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Untitled - 野村不動産投資顧問
Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 要 約 首都圏の新型大規模物流物件に対する需要は依然旺盛であり、2012 年 11 月末時点の空室率 は 4.3%まで低下した。こうした市況を背景に海外投資家の潤沢な資金が流入、国内大手不動産 会社の本格参入や圏央道の開通による物流適地の拡大で供給拡大の素地が出来上がった。供 給量は 2010 年を底に 2011 年から上昇に転じ、2013 年は過去最大の供給が予想される。 2013 年の大量供給が市場に与える影響は予断を許さないが、2013 年竣工予定の賃貸床の半 分弱はテナントの見込みがついている。大量供給が潜在需要を喚起し、首都圏の平均空室率は わずかな上昇にとどまるものと予測される。旺盛な需要を下支えするものは、急伸するネット通販 などを始めとする消費関連貨物であり、これらは景気の影響を受けにくい。さらに新型大規模物 流物件のストック量は未だに首都圏のストック総量の 1 割に過ぎず、物流システムの効率化や高 度化を求める需要を集めて堅調に推移するものと思われる。 首都圏の大規模物流施設マーケット [供給動向] ・ 2010 年の 15 万坪を底に、2011 年 26 万坪、 2012 年 28 万坪と順調に回復 ・ 2013 年は 2000 年以降最大の 65 万坪の供給が予定されている ・ 前回ピークの 2008 年と比べ、2013 年は自社物件の比率が増加 ・ 年々大型化が進み、2013 年は XL クラスの供給が過去最大に [賃貸物件の動向] ・ 2012 年の賃貸物件の供給量は 14 万坪、2013 年は 48 万坪に急増 ・ 2012 年以降の供給は「神奈川内陸部」が多い ・ 首都圏の平均空室率は、2010 年 7.2%、2011 年 5.2%、2012 年 4.3%と順調に低下 ・ 2012 年 11 月末時点の空室率は全てのエリアで 10%以下に ・ 2013 年の平均空室率の試算値は 12.9%だが、同年竣工分でテナントが見込まれている床 面積を織り込めば、2012 年とほぼ同様の水準にとどまる。 [需要動向] ・ 貨物輸送量は減少基調だが、消費関連貨物は引き続き増加基調 ・ 東京圏の大規模物流施設を利用する荷主の 68%が消費財を扱う荷主である ・ ネット通販の市場規模は 8 兆円と、コンビニエンスストア市場と同規模に急成長 ・ ネット通販のなかで物流に直結する小売業の市場規模は 4.5 兆円 ・ ネット通販では専門業態が急成長し、市場占有率が高まっている ・ 高齢者のネット普及率上昇や同市場への異業種参入がネット通販市場の成長を後押し ・ 「低コスト」と「早期配送」を求めるネット通販業者は新型大規模物流施設を選択 1 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 目 次 レビュー 2013 年冬季号 首都圏物流施設マーケット動向調査 (2012) はじめに ........................................................................................................ 3 1. 供給動向 ................................................................................................. 4 1-1 大規模物流施設の供給動向....................................................... 4 1-2 エリア別供給動向 ........................................................................ 5 2. 賃貸物件の動向 ..................................................................................... 7 2-1 賃貸物件の供給動向 ................................................................... 7 2-2 空室率の動向 ............................................................................... 8 2-3 2013 年の空室率水準予測 .......................................................... 9 3. 需要動向 ............................................................................................... 11 3-1 物流輸送量の概況 ..................................................................... 11 3-2 首都圏大規模物流施設の荷主業種 ......................................... 11 3-3 ネット通販の市場規模 ................................................................ 12 3-4 小売業関連ネット通販 ................................................................ 13 3-5 ネット通販の成長性 .................................................................... 14 3-6 ネット通販と大規模物流施設 ..................................................... 15 3-7 地方活性化と物流施設 .............................................................. 17 おわりに .................................................................................................... 19 付属資料 ..................................................................................................... 20 2 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 はじめに 供給量は急回復、2013 年は 2000 年以降最高水準に 2012 年の首都圏の物流施設マーケット*1 は昨年の見通しを上回る供給があった。供給量が増加 した理由としては、海外投資家の潤沢な資金流入や国内大手不動産会社の本格参入のほか、圏 央道をはじめとした交通インフラの整備が進み、物流施設適地が大きく拡大したことなどが挙げら れる。こうした流れを受けて、2013 年後半にかけて大規模物流物件の供給が本格化し、2000 年 以降で最高水準の大量供給が予定されている。 物流総量は減少傾向だが、新型大規模賃貸施設の需要は堅調 物流量全体は減少傾向が続いているが、新型大規模物流施設に対する需要は引き続き堅調で ある。2000 年初頭から首都圏で約 150 棟余りの大規模賃貸物件が供給されたが、ほとんどが入 居率 100%であり、近年では BTS*2 のような特殊仕様でなくとも、着工前にテナントが決まるケース が増えている。XL クラス(3 万坪以上)*3 の超大規模施設も同様である。 2013 年の大量供給はマーケットにどの程度の影響を与えるか? 今回のレポート*4 では、2013 年の大量供給が、過熱気味の首都圏物流マーケットに与える影響 を考察したうえで、エリア毎の影響も検討する。 1 章では、新規供給(自社物件+賃貸物件)の最新動向を、2 章では、賃貸物件の動向を調査・ 分析した。3 章では、需要動向調査をもとに、人口減少や生産拠点の海外シフトで物流全体量が 減少するなかで、新型大規模物件に対する需要が堅調な理由を考える。今回は特に急拡大する インターネット通販の動向に着目し、新型大規模物件の荷主や荷物の最新状況の独自調査を踏 まえたうえで、今後の需給バランスの行方を考察する。 .......................................................................................................................................... .............................................. (注記) *1 首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に立地する延床面積 3,000 坪以上の普通倉庫および冷蔵倉庫で、 2000 年以降に竣工した物件(危険物等の特殊倉庫、工場敷地内の倉庫、上屋等の港湾関連施設を除く) *2 BTS(Build-to-suit):特定テナント向けに建設する施設、長期契約がほとんど *3 本レポートにおける物流施設の規模別分類は下記のとおりである。 大型施設 ・ M クラス 延床面積 3,000 坪以上 9,000 坪未満 大規模施設 ・ L クラス 延床面積 9,000 坪以上 18,000 坪未満 超大規模施設 ・ LL クラス 延床面積 18,000 坪以上 30,000 坪未満 ・ XL クラス 延床面積 30,000 坪以上 *4 今回のレポートは、2012 年 11 月末時点における首都圏の竣工済物件と 2013 年までの竣工予定物件を、実査と公表 資料および当社データベースの情報に基づいて分析した。 3 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 1. 供給動向 1 -1 大規模物流施設※5 の供給動向 図 1 首都圏大規模物流施設供給量(延床面積 3,000 坪以上) (万坪) 70 XL:30,000坪以上 LL:18,000坪以上 M:3,000坪以上 棟数(右軸) 46 60 L :9,000坪以上 予定 47 40 38 棟数 65 45 56 34 50 30 30 40 24 25 24 37 40 33 39 38 30 20 26 24 26 28 15 17 35 30 20 21 19 40 25 16 18 50 15 15 10 10 5 0 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 出所:NREAM *5 対象物件は、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に立地する延床面積 3,000 坪以上の普通倉庫および冷 蔵倉庫(危険物等の特殊倉庫、工場敷地内の倉庫、上屋等の港湾関連施設を除く)、調査時点は 2012 年 11 月末 2010 年を底に供給回復、2013 年は過去最高水準の大量供給へ 図 1 は、当社調査に基づく首都圏の大規模物流施設(延床面積 3000 坪以上、自社物件含む) の供給動向(竣工予定物件含む)である。2008 年秋の金融危機に伴う景気悪化により、2010 年は 15 万坪に激減したが、2011 年は 26 万坪、翌年は 28 万坪と回復、2013 年はこれまでのピークだ った 2008 年を上回る 65 万坪の大量供給になる見込みである。 海外資金の流入、参入企業増加、物流適地拡大などが供給を後押し 供給増の理由としては、海外投資家の資金流入をきっかけに国内外の多くの企業が物流ビジネ スに参入し供給能力が回復していること、インターネット通販等各業種の物流戦略の多様化や圏 央道等の交通網整備進展に伴う物流適地の拡大がある。また、国内製造拠点の海外流出に伴う 工場跡地売却の増加や、物流総合効率化法等の規制緩和により市街化調整区域内の物流施設 開発がしやすくなったことなども挙げられる。 前回ピークの 2008 年と比べ、2013 年は自社物件比率が上昇 自社物件、賃貸物件に分類・比較すると、直近ピークの 2008 年が自社物件 8 万坪、賃貸 48 万 坪であったのに対し、2013 年は自社物件 17 万坪、賃貸物件 48 万坪と、自社物件の比率が 14% から 26%に上昇する。リース会計基準の変更などにより、賃貸物件を選択するメリット(オフバラン ス効果)が薄れたことや、マーケットの加熱に伴い、物流戦略上有利な立地では積極的に自社で 取得する動きが強まったため。自社物件の増加は新規供給量増加にも寄与している。 4 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 2013 年は XL クラスの供給が過去最大に 2012 年の新規供給物件は、自社物件 16 棟、賃貸物件 8 棟の 24 棟。規模別では XL クラスが 2 棟、LL クラスが 3 棟、L クラスが 4 棟である。(規模別分類については 2 ページ下の注記参照) 2013 年の新規供給物件は、自社物件 14 棟、賃貸物件 20 棟の 34 棟。2012 年に比べて棟数で は 10 棟、供給面積では 2.3 倍という著しい増加となる見込み。特に XL クラスが 8 棟 35 万坪と過 去最大となり、全供給面積の 52%を占める。1 棟当たりの平均規模は 1.9 万坪で、これは 2008 年 の平均規模 1.2 万坪の 1.6 倍に相当しており、大規模化が進んでいることがうかがえる。2013 年に は他にも数棟が竣工する可能性があり、さらに供給量が増加する可能性もある。 2014 年の供給予定物件はまだ詳細が公表されていないが、現時点で 17 棟・34 万坪(うち賃貸 10 棟・24 万坪)の計画が見込まれている。 図 2 タイプ・規模別供給量の前年比較 [棟数] (棟) [供給面積] 2012 25 (万坪) 2013 20 20 15 15 40 11 10 8 20 5 4 35 30 8 5 2013 48 50 16 14 10 2012 60 3 2 LL XL 17 14 14 9 10 0 13 6 11 5 7 6 LL XL 0 自社 賃貸 M L 自社 賃貸 M L 出所:NREAM 1-2 エリア別供給動向 2011 年以降、「埼玉」と「神奈川内陸部」に大量供給 図 3 は、2011~2013 年の新規供給量をエリア別に示したものである。都県別に湾岸エリア(国道 14 号線・15 号線より海側)と内陸エリアに分類した。2012 年は埼玉と千葉内陸部に供給が多かっ たが、2013 年は神奈川内陸部が 26 万坪と突出しており、埼玉(15 万坪)、千葉湾岸部(12 万坪) と続く。2012 年と 2013 年の 2 年間でみても、神奈川内陸部に 31 万坪、埼玉にも 23 万坪の供給 が集中することに留意したい。 図 3 各都県エリア(湾岸部、内陸部)別供給量(2011 年~2013 年) (万坪) 40 35 30 2013 2012 2011 15 25 26 20 8 15 5 10 5 0 6 2 0 湾岸 0 3 内陸 東京 1 2 5 1 湾岸 神奈川 12 5 3 7 0 3 4 内陸 湾岸 内陸 千葉 13 内陸 埼玉 出所:NREAM 5 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 図 4 2012 年~2013 年の大規模物流施設プロジェクト分布図 (□緑:2011 年 ○青:2012 年 ☆赤:2013 年、竣工(予定)物件) 東北自動車道 関越自動車道 久喜IC 常磐自動車道 川島IC 埼玉県 柏IC 首都圏中央連絡自動車道 三郷IC 川越IC 16号線 東京都 東京外環自動車道 14号線 八王子IC 16号線 中央自動車道 町田IC 厚木IC 神奈川県 千葉県 15号線 東名高速道路 (C)2008ZENRIN CO., LTD. (Z12LD 第 631 号) 出所:NREAM 6 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 2. 賃貸物件の動向 2-1 賃貸物件の供給動向 2013 年の賃貸物件の供給量は 48 万坪に急増 近年の物流マーケットの活況を牽引しているのが新型大規模賃貸物件である。図 5 に首都圏の 大規模物件(3,000 坪以上)を自社物件と賃貸物件に分けて供給量を示した。 賃貸物件の供給量は 2008 年の 48 万坪をピークに減少に転じ、2010 年は 7 万坪まで激減した が、2011 年は 17 万坪まで回復。2012 年は竣工遅れの物件の影響もあり 14 万坪と減少したが、 2013 年はこれらも竣工し、再び前回ピーク水準並みの大量供給が見込まれる。 図 5 首都圏の大規模賃貸物流施設供給量 (万坪) 60 一括賃貸型・BTS型 マルチテ ナント型 50 自社 40 19 20 30 20 20 13 10 0 9 14 10 8 3 4 2 3 4 2 3 10 29 14 14 15 4 3 7 3 10 11 28 2 0 00 2 0 01 2 0 02 2 0 03 2 0 04 2 0 05 2 0 06 2 0 07 2 0 08 2 0 09 2 0 10 2 0 11 2 0 12 2 0 13 出所:NREAM 2012 年 11 月末以降の供給は神奈川内陸部が突出 図 6 は、調査時点(2012 年 11 月末)以降 2013 図 6 今後の賃貸物件のエリア別供給量 年末までの賃貸物件の供給面積をエリア別に集 神奈川 内陸 計したものである。交通アクセス向上をきっかけ 埼玉 に新たな物流適地となった神奈川内陸部が出し 千葉 湾岸 3.7 ており、埼玉、千葉湾岸部、千葉内陸部が続く。 千葉 内陸 3.5 個別にみると、XL クラスの超大型物件が多数 供給される見込みで、今後これらのエリアではテ ナント誘致競争も激しくなると予想される。 12.9 7.8 9.5 4.2 6.2 東京 湾岸 マルチテ ナント型 東京 内陸 一括賃貸型・BTS型 神奈川 湾岸 ( 万坪) 0 10 20 出所:NREAM 7 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 2-2 空室率の動向 首都圏の新型大規模物件の空室率は低下傾向、2012 年 11 月末は 4.3%に 図 7 は、2010 年 8 月末、2011 年 7 月末、2012 年 11 月末時点*6 の新型大規模賃貸物件のエリ ア別空室率である。調査対象は 2000 年以降の大規模賃貸物件であり、2010 年の調査対象は 138 棟、2011 年は 149 棟、2012 年は 158 棟である(棟数の変化は新規竣工物件の増加による)。 首都圏の平均空室率は 2010 年 7.2%、2011 年 5.2%、2012 年 4.3%と年々低下している。 直近の 2012 年 11 月末の調査では、東京内陸部、神奈川内陸部、埼玉の 3 エリアがほぼ満室 稼働し、2010 年は 24.2%だった神奈川湾岸部も 9.6%に改善された一方、千葉内陸部は 9.7%と 再び上昇した。 *6 前回・前々回本レビュー発表時点の最新数値を採用 図 7 エリア別空室率(2000 年以降竣工の大規模賃貸物件) ( %) 30.0 2010 24.2 25.0 2011 2012 20.0 13.7 15.0 9.4 10.0 5.0 9.6 9.6 4.5 1.4 1.0 0.0 3.1 1.3 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 湾岸 内陸 東京 9.7 7.7 湾岸 内陸 神奈川 湾岸 6.3 2.1 内陸 千葉 7.2 5.2 4.3 0.5 内陸 埼玉 全体 出所:NREAM [神奈川湾岸部] 大量空室を抱えていた物件にもテナントの引き合いが 供給増加により空室率は横ばいだが、足元の新規テナント需要は堅調である。現在 10%以上の 空室を抱えた物件は 3 棟あるが、東扇島・浮島の 2 物件には現在テナントの引き合いがあり満床 予定である。 [東京内陸部] 2011 年竣工の超大規模物件にテナントがつき、空室ゼロに 2011 年の空室率を押し上げていた町田 IC 付近の超大規模物件にテナントが成約した結果、再 び高稼働エリアとなっている。 [千葉内陸部] 成田エリアが苦戦、その他のエリアにも懸念材料 成田エリアは航空貨物の需要が戻らず、同エリアの 3 物件は苦戦している。2011 年時点では野 田エリアで 2009 年に竣工した大規模物件の短期契約テナントが退去した影響があったが、現在 内部増床等で 90%前後まで回復した。しかし 2012 年は北柏エリアで大規模物件の供給があり、 エリア空室率は再び上昇している。 8 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 [埼玉] 2011 竣工の大規模物件も満床になり、その他の物件も高稼働 2011 年の空室率上昇の主因は、同年 7 月、川島 IC に超大規模物件が竣工した影響だが、同 物件が満床になり、空室率は大幅に低下した。他物件も概ね高稼働を続けている。 2-3 2013 年の空室率水準予測 過去 3 年間の新規需要量は年間平均 19.8 万坪 首都圏における新型大規模賃貸物件の過去 3 年間の新規供給面積と新規需要(稼働)面積を 表したものが、図 8 である。過去 3 年間の新規需要(稼働)面積の平均値は 19.8 万坪。 新規需要量は減少傾向だが、全体空室率は低下していることや 2013 年以降の竣工物件にもテ ナントが成約するほど引き合いが活発なことを考えると、むしろ増加する需要に供給が追いつか ず、潜在需要が顕在化できない状況にあったものと推定される。 図 8 賃貸物件の供給量と需要量 需要量 12.4 2 0 12 供給量 11.2 18.4 2 0 11 15.8 28.5 2 0 10 19.0 (万坪) 0 5 10 15 20 25 30 出所:NREAM 様々な要素を勘案すると、2013 年の空室率はわずかな上昇か? 図 9 をもとに、2013 年末時点の空室率水準を試算した。 図 9 今後の賃貸物件の供給量と需要量 過去3年間の 平均需要量 需要 空室面積 3 6 .3万坪 19.8 供給 8.4 47.7 現空室面積 2013年末までの新規供給面積 (万坪) 0 10 20 30 40 50 60 出所:NREAM 9 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 供給量は、調査時点(2012 年 11 月末)以降の供給予定面積と現空室面積の合計 56.1 万坪と 試算される。需要量が過去 3 年間の平均値 19.8 万坪と仮定した場合、空室面積は 56.1 万坪- 19.8 万坪=36.3 万坪。したがって、2013 年の空室率は 36.3 万坪÷280.7 万坪(2000 年以降竣工 した新型大規模賃貸ストック総量*7)=12.9%となる。 ただし、この試算値には、以下の重要な要素が加味されていない点に留意したい。 1) 試算に用いた需要量は、供給が比較的低水準であった時期の平均値であり、供給が追い付 かず顕在化しなかった需要や、新規供給で新たに喚起される需要相当量が見込まれていな い。 2) インターネット通販業界やスーパーなどの飲食料品小売業、3PL 企業の物流戦略変化に伴う 拠点集約の動きが加速しており、大規模物流施設志向は以前より高まっている。 3) 2013 年に竣工予定の賃貸床 47 万坪のうち、少なくとも 22 万坪は 2012 年 11 月末現在、テナ ントの見込みがついている。 こうした要素を勘案し、3)のテナントの見込みがついている 22 万坪(新たに喚起された需要)を 供給予定面積から差し引くと、供給量は 47.7 万坪−22 万坪+8.4 万坪(現空面積)=34.1 万坪と なる。よって空室面積は 34.1 万坪-19.8 万坪=14.3 万坪、空室率は 14.3 万坪÷280.7 万坪= 5.1%となり、2012 年からわずかな上昇にとどまる見込み。 2013 年後半の大量供給により、一部のエリアで需給バランスの一時的な崩れや調整が予想され るものの、新型大規模施設に対する需要自体は堅調に増加していることから、2014 年以降再び 空室率は改善していくものと予測する。 *7 図 10 の 2012 年時点ストック量 233 万坪に 2013 年の竣工分 47.7 万坪を加えた 2013 年時の想定ストック量 図 10 2012 年 首都圏物流倉庫ストック量(概算値) 首都圏全倉庫 3,300万坪 大規模倉庫 743万坪 新型大規模倉庫 2000年~2012年 365万坪 新型大規模賃貸 233万坪 出所:財務省、経済産業省、国土交通省、NREAM から NREAM 10 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 3. 需要動向 3-1 物流輸送量/トラック貨物輸送量は減少傾向だが、消費関連貨物は増加 需要サイドの考察として、まず物流輸送量全体の動向を概観する。国内貨物輸送量の約 9 割を 占めるトラック貨物の総輸送量(重量ベース)は、2010 年度に 45 億 8,000 万トンとなり、ピークの 1991 年と比べて 25%減少している(図 11)。品目別では「生産・建設材関連貨物」の減少が顕著 であり、38%減少した。近年の生産拠点の海外シフトや公共投資削減が主因とみられる。 一方、「消費関連貨物」は同期間で 34%増加している。平成不況や人口減・金融危機などの影 響も相対的に少なく、消費関連需要の堅調さを示している。 図 11 トラック貨物輸送量の推移 輸送量 (百万トン ) 7,000 消費関連貨物 その他(生産・建設材関連貨物等) 総計 (※) 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 (※) 平成 22 年 10 月より、調査方法及び集計方法を変更したため、それ以前の統計数値とは時系列上の連続性が担保されていない点に留意 出所:国土交通省、NREAM 3-2 首都圏大規模物流施設の荷主業種/消費財を取扱う業種が中心 図 12 では首都圏の大規模物流施設の荷主割合を示した。調査の結果、68%が消費材関連を 扱う荷主であることが確認された。また、3PL(サードパーティロジスティクス)や宅配業者などが取 り扱う荷物の多くが家庭向け荷物であることを勘案すると、大規模物流施設の一般的な荷物は消 費財であると推定される。 図 12 大規模物流施設の荷主業種別割合 出版・ 印刷 2% 原材料 4% ア パレル 5% 医薬 5% 通販 9% 運輸 11% 図 13 市場規模に対する電子商取引額割合 7.0% 6.0% 倉庫 1% 5.0% EC化率(%) (全ての商取引規模に対する電子商取引規模の割合) 4.1% 3.6% 4.0% 2.8% 3.0% 食品 19% 平均 ネット販売向け荷物割合が高まっている 4.7% 2.5% 2.0% 1.1% 1.1% 1.0% 生活雑貨 17% 多品種 家電・ 精密機器 ( 宅配業・ 3 PL) 11% 16% □:消費財関連荷主 →:ネット通販向け荷物が含まれていると 推定される業種 出所: NREAM 0.0% 総合小売 家具・ 家庭 用品・ 自動 車・ パー ツ・ 電気製 品 食料品 医薬化粧 品 スポーツ・ 本・ 音楽・ 玩具 2 0 09年 3 . 6% 2 . 8% 0 . 6% 2 . 1% 1 . 8% 0 . 7% 2 . 1% 2 0 10年 4 . 2% 3 . 5% 0 . 9% 2 . 9% 2 . 1% 0 . 9% 2 . 5% 2 0 11年 4 . 7% 4 . 1% 1 . 1% 3 . 6% 2 . 5% 1 . 1% 2 . 8% 衣料・ ア ク 小売・ サー セサリ ー ビス 出所:経済産業省、NREAM 11 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 「消費財」の中で近年注目を集めているインターネット通販(以下、ネット通販)だが、「通販」専業 に限ると消費財に占める割合はまだ 9%であり、一見すると数字上のインパクトは弱い。しかし、 「小売・サービス業」市場に占めるネット通販のシェアは、全業種で拡大している(図 13)ことに注 目したい。これは「通販」専業以外の消費財関連業種によるネット通販荷物の増加を意味しており、 ネット通販の拡大が消費財関連荷物の増加を支える重要な要素であることがわかる。 3-3 ネット通販の市場規模/コンビニエンスストア市場と同規模 経済産業省によれば、2011 年の消費者向け電子商取引市場規模は 8 兆 4,590 億円だった(図 14)。同市場は 2007 年比で約 3 兆円も拡大し、2010 年には百貨店の市場規模を越えた。2011 年には 8 兆円台に達し、コンビニエンスストア市場とほぼ同規模まで拡大するなど、飛躍的な成 長を遂げている。 このネット通販の商品配送方法は約 8 割が「宅配便」である(図 15)。「消費財」関連貨物の堅調 さはネット通販の急成長が下支えしており、その動向が今後の物流施設需要にも大きな影響を 及ぼすものと推測される。 図 14 ネット通販市場と百貨店・コンビニエンスストア市場の比較 (億円) 90,000 84,590 77,880 80,000 70,000 66,960 60,890 60,000 53,440 50,000 2007 2008 2009 2010 2011 百貨店 8 4 ,652 8 0 ,787 7 1 ,772 6 8 ,418 6 6 ,606 コンビニエ ンス ストア 7 4 ,895 7 9 ,427 7 9 ,809 8 1 ,136 8 7 ,747 消費者向け電子商取引市場 5 3 ,440 6 0 ,890 6 6 ,960 7 7 ,880 8 4 ,590 図 15 ネット通販の配送方法 コ ンビニ 受取 0% 直接受取 5% 出所:経済産業省、NREAM その他 1% 自社配送 10% 郵便 2% 宅配便 82% 出所:経済産業省 12 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 3-4 小売業関連ネット通販/市場規模約 4.5 兆円、「総合小売」が 4 割占める ネット通販のうち、物流施設需要に密接に関係する市場規模は約 4 兆 5,000 億円(チケット販売 等を除く)であり、2005 年比で約 2.6 倍、約 2 兆円増加している(図 16)。ネット通販の取扱品目や 取扱量が急増する中で、物流マーケットに占めるウェイトも高まっていると考えられる。 また、図 16 では 2005 年から 2011 年までの業種別市場占有率も示した。2011 年の業種構成を 売上高別に見ると、通信販売業・百貨店・総合スーパー・コンビニエンスストアなどで構成される 「総合小売業」(売上高 1 兆 8,000 億円)が全体の 40%を占め、次いで「家具・家庭用品等」(同 1 兆 2,000 億円)が 28%。この 2 業種で約 7 割を占めている。アマゾン・楽天・ヤフー等のネット専業 大手、総合スーパー・百貨店の通販部門、家電量販店の通販部門等の好調が反映されている。 図 16 ネット通販における「小売業」関連売上高の推移 宅配便取扱個数 (百万個) (億円) 50,000 3,500 45,000 3,400 40,000 3,300 35,000 3,200 30,000 3,100 25,000 3,000 20,000 2,900 15,000 2,800 10,000 2,700 5,000 2,600 0 2,500 2 0 05 2 0 06 2 0 07 2 0 08 2 0 09 2 0 10 2 0 11 衣料・アクセサリー スポー ツ・本・音楽・玩具 医薬化粧品 食料品 家具・家庭用品・自動車・パーツ・電気製品 総合小売 【右軸】 宅配便取扱個数 出所:経済産業省、NREAM ネット通販市場では専門業態が成長 ネット通販の今後を予測するには、市場占有率の変化にも着目する必要がある。図 17 は 2005 年と 2011 年の業態別のシェアである。「総合小売」は 48.7%から 39.7%に低下した一方、「医薬・ 化粧品小売業」は 4.9%から 9.4%へ(売上高 830 億円→同 4,200 億円)、「食料品小売業」が 8.6%から 11.8%へ(売上高 1,470 億円→同 5,320 億円)、「衣料・アクセサリー小売業」が 1.9% から 3.2%へ(売上高 320 億円→1,440 億円)、それぞれ上昇している。ネット通販市場において も、ドラッグストアやアパレル系ネット通販企業に代表される専門業態の存在感が強まっているこ とがわかる。 特に「医薬・化粧品小売業」は、高齢化の進展や健康志向の高まりを背景に市場自体が拡大し ているうえ、ネット通販市場では化粧品・サプリメントに加え、健康に関連した食料品・日用品・家 電など販売品目も多様化しつつある。さらに、これまで厚生労働省令による規制で事実上ネット 販売が禁止されていた一般医薬品(大衆薬)についても、2013 年 1 月、最高裁がネット販売を容 認する判決を発表した。すでに大手ドラッグチェーンの中には医薬品販売ネット専業子会社を 設立する動きも見られる。「医薬・化粧品小売業」はネット通販の急拡大が見込まれる有望な業 種であり、ネット通販市場全体の成長を力強く牽引していくことなろう。 13 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 図 17 ネット通販「小売業」の業態別シェアと変化(網掛けはシェアが 1%以上伸びた業種) [2005 年] 医薬化粧品 830億円 5% スポーツ・本・ 音楽・玩具 1,510億円 9% 食料品 1,470億円 8% [2011 年] スポーツ・本・ 音楽・玩具 3,670億円 8% 衣料・アクセサリー 320億円 2% 17,100億円 衣料・アクセサリー 1,440億円 3% 医薬化粧品 4,200億円 9% 総合小売 8,320億円 49% 食料品 5,320億円 12% 家 具 ・ 家 庭用 品 ・ 自 動 車・ パ ーツ ・ 電気製品 4,650億 円 27% 44,910億円 総合小売 17,820億円 40% 家 具 ・ 家 庭用 品 ・ 自 動 車・ パ ーツ ・ 電 気製 品 12,460億 円 28% 出所:経済産業省、NREAM 3-5 ネット通販の成長性/ネット普及率上昇と異業種参入が後押し 高齢者のネット普及率が上昇 現在、若年層のインターネット普及率がほぼ 100%に達していることから、今後のユーザー数増 加には高齢者のネット利用が鍵となる。図 18 のように、60 代以上のインターネット利用は年々増 加しており、次の高齢者である 50 代の利用率も 8 割を超えてきていることから、今後さらに高齢者 のネット利用普及率は不可逆的に高まるものと推定される。 また、スマートフォンに代表される携帯端末やタブレット端末の機能向上や、ネット通販各社の高 齢者向けサービスの充実(図 19 事例上段)も高齢者のネット普及率を高めるだろう。 さらにネット通販事業を展開する企業数も増加している。ネット専業・小売業・メーカー等従来の 業種に加えて、最近ではサービス・携帯キャリア・卸売業等といった異業種の大手企業による本 格参入も目立つなど供給サイドの裾野が拡がってきた(図 19 事例下段)。このようなユーザーサイ ド、供給サイド両面の変化や取り組みにより、ネット通販は今後も拡大していくものと思われる。 図 18 インターネット 利用の年齢階層別状況 利用率(%) 120.0 50 歳代の利用率は 8 割を超えた 96.4 100.0 80.0 60.0 97.7 95.8 86.1 67.6 93.0 94.4 92.5 73.9 89.3 60.9 75.2 61.6 42.6 59.7 40.0 48.0 32.3 20.0 2 0 06 0.0 94.9 2 0 11 16.0 14.3 6 - 12歳 1 3 -19歳 2 0 歳台 3 0 歳台 4 0 歳台 5 0 歳台 6 0 -64歳 6 5 -69歳 7 0 歳台 8 0 歳台 出所:総務省 14 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 図 19 ネット通販参入企業・サービスの多様化 事例:高齢者向けサービスの展開 企業名 ポイント 概要 イオン NTT西日本 シャープ 電話・自宅訪問サービスがあるネット通販 専用のタブレット端末を使ったネット通販サービスを展開。「サポートサービス」 で、電話・自宅訪問によるトラブル解消を行う 住友商事 NTT東日本 サミット テレビを入り口としたネット通販 テレビを入り口としたネット通販を開始、食品スーパー・サミットのネットスーパー が利用可能に。画面が小さいモバイル端末の不便をカバー シニア向けネット通販支援のコンサルティング シニア向け通販支援業務を開始。シニアに商品訴求したい企業を対象にコン サルを受託。「シニア・ビジネス・サポート」には電話・自宅訪問対応も含むサー ビス・企画・調査・販売促進を行う 「楽天市場」内に「シニア市場」を設置 買い物弱者を対象とした「楽天マート」の創設 「楽天市場」内に「シニア市場」がある。商品をテーマ別に掲載しており、詳細 な絞り込み機能も。また、遠くまで買い物に行けないシニア層にむけては、直営 ネットスーパー「楽天マート」をオープン もしもしホットライン フロム・ナウ 楽天 事例:異業種からの新規参入 企業名 ポイント 概要 リクルート (サービス) ショッピングモール「ポンパレモール」を開設、割安 感で先行企業を追う 子会社のリクルートライフスタイルがネット上にショッピングモール「ポンパレモー ル」を開設。衣料・食品・家電・日用品の各分野から出品者を募る。 NTTドコモ (移動電話) スマートフォン向けモバイル通販に本格進出、野 菜など新商品を拡充 スマートフォン向けコンテンツ販売サイト「dマーケット」を拡充。参加のらでぃっ しゅぼーや・タワーレコード、提携先のオムロン等からメニューを追加、教材・医 療関連商品も加える。ネット通販事業の基幹事業へ 三菱食品 (卸売業) ネット広告・決済のデジタルガレージと共同でネッ ト通販参入。数億円を投資し神奈川県内に て、ネット専用物流センターを新設予定 当初は常時1万6千点の商品を販売、その後約40万点まで拡大も。ネット 関連事業の売上高を現行の100億円規模から2015年度には400-500億円 まで拡大させる 大手化粧品メーカー アイリスオオヤマ (日用雑貨企画・販売) 資生堂 カネボウ コーセーなどの大手化粧品 メーカーがネット通販本格参入 健康食品・化粧品・サプリメント・ダイエット食品 の販売強化。 資生堂ではウェブを活用した新ビジネスモデルとして、異業種企業28社(創 設時)とのコラボレートで専門ショッピングモールを立ち上げ。 ⇒既存の店頭販売チャネルとの兼ね合いが課題だったが販売加速 特に中高年を対象としたサプリメント販売に注力 出所:各種報道、NREAM 3-6 ネット通販と大規模物流施設 市場の急激な拡大に伴い、企業の物流戦略も大きく変化している。 「図 20 は、ネット通販を利用する消費者の「利用する理由」と「遭遇したトラブル」をそれぞれラン キングしたものである」「低コスト」と「早期配送」という相反するサービスの両立はすべての業種で 共通の課題だが、ネット通販はその性質上、特に消費者の厳しい評価にさらされる。また、有店舗 にはない魅力のひとつとして、多彩な商品ラインナップに対する要望が高いことがわかる。一方、 配送の遅れや商品の破損等のトラブル防止策が無店舗販売で安心して買い物するための課題と なっている。 以上を最適化する物流戦略が各社の最優先課題であり、すでに一部の大手ネット通販企業は 大都市近郊において高機能物流センターへの投資に力を入れている(図 21)。それをサポートす る新型賃貸物流施設へのニーズも今後さらに高まってくることとなろう。 15 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 図 20 ネット通販市場における課題と求められる物流施設 出所:経済産業省、NREAM 図 21 ネット通販企業と入居予定物流施設の例 (東京圏) 企業名 業態 アマゾン 総合 スタートトゥディ マガシーク 入居 予定 県 市 2013年 神奈川県 小田原市 ファッション 2013年 千葉県 ファッション 2013年 神奈川県 今後設置予定の拠点例 利用面積 備考 小田原フルフィルメントセンター 200,000㎡ 現在、国内で10拠点を整備。今後も 拡充の方向 ZOZOTOWNの物流拠点として125 108,500㎡ 億円で施設契約。現行の4倍に規模 を増強 習志野市 プロロジスパーク習志野4 座間市 プロロジスパーク座間2 20,000㎡ 岐阜県2か所に分散していた拠点集 約。同社顧客の37%が関東圏に所 在するため集約にメリット ヤフー・アスクル 総合 2013年 埼玉県 - 埼玉物流センター 69000㎡ 全国5~6ヶ所に517億円を投資しす べてのエリアを網羅する自社拠点の 整備を検討 楽天 総合 2014年 千葉県 市川市 市川塩浜プロジェクト 42,000㎡ 自社施設は現在市川に1拠点。今 後、全国5~6か所(中国・東北・九 州)に自社拠点の整備を検討 セブンネット ショッピング 総合 2014年 埼玉県 久喜市 7NS新物流センター 45,000㎡ 桶川市の物流拠点から生活用品な どの拠点を移設予定、100億円投資 予定 出所:各種報道、NREAM 16 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 3-7 地方活性化と物流施設 図 22 は J-REIT の物流施設における立地ポートフォリオを、棟数・取得価格ベースでみたもので ある。首都圏を 100 とした場合の他エリアの分布状況(取得価格ベース)は近畿圏が 23%、中部 圏が 6%となっており、現況では首都圏に大きく偏った分布となっている。 人口動態等各都市間の経済格差の現状を反映しているとの見方もあるが、上記で検討してきた 成長産業が地方物流マーケット活性化のきっかけとして期待できないか、検討してみたい。 図 22 J-REIT 投資法人の物流施設のポートフォリオ状況(首都圏のボリューム=100) 棟数ベース 取得価格ベース 100 100 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 29 25 14 首都圏 近畿圏 中部圏 その他 23 首都圏 近畿圏 6 8 中部圏 その他 出所:NREAM アマゾン等大手をはじめ、一大消費地である東海・近畿方面への展開がこれからという通販関 連荷主はまだ多数存在していると考えられる。特に多店舗・複数箇所へのタイムリーな配送が必 要な商材の場合、それに応じた新規の施設配置が必要とされよう。最近では大手ネット通販企業 を中心に多くの消費者・出品者を囲い込むため、フルフィルメント機能(物流機能代行)を持つ大 規模物流施設(図 23)を首都圏以外のエリアで整備する動きも目立ってきた。 図 23 ネット通販の配送イメージ 【従来の配送】 出品者 各出品者が直接顧客に発送 出品者 顧 客 出品者 出品者 各出品者の発送・納期・送料・サービスがばらばら 【大手ネット通販が推進する配送スタイル】 各地方の大消費地周辺 拠点に集約 出品者 フルフィルメントセンター 出品者 (出品者の物流機能代行) 出品者 出品者 一括発送 保管・加工 梱包・配送 発送・納期・送料を統一した 顧 客 フォーマットで提供 全国の消費者・出品者を囲い込むため、 地方でもフルフィルメント機能を有する大規模物流施設の整備が進みつつある 出所:NREAM 17 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 図 24 は過去 1 年間のネット通販購入者数とその購入上限金額から、商品購買需要の都市圏別 ボリュームの把握を試みたものである。ここから読み取れるように、先に示した現況の投資配分は 必ずしも地方圏各エリアの実力を反映していないと言えよう。 図 24 地方別でみたネット通販需要 バブルの大きさ…エリア総人口 25,000 ネ ッ ト 通 販 の 利 用 一 回 ( 円当 ) た り の 購 入 上 限 金 額 南関東 東海 北関東 24,000 23,000 近畿 北陸 22,000 中国 21,000 東北 北海道 四国 20,000 九州・沖縄 甲信越 19,000 18,000 35 40 45 50 55 60 過去一年間にネット通販で商品を購入した人の割合(%) 出所:総務省、NREAM なお、地方圏の既存物流施設は東京以上に老朽化しており、新型物流施設への更新も進んで いない。首都圏では新型大規模物流施設の割合は 6%程度だが、全国では 2%程度に過ぎない (図 26)。 また、前述の J-REIT のポートフォリオ分布割合は首都圏 100 として近畿圏 25、中部圏 6 程度だ が、既存施設を含めた総ストックベースでは、それぞれ 100:60:50 程度と推計される(図 25)。各 企業の BCP(事業継続計画)の取り組みが本格化していく過程で、こうした建替え更新ニーズも地 方圏での需要を後押しすることを期待したい。 図 25 各エリアのストック量 図 26 最新鋭施設の割合 (首都圏のボリューム=100 延床面積ベース) 100 (全国・延床面積ベース) 100 最新鋭施設 2.5% 80 62 60 48 40 その他の施設 9 7 .5% 20 0 首都圏 大阪圏 中京圏 出所:国土交通省、CBRE 最新鋭物流施設…原則として延床面積 3,000 坪以上、床荷重 1.5t/㎡以上、天井高 5.5m 以上で、汎用性があり、物流 の効率化に寄与する施設仕様を有すると判断できる施設 18 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 おわりに 物流マーケットは引き続き成長するが、エリア間、事業者間の競争は本格化 首都圏の物流賃貸マーケットは依然活況を呈しており、大規模物流施設のメインユーザー、大 手 3PL 事業者も活発な営業展開を続けている。コスト競争が激化するなか持続的成長を遂げる には、常に新たなスペースを確保し、規模拡大を続けなければならない。3PL 事業者は堅調な消 費財関連需要を取り込みながら、今後も大規模物流施設のメインユーザーでありつづけるだろう。 需要面では、今回成長著しいネット通販業種について考察を進めた。アマゾンなどの大手通販 事業者はフルフィルメントセンター*8 等の大型物流センターの相次ぐ開設を通じ、外部委託してい た物流機能の一部を内製化しはじめており、今後は 3PL 業者の事業領域を侵食する可能性もあ る。また、アマゾン、楽天、スタートトウデイなどは 2012 年の 1 年間だけで全国で数万坪単位のス ペースをこぞって確保した。こうした旺盛な需要は高齢化の進展さえ追い風として取り込みながら、 物流マーケットの拡大を牽引していくものと期待される。 *8 フルフィルメントセンター:フルフィルメントとは、通販・ECで商品が注文されてから、顧客の手元に届くまでに必要な業務全 体のことを指す。具体的には、物流(商品の発注、検品、梱包、発送、在庫管理)をはじめ、顧客データ管理、返品処理、クレ ーム処理、決済代行などを代行するサービスであり、これを一括で行うセンターをいう 新型大規模物流施設で扱う主たる荷物は不況下でも比較的堅調な消費財である。さらに小売 業各社は、ネット通販物流を含む新業態の創造やサービスの革新を積極的に進めている。こうし た物流システムの効率化や高度化は、BCP へのニーズの高まりと相まって新型大規模物流施設 への需要をさらに押し上げるだろう。 供給面では、実地調査を通じ 2000 年以降最大規模となる 2013 年の供給計画を確認した。しか し、今回の調査対象である新型大規模物件のストックは、未だに首都圏のストック総量 3300 万坪 の 1 割に満たない。新型大規模施設への需要集中は産業の構造変化に伴う不可逆的な流れとも いえ、2013 年の大量供給も吸収し、中長期的にも物流市場の成長を促すものと考えられる。 ただし、開発事業者の物件供給能力向上などにより、今後も高水準の供給が続いたならば、局 所的にはその希少性は薄れ、物件の選別も厳しくなろう。また圏央道などの交通インフラの整備 で新たな物流集積拠点が出現したが、裏返せば今後各拠点間の競争が激化することともなる。 物流不動産ビジネスは、社会的に、また産業構造的にも需要が裏打ちされた数少ない成長分 野であるが、相次ぐ新規参入、2013 年の大量供給を経て、いよいよ荷主企業やテナント企業のニ ーズを満たすエリアや事業者による本格的競争の時代に入る。そこでは各プレイヤーの真の実力 が試されることになるだろう。 19 Japan Real Estate Investment Review – Winter 2013 付属資料 1 2011 年~2013 年竣工の主な大規模物流施設リスト (XL・LL クラス:延床面積 18,000 坪以上) 2011年 倉庫名称 都道府県 市区郡 延べ床面積(坪) オリックス横浜町田ICロジスティックセンター 東京都 町田市 19,993 オリックス市川千鳥LC 千葉県 市川市 20,211 センコー野田第1PDセンター 千葉県 野田市 23,440 プロロジスパーク川島 埼玉県 比企郡 47,405 2012年 倉庫名称 都道府県 市区郡 延べ床面積(坪) ダイソー久喜物流センター 埼玉県 SGリアルティ横浜 神奈川県 横浜市神奈川区 18,213 プロロジスパーク座間Ⅱ 神奈川県 座間市 29,922 SGリアルティ柏A棟 千葉県 柏市 32,345 ロジポート北柏 千葉県 柏市 38,467 久喜市 18,150 2013年 倉庫名称 都道府県 市区郡 延べ床面積(坪) 三菱商事市川塩浜物流センター 千葉県 市川市 19,198 オリックス所沢ロジスティクスセンター 埼玉県 入間郡 21,818 ヤマト運輸厚木物流ターミナル 神奈川県 愛甲郡 21,901 Dプロジェクト三郷 埼玉県 三郷市 23,216 GLP三郷Ⅲ 埼玉県 三郷市 28,627 Dプロジェクト相模原 神奈川県 相模原市南区 31,592 プロロジスパーク習志野4 千葉県 32,817 GLP厚木 神奈川県 愛甲郡 33,135 SGHロジスティクス柏2(2棟集約) 千葉県 柏市 35,256 市川塩浜プロジェクト(三井・GLP) 千葉県 市川市 36,730 羽田クロノゲート 東京都 大田区 51,425 アマゾン小田原フルフィルメントセンター 神奈川県 小田原市 60,500 ロジポート相模原(ラサール・三菱地所) 神奈川県 相模原市中央区 63,775 習志野市 ※データは 2012 年 11 月末時点、未竣工物件は建築計画看板または HP 等に公表されたもの (延床面積は 1,000 坪未満切り捨て) <内容に関するお問い合わせ先> 野村不動産投資顧問株式会社 投資運用企画室 笠原 謙二 / 本庄 出 東京都新宿区西新宿 8 丁目 5 番 1 号 野村不動産西新宿共同ビル TEL 03-3365-8508 ※ 本稿は情報提供を唯一の目的とします。いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。 ※ 本稿記載のデータは信頼できると思われる各種の情報源に依拠しておりますが、その内容の正確性、完全性、合理性お よび妥当性について保証するものではありません。したがって、本稿に基づいてお客様が被った損害・不利益に対し、当 社およびその関係者は一切の責任を負いません。 ※ 本稿の無断複製・無断転載を禁じます。 20