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第 5 章 銀行業の資本コスト

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第 5 章 銀行業の資本コスト
第5章
銀行業の資本コスト
1. はじめに
資本コストの計測方法は種々ある。どの計測
本章の目的は日本の銀行業における資本コ
方法が最適であるかのコンセンサスに欠ける
ストの推計である。銀行業を含めて日本の金融
ことが原因となっている。分析の目的によって
業の役割はいろいろな意味で重要である。例え
資本コストの定義も微妙に異なってくるし、制
ば、金融資産・GNP 比は非常に高くなってき
度的な要因の差異が資本コストの計測方法に
たし、金融の国際化・自由化の進展は著しい。
与える影響も大きい。どの産業ないしどの企業
種々の視点から銀行の果たす役割や効果を経
の資本コストを計測するかの差も無視できな
済学的に分析する必要性は高まっているが、本
い。
稿ではそのうちの資本コストに焦点をあてる。
本稿で計測する資本コストは対象が銀行で
ここでの分析の特色をあげれば次のように
あり、しかも個別銀行ごとの計測を行なうので、
なる。第 1 に、銀行の業態別(すなわち、都銀、
銀行業に特有な制度的要素を考慮する必要が
地銀、長信銀)に分析を行なったことである。
ある。しかしながら、基本的な考え方は、前述
規模、業態によって資本調達力に差があるかど
の「企業が投資を行なう際に要求される税引前
うか吟味したいからである。第 2 に、業態別の
収益率」という資本コストの基本的な定義に合
みならず個別銀行別に資本コストを計測した。
致する方法を採用する。
いうまでもなく銀行別の差異を明らかにする
ここで簡単に資本コストの計測式を導出し
ためである。第 3 に、過去から現在までの変遷
てみよう。以下に記述する計測式は、伝統的な
をたどって、銀行業の変化を資本コストに立脚
方法に依存した。例えば King and Fullerton
して検討してみたい。第 4 に、銀行の株保有に
(1984)の考え方を参照のこと。しかしながら、
よって生じた含み益を考慮した特と、含み益を
本稿においては銀行業という特殊な産業の要
考慮しない時によって、資本コストに差が生じ
因をも考慮しなければならないので、かなりの
るか吟味してみたい。日本の銀行は英米と異な
修正が必要である。
り他企業の株を保有できる。現今の株高によっ
資本コストを p とすると、一般に資本コスト
て銀行の含み益が巨額になっていることの効
は実質利子率 r の関数として、
(1)式のように
果を、不完全ではあるが検証してみた。第 5 に、
表わされる。ここで関数 c は税制やその他の要
アメリカの銀行業との比較を資本コストの側
因によって規定されるものである。
面から行なうために、アメリカの銀行業におけ
(1)
る資本コストの計測も行なった。
2.
p=c(r)
ここで企業が 1 単位の投資を行なうものとし
よう。MRR を 1 単位の投資への粗収益率とし、
計測方法
資本コストを言葉で定義すると次のように
なる。すなわち、「企業が投資を行なう際に要
δを減価償却率とすると、純収益率は(2)式
で表わされる。
(2)
求される最小(税引前)収益率」と定義される。
p= MRR-δ
ある投資プロジェクトが資本コストを上まわ
法人税率をτとし、企業がキャッシュ・フロ
らない限り、この投資は企業(ないし株主)に
ーを名目割引率ρで割引するものとすると、税
とって望ましくなく、従ってこの投資は実行さ
引後の割引利潤は(3)式で表わされる。
れないのが普通である。
−64−
∞
業においてもその他の調達方法と比較してそ
0
のウェイトは非常に小さいので、本稿では無視
(3) V = ∫ (1 − τ ) MRR ・ e − ( ρ + δ − π ) du
=
(1 − τ ) MRR
(ρ + δ − π )
する。従って、銀行業における資金調達方法は
(i)預金、
(ii)銀行間貸借、
(iii)内部留保の
3 種類とする。
ただし、πはインフレ率である。ここで割引率
先ず預金の場合を考慮しよう。市場性金利
は内生的に決定される。それは、実質利子率の
(ないし経済的金利)を i、非金利的な便益
みならず資金調達方法にも依存する。
(インプリシット金利)を x、実行預金金利を
もし税制やその他の制度的要因で資産に優
遇措置があったとする。それを A で表わすと、
id、預金に対する限界税率を m とすると、金利
の裁定式によって(6)式が成立する。
1 単位あたりのコストは(4)式で表わされる。
(4)
(6)
一般に名目利子所得には課税され、名目利子
c=1-A
ここで考えられたプロジェクトが投資家に
とって魅力的であるためには、ある与えられた
割引率の下では、V と C が等しいような MRR
の値(すなわち粗収益率の大きさ)が得られな
ければならない。言い換えるならば、もし MRR
支払い額は控除が可能なので、企業の割引率は
税を除いた利子率に等しくなる。従って、(6)
式を解いて(i d +x)が{i-m(i- i d )}に等しく
なり、預金による資金調達の割引率ρD は(7)
式によって与えられる。
(7)
がプロジェクトに対する所与の収益率である
とするなら、企業が資金調達を可能にする税引
後利子率は、V と C を一致させるようなρの値
である。ここで V と C を等しくすると、
ρ D = {i - m(i - i d )}(1 − τ)
次に銀行間の貸借による割引率らρM を考え
よう。日本の市場ではコール・ローンと呼ばれ
る短期の借入れで、一般の企業における借入れ
(5)式が得られる。
(5)
i(1-m)= i d (1-m)+x
と同様に取り扱うことができる。従ってρM は
(1 − A)
p=
(ρ + δ − π ) − δ
(1 − τ )
(8)式のように書ける。
次に考慮されねばならないことは、企業の割
(8)
引率と利子率の関係を明らかにすることである。
ρM =i(1-τ )
最後に内部留保による割引率ρR を考えてみ
ここでは企業の資金調達方法による差に注意す
よう。前述のように本稿では新株発行を無視し
る必要がある。さらに税制やその他の制度的要
ているので、ここで考慮するのは内部留保のみ
因による差異の影響力を考慮する必要があるし、
である。わが国における配当性向は極端に低く、
銀行業の特殊性をモデル化する必要がある。一
しかも企業の資金調達において内部留保の方
般に企業の資金調達方法は非金融業では 3 種類
が新株発行よりウェイトとしてはるかに重要
ある。第 1 に借入金、第 2 に新株発行、第 3 に
なので、新株発行を無視するのはさほど非現実
内部留保である。銀行業に特有な資金調達方法
的ではない。新株発行が内部留保かをめぐって
は、銀行間の貸借(inter - bank loan)と預金で
はいろいろ説がある。例えば、King and Fuller-
ある。銀行間の貸借は非金融業における借入金
ton(1984)では”trapped equity hypothesis”
の変型と考えられるが、基本的には同様のもの
を採用しているのに対して、Bernheim and
と処理できる。預金は銀行にとって大きな資金
Shoven(1986)では株の買い戻しを認めるア
源であるので、別個に考慮する必要がある。新
メリカが念頭にあるために、”trapped equity
株発行の比率は、どこの国においても、どの産
hypothesis”を破棄する。わが国では株の買い
−65−
戻しが認められていないので、新株発行と内部
る最大の資金運用は、貸付と債券取引であって、
留保の割引率が等しいと仮定するには無理が
これらは伝統的な減価償却となじむ性格のも
ある。従って King and Fullerton にならって、
のではない。従って、δ≒0 を仮定してもあな
内部留保における割引率を次のように導出す
がち非現実的ではあるまい。また減価債却に与
る。内部留保のメリットは投資家が所得税では
えられる種々の優遇措置や、準備金や引当金も
なくて、資本利得税(capital gain tax)がかけ
非金融業に比較して小さいと考えられるので、
られる収益率で資本貯蓄できる点にある。多く
A≒0 を仮定することも可能である。以上をま
の国において実効資本利得税率は所得税率よ
とめると、本稿では(5)式において簡単化の
りもかなり低く、この点にも魅力があるといえ
ためにδ=0、A=0 を仮定して計算を行なう。
る。投資家の利益はρR(1-z)=i(1-m)の成立す
逆に銀行業に特有な準備金や引当金を無視す
るようなρR であらねばならない。ここで z は
ることの危険性は残っている。すなわち貸倒引
未実現の実効資本利得税率である。上式を変形
当金等の存在である。それらの制度がどれだけ
すると(9)式が得られる。
の優遇税制になっているのかを知ることは容易
(9)
ρ R = i(
1− m
)
1− z
ではないので、本稿では簡単化のために無視し
た。将来は分析の対象になりうる課題である。
以上が銀行業を念頭においた場合に、3 種類
の資金調達法に応じて計算された割引率であ
3.
計測結果
3−1 業態別の時系列変化
る。銀行の業態(都銀、地銀等)と個別銀行に
先ず資本コストの計測に際して用いられた
よって、資金調達法(ウェイト)は異なると考
データを簡単に説明しておこう。ここではデー
えられるので、
(i)預金、
(ii)コール・ローン、
タの概略だけ説明する。日本の銀行業に関する
(iii)内部留保の全体を考慮した時の割引率は
基本的データは、全国銀行協会連合会の発行す
3 者の加重平均として、
(10)式で表わされる。
る「全国銀行財務諸表分析」の各年版である。
(10)
ρ = ∑ωi ρi
アメリカの銀行業に関する基本データは
ただし i=D,M,R
[Federal Reserve Bulletin]に掲載されてい
i
る財務諸表データの銀行計である。従って、日
ただしωi はバランス・シートから与えられ
るウェイトである。
本の銀行に関しては、銀行の業態別(都銀、地
銀、長信銀)とデータの可能な限り個別銀行毎
(10)式を(5)式に代入することによって
資本コスト p が得られることになる。
に計算しているが、アメリカの銀行については
銀行計の数字しか得られていない。
ここで銀行業に特有な制度を再び考慮する
必要がある。それは(5)式に表われた A とδ
である。銀行業における投資は機械類はさほど
多くなく、建物や土地であると考えられる。従
って、減価償却は耐用年数を考慮に入れると非
常にゆっくりなされるとみなせる。最近重要に
なってきたのは銀行業におけるコンピュータ
ー等の投資である。資本コストの計測に際して
コンピューター等の減価償却を考慮する必要
性は今後高まってこよう。とはいえ、金融業におけ
先ず全体の動向をみるために、図 1 を検討し
てみよう。図 1 は、都市銀行、長信銀行、地方
銀行別に昭和 46 年から資本コストをグラフ化
したものである。図 1 をみて明らかなことは、
都銀、長信銀、地銀の 3 業態共に、時系列的には
似た動きをしていることがわかる。すなわち同時
点における業態別の資本コストに大差はない。
これは別に不思議なことではない。
先ず第 1 に、
銀行の業態別に資本コストに大差があるとい
うことは、銀行業態間の優劣に大差があること
を示していることになる。日本の金融業(銀行
−66−
図 1,日本の銀行業における資本コスト(業態別推計)
資本コスト
(昭和;年)
:都銀
:地方銀行
:長信銀
:アメリカの銀行
業)は規制が厳しくかつ保護されていたので、
1 は都銀、地銀、長信銀、相互銀行、銀行計別
優劣に大差を生じることはない。第 2 に、資本
に資本コスト計算に使用した基礎データを示
コストはインフレ率の影響を大きく受ける。従
したものである。この表からさまざまな事実を
って、日本経済の物価水準の変動に応じて、資
明らかにすることができる。特に最近時点に注
本コストも大きく変動する。表 1 はインフレ率
目すると、次のようなことがいえる。第 1 に、
の影響によって、時系列的にみれば、すべての
市場性の金利負担をみた場合、都銀の方が地銀
銀行の資本コストが大きく変動することを示
よりもかなり高い。すなわち都銀は高金利で銀
している。特に昭和 48 年から 49 年にかけての
行からの借入れをしている。これは都銀にとっ
第 1 次オイルショックの影響は大きく、資本コ
て資金の運用先が多く、しかも運用額も大きい
ストはマイナスになっている。資本の収益率が
ので、少々無理しても市場型の資金調達をして
マイナスというのは異常な事態であるが、その
いると解釈できる。都銀の市場性資金調達コス
ツケは消費者(ないし預金者)にまわされてい
トの高さが、地銀の資本コストの低い理由の 1
たともいえる。第 3 に、昭和 52 年から 57 年に
つにもなっている。
かけて、都銀、長信銀、地銀の資本コストの順
第 2 に、預金金利負担をみても都銀の方が地
位に変化が発生している。すなわち前半では資
銀よりも高い調達コストを支払っている。また
本コストの高さの順からすると、長信銀、都銀、
長信銀の預金金利は都銀よりもかなり高くな
地銀のランクであったが、後半では都銀、地銀、
っていることもわかる。長信銀の高いことは容
長信銀の順である。第 4 に、現在時点をとると、
易に説明できるが、都銀が地銀よりも預金の調
業態別に比較すると、過去にみられた程の差は
達コストの高い理由ははっきりしない。例えば、
ないといえるが、完全に差はないとはいいきれ
都銀の場合過去の高い預金金利がラグを伴っ
ない。
て、2−3 年後に高い負担となって足を引っ張
業態別の差をもう少し詳しく検討して、資本
る効果が、地銀よりも強いのかもしれない。
コストに差の出る発生原因を考えてみよう。表
−67−
第 3 に、資金の調達方法を銀行業態別に比較
−68−
0.0075
0.0071
0.0067
0.0142
0.0069
0.0068
0.0557
0.0369
0.0510
0.0429
0.0601
0.0794
0.0150
0.0150
-0.0010
0.0683
0.0497
0.0459
0.0242
0.0240
0.0248
0.0807
0.0594
0.0560
0.1896
0.1957
0.1874
0.0694
0.0501
0.0463
0.7862
0.7803
0.7878
0.0676
0.0493
0.0455
0.0565
0.0456
0.0426
0.0725
0.0534
0.0503
S 60
S 61
S 62
CB
CB
CB
上記のウェイト
0.0079
0.0192
0.0706
0.0406
0.0150
0.0827
0.0229
0.0978
0.1899
0.0843
0.7872
0.0819
0.0662
0.0878
S 59
CB
WM:
0.0087
0.0189
0.0745
0.0472
0.0060
0.0769
0.0244
0.0916
0.1866
0.0785
0.7891
0.0761
0.0610
0.0823
S 58
CB
銀行間貸借の調達による割引率
0.0091
0.0283
0.0826
0.0415
0.0160
0.0952
0.0245
0.1133
0.1779
0.0976
0.7976
0.0941
0.0699
0.1018
S 57
CB
RHOM:
0.0096
0.0389
0.0952
0.0294
0.0250
0.1174
0.0256
0.1386
0.1643
0.1209
0.8101
0.1160
0.0807
0.1246
S 56
CB
上記のウェイト
0.0104
0.0405
0.0647
0.0277
0.0460
0.1089
0.0268
0.1288
0.1721
0.1126
0.8011
0.1075
0.0700
0.1158
S 55
CB
WD:
0.0107
0.0317
0.0572
0.0308
0.0260
0.0814
0.0286
0.0975
0.1735
0.0839
0.7979
0.0803
0.0512
0.0865
S 54
CB
預金調達による割引率
0.0113
0.0107
0.0056
0.0573
0.0440
0.0492
0.0314
0.0596
0.1475
0.0499
0.8210
0.0487
0.0410
0.0529
S 53
CB
RHOD:
0.0121
0.0099
0.0005
0.0524
0.0540
0.0544
0.0332
0.0654
0.1543
0.0550
0.8125
0.0539
0.0469
0.0580
S 52
CB
実行預金金利
0.0125
0.0170
-0.0096
0.0598
0.0750
0.0660
0.0332
0.0804
0.1556
0.0671
0.8112
0.0652
0.0523
0.0713
S 51
CB
XID :
0.0124
0.0322
0.0263
0.0570
0.0610
0.0858
0.0330
0.1052
0.1655
0.0881
0.8015
0.0846
0.0575
0.0934
S 50
CB
Y:
X:
P:
TAU:
WR:
単位あたリ預金コスト
非金利サービス
資本コスト
実行法人税率
上記のウェイト
内部留保調達による割引率
0.0114
0.0528
-0.0867
0.0608
0.1890
0.1076
0.0336
0.1335
0.1806
0.1113
0.7858
0.1056
0.0596
0.1185
S 49
CB
RHOR:
0.0100
0.0367
-0.0827
0.0638
0.1570
0.0796
0.0351
0.0989
0.1569
0.0822
0.8080
0.0782
0.0469
0.0878
S 48
CB
非金利的な便益(インプリシット金利)
0.0093
0.0094
-0.0224
0.0971
0.0670
0.0468
0.0364
0.0589
0.1159
0.0472
0.8477
0.0462
0.0418
0.0523
S 47
CB
XI:
0.0107
0.0165
0.0043
0.1146
0.0490
0.0528
0.0399
0.0683
0.1265
0.0536
0.8336
0.0520
0.0422
0.0606
S 46
CB
Y
X
P
TAU
PI
RHO
WR
RHOR
WM
RHOM
WD
RHOD
XID
XI
表 1,銀行業態別にみた基礎統計表(その 1,都銀)
−69−
−69−
0.0109
0.0106
0.0111
0.0133
0.0146
0.0147
0.0149
0.0141
0.0135
0.0137
0.0133
0.0131
0.0128
0.0123
0.0119
0.0114
0.0105
0.0138
0.0084
0.0391
0.0489
0.0190
0.0106
0.0042
0.0111
0.0404
0.0434
0.0454
0.0340
0.0221
0.0236
0.0178
0.0086
0.0135
-0.0008
-0.0281
-0.0988
-0.1219
0.0069
-0.0207
-0.0103
-0.0017
0.0514
0.0505
0.0736
0.0654
0.0631
0.0553
0.0479
0.0314
0.0494
0.1546
0.1388
0.1343
0.1563
0.0962
0.0882
0.0973
0.0938
0.0790
0.0579
0.0584
0.0773
0.0837
0.0715
0.0707
0.0872
0.0783
0.0490
0.0670
0.1570
0.1890
0.0610
0.0750
0.0540
0.0440
0.0260
0.0460
0.0250
0.0160
0.0060
0.0150
0.0150
0.0150
-0.0010
0.0483
0.0428
0.0714
0.0861
0.0672
0.0561
0.0447
0.0425
0.0733
0.0936
0.0943
0.0763
0.0638
0.0663
0.0596
0.0436
0.0445
0.0556
0.0532
0.0518
0.0531
0.0529
0.0514
0.0498
0.0480
0.0459
0.0448
0.0434
0.0422
0.0417
0.0407
0.0401
0.0395
0.0386
0.0649
0.0561
0.0963
0.1189
0.0850
0.0698
0.0556
0.0535
0.0937
0.1154
0.1166
0.0958
0.0797
0.0820
0.0730
0.0538
0.0550
0.0058
0.0065
0.0070
0.0087
0.0090
0.0097
0.0104
0.0112
0.0169
0.0217
0.0210
0.0273
0.0362
0.0445
0.0563
0.0598
0.0639
0.0487
0.0428
0.0740
0.0890
0.0682
0.0564
0.0445
0.0431
0.0765
0.0977
0.0987
0.0794
0.0656
0.0684
0.0610
0.0442
0.0456
0. 9387
0.9403
0.9412
0.9382
0.9381
0.9390
0.9398
0.9408
0.9372
0.9335
0.9356
0.9306
0.9221
0.9148
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0.9008
0.8975
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0.0420
0.0701
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0.0553
0.0441
0.0419
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0.0924
0.0932
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0.0655
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0.0484
0.0495
S 46
S 47
S 48
S 49
S 50
S 51
S 52
S 53
S 54
S 55
S 56
S 57
S 58
S 59
S 60
S 61
S 62
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
RB
Y
X
P
TAU
PI
RHO
WR
RHOR
WM
RHOM
WD
RHOD
XID
XI
表 1,銀行業態別にみた基礎統計表(その 2,地銀)
−70−
0.0060
0.0052
0.0062
0.0068
0.0072
0.0075
0.0076
0.0067
0.0065
0.0062
0.0063
0.0062
0.0056
0.0051
0.0051
0.0050
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0.0000
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0.0150
0.0150
-0.0010
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0.0727
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0.0702
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0.0572
0.0520
0.0465
0.0414
0.0412
0.0618
0.0821
0.1042
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0.0756
0.0771
0.0699
0.0604
0.0547
S 46
S 47
S 48
S 49
S 50
S 51
S 52
S 53
S 54
S 55
S 56
S 57
S 58
S 59
S 60
S 61
S 62
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
LTCB
Y
X
P
TAU
PI
RHO
WR
RHOR
WM
RHOM
WD
RHOD
XID
XI
表 1,銀行業態別にみた基礎統計表(その 3,長信銀)
−71−
0.0124
0.0118
0.0128
0.0148
0.0156
0.0154
0.0152
0.0144
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0.0136
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0.0130
0.0127
0.0120
0.0120
0.0115
0.0111
0.0130
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0.0471
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0.0089
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0.0418
0.0442
0.0332
0.0211
0.0231
0.0165
0.0071
0.0122
0.0016
-0.0266
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-0.1161
0.0084
-0.0195
-0.0090
-0.0012
0.0513
0.0506
0.0741
0.0652
0.0630
0.0552
0.0479
0.0313
0.0494
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0.1180
0.1307
0.1307
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0.0654
0.0902
0.0855
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0.0670
0.1570
0.1890
0.0610
0.0750
0.0540
0.0440
0.0260
0.0460
0.0250
0.0160
0.0060
0.0150
0.0150
0.0150
-0.0010
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0.0954
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0.0647
0.0668
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0.0435
0.0442
0.0198
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0.0338
0.0335
0.0336
0.0336
0.0330
0.0320
0.0303
0.0293
0.0530
0.0278
0.0278
0.0273
0.0268
0.0265
0.0275
0.0649
0.0561
0.0963
0.1189
0.0850
0.0698
0.0556
0.0535
0.0937
0.1154
0.1166
0.0958
0.0797
0.0820
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0.0538
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0.0046
0.0033
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0.0022
0.0032
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0.0141
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0.0258
0.0316
0.0347
0.0514
0.0439
0.0743
0.0917
0.0700
0.0574
0.0456
0.0436
0.0773
0.0986
0.0995
0.0801
0.0667
0.0691
0.0613
0.0440
0.0452
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0.9608
0.9629
0.9643
0.9642
0.9632
0.9627
0.9627
0.9620
0.9614
0.9350
0.9581
0.9544
0.9524
0.9474
0.9418
0.9378
0.0501
0.0431
0.0705
0.0870
0.0682
0.0565
0.0453
0.0426
0.0731
0.0935
0.0941
0.0761
0.0642
0.0664
0.0594
0.0432
0.0438
0.0431
0.0416
0.0430
0.0530
0.0562
0.0519
0.0467
0.0370
0.0390
0.0565
0.0549
0.0486
0.0478
0.0476
0.0470
0.0404
0.0357
0.0576
0.0497
0.0854
0.1055
0.0754
0.0619
0.0493
0.0475
0.0831
0.1037
0.1048
0.0860
0.0716
0.0736
0.0656
0.0484
0.0495
S 46
S 47
S 48
S 49
S 50
S 51
S 52
S 53
S 54
S 55
S 56
S 57
S 58
S 59
S 60
S 61
S 62
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
MB
Y
X
P
TAU
PI
RHO
WR
RHOR
WM
RHOM
WD
RHOD
XID
XI
表 1,銀行業態別にみた基礎統計表(その 4,相銀)
−72−
0.0104
0.0094
0.0101
0.0116
0.0126
0.0128
0.0127
0.0119
0.0113
0.0111
0.0105
0.0101
0.0097
0.0090
0.0087
0.0082
0.0076
0.0187
0.0190
0.0305
0.0380
0.0266
0.0210
0.0189
0.0210
0.0299
0.0292
0.0271
0.0240
0.0196
0.0191
0.0155
0.0107
0.0100
0.0062
-0.0134
-0.0931
-0.1091
0.0189
-0.0068
0.0081
0.0138
0.0509
0.0480
0.0749
0.0716
0.0711
0.0654
0.0540
0.0392
0.0524
0.1190
0.1027
0.0771
0.0807
0.0648
0.0658
0.0654
0.0640
0.0411
0.0338
0.0351
0.0484
0.0531
0.0444
0.0476
0.0630
0.0751
0.0490
0.0670
0.1570
0.1890
0.0610
0.0750
0.0540
0.0440
0.0260
0.0460
0.0250
0.0160
0.0060
0.0150
0.0150
0.0150
-0.0010
0.0545
0.0549
0.0711
0.0887
0.0787
0.0686
0.0616
0.0570
0.0748
0.0924
0.0973
0.0841
0.0733
0.0775
0.0665
0.0517
0.0475
0.0438
0.0409
0.0395
0.0387
0.0383
0.0379
0.0377
0.0362
0.0338
0.0322
0.0308
0.0295
0.0291
0.0274
0.0282
0.0277
0.0281
0.0707
0.0702
0.0890
0.1114
0.0967
0.0842
0.0756
0.0702
0.0903
0.1091
0.1146
0.1005
0.0878
0.0919
0.0790
0.0623
0.0579
0.1749
0.1675
0.1911
0.2043
0.1972
0.1933
0.1940
0.1890
0.2046
0.2035
0.1974
0.2074
0.2181
0.2215
0.2246
0.2308
0.2226
0.0553
0.0559
0.0729
0.0909
0.0803
0.0698
0.0627
0.0583
0.0768
0.0947
0.0994
0.0859
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0.0789
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0.0524
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0.7644
0.7718
0.7631
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0.7415
0.7493
0.0534
0.0539
0.0697
0.0869
0.0774
0.0676
0.0606
0.0560
0.0735
0.0911
0.0960
0.0830
0.0723
0.0766
0.0657
0.0511
0.0469
0.0419
0.0411
0.0450
0.0566
0.0562
0.0514
0.0459
0.0389
0.0468
0.0651
0.0724
0.0633
0.0567
0.0610
0.0535
0.0438
0.0407
0.0628
0.0623
0.0790
0.0989
0.0858
0.0747
0.0670
0.0623
0.0801
0.0981
0.1030
0.0903
0.0789
0.0826
0.0709
0.0559
0.0520
S 46
S 47
S 48
S 49
S 50
S 51
S 52
S 53
S 54
S 55
S 56
S 57
S 58
S 59
S 60
S 61
S 62
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
T-EXMB
Y
X
P
TAU
PI
RHO
WR
RHOR
WM
RHOM
WD
RHOD
XID
XI
表 1,銀行業態別にみた基礎統計表(その 5,銀行計から相互銀行を除いたもの)
−73−
0.0107
0.0097
0.0104
0.0121
0.0130
0.0132
0.0130
0.0122
0.0116
0.0115
0.0116
0.0105
0.0101
0.0093
0.0091
0.0086
0.0080
0.0191
0.0194
0.0312
0.0392
0.0274
0.0216
0.0195
0.0217
0.0314
0.0312
0.0256
0.0262
0.0213
0.0212
0.0168
0.0115
0.0108
0.0062
-0.0136
-0.0941
-0.1103
0.0188
-0.0070
0.0080
0.0136
0.0506
0.0478
0.0751
0.0712
0.0708
0.0651
0.0539
0.0390
0.0523
0.1179
0.1042
0.0823
0.0853
0.0655
0.0664
0.0666
0.0659
0.0437
0.0352
0.0362
0.0501
0.0544
0.0455
0.0490
0.0651
0.0759
0.0490
0.0670
0.1570
0.1890
0.0610
0.0750
0.0540
0.0440
0.0260
0.0460
0.0250
0.0160
0.0060
0.0150
0.0150
0.0150
-0.0010
0.0545
0.0548
0.0706
0.0881
0.0785
0.0685
0.0614
0.0567
0.0744
0.0921
0.0974
0.0836
0.0730
0.0771
0.0663
0.0515
0.0474
0.0410
0.0402
0.0388
0.0381
0.0377
0.0374
0.0371
0.0357
0.0333
0.0318
0.0323
0.0293
0.0289
0.0274
0.0280
0.0276
0.0280
0.0708
0.0703
0.0891
0.1115
0.0968
0.0842
0.0756
0.0702
0.0903
0.1093
0.1148
0.1004
0.0878
0.0918
0.0790
0.0622
0.0579
0.1550
0.1487
0.1692
0.1804
0.1733
0.1698
0.1703
0.1661
0.1805
0.1802
0.1851
0.1856
0.1958
0.2008
0.2044
0.2113
0.2052
0.0554
0.0559
0.0726
0.0905
0.0802
0.0698
0.0626
0.0582
0.0766
0.0947
0.0994
0.0857
0.0746
0.0787
0.0675
0.0522
0.0481
0.8040
0.8111
0.7919
0.7815
0.7890
0.7928
0.7926
0.7982
0.7861
0.7880
0.7826
0.7852
0.7753
0.7718
0.7676
0.7611
0.7667
0.0535
0.0539
0.0693
0.0864
0.0773
0.0675
0.0605
0.0558
0.0732
0.0908
0.0962
0.0825
0.0720
0.0761
0.0655
0.0508
0.0468
0.0415
0.0407
0.0443
0.0553
0.0553
0.0507
0.0453
0.0380
0.0451
0.0630
0.0742
0.0606
0.0548
0.0585
0.0521
0.0429
0.0399
0.0628
0.0624
0.0791
0.0990
0.0859
0.0747
0.0671
0.0623
0.0801
0.0982
0.1031
0.0902
0.0789
0.0825
0.0710
0.0559
0.0520
S 46
S 47
S 48
S 49
S 50
S 51
S 52
S 53
S 54
S 55
S 56
S 57
S 58
S 59
S 60
S 61
S 62
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
T-INMB
Y
X
P
TAU
PI
RHO
WR
RHOR
WM
RHOM
WD
RHOD
XID
XI
表 1,銀行業態別にみた基礎統計表(その 6,全国銀行計)
してみよう。先ず、長信銀の市場型調達の圧倒
的なシェアーに比して、都銀と地銀は預金が 8
3−3 含み益の考慮
割から 9 割を占めている。銀行の業態による差
銀行業には多額の未実現キャピタル・ダイン
なので、当然といえば当然である。しかし長信
のあることは既に指摘した。日本の銀行は他企
銀に関していえば、債券発行による資金調達を
業の株をある一定限度保有することが認めら
預金型とするか、市場型とするか多少問題も残
れている。保有する株価の変動によって、キャ
るので、長信銀に関する数字は疑問も残る。さ
ピタル・ゲイン、ないしキャピタル・ロスの発
らに、都銀と地銀を比較した場合、市場性の調
生することは当然である。わが国の株価はブラ
達は都銀の方がやや高く、地銀の場合は 5−6%
ックマンデーの影響を受けて多少の下落はあ
以下で非常にシェアーが小さい。これも都銀の
ったけれど、中・長期的には上昇トレンドにあ
資金運用先の豊富さを反映しているといえよ
る。従って、銀行の含み益も相当な額になって
う。
いるものと想像される。
現時点において銀行業の財務状態のディス
3−2 銀行別の資本コスト
クロージャーは不完全で、含み益の厳格な推定
表 2 は昭和 60 年、61 年、62 年における銀行
は不可能である。しかし都銀の上位 5 行につい
別の資本コストの推計額と、それを計算するた
ては、週刊「東洋経済」や週刊「ダイヤモンド」
めの基礎データを示したものである。都銀の上
に推計値が示されているので、本稿ではそれを
位行全部、都銀の中・下位行からいくつか、地
用いて再推計を行なってみた。もとより、含み
銀の代表行をいくつか選んで表にしたもので
益の推計は困難なので、これらの数字の正確さ
ある。都銀の上位行以外はランダムに選んであ
については不問とした上での暫定計算である。
るといってよい。この表は未実現の含み益を考
含み益を考慮した場合には、銀行のバランス・
慮していないが、金利については期首と期末の
シートも簿価で評価されたバランス・シートと
単純平均したものをデータとして用いている。
異ってくる。本稿では、株式を時価評価し、預
この表から銀行別の資金調達方法、金利負担、
金と市場性負債は簿価評価のままで、新しいバ
ひいては経営能力等々に関して、数多くの興味
ランス・シートに変換したものを使用している。
ある事実を指摘することができる。しかしなが
表 3 は含み益を考慮した場合の、都銀上位 5
ら、分析の対象になった銀行の数も多く、1 つ・
行の資本コストの推計値を示したものである。
1 つの銀行に関してコメントをする余裕もない
銀行別に細かい評価をすることを避けるが、多
し、それはむしろ経営学者の仕事であるかもし
くの銀行において含み益を考慮した場合の方
れない。そこでここでは、全体を通していえる
が、含み益を考慮しない場合よりも、やや資本
印象論的な話題を 2−3 提供するにとどめる。
コストの上昇がみられる。ただし、2−3 のケ
第 1 に、前節で示した銀行業態別(都銀、地
ースは殆んどの差の生じないこともある。何故
銀、長信銀)の差が、この表ではより鮮明に現
含み益を考慮した時の方が資本コストがやや
われている。第 2 に、資本コストに関していえ
高くなるのだろうか。1 つの理由として次のよ
ば、都銀間のバラツキよりも、地銀間のバラツ
うに考えられる。含み益を考慮した時の方が内
キの方がはるかに大きい。これは地方銀行間に、
部留保による調達のウェイトが高まる。さらに
資金調達方法や経営成果等にかなり差がある
一般的にいって、内部留保の割引率が預金や市
ことを示していると考えられる。第 3 に、銀行
場性調達のそれよりも高いという事実がある。
の名前をいちいち示さないが、一般にいわれて
以上の 2 つが相乗効果を起こして、含み益を考
いる経営能力の高いとされる銀行の資本コス
慮した時に資本コストをやや上昇させるので
トが低くなっていることを知ることができる。
はないかと考えられる。
−74−
−75−
S 60
S 60
S 60
S 60
S 60
LTCB3
MB1
MB2
MB3
MB4
0.0184
0.0531
0.0397
0.0629
0.0726
0.0687
0.0695
0.0575
0.0594
0.1281
0.0634
0.0929
0.0760
0.0674
0.0726
0.0698
0.0630
0.0716
0.0530
0.0559
0.0383
0.0488
0.0502
0.0447
0.0208
0.0563
0.0460
0.0463
0.0697
0.0668
0.0740
0.0643
0.0672
0.0676
0.0523
0.0528
0.0481
0.1093
0.0477
0.0581
0.0425
0.0483
0.0814
0.0668
0.0512
0.0428
0.0654
0.9592
0.9424
0.9418
0.8736
0.2387
0.2361
0.2736
0.9510
0.9161
0.9564
0.9055
0.9167
0.8137
0.8341
0.8361
0.7911
0.7962
0.0667
0.0566
0.0559
0.7858
0.7859
0.8103
WD
0.7755
0.0648
0.0641
0.0663
RHOD
0.0651
0.0539
0.0558
0.0580
0.0553
XID
0.0177
0.0497
0.0371
0.0581
0.0706
0.0662
0.0674
0.0532
0.0540
0.1183
0.0597
0.0868
0.0739
0.0646
0.0692
0.0669
0.0683
0.0668
0.0663
0.0652
0.0680
RHOM
0.0199
0.0281
0.0322
0.0903
0.7396
0.7415
0.7032
0.0174
0.0539
0.0136
0.0573
0.0415
0.1666
0.1422
0.1423
0.1840
0.1804
0.1993
0.1879
0.1863
0.1681
WM
0.0299
0.0300
0.0315
0.0232
0.0224
0.0218
0.0361
0.0259
0.0296
0.0289
0.0662
0.0640
0.0773
0.0765
0.0808
0.0700
0.0441
0.0591
0.0205
0.0372
0.1426
0.0418
0.1034
0.0198
0.0237
0.0218
Y:単位あたりの預金コスト
X:非金利サービス
0.0207
0.0491
0.0384
0.0569
0.0706
0.0666
0.0676
0.0526
0.0532
0.1104
0.0586
0.0826
0.0723
0.0635
0.0675
0.0660
0.0673
0.0234
0.0248
0.0658
0.0655
0.0646
0.0669
RHO
0.0252
0.0263
0.0279
0.0216
WR
0.0705
0.0846
0.0750
0.0808
0.0779
0.0794
0.0773
0.0777
0.0762
0.0788
RHOR
銀行別資本コスト
記号の説明は表 1 を参照。ただし銀行名に S が付いているのは相互銀行を示す。
S 60
LTCB2
S 60
RB2
S 60
S 60
RB1
LTCB1
S 60
CB8
S 60
S 60
CB7
RB5
S 60
CB6
S 60
S 60
S 60
0.0699
S 60
CB5
CB5-T
RB4
0.0713
S 60
CB4
RB3
0.0694
S 60
CB3
0.0685
S 60
CB2
0.0708
S 60
CB1
XI
表 2 の 1,昭和 60 年度
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
PI
0.0372
0.0651
0.0637
0.0770
0.0267
0.0361
0.0296
0.0737
0.0918
0.0764
0.0580
0.0655
0.0277
0.0413
0.0470
0.0434
0.0415
0.0376
0.0500
0.0481
0.0395
TAU
0.0073
0.0150
-0.0094
0.0074
-0.0247
0.0454
0.0250
0.0365
0.0060
-0.0047
0.0017
0.0084
0.0104
0.0758
0.0133
0.0444
0.0178
0.0127
0.0189
0.0155
0.0156
0.0131
0.0111
0.0045
0.0049
0.0056
0.0161
0.0121
0.0117
0.0137
0.0122
0.0092
0.0089
0.0086
0.0069
0.0065
0.0130
0.0124
0.0067
0.0070
0.0067
0.0073
Y
0.0137
0.0125
0.0093
0.0137
X
0.0572
0.0535
0.0542
0.0406
0.0421
0.1033
0.0463
0.0723
0.0589
0.0506
0.0551
0.0533
0.0546
0.0527
0.0531
0.0521
0.0540
P
−76−
S 61
S 61
S 61
S 61
S 61
S 61
S 61
S 61
S 61
RB4
RB5
LTCB1
LTCB2
LTCB3
MB1
MB2
MB3
MB4
S 61
CB8
S 61
S 61
CB7
S 61
S 61
CB6
RB3
S 61
CB5-T
RB2
S 61
CB5
S 61
0.0528
S 61
CB4
RB1
0.0520
S 61
CB3
0.0209
0.0373
0.0324
0.0484
0.0643
0.0620
0.0607
0.0372
0.0401
0.0952
0.0400
0.0685
0.0564
0.0573
0.0524
0.0542
0.0513
0.0506
S 61
CB2
0.0558
S 61
CB1
XI
0.0377
0.0814
0.0375
0.0349
0.0570
0.0586
0.0622
0.0419
0.0308
0.0322
0.0222
0.0416
0.0371
0.0413
0.0410
0.0501
0.0572
0.0619
0.0393
0.0446
0.0371
0.0407
0.0532
0.0478
0.0595
0.0521
0.0375
0.0482
0.9434
0.9293
0.9336
0.8474
0.2312
0.2153
0.2866
0.9498
0.8948
0.9566
0.9061
0.9213
0.7975
0.8418
0.8202
0.7823
0.0488
0.0435
0.7757
0.7668
0.7786
0.7757
0.8100
WD
0.0483
0.0497
0.0470
0.0484
0.0508
RHOD
0.0418
0.0466
0.0475
0.0470
0.0477
0.0503
0.0416
XID
0.0201
0.0323
0.0296
0.0429
0.0625
0.0591
0.0581
0.0345
0.0374
0.0874
0.0375
0.0628
0.0542
0.0537
0.0492
0.0495
0.0488
0.0505
0.0474
0.0484
0.0523
RHOM
0.0276
0.0424
0.0405
0.1175
0.7477
0.7622
0.6910
0.0189
0.0773
0.0125
0.0578
0.0396
0.1822
0.1337
0.1584
0.1924
0.2001
0.2068
0.1938
0.1973
0.1680
WM
表 2 の 2,昭和 61 年度
0.0233
0.0415
0.0361
0.0539
0.0716
0.0690
0.0676
0.0414
0.0446
0.1059
0.0445
0.0762
0.0628
0.0638
0.0584
0.0587
0.0579
0.0603
0.0571
0.0563
0.0621
RHOR
0.0501
0.0486
0.0492
0.0264
0.0242
0.0253
0.0290
0.0283
0.0259
0.0351
0.0211
0.0225
0.0224
0.0313
0.0279
0.0309
0.0362
0.0391
0.0203
0.0245
0.0222
0.0325
0.0309
0.0425
0.0626
0.0592
0.0580
0.0351
0.0377
0.0822
0.0379
0.0603
0.0536
0.0526
0.0486
0.0474
0.0276
0.0214
0.0486
0.0513
RHO
0.0270
0.0220
WR
銀行別資本コスト
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
PI
0.0425
0.1347
0.0883
0.1143
0.0289
0.0466
0.0425
0.0727
0.0677
0.0812
0.0620
0.0831
0.0403
0.0619
0.0626
0.0622
0.0620
0.0690
0.0757
0.0430
0.0627
TAU
0.0075
0.0202
0.0175
0.0310
0.0490
0.0464
0.0449
0.0216
0.0243
0.0731
0.0245
0.0494
0.0402
0.0401
0.0358
0.0365
0.0359
0.0377
0.0351
0.0351
0.0387
P
-0.0175
0.0001
-0.0108
0.0081
0.0021
0.0043
0.0094
-0.0034
-0.0011
0.0515
-0.0014
0.0275
0.0076
0.0137
0.0079
0.0054
0.0040
0.0064
0.0032
0.0003
0.0126
X
0.0156
0.0144
0.0136
0.0108
0.0044
0.0049
0.0053
0.0159
0.0115
0.0114
0.0134
0.0109
0.0090
0.0087
0.0084
0.0066
0.0063
0.0065
0.0069
0.0063
0.0070
Y
−77−
S 62
S 62
S 62
S 62
S 62
S 62
S 62
S 62
S 62
RB4
RB5
LTCB1
LTCB2
LTCB3
MB1
MB2
MB3
MB4
S 62
CB8
S 62
S 62
CB7
S 62
S 62
CB6
RB3
S 62
CB5-T
RB2
S 62
CB5
S 62
0.0497
S 62
CB4
RB1
0.0469
S 62
CB3
0.0362
0.0245
0.0710
0.0351
0.0576
0.0567
0.0544
0.0149
0.0497
0.0496
0.0413
0.0612
0.0519
0.0606
0.0487
0.0537
0.0505
0.0490
S 62
CB2
0.0479
S 62
CB1
XI
0.0348
0.0339
0.0217
0.0323
0.0316
0.0370
0.0619
0.0556
0.0574
0.0403
0.0543
0.0519
0.0620
0.0615
0.0157
0.0344
0.0459
0.0438
0.0370
0.0383
0.0323
0.0540
0.0368
0.0337
0.0491
0.0554
0.0459
0.0446
0.0408
0.0450
0.0461
0.0404
0.0432
0.0483
0.0456
0.0447
0.0430
RHOD
0.0457
0.0464
0.0449
0.0489
0.0448
XID
0.9331
0.9003
0.9201
0.8649
0.2238
0.2178
0.3144
0.9543
0.8745
0.9553
0.9024
0.9254
0.7662
0.8351
0.8111
0.7850
0.7734
0.7678
0.7775
0.7840
0.8185
WD
0.0340
0.0210
0.0651
0.0314
0.0556
0.0538
0.0511
0.0136
0.0473
0.0456
0.0388
0.0569
0.0498
0.0576
0.0455
0.0454
0.0434
0.0491
0.0462
0.0447
0.0433
RHOM
0.0376
0.0738
0.0529
0.0945
0.7540
0.7574
0.6600
0.0126
0.0964
0.0151
0.0624
0.0391
0.2112
0.1386
0.1641
0.1882
0.2009
0.2044
0.1930
0.1896
0.1571
WM
表 2 の 3,昭和 62 年度
0.0355
0.0352
0.0296
0.0291
0.0331
0.0256
0.0248
0.0221
0.0406
0.0270
0.0258
0.0293
0.0460
0.0552
0.0553
0.0166
0.0605
0.0631
0.0641
0.0390
0.0790
0.0273
0.0403
0.0226
0.0578
0.0682
0.0262
0.0248
0.0267
0.0256
0.0278
0.0295
0.0264
0.0243
WR
0.0675
0.0543
0.0553
0.0522
0.0598
0.0562
0.0545
0.0533
RHOR
銀行別資本コスト
0.0341
0.0218
0.0625
0.0319
0.0558
0.0541
0.0516
0.0157
0.0463
0.0441
0.0386
0.0546
0.0494
0.0560
0.0450
0.0453
0.0435
0.0488
0.0460
0.0450
0.0433
RHO
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
PI
0.0599
0.1462
0.0824
0.1049
0.0341
0.0518
0.0612
0.0842
0.0483
0.0814
0.0623
0.0713
0.0412
0.0507
0.0663
0.0866
0.0760
0.0862
0.0853
0.0870
0.0969
TAU
-0.0173
-0.0068
-0.0043
0.0001
-0.0017
0.0272
-0.0068
0.0012
0.0560
0.0581
0.0588
0.0367
0.0693
0.0267
0.0373
0.0112
0.0154
0.0040
0.0244
0.0053
0.0176
0.0074
0.0031
0.0011
0.0065
0.0050
0.0001
0.0027
X
0.0182
0.0497
0.0491
0.0422
0.0598
0.0526
0.0601
0.0493
0.0507
0.0481
0.0545
0.0514
0.0504
0.0490
P
0.0159
0.0132
0.0138
0.0103
0.0044
0.0053
0.0053
0.0152
0.0106
0.0106
0.0129
0.0098
0.0092
0.0090
0.0080
0.0064
0.0058
0.0063
0.0066
0.0066
0.0066
Y
−78−
0.0559
XID
0.0466
XID
0.0713
0.0699
XI
0.0558
0.0506
0.0513
0.0542
0.0520
0.0528
XI
0.0479
0.0490
0.0505
0.0537
0.0469
0.0497
S 60
S 60
S 60
S 60
S 61
S 61
S 61
S 61
S 61
S 61
S 62
S 62
S 62
S 62
S 62
S 62
CB4
CB5
CB5-T
CB1
CB2
CB3
CB4
CB5
CB5-T
CB1
CB2
CB3
CB4
CB5
CB5-T
0.0461
0.0457
0.0464
0.0449
0.0489
0.0448
0.0475
0.0470
0.0477
0.0503
0.0416
0.0566
0.0539
0.0558
0.0459
0.0441
0.0492
0.0466
0.0456
0.0439
RHOD
0.0501
0.0496
0.0514
0.0486
0.0491
0.0522
RHOD
0.0661
0.0674
0.0659
0.0656
0.0648
0.0670
RHOD
記号の説明は表 1 と表 2 を参照。
0.0694
0.0698
0.0580
0.0553
CB3
0.0685
S 60
0.0708
S 60
CB2
XID
CB1
XI
0.7139
0.7071
0.6880
0.7088
0.7202
0.7419
WD
0.7185
0.7165
0.6929
0.7180
0.7178
0.7431
WD
0.7411
0.7490
0.7199
0.7394
0.7377
0.7577
WD
0.0463
0.0443
0.0499
0.0472
0.0456
0.0442
RHOM
0.0508
0.0501
0.0522
0.0490
0.0492
0.0537
RHOM
0.0677
0.0690
0.0677
0.0672
0.0659
0.0688
RHOM
0.1712
0.1837
0.1831
0.1759
0.1741
0.1424
WM
0.1767
0.1848
0.1869
0.1787
0.1826
0.1541
WM
0.1724
0.1697
0.1850
0.1769
0.1748
0.1572
WM
0.0553
0.0522
0.0598
0.0562
0.0545
0.0533
RHOR
0.0587
0.0579
0.0603
0.0571
0.0563
0.0621
RHOR
0.0779
0.0794
0.0773
0.0777
0.0762
0.0788
RHOR
0.1149
0.1092
0.1288
0.1153
0.1057
0.1156
WR
0.1049
0.0987
0.1203
0.1033
0.0996
0.1028
WR
0.0865
0.0813
0.0951
0.0837
0.0875
0.0851
WR
表 3,都銀 5 行について有価証券の含み益を考慮した時の資本コスト
0.0471
0.0451
0.0507
0.0478
0.0465
0.0450
RHO
0.0511
0.0505
0.0526
0.0495
0.0499
0.0534
RHO
0.0674
0.0687
0.0673
0.0669
0.0660
0.0683
RHO
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
-0.0010
PI
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
PI
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
0.0150
PI
0.0677
0.0563
0.0706
0.0642
0.0692
0.0773
TAU
0.0374
0.0377
0.0376
0.0460
0.0283
0.0374
TAU
0.0324
0.0317
0.0255
0.0384
0.0377
0.0292
TAU
0.0516
0.0488
0.0556
0.0522
0.0511
0.0499
P
0.0375
0.0369
0.0391
0.0362
0.0359
0.0399
P
0.0542
0.0554
0.0537
0.0540
0.0530
0.0549
P
3−4
日米銀行の比較
とが可能である。この点に注目して、Aliber
もとより国際比較には種々の困難が伴う。
(1984). Goldb-
例えば、制度の違いによる影響、財務諸表デ
erg and Saunders (1980). Porzencanski (19
ータ作成方法の相違、とりあげる銀行自体の
81).等は、必ずしも日米の銀行だけに注目せず、
法的・経済的特徴の差、等々、解決されねば
世界各国の銀行の資本コストを比較している。
ならない課題はいろいろある。本稿の目的は
日米間の銀行業比較に注目すれば、資本コ
日本の銀行業が中心の関心であるので、アメ
ストを比較したものとして 2−3 の研究がある。
リカの銀行業との比較をそれ程厳密に行わな
それらの研究、例えば Porzencanski (1981).
い。従って、会計制度の差の調整を行なわな
Goldberg and Sanders ( 1980 ) . Al iber
いし、個別銀行ごとの比較も行なわない。 日
(1984)等によるコンセンサスは、アメリカ
本の銀行全体(ただし信託銀行は除く)とア
の銀行の資本コストの方が日本のそれよりも
メリカの銀行全体の集計量による財務諸表デ
高いという結果である。例外的に最近の
ータを用いて比較する。
Umene(1986)による日米間の銀行業の資本
比較の結果を評価する前に、日米の銀行
コスト比較研究によると、大差はないという
の資本コストを比較することの意味を簡単
主張がされている。それらの研究は推計方法
に述べておこう。金融の国際化・自由化の
が異なっていることに注意されたい。非金融
嵐は著しいが、日米の銀行間の競争も激し
業の資本コストを日米間で比較した研究例は
くなっている。資本自由化の進展は著しく、
数多い。例えば、Baldwin(1986). Ando and
それに伴って日本の銀行がアメリカにおい
Auerback ( 1987.1988 ). Bernheim and
て、逆にアメリカの銀行が日本において業
Shoven(1986). Hatsopoulos and Brooks (1
務を行なう重要性は益々高まっている。銀行
987). Friend and Tokutsu(1986). Sho-
が他国で業務を行なう場合に、本国での資本
ven and Tachibanaki(1988)等があげられ
コストの高低が他国での業務に有利・不利に
る。これらの研究は、とりあげる企業が集計
なる可能性がある。言い換えるならば、本国
量であったり個別企業であったりして、厳密
での資本コストを比較することによって、他
な比較は困難であるし、推定方法の違いも大
国での業務を行なう際の競争力を予測するこ
きい。しかし、数多くの研究がアメリカの資
図 2,日米銀行業の資本コスト比較
資本コスト
(昭和,年)
:アメリカの銀行
:日本の都銀
:日本の全国銀行
−79−
本コストの方が日本のそれよりも高いというこ
とを主張している。明白な例外は Baldwin (19
86)である。以上をまとめると、金融業、非金
融業をとわずアメリカの資本コストの方が、日
本のそれよりも高いというのは、多少の例外を
除いて普遍性の高い認識であるといえよう。本
研究による日米の銀行比較はどうであろうか。
表 4 と図 2 が日米の銀行業における資本コス
トの変遷を示したものである。筒単にこの図と
表から得られる事実を述べてみよう。第 1 に、
日米の銀行の資本コストは時系列的な動きに注
目すると、似たような変遷を示していることが
わかる。第 2 に、昭和 52 年から 58 年までの約
6 年間に関していえば、日本の銀行の資本コス
トの方がアメリカのそれよりもかなり高くなっ
ている。その他の時期に関していえば、日米間
の資本コストに大差はない。何故このような事
実が生じたのかを探求することは興味がある。
昭和 50 年代は日米間の国際資本移動はさほど
顕著ではなかった。従って、日米の銀行業にお
ける資本コストの差は、純粋にそれぞれの国内
要因によるところが大であったと考えられる。
その後日米間の国際資本移動(特に日本からの
流出)が目立つようになり、それが原因で日米
の銀行間の競争が激しくなったことが、資本コ
ストの格差是正に貢献しているかもしれない。
もとより、産業ないし企業の資本コストは税制
その他の要因に大きく左右される。前述の仮説
を証明するためには、もっと正確かつ厳密な日
米比較研究を行なう必要がある。
4. まとめ
日本の銀行業のコストを業態別
(都銀,
地銀,
長信銀,
相銀)
と個別銀行ごとに推計してみた。
時系列的な変化に注目すると共に,資本コスト
の差異を発生させている要因について諭じた。
一部の都市銀行についても調べた。
最後に、日米間の銀行の比較も簡単に行なっ
た。
−80−
−81−
0.0156
0.0161
0.0170
0.0180
0.0189
0.0186
0.0183
0.0185
0.0332
0.0535
0.0639
0.0771
0.0537
0.0260
0.0395
0.0254
0.0192
0.0257
-0.0102
0.0046
0.0232
0.0501
0.0602
0.0513
0.0681
0.0532
0.0409
0.0318
0.0529
0.0416
0.0325
0.0206
0.0159
0.0251
0.0249
0.0311
0.0326
0.0355
0.0740
0.0880
0.0910
0.0960
0.0650
0.0390
0.0370
0.0290
0.0270
0.0330
0.0644
0.0925
0.1134
0.1450
0.1242
0.0890
0.1034
0.0805
0.0666
0.0637
0.0611
0.0606
0.0607
0.0612
0.0620
0.0630
0.0642
0.0657
0.0658
0.0645
0.0633
0.0907
0.1098
0.1376
0.1151
0.0814
0.0965
0.0746
0.0615
0.0604
0.3664
0.3942
0.4048
0.4253
0.4361
0.3979
0.3762
0.3718
0.3636
0.3628
0.0721
0.1044
0.1276
0.1619
0.1361
0.0953
0.1130
0.0868
0.0715
0.0700
0.5725
0.5452
0.5345
0.5136
0.5019
0.5391
0.5597
0.5624
0.5706
0.5727
0.0596
0.0840
0.1031
0.1320
0.1151
0.0853
0.0978
0.0771
0.0641
0.0601
0.0297
0.0341
0.0427
0.0576
0.0632
0.0615
0.0608
0.0541
0.0470
0.0366
0.0761
0.1089
0.1319
0.1653
0.1383
0.0978
0.1159
0.0896
0.0739
0.0725
S 53
S 54
S 55
S 56
S 57
S 58
S 59
S 60
S 61
S 62
USICB
USICB
USICB
USICB
USICB
USICB
USICB
USICB
USICB
USICB
記号の説明は表 1 と表 2 を参照。
0.0157
0.0209
-0.0171
0.0522
0.0670
0.0508
0.0622
0.0491
0.3434
0.0559
0.5944
0.0481
0.0298
0.0590
S 52
USICB
0.0184
0.0184
0.0160
0.0223
-0.0137
0.0504
0.0640
0.0509
0.0632
0.0494
0.3494
0.0563
0.5875
0.0479
0.0281
0.0593
S 51
USICB
Y
X
P
TAU
PI
RHO
WR
RHOR
WM
RHOM
WD
RHOD
XID
XI
表 4,アメリカの銀行業における資本コスト
参考文献
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−82−
第 6 章 銀行業の Economies of Scope と含み益*
日本の銀行業に関する Economies of Scope
1.
はじめに
の存在を実証的に分析している既存の研究と
長短分離制度、信託分離制度、そして銀行・
しては、首藤[1985]、粕谷[1986]、高橋[1988]、
証券分離制度といった業務分野規制の緩和を
そして村上[1988]などがある。1)これらの
巡る議論が現在活発に行なわれている。その
中で、首藤[1985]、高橋[1988]、そして村
議論のなかで、Economies of Scope すなわち
上[1988]では銀行業における Economies of
複数業務分野にわたり生産要素を共通利用す
Scope の存在を明確には確認できないとして
ることで費用を節約するという技術的経済性
いるのに対して、粕谷[1986]では Economies
の有無が注目されている。たとえば金融業に
of Scope が存在し、近年強まる傾向にあると
おける Economies of Scope の程度が大きい
している。ただし、統計データ上の制約もあ
場合には、利益相反などの問題があるとして
って、銀行業の Economies of Scope に関する
も、基本的には業務分野規制を緩和して金融
実証分析の蓄積は十分とは言えない。したが
機関の業務選択の範囲を拡大していくことが
って、この種の実証分析をさまざまな角度か
望ましいと主張されることがある。そして、
ら積み重ねていくことが必要であろう。
もしこの主張が正しいとするならば、金融業
本論文の第 1 の目的は、情報通信技術の活
における Economies of Scope の有無を実証
用 が急 速に進 んで いる最 近の 銀行業 にお い
的に分析することが、業務分野規制の問題と
て、Economies of Scope が存在するかどう
の関連で重要になるであろう。
かの検証を試みることである。第 2 の目的は、
ただし残念ながら、銀行業と証券業を兼営
既 存の 研究で は明 示的に 扱わ れるこ との な
する金融機関は戦後の日本においては存在し
かった「含み益」の問題を考慮することであ
なかったので、日本の銀行・証券分離制度の
る。たとえば、各業務から得られる収益でそ
問題に直結する実証結果を用意することは困
の業務の生産物(サービス)の量を測るとい
難である。本論文で展開される銀行業におけ
う方法が採用されることがある。しかし、そ
る Economies of Scope の実証分析は、直接的
の よう な場合 に有 価証券 の運 用から 得ら れ
には長短分離制度や信託分離制度に関する議
る収益のなかに「含み益」は含まれていない。
論のための材料として位置づけられるべきで
それに対して、本論文では有価証券の運用で
あろう。しかし、間接的にではあるが銀行・
得られる収益を、銀行株の市場価格から間接
証券の分離制度に関する議論を深める場合に
的に推計した「含み益」を含めて定義するの
も、金融業における費用関数の一般的な性質
である。第 3 の目的は、既存の研究では取り
に関する理解は不可欠である。そのような議
扱われることのなかった、長期信用銀行と信
論の手がかりを得るという意味でも、銀行業
託銀行を含めた計測を行なうことである。銀
における Economies of Scope の実証分析を
行 業内 部での 業務 分野の 垣根 を低く する べ
行なう意義は小さくないと言えよう。
きかどうかといった問題を考える際には、業
態を異にする銀行を同時に計測することで、
(*)文部省科学研究費「成熟化社会における合
理的資源配分」によって京都大学で購入した「日
1)米国における Economies of Scope に関する文
経金融財務諸表データ」と「日経株価データ」を
献としては、Gilligan Smirlock and Marshall
用いて本章の計測は行われた。
(1984)のほか粕谷(1986)の参考文献を参照。
−83−
Economies of Scope の存在を検証すること
が重要になるのである。
2.
の補完性」という概念を導入する。
「費用の補
完性」は 2 回微分可能な費用関数 C=C(Y1,
銀行の費用関数計測に際する理論的背景
一般に業務を多角化することによる技術的
経済性を示す概念としては、Economies of
Scopeという概念が採用されることが多いよ
うである。しかしながら、実証分析に際して
はEconomies of Scopeの存在を直接計測する
のではなく、費用の補完性という性質の有無
を確認することになる。そして、大域的に費
用の補完性が存在することがEconomies of
Scopeが大域的に存在することの十分条件で
あることが知られている。このことが、費用
の補完性を実証分析において計測する根拠に
なっているのである。
ところが、費用の補完性が大域的に成立す
ることが確認できない場合、つまり一部の領
域でしか費用の補完性が成立していない場合
の経済的意味は必ずしも明らかではない。そ
して、以下で検討する実証分析においては、
費用の補完性が一部の領域でしか確認するこ
とができないのである。そこで、このような
状況の経済的意味を考察するとしよう。
まず、1 つの企業で財 1、財 2 という 2 種類
の生産物を生産しているとし、それらの財の
生産量を Y1,Y2 と書くことにする。そして、
(Y1,Y2)を生産するときの最小費用 C を(Y1,
Y2)に対応させる費用関数を C=C(Y1,Y2)と表
わすとしよう。このとき、Economies of Scope
は次のように定義される。2)
〈定義 1〉
C(Y1,Y2)<C(Y1,0)+ C(0,Y2)
ならば、(Y1,Y2)において Economies of Scope
が存在する。
この Economies of Scope の経済的意味は
Y1,Y2 を別々の企業で生産するよりも、1 社
が同時に生産したほうが技術的に費用を節約
できるということである。
Y2)において次のように定義される。
〈定義 2〉
∂ 2 C (Y1 , Y2 )
<0
∂Y1∂Y2
0
0
が成立しているならば(Y10,Y20)において費用の
補完性(Cost Complimentarity)が存在する。
この費用の補完性の概念は、その経済的意
味はそれほど明確ではないが、幸いなことに
Economies of Scope と次のような意味で密
接に関連性を持っていることが知られている。
〈命題 1〉
[0,Y1]×[0,Y2]の領域にある任意の点(Y10,
Y20)において費用の補完性が成立するならば、
(Y1,Y2)において Economies of Scope が存在
する。
(証明)粕谷(1986)参照。
この命題を拠り所として、実証分析におい
ては費用の補完性の有無を検出するという方
法が採用されることになる。しかし、この命
題は[0,Y1]×[0,Y2]という領域における費
用の補完性の成立を要請するものであり、も
しこのような広い範囲での費用の補完性が検
出できない場合には、その経済的意味を理解
するときに困難を伴うことになる。このよう
な困難を回避するために、すなわち狭い範囲
でしか費用の補完性が存在しない場合の経済
的意味を理解するために、我々は新しい概念
を導入することにする。なお、以下では生産
量ベクトル(Y1,Y2)を Y、費用関数 C=C(Y1,
Y2)を C=C(Y)とも表現するとしよう。
〈定義 3〉
2 つの生産量ベクトル Y1,Y2 に関して、Y1
≦Y2 でも Y1≧Y2 でもないとする。このとき
2)Economies of Scope のより一般的な定義につ
次に、実証分析をする際に重要になる「費用
いては、Baumal, Panzar, and Willing(1982)
を参照。
−84−
次の 2 つの条件を満たす Y’,Y”が存在するなら
に関して定義されている Economies of Scope
ば、(Y1,Y2)において提携による Economies of
という概念を、完全に特化していない状況での
Scope が存在する。
概念に一般化したものであるといえる。この点
(1)Y’+Y”=Y1+Y2
は次の命題からも理解されよう。
(2)C(Y’)+C(Y”)<C(Y1)+( Y2)
〈命題 2〉
Y1=(Y1,0),Y2=(0,Y2)であるとする。この
この「提携による Economies of Scope」の経
とき、(Y1,Y2)において Economies of Scope が
済的意味は次のようなものである。ある 2 つの
存在していれば、(Y1,Y2)において提携による
企業がそれぞれ Y1=(Y11,Y21),Y2=(Y12,Y22)の
Economies of Scope が存在する。
生産をしていたとする。そのとき、Y1≧Y2 でも
Y1≦Y2 でもないとは、図 1 のようにそれぞれの
(証明)定義 1,定義 3 より明らか。
企業の生産量が、どちらかの財の生産量に関し
ては他の企業の生産量より多くなっている状況
以上のように、「提携による Economies of
である。すなわち、それぞれの企業は規模に関
Scope」は完全に特化していない 2 つの企業が
しては大差はないがどちらの財を中心にして生
存在するという状況に関して、技術的により経
産活動を行なっているかという点において差が
済性の高い生産方法が存在するかどうかの評価
3)
を可能にするものである。また、この概念は実
ある状況である。
このような状況において、
「提携を結ぶ」と
証分析に際して用いられる費用の補完性という
概念と、次のような密接な関係を持っているこ
図 1 提携による Economies of Scope
とを示すことができる。
〈命題 3〉
Y2
Y22
Y1=(Y11,Y21),Y2=(Y12,Y22)について、Y11>
Y21<Y22 とする。
このとき、
[Y21,
Y11]×[Y21,
Y12,
Y2
Y22]の領域に存在する任意の(Y10,Y20)において費
用の補完性が存在するならば、(Y1,Y2)において
Y1
Y21
Y12
Y11
提携による Economies of Scope が存在する。
Y1
(証明)
〈補論 1〉参照.
いうことを次のような状況に移行することであ
命題 3 は、例えば図 1 のような Y1,Y2 がある
ると考えることにする。その状況とは、それぞ
れの企業の生産量の和は各財に関してはじめの
状況と同じであるが、それぞれの財の生産量を
各企業でどう割り振るかは自由に選択できると
いう状況である。そして、提携関係を結ぶこと
により両企業の費用の和を減少させることがで
きるときには、提携を結ぶことに技術的経済性
が存在すると考えられる。
さて、以上のような経済的意味をもつ「提携
による Economies of Scope 」という概念は、
どちらかの財の生産に完全に特化している状況
3)本論文では基本的に全ての企業は同一の費用関数
を持っていると想定する。それにも係わらず、企
業の最適化行動の結果として異なる生産量の組を
選択する理由としては、次の 2 点が重要であろう。
第 1 には、労働などの要素市場が分断されていた
り生産物市場が分断されているため、企業間で賃
金などの要素価格に差があったり生産物の価格に
差があるということである。また第 2 には、生産
物市場に対して生産量などを直接的に制約する規
制が課されている場合である。たとえば、銀行業
においては業務分野規制等により生産量に関する
直接的規制が行なわれていると考えられる。
−85−
S f ≡ S-S b
ときに、斜線の領域において費用の補完性が存
在すれば(Y1,Y2)において「提携による Econo-
と定義される。6)また、資産を再評価したとき
mies of Scope」が存在することを主張するもの
の自己資本を E と書くことにすれば、
E≡ E b +S f
である。この図 1 からも明らかなように、
「提
携による Economies of Scope」という性質の条
となる。このとき市場価値ベースでのバランス
件としては、斜線の領域のような限られた領域
シートを考えると、
L+S+K 1 =D+E
における費用の補完性が存在すれば十分である。
したがって、以下で展開される実証分析におけ
である。7)(図 2 参照)
るような、一部分の領域でしか費用の補完性を
図 2 市場価値ベースでのバランスシート
検出できない場合にも、経済的意味を理解する
ことが可能になるのである。
B/S
L
3. 銀行業の生産構造
さて、以上のような費用関数の性質を銀行業
Sb
について考察するために、生産物や費用などの
Kl
銀行業における概念を明確にすることが次の課
Sf
D
Eb
E
Sf
題である。銀行業における「生産物」を概念的
に把握することは極めて困難である。4),本論
文の立場としては、銀行業の金融仲介活動(資
さて、期首の状態がこのようになっていると
産変換活動)によって生み出したサービスおよ
き、銀行が金融仲介等によってつくり出す価値
びそれらに付随して供与されるサービスを、銀
をどのように考えればよいのであろうか。本論
行業における「生産物」と考え、労働と実物資
では、貸出業務に伴う生産物 Y1 とそれ以外の
本を投入してそれらを生産しているものとする。
業務に伴う生産物 Y2 に分割して考えることに
そして、そのサービスの量を労働と実物資本が
する。Y1 を定義するにあたり、1 つの仮定とし
付加した(付加)価値で側ることにする。しか
て貸出に充当される資金はすべて預金および
しながら、概念的にはこのように考えるとして
その他の負債によって調達されているものと
も、具体的に実証分析に接続する際にはいくつ
考える。8)すなわち。
Y 1 =(r L -r D )L
かの近似的な手法を必要とする。以下ではその
準備段階として、本論における銀行業の「生産
と定義する。ここで rL,rD は貸出および負債の平
物」の概念を、含み資産と自己資本の存在に注
均金利である。これは銀行が貸出すなわち借手
意して整理しておくことにする。
銀行の期首における簿価のバランスシートを
次のように考える。
L+S b +K 1 =D+E b
ここに、L,D は貸出額および負債額、S b ,E b
は簿価の有価証券保有額および自己資本であり、
K 1 は実物資本保有額である。5)しかし、わが
国においては銀行が保有する有価証券の簿価は
その市場価値と大きく乖離している。そこで、
銀行の保有する有価証券の市場価値を S とし、
含み資産を Sf と書くことにすれば、
4)従来の実証分析においても様々な考え方が存在す
るが、それらのサーベイは粕谷(1986),古岡・
中島(1987)に詳しい。
5)実物資本の量の単位は 1 単位が 1 円となるように
標準化されているものとする。したがって、K1 は
実物資本保有額であるとともに、実物資本保有量
でもある。
6)この S f のことを一般には「含み益」と呼ぶこと
が多いが、本論文では S f は「含み資産」と呼び、
S f を運用することで得られる収益のことを「含み
益」と呼ぶことにする。
7)L,K1,D は簿価評価と市場評価が等しいとみなす。
−86−
の債務証書を購入し、自己の負債を売却すると
は今期と同額の利益をあげると予想(Bounded
いう金融仲介活動によってつくり出した価値と
Rationality)しているものとする。このとき、
みなし得るものである。
銀行株の時価総額を Em と書いて、株価が銀行
次に貸出以外の業務に伴う生産物 Y2 につい
の将来収益の割引現在価値に対応して決定され
て考える。本論では、Y2 は以下のように定義す
ると仮定すれば、次のような関係が成立するこ
る。
とになる。10)
Y 2 =r S S-r D (D-L)-r E (E-K 1 )+F
=(r S -r D )・ (D-L)+(r S -r E )・ (E-K 1 )+F
…イ)
ここに rS は有価証券の平均利回り、rE は自己
資本の資本コストであり、F は手数料収入等で
ある。第 1 項は有価証券を購入し自己当ての負
債を売却するという金融仲介活動によって生産
された価値であり、第 2 項は自己資本によって
有価証券を購入する(これも一種の金融仲介と
みなしうる)
ことによって生産した価値である。
第 3 項は金融仲介以外の業務によって生産した
価値である。ところで、現行のわが国の制度で
は rS および S は観察可能ではない。とりわけ S
については含み資産 Sf が銀行間で大きく異な
っているにもかかわらず、その値を直接観察す
ることはほとんど不可能である。そこで、この
Sf の値を銀行の株式時価総額と経常利益を使っ
て間接的に推計することを試みる。
Em =
II
II
+
+ ………………
1+ r
(1 + r ) 2
=
Rf + π
II
=
r
r
=
rS
S
r
f
+
π
……………ハ)
r
ここに、r(r≦rS)は銀行株主の時間割引率であ
り、銀行株主が自ら資産運用したときの収益率
と考えることができよう。ハ)式のように、銀
行の株主は銀行の含み資産の価値を市場より高
く(rS/r 倍に)評価している理由としては、
資産を株主が自ら運用するときの利益率 r より
も、銀行が運用したときの収益率 rS のほうが高
いと判断しているからである。ただし、収益率
を高くするために銀行は人材を役人したりシス
テム投資をしているわけであり、そのようなコ
ストを控除したときのネットの収益率がより高
くなっていることを必ずしも意味するものでは
ない。なお、rS =r すなわち銀行の運用能力が銀
まず、銀行が生み出している価値のうち、銀
行株の所有者に最終的な請求権が存在する部分
8)調達資金の性格等を考慮すれば、自己資本で調達
を利潤と呼び、Πと書くことにすれば、このΠ
された資金が貸出に運用されないというここでの
は次のように定義される。
想定は、それほど不自然な仮定ではないであろう。
9)ここに、含み資産は銀行の長期顧客関係の維持な
Π ≡ r L L+r S S-r D D+F-C
どの理由により積極的に取り崩されることがない
ここに、C は労働と実物資本に関するコストで
(少なくとも近年まではなかった)という事実に
あり後で詳述する。また、含み資産の運用から
着目すれば、このπは財務諸表上の経常利益にほ
得られる収入を Rf と書けば、
ぼ対応していると言えよう。
Rf≡rSSf
である。以下、この Rf のことを「含み益」と呼
10)このハ)式で Sf を推定することには、税金の問
題、銀行の成長性、株主のリスク・プレミアム、
ぶことにしよう。そして、含み資産の運用以外
そして株式の持ち合の問題等を考慮していない点
から得られた利益とπと書けば、
で注意が必要である。例えば、法人税の問題を考
π ≡ Π - Rf
= r L L+r S S-r D D+F-C
慮しないことにより、Sf は過小に推計されること
………ロ )
になる。また、株式の持ち合を考慮しないことで
Sf は過大に推計されることになる。しかしながら、
である。9)
さて、銀行の株主は今期の銀行の利益は正し
く予想することができるが、来期以降について
−87−
Sf の値の第 1 次近似的計算としてはこのような定
式化にも意味があろう。
行株主と変わらないならば、株主は銀行の持っ
資本を投入しているものと考える。銀行は自ら
ている含み資産の評価を市場での評価 Sf と一
K1 の実物資本の保有しているが、さらに K2 の
致させることになる。ところで、銀行株主が自
実物資本を価格 q でレンタルしているものとす
ら資金を運用したときの収益率は、銀行が株式
る。K1 の機会費用はレンタル価格 q とほぼ同一
で資金を調達した場合の機会費用にほぼ対比し
であると考えられるので、ここでは K1 の機会
ているので、以下では r = rE を仮定する。
費用が q であると仮定する。そのとき、実物資
ここで K1=Eb すなわち簿価自己資本は実物
本の投入に関する銀行のコストは、
K≡K1+K2 と置けば qK となる。12)したがっ
て、総コスト C は、
C=wN+qK
となる。ここに、w は賃金率、N は労働量であ
資本に運用されてレると仮足すると、
、ロ)より、
E- K 1 =S f だからイ)
Y 2 =π -Y 1 +C+(r S -r E )S f
であり、さらにハ)を考慮すると、
る。
Y 2 =π -Y 1 +C
・(Em-π / r)
+{(r S -r E ) r/ r E }
以上の議論により、本論で計測する費用関数の
となる。ここで、簡単化のために r=r E 以外に、
変数として、Y1,Y2,q,w を採用するととも
r S =(1+θ )r E (θは非負の定数)と仮定とす
に、
ると、
Y 2 =π -Y 1 +C+k(r E E m -π )
となる。ここに k≡θ/(1+θ)である。11)な
お、k・(r E E m - π )は含み資産運用に伴う生産
物であり、k=0 すなわち r S =r E のときはその運
C= C(Y 1 , Y 2 , w, q)
という形の費用関数を考えることになる。ここ
に、
Y 1 =(r L -r D )L
Y 2 =π -Y 1 +C+k(r D E m -π )
である。
用に伴う生産物はゼロになる。
時間割引率 r(=r E )に関しては、次のような 2
つの方法で想定することが考えられよう。まず
第 1 に、銀行が資金調達する際には、負債で調
達する自己資本で調達するかの裁定を行なうと
考える。その結果として、r=r D 、が成立すると
想定するのである。第 2 には、銀行は自己資本
比率規制などが存在するために、自己資本での
資金調達を行なっているが、そのような規制が
4. 実証分析の方法
実証分析に際しての、費用関数の特定化およ
び各変数の具体的な定義方法を以下で説明しよ
う。
4−1 費用関数の特定化と費用の補完性の
存在する領域
実際の計測に際しては、費用関数はトラン
ス・ログ型のものを採用する。すなわち、
存在しなければ、できるだけ負債による資金調
lnC=α 0 +α 1 lnY 1 +α 2 lnY 2
達を行ないたいという状況が成立しており、
r(=r E )>r D であると考える。そして、銀行の株
主が銀行株と代替性の高い資金運用手段として
長期国債を考えているとする。したがって、長
11)k=(r S - r E )/r S であるから、この k は銀行の株
主が運用するときの収益率 r E よりも、銀行が運用
期国債の平均利回りを r m と書けば、r=r m と仮
した際の収益率 r S が上回る程度を表す指標とみ
定するのである。なお、r=r m とした第 2 のケ
ースの分析は補論 3 で行い、本論においては
なすことができる。
12)これは財務諸表上の物件費項目(減価償却費も
r=r D とした第 1 のケースに注目するとしよう。
含めたもの)から福利厚生費を差し引いたものに
最後にコスト C について考察する。銀行は上
ほぼ対応しているものと思われる。第 1 項の qK1
記の Y1,Y2 を生産するために、労働および実物
−88−
がほぼ減価償却費にあたると考えられる。
図 3 費用の補完性の領域
1
∑ i ∑ j σ ij ln Y1 ln Y j
2
+ β 1 ln w + β 2 ln q
+
Z2
1
+ ・{ γ 11 (ln w) 2 + γ 22 (ln q ) 2 }
2
+ γ 12 ln w ln q
ホ)
ニ)
である。13)さて、このような費用関数の各係
Z1
数と費用の補完性が存在する領域とはどのよう
な関係を待っているのであろうか。ある生産量
の組(Y1,Y2)において費用の補完性が存在して
いるとは、
4−2 生産物 Y1,Y2,費用 C などの計測に際し
∂2C(Y1,Y2)/∂Y1∂Y2<0
ということであるから、この条件を上述のトラ
ての定義
上述のように、銀行を労働 N と実物資本 K
ンス・ログ型費用関数のケースにおいて求めれ
とを投入して、貸出業務に伴う生産物 Y1 とそれ
ば、
∂2C(Y1,Y2)/∂Y1∂Y2
=
以外の業務に伴う生産物 Y2 を生産している企
業であると捉える。そして、都銀、地銀、長信
∂ 2 ln C
∂ ln C
C
+
{
∂ ln Y 1
Y 1 Y 2 ∂ ln Y 1 ∂ ln Y 2
×
銀、信託に関するクロス・セクション・データ
を用いて、1985 年 3 月期から 1987 年 3 月期ま
∂ ln C
}
∂ ln Y 2
での 3 期について計測を行なう。ここで、1984
C
=
・{ σ 12 + (α 1 + σ 11 ln Y 1 + σ 12 ln Y 2 )
Y1Y 2
× (α 2 + σ
22
ln Y 2 + σ 12 ln Y 1 )} < 0
年以前のデータを用いた分析を行なわなった理
由は、銀行の株価が管理された状態から市場の
実勢を反映して決定されるようになってきたの
である。ここで変数変換して Z1≡lnY1,Z2≡
が 1984 年前後であると考えられるからである。
lnY2 と置けば、費用の補完性の有無を決定する
Y1,Y2,C,W,そして q の計測に際しての
臨界曲線は、
定義の方法を説明しよう。ただし、信託銀行の
σ 1 2 + (α 1 +σ 11 Z 1 +σ 1 2 Z 2 )
取扱については多少煩雑な処理をすることにな
・ (α 2 +σ 2 2 Z 2 +σ 1 2 Z 1 )=0
るので、信託を含んだ Y1,Y2 の定義の方法に
を満たす(Z1,Z2)の組の軌跡として求められる。
ついては〈補論 2〉で説明する。なお、分析の
すなわち、費用の補完性の存在する(Z1,Z2)の
ために利用したデータは、NEEDS「日経金融
領域
財務データ」である。
貸出業務に伴う生産物 Y1 はモデルのなかで
は次のニ)
、ホ)の直線を漸近線とする双曲線に
囲まれた部分(例えば、図 3 の斜線の部分)に
は、
Y 1 =(r L -r D )L=r L L-r D L
対応することになる。
σ
α
Z 2 = − 11・Z 1 − 1 ・・・・・・・・ニ)
σ 12
σ 12
σ
α
Z 2 = − 12・Z 1 − 2 ・・・・・・・・ホ)
σ 22
σ 22
であるが計測上は、
13)生産要素価格の 1 次同時性より、
β1+β2=1,
γ11=γ22=-γ12
が要請される。
−89−
r L L=貸出金利息14)
rD=
を避けて、幾通りかの値を代入して計測するこ
とにする。そして Y1,C,rD に関する計測上の
支払利息
負債合計 - 支払承諾見返
定義は既になされているので、残りのπと Em
を具体的に定義すればよい。
支払利息=預金利息+給付補塡備金繰入額
Em =
+証券利息+コール・マネー利息
期首株式時価総額 + 期末株式時期総額
2
+売渡手形利息+借用金利息
+その他の支払利息
期首(期末)株式時価総額
=当該年度の期首(期末)の 1 週間にお
+債券発行差金償却
L=貸出金給付金合計
ける株式時価総額の平均値
と定義する。次に、総費用 C はモデルのなかで
π=経常利益
と定義される。ここで、Em を期首、期末の株式
は、
C=wN+qK
時価総額の平均値を使って定義しているのは、
株式時価総額の平残を求めるための近似的方法
と定義されていたが計測上は、
C=営業経費
である。また、πはモデルのなかでは含み資産
と定義する。また賃金率 w,レンタル・レート
からの収入 Rf を除いた利潤として定義されて
q に関しては、
いるので、経常利益でπを置き換えることには
注意が必要である。これは、損益計算書におけ
w=
人件費合計 + 福利厚生費
期末男子従業員数 + 期末女子従業員数
る有価証券売却益と有価証券償還益の和が、モ
デルのなかでの rSSb に対応していることを想
定していることになる。すなわち、含み資産を
q=
物件費合計 - 福利厚生費
建物面積
取り崩して実現させた有価証券売却益の額は現
在までのところは無視できる額であると仮定す
る。このような想定は、特に近年のように BIS
と定義した。ここで、賃金率 w を定義する際に、
による自己資本比率視制が強化されているよう
福利厚生費を人件費合計に加えているのは福利
な状況の下で、含み資産を取り崩してまで自己
厚生施設の多くは銀行の生産活動に使用されて
資本比率を上昇させようとする銀行が出現して
いるというよりは、給与の実物給付としての側
きた場合には問題があろう。しかし、1987 年 3
面が強いと考えられるからである。また、実物
月期以前においてはそのような傾向はそれほど
資本のレンタル・レート q の定義に際して、分
顕著ではなかったと考えられるので、ここでの
母を建物面積ではなしに動不動産合計などで置
想定も近似的に成立していたと言えよう。
き換えることも考えられるよう。しかし、動不
動産合計を貸借対照表の上の簿価の値でしか入
5. 計測結果
手できない場合には、資産再評価した動不動産
まず、計測に際しては Y1,Y2,c,w,q に
合計との乖離が大きくなるので、動不動産合計
関するデータは平均値が 1 になるようにそれ
で物件費を割ることで q を定義することには問
ぞれの平均値で標準化されている。費用補完性
題があろう。
や規模の経済といった定性的な性質はこのよ
最後に貸出業務以外の業務に件う生産物 Y2
うな標準化をしても保存されるものである。な
はモデルのなかでは、
Y 2 =π -Y 1 +C+k・ (r D E m -π )
14)以下断らない限りは銀行勘定の項目であるとす
と定義されている。k に関しては推計すること
−90−
る。
表 1 各変数の平均値( k = 0 )
'85
Y1
Y2
行
44789.2
52976.1
65795.5
6.850
0.107
都
銀
111289.0
160295.0
179078.0
7.665
0.121
地
銀
29418.7
13687.3
31741.4
6.406
0.083
銀
49285.0
77109.6
65591.0
7.603
0.206
託
27451.4
68334.4
66990.4
6.985
0.168
行
57943.2
45466.8
68755.1
7.242
0.112
都
銀
158196.0
117900.0
184716.0
8.113
0.126
地
銀
31568.2
13591.6
33387.9
6.790
0.086
銀
91632.3
50308.7
71628.3
8.028
0.223
託
31731.9
87956.1
72364.5
7.364
0.175
行
63345.6
59447.4
73636.1
7.539
0.121
都
銀
174660.0
154995.0
198150.0
8.391
0.123
地
銀
31829.9
16500.8
34492.9
7.004
0.090
銀
121745.0
54528.8
77025.7
8.655
0.219
託
37214.5
127798.0
83750.5
7.950
0.222
全
長
銀
信
信
'86
全
長
銀
信
信
'87
単位=100 万円
全
長
銀
信
信
C
Y1:第 1 生産物(P.7 参照)
,Y2:第 2 生産物(P.9. L.18 参照)
C :営業経費(P.10 L.1∼L.8 参照),w:賃貸率,q:実物資産経費率
k :P.9 L.18 参照
−91−
w
q
お、標準化する前の Y1, Y2, c, w, q の値
かをまとめたものが表 2 である。
は表 1 にまとめられている。また,生産要素価
格の 1 次同次性制約を付して計測することとし
5−1 「都銀・地銀ケース」
まず、表 2 では「都銀・地銀ケース」の k=0
た。
銀行の株価を計測に際して用いるので、計測
のケースが示されている。概ね、費用関数とし
の対象として銀行は株式が上場されている銀行
て満たすべぎ性質を持っているといえよう。例
である。具体的には、1984 年 3 月期に上場され
えば、生産物に関する限界費用、生産要素価格
ていた 61 の銀行を計測の対象とした。そして、
に関する限界費用が正となることは、近似点
次の 2 つのケースについて計測を行った。まず
(Y 1 =Y 2 =w=q=1 )において満たされている
第 1 には、普通銀行と長期信用銀行や信託銀行
ことが、α1,α2>0,β1,β2>0 より確認で
との問には業態によりその費用関数には差が
きる。
あることを考慮して、都銀と上場している地銀
近似点における費用の補完性の有無につい
にサンプルを制約したケースである。このケー
て検討しよう。近似点における費用の補完性は、
スを「都銀・地銀ケース」と呼ぶことにしよう。
∂ 2 C (Y1 , Y2 )
∂Y1∂Y2
サンプルとして活用することにより、銀行業一
=α1α2+σ12
Y 1 =Y 2 =1
の値が負であるときに存在することになる。費
般の費用関数を計測しようとするものである。
用の補完性に関しては、1985 年 3 月期と 1986
具体的には都銀、地銀、長信銀、上場されてい
年 3 月期においては符号条件も満たされていな
る地銀、そして上場されている信託銀行全てを
いが、1987 年 3 月期においては有意に費用の補
用いて計測する。このケースを「全銀行ケース」
完性が検出できている。この最近時になって費
第 2 に、業態を越えたなるべく多くの銀行を
15)
銀行業内部での業務規
用の補完性が検出された根拠としては、都銀お
制緩和問題などを考察する際にはこのような
よび地銀において共通生産要素の利用が進ん
計測が重要となろう。
で多角化の経済性を享受できるようになった
と呼ぶことにする。
含み益の存在は、貸出以外の業務に伴う生産
ことが考えられる。情報通信技術の応用はコン
物 Y2 の定義に際して用いられたパラメーターk
ピューターの利用を促進しているが、それは複
の値を変化させることにより考慮するとしよ
数業務にわたり共通して利用可能なのである。
う。k=0,すなわちθ=0 の場合は rS = rE より、
含み資産の運用に件う生産物を考慮した「都
銀・地銀ケース」の例として k=0.7 の場合が表
3 に示されている。各計数の値は k=0 のケース
にほぼ一致しており、費用の補完性の値も k=0
のケースとほぼ同じである。したがって、「都
銀・地銀ケース」においては、含み資産運用に
件う生産物の考慮の有無に係わらず費用の補
完性が近年強まっている可能性が高いと考え
られるのである。なお、k の倍を k=0,0.5,0.7,
0.8 と変化させたときの費用の補完性の値をま
とめたものが表 4 である。
Y 2 =(r S -r D )S b +F
となり、含み資産の運用に伴う生産物の存在は
考慮されないことになる。それに対して、k>0
であれば、rS>rE であるから、
Y 2 =(r S -r D )S b +F+(r S -r E )S f
であり、含み資産 S f の運用に伴う生産物も考
慮されている。また、S f =Em-π/r D すなわち
上述のように、
r=r m
r=r D のケースに注目する。
のケースは補論 3 で検討する。
ところで、(r S -r E )S f =kR f であるので、S f
運用に伴う生産物は kR f と表すことができる。
15)なお、大和、琉球、沖縄の 3 銀行は信託業務を
この Rf そして、Y2 の値が標準化する前に現実の
兼営しているので「都銀・地銀ケース」には含ま
データにおいて、どのような値になっているの
れていない。
−92−
表 2 都銀・地銀ケース( k = 0, r = r D )
1985
1986
1987
0.022
0.009
-0.044
(0.87)
(0.39)
(1.51)
0.528
0.643
0.608
(18.28)
(17.87)
(12.33)
0.335
0.195
0.198
(17.11)
(6.82)
(4.51)
0.033
-0.018
0.560
(0.33)
(0.10)
(4.41)
0.069
-0.117
0.206
(2.47)
(1.23)
(3.91)
-0.046
0.090
-0.340
(1.24)
(0.74)
(4.90)
0.774
0.775
0.738
(11.64)
(12.42)
(10.55)
0.226
0.225
0.262
(3.40)
(3.60)
(3.75)
1.752
1.584
0.288
α0
α1
α2
σ11
σ22
σ12
β1
β2
γ12
(2.43)
(2.24)
(0.44)
R2
0.995
0.995
0.994
費用の補完性
0.131
0.215
-0.219**
規模の経済性
0.863**
0.836**
0.806**
(注 1)*印は費用の補完性や規模の経済性が Y 1 = Y 2 = 1 の点(=近似点)において、10%水準の尤度比検定で
有意であること、**印は 5%水準で有意であることを示している。
(注 2)( )内の数字は t 値の絶対値である。
年になるほど、そして含み資産の存在を考慮す
より、装置産業化しつつあることを物語ってい
るほどより強く検出されている。近似点におけ
るといえよう。
る費用の規模に関する弾性値は 0.8 前後であり
既存の研究として比較して少し小さめの値であ
るといえよう。16)ここに、費用の規模に関す
る弾性値 SN とは、
SN =
∂ ln C ∂ ln C
+
∂ ln Y1 ∂ ln Y2
16)規模の経済性については、吉岡・中島(1987)
において詳しく検討されている。そのなかのモデ
ル 2 に、複数業務を考慮しているかどうかの相違
Y 1 =Y 2 =1
点はあるとしても、本論の定式化は類似したもの
=α 1+α 2
となっている。そのモデル 2 においては規模の経
である。このように近年になるほど規模の経済
済性がその他のモデルとの比較において相対的に
性が強く検出されることは、銀行業が情報技術
大きく推計されている。本論の結果は概ねその結
革新のなかで積極的に機械化投資を行うことに
果に対応したものと考えられる。
−93−
表 3 都銀・地銀ケース(k=0.7,r=rD)
1985
1986
1987
0.057
0.038
-0.014
(2.31)
(1.47)
(0.38)
0.549
0.660
0.583
(21.84)
(17.40)
(13.32)
0.283
0.147
0.189
(18.40)
(5.61)
(5.03)
0.072
0.111
0.493
(0.81)
(0.78)
(3.75)
0.083
-0.005
0.158
(5.65)
(0.10)
(4.92)
-0.082
-0.030
-0.275
(3.17)
(0.39)
(4.92)
0.799
0.770
0.731
(12.75)
(12.60)
(10.06)
0.201
0.230
0.269
(3.20)
(3.77)
(3.70)
1.866
2.031
0.618
α0
α1
α2
σ11
σ22
σ12
β1
β2
γ12
(2.75)
(2.86)
(0.82)
R2
0.996
0.995
0.994
費用の補完性
0.073
0.067
-0.165**
規模の経済性
0.832**
0.807**
0.772**
(注 1)*印は費用の補完性や規模の経済性が Y 1 = Y 2 = 1 の点(=近似点)において、10%水準の尤度比検定で
有意であること、**印は 5%水準で有意であることを示している。
(注 2)( )内の数字は t 値の絶対値である。
表 4 費用の補完性の値(都銀・地銀ケース r = r D )
k
0.0
0.5
0.7
0.8
年度
1985
0.131
0.090
0.073
0.067
1986
0.215
0.112
0.067
0.046
1987
-0.219**
-0.181**
-0.165**
-0.155**
(注 1)*印は費用の補完性や規模の経済性が Y 1 = Y 2 = 1 の点(=近似点)において、10%水準の尤度比検定で
有意であること、**印は 5%水準で有意であることを示している。
−94−
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