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公営住宅における居住者便益と消費 の非効率性

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公営住宅における居住者便益と消費 の非効率性
公営住宅における居住者便益と消費
の非効率性
森田学*
価値総合研究所
中村良平
岡山大学
公営住宅には、住宅困窮世帯に対する住宅セーフティーネットとしての社会的役割
があるとされている。しかしながら、公共部門が提供する住宅は、そこに住む世帯が
望ましいと思うものと必ずしも一致しているとは言えず、その結果、世帯の消 費選択
に歪みをもたらし、 資源配分の効率性を損なっている可能性もある。本稿では、公営
住宅入居前・入居後の 1対 1対応のデータを用いて居住者便益の計測をおこなった。
その結果、同 質 の民間住宅よりも低廉な家主主で提供される公営住宅への入居によって
世帯の消 費が変化し、大きな便益が発生していることが明ちかとなった。他方、低額
所得層世帯への所得再分配を住宅の直接供給でおこなうことで、効率性が損なわれて
いることも示された。
1
.
はじめに
住宅は、生活を営む上で必要不可欠な基盤であり、必需財の面を持ち合わせてい
る。住宅は、民間のみならず公共によっても供給される財であるが、そのうちの公
営住宅とは、公営住宅法の目的でも植われているように、民間供給に拠った場合で
は、適切な条件の住宅を見つけることが困難な世帯を対象として地方自治体が供給
するものである。このことは住宅市場に委ねておくと最低限必要な住宅サービスを
本稿は、日本経済学会 2003年秋季大会において森田が発表した論文を討論者であった岩田 真 郎(富
山大学)氏からのコメントを参考に加筆修正したものである。 貴重なコメントを頂いたことに感謝の意
を表します。
キ価値総合研究所戦略調査事業部
E
"
m
a
i
l
:manabumorita
駒田 C
O
.
J
P
受けられない低所得層世帯が存在することを示しており、その意味において公営住
宅は所得再分配の役割を有しているといえる。実際、公営住宅は、民間部門によっ
て供給される同一条件の住宅よりも低廉な家賃で提供されており、公営住宅入居世
帯は、住宅サービス水準の向上や家賃負担の軽減等による利益を享受している。
しかし、公共部門が提供する住宅は、そこに住む世帯が望ましいと思うものと必
ずしも一致しているとは言えず、その結果、世帯の消費選択に歪みをもたらし、資
源配分の効率性を損なっている可能性がある。つまり、直接的な所得補助の場合と
比べて、公営住宅の提供は非効率となる傾向があると考えられる。
他方、近年の厳しい財政事情の中で、公営住宅のセーフティーネットとしての社
会的役割に対しでも厳しい目が向けられており、平成 8年の公営住宅法の改正では、
「高齢者等に配慮した入居者資格の的確化」や「世帯の所得変動に対応した家賃決
定方式の導入」が図られている。
f
o
r
d
a
b
i
l
i
t
y
) の検証や公
したがって、公営住宅への入居の資格条件(HousingAf
営住宅への居住によって具体的にどのような世帯にどの程度の便益が発生している
か、また効率性にどの程度の損失が生じているかを定量的に評価することは、公営
住宅制度を考える上で重要な意義を持ってくるものと思われる。そういった視点で
の研究は、データ面での制約などもあってこれまで皆無に等しいが、中村・森田
(
2
0
0
0
)では、公営住宅居住世帯のデータを用いて、居住者便益を評価し、所得補助
との比較を通してその効率性について検証を加えている。本稿では、その研究をさ
らに進め、入居前・入居後といった公営住宅入居世帯に関する l対 l対応のデータ
を利用し、入居による世帯の消費選択の変化を明らかするとともに、世帯にどの程
度の便益が発生しているのか定量的に示すことを目的とする。さらに、世帯特性に
よっては享受する便益が異なる可能性があり、世帯特性に応じた便益の帰着につい
ても明らかにする。
a
r
i
a
t
i
o
n
)Jを
なお、便益評価にあたっては、 Hicksの「等価変分 (EquivalentV
用いるが、その測定のためには効用水準を表す無差別曲線が推定される必要があり、
効用関数もしくは Hicks型の需要関数が特定化されねばならない。
19
7
1,1
9
7
5
)と WongandLiu (
19
8
8
)
従来の研究では効用関数として、 DeSalvo(
では Cobb-Douglas型関数が、 OlsenandBarton (
19
8
3
) では Stone
-Geary型関数
19
7
5,1
9
8
0
) では一般化 CES型関数が、それぞれ用いられている。
が
、 Murray (
また、これらの研究では住宅サ
ビスは同質であり、単一の指標で比較可能である
と仮定しているらしかしながら、住宅サービスを同質財としてとらえると、本来異
なる住宅特性を価格に反映できず、計測値に偏りをもたらす可能性がある。
19
8
2
)や DeBorgedl985,1
9
8
6,1
9
8
7
)では、住宅サービスにへ
そこで、 Quigley(
ト、ニック・アプローチを適用し、効用関数の特定化の後、効用関数のパラメ
タを
推定している。ヘト、ニック関数が通常非線形であるため、予算制約式も非線形とな
るが、 Quigleyは、効用最大化の l階の条件式を用いて左辺を各属性のへト、ニック
限界価格とした連立方程式体系を構築し、効用関数ノミラメ
タを間接的に推定する
ことを可能としている。他方、 DeBorge
r
(1
9
8
6
)では、特性のインプリシット価格を
定義することによって予算制約式を線形近似している。
上記の関連研究の主たる分析結果は次の通りである。 Murray(
19
8
0
)は
、 Murray
(
19
7
5
) と同様の推計方法を用いて、家賃補助プログラムと公営住宅プログラムに
よる厚生変化をそれぞれ推計し、比較し、それぞれの供給コストの推計もおこなっ
ている。 Murrayでは、供給コストはユニット当たりの市場価値を 17%越えるとの
前提を置いて分析をおこなっており、適切な動機付けを与えられれば民間部門は低
所得層世帯向け住宅を供給することが可能であるとの結論を得ている。
WongandLiuでは、公営住宅家賃と公営住宅市場価値額との比から住宅サービ
ス l単位あたりの暗黙の補助金額を導出し、等価変分を計測している。その際、観
測不能であった家計の住宅サービスへの支出割合を、世帯特性を用いて推定してい
る。公営住宅の市場価値額を計測するためにヘドニックアプロ
チを用いているが、
評価モデノレの効用関数は住宅サービスとその他の財からなる 2財モデノレで、住宅サ
ービスは同質財と見なされている。さらに便益の世帯特性への帰着について、公営
住宅部門家賃 と民間住宅部門家賃との比率を特性のーっとして取り込んで分析して
いる。結果、香港においては、公営住宅と民間住宅の家賃格差を縮めることが効率
と公正の面から正しいと思われると指摘している。
本稿では、効用関数を Cobb-Douglas型に特定化し、住宅サービスについてはヘ
ドニック・アプローチを適用する。次節では、分析における理論的プレ
ムワ
ク
について述べる。そこでは、一般的な便益評価の概念と、 Cobb-Douglas型に関数
型を特定化した具体的なモデルを説明する。その際、消費選択の歪みによって効率
性が損なわれることも示す。第 3節では、実証分析に用いたデ
タの解説をおこな
う。第 4節では、第 2節のモデルに基づいた実証モデルを設定し、第 3節で解説し
1 Murrayでは、住宅サ
ヒスの定義として、米国労働統計局の調査における住宅サ
場合の比率を用いている 。
ヒス 量 を lとした
たデ
タを用いて実証分析をおこなう。そこでは、便益計測と便益及び効率性の損
失の世帯特性への帰属について考察する。最後の第 5節では、まとめをおこなう。
2
. 分析のフレームワーク
2
.
1 居住者便益
ここでは、公営住宅への入居によって、世帯が享受する便益を測定するためのフ
レームワークを設定する。
世帯の効用は、 2財(住宅サ
ビス
かその他の財
x
) の消費水準からなり、
U二
)
l
(
その効用関数を
u
(
h
.
x
)
とするとただし、効用関数は 2階連続微分可能な準凹関数であるとする。
世帯の所得を yとし、 hとxの価格をそれぞれ p,とp,とすると、予算制約式は
y=p,
h+p、X
(
2
)
と 表 せ る 図 lでは、 (
2
)式の予算制約線が ABで示されている。
世帯が、 (
2
)式によって表現される予算制約の下で hとxについて効用最大化行動
をとるとき、達成される消費水準は図 lの無差別曲線 Um上の点 E(
h
m,xm)
で示され
る
。
いま、この世帯が、住宅サ
ビスが h である公営住宅に居住し、他の財の消費量
である場合に享受する効用 U,
を
が X,
u, u(hpxJ
(
3
)
二
と表す。
公営住宅では、民間住宅と比べて一般的に家賃が政策的に低く抑えられている。
,とし、同じサービス水準の民間住宅の家賃を凡と
このことは、公営住宅の家賃を R
すると、 Rw>Rsが成立していることを意味する。このとき、インプリシットな家
賃補助率 kは
R -R
R
--w
--w
K二 一 笠 , 二 1 τ"- O<k<,
l
と定義される。これは、同一水準のサ
2
住宅サービスは岡
3
公営住宅は尻、
ビスを提供する民間住宅と公営住宅では、
市場家賃 の下では無差別であるとする 。
p,に影響 を与えないものとする。
サービス単位当たりの価格に手離が生じていることを示しており、公営住宅サービ
スの価格がは、民間住宅のサービス価格 p,
に対して
(
4
)
p
;=
(
l
k
)
p
,
となる。
したがって、公営住宅では、同じサービス水準の民間住宅と比べて世帯の家賃負
担が軽減され、その他の財への支出が相対的に多くなることが予想される。,世に、
公営住宅を同じ家賃水準の民間住宅と比べるとサービス水準が高くなると見込まれ
において、所得一定
る。それは、たとえば、図 lにおけるえ >h
mラ叫>らなる点 F
二u
の下で u
(
h
"叫)二 Us >u
(
h
ら)が成立することである。図 lでは、無差別曲線
m
m,
U
上の点 F で公営住宅入居時の消費水準が示されている七ただし、公営住宅入居
時の住宅サービス水準は公的機関により設定される。
このとき生じる便益の金銭的評価は、民間住宅に居住したときに公営住宅への入
居によって得られる効用水準 u と同じ効用水準を維持するのに必要な貨幣換算額
として定義される。これは、 Hicks の等価変分 (
E
V
)として知られており、支出関
数を用いてこの概念を表現すると、
(
5
)
5
EV= y(p,P
ρ uJ-y
となる 6。図 l でみると、 A
A
'がその他の財の価格(九)で評価した場合の EVに相
ラ
当する。ただし、家賃補助率 kは所得階層別にスライド制を取って設定されており、
所得が高いと、予算制約式と公営住宅に入居したときと同じ効用水準が得られる支
出関数の差異は小さくなる。すなわち、
dEV/dy<Oが成立し、等価変分を所得に
ついて回帰するとそのパラメータはマイナスになることが予想される。
4
公営住宅へ入居したときのその他の財の消費水準は λs 二
(y-RJ/p,で与えられる。
直接供給による住宅補助の場合、居住者便益の推定にあたっては間接効用値よりも直接効用値を用い
日a
l
v
o(
1
9
71)において示されている。
る方が望ましいととが De
5
6効用関数の性質から支出 関数 は 価 格
p,と p,に関する
l次同次 関数となる。
図 1 公営住宅における居住者便益
x
us
A
'
Um
<us
A
日
九
。
h
,B 久
B
'
h
さて、等価変分に相当する額 (
EV)を世帯への直接的な所得補助として補償する
,
h+p"xとなる。この予算制約の
場合について考えると、予算制約式は y+EV=p
下で達成される消費水準が、図 lの無差別曲線 U,
上の点 G (
h
l,
xJで示されるとす
ると、
y+EV=p,
h
,
+p
,
x
,
が成り立つ
(
6
)
O
一方、公営住宅へ入居したときの所得と消費の関係は (
4
)式を用いて
y=(l-k)p
,
h
,+px
,
χ
(
7
)
と表される。
6
)式を引くと
ここで、(7)式から (
k
p
λ EV=p,
(h
,-hJ+p
,
(
λs 喝)
(
8
)
が得られるが、家賃補助相当額は J
'
J
/
, 二RW Rs二(
p,-p
;
)
h
,二伶λ と表すことが
できることから、 (
8
)式は
(
8
),
止R,-EV=p
,
(
h
,-hJ+p"(
λs 判)
と書き換えられる。
すなわち、家賃補助相当額と便益(等価変分)との差は、消費選択が所得消費曲
線上にないという意味での消費選択の歪みによって生じることがわかり、 (
8
),は効
率性の損失としてとらえることができる。
ここまでは、住宅サービスを同質財として扱ってきたが、本来、住宅は立地条件、
建築構造、床面積等がそれぞれ異なっており、 lっとして同じものはない。しかも、
住宅サービスを構成する特性が取引される市場は存在していない。こうした住宅サ
ービスの特殊性に対処する方法として、それを多数の特性ベクトノレの東として表
現・把握しようとするヘドニック・アプローチがある。
ピスを特性の東で表現し、その集合的な概念 hは
、
このアプローチでは、住宅サ
1
それを構成する特性から成るベクトノレとして h=[
h
l"'" h
, で表現される。ここで、
h
,
ラ
l 1
,
.
・ Jラ
は n種の住宅特性を表す。
二
ビスは各々 lつの特性ベクトノレ hを有しており、それに対
したがって、住宅サ
して家賃がつけられているとすると、民間住宅サ
R
二
ビスの家賃関数は
R
(h
,
.
.
.
.
.札
(
9)
と表され、予算制約式 (
2
)は
、 y R
(ん"', h
,)+P
x
Xのような非線形制約式になる。
二
世帯がこの予算制約の下で hとxについて効用最大化行動をとるとき、最大化さ
れた効用水準は間接効用関数 v v
(
p
"ラ
・
ラP
mラ
P
xラ
y
)によって表現される。ここで、
二
P
r
iは住宅特性 h
,のインプリシット価格を表す。また、間接効用関数に効用水準
V二 1fを与え y について解くと、支出関数 Y=Y
(Prl' ,
. Pr
PX ;〆)が得 られる。し
n,
0
5
)式の等価変分は、
たがって、 (
EV= y
(
p
"ラ
・
・
・
ラP
mラ
P
ρu
J
-y
(
5
),
と書き換えられる。
2
.
2 Cobb-Douglas型効用関数の場合
ここでは効用関数を Cobb-Douglas型に特定化し、住宅サ
ピスについてはその
異質性を考慮し、ヘドニック・モデルを用いた便益計測モデルを構築する。
まず、世帯の効用関数は、
U 二 [~~p,~ ]
x
β
(
10
)
1
:
で示される。ただし、ェ ,
臼 +β=1とする。
世帯が、予算制約
y=p"I
;
+ +P
r
n
h
n+P
バ
(
2
),
・
・
の下で h と xについて効用最大化行動をとるとき、(10
)式と (
2
),式より、住宅特性 h
に対する需要関数は九 h
,
'
!
y,1 1
二 日
いま、この世帯が、住宅サ
二
ラ・・ラ
nとなる。
, [
h
,
l
'
'
'
'
'h
,
"]で家賃が R,の公営住宅に居
ピスが h
二
住しているとすると、その効用水準は
(
)
l
二
[
ト
ト
U,
β
となる。次に、この効用水準と同じ水準を民間住宅で得るために必要とされる貨幣
額は
九
冊
目"
}
r
s
[
Q
pν
,
,
"
'
]
u
と表される。したがって、公営住宅居住の便益尺度である等価変分は
rr
rr
廿(子 [p~'
国P:~" [
チ
-y
(
12
)
-y
となる。
タ
一
ア
J
内
実証分析で用いるデ
タは、岡山市住宅管理課から提供されたもので、平成 9年
0年度の公営住宅の入居者募集に応募し、平成 1
1年 3月 3
1 日時
度、もしくは平成 1
点において公営住宅に居住する世帯に関するものである。新規入居世帯は 318世帯
あるが、このうち公営住宅入居前の家賃 が明らかな 208世帯を分析対象とする。こ
れによってパネルデータ的に入居前と入居後の l対 l対応の直接比較が可能となっ
てし、る。
データには、世帯特性に関するものとして、所得、世帯主年齢、性別、婚姻状況、
世帯構成員の年齢、性別、及び世帯主との関係などが含まれている。また、住宅特
性に関するものとして、家賃、専有面積(畳数人建築年度、建築構造、間取り、所
在地などが含まれている。
表 lは、公営住宅入居世帯に関する基本統計量を示している。ここで、所得は平
成 1
1年度の年間総所得を 1
2で除したものである。平均値は 8万 3417円となってい
るが、このうち所得がゼロとなっているサンプノレは 80世帯あり、これを除いた平均
値は 1
3万 5553円となっている
表
1 公営住宅入居世帯デ
標本数
ヲの概要
平均値標準偏差 最 小 値 最 大 値
(円)
8
3,4
1
7 9
5,2
6
3
o 640,645
世帯主年齢 (歳)
4
8
.
3
3
1
7
.
9
4
2
0
8
9
世帯構成員数 (人)
2
.
1
1
1
.0
6
6
世帯主性別
(男性)
(女性)
世帯主婚姻状況
(配偶者あり)
(配偶者なし)
度数
2
0
8
%
所得
入 家賃 (円)
居専有面積 (ぱ)
前都心までの距離 (km)
家賃 (円)
l
専有面積
(ぱ)
入│
建築年 (西暦)
居│
都心までの距離 (km)
後:
構造
表2 住 宅 デ ヲ の 概 要
平均値標準偏差 最小値 最大値
4
4,4
0
8
0
2 1
0,0
0
0 7
5,0
0
0
1
4,1
2
9
.
8
7
7.1817.39 4
9
.
6
9
2
.
6
6
0
.
4
1
1
5
.1
9
4
.1
6
1
0,5
0
0
3
9
0 5
5,4
0
0
2
0,2
5
2
.7
8
1
2
.
6
3 3
1
.
2
0 7
6
.
3
0
1
9
8
0
.
6
1
3
.
2
1
9
4
9
1
9
9
5
4
.
6
4
(木造)
(
軽量鉄骨)
(鉄筋コンクリート)
1
2
.7
1
.5
9
9
7
1
1
1
6
8
1
4
0
標本数
度数
4
6
.
6
5
3
.
4
3
2
.7
6
7
.
3
2
0
8
%
1
5
.1
9
1
0
2
9
4
.
8
1
3
.
9
1
6
9
81
.3
注)専有面積(入居前)~l. 8
2
x
O
.9
1x(
量数+6)
表 2は、公営住宅入居前と入居後の住宅に関する基本統計量を示している。入居
前の家賃の平均は 4万 4408円、入居後の家賃の平均は 2万 200円となっており、そ
の差は平均で 2万 4208円ある。しかしながら、公営住宅では共益費を徴収しておら
,
2
回世帯のうち、母子家庭は 5
4世帯、
。
る
高齢者世帯 (
6
0歳以上の者のみで構成される世帯)は前世帯あ
ず、入居前の家賃 に共益費が含まれていないことを考慮すると、公営住宅への入居
による住宅費の節約額は家賃差額よりも更に大きいといえる。所得がゼロとなって
いるサンフツレを除いた家賃負担比率の平均値は入居前で 40.1% 、入居後で 18.2%
となっており、入居により家賃負担が軽減されていることがわかる。
r
lの差があり、公営住宅への入居に
専有面積については、入居前後で平均 22.91r
よって住宅から享受するサービスの水準が高くなっていることがうかがえる。都心
までの距離は、 ]R岡山駅を都心の中心地と定義して住居の所在する町内の地理的
中心地から都心までの直線距離を計測したものであるが、公営住宅への入居により
m都心から遠ざかっている。しかしながら、入居前と
入居前と比較して平均約 0.5k
入居後の住居間の直線距離は平均で 3
.9凶ほど あ り、入居に際して、 ] R岡山駅を
中心とする同心円上の地域を選択している可能性がうかがわれる。なお、鉄筋コン
.3%と高いが、これは公営住
クリート構造のサンプノレが入居住宅に占める割合が 81
宅の多くが 4階建て以上の集合住宅であるためである。
公営住宅入居による住宅サービス水準の向上、及び家賃負担の軽減には世帯間で
大きなバラツキがある可能性がある 。このことを詳しくみるために、世帯主の年齢、
及び所得の階層別に住宅データに関する統計量を示したものが、表 3、表 4である。
表 3 世帯主の年齢階層別住宅デー舎の概要
世帯主年齢階層分布
世帯数
4
2
4
2
2
4
3
1
3
5
3
4
~30 歳未満
30 歳 ~40 歳未満
40 歳 ~50 歳未満
50 歳 ~60 歳未満
60 歳 ~70 歳未満
7
0歳
r
1
)
専有面積 (r
入居前
入居後
2
9
.
8
7
5
8
.
1
8
31
.8
9
5
6
.
9
7
31
.6
7
5
6
.
3
8
2
7
.7
8
4
3
.
2
5
2
8
.
2
9
4
6
.
4
7
2
9
.
6
4
5
3
.
6
1
表 4 所得階層別住宅デー舎の概要
所得階層分布
~10 万 円 未満
10 万 円 ~20 万 円 未満
2
0万 円
世帯数
1
3
0
5
4
2
4
専有面積 (
r
r
1
)
入居前
入居後
2
8
.7
0
51
.2
0
31
.0
4
5
5
.
3
0
3
3
.
6
1
5
5
.7
0
平均値
家 賃
入居前
5
0
.1
5
7
5
0
.1
9
0
4
4
.
3
8ヨ
3
6
.
0
2ヨ
4
1
.1
0
0
4
1
.
2
1
2
(
円)
入居後
2
3
.7
7
6
2
2
.
9
0
2
2
2
.
2
0
0
1
3
.
9
9
0
1
6
.7
8
0
2
0
.
2
1
8
平均値
家 賃
入居前
4
2
.
0
3
5
4
6
.
8
2
9
5
1
.
8
0
8
(
円)
入居後
1
7
.
6
3
7
2
2
.
0
2
4
2
9
.
9
8
3
表 3をみると、 30歳代、 40歳代の層は、入居前、他の世代より広い住戸に居住し
ているが、これには、平均値で比較して他の階層よりも世帯構成員数が多いことが
影響していると考えられる。しかしながら、住戸の規模は最低居住水準(世帯構成
員 :3 人)を満たしておらず、世帯規模に対して住宅が狭小過密である可能性がう
かがわれる。入居による床面積の増加分についてみると、最も多い 20歳代と最も少
ない 50歳代でその差は約 13mあり、年齢層による差は小さくないといえる。
一方、家賃節約額についてみると、 30歳代が 2万 7288円で最も多く、 70歳以上
の層が最も少なく 2万 994円となっており、その差は 6294円となっている。また、
入居前の家賃は 30歳以下と 60歳以上では 9000円ほど違いが出ており、階層によっ
て入居動機が異なる可能性がうかがわれる。なお、 50歳代では、専有面積及び家賃
の水準が入居前・入居後共に他の階層よりも低くなっているが、これには家族構成、
及び定年年齢と年金支給年齢の差が関係している可能性がある。
表 4によると、所得が高いほど入居前の住戸は広く、その家賃も高くなっている。
しかしながら、入居による床面積の増加分は他の階層より所得が1O ~20 万の階層が
2ぱほど多く、家賃節約額は所得が低いほど大きくなっている。
4
. 実証分析
4
.
1 家賃関数の推定
民間住宅家賃 関数を推定する。民間住宅家賃 関数を推定するために用いるデータ
は、平成 12年 4月時点の週刊住宅情報 (KG出版)に掲載されたアパート・マンシ
ョンの賃貸情報で、専有面積、建築年が記載されている岡山市内のものであるし
たがって、データは貸主あるいは仲買業者の依頼により掲載されたものであり、当
該時点において空室のものである。
表
5 民間住宅デ ヲの概要
平均値
家賃
(円/月)
専有面積
建築年度
(
r
r
1
)
(西暦)
都心までの距離 (
k
m
)
構造
64,7
4
8
51
.9
3
1
9
91
.5
4.8
標準偏差
1
5,5
2
9
11
.4
8
5
.
8
3
.
0
最小値
最大値
度数
540
%
3
5,0
0
0 1
4
0,000
21
.1
4
1
1
1
1
9
7
3
2000
0.4
1
7
.
5
(木造)
(
軽量鉄骨)
(鉄筋コンクリート)
注)家賃 には共益費を含まない。
8
標本数
間取りがワンルーム形式の物件はサンプルから除去している。
6
297
237
1
.1
55.0
43.9
表 5に、民間住宅に関する基本統計量を示している。ここで、都心までの距離は、
]R岡山駅を都心の中心地と定義してサンプノレの所在する町内の地理的中心地から
] R岡山駅までの直線距離を計測したものである。都心までの距離は平均 4.8k
mと
なっており、先に述べた入居前の住宅の平均値と大きな差異はない。また、平均専
有面積は 51
.9
3r
r
lとなっており、入居した公営住宅の平均値とほぼ同じである。
(
9)式の推定をおこなう際に選択した変数については、表 6に示している。専有面
積は住戸の規模を、築後経過年数及び建築構造は建物の性能を表す特性である。ま
た、都心(jR岡山駅)までの距離は利便性を表す特性であると考えられる。
関数形は、対数線形を交えた形の
nh
lnR=a
nh
,
+
匂 h九
+
a
,
九 +α'4l
4
o+内 l
と定式化したこれは、市場家賃関数を意味している。また、 α。から α
4まではパ
ラメータで、期待される符号条件は、専有面積、建築構造についてはプラス、築後
経過年数、都心までの距離についてはマイナスとなっている。
表
変数変数記号
6 へド、ニック家賃関数で用いた変数
変数名
R
R
民間住宅家賃 (円/月)
九
九
ん
SPACE
専有面積(r
r
1
)
YR
築後経過年数(年)
STR
建築構造(鉄筋コンクリート構造の場合は 1のダミ
h
4 CBD
変数)
都心までの距離 (km)
表
7 家賃関数の推定結果
変数記号
推定値
t イ
直
定数項
8
.
4
9
2
7
)
(
8
9
.1
ln(SPACE)
0
.
7
1
1
(
3
0
.
5
0
)
l
n
(
Y
R
)
0
.
0
6
2
(
8
.
8
4
)
STR
0
.
0
6
6
)
(
5
.
91
ln(CBD)
0
.
0
9
6
.7
0
)
(
11
2
R
0
.
7
7
8
A
0
.
7
7
6
2
9 より望ましい関数型を探索する場合、しばしば B
ox.Cox変換が用いられるが、本稿の目的は最適関数
型を求めることではないので、 般的に多く用いられる対数線形型て特定化 LBox.Cox変換を採用して
いない。
推定結果は表 7に掲げるとおりである。自由度修正済み決定係数の値は O
.7
7
6と
なっている。また、すべての説明変数に関してパラメータの符号条件は満たされて
おり、 1%水準で統計的にも有意で ある。家賃の専有面積に対する弾性値は 0.711
となっており、築後経過年数に対する家賃 の弾性値は
からの距離については、家賃の弾性値が
0.062 となっている。都心
0.096 となっている。建築構造に関して
は、鉄筋コンクリート構造住宅であることによって家賃が約 6.6%高くなっている。
4
.
2 便益計測
等価変分の計測に当たっては、効用関数のパラメ
Cobb.Douglas型の効用関数の場合、各財のパラメ
タの特定化が必要となる o
タがそれぞれの財への支出割
合を示すことになる。したがって、それぞ、れの世帯の家賃と所得を用いることで効
用関数のパラメ
タが推計できる 10 このとき、公営住宅入居後の家賃 支出の割合
を用いると、入居前と比べて住宅サービスに関する効用のウェイトが小さくなる。
これは、公営住宅への入居によって住宅サービスに関するウェイトが小さくなるこ
とを意味するが、入居前と入居後で各財に対するウェイトは同じであり、公営住宅
への入居によって結果的に家賃支出の、ンェアが低下していると考えるのが妥当であ
る
。
したがって、ここでは公営住宅入居前の家賃支出割合をそのパラメ
引
R
κベ
(
h
m1
R町
川ド , ラ
J
Y
;
h叫
タに採用し、
(
13
)
Y
;
によって、住宅サ
ビスに対する効用関数のパラメ
タを推計する。ここで、
仏 J二エ:円であり、添え字の j は各世帯を意味するへまた、ヘト、ニック価格関
、
数における第 z特性のインプリシット・プライス Pnは
d
R
I
(
14
)
九 I , ~,.二日);""1
,
h=九
!I
1
によって求められることから、特性観測値の近傍で線形近似することによって各特
、
{生のウェイト日U は
w これは、入居世 帯の所得水準に よって効用関数の形状(パラメ
タの大きさ)が異なることを意 味し
てし、る。
L
:
lu とする 。 ただし、 P
r
O
h
m
O
u 叫 J 二 品j -
日
二凡
L :~IPnfμ であるとする 。
I:
円
二
[
壬l
(
15
)
として与えられることになる 12 1
3
以上から、表 7の家賃関数の推計結果と(13
)- (
15
)式にデータを適応することに
よって(12)式の等価変分が計測される 14
表 8は、計測された等価変分 (EV)と、家賃補助相当額(f
.
.
R
, )に関する基本統計
量を示したものである。計測結果によれば、公営住宅への住み替えにより、世帯平
均で 3万 8925 円の利益を享受していると言える。また、平均便益の平均所得(13
万 5553円)に対する比率は約 28.7%となっている。ただし、便益が 7985円となっ
ている世帯も存在し、公営住宅入居による便益にはある程度のバラツキも存在して
し
、
る
。
等価変分の家賃補助相当額に対する比をみると、世帯平均値が 0.87となっており、
1
.0 を下回っている。このことは、家賃補助相当額を一般補助金として世帯に支給
するほうが、費用便益の観点か らは効率的であるという理論を実証的に検証してい
f
f
i
c
i
e
n
c
yとする)が
ることを意味する。ただし、費用便益比(これを e
o
.99 となって
いる世帯も存在し、また、最大値と最小値で O
.7
6の差が出ていることから、公営住
宅供給の効率性効果についても世帯間で無視できない差異が存在していると考えら
れる。
このことを詳しくみるために、世帯主の年齢、及び所得の階層別に、便益及び費
0である。
用便益比を示した結果が表 9、表 1
0歳代までは、年齢層が上がるにつれ、便益水準が低下しており、
表 9をみると、 5
20歳代と 5
0歳代ではその差が l万 1000円近くある。また、表 1
0によると、所得
が1O ~20 万の階層の平均便益が 4 万 968 円となっており、他の階層に比べて高くな
'"推計 に あ た っ て は 、 公 営 住 宅 入 居 前 の 住 宅 の 築 後 経 過 年 数 と 建 築 構 造 が 不 明 で あ る と と か ら 、
し,
Io}
日 リ 二│ーで了ニ
υ1oh,"
1
0
"
L
I1 R
m
'
xh.
.
.一天ー
.
.
,I
}
に
uYj
と してパラメータを求めている 。 と と で 、 ( ハ ッ ト ) は 推 定 値 で あ
'
!
I
ることを示している。
1
3 CObb"Douglas 型 効用関数のパラメータは財 の支出劃 合を示すものであるが、ことではデータの制約
上から所得額を支出額の代用とし、
β=(y-R
ml
/
yとする。
" 月額所得がゼロとなっている世帯と 5万 円 を下回っている世帯については、年金や生活 補助額を考慮
し
、 月額所得に 律 5万 円 を上乗せしている 。
っている。これには、入居による床面積の増加分が他の階層よりも大きいことが影
響 していると考えられる。費用便益比については、所得が高くなるにつれて大きく
なっている。
表 8 便益計測結果
平均値
標準偏差
最大値
最小値
EV
3
8,9
2
5
1
2,3
1
1
7
,9
8
5
8
3,8
1
9
f
.
R
4
4,1
1
7
9,9
6
7
1
2,6
5
2
,5
7
2
8
4
0
.
8
7
0
.
1
6
0
.
2
3
究
所c
i
e
n
c
y (EV
/
f
.
R
J
0
.
9
9
(単位
表 9 世帯主の年齢階層別便益計測結果
平均値
EV
そ
がc
l
e
n
c
y
~30 歳未満
4
2,1
6
7円
0
.
8
8
3 日歳 ~40 歳未満
4
1,7
7
7円
0
.
8
8
40 歳 ~50 歳未満
4
0,5
5
6円
0
.
8
9
5
0歳
世 帯 主 年 齢階層 分布
的歳未満
3
1,5
2
9円
0
.
8
2
60 歳 ~70 歳未満
3
4
,9
7
6円
0
.
8
8
7
0歳
4
2,8
2
9円
0
.
8
9
表 1
0
所得階層別便益計測結果
平均値
EV
l
e
n
c
y
究
所c
~10 万 円 未満
3
8,6
5
3円
0
.
8
6
10 万 円 ~20 万円未満
4
0,9
6
8円
0
.
8ヨ
2
0万 円
3
5,4
6
9円
0
.
9
3
所 得 階層分 布
円)
4
.
3 便益と効率性の損失の帰属
(
12
)式から、 EVの値は所得や家賃 といった価格変数の他に効用関数のパラメー
夕日にも依存していることがわかる。このパラメータを規定するのが世帯属性であ
るとすると、便益 (EV)を各世帯特性に回帰することに よって各世帯への便益の帰
属の程度をみることができる。このとき、 zを第 zの世帯特性とすると回帰式は
工r)z)
EV=ro+
(
1
7
)
1
=1
となる。ここで、
r
,
は推定されるパラメ
タである。
一方、家賃補助相当額と等価変分との差額(LOS= f.R,-EV)を低額所得層世帯
への所得再分配 を住宅の直接供給によっておこなうことによる効率性の損失として
捉え、これを世帯特性に回帰することによって、世帯特性の違いによる損失の程度
を推定する。回帰式は(17)式と同様にして
ωS二仇+工 1
'
lZ
)
(
18
)
1
=
1
とする。ここで、'7,は推定されるパラメ
タである。
)、(18
)式の推定にあたっては表 1
1の世帯特性変数を用いる。なお、データに
(
17
は団地の建て替えに伴い新規に入居者が募集された芳田団地のサンフツレが含まれて
いるが、分析ではこの影響を取り除くために入居団地が芳田団地の場合を lとする
夕、ミ一変数を説明変数に加えている。
等価変分 (EV)、効率性の損失 (WS)を、世帯特性に対してそれぞれ回帰し、世
2である。
帯特性への帰属を推定した結果が表 1
等価変分を被説明変数にした場合では、所得の符号はマイナスで有意に符号条件
を満たしており、世帯構成員数の符号はプラスで有意となっている。これは、所得
水準が低く、世帯構成員数が多い世帯ほど享受する便益が大きいことを示している。
また有意ではないが、母子家庭であることによる便益の増分が 4220円ほど、高齢者
世帯であることによる便益の増分が 2400円ほとある。これは、社会的弱者とみなさ
れる世帯では、他の世帯と比べて、公営住宅入居による消費選択の歪みが小さい可
能性を示唆している。
1 回帰式に取り入れた世帯特性変数
表 1
変数変数記号
Z2
INCOME
NFAM
世帯構成員数
Z
3
WIDW
母子家庭(母子家庭の場合は 1のダミ一変数)
Z
I
YOUNG
Z, EWR
Z4
」
ウ
1
5
変数名
YOSHIDA
母子家庭は除く。
所得
若年世帯(世帯主年齢が 35歳以下の場合は 1のダミ一変数) 15
高齢者世帯(高齢者世帯の場合は 1のダミ一変数)
芳田団地(芳田団地の場合は 1のダミ一変数)
表 1
2 便益及び効率性の損失の世帯特性別帰属
被説明変数
変数
定数項
LOS
EV
推定値
t-{直
推定値
t-{直
2
9
5
7
0
.1
)
(
1
5
.
57
8
3
9
0
.
0
(
5
.
7
8
)
0
.
0
2
8
)
(
2
.
67
0
.
0
1
3
(
2
.
6
5
)
構成員数
3
0
3
0
.
0
(
3
.
3
9
)
3
2
5
.
4
7
(
0
.
6
6
)
母子家庭
4
2
2
3
.
2
(
1
.71)
5
3
6
.
3
(
0
.
3
6
)
若年世帯
1
2ヨ5
.
5
(
0
.
6
3
)
0
.
1
1
(
0
.
0
0
)
高齢者世帯
2
4
0
6
.
9
(
1
.4
8
)
1
6
8
5
.7
(
1
.3
5
)
1
4
9
2
0
.
4
(
9
.
6
5
)
1
9
6
7
.
4
)
(
2
.
37
所得
芳田団地
R
l
?2
2
0
.
4
5
6
0
.
0
7
7
0
.
4
3
7
0
.
0
4
5
効率性の損失を被説明変数にした場合では、所得の符号がマイナスで有意となっ
ている。これは、所得水準が効率性の損失に影響を与えていることを示しているが、
家賃補助率は所得階層別にスライド制を取って設定されており、そもそも企R が少
ないことが影響していると考えられる。また、高齢者世帯であることによって約
1690円効率性の損失が減少しており、高齢者世帯では、公営住宅として提供される
サービスと望む住宅サービスとの羊離が相対的に小さくなっている。
5
. おわりに
本稿では、公営住宅入居前・入居後の l対 l対応のデータを用いて、公営住宅へ
の入居による世帯の消費選択変化を明らかするとともに、世帯に発生する便益を計
測した。また同時に、消費選択の歪みによって効率性が損なわれることも示してい
る。これは、公営住宅の供給にあたっては、住宅困窮世帯の消費動向を把握し、よ
り効率的な制度に調整してし、く配慮が欠かせないことを意味している。
実証モデルの構築にあたっては、効用関数を C
o
b
b
-D
o
u
g
l
a
s型に特定化し、住宅
サービスについてはへ卜、ニック・アプロ
チを用いている。中村・森田 (
2
0
0
0
)では、
データの利用可能性から、民間住宅家賃関数で評価した公営住宅の市場評価家賃を
用いた家賃支出シェアをパラメータとして採用したが、ここでは、入居前の家賃支
出シェアをパラメータとして用いて分析をおこなっている。
分析の結果、公営住宅への入居によって、世帯は平均で 3万 8925円(平均所得の
約 28.7%) の利益を享受していることが示された。便益は住宅サービス水準の向上
や家賃負担の軽減等によって生じているが、専有面積の増加分が平均 2
2
.91ば、そ
して家賃負担軽減額が平均 2万 4208円であることが示されている。家賃補助相当額
と便益の比は平均 0.87 となっており、低額所得層世帯への所得再分配を住宅の直接
供給によっておこなうことで、効率性が損なわれていることが実証された。また、
便益を各世帯特性に回帰させた結果からは、所得階層が上がるにつれ、{更益が低下
していることが示された。また、高齢者世帯では、公営住宅供給の効率性が高いこ
とも示された。
以上のことから、同質の民間住宅よりも低廉な家賃で提供される公営住宅への入
居によって、世帯の消費が変化し、大きな便益が発生していることが明らかとなっ
た。特に高齢者世帯にとっては、民間賃貸住宅市場で差別されやすい点を考慮する
と、公共部門が提供する公営住宅に居住できることは金銭評価以上の効果があると
言える。したがって、公営住宅は賃貸住宅市場のセーフティーネットとしての役割
をそれなりに果たしているものと思われる。しかしながら、公営住宅供給の効果は
世帯により大きなバラツキが あ り、効果を把握しながらより効率的な制度に調整し
ていくことが今後とも必要であると言えよう 。
参考文献
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9
7
5
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l
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9
8
0
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1
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i
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.23,pp.1-20
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