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日本の学校教育における開発教育の実践 ―イギリスの市民教育から

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日本の学校教育における開発教育の実践 ―イギリスの市民教育から
日本の学校教育における開発教育の実践
―イギリスの市民教育から学ぶ、学校教育での開発教育の可能性―
国際学部国際学科
国際政治経済コース
牧田
東一ゼミ
学籍番号:20527261
吉川
いずみ
目次
はじめに .......................................................................................................................................................... 43
第1章
開発教育の概要とイギリスの市民教育 ................................................................................................ 54
第 1節
開発教育の概要 ...................................................................................................................................... 54
1.開発教育の定義 .................................................................................................................................................. 54
2.開発教育の歴史 .................................................................................................................................................. 54
3.開発教育の学習目標........................................................................................................................................... 65
4.開発教育の学び、参加型学習 .......................................................................................................................... 65
第 2節
イギリスの市民教育(Citizenship Education)...................................................................................... 76
1.イギリスの学校制度とカリキュラム ............................................................................................................... 76
2.市民教育(Citizenship Education)............................................................................................................... 87
3.市民とは ............................................................................................................................................................ 98
4.市民教育が導入された背景 ................................................................................................................................ 98
5.市民教育とは何か、主要テーマ ........................................................................................................................ 98
6.地球市民教育 ..................................................................................................................................................... 98
7.市民教育の実践 ................................................................................................................................................ 109
第2章
日本の学校教育における開発教育 .................................................................................................... 1211
第 1節
日本における開発教育 .................................................................................................................... 1211
1.日本における開発教育の歴史 ........................................................................................................................ 1211
2.教育実践における開発教育............................................................................................................................ 1211
第 2節
高等学校における開発教育.................................................................................................................... 1312
1.多様化する高校教育....................................................................................................................................... 1312
2.高等学校学習指導要領 ................................................................................................................................... 1413
3.総合的な学習の時間....................................................................................................................................... 1514
第 3節
学校教育における開発教育の実践......................................................................................................... 1716
1.東京都立大森高校定時制 ............................................................................................................................... 1716
2.岩手県立松園養護学校 ................................................................................................................................... 1817
第3章
第 1節
神奈川県高等教育における開発教育の実践....................................................................................... 2019
学校としての開発教育 -神奈川県立神奈川総合高校 .................................................................... 2019
1.神奈川総合高校の概要と特徴 ........................................................................................................................ 2120
2.コースと授業 ................................................................................................................................................. 2120
3.グローバル教育としてのワンコイン・コンサート ....................................................................................... 2221
第 2 節 教員による開発教育 ―神奈川県立麻生高等学校 風巻浩教諭 ............................................................... 2322
1.開発教育のきっかけ....................................................................................................................................... 2322
2.授業としての開発教育-日本とウガンダをつなぐ授業 ................................................................................ 2423
第 3節
授業の一環としての開発教育 ................................................................................................................ 2524
1.ワークショップについて ............................................................................................................................... 2524
2
2.開発教育の授業とアンケートによる生徒たちの意識の変化......................................................................... 2625
4.考察 ................................................................................................................................................................ 3433
おわりに ....................................................................................................................................................... 3837
参考文献 ....................................................................................................................................................... 4039
参考 HP ........................................................................................................................................................ 4039
付録 .............................................................................................................................................................. 4140
3
はじめに
グローバル化が急速に進む中、それに伴い教育も国際理解や開発教育といった分野に注目が集まってきている。
開発途上国の抱える問題の背景には、先進工業国の影響があり、私たちの生活は開発途上国を犠牲にして成り立っ
ているとも言える。問題の解決には国際的な取り組みが必要である。それに向けては、先進工業国に暮らす人々の
理解や協力が不可欠であり、そのためには国際理解教育、開発教育といったものが重要な役割を担う。しかし、欧
米諸国に比べれば日本におけるそれらの教育はまだ発展途上にある。それは、国際問題への関心の低さにもつなが
っていると筆者は考える。
例えば、NGO の規模や、フェアトレードの普及などで見てみる。イギリスの NGO を見ると、規模は様々ではあ
るが、Oxfam や Save The Children といったイギリスで結成され、現在では世界規模で組織化されているものも多
い。それらの大規模な NGO ではスタッフの数も数千人にのぼり、活動予算も年間 1 億ポンド1を超える[Save the
Children UK HP (2008、1.26)]。それに対し、日本の NGO は、日本国際ボランティアセンター(JVC)のような
日本において大規模な NGO であっても、スタッフの数は 70 人ほどであり、その会員数も 1400 人ほどに留まって
いる[日本国際ボランティアセンターHP 2008、1.26]。また、イギリスではフェアトレードが社会の中に盛んに取
り入れられ、学校の食堂や一般のスーパーマーケットなどでもフェアトレード商品が扱われ、フェアトレードとい
う言葉も国民の中に広く浸透している。日本においても近年、フェアトレードには注目が集まり、取り扱う企業も
増えてきている。しかし、その普及はまだ十分なものではなく、一部のフェアトレードに対し認識のある人々の間
に留まっているのではないか。
日本とイギリスでは、文化的、地理的、宗教的な背景の違いがあるとは言え、このような違いの原因のひとつに
は開発教育の行われ方があると言えるのでないだろうか。
近年、日本の学校教育でも国際化に対応するべく、語学教育(特に英語教育)に多くの予算やエネルギーが費や
されている。しかしこれは、欧米のみに目を向けた国際化であり、生徒に更なる欧米志向の視点をあたえることと
考えられる。このような、先進国のみに関心を向けた偏った国際化ではなく、バランスの取れた世界認識を育てる
必要があり、そのために開発教育が評価されるべきではないだろうか。
そこで、日本の開発教育発展のため、イギリスと日本の学校教育における開発教育について述べ、イギリスから
学べるもの、そして日本の学校教育における開発教育の可能性を探っていきたい。
第 1 章では、開発教育の概要を述べた後、イギリスの学校教育における開発教育のあり方を見ていく。イギリス
では、2002 年からナショナル・カリキュラムの中に「市民教育(Citizenship Education)」が導入された。市民教
育の概要やテーマ、その実践を述べてく中で、イギリスの学校教育における開発教育のあり方を学んでいきたい。
第 2 章では、日本の学校教育における開発教育について述べる。日本でも 2002 年から「総合的な学習の時間」が
導入されたことにより、人権問題や環境問題など様々なテーマを扱った授業を行うことが可能となった。その中で、
開発教育はどのように組み込むことが可能であるのか。実践例を見ていくなかでその可能性を探っていきたい。
第 3 章では、日本の高等教育での開発教育の実践を、
「学校」
「教員」
「授業」という 3 つの方法から考察していき
たい。その中で、実際に筆者が授業者として参加した授業で実施したアンケートによる生徒の意識の変化について
も見ていきたい。
1 1 ポンド=約 211 円 [Yahoo! JAPAN ファイナンス 2008、1.26]
4
第1章
開発教育の概要とイギリスの市民教育
イギリスは、その地理的、歴史的な背景から多くの文化が共存している。それは、ロンドンにおいては 340 の使
用言語があり、同じ国籍所有者が 1 万人以上いるグループが 33 あるということからうかがえる。そのように様々な
文化や考え方を持つ人々が集まった社会では、議論を大切にし、公に開かれた政治や社会づくりが目指されてきた。
多文化であることは教育にも大きな影響を与えており、多文化教育と呼ばれる教育活動が行われ、学校や地域にお
いて多様性を尊重する教材や教育機会が多く提供、開発されている。イギリスにおける開発教育の発展はそのよう
な社会を背景にするものだと言える。では、開発教育はイギリスの学校教育においてどのように取り組まれている
のか。イギリスでも学校教育の教育課程の中に開発教育の概念は含まれていない。しかし、イギリスでは 2002 年か
らナショナル・カリキュラムに「市民教育」が導入された。以下 2 節で詳しく述べていくが、市民教育は「地域で
の学び」や「参加」といったことが重視された教育であり、そこに地球的な視野を与えることにより、開発教育と
しての機能を果たすことも可能となる。そのため、イギリスの市民教育を開発教育の一環(あるいは、開発教育は
市民教育の一環)として捉えることができる。本論文では、市民教育を開発教育の一環とし、イギリスにおける市
民教育のあり方を学ぶことにより、日本の学校教育での開発教育のヒントを得たい。
本章では、まず第 1 節において開発教育の定義や歴史といった概要を述べる。それを踏まえ、第 2 節において、
イギリスに学校制度について触れた後、2002 年に導入された市民教育(Citizenship Education)について詳しく述べ
ていく。
尚、本論文におけるイギリスとはイングランド地方を指すものとする。
第1節 開発教育の概要
本節においては、開発教育を論ずるにあたり、まず基本となる定義や学習目標、歴史といった開発教育の概要に
ついて触れておきたい。
1.開発教育の定義
まず初めに、定義を明確にしておきたい。開発教育の定義は、その年代や国、さらには NGO などによって異な
る。またその細部については現在なおさまざまな議論がある。本論文においては、日本の NPO である開発教育協会
(Development Education Associations & Resource Center、 以下 DEAR)2の以下の説明を定義とする。
地球市民である私たち一人ひとりが、開発をめぐるさまざまな問題を理解し、望ましい開発のあり方を考え、共
に生きることのできる公正な地球社会づくりに参加することをねらいとした教育活動〔開発教育協会 2004:4〕
2.開発教育の歴史
開発教育の誕生のきっかけは、1960 年代以降の欧米の NGO によって海外援助広報・募金活動と国内におけるキ
ャンペーン活動であった。第 2 次世界大戦後、欧米諸国において NGO が誕生し、これらの NGO がヨーロッパで
の復興作業や難民・避難民・被災民への救済の活動を実施するようになった。60 年代になると、これらの NGO は、
独立したばかりのアジア・アフリカ諸国への支援を開始するようになり、これらの国々への援助活動の広報や募金
活動を行った。
1950 年代に、イギリスでは国連「世界難民年」に合わせ、オックスファムなどの NGO によりイギリス国内で「世
界難民キャンペーン」が行われた。60 年代には、イギリスの多くの NGO が結集し、国連「飢餓からの解放キャン
2 1982 年に設立された NPO 団体。http://www.dear.or.jp/index.html 参照
5
ペーン」をイギリス全土で行った。
1970 年の国連総会で議決された「第 2 次国連開発の 10 年計画」に基づいて、ユニセフ(国連児童基金)などの
国連機関が独自に開発教育に取り組むようになり、欧米諸国の政府も開発教育に対する支援を行うようになる。
1970 年代から 1980 年代にかけて、欧米の NGO やボランティアは、従来の国内における広報・募金活動だけで
なく、南の国々の貧困、北の国々と南の国々との経済的な格差(南北問題)の原因を知り、それらの問題の解決に
向けた教育、すなわち開発教育を行うようになる。そして南の国々の貧困や南北問題の真の解決のために、学校教
育や社会教育に開発教育を取り入れていく必要性を感じ、開発教育の専門スタッフを事務所に置く NGO があらわ
れた。また、開発教育に専門に取り組む NGO や、地域には開発教育センターが設立されるなどした。イギリスに
おいては、1970 年代に NGO による学校への開発教育の働きかけが活発化した。1977 年に、労働党政府は海外開
発機構(Oversea Development Administration)の中に開発教育基金を設立し、地域における開発教育の推進を図っ
た。これにより、開発教育センター(DEC)がイギリス各地に設立されるようになり、その数は現在では約 40 箇所に
のぼる〔開発教育協会 2004:6-7;16〕
。
3.開発教育の学習目標
前述した開発教育の定義を踏まえ、DEAR において開発教育の学習目標は以下のように示されている。

多様性の尊重―ひとりひとりの人間としての尊厳性を基礎として、世界の文化の多様性
を理解すること。

開発問題の原因と構造―世界各地の貧困や格差の現状を知り、その原因と構造を理解す
ること。

地球的諸課題の関連性―開発問題と環境、人権、平和、ジェンダーなどの地球的諸課題

世界と私たちのつながり―地球規模の諸課題が私たちとつながっていることを理解する
との関連性を理解すること。
こと。

私たちのとりくみ―地球的な課題に取り組んでいる努力や試みを知り、自ら参加できる
意欲と能力を養うこと〔開発教育協会 2004:4〕。
4.開発教育の学び、参加型学習
上記のような学習目標達成のために、開発教育においては新しい学びのスタイルが必要となる。それは、現在の
教育において行われがちな教師による一方的な講義スタイルの授業ではなく、学び手が主体となる参加型学習であ
り、これは開発教育の特徴でもある。
これまでの教育はそれぞれの国民を育成する国民教育であったが、こうした課題を国家・国民のレベルで捉える
のではなく、相互依存関係によって結ばれている人類共通の問題として解決していこうとする視点が、開発教育で
は求められており、これは地球市民教育という新しい切り口である。
地球というコミュニティの構成員である市民が、より公正なコミュニティを作っていくための過程であると言え
るだろう。学びの主体としての市民、変革の主体としての市民という気づきが学びの出発点となる。
開発教育の特徴である参加型学習の「参加(participation)」とは、担い係わることである。それは、社会の一部を
担い、社会に係わっていくことであり、その場合の社会とは民主的で公正な社会を指す。アクティビティに参加す
ることは、学習者同士が意見を交換し、経験を共有し、その課程でさまざまな考え方や価値観を持っている学習者
がそれぞれに交流する中で、互いに尊重し合い共に生きるという意味を考えるきっかけとなる。他者と学ぶという
過程を通してより良い社会のあり方を考え、その実現のために社会参加をしていくことこそが参加型学習なのであ
6
る〔開発教育協会 2004:10-11〕。
第2節
イギリスの市民教育(Citizenship Education)
本節では、現在のイギリスの学校教育における開発教育の取り入れられ方を見ていく。本節で表にして示してい
るが、イギリスにおいても開発教育は教科としては導入されていない。しかし、はじめにでも触れたように、
「地域
での学び」や「参加」といったことが重視された市民教育が 2002 年からナショナル・カリキュラムに導入された。
第 1 節で述べた開発教育の学習目標や学びをふまえ、市民教育はどういったものであり、どのような役割を果たす
のか、イギリスで現行の学校制度やナショナル・カリキュラムについて説明した後、詳しく述べていく。
1.イギリスの学校制度とカリキュラム
イギリスの学校教育における開発教育を述べていくにあたって、まずイギリスで現行の学校制度と 1988 年から導
入されているナショナル・カリキュラムの概要が必要であろう。
イギリスは大変複雑な教育システムを有しており、細部までの説明は本論文では省略することとする。大まかな
イギリスの学校制度は以下の通りである。
図 1 イギリスの学校制度
年齢
公立
私立
22
大学院
21
20
19
大学院、カレッジ
大学院、カレッジ
18
17
シックスフォーム
16
15
14
13
中学課程(コンプリヘ
インディペンデント・ス
ンシヴ・スクール)
クール、パブリックスク
12
ール
11
プレパラリ
ー・スクール
10
プレ・プレパラトリー・
9
スクール
8
小学校課程(プライマ
7
リー・スクール)
6
5
4
3
幼児教育
幼児教育
2
([小林 2005:25 ページ]より筆者作成)
7
上の図を見たうえで、基本的なポイントを箇条書きにより説明する。
1.
義務教育-5 歳から 15 歳までの 11 年間で、小学校 6 年、中学校は 5 年。
2.
小学校-一般的に「プライマリー・スクール(primary school)と呼ばれる。いわゆる初等教育を行う。
3.
中学校-一般的に「コンプリヘンシヴ・スクール(comprehensive school)と呼ばれ、中等教育受け持つ。
4.
シックス・フォーム(sixth form)-中学校を卒業後、主に大学進学を目指す生徒が学ぶ 2 年制の教育課程。
5.
大学―もちろん高等学校の教育の場だが、日本とは違って3年で卒業するのが原則〔小林 2005:26〕。
次に 1988 年から導入されたナショナル・カリキュラムを以下の図で示す。公立学校の義務教育は 12 の教科が、
4 つのキーステージ(Key Stage)より成り立っている。
図 12 ナショナル・カリキュラム
キーステージ キーステージ キーステージ キーステージ
1
2
3
4
生徒の年齢
5-7
7 - 11
11 - 14
14 - 16
学年
1, 2
3, 4, 5, 6
7, 8, 9
10, 11
言語(英語)
算数/数学
基礎科目
科学
デザイン&技術
情報コミュニケーション
技術
歴史
地理
現代外国語
中心科目
芸術&デザイン
音楽
体育
市民教育*
*2002 年 8 月より
( )
( )
(チャイルド・リサーチ・ネット HP (2007、11.25)
http://www.crn.or.jp/index.html)
キーステージとは、いわゆる段階と同様の概念と考えられ、このうちナショナル・カリキュラムの内容が示され
ているのは、5~14 歳までの間である。
2.市民教育(Citizenship Education)
前述したように、
イギリスのナショナル・カリキュラムにおいて 2002 年 9 月から市民教育(Citizenship Education)
が導入された。市民教育は、中等教育(11 歳~16 歳/キーステージ 3~4)において必修化することが規定された。
8
初等教育(5 歳~11 歳/キーステージ 1~2)においては必修教科とはしないものの、関連する教科にその内容を積極
的に組みいれていくことが決まった。市民教育は、日本の総合的な学習の時間とほぼ同時期に導入されたこともあ
り、日本においても注目を集めている科目である。
3.市民とは
まず、市民(シティズン)とは何を指すのか。
「シティズン」という言葉は古代ギリシャ時代のシティ(市)という
語から派生したものであるといわれており、市に住んでいる人を指す言葉として使われる。しかし、市民教育で使
われる「市民(シティズン)」にはある一定の価値が含まれているといえるだろう。つまりある基準で「良い市民」
と呼ばれる像があり、市民教育はそれを反映しようとしている〔チャイルドリサーチネット HP (2007、11.25)
〕。
4.市民教育が導入された背景
市民教育は近年のみならず、過去何度もカリキュラムの中に取り入れられてきた経緯がある。歴史をさかのぼれ
ば、1世紀前の英国内そして旧植民地国においても、国の一体化のために学校では、
『真の愛国心』や『勇敢な市民』
などという教科書が使用された。
1960 年~1970 年代にかけては、中高等学校で「公民(Civics)」の授業が行われたが、その授業では民主主義がど
のように機能するかと、議会と法のシステムの教授に重点が置かれ、それらのシステムを使うための知識が主に扱
われた。
しかし、年と共に市民教育の目的も内容も市民として求められる資質も変化していく。20 世紀後半には政治家や
教育者たちが集まり、再び教育に市民教育を取り入れることを話し合い始めた。数年の議論を経て、1998 年に政府
の市民教育助言委員会が、学校での市民教育と民主主義の教授(Education for citizenship and the teaching of
democracy in schools)
」というレポートを提出した。この中では、授業に求めるものとして、知識のみではなく社
会の課題を取り上げたり、社会のしくみ自体に疑問を投げかけたり、自分たちの意見をいうこと、課外活動に参加
することが挙げられている[チャイルドリサーチネット HP (2007、11.25)]。
5.市民教育とは何か、主要テーマ
市民教育の主要テーマは以下の 3 つである。
1.
社会的・道徳的責任(social and moral responsibility)
教室の中だけでなく、普段の生活においても、自尊心や社会的・道徳的責任を持った人間を育成する。
2.
地域への参加(community involvement)
地域活動への関わりやボランティアを通して、コミュニティに積極的に参加することを学ぶ。
3.
政治的な事柄についての基本的な理解や能力(political literacy)
民主主義の制度や実際の動きとその課題、また私たちの生活を地域、国レベルでどのように改善出来るか
について、適切な知識、態度、技術について学ぶ〔開発教育協会 2004:21〕
。
6.地球市民教育
上記の主要テーマをふまえたうえで、具体的なカリキュラムは各学校が今までの実践に基づき、様々な観点を用
いて、地域や学校の特色を活かした独自のアプローチを模索し、制定することが出来る。つまり、市民教育の内容
や進め方は各学校や教員の裁量度が大きい。
そこで、開発協会や国際協力を推進する団体では「ナショナル・シティズン」の枠を超えて、より地球的視野を
もった市民の育成を目指した教育が行われるよう、上記 3 つのテーマに「グローバルな視点」を取り入れていくよ
9
うに呼びかけている。つまり、
「地球市民教育」である〔開発教育協会 2004:21〕。
市民教育は 1997 年に第一案が提出されたのであるが、それから本案が 1998 年に完成する 1 年強の間、様々な会
議が政府機関、民間団体、教育者の間で行われた。そのような話し合いを通して大きく変化した一つが、市民教育
に「グローバルな視点」が取り入れられるようになったことが挙げられる。イギリスにおいては、グローバル教育、
開発教育、人権教育などといった地球規模の課題、そして自分たちの暮らしと他国の暮らしのつながりを学ぶ教育
活動が 1970 年から盛んである。最終のレポートの中では、このような教育要素も重要であることが盛り込まれた〔チ
ャイルド・リサーチ・ネット HP 2007、11.25〕
。
7.市民教育の実践
では、市民教育は実際に学校教育の中でどのように行われているのだろうか。
市民教育は、授業枠をそのためにとり実践されても、各教科の中で少しずつ取り入れられてもよく、授業配分な
どは各学校に任されている。授業内容も各学校に任されているのだが、政府は以下のような授業例を提供している。
・ 犯罪
・ 人権
・ イギリス:多様な社会?
・ 地域の民主主義、地域における娯楽とスポーツ
・ シティズンシップと地理:地球的課題についての議論
・ シティズンシップと歴史:なぜ世界において平和を保つことが難しいか
・ シティズンシップと歴史:なぜ人々は選挙権のために戦ったか、今日における投票の意味
・ シティズンシップと宗教教育:どのように争いを取り扱っていくか
・ 民主的な社会参加の技能の発展〔チャイルド・リサーチ・ネット HP 2007,11.26〕
他にも、各学校において様々な課題や活動を取り上げることができる。以下、開発教育協会が 2005 年に行ったイ
ギリスへのスタディーツアーの中で、教員たちが実際に学び手として参加した市民教育を例に、市民教育がどのよ
うに行われ、何を学ぶことが出来るのか見てみたい。
「子どもの権利条約」
市民教育の実践はワークショップ式のカリキュラムが多く導入される。その中でも、人権や世界平和、国際協力
などの社会的な課題をテーマにしたものが多く、国連の「子どもの権利条約」もそのひとつである。ワークショッ
プは以下のような内容で行われる。
①
グループに分かれ、そこに「水」
「住宅」「学校」
「テレビ」「両親」
「友人」「食糧」など、子供たちの身の回り
で当然のように保証されている物事ばかりが描かれた 18 枚のカードが配られる。
②
「自分を子供の立場に置き換えて考えてください。身の回りのさまざまな権利について描かれたカードの中か
ら、それほど重要ではないと思うものを外してください。そして、最低限必要と思える4枚を残し、その理由
を説明してください」と支持される。
③
グループで、どのカードを残すべきかを論じ合う。
最後にどのカードを出し合うのかは、人によって見解が異なるためなかなか決まらない。さまざまな価値観をど
のようにまとめ、グループとしての回答を導き出すか。ワークショップのこの作業の中に、イギリス市民教育の柱
となる概念が存在する。ワークショップは互いの見解を尊重し、自由に討論し合うことが大前提である。さらに、
導き出された回答は、平和や国際協力といった社会的な課題にも結び付けられていく。自分たちには何ができるか、
10
このワークショップではそれを導き出すまでの過程が重視されている。
このようなワークショップは子供たちに社会とのつながりや、さまざまな権利や価値観、責任について気付かせ
ることが出来ると共に、周りに意見を理解し、集団を導く難しさ、その過程で生まれる責任感などを学ぶことがで
きる。それは、まさに市民教育が目指すところであるといえる〔十勝毎日新聞社 HP 2007、11.26〕。
まとめ
以上、見てきたように市民教育は国内、国外の事例に関わらず、さまざまな要素を含み学習を行っていくことの
できる、非常に柔軟な教科であると言える。主体的に学ぶことを基盤とし、そこから参加や責任といったことを学
んでいく。これらのことは、市民教育、本来であれば教育の基盤にあり、必要不可欠なものであると筆者は考える。
市民教育は、教育とは何のためにあるのか、教育を子どもたちに何を学んでほしいのかといった疑問を、教育者、
また社会に投げかけている。そのような面からも、市民教育は教育そのものを考え直す役割となっているのではな
いだろうか。
次章では、日本の学校教育における開発教育について述べる。中でも多様化の進む高校教育に着目し、学習指導
要領や、総合的な学習の時間などについて詳しく説明する。
11
第2章
日本の学校教育における開発教育
日本における学校教育は、2006 年には約 60 年ぶりに教育基本法が改正され、現在も学習指導要領が見直される
など、改革の時期にあると言える。しかし、そこで議論の中心となるのはもっぱら、学力低下への対策であり、そ
の関心が国際理解や開発教育といった分野に向くことは困難に思われる。
今日の情報社会において、学校は地球規模の諸課題や他の諸文化に関する情報や開発教育に関わる物事について
の唯一の情報源ではない。特にテレビなどのマスメディアの存在は大きく、我々が世界について学ぶスピードを速
め、その影響力も計り知れない。しかしながら、学校での教育は特別な役割を担っている。それは、学校では子ど
もたちが自らによって情報を利用するための手段を学び、また地球規模の課題の複雑さを理解させ文化的多様性を
受け入れさせ、固定概念などを持たせない手助けとなる。
そのような理由からも、学校教育においての開発教育の重要性が考えられるが、開発教育の概念は教育カリキュ
ラムの中に含まれておらず、学校教育全体として開発教育が積極的に取り入れられているとは言い難い。各学校の
方針により、各教科や「総合的な学習の時間」に取り入れられるに留まっている。
そこで本章では、まず第 1 節で日本における開発教育歴史と概要を述べた後、第 2 節では特に多様化の進む高校
教育に重点を置き、その学習指導要領や「総合的な学習の時間」の取り扱いについて述べる。そして、第 3 節では
高校教育で実践されている開発教育の例を挙げ、学校教育における開発教育の可能性を探っていきたい。
第1節 日本における開発教育
1.日本における開発教育の歴史
日本において開発教育という用語が、初めて取り上げられたのは 1970 年代以降のことである。その後、本格的に
開発教育の概念が紹介されたのは、79 年に国連広報センター、国連大学、ユニセフ駐日事務所の共催によって開催
された開発教育シンポジウムであった。70 年代はごく限られた一部の研究者や関係者によって、欧米の先行事例に
ついての調査研究が行われた。その結果、開発教育の重要性や必要性が報告書や広報誌などを通して周囲に紹介さ
れ、80 年代以降の開発教育の進展の準備がされることとなった。
80 年代は、試行錯誤の時代であり、欧米の経験に学びながらも、日本独自の研究や実践に向けて、地道な取り組
みが始まった時代である。82 年には、開発教育の推進を目的とする連絡協議体である「開発教育研究会」が、上記
の開発教育シンポジウムの参加者を中心に設立された。80 年代から 90 年代には、日本でアジア・アフリカを支援
する多くの NGO が設立され、NGO による国内の広報活動と同時に開発教育活動が充実されるようになった。例え
ば、
「シャプラニール=市民による海外協力の会」は、開発教育用ビデオ教材を作成し、「日本国際ボランティアセ
ンター」は、生活用品を使用した国別の開発教育教材を作成するなどしている。
90 年代に入っては、日本の開発教育は地域展開の時代を迎え、当時の開発教育協議会が各地に発足した実行委員
会とともに、1992 年から開催してきた「開発教育地域セミナー」
(2003 年度をもって終了)は、44 都道府県で合
計 64 回が開催された。この地域セミナーを通じ、開発教育は地域に紹介され、地域における担い手相互の、学びや
つながりを生み出していくこととなった。
このように、日本の開発教育は、初期には欧米の開発教育の調査や紹介を中心に行ってきたが、90 年代後半以降
から独自性を持った活動を行うようになってきている。また、開発教育の地域展開についても、開発教育地域セミ
ナーを契機に、新たな開発教育団体や地域ブロックごとのゆるやかなネットワークが発足している[開発教育協会
2004:6-7;18-19]
。
2.教育実践における開発教育
12
教育実践として開発教育の活動が始まったのは、1980 年代のことであった。70 年代は、開発教育の概念や欧米
での実態が関心を持って紹介されるようになった時代であり、教育実践として地域や学校で取り組まれるという状
況にはなかった。
80 年代に入り、開発教育協議会が発足したものの、内部では開発教育とは何であるのか、ということが絶えず問
われ続けていた。その一方で、外部に対しては、この新しい教育を日本の地域や学校で実践していくために、その
理念や目標を明快に打ち出していく必要があった。しかし、この時代は受験戦争が過熱し、バブル経済に突き進ん
でいく状況にあり、開発教育が持つメッセージや内容を地域や学校の中で実践に移していくことは容易ではなかっ
た。
90 年代に入ると、特に英国の開発教育、グローバル教育などが培ってきた経験や実践的なノウハウが日本でも紹
介される機会が増え、ワークショップやアクティヴィビティといった参加型学習の理念や手法が広がりを見せた。
日本の独自の開発教育教材も 80 年代後半から試作されてはいたが、90 年代に学校教員、NGO 関係者、青年海外協
力隊の帰国隊員などが、自らの経験や関心から教案や教材を作成するようになったことは、この時代の大きな特徴
と言える。また、NGO では従来の学習会や報告会に加えて、イベントやキャンペーン、スタディーツアーやフェア
トレードなど多彩な活動を実施するようになり、これらを従来の募金広報事業としてではなく、開発教育事業とし
て位置づける団体も徐々に増えていった。
90 年代末からは、カリキュラムへの取り組みと、それまでの評価が行われる時代になっていると言える。2002
年から小中学校に「総合的な学習の時間」が導入されることになったことを機に、単発的で行事的なイベントとし
てではなく、継続的で体系的なカリキュラムや学習プログラムとして開発教育を学校現場に提示していく必要が生
まれてきている[開発教育協会 2004:18-19]
。
そして現在では、徐々にではあるが、学校教育において開発教育が取り込まれ、その重要性や必要性が認識され
るようになってきている。
第2節
高等学校における開発教育
現在、大きな改革の時期を迎えている日本の学校教育であるが、中でも特に高校教育における変化は著しい。私
立学校だけでなく公立学校においても、学校の理念や方針に基き、学習の手法のみでなく学校システムも個性化・
多様化が進んでいる。そのような中で、徐々にではあるが開発教育を積極的に取り組む学校も増えてきている。本
節では、まず高校教育の多様化に着目し、そのあり方を見ていく。そして、現在改訂が議論される高等学校の学習
指導要領、その中でも特に総合的な学習に時間に重点をおき、その概要と取り扱う内容について触れていきたい。
1.多様化する高校教育
現在、授業手法・内容はもちろんのこと、学校システムにおいても多様化が進み、独自性のある学校が多く生ま
れている。従来の学校の型にはまらない個性ある学校が増えることにより、生徒の学びの幅も広がるであろう。私
立学校においては、従来からそうであったように、宗教に基づいた教育や、専門的分野を学科として持つ学校、進
学、部活などに重点を置き学習や活動を進めるなど、学校の理念や信念に基づき教育が行われている。私立もます
ますの多様化が見られるが、ここでは特に近年における個性化・多様化の著しい公立学校に着目し、東京都におけ
る特色ある公立学校について観ていくこととする。
開校されている中で、以下に挙げるような特色を持った高校がある。
・ 中高一貫教育校
私立では多く存在する中高一貫学校が公立学校においても平成 17 年より開設されている。
平成 19 年度現在では、
併設型中学校である白鴎高等学校付属中学校、両国高等学校付属中学校と中等教育学校である桜修館中等教育学校、
13
小石川中等教育学校の 4 校がある。
・ 普通科以外の学科を持つ高校
普通科以外にも特定の学問に重点を置き学習する学科を持つ学校が、近年増加している。学科は次のようなもの
がある。
農業科、工業科、科学技術科、商業科、ビジネスコミュニケーション科、家庭科、福祉科、芸術科、体育科、国際
科、併合科、産業科、水産科
これら、学科を持つ高校は人気も高い傾向にある。
・ 普通科の中にコース制を持つ学校
学科でなくとも、普通科の中にコースとして特定の科目に重点を置き、教育を行う学校は数
多くある。その中の一部の例を以下に挙げる。
語学・人文コース、自然科学コース、外国語コース、外国文化コース、理数コース、日本文化コース、ことばと情
報のコース、造型美術コース、など[東京都教育委員会都立高校検索サイト HP 2008、1.04]。
・単位制を活かした学校
定時制・通信制高校において 1988 年から設置されていた単位制は、1993 年から全日制の高校においても用いら
れるようになった。単位制高校とは、
「単位を基準として学習量をはかるしくみで、高校に通算して 3 年以上在籍し、
必修教科と選択教科を履修しながら取得した科目の単位を積み重ねて、定められた単位数をおさめることで卒業が
可能となる制度[遠藤 2004:43]」のことである。全日制における単位制システムも新しい試みであったが、近年では
単位制の中でも独自の学科を持つ高校が誕生している。例えば、1996 年に開校した晴海総合高校3は、その名の通
り総合学科をもつ都立高校である。カリキュラムは、用意された 162 科目 434 講座の中から生徒が選択し編成する
こととなる。また、同校では 2 学期制を採用しており、これにより授業時間が 1.2 倍になり、半年で単位を出す科
目をおけるというメリットがある。また、最大の特徴として、1 年次の「産業社会と人間」と、それと連動させて
学校裁量時間として開設している「LA(リベラルアーツ)の時間」や「V 学習(ボランティア学習)
」の充実に力
を入れていることが挙げられる[古賀 2004:189-190]。また、同じく総合学科を持つ、つばさ総合高校4では、環境教
育に力を入れ、都立高校で初めて ISO140015の認証を取得し、学校全体で環境教育、省エネ、ゴミの削減などに取
り組んでいる[つばさ総合高校 HP 2007、1.05]。単位制で総合学科を持つ学校は、他にも 5 校あり、平成 19 年度現
在で計 7 校が開校されている[東京都教育委員会都立高校検索サイト HP 2008、1.04]。
以上のように、今日では私立学校のみならず公立高校においても学習内容、学校システムの多様化が進んでいる。
東京都の公立学校を例に挙げ観てきたが、東京都における高校教育の多様化は、少子化の進む日本社会の中で生徒
を得るために考案されたものでもある。しかし、理由に関わらず高校教育の柔軟性に富んだ学校のスタイルは、生
徒たちの選択の幅、学びの幅を広め、新しい関心を生むであろう。また、学習科目も従来のようなものだけでなく、
多様化・個性化することにより、開発教育などの、一般高校では取り入れられにくい分野が、学校教育の中で取り
組まれることにもつながるのではないだろうか。
2.高等学校学習指導要領
現在、改訂が議論されている学習指導要領であるが、ここでは平成 11 年に改訂され、平成 15 年から適用されて
いる現行の要領を見ていく。
普通教育に関する各教科・科目は以下の通りである。
3
晴海総合高校 http://www.harumisogo-h.metro.tokyo.jp/
4つばさ総合高校
http://www.tsubasa-h.metro.tokyo.jp/
5 組織活動、製品及びサービスの環境負荷の低減といった環境パフォーマンスの改善を実施する仕組みが継続的に運用されるシステム(環境マネジメ
ントシステム)を構築するために要求される規格。[財団法人
日本適合性認定協会 HP 2008:01:06]
14
表 1 高等学校の普通教科科目
教科
国語
科目
教科
科目
教科
科目
国語表現Ⅰ
理科基礎
音楽Ⅰ
国語表現Ⅱ
理科総合 A
音楽Ⅱ
国語総合
理科総合 B
音楽Ⅲ
現代文
物理Ⅰ
美術Ⅰ
物理Ⅱ
美術Ⅱ
化学Ⅰ
美術Ⅲ
古典
古典講読
理科
世界史 A
化学Ⅱ
世界史 B
生物Ⅰ
芸術
工芸Ⅰ
工芸Ⅱ
日本史 A
生物Ⅱ
工芸Ⅲ
地理
日本史 B
地学Ⅰ
書道Ⅰ
歴史
地理 A
地学Ⅱ
書道Ⅱ
オーラル・
地理 B
コミュニケ
書道Ⅲ
ーションⅠ
オーラル・
現代社会
公民
倫理
コミュニケ
外国語
政治・経済
数学Ⅲ
英語Ⅱ
情報 C
グ
グ
体育
保健体育
数学 A
数学 B
情報 B
ライティン
数学Ⅰ
数学Ⅱ
情報
英語Ⅰ
リーディン
数学基礎
数学
ーションⅡ
情報 A
保健
家庭基礎
家庭
数学 C
家庭総合
生活技術
(
[文部科学省 2007:11]より筆者作成)
上記の表の科目に加え、ホームルーム活動が週に 1 単位時間以上、総合的な学習の時間が卒業までに 105 時間な
いしは 20 単位時間以上を配当される。
3.総合的な学習の時間
開発教育は社会科や英語、家庭科などそれぞれの教科で取り込んでいくことが可能であるが、ここでは特に継続
的なプログラムとして開発教育を取り組むことの出来る総合的な学習の時間に着目し、その学習内容や取り扱うテ
ーマについて述べていきたい。
15
総合的な学習の時間は、2002 年に「子どもたちが各教科の学習で得た個々の知識を結び付け、総合的に働かせる
こと[文部科学省 HP 2007、12.30]」を目指し、設立された。
また、総合的な学習の時間の学習のねらいは、
1.自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる
こと。
2.学ぶ方やものの考え方を身に付け、問題の快活や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己
のあり方生き方を考えることができるようにすること。
3.各教科・科目および特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け、学習や生活において生かし、
それらが総合的に働くようにすること[文部科学省 2007:12]。
とされている。このように、総合的な学習の時間では、従来のように知識だけを学ぶ学習ではなく、生徒が主体と
なり体験的な学習などを行う問題解決学習が目指されている。また、総合的な学習で扱う内容は国で一律で示して
いないため、各学校が独自のプログラムを組み行うことが出来、学校による特色が強く出る教科である。そのため、
総合的な学習の時間において扱われるテーマは各学校の理念や方針により決定されるため、多様性に富んだものと
なる。
文部科学省のホームページでは、
「総合的な学習の時間応援団のページ」と題し、福祉・健康、情報、環境、国際
理解、その他に分けられ、総合的な学習の時間への学習支援を行っている府省庁、関係団体名、支援内容などが載
せられている。その中の特に開発教育に関わるいくつかの例を以下の表に挙げる。
表 2 総合的な学習の時間支援団体と支援内容
機関・法人名等
支援内容
NPO 法人日 UNHCR 協会
難民問題に関すること
WFP 国連世界食糧計画
・教材(世界の飢餓状況を栄養不足人口の割合
に色分けしたハンガーマップや世界の食糧事情
に関する資料集等)の販売
・学校への講師や説明ボランティアの派遣,修
学旅行や郊外学習などで横浜を訪問した生徒を
対象にした講義の実施。
財団法人ユニセフ協会
ユニセフについて
社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
アジアの子どもたちの現状について
国際協力銀行
開発途上国の現状と問題への取り組みについて
NPO 法人ハンガー・フリー・ワールド
飢餓・貧困について
社団法人シャンティ国際ボランティア(SVA)
東南アジアについて
外務省 経済協力局政策課
・小学生(高学年)及び中学年を対象とした開
発教育/国際理解教育のホームページ教材
開発途上局の写真、データ等を多く掲載してお
り、プリント・アウトを授業等の教育活動に活
用することが可能
・併設の教師用ガイド(登録制)では、授業モ
デルを紹介
16
財団法人ジョイセフ(家族計画国際協力財団)
国際協力について
(
[文部科学 HP 2008、1.02]より筆者作成)
表に挙げたのは、ごく一部の機関・法人であるが、国際機関や NPO など様々な団体が国際理解教育・開発教育に
関わる支援内容をしていることが分かる。このように、総合的な学習の時間において、開発教育は団体からの協力
を得ながら授業に取り入れていくことが可能である。
次節において、実際に学校教育に取り入れられた開発教育の例を見ていく。
第3節
学校教育における開発教育の実践
本節では、実際に学校教育の中で取り組まれた開発教育の 2 つの例を見ていく。
1.東京都立大森高校定時制
東京都大田区蒲田にある都立大森高校定時制6は、2007 年まで 4 回にわたり、地域で日本語教室と外国人サポー
トをしている「外国人とともに生きる大田・市民ネットワーク(以下、OCNet)7」と共に、授業作りを行っている。
始まったきっかけは、OCNet で日本語を学んでいた中国からの兄弟が、大森高校定時制に入学したことであった。
地域から毎年外国につながる生徒が入学する中で、OCNet との共同作業が進んだ。いくつかの取り組みがあるが、
そのひとつが 2007 年 2 月に「国際理解ウィーク」である。このウィークの目的は、地域から世界でつながる多文化
共生=国際理解学習の場として、生徒たちが世界を知り、地域の国際化と向き合い、共に生きる社会の一人として、
主体的に参加する契機になることであった。
このウィークの具体的なテーマは、
(1)
世界を知る ①世界の文化を理解する、②多文化共生を考える
(2)
地域と世界とのつながりを知る ①日本に住む外国人を知る、②日本での生活の様子を知る、
③地域との共生を考える。
(3)
NPO 活動等を理解する ①NPO 活動の意義を知る、②ボランティア活動の実際を知る、③共に生きる社会づ
くりをめざして、である。
実施の方法は、高校と OCNet の双方合わせて 10 名ほどのメンバーが合同で授業の目的、内容、講師の人選等を
行い、会議を行う。
授業の内容は年度により異なるが、2006 年度には、地域に日系ペルー系やバングラデシュの人々の暮らしを知る、
「蒲田のアミーゴたち」と、「おしんとチェンリダシュの愛の物語」
、また「日本とラオス絵本の旅」、
「難民ってな
んだろう」
、
「技術で世界へ~蒲田の歴史」、
「蒲田 WORLD マップ~世界のお店を訪ねてみよう」
「演劇:Naufragos
(ナウフラゴス)漂流者たち」など、様々で生徒たちの興味をひき、かつ地域色のある授業が行われた。
また、「OCNet 日本語教室体験」も毎年実施している。生徒たちが地域の日本語教室に参加し、外国籍の住民の
人々と日本語の勉強を一緒に行い、話し合うことにより、自分の周りにいる外国人のことや、外国人に対する接し
方に変化が生まれるなどの効果をもたらしている。
ウィークの最後は振り返り学習として、シェアリングを行う。クラスをグループに分け、ウィークで学んだこと
を報告しあう。音楽、語学、体験を様々なものが組み込まれたこの 4 日間の学習は、地域の人々と共に作り上げて
いき、困難も多くあるが生徒たちは通常の授業からは学べない多くのことを学ぶことが出来る。また、学校側が一
方的に地域への協力を頼むのではなく、対等に双方の納得がいくまで話し合いを行う中で、作りあげていく課程に
6 東京都立大森高校
http://www.omori-h.metro.tokyo.jp/
7 外国人とともに生きる大田・市民ネットワーク(OCNet)
http://www.ocnet.jp/
17
書式変更: インデント : 最初の行 : 1
字
も意義があると言える。
都立大森高校は、外国籍住民と外国につながる生徒の増加の中で、地域からの国際理解=多文化共生をテーマに
手作りの教育活動取り組んでいる数少ない夜間定時制高校といえる[開発教育協会 2007:5]。
2.岩手県立松園養護学校
次に、中学校での実践例になるが、総合的な学習の時間で年間を通じ行われた岩手県松園養護学校8での開発教育
の例を挙げる。
岩手県にある闘病の児童生徒のための特別支援学校であるこの学校では、中学部の 3 年生を対象に、
「アジアと
私たち」というテーマ下、1 年間を通じ、総合的な学習の時間を軸に英語の教科学習をはじめ、校外学習や修学旅
行など、学校内外のあらゆる機会で取り組みが行われた。
ねらいは、
・
アジアの子どもたちの現状を学ぶとともに、豊かさについて考える。
・
自分たちにできることは何か考え、実際に行動する。
こととされた。
また、授業は、地域の大学生や韓国からの大学生、バングラデシュからの留学生、岩手県国際交流協会、NPO 法
人ラオスの子どもなどの協力を得て進められた。
【展開】
①
1 学期
≪気づき・考える≫
人との出会いを学びの中心として
4 月~:オリエンテーション・グループわけ
・
アジアに対するイメージを出しあう。
・
アンケートをもとに、タイ・ベトナム・フィリピン・韓国の 4 グループにグループわけ。
5 月~:調べ学習
・ 7 月の校外学習「国際理解教室」に向けての事前指導・調べ学習
・ 英語の授業では、ネパールを題材に開発教育の視点から世界の現状を学ぶことに時間が割かれる。
7 月:校外学習「国際理解教室」
・
地域大学生による講義「タイ・ラオスを旅して」/バングラデシュからの留学生によるバングラデシュの紹介
・
事後指導にて、振り返りを行う。
8 月:交流会(夏休み中)
・
短期ホームステイ中の韓国人学生との交流会を実施。
② 2 学期前半≪気づき・考える≫関係機関を学びの中心として
8・9 月~:グループ活動
・ それまでの学習をもとに、各グループで「幸せ」「貧困」について話し合う。
・ 修学旅行に向けた事前学習
③ 2 学期後半・3 学期:≪行動する≫地域、関係機関、人との出会い等あらゆる場を学びの場として
10 月:修学旅行
・
JICA 地球ひろば訪問と自主研修・国別グループでの関係機関訪問等。
11 月:グループ活動
8 岩手県立松園養護学校
「行動にうつす」
http://www2.iwate-ed.jp/mat-y/
18
・ タイグループ提案:「ラオスに絵本を贈る」活動。
(フィリピングループ・ベトナムグループ合流)
・ 韓国グループ:日本と韓国の歴史を調べる活動。
12 月~3 月:グループ活動
・ それぞれのグループにおける活動
・ 報告会での活動発表・ふりかえり
この 1 年間の取り組みの中を、実施者である教員は以下のように観察している。
・実際に活動している人々との直接的な出会いやかかわりが、生徒の関心や意欲を高め、自発的な活動を促した。
・生徒たちの行動が、周囲から認められることで、生徒たちは自信を回復し、豊かな発想や更なる行動へと繋げて
いくことができた。
・教師の側も学校外の世界とのつながり、そこでの出会いを自らの学びにつなげていくことができた。
このような学びは、学校や教員の力量だけで得られるものではなく、学校外の実践者や関係団体との信頼や協力
の中で育まれていくものであり、それが総合的な学習の時間に求められていることだと言えるのではないだろうか。
[開発教育協会 2007:8-9]
以上、2 校における開発教育の実践を見てきたが、学校教育の中でもこのように様々な形で開発教育が取り組ま
れるようになってきている。高校の多様化に伴い、学校独自の学習が行われていることもその要因であると言える
だろう。しかしながら、学校教育全体でみれば、開発教育に取り組んでいる学校は、外国人の多い地域であったり、
南北問題や開発教育に関心ある教員がいるなど、まだ限られたものである。開発教育を取り入れる際、多くの場合
は NGO や地域といった学校外への協力を求めることとなる。そのために手間や時間がかかることも、開発教育を
学校教育で行うことを困難にさせているのかもしれない。
まとめ
以上、日本における開発教育の概要と、高等教育に多様性、学校教育における実践を見てきた。高等教育では、
学校の多様化が進み生徒たちの学ぶ幅が増えたほか、2002 年から総合的な学習の時間が設置されたことにより、日
本の学校教育の中でも子どもたち主体の教育が目指されるようになった。しかし、第 2 節でも述べたように、総合
的な学習の時間における取り組みはまだ十分なものではなく、総合的な学習の時間で扱う内容は各学校によって決
められるため、学校によっては他の教科の補講に当てられたり、ホームルームされることも少なくない。そのため、
総合的な学習の時間の取り扱いについては、学校によって差があり、全ての学校が授業の目的を満たし、学習を行
っているとは言えない。それに加え、審議されている学習指導要領の改訂では、その授業時間数が削減されようと
している。総合的な学習の時間の削減は、生徒たちが主体的に学ぶ機会をも削減し、以前のようなつめ込み教育を
増進させてしまうのではないか。開発教育が学校教育で、総合的な学習の時間を通じ学校に取り入れられていくに
は、まず総合的な学習の時間の見直しが必要であるのかもしれない。
19
第3章 神奈川県高等教育における開発教育の実践
前章において、高等学校の多様化とそれに伴う学校教育での開発教育の取り組みについて実践例を挙げ見てきた
が、本章では神奈川県の開発教育に着目し、神奈川県の高等教育における開発教育の実践について筆者が実際に授
業に参加し観察したことを含め見ていきたい。
なぜ神奈川を取り上げるのか。神奈川県は多くの移民を受け入れてきた背景から、現在でも多くの外国人移住者
が暮らしている。全国的に見ると外国人登録者数は、東京、大阪、愛知に次ぎ4番目で 167,601 人(2007 年)9と
多く、その数は毎年増え続けている。特にオールドカマーとして渡日した在日朝鮮・韓国人が多く暮らしており、
それに伴った多文化共生への施策や教育における外国人生徒への支援も他の都道府県に比べ積極的に進められ、ま
たそれは国際理解教育や開発教育の分野にも反映されている。そのことから県内には国際理解教育、開発教育を行
う NPO や NGO が多く組織しており、高校教員中心、または教員により立ち上げられ、運営を行なう団体もある。
またそれに加え、筆者にとっても身近であることから、神奈川県を取り上げ、高等教育での開発教育の実践を見て
いく中でその可能性を探りたい。
本章で学校教育における開発教育を述べるにあたり、本論文の第 1 章第 1 節で述べている開発教育の概念、また
教育目標を確認したい。なぜなら、学校教育で開発教育が行われる際、
「開発教育」と銘打って授業が行われること
はほとんどなく、その多くが国際理解教育、多文化共生について、世界と日本のつながりを考える、といったテー
マで設定されている。そのため、本章で例としてあげる学校教育での実践の全てが、開発教育としての目的や目標
をもって行なわれているとは言えない。本章第 2 節で取り上げる、県立麻生高校の風巻先生も自身の授業は、開発
教育「的」なものであると説明しており、何が開発教育であるのか線引きするのは難しい。そこで、本章で開発教
育の実践例として取り上げるのは、開発教育の概念と学習目標の要素を含み、参加型で行なわれる教育を開発教育
として扱い、学校教育におけるそのあり方を考察していきたい。
本章では、学校教育における開発教育の実践を、
「学校」
、
「教員」
、
「授業」
、という 3 つの方法から考察したい。
学校全体として、開発教育の要素を含み授業を行う例として、神奈川県立神奈川総合高校を取り上げる。国際色に
あふれ、多様な学習方法を持つ単位制高校である。次に教員の行う開発教育として、神奈川県立麻生高等学校の風
巻浩教諭を取りあげる。風巻教諭は、受け持っている政治経済のクラスでウガンダと日本をつなぐ開発教育を行っ
た。最後に授業の一環としての開発教育として、筆者も参加し、5 校で行った開発教育の授業を取り上げる。この
授業の中で筆者の行ったアンケートをもとに、開発教育による生徒の意識の変化等も考察していきたい。そして、
神奈川県における開発教育の実践から、学校教育における開発教育のあり方と生徒の学びについて筆者なりに述べ
ていきたい。
第1節
学校としての開発教育
-神奈川県立神奈川総合高校
近年、国際を特色とした高等学校が増えてきているが、英語に力を入れているだけといった学校も多く、開発教
育が学校として取り入れられることは難しい。本節で取り上げる県立神奈川総合高校も、開発教育を授業として行
っているわけではない。しかし、本校の特色として着目したいのは、その多様な学習方法と生徒の主体性を重視す
る教育姿勢である。以下で詳しく述べていくが、本校は全日制の単位制普通科高校であり、生徒は自身の興味によ
り授業時間割を作成することができ、また授業でも生徒の自主的な学びが目指されている。また、他校にはない「国
際関係論」や「環境と資源」といった授業のほか、単位として認められるボランティア活動や、生徒の有志で作ら
れた途上国の教育支援等を行なう団体もある。学校における開発教育の実践には、このような生徒の主体的な活動
による学びが必須であると筆者は考える。本節では中でも、本校の学習の多様性と生徒の主体性を重視した教育姿
9 神奈川県HP
県内外国人登録者統計
参照
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/kokusai/seisaku/toroku_data.html
20
勢、グローバル教育の授業から始まった、途上国の教育支援のため生徒の有志団体により行われる「ワンコイン・
コンサート」に着目したい。本校の教育の多様性、生徒の主体的な姿勢を学習方法とするところから、学校全体と
しての教育の中で、開発教育につながる学校の教育、授業のあり方を考えていきたい。
1.神奈川総合高校の概要と特徴
本校は 1995 年に開校された、県内で初めての単位制を基調とした全日制普通科高等学校である。学習は自らの興
味・関心、適性・進路希望により学習する各科目を自己選択し、時間割を作成する。そのため、展開される授業で
は、クラス・学年の異なる学習者と共に学習し、単位数 74 単位を修得して卒業となる。普通科高校の科目は全て必
修科目として学習でき、それに加えて本校独自のカリキュラムに配置された自由選択科目や特色のある学校独自の
「学校選択科目」の数々を履修することが可能である。本校で教育課程(カリキュラム)と設定された科目は 196
科目を数え、一人ひとりの学習者が多様な学習領域に積極的に挑戦することができる〔神奈川県立神奈川総合高校
HP: 2008,11,29〕。
学校目標は、
「生徒一人ひとりの個性の伸長を図り、主体的に学び、国際社会の中で共に生き共に育つ高い人格と
心豊かな感性を備えた人間を育成する〔神奈川県立神奈川総合高校 HP: 2008,11,29〕」とされ、教育方針は以下のよ
うになっている
A. 生徒一人ひとりが、自らの個性に合った学習内容を選び、個性をさらに伸ばせる教育を行う。
B. 高等学校を中途退学した生徒については、学習意欲があり、個性を伸ばそうとする者を受け入れる。
C. 本県の特性を踏まえ、海外帰国生徒・在県外国人生徒を受け入れ、一般の生徒と共に学ぶ国際教育を行う。
D. 普通科・専門学科の枠を超えた総合的な学習ができる教育を行う。
E. 21 世紀に必要な国際、環境、科学技術など、多様な内容の生涯学習の機会と場を県民に提供する〔神奈川
県立神奈川総合高校 HP: 2008,11,29〕。
授業は、1 授業時間 90 分で構成され、授業そのものが「授けられる」ものではなく、自らが「学ぶ」ものとして
位置づけられており、教育目標にある「主体的に学ぶ」姿勢が校風として定着している。また、教育方針にもある
ように、県内の海外帰国生、在県外国人生徒の受け入れを積極的に行なっており、2008 年現在は、アメリカ、中国、
イギリスなどの国からの海外帰国生 41 人、中国、ペルーなどの国籍を持つ在県外国人生徒も 28 人が在籍しており、
本校は至極自然に国際的な学習環境を維持している〔神奈川県立神奈川総合高校 HP: 2008,11,29〕。
2.コースと授業
本校には 2 つのコースが設置されている。ひとつが、多様な科目から選択しチャレンジすることによって、持て
る可能性を探り、自らの個性を発見しつつ伸ばしていくことができる「個性化コース」、そして語学及び国際理解を
深める科目を重点的に学習し、国際的な課題や国際社会に開かれた資質を育てることができる「国際文化コース」
がある。ここでは、国際文化コースの概要について述べておきたい。国際文化コースでは、主に語学に関する科目
の学習に重点を置き、フランス語・ドイツ語・スペイン語・中国語・ハングルなど英語以外の語学学習に力を注い
でいる。また、外国人生徒や外国人留学生のための日本語・日本文化理解の科目も設置しながら、語学学習に必須
の、諸外国文化理解に資するための科目受講も可能となっている。将来、外国語系学部への進学や語学力を活かし
て国際的な活躍を期すためへの学習配慮も、学習課程(カリキュラム)内に含まれている。語学のほかにも、本コ
ースでは、
「グローバル学習」、
「国際関係論」
、
「グローバル学習」
、
「日本文化紹介」
、
「文化人類学」
、
「メディアと世
界」といった他校にはない多様な授業が設置されている。また、国際交流等も盛んに行なわれ、アメリカ、イギリ
21
ス、フランス、韓国、中国の 5 カ国にパートナー交流校を持っている。
本校における「総合的な学習の時間」の扱いについても簡単に触れておきたい。本校では、1 年次には「テーマ学
習 1」
、2 年次には「テーマ学習 2」
、3 年次には「テーマ研究」という授業が「総合的な学習の時間」に対応し、授
業が進められる。この「テーマ学習 1.2」では、入学後の 1 年次から、指導教諭の指導支援のもと、生徒ひとり一
人が自身の興味にあったテーマを設定し、研究を進めていく。そして 3 年次には、その集大成として「テーマ研究」
となり、学習者全員が発表参加する「テーマ研究発表会」が行われる。生徒の研究するテーマは実に多様であり、
生徒の数だけテーマが存在する。本校における生徒の主体性を重視した教育姿勢が、この「総合的な学習に時間」
の取り組みからもうかがえる〔神奈川県立神奈川総合高校 HP: 2008,11,29〕。
3.グローバル教育としてのワンコイン・コンサート
本節のはじめでも述べたように、本校では途上国の教育支援のため、学生の有志団体によるチャリティー・コン
サート、
「ワンコイン・コンサート」が毎年実施されている。
そのきっかけとなったのは、本校のイングリッシュ・デイ・キャンプのグローバル教育であった。このイングリ
ッシュ・デイ・キャンプは、
「本校に在籍する海外帰国生徒及び在県外国人生徒との共学の機会を設定することによ
り、共生の視点からの国際的感覚を育成すると共に、コミュニケーション言語のとしての英語力の向上を図る〔神
奈川県立神奈川総合高校 2001:20〕
」という目的のもと、県内の施設で 2 泊 3 日の日程で実施される。このキャンプ
の中でグローバル教育として、開発途上国や、自身と世界とのつながりについて学ぶ時間が設けられている。平成
11 年に行なわれたこのキャンプで、グローバル学習の開発教育を発展させ、開発途上国の抱えている様々な問題、
特に生徒には身近である教育がテーマとして取り上げられた。ここでは、世界には学校に行きたくても行けない子
どもがいること、日本では当たり前として受けている教育を提供する施設の無い国もあることを知り、教育とは何
か、いかに教育が大切なものであるかを考えるきっかけになることが目的とされた。そして、そこで学んだことの
アクション・プラン(具体的な行動)として企画されたのが、この開発途上国への援助を生徒の力で企画し実行に
移す案としての「ワンコイン・コンサート」である。このコンサートの実施では、チャリティー・コンサートを企
画し、援助を行なうまでの過程を学ぶことも重要な点であるとされている。また、このグローバル教育としてのワ
ンコイン・コンサートの目的は、本校の教育目標の一つである共生・共育の観点から、本校に在籍している在県外
国人生徒の国を中心に援助を行なうことで、世界の問題を考える態度を育成し、常にグローバルな視点で考える人
材を育成することとされている。
ワンコイン・コンサートの入場は無料、募金を収益金とし、収益金は NGO 団体を通じ、発展途上国へと寄付さ
れる。2000 年から行なわれているワンコイン・コンサートであるが、1年目は、
「ACDF アジアキリスト教教育寄
金」を通じ、バングラデシュの教育支援を行い、2 年目には、「アジア象友の会日本支部」を通じ、森林伐採や地雷
等の犠牲になり激変しているタイの象を救うための援助を行なった。3 年目から現在にかけては、
「ネパリ・バザー
ロ」を通じ、ネパールのカンチャンチャンガ紅茶農園の労働者の子どもたちが学校へ行くための奨学金として寄付
している。当初この奨学金支援は 5 年間という期間が決められていた。それは、いつまでも支援を続けるのではな
く、支援が終了するまでに人々が自立することを目標としていたためである。5 年目を迎えた 2006 年に、まだ自立
には時間が必要であるとされ、2 年の延長が決定した〔神奈川立神奈川総合高等学校 2001:20-22,32-37〕。
ワンコイン・コンサートは、歌や演劇、ダンスといったコンサートとは別に、コンサート前には小中学生の参加者を対象とした
ワークショップが行われるほか、コンサート当日には会場で、NGO「ネパリ・バザーロ」の扱うフェアトレード商品などの販売も
行われ、「ネパリ・バザーロ」の活動を広めると同時に、コンサートへの参加者たちへフェア・トレードへの理解を深める活動と
もなっている。
このコンサートの成果としては、2 日間にわたって開催した 7 回目の 2007 年では、来場者数 301 人、収益金の合計は 16
万 5071 円、8回目の 2008 年では、来場者数 150 人、収益金は 11 万 49 円となっている〔One Coin Concert HP 2008,11,1
22
7〕。
以上、神奈川総合高校の概要と特徴、またグローバル教育としてのワンコイン・コンサートについて見きたが、本校の開発教
育で最も重要な点は、その教育の多様性と、生徒の主体性を重視した教育姿勢であると筆者は考える。また、生徒の主体性
を重視するからこそ生じる、教育の柔軟性といったものが本校にはあると考えられる。ワンコイン・コンサートのように、学んだこ
とを生徒が自ら行動に移すことの出来る環境と教育の柔軟性、そして教員と学校による協力体制が本校にはあり、それは本
来の学びとしての開発教育を実現させ、また生徒たちが開発教育を行う立場へと成長することも可能となる。そのような面で、
本校は学校全体として開発教育を取り入れる際の手本になりえるのではないだろうか。
第 2 節 教員による開発教育 ―神奈川県立麻生高等学校 風巻浩教諭
本節では、教員による学校教育での授業としての開発教育として、県立麻生高等学校の風巻浩教諭を例として取
り上げる。今日の高等教育では、大学受験競争や学力向上のための授業が中心に展開され、特に受験科目の教科で
開発教育や生徒を主体とした授業を取り入れることは大変困難とされる。それに加え、学校や教員には時間的、経
済的余裕がなく、そのことも上記のような授業への取り組みをより難しいものとしている。そんな中、本節で取り
上げる風巻浩教諭はどのように授業で開発教育を取り入れているのであろうか。風巻教諭が開発教育等への活動を
始めるきっかけを見たうえで、その授業方法と生徒の学びについて述べていきたい。
1.開発教育のきっかけ
県立麻生高校は、川崎市にある全日制普通科高校である。本校は 1984 年に開校され、県内では中堅校に位置し、
私たちが一般的にイメージする県立高校である。その本校で、世界史を担当しているのが、風巻浩教諭である。風
巻教諭は教員として本校に勤務するほか、
・首都大学東京非常勤講師(総合学習演習)
・
(特活)開発教育教会理事
・日本国際理解教育学会会員
・かながわ開発教育センター理事
・K-NET(神奈川の開発教育、多文化共生のメーリングリスト)管理人
・NIJI(多文化教育の全国的メーリングリスト)管理人
・川崎富川高校生フォーラム「ハナ」サポーター(
「ハナ」は川崎市の高校生と韓国富川(プチョン)市の高校生、
神奈川朝鮮高級学校の高校生の作るグループ)
など、様々な形で開発教育や国際理解教育に関わっている〔かながわ開発教育センターHP 2008,11,19〕。
風巻教諭がこのような活動に取り組むきっかけは何だったのか。風巻教諭は教員として世界史を教える中で、欧
米向の生徒たちの意識を変えたいと考えていた。実際に活動を始めたのは、以前勤めていた学校で、かつて「定住
促進センター」が存在したことで、神奈川に多く定住するインドシナ難民の子どもたちへの学習支援などを行なう
日本語ボランティアサークルを 1990 年に立ち上げたことだった。その活動の中で、地域の多文化共生や人権、平和
といった問題に関心を持つようになったという。翌年の 1991 年、風巻教諭はそのサークルの高校生とともに、日本
ユネスコ協会のバングラデシュ識字ワークキャンプに参加し、全国から集まった高校生たちと 4 日間、村で生活し
たことも、現地の人々の視線で考える開発の重要性を実感し、決定的な意味を持つこととなったという〔(財)自治
体国際化協会 HP 2008,11,22〕。
23
2.授業としての開発教育-日本とウガンダをつなぐ授業
これまでにも教諭は、2002 年の 6 月に、アフガニスタンの高校生とテレビ電話を使って、直接高校生同士の対話
授業を行なっている。この時は、ビデオジャーナリストとの共同作業で、日本の高校生は事前にアフガニスタンに
ついて学習し、相手への自己紹介カードなどを作成した。実際に授業を行なうと、生徒たちは刺激を受け、その年
の 9 月の文化祭でバザーを行い支援金を集めたりするなどしたという〔
(財)自治体国際化協会 HP 2008,11,22〕。
今年の自由選択の政治経済のクラスの中で、風巻教諭は憲法 9 条についての学習として、日本とウガンダをつな
ぐ授業を行なった。この政治経済のクラスは選択制のため、生徒は 6 人で、2 時間続けての授業となっていた。そ
んな中、風巻教諭は今年の 8 月に、JICA 横浜主催の研修でウガンダを訪問、現地では授業をすることが可能となっ
ていた。アフリカをどのように学校の授業に取り込めばいいのか。クラスの中に、
「幼稚園の時、アフリカの子ども
におもちゃを寄付したことがあったので、(アフリカは)貧しくておもちゃが変えないというイメージを持っていた
〔風巻 2008〕」という生徒がおり、このようなイメージが、生徒の一般的なものであった。教諭はこれに対し、
「
「ふ
ーん、そうなの」で終わってしまう知識でもなく、
「悲惨さ」の絶対値を強調するのでもなく、自分の立ち位置への
省察なき「チャリティー」でもない、そんな授業は可能なのか〔風巻 2008〕」と述べている。そして、ウガンダと
日本の子どもを同時代に生きる等身大の存在として、何らかの形で繋いでいこうと考えた。
授業内容は、今年の 5 月には、
「9 条世界会議」が開催されたことや、メディアでも日本の憲法 9 条とアフリカを
関連付けた特集が組まれ、それに興味を持った教諭は、アフリカと日本の子どもたちを憲法 9 条で繋げるというア
イディアを持ったという。
ウガンダの子どもたちに憲法 9 条を伝える方法として、日本の高校生たちにビデオクリップを作らせることにし
た。生徒との話し合いの中で、1.麻生高校の紹介、2.新憲法制定への歴史、3.憲法の内容、4.自衛隊の海外派
遣などの憲法を巡る問題点、5.平和憲法の良い点、6.日本人が憲法をどう思っているか、という 6 点のテーマで
英語の原稿を作成することとなった。次に、作成した原稿をもとに、プレゼンテーションの撮影を行なう。このビ
デオクリップでは、「Don’t have arms! Don’t fight wars! Let’s keep peace!」と最後に全員で訴えた。このビデオを
作製し、クラスのある生徒は「自分たちのことばが、アフガニスタンのウガンダの子どもたちの元まで届いたと思
うだけで、ドキドキワクワクしました〔風巻 2008〕」と述べている。1学期の授業はここで終了となり、2 学期ま
での夏休みに風巻教諭はウガンダでの授業を行なった。風巻教諭にとっても初めてのアフリカでの授業であった。
授業を行ったウガンダのクラスは、13~18 歳の年齢の生徒たちが混ざった中学校だった。授業では、日本国憲法に
ついてウガンダの歴史と関連づけながら英語で説明し、その後麻生高校の生徒が作成したビデオクリップを見せ、
ウガンダの生徒に「平和な世界を作り、希望を実現するためにはどうしたらいいのか」というメッセージを書いて
もらった。
日本に帰国後の 2 学期の授業では、生徒たちに最初に現地の写真やビデオを見せた。これを見て、
「私たちのビデ
オを見て、たくさんの感想を持ってくれたこと、ビデオレターを真剣に見てくれてすごくうれしかった。直接会っ
たわけじゃないけど、一緒に平和について考えることができて、いろいろな平和のあり方を考えさせられた〔風巻
2008〕」とある生徒は述べている。また、ウガンダの子どもたちが書いたメッセージを読んでは、以下のような感想
があった。
「(生徒たちの意見を読んで)すごく立派な意見だと思いました、内戦も起こり、地雷など恐ろしいもの
を近くにしながらも、世界平和のためには他国を愛することが大事と書かれた文は、とても印象に残っています。
彼らはウガンダ国内だけでなく世界単位で平和を望み、希望を持っているんだと思いました。勉強熱心で平和を愛
する気持ちに驚きました〔風巻 2008〕
」。
この後の授業では、アフガニスタンとの授業でも行ったように、テレビ電話で日本とウガンダを繋ぐほか、共同
作業として「ちょうちょキャンペーン」
(地雷廃絶日本キャンペーン)に参加していくという。このテレビ電話を行
なうことに関し教諭は、戦争や少年兵、貧しいといったイメージを抱きやすいアフリカであるが、それだけではな
く、電話をかければ繋がるという身近で日常的なことから、生徒が、等身大としてのアフリカと日本の繋がりを感
24
じることを目的のひとつにしているという〔風巻 2008〕。
以上、風巻教諭が政治経済の授業内で行ったウガンダと日本をつなぐ開発教育の概要である。風巻教諭は、自身
が国際理解教育や開発教育を行う団体のメンバーとし活動を行なっていることから、それらの教育への知識もあり、
また NGO 団体等との連携が比較的容易なため、本節で取り上げたような授業を行なうことが出来る。一般的な高
校教諭が開発教育を授業で取り入れる際には、NGO 団体等との連携が不可欠となるが、
「一般的にいいますと、教
員の世界はクローズドの世界で、受け身で黙っているとなかなか外の情報が入ってきません」
、
「NGO の方々とお付
き合いする教員も全体から見ると少ないと思います。その辺りが、最大の問題だと思います〔
(財)自治体国際化協
会 HP 2008,11,22〕」と風巻教諭も述べられているように、開発教育の授業をサポートする NGO 団体は数多く存在
するにも関わらず、学校教諭との連携が不十分であることが、学校の授業で開発教育を行う際の最も大きな課題の
ひとつに挙げられるのではないだろうか。また、本節で取り上げた授業は、自由選択性の授業で生徒数も 6 人とい
う少人数であった。そのため、時間や授業ペースといったものにさほど縛られず、生徒の主体的な活動による学習
が可能になったと筆者は考える。しかしそれと同時に、普段のクラスとしての単位でこのような授業を行なうこと
は可能なのか、という疑問も浮かんでくる。しかしそれにもかかわらず、この風巻教諭の授業から学ぶことは多い。
授業に沿ったテーマを扱いながら、ビデオや電話といった方法を授業に取り入れるなどの工夫を用い、生徒にウガ
ンダとの繋がりを身近に意識させることにより、生徒の主体的な学びをより高めているのではないだろうか。
第3節
授業の一環としての開発教育
本章ではこれまで、学校としての開発教育、教員による開発教育を見てきたが、本節では、実際に筆者も授業者
として参加した 5 校(うち、2 校は都立高校を含む)での開発教育の模様とその時に実施したアンケートによる生
徒の意識の変化について述べていきたい。本節で取り上げる 5 校のうち 4 校は、進路指導の一環として高校から依
頼され、桜美林大学生が行なったものである。1 校は神奈川県で活動する NPO「草の根援助運動」が高校への出張
授業として、
「総合的な学習の時間」の中で行なったものである。これらの授業から、筆者が実際に授業者になった
ことにより感じた、授業の一環として開発教育を取り入れることによる成果や課題等を述べていきたい。また前述
のように、本節で述べる授業での開発授業は、そのほとんどが進路指導の一環として生徒たちが大学でどのような
学問を学びたいかという、言わば大学授業の模擬体験としての授業であった。そのため、高校側からの開発教育へ
のニーズや、事前の打ち合わせ、教員による開発教育への理解や協力体制等があったわけではなく、本来の意味で
の学校教育での開発教育とは意向が異なると説明すべきかもしれない。しかし、開発教育による生徒たちの学ぶ姿
勢や意識の変化といったものからは、開発教育の実践としての成果と課題を学ぶことが出来る。
1.ワークショップについて
今回、桜美林大学の学生が行った開発教育での授業では、大学で行なわれている国際海外研修プログラムでフィ
リピンとバングラデシュ・インドの研修に参加した学生によるワークショップを行なった。フィリピンと、インド・
バングラデシュ、それぞれのワークショップの概要は以下の通りである。
フィリピン:
「バナナ農園で働く人々」
大学教員から国際学、国際協力についての概要説明の後、フィリピンのバナナ農園で働く労働者とその家族の生
活と、日本で暮らす高校生の学校生活、家族関係などを物語とするロールプレイを行なう。生徒は 1 人 1 役を演じ
る。日本では1房 100 円程度で手にはいるバナナの裏側では、5 人家族を養うため、バナナにかける農薬のため身
体を壊しながら、日本円で約 250 円の日給で働くフィリピン人労働者の状況や、フィリピンの教育事情などを、日
本の高校生の暮らしと比べる設定となっている。このロールプレイでは、バナナの売り上げの、どのくらいの割合
25
がフィリピン労働者へ支払われているかといったことから、フィリピンの低賃金労働と、その背景としての先進国
による搾取の問題や、フィリピンの教育における低い進学率などを学び、生徒たちが日本とフィリピンのつながり
にいついて考えることが目的とされている。また、このロールプレイの後には、研修に参加した大学生により、写
真を含んだパワーポイントで、学生が実際にフィリピンで体験したことや感じたことを伝えるほか、日本における
貧困の問題として、路上生活者を取り上げ、大学生が参加した彼らに対する援助活動から、日本の貧困についても
考えさせる形となっている。
フィリピン:
「フィリピンの環境問題から考える人間の安全保障と国際協力」
人間の安全保障について、フィリピンの環境問題を事例に挙げ、フィリピンで生じる環境問題や貧困の問題と日
本の関わり、フィリピンで活動する NGO についてパワーポイントで説明する。まず、国際関係学や人間の安全保
障、地球規模の諸問題、人間の安全保障、国際協力についての概要を大学教員がパワーポイントを使用し説明する。
その後、生徒たちは 5~6 人のグループになる。それぞれのグループで「海洋汚染」と「森林破壊」どちらか一方に
問題について、①その問題により途上国に生じる被害、②その被害の原因を、日本がどのように関係して生み出し
ているか、について話しあってもらい、その後いくつかの班に発表してもらう。その後、パワーポイントでフィリ
ピンの海洋汚染、森林破壊の現状と原因、またそれにより生じる貧困問題について説明する。世界の諸問題は相互
に絡み合い、日本で暮らす私たちとも関係していることを述べたあと、その中で人間の安全保障を確保するための
アクターとして NGO を紹介する。NGO の活動概要と、人間の安全保障の視点から NGO の役割を説明する。フィ
リピンの環境問題を通じ、日本とフィリピン、先進国と途上国の関わりを考えさせる形となっている。
インド・バングラデシュ:「日本とインドの生活をくらべてみよう」
フィリピン「バナナ農園で働く人々」同様、大学教員による国際学、国際協力概要説明の後、インドの綿花農園
で働くインド人労働者と家族の生活と、日本の女子高生の家族とその生活が描かれたロールプレイを行なう。イン
ドの綿花農園の労働者は 1 日約 75 円で働き、6 人の家族を養っている。そして経済的困窮から、14 歳になる娘を
早期結婚させることを考えなくてはならない状況や、息子が学校で勉強することを何よりも望む両親、貧しいけれ
ど家族そろっての夕食の時間を持つインドの家庭。お昼はコンビニの弁当、学校では同級生との恋に夢中になり、
デートために新しい服を買い、夜は家族のいない 1 人での夕食、という日本の女子高生の生活をロールプレイを通
じて比較する。このロールプレイでは、フィリピンのバナナ同様、綿花からみる先進国による搾取の状況と、ダウ
リー(結婚持参金)から考える早期結婚や、女性の地位の低さ、そして教育の問題といった観点からインドと日本
のつながりや問題を考えさせることとなっている。また、ロールプレイ後には、フィリピンのワークショップと同
様に、研修に参加し学んだインド・バングラデシュの現状や、感じたことなどをパワーポイントでまとめて伝えて
いる。
それぞれのワークショップでは、日本と、フィリピン、インド・バングラデシュの繋がりを生徒が学び、意識す
ることを目的とし、構成されている。
2.開発教育の授業とアンケートによる生徒たちの意識の変化
ここからは、筆者が授業に参加したそれぞれの高校での授業詳細と、授業の様子や行なったアンケート結果から
生徒の意識の変化について考えていきたい。なお、授業は大学生がファシリテーターや説明者を務め進行した。
①
県立厚木東高校
日時:2008 年
11 月 6 日(木)
26
授業目的:進路指導の一環として
対象:興味のある学問として「国際」を選択した 1、2 年生合同
生徒数:7 人
授業時間:90 分
内容:フィリピン「バナナ農園で働く人々」ワークショップ
ワークショップを行なう前に聞いたフィリピンについてのイメージでは、
「島国」、
「食べ物がおいしくなさそう」、
「バナナ」
、「貧しい国」といった意見が上がった。参加生徒人数の少なかったこの学校では、始まる前は生徒同士
に緊張があったものの、アイスブレーキングで自己紹介をしたあとは、比較的容易に生徒から意見が出た。また生
徒の少なさからか、参加生徒がワークに積極的に取り組む姿勢や、話しを真剣に聞き学ぶ姿勢が見られた授業であ
った。
ワークショップ後のアンケートの「今回のワークショップを通じてどんなことを考えましたか?」という問には、
・ 自給の差や公・私立の子どもの差(?)に驚きました
・ 自分達が今している生活が当たり前ではない
・ 実際に現地に行った人の話を聞くなかで、お金や学ぶよい環境がなくても、希望を捨ててないところに、勇気を
もらい助けたいと思いました
・ 人間の心が暖かい。世界に協力することって本当に良いことだなって分かった
・ 労働者がおかれている状況がこんなにひどいと思ってなかったのでショックでした
・ 世界中では自分達のような生活がとても恵まれているものなんだと強く感じました
・ フィリピンにもあんなに太っている子供がいるんだなぁ。
といった意見がみられた。
②
都立芦花高校
日時:2008 年
11 月 14 日(金)
授業目的:進路指導の一環として
対象:興味のある学問として「国際」を選択した2年生
生徒数:24 人
授業時間:60 分
内容:インド・バングラデシュ「インドと日本の生活をくらべてみよう」ワークショップ
参加生徒数が多いため、2 つのグループに分けてロールプレイを行なった。授業時間が 60 分であったため、生徒
1 人 1 人に感想等を聞く時間が設けられなかったが、短い分、進行速度が速く、授業全体を通し生徒には集中し学
ぶ姿勢が見られた。
この芦花高校と以下で挙げる県立追浜高校からは、アンケート内容を以下の項目としている10。
①
今回、「国際」を選択した理由を教えてください。
②
今日のワークショップを通じて何を考えましたか?
③
今日のワークショップを受ける前と受けた後で、インドやバングラに対する印象は変わりましたか?
どのように変わりましたか?
④
今、あなたはどんな国に興味がありますか?もしくは行ってみたいですか?
その国のどんなところに興味をもっている、または、魅力を感じていますか?
⑤
10
今日の感想を自由に書いてください。
資料参考参照
27
以上の質問項目の中でも、特に②「今日のワークショップを通じて何を考えましたか?」と③「今日のワークショップを受ける
前と受けた後で、インドやバングラに対する印象は変わりましたか?」とに重点を置き、ここから生徒の意識の変化を見ていき
たい。
問③「ワークショップを受ける前と受けたあとで、インドやバングラに対する印象は変わりましたか?」に、「は
い」と答えたのは 23 人中 21 人だった。「どのように変わりましたか?」への回答は以下の通りである。
・ インドは発展しているのは知っていたけど、まだ国全体の生活は豊かにはなっていないこと
・ バングラについて知っていることが少なかったので、現在でもこういう国が存在していることに悲しいと思った
・ 日本に比べて生活環境が悪い
・ 行ってみたい
・ インドはただ頭が良い、カレーがおいしいなどのイメージしかなかったけれど、とても大変な暮らしをしている
人が多くて驚いた
・ インドはもっと裕福な国だと思っていた
・ 最近はテレビでも多く取り上げられるようになっていたので、良い面ばかり知っていたが、まだまだ発展途上で
あることを再認識した
・ 「貧しくても笑顔で楽しそうに生きている」イメージに変わった。
・ こんなにも貧しい生活を送っているとは思わなかった
・ 給料が自分の思っている半分ぐらいももらえないし、貧しいと思った
・ いらない服があったら、なるべく捨てないで何かに再利用したり、自分もできることをしようと思った
・ お金の使い方を見直したいと思った
・ 勉強したくてもできなかったり、生活が苦しかったり大変だけど、明るく頑張っていてすごいと思った
・ 思っていた以上に貧しくてびっくりした。ルピーが3円と聞いて、日本はすごく恵まれていると思った
・ インドは、日本よりいろいろな問題を抱えているなと思った
・ 元々インドやバングラデシュについてあまり知らなかったので、知ることができた
また②の質問に対しては、
・ 私たちが普段普通に生活している中にも外国とのつながりがあると思った
・ 今の自分の環境がどんなに幸せかを知った
・ 私たちが今、こうして勉強できる環境にいるのは恵まれていると思った。お金の使い方ひとつでさえ、日本とイ
ンドやバングラデシュでは値段に対する感覚が違って驚いた。
・ バングラデシュもインドも自分が思っているよりずっと貧しい生活を送っていて、悲しい現実だと思った
・ 今、インドなどの国で学校に行けない子どもがいたり、一生懸命働いてもお金が少なく、日本とは違っていて、
今の生活を見直さなければならないと思った
・ 今までしてきた生活を見直して、もっとまじめにやろうと思った。やりたくてもできない人がいるから。
・ 毎日を必死に生きている人が、この地球上ではたくさんいるということを改めて実感でき、自分の生活のありが
たみを感じた
といった内容の回答が多く、日本の豊かさとインド・バングラデシュの貧困の現状、日本での生活が恵まれてい
るということ、インドやバングラと日本のつながり等について書く生徒が多かった。
アンケート結果で興味深かったのが、インドは裕福な国、発展している国だと思っていたのに、まだ貧しい国であることを知
った、といった内容を回答している生徒が数人いたことである。これは、近年メディアによりインドの IT 関係や経済成長といっ
28
たものが大きく取り上げられていることからだと考えられる。
③
県立追浜高校
日時:2008 年 11 月 21 日(金)
授業目的:進路指導の一環として
対象:興味のある学問として「国際」を選択した 1、2 年生
生徒数:19 名
授業時間:90 分
内容:インド・バングラデシュ「日本とインドの生活をくらべてみよう」ワークショップ
前回の都立芦花高校と同様、人数が多いため 2 つのグループに分かれてのロールプレイとなった。授業内容は前
回と同じであるが、授業時間が長かったため、各グループで生徒一人ひとりに感想を聞くことが出来たほか、生徒
の疑問に答え、インドやバングラデシュの現状や問題のより細かい説明の時間も設けることが出来た。
アンケート問②に対しては以下のような回答となった。
・ 国によっての違いとか、格差がすごいのが分かった、全然はなれてて関係なさそうな国同士だけどつながりはす
ごい身近にあるんだってわかった
・ 他の国との生活や価値観の違いは大きいなと思いました
・ 国際協力って難しい
・ ロールプレイングでは、私たちの豊かさを支えているのはインドやバングラデシュで貧しく働いている人たちだ
と思うと無駄づかい出来ないと思った
・ 日本とインド・バングラデシュの生活の違い、価値観の違いがとても大きくあったこと。日本ではあたりまえの
ことでも貧しい人々にとっては幸せだったりするんだと感じました
・ インドやバングラデシュは日本とは全然違うところなんだと思った
・ 今、自分の生活が、何の上に成り立っているのかを考えなくてはいけないと思った
・ 本当に新しい考え方を教えられた気分。自分たちがいかに贅沢に生きているか。それを否定するんじゃなくて、
だから自分たちはどうすればいいんだ?と考えました。
・ 日本の豊かな生活は多くの国との関係で成り立ち、それを考えることのない私たちはとても無知で、無知だから
こそ多くのことを知るために行動できるのだから、この機会に考えるだけでなく行動したいと思いました
・ インドとバングラデシュなどの発展途上国と日本などの先進国との関係はこれからどうしたらいいのかを考え
ました
・ 先進国と発展途上国で全然違うんだと思いました。物の大切さを非常に考えさせられました。
・ 日本とインドの違いが分かって、日本のみなさんもやることがたくさんあると思った
問③で、
「はい」と答えたのは 19 人中 18 人であった。回答は以下のものが上がった。
・ インドやバングラは寂しくて貧しいってイメージしかなかったけど、今の日本なんかよりも家族の愛だとかあっ
て、温かみがある国なんだって思った
・ ただ貧しい国なんだと思ってたけど、笑顔もある明るい国なんだと変わりました
・ 特に印象は無かったけど、インド、バングラに関わらず、みんながんばって生きていると思った
・ 自分たちのためではなく、諸外国のために働いていたりする人々には感謝の気持ちを持たなければ
・ インドは経済的に発展してきているように見えるけれど、まだまだ貧困で苦しんでいる人たちがたくさんで何か
してあげたいと思った
・ とにかくカレーのイメージしかなかったインドですが、安い賃金で働く人々がたくさんいて、本当に一生懸命な
29
んだと思いました。とても苦労をしている同じ年、または年下の子もたくさんいて、自分は何て贅沢なんだろう
と感じました。
・ 「あたたかい国」だと思いました
・ 全くよく分からない国、という印象だったけれどパワーポイントやロールプレイを通して、自分たちがその国に
どれだけ助けられていて、どれだけ自分たちが失礼なことを(簡単に物を捨てる)していて、どれだけインドや
バングラが必死に生きている国なのか、って思うようになりました。
・ 教科書に書いてある人口や産業などといった表面的な印象からもっと人間的なインド・バングラシュを知ったと
思います
・ いままで知っていた知識が深まった感じがしました。実際に写真で見た印象は少し違って感じました
・ 想像をしていた以上に困難な生活をしているのだと思いました。給料が本当に少なくて大変だと感じました
・ インドは現在発展しているイメージだったけど、それは一部で、まだまだ貧しい人も多く、環境問題にも課題が
ある
・ 貧しいだけじゃない。貧しい中にも幸せがある。
他にも、前述の芦花高校同様、インドには現在も多くの貧困層がおり、思っていたよりも貧しい暮らしというこ
とを知ったという意見が多く見られた。生徒により感じ方は多様であるが、芦花高校に比べ、日本とインド・バン
グラデシュとのつながりに関わる回答や、これから何をしなければならないのか考えた、といった内容の回答が多
かった。これは、授業時間が長く、グループの中で日本とインド・バングラデシュのつながりや、国際協力につい
た話す時間が設けられたことによるのではないかと考える。授業時間の限られた中では、今回のようにロールプレ
イ後の意見のシェアリングを行なうことは難しいが、本来であればこのシェアリングの時間がとても重要となる。
④
都立翔陽高等学校
日時:2008 年 12 月 17 日(水)
授業目的:進路指導の一環として
対象:
「国際関係・外国語」選択した 1、2年生
生徒数:47 人
授業時間:60 分
内容:フィリピン「フィリピンの環境問題から考える人間の安全保障と国際協力」
生徒数が 47 人と多かったため、生徒の興味・関心、授業への参加姿勢にも差が見られた。これまでのロールプレ
イ形の授業とは異なり、グループで話し合う他はパワーポイントを使用した講義中心の授業となるためか、授業に
集中せず他の生徒と話す、他のことをする、寝てしまうといったように、生徒の授業への集中が欠けてしまうこと
も見られた。また、生徒数に対し授業時間が短かったこともあり、グループでの話し合いの時間も短く、生徒一人
ひとりに意見を聞く時間等も取ることが出来なかったことも、その要因として挙げられるのではないか。
都立翔陽高校での授業のアンケートは、都立芦花高校、県立追浜高校で使用したアンケートとは質問項目を授業
内容に合わせ一部変更した11。
問①「今日の授業を通じて何を考えましたか?」には以下のような回答があった。
・ 問題が連鎖しておきているんだということを改めて実感した。
・ 問題が地球規模でも私たちに関係がある
11
付録
5.都立翔陽高校で使用したアンケート
参照
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・ 世界中でおきている環境問題を進ませないようにする方法
・ 国際関係を理解することの大切さ
・ どのように途上国の悪影響を除き、元に戻すか
・ 途上国と先進国の差、国際理解の大切さ
・ 国際協力の重要性を以前よりももっと強く考えるようになって、積極的に参加していてきたいと思った
・ 世界で起こっている問題について、自分にもできることがあるとわかった
・ 国際問題と自分の関わり
・ 日本国内だけでも多くの問題があるのに、国際関係でも大きな問題をたくさん抱えていて、あらためて詳しく知
ることができ、他人事ではないと思った。
・ 国際問題がこんなにも深刻化していると知って、自分にも何かできることはないかと思った
・ 地球規模の諸問題の原因、解決策
・ 世界の貧しさ
・ 途上国と先進国の全てにおける関係性
・ 環境破壊や、地球規模の諸問題など
・ 発展途上国で発生している問題は日本でも問題になることを知った
・ 他国のいろいろな問題について
・ 国際交流の重要性
・ 今の日本の安全保障は、大丈夫なのか改めて心配した。また、外国で私の知らないところでこんな大きな諸問題
が数多くあるとは思わなかった。
・ 外国で仕事をしたいと思った
・ 今後は国際協力なしではやっていけないと思った
・ 先進国が発展途上国の貧困に影響している
・ 今、世界には多くの問題があって、それを理解するためには、言語や考え方など色々なことを知る必要があると
思った
・ 日本などの先進国が途上国もの貧困につながっていると考えると悲しくなりました
・ 環境破壊について、国際関係について、安全保障について
・ 私たち先進国はボランティア程度で、国際協力をしていたのと思っていましたが、途上国にある貧困には私たち
に原因があるのだと思いました
・ 環境等の生命に関わることは、世界全体で解決しないとダメだと思った
・ 国境を越えた様々な諸問題について考えた。日本だけでは解決できないことがよくわかった
・ 国際問題について、様々な問題を身近に考えることができた
・ 改めて、先進国と発展途上国が協力して地球的規模の問題に対する解決策を出さないといけないと思いました
・ 現代における国際協力の重要性について考えました
・ 途上国のいろいろな被害は先進国のせいってきいてびっくりした!
・ 様々な問題を解決しなくちゃいけないと思った
・ 日本と世界の関わりはどうなっているのかが気になった
問②「授業を受ける前と受けたあとで、環境や貧困、また世界で起きている問題に対する考え方は変わりました
か?」では、34 人が「はい」と回答した。回答内容には以下のようなものがあった。
・ 原因からどうすればいいかをつながりを持って考えた
・ もっと深く考えてみようと思った
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・ 環境破壊へつながることは、なるべくやめようと思った
・ 先進国での当たり前の行動(森林伐採など)が、途上国で環境や貧困に直面しているんだと考えるようになった
・ 資源を大切にする
・ 自分たちと繋がっているんだな…って思いました
・ 知らない環境問題もあった。意外にも日本が関係していのだなぁと思った
・ 自分が感じていないだけで、本当にいろいろな事が起こっていること。その深刻さもわかった
・ 他人事ではなく自分の問題としてちゃんと考えていかなければならないと思った
・ 以前よりも更にたくさんのことが分かりよかった
・ 思っているよりも深刻な状態ということが分かった
・ 日本と外国の関係は深いということが分かった
・ 積極的に考えるべきだと思った
・ 国際貢献の意義がより分かるようになった。また先進国は途上国に対する責任があると思った。地球温暖化問題
は、私たちに関係あると知ったから
・ このままだと先進国はどんどん便利な国になっていくが、途上国はどんどん貧しくなっていく
・ 日本も関係があるのだと。全然関係ないと今まで考えていました。
・ 途上国の人々は悪くないのに、沢山犠牲になっているのが分かったので、これからは自分のできることからやっ
ていきたいと思う
・ 貧困、世界で起きている問題は私たちととてもちかく、大切な問題なんだなと思いました
・ もっとたくさんの面で世界と関わって協力していきたいと感じた
・ あんまり知識がなく、名前だけ知っていたのが、その問題のことを知れて、知識がついたのでよかったです
・ 先進国と発展途上国が協力して地球規模の問題に対する解決策を出さないといけないと思いました
・ 現代における国際協力の重要性について考えました
・ 自分の知らないことを知ってかなり変わった
・ 思った以上に、日本に問題があるから自覚を持たなきゃいけないと思った
・ 途上国と先進国の問題は相互に絡み合っていることに気づいた
今回の授業では、授業の中で日本と先進国の関わりについて、また「途上国の環境や貧困の問題は先進国の影響
によるものである」といったことをテーマとして話していたこともあり、これまでの授業に比べ先進国と途上国の
関わりやつながりについて回答する生徒が多かった。しかし、前述したように、生徒の授業へ対する態度には差が
あり、授業理解や問題理解にもその差があることがアンケートの回答からも見られた。問③の意識の変化に関して
も、これまでの他の高校での授業に比べ、意識に変化がなかったと回答した生徒も 47 人中 12 人と割合が高く、授
業による新たな発見や学び、事実を知ることのよる驚きが少なかったものと考えられる。他の授業科目でもそうで
あるが、特に開発教育においては、新たな発見や知ったことによる驚きが、生徒の学びや意識に大きな影響を与え
ると筆者は考える。発見や驚きは生徒に、問題に関する強い印象を与えるとともに、興味や関心を持たせることに
もつながるのではないだろうか。そういった意味では開発教育の授業において、知識を学ぶだけでなく、生徒自身
が興味を持ちその問題について考えるようになるためには、発見や驚きを与える授業が重要となってくると言える
のではないか。
次に挙げる授業は、神奈川で活動する NPO「草の根援助運動」が、高校への派遣授業として行なった開発教育の授業で
ある。授業者は、この NPO のユースチーム(学生によるチーム)に所属し、大学院でフィリピンについて研究している学生であ
る。授業を行なった県立港北高校では、「総合的な学習の時間」にあたる「私の未来地図」で、1 年生では主に多文化共生を
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テーマに授業が行なわれ、これまでには、留学生を招いた多文化理解の授業が設けられたという。そして今回は、県内で活
動する NPO や NGO を招いての授業であった。この「私の未来地図」は、週に 1 回の 2 時間続きの授業で、「ゲストスピーカ
ーによる授業」→「生徒による発表準備」→「生徒による発表」という流れで、年間を通し授業が計画されている。
この日行なった授業概要は以下の通りである。
高校:県立港北高校
日時:2008 年 11 月 27 日(木)
授業目的:
「私の未来地図」
(総合的な学習の時間)の一環の多文化共生の授業として
対象:
「フィリピンと日本のつながり」を選択した 1 年生
生徒数:23 人
授業時間:90 分
内容:フィリピン「お魚ゲーム」
この授業では、アンケートを行なうことが出来なかったため、授業内容の「お魚ゲーム」についてと、授業の様
子等を述べるに留まる。お魚ゲームは神奈川で活動する NGO「草の根援助運動」のユースチームによって作成され
たものである。授業は、同 NGO のユースチームに以前所属しており、現在は大学院でフィリピンについて研究を
している学生により進められた。当日の流れでは、まず「草の根援助運動」についての説明と、フィリピンの歴史
や生活、文化などの概要が説明された。説明では、まずフィリピンでのイメージを生徒に問うたが、生徒たちから
はなかなか意見が出なかった。日本とフィリピンのお金の価値の話や、実際にフィリピンの貨幣を見せるなどする
と、生徒たちからの意見や質問も少しずつではあるが、出てくるようになった。
「お魚ゲーム」内容
私たちが普段から口にする魚を通じ、フィリピンと日本のつながり、南北問題について分かりやすく理解するこ
とが目的とされている。まず、6 人で 1 つのグループを作り、そのグループの中で「日本家族」と「フィリピン家
族」の 2 チームに役割を分け、 どちらかの家族になったつもりでゲームを行う。 ゲームはそれぞれの国での生活
をごく単純化したもので、参加者たちは 「食料を買って一日(1 ターン)を過ごす」という動作を 3 回繰り返す。
ただしそこには、持っているお金が少なかったり、食費以外にお金が掛かったり、環境の悪化で食料を手に入れる
のが難しくなったりと、様々な 要素が隠れている。ゲームへの参加は簡単でルールもすぐに把握できるが、 ゲー
ムが終わるころ、参加者は「なんでこれはこうなってるんだろう」と 様々な疑問が湧く。環境問題に思いを馳せる
人、日本とフィリピン との関係に気がつく人など、人それぞれである。ゲーム終了後、班ごとに浮かんできた疑問
や感想を話し合い、その後クラス全体で、意見のシェアリングを行なう。その気づきや疑問の答えが分かる部分は
授業者が解説し、そうでないものは参加者も一緒になって考えてもらいたいというものである〔草の根援助運動
2008,12,03〕。この日の授業では、この後に、授業者が実際にフィリピンで撮った、フィリピンの食事や、車のひし
めく道路交通、ゴミ山などの写真を生徒たちに見せた。
開発教育の授業は、授業内容はもちろんのこと、授業者の進め方によっても生徒の学びは大きく異なる。この日
の授業で印象的だったのは、授業者が中心に授業を進めながらも、生徒による自主的な授業参加を促す姿勢である。
ゲーム前にフィリピンのイメージを聞く際、また意見を聞く際にも、生徒を指名することは一切行なわず、またグ
ループ決めなども生徒が行う。当たり前のことのように思えるが、現在の学校授業では、生徒から意見が出るまで
時間をとる、または説明を行なうといったことは授業時間を考えると難しく、全てが授業者の指示や一方的な講義
で進められることも少なくない。開発教育は生徒の参加型授業、主体的な姿勢が重視されるため、生徒が参加しや
すい授業の雰囲気や、発言や行動を促すための授業者による指導も重要な点である。この授業では、ゲーム前はな
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かなか意見が出なかったものの、ゲーム後のクラス全体でのシェアリングでは積極的に意見が出されていた。
また、ゲームをプレイしたことにより答えがわかるのではなくて、生徒が疑問や疑問を持つようにゲームが作成
されていることも、生徒の学びを深めることとなる。
また、本節で挙げた他の授業でも同様であるが、ロールプレイやゲームのほかにも、実際の現地の写真などを見
せることが生徒の理解を深めることにつながるのだと感じた。そのため授業者がいかにその国のことを理解し、生
徒に伝えられるかといったことで、生徒の学びも異なってくるのではないだろうか。
4.考察
以上、本節では授業の一環としての開発教育の実践事例を見てきた。本節はじめでも述べたように、ここでの事例は学校側
からの開発教育へのニーズに答えたものではなく、また授業者の学生も、開発教育の授業内容や授業方法について試行錯
誤の中での実践であったため、一般的に学校や社会で行なわれる開発教育とは、その背景として異なった点も多く、比較や
参考とすることは出来ないかもしれない。しかし、授業での生徒たちの学ぶ姿勢や行なったアンケートからは、開発教育がも
たらす生徒の意識の変化やこれからの課題等を学ぶことが出来る。ここでは、まとめとして本節で取り上げた実践事例から考
える、授業の一環としての開発教育の可能性やその課題について述べていきたい。
先 4 校の桜美林大学の学生が行なった授業では、うち 3 校をロールプレイを交えた形式で進めた。ロールプレイは、参加者
がそれぞれの役を演じることにより、役を通じてその人物の現状や気持ちを理解し、問題についての関心を持たせることや、
参加型授業に慣れていない生徒にも、比較的容易に授業参加を促すことが出来るといった要素があると考えられ、生徒の授
業参加や意識変化への効果が期待できる。しかし、開発教育として生徒の学びを深め、問題への意識を持たせる方法として、
以下に挙げる項目が必要であり、課題であると、授業での実践を通じ筆者は考えた。
1. 生徒の自主的な参加を促し、意見の出る雰囲気を作る
2. ロールプレイの前に、取り上げる国の情報を生徒に与え、国のイメージを持たせる
3. 意見のシェアリングや自分たちとの関わり等について討論の時間を設ける
まず1の「生徒の自主的な参加を促し、意見の出る雰囲気を作る」に関しては、これはロールプレイのみでなく、社会への参
加を目指し、参加型の授業方法を重視する開発教育の授業で必ず言えることであると考える。日本の教育は、教師による一
方的な講義がほとんどである。そのため、生徒たちは自主的に授業に参加することや自ら発言することが苦手となる傾向にあ
ると言える。開発教育では生徒の参加型で主体的な学習が目指されるため、授業では生徒の自主的な学びをいかに引き出
すかが授業者の課題でもある。項目で挙げた3につながることでもあるが、ロールプレイにおいては、演じたことにより何を感じ
たか、何を考えたかといった意見のシェアリングが重要となる。生徒は授業者が指名すれば、自分の意見を述べることが出来
るが、自らが進んで意見しようとすることは滅多に見られない。また、指名されてもなかなか自分の素直な意見が表現できない
というのが現状であると、授業実践を通じ感じられた。この面において、比較的良く実践されたのが、①厚木東高校である。こ
こでの授業は、他の高校とは違い 7 人という少人数での授業であったことがその要因であろう。学年もクラスも違う中で始め初
めは互いに緊張関係であったが、授業が進む中で少しずつではあるが、意見が生徒自身から出るようになり、ロールプレイも、
自ら進んで行なう姿勢が見られた。逆に、他の 20 人以上での授業は、2つに分かれてロールプレイを行ったものの、生徒から
の意見を引き出すことに苦労した。このようなことから、開発教育で生徒が自由に発言できる雰囲気を作るためには、少人数
での授業も必要であると言えるだろう。
次に、2 の「ロールプレイの前に、取り上げる国の情報を生徒に与え、国のイメージを持たせる」についてであるが、ほとんど
の高校生の興味、関心は欧米諸国に向いており、途上国への知識や関心はほとんど持っていないのが現状である。授業で
扱ったフィリピンやインド・バングラでデシュという国々に関するイメージ等もは何も持っていない。授業前に、生徒たちにその
国々のイメージを聞く時間があったが、フィリピンであればバナナや島国であること、インドであればカレーや IT、バングラデシ
ュについては何のイメージも持てていないことがほとんどであった。そんな高校生がロールプレイを行なう場合、事前にその国
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の情報を生徒に知らせることが必要であると考える。ロールプレイは、演じることを通じ生徒にその国の抱える問題や、日本と
のつながりを伝えることは可能であるが、そこでの情報はある偏ったものであるとも筆者は考える。偏った情報は、生徒たちに
偏ったイメージや知識を与えかねない。それに加え、授業のはじめにその国の情報を与えることにより、授業への生徒の関心
を引き出すことも可能となる。授業ではロールプレイの後に、桜美林大学で行なわれた国際研修プログラムでの様子を写真
などを用いたパワーポイントを見せているが、現地の実際の写真などによる情報は、生徒の関心や興味をひきやすく、アンケ
ートでもこれらの内容に関し意見を述べる生徒が多くいる。このようなことから、事前の情報として、お金や食べ物、文化など
生徒が身近に感じることのできる、または関心を持つことの出来る情報や話題を出すことにより、生徒の学びも異なったものに
なるのではないだろうか。
次に、3 の「意見のシェアリングや自分たちとの関わり等について討論の時間を設ける」に関してである。授業実践を通じ、
ロールプレイ後の意見のシェアリングは、生徒の学びで不可欠なものであると筆者は考えた。今回の開発教育の実践では、
日本とフィリピンやインド、バングラデシュなど途上国とのつながりを考えさせることが目的とされていた。ロールプレイでは、日
本と途上国、それぞれの問題が描かれ、生徒たちは演じることにより問題を知り考えることが出来る。しかし、ロープレイを行な
うだけでは、生徒は偏った意識しか持たない、といった危惧も生じる。それは、アンケートでも何人かの生徒に見られたように、
「日本で生活している私たちは幸せ」「途上国は貧しくてかわいそう」「日本と途上国は違う」といった印象のみを生徒に与えて
しまうこともあるからである。もちろん、このような意見が出ることは途上国を知るうえでは重要なことであり、開発教育の学びと
して必要なひとつの要素ではある。それは、開発教育の教育目標のひとつである「開発問題の原因と構造―世界各地の貧
困や格差の現状を知り、その原因と構造を理解すること」の前半部分である、世界各地の貧困や格差の現状を知る、
ということは達成できているが、後半部分の原因と構造についての理解については不十分であると考えられる。そこ
で、ロールプレイを通じての疑問や意見を、クラスまたはグループ等必要で話しあることが必要であると筆者は考える。例えば、
フィリピンのバナナ農園のロールプレイであれば、意見や疑問を話すほか、私たちはバナナ農園の労働者たちに何をしたら
よいか、何が出来るかということを柱として進めていくことが出来、それにより生徒も、自分たちとのつながりの意識をより強く持
つことができるのではないか。今回の授業実践では、③追浜高校では、ロールプレイの後、グループごとに意見や疑問につ
いて話しあう時間を設けることが出来た。そのためか、他校に比べ、アンケートからも日本に住む自分たちとのつながりを意識
した意見を見ることが出来た。しかし、時間の限られている授業では、そのような話し合いの時間を設けることが難しいのが現
状である。また、いざ話し合いとなった際にも、その限られた時間の中で生徒からの自主的な発言を引き出すことは難しく、そ
れらが、授業の一環として開発教育を行う際の大きな課題であると考えられる。
次に、④都立翔陽高校での授業は、途中グループでの作業を交えたものの、これまでのロールプレイの生徒によ
る参加型授業とは異なり、講義を中心とする授業となった。内容も「人間の安全保障」をテーマとしていたため、
これまでのロールプレイに比べ生徒にとっては、授業を受けている、といった意識が強かったように思われる。そ
のためか、本節でも述べたように生徒の授業参加の姿勢には差があり、授業への関心を示さない生徒も多く見られ、
生徒の授業の理解にも差があった。生徒の理解には差が見られたが、授業では始めから、日本の途上国に対する(負
の面での)影響やつながりをテーマとして話していたため、ロールプレイに比べ日本と途上国のつながりに関する
意見がアンケートからも多く見ることが出来た。その一方、授業内容が難しかったと回答する生徒もおり、授業内
容や授業方法には改善が必要であるとも感じられた。また、この授業で参加型を困難としたのは、約 50 人という参
加生徒の多さであった。人数が多いことで、授業者も生徒一人ひとりまで目が届かず、生徒の授業への参加を促す
ことが出来なかった。参加型授業を行なううえでは、少人数制であることが重要であると再度確認させられた。
次に⑤港北高校では、神奈川の NGO 草の根援助運動により作成された「お魚ゲーム」を使用し授業が進められた。この授
業では、本節でも説明したように、授業者がフィリピンを大学院での研究の対象としていることから、フィリピンに関する知識や
現地での経験が豊富にあったことに加え、開発教育の授業実践も多く行なっていることから、ファシリテーターや説明者として、
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授業方法等では筆者にとって多くのことを学ぶ機会となった。先に述べておくと、筆者はこの授業に授業者としては参加して
いないため、見学者もしくは参加者という立場での考察となる。そのため、これまでの筆者が授業者として参加した授業とは異
なった視点からの授業に対する考察となる。
まずゲームについてである。内容は前述した本節で前述した通りであるが、ゲームの良い点は、生徒の関心や興味をひき
つけやすいことにある。それに加え、楽しみながら行なうことが出来るため、自然と授業に参加する姿勢が取られる。また、ゲ
ームは生徒が疑問を抱く場面が多く登場するが、答えがゲーム自体には書かれていないため、生徒も自身で考えるほか、後
に授業者からの説明を聞くことにより、授業を通じての新たな驚きや学びを得ることが可能となる。
次に授業方法に関しては、これは上記のロールプレイでの課題とされる項目1の「生徒の自主的な参加を促し、意見の出る
雰囲気を作る」に通じることでもあるが、この授業では生徒からの意見が出る雰囲気が作られていたと言える。これは前述もし
たように、授業者による生徒からの自主的な意見を促す授業の進め方や、またグループでの作業を行なったことによるもので
あると言えると筆者は考える。個人ではなかなか意見の出せない生徒たちも、グループで話し合うことにより、グループの意見
として発表することが出来る。授業において発言する生徒は限られてしまうが、生徒の主体的な思考や意見を出す方法として
は、グループでの作業や話し合いは効果的なものであると言えるのではないだろうか。また、印象的だったのは、生徒が疑問
に感じたこと、考えたことなら何でも発言していいという授業者の授業方法であった。それにより、生徒たちは発言が正しいも
のであるか否かということを、あまり意識せず感じたままのことを意見することができた。中には、授業で扱う問題と関係のない
発言も含まれるが、そのような雰囲気作りが生徒の自主的な授業参加を促すことにつながるのではないだろうか。
以上、高等学校 5 校における授業の実践事例の考察となる。開発教育は、内容や方法はもちろんのこと、何を生徒に考え
させたいか、何を伝えたいか、といったことも授業者により大きく異なる。そのため、上記で述べた考察も筆者の考える開発教
育の実践としての効果や課題であり、その評価は授業者によってさまざまであろう。逆を言えば、だからこそ多様な開発教育
が可能であり、その種類の可能性は無限にあると言える。
授業の一環としての開発教育は、「総合的な学習の時間」で取り組まれることが多く、上記したような NPO 団体や大学生に
よる出張授業であり、ほとんどが単発の授業となる。生徒の学びを 1 章で述べた開発教育の学習目標で見ると、「世界と私た
ちのつながり―地球規模の諸課題が私たちとつながっていることを理解する」、「開発問題の原因と構造―世界各地の貧困
や格差の現状を知り、その原因と構造を理解する」という 2 点については、各生徒により理解の差はあるものの、実現可能と言
える。しかし、これまでに述べてきた学校や教員による開発教育のように、また学習目標にもある「私たちのとりくみ―地球
的な課題に取り組んでいる努力や試みを知り、自ら参加できる
意欲と能力を養うこと」に関わる、授業により生徒
の意識が大きく変化することや、行動に移されるといった効果は見られない。それでも、アンケート結果からも見られるように、
それまで持っていた国のイメージを変えることは出来る。高校生の知識は、メディアや授業で取り上げられることのみでイメー
ジが作られてしまうことが多い。生徒の興味が発展途上国に向くことは少なく、欧米志向の生徒がほとんどである。本節で取り
上げたような、授業の一環としての開発教育は、欧米志向の生徒や、世界の現状をある限られた側面のみから見ている生徒
に、新しい視点を与えることは可能であるだろう。
授業の実践を通じ、授業を行なう度に新しい課題が見えた。しかし、筆者は何よりの課題は、参加型に慣れていない生徒
を授業に参加させ生徒主体の授業を進めていけるか、であると考える。開発教育は参加型で生徒主体の授業が重要となる。
そのためには、授業者が生徒参加の授業の姿勢を作り上げることが必要となる。教師による講義の授業方法に慣れている生
徒に生徒参加の授業を進めることは難しく、授業内容、授業方法共に、授業者による工夫が必要であると、筆者も授業実践
を通じ痛感した。授業内容の課題については、本節で見てきたような単発の開発教育では、時間が限られているため、同時
に内容も限られることにあると筆者は考える。限られた時間の中では、生徒はある限られた情報のみを得ることとなる。その内
容によっては、「発展途上国=かわいそう」というイメージや、「発展途上国は日本とは全く違った国」といった印象のみを生徒
に持たせかねない。今回行なったアンケートでも、幾人かの生徒からそのような意見が挙げられていた。授業の一環としての
開発教育では、その国を知らない生徒に偏った意識を持たせず、国の現状や先進国とのつながりや世界の構造を知るともに、
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疑問を持たせ、知識だけではなく生徒自身の思考や意識を持たせることのできるような授業作りが必要であり、課題であると
筆者は考えた。
まとめ
本章では、「学校」「教師」「授業」という 3 つの方法から開発教育の実践を見てきた。今日、学校における開発教育の実践は、
NGO や市民団体による授業協力もあり少しずつ普及し始めている。しかし、それは非常に低調なものであり、十分なものでは
ない。また開発教育が実践されていても、実践方法や内容には課題があると言える。本章で見てきたように、学校における開
発教育の実践方法は様々である。それぞれにより、授業方法、授業内容、生徒の学び、開発教育を行ううえでの課題などが
異なる。また、それぞれの開発教育の生徒の学びに対する役割も異なったものであると筆者は考える。
第 1 節の学校としての開発教育、第 2 節での教員による開発教育では、継続的な授業が可能となり、学びによる生徒の行
動や、行動による更なる学びが可能となる。そのため、生徒の理解も深いものとなり、開発教育の学びとしての効果は大きい。
しかし、これらの授業を実践するには、多くの課題がある。まず、学校の理解と教員の協力体制が不可欠となる。学校による
理解がなければ実現せず、また教員も開発教育の知識を持っていなければ、授業において開発教育を取り入れるのは困難
である。そして少人数の授業で参加型で行なわれることも必要となる。第 2 節の風巻教諭による授業は、風巻教諭自身に開
発教育の知識や NGO などの団体との繋がりあること、それに加え少人数の授業であるからこそ、時間をかけ準備を行い、実
践できたものだと考える。クラス単位での授業では、時間的な問題からこの授業方法を取ることは難しい。
第 3 節の授業の一環としての開発教育では、前述の 2 つの方法に比べると、生徒の学びは浅く、限られたものとなり、生徒
の自主的な行動を促すことは難しい。しかし、欧米志向である生徒たちの目を途上国にも向かせ、途上国のイメージを変える
といった学びは可能である。また、「総合的な学習の時間」などで、単発の授業として行なうことが可能であり、実践の可能性
は高く、教員の負担にもなりにくい。また、この場合には、NPO や NGO による協力が不可欠であり、学校がそれらの団体と連
携を持つことが重要となる。単発で開発教育を行う際、授業内容によっては、生徒に途上国に対し偏ったイメージを持たせて
しまうことにもなる。限られた時間であるからこそ、授業内容はより工夫が必要となる。
生徒の学びを考えるのであれば、第 1、2 節で述べたような継続的な授業での開発教育が望ましいと筆者は考える。しかし、
今日の学校教育の現状を踏まえると、そこには多くの課題があり、ほとんどの学校において継続的な実践は難しい。そこで、
比較的実践が容易であるのは、「総合的な学習の時間」などの授業の一環として取り入れることであるが、それには学校や教
員の理解や協力が不可欠である。学校教育における開発教育の実践に向けて重要となるのは、いかに学校や教員が開発
教育に対する意識を持ち、授業時間を割き、NGO や NPO などの団体と連携し協力体制を持つかではないだろうか。
37
おわりに
本論文の、第 2 章、第 3 章では日本の学校教育における開発教育について見てきた。NGO や NPO などの市民団
体の活動や協力、また教員自身による活動や授業などにより、少しずつではあるが学校教育の中に開発教育は普及
してきている。しかし学校教育全体で見れば、それはまだわずかであり、不十分である。また、開発教育の学校で
の実践には第 3 章でも見てきたように多くの課題を抱えている。筆者は、学校教育における開発教育は生徒の国際
問題への意識や関心、世界で生じているさまざまな問題を自分自身とつなげて考え、実際の行動へとつなげるため
に、不可欠なものであると考える。では、開発教育は学校教育の中でどのように可能とされるのか。そこで、おわ
りにでは、本論文第 1 章で見た、イギリスの市民教育からそのヒントを得、日本の学校教育における開発教育の可
能性について考えていきたい。本論文でこれまで見てきた日本の学校教育における開発教育の中での課題を筆者の
考えとして明らかにする中で、それらの課題に対しイギリスの市民教育からどのように学んでいけるのか、見てい
きたい。
日本における開発教育は、その普及や実践において多くの課題を抱えているが、筆者は、イギリスの市民教育か
ら日本学校教育における開発教育、また教育自体が学ぶべきことは、その生徒参加の実践であると考える。市民教
育は、開発教育ように南北問題や地球的課題を中心とする科目ではないが、参加を重視する開発教育を、学校教育
の中で実践するためには、市民教育の生徒参加を主とする授業からは、多くのことを学ぶことが出来る。
日本の学校において、授業は教師による一方的な講義の授業が一般的であり、生徒たちは主体的に考えること、
参加することをほとんど行なわず、参加型授業や主体的な行動に抵抗を感じていると考える。それは、問題や課題
に対し自ら行動を起こすことや、社会への参加にもつながり、本論文のはじめにでも述べたように、NGO や NPO
への参加や、フェアトレードの浸透といったことにもつながっていると思われる。そのようなことから、学校教育
では生徒の主体性や参加に重点を置いた教育が課題とされるのではないだろうか。
イギリスの市民教育の構成要素には、
「責任ある社会的行動(social and moral responsibility)=学校の内外にお
いて、児童・生徒が社会的・道徳的に責任ある行動をとること」
、
「地域社会への参加 (community involvement)=
隣人の生活や地域社会に対して関心を払い、社会に貢献すること」がある。これらの要素に関し、市民教育まず生
徒の意思決定が学校いう社会の中で反映されるように、生徒会などの形で生徒たち自身が学校内の課題を見つけ解
決していけるような環境を創っていくことも行なわれている。以下は、その実践事例である。
イギリスのケンブリッジ大学教育学部の協力を得て、ある学校の 9-13 学年(13 歳から 17 歳)の約 15 人の生徒
と教員数人は、大学で一 1 日研究調査方法についての授業を受けた。その後、生徒は教員の助けを借りながら、小
さなグループに分かれて何を調査するか話し合いをした。取り上げられた事柄は、
「生徒が意見を言える環境」
、
「学
習評価」
、「研修中の教員」
、「給食」
、「進路指導」
、「ライフスキルの学習」
、「ジェンダーの違い」などであった。そ
の後、質問表などでの調査方法が決定され、学校で他の生徒に対して調査が行なわれた後、学校への提案書が提出
された。生徒が提案した多くのことは実行に移された。給食メニューの幅は広がり、進路指導や生活に関する授業
数も多くなった。実践まで 3 年かかったが、研修中の教員には生徒から授業についてのフィードバックが返される
ようになった。学校の生徒たちは、
「自分の意見をいう自信がついた」「全ての人が同じ意見を持っているわけでは
ないということがわかった。その対立もいい結果に繋がることもあることを知った。
」と語っている〔チャイルド・
リサーチ・ネット HP 2008,12,31〕。
このように、市民教育の中で生徒自身が学校内の問題に参加し、それを解決していくという過程は、置き換えれ
ば開発教育での学びと同様のものになりえるのではないだろうか。このような参加の方法は、開発教育の中でも不
可欠なものであり、学校教育の中で育まれる必要性があると筆者は考える。第 3 章のまとめでも述べたように、開
発教育の実践では生徒の主体的な参加が何よりの課題であると考えるが、それは開発教育の授業のみで、生徒たち
38
に身につくものではない。毎日の教科科目の中で、生徒主体の授業が実践されることが理想的である。日本におい
ても総合的な学習の時間が導入され、そこでは、
「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、より
よく問題を解決する資質や能力を育てること」が学習のねらいとされている。この学習のねらいが正しい形で実現
されることが、現在の学校教育で生徒の主体的な行動を養うためには必要であるだろう。
今日の日本の学校教育の中で開発教育を普及させ発展させていくためには、教育制度そのものによる課題、個々
の学校や教員の理解と協力の体制、教員に時間的、金銭的余裕がないことなど多くの課題があり、容易なものでは
ない。イギリスにおいても、開発教育はナショナル・カリキュラムで教科としては導入されていない。しかし、市
民教育は授業方法等によっては開発教育の役割を果たすことが可能である。日本においてもそれは同様のことが言
えるのではないだろうか。日本でも前述のように、参加をねらいとする総合的な学習の時間も導入され、授業案と
して NGO や NPO など市民団体による学習支援体制も持たれている。しかし、日本の教育は他のさまざまな問題に
追われ、開発教育のような生徒の参加を重視した主体的な学習を実践できないのが現状である。
開発教育の学びとして生徒たちが社会に自ら参加する姿勢を育てることは不可欠であり、学校教育の中で実践さ
れるべきであると、筆者は主張したい。開発教育を学校教育の中で普及させていくためには、多くの課題があるが、
まずはその基盤として、イギリスの市民教育での学びのように、学校内で生徒の参加を重視し、生徒が主体的に活
動してゆける教育環境を育むことが必要ではないだろうか。そしてそこで、国際的な問題等も扱われることにより、
開発教育の学校教育での実践の可能性が見えてくるのではないだろうか。
少し直しがあります。そこを直したら、プリントアウトして教務課に提出して構いません。再度の添削は不要です。
14日に指導表に残りの印を押しますので、オフィスに来て下さい。3限です。それがないと、教務課は受け付け
れくれません。なお、卒業記念 CD に掲載する卒論の最終版は、それ以降も変更して構いません。
39
参考文献
遠藤宏美 (2004)「学年制を崩すシステムと共生への試み」
『学校のエスノグラフィー
事例研究から見た高校教育
の内側』嵯峨野書院、42-59 ページ
門脇厚司 (2004)「ブリコラージュ化する高等学校」
『学校のエスノグラフィー 事例研究から見た高校教育の内側』
嵯峨野書院、180-199 ページ
開発教育協会(2004)
「「シティズンシップ」とグローバル教育の課題」
『開発教育
No.49 特定非営利団体 開発教
育協会、20-25 ページ
開発教育協会(2004)
『開発教育ってなぁに?』特定非営利活動法人 開発教育協会
開発教育協会 (2007)「アジアと私たち:よりよい未来のために」
『DEAR News 130 号』開発教育協会会報、8-9 ペ
ージ
開発教育協会 (2007)「多文化共生をめざして
地域の NPO と連携した定時制高校の取り組み」
『DEAR News 130
号』開発教育協会会報、5 ページ
神奈川県立神奈川総合高等学校 研究部
編集 (2001) 『研究紀要』 神奈川県立神奈川総合高等学校
小林彰夫(2005)
『教育とは―イギリスの学校から学ぶ』NTT 出版株式会社
文部科学省 (2007)『高等学校学習指導要領解説 総則編』東山書房
西岡尚也(1996)
『開発教育のすすめ
南北共生時代の国際理解教育』かもがわ出版
大津和子(1995)
『国際理解教育―地球市民を育てる授業と構想』株式会社国土社
田中治彦(1994)
『南北問題と開発教育
地球市民として生きるために』亜紀書房
参考 HP
チャイルド・リサーチ・ネット HP (2007、11.25) http://www.crn.or.jp/index.html
神奈川県 HP (2008、11.17)
http://www.pref.kanagawa.jp/index.htm
神奈川県立麻生高等学校 HP (2008、11.17)
http://www.asao-h.pen-kanagawa.ed.jp/
神奈川開発教育センター (2008、11.17)
(K-DEC)http://kdec.npgo.jp/kdec-top.htm
神奈川県神奈川総合高等学校 HP (2008、11.17) http://www.kanagawasohgoh-h.pen-kanagawa.ed.jp/index.html
草の根援助運動 HP (2008、12,03) http://www.p2aid.com/index.html
文部科学省 HP (2008、01.02)
http://www.mext.go.jp/
日本国際ボランティアセンター HP(2008、1.26)http://www.ngo-jvc.net/
One Coin Concert HP (2008、11.22)http://www.kanagawasohgoh-h.pen-kanagawa.ed.jp/onecoin/index.html Save
the Children U.K HP(2008、1.26)http://www.savethechildren.org.uk/en/index.htm
十勝毎日新聞社 HP (2007、11.28)
http://www.tokachi.co.jp/
東京都教育委員会都立高校検索サイト HP (2008、1.05)
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/school/system/full.html
(財)自治体国際化協会 HP (2008、11.22) http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/sp/165_2/index.html
参考資料
風巻
浩 (2008)『
「希望」を繋ぐウガンダと日本の子どもたち』神奈川県高等学校教職員組合第 51 次教育研究集会
環境教育・開発教育合同分科会での配布資料
40
付録
1.ワークショップ台本 <フィリピン:「バナナ農園で働く人々」>
登場人物
・
フェルナンド(お父さん)
フィリピン、ミンダナオ島に住んでいる。仕事を探してバナナ農園で働くことになり、農薬をまく仕事をしている。最近、体の具合
が悪いことが多い。労働者の組合に入っている
・
マリア(お母さん)
フェルナンドと一緒に仕事を探して、バナナ農園のパッキング(箱詰め)工場で働くことになった。4人の子どもがいる。
・
ロベルト(長男)
妹や弟の面倒をみながら、学校へ通っている。10歳。
・
ラモス(バナナ農園の地主)
多国籍企業と契約してバナナ農園を開いている。多国籍企業に技術指導料や農薬、化学肥料などの代金を払っている。サリ
サリストアー(食料品や日用品を売っている小さな店)も経営している。
・
節子(日本の主婦)
節約して安いものを買うようにしている。パートで仕事をしている。
・
ヒサ(祖母)
マサオの父方の祖母で同居している。近頃ものを大切にしない人が多くなったことに不満を感じている。
・
マサオ(節子の長男)
おこづかいを十分にもらっていて、ものに不自由を感じたことがない。
テレビゲームに熱中している。10歳。
シーン1
ナレーション
ここは日本のマサオくんの家です。パートからお母さんの節子が帰ってきました。
節子
ただいま。ああ重かった。
祖母
おかえり。ごくろうさんだったね。
節子
どっこいしょっと。今日はスーパーの特売日だから、いっぱい買ってきちゃった。1円
でも安い買い物しなくちゃね。マサオ、宿題はやったの?ゲームはあとにしなさい。
マサオ
節子
う、うーん。それよりおなかすいた。
カップラーメン食べたんでしょ。コーラの缶もちらかして。しょうがないわねぇ。・・・は
い、バナナ。
マサオ
節子
えー、バナナ?ポテトチップスがいい。
何言ってるの。バナナは栄養たっぷりなのよ。見て、これ一房100円。安いでしょう。
これ食べて宿題しなさい。
マサオ
祖母
チェッ。
へぇー。これで100円。昔はバナナといったらめったに食べられない高級品でね。マ
サオのお父さんなんか遠足や運動会に1本持たせたら大喜びだったよ。なぜこんな
に安くなったのかねぇ。
節子
でもね、最近では高いバナナもあるのよ。高地栽培でおいしいとか、農薬をまく回数
を減らしているとかいってね。高くても体に安全なほうを選ぶ人もいるし、私みたいに
安いのが一番の人もいるし・・・。さあ、晩ごはんの支度しなくちゃ。今日もお父さんは
遅いから、マサオの好きなエビフライでいいね。
41
シーン2
ナレーション
ここはフィリピン、ミンダナオ島のバナナ農園です。お父さんのフェルナンドがバナナ
農園のそばで仕事を探しています。
フェルナンド
なかなか仕事がなくて困るなぁ。家では子どもがはらぺこで待っているのに満足に食
べさせることもできない。
ラモス
(バナナ農園の地主のラモスが農園の門から出てくる)
まいったなぁ。こんなに何人も病気でやめてしまうとわ。代わりを集めなきゃ。
フェルナンド
ラモス
フェルナンド
ラモス
フェルナンド
ラモス
フェルナンド
ナレーション
だんな、仕事をください。
ああ。まぁ考えてもいいよ。給料は一日120ペソだ。
だんな。家族を5人食べさせるのには、一日180ペソはほしいんです。
120ペソだ。
※1ペソは約2円(2008.10現在)
どんなにきつい仕事でもいいんですが。
いやならいいんだよ。代わりはいくらでもいるんだ。
やります!やります!働かせてください!
フェルナンドが働き始めて半年が経ちました。太陽がじりじりと照りつけています。見
渡すかぎりのバナナ農園で、フェルナンドが殺虫剤の入った缶を背負い、バナナに
薬をかけています。
フェルナンド
ごほん、ごほん、(せきをしながら)どうも頭が痛いなぁ。この薬のせいかな。休みたい
な。(体についた農薬を払う。気をとりなおして)いやいや、休んだら仕事がなくなって
しまう。しっかりしなきゃ。でもせめて薬のついた手を洗いたいなぁ。
シーン3
ナレーション
フェルナンドが家に帰ってきました。
フェルナンド
ただいま。ほらお米を買ってきたよ。早くごはんにしよう。ふぅー、今日は16時間も働
いて疲れたよ。
マリア
フェルナンド
マリア
フェルナンド
ロベルト
マリア
フェルナンド
ロベルト
マリア
私もバナナの箱詰めの仕事で1日中立ちっぱなしでくたくただわ。
ごほん、ごほん。(ひどくせきをする。)
あんた、大丈夫かい?
最近、せきがとまらないことがあるんだ。頭も痛くてね。
お父さん。手、どうしたの?赤く腫れてるよ。
バナナの葉で冷やすのがいいね。せめて仕事を休めるといいんだがねぇ。
ダメだ。3日も休んだらクビだもの。
ぼくも学校やめて働くよ。父さん。
ばかなこと言うんじゃないよ。お前がちゃんと学校に行くのがお母さんたちの夢なん
だからね。
フェルナンド
マリア
その通りだ。ちゃんと勉強して農園の外でもっといい仕事を見つけるんだ。
となりのガルシアさんが言ってたよ。他の農園では会社にかけあって、農薬よけのマ
スクや手袋をちゃんともらってるって。私たちも、もっと会社に言っていかなきゃね。
フェルナンド
マリア
そうだなぁ。みんなで話し合ってもっと働きやすくしなけりゃな。
そうだね。さぁ、ごはんにしよう。
42
シーン4
ナレーション
日本のマサオくんの家です。
(ゲームをやりながら)おなかすいた。ごはんまだ?
マサオ
節子
バナナ食べたでしょ?
マサオ
あのバナナ、皮をむいたら黒いところがあったから気持ちが悪くて捨てちゃった。
祖母
もったいないねぇ。食べ物を粗末にしていはいけないよ。
節子
そうよ。マサオ、わかった?じゃ、ごはんにしましょう。お父さんは今日も遅いから3人
で食べましょう。マサオ、お茶わん並べるの手伝って。
マサオ
(ゲームをしながら)えーちょっと待って。今いいとこなんだから・・・。
2.ワークショップ台本<インド・バングラデシュ:
「日本とインドの生活をくらべてみよう」>
登場人物
日本
・
かなこ(日本の女子高生、17歳)
・
かなこの祖母
・
かなこの母(パート勤め)
・
花子(かなこの親友)
・
早乙女君(かなこの彼氏)
インド
・
ギリさん(綿花農家で働く、6人家族のお父さん)
・
シタさん(奥さん)
・
ミハリカ(14歳、長女)
・
ゴウタム(8歳長男)
・
農園主(ギリさんが働く農園の主人)
=第1部=
ナレーション
朝、8時30分を過ぎようとしています。
かなこはやっと起きてきました。
かなこ
また遅刻だぁ。学校いきたくないなぁ、めんどくさい!!!!
祖母
昔は学校に行けることが楽しみだったんだよ。
かなこ
おばあちゃん。今は2008年だよ。
休んじゃおうかな。
行きたくても行けない子もたくさんいたんだから。とくに女の子は。
学校なんて行ってて当たり前だし、勉強するのもつまんないよ。
でも、まぁ友達にも会えるし大好きな早乙女君にも会えるから行こうかな♪
祖母
まったく最近の子は・・・。
かなこ
お母さんお弁当は?
母
これで買いなさい。
43
ナレーション
1000円を差し出す。
かなこ
またコンビにかぁ・・・・。まぁいいか、いってきまーーーす。
――学校・昼休み――
花子
今日は早乙女君と話したの?
かなこ
まだ話せてないんだよね。
花子
最近付き合ったばっかりだからめっちゃラブラブでしょ♪
ナレーター
おもむろに早乙女君登場
早乙女
やぁ。おはよう。
かなこ
(キュン♪)お、おはよう。
花子
ひゅーひゅー♪
早乙女
じゃぁ、また!日曜日のデート楽しみにしてるよ。
ナレーター
早乙女君は、去っていきました。
かなこ
やっぱり早乙女君かっこよかったなぁ♪
日曜日のデート何着ていこう♪
花子
この前買ったスカートは?
かなこ
あれ、着てみたらイマイチだったんだよねぇ。
もういらな~い。はかないもん。
花子
捨てちゃえ捨てちゃえ。笑
かなこ
今日の放課後新しい服買うから買い物つきあってよ~♪
花子
いいよー。じゃあまた放課後にね!
――インド――
ナレーター
ここはとあるインドの村です。
6人家族のお父さんが仕事を探しています。
ギリ
やっと仕事がみつかったぞ!!よかった。
主人
給料は一日25ルピーだ。
仕事は綿花に農薬をまく仕事だ。この農薬はすごく高価だし、
日本に輸出しなくちゃいけないんだから、しっかり働けよ。
ギリ
だんな!!うちには4人の子供がいるんだ。学校に行かせてやりたいし、
これじゃぁ満足にご飯も食べられない。
1日40ルピーは欲しいんです。どうかお願いします。
主人
だったら他で働けばいいだろう。変わりはいくらでもいるんだ。
ナレーター
ギリさんは一家を支えるために仕方なくこの綿花農園で働くことにしました。
44
主人
そういえば、お前のところには娘がいたな。いくつだ?
ギリ
14歳です。
主人
じゃあそろそろ結婚だな。いい相手がいる、結婚させたらどうだ?
ギリ
・・・え!そりゃ楽にはなるけど、結婚資金を払うお金がないんです。
主人
まぁ、考えとけよ。
ナレーター
仕事が終わり、ギリさんは家に帰ってきました。
ギリ
今日は16時間も働いて疲れたよ。
ゴタム
お父さん、お疲れ様。僕も学校辞めて働いてお父さんを手伝うよ。
ギリ
いや、お前がちゃんと学校に行ってくれるのがお父さんたちの夢なんだ。
シタ
そうよ。ちゃんと勉強していい仕事見つけておくれ。
ギリ
そういえば、農園の主人から結婚の話を聞いたよ。
ミハリカ
えっ・・・。
シタ
母さんも14歳くらいで結婚したわ・・・。
ギリ
ダウリーのことが心配だけどそろそろ結婚させたほうがいいよな。
シタ
そうね。
ミハリカ
(・・・まだ結婚なんかしたくない。勉強したいな。
でも、お父さんたちにはこんなこと言えない。)
=第2部=
――日本――
かなこ
ただいま~!
・・・・・シーン・・・・・・
かなこ
また服いっぱい買っちゃったなぁ.
ナレーター
机の上には置手紙とお金が置いてありました。
かなこ
また、一人でご飯かぁ。TV でも見ようっと。
最近家族でご飯食べてないなぁ。
――インド――
シタ
みんなご飯よーー!今日も豆カレーでごめんね。
ミハリカ
全然大丈夫だよ。みんなで食べればおいしいもん♪
ギリ
そうそう。母さんのカレーは絶品だもんな!
ゴタム
今週の日曜日は、おばちゃんたちみんな来るんだよね?
シタ
そうよー。
45
ギリ
せっかくみんな来るんだから、盛大にもてなそう!!
その分、父さんも頑張って働くぞ!
ゴタム
楽しみだなぁ♪
――日本――
ナレーター
夜9時を過ぎました。かなこはまだ一人でテレビを見ています。
かなこ
もう21時かぁ!!テレビ見てると時間たつの早いなぁ。
46
3.県立厚木東高校で使用したアンケート
アンケート
今日のワークショップはどうでしたか?
今後の参考にもさせていただきたいので、ぜひアンケートへご協力をお願いします。
⑥
今回、「国際」を選択した理由を教えてください。
⑦
今日のワークショップを通じて何を考えましたか?
⑧
学校の授業のなかで、今日のように世界のことについて学ぶ授業が定期的にあるといいと思いますか? ○をつ
けてください。
多くあるといい ・ 1 学期に 1 度くらい ・ 1年に 1 度くらい ・ 全くなくていい
その理由は何ですか?
⑨
今、あなたはどんな国に興味がありますか?もしくは行ってみたいですか?
国→ 〔
〕 *何カ国でも構いません!
その国のどんなところに興味をもっている、または、魅力を感じていますか?
⑩
今日の感想を自由に書いてください。
47
4.都立芦花高校、県立追浜高校で使用したアンケート
アンケート
今日のワークショップはどうでしたか?
今後の参考にもさせていただきたいので、ぜひアンケートへご協力をお願いします。
⑪
今回、「国際」を選択した理由を教えてください。
⑫
今日のワークショップを通じて何を考えましたか?
⑬
今日のワークショップを受ける前と受けた後で、インドやバングラに対する印象は変わりましたか?
はい
・
いいえ
(○をつけて!)
「はい」の方は、どのように変わりましたか?
⑭
今、あなたはどんな国に興味がありますか?もしくは行ってみたいですか?
国→ 〔
〕 *何カ国でも構いません!
その国のどんなところに興味をもっている、または、魅力を感じていますか?
⑮
今日の感想を自由に書いてください。
ご協力ありがとうございました!
48
5.都立翔陽高校で使用したアンケート
2008 年12月17日
都立翔陽高等学校
アンケート
今日の授業はどうでしたか?
今後の参考にもさせていただきたいので、ぜひアンケートへご協力をお願いします。
⑯
⑰
今日の授業を通じて何を考えましたか?
今日の授業を受ける前と受けた後で、環境や貧困、また世界で起きている問題に対する考え方は変わりました
か?
はい
・
いいえ
(○をつけてください)
「はい」の方は、どのように変わりましたか?
⑱
今、あなたはどんな国に興味がありますか?もしくは行ってみたいですか?
国→ 〔
〕 *何カ国でも構いません!
その国のどんなところに興味をもっている、または、魅力を感じていますか?
⑲
今日の感想を自由に書いてください。
ご協力ありがとうございました!
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