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車載LANプロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調

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車載LANプロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
1
<論 文>
車載LANプロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
― JasPar と FRC を対象として ―
徳 田 昭 雄
Cooperation between European and Japanese standard setting consortia
in automotive high-speed safety bus system: Analysis of FRC and JasPar
TOKUDA, Akio
To develop vehicles that fulfill the criteria of ‘environment-friendliness’ ‘advanced safety’
and ‘riding comfort’, coordination between ECUs (electronic control units) is indispensable.
For instance, in Toyota’s development of the ‘environment-friendly’ vehicle Prius,
coordination of the engine control unit with the braking control unit and the motor control
unit was essential. Since one or a number of functions is carried by the coordination of
separate ECUs, it becomes important to standardize the electronic platform and bus
system which securely connect the different ECUs.
The purpose of the present paper is to consider the standardization and convergence
processes for the conformance-test specifications of the ‘FlexRay’, developed by the German
origin FlexRay consortium founded in 2000 by BMW, Mercedes Benz, Philips and Motorola
and the Japanese origin JasPar consortium. The FlexRay bus system has already been
launched by BMW in its X5 SUV and is expected to become the de facto standard of the
automotive high-speed safety protocols market.
Focusing on the standardization activities at the standard setting consortia ― the
FlexRay Consortium and JasPar (Japan Automotive Software Platform and Architecture
set up in 2004 to promote standardization of software platforms for automotive electronic
control systems and related bus systems) ― , I will firs trace the history of the LAN bus
system standardization process, before investigating the standardization and convergence
processes for the corresponding conformance-test specifications within and across these
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徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
consortia, making use of the ‘Consumption Decision Model’ which is normally employed in
basic micro-economics as an analytical tool for consumption decision making under budget
constraints, and then trace the characteristics of the standardization process for the
conformance-test specification at JasPar with particular reference to one of its working
groups, Automotive LAN Working Group.
Analysis shows that there exists no ex ante optimal solution as the international
standard determinable in advance, but rather that the specific strategic intents of a
number of entities have a strong effect on the standardization process, so that every
solution which emerged from the process is, more or less, the result of compromise.
Keywords :standardization, consortium, FlexRay, JasPar, conformance-test specification,
Consumption Decision Model
キーワード:標準化、コンソーシアム、FlexRay、JasPar、コンフォーマンス仕様、消費決定モデル
はじめに
「アンシャン・レジームで測られていた量は、儀式と
習慣に固く結びついていた。これは、当時の測定の標
準には、地域の人々の同意が必要であったとはいえ、
異議を唱え、交渉をし、変更を迫る余地があったこと
を意味する……このようなものであったからこそ、地
域の度量衡は、その地域での権力バランス変化を物語
る生き証人といえる。
」
(Ken Alder, 2002)
本稿では、「国際標準」という学際的テーマの実態に迫るべく、次世代車載 LAN プロトコル
のデファクト・スタンダード最有力と目される“FlexRay”の標準設定プロセス及び、日欧双
方のコンソーシアムにおいて擁立されている FlexRay コンフォーマンス・テスト仕様のコンバ
ージェンスのあり様を分析する。分析にあたっては、標準化の主体である日欧の標準コンソー
シアム(standard consortium)の戦略や組織能力に着目する。ここで言う日欧の標準コンソ
ーシアムとは、すなわち欧州発祥の FlexRay コンソーシアム(以下 FRC)と日本発祥の
JasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture)のことである。
本稿で取り上げる車載 LAN プロトコルに限らず、「国際標準」には予め設定された最適解が
存在するわけではない。その設定プロセスには、何らかの主体による“戦略的な意図”が存在
する。したがって、出される解は関係主体間の意図が裁定された「妥協の産物」である。標準
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設定の主体が誰であり、彼らがいかなる戦略的意図をもって何を仕掛けようとしているのかを
分析し、その仕掛けに対して投企的(proactive)に対応していくことが「標準の世界」の定
石である(徳田, 2000)。国際標準の設定プロセスから離脱するのか、追随しておくのか、それ
とも声を出しつづけるのか(Hirschman, 1970)。何れにせよ、そのプロセスにおいて明確な
意思と戦略、実行能力を持たない主体は、それらを備える波に簡単に呑み込まれ、プレ・コン
ペティションの段階から不利な立場に追い込まれる(Tokuda, 2007)。このことは、標準コン
ソーシアムである JasPar についても例外ではない。
FlexRay をめぐる日欧コンソーシアムの標準化活動の事例は、まさに標準コンソーシアム内、
あるいは標準コンソーシアム間の標準の設定に至る戦略的プロセス(政治決定プロセス)を分
析するにあたって格好の素材である。そして、結果として設定される標準は、様々な主体の利
害が調整された末に標準コンソーシアムの「規範的」判断に基づいて裁定された「妥協の産物」
に他ならない。少なくとも日本の自動車産業、あるいは JasPar にとって不利な「妥協の産物」
とならないよう、欧州の「規範的」判断に対する妥協点や交渉材料を戦略として持ち合わせて
然るべきであろう。
本稿では、これら FRC に対する JasPar の諸活動を意味づける、あるいはその戦略性を問う
ための理論的基盤の提示を試みたい。以下では、
①個別仕様が主であった車載 LAN プロトコルが標準化されていく経過を辿り、
②JasPar、FRC の両コンソーシアムにおける標準化のプロセス、利害調整メカニズムの分
析に基づいて、JasPar の諸活動の戦略的な意味付けや欧州の「規範的」判断に対して
JasPar が留意すべき活動オプションに言及したうえで、
③ JasPar の戦略を実行面で支える JasPar の組織能力の特徴についてについて言及する。
1 車載 LAN プロトコルの標準化の歩み
自動車メーカーは、自動車の技術イノベーションの実現(走行性・安全性・快適性の向上)
に向けて、増大する ECU(electronic control unit: 電子制御ユニット)をネットワーク化し分
散協調制御を実現する必要性に迫られている。たとえば、ブレーキシステムであれば、自動車
の基本機能である「止まる」機能の性能向上に加えて「走る」「曲がる」機能と連動しながら、
走行安全性を向上させている。
システム的イノベーション(systemic innovation)を要する、より高次の機能を発揮する
新しいアプリケーションの開発にとっては、個別の機能を担う ECU の高機能化・高度化をは
かるだけでなく、各々の ECU をネットワーク化した分散協調制御が自動車に求められるよう
になってきている。個々のシステムを電子化するフェーズから、色々なシステムをネットワー
ク化してさらなる価値を追求していくフェーズへ移行しているのである(徳田, 2008)。特に、
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徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
自動車の電子化が急速に拡大している状況に対応して様々なサプライヤから ECU を調達しな
ければならない場合や、車輌レイアウトの制約の観点から ECU の場所最適化1)を進める必要
がある場合、どこの ECU を接続しても分散協調制御が可能なように、通信プロトコルの標準
化と相互接続性の確保が不可欠になってきている。
今日、車載 LAN プロトコルにはデファクト標準になっている仕様が制御対象ごとにいくつ
か存在する。ここでは、個別仕様が主であった車載 LAN プロトコルが標準化されていく経過
を辿っておこう。
1−1 独自仕様から標準仕様へ
1980 年初頭に車載 LAN プロトコル技術が自動車に導入されて以来、多くの自動車メーカー
がそれぞれ独自にバス・システムを開発してきた。その変遷を図1で確認しておこう。
図1 自動車メーカーの車載 LAN プロトコルの変遷
車載 LAN の自動車への導入は、ボディ系制御システムから始まった。しかし、それらは光
ファイバを用いた制御システムであったため、コストやメンテナンスの面に課題があり普及に
は至らなかった。本格的に LAN が導入され始めたのは、1980 年代後半以降である。例えば、
クライスラーは「C2D」、GM は「J1850VPW」、1990 年代に入ると、ダイムラーは「CAN」、
BMW は「I-BUS」「K-BUS」、クライスラーは「J1850VPW」、フォードは「J1850PWM」、ト
ヨタは「BEAN」、ホンダは「MPCS」、日産は「IVMS」など、各社独自のボディ制御系車載
LAN プロトコルを採用していた。
しかし、欧米を中心にプロトコルの標準化が進展していく。1990 年代に米国では GM、フォ
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ード、クライスラーが米自動車技術会(SAE)の認定した J1850 を採用するようになった。欧
州ではダイムラーベンツが CAN (Controller Area Network) を採用して以降、BMW や Audi、
Volvo が CAN を採用することになった。2000 年以降には、CAN が SAE J1850 よりも通信速度
が速いという利点や SAE が CAN を標準として認定したことから、米国でも CAN の標準化が
進められた。そして、2000 年に SAE J2411(低速)、2002 年に SAE J11898(高速)として
CAN が標準化されたこれにより、米国メーカーも CAN の採用を開始している。
そもそも CAN は、1980 年代にボッシュによって開発されたプロトコルである。1983 年にダ
イムラーベンツからの依頼に応じて開発に着手し、1986 年2月に SAE 年次総会にて CAN を発
表、1992 年にメルセデス・ベンツの S クラスで実用化された。1992 年には、CAN の標準化を
推進する CAN in Automation (CiA) がドイツにて設立され、1993 年に ISO 11898(高速)、
1994 年に ISO 11519-2(低速)として国際デジュール標準となった。これにより、欧州メーカ
ーがボディ系と一部パワートレイン系のプロトコルとして CAN を広く採用するようになった。
日本よりもひと足早く欧米にてプロトコルの標準化が進められた背景には、欧米(特にドイ
ツ)の主要自動車メーカーとサプライヤが標準化の方向性をいち早く固め、それを実現する為
に必要なデバイス、ツール、ワイヤハーネス、ソフトウェア、故障診断システム等の供給を担
う補完業者と協調しながらインフラ整備がなされた事があげられる。
これに対し、日本ではプロトコルの開発が自動車メーカー各社とって競争領域として捉えら
れていた。そのため、自動車業界として標準化を模索する状況になかったのである。しかし、
①電子制御システムの拡大による開発工数急増によって、自動車メーカーがプロトコル技術
を非競争領域として他社と共同開発する機運が高まってきたこと、
②自動車メーカーによるシステム的イノベーションの実現や、異なるサプライヤの ECU を
相互接続しなければならない状況下、CAN が標準仕様として宣言され、欧米でデファクト
標準を形成しつつあったこと、
③デファクト標準の形成と同時に、CAN が ISO 標準のプロトコルとしてデジュール標準化
されたこと、
④ CAN 対応のプロトコルチップ内蔵のマイコンが開発されたこと2)、
⑤ECU サプライヤのボッシュが ESC(横滑り防止システム)を販売する際、「CAN で対応
するのであれば、接続先の ECU はボッシュ製品でなくても構わない」というマーケティ
ング手法により、当初はコンバータをつけて CAN と独自プロトコルを組み合わせてきた
自動車メーカーが、次第に CAN を使用するようになっていったこと、
⑥自動車メーカーにとって、規模の経済性によるデバイスや開発ツール、メンテナンスシス
テムのコストダウンや標準化によるグローバル調達のメリットが、独自プロトコルを持つ
メリットを上回るようになってきたこと、
⑦半導体プロセスの変化に関わるソフトウェアのメンテナンスコストが、自動車メーカーの
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徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
負担になってきたこと、
⑧米国の故障診断規制である車載診断装置ステージⅡ(OBD −Ⅱ: On-Board Diagnostic
System Stage Ⅱ)が、CAN 経由で行われることが規定されたこと、
などの諸要因が相互に関わり合いながら、最終的に日本でも CAN がデファクト標準の地位
を確立したのである。
1−2 FlexRay の登場
CAN に続くプロトコルとして、FlexRay が注目を集めている。近年、ネットワークを流れ
るデータ量が増大してきており、CAN よりも高速通信が可能な通信プロトコルが必要となっ
てきた。FlexRay は通信速度が最大 10Mbps (CAN の 10 倍)、タイムトリガ方式により、どの
ECU がいつ送信を実行するか厳密なスケジュール設定が可能である。また、通信経路を2重
化できるので信頼性も高い。このことは、高信頼性が必要とする X-by-Wire 3)アプリケーショ
ンにも対応でき、例えば Steer-by-Wire システムへの商品化に向けた開発が開かれたことにな
る。
FlexRay の開発と標準化にあたっては、標準コンソーシアムが主導的な役割を果たしている。
2000 年に BMW とダイムラー・クライスラー(現ダイムラー)、半導体ベンダーのモトローラ
(現フリースケール)、フィリップス(現 NXP)の4社によって FRC が結成された。その後、
ボッシュや GM、フォルクスワーゲンが FRC に加わり、日本企業も 2002 年から 2003 年にかけ
てトヨタ、日産、ホンダ、デンソーが FRC に加入している。FRC の目的は、車載 LAN プロト
コルの共同開発とそのシステムの普及によるデファクト標準化である。FRC は、SAE に
FlexRay を提案しながら米国メーカーへのマーケティング活動を展開する一方、日本において
は JasPar と協調関係を構築し、FlexRay の国際的な標準化を推進している。
FRC の標準化活動は、競合するコンソーシアムへの対応にも向けられた。特に、FlexRay
と激しい標準化競争を展開していた TTP/C の対策が重要な課題であった。TTP/C は、ウィー
ン工科大学から始まり、BRITE-EURAM 研究プロジェクトなどの EU プロジェクトが支え、
TTTech Computertechnik が主体となって開発したプロトコルである。TTP/C の標準化は、
2001 年に設立されたコンソーシアム TTA − Group(元は TTA フォーラム)が推進しており、
設立当初はアウディ、プジョー、ルノー、フォルクスワーゲン、ハネウェル、デルファイなど
が参加していた。しかし、2003 年に TTP/C の推進者であったフォルクスワーゲンが FRC に取
り込まれ、2004 年にはルノーとプジョーが相次いで FlexRay に加入することになった。競合
する TTP/C 陣営の自動車メーカーを FRC に引き込むかたちで、最終的に FlexRay が次世代車
載 LAN プロトコルのデファクト標準を握ったのである。
新しいプロトコル対応の部品開発にあたって投資負担の大きなサプライヤにとって、双方の
コンソーシアムを両天秤にかけながら標準化の行く末を占うような状況は望ましくない。一方、
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自動車の最終価格をなかなか引き上げることのできない状況にある自動車メーカーにとって
も、他社との差別化要因になりにくいプロトコル技術が標準化されないが故に、部品やツール
を安価でタイムリーに調達できない状況は望ましくない。
FRC がプラットフォームリーダーシップを発揮して、主要な自動車メーカーをコンソーシ
アムに引き込むことに成功したこと、そして FlexRay を次世代プロトコルとして使用するよう
に自動車メーカーに働き掛けながら、半導体ベンダーやツールベンダー、ソフトウェアハウス
など補完業者の参入を促したことが、デファクト標準を獲得した要因になっているものと思わ
れる。特に、プレ・コンペティション期における標準化競争では、最終ユーザー(自動車メー
カー)を多数コンソーシアムに引き込んだうえで、当該技術がデファクト標準となるという補
完業者の「予測」を形成することが重要と思われる4)。
1−3 FRC と JasPar の関係
2004 年、日本の自動車業界初の自主合意標準の形成を目指し、JasPar が産声をあげた。
JasPar の目的は、車載電子制御システムのモジュラー化とインターフェイス標準によって、
垂直統合的かつクローズドな製品アーキテクチャを、水平分業的かつオープンなアーキテクチ
ャへと転換することにある。JasPar には、自動車メーカーのみならず、車載電子制御システ
ムの開発に関わる補完業者を含め 100 社以上が参画している(図2参照)。
JasPar における標準化は、主に ECU のソフトウェアと車載 LAN プロトコルに関わるもの
であり、次の3つのインターフェイスを標準化の対象にしていた。すなわち、
①アプリケーション・ソフトウェアとプラットフォーム・ソフトウェア(OS やミドルウェ
ア、デバイス・ドライバ)のインターフェイスである API (application programming
interface)、
②ハードウェア(マイコン)とソフトウェアのインターフェイス、
③複数の ECU をつなぐ車載 LAN プロトコル、
である。
JasPar では、車載ソフトウェアに関わる標準化については欧州のコンソーシアム
AUTOSAR (Automotive Open System Architecture) の活動を、車載 LAN プロトコルに関わ
る標準化については、FRC の活動を多分に参考にしている。AUTOSAR や FRC は欧州発祥の
コンソーシアムであるが、日本企業でも参画可能であり、先述のように、FRC には日本企業
も加入している。しかし、一部主要欧米企業がインナーサークルを形成している状況や地理的
なハンディによって、日本企業はなかなか思うようにコンソーシアム活動に関与することがで
きなかった。したがって、それら不利な状況を克服するひとつの方策として設立されたのが
JasPar といってよいだろう。
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徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
図2 JasPar 会員企業:種別別一覧
出所)JasPar 第5回活動報告会資料及び Automotive Technology 2007 より(2007 年 10 月現在)。
cJasPar 2007
とはいうものの、当面 JasPar では、日本発のデファクト標準を業界上げて擁立するという
わけではない。AUTOSAR や FRC との協調関係(パートナーシップ)を深めつつ、欧州中心
の標準化活動に対して日本からの貢献が認められるように「実際に使える」システムを仕上げ
ていくことが JasPar の方針である(図3参照)
。
図3 JasPar − AUTOSAR − FlexRay
出所)ルネサス テクノロジ社より提供。
コンソーシアム協調枠組み
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2−1 高速版 FlexRay との棲み分け
FRC と JasPar の協調関係は、分業に基づく協業関係として、次の2点の特徴を有する。ひ
とつは、FRC の標準化のターゲットが最大通信速度 10Mbps の FlexRay である一方、JasPar
は FlexRay の仕様をベースとしながらも 10Mbps よりも低速の 2.5Mbps 及び 5Mbps の
FlexRay を別途擁立しようとしている点である。双方で違いが生じているのは、FRC が
10Mbps の速度で「X-by-Wire の実現」を目指しているのに対し、JasPar は「CAN の代替」
として FlexRay の利用をも視野に入れていることによる。
車載 LAN の伝送速度と、配索自由度及びコストはトレードオフの関係にあり、速度が上が
るにしたがって配索自由度が落ち、コスト高になっていく。高速化によるコスト高を押さえな
がら、CAN 並みの配索自由度を確保するというのが JasPar の製品開発方針である。この点に
関して、JasPar の FlexRay 配索ワーキンググループ主査の長田昇氏は次のように述べている。
「配索の自由度が大きければ配索しやすい、イコール値段が安くなる。自由度が少ないほ
ど無理して配索しなければならないので値段が高くなる。速度が遅いほど配索自由度が大
きく、速度が上がるにしたがって配索自由度が落ちます。速度が速くなるとノイズも出や
すいし、そのために配索する上でシールド線を使わないといけないとか、短くしか配索で
きないとか、様々な制約が出てきます。現在使われている CAN
500Kbps でも配索に制
約が必要になる訳ですから、それ以上の数 Mbps のレートになると相当気を遣わないとう
まく配索できません・・・・・ 10Mbps という配索上の制約が非常に多い速度をいきなり
使用しますかと言うと、システム側のニーズが無いのであれば、より現実的な速度でいっ
た方が値段も安いし扱いやすい。ですから、JasPar ではいきなり 10Mbps ではなくて、
CAN よりも速いアプリケーションを想定したシナリオの中で進んでいると思います。」5)
「大は小を兼ねる6)」というスタンスで 10Mbps に焦点を当てて開発を進めてきた FRC と棲
み分けて、低速版 FlexRay の標準化をいかに FRC と協調しながら進めていくことができるの
かが、当面の JasPar の課題である。
2−2 相互接続性の確保
分業に基づく協業関係のもう一つの特徴は、FRC がプロトコル技術やバス・システムなど
FlexRay に関わる各種仕様を策定する一方、JasPar がこれら仕様を検証しながら「実際に使
える」システムを仕上げて FRC に貢献していく点である。すなわち、FRC では仕様書の作成
が主要な目的となっているのに対して、JasPar では紙ベースで出来上がった仕様書を実際に
実験して具体的なパラメータ設定などを行い、FRC に補足すべき点を提案していくという関
係である。たとえば、FlexRay 仕様には数多くのパラメータがあるが、それらのデフォルト値
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徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
を決めるなど、実際に使う場合に必要な要件を実験し決定するのが JasPar の役割である。言
い換えるならば、FRC が仕様知財(Specification IP :技術の機能面の詳細を記述した占有情
報)の策定を重視し、JasPar が実装知財(Implementation IP :技術を実際の製品に適用す
るために必要な占有情報)の策定を重視しているといえる7)。
このような分業関係が生じた背景には、CAN の二の舞を演じることのないよう、ECU 間の
均質かつ確実な相互接続性を担保し得る「コンフォーマンス・テスト(適合性試験)8)仕様を
策定する」という JasPar の意図があった。すなわち「テストカバレッジが広くて実装寄りのコ
ンフォーマンス・テスト仕様(以下、カバレッジの広いコンフォーマンス・テスト仕様)
」の作
成がそれである。かつて CAN を導入した際、仕様記述が抽象的であったり詳細が規定されてい
なかったりしたため、各ライセンシー(半導体ベンダー)が IP を独自に味付けして個別仕様差
が生じた結果、バストラフィックに対する影響が出るなど ECU 間の相互接続性に問題が生じた。
その結果、CAN が標準化されていたとは言うものの、自動車メーカーが複数のサプライヤから
ECU を調達して接続した際、なかなか上手くつながらず、何度もインテグレーションに関わる
作業を重ねなければならなかった9)。コンフォーマンス・テスト仕様策定にあたっての JasPar
の考え方を、JasPar コンフォーマンス・ワーキンググループ主査の橋本寛氏は、次のように表
現している。
「欧州のコンフォーマンスのテスト仕様というのは、境界値および代表値で検証して良い
悪いを判断しています。一部を確認してオーケーであれば全部がオーケーという考え方で
す。そうすると、その間が抜けているかどうかというのは基本的にはわからない。それに
対して、JasPar は仕様の中の全部を見ていきたい。仕様で規定されているものに対して、
カバレッジ 100 %で見たいという考え方です。コンフォーマンスというのは基本的に仕様
どおりにできているかを見ることなので、仕様全部をカバーするコンフォーマンス・テス
ト仕様をつくるということです……コンフォーマンスでこのようにしたいというニーズが
出てきた背景には、やはり CAN の最初の頃に非常にルーズだったことがあります。同じ
もの(ECU)同士であれば当然つながるのですが、違う会社のものを組み合わせるとつ
ながらなくなってしまったことや、仕様どおりにできてないところが結構ありました……
つながったとしても、何か問題が起きる可能性を必ず秘めているわけです。ですから、そ
れがないように安心して使えるようにしようというのが JasPar の考え方です。」10)
コンソーシアム・テスト仕様のカバレジが完全でない場合はいざ知らず、カバレッジを満た
していたとしても、実装時に自動車メーカーが求めるレベルでの相互接続性が保証されるとは
限らないのが現実である 11)。CAN がそうであったように、FlexRay でも実装依存箇所にまで
十分配慮した仕様が策定されているとは必ずしも言えない。JasPar では、そのような標準仕
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様(standardized specification)の脆弱性を排除するためのひとつの方策として、テスト項目
を増やすなど、FRC 以上の「カバレッジの広いコンフォーマンス・テスト仕様」が策定され
ているのである。
そして、JasPar の次なる課題は、独自に擁立する JasPar 発のコンフォーマンス・テスト仕
様を日本発の貢献活動としていかに FRC に認知させ標準化を図っていくかにあり、この点に
おいても FRC との協調のあり方が問われている。
2−3 知的財産権の取り扱いの相違
従来、知的財産権(IPR)の無償ライセンスが標準化の原則であったとすれば、近年の標準
化においては、IPR の有償ライセンスが原則となりつつある(Kim, 2004)。つまり、今日では
標準化組織の合意形成プロセスを経て標準が設定されたからといって、その標準が自由(無償
で)に使用できるとは限らない。その標準の使用あるいは実行に IPR が関わる場合は、当該権
利権者からライセンスを受けることが必要条件となる。
IPR の取り扱い政策について JasPar では、設立当初から「知的財産権ワーキンググループ」
において議論されてきた。そして、無償(royalty free)もしくは、標準関連の IPR について
標準を成立させるのに「技術的必須」で「自動車利用に限定 12)」したものについて RAND(合
理的かつ非差別的)条件で IPR のライセンス可能な仕組みが構築されてきた(石田, 2006)。
JasPar の IPR 政策に関して、JasPar 運営委員長の安達和孝氏は次のように述べている。
「我々の活動は、技術的なところを引っ張っているのは OEM ではなく、半導体だとか
Tier1 のサプライヤの方たちです。技術的に引っ張ってくれている人たちに対して、
JasPar で活動するモチベーションを持っていただくためには、キチッと成果というもの
が認められる仕組みが必要です。そこで、知財に関しては RAND 条件で出すことにしま
した…… AUTOSAR や FlexRay コンソーシアムは期限を決めて活動していますが、
JasPar は今のところ期限を決めずに、その場その場で大事なことについて活動していく
というスタンスです。継続的にそのモチベーションを保っていくためには、RAND が良い
との判断で知財規定を決めました。」13)
何もかも無償ということになると、競争力のあるサプライヤのモチベーションや、様々なサ
プライヤの持つ能力を引き出すことは難しい。標準に含まれた I P の特許宣言(p a t e n t
statement)をサプライヤにしてもらい、良いものを RAND 条件で使っていこうというのが
JasPar の IPR 政策になっている。
ただし、一般に RAND という概念は、利害関係者の間でかなりの程度の解釈の柔軟性が見
られる。そのため、サプライヤのモチベーションや能力を引き出すといっても、その「落とし
12
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
所」は JasPar の「規範的」判断に大きく依存する。そして、その判断は JasPar のガバナンス
構造によってある程度規定されてくるであろう 14)。JasPar の幹事企業の中に FRC のコアメン
バーに見られるような大手半導体メーカーが入っていないことは、JasPar の判断に少なから
ぬ影響をもたらす可能性がある。
加えて、JasPar の IPR 政策をサプライヤのモチベーションや能力を引き出す契機とするた
めには、FRC との協調関係の構築が欠かせない。FRC では、基本的にコンソーシアムメンバ
ーであれば、標準に含まれた IP は無償になっているという点で、JasPar の IPR 政策とは一線
を画しているようにみえる。しかしながら、FRC では FlexRay システムの実装に関わる推奨
手段などについて別途アプリケーション・ノートが用意されており、これについては IP 保有
者とのライセンシング交渉を個別に要することから、双方のコンソーシアムとも仕様の「使い
方」に関わる部分については、各社競争領域になっているといってよいであろう 15)。この点に
関して IP 保有者が留意しておかなければならないことは、JasPar において RAND 条項が適用
されたとしても、それが FRC においても RAND、あるいはアプリケーション・ノートと同等
の取扱いを受けるかどうかは未知数なことである。JasPar では、JasPar 仕様の全部または一
部が FRC において採用される場合、FRC のメンバーである JasPar 会員企業は FRC の規定に
従うことになっている(Gerybadze=König, 2008)。したがって、JasPar が IPR 政策(RAND)
から狙い通りの効用を獲得するためには、FRC において潜在的な IP 保有者が単独で当該 IP の
‘アプリケーション・ノート化’を図るルートのみならず、日本発の「実装知財」を JasPar と
してワンボイス化し、当該 IP について JasPar と同等以上の条件を FRC に適用してもらう仕
掛けや前例が必要になるかもしれない。
3 JasPar の協調戦略
3−1 精度と汎用性のトレードオフ 本節では、ECU 間の相互接続性を重要視して、「カバレッジの広いコンフォーマンス・テス
ト仕様」の擁立を目指した JasPar の戦略的意図や FRC への対応策(協調戦略)を分析してお
こう。
コンフォーマンス・テストとは、共通技術仕様を採用した製品がその仕様に準拠して動作す
ることを検証するためにコンフォーマンス・テスト仕様に規定された試験であり、半導体ベン
ダーをはじめとするデバイスメーカーに対するガイドラインとなる情報である。そして、FRC
や JasPar は、それら情報を作成・標準化するために利害関係者によって構成された標準設定
機関としてのコンソーシアムに他ならない。コンフォーマンス・テスト仕様自体は、コントロ
ーラ(ハード)やデバイスドライバ(ソフト)が仕様通りにできているかを検証するものに過
ぎないが、結果を含めた検証の「質」は、相互運用試験(Interoperability Test :テスト対象
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製品を相互に接続したテスト)に依存する。たとえば、相互運用試験で問題が見つかれば、そ
れを新たなコンフォーマンス試験のテストケースに応用して問題を発見できるように改良でき
る。
コンフォーマンスの一般的な流れを示したものが図4である 16)。ここでは、FRC や JasPar
といった標準設定機関がコンフォーマンス・テスト仕様を制定し、第3者認証機関がこのテス
トを行うことを想定している。CAN や FlexRay の場合は、通信に関わるドライバ(トランシ
ーバやコミュニケーション・コントローラ等)について半導体ベンダーが第3者認証の枠組み
を使って認証を取得する。そして、ECU サプライヤが認証を取得したドライバを調達し、最
終的に自動車メーカーにはテストに合格したデバイスが組み込まれた ECU が納入される。
図4 コンフォーマンスの流れ
出所)筆者作成。
ここで、標準設定機関が、情報としてのコンフォーマンス・テスト仕様から得ることのでき
る効用に着目し、効用と予算制約が与えられたときの意思決定モデルを援用しながら、コンフ
ォーマンス・テスト仕様設定の分析を行うことにしよう 17)。
飛行機の力学的構造の専門家として第一次世界大戦後の太平洋横断飛行計画に携わった木村
秀政は、飛行機設計上の根本原則として遠距離飛行に耐えうる飛行機の「強度規格」策定にあ
たって強度規格が「安全性と経済性との妥協」の上に成り立っているとする。そして、最大負
荷や最低限必要な強度の評価には、①飛行機自身の個性、②操縦の個性、③天候の個性からな
る偶発的な要素を理論的・実験的に研究し、出来る限り単純化を避けて個性を活かすべきであ
ると説いた(1932, 1933)。個別条件に合わせて複雑な規格をつくり、飛行機の性能向上を最大
限追究するか、あるいは量産の可能性と必要性を見込んで比較的単純な規格の下で設計を行う
かの選択は、政治的経済的状況を勘案して、両者を秤にかける高度の判断が必要となってくる
14
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
(橋本,2002)。飛行機の「強度規格」がそうであるように、乗り物の規格の策定は、常に「安
全性と経済性」のトレードオフに晒されているのである。
FRC と JasPar 双方、自動車の安全性を重視して相互接続性が確実な LAN システムを開発
するには、個別のユースケースに応じた「カバレッジの広いコンフォーマンス・テスト仕様」
を必要とするであろう。一方、スケールメリットを見越して様々なユースケースに対応可能な
LAN システムの開発には、「汎用性の高いコンフォーマンス・テスト仕様」の策定が望まれる
であろう。「安全性と経済性」、あるいは「相互接続性とユースケース」の両者はトレードオフ
の関係にある。そして、そこで決まってくるコンフォーマンス・テスト仕様の性質は「相互接
続性とユースケース」の妥協の産物に他ならない。
さて、コンフォーマンス・テスト仕様から得られる標準コンソーシアムの効用の多寡に影響
を及ぼすものは、もちろん相互接続性とユースケースに限らない。その他にも効用に影響を与
える財が想定されて然るべきであるが、ここではそれ以外の財については固定した上で、双方
のトレードオフに着目する。所与の効用のもとで、その他の条件が等しい場合、コンフォーマ
ンス・テスト仕様の性質は、相互接続性は高いがユースケースの限定的なもの(精度志向の仕
様)から、ユースケースにバリエーションはあるが相互接続性に不安を残すもの(汎用性志向
の仕様)まで、同じ無差別曲線上に無数に存在する(図5参照)。
図5 無差別曲線とコンフォーマンス・テスト仕様の性格
出所)筆者作成。
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
15
これら仕様の性質について、不確実性が存在しない状態であれば、汎用性志向の単純明快な
コンフォーマンス・テスト仕様が選択されることになるであろう。しかし、FlexRay の実装に
あたっては、偶発的な要素や想定外の状況が ECU の相互接続性に影響を及ぼす。したがって、
コンソーシアムにとって様々な局面を想定し不確実性を折り込みながら、「ある程度」精度志
向の仕様策定が現実的な解になってくる。このような観点からすれば、初期の位置や効用の多
寡はともかく、JasPar はトレンドとして無差別曲線の左上(精度志向の仕様)へ向かって解
を模索していると解釈することができる。
3−2 仕様策定上の制約
プロトコル技術に関わる各種仕様が標準化されていたとしても、仕様の性質によっては、各
デバイスメーカーが独自に味付けを施す余地を残してしまう。かつての CAN は、仕様記述が
抽象的であったり詳細が規定されていなかったりした。その結果、ECU 間の相互接続性の問
題が生じてしまい、自動車メーカーが実装した際、膨大なインテグレーション作業を要したの
である。このような非効率的なシステム開発は、デバイスメーカーによる自主検証を軽減しコ
ンフォーマンス・テスト仕様の精度を高めていく方策によって改善される必要がある 18)。逆に、
このことは「ある程度皆が味付けすることのできる抽象度の高い仕様だから普及し易い」こと
の例証にもなるわけであるが、いずれにしろ CAN や FlexRay がインテグレーション作業を入
念に実施するというコストをかけてはじめて成立する標準であることを強調しておかなければ
ならない。
このように考えると、FRC や JasPar がコンフォーマンス・テスト仕様を設定する際の制約
として、以下のような式を想定することができる。
普及コスト × 相互接続性 + インテグレーション・コスト × ユースケース = 定数
この式では、相互接続性(精度)の価格として普及コストを、ユースケース(汎用性)の価
格としてインテグレーション・コストを措定している。右辺の定数については、ここではコン
ソーシアムが直面している制約を数値化したものといった程度に考えておく。
この式を視覚化したものが、図6である。ここで線分 AB はコンソーシアムの直面する制約
線である。経営環境(価格)の変化に応じて、線分の傾きは変化する(切片が矢印のごとく、
上下左右に移動する)。コンソーシアムの効用は、その制約線と無差別曲線の接点 E における
コンフォーマンス・テスト仕様の性質(相互接続性とユースケースの組み合わせ)を選択する
ことによって最大となる。したがって、線分の傾きが大きくなれば、より精度志向のコンフォ
ーマンス・テスト仕様が選択され、傾きが小さくなれば、より汎用性志向の仕様が選択される
ことになる。
16
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
先述のように、今日 ECU 間のネットワーク化がますます進展しており、システムあたり単
価としてのインテグレーション・コストは増加傾向にある。一方、プロトコルの国際的な標準
化やコンバージェンスを進めようとする機運の高まりによって、普及コストは減少傾向にある。
このことから、線分の傾きが大きくなる(切片 A は上、切片 B は左へ移動する)傾向にあり、
そのような傾向・予測に後押しされて、より精度志向の仕様の策定が JasPar で進められてい
ると捉えることができる。
図6 仕様策定の制約と最適化
出所)筆者作成。
さて、ここで式の解説をしておくと、制約条件が同じであれば、左辺の第一項は、
①コンソーシアムが相互接続性を高めようと精度志向の仕様を設計しようとすれば、ユース
ケースをある程度限定せざるを得ないがゆえに単価として仕様自体の市場普及コストが増
大してしまう。その結果、仕様そのものを普及させたい企業や FlexRay 関連デバイスやツ
ールを大量に捌きたいサプライヤの反発を招くことを示している 19)。
これに対して、左辺の第二項は、
②FlexRay のスケールメリットを活かすべく、汎用性を高めて関連部品の供給や調達を安く
抑えようすれば、相互接続性の観点からインテグレーション・コストがかさみ、特にこの
点で同じ轍を踏みたくない日本の自動車メーカーをはじめとする企業は懸念を表明せざる
を得ないことを示している。
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
17
3−3 コンソーシアム内外の競争と協調
以上のことは、コンソーシアムに多くの利害関係者をメンバーとして加えたときの、コンソ
ーシアム「内」における「競争・協調(coopetition)」関係の様態を端的に表している。すな
わち、FRC や JasPar におけるサプライヤと自動車メーカーとの関係である。コンソーシアム
内におけるこのような関係を考慮すると、精度志向の仕様の標準化に向けて JasPar の自動車
メーカーが協調を密にすべき相手が、FRC の自動車メーカーであることがわかる。そして、
特にその中でも、自動車生産台数が多いがゆえに異なるサプライヤからの ECU 調達が喫緊の
課題となるであろうフォルクスワーゲンや GM のような自動車メーカーが、JasPar の自動車
メーカー(とりわけ生産台数が多いがゆえに複数サプライヤからの調達が必至なトヨタ自動車
や、系列サプライヤ体制からの脱却を図り、複数サプライヤから調達している日産自動車)の
良き理解者となり得る可能性が高い 20)。
他方、FRC と JasPar の違いにかかわらず、上記のコンテクストにおいて利害の相反するデ
バイスメーカーに対しては、自動車メーカーが普及コストを補って余りあるだけの「説得材料」
を用意しておくことが欠かせない。それは、FlexRay を使った精度志向のコンフォーマンス・
テスト仕様を要するユースケースを確定したうえで、数が出るシステムになるというデバイス
メーカーの「予測」や「期待感」を醸成することである。標準化戦略においては、補完業者の
期待感を醸成するために積極的にマーケティングに取り組み、早い段階から新製品の告知をし
て仲間を集め、自分自身の技術に対する誰の目にも明らかなコミットメントを示すべきことが
定石とされている(Shapiro=Varian, 1998)。
その一方策として、単価としての普及コストを押し下げるべく 21)、JasPar と FRC との協調
関係をさらに深めることが重要である。すなわち、FRC のメンバーであっても JasPar の策定
する精度志向の仕様を迅速に参照でき、且つ関係する JasPar の詳細仕様が「リーズナブル」
に使用可能な枠組みを構築することである。そうすることによって「ユースケースが限定され
てもユーザーに拡がりがある(数が出る)」形で‘期待感’を形成することができる 22)。結果
的に、JasPar に所属する自動車メーカーは、コンフォーマンス・テスト仕様の相互接続性を
担保しつつ安価にデバイスを調達できる一方、デバイスメーカーやツールベンダーは、
JasPar と FRC で策定される仕様がダブルスタンダードになるのではないかという危惧から解
放され、双方 win-win の関係を構築することができるのである 23)。
このような意味において、JasPar が高速版 FlexRay で FRC 以上に精度志向の仕様を策定す
るのではなく、「ボリュームが出る」と思われる 2.5Mbps 及び 5Mbps を別途擁立して、CAN
の代替用途を含めたコンフォーマンス・テスト仕様の策定に臨んだ判断は絶妙である。もちろ
ん、その場合には限定したユースケースの範囲内でボリュームが確実に出るアプリケーション
を、タイミングよく市場に投入することが同時に求められてくる。
18
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
3−4 FRC との交渉
その他、FRC や複数サプライヤの ECU を相互接続する必要性がそれほど高くはない自動車
メーカーに対しては、JasPar 発のコンフォーマンス・テスト仕様の存在意義を明示しておい
ても良いだろう。ここでは、意思決定モデルにコンフォーマンス・テスト仕様から得ることの
できる効用の多寡や環境の変化を織り込みながら、FRC に対する JasPar の交渉オプション
(あるいは交渉の足掛かり)を提示しておこう。
図7 FRC との交渉
出所)筆者作成。
これまでの議論を前提とすれば、双方のコンソーシアムはインテグレーション・コストや普
及コストといった財の価格変化に応じた制約条件のもと、効用を最大化するコンフォーマン
ス・テスト仕様を選択することになる。仮に点線(f*f**)の制約のもと、FRC のコンフォーマ
ンス・テスト仕様の最適点が点 F にあるとしよう(図7参照)。ここでは現実を反映して、
FRC 仕様の性格は JasPar に比して汎用性志向の色が濃いものを想定している。これに対して、
JasPar では矢印の方向へ制約線(j*j**)の傾く経営環境の変化に備えて、点 J が最適点として
選択されている。図上では、FRC に比して精度志向と汎用性志向のバランスの取れた性格の
仕様であり、しかも JasPar にとっては点 F を適用するよりも高い効用を得ることのできる無
差別曲線上になっている 24)。
ここで、FRC で決められるコンフォーマンス・テスト仕様(点 F)に JasPar が追随せざる
を得ない状況を容認してしまうと、点 F は JasPar にとって制約条件を満たせば受入可能であ
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
19
るものの、JasPar が FRC の策定したコンフォーマンス・テスト仕様から得られる効用は低下
してしまう。効用の低下は、便利ではあるが借りものであるがゆえに相互接続性に支障をきた
した CAN の苦い経験を彷彿とさせる。この場合、JasPar にとっては点 F を点 J に近づけさせ
るような FRC への働きかけが必要になる。しかし、両コンソーシアムの IPR 政策の相違のと
ころで触れたように、FRC ではサプライヤが仕様自体に IP やノウハウを投入するインセンテ
ィブがインストールされていない。そのため、FRC が現状の IPR 政策を踏襲する限りは、デ
バイスメーカーが協力しながら手弁当で精度志向のコンフォーマンス・テスト仕様を策定する
合理的な理由は存在しない。精度志向の仕様の策定は、コンソーシアムの仕事ではない。した
がって、FRC では相互接続性に関わる一定の品質プレミアムが、サプライヤやエンジニアリ
ング企業の手に残されていることになる。逆に、JasPar では「品質プレミアムが仕様の中に
埋め込まれている」ということができる。
それでは逆に、両コンソーシアムの協調関係を深めて、点 J を点 F に近づける(点 J の性格
の仕様を FRC でも使用できるようにする)オプションはどうであろうか。この場合、複数サ
プライヤの ECU を相互接続する必要のない自動車メーカーにとって、JasPar の詳細なコンフ
ォーマンス・テスト仕様を織り込んだ ECU は「過剰品質」とは言わないまでも、コストパフ
ォーマンスで測定した場合、ユースケースに拡がりのあるものに勝る優位性を見出すのは難し
いかもしれない 25)。
以上の理由から、FRC や複数サプライヤの ECU を相互接続する必要性がそれほど高くはな
い自動車メーカーに対して、JasPar 発の仕様の意義を示すロジック構築は、一筋縄とはいか
ない。しかし、ここで JasPar の無差別曲線上にはあるが、点 F とは反対側の点 C について着
目したい。点 C は点 F と同様に、JasPar にとっての効用が落ちてしまうものの、JasPar の制
約条件を満たし且つ、相互接続性の観点から点 F のリスクヘッジとなる仕様でもある。効用と
制約が与えられたときの意思決定モデルから想定するに、少なくとも点 C は、JasPar 以上に
ユースケースを限定し且つ JasPar 以上に精度志向の性格を有するコンフォーマンス・テスト
仕様となろう。そのような性格の仕様を必要とする具体的なアプリケーションは定かではない
が 26)、FRC に対して JasPar は点 C の性格を持った仕様の策定について協働や貢献の余地があ
りそうだし、ここを足掛かりとしながら JasPar 発の仕様の意義を明示していくことができる。
以上、FRC に対する交渉の足掛かりを提示してみたが、既述のごとく、このような精度志
向の仕様策定に向けた協働や貢献は、高速版 FlexRay との棲み分けを方針としている JasPar
の戦略とは相いれない。また、そのような仕様の策定は、あくまでも FRC との協調関係をう
まく図っていくための方策であって、それが JasPar のターゲットとするアプリケーションに
必要な仕様かどうかは別問題である。
さて、JasPar の目指す精度志向の仕様の策定となると、各サプライヤが単独で成し得るこ
とに限界がある。ワイヤハーネスひとつを取ってみても、各ハーネスの回路の信頼性、必要な
20
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
電圧・電流値の確実な供給、隣接回路への電磁気的なリーク防止、短絡の排除といった電気的
機能が要求されるとともに、車両組み付け時の取り回しの効率性のような物理面での制約も大
きいがゆえに、相互接続性の確保にあたっては、関係する自動車メーカーやサプライヤとの垂
直的で密接な調整活動が必要になってくる。仮説の域を超えないが、FRC と比較した場合
JasPar には精度志向の仕様策定に必要な基盤として、これら企業間の密接な調整活動を可能
とする「組織能力(organizational capability)」もしくは「企業間ネットワーク(分業と協業
関係)」が備わっているのかもしれない 27)。あるいは、日欧双方の標準コンソーシアムが、そ
れぞれの組織能力を活かして、車載 LAN システムのコンパティビリティや普及を進めるため
の仕様開発(FRC)と、相互接続性の確保を進めるための仕様の開発(JasPar)とで補完的
な分業体制を築いているといえるかもしれない。FRC の調査や両コンソーシアムの比較分析
に先立ち、以下では、JasPar の車載 LAN ワーキンググループ(以下 WG)に着目して、その
活動の概要をトレースしておく。
4 JasPar の組織能力
4−1 明確なターゲットの設定
図8は JasPar の活動体制を示したものである。2004 年の設立当初から、JasPar の存続を危
ぶむ声が多く聞かれたようであるが、今日 JasPar には活動予定中のものを含めて8つのワー
キンググループが設置されるまでに規模を拡大している。
図8 JasPar の活動体制
出所)JasPar HP(https://www.jaspar.jp/guide/structure.html 2008 年2月3日アクセス)
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
21
JasPar の標準化の対象は、主として車載ソフトウェアに関わるものと通信プロトコル
(FlexRay)に関わるものであり、設立以来3年間、JasPar では車載 LAN WG の活動に注力
して標準化活動が展開されてきた。車載 LAN WG では傘下の各 WG を含めて、具体的に
FlexRay に関する仕様書(推奨配索仕様書、推奨回路仕様書、ツール関連の仕様書、コンフォ
ーマンス関連の仕様書)や各種要件定義書、評価基準書などが策定されており、2007 年から
2008 年にかけて順次公開される見通しである(図9参照)。
図9 JasPar 仕様書の効用
出所)Automotive Technological Day 2007 より。cJasPar 2007
3年間の活動を振り返り、トヨタ自動車の谷川浩氏は JasPar 副運営委員長の立場から次の
ように評価している。
「一言で言うと、大失敗はしてないですね。失敗する懼れは多分にあって、論理的に組
み立てずに、みんなで集まって相談しましょうということで始めたので、勝算は決してあ
ったとは言えないです。一番やりやすい FlexRay から始めたので失敗はしなかったですね
……皆、それぞれ勝手にやるつもりは無く、投資的にも非常に大きいですし、必要性とい
う観点からも本当に無ければ自動車ができないというほどニーズも詰まっていなかったで
すから。勉強がてらやったことは無駄になることはない、ということで非常に活動は盛り
上がりました。」28)
一方、JasPar に参画するサプライヤは JasPar の活動をどのように評価しているのであろう
か。ECU サプライヤである日立製作所の高橋義明氏、ケーヒンの藤田作氏は JasPar の活動を
次のように振り返っている。
22
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
「これまではかなり成果が出できたのではないでしょうか。私も意外でした。JasPar 設立
のときに重松代表が“うまくいくと誰も思ってないでしょうけど”とご挨拶されましたが、
あれが当時の正直なイメージと思います・・・・・これまでのところ FlexRay が中心です
が、FlexRay に関してはデバイスの方にも色々なフィードバックをかけて実際に物ができ
てきているし、今後も成果を出していくものと思っています(高橋氏)。」29)
「JasParの活動は技術的なノウハウの蓄積に役立っていて、特にFlexRayに特化すると、今の
活動は有効であったと評価しています。既にできあがったものからスタートするのではなく
て、固まってないところから技術やノウハウを習得する価値はあると思います(藤田氏)
。
」30)
当初の危惧に反して、自動車メーカーのみならず JasPar に参画するサプライヤを含め、こ
れまでの JasPar の活動成果に対しては総じて高い評価にあるようである。
さて、企業組織であれば、最終的にはボードが「権限」を発揮して組織の利害調整を図るこ
とが理屈の上では可能である。しかし、JasPar のようなコンソーシアムの場合「権限」の持
つ効力は限定的である。したがって、コンソーシアムの利害調整においては企業組織以上にリ
ーダーシップの役割が重要になってくるであろう。それでは、JasPar におけるリーダーシッ
プの発現は一体何に因るものなのだろうか。JasPar におけるリーダーシップについて、
JasPar 運営委員長の安達和孝氏は次のように述べている。
「やはり OEM3 社、もしくはそれにデンソーを加えた幹事会社4社で最終的な姿に向けて
団結できている部分というのが、プラスの方向に働いているのではないかと思っています。
そのベクトルが合っているので、いくつか出てくるトレードオフに対しても良い判断がで
きているのではないかと思います。」31)
コンソーシアムにおいてリーダーシップを発揮し、標準コンソーシアムを成功に導くための前
提条件として「メンバー間の目標の“標準化”=足並みをそろえやすいターゲットの設定」が重
要である。そして、少なくとも JasPar では主要自動車メーカー間で大きなブレのない「CAN の
二の舞を踏むことの無いよう、相互接続性の高い使える FlexRay にする」という明確なターゲッ
トを設定し得たことが、今日の具体的成果として実を結んでいると言ってよいだろう 32)。
4−2 車載 LAN WG の活動 33)
2006 年8月に正式に設置された車載 LAN WG(主査:日産自動車)は、WG の自動車メー
カーが主体となって、4つの FlexRay 関連 WG (FlexRay 回路 WG、FlexRay 配索 WG、
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
23
FlexRay ツール WG、FlexRay コンフォーマンス WG)が活動する際の方向性や指針、共通用
件の提示を行ってきた。活動の目的は、以下の3つにまとめることができる。
①車載 LAN バス・システム全般にわたり、JasPar 仕様を策定するために必要な要件定義を
行う。
②FlexRay バス・システムに焦点を当て、FRC フェーズⅡ(2006-2008 年)と同期しながら、
自動車メーカーの要望を一つにまとめ、関連する WG の活動指針となる仕様もしくは要件
を作成する。
③FlexRay に関連する WG からの要望により、各 WG が必要とする前提条件や要件の標準化
を図り、検討結果を各 WG に報告する。
要するに、車載 LAN WG はコンソーシアムの活動の中から出てきた自動車メーカーのニー
ズと各 FlexRay 関連 WG(サプライヤ)のシーズをまとめて、それらをマッチングさせる、あ
るいは各 FlexRay 関連 WG 間のニーズやシーズをマッチングさせるための垂直的・水平的な調
整機能を果たしてきたのである。以下では、WG 間の調整という観点から FlexRay 関連の WG
の活動について言及しておこう。
車載 LAN WG は傘下に2つの TF(タスクフォース)を有している(スケジュールパック
TF と COM/NM 機能定義 TF)。主な標準化活動の内容は、①推奨アプリケーションの標準化、
②推奨スケジュールパックの標準化、③ COM/NM 機能の標準化である。第一の推奨アプリケ
ーションの標準化では、FlexRay を使った通信システムではパラメータが多く様々なユースケ
ースが考えられる中で、ある程度アプリケーションを絞った JasPar 推奨案を提示している。
これによって、各 FlexRay 関連 WG の作業量を減らしていく目的を持っている。具体的には、
自動車メーカー各社で想定される FlexRay 通信の使用法を抽出・分類化し、いくつかのユース
ケースを定義していくことである。このことは、前節でみたような相互接続性とユースケース
とのトレードオフの関係の中で、FlexRay コンフォーマンス WG における精度志向の仕様策定
に向けた活動の一環である。
ユースケースの標準化は、FlexRay を使った新たなアプリケーションの発想に制限を加えるこ
とであるといってよい。したがって、標準化に向けた自動車メーカー各社間の調整が一筋縄では
なかったことは想像に難くない。自動車メーカーによる共通要件の導出に関わって、車載 LAN
WG 傘下の回路 WG に主査を派遣しているデンソーの村山浩之氏は次のように述べている。
「JasPar に参加しているメンバーの顔ぶれが OEM と ECU のサプライヤ、半導体関係のベ
ンダーという構図の中で活動を加速するためには、やはり OEM が約束をすることが重要
です。それは、“何年にこれくらい使います”という事だけではなく、どういう使い方を
するのか、その要件を明確にしてもらうことです。そうすると、半導体ベンダーは投資で
きるわけですよ。その橋渡しをしていたというところはあります・・・・・当然 OEM 側
24
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
が仮想にしても使い方を出さないと仕様が決まらないですから。それさえあれば、半導体
のベンダー側に対しては割とやり易いのですよ。」34)
JasPar では、自動車メーカー間の足並みがそろうように、自動車メーカー、ECU サプライ
ヤ、半導体メーカーから構成される回路 WG において具体的な調整活動が行われていた。それ
ら3層構造の中で JasPar 発の仕様を擁立するには、半導体メーカーをはじめとする補完業者
に対して、それが確実に使われるという‘予測’を形成する(不確実性を減らしておく)こと
が肝要である。そのためには、何よりも自動車メーカー共通の具体的な要件(ニーズ)を明示
してもらうことが前提になる。そのような役回りとして両者のブリッジング機能を果たしてき
たのが主査のデンソーであり、それを制度的に保証しているのが両者のマッチングの‘場’と
しての回路 WG といえる 35)。以上のような回路 WG における垂直的な調整活動を経て、車載
LAN WG にて具体的なアプリケーションが発行されていくのである。
ちなみに、この回路 WG では主に以下の4つの活動が進められてきた。すなわち、
① WG 各社の要求を顕在化させて、共通の要件定義を行う活動
②リファレンスボードの開発を行い、回路の検討評価を行って推奨回路を決めていく活動
③相互接続性を高めるために、実際に回路と半導体メーカー各社のマイコンをつなげた評価
を行い、各社の設計不一致点や問題点を顕在化させ、改善していく活動
④FlexRay 通信に必要な設定パラメータの定義方法を簡素化・標準化していく活動
である。
特に相互接続性を高めるという観点から、要件の定義や推奨回路の策定にあたって FlexRay
の高速通信では耐電磁気性、ノイズ放射特性など様々な物理的・電気的相互作用を考慮する必
要から、半導体メーカーや後に触れるワイヤハーネス・メーカーとの垂直的な協調関係を通じ
た調整が行われてきた。また、自動車メーカーがどこの半導体メーカーのものが組み込まれ
ECU であっても安心して使うことのできるように、各半導体メーカーのマイコンを実際につ
ないだネットワークレベルでの相互接続性評価が行われ、各半導体メーカー固有の問題点やプ
ロトコル仕様自体の問題点が顕在化され、その解決が図られてきたのである。そして、これら
回路 WG において獲得された相互接続性に関わる様々なノウハウが、JasPar のコンフォーマ
ンス WG へ引き継がれていくのである。
第二の推奨スケジュールパックの標準化では、FlexRay の通信スケジュールをいくつかのパ
ターンにパッケージ化し、すべてのパラメータが決定されることになる。具体的には、推奨ア
プリケーションごとに要件を精査、各メーカーの要求値の調整を同時に行い、ユーザーが定義
すべき標準パラメータが提示される。ユースケースが絞られることによって通信パラメータも
限定され、ユーザーはより簡単かつ安価なパラメータ設定が可能になる。
パラメータの設定には、通信効率性や物理的特性、信頼性の観点から FlexRay 関連 WG 間の
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
25
調整が重要である。例えば、車載 LAN WG から提示されるスケジュールパックを守るための
タイミング要件や、FlexRay 配索 WG 等から提出された各種データ(例:バスドライバの時間
的な特性、電圧特性)を考慮して、FlexRay 回路 WG にて策定される推奨設計パラメータに反
映させるなどの対応がなされてきた。
FlexRay 配索 WG の主査として、FlexRay 回路 WG との調整にも携わってきた矢崎総業の長
田昇氏は、両 WG の分業と協業の関係について次のように述べている。
「最近のハイスピードのネットワークというのは、繋ぎ方を決めるだけではだめです。回
路側の条件をしっかり理解した中で配索を組まなければなりません……回路 WG は
FlexRay の評価基準を策定し、これをベースに JasPar としての推奨回路を決めています。
配索 WG はこの活動と連携し、配索シミュレーションデータから配索自由度を確保する為
のバスドライバ要求特性を抽出して回路 WG に提示しています。お互いやりとりしながら
回路 WG は最終的に推奨回路を決めるわけです。配索 WG はこれに基づいて最終的な配索
シミュレーションを実施して、配索仕様書を作ってきています。このように回路側と配索
側との関係は切れていない…… JasPar は、この辺をしっかり摺り合わせながら、お互い
にベストな解を見つけようとサイクルを回しています。」36)
JasPar は「組み合わせのための擦り合わせの場」と評されることもある。FRC との具体的
な比較調査を待たなければ結論付けることはできないものの、実際に ECU レベルでの相互接
続性の質を重視して、WG 間あるいは企業間の垂直的協調関係に基づく調整活動を図ることが
できたのは、JasPar 固有の組織能力に由来するものかもしれない。だからこそ、FRC の組織
能力として精度志向の仕様策定が難しいのかもしれないが、ここではこの点には深入りせず、
仮説の提示にとどめておく。
第三の COM/NM 機能の標準化では、ネットワークに必要なミドルウェアの要件を定義し、
FlexRay ネットワーク要件定義書が提出される。具体的には、ネットワークに必要な要件を各
社の設計ノウハウやネットワーク開発の経験に基づきそれぞれ抽出・分類化、優先順位や必要
性について各社調整を図りながら必要機能を精査し、FlexRay ネットワーク要件定義として標
準化が図られる。通信の振る舞いに関わる標準の策定にはソフトウェアの標準化活動との関わ
りが生じてくる。そのため、ここでも他の WG との協調関係が必要になってくる。この協調関
係は、車載 LAN WG を超えてソフトウェア WG や AUTOSAR に及ぶことになる。
4−3 FlexRay コンフォーマンス WG の活動
最後に、FlexRay コンフォーマンス WG の活動について触れておこう。FlexRay コンフォー
マンス WG(主査:ホンダ技術研究所)は、他の FlexRay 関連 WG と同じく、それぞれの WG
26
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
と連携しながら活動してきた。WG 傘下にデータリンク層 TF、物理層 TF、CON/NM TF、認
証期間認定基準検討小委員会が設置されている。
これまで見てきたように、FlexRay コンフォーマンス WG の活動方針は、「FlexRay 対応の
ECU の相互接続性が均質に確保されるために必要なコンフォーマンス・テスト仕様を策定す
る」ことである。コンフォーマンス WG の活動内容は、
①FRC の仕様と、JasPar の FlexRay 回路 WG や FlexRay 配索 WG で策定された仕様を元に、
コンフォーマンス・テスト仕様(データリンク層、物理層)策定、
②策定されたコンフォーマンス・テスト仕様の妥当性検証、
③認証機関認定基準の策定、
④ FRC への JasPar コンフォーマンス・テスト仕様の提案
である。③に関しては、欧州では第三者認証機関によるコンフォーマンス試験がなされてい
るが、日本では一般的ではないため、日本におけるニーズや認証機関のあり方について調査が
行われている。
JasPar では実際に使う上で有効なコンフォーマンス・テスト仕様の策定というコンセプト
から、他の車載 LAN 関連の結果をもとにユースケースを絞ったなかで精度の高い検証が行え
る仕様策定を目指している。この点に関して、FlexRay コンフォーマンス WG 主査の橋本寛氏
(本田技術研究所)は次のように述べている。
「コンフォーマンスは基本的に仕様どおりにできているかを見ることなので、仕様全部を
カバーするコンフォーマンス・テスト仕様をつくります。ただし、実際に使うときには、
決まった使い方しかしないですよね。特に JasPar の中では、パラメータをある程度限定
して、使い方を限定していますから全部を見る必要はなくて、ユースケースを狭めた分、
深堀して 100 %のカバレッジでテストできるようにするほうがメリットはあるだろうと考
えました・・・・・ FlexRay は結構自由に(スピード、パケットの大きさ、分割の仕方な
ど)色々な取り方ができるのですが、使い方をある程度パターン化して限定して使ったほ
うが、セッティングも楽で使い易くなります。同じ工数をかけるのであれば、必要ないと
ころはテストする必要はありませんし、必要なところは深いところまで検証していくコン
セプトでやっています。」37)
コンフォーマンス WG では、FRC の仕様書と JasPar の回路 WG、配索 WG で検討された仕
様に対してユースケースを制限しつつ精度の高い検証が実現可能なテスト項目を網羅的に抽出
される。そして、抽出されたテスト項目と FRC のテスト仕様を比較したうえでその差分に対
して妥当性検証を行い、最終的な JasPar 発の「狭くて・深い」コンフォーマンス・テスト仕
様が策定される手順になっている。
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
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具体的に JasPar のデータリンク層 TF では、マイコンの振る舞いが記述された FRC 仕様の
SDL (Service Description Language) 図に着目してパスチェックを行い、パスカバレッジ
100% のテスト仕様が策定され、その妥当性検証を行うための検証環境の構築も同時に進めら
れてきた。また、物理層 TF では FRC の物理層仕様書を検証した上で全てのテスト項目を洗い
出して FRC をではカバーされていないテスト項目の差分を JasPar 仕様として追加・妥当性検
証を行ってきた。具体的には、FRC のバスドライバに関わる物理層仕様書を検証した結果、
テスト項目が 140 件分しかカバーしていないということが判明し、カバレッジが 100 %になる
ように JasPar として 66 件のテスト項目が追加されている(表1参照)。
表1 JasPar によるテスト仕様の追加
出所)JasPar 第5回活動報告会及び Automotive Technological Day 2007 資料より。cJasPar 2007
以上のように FlexRay コンフォーマンス WG では、車載 LAN 関連 WG 内あるいは WG 間に
おける垂直的調整プロセスの中で出された結果をもとに、限定されたユースケースの中で高い
相互接続性の実現可能なコンフォーマンス・テスト仕様が策定されているのである。そして、
このような性格を有するコンフォーマンス・テスト仕様の FRC へのフィードバックこそが、
欧州中心の標準化活動に対する日本発の貢献活動にほかならない(図 10 参照)。
図 10
出所)筆者作成。
FRC と JasPar のコンフォーマンス仕様の関係
28
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
おわりに
本稿では、「国際標準」という学際的なテーマの実態に迫るべく、車載 LAN プロトコル
“FlexRay”の標準化の動向を事例として取り上げて、
①個別仕様が主であった車載 LAN プロトコルが標準化されていく経過を辿り、
②JasPar、FRC の両コンソーシアムにおける標準化のプロセス、利害調整メカニズムの分
析に基づいて、JasPar の諸活動の戦略的な意味付けや欧州の「規範的」判断に対する
JasPar の備えるべき活動オプションに言及したうえで、
③JasPar の戦略を実行面で支える JasPar の組織能力の特徴についてその概要に触れてきた。
ちょうど 2007 年9月をもって4年目に入った JasPar の活動を振り返ってみると、その成功
要因は「適切なターゲットの設定」と「それを実現し得るコンソーシアムの組織能力」にある
と言っても的外れではなかろう。具体的に JasPar の組織能力が FRC と比較した場合、いかな
る特徴を有するものなのかについては今後さらなる調査・分析を行っていく必要がある。しか
し、少なくとも「CAN の二の舞を踏むことの無いよう、相互接続性の高い使える FlexRay に
する」という明確なターゲットのもと、水平的関係にある企業間での協調はもとより、関連す
る WG 間あるいは垂直的関係にある企業間で相互に調整を図りながら協調的に標準化活動が進
められていたことを JasPar の標準化活動の考察を通じて把握することができた。
それでは、このような企業間の垂直的協調関係はそもそも何のために必要であったのか。そ
れは、車載電子制御システムを水平分業的かつオープンなアーキテクチャへと変化させるため
に、企業間、あるいはレイヤー間でタスクを分割するためである。そして、タスク分割後に
CAN 導入当初に自動車メーカーが苦労したようなインテグレーション作業を再現しなくて済
むように、予め関係サプライヤ間で調整を図りインターフェイス標準の中に調整機能を埋め込
んでいるのである。JasPar とは「組み合わせのためのすり合わせの場」と評されることがあ
るが、JasPar 車載 LAN 関連 WG に限って言えば、それは「確実な組み合わせのためのすり合
わせの場」、「事後(ex post)の円滑な市場取引の実現のために、事前(ex ante)に企業間の
垂直的協調関係に基づく調整メカニズムをインターフェイス標準に埋め込むためのプラットフ
ォーム」であると言えるであろう。
信頼性の高いインターフェイス標準は、「制度」として効率的な市場メカニズムの発展に貢
献し得る。そのような事前のインターフェイス標準の策定コストが事後のインテグレーショ
ン・コストを下回る状況になれば、JasPar 発の標準が社会的厚生を高めることになるであろ
うし、そのような標準がリーズナブルな形で利用できるのであれば FRC も大歓迎であろう。
今後、JasPar の標準化活動の主戦場は車載ソフトウェアの領域に移っていくことになる。
日本発であることの強みあるいは競争優位や立地優位を意識しながら、戦略的なプラットフォ
ームとして JasPar に更なる付加価値をつけ、日本発の良いアイデアやノウハウ、技術がグロ
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
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ーバル標準として市場で適切に評価されることが期待される。
謝辞
本稿の作成は、JasPar 会員企業の皆様のご支援に負うところが大きい。ここに記して謝意
を表明したい。筆者は 2006 年4月に JasPar 学術会員に加えて頂いた。このような機会を与え
て下さった JasPar 運営委員会の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、入会にご尽力いただい
たルネサス テクノロジの林義弘様、豊通エレクトロニクスの山内健太郎様、香野孝通様に心
より感謝申し上げたい。尚、本稿の記述にかかわる一切の責任は筆者に帰す。
本稿は平成 17 年度産業技術研究助成事業費助成金 研究課題「自動車車載電子制御システ
ムの日欧標準化推進コンソーシアムにおける標準策定プロセスおよびコンソーシアム運営手法
の国際比較・分析」(研究代表者:徳田昭雄)」、平成 18 年科学研究費若手(B)課題番号
18730265 により助成を受けた研究の一部である。
<注>
1)場所別最適とは、それぞれの機能、システムがそれぞれ必要な入出力信号を機能毎の各 ECU に取り
込むのではなく、点在する入出力信号源を最も近い ECU がそれを必要としている ECU に替わって取
り込み、接続することである(松本, 2005)。
2)もともとはマイコンと外付けのプロトコルチップをつなぐシリアル・バスが必要であったが、シリア
ル・バスでは多重通信ができなかったりノイズの漏れが生じたりといった技術上の制約があった。
3)X-by-Wire とは、機械駆動システムや油圧駆動システムで制御するのではなく、ワイヤによって電子
的に制御することであり、具体的には Brake-by-Wire,Steer-by-Wire,Suspension-by-wire などが
ある。例えばパワー・ステアリングシステムであれば、Steer-by-wire 化することで、ステアリング・
コラムやオイル・ポンプ、油圧ホースなどの制御ユニット部品がワイヤに変わることを意味する。
4)日本市場へのプロモーションは FlexRay よりも TTC の方が早かったが、最終的に日本の OEM はドイ
ツの動向に歩調を合わせた結果になった。
5)筆者インタビュー(2007 年4月 23 日)。
6)この表現には、「10Mbps であれば、(2.5Mbps 及び 5Mbps を含めて)それ以下の通信スピードを用い
たユースケースを全て包含できる」という意味が含まれている。
7)なお、FRC では電気的物理層(Electrical Physical Layer)仕様について、その使い方に関わる仕様
は電気的物理層アプリケーション・ノートという形で別立てしている。
8)コンフォーマンス・テストとは、共通技術仕様を採用した製品がその仕様に準拠して動作することを
検証するための試験。
9)このほか、CAN のコンフコンフォーマンス・テスト仕様に大きな修正がされるたびに、自動車メーカ
ーや半導体ベンダーは既存のソフトウェア資産を書き換えるために相当の追加投資を余儀なくされた
ものと予想される。
10)筆者インタビュー(2007 年7月 13 日)。
11)ECU のトランシーバから出力された信号が、ハーネスを伝わり通信相手のデバイスドライバで正確に
サンプリングされるには、反射、発信特性・ループ遅延といった阻害要因を排除しながら、様々な電
気的・物理的現象を検証していく作業が必要である。
12)最近の標準の対象になっている技術は、多数の分野をカバーしているものが多いことから「自動車使
用」に限ることによって、RAND 条件が適用されるケースは限定的なものになると思われる。
13)筆者インタビュー(2007 年5月 24 日)。
14)自らは IPR の実施許諾契約主体とはならずにメンバー間の自発的交渉に任せる場合がほとんどである
30
徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
が、標準コンソーシアムは、そもそも特許宣言ができるかどうかの「雰囲気」や、メンバー間の調整
や仲裁を通じた柔軟な解釈の「落とし所」に対して少なからぬ影響を及ぼす。
15)FlexRay システムに関わる各種仕様書やアプリケーション・ノートは、FRC の HP(http://www.flexray.
com)から申し込み・入手可能である。
16)日本では第三者認証は一般的とはいえない。
17)西谷(2007)は同モデルを応用し、会計基準の国際標準設定プロセスの分析フレームワークを開発し
ている。本節の分析は同フレームワークの援用による。
18)もちろん、プロトコル技術や電気的物理層に関わる各種仕様自体の中身を厳密に規定しておくという
方策もあるが、これについても、コンフォーマンス・テスト仕様策定プロセスで得られた妥当性検証
情報のフィードバックなしには合理的な仕様にはならないであろう。実際に JasPar では、プロトコ
ル仕様自体の中身ついてもフィードバックが行われている。
19)ユースケースに限定されない精度志向のコンフォーマンス・テスト仕様を策定するに越したことはな
いが、コストの観点からそれは困難である。また、仮にそれが可能であったとしても個別のケースに
対しては冗長になってしまう。
20)日本における自動車メーカーによる電子制御部品の調達構造の変遷や特徴については、徳田・佐伯
(2007a, 2007b)が詳しい。
21)予算制約線の傾きを大きくすることによって、相互接続性を高めることが効用の増大につながるよう
に誘導することが肝要である。
22)このほか、FRC や JasPar に加入していない自動車メーカーに対して、どのようなかたちで仕様をオ
ープンにしていくのかの判断は、普及コストを左右する戦略的意思決定になってくる。
23)ただし、マーケットの拡大とは裏腹に、仕様の精度が上がっていくとデバイスメーカーの味付け可能
な領域が狭くなってしまい、同業者間の競争が益々激しくなっていくことが予測される。このような
状況に対して、デバイスメーカーが採用すべき戦略については、Tokuda(2007)を参照のこと。
24)傾きが大きくなり、且つ点 J が点 F よりも効用の高い無差別曲線上に位置するためには、インテグレ
ーション・コスト上昇以上の普及コスト削減が可能な条件を満たす必要がある。したがって、JasPar
と FRC との協調関係の深化は、JasPar 発のコンフォーマンス・テスト仕様から得られる効用を高め
るうえで絶対的な要件になってくる。
25)標準とは、関係者による妥協の産物であり、だからこそ FRC で決定される規範的判断は、同コンソー
シアムのガバナンスやリーダーシップの様態を反映させたものになる。このことは逆に、FRC にも点
F の性格を持った仕様に甘んじざるを得ない企業が存在することを想起させる。基本的な仕様自体を
比較した場合、明らかに FRC の最適点(点 F)は自動車量産メーカーや複数サプライヤの ECU を相
互接続する必要性が高い自動車メーカーにとっては「リスクの高い」性格の仕様である。JasPar のコ
ンフォーマンス・テスト仕様がこれら企業に対して「リーズナブル」な形でフィードバックされ利用
可能な環境を整えることによって、FRC の一部の企業にとっては JasPar の存在意義が益々高まるも
のと思われる。
26)おそらく、一部の超ラグジュアリーカーに向けた限定的な用途のものであろう。
27)FRC における企業間ネットワークの分析と JasPar との比較が今後の課題となろう。
28)筆者インタビュー(2007 年7月6日)。
29)筆者インタビュー(2007 年7月 20 日)。
30)筆者インタビュー(2007 年 8 月 31 日)。
31)筆者インタビュー(2007 年5月 24 日)。
32)一方、JasPar では自動車メーカーによる標準化目標の設定のみならず、タイムリーな標準化活動を行
うべく、事務局経由でメンバー各社からの標準化活動の提案を受け付ける仕組みを整えている。この
ようなボトムアップの仕組みが、今日の JasPar の拡大に寄与しているわけである。今後は、拡大し
つつあるワーキンググループやタスクフォースの活動のオーバーラップする部分を見極め、より効果
的・効率的なコンソーシアム運営に向けたリーダーシップ機能の発揮が不可欠となろう。
33)本節の情報は、2006 年 11 月 10 日「Automotive Technology Day 2006 Autumn(日経 BP 社主催)」に
おける JASPAR 活動状況報告に負っている。
34)筆者インタビュー(2007 年5月 29 日)。
立命館国際地域研究 第 27 号 2008 年 3月
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35)FlexRay 回路 WG では、基本伝送特性、伝送路環境特性、一般動作環境特性、耐故障性、耐電磁性、
ノイズ放射特性に関する要件が定義されている。
36)筆者インタビュー(2007 年4月 23 日)。
37)筆者インタビュー(2007 年7月 13 日)。
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徳田 昭雄:車載 LAN プロトコル標準化をめぐる日欧コンソーシアムの協調
<参考 URL >
JasPar < https://www.jaspar.jp/guide/background.html >
FlexRay Consortium < http://www.flexray.com >
ISO < http://www.iso.org/>
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