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第140号 - とちぎ 地域・自治研究所

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第140号 - とちぎ 地域・自治研究所
『住民と自治』(通巻 617号)9月号付録 2014 年9月1日発行 自治体研究社
と ち ぎ の 地 域 と 自 治
とちぎ地域・自治研究所 所報 第140号
〒3210218 壬生町落合 1-15-5 ポラーノ・どんぐり 103 号 TEL/FAX 0282(83)5060
メール:[email protected] ホームページ:http://tochigi-jichiken.jp
郵便振替 00170-7-251641 とちぎ地域・自治研究所
○ 第 56 回自治体学校 in 仙台に参加して 森島修一 福田道夫
2
○ 消費税のしくみ[第 13 回定期総会記念講演①] 日野川 勇 一
5
第 56 回自治体学校 in 仙台
7月 25 日から 27 日の3日間、第 56 回
ポートを参照ください)。2日目は、2つ
自治体学校 in 仙台が開催されました。沖
の講座、11 の分科会、被災地等で学ぶ4
縄から北海道まで全国から 1000 名の参加
つの現地分科会があり、3日目は、柴崎直
があり、栃木県からは 17 名が参加し、初
昌福島大学教授の特別講演「福島第一原発
参加が7名、そして3名が学校参加を機に
の汚染水問題の現状」でした。憲法に基づ
研究所に加入しました。
くホンモノの地方自治や「人間の復興」を
東北で初めて開催された今回の自治学校
目指す震災復興の取り組みなどを学んだ3
のスローガンは「被災地で学ぶホンモノの
日間でした。
地方自治-わたしたちの震災復興」でした。
1日目の夜には、栃木の参加者で交流会
初日の全体会の記念講演は、杉原泰雄一橋
を開催、初参加者を囲んで、地酒を飲みな
大名誉教授の「日本国憲法の地方自治-こ
がら楽しく交流しました。
の『多重危機』のなかで考える‐」、リレ
ートークは被災地からの報告で、①原発事
故の現状と自治体の役割(馬場有福島県浪
江町長)、②地域の中の保健師(岩間純子
大槌町地域包括支援センター主任主査)
、
③日常を取り戻すために、日常を失わない
ために(小島直弘・河北新報社報道部デス
ク)でした(概略は、2頁からの参加者レ
1
記念講演のテキストで、自治体学校でベストセラーになった本です。
注文は、FAX 0282(83)5060 かメール:[email protected] まで、送料無料です。
自治体学校in仙台に参加して
森 島 修 一(茂木町議会議員)
私は茂木町で町議会議員を勤めさせてい
ただいております。一期目ということもあ
り、まだまだ勉強不足ですので、同僚議員
の誘いもあり、今回初めて自治体学校に参
加させていただきました。また、私は
1986 年に発生したヂェルノブイリ原発事
故の頃より、反原発の意識が強く、代替エ
ネルギーに関心がありました。今回の自治
体学校は震災後の被災地のひとつである仙台
市において、復興をメインテーマに様々な分
野において専門的講座が組まれており、福島
第一原発の現状や再生可能エネルギーの分科
会があったことが参加の決め手となりました。
初日に行われた原発災害の現状と自治体
の役割についてのリレートークは、東海村
原発から 30km強の圏内にある我が茂木
町にとっても、今後考えなければならない
事例も多く、今後の町づくりの上での参考
になりました。涙ながらの事例発表には、
会場でも目頭を拭う姿も見られ、震災当時現
場にいた方々のリレートークは、持ち時間が
もう少しあっても良かったと思えた程でした。
浪江町長の馬場有さんのお話には、当時
原発事故の情報がまったく入ってこなかっ
た状況に翻弄された町の対応が、結果的に
裏目に出たり、また救える命も救えなかっ
たという町長の苦しい、悔しい胸の内が響
いてまいりました。津波の大災害発生に伴
い「津波てんでんこ」と言う、ややもする
と誤解されがちな津波から生き延びるため
の標語が注目を集めましたが、これには
「自分たちの地域は自分たちで守る」とい
う主張も込められており、大災害の発生に
対し、いかに各自治体が日頃から有事を想
定し、国や県などに頼らない情報収集、現
状把握に努め、独自に地域住民を守る対応
策を練っておけるかが重要であると気付か
されました。
2
二日目の分科会におきましては、「原発
ゼロをめざし、再生可能エネルギーをいか
す地域をつくる」として大友詔雄さんの講
演をメインとし、再生可能エネルギーの先
進地の事例発表が行われました。自然エネ
ルギーの先進国であるドイツを始めヨーロ
ッパの国々の事例を交え、再生可能エネル
ギー、特にバイオマスに関する最新の情報
や動向なども知ることができました。
我が茂木町は現在、雇用の増加、人口減
対策、経済の活性化などが急務であり、待
ったなしの状況にあります。その対応策と
して、この再生可能エネルギーへの取り組
みは、新たな町の産業となりえないか?今
回はその答えを見出せる絶好のチャンスと
して捕らえておりました。ドイツなどでは
数多くの地方自治体で再生可能エネルギー
の自給率が 100%を超え、その他にも完全
自給を目指す地域は多く、2050 年にはド
イツ全体で 86%のエネルギーを再生可能エ
ネルギーにしていく計画だということです。
再生可能エネルギーを生み出す技術は完
成度も高まっているようですが、その技術
的システムだけをそっくりそのまま日本に
持ってきても、日本のエネルギー政策の転
換や法制度の見直し、自治体への権限の委
譲を進めないと成功しないのではないかと
感じました。再生可能エネルギーに積極的
に取り組む岩手県葛巻町の事例発表も、そ
の取り組みに感心はいたしましたが、一方
で少子高齢化、人口減少、雇用の確保等ど
のような改善が見られたのか踏み込んだ報
告はなく、近いうちに政務活動として現地
に伺うことにし、同僚議員と話を進めてい
るところです。
三日目の福島第一原発の汚染水問題の現
状の講演も、現段階における付け焼刃的対
応の状況を伺い、いったん事故が起こった原
発が手におえない状況になる様を見ても、脱
原発を早急に進めるべきだと強く思いました。
最後になりましたが、会場となった仙台
市は自然豊かな街並みと、人々の活気ある
様子に会場に向かう間にも、その様子を垣
間見るだけで勉強になった気がいたします。
また、集まった皆様、特に栃木県の皆様に
は気さくにお付き合いを頂き、初めての参
加にもかかわらず、楽しく有意義な三日間
を過ごせたこと感謝申し上げます。
第56回自治体学校in仙台に参加して
福 田 道 夫(日光市議会議員)
◆ 憲法と地方自治論を正面から学ぶスタートに
4月13日から議員活動が始まりました。 える」杉原泰雄先生の講演は、憲法の専門
党機関の役員から議員になり、地方自治と
的な言葉もあり、少し難しかった。今、ブ
議会の対応、生活相談などバタバタした活
ックレットを読み返して理解を深めています。
動のなかで、憲法、地方自治を基本から学
被災地からの「リレートーク」は、1)
びたいと、はじめての仙台で、初参加の自
「原発事故の現状と自治体の役割」馬場
治体学校です。
「被災地で学ぶホンモノの
有・浪江町長。2)「地域の中の保健師」
地方自治」を学ぶために参加して来ました。 岩間純子・大槌町地域包括支援センター主
学んだこと感じたことを報告します。
任主査。3)「日常を取り戻すために、日
初日の全体会の記念講演、「日本国憲法
常を失わないために」~被災地「東北」か
の地方自治、この『多重危機』のなかで考
ら全国に向けて、小島直弘・河北新報社報
3
道部、震災取材担当デスクからリアルな報
参加し、「現場から考える実践的地方自治
告があった。
論」渡辺繁博氏の講義を聞きました。
2日目は、講座「基本の『き』から学ぶ
3日目の全体会は、福島第一原発の汚染
憲法・地方自治の生命力」・池上洋通氏に
水問題の現状報告が詳しくありました。
◆ 安倍反動政治から憲法を守り、住民の生活を守るために
杉原泰雄氏(一橋大学名誉教授)の講演
で学んだこと。
◇ 憲法問題で、
「戦争の放棄」
、
「地方自
治」をなぜ軽視してきたのか
憲法政治において、「戦争の放棄」が堅
持されたのは最初の3年間だけだった。そ
の後、警察予備隊、保安隊、自衛隊が設置
された。この軍隊は、イラク戦争に派遣さ
れた。「戦争の放棄」を放棄する憲法政治
は、
「ルールなき日本」の象徴である。
財政制度による自治体支配と、地方公共
団体は中央組織の下部組織という状況。憲
法学会でも、国民の政治意識でも中央政府
の政治こそが政治の中心であり、地方自治
は重要度が低いものという考え方がある。
◇「多重危機」を乗り越えて、「日本自治
大学」の創設を提案
日本の憲法政治は、反憲法的で反歴史的
な軍拡と新自由主義の政治を推し進めてき
た。そうしたなかで、①「リーマンショッ
ク」
、②東日本大震災と原発事故、③立憲
主義を無視する最悪の反憲法政治が進んで
いる。このような「多重危機」には、対応
策の確立が急務である。
憲法で軽視されてきた「地方自治」から、
憲法の求める「地方自治」をどう具体化す
るか。このままでは、1、東日本大震災・
大津波・原発事故からの本格的な復興がで
きるか。2、地震・津波・原発大国日本の
類似事故を阻止できるか。3、放棄田畑・
山林の大規模な自然災害の阻止ができるか。
4、軍拡とアベノミクスから住民の生活を
確実に守れるのか。5、日本の生活・産
業・文化の発展をはかれるかと問題提起。
憲法と地方自治を軽視してやまない政治
から、抜本的な転換を図ることなしに実現
はできない。そのために、民主的な自治体
研究所に参加する人たちが、地域・地方自
治に焦点を合わせて、憲法、法律、経済、
財政、生活・産業・文化などについて本格
的な研究・教育の場を用意し、地域・地方
自治の発展のために必要不可欠な理念・理
論・技術・その担い手を創出することが課
題である。その実現めざして、東北の地に
「日本自治大学」を!と提唱した。
◆ 被災地の自治体職員としての決意に感動
被災地からの「リレートーク」のなかで、
大槌町地域包括支援センターの岩間純子さ
んの話は、被災者そして職員でもある思い
と苦悩が紹介された。
大槌町役場は、町長をはじめ 40 名の職
員が震災の犠牲になった。岩間さんは、震
災のとき隣町で研修会を開いていた。すぐ
に役場へ向かうため同僚3人と海岸線を車
で走った。その同僚3人は震災の犠牲にな
った。岩間さんが避難した場所は救護所と
なり、最初の仕事は、遺体の安置場所の確
保だった。保健師としての本来の仕事は、
より良く生きるための支援であるはずが、
いっぺんに生と死を受け入れなければなら
ない状態に「無力感」を感じた。自分が生
きていることを考えると、いっそ消えてし
まいたいと何度も思った。わが子4人と一
緒に暮らせるようになったのは、震災から
4ヵ月後。自治体職員であることを優先さ
せた結果である。
4
保健師の仕事とはなにか。災害復旧に追
われる日々が続き、「何をなすべきか」方
向性を失い、焦燥感が巡った。今回の災害
を経験し、災害に備える力と体制の構築。
保健師の専門性の理解と協力が今後の課題。
全国から 560 人の保健師が支援に入って
くれた。「保健師」と言うだけで、住民に
受け入れられた。保健師とは、地域にとっ
て生活を支えるかけがえのない職種である
ことを再認識した。住民の本当の笑顔が見
られる日が来るまで、自治体職員として、
住民の生存権を保障する支援をしていく。
と決意が語られた。
◆ 自民党改憲案NO 住民が主人公の地方自治を
2日目の講座は、憲法原則をことごとく
踏みにじる安倍政権の反動政治と自民党改
憲案の危険な中身を学習し深めることがで
きた。また、自治体の現場で起こっている
改憲策動の先取り事例が紹介された。
安倍政権は、秘密保護法、
「集団的自衛権」
の閣議決定を強権的に推し進めている。これ
は、自民党改憲案を先取りした暴走である。
渡辺博繁氏から自治体現場からの実践的
地方自治論、「いくつかのエピソード」報
告があった。
「参画と協働のまちづくり」の考え方か
ら市民参加で実施計画を決めたのに、全く
違ったことを提案し決定してしまった自治
体。子ども医療費助成(無料化)に、地方
税、国保税、保育料などの完納を条件要件
にしている自治体。公民館の館報に、市民
が選んだ「9条を守れ」が入った俳句を掲
載しない自治体など。
地方自治の機能と役割は、民主主義の基
盤作り、自治体の基本機能として、住民が
主権者として生きることを保障する機能を
持つこと。人間の日常生活圏としての地域
を守り発展させる役割を持つこと。
地方自治と社会進歩は、地方自治の力で
自動車産業の今を作ったこと。大都市圏に
革新自治体をひろげ、住民運動とその力で
「排ガス規制」を実現した。低公害車の技
術は世界より 10 年早い。社会の変化は、
一部の地域から始まる。人間の幸福と社会
進歩に果たす地方自治体の役割を再認識し
たい。と結んだ。
私は、自治体学校に参加し、議員として
憲法と地方自治について、「どれだけ学ん
でいるのか」と問われていると思った。情
勢が大きく変わるとき、しっかり憲法の立
場を堅持することの大切さを学ばされた。
行政と議会の関係では、常に「住民が主人
公」の政治をすすめることが歪められない
ように奮闘したいと決意を新たにしました。
第 13 回総会記念講演①(2014.5.29)
消費税のしくみ
日野川 勇 一(税理士)
はじめに
今日は消費税のしくみという話ですが、
みなさんのお手元には消費税増税を特集に
した「住民と自治」誌5月号(以下、単に
「住民と自治」と記します。
)が届いてい
ると思いますけれども、ここに掲載されて
いる諸論考も参考にしながら話を進めたい
と思います。
また、消費税のしくみと併せて県内経済
5
の影響についても話すようにとのことでし
たので、具体的に県民生活にどんな影響が
出てくるのか、県庁に行って資料も見たん
ですけれども、なかなかそれらしいものは
見つかりませんでした。住民と自治での東
京都の山本さんの論考では、東京都におい
1 消費税増税転嫁
ては、バスとか水道、電車等の公営交通、
公営企業の条例を改定して値上げをしてい
るということがあるんですが、栃木県にお
いては、公営企業は少ないので、今後どの
ように影響していくか、検討していく必要
があるのかなと思います。
消費税のしくみで、私もそうなんですが、 ことでも転嫁できるかどうかということに
税の転嫁がスムーズにいっていると思って
なるということです。
しまうんです。図1のように、製造業者、
ですから、この消費税という税金は、事
卸売業者、小売業者、そして消費者という
業者間において強い者が有利で弱いものが
順番で物品あるいは役務が転嫁していくと
不利、それから消費者と販売業者との間で
いう中で、当たり前に5%だ、今度は8%
も立場の強弱があります。特にそれが大手
だというふうに貰えるものだと思ってしま
のメーカーになると、露骨になって、もっ
うんです。あるいは払うべきだと思ってい
と努力して単価を下げろとかなるわけです。
るんですけれども、実際のところは、買う
それをマスコミでも言うわけです。努力が
ときに安くしてよとか、あるいは幾ら幾ら
足りないから中小業者はなかなかコストを
でやってよという形になっていて、消費税
下げられないんだと。もっと勉強して、何
が5%だから上乗せして払っているという
とかコストを下げるように努力しろという
ことではありません。そして、スーパー等
ふうに責められるわけです。何か自分の責
で買い物をするときも、消費税込みの総額
で処理されていますから、いちいち5%の
任でそうなのかなと。じゃあ、まけてやっ
ても仕方ないかなという感じになってしま
消費税が入っているな、8%入っているな
うわけです。そういうことで、この転嫁の
というふうに誰も彼もが考えて買い物をし
問題は、消費税が不公平税制である一番の
ています。消費税が含まれているものとし
根幹をなすのではないかと考えています。
て買い物をしているんです。ところが、力
私もそうでしたけれども、お客さんに
関係などがあって、いつも顔を付き合わせ
は申告期限が来たときに5%を納めなけれ
・
ている人から
・
・
・
まけてよとか言わ
・
・
・
図1 消費税のしくみ
れると、まけてあ
げたいなと思うの
が人情です。それ
から、強いものと
弱いものとか、仕
事を出すものと貰
うものとかの立場
の違いで、優位に
立つか否かという
6
・
・
ばいけないので慌てて納税資金の準備をし
がしつこく集めて歩くんです。だから、滞
ろといっても、普段から自転車操業ですか
納額は年々増えてはいるんですけれども、
ら、それだけの余裕資金はありません。な
目立って増えているほどではないので、あ
るべくなら普段から消費税分として税金を
まり騒ぎ立てないわけです。また、あまり
別に取っておいてくださいと、ついついこ
騒ぎ立てると、納税者の方が反旗を翻すの
ちらも国の宣伝に乗せられてしまう傾向が
で、あまり宣伝もしなければ公表もしない
あります。これは本当に錯覚してしまうん
ということです。
です。ちゃんとスムーズに転嫁されていっ
この転嫁の問題については、国もなか
て、最終段階の申告する業者が、それまで
なか転嫁は容易ではないということを認め
順次貰ってきた消費税を納めるんだから納
ているんです。ですから、少し長たらしい
税するお金がないということはないかと思
法律ですけれども「消費税の円滑かつ適正
うんですけれども、実際のところは、今申
な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害
上げたように転嫁していないという問題が
する行為の是正等に関する特別措置法」
あります。
(消費税転嫁対策特別措置法)が平成 25
それで一番の問題は、日本の消費税は
年 10 月 1 日に施行されました。商工会議
帳簿方式なんです。帳簿で集計して、お客
所等で実態調査をしたところ、転嫁が難し
さんからいただいた売り上げに含まれてい
いあるいは転嫁が全部できるわけではない
た消費税、それからいろいろな経費に掛か
という回答があったりして、半分くらいが
った消費税、それとの差し引きでプラスに
転嫁ができないか、あるいは難しいという
なれば納めると、マイナスになれば還付さ
回答を寄せています。ですから、商工会議
れると、そういうふうに帳簿で計算するん
所も、円滑に転嫁されるように今から手を
です。ですから、一年経ってみないと分ら
打ちなさいというので、法律が施行された
ないわけです。もちろん、普段から月次の
25 年 10 月あたりから商工会や商工会議所、
試算表というのを作って、売上に対する消
中小企業庁と消費者庁といったところが、
費税と諸経費の消費税を突き合わせてみれ
もし取引先にお願いして相手先が難しい顔
ば、累計として幾ら消費税を納付しなけれ
をしたら、中小企業庁なり消費者庁に訴え
ばいけないというのが分ります。しかし、
てくださいと言っています。しかし、果た
仕事に追われている小規模事業者は、丼勘
して自分がこういう目に遭っているから何
定でやっていますから、なかなかこれが消
とかしてくださいと、役所で指導してくだ
費税分ですよと、そして申告期限、納付期
さいということをお願いできる業者がどれ
限になったら、それだけ納めるんですよと
ほどいるかということです。もし、どこか
いうのが頭では分かっていても、実際のと
の事業者がそれを持ちかけた、相談窓口に
ころそのお金はないですから、いざ納付と
行ったとなると、そのしっぺ返しが恐ろし
いう時になると、深刻な問題になってくる
いから大概は泣き寝入りになっていると思
ということです。
いますが、それなりの苦情は寄せられてい
ですから、年々滞納額が増えているん
るようです。ただ、これはあくまでも指導
です。国は滞納額が増えているということ
ということです。この間、新聞に転嫁の問題
をできるだけ発表しないで、徴収の担当者
でどこか大きいところの名前が載っていまし
7
たけれども、それは氷山の一角で、随分これ
を開いてアンテナを張ってそういうものが
から出てくるのかなというふうにも思います。 ないかどうか、そういう対策を取ってくだ
私自身も税理士として、中小企業庁から
さいというような案内も来ています。それ
経営革新等支援機関という認定を受けてい
だけ転嫁の問題というのは、消費税にとっ
るのですが、中小企業庁から私宛にも窓口
2 消費税法はリストラ推進法とも言える
次は、
「消費税法はリストラ推進法とも
言える」ということです。図2は、住民と
自治に掲載されていたものです。
先程、申し上げたように、日本の消費税
は帳簿方式です。帳簿の中に保険を払った
とか利息を払ったとかあるいは給料払った
ということで、
「仕入れ税額控除」といい
ますけれども、収入の方の消費税から控除
できるものとして、大概のものは控除でき
るんです。ここで問題にしているのは、人
件費です。給料を払えばそれは不課税とい
うやつで、消費税は掛りません。不課税の
ほかに非課税というのがあります。医療行
為をすれば保険収入が入ってきます。その
公的保険収入、診療報酬は非課税になって
います。これは不課税とは別です。
少しややこしいのですが、不課税、非課
税、それから免税というのもあります。人
件費は不課税なので、消費税の税額計算を
するときに控除になりません。この図でい
いますと、5000 億円の売上に8%かける
と 400 億円になります。これが帳簿からく
て一番の問題だということだと思います。
る売上に対する消費税です。
次の仕入れ 1000 億円ですが、原価とし
てもちろん引けますけれども、それの8%
で 80 億円、それから諸経費 1000 億円の
8%で、これも 80 億円、それから外注費
500 億円の8%で 40 億円、それと人件費
2000 億円は不課税ですから、社員に給料
払う場合のところを見ていただければ分る
ように、消費税はありませんから控除する
ものはありません。それで社員給与として
払った方の納税額は 200 億円になります。
その右隣の派遣に置き換え外注費として払
う場合ですが、2000 億円払うと、160 億円
の消費税が計上できますから、納税額は
40 億円になります。納税額が 160 億円も
減ってしまうわけです。
ですからこの消費税が導入された後、
どんどん派遣の方に人材を移したわけです。
そして今もってそのうま味を知っています
から、労働法制を変えているということが顕
著に表れているわけです。こういう面でも消
費税は、大変な不公平税制であるといえます。
図2 消費税の計算
8
3 日本の消費税は間接税か
次に、日本の消費税は果たして間接税
かという問題です。私たちが消費する酒と
かたばことかは製造する業者が蔵出しとい
って、製造するところで、酒税は幾ら、た
ばこ税は幾らと計算して蔵出しするわけで
す。最終的にその利用者、消費者がそれを
負担するわけです。これが間接税といわれ
るものなんですけれども、今の日本の消費
税は、転嫁も不十分ではっきりしていない
などの問題があって本当にそういう間接税
になっているのかということです。
これが間接税といえるかということは、
消費税で有名な湖東京至先生とかが書いて
います。1948 年にガット協定というのが
できました。これは貿易上の障害を軽減な
いし撤廃することを目的としたものでした。
当時、フランスは付加価値税みたいなもの
をやっていたんですが、その時は、まだ直
接材料費だけしか輸出した物品から控除し
ていませんでした。自分のところの間接税
ですから、他の国に輸出するときに、自分
のところの間接税を上乗せするわけにはい
きません。ですから 100 万円したものを国
内で売れば 108 万円で売らなければなりま
せん。ところがアメリカに輸出するときに、
アメリカは外国ですから、自分の国だけが
8%適用で相手国には8%を上乗せできま
せん。そうすると 100 万円は 100 万円で持
っていくという取引になります。
1954 年にフランスが始めたのは、それ
まで直接材料費だけ還付していたのを、今
までかかっていた付加価値税を全部還付し
ますということです。ガット協定は、そも
そも貿易上の障害を取り除くということな
ので、輸出するときに付加価値税を掛けな
いで売り出すので売り上げは零税率になり
ます。フランス国内でフランス国民に売る
場合は、20%なり付加価値税を上乗せて消
費させるけれども、アメリカに輸出する場
合は、100 万円のものを 20%上乗せするこ
とはできませんから、そのまま 100 万円で
輸出します。そうすると今度は、フランス
の業者はそれまでの段階で付加価値税を直
接材料費だとか何だとかということで経費
で払ってきたわけですが、それが今度は、
どうなるんだという話です。
それでフランスが考えたのは、今まで
かかっていた付加価値税を全部返しますと
いうことにしたわけです。これがいわゆる
間接税です。フランスやドイツもそうです
けれども、皆んなインボイス(請求書等に
適用税率・税額の記載を義務付けたもの)
を使って確かに付加価値税が含まれていま
すと順次インボイスを渡すわけです。それ
を基に申告の時に幾らいただいた、幾ら払
ったというのが明瞭ですから、計算できる
わけです。ところが、日本の場合は、イン
ボイスではなくて帳簿ですからハッキリと
分らないわけです。それで、フランスは間
接税だとして、今まで払ってきただろう付
加価値税をそっくり還付するということを
考えたわけです。今はそれを全部やってい
ます。ドイツもイタリアもスウェーデンも
そうです。そもそも間接税は、輸出の時は
上乗せできないので、その品物については
今までかかったものは一切還付しますよと
いうのが付加価値税というやつです。誰が
得するかというと、今まで払ってきたと思
われる付加価値税を国から戻してもらう輸
出業者です。確実に国から税金として還付
されるわけです。これほど輸出巨大企業に
とっていい税金はないということです。
住民と自治の湖東先生の論考の中に上
位 10 社の輸出巨大企業の還付金がいくら
かという表が載っています。
9
2012 年度の5%の時は幾ら、2014 年度
の8%の時はいくら、2016 年度の 10%の
時は幾ら、2012 年度のトヨタ自動車の輸
出戻し税は 1801 億円です。桁外れの金額
ですけれども。これがトヨタの本社がある
税務署に還付申告しますと国から文句なし
に還付されるわけです。これだけ確実な話
というのはないんです。しかも今まで5%
だった、そして来年 10 月からは 10%にな
るわけです。単純に考えると 1801 億円の
倍 3602 億円戻ってくるわけです。なぜ財
界が消費税増税の推進をするのかというの
はここに理由があったわけです。
これは逆に、アメリカにとっては面白
くない話なんです。アメリカには連邦政府
の付加価値税というのはありません。州税
として小売売上税という間接税があります。
小売売上税ですから消費者に売って預かる
と、その業者が納めるということです。払
うのは消費者・需要者で、納めるのは預かっ
た業者、これは正しく間接税というやつです。
何故アメリカは面白くないか。日本の
自動車をアメリカに輸出した場合は 2.5%
の関税をかけますよと日本と協定を結んで
います。直接税で国から補助金を出して企
業を保護するのは禁じられているんだそう
です。それを今度は黙っていても、トヨタ
とかが還付をしてもらうことによって日本
の企業は保護されているわけです。間接税
となると、それが世界の常識といいますか、
当たり前になっているので、日本からアメ
リカに輸出すると、トヨタは輸出戻し税を
もらうので、価格競争力からいうとアメリ
カは損をしてしまうわけです。本来ならば
108 万円の車を日本で販売しているのに、
アメリカでは 100 万円で売れるので、アメ
リカの自動車業界は、価格競争力において
は不利になるわけです。
これも最近出た本ですけども「アメリ
カは日本の消費税を許さない」(注:岩本沙
弓著、文春新書、2014.1)という本がありま
す。アメリカにとっては、本当に面白くな
い話なんです。それでトヨタあるいはホン
ダとかの日本の車の関税をもっと上げたい、
だけどもすぐさまそれをしないで、逆に報
復をするんです。どういう報復があるかと
いうと、この本に「消費税と日米通商交渉
の歴史」という表があります。
1989 年に消費税が導入されました。左
の欄では消費税の歴史ということですが、
その中で法人税率がどんどん下がっていっ
ているという紹介があります。右の方は日
米通商交渉の歴史です。ご存知のように日
米構造協議というのがありました。そこで
は、単品ごとに牛肉だとかオレンジたとか、
あるいは自動車の関税を下げろという交渉
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をしていました。それが
1994 年になってきます
と、年次改革要望書とい
うのが出てきます。これ
には何の関税を下げろと
か、市場開放をしろとか、
規制緩和しろとか、そう
いう項目が載っているわ
けです。それに対して日
本の政府は、努力します、
努力しますということで、
どんどん受け入れてきま
した。1997 年、消費税
が5%になった年ですが、
この時は、金融ビッグバ
ンというのがありました。
外国為替購入銀行という
外国為替を扱える銀行が
公認されていたのですが、
それをなくせと、金融ビ
ックバンということで、
どこの銀行でもといった
ら大げさですが、始まっ
たわけです。今、FXと
いって為替の取引が自由
化されました。
さらに鳩山内閣が誕生した 2009 年にこ
の年次改革要望書が廃止になりました。民
主党ですから、それまでのアメリカのしが
らみを外したいというのもあったんでしょ
うけれども、その後の菅さんの時に、日米
経済調和対話というのが始まっています。
これは今見たような年次改革要望書を更に
受け継ぎ、加えてTPPも含めたような内
容のものになって、日本に突きつけてきた
わけです。
今問題になっているTPPですけれど
も、前の野田首相が交渉に参加することを
約束したわけですけれども、とにかく消費
税絡みでアメリカとの関係がアメリカの言
いなりになってきているわけです。消費税
増税というのは国内問題なんですけれども、
アメリカにとっては国際問題で、日本の安
いものがどんどん入ってくる、関税を変え
ないと負けてしまうということで、逆に日
本の関税を下げろというふうに言ってきて
いるわけです。ですから、今毎日のように
テレビでTPPの話が出ていますが、関税
を下げろと、オーストラリアも日本に牛肉
の関税はもっと下げて欲しいとか、とにか
く日本の関税を下げろという通商交渉が激
しくなっているわけです。
ですから、ただ単に日本の消費税増税
が日本国民を困らせるだけではなくて、ア
メリカをはじめとする要望が日本の農業破
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壊に繋がる、あるいは医療とか保険に打撃
になってくるんです。日本のいわゆる簡保
とかをどんどんなくしていきたいというの
4 非課税制度について
がアメリカの要望ですから、TPPを許し
たら本当に大変なことになってくるだろう
ということは明らかです。
最後になりますけれども、先程申上げ
載っていますけれども、今、政策的にも病
たように消費税は少し厄介なところがあっ
床を減らすということで、病院経営が大変
て、非課税、不課税、それから免税があり
厳しくなっています。社会保険診療の改定
ます。免税というのは、輸出業者が輸出す
があって少し上がりましたけれども、それ
るときに消費税を上乗せできませんから、
以上に消費税の負担が大きいので、実質マ
今まで払ってきただろうと思われる消費税
イナスだというふうに言われています。病
は還付しますよというものです。逆に、非
院経営では、非課税というのは免税と違っ
課税というのは、病院経営とかあるいはア
て還付制度がないんです。先程のトヨタと
パート経営の事に触れておきましたけれど
は違って、病院が患者さんからいただける
も、住宅の貸付は非課税です。入居者に家
社会保険診療の収入は消費税は非課税です。
賃がいくらと設定します。その後、エアコ
一方で、医療器具の購入費の中には消費税
ン等の器具を取り換える、水道を直すとい
が含まれていて、増税で負担になってきま
う時に、それは全部貸主の自己負担になり
す。そうすると、経営を圧迫するので優秀
ます。それを一々お客さんからこれだけ掛
な人材が集めにくくなってきます。集める
かったからということで貰えれば別ですけ
資金が無くなってくるんです。そういうこ
ども、大概は貸主が負担しますので経営を
とで、いろんなところに悪影響が出てくる
圧迫する元になります。
と思われます。
顕著なのは病院です。住民と自治にも
5 おわりに~消費税を廃止に
やはり住民と自治に、カナダの例が載
っています。カナダでは7%で始まって、
6%に下がって、今は5%になっています。
カナダは国境を接してアメリカと取引して
いるので、あまり盾付けないということが
あるようです。しかも、導入したその後の
選挙で与党の進歩保守党は 162 議席から2
議席に減ってしまったと、それだけ国民が
増税反対との意思表示をしたということだ
ろうと思います。この間のフランスの大統
領選挙でも、サルコジが 21%に上げるん
だというふうに発表したら、落選してしま
ったわけです。一方、当選したオランド大
統領は政権公約では上げないといっていた
のが、政権に就いたら上げると発表したん
です。それほどの上げ幅ではないんですけ
れども、それが国民の批判を受けて、20%
くらいの支持率に下がったわけです。歴代
大統領の中で一番支持率が低いという結果
にもあるように、やはり税金の問題という
のは、本当に命取りになるようなものでも
あるんです。ですから、私はもっと国民が
声を大にしてカナダから学ぶ、あるいはフラ
ンスから学ぶということをしていって、是非
ともこの消費税を元に戻すとか、廃止にする
とか、そういうことにしていきたいなと思っ
ていますので、皆さん一緒に頑張りましょう。
(本稿は、講演録をもとに事務局が編集した
原稿に、講演者が一部修正して作成したもの
です。文責は事務局にあります。
)
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