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顔文字の印象と添付効果(1)1,2
日心第71回大会 (2007) 顔文字の印象と添付効果(1) 1,2 -あいまいな文脈に伴う顔文字の効果- 佐々木美加 (常磐大学人間科学部) Key words: 顔文字、意図帰属、感情 【問題】 本研究の目的は、異なる印象を与える顔文字が E-mail(以下、 メールと略する)の相互作用にどのような影響を与えるかを検討す ることである。顔文字(emoticon, smiley mark)とは、ワープロの文 字や記号を用いて顔やしぐさの表情を模す絵文字のことである。 顔文字は、メールにおいて、感情を伝達する手段として用いられ ている。顔文字の有無の影響については、顔文字が伴う場合、顔 文字が伴わない場合よりも友好性が高く評定され、神経質さが低 く評定されるというポジティブな効果が見られる(竹原・佐藤、 2003)。一方、顔文字が伴う場合、顔文字が伴わない場合よりも感 情の印象評定値が低かったり(中丸、2005)、誠実性が低い印象 を受けるというネガティブな効果も見られる(竹原・佐藤、2003)。ま た、ポジティブな顔文字を伴う場合の方が、ネガティブな顔文字を 伴う場合よりも感情が強いという印象を受けることも示されている (中丸, 2005)。本研究では、顔文字の表す意味を明確にするため、 顔文字の印象に関する実験を行い、顔文字が相互作用の協調 性に与える影響を検討する。 【予備実験】 目的 顔文字単体についてこれが表す感情について評定を行 い、著しく好意性が高い(あるいは低い)顔文字をピックアップする ことを目的とする。 被験者 予備実験の被験者は、大学生 10 人(男性 3 人、女性 6 人、不明 1 人、平均年齢 20.13 歳)である。 手続き 予備調査により得られた顔文字に関する回答を KJ 法 により分類し、感情の表現が顕著である10の顔文字をピックアッ プした((-_-)(^_^)m(__)m(>_<)(´∀`)(T_T)(> <)(>∀<)(^o^)(^□^))。被 験者はランダムに配置され、10の顔文字について 13 項目の感情 の評定項目(当日資料配布)に回答を求められた。 要因計画 回答された感情の評定項目について因子分析(主 因子法、バリマックス回転)を行った。その結果固有1を基準として 3因子構造が得られた(E=3.65,3.23,3.08, 累積寄与率 76.4%)。 第 1 因子は敵意、第 2 因子は好意、第 3 因子は困惑と命名した。 これらの 3 因子を校正する項目の平均値をそれぞれ敵意感情、 好意感情、困惑感情の測度とした。独立変数は、上述の 10 の顔 文字であった。 結果 顔文字(上記 10 水準)および感情(敵意、好意、困惑)を 要因として繰り返しのある分散分析を行った。その結果、顔文字x 感情の交互作用が有意であった(F(18, 162)=19.5, p<.01)。この交 互作用を検討したところ、敵意、好意、困惑に対する顔文字の単 純主効果が有意であった(F(1, 9) =161.2, 112.4, and 208.6, p<.01)。多重比較の結果、敵意については、(-_-)が m(__)m(T_T) 7 6 印5 象 評4 定 値3 敵意感情 好意感情 困惑 2 1 (^_^) m(__)m (-_-) (>_<) (´∀`) (T_T) (> <) (>∀<) (^o^) 顔文字の種類 図1 顔文字が感情評定に与える影響 (^□^) 以外の全ての顔文字よりも評定値が高かった。好意については、 (-_-)が(T_T)(> <) 以外の全ての顔文字よりも評定値が低かった。 また、(^o^)と(^□^) の二つが、m(__)m(T_T)よりも好意感情の評定 値が高かった。困惑については、(>_<)(> <)が(^_^)(´∀`) (-_-)(>∀ <)(^o^)(^□^) よりも評定値が高く、m(__)m が(^_^)(´∀`) よりも評定 値が高かった(図1参照) 。 【本実験】 目的 強い感情を示す顔文字がメールの相互作用にどのよう な影響を与えるかを検討することを目的とする。予備実験で見出 された、著しく敵意感情が強い顔文字(-_-)を用い、これの添付に より、受け手の知覚や反応が影響を受けるかどうかを検討する。 被験者 本実験の被験者は、大学生10人(男性2人、女性 8 人、 平均年齢 20.03 歳)である。彼らは自発的に実験に参加した。彼 らには謝礼として 500 円の図書券を渡した。 手続き 被験者は二つの仮想状況でロール・プレイング会話 ( 佐 々 木 ・ 大 渕 , 2002) を 行 っ た 。 被 験 者 は メ ー ル (Microsoft NetMeeting)を用いて実験協力者と会話し、相手の意図の帰属と 自らの感情の自己評定を行った。実験協力者の言語メッセージ は好意も敵意も含まないあいまいな内容であった。 要因計画 実験協力者のメッセージの顔文字の有無(言語メッ セージのみ /言語メッセージ+(-_-))が被験者間要因で、仮想状 況(クラブ、アルバイト)が被験者内要因であった。被験者は、いず れかの顔文字の条件にランダム配置された(N=4, 6)。 従 属 測 度 相 手 の意 図 の帰 属 (敵 意 、好 意 )、受け手の感 情反応(怒り、脅威、同情)(佐々木,2005)であった。いずれの測 度も 7 点尺度である。 結果 意図帰属、顔文字の有無、状況を要因とする繰り返しの ある分散分析を行った。その結果、顔文字の有無 x 意図の帰属 の交互作用は有意ではなかった(F(1, 9)=.80, n.s.)。被験者の感 情反応、顔文字の有無と状況を要因とする繰り返しのある分散分 析を行った。結果、顔文字の有無 x 感情の交互作用は有意では なかった(F(2, 18 )=2.1, n.s.)。 【総合考察】 顔文字が単独で評価されると、(-_-)には、有意に好意性の低 い感情が知覚された。しかし、この顔文字が言語メッセージに添 付された場合は、メッセージから感情が知覚されたり、受け手の感 情に影響する有意な効果は確認できなかった。一方、皮肉を伝 えるメッセージにおいては、顔文字の有無が意図の伝わり方に影 響するということが示されている(岡本・佐々木、2007)。今後、言 語メッセージの文脈を考慮して添付された顔文字が相互作用に 与える影響を検討しなければならないだろう。 【引用文献】 中 丸 茂 (2005) エ モ テ ィ コ ン の 世 界 講 座 社 会 言 語 科 学 2 , 87-116 岡本真一郎・佐々木美加(2007) E メールと透明性の錯覚 第 19 回社会言語科学会発表論文集 22-25. 竹原卓真・佐藤直樹(2003)顔文字の有無によるメッセージの印象 の違いについて 日本顔学会誌3(1)83-87. (注 1)本研究は大川財団平成 18 年度研究助成(研究代表者:岡 本真一郎)を受けて行った。 (注 2)本研究は佐々木が指導した大平直美さんの卒業研究を再 分析した。 (SASAKI Mika U.)