新規に「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」がス
タートしました。
本プロジェクトでは、将来発生が危惧される南海トラフ巨大
地震へ備える研究を理学・工学・社会学の連携で実施する
もので、大学や研究機関とともに文部科学省からの受託研究
図 1. DONET 構築図
29
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
としてこの課題に取り組み、地震・津波のあらゆる被害予測
とその対策、発災後の現実的な復旧・復興対策を検討して
地域研究会を通じて行政(国・地方自治体)
、大学・研究
機関及びライフライン企業等と連携し、成果の社会実装を目
指しています。
この「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」では、
防災分野の研究活動を前面に押し出しています。東日本大
震災の教訓を活かし、ミクロ・マクロの被害想定、防災プラッ
トホームの構築を進めて防災啓発・教育活動も進めます。地
域研究会も拡大させ、地方自治体やライフライン事業者から
課題をヒアリングし、最新の成果を地域の防災・減災対策へ
反映すべく、東海、関西、四国、九州の 4 地域で立ち上げ
ました。同時に、市民を巻き込んだ防災・減災の啓発活動に
資するべく上記 4 地域でのキックオフシンポジウムを開催すると
ともに、減災カフェを開催しました(図 2)。
図 3. 南西諸島調査海域図
海域における断層情報総合評価プロジェクト
本プロジェクトは、2013 年 8 月より新規に「海域における
断層情報総合評価プロジェクト」としてスタートしました。
本プロジェクトでは、陸域では断層の長期評価等のハザー
ド評価が統一的かつ効率的に進められている一方で、海域
については断層情報が不足しており、ハザード評価が不十分
であることから、日本周辺海域の反射法探査データと速度構
造を収集、最新のデータ処理技術を適用し、断層を反射プロ
ファイルから読み取ります。読み取った断層情報を統一的な
図 2. 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト構想図
基準で整理し、津波ハザード評価のための基礎資料を提供
なお、今年度 JAMSTEC では、高知沖海域にて海洋調
することとしています。
査船「かいよう」を用いた可搬式マルチチャンネル反射法地
今年度は、関係機関より日本海沖のデータ収集及び集め
震探査(PMCS)システムによる反射法地震探査及びマル
た反射法データを解析するための解析システムを導入しました
チビームを用いた海底地形調査を実施しました。また、紀伊
半島から南部琉球弧において深海調査研究船「かいれい」
(図 4)。
搭載の MCS システムによる反射法地震探査及び海底地震計
(OBS)を用いた屈折法探査を行い、また、「かいよう」に
よる地質調査及びマルチビーム等を用いた海底地形調査も実
施しました。陸域地震観測としては、宮古・八重山諸島にお
ける地震探査及び地震活動の観測を行い、データの収集に
努めました。これらを通じてこれまであまり実施されてこなかっ
た南西諸島における新たな知見の収集に取り組んでいます
(図 3)。
図 4. 海域における断層情報総合評価プロジェクトデータベースイメージ図
30
各部署の概要および主な成果
日本海地震・津波調査プロジェクト
2012 年度に終了した「ひずみ集中帯の重点的調査・観測
研究」の知見の蓄積に基づき、2013 年 8 月より新規に「日
本海地震・津波調査プロジェクト」がスタートしました。
本プロジェクトでは、「ひずみ集中帯の重点的調査観測・
研究」において新潟・新潟沖〜西津軽沖にかけての領域を
対象に調査観測を進め、震源断層モデルを構築しました。し
かし、その他の地域については、震源断層モデルや津波波
源モデルを決定するための観測データが十分に得られていな
いため、日本海側の地震・津波災害に対する情報の不足は、
図 6. シミュレーション図
自治体・事業者・住民等が防災対策をとる上での懸念材料と
なっています。このため、日本海の沖合から沿岸域及び陸域
今年度 JAMSTEC では、社会からの地震津波課題に対
にかけての領域で観測データを取得し、日本海の津波波源モ
する一層の期待に応えるべく、大規模な各シミュレーションプ
デルや沿岸・陸域における震源断層モデルを構築します(図 5)
。
ログラムのチューニングを完工し、「京」 への実装、精緻な
計算を地震波動伝播、地盤震動、津波伝播や遡上などのシ
ミュレーションで実現しました。
また、研究成果の報告会としては、第 3 回 HPCI 戦略プ
ログラム分野 3 シンポジウム「スーパーコンピュータによる防災・
減災に資する地球科学」や第 4 回 HPCI 戦略プログラム分
野 3 地震津波シミュレーションワークショップを開催し、成果の
社会還元を図っています。
今後は、地震発生サイクル、地震動、津波浸水、建物の
耐震性や避難行動など様々なシミュレーションの研究開発を統
合し、複合災害を評価する統合シミュレーションシステムの構
築を目指していきます。
図 5. 日本海地震・津波調査プロジェクト調査イメージ図
マルマラ海域の地震・津波災害軽減とトルコの防災
「京」コンピュータによる地震・津波予測の高精度化
教育
の研究
2012年6月、 国 際 協 力 機 構と科 学 技 術 振 興 機 構の
2011 年度より文部科学省補助事業「HPCI 戦略プログラ
ム」において、地震発生予測の高精度化研究、津波予測
の高精度化研究、都市における地震等自然災害に関するシ
共同委 託 事 業「 地 球 規 模 課 題 対 応 国 際 科 学 技 術 協 力
(SATREPS)」の枠組みにおいて、トルコ共和国との共同
研究・技術協力事業が採択され、今年度から本格的に活動
ミュレーション研究等を進めています。
を開始しました。
本プロジェクトでは、南海トラフの巨大地震をはじめとする
トルコの北部を東西に貫く北アナトリア断層は、世界的に見て
海溝型巨大地震と津波による複合災害を予測し、防災・減
も活動が活発で注目されている断層の一つです。近年の大地
災対策に資するためのシミュレーションシステムの開発を目的と
震の履歴からこの断層は東から西へ向かって破壊が進んでい
しています。様々なシナリオに基づく精緻な災害予測を行って
ると考えられますが、1999 年に大きな被害を出したイズミット地
避難経路の確保をはじめとした事前対策を進めるなど、今後
震を最後に、その西に位置するマルマラ海は近年大きな地震
の防災・減災対策において、シミュレーションの果たす役割は
が起きていない「地震の空白域」となっており、将来の地震
重要です(図 6)。
発生リスクが非常に高いとされます(図 7)
。
31
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
今後、長期孔内観測装置から得られるデータの品質に係
る詳細な検証を行っていくとともに、東南海地震の想定震源
域で地震観測を行っている関係機関へのデータ配信に向け
て調整を進めていく予定です。また、同海域の他地点におい
ても長期孔内観測装置を設置し、同様に DONET1 に接続
していく予定です(図 8)。
図 7. 北アナトリア断層地図と地震履歴(マルマラ海付近に地震の空白域が見ら
れる)
この地域にはトルコの全人口の 18% が集中する大都市イス
タンブールがあり、巨大地震が起きた場合の人的被害は 3-4
万人とも言われますが、トルコには建物の耐震不適格など防
災・減災上の課題が今も多く残っており、国民の意識の醸成
と対策の推進が急務となっています。
本プロジェクトでは、日本・トルコの多くの大学や研究機関
と共に、海底観測をはじめとしたマルマラ海周辺地域での様々
な地震観測とシミュレーションやリスク評価、それらの科学的
知見を活かした防災教育・情報発信の検討を行い、トルコ国
民の防災意識の向上と防災・減災対策の推進に寄与してい
図 8. 長期孔内観測装置
きます。今年度はトルコでワークショップを開催し、両国から
50 名以上の参加者による研究議論を行ったほか、海底観測
機材のマルマラ海での海域試験、陸上での微動観測、トル
リアルタイム深海底観測システム
コ人研究者を日本に受け入れての研修、シミュレーションコー
ドの改良や基礎データの収集などを実施しました。また、海
リアルタイム深海底観測システムでは、水圧式津波計デー
底地震計7台をトルコに譲渡し、その扱い方や組み立て方な
タの気象庁への提供を 2012 年より実施しています。また、リ
どの技術移転を開始しています。
アルタイム深海底観測システムでは、定点観測点からのデー
タを用いた海洋生物の行動調査技術の開発・検証及び実シ
ステムへの適用を目指しております。そのうち、遠隔的な生物
長期孔内観測技術開発
鳴音による種判別技術の開発に必要となる基礎データを取得
するため、過去 18 年以上に渡って蓄積された音響データ並
地球深部探査船「ちきゅう」により東南海地震の想定震源
域である紀伊半島沖熊野灘の海底下の掘削孔に設置した長
びに地震・津波(水圧)および深海環境に関するデータから、
期孔内観測装置を 2013 年 2 月に DONET1 に接続し、観
生物鳴音および海洋生物反応等にかかわるデータの発掘も
測装置で取得したデータ(歪、温度、圧力、地震波等)を
行っています(図 9)。
リアルタイムにて受信することを確認しました。
海底ケーブル観測網に海底下の掘削孔内の観測装置を接
続してリアルタイムでデータを取得する取り組みは、世界初とな
ります。これにより、微小な地震動や地殻変動に伴う海底下
の歪や温度、圧力等の変化と巨大地震発生との関連性に関
する研究が可能となり、地震発生メカニズム解明に資する知
見の獲得が期待されます。また、陸上や海底面に設置する
観測装置では捉えにくい微小な地震動や地殻変動をリアルタ
イムで捉えることができ、今後の防災・減災対策へのデータ
利用が期待されます。
図 9. 音響観測データにより検出されたマッコウクジラ鳴音のスペクトログラム
32
各部署の概要および主な成果
海底資源研究プロジェクト
概要
て採取された夾炭層試料の透水試験等により、夾炭層環境
中の石炭は透水性が著しく低く、CO2 圧入の際に貯留層とし
海底資源研究プロジェクトでは、JAMSTEC が培ってきた
てではなく、むしろシール層として機能すること、また下北半島
海洋研究に関する豊富な知見と技術を活かしながら、5 つ
沖の夾炭層中の砂岩は、孔隙率が大きく、CO2 の注入に適し
の研究グループを主体として、海底資源に関する最先端の
たリザーバー環境として機能する可能性が明らかとなりました。
調査 ・ 研究を行っています。
さらに、釧路沖の海底石炭(浦幌層群春採夾炭層の亜
設立から 3 年目となる 2013 年度は、海底資源研究プロジェ
瀝青炭)試料(釧路コールマイン株式会社提供)と粉末砂
クトで実施した調査航海(関連する航海を含む)で 16 航海
岩を嫌気的に熱収縮カラムに充填し、温度 40℃、間隙水圧
にのぼり、今年度もこれらの調査航海を通じて、沢山の新し
40MPa、拘束圧 41MPa、超臨界 CO2 を含む人工嫌気滅
い知見やデータ、試料が得られています。また海底資源の生
菌培地を流量 0.002 mL/min で添加し、ジオバイオリアクター
成メカニズム等の解明に関する地球化学的研究等も精力的
を 56 日間稼働させ、地球化学・鉱物学・微生物学的な経
に進めており、貴重なデータが蓄積されつつあります。
過観察を行いました。
以下に、各研究グループの成果トピックスをご紹介します。
地球生命工学研究グループ
地球生命工学研究グループでは、日本近海の海底泥火
山や炭化水素資源環境を理解し、自然エネルギーと微生物
の卓越した炭素変換能を活用し、持続的な炭素循環システ
ムの構築にむけた基盤的かつ応用工学的な研究を行ってい
ます。
2013 年度は、地下の温度・圧力条件を再現可能な多連
式高圧リアクター「ジオバイオリアクターシステム」を用いて、
夾炭層(石炭と砂岩の互層)への二酸化炭素地中隔離を模
した「二酸化炭素−流体−鉱物−生命相互作用」に関す
る研究を行いました(図 1)。
図 2. 釧路コールマインの海底石炭層から培養されたメタン菌。(A)当初、透明
であった培地が、石炭を添加することで微生物が生育し、白濁した様子。(B, D)
石炭層から培養されたメタン菌の光学顕微鏡写真と、(C, E)紫外光によって励
起されたメタン菌の蛍光顕微鏡写真。スケールは 10 マイクロメートル。
図 1. ジオバイオリアクターに石炭と砂岩を充填したカラムを設置する様子
まず、露天掘り粉末褐炭試料(オーストラリア、ロイヤング
その結果、超臨界 CO2 の添加によっても、コア堆積物中
炭)を用いた褐炭の超臨界 CO2 に対する破過圧テスト、およ
の微生物群集は完全に死滅することなく、特に Firmicutes
び青森県八戸沖で行われた地球深部探査船「ちきゅう」によ
や Actinobacteria に属する胞子形成能を有する一部の微
る統合国際深海掘削計画(IODP)第 337 次研究航海によっ
生物は生存もしくは代謝活性を維持・継続できていることが示
33
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
唆され、Sporomusa に属するホモ型酢酸生成菌の作用によ
素変換に関する研究に着手しました。
り、添加した CO2 から酢酸が生成されていることが示唆され
さらに、本航海期間中に、産業技術総合研究所との共同
ました。また、石炭への CO2 の吸着と、それに伴う天然吸
研究の一環として、当該海域の底層水温変動を把握するた
着ガス(コールベットメタン)や間隙水の溶出などの物理的な
めの長期温度観測ロガーが設置されました。
作用により、石炭層中の微生物が砂岩の間隙水中に拡散しう
ることが示唆されました。さらに、亜瀝青炭を接種源としたバッ
チ培養により、Methanobacterium や Methanosarcina に
属するメタン菌の生育が認められました(図 2)が、ジオバイ
オリアクターによる現場の温度・圧力条件下での CO2 添加実
験ではメタン菌の生育は認められませんでした。
上記の結果は、地下の現場環境の条件下において、生物
学的炭素変換システム(Bio-CCS)の作用によって CO2 を酢
酸のような有機物に還元する現象が起こりうることを示していま
す。なお、本研究成果は、電力中央研究所地球工学研究
図 3. CO2 注入用ヒートゾンデを用いて、海底に露出するメタンハイドレートを融
所との共同研究によるものです。
解する様子
2013 年 7 月 20 日〜 26 日にかけて、地球生命工学研究グ
海底熱水システム研究グループ
ループでは、海洋調査船「なつしま」および ROV「ハイパー
IODP の枠組みの下、2010 年度年 9 月に行われた「ち
ドルフィン」を用いて、
日本海上越海丘におけるメタンハイドレー
きゅう」を用いた研究の成果によって、沖縄トラフの深海熱水
ト露出環境の調査航海 NT13-15 を実施しました。
本航海では、地球生命工学研究グループと電力中央研究
域には、世界最大級の熱水鉱床が人知れず存在している可
所地球工学研究所およびシンコーポレーション株式会社との
能性が明らかになりました。そこで、本研究グループでは、マ
共同研究によって新規に開発された「深海 CO2 注入用ヒー
ルチプル調査プラットフォームと地球生物学的熱水センシングを
トゾンデ(以下、ヒートゾンデと略)」を「ハイパードルフィン」
組み合わせた次世代探査によって、沖縄の深海に超巨大海
に搭載し、上越海丘頂部付近に露呈するメタンハイドレート
底熱水鉱床を探査し、海底下の熱水循環システムの駆動力
塊や表層堆積物に、直接液体 CO2 を注入する現場試験を
と海底下生態系との関わりの理解、日本の海に眠る資源の開
行いました。本ヒートゾンデは、「ハイパードルフィン」の電力
発基盤の創造を目指しています。
と油圧ポンプを活用し、低温・高圧の深海底環境下におい
2013 年度には、2012 年度に伊平屋小海嶺に複数の未発
て、液体 CO2 と水を単独または混合した状態で地層中に圧
見の新しい熱水活動域の兆候を発見したのに続いて、マル
入する目的で設計されました。実際に深海底にて本装置を用
チプル調査プラットフォームと地球生物学的熱水センシングを
いた CO2 注入試験を行ったところ、ゾンデ先端の流路や出口
組み合わせた次世代探査を行いました。「なつしま」のマル
に、予想を遥かに上回る速度で CO2 ハイドレートが形成され
チナロービーム音響探査を用いて、伊平屋北海丘を詳細に
ることが確認され、十分量の CO2 を圧入するには、さらなる
調査した結果、伊平屋北熱水活動域とは全く異なる 2 つの
装置の改良や条件検討が必要であることが明らかとなりました。
新しい熱水域の兆候を発見しました。その後速やかに、AUV
一方、本ヒートゾンデを用いて、現場のメタンハイドレートを部
「うらしま」による水中音響精査と化学センサー探査を実施
分的に融解させ、
メタンを発生させることに成功しました(図 3)。
し、2 つの新しい熱水域のより詳細な次世代探査を実施した
また、本航海では、地球生命工学研究グループで開発さ
だけでなく、伊平屋北海丘以外の中部沖縄トラフにおける新
れた保圧コアリアクターシステムを用いて、白色のバイオフィル
しい熱水活動域の兆候探査を行いました。さらに、これらの
ム様物質が付着するメタンハイドレート試料を、現場の圧力を
次世代探査で見つかった新しい海底熱水活動候補地におい
保ったまま採取することに成功しました。本保圧試料を用いて、
て、ROV「ハイパードルフィン」による海底調査を行い、新
米国カリフォルニア工科大学と共同で、13Cと15N の安定同
たな熱水活動域を2箇所発見することに成功しました。(2014
位体で標識されたメタンと窒素を現場圧力条件下で連続的に
年 1 月)。今後、同様の探査を展開することによって、超巨
添加し、高知コア研究所に整備されている超高感度二次イオ
大海底熱水鉱床を胚胎する可能性のある新しい熱水循環シ
ン質量分析器(NanoSIMS)等を用いた生物学的炭素・窒
ステムが次々に発見されることが大いに期待できます。
34
各部署の概要および主な成果
一方、2013 年度には、地震波反射法データに基づく中部
燃料電池の実証に成功しました(図 6、7)。
沖縄トラフの海底下構造に対する包括的理解が大きく進展し
ました。これまでに得られた地震波反射法データを体系的に
読み解く事により、沖縄トラフが現在も活発なリフティング(伸
張性の断層活動)を維持しており、大量の火山性破砕物と
海洋堆積物が繰り返し堆積する複雑な構造を有していること
が明らかになりました(図 4)。断層の存在パターンと構造から、
沖縄トラフ特有の巨大な熱水循環経路の生成メカニズムを明
らかにし、超巨大海底熱水鉱床成因についての理解が進む
ことが期待できます。
図 5. 掘削後 2 年間に及ぶポストドリリング熱水活動モニタリング調査から見えて
きた伊平屋北フィールドの熱水活動の変化
電極を熱水と海水に晒すだけで極めて安定的な持続的な
発電が生じることを実証し、かつ熱水噴出域の持つ電気化学
的特性を世界で初めて明らかにする事が出来ました。さらに
現在では、我々が開発した熱水燃料電池と東京大学生産技
図 4.これまでに得られた中部沖縄トラフの海底下構造に対する地震波反射法
データを用いた中部沖縄トラフ発達史と海底下熱水循環構造を規定する地質学
術研究所が開発した熱素子発電を組み合わせた複合発電シ
的要因への考察(Ikegamiら(2014)に加筆)
ステムの構築にも着手し、深海熱水の持つ金属資源の開発
IODP の枠組みにおいて「ちきゅう」を用いた掘削研究の
だけでなく、エネルギー資源の開発という全く新しいブレークス
成果は、現在急ピッチで論文化されています。また人工熱水
ルーを生み出す研究開発を進めており、政官学産から大きな
孔を用いたポストドリリング研究では、画期的な研究成果が
注目を集めています。
得られました。掘削後 2 年間に及ぶポストドリリング熱水活
動モニタリング調査から、人工熱水噴出孔から吹き出す熱水
が海底下熱水溜まりの下部に位置する液相に富んだブライン
由来である事が明らかになっただけでなく、掘削地点によって
(海底下熱水溜まりの熱水供給源からの距離によって)
、人
工熱水噴出孔熱水組成に多様性が見られ、熱水性沈殿物
(黒鉱鉱物)生成パターンに大きな違いが見られること、熱
水組成が時系列変化すること、そして各人工熱水噴出孔周
図 6. 深海熱水燃料電池の概略図
辺の化学合成生物群集のコロナイゼーションやバイオマスに変
化が見られること、等、世界で初めての成果を論文化しました
(図 5)。このポストドリリング研究は、海底熱水鉱床開発
に伴う環境への影響評価を行う上で、極めて貴重な定量的・
系時的データを示すものであり、今後、世界の影響評価研究
の基盤成果になることが期待されます。
また一方、IODP の枠組みにおいて「ちきゅう」を用いた
図 7. 人工熱水噴出孔でのその場熱水発電の実証。熱水発電によって得られた電
掘削研究によって創成された人工熱水噴出孔は、人工熱水
流によって、世界で初めて「深海の灯」がともされた瞬間の映像
噴出孔を利用した海底工学やその応用研究にとって、無二な
資源地球化学研究グループ
プラットフォームを提供しています。既に人工熱水噴出孔を利
用した持続的繰り返し黒鉱養殖の基盤研究が進められている
地球上に生成されるメタンの多くは、微生物によって生み
だけでなく、2013 年度には人工熱水噴出孔を利用した熱水
出されたものです。しかし、海底下あるいは地中のどの深さ
35
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
で、どのくらいの速度でメタンが生成されているのかについて
が十分にありメタン菌にとって最適な条件がそろった場合、こ
は、ほとんど知られていません。当研究グループは、この問
の地層中における堆積物 1 グラムのメタン生成速度は、1 日
題に新しい化学的手法を開発して切り込んでいます。
につき最大 26 モルと推定することができます。
それはメタン菌と呼ばれる微生物の細胞内において、メタ
ンが生成される一連の生化学反応の最終ステップを触媒す
資源成因研究グループ
る「F430」と呼ばれる補酵素を定量する方法です。この
本研究グループでは、海底鉱物資源を中心とした様々な資
F430 を定量することによって、メタン生成の潜在能力を推定
源を対象に、それらが地球史上いつの時代にどこで生成した
することができます。海底を掘削して得られる堆積物コア試料
のか、どのような化学反応によって生成したのか、などの様々
中に含まれる F430 の濃度は、その堆積物におけるメタン生
な時空間スケールから究極的な資源の成因解明を目指します。
成の潜在能力を示します。またその炭素や窒素同位体比は、
これらは、資源生成に関与する環境変動やその解読法の開
メタンを生成する微生物がどのような炭素源や窒素源を用い
発、あるいは人工的な有用元素回収法の開発など、海底資
ているかなどメタン菌の代謝について教えてくれるはずです。
源に秘められた可能性を多方面から開発することに繋がります。
しかし、海底堆積物中から F430 を抽出、分離し、定量する
今年度の特筆すべき成果は、本年 1 月に実施した深海調
ことはこれまで行われた例がなく、その分析法も当然ながら確
査研究船「かいれい」による、高濃度レアアースを含む泥の
立されていません。当研究グループでは発足以来、F430 の
発見です。レアアースに富んだ堆積物が太平洋に広く存在
分析法の開発に力を入れてきました。その結果、高速液体ク
することは、すでに東京大学加藤泰浩教授らの研究によって
ロマトグラフィー/質量分析計/質量分析計(LC/MS/MS)
報告されていました。そこで今回の調査では、南鳥島周辺に
を用いて、海底堆積物中に含まれる F430 を 0.1 フェムトモル
レアアースに富んだ堆積物が存在することを予測し、南鳥島
(1×10-16 モル)という極微量で分析する方法の確立に成功
周辺の水深 5,600m ~ 5,800m の海底から採取された堆積
しました。
物のコア試料を採取し、その化学分析を行い、海底表層付
この新しい方法論を、地球深部探査船「ちきゅう」によっ
近におけるレアアース濃度の鉛直分布を調べました。堆積物
て下北半島沖で掘削された堆積物試料(12-208 m)に応
は、ピストンコアラーというおもりをつけた筒を海底から堆積物
用しました。その結果、この堆積物中には 1 グラム中 0.02-1.2
に押し込むことによって採取しました。その結果、南鳥島南
ピコモル(0.02-1.2×10-12 モル)の F430 が含まれていること
方の調査地点のひとつにおいて、海底下 3m 付近に、最高
がわかりました。特に、
深度 70 m 付近に大きなピークが見られ、
6,500ppm(0.65%)を超える超高濃度のレアアースを含む堆
そこで高いメタン生成能をもつことが示されました(図 8)。
積物(以下「レアアース泥」という。)が存在することが明ら
かになりました。これは、今までに見つかったレアアースと比
べても 3 〜 10 倍の高濃度になります。別の地点でも海底下
10m 以内の浅い深度からレアアース泥が出現することを発見
しました(図 9)。
それに加えて、今回の調査ではサブボトムプロファイラー
(SBP: 音響による海底表層地層探査)によって、レアアース
泥の出現深度や厚さの情報を効率的に取得できることが分か
りました。調査海域の SBP イメージでは、基盤岩のチャート
とその上の泥(おそらくこれもレアアース泥)とは、濃淡の差
で区別することができ、また、レアアース泥では泥特有の縞模
様が見えず、その上の表層泥で縞模様が見えることと対照的
です。これらの特徴からレアアース泥の出現深度と厚さが確
認できると考えていますが、レアアース泥の出現深度について
は SBP のデータと実際のコアの分析値を比較することによっ
図 8. 下北沖で採取された堆積物中の F430 濃度
て確認されたものです。
この深度でメタン生成能が大きい理由は現時点ではわかっ
ていませんが、メタン生成の基質となる水素や酢酸、メタノー
これらの研究成果は、南鳥島周辺のレアアース資源の賦
ルなどの濃度が高い可能性も考えられます。もし基質の供給
存量や分布等、今後の成因解明研究や開発等に必要な科
36
各部署の概要および主な成果
学的知見をもたらすものとして期待されます。
上記以外にも、放射光を用いたマンガンクラストへのレアメ
タル濃集メカニズムの解明や、その成長速度の決定を行って
います。また、高温高圧熱水実験による黒鉱鉱床の人工合
成実験や、鉱床母岩の元素溶脱過程の研究など、ミクロとマ
クロ、天然と実験などをキーワードに様々な資源成因研究を
行っています。
PC04
PC05
総レアアース濃度(ppm)
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
総レアアース濃度(ppm)
6000
0
0
図 10. 生物分布と環境要因の多変量解析から推定した生息分布の特徴
1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000
掘削前に設置した温度計を回収して解析した結果、白色
域での熱水活動は掘削後 11ヶ月後より開始したことを明らか
2
2
海底下の深さ(m)
海底下の深さ(m)
にできました(図 11)。
4
6
遺伝子による生物群集の多様性解析では、熱水域堆積物
4
試料から DNA を抽出し、メイオベントス群集の多様性データ
を読み出し、多様性の解析を継続中です。
6
また国際ワークショップ(Deep Ocean Stewardship
8
Initiative; DOSI)に参加し、深海での環境影響評価への
8
提言策定に貢献しました。
10
総レアアース濃度
(ppm)
総レアアース濃度
(ppm)
> 1,500
1,000-1,500
12
700-1,000
400-700
> 1,500
10
250-400
700-1,000
400-700
250-400
<250
14
1,000-1,500
<250
12
図 9. 南鳥島周辺で採取された堆積物コアの総レアアース濃度変化
環境影響評価研究グループ
環境影響評価グループでは、科学掘削により擾乱を受けた
熱水活動域を資源開発でのモデルとして調査研究を進めてい
図 11. 堆積物表層の温度変化とメガベントスの相変化
ます。研究課題として、1)画像データによる生物分布、2)
遺伝子データによる生物の群集構成、3)生態系の復元力を
基準とする評価法の検討、に重点を置いています。
画像データによるメガベントス分布の解析では、東京大
学生産技術研究所が開発した三次元画像マッピングシステム
(SeaXerocks)による画像データおよびハイビジョンビデオ画
像からメガベントス群集の個体数を計測し、環境要因との関
係を解析しました(図 10)。
37
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
システム地球ラボ:プレカンブリアンエコシステムラボユニット
概要
地殻への CO2 フラックスは現在の 100 倍、つまり大気中の二
酸化炭素濃度も現在の 100 倍以上であったことを明らかにし
「地球が生命に満ちあふれた希有な惑星」に成り得た真
ました。2012 〜 2013 年度は、同じく西オーストラリアに残さ
の原理を明らかにすることは、人類に共通する最大の知的好
れた 26 億年前の海洋地殻の熱水変質プロセスの化石(炭
奇心対象であり、「太陽系を含めた宇宙における生命の可能
酸塩岩)の量論と同位体比の解析を進めました。この 26 億
性や存在条件」を知る最も重要な手がかりです。プレカンブリ
年前という時代は、地球上に大きな大陸が形成され始めた
アンエコシステムラボは、その原理の答えとして、地球と生命
時期であり、プレカンブリアンエコシステムラボの予想に従えば、
の誕生から初期進化過程においてすでに、地球と生命が「マ
ントル−海洋−大陸−大気−生命」、すなわち「地球−生命」、
の相互作用システム体として発生し、機能・進化し続けてきた
大陸棚浅瀬での炭酸塩岩の沈殿が促進され、大気中の二
酸化炭素濃度が急激に減少し始めたはずなのです。結果は
ドンピシャでした。26 億年前の大気や海洋に存在していた二
ことであると考えています。「地球−生命」の相互作用システ
酸化炭素は 32 億年前から 6 億年のうちに 1/10 に減少して
ムのほとんどあらゆるメカニズムは、6 億年より遥か以前(先
いる証拠が得られました。
カンブリア代)に既に完成されていたと考えられます。プレカン
ブリアンエコシステムラボでは、この原始地球生命システムの
初期進化(先カンブリア大爆発)の解明を究極の目標として、
最初の持続的生命システムの誕生から、汎地球的な海洋環
境への進化・伝播過程(光合成システムの獲得とエネルギー
代謝の多様化)に至る先カンブリア代の全ストーリーを、現世
の地球に残された地質記録、現世の微生物に刻み込まれた
機能やゲノム情報、現世の地球の類似環境で起きる物質循
環や生態系機能、から復元し、実験室内で再現実験を行う
ことで明らかにしてゆこうとしています。
(1) 太古代全球的二酸化炭素濃度変化の全解読研究に
おける新展開と再現実験
図 1. 地球史おける二酸化炭素濃度変化 (a)と大陸成長曲線 (b)。図中の赤い印
の部分がプレカンブリアンエコシステムラボで解読された二酸化炭素濃度。
現世の地球の炭素循環を支配する最も大きな要素は海底
火山活動による CO2 の海洋への放出、大陸棚浅瀬での炭
一方、大気や海洋中の二酸化炭素濃度が減少すると、プ
酸塩岩の沈殿です。一方、太古代の地球には大陸はほとん
レカンブリアンエコシステムラボの切り札的方法論である海洋
どなく、現在のような大陸浅瀬の炭酸塩岩は形成されていま
地殻熱水変質炭酸塩による地球−生命史再現研究手法の適
せんでした。この場合、初期地球においては海底火山活動
用が困難になってきます。熱水変質鉱物が炭酸塩ではなく硫
によって大気海洋に CO2 が放出され続けていたと考えられま
酸塩になってしまうからです。そこで、それとは異なる海洋地
すが、理論的研究や様々な地質記録からは地球形成後から
殻熱水沈殿物中に保存された流体包有物からの地球−生命
大気海洋の CO2 の量は徐々に減少してきたことが推定されて
史再現研究手法を開発してきました。2012 〜 2013 年度にか
います。しかしその減少過程のメカニズムやタイミング、劇的
けて、この手法を 22 億年前の「スノーボールアース」(全球
な地質イベントの関係性は全く不明のままです。プレカンブリア
凍結)時の海洋地殻熱水変質の化石に応用しました。スノー
ンエコシステムラボは、この先カンブリア大爆発にとって最も大
ボールアースがどのような原因で起きたかについては未だ諸説
きな環境要因となったであろう太古代における大気−海洋−地
が入り乱れている状態です。このスノーボールアース時の大
殻の二酸化炭素濃度変化やフラックスの解読に挑んでいます
気−海洋中の二酸化炭素を直接的に定量した研究例はありま
(図 1)。
せんでした。22 億年前に鉱物中に封入された太古の熱水に
2011 〜 2012 年度には、初期太古代(32 億年前)の海
含まれていた二酸化炭素濃度と同位体比を直接測定しました。
洋地殻の熱水変質プロセスの化石(炭酸塩岩)の量論と同
位体比の解析から、32 億年前の大気−海洋−地殻における
「海底熱水に含まれる二酸化炭素濃度は必ず海洋中に溶存
炭素フラックスを明らかにする事ができました。海洋から海洋
していた二酸化炭素濃度を上回る」ということがこれまでの
38
各部署の概要および主な成果
リ性になることが分かりました。350℃の熱水反応では、反応
すべての深海熱水の研究から導かれる事実です。
22 億年前の熱水中の二酸化炭素濃度の最低値は 7 m M
開始 1 日後には、3/4 の CO2 が変質炭酸塩鉱物となり、アル
でした。この数値は、22 億年前の海洋中に溶存していた二
カリ性熱水が生成されることが明らかになりました。この結果
酸化炭素濃度が 7 m M 以下であったことを意味します。そ
は、2 つの意味で重要です。一つは「冥王代から初期太古
れは現在の海洋の 2-3 倍にしかすぎません。つまり当時の大
代の高濃度 CO2 を溶解させた海水が海洋地殻熱水循環に
気中の二酸化炭素濃度は多くとも現在の 2-3 倍にしか過ぎな
よって高温強アルカリ性熱水となって噴出していた」という仮
かったという証拠が得られました。この結果は、
22 億年前の「ス
説が実験的に証明されたこと。もう一つは、高濃度の CO2 が
ノーボールアース」が大気中の二酸化炭素の減少によって引
溶解した海水が現在の海洋地殻熱水循環系に導入された場
き起こされたとする仮説を支持する世界で初めての定量的な
合においても、CO2 が熱水変質炭酸塩鉱物として地殻内に
証拠でした(図 2)。
固定され、CO2 が除去されることを明らかにした点です。大
気−海洋中の CO2 を地殻内に封入しようとする技術は CO2 回
収貯蔵(CCS)と呼ばれ、近年、温暖化ガス削減に向けた
極めて重要なテクノロジーとして研究開発が行われています。
本研究は、もし排出される CO2 を回収し、高濃度に溶存させ
た海水を海洋地殻熱水循環系に導入できれば、それだけで
地殻内に固定できる「海底熱水 CCS」が可能となる事を初
めて実験的に証明したという点で画期的な成果と言えるでしょ
う。
図 2. 約 22 億年前の海洋地殻熱水沈殿物中に保存された流体包有物中の二酸
化炭素濃度の定量(赤丸)
冥王代から初期太古代の大気−海洋において、現在の地
球の約 500-1000 倍の CO2 が存在していました。この高濃度
の CO2 の存在は、現在の地球とは全く異なる海洋地殻熱水
循環を導くと予想されます。その一つが、2010 年にプレカン
図 3. 高濃度 CO2 溶存海水と海洋地殻玄武岩の熱水反応実験における溶存無機
ブリアンエコシステムラボの研究として発表された「冥王代か
炭素濃度の変化
ら初期太古代の深海熱水は高アルカリ性のホワイトスモーカー
だった」という仮説です。その原因は、海水中の CO2 が高
(2)地球−生命史および先カンブリア大爆発解読のため
濃度の場合、海洋地殻(玄武岩やコマチアイト)の熱水変
の革新技術:多重相同位体比システマテックス研究
質によって、CO2 が除去され、噴出する熱水がアルカリ性に
地球における生命の誕生から化石として記録されやすい
なる、というプロセスであると考えられました。このプロセスは、
大型多細胞生物の出現に至る先カンブリア大爆発の詳細な
熱力学的な計算によって予想されるものでしたが、実験的な
プロセスの進化を地質記録から解読するためには化学化石
検証は行われていませんでした。2012 〜 2013 年度には、プ
と呼ばれる物質の量論と同位体比の情報が極めて重要です。
レカンブリアンエコシステムラボの有する高温・高圧熱水反応
しかし各化学反応や生物・代謝プロセスにおける同位体比
実験装置を用いて、玄武岩と高濃度 CO2 を溶存する海水の
分別や同位体比平衡は極めて脆弱な実験データ・理論的背
熱水変質実験を行いました(図 3)。その結果、250℃での
景に基づいており、経験則的な化学指標の域に留まっている
熱水反応では、100 日ぐらいで 400mM の溶存 CO2 がすべ
部分が大きいのが現状です。また単独の元素の単一の同位
て変質炭酸塩鉱物としてトラップされ、生成した熱水がアルカ
体比だけでは分解能が低く、化学・生物・代謝プロセスを解
39
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
読するには複数の元素と同位体比を組み合わせた多重同位
や供給源と最重要一次生産者であるメタン菌の関わりを紐解
体比分析が必要となってきます。「多くの元素の量論と複数
く鍵を与えたことになります。
の同位体比による多様な化学・生物・代謝プロセスにおける
さらに 2012 ~ 2013 年度には、深海・地殻内生命圏シス
同位体比分別や平衡指標を組み合わせた、高精度地図と
テム研究プロジェクトと共同で、JAMSTEC 萌芽アウォードの
GPS の組み合わせによる先カンブリア大爆発ナビゲーションシ
支援の下、塩化メチルの迅速・高精度塩素同位体比分析法
ステム」を、プレカンブリアンエコシステムラボでは、多重相
を開発しました。塩化メチルの炭素同位体比と塩素同位体
同位体比システマテックス研究と呼び、精力的な研究を進め
比の多重同位体比分析によって、塩化メチルの起源や供給
ています。
プロセスを明らかにできることが期待されます。しかし、その
全球的な窒素循環を考える上でこれまでの研究は、窒素ガ
方法論の開発には、さらに壮大な目標が隠されています。つ
スと有機体窒素の量論と窒素同位体比に焦点を絞ってきまし
まり、地球における海洋の進化を紐解く鍵となる塩素同位体
た。地質記録に残された窒素同位体比指標は、窒素ガスと
比の微量分析が可能になったと言う事です。極めて微妙の
有機体窒素を直接結びつける窒素固定代謝の寄与が重要で
地質記録中の熱水や海水の化石から、その塩素同位体比を
すが、主に光合成微生物の動態と進化との関わりだけで議論
分析し、その進化プロセスを解読する切り札になることが期待
されてきました。その理由は、光合成微生物の窒素固定代
できます。さらに言えば、「はやぶさ 2」等の宇宙探査機によ
謝のみ研究が行われていたからです。2012 ~ 2013 年度には、
るリターンサンプル試料や隕石の塩素同位体比の分析を行う
先カンブリア大爆発において最も重要な一次生産者である好
ことによって、地球以外の惑星における宇宙海洋の生成プロ
熱性水素資化メタン菌の窒素同化代謝における多重相同位
セスや進化史を解読するツールとしても期待できるのです。
体比システマテックス研究を行いました。その結果、好熱性
水素資化メタン菌の窒素固定が、光合成微生物と異なる同
位体比分別を導く特徴を有している事を世界で初めて明らか
にしました。その結果を地質記録に残された窒素同位体比指
標の解釈に適用した場合、35 億年前の化学化石の中に窒
素固定代謝の痕跡が残されていることが分かりました。つまり
生命誕生時から窒素固定が地球の生命活動を支える窒素の
利用に用いられていたことを明らかにしました。
一方、地球−生命の共進化史を通じて最も重要な化学指
標であるメタンについての多重相同位体比システマテックス研
究でも大きな成果が挙っています。メタンの炭素同位体比と
水素同位体比は、単独あるいは複合的にメタンの起源・生
成プロセス・蓄積−移動プロセス・消費プロセスを知る指標と
して多用されています。しかし、それぞれのプロセスにおける
同位 体 比 分 別や平 衡の詳 細は未 知のままです。2012 ~
2013 年度には、好熱性メタン菌によるメタン生成において、
基質となる水素が直接メタンに取り込まれる「メタンの水素固
定」という現象が世界で初めて実験的に証明されました。こ
の結果は、H2O-H2-CH4 の同位体システマテックスの常識を
覆すものであり、メタンの炭素同位体比と水素同位体比の解
析から、メタンの起源・生成プロセス・蓄積−移動プロセス・
消費プロセスを推定する方程式を改訂する必要があることを
示しました。また一方で、H2 とCH4 の間に直接的な同位体
比相互関係が存在する事を明確に示したものであり、先カン
ブリア大爆発における至高のエネルギー源である水素の起源
40
各部署の概要および主な成果
システム地球ラボ:宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリングラボユニット
概要
地球表層の環境と生命は、地球内部と宇宙から絶えず影
響を受けながら、変動と進化を続けています。また、その結
果は地球内部変動にも大きな影響を与えています。特に、地
図 2. スーパーアースのマントル対流シミュレーションから得られたポテンシャル温
球環境の長期変動や大規模な環境変化のメカニズムを捉え、
度分布 ( 赤が高く、青が低い値を表す )。レイリー数が地球のマントルより約 1000
これを予測するためには、宇宙と地球環境を一体のシステムと
倍大きいにもかかわらず、コア―マントル境界(下部境界)から上がってきた熱い上
昇流が中層より下で勢いを失い、惑星表面まで到達しない事が分かった。
して理解する必要があります。
本ラボユニットでは、図 1 の通り宇宙、地球表層、地球内
コア・マントル境界の熱流量が 10TW 以上であること、内核
部を含む複合的な多圏間の相互作用を、最先端の数値シミュ
の誕生は 10 億年前より新しいことなど新しい地球史の姿を意
レーションと超高圧実験・観測研究を通して定量的に把握し、
味しています。
現在の地球の活動や、地球史における大規模な地球環境変
動のメカニズムを明らかにすることによって、未来の地球の姿
系外惑星スーパーアースのマントル対流
を探ることを目標としています。
太陽系外惑星の中で地球よりも数倍~ 10 倍程度の質量
を持つ巨大な地球型惑星はスーパーアースと呼ばれています。
電気抵抗の飽和を考慮したコアの熱伝導率のモデリ
ング
我々は地球の 10 倍程度の質量を持つスーパーアースのマン
トル対流について、地球シミュレータを用いた数値シミュレー
地球のコアの熱伝導率はコア・マントル境界の熱流量やコ
ションにより調べました。その結果、スーパーアースのマントル
アの冷却スピードを制約する重要な物性値です。Stacey らに
に存在する強い圧縮性や断熱温度変化の為、マントル内の
よって見積もられた 30W/m/K 以下という比較的小さな値が
上昇流が非常に弱くなり表層まで到達しなくなること、またマ
近年までよく用いられて来ました。今回われわれは金属学で
ントル対流による熱輸送効率もかなり小さく、地球の場合のモ
はよく知られている「電気抵抗の飽和」という現象に着目し、
デルから予想されるものより1/4 程度になることが分かりました
その効果を考慮したモデリングを行ったところ、Fe-Si 合金の
(図 2)。
電気抵抗に関する過去の衝撃圧縮実験の結果をよく説明す
これらの結果から、スーパーアースではコアの冷却対流を
ることがわかりました(Gomi et al., 2013 PEPI)。金属の熱
駆動する力が弱くなるため惑星磁場があまり強くならないこと、
伝導率は電気抵抗率の逆数に比例するため、抵抗の飽和の
またホットスポットによる火山が形成されないこと等が予想され
効果を考慮すると熱伝導率は従来の見積りの数倍の値になり
ます。今後地球のモデルとの比較を進めていくことで、
スーパー
ます。またわれわれの見積りは最近行われた理論計算の結
アースのみならず地球のハビタブル性のより深い理解に繋がる
果とよい一致を示します。このようなコアの大きな熱伝導率は、
と期待されます。本成果は、2013 年 12 月に Astrophysical
Journal Letters に掲載されました。
流れ場の反転の数値シミュレーションによる再現
磁場が存在する場合に液体金属の対流がどのような振る
舞いをするかということは地球の外核の理解に重要です。水
平磁場の影響下での液体金属の対流では、対流ロールの流
れの方向が不規則な時間間隔で反転することが室内実験に
より発見されました。更にここでは数値シミュレーションにより、
その現象を再現することに成功し、反転の詳細な過程を調べ
ることができました。
図 3 では奥行き方向に水平磁場をかけており、その方向に
ロール軸をもつ対流構造が卓越しています。ほとんどの期間
図 1. 宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリングラボユニットで取り組んでいる研
究課題
41
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
は 5 ロールで、間欠的に図に示すような 4 ロールの構造となり、
ロール軸が歪んで 1 つおいた隣のロールとの再結合を起こし
磁気リコネクションの精密シミュレーション
太陽フレアは太陽表面に蓄積された磁気エネルギーが突発
ます。その後再び 5 ロールの構造が発達する過程で前とは
的に解放される太陽系最大の爆発現象のひとつで、地球環
反転した方向の流れを持つ状態となります。これはロール構
境や衛星・通信システムなどの社会インフラにも大きな影響を
造に対する skewed-varicose instability の繰り返しととらえ
与える場合があります。そのエネルギー解放は磁気リコネクショ
ることができ、磁場や回転など流れの方向性を規定する要因
ンと呼ばれる磁力線の繋ぎ替えによって起きると考えられてい
が存在する場合の対流パターンに普遍的に見られる性質と考
ます。磁気リコネクションは太陽のみならず様々なプラズマ中
えられます。
で起きることが知られており、地球のオーロラ爆発に関係した
磁気圏におけるエネルギー解放にも強く関係していると考えら
れています。しかし、その詳細なダイナミクスと構造は未だに
良く理解されていません。
我々は電磁流体力学モデル及びプラズマ運動論モデルそ
れぞれについて、これまでに無い高精度のシミュレーションを
実現し高温プラズマ中の高速磁気リコネクションの原因につ
いて探りました。その結果、磁気レイノルズ数が十分に高い
高温プラズマにおける磁気リコネクションは強い非線形性の影
響によって局所領域で高速に進行することを明らかにしました。
これは高温のプラズマでは小スケールのリコネクションが全体
に広がり段階的に進行すると考えてきた従来の描像とは全く異
図 3. 磁気対流シミュレーションの対流構造
なる結果であり、太陽地球プラズマの新しい発見です。さらに、
従来に無い高精度の運動論シミュレーションを可能にする新し
い計算アルゴリズムを開発し、図 4 のように非熱的な粒子の
加速を伴う磁気リコネクションの高精度計算を可能にしました。
微小試料測定による過去の地球磁場の復元
過去の地球磁場の情報は地球内部の冷却モデルの制約や
磁気圏変動の推定に役立ちますが、今から 25 億年以上前
の磁気記録を保存している岩石はほとんど見つかっていません
でした。我々は、34 億年前の花崗岩の顕微鏡観察と磁気測
定を行い、長石鉱物の中に特殊なナノサイズ磁鉄鉱が存在し、
極めて安定な磁気記録を持つことを発見しました。花崗岩は
図 4. 磁気リコネクションの高精度運動論シミュレーションの結果。(a)イオンの X
方向速度 (b) 電子の X 方向速度 (c) 面に垂直な磁場強度 (d)イオン密度。線は
現存する 25 億年以上前の岩石の過半数を占めるため、この
磁力線。
ような鉱物微小試料の選択的測定により、最古の地球磁場の
復元が可能になると期待されます。
42
各部署の概要および主な成果
アプリケーションラボ
(APL)
組織概要と未来に向けて
に、水平解像度 5m の The Multi-Scale Simulator for the
Geoenvironment(MSSG:
メッセージと呼ぶ)を使用したシミュ
アプリケーションラボは、海洋研究開発機構が培ってきた海
レーション結果です。みなとみらい 21(MM21)地域は、横
洋地球科学の基礎研究をふまえて、研究と社会ニーズの相
浜市が将来計画の策定を推進しており、低エネルギーの理想
互啓発により、科学イノベーションを実現し、ひいては持続可
的な都市づくりを目指している地区です。この都市設計と施策
能な社会の形成に貢献することをめざしています。2009 年度
について、横浜市や横浜国立大学とともに検討し、施策の効
にバーチャルな組織として発足しましたが、2012 年度には先
果を最大限に活かすための共同研究を行っています。現実
端情報システム創成理工学プログラム、予測応用理工学プロ
社会の要請に応えるためのシミュレーションと実現可能な施策
グラム、深海応用理工学プログラムの三プログラムとして経常
の効果を定量的に評価するための解析、および施策への新
予算措置がなされ、実質部分を備えた組織として発展しました。
しい提案を行っています。
まだ発足して間もない若い組織ですが、東日本大震災とそ
れへの対応でも痛切に感じたように、海洋地球科学は、社
会と共に発展してゆくことがますます重要になっている折から、
その意義はますます深まっていると感じています。未来予測に
関して言えば、実際の社会に活用される予測でなければなら
ず、海洋地球資源の開発や利用に関しては生物圏も含めた
地球環境の持続的な保全に配慮し、人間社会のより良き営み
に貢献するものでなければなりません。幸い、国際科学会議
(ICSU)や国際社会科学協議会(ISSC)などの学術国際
組織の主導の下で、地球環境劣化の流れをくい止めて、人
と地球のより良き共生をめざす分野横断型の新学術の創成を
図 1. MM21 の将来都市計画へ MSSGにより得られたシミュレーションを活用す
る事例。シミュレーション結果をEXTRAWINGを使用して 3 次元的に可視化し、
めざす「未来の地球(Future Earth)」という大きな計画が
色の分布は気温分布を表す。
始まろうとしています。アプリケーションラボはこうした世界の潮
流を先取りする形で導入されました。以下に 2013 年度に行
予測応用理工学プログラム
われた 3 プログラムの活動をご報告します。
今年度は気候変動予測研究のニューフェースの研究をはじ
めとして世界をリードする多くの研究成果が得られました。以
先端情報システム創成理工学プログラム
下に順を追ってご紹介します。
本プログラムでは大気、海洋に関係するシミュレーションや
観測から得られる社会的要請の高い情報について、実際に
1. 亜熱帯域の気候変動現象が予測可能であることを示
社会でシミュレーション成果を活用する方々との協働を通して、
しました
使える成果をわかりやすく発信する手法を開発し、情報発信・
熱帯域に比べると亜熱帯域の気候変動予測は難しいこ
知識共有が一体となった情報システムのプロトタイプを構築す
とが知られています。本プログラムの袁ポスドク研究員らは、
ることをめざしています。数値データの新しい表現と情報発信
SINTEX-F 季節変動予測システム(注 1)の結果を解析
のためにこれまで開発してきたソフトウェアEXTRAWINGをさ
し、インド洋亜熱帯ダイポールモード現象と南大西洋亜熱帯
らに多くの研究者へ紹介し、ソフトウェアの能力を拡張し、新
ダイポールモード現象に予測可能性があることを世界で初め
しい可視化技術の研究開発を合わせて推進しています。
て示しました(Yuan et al. 2013a, Climate Dynamics)。更
EXTRAWING では、シミュレーションデータや観測デー
に、アフリカ南部の 12-2 月の降水量変動を 10 月初旬から
タを 3 次元的に可視化し、仮想的な地球儀上でリアルに再
予測できることも示しました(Yuan et al. 2013b, Climate
現する手法をすでに確立しています。複数のデータや異種
Dynamics)。これらの研究により、亜熱帯域の気候予測研
データを重ね合わせながら、上下左右から起こっている現
究について新たな扉が開かれたと言えます。
象の内部にまで入り込み、3 次元のあらゆる視点から、シ
注 1:SINTEX-F1 季節予測システム:日欧協力によって開
ミュレーション結果を自由自在に観ることができます。図 1 は
発された大気海洋結合大循環モデル SINTEX-F1 を基にし
EXTRAWING を使用して、みなとみらい 21 地区を対象
た全球規模のリアルタイム - アンサンブル季節予測システムで、
43
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
3. 南極のオゾン減少とアフリカ南部の気温上昇との関
季節の異常性を予測するために JAMSTEC で開発されまし
係を解明しました
た。JAMSTEC が有するスーパーコンピュータ・地球シミュレー
JAMSTECと東京大学、ビンドゥラ大学(ジンバブエ)マ
タを使って計算しています。毎月リアルタイム季節予測の結果
ナツサ研究員の共同研究チームは、南極上空のオゾンの減
を JAMSTEC のウェブサイトから配信しています。
URL:http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/
少がアフリカ南部でアンゴラ低気圧を強化させた結果、この
iod/seasonal/outlook.html
地域の夏季の気温を上昇させていることを世界で初めて明ら
かにしました(Manatsa et al. 2013, Nature Geoscience)。
2. 新しい地域気候変動現象ニンガルー • ニーニョが予
測可能であることを示しました
4. 気候変動予測情報により世界の主要作物の豊凶予
2011 年南半球の夏、オーストラリア西岸域の海水が過去
測が可能であることを示しました
に先例の無いほど異常に暖まりました。2011 年 2 月には海表
面水温が平年よりも3℃近く暖まることを記録しました(図 2)。
これは過去 30 年で起きた年々変動の平均的な振幅の約 4
本プログラムと農業環境技術研究所の共同研究チームに
よって、全球レベルでの定量的な豊凶予測が世界で初め
て可能となりました(Iizumi et al 2013, Nature Climate
倍です。この異常な現象により、オーストラリア西岸の海洋生
Change)。
態系が甚大な被害を被りました。この現象は、当該地域社会
に密接に関連した新しい気候変動現象と認識され、大陸西
5. APL国際シンポジウムを開催しました
岸域で 12 月~ 2 月頃にかけて海水温が異常上昇するという
ことがエル・ニーニョ現象と類似していることから、オーストラリ
エルニーニョモドキ現象やニンガルー・ニーニョ現象など、
ア連邦科学産業研究機構のミン・フェン博士、山形俊男アプ
近年発見された新しい気候変動現象に関する最先端の研究
リケーションラボ所長、スワディヒン・ベヘラプログラムディレク
成果を、第一線で活躍する研究者間で議論するため、国際
ターらが、
この地域の地名 Ningaloo(アボリジニの言葉で「海
シンポジウム“New Faces of Climate Variability( 気候変動
に突き出した岬」の意)にちなんで、ニンガルー・ニーニョと
現象のニューフェース )”を横浜研究所三好記念講堂で 2013
名づけました。
年 10 月 30、31 日に開催しました。国内はもとより、米、英、仏、
伊、豪、韓、印、ジンバブエ、モザンビーク等から多くの研
本プログラムの土井研究員らは、SINTEX-F 季節変動予
究者が参集し、最近の研究成果の発表に基づいて、今後の
測システム(注 1)の結果を解析し、ニンガルー・ニーニョ
研究方向について活発な議論を行いました。
の発生が半年前から予測可能であることを明らかにしました
(Doi et al. 2013, Scientific Reports)。この成功を契機に、
アプリケーションラボではニンガルー・ニーニョに代表されるよう
深海応用理工学プログラム
な地域気候変動現象とそれに伴う自然災害の早期警戒シス
深海応用理工学プログラムでは、昨年度よりスタート
テムを構築し、季節予測情報が地域社会の活動に具体的に
させた「深海底表層地盤の研究会」の活動を推進し、今
貢献できるように展開していきます。
年度は、3 回のワークショップを開催しました(写真 1)
。
写真 1. 第 3 回「深海底表層地盤の研究会」ワークショップ(那須高原)
この研究会の目的は、日本の 20 年先を見据え、海底資源
や物質貯蔵など近い将来深海底を積極的に利用するため
図 2. 観測された 2011 年 2 月の海表面水温偏差(℃)。1983-2006 年の
平均値からの差。米国海洋大気局 NOAAによる OISSTv2 観測データを使用。
に必要な深海底地盤に関する知識と技術を構築すること
オーストラリア西岸ニンガルー沖で海水温が異常に暖まっている。(描画ソフトは
です。そのために、機構内外の産官学多岐に渡る研究者か
JAMSTEC 地球シミュレータセンター で開発された VDVGEを使用)。
44
各部署の概要および主な成果
ら構成されるだけでなく、20 年先の主役となる世代の大学院
実際の計算では枕木 1 本と約 5 万個の砂利で 1 ユニットと
生にも発足当初より各大学の先生方と伴に参加してもらいなが
して 1 つの GPU に割り当てて、シミュレーションに必要とする
ら英才教育を進めております。今年度 3 回目のワークショップ
枕木の本数分だけ GPU を連成させる並列化を行います。そ
では、研究会メンバーでもある五洋建設技術研究所の方々の
こで、プリプロセッサでは、計算時間を大幅に節約するために
ご厚意で、那須塩原の同研究所と同社保養施設で合宿形式
1 ユニットの軌道方向境界を周期境界として不規則形状のバラ
にて開催し、深夜までの活発な議論と実験施設の見学などを
ストの自動発生と振動圧密計算を行えるようにしました(図 4)
。
行いました。また、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物
資源機構の鈴木氏をゲストにお招きし、メタンハイドレート開発
にまつわる最新の研究現場の話題提供を頂きました。
図 3. 単位バラスト軌道断面(周期境界)
図 4.複数の GPU並列によるバラスト振動シミュレーション
また、当プログラムでは、今年度より外部研究機関や民
間産業と5 つの共同研究を新たにスタートさせました。さらに、
深海応用理工学プログラムでこれまでに開発されてきた粒子
モデルに基づく高度な計算技術は、今年度も数多くの産業
界での有償利用され、合計 600 万円の知的財産収入を得て、
同ソフトウエア及びアルゴリズムによる知的財産収入の累積は
1 億円を突破しました。この数字は、昨今の独法改革の中で、
「海洋研究開発機構が非税金的な運営費を自助努力によっ
て獲得してゆく」という流れを先取りするものであり、
アプリケー
ションラボとしての役割を十二分に果たしている証にもなります。
以下にこれらの活動の一部を紹介させて頂きます。
財団法人鉄道総合技術研究所と共同で進めている「バラ
スト集合体解析の大規模化及び高精度化に関する研究」に
おいては、QDEM で動的に変形しながら沈下するシミュレー
ションを行うために、全てのバラストと枕木を実際の軌道断面
スケールで忠実にモデル化するためのプリプロセッサを開発し
ました(図 3)。
45
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
むつ研究所
(MIO)
概要
二酸化炭素分圧は S1 では大気の分圧変化に伴って上昇し
ています。この変化は西部太平洋の亜熱帯域でこれまで観
むつ研究所(MIO)は、原子力動力実験船「むつ」の
測されている傾向と類似しています。亜寒帯域の K2 では S1
船体を利用して建造された世界最大級の地球海洋研究船
に比べ上昇の速度が小さく、大気の分圧に近づく傾向を示し
「みらい」を支援するための地方事務所として開設され、施
ています(図1)
。pH は K2 の方が S1 に比べ程度は小さい
設が整った後に北太平洋の物質循環研究を実施する研究所
という差はありますが、両観測点ともに経年的に減少しています。
となりました。今日のむつ研究所の業務は地球海洋研究船「み
表層の二酸化炭素分圧や pH の経年変化は、炭酸カルシ
らい」支援、北太平洋を対象とした北太平洋時系列観測研
究、そして、海洋科学の普及活動の3つに大きく分けられます。
研究所の業務の第一は世界最先端の研究を担う「みらい」
母港として入出港に関する種々の調整、海洋観測に用いる
ウムの飽和深度にも影響を与えています。K2 における方解
石の飽和深度は毎年 3m ずつ浅くなっており、霰石と同様に
表層混合層付近を除くとすべての深度で未飽和になる可能
性があります。しかし、K2 の飽和深度の浅くなり方を S1と比
大型機器の整備、「みらい」で採取された試料の処理・分
べると小さい状況です。
析の支援等です。これらの業務を行うためにむつ研究交流
棟、観測機材整備場、試料分析棟が配置されています。また、
それらには、トライトンブイを整備するための種々の施設、観
なお、これらの成果は地球環境変動領域物質循環プログラ
ム海洋物質循環研究チームとの共同研究により得たものです。
測機器の浮力調整を行う高圧装置、化学物質を扱うための
クリーンルーム等の各種実験室、ICP-MS、放射性炭素測定
の前処理装置等の分析機器が備えられています。
北太平洋時系列観測研究は北太平洋を対象とした海洋環
境がどのような変動をし、経年的に変化しているかを物質循
環の立場から捉えることを目的にしています。今日の人類活動
による環境負荷が北太平洋域にどのような変化として現れるか
を観測の積み重ねから捉えようとする研究です。特に海水中
の二酸化炭素濃度の経年変化を捉え、生物を介して鉛直的
に輸送される炭素についての知見を得ることが中心となります。
また、研究対象海域を外洋域から環境変化の影響を強く受
ける沿岸域へ広げることを意図し、津軽海峡東口の観測研究
も試行しています。なお、これらの研究活動を進めるために
北海道大学大学院水産科学研究院、青森県産業技術セン
ターとの連携協定を結んでいます。
海洋科学の普及については、行政、教育機関、地域 FM
局等と連携し、一般海洋科学の知見、機構及び研究所の得
た成果をむつ・下北地域を中心に発信しています。
平成25年度の成果トピックス
北太平洋時系列観測研究
図 1. 西部北太平洋の時系列観測点で得られた炭酸系パラメータの経年変化(「み
「みらい」MR13-04 航海に参加し、時系列データの収集・
蓄積及びセジメントトラップの回収・設置を行いました。
らい」取得データ (Wakita et al., 2013)、気象庁及び SOCATデータベー
スから作成)
(a):S1 の冬季の海洋表層の二酸化炭素分圧(赤)、大気中の二酸化炭素分
圧(緑)、pH(青)の経年変化
時 系 列 観 測 点 K2( 北 緯 47 度、 東 経 160 度、 水 深
(b):K2 の冬季の海洋表層の二酸化炭素分圧(赤)、大気中の二酸化炭素分
5200m)及び S1(北緯 30 度、東経 145 度、水深 5900m)
圧(緑)、pH(青)の経年変化
(c):S1 の霰石(緑)及び方解石の炭酸カルシウム飽和深度(赤)、中層の pH
(青)の経年変化
におけるこれまでの観測から得られたデータを整理し、西部
(d):K2 の霰石(緑)及び方解石の炭酸カルシウム飽和深度(赤)、中層の
北太平洋域の酸性化の状況の解析を行いました。表面水の
pHの経年変化 pH(青)
46
各部署の概要および主な成果
津軽海峡域を対象とした研究(試行)
の指標となるデータの取得が可能な高速フラッシュ励起蛍光
光度計を用いた計測を開始しました。
下北半島周辺域における海生生物分布状況とその変化を
把握する観測のほかに北海道大学大学院水産科学研究院と
そのほかの研究活動
の連携により津軽海峡東口での観測を 2009 年から実施して
1)アマモ類の環境変化応答に関する研究
います。2012、2013 年も継続し、基本的な観測データを取
二酸化炭素分圧と水温を同時に操作可能な実験装置を製
得、蓄積しました。また、関根浜港湾における水温計測も実
作し、沿岸域に棲息する生物の環境変動に対する応答の検
施しています。
津軽海峡での水温・塩分分布の基本的なパター
討を可能としました。
ンは年々大きな変化はありませんが、僅かな年々の違いがあり
北半球に広く分布するアマモと日本海周辺だけに分布する
ます(図2)。観測時期の違いによるところが大きいと思われ
固有種スゲアマモを対象種とした培養実験を行ったところ、ス
ますが、
今後関根浜港湾での水温変動(図3)
との関係等種々
ゲアマモの方がアマモと比較して温度上昇に対する耐性が低
の情報と合わせて検討する予定です。また、表層の生産性
い傾向にあることが見出されました。
2)南極域の二酸化炭素分圧高頻度観測
2011 年度より日本学術振興会科学研究費補助金事業の
支援を受け、むつ研究所で開発された漂流型自動二酸化炭
素分圧計測装置を多数製作し、国立極地研究所、南極観
測船「しらせ」の協力を得て平成 24 年 12 月に南大洋に放流・
展開しました。その後、図4に示す通りの軌跡を描き、表面
温度と二酸化炭素分圧を順調に取得しつつあります。実験開
始当初の予想と比べて漂流範囲(データ取得範囲)
が広くなっ
ています。これは風の影響を軽減するドローグを用いていない
ためと思われます。
図 2. 津軽海峡東口の温度・塩分分
布図と観測線
上 段 は 温 度 分 布、 下 段 は 塩 分 分
布を示し、 そ れぞ れ左 上から横 方
向へ 2009 年 11 月、2010 年 2 月、
5 月、8 月、11 月、2011 年 2 月、
5 月、7 月、11 月、2012 年 2 月、
6 月、8 月の分布である。
図 4. 放流後の漂流型自動二酸化炭素分圧計測装置の軌跡と得られたデータの
一例(未補正)
図 3. 関根浜港港外で観測された水温の季節・経年変動
47
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
高知コア研究所
(KOCHI)
概要
これまで、日米が主導し、地球深部探査船「ちきゅう」や
欧米の掘削船を用いて実施してきた統合国際深海掘削計画
「コア試料」研究の世界的拠点
が 10 年間の計画期間を満了し、2013 年 10 日 1 日から新た
高知コア研究所(KOCHI)は、統合国際深海掘削計画
に国際深海科学掘削計画 (IODP) へと移行しました。それに
(IODP)のコア保管拠点の一つとしてキュレーション業務を
伴い、KOCHI の IODP 等のコア試料について、新たに米
行うとともに、最先端手法を用いたコア試料分析研究を通し
て、掘削科学研究の中核的研究拠点として活動しています。
また、高知大学所有の施設や質量分析計、非破壊計測装置、
微生物等の分析機器を維持管理し、高知大学海洋コア総合
国 Ocean Leadership,INC.と受託契約を締結し、引き継き、
保管管理・提供業務を実施することとなりました。
KOCHI では、海洋科学技術の普及啓発を目的として、高
知大学海洋コア総合研究センターと共同で施設の 1 日公開
研究センターと共有することで、他に例を見ない効率的な研
(11 月 3 日(祝)
、来訪者 1,204 名)を実施(写真 3)
、ま
究環境を実現しています。
た一般向け講演会(高知コアセンター講演会)の実施や、
KOCHI は、日本近海からインド洋にかけての海域から得ら
れた約 100km にのぼる海洋コアを保管しています(写真 1)。
さらに、微生物分析のためマイナス 80℃以下でコア試料の凍
地元の要請によるイベントへの展示や講演での協力、また学
校への出前授業等を通して、地域の人々に科学に対する関
心を高める機会を提供するとともに、連携大学院やコアスクー
結保管(Deep Biosphere Samples:DeepBIOS)や、X
ルなどを通して将来の掘削科学研究を担う人材育成にも取り
線 CT スキャナーで撮られた 3 次元画像データ(バーチャル
組んでいます。
コアライブラリー)を含めた海洋コアの情報を管理し、Web
サイトで公開するなど、貴重なサンプルが今後の地球環境・
資源・災害等の研究者にフルに活用されることを目指してい
11 月 6 日(水)~ 17 日(日)
には、高知市の高知市立自由
民権記念館にて、「~宇宙と地球の謎にせまる~小惑星探
査機「はやぶさ」×地球深部探査船「ちきゅう」特別展示」
ます。さらに、2013 年 12 月 9 ~ 13 日に米国にて開催された
を実施しました(来場者 1,604 名)。
AGU(アメリカ地球物理学連合)秋季大会において、ブー
ス展示を実施、海外におけるコア試料の利用促進を図りました。
また、2012 年度補正予算により、高知コア研究所に保管
また、高知大学・高知県教育委員会が実施する高知 CST
(コア・サイエンス・ティーチャー)養成拠点構築事業に参加、
されている貴重な掘削コア試料を、南海地震がもたらす津波
11 月 9 日(土)KOCHI で 6 名の参加者をもって開講し、
「四
による浸水から守るための防水対策が施されました(写真 2)。
国の地質と海洋コア(地質柱状試料)の科学」の講義と実
習が行われました。
写真 1. IODP 第 346 次研究航海「日本海・東シナ海掘削による急激なアジアモ
ンスーン変動の発展とヒマラヤ・チベット隆起の関係解明」のコア試料の搬入風景
(10 月16 日)。10,816セクションのコア試料が搬入され、高知コア研究所の
現有保管庫スペースが一杯となった。
写真 3. 高知コアセンター 1 日公開
写真 2. パッキングされたコア試料(右)とパッキング作業
48
各部署の概要および主な成果
平成25年度の成果トピックス
1. IODP 第 343 次研究航海「東北地方太平洋沖地
震調査掘削(JFAST)」の研究成果
東北地方太平洋沖地震で大津波の原因となった、浅部断
層の 50m に及ぶ大きなすべりはなぜ生じたのか、そしてそれ
はプレート沈み込み帯で一般的なことなのか、といった根本的
な疑問の解決に向け、今回の「ちきゅう」による掘削は大きく
貢献しました。
これまで断層浅部は、「速度強化(断層破壊のすべりが高
速になると強度が増加する)
」が起こる場所なので深部固着
図 1.( 左 )IODP 第 343 次 研 究 航 海 掘 削サイトC0019 の 深 度 680m から
830m 区間の透水係数の深度分布。透水係数が大きいほど流体が流れやすい。
域から伝播してきた地震すべりに対して抵抗すると考えられて
いました。つまり、地震は速度弱化の性質を持つ深部で発生し、
プレート境界断層は 820m付近に位置する。
(右)断層すべりに伴う断層のせん断応力(断層の摩擦抵抗に等しい)の変化。異
なる色の曲線はプレート境界断層の深度の違いによる変化を示す。流体圧の上
浅部に伝搬しますが、浅部でのすべりは小さいと考えられてい
昇により断層のすべり抵抗の低下を招き、深部ほどその影響が顕著に現れている。
ました
(例:スマトラ島沖地震
(2004 年)
、
南海地震
(1946 年)
等)
。
しかし JFAST からもたらされたコア試料や計測データは、
② 東北地方太平洋沖地震震源断層近傍の応力状態
摩擦実験と孔内温度計測という独立の手法により、断層の滑り
が非常に薄く、スメクタイトに富んだ限られた地層内で起こって
昨年度の研究では、掘削孔壁の部分崩壊現象(ブレーク
おり、滑りを生じた断層物質の摩擦係数が低いことを明らかに
アウト)の解析から東北地方太平洋沖地震の震源断層近傍
しました。このことは、これまでの考えを覆す「海溝近くの浅部
の応力状態(力のかかり具合)を測定しました。その結果、
まで大きな破壊が生じたのは、浅部でも破壊速度に応じて摩
地震後の断層近傍は、巨大地震の断層すべりを起こす横の
擦が低下することが原因」という新たな仮説をもたらしました。
押しの力がほぼ完全に解放され、いわゆる“正断層型”の
ただ、東北地方太平洋沖地震の事例で全ての巨大津波
応力状態になっていたことが明らかになりました。一方、地層
の発生原因を解決できたわけでないことにも留意すべきである
の層理や小断層の構造解析に基づき、既存の研究成果を考
ことが指摘されました。
慮しながら、地震前の応力状態を推定したところ、応力状態
は断層を滑らせる横の押しの力が強い“逆断層型”であった
① 断層掘削試料の水理学的解析により明かにされた
ことが分かりました。これらの結果は、東北地方太平洋沖地
東北地方太平洋沖地震の巨大すべりの発生メカニズム
震の時に、日本海溝付近のプレート境界断層の浅い部分が
JFAST で得られた掘削コア試料を用い、圧力を上げて現
応力とエネルギーを大きく解放したことが大きな断層すべりや
場環境を再現した室内水理実験により流体の移動特性を評
津波の巨大化につながったことを示しています。
価しました。その結果、東北地方太平洋沖地震ですべった
今年度は、KOCHI とカリフォルニア大学や京都大学など
プレート境界断層付近では非常に透水性が低い(流体、す
との共同研究により、掘削孔内の温度のモニタリングを行い、
なわち水が流れにくい)ことが明らかになりました(図 1 左)。
東北地方太平洋沖地震の際に発生した摩擦熱の残熱を検出
また、透水性が低い原因は、粘土鉱物の一種であるスメクタ
することに成功しました。このことにより、2011 年にすべった
イトの含有量が非常に多いためであることがわかりました。さ
断層の位置を特定するとともに、地震時の断層面に働いてい
らに、断層流体の挙動を解析した結果、地震断層のすべり
た動的摩擦力が非常に小さかったことを明らかにしました。こ
に伴う摩擦発熱により流体の圧力が増加し、すべり摩擦力が
の成果は、昨年の応力関連の成果に続き、世界トップクラス
大きく低下する(断層のすべり摩擦抵抗の減少:滑りやすくな
の科学雑誌「Science」に掲載されました。動的摩擦力が
る)ことが、プレート境界断層の浅部で大きな滑りが生じるこ
小さいことは、応力がほぼ完全に解放されたという昨年の研
とにつながることを明らかにしました(図 1 右)。
究成果や、上述の低い透水性によるすべり摩擦抵抗の低下
本研究結果は、「流体」が巨大地震の浅部のすべり挙動
を示唆する成果とよく整合しています。
に強く関与することを示したもので、今後南海地震をはじめと
した沈み込み帯における巨大地震および津波発生メカニズム
の解明に役立てられることが期待されます。
49
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
③ 断層掘削試料の間隙水分析により明かにされた東北
の物性だけでなく、断層上盤の堆積層全体の物性であるとい
地方太平洋沖地震の断層帯周辺の流体移動
う仮説もあり、それらの検証に向けて大きな期待が寄せられ
掘削コア試料中に含まれる水(間隙水)を取り出して化学
ています。
分析を行い、化学組成の深さ方向の変化を明らかにしました。
その結果、プレート境界断層の下にある太平洋プレートから
塩素イオンに乏しく硫酸イオンに富んだ水(流体)が供給され
ていること、それを含め少なくとも3 種類の流体が混合して間
隙水を作っていることが分かりました。しかしながら、間隙水
の組成はプレート境界断層をはさんだ上下を通して連続的に
変化しており、断層付近で特に大きな変化は認められません
でした(図2)。このことは、プレート境界断層に沿って特に大
図 3. 掘削地点(Moore 他(2007, SCIENCE)の図をもとに作成)
きな流体の移動はないことを示しています。この結果は、断
層物質の低い透水性を示唆する上述の実験結果や、掘削
3. IODP 第 347 次研究航海「バルト海掘削による
孔内の温度のモニタリングの結果とよく一致しています。
最終間氷期以降の古環境変遷の解明」に参加
IODP の一環として、2013 年 9 月 2 日~ 11 月 1 日の期間、
欧州が提供する特定任務掘削船「Greatship Manisha」を
用い、北ヨーロッパに位置するバルト海の海底を掘削しました。
コア試料の採取・分析を行うことで、今から約 13 万年前の
最終間氷期以降の古環境変遷と地下生命圏に関する研究を
実施しました(写真 4)。本航海では、最終氷河期のバルト
海及びその周辺地域の古気候変遷と海水準変動のほか、氷
期から間氷期へと移り変わる時期の特徴、氷河期の終わり
のメカニズムなどを明らかにすることを目的としています。また、
図 2. コア試料中の間隙水の化学組成の垂直分布。間隙水の化学組成はプレート
最終氷期を経て堆積した地層とそこに存在する地下生命圏と
境界断層を挟んで連続的に変化しており、正や負のピークは認められないことが
の関連性についても解明を目指しています。
分かる。
2. IODP 第 348 次研究航海「南海トラフ地震発生
帯掘削計画」ステージ3に参加
海溝型巨大地震の発生メカニズムの解明に向けて、マグ
ニチュード 8 クラスの地震の断層固着域に到達すべく、
「ちきゅ
う」による IODP 第 348 次研究航海が、2013 年 9 月から
2014 年 1 月まで紀伊半島沖熊野灘で実施されました。
今回の航海は、2012 年度の航海で海底下 3,000m まで掘
削されたライザー孔である C0002 孔をさらに掘進し、海底下
5,000m の巨大分岐断層に向けて海底下約 3,600m までの掘
写真 4.(左上)掘削海域のバルト海(左下)特定任務掘削船「Greatship
削を行い、孔内検層とコア試料等の採取と掘削孔壁を保護
するためのケーシングパイプの設置を目的としています(図 3)。
KOCHI からは、地震断層研究グループ廣瀬丈洋主任研究
Manisha」(右)採取されたコア試料(「Greatship Manisha」船上)
本航海には、科学支援グループ技術主事 1 名が微生物研
究者として乗船し、微生物研究用の試料処理を行うとともに、
員が共同首席研究者として乗船しました。
船上でバルト海の海底下微生物バイオマスについてフローサイ
今回の掘削では巨大分岐断層には到達できませんが、巨
トメーターを用いた調査を行いました。
大地震発生帯の固着の性質を決めるのは断層物質そのもの
50
各部署の概要および主な成果
5. ICP 質 量 分析 法による高 精 度 236U 定 量 法 の
地下生命圏の微生物バイオマスを調べる手法として、従来
確立
は蛍光染色した微生物を顕微鏡下で計数することが一般的
でした。しかし、この手法は複雑なサンプル処理及び顕微鏡
地球温暖化現象が人為的な二酸化炭素の排出によるもの
観察に高度な技術・経験を要するため、限られた数のサンプ
なのか、地球が持つ周期的な気候変動システムの一環であ
ルしか分析できません。本航海において、フローサイトメーター
るのかを検証するには、地球の過去の温度変化の幅や速度
を用いた微生物細胞数の計数と従来の顕微鏡観察法との比
を知る必要があります。サンゴや有孔虫などが作る海生炭酸
較を行ったところ、両手法においてほぼ同様な結果が得られ
カルシウムの酸素同位体比(18O/16O)は、それらが生成し
ました。掘削プラットフォームにおいて、フローサイトメーターを
た当時の温度を記録しており、氷期と間氷期が繰り返し地球
用いてより迅速な微生物計数が可能であることが IODP 史上、
に存在したことが明らかになっています。一方、海生炭酸カ
初めて証明されました。今後は微生物計数だけでなく、バル
ルシウムが生成した年代は、試料中に極微量含まれるウラン
ト海で採取された堆積物中に存在する、氷河期を経験した
の同位体(234U)がトリウムの同位体(230Th)へ壊変した
真核微生物の培養及び真核微生物が持つ機能性遺伝子の
量を測定することで求めることができます。
研究を KOCHI で行う予定です。
同位体地球化学研究グループでは、アジレント
・テクノロジー
株式会社、フランス海洋開発研究所(IFREMER)と共同
で、234U-230Th 年代測定法を用いたサンゴなどの海生炭酸
4. IODP 第 337 次研究航海「下北八戸沖石炭層生
カルシウムの年代測定に関する技術開発研究を行いました。
命圏掘削調査」による地球深部生命研究
四重極電場を直列に配置した新世代の ICP 質量分析装置
2012 年 7 月から 9 月にかけて青 森 県 八 戸 市の沖 合 約
Agilent 8800(図 4)を用い、イオンの収束能力を高めるとと
80km の掘削地点 C0020 にて行われた IODP 第 337 次研
もに、天然に最も多く存在するウランの同位体である 238U の
究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削調査」では、
「ちきゅ
強いイオンビームが年代測定に必要な 236U の微小な信号に
う」のライザー掘削システムを用いて、科学海洋掘削史上世
与える影響を排除することに成功しました。また、測定時にウ
界最高掘削深度となる海底下 2,466 メートルまでの掘削コア
ランを酸素と反応させてウラン酸化物イオン(UO +)として検
試料の採取に成功しました。本航海で得られた試料は、北
出することで、従来の ICP 質量分析法で問題であったウラン
海道南部から東北地方太平洋側一帯に広がる海底石炭層を
水素化物イオンからの影響を著しく抑制することに成功しまし
根源とした炭化水素資源胚胎環境を理解する上で重要であ
た(図 5)。これらにより、他の質量分析法に比べても飛躍
るばかりでなく、海底下深部堆積物環境における炭素循環と
的に迅速かつ容易な 236U の高精度定量技術が実現し、そ
生命活動との関わりや、地球深部生命の量・多様性・代謝
れを用いた 234U-230Th 年代測定への道が拓かれました。
活性の実態を解明する上で極めて重要な試料です。当該調
本研究の測定手法を用いることにより、過去の氷期から間
査を主導する地下生命圏研究グループでは、生命圏の限界
氷期への温暖化移行時の地球における、さまざまな緯度や海
に迫る地球内部の極限的な地質環境に生息する微小な生命
域における温度分布や温度の変化速度を系統的に調査・評
シグナルを、外部汚染を防止・評価しつつ、正確かつ超高
価できるなど、古気候変動のより詳細な解明に役立つことが
感度の同位体地球化学・分子生物学融合分析により評価す
期待されます。同グループでは、本手法で用いた質量分析
る最先端の手法開発を進めています。また、本航海によって
装置の高感度化・高精度化をさらに進め、さらに微少試料量
採取されたコア試料を用いて、産業技術総合研究所や京都
での年代測定手法を確立していきます。
大学、ドイツ・ブレーメン大学やカリフォルニア工科大学などの、
国内外の研究機関との共同研究が進行中です。さらに、地
下生命圏研究グループでは、高知大学海洋コア総合研究セ
ンターおよび米国 J. Craig Venter Instituteとの間に共同研
究協定を締結し、同掘削調査により得られた試料を用いた地
質環境と生命環境の共進化プロセスに関する研究や、環境
ゲノム分析による海底下深部微生物群種の遺伝学的多様性
や代謝機能に関する研究を行っています。
51
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
ステム(FIB)
、透過型電子顕微鏡(TEM)や、生体高分
子質量顕微鏡などの最先端の分析機器を導入しました。最
先端研究基盤事業で導入した超高空間分解能二次イオン質
量分析装置(NanoSIMS)などと併せ、世界最高クラスの
超高感度・高精度微小空間分析機能を有する研究所となりま
した(図 6)。
今後は、「ちきゅう」などで得られた掘削コア試料をはじめ
とする微小かつ貴重な試料に適用し、生物学的、地震学的、
岩石学的研究それぞれに応用できる汎用的な微小領域の高
精度同位体・微量元素分析技術の確立を目指していきます。
図 4. Agilent8800 の外観及び質量分析装置部分の拡大図と各部位の説明
(Agilent 社 Webサイトより転載)
図 6. 微小領域分析(高分解能表面分析)の概要。“高知コア研究所”ならではの
極小量・極微小領域の高精度同位体・微量元素分析技術の確立を目指す。
図 5. 天然の U 同位体存在度と、実際にAgilent8800 で得られたウラン同位体
の質量スペクトル、及び従来スペクトルの比較
6.高知コア研究所の研究環境の整備
① コア試料の地質学的性質の分析能力強化
プレート沈み込み帯(海溝付近等)は、地殻変動が活発
な場所の 1 つであり、世界中の地質学者の研究対象となって
います。昨今の研究の進展により、地層中の水の挙動の重
要性が提唱されています。そこで、KOCHI に、断層面微細
構造解析システム、K0 圧密実験装置、断層帯内浸透・拡
散測定システム、水熱実験装置を導入し、物質の内部構造
を微細に分析、解析することを可能とする設備整備を行いま
した。これにより、より正確な地殻変動の挙動の把握が可能
となり、地震断層研究の加速に大きく貢献することが期待され
ます。
② 超高感度・高精度微小空間分析機能の強化
地球深部試料の微小空間を構成する無機鉱物、有機物、
水、生命物質等の正確な元素・同位体組成、分子生物学
的分析を行うため、高精度大型 2 重収束セクター磁場質量
分析計(IMS-1280HR)
、収束イオンビーム極微試料加工シ
52
各部署の概要および主な成果
海洋工学センター(MARITEC)
概要
海洋工学センターは、海洋の探査・観測に関する先進的
技術開発、船 舶・海中探査機・観測機器の運用・管理・
大深度高機能無人探査機 技術については、2012 年度
に完成した海底資源探査を行うための大深度無人探査機
(ROV)による、建造後初の実海域試験を実施しました。
水深約 5,450m でビークル本体の運動性能や大出力マニ
機能向上などの研究支援及び船舶の建造に関する活動並
ピュレータによる作業を実施し、その健全性を確認しまし
びに技術研修を行っています。
た。特に本 ROV の特徴の一つである運動制御に関する自
本年度は、
海洋調査研究船としては 1997 年に完成した「か
動高度保持、自動方位保持、自動トリム保持、自動ロール
いれい」以来となる先端的機能とシステムを備えた東北海
保持、自動定点保持機能を用いた半自動航走試験を実施
洋生態系調査研究船「新青丸」を建造しました。また、海
しました。さらに、決められた測線に沿って自動的に航走
洋資源試料採取や海底下地殻構造探査のためのシステム等
することを目的としたオートクルーズ機能に関する試験及び
の複合的な機能を有する大型の「海底広域研究船」の建造
緊急時バラスト投下の試験を実施し確実に動作することを
契約が締結され、2015 年度末の完成を目指して建造を開
確認しました。
始しました。
昨年度完成した海底資源探査用の遠隔操作型無人探査
機(ROV)は、12 月に命名・披露式を行いました。本年度
は 3 回の実海域試験を実施し、その優れた性能を確認しま
した。また、3 機の新型自律型無人探査機(AU V)は実
運用を見据えた実海域試験を繰り返し行いました。
その他の先進的技術開発についても、基本的な研究開
発と実海域での試験等を行い、様々なシステムの開発を目
指した取り組みを行いました。
1 月初めから 11 月末までの約 10 カ月に亘って、深海潜
水船支援母船「よこすか」と有人潜水調査 船「しんかい
6500」が世界一周航海「QUELLE(クヴェレ)2013」を行
い、世界の各海域で貴重な研究成果を獲得することができ
図1. 海底資源探査用重作業型 ROV
「かいこう Mk- Ⅳ」
ました。また、東北地方太平洋沖地震の解明のために日本
来年度は、最大稼働深度である 7,000m 海域での性能
海溝の水深約 7,000m の海底下に地球深部探査船「ちきゅ
確認試験及びオペレーターの慣熟訓練を実施する予定です。
う」によって設置された長さ 820m の温度計を、深海調査
本 ROV は以下の特長を有しています。
研究船「かいれい」と無人探査機「かいこう 7000 Ⅱ」が 4
・大推進力油圧スラスター(推力約 600kg)及び大出力マ
月に無事回収しました。その他、深海巡航探査機「うらし
ニピュレータ(フルリーチでの最大把持荷重 250kg)を
ま」、無人探査機「ハイパードルフィン」などが海底資源調
搭載しており重作業が可能
査航海を行うなど、研究船と深海調査システム等の運用に
・高画質 HDTVカメラ、広角魚眼TVカメラ、高画質スチ
ついても大きな成果を上げることができました。
ルカメラ等の映像機器搭載による調査能力向上
以下、詳細について報告します。
・海洋工学センターが開発した高精度小型慣性航法装置
による測位精度の向上
・自動制御モード(高度/深度保持、方位保持、トリム保
技術開発
持、定点保持、オートクルーズ)による操縦性・作業性
海洋工学センターが開発した次世代型巡航探査機技術
の向上
及び大深度高機能無人探査機技術を活かし、地球科学調
・通信 /制御ポートや油圧供給ポートを装備し、目的に応
査や海底資源探査を広域かつ高精度に行える AU V 及び
じて各種の調査・観測機器の搭載が可能
ROV の技術の高度化、及び実機への展開を進めています。
また、将来を見据えた先端的海洋技術の研究開発も行っ
本 ROV は一般公募により「かいこう Mk- Ⅳ」と命名され
ています。
ました(図1~3)。なお、旧システムから継続使用のラン
53
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
チャーと新ビークル(「かいこう Mk-Ⅳ」)を含めたシステム
全体を「かいこう」と称しています。
図 4.「ゆめいるか」の揚収シーン
(左)と、ピッチ一定制御の説明(右上)、実際
のピッチデータ
(右下)
「おとひめ」は高度を約 7mに保
ち、100mに渡り平坦な海底面
を可視化。
図 2.「かいこう Mk- Ⅳ」実海域試験
図 5.「おとひめ」とスキャニングレーザー。スキャニングレーザーによる海底
下イメージ
(左)と、サンゴ礁の 3-D イメージ
(右上)
作業型の「おとひめ」は、2013 年 1 月に、新規開発の
海中 3-D スキャニングレーザーを搭載し、海底面の可視化
図 3. 大出力マニピュレータの作動試験
に成功し(図5)
、
10 月には超高速インターネット衛星「きずな」
を利用した、リアルタイム遠隔操縦とマニピュレータ作業に
成功しました。
資源探査・地球観測用の 3 機の AUV は、それぞれ実
海域試験を繰り返し、実運用に向けた準備を進めています。
ブイに代わる観測手段として、仮想係留機能を有する水
巡航型の「じんべい」は 2012 年 8 月に上越沖のメタンハイ
中観測フロートの開発を促進しました。本年度は新たに小
ドレート試験観測を行った後、実海域での運用モードに即し
型浮力エンジンを開発し、機体に実装して実海域試験を行
たテストを重ねています。同じく巡航型の「ゆめいるか」は、
い、基本的な性能を確認しました。
観測装置にインターフェロメトリーソーナーと合成開口ソーナー
JA MSTEC の音響通信技術と強流域での係留観測ブイ
を搭載するなど、AUV では世界で初めての機能を多く備え
技術を応用した津波監視ブイを開発中であり、1 月に紀伊
ています。また、機体の前後の X 翼で高い機動性を十分に
半島沖で 2 回目の試験設置を実施しました。このブイには
発揮できるように、システムの調整を行い、機体ピッチを一定
JAXA と東北大学の技術による地殻変動計測システムも搭
に保ちながら深度を変更する制御に成功しました(図4)。
載されており、今後の防災システムとして期待されています。
54
各部署の概要および主な成果
研究船の建造
東北地方太平洋沖地震の影響で激変した海洋環境を調
査し、東北沖の漁場復興に貢献するために建造を進めてい
た東北海洋生態系調査研究船「新青丸」は、2013 年 2 月
15 日の命名進水式の後、艤装工事、岸壁試験、海上試運
転を行い、6 月 30 日に機構に引き渡されました(図6)。7 月
から 9 月まで搭載観測機器の海上試験、10 月から 11 月ま
で慣熟訓練を行った後、12 月 8 日より、本格的な調査研
図 7.「海底広域研究船」完成予想図
究航海を開始しました。
本船は、海洋環境の総合的な研究を可能とするため、計
量魚群探知機やマルチビーム音響測深機、音響測位装置、
研究船、深海調査システム等の運用
C TD 採水装置、重力計、磁力計、大気・気象観測装置な
「新青丸」と学術研究船「白鳳丸」は、研究船共同利
どの観測機器や、多くのクレーン、ウインチ類を装備してい
用運営委員会(事務局;東京大学大気海洋研究所)が策定
ます。また、陸上との常時アクセスが可能な衛星通信シス
する運航計画に基づき運用を行いました。
テム、船内すべての場所からアクセス可能な無線 LA N を
「新青丸」と「白鳳丸」以外の研究船と深海調査システ
備え、研究者の利便を図っています。さらに、これらの装
ムは、主に外部委員で構成される海洋研究推進委員会が
備を効果的に運用するため、アジマス推進器と自動定点保
採択した公募利用研究課題と機構が自ら実施する研究課
持装置を採用して、操縦性を向上した最新鋭の研究船です。
題を基に策定した運航計画に基づき、運用を行いました。
10 月に船籍港である岩手県大槌港及び東京港晴海でのお
研究船の運用については、調査や乗船に関する研究者と
披露目と一般公開を行いました。
の調整だけではなく、調査に際して必要な漁業関係者等と
の調整や他国の排他的経済水域内での調査許可取得のた
めの国内外の調整等も行いました。なお、本年度は、横須
賀本部専用岸壁の増深工事に伴い、近隣地区の岸壁を借
用し運用を行いました。
各研究船の今年度の主な特記事項としては、以下のとお
りです。
海洋調査 船「なつしま」及び「ハイパードルフィン」が
2010 年 7 月にマリアナ諸島パガン島周辺の海底で採取した
枕状溶岩が、沈み込み帯のマントル上部において生成され
た初生マグマそのものであり、世界で初めての発見であると
図 6. 東北海洋生態系調査研究船
「新青丸」
の研究結果が発表されました。
また、「海底広域研究船」の建造に関する企画提案公募
海洋調査船「かいよう」は昨年度に引き続き、南海地震
を行い、2013 年 9 月 27 日に建造契約を締結しました。3次
震源域での「地震・津波観測監視システム(DON E T-2)」
元地震波探査装置による海底下構造の広域調査、海底設
構築のための事前調査や、AUV「じんべい」、
「ゆめいるか」、
置型掘削装置による海底サンプリング調査、ROV 及び AUV
「おとひめ」の実運用に向けた試験を行いました。また、11
等海中ロボットの複数運用や音響機器による海底の精密調査
月には、東京下町の中小企業連合体が市販を目標に製作し
等を通じて、海底地震発生メカニズムの解明や海底資源調
た 8,000m 級深海シャトルビークル「江戸っ子 1 号」の試験
査研究など、我が国周辺海域の広域科学調査を加速するた
を房総沖水深 7,800m で実施し、3D 海底ビデオ映像の撮
めに、
2015 年度末の完成に向けて建造を進めています(図7)。
影に成功しました(図8)。
55
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
から覆す極めて重要な結果を導きだし、その研究成果は米
国「Science」誌に掲載されました。「かいれい」は三陸沖、
南西諸島周辺でマルチチャンネル反射法探査(MCS)シス
テムによる地震探査を行い、本年度の総測線長は 3,516km
に達しました。また、2012 年に南鳥島周辺で発見された高
濃度のレアアースを含有したレアアース泥及び有望な資源で
あるマンガンノジュールの分布に関する資源調査も行いました。
図 8. 海中に投入される
「江戸っ子1号」と海底ビデオ映像
さらに、新型無人探査機「かいこうMk-Ⅳ」の実海域試験
も実施しました。
「よこすか」 及び「しんかい 6500」は、世界一周航海
「Q U E L L E2013」で、インド洋、大西洋ブラジル沖、カリ
ブ海中部ケイマンライズ、マリアナ諸島周辺海域、南太平洋
トンガ海溝等で潜航調査を行いました。ブラジル沖では陸か
ら遠く離れた海底で陸域起源の花崗岩を発見しました。ま
た、中部ケイマンライズでは世界で初めて有人潜水船の潜
航をインターネットで広く一般向けにライブ中継を行い、その
視聴者が 35 万人を超えました(図 9)。同中継では、水深
約 5,000m の海底で調査中の「しんかい 6500」と海上の「よ
こすか」を細径光ファイバーケーブルで繋ぎ相互通信を行い
ました。中継途中でケーブルは切断しましたが、細径光ファ
イバーケーブルを大深度で長時間活用出来たことは、有人
潜水船ならではの操船の成果です。
図10.「かいこう7000Ⅱ」の掘削孔からの温度計回収
海洋地球研究船「みらい」は、昨年度に引き続き、北極
海での観測を行い、広域観測、係留系観測の他、これま
で実施しなかった定点観測を行いました。また、沖縄トラ
フの海底熱水鉱床及び南鳥島周辺のレアアース泥等の分布
に関する資源調査を行いました。
図 9.「しんかい 6500」の潜航時ライブ中継
「かいれい」 及び「かいこう 7000 Ⅱ」 は、東 北 地 方
太 平 洋 沖 地 震で海 底 地 形が最も変 動した日本 海 溝の水
深 6,897m の掘削孔に地球深部探査船「ちきゅう」により
設置された全長 820m の長期孔内温度計を、9 ヶ月後の 4
月に掘削孔から回収することに成功しました(図 10)。母
船、ROV の熟練した運用技術の成果です。「ちきゅう」の
図11. 2013 年度研究調査船航行軌跡
地質試料等と共に東北地方太平洋沖地震の際に海溝軸付
近の浅部プレート境界断層が地震性滑りを起こしていたこと
各船の 2013 年度における航海日数は、
「白鳳丸」が 248
を科学的に実証し、これまで常識とされてきた「プレート境
日、
「新青丸」が 161 日、
「なつしま」が 268 日、
「かいよう」
界断層浅部では地震性滑りは起きない」という考えを根本
が 246 日、
「よこすか」が 279 日、
「かいれい」が 244 日、
「み
56
各部署の概要および主な成果
技術研修の実施
らい」が 260 日です(図 11)。
観測機器では、屈折法地震探査で従来用いられている
機構の施設・設備を利用して、外部技術者等を対象に、
地震計の他に、大深度でのデータを取得するため、超深海
潜水技術研修及び管理者向けの潜水管理業務研修を 13
海底地震計を三陸沖日本海溝の水深 7,400m の海底への
回実施し 321 人が受講しました。また、海洋技塾を開催し、
設置を含め、計 11 回の設置・回収を行いました。昨年度
新入職員への技術研修を実施しました。
導入した可搬式マルチチャンネル反射法探査(M C S)シス
テムは「かいれい」、「かいよう」により総測線長 2,222k m
に渡る探査を行いました。
赤道帯で発生して広範囲で異常気象を引き起こす気候変
動現象のメカニズムを解明するため、大気海洋状態をモニ
ターする係留型の海洋観測ブイシステムを設置しています。
西太平洋では T R I T O N ブイ 12 基を、インド洋で小型・
軽量タイプの m-TRITON ブイ 3 基を運用し、取得したデー
タを公開しました。このうち西太平洋の 2 箇所の観測点に
ついては、近い将来ブイに代わる観測手段に代替するため、
一時的に観測を停止しました。
また、今後の継続的なブイ網維持のため、国際共同運用
の拡充として 2013 年度完了を目標に m-TRITON ブイ技術
のインドネシアへの移管にも取り組んできており、2 基目のブイ
の移管を完了しました。
普及・広報活動及び成果の発信
研究調査船、深海調査システム等による研究成果は、機
構施設の一般公開や成果報告会を通じて広く一般へ周知し
ています。
各船による一般公開等は、前述の「新青丸」だけではなく、
5 月の横須賀本部施設一般公開で「かいよう」の体験乗船
と船内公開を行ったほか、7 月の秋田県男鹿市で開催された
「海フェスタおが」で「なつしま」が、8 月のむつ研究所施
設一般公開で「みらい」が船内公開を行いました。また、
「よ
こすか」は世界一周航海「QUELLE2013」の途上、5 月
にリオデジャネイロとサントス(ブラジル)
、10 月にヌクアロファ
(トンガ)
、11 月にオークランド(ニュージーランド)で王族を
含む各国政府関係者等への特別公開を行いました。
2014 年 2 月に研究船を利用した研究成果発表会「ブルー
アース 2014」を開催しました。また、海洋工学センターの活
動を一般の方々にご理解頂くことを目的として 9 月に「第 2
回技術報告会」を開催しました。
57
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
地球シミュレータセンター(ESC)
地球シミュレータ
Geoenvironment(MSSG:メッセージと呼ぶ)の研究開発
地球シミュレータは、2002 年の運用開始から 2 年半の間、
を行っています。シームレスな予測シミュレーションを可能
T O P500 スーパーコンピュータランキングで 1 位に認定され、
にするためには、高性能で大規模なスーパーコンピュータの
その性能によって地球科学ならびに関連科学技術の発展に
能力を活用したシミュレーションが不可欠ですので、MSSG
多くの貢献をしてきました(図 1)。2009 年 3 月には新システ
は、開発当初から地球シミュレータの能力を最大限に発揮
ムへの更新が完了し、131TFLOPS(1TFLOPS は毎秒
できるような設計指針で開発され、様々な現象に対して世
1 兆回の浮動小数点演算速度)の理論ピーク性能と高い実
界初の最大規模の計算が可能であることを示してきました。
効性能で、様々な物理現象が複雑に絡み合う気候変動や
本年度は、この MS S G を使用して、熱環境を予測し、
地球温暖化などの海洋地球科学分野を中心に、産業利用
その予測結果を具体的な施策立案に活かすため、熱環境
等を含め幅広く研究開発に利用されています。HPC チャレン
を緩和する樹木等の植樹が気温低下にどの程度の影響が
ジアワードの性能測定では、Global FFT(高速フーリエ変
あるかを評価するモデルを新たに開発しました。東京の緑
換の総合性能)の指標で 11.88T F L O P S の実行性能を示
地を想定した夏季正午前後のシミュレーションを実施した結
しています。これは 2013 年 11 月現在で理化学研究所のスー
果、樹高 H が大きいほど、樹冠で吸収され蒸散に使われる
パーコンピュータ「京」、米国 I B M 研究所のシステムに次
放射熱フラックスが増加することがわかりました。このこと
ぐ世界第三位です。スーパーコンピュータ「京」の理論ピー
は、高木のほうが、低木や芝生などの植生より、緑地とし
ク性能は地球シミュレータの 81 倍ですが、G l o b a l F F T の
ての低温効果が大きいことを意味します。
(図 2)。
性能では 17.3 倍であり、地球シミュレータは 4.7 倍の高い実
今後は、上記の結果をもとに、過去と現代の都市域の
行効率を示しています。2014 年度には現システムのリース
シミュレーション結果を比較し(図 3)、その結果をもとに、
期間が終了するため、次期システムの調達手続きを進めて
将来の都市がどのようにあることが望ましいかについての
います。
提案を検討する予定です。
図 1. 地球シミュレータ
マルチスケールモデリングの研究
図 2. 樹木の特性を考慮できるモデルの概要(上図)
水 平 1m 解 像 度 の 超 高 解 像 度シミュレーション結 果による蓄 熱 特 性 の 結 果
(下図)
地球 上の気 象や気候現 象は、大気、海洋、陸面、海
氷、生態などの自然環境に加え、人間活動から排出される
多くの化学物質などの複雑な相互作用を通して成り立って
います。これらの現象は、様々な時空間スケールで成り立っ
ているので、気象から気候変動現象までをシームレスに予
測をするためのモデル The Multi-Scale Simulator for the
58
各部署の概要および主な成果
図 4. スマートフォンを使った VR装置用可視化ソフトウェアの操作の様子
次に、シミュレーション結果の解析に資するビジュアル
データマイニング手法の研究について紹介します。ここでは、
多変量解析やクラスタ分析手法を応用し、変数空間からの
情報抽出と実空間へのマッピング、また変数 - 実空間情報
の相互連携を通して、海流や渦など自然現象の特徴や成因
などを見出す手法について研究しています。図 5 は、ビジュ
アルデータマイニング手法を海洋大循環モデルの結果に対
図 3. 江戸明治期と現代の土地利用および建物の解像データを使用し、水平 5m
解像度の MSSGを用いて夏季の風と気温分布をシミュレーションした比較結果
して適用した例の一つです。温度と流速の 2 変数からなる
散布図(図 5 右下の小さな四角領域内)から流速の大きい
7 つの点集合を抽出し色分けして実空間へ投影することで、
高度計算表現法の研究
黒潮などの海流構造を明示的に抽出した結果を表していま
シミュレーションデータをグラフィカルに表現する科学的可視
す。逆に、実空間において見られる渦等の特徴的な構造が、
化技術は、シミュレーションの結果を瞬時に把握しより確かな
2 変数空間ではどのように分布するかを調べるのにも応用す
データ解析につなげるための必要不可欠な手段です。また、
ることができます。
シミュレーションで得た成果を内外に発信していく上でも欠か
せません。地球シミュレータを用いたシミュレーションによって得
られる膨大なデータを高速に可視化し効率よく有用な情報を
引き出すため、我々は CAVE システム「BRAVE」を用い
たバーチャルリアリティ(VR)可視化、ビジュアルデータマイ
ニング、そして社会への貢献を目指した可視化結果の発信手
法の開発等、様々な先進可視化手法の研究を進めています。
V R 技術を使った可視化に関する研究として、可視化ソ
フトウェアの操作履歴から、必要な操作のみを再適用する
ためのユーザインタフェースの研究を進めています。図 4 は、
図 5. 海洋大循環モデルの結果に対してビジュアルデータマイニング手法を適用
開発した Web アプリケーションを使って、スマートフォン上
した例
に表示された操作履歴中から特定の可視化操作を選択し
ている様子です。これを実現することにより、VR 装置内で
また我々は、シミュレーション研究成果の新しい表現と社会へ
のインタラクティブな操作により描画された全ての可視化結
の成果発信のための研究開発プロジェクト「EXTRAWING」
果の中から、興味深い三次元構造を持つ可視化結果のみ
を推進しています。EXTRAWING は、Google Earth 上に
を選択的に利用することが可能となり、VR 可視化をこれま
シミュレーション結果を 3 次元的に表現する独自の可視化技法
で以上に効率的に行うことができるようになります。
をベースとして、可視化・KML 作成プログラムの開発、Web
59
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
アプリケーションプログラムによる情報発信、複数データの解
な季節変動はみられませんでした。今後、衛星観測とアル
析と比較、そして BRAVE を含む VR 装置を用いた立体的
ゴフロート等による海洋内部の観測との組み合わせ、シミュ
な観察手法の開発など、さまざまな表現手法、情報提示手
レーションで示唆されたサブメソスケール擾乱の時空間変
法、情報発信手法への展開を進めています。図 6 は、複
動が実在しているか、検証する必要があります。
数の Google Earth を連携させて異なるシミュレーションモデ
ルの可視化結果を比較する提示方法を示しています。複数
の Google Earth の間で空間情報(視点位置、スケーリング、
マウス操作など)を共有、連動させることにより、すべての可
視化結果を同一条件で 3 次元的に観察し効果的に比較でき
るようにしています。
図 6. 複 数の異なるシミュレーションモデル の可視 化 結果を比 較する提 示
図 7. 2002 年 3 月15 日の黒潮続流域の海面相対渦度
方法
単位は 10-5 s-1
地球流体シミュレーションの研究
気候変動とその予測可能性の理解を向上するために、海
洋モデル、大気モデル、大気・海洋結合モデルの開発・改
良を行い、それらを用いてシミュレーション研究を進めてい
ます。その一例として、海洋大循環モデルの超高解像度化
による海流の再現実験について紹介します。水平解像度を
1/30 度(約 3km)まで細かくすると、サブメソスケール(数
km から数 10km)の渦やフィラメント状の流れの構造を再
現することができます(図 7)。そのサブメソスケールの擾
図 8. サブメソスケール擾乱(黒:相対渦度の rms [RVrms]、青:鉛直速度の
乱は海洋表層の混合過程等に重要な役割を持ち、生態系
rms [Wrms])とメソスケール擾乱(赤:海面高度 [SSHrms])の活動度の指標、
の変動などに影響を与えることが考えられます。我々のシ
黒潮続流域(東経 150-160 度、北緯 25-45 度)で、擾乱の活動度は二乗平
ミュレーションによると、黒潮続流域でのサブメソスケール
ラベルを参照のこと。
海洋混合層の厚さ(緑 [MLD])の季節変化の様子
均平方根を、混合層厚は平均を取ってある。横軸は時間、変数の単位は縦軸の
擾乱には冬期に活発になる明確な季節変動があることが
分かりました(図 8)。冬期に深い海洋混合層が春期に短
期間で浅くなると、サブメソスケールに伴う鉛直流は共に急
激に減衰しますが、水平のサブメソスケール現象は徐々に
減衰します。一方、メソスケール(100km 程度)には明確
60
各部署の概要および主な成果
観測システム設計手法の開発研究
観測とシミュレーションとを融合する世界最先端のアン
サンブル解析システムを開発し、これを用いた観測システム
まず、 通 常 のアンサンブ ル 解 析(C T L)とは 別 に、
P o l a r s t e r n 号の観測データを使用しないアンサンブル解析
(O S E)を行い、低気圧が発達し始める直前の 8 月 3 日
00 時から、それぞれを初期条件としたアンサンブル予報実
の最適化や予測可能性について研究しています。このチー
験を行いました。その結果、CTL を初期条件とした場合(図
ムには、地球シミュレータセンターの研究者だけでなく、地
10 赤線)には低気圧の発達や移動の様子をうまく予報でき
球環境変動領域の複数のプログラムからも研究者が参加し
たのに対し、O S E を初期条件とした場合(図 10 青線)に
ています。また、同志社大学の研究者の協力を受けて研究
はそれらが再現できませんでした。Polarstern 号は低気圧
を実施しています。
を直接的に観測していたわけではありませんので、より大き
独自の解析システムを持っていれば、特定の観測データ
な場の再現性が遠隔的に低気圧の予測に影響を与えたもの
を使用した場合と使用しない場合とで、解析結果やそれら
と考えられます。
を初期条件とした予測結果がどのように異なるかを調べる
ことにより、その観測データの影響や重要性を定量的に評
価することが可能となります。このような研究は「観測シス
テム実験」と呼ばれています。
2012 年 8 月上旬、北シベリアで発生した低気圧が北極
海上に移動したあと急速に発達しました(図 9)。
図 10. 2012 年 8 月3 日 00 時の CTL(赤線)とOSE(青線)を初期条件とした
アンサンブル予報での低気圧中心における海面更正気圧 [hPa]の時間発展
太線はアンサンブル平均された低気圧での値、細線は各メンバーの低気圧での
値を示す。黒線は観測データを同化しつづけた解析値、緑線は ERA Interimを
初期条件とした決定論的予報。
シミュレーションの応用研究
地球シミュレータの産業界での研究・開発、設計・製造へ
図 9. 2012 年「大」北極低気圧の衛星画像
の活用を促進するため、文部科学省の「先端研究基盤共用・
図の中心が北極点で、低気圧が発生したシベリア域は図の右側、ドイツの砕氷船
Polarstern 号が観測を行っていたグリーンランド海・ノルウェー海は図の下側(な
プラットフォーム形成事業」による補助を受けて「地球シミュレー
お日本は図の右上方向)。アメリカ航空宇宙局(NASA)提供
タ産業戦略利用プログラム」を実施しています。2013 年度は、
中心気圧は 966 hPa にも達し、これは、人工衛星観測が
利用分野「環境負荷を低減する技術開発」に 8 課題、「安
開始された 1979 年以降の夏季に発生した低気圧としては最
全・安心な社会を実現する技術開発」で 2 件を採択し、計
小の記録です。この「大」北極低気圧が発生する少し前、
10 課題の技術支援を実施しています。
北極海と大西洋を繋ぐグリーンランド海・ノルウェー海で、ドイ
その一例として、塩水港精糖株式会社糖質研究所による
ツのアルフレッド・ウェゲナー研究所の砕氷船 Polarstern 号(ド
「耐熱性β- フルクトフラノシダーゼの開発」を紹介します(「地
イツ語で「北極星」の意)がラジオゾンデ観測を実施してい
球シミュレータ産業利用シンポジウム 2013 発表資料集」より
ました。そこで我々は、アルフレッド・ウェゲナー研究所の研
引用)。
Arthrobacter sp. K-1 株由来のβ- フルクトフラノシダーゼ
究者と共同で、Polarstern 号の観測データが大北極低気圧
の予測に与える影響を調査しました。
(β-FFase)はラクトースとスクロースを原料として、整腸作用や
61
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
ミネラル吸収促進作用を有する機能性オリゴ糖ラクトスクロース
(特定保健用食品)を合成する酵素であり、現在のところバッ
チ法による工業生産プロセスに利用されています。
近年、二酸化炭素排出量抑制や廃棄物量の低減、エネ
ルギー利用効率の向上等を背景として、製糖プロセスの効
率化が求められており、耐熱性酵素を固定化したバイオリ
図 13. 試験結果
アクターシステムによる連続反応への移行が望まれています。
オリゴ糖製造に使用するβ-FFase のシミュレーション設計に
これまでにランダム変異法により野生型酵素に 5 つのアミ
取り組み、耐熱化変異体 29-3 の開発に成功しました。ラン
ノ酸変異を導入した 24Y447P を取得して耐熱性の大幅な
ダム変異により野生型から高度に耐熱化された 24Y447P で
向上に成功していますが、工業化の為にはさらなる耐熱化
は改良の余地が少ないと予想していましたが、僅かな期間で
が必要とされます。本研究では、これまでに取得した変異
更に耐熱性を向上させる事に成功したことは、シミュレーション
体の耐熱化機構の解明、耐熱化に寄与する新たなアミノ酸
による耐熱性酵素の設計が有力な手段であることを示してい
変異の予測を行い、その酵素を実際に調整して実証実験を
ます。
行いました。
地球シミュレータの有償利用制度について
地球シミュレータの利用では原則として利用者情報や研究
概要が公表されますが、それらが公表されない非公開型の
「成果専有型有償利用」 制度も実施しています。この制度
図 11. シミュレーション方法
では、ユーザからのご相談に応じて専門スタッフがプログラム
図 11 のように、24Y447P をベースとしてシミュレーション
開発やチューニング等の技術支援をしています。はじめての
と変異体構築を繰り返した結果、これまでよりも耐熱性が
利用で不安のあるユーザは、無償での試用(事前評価)も
向 上した 変 異 体 29-3( 図 12)が 得られました。29-3 は
可能です。
24Y447P をベースとした D260P、K247D の二重アミノ酸置
2013 年度では、日本最大級の製造業向け専門展である
換体であり、特に K247D のアミノ酸置換により顕著に耐熱
設計製造ソリューション展(「日本ものづくりワールド 2013」、
性が向上しました。62℃における寿命は 24Y447P の 1.5 倍
入場者総数 76,701 人(主催者発表))で、この有償利用
に達しました。またオリゴ糖(L S)合成能は野生型より若干
制度のご紹介と幾つかの企業での活用事例を展示したところ、
向上していました(図 13)。
複数の企業からのお問合せをいただきました。
防災・減災に資する地球変動予測研究の推進
HPCI 戦略プログラム分野 3「防災・減災に資する地球変
動予測」は、
スーパーコンピュータ「京」と「地球シミュレータ」
を連携させて、大規模な自然災害をもたらす自然現象に関す
る大規模高精度シミュレーションを全国の大学や研究機関と
共同で実施し、地球温暖化時の台風の強さや数を全球的に
予測すること、集中豪雨や局地的大雨の直前予測を実証す
ること、次世代型の地震ハザードマップのための基盤を構築
すること、津波警報の高精度化を図ること、都市全域を対象
図 12. 変異体 29-3 の構造
62
各部署の概要および主な成果
とした自然災害シミュレーションにより被害の軽減を図ることなど
を目標として研究を推進しています。
研究開発課題「防災・減災に資する気象・気候・環境予
測研究」では、全球雲解像モデルによる熱帯域を中心とした
4 週間先までの延長予測の可能性の実証、データ同化やアン
サンブル予測を駆使した 2012 年 5 月のつくば竜巻や同年 7
月の九州北部豪雨の予測実証などの成果が挙がっています。
もう一つの研究開発課題「地震・津波の予測精度の高度
化に関する研究」では、地震動と津波の発生伝播を一度に
評価することのできる新しいシミュレーション手法の開発、リア
ルタイム波源推定手法と津波ハザード予測手法の統合、さら
には超詳細解析モデルを用いた地震応答シミュレーションによ
る構造物の解析など、着実に成果が創出されています。
また、2012 年度より参画している一般社団法人 HPCI コン
ソーシアムについては、今年度も引き続き社員総会や意見交
換会に出席し、
今後の効率的な計算資源の運用や計算機イン
フラのあり方について、地球科学に関わるユーザコミュニティ
の代表として意見の集約と発信に取り組んでいます。
63
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
地球情報研究センター(DrC)
概要
報が、データカタログには 40 件のデータベース・データサイト
情報がそれぞれ登録されています。データカタログのメタデー
地球情報研究センター(DrC)は、JAMSTEC が取得す
タは NASA の運営する Global Change Master Directory
るデータやサンプル情報の管理・公開と、それらに必要な情
へ提供していますが、データカタログのメタデータ更新に伴い
報システムの整備・運用に加え、様々なデータを統合すること
提供したメタデータの更新を行いました。
で新たな価値を生み出す付加価値データや、教育・研究お
GODAC の「地球環境ポータル」を更新し、DrC データ
よび社会経済ニーズに対応した実利用プロダクトの開発・提
公開基盤システムとして、シングルサインオン機能などを備えた
供業務を行っています。
ポータルページを公開しました。
データ技術開発運用部では、横浜研究所においてデー
タやサンプル情 報の受 領、保 管、品 質 管 理を進めるとと
2)船舶観測データ・サンプル情報の公開
もに、それら情報を公開するためのシステム構築を進めて
JAMSTEC の船舶、潜水船などで得られた観測データ
います。2013 年度は「深海底岩石サンプルデータベース
やサンプル情報を公開する「航海・潜航データ探索システム
(GANSEKI)
」の更新や、新たに「海洋生命情報バンク基
(DARWIN)」の登録データ数は、約 5,500 件、航海数・
盤システム(BISMaL)
」の分布情報可視化・解析支援ツール
潜航数はそれぞれ 944 航海・2,376 潜航となりました。今年
(BISMaL-Mapper)
、DrC にて運用しているデータ公開サイ
度は DARWIN の機能向上も実施し、データの可視化・切り
トをまとめた「DrC データサイトポータル」等を公開しました。
出しなどを可能にしました。
さらに昨年度に引き続き、震災・復興・防災対応関連業
務についても推進し、地震波形データ表示システムの構築や、
DARWIN に掲載しているクルーズレポートなどの文書デー
太平洋の震災漂流物シミュレーションへのデータ提供、東北マ
タは、「文書カタログ」で管理・公開されています。文書カ
リンサイエンス拠点形成事業におけるデータ管理・公開環境
タログでは、JAMSTEC の研究成果としての論文や報告書、
の整備を進め、各種データ提供や公開シンポジウムの開催な
広報用書誌などの文書データが、現在 2,586 件(うちクルー
どにより、関連情報の発信を行いました。
ズレポートは 535 件)公開されています。
また、DrC の情報発信の拠点である国際海洋環境情報
堆積物コアのメタデータや分析データを公開してきた「コア
センター(GODAC: ゴーダック)では、沖縄県名護市におい
データサイト」は html ページの集合体として構築・運用され
て、DrC で扱う各種データや深海映像情報の公開、ならび
てきましたが、
2012 年度からデータベース化を進め今年度「堆
に地域における海洋科学技術の理解増進活動を行っています。
積物コアデータベース(COEDO)」として公開しました(図 1)。
GODAC では、昨年に引き続き沖縄県北部地域の教育機関
これによりDrC の扱う主要なデータ公開サイトは全てデータ
や博物館等との連携協力体制の構築を進めており、沖縄県
ベースにより運用されることとなりました。COEDO では、846
北部地域での人材育成や海洋科学技術の理解増進のための
件のコア情報と2,260 件の分析データ、6,455 セクションのサン
イベント協力を実施するとともに、海洋科学技術に関するコン
プルを公開しています。
テンツの共同開発を開始しました。
1.海洋地球観測データ・サンプルの管理と公開
1)データ検索サービスの提供
DrC では JAMSTEC が公開しているデータベースを横断
的に検索するシステムとして、地図上で観測データを検索でき
る「データ検索ポータル」と分類ツリー上のキーワードからデー
タベースを絞り込むことができる「データカタログ」を公開して
います。今年度からデータカタログを用いてデータファイルを公
開する機能の運用を開始し、専用データサイトを構築しなくて
もデータを公開することを可能としました。
データ検索ポータルには約 44,000 件のデータ・サンプル情
図 1. コアデータベース(COEDO)のトップページと公開データ
URL:http://www.godac.jamstec.go.jp/coedo/j
64
各部署の概要および主な成果
「深海底岩石サンプルデータベース(GANSEKI)」では、
J-EDI ではログインユーザーが映像・画像ファイルをダウン
公開データの充実、ユーザーインターフェースの改善、他の
ロードしたり、自分だけのライブラリを作成したりできる機能など
航海情報データベースとの連携強化などを目的として、全面的
を付加しました。また、国立科学博物館で開催された特別展
にシステムの更新を行いました。地図との複合検索や化学分
「深海」に映像を提供した他、展示で使用された映像を並
析データの範囲による検索などが可能となりました。2009 年よ
べた「深海特設コーナー」「人気映像・キーワードコーナー」
り連携している国際的な岩石化学ポータルサイト EarthChem
を設置するなどしました(図 2)。
へのメタデータ提供も継続した他、研究・教育や広報等の目
的での岩石サンプルを提供しました。GANSEKI の登録済み
メタデータは 23,314 件、
サンプル数は 11,912 件、
化学分析デー
タは 18,403 件に増加しました。今年度は、新 GANSEKI の
紹介やサンプル利用の促進のため JpGU、AGU 等の学会や
シンポジウムで発表を行いました。
生物サンプルについては、サンプルを保管する外部の研究
者を訪問し、サンプル管理における現場との連携における課
題抽出を行いました。また、機構が保有する分類学上のタイ
プ標本の情報整理を進めており、来年度に公開する予定で
す。「海洋生物サンプルデータベース」では海洋生物多様性
研究プログラムが 1980 年代から収集してきた生物サンプル約
19,000 件の情報も加え、
これまでに合計 30,000 件以上のデー
タを公開しています。そのデータの多くは BISMaL にも共有
され、国際的なデータベースである OBIS へのデータ提供に
も貢献しています。
これらのデータベースでは共通の航海情報・潜航情報、観
測情報を利用していることから、船舶観測メタデータの一元
管理を導入していますが、今年度は対象とするデータベース
を拡大し、情報の均質化と管理の効率化を図りました。
3)映像・画像データの公開
JAMSTEC の潜水調査船や無人探査機などにより撮影さ
れた深海の映像や画像の管理では、保管している全潜航分
のメインカメラの映像テープや写真ネガのデジタルファイル化は
2012 年度までに終了し、今年度は残ったサブカメラの映像の
デジタル化を実施しました。提出される映像が全てハードディ
図 2. J-EDIの深海特設コーナーと人気映像・キーワードコーナー
スク録画によるデジタルファイルとなったことを受けて、映像ファ
URL:http://www.godac.jamstec.go.jp/jedi/j/index.html
イルの保管方法を大容量アーカイブテープ(LTO5)で標準
4)生物多様性情報の公開
化しました。GODAC ではデジタル化した映像ファイルと公開
海 洋 生 物の多 様 性・分 布 情 報を扱う統 合データサイ
用映像ファイルをアーカイブしていますが、総容量は 177TB
となっています。また、管理・公開業務を効率化するために、
ト「 海 洋 生 命 情 報バンク基 盤システム(BISMaL)」 は、
業務フローの見直しやシステム化を継続しました。
JAMSTEC の生物関連情報の公開と、国際的な海洋生
物多様性データベースである海洋生物地理情報システム
「深海映像・画像アーカイブス(J-EDI)」では、今年度
は約 2,000 潜航分の深海調査映像を公開しました。映像・
(OBIS)の日本ノード(J-RON)機能を担うシステムです。
画像へのコメント付けでは、今年度でメインカメラの映像につ
DrC は海洋・極限環境生物圏領域との連携の元に本システ
いてはすべての潜航へのコメント付けを達成しました。
ムを構築、運用しています。
65
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
今年度は生物分類群データに 2,000 種の生物名を登録・
公開し、合計で約 19,000 種となりました。公開している出現
記録データは、J-RON 経由で受け入れた日本海洋データセン
ターのプランクトンデータセット(約 29 万件)などを含めて約
34 万件となりました。
また、BISMaL の機能強化に加えて、作図機能を備え
た「海洋生物分布可視化・解析支援システム(BISMaL
Mapper)」を外部公開しました(図 3)。
J-RON としては、OBIS の新しい協力体制である IODE
図 4. ターゲットユーザーとして想定される6 業種のページビュー数
(2013 年 4 月~ 11 月)
連携データユニットに移行することを要請されており、調整を
進めています。また、国内協力機関からのさらなるデータ受
け入れを予定しています。
2. 社会が必要とする新しいデータの提供
1)データ統融合と付加価値プロダクト
DrC は、力学的な解析が可能な時系列データセットを作
成するための大気・海洋・低次生態系結合四次元変分法
(4D-VAR)同化システムを開発し、現象の逆解析、観測
システムの 最適配置、季節~経年スケールの予測精度の改
善などに役立てる研究を行っています。また、得られた同化
プロダクトをもとに、より詳細な循環場を求めるためのダウンス
図 3. BISMaL Mapper for Marine Species Distribution の概要
ケーリングシステムの開発研究も行っています。
URL:http://www.godac.jamstec.go.jp/mapper/index.jsp?lang=ja
5)データ公開サイトのアクセス解析
a. 季節変動~年々変動の予測と再解析
DrC のデータ公開サイト群に対するアクセス状況の解析を
季節変動~年々変動の予測精度を改善するには短期変動
引き続き実施しました。今年度は「深海」 展の影響で夏休
成分が除かれた 4D-VAR プロダクトを初期値にすることが有
み期間中に J-EDI や BISMaL へのアクセスが急増したのが
効と考えられています。
特徴です。
今年度は、地球環境変動領域・海洋環境変動研究プログ
アクセス元の分析を行い、研究・調査・教育目的のユーザー
ラム・海洋データ同化研究チームと協力して、低次生態系モ
が多いと考えられる 6 つの業種「高等教育」、「学術・開発
研究機関」、
「国家公務」、
「博物館」、
「地方公務」、
「初等・
中等教育」のページビュー数の割合を公開サイトのカテゴリ別
デルとの結合を行い、植物プランクトンなどの生物化学量の季
節~年々変動予測実験を行いました。
図 5 は、2010 年 10 月から 12 月のデータ同化結果を用い
に比較しました(図4)。
て、2011 年 1 月からの 3 年予測を行った結果です。予測結
映像・画像系のサイトではプロバイダ経由や民間企業から
のアクセスが 9 割を占めており、一般のアクセスが多いこと、
教育・研究系の中でも初等・中等教育機関の割合が多いこ
果は春のブルームだけでなく秋のブルームについても再現され
ており、また春のブルームの年々変動についても良い結果を示
しています。この年々変動は特にブルームの前の冬期混合層
とが分かりました。一方、観測航海データ系では教育・研究
深の変動との関連が見られ、下層からの栄養塩の取り込み
系からがアクセスのほぼ半分を占め、中でも学術・開発研究
が春のブルームの強度を決めていることが示唆されます。
機関や国家公務からが多いという特徴がありました。
これらの解析結果は、各サイトのターゲットユーザーに合わ
せたコンテンツの充実や画面の設計などに活かしていく予定
です。
66
各部署の概要および主な成果
ムへの拡張を行いました。
図 7. アカイカ漁海況情報テストの例。(左)好適漁場推定モデルの結果、(右)
図 5. 北西太平洋亜熱帯域(130-170E, 20-20N)での植物プランクトンの予
150m水温分布
測結果(赤線:右軸)、人工衛星から得られたクロロフィル量(緑点:右軸)、およ
び混合層深度(黒線:左軸)
このシステムにより、配信したデータをどのように活用できる
また、今年度は海洋長期再解析データの可視化および
か、より詳細に分析できるようになりました。
提供を行うためのウェブサイトEstimated State of Global
また、水産分野への応用として、北海道大学大学院水産
Ocean for Climate Research(ESTOC)の開発も行いまし
科学研究院との共同研究として、津軽海峡、噴火湾などで
た(図 6)。海洋長期再解析データは 4 次元変分法を用い
の海況予測の結果をスルメイカの漁場予測、ホタテの成長予
て 50 年にわたる海洋変動の再現されたデーセットで地球環
測などに適用する研究も進めています。
境変動領域・海洋環境変動研究プログラム・海洋データ同
化研究チームと共同開発したものです。再解析データの可視
c.海洋物質輸送のシミュレーション
化では水平分布図や鉛直プロファイル、時系列変動について
東日本大震災によって流出した大量のガレキや、原発事故
みることができ、流速場、水温場などのデータをダウンロード
によって流出した放射性物質の分布を推定・予測する研究
することが可能です。
を昨年度に引き続き関係機関と協力して行いました。漂流ガ
レキのシミュレーションは政府の省庁連絡会議との連携のもと、
環境省からの請負研究として、当機構を代表研究機関として、
京都大学、気象研究所、日本原子力研究機構及び宇宙航
空研究開発機構が協力して実施しています。特に今年度は
アンサンブル予測の結果を利用して、漂流予測の不確実性
の評価と低減を行うことができました。
また、海洋中放射性物質の拡散シミュレーションは日本原子
力研究機構との共同研究として実施しています。
d.データ統合・解析システム(DIAS)
さまざまなステークホルダーとの協働のもと、多種多様な観
図 6. ESTOC の画面例
測データや同化/予測プロダクトと社会経済活動ほかの統計
URL:http://www.godac.jamstec.go.jp/estoc/j/
データを融合し、気候変動適応、資源管理、防災など新た
b. 水産研究への応用
2010 年度より文部科学省からの受託業務として、各大学・
研究機関と八戸漁協等の協力を得て、アカイカを対象として
な科学知や公共的利益を創出するデータ統合・解析システム
(DIAS)の研究開発が 2006 年度から進められています。
その2 期目の事業である
「地球環境情報統融合プログラム」
漁場探索及び資源変動予測システムを開発しており、今年度
が文部科学省の受託研究として東京大学を代表機関として
も漁場推定モデル、資源中期変動予測モデルの開発を行い
当機構、宇宙航空研究開発機構、国立環境研究所など計
ました。また、操業中の漁船に対して漁海況情報の配信シス
8 機関の協働のもと昨年度から開始されました。DrC は大気・
テムの改良をすすめ(図 7)
、こちらから情報を送るだけでな
海洋結合データ同化プロダクトをさまざまな利用分野に提供す
く漁船から漁獲情報をリアルタイムで送ってもらう双方向システ
67
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
3)東北マリンサイエンス拠点形成事業への貢献
るためのシステムのプロトタイプ開発に着手するとともに、2016
年度からの長期運用フェーズへの移行に向けて、その運用
体制、備えるべき諸機能、運用方針等についての設計を行っ
ています。
2011 年度より開始された「東北マリンサイエンス拠点形成
事業(海洋生態系の調査研究:TEAMS)」において、東
北大学・東京大学・JAMSTEC を中核とした研究体制による
調査観測で得られたデータや様々な活動情報などを管理・公
開していくための取り組みを進めています。2013 年度は、調
査観測の計画・報告情報、調査データおよびその付帯情報や、
2)地震研究情報データベースの構築
2011 年度に 20 観測点すべての設置が終了した海底地震・
津波観測ネットワークの観測データは、JAMSTEC 横浜研究
研究成果情報等を体系的に管理・公開するための方針を検
討するとともに、それに基づいたデータ管理を開始しました。
本事業で実施する調査観測の計画・報告情報等を収集す
所でリアルタイム受信して国際的な標準フォーマットによりデー
るため、本事業に参画する関係機関を対象として、TEAMS
タベースに格納されています。また、地球内部ダイナミクス領
域では、海底地震計観測や、マルチチャンネル地震探査によ
り構築された、紀伊半島及び四国沖の地殻構造データを収
におけるデータポリシー及び取得データ等の取扱いに関する
説明会を開催しました。その結果、調査に関する計画書・
報告書等情報の収集が円滑に行えるようになりました。 集しています。今後大地震の発生が予想されているこの地域
TEAMS オフィシャル web サイトでは、調査の計画情報に加
で詳細な地震活動を監視し、大地震の発生メカニズムを研究
え、調査報告情報の公開を 8 月より開始し、提出された情報
するために、これらのデータベースを統合した地震研究情報
の着実な公開を行いました。
データベースを作り上げることを目的として、2011 年 12 月に地
また、本事業で得られた多種多様な情報を公開するため
球情報研究センターに地震研究情報データベース構築チーム
TEAMS 調査観測データセット公開システム(仮称)の構築
が設置されました。今年度は、海底地震・津波観測ネットワー
を進め、今年度は地図・線表表現による公開系の機能強化
クの強震動地震計と水圧計のリアルタイム波形画像を、外
部からインターネット経由で閲覧できるシステムを開発しました。
現在、海底地震・津波観測ネットワークが設置された地域の
を行いました。3 月には本システムを用い、調査観測で取得
されたデータを公開する「TEAMS データ案内所『リアス』」
を公開しました
(図 9)。引き続き、
TEAMS 関係者間での調査・
自治体に向けて、リアルタイム波形画像の提供を試験的に開
研究情報等の共有や、相互連携等を可能とする調査観測情
始しています(図8)。
報共有システム(仮称)の構築を進め、より効率的な情報共
有を実現できるよう取り組んでいます。
図 8. リアルタイム波形表示システムのプロトタイプシステム
図 9. TEAMSデータ案内所「リアス」(トップページ画面)
URL:http://www.i-teams.jp/rias/
68
各部署の概要および主な成果
3.海洋科学技術の理解増進活動
1)国際海洋環境情報センターにおける海洋科学技
術の理解増進活動
GODAC では、講義室や映像システム等の各種施設・設
備を一般開放するとともに、JAMSTEC の最新の研究活動を
紹介する「ゴーダックセミナー」
(通算 48 回、
2013 年度 4 回)
、
海洋科学への理解増進を目的とした児童向けイベント「海洋
教室」(通算 24 回、2013 年度 4 回)
、施設一般公開(2013
年 11 月 23 日実施、来館者数 1,218 名)
、JAMSTEC の活
動をより理解していただくための様々な試みや各種イベントを通
図 10. 第 46 回 ゴーダックセミナーの様子
じて、海洋科学技術の理解増進、普及啓発活動を実施して
ます(図 10、11)。
開所以来の来館者数は 147,722 人(2013 年 12 月末現在)
となりました。
2)地域関連機関との連携推進
GODAC では、職場体験学習・インターンシップの受入れや、
各種地域イベント「名護市環境フェア」、「名護夏祭り」など
へ出展・協力することにより、地域へ向けた活動を実施してい
ます。
2013 年度は、昨年度から続く沖縄県北部(やんばる)所
在の教育研究機関等との連携・協力体制を「ALL やんばる
図 11. GODAC施設一般公開の様子
まなびのまちプロジェクト」として発足し、「名護市教育の日シ
ンポジウム」への参加を行うなど、地域貢献、人材育成をよ
り一層推進するため、さまざまな活動を行っています。
また、各連携機関(名護市、沖縄工業高校専門学校、
琉球大学、名桜大学、名護博物館、沖縄美ら島財団等)
との人材・技術の交流等を通じ、海洋科学技術情報の利活
用と人材育成に資する情報ネットワークの構築し、さらなるプロ
ジェクトの展開を目指します。
69
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
地球深部探査センター(CDEX)
概要
し、地震・津波発生メカニズムを解明することを目的として
います。今年度の研究航海(IODP 第 348 次研究航海)で
地球深部探査センターは、国際深海科学掘削計画
(IODP:
は、2010 年に行われた第 326 次研究航海で掘削した掘削
International Ocean Discovery Program)の主要な科学
孔において設置したケーシングパイプ直下(C0002 孔、深度:
掘削船である「ちきゅう」の運用を担う、計画の総合的な
海底下約 860m、水深:1,939m)から、さらに深部まで掘
推進機関として、国際枠組みのもとで地球深部探査船「ち
削を行うためのライザー掘削を実施しました(図 2)。2012
きゅう」
(図 1)を安全かつ効率的に運航しています。2003
年に行われた第 338 次研究航海では、同じ地点で掘削を
年より開始した統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean
行っておりましたが、海象の急変による機器の一部に損傷
Drilling Program)は 2013 年 9 月に終了し、同年 10 月か
が生じたことによる作業中止に伴い、海底下約 2,000m ま
らは新たに国際深海科学掘削計画(IODP)へと移行しま
で掘進したところで作業を中断し、掘削孔を保護しました。
した。
今年度は、前年度に中断した掘削孔(C0002 孔)において、
本計画は、日本と米国が主導する、地球環境変動、地
ライザー掘削による海底下 3,058.5m までの地質試料の採
球内部構造及び地殻内生物圏の解明を目的とした海洋科学
取および掘削同時検層を行い、掘削孔壁を保護するための
掘削の国際計画です。新計画では、日本・米国・欧州を始
めとする 26 カ国で、国際的に議論された科学計画に基づき、
海洋掘削研究を継続する事が合意されました。また、計画
ケーシングパイプを設置しました(図 3)。この作業は、水
深 1,939m における海底下約 5,000m に存在すると推測さ
れる地震発生帯を目指した超深度掘削のための作業です。
の移行にあわせ、各国からの分担金で運営されてきた中央
管理組織方式から、日・米・欧の各推進機関が互いに協調
しながら、それぞれの船舶の運航を行うなどの改変がなさ
れています。
地球深部探査センターは、
「ちきゅう」の運航、掘削、
科学サービス、技術開発を総合的にマネージメントし、
「ち
きゅう」を安全かつ効率的に運用して IODP の科学目標を
達成することを目的としています。
図 2. ライザー掘削準備の様子
図 1. 地球深部探査船「ちきゅう」
南海トラフ地震発生帯掘削計画
図 3. 南海トラフ地震発生帯掘削海底下構造概念図
本計画は、南海トラフ域における巨大地震や津波の発
生源とされるプレート境界断層および巨大分岐断層を掘削
し、地質試料を採取するとともに、掘削孔を用いて岩石物
性の計測(検層)、地殻変動の観測(モニタリング)を実施
70
各部署の概要および主な成果
東北地方太平洋沖地震震源域に設置した長期孔内
東北地方太平洋沖地震における巨大地震・津波発生
温度計の回収について
メカニズムの解明
2012 年 7 月に実施した地球深部探査船「ちきゅう」によ
東北地方太平洋沖地震調査掘削により得られた地質試
る IODP 第 343 次研究航海「東北地方太平洋沖地震調査
料、孔内計測データ、長期孔内温度観測などのデータか
掘削 -Ⅱ」において、宮城県牡鹿半島沖合約 220 キロメー
ら、東北地方太平洋沖地震の際に日本海溝軸付近の浅部
トルの日本海溝海溝軸付近の海域(北緯 37 度 56 分 東経
プレート境界断層が地震性滑りを起こしていたことを科学
143 度 55 分)
に設置した長期孔内温度計を、
無人探査機「か
的に実証し、これまで常識とされてきた「プレート境界断
いこう 7000Ⅱ」により、2013 年 4 月 26 日夜に回収しました
層浅部では地震性滑りは起きない」という考えを根本から
(図 4)。
問い直す、極めて重要な結果を導きました。
本成果は、米国科学雑誌「S cience」に 2013 年には全
4 編の論文が掲載され、他論文に関しても専門誌への掲載
が進められています。
主論文の概要は以下 4 点に集約されます。
1)東北地方太平洋沖地震震源域先端部(海溝軸付近)
の地層において、従来大きな地震のエネルギーを蓄積せず
地震性滑りが発生しないと考えられていた海溝軸付近の断
層においても、エネルギーを蓄積し大きな滑りが発生し得る。
2)東日本大震災を引き起こしたプレート境界断層先端部
図 4.「かいこう7000Ⅱ」による観測装置の回収
は、厚さ 5m 以下であり、これまで考えられていたものより
極めて薄い断層帯である(図 6)。
長期孔内温度計は、全長約 820m あり、プレート境界断
層及びその付近に集中して配置された 55 点の高精度温度
計で構成されています(図 5)。
回収した長期孔内温度計からデータを取り出したところ、
大きく滑ったプレート境界断層及びその付近の地層の温度
図 6. 採取されたプレート境界部分の断層
変化を約 9 か月間記録していることを確認しました。
3)断層の地質試料を用いた室内試験により、断層物質
が強度の弱い粘土からなることと、地震時に断層の摩擦
発熱により断層物質の隙間に存在する水が膨張することで、
断層が滑りやすくなる。従来考えられていなかった巨大地
震時の断層すべりメカニズムを解明。
4)上記 3)を裏付ける現象となる、実際の海底下掘削
孔内に設置した複数の温度計測装置の結果から、プレート
境界断層において周囲より 0.31 度高い温度異常が見つかり、
地震発生時の断層の摩擦係数が極めて小さかったことを確
認(図 7)。
図 5. 船上に回収された観測装置
71
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
しました。本ワークショップでは、世界 21 カ国から、397
人の参加(国内:261 人、海外:136 人)を得て、国際的
な英知を集めた活発な議論がなされました(図 8)。
現在の主要な科学テーマは、
「地震発生帯」、
「マントル調
査」、
「海底下生命圏」、
「大陸形成」、
「地球史の変遷」な
どです。研究者はこのテーマの研究を進めるうえで、最適
な調査地点の候補などを持ち寄り、同時に「ちきゅう」の
技術者も参加し、研究者が持ち寄った課題を達成するため
には、船の技術者側としてどのような装備や技術が必要な
のかを確認するという相互の情報を共有が行われました。
このような規模で国際会議を開催できたことは、世界の
図 7. A. 深度 650m 以深の計測温度の時系列表示。地温勾配による影響を除
科学掘削研究者が、
「ちきゅう」に大きな関心を持っている
き、毎日の観測温度の平均値を示している。B. 深度方向に、2 ヶ月毎の温度分
布を示す。(Fulton et al.より)
事を示しています。
これらの成果は、地震時においては、従来考えられてい
なかった海溝軸付近であっても、地震性滑りを引き起こし
破壊的な巨大津波を引き起しうることを、科学的な検証に
よって裏付けました。
東北地方だけでなく、南海トラフや琉球弧、伊豆小笠原
図 8. CHIKYU+10 International Workshop参加者
弧、日本海東縁などでも新たな視点での地震/津波発生
ポテンシャルに関する調査研究、さらにはモデル化と数値シ
「 ちきゅう」IODP 運 用 委 員 会 (Chikyu IODP
ミュレーションが必要であることを示しています。津波に関
Board: CIB)の開催
しては、海溝軸付近までの地震断層破壊の伝播を考慮に
入れて、科学的根拠に基づく最大規模の津波発生を想定す
IODP が新たな計画として出発するにあたり、地球深部
るべく、巨大地震・津波発生規模の推定方法を見直す必要
探査船「ちきゅう」の運用に関する理事長諮問外部委員
があります。
会として、
「ちきゅう」IODP 運用委員会(Chikyu IODP
また今回の知見は、環太平洋地域での巨大地震/津波
Board: CIB)が設置され、海洋研究開発機構(JAMSTEC)
は全て同一のメカニズムで説明できるわけではなく、各海
が主催し、地球深部探査センター(CDEX)が運営して、
域での特性を理解するためにさらなる調査研究が必要であ
2013 年 7月23 日から 25日まで第 1 回会議が開催されました。
IODP 運用委員会では、1)「ちきゅう」による研究航海
ることも示しています。
今後は、これまでに得られたコア試料や地層物性データ、
の長期計画、2) データ管理、コア管理、出版、広報、能
検層データ等の詳細解析をさらに進めるとともに、国内の
力育成等を含む IODP の枠組みでの計画、3) プロポーザル
みに留まらず、国際的にも今回の新たな知見をもとに、防
(提案書)作成の為のワークショップ開催等に関する支援お
災/減災への科学的な貢献へ資することが期待されます。
よび計画実行にあたる特設チームの必要、などの点に関し
て検討が行われました。
本委員会で明らかになった課題に関しては、関係各所と
調整が行われ、計画への反映が行われます。また、
「ちきゅ
CHIKYU+10 International Workshopの開催
う」IODP 運用委員会は今後も定期的に開催され、国内関
IODP が新たな計画として出発するにあたり、今後地球
係機関および関係各国が同じ目標に向かった協力体制を維
深部探査船「ちきゅう」がチャレンジしていくべき重要な
持します。
科学テーマに関して議論を行うため、海洋研究開発機構
(JAMSTEC)が主催し、地球深部探査センター(CDEX)
が 運 営 の主 体 となって、CH I K Y U+10 I nternat iona l
Workshop を 2013 年 4 月 21 日から 23 日まで東京で開催
72
各部署の概要および主な成果
教育・普及広報
地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削航海と研究
内容を広く理解していただくために、ウェブ動画サイト「ち
きゅう TV」や広報誌「地球発見ウェブマガジン」をはじめ
とした研究活動を伝える情報コンテンツを取材制作し、ウェ
ブを通じて紹介しています。また、テレビを始めとするメディ
アからの取材対応、雑誌その他の媒体への画像提供など
の協力を積極的に行っています。
教育面では、全国各地の学校、科学館等において、地
球・生命科学の基礎知識をもとにした、先端研究の現場の
図 10. スペシャルトークイベントの様子
紹介や、野外実習の活動支援や出前授業、講演を実施し
ています(図 9)。
図 9. 野外実習(Sand for Students)の様子
また、国内外の学会において展示ブースを出展し、
「ちきゅ
う」および研究成果などの発信につとめています。
今年度は 2012 年に行われた IODP 第 343 次航海東北
地方太平洋沖調査掘削(JFAST)の成果公表にあわせ、被
災地を始めとする各所において、ワークショップを開催し、
研究成果の報告につとめています。
また、IODP 新 科学計画における「ちきゅう」の今後
10 年間に取り組むべき深海科学掘削プロジェクトについて、
国民に広く知らせ、計画について考える機会としてもらうこ
とを目的とし、スペシャルトークイベント「冒険宣言 ! 地球の
宇宙へ『はやぶさ』と、
『ちきゅう』と。」を 2013 年 4 月 14
日に東京で開催しました(図 10)。このイベントの様子はイン
ターネット配信されました。
2003 年から 2013 年まで 10 年間行われた統合国際深海
掘削計画 ( IODP) の終了を受け、この計画を総括するシン
ポジウムを行う予定です。
73
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
東日本海洋生態系変動解析プロジェクトチーム(東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS))
概要
2011 年 3 月 11 日に起こった M9.0 の大地震とそれに伴
う大津波によって被災した東北の漁業復興に貢献するた
め、
「東北マリンサイエンス拠点形成事業(海洋生態系の
調査研究):TEAMS」が 2012 年 1 月よりスタートしました。
TEAMS とは、本事業の英語名称「Tohoku EcosystemAssociated Marine Sciences」の略称です。
この事業は、東日本大震災が海洋生態系に及ぼした影
響を把握し、その変動機構を解明するとともに、科学的な
データに基づいた漁業復興の支援を行うことを目的として
います。2011 年度から 10 年にわたって、海洋研究開発機構・
東北大学・東京大学大気海洋研究所の 3 機関が中心となり、
図 1. 釜石沖、水深約 550mの海底谷内で発見した様々な瓦礫。
多数の生物が付着していた。
緊密な連携のもとに調査・研究活動を実施しています。
TEA MS は、4 つの課題と 16 のテーマから構成されて
います。課題 1 ~ 3 では調査研究を推進し、課題 4 では
被災地産業復興への情報発信を進めるための基盤を構築
テーマ 2:資源生物の分布・行動の把握と個体群
していきます。海洋研究開発機構では、このうち課題 3 に
構造の解析:
おいて、海洋調査船や新型の小型無人探査機「クラムボン」
などの様々な機器を使用して、沖合を中心とした調査・研
資源生物の分布・行動を把握するために開発しているバ
イオトラッキングシステムの動作試験を 2013 年 10 月唐丹沖
究を進めています。また、課題 4 ではこれまで積み重ねて
水深 430m にて実施しました。同海域にて採集したズワイ
きた技術や知識を結集して、海の中で「現在、何が起きて
ガニ 10 個体の甲らに小型ピンガを装着し放流、ピンガ信号
いて」、
「今後どうなっていくのか」を解き明かし、その情
を受波する音響基準局を 3 台投入し、トラッキングデータを
報をみなさんに発信していきます。
取得することに成功しました(図 2)
。平成 26 年度以降はさ
以下、私たちの取り組みの内容とその成果の一端を紹介
らに機能を強化し、約 30 個体のトラッキングを目指します。
します。
水産資源として重要なスケトウダラの震災前後に産まれた個
体群の遺伝的多様性を評価した結果、震災前後での多様
性に変化は検出できず、元々生息してしたスケトウダラは震
課題 3. 沖合海底生態系の変動メカニズムの解明
災によって集団が変化していないことが推定されました。
テーマ1:漁場における瓦礫マッピングと分解プロ
セスの解明:
沖合の漁場に瓦礫がどのように分布し、海域の生態系
にどのような影響を与えているのかを明らかにするために、
無人探査機「クラムボン」および「ハイパードルフィン」を
用いて潜航調査を実施しました。その結果、水深 400 〜
500 メートルの海底谷内にはいまだに多くの瓦礫が分布し
図 2.1. バイオトラッキングシステム
ていることを示しました。また瓦礫周辺には生物が高密度
2. 小型ピンガを装着したズワイガニ
3. ピンガ信号を受波する音響基準局
で集まり、さながら魚礁のような役割を果たしていました
(図 1)。宮城県が実施中の沖合底びき網漁業漁場清掃デー
タを解析したところ、瓦礫は沖合に向かうほど少なく、瓦
礫の種類によって分布パターンが異なること、瓦礫の回収
量は震災直後の半分程度に減少していることなどを明らか
にしました。
74
各部署の概要および主な成果
テーマ 3:海洋生物資源(漁場)環境の長期間モニ
テーマ 4:生物の栄養段階と化学物質蓄積評価:
タリング:
海洋に生息する各種魚類の生体中に含まれる化学物質で
2012 年 8 月から 2013 年 10 月の間、岩手県・大槌沖の
ある PCB(ポリ塩化ビフェニル)の組成や濃度をモニタリン
水深 998m の海底にランダーシステムを設置し、流向、流速、
グしています。これまで分析した魚類は、すべて環境省の
水温、塩分、濁度、溶存酸素濃度の環境データの測定と
基準を大きく下回っているだけでなく、地震・津波前と同じ
ハイビジョンビデオカメラによる海底付近のスチル写真、動
レベルにあることがわかりました。またアミノ酸の窒素同位
画の撮影を行いました(図 3-1、3-2)。海水の物理・化学環
体比を用いてそれら魚類の栄養段階も推定しており、P CB
境データを一時間毎に、静止画像を毎日一枚、動画を一週
の生物濃集を知るだけでなく各種魚類の食物網についても
間に一度 3 分間取得しました。得られたデータから、水深
研究しています。32 種の魚類を分析したところ、東北沖で
1000m の海底付近の流れの方向、強さが頻繁に変わること、
採取された魚類のうちもっとも栄養段階が高いのはフジク
水温、塩分や溶存酸素濃度、底生生物の種類は年間を通
ジラで、それは 4.6 であることがわかりました(図 4)。
して大きな変動が見られないことが明らかになりました。
図 4.アミノ酸の窒素同位体比が示す魚類の栄養段階
図 3-1. 14 ヶ月の長期観測を終え、船上に回収されたランダーシステム
図 3-2. ランダーシステムによって得られた画像(クモヒトデ、キチジが写って
いる)
75
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
テーマ 5:生態系ハビタットマッピング:
課題 4. データ管理・公開機能の整備運用
地震・津波が生態系に与えた影響を調べ、生物の生息
本事業により得られたデータを確実に管理し、これらを
場所の地図(ハビタットマップ)を描くことを目標としていま
用いて関連研究者との連携、被災地域ニーズとのマッチン
す。航海で集めた海底地形、生物や瓦礫などの分布情報と、
グ、
被災地域産業復興への情報発信を推進するために、
デー
過去の調査データを合わせ、震災前からの変化を解析しよ
タの共有・公共知化の体制を構築し、迅速な情報提供を行
うとしています。
います。将来的には、各研究機関で所蔵するデータを統合
これまでの研究から、津波の被害が大きかった三陸南側沿
した東北沿岸海洋データベースの構築を目指します。
岸で砂の中に生息する生物やアマモ類の種類数が多かったこ
TEAMS の調査研究で得られた様々な情報は、おもにホー
と、海域の管理様式の違いが回復過程を左右する可能性を
ムページから発信します。2013 年は調査観測の計画・報告
示しました(図 5)。現在、より深い海底の評価のためのデー
情報、調査データ及びその付帯情報や成果情報等を体系的
タ収集と解析を進めています。
に管理・公開するための方針を作成し、それに基づき運用を
開始しました。また、調査観測の計画・報告情報等を収集
するため、本事業のデータポリシーや取得データ等の取扱い
に関する説明会を、参画関係機関を対象として多数開催し、
調査に関する情報収集の円滑化を促進しました。
TEAMS 公式サイト(http://www.i-teams.jp/)では、調
査の計画情報に加えて報告情報を 8 月に公開する等、収集
した情報を着実に公開しています。更に本事業の多種多様
な情報を公開する「調査観測データセット公開システム(仮
称)」の構築を進め、2014 年公開に向け取り組んでいます
(図 6)。
本事業に対する機構の取り組みや調査研究の紹介はホー
ムページ(http://www.jamstec.go.jp/teams/)で公開して
います。また、調査の計画やイベントに関する情報、調査・
研究によりわかったこと、生物や環境の情報などは公式ホー
ムページで公開していきますので、ぜひご覧ください。
2014 年度から始まる海洋研究開発機構の第三期中期計
画では、本事業は「東日本海洋生態系動研究プロジェクト
図 5. ハビタットマッピングの例
チーム」として、東北マリンサイエンス拠点形成事業を推進
する組織として位置づけるとともに、海洋プレートが沈み込
む活動的な縁辺海域に特徴的に成立する動的に変動する
海洋生態系の解明をも視野に入れて、研究開発を進めます。
76
各部署の概要および主な成果
図 6. 調査観測データセット公開システムを用いた公開例
77
独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
3. 賛助会について
海洋研究開発機構の前身である海洋科学技術センターが、1971 年 10 月に我が国の海洋科学技術研究開発の中核的機関
として、産学官の密接な協力と支援により、海洋科学技術センター法に基づく民間(経済団体連合会)発足の認可法人とし
て設立されましたが、これに合わせて研究開発活動について幅広くご理解とご支援をいただくため、賛助会制度が設置されま
した。本制度は、産業界及び各種団体からの寄付を通じたご支援をいただき、日本の海洋科学技術の発展を共に推進してい
くものであり、本制度を通じて海洋科学技術に関する総合的研究開発の推進に必要とされる施設・設備の整備や機能向上な
どを行って参りました。
2004 年 4 月独立行政法人へ改組後も引き続いての本制度を通じた産業界及び各種団体各位からのご理解とご支援の下、
地球を一つのシステムととらえ、地球環境変動の予測研究や生命の起源解明に向けた研究などの一層の推進及びこれらの研
究を支える各種基盤技術開発を行い、数々の研究成果を生み出して参りました。国際的な海洋研究開発のセンター・オブ・エ
クセレンスを目指して、各種研究成果の事業化等を通じた社会貢献を果たすべく、賛助会にご加入いただく会員の皆さまと共に
良き明日を目指すパートナーとして歩んで参ります。
(賛助会費<寄付金>の取り扱いについては、法人税法第 37 条により税法上の優遇措置が受けられます)
● 会員特典
JAMSTEC賛助会におきましては、
私どもが開発して参りました研究開発成果を会員の皆様にご活用していただくために、
様々
な特典をご用意致しております。
・ 各種セミナーやサイエンスカフェ、技術交流会等を通じた研究開発成果に関する情報の提供
・ 研究船や有人潜水艇、無人探査機、等 JAMSTECが保有する各種設備や施設群をご利用いただいてのご会員の技術
開発のご支援等、会員の皆様への事業サポート
・ JAMSTEC 保有施設や知的財産権のご使用における各種優遇措置
・ 会員の皆様の社内研修会等への技術指導者や講師等の派遣による技術提供
賛助会員にご入会いただきますと、これらの特典がいつでもご利用いただけます。
賛助会に関するお問い合わせは、下記までお願いします。
独立行政法人海洋研究開発機構
総務部 東京事務所
住 所:〒100-0011 東京都千代田区内幸町 2-2-2 富国生命ビル23 階
電 話:0 3 -5 1 5 7 - 3 9 0 0
FA X:0 3 -5 1 5 7 - 3 9 0 3
E-MAIL:s a nj o k a i @j a mste c . g o . j p
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賛助会について
賛助会セミナー
サイエンスカフェ「マルカフェ」
「ちきゅう」見学会(清水港興津埠頭)
賛助会見学会 < 広島・呉方面 >
試験潜航視察及び「かいれい」体験乗船
賛助会向け「新青丸」特別公開見学会(晴海埠頭)
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独立行政法人海洋研究開発機構 平成 25 事業年度 年報
賛助会員名簿
平成 26 年 3 月31 日現在、次の企業及び団体の皆様より、賛助会会費、寄付金をいただいております。(五十音順)
株式会社 IHI
五洋建設株式会社
トピー工業株式会社
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
株式会社コンポン研究所
新潟原動機株式会社
株式会社アイケイエス
相模運輸倉庫株式会社
西芝電機株式会社
株式会社アイワエンタープライズ
佐世保重工業株式会社
西松建設株式会社
株式会社アクト
三建設備工業株式会社
株式会社ニシヤマ
株式会社アサツーディ・ケイ
三洋テクノマリン株式会社
日油技研工業株式会社
朝日航洋株式会社
株式会社ジーエス・ユアサテクノロジー
株式会社日産クリエイティブサービス
アジア海洋株式会社
JFEアドバンテック株式会社
株式会社日産電機製作所
株式会社アルファ水工コンサルタンツ
株式会社 JVCケンウッド
ニッスイマリン工業株式会社
株式会社安藤・間
公益財団法人塩事業センター
日本 SGI株式会社
泉産業株式会社
シチズン時計株式会社
日本海洋株式会社
株式会社伊藤高圧瓦斯容器製造所
シナネン株式会社
日本海洋掘削株式会社
株式会社エス・イー・エイ
シーフロアーコントロール
日本海洋計画株式会社
株式会社エスイーシー
清水建設株式会社
日本海洋事業株式会社
株式会社 SGKシステム技研
ジャパンマリンユナイテッド株式会社
一般社団法人日本ガス協会
株式会社 NTTデータ
株式会社昌新
日本興亜損害保険株式会社
株式会社 NTTデータCCS
シュルンベルジェ株式会社
日本サルヴェージ株式会社
株式会社 NTTファシリティーズ
株式会社商船三井
日本水産株式会社
株式会社江ノ島マリンコーポレーション
一般社団法人信託協会
日本電気株式会社
株式会社 MTS雪氷研究所
新日鉄住金エンジニアリング株式会社
日本ヒューレット・パッカード株式会社
有限会社エルシャンテ追浜
須賀工業株式会社
日本マントル・クエスト株式会社
株式会社 OCC
鈴鹿建設株式会社
日本無線株式会社
日本郵船株式会社
株式会社オキシーテック
スプリングエイトサービス株式会社
沖電気工業株式会社
住友電気工業株式会社
濱中製鎖工業株式会社
オフショアエンジニアリング株式会社
清進電設株式会社
東日本タグボート株式会社
株式会社カイショー
石油資源開発株式会社
株式会社日立製作所
株式会社海洋総合研究所
セコム株式会社
日立造船株式会社
海洋電子株式会社
セナーアンドバーンズ株式会社
深田サルベージ建設株式会社
株式会社化学分析コンサルタント
株式会社損害保険ジャパン
株式会社フジクラ
鹿島建設株式会社
第一設備工業株式会社
富士ゼロックス株式会社
川崎汽船株式会社
大成建設株式会社
株式会社フジタ
川崎重工業株式会社
大日本土木株式会社
富士通株式会社
株式会社環境総合テクノス
ダイハツディーゼル株式会社
富士電機株式会社
株式会社関電工
大陽日酸株式会社
芙蓉海洋開発株式会社
株式会社キュービック・アイ
有限会社田浦中央食品
古河電気工業株式会社
共立インシュアランス・ブローカーズ株式会社
高砂熱学工業株式会社
古野電気株式会社
共立管財株式会社
株式会社竹中工務店
株式会社ベッツ
極東製薬工業株式会社
株式会社竹中土木
株式会社マックスラジアン
極東貿易株式会社
株式会社地球科学総合研究所
松本徽章株式会社
株式会社きんでん
中国塗料株式会社
マリメックス・ジャパン株式会社
株式会社熊谷組
中部電力株式会社
株式会社マリン・ワーク・ジャパン
クローバテック株式会社
株式会社鶴見精機
株式会社丸川建築設計事務所
株式会社グローバルオーシャンディベロップメント
株式会社テザック
株式会社マルトー
株式会社 KSP
寺崎電気産業株式会社
三鈴マシナリー株式会社
KDDI株式会社
電気事業連合会
三井住友海上火災保険株式会社
京浜急行電鉄株式会社
東亜建設工業株式会社
三井造船株式会社
鉱研工業株式会社
東海交通株式会社
三菱重工業株式会社
株式会社構造計画研究所
洞海マリンシステムズ株式会社
株式会社三菱総合研究所
神戸ペイント株式会社
東京海上日動火災保険株式会社
株式会社森京介建築事務所
広和株式会社
株式会社東京チタニウム
八洲電機株式会社
国際気象海洋株式会社
東京製綱繊維ロープ株式会社
郵船商事株式会社
国際石油開発帝石株式会社
東北環境科学サービス株式会社
郵船ナブテック株式会社
国際ビルサービス株式会社
東洋建設株式会社
ヨコハマゴム・マリン&エアロスペース株式会社
株式会社コベルコ科研
株式会社東陽テクニカ
株式会社落雷抑制システムズ
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独立行政法人海洋研究開発機構年報(平成 25事業年度)
平成 26年 7月発行
発行・制作 独立行政法人海洋研究開発機構 事業推進部 産学連携課
独立行政法人 海洋研究開発機構年報︵平成二十五事業年度︶
本 部
〒237-0061 神奈川県横須賀市夏島町 2-15
電話(046)866-3811(代表)
横浜研究所
〒236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町 3173-25
電話(045)778-3811(代表)
むつ研究所
〒035-0022 青森県むつ市大字関根字北関根 690
電話(0175)25-3811(代表)
高知コア研究所
〒783-8502 高知県南国市物部乙 200
電話(088)864-6705(代表)
国際海洋環境情報センター
〒905-2172 沖縄県名護市字豊原 224-3
電話(0980)50-0111(代表)
東京事務所
〒100-0011 東京都千代田区内幸町 2-2-2
富国生命ビル 23 階
電話(03)5157-3900(代表)
独立行政法人海洋研究開発機構
平成 25事業 年度
年報
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