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県産木材利用推進プロジェクト ~現地機関における取組~(PDF:92KB)
県産木材利用推進プロジェクト∼現地機関における取組∼ 佐賀県県土づくり本部鹿島農林事務所林務課普及担当 1 主査 松永卓也 はじめに 当県では、平成19年度から県産木材の利用拡大による森林資源の循環利用を推進す る た め 、「 木 材 の 生 産 拡 大 」 と 「 木 材 の 需 要 拡 大 」 と を 一 体 的 に 進 め る 「 県 産 木 材 利 用 推進プロジェクト」を県民協働で実施しております。 当プロジェクトの数値目標としては、平成23年度までに県内の製材用丸太生産量を 1 1 0 千 m3/ 年 、 県 内 の 県 産 木 材 ( 製 材 品 ) 消 費 量 を 2 9 千 m 3/ 年 に 引 き 上 げ る 計 画 としています。 この目標を達成するために、現地機関においても地域の実情に合わせた取組を展開し ていますので、その取組状況と課題等について報告します。 2−1 取り組みの概要・経過(木材の生産拡大) 当管内の多良岳山系は県内でも有数の林業地であり、人工林が全体森林の約8割を占 め 、 約 1万 1 千 ヘ ク タ ー ル の ス ギ 、 ヒ ノ キ 林 と な っ て お り 、 9 林 齢 以 上 の 収 穫 時 期 に 達 した森林が年々増加しています。 また、昭和54年に太良町森林組合において始まった「枝打ち100万本推進運動」 を 契 機 と し て 、 無 節 材 や 大 経 材 な ど の 優 良 材 の 生 産 を 進 め て お り 、「 多 良 岳 材 」 と 称 し て銘柄化の確立にむけた「多良岳材の産地づくり運動」を展開しています。 しかし、木材の生産を拡大するために他の地域で取り入れられている列状間伐や、大 型機械でシステム化された木材の生産等、新しい施業方法の検討については進んでおら ず、受け入れられにくい状況でしたので、地元の森林組合、市町の林務担当者に集まっ てもらい、低コストに木材を生産するための方法の協議、現地調査等を実施することか ら始めました。 そして、まずは先行事例として低コストに利用間伐を実施する「モデル地区」を2箇 所設置して施業の進め方や収支などのデータ取りを行うこととし、他県で一定の成果を あげているスイングヤーダ、プロセッサ、フォワーダの3種類の大型機械のセット化と 作業路を組み合わせて列状間伐を実施しました。 3−1 実行結果(木材の生産拡大) 施業は地元の森林組合が行いましたが、収支ではプラスとなったものの、素材生産費 に つ い て は 、 1 m 3当 た り 1 万 円 ∼ 1 万 3 千 円 と 、 従 来 か ら 行 わ れ て い る 素 材 生 産 方 法 の 生 産 費 と 比 較 し て 若 干 縮 減 さ れ た 程 度 で し た 。( 表 1 ) 表1 区 分 A地区 B地区 素材生産量 (円/m3) 10,713 13,338 作業路開設費 (円/m3) 1,334 2,004 運材費 (円/m3) 4,203 3,050 素材売上価格 (円/m3) 9,474 14,276 収支 (円) 56,440 117,923 施業実施後、実際に作業をした森林組合等と生産コストが縮減できなかった原因につ いて話し合いましたが、オペレーターの技術不足だったこと、使用した大型機械は全て 研修用のリース機械であったことから使用期間に縛りがあり、効率的な工程が組めなか ったこと、現場作業員のコスト意識不足などが今後の課題として残りました。 今後、現場作業員には、国有林等で行われている研修会等に参加してもらい、さらに 現場で大型機械の操作の経験を積み重ねていくことが必要となっており、先進地の事例 を収集して紹介しながら係わっていきたいと考えています。 2−2 取り組みの概要・経過(木材の需要拡大) 木材の需要拡大については、先に述べた理由から、優良材と一般材とに分けて推進す る必要があります。 まずは優良材の需要拡大について、優良な多良岳材を有利に販売するため、森林組合 を中心として検討会が平成18年に結成されており、これまで、多良岳山系の森林の現 況や近隣の製材工場の稼働状況等の調査や、九州内の大規模な市場を視察して製材品の 集出荷状況を把握したり、丸太のままで乾燥させる輪掛乾燥の出荷体制等を視察したり して、製材品で出荷する方が良いのか、それとも丸太での出荷が有利なのかを検討して きました。 次に一般材の需要拡大については、県木材協会が進めている大規模乾燥施設の共同利 用 に よ る 県 産 乾 燥 木 材 の 安 定 供 給 を 図 る 仕 組 み で あ る 「 流 通 ・ 加 工 シ ス テ ム 」( 絵 − 1 ) を 広 め る た め 、 県 木 材 協 会 と 一 緒 に 管 内 の 製 材 工 場 に 出 向 き 、「 流 通 ・ 加 工 シ ス テ ム」の内容を説明し、参加を呼びかけました。 (絵−1)流通・加工システム 3−2 実行結果(木材の需要拡大) まずは優良材の需要拡大について、今年度、多良岳材の生産販売推進方針を決定し、 土場で一般材と優良材とを仕分けし、優良材については、製材品の出荷を行うこととし ま し た 。( 絵 − 2 ) (絵−2)多良岳材生産販売推進方針 なお、現在、製材は地元の製材所での委託加工を行うこととしていますが、今後、多 良岳材のPRに努め、販売量を拡大し、将来的には製材工場の建設を目指して用地の確 保と技術員の養成を行っていくこととしています。 また、消費者までの流れを作るため、大工・工務店や設計事務所などに使用してもら える仕組みづくりが必要となっています。 このため、山の木が材木となり家となるまでの過程を明確にすることで家づくりにス トーリー性を持たせ、山側の思いと作り手の思いをひとつの家として形にする「こだわ りの家づくりグループづくり」を進めたいと考えています。 次 に 一 般 材 の 需 要 拡 大 に つ い て 、「 流 通 ・ 加 工 シ ス テ ム 」 で は 、 多 く の 製 材 工 場 が 参 画することで県産乾燥木材の供給体制が確立しますが、当管内においても、2社の製材 工場が参画することとなり、供給体制を作ることが出来ました。 また、出口対策として、佐賀県木材協会が県内の大工・工務店をまわり、佐賀県産乾 燥木材のサンプルやパンフレットの配布などを行い、また、各流域の活性化センターで オリジナルポスターを作製し、配布するなどのPR活動も行われています。 4 考察 木材の生産拡大について、管内の森林組合では昨年度にスイングヤーダー、今年度に はフォワーダーを購入するなど機械化が進んでおり、木材を低コストに生産するための 研修会等にも積極的に参加するなど、森林組合を中心として丸太の生産コスト縮減が図 られていくことが期待できます。 一 方 、 木 材 の 需 要 拡 大 に つ い て は 、「 流 通 ・ 加 工 シ ス テ ム 」 に よ り 高 品 質 の 県 産 乾 燥 木材を生産、供給することが出来るようになりましたが、住宅着工戸数の減少により消 費がのびない状況の中、製材品の価格が低下し、山側・供給側の努力でコスト縮減を図 っても山には還元されない状況にあります。 今、改めて生産の拡大と需要の拡大は、車の両輪と同じで一体となって動くことで前 に進むことを痛感させられています。 5 まとめ 現地機関として、治山事業での残存型枠の使用等をはじめとした公共事業での利用を 推進するとともに、山側・供給側の目線だけではなく、都市側・消費側の目線も交えて 仕組みづくりを推進していきたいと考えています。 そのため、他県での先進事例である森林NPOによる間伐材利用促進の取り組み等を 学び、当管内の実情にあった方法を地域で考え、実践に結び付けたいと考えています。