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インド法務・労務アップデートレポート (2015年3月)

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インド法務・労務アップデートレポート (2015年3月)
インド法務・労務アップデートレポート
(2015年3月)
2015年3月
独立行政法人
日本貿易振興機構(ジェトロ)
ムンバイ事務所
進出企業支援・知的財産部
進出企業支援課
本報告書の利用についての注意・免責事項
本報告書は、日本貿易振興機構(ジェトロ)ムンバイ事務所がリテイン契約に基づき現地
法律事務所 KHAITAN&COに作成委託し、2015年3月までに入手した情報に基づくもので
あり、その後の法律改正などによって変わる場合があります。掲載した情報・コメントは作
成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証する
ものではありません。また、本稿はあくまでも参考情報の提供を目的としており、法的助言
を構成するものではなく、法的助言として依拠すべきものではありません。本稿にてご提供
する情報に基づいて行為をされる場合には、必ず個別の事案に沿った具体的な法的助言を別
途お求め下さい。
ジェトロおよびKHAITAN&COは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、
派生的、特別の、付随的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、
不法行為、無過失責任、あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の
責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびKHAITAN&COがかかる損害の可能性
を知らされていても同様とします。
本報告書にかかる問い合わせ先:
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
進出企業支援・知的財産部 進出企業支援課
※2015 年 4 月 1 日の組織変更により、部課名
およびメールアドレスが変更となりました。
ビジネス展開支援部・ビジネス展開支援課
E-mail : [email protected]
ジェトロ・ムンバイ事務所
E-mail: [email protected]
本報告書作成委託先 :
KHAITAN&CO
Mumbai (Bombay)
One Indiabulls Centre
13th Floor, Tower 1
Mumbai 400 013, India
T: + 91 22 6636 5000
F: +91 22 6636 5050
E:[email protected]
目次
1. 外国直接投資政策 .................................................................................... 1
1.1 医療機器の製造 ...................................................................................... 1
1.2 e-Biz 事業 ............................................................................................... 1
2.インサイダー取引規制の厳格化 ................................................................ 3
3. 上場株式の非公開化、公開買付け、および株式買戻しに関する証券
取引委員会規則の改正 ...................................................................................... 5
3.1 株式非公開化規則の改正 ........................................................................ 5
3.2 株式買収規則の改正 .............................................................................. 6
3.3 株式買戻し規則の改正 ......................................................................... 7
4. 鉱山および鉱物(開発規制)法の改正 ................................................... 7
5. FPI による社債への投資制限の厳格化 ................................................... 8
6. 保険諸法改正法の施行 ............................................................................... 9
インド法務・労務アップデートレポート(2015年3月)
本レポートでは、2015 年 1 月から 3 月にかけてインドで行われた重要な法改正について報告
する。
1. 外国直接投資政策
1.1 医療機器の製造
医薬品事業への外国直接投資(FDI)については、現在、新規事業(greenfield)への投資の
場合は自動承認で100%の投資が認められるが、既存事業(brownfield)への投資の場合には、
中央政府の事前承認が必要とされる上、株式譲渡契約等において譲渡人であるプロモーター
(創業者)に対して競業避止義務を課すことを禁止する等の制約が課されている。この点、医
療機器は、医薬品および医療機器の製造や認可等について規制する「1940年医薬品化粧品法
(Drugs and Cosmetics Act 1940)」において、医薬品(Drug)の定義の中に含められており、
これを受けて、FDI政策においても、医療機器は医薬品事業の一部として上記のような規制が適
用されてきた。
この度、商工省産業政策促進局(DIPP)が出したプレスノート(Press Note 2 of 2015)によ
り、2015年1月21日以降、医療機器製造事業へのFDIについては、新規投資および既存のインド
会社への投資のいずれについても、自動承認で100%の投資が認められることとなった。これに
より、今後医療機器事業へのFDIについては上記の制限が適用されない。なお、当該プレスノー
トでは、医療機器とは、「製造者が、①病気や疾患の診断、予防、監視、治療、または軽減、
②怪我や障害の診断、監視、治療、軽減、または補助、③解剖または生理学的過程の調査、代
替、修正または支援、または④生命の維持を特別の目的として、特に人間または動物のために
使用することを意図した器具、装置、移植、物質その他の物(ソフトウェア含む)」と定義さ
れている。この点、現行の医薬品化粧品法を改正する改正法案では、医薬品とは別に新たに医
療機器の定義を提案している。同法案が成立した場合には、これに合わせてFDI政策における医
療機器の定義も修正される可能性が高いと思われる。
1.2
e-Biz事業
モディ政権は、「小さな政府で最大のガバナンス(Minimum Government and Maximum
Governance)」をスローガンに掲げ、さまざまな行政サービスを電子化する「e-Biz事業」に取
1
Copyright©2015 JETRO. All rights reserved.
組んでいる。その試みの一環として、FDI取引の申請および報告を簡素化するため、下記の措置
が実施された。
(1)
FDI取引の報告の電子提出
外国居住者に対して株式や転換証券を発行するインド会社は、インド準備銀行(RBI)に対し
て、FDI資金の受領から30日以内にFDI流入の詳細を所定の様式(Form ARF)により報告し、
また株式または転換証券の発行から30日以内に当該発行の詳細について所定の様式(Form FCGPR)により報告しなければならない。具体的には、これまで、FDI資金を受領するインド会
社の取引先である認可銀行を通じて、これらの様式の物理的な写しをRBIに対して提出しなけれ
ばならなかった。この度、FDI取引の報告手続きを簡素化するため、RBIは、「2000年外国為替
管理法(外国居住者による証券の譲渡・発行)規則」で定める報告手続きの修正を行った1。申
請内容について変更はないが、今後、届出人は、e-Bizポータルにアクセスし、これらの様式を
ダウンロードした後、記入した様式を、デジタル署名認証を通じてオンラインで提出すること
ができる。認可銀行は、アップロードされた様式をチェックし、必要な情報があれば提出会社
から追加で情報を入手し、RBIによる処理を求めることとなる。ただし、インド居住者および外
国居住者との間の証券譲渡に関する様式(FC-TRS)については、引続き従来の制度が適用され、
認可銀行への紙ベースでの報告が求められる。電子提出制度は2015年2月19日以降利用可能とな
ったが、しばらくは旧来の紙ベースでの報告制度も継続される。
(2)
外国投資促進局(FIPB)への申請ウェブサイトの刷新
FIPBの承認を要するFDI取引については、従来、FIPBのウェブサイト(www.fipbindia.com)
でオンライン申請が必要とされていたが、同ウェブサイトの機能は極めて限定的であった上、
オンラインでの提出に加えて、15~18部の申請書の写しを別途FIPBに提出しなければならず、
事務手続きが煩雑であった。この度、2015年2月17日付けで、FIPBの承認が必要なFDI取引の
申請ウェブサイトが刷新され(www.fipb.gov.in)、手続きが効率化された。新しい申請手続き
では、FIPBと申請者およびその他の関係省庁とのコミュニケーションがほぼオンラインベース
となり、申請書の写しは一部のみFIPBに提出すればよい。申請者は、申請を検討するFIPBの会
合スケジュール、FIPBによる申請の検討・判断、関係省庁による質問について、定期的にSMS
やメールにより進捗状況の通知を受けとることができる。従来の紙ベースでのコミュニケーシ
ョンと比べて、申請手続きが迅速化し、また手続きの透明性を高めるものと期待されている。
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RBI//2014-15/468A.P (DIR Series) Circular No.77 Foreign Direct Investment – Reporting under FDI Scheme
on the e-Biz platform
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2.インサイダー取引規制の厳格化
インド証券取引委員会(SEBI)は、2015年1月15日付けで、「2015年SEBI(インサイダー
取引禁止)規則」2(「新規則」)を通達した。同規則は、20年以上にわたり適用されてきた現
行の「1992年SEBI(インサイダー取引禁止)規則」(「1992年規則」)を改正するものであり、
投資家の信頼を高めるため、インサイダー取引の禁止を強化するとともに、国際標準を取り入
れた効率的な制度の構築を目指している。新規則は、2015年5月15日から施行される予定である。
新規則の主な改正点および影響は下記の通りである。
(1) 適用範囲
1992年規則は上場企業にのみ適用されるが、新規則は上場企業だけでなく上場を提案している
企業にも適用される。そのため、例えばIPOや株式の売出しに関連して予備目論見書素案(red
herring prospectus)をSEBIに提出した企業にも適用される。また、「内部者(Insider)」と
は 「 関 係 者 ( Connected Person ) 」 ま た は 「 価 格 に 影 響 を 与 え る 未 公 開 情 報 ( UPSI:
Unpublished Price Sensitive Information)」を保有している者またはこれにアクセスを持つ者
と定義されるところ、「関係者」とは、会社との間で、UPSIを保有するに至ることが予期され
るような関係を有している者を広く含み、会社と契約関係、信任関係、あるいは雇用関係を持
つ者、または会社との間で、直接または間接的に、UPSIにアクセスできる関係を持つ者あるい
はそのようなアクセスが合理的に予期できるような関係を持つ者にまで、適用範囲が拡大され
た。
(2) 禁止行為の拡大
新規則では、内部者がUPSIを保有している場合に証券を取引する行為を禁止するのみならず、
内部者による他の内部者を含めたいかなる者へのUPSIの伝達、提供、アクセスの許可を禁止す
るとともに、第三者によりUPSIを調達する行為も禁止している。
(3) セーフ・ハーバー
新規則では、国際的な実務に照らしてさまざまなセーフ・ハーバーを導入した。中でも下記の
2つが特に重要である。

デュー・ディリジェンス:M&A取引等においては、取引を検討するに当たって対象会
社の財務状態や事業状態を確認するためにデュー・ディリジェンスを行い、対象会社
の非公開情報にアクセスすることが通常である。従来、デュー・ディリジェンスを通
2
SEBI (Prohibition of Insider Trading) Regulations, 2015
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じて上場会社の内部情報を入手し取引を行うことはインサイダー取引規制に抵触する
恐れがあるとして議論となってきたが、新規則では、下記の条件に基づく場合、M&A
取引等を通じてUPSIを伝達・調達することはインサイダー取引禁止の対象とならない
ことが明確化された:①買収規則の下で強制的な公開買付けをトリガーするような場
合(25%以上の株式または支配権の取得)であって対象会社の取締役会が、当該取引
が会社の最善の利益であると決定した場合、②強制的な公開買付けの対象とはならな
い取引であって、対象会社の取締役会が、当該取引が会社の最善の利益であると決定
し、かつ取得者に対してデュー・ディリジェンスの過程で提供したUPSIを取引日の少
なくとも2日前に開示する場合

取引計画(Trading Plan):諸外国のインサイダー取引規制では、内部者があらかじ
め策定された取引計画に基づき行った証券取引については、インサイダー取引禁止対
象から除外されている。新規則においても、こうした国際的な傾向に習い、同様なセ
ーフ・ハーバーが導入された。新規則では、内部者は、会社のコンプライアンス責任
者に対して取引計画を提出し、コンプライアンス責任者の承認を得て同計画が公表さ
れてから6カ月後に取引を行うことができる。ただし、同計画に基づいた取引がすべて
免責されるわけではなく、内部者が、取引計画策定時にUPSIを保有しており、同情報
が計画実施時に一般的に入手不可能であったような場合には、インサイダー取引違反
とされる可能性がある。

開示義務:従来、5%超の株式または議決権を保有することとなった場合、または5%超
の株式・議決権を保有する者の株式・議決権数に変動があった場合に、一定の開示義
務が規定されていた。新規則では、同開示義務を廃止し、株式取得時の開示義務を上
場会社の支配株主(プロモーター)、主要な経営者および取締役に限定した一方、継
続的な開示義務として、支配株主および取締役だけでなく、すべての従業員について
も、3カ月間の取引額が100万ルピーを超える場合、会社に対してこれを開示し、会社
は上場するすべての証券取引所に対してこれを開示しなければならないとした。

監視義務:新規則では、インサイダー取引に関する行為規則、UPSIの公正な開示手続
き、および従業員およびその他関係者による会社株式の取引の監視および報告に関す
る行為規則の策定を義務付けている。これらの行為規則は、新規則が定める所定の基
準を満たさねばならない。
大企業の場合、従業員やその他の関係者によるUPSIへのアクセスや会社株式のすべての取引
を監視することは非常に煩雑であり、コンプライアンスにかかる時間やコストが増大すると予
4
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想される。今後は、UPSIへのアクセスを必要最小限ベースで限定し、適宜関係者に対して、情
報非開示義務や一定期間会社株式の取引禁止を課す等の対応が必要となってくる。
3. 上場株式の非公開化、公開買付け、および株式買戻しに関する証券取引委員会規則の改正
SEBIは、2014年11月から上場株式の非公開化、公開買付けや株式買戻しに関する従来の規則
の改正を検討してきたが、2015年3月25日付で、それぞれの改正規則が通達された3。
3.1 株式非公開化規則の改正
株式の非公開化は、「2009年SEBI(普通株式の非公開化)規則」(「旧規則」)により規制
されていたが、この度2015年3月25日付で改正された。主な改正点は下記の通りである。
(1) 非公開化買付けの成立基準
旧規則では、買付価格以下の価格で入札されたすべての株式数と支配株主(およびその共同
行為者)の保有株式数の合計が、①総株式数の90%、または②非公開化買付けの対象となった株
式の半数および支配株主(およびその共同行為者)が保有する株式数の合計、のいずれか多い
方以上となった場合に非公開化買付けが成立するとされていたが、改正規則では、買付け後の
保有数が90%以上となる場合に成立することとされた。また、従来、株式非公開化を承認する取
締役会決議日時点で電子的に株式を保有している一般株主の少なくとも25%が非公開化買付けに
応じる必要があるとされていたが、改正規則では、すべての一般株主に対して非公開化買付け
の申込書を所定の方式で送付したことを証明できる場合には、当該条件は適用されないことと
なった。これにより、一般株主による参加条件が著しく緩和された。
(2) 買付価格
旧規則では、買付価格は、リバースブックビルディング方式に基づき、非公開化買付けに応
じる一般株主による入札により決定され、具体的には、最も入札株式数が多かった価格が買付
価格とされていた。改正規則では、買付価格は、支配株主の保有株式数と一般株主の入札株式
数が90%基準に達した時点の価格となる。これまでは、支配株主または買付者以外の一部大株主
に株式数が集中している場合、こうした大株主が高値の入札価格を提出することにより買付価
格が吊り上げられるリスクが大きかったが、今後は、株式の保有がある程度多数の株主に分散
している場合、買付コストを下げる可能性がある。
3
SEBI (Delisting of Equity Shares) (Amendment) Regulations, 2015; SEBI (Substantial Acquisition of Shares
and Takeovers) (Amendment) Regulations, 2015; SEBI (Buy-Back of Securities) (Amendment) Regulations,
2015.
5
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(3) 取締役会の義務
改正規則では、取締役会に対して、株式非公開化を承認する前に、新たにマーチャント・バ
ンカーを任用して、上位25の株主(非公開化を承認する取締役会決議時点)による直近2年間に
おける会社株式の取引のデュー・ディリジェンスを行う義務を課した。マーチャント・バンカー
は、同精査を行う上で必要な情報の提供を求めることができる。さらに、非公開化を承認する
にあたって、取締役会は、会社が関連する証券法の規定を遵守していることや非公開化が株主
の利益に適うこと等について、認証しなければならないとし、取締役会に対して一層の責任を
課している。
(4) 透明性
改正規則は、支配株主は、自己またはそのグループに属する事業体が、取締役会による非公
開化承認決議の日から6カ月以内に会社株式を売却した場合、非公開化を行うことはできないと
した。これは、非公開化前に、支配株主が友好的な株主に対してあらかじめ会社株式を留めて
おくことにより、買付価格に影響を与えることを防止しようとするものである。同様に、支配
株主あるいは買付者、またはそのグループ会社は、取締役会による非公開化承認日から非公開
化手続き終了まで、対象株式を売却することができない。
(5) 時間軸
非公開化過程におけるさまざまな手続きの時間が短縮された。これにより、非公開化手続き
全体の所要期間は、理論上、117営業日から76日にまで短縮することが可能となる。
(6) 証券取引所による決済
改正規則は、非公開化買付けへの応募および取引決済を、証券取引所のメカニズムを通じて
行うことを可能としている。これにより、株式売却から得るキャピタルゲインについて、上場
株式の市場内取引に対して適用される、より有利な証券取引税(STT)の適用を受けることが可
能となる。ただしその前に、証券取引所を通じた非公開化取引について、SEBIによる詳細な規
則の制定が必要である。
3.2 株式買収規則の改正
上場企業の株式を大量に取得しあるいは支配権を獲得する場合、「2011年SEBI(株式の大量
取得および買収に関する)規則」により、買収者は、一般株主に対して公開買付けを行わねば
ならない。従来、買収者が対象会社の株式を買収した後、続けて非公開化しようとする場合、
株式買収から1年を経過しなければ非公開化を行うことができなかったため、株式買収を通じて
6
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75%以上の株式を保有するに至った場合は、上場基準である一般株主の株式保有比率25%を満た
すために、市場取引あるいは相対取引を通じて、保有比率を一旦75%未満に引下げなければなら
なかった。この度の改正により、買収者は、公開買付公告を行う際に株式非公開化の意図を宣
言することにより、株式非公開化規則に基づき非公開化買付けを行うことができるようになっ
た。ただし、別の買付者が競合して株式の対抗買付けの申し込みを行った場合は、非公開化買
付けを行うことはできず、買収規則に従って公開買付手続きを踏まなければならない。また、
非公開化買付けが成立するのは、買付者の保有株式数、公開買付けのトリガーとなった取引
(25%以上の議決権または株式の取得取引)で取得予定の株式数、および非公開化買付けによる
株式取得数が総株式数の90%以上となった場合である。これに満たなかった場合(非公開化買付
不成立)は、買収規則に基づく公開買付けを行わねばならない。また、株式非公開化規則の改正
と同様に、公開買付けへの応募および取引決済を、証券取引所を通じて行うことを可能とする
改正が行われた。
3.3
株式買戻し規則の改正
株式非公開化規則の改正と同様に、会社による株式買戻しの場合についても、その応募およ
び取引決済を、証券取引所を通じて行うことを可能とする改正が行われた。
4. 鉱山および鉱物(開発規制)法の改正
2015年1月12日付けで、「2015年鉱山および鉱物(開発規制)改正令」が公布され、「鉱山
および鉱物(開発規制)法」(「MMDR法」)が改正された。改政令による重要な改正点は下
記の通りである。
(1) 採鉱権のオークション手続き
鉱物権の付与に伴う政府の裁量を制限するために、改正令は、すべての「指定鉱物」の採鉱
権の付与は、電子オークションを含む競争入札手続きによるものと規定している。これに関連
して、ボーキサイト、鉄鉱石、石炭岩、およびマンガン鉱が新たに「指定鉱物」として指定さ
れた。
(2) 試掘権付き採鉱権
MMDR法は、試掘権および採鉱権を別個の種類の利権としてそれぞれの付与について規定し
ていたが、改正令は、「試掘権付き採鉱権」という新たな種類の採鉱権を導入した。これは探
査的事業の遂行およびその後の採鉱目的のために2段階にわたって権利を認めるものである。
7
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(3) 採鉱権の期間
採鉱権の期間に関する規定が、①エネルギー鉱物(石炭および褐炭)、および②エネルギー
鉱物および原子力鉱物以外の鉱物2つの部門に分けられ、それぞれの期間が規定された。また、
従来とは異なり、今後、すべての鉱物に関して、採鉱権の更新に中央政府の承認が必要となる。
原子力鉱物に関しては、中央政府が今後通達する採鉱権その他の鉱物利権の付与に関する規則
に基づき、州政府が調査権、試掘権または採鉱権を付与することになる。
(4) 優先交渉権
採鉱権の期間満了後に行われる採鉱権のオークションにおいて、自社炭鉱の賃借人(エネル
ギー鉱物および原子力鉱物以外)には優先交渉権が与えられる。
(5) 鉱物利権の譲渡
オークション手続きを通じて得た鉱物権および試掘権(エネルギー鉱物および原子力鉱物以
外)については、州政府の事前承認を得られれば、当該採鉱権または試掘権を保有する資格が
ある者に対して譲渡することが可能となった。改正令は、州政府が譲渡人による通知の90日以
内に譲渡についての承認を与えない場合、承認が与えられたものとみなすとしている。
5. FPIによる社債への投資制限の厳格化
「2014年SEBI(外国ポートフォリオ投資家)規制」および「2000年外国為替管理(非インド
居住者による証券の譲渡・発行)規則」により、外国ポートフォリオ投資家(FPI)は、510億
ドルを総枠として、取引所に上場している社債や、FPIへの発行後15日以内に証券取引所に上場
することを条件として、非上場社債への投資が認められている。また従来、上記510億ドルの枠
内で、流動証券やマネーマーケット・ミューチュアルファンドへの投資も認められていた。
この度、インド準備銀行およびSEBIは、それぞれ2015年2月3日付けの通達4により、FPIによ
る満期までの残余期間が3年未満の社債への投資を制限することとした。また、満期まで3年以
上あるが3年以内に行使可能なオプション条項を付している社債への投資も禁じられた。さらに、
FPIによる流動性およびマネーマーケット・ミューチュアルファンドへの投資も禁じられた。し
かし、FPIは満期まで社債を保有することが義務付けられるわけではなく、いつでも売却可能で
ある。ただし、満期まで3年に満たない場合は、インド居住者に対する売却のみが可能である。
4
RBI/2014-15/448 A.P.(DIR Series) Circular No. 71: Foreign investment in India by Foreign Portfolio
Investors; SEBI /CIR/IMD/FIIC/1/2015 February 03, 2015: Change in investment conditions / restrictions for
FPI investments in Corporate Debt securities
8
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また、同規制はFPIによる新規投資にのみ適用され、既存の社債投資については、コールオプシ
ョンやプットオプションを引続き有効に行使することができる。
上記の改正は、短期的な負債の増加を抑制することを目的としており、FPIによる公債への投
資制限(満期までの残余期間が3年未満の公債への投資禁止)や対外商業借入れ規制(最低満期
3年)との整合性を図ろうとしている。しかし、今回の改正により、国内の会社による短期的な
資金調達に打撃を与え、またいまだ発達段階にある社債の流通市場の発展に悪影響を与えるこ
とが予想される。インド社債市場の規模は約2,400億ドルとされており、日本(7,860億ドル)
や中国(1兆6,500億ドル)に比べて遥かに遅れをとっている。政府はこれまで社債市場の活性
化を図るためのさまざまな措置を導入してきたが、今回の措置はこの流れに逆行するものであ
るといえる。また、FPIが流動証券やマネーマーケット・ミューチュアルファンドへの投資が禁
じられたことにより、FPIによるキャッシュマネージメントにも悪影響を与える可能性がある。
6. 保険諸法改正法の施行
1938年保険法、1972年損害保険事業法、および1999年保険規制開発庁法の三法を改正し、中
でも外国資本の上限を26%から49%に引上げることを提案する保険諸法(改正)法案は、長年政
治的論争の対象となってきた。保険事業の拡大に必要な資本の不足から、インドにおける保険
浸透率は極めて低率に止まり、保険分野への外国資本導入の必要性が認識される一方、改正法
案は、2008年12月に国会上院に提出されて以降、未決となっていた。保険諸法改正法案が昨年
の冬期国会において再び上院の承認が得られなかったことを受け、政府は保険改革を断行する
ため、大統領令(Insurance Laws (Amendment) Ordinance, 2014)の発令により、保険諸法を
暫定的に改正することに踏み切った。さらに、政府は2015年2月19日付けで「2015年インド保
険会社(外国投資)規則」を施行し、これに併せて商工省産業促進局(DIPP)が2015年3月2日
付けで既存の外国直接投資政策を改正した(Press Note 3 of 2015)ことにより、保険事業への
49%までの外国投資が可能となった。予算国会において保険諸法改正法案が再び上院により承認
されなかった場合、2015年4月5日をもって大統領令が失効することとなり改革の継続性に不安
が残されていたが、予算国会において晴れて法案が両院を通過し、大統領の承認を得て2015年3
月20日付で「2015年保険諸法(改正)法」5が施行される運びとなった。主な改正点は下記の通
りである。
5
THE INSURANCE LAWS (AMENDMENT) ACT, 2015
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Copyright©2015 JETRO. All rights reserved.
(1) 外国投資比率上限の引上げ
保険事業への外国投資比率上限が26%から49%に引上げられた。同上限には、外国直接投資
(FDI)、外国ポートフォリオ投資(FPI)、外国ベンチャーキャピタル投資、預託証券および
非居住インド人による普通株式への投資のすべてが含まれる。このうち、26%までの投資は自動
承認であるが、26%を超える投資には外国投資促進局(FIPB)の承認が必要とされる。また、
保険事業を行う上で、外国投資家は、保険規制開発庁(IRDA)によるライセンスを取得する必
要がある。なお、これまで、保険会社は普通株式の発行のみが認められていたが、改正法では、
これに加えて優先株式等の他の証券の発行を認めている。ただし、発行可能な証券について、
IRDAによる詳細な規則の策定が予定されている。
(2) インド居住者による所有および支配
インド保険会社の所有および支配は、いついかなる時点でもインド居住者(インド在住のイ
ンド国民またはインド在住のインド国民が所有・支配するインド企業)が有さねばならない。
旧法ではこうした制限がなかったため、例えば外国投資家が留保された事項について相当な決
定権を持ったり、事業運営あるいは財務方針の決定において拒否権を持ったりすることも可能
であった。この点、IRDAが「支配」をどのように解釈するかについては、今後の運用を注視す
る必要がある。例えば、株主間契約において外国投資家に対して過度な拒否権を与えている場
合、「支配」に当たるとみなされ、その権限の縮小を求められる可能性がある。
(3) 価格規制
インド保険会社への外国投資については、インド居住者および非居住者間の株式発行および
譲渡に適用される価格規制ガイドラインが適用される。
(4) 仲介人
上記の外国投資比率上限規制は、保険ブローカー、保険検査人、損害査定人、保険コンサル
タ ン ト 、 保 険 代 理 店 、 そ の 他 1999 年 保 険 規 制 開 発 庁 法 の 下 で 規 制 さ れ る 「 保 険 仲 介 者
(Insurance Intermediates)」業への外国投資にも適用される。ただし例外として、保険仲介
業を営む銀行への外国投資については、その非保険関連事業からの収入が総収入の50%を超える
場合、銀行部門に適用される外国投資上限規制が適用される。
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(5) 再保険
現在インドでは国営のインド総合保険公社(GIC)が唯一の再保険会社として存在しているが、
改正により、IRDAに登録することで、支店その他の現地拠点を通じて再保険事業を直接行うこ
とが可能となった。
現在インドには合計53の保険会社(生命保険会社24社、損害保険会社28社、および再保険会
社1社)が存在しており、そのうち外国保険事業者との合弁会社は38社存在している。合弁会社
の多くは、外国投資比率上限規制が緩和されることを見越して、その合弁契約や株主間契約に
おいて、株式の追加取得条項を設けていると思われ、今回の規制緩和を受けて、今後追加取得
権を行使して出資比率を引上げる例が出てくると思われる。既にAXAやBupaは、それぞれの保
険合弁会社において、その出資比率を49%まで引上げる意向を示している。また、一部報道では、
今後1、2年のうちに、保険事業において、既存出資の引上げや新規投資により、1千億ルピー規
模の外国資本の流入が期待できるとしている。
以上
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